台本概要

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タイトル Mercy Flower
作者名 あまくケイ  (@amak0331)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男3、女1) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 Mercy Flower(マーシー フラワー)
一つ一つが変わっている
形も色も、みなちがう
だから花は美しいのです


「灼炎の焔」シリーズ作品
4人(男3:女1兼ね役有)
40分程度

男役は、女性が演じても可
ストーリー展開が崩れない多少のアドリブや言い換えは可
良かったらどうぞ

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
慈悲 124 慈悲(じひ) 金髪に白い騎士装備 神帝国第4支部を任されている名前付き 寡黙で真面目系の正統派騎士 騎士剣術(きしけんじゅつ)を主に使う
ティナ 80 明るめの茶髪に白いワンピース 花を愛する優しい心の持ち主 第4支部の支部長 神帝の血を引いているお姫様ではあるが 神帝の居る帝都暮らしではなかったため、神帝の事やその周りの事をほとんど知らない
狼護 88 グレーの髪に黒い着物のような戦闘装束 突如、第4支部に現れた青年 ティナの命を狙いに来た 第一印象はクール 「~ですぜ」、「~ですかい」といった喋り方を多用する 風闘術(ふうとうじゅつ)を使う
輪廻 79 白めの髪に少年顔、奇怪な騎士装備 神帝国の名前付き。ティナにはよく叱られる 不真面目で、時折怖い一面を見せるが、仕事はこなす 念槍術(ねんそうじゅつ)を使う 兼ね役で騎士団兵役
キリア 15 物語終盤に登場 名前付き候補として、行方不明になっていた騎士 表面的には明るく、ノリがよく、健気だが おそらく彼女の本性ではない 黒術(こくじゅつ)を使う ティナ役が兼ね役
騎士団兵 6 序盤のみ 輪廻役が兼ね役
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ティナ:一つ一つが変わっている ティナ:形も色も、みなちがう ティナ:だから花は美しいのです 0: 慈悲:姫様はそういって、目を閉じながら笑みを浮かべた 慈悲:「好きな花は見つかった?」と聞かれたが 慈悲:それは、未だに見つかっていない 0: 0:神帝国 第4支部 慈悲:「灼炎の焔」……か 慈悲:「国盗り」という名目で、強い騎士に勝負を挑み、勝てばその場所を制圧したとみなすやり方で、神帝国を攻め落とす……普通では考えられない方法だ ティナ:しかし、その御方は、国民に手を出しておりません 慈悲:姫様……。おはようございます ティナ:おはよう。ロテリオ 慈悲:「慈悲」とお呼びください。何度も言っていると思いますが ティナ:私としては、本名で呼んだ方がしっくり来ますのに…… 慈悲:それでも、です。決してこの名前が、嫌というわけではありません。名前を与えられた者として、使命を全うすると決めておりますので ティナ:……そうですか。では、「慈悲」。話がそれてしまいましたね 慈悲:お話を戻しますが……大和は、我々神帝国の敵です ティナ:敵……そうですね。灼炎の焔は、大和の人間であり、大和王の息子であると聞きました ティナ:彼らはまさに、「穢れた血」と呼ばれた、神帝国にとっての敵。確かに、慈悲の言う通りです ティナ:しかし、果たしてそれは本当なのでしょうか? 慈悲:……と、いいますと? ティナ:彼は、なるべく被害を出さない「陣地とり」をしている ティナ:普通なら、たくさんの民を根絶やしにしても、おかしくはないでしょう ティナ:攻めたのはこちらだというのに、優しいやり方を選んでいる……そんな方が、本当に敵なのかと 慈悲:そうですが…… ティナ:……そういえば、先日、また一つ、綺麗なお花が咲いていましてね 慈悲:? 花ですか? ティナ:慈悲。この間、連れて行ったばかりでしょう…… 慈悲:あ、ああ。そうでした。すみません ティナ:……そのお花は、赤く、鮮やかに、咲きほこっていました 慈悲:赤、ですか ティナ:はい。他の花と違って、とてもよく目立っています ティナ:でも、なぜか、他の花の美しさを消すことなく、周りと調和している。不思議な花です ティナ:そこで私は思いました、この花も、大和の方と同じではないかって 慈悲:つまり、害はない、と言いたいのでしょうか ティナ:もう……。少しは、汲(く)み取ることを覚えなさい 慈悲:申し訳ありません。どうしても疎(うと)いもので ティナ:……構いませんわ。きっといつか分かります 0:そこに1人の騎士が慌ただしく入ってくる 慈悲:どうした?  騎士団兵:報告! 第4支部内に侵入者が! 慈悲:何……?   騎士団兵:突然、門の前に現れて…… ティナ:その者は、どちらに? 騎士団兵:もう間もなく、こちらに来るかと…… 慈悲:まもなく? 他の兵はどうした? 騎士団兵:……申し訳ありません 騎士団兵:我々だけで、抑えきれなく…… 慈悲:抑えられない? どういうことだ? 騎士団兵:その者、「大和の人間」と名乗っていて……野次馬かと思っていましたが…とんでもない強さで 慈悲:……分かった。そいつをこの場に通せ。私が相手をしよう 騎士団兵:はっ 0:しばらくして、先ほど報告に来た騎士団兵が、その人間を連れてきた 狼護:わざわざ通してくれるなんざ、寛容なんですな。神帝の人間は 慈悲:何者だ? 狼護:俺の名は、「狼護」。そこにいる皇女さんの首、獲りにきやした 慈悲:姫様が狙いか?  狼護:そりゃぁ、ね。偉い方の首もらわないと、示しがつきませんのでね 慈悲:……どういうことだ?  狼護:大和王の第一子息「焔」。耳に入ってるんでしょ? 狼護:俺は、その焔殿下の、従者です ティナ:……本当に、大和の人間? 狼護:その通り 慈悲:待て。支部を攻めてきた大和は、二人と聞いたはずだ 狼護:そりゃ、俺だけ別なんでね 狼護:殿下と一緒に行動するなんざ、考えられない 慈悲:っ! 0:狼護は手足を広げて、構えを取る。慈悲もそれに合わせて剣を抜いた 狼護:「国盗り」なんて……殿下のやり方は甘いんですよ。そんな人には、誰もついていけやしません。何より、民が納得できないはずだ…… 狼護:だから代わりに、殿下ができないことを、俺がやる 狼護:神帝のお姫様。その命、頂戴いたしやす 慈悲:悪いが、そうはさせない ティナ:慈悲 慈悲:大丈夫です。姫様は下がっていてください 狼護:あんた、皇女様の護衛かなにか? 慈悲:姫様の護衛と、この第4支部を任されている。騎士の中でも、腕の立つ「名前付き」の一人、慈悲だ 狼護:名前付き……? あぁ、どっかで聞いたな……。騎士の中で強い人間に与えらえる、特別な名前だとか 狼護:なら、是非ともその強さ、拝見といきますかい……! 0:狼護は両手をかざす。瞬間、手に段々と風が集まっていく 慈悲:……っ、風を使うか 狼護:これが俺の術。 狼護:拳と足を使って、風を生み、攻撃の手段にする 狼護:まず一発目は、こいつだ 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ)その二「鎌鼬(かまいたち)」 0:狼護は手を勢いよく前に突き出し、渦上になった風がすかさず発生し、慈悲に向かって飛んでく 慈悲:風が、渦を巻いてこちらに…… 慈悲:だが、この程度なら……! 慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ)第9番「リカバリー」! 狼護:ほう、やりますな 慈悲:そのまま、攻撃に移る! 慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ)第2番「蓮制斬(れんせいざん)」! 狼護:接近戦ですかい、上等……! 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その七「風打連撃(ふうだれんげき)」 慈悲:……風が……手数が多いッ! 狼護:はぁっ! 0:狼護の手足から繰り出される、風の勢いを使った連続攻撃を、慈悲は、避けつつ、剣で防御する 慈悲:くっ……!  狼護:おや。名前付きってのは、これくらいの実力ですかい? 慈悲:攻めるばかりが強いわけじゃない……。そこだ! 狼護:っ……!?  慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ) 第12番 慈悲:二連抜突(にれんばっとつ)! 0:慈悲は、一度まっすぐ突き攻撃を放つ。狼護はそれを一回避けるが、二度目の突き攻撃を予想していなく、気をとられた 狼護:っ……!  慈悲:まだ、もう一突き……! 狼護:それは返しますぜ……!  狼護:風闘術(ふうとうじゅつ)その三 「回し風(まわしかぜ)」! 慈悲:っ……ぐっ……二連抜突を……風を起こして、止めたか 狼護:……確かに、並大抵の実力じゃあ、なさそうだ 輪廻:でも、それが2人増えちゃったら、どうなるんでしょうねぇ~? 狼護:っ!?  輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第3番 「キネスティンガー」 狼護:っ……!がぁ……っ 輪廻:見切りづらいでしょ、これ? それが、僕の槍なんで 狼護:こいつ……は? ティナ:輪廻……! 来ていたのですか!? 輪廻:いやぁ、なんか暇つぶしに寄ってみたら、騎士団兵さんみんな意識失ってるからさぁ。大丈夫?って思ってきたんですよ 輪廻:そしたら、慈悲さんがすんげー戦ってるから、マジモンじゃんこれ~!って 輪廻:っていうか、こいつ何なんすか? 慈悲:大和の人間、らしい 輪廻:へぇ~! 二人だけかと思ったんですけど、もう一人いたんですねぇ 輪廻:お? なんだこれ? 0:輪廻は狼護の髪を無理やり引っ張る 狼護:ぐっ……あ! 輪廻:へぇ~! 獣耳だ! すごいや、本物じゃん! 輪廻:これ、売ったらいくらになるんですかね? 輪廻:せっかくだし……このままちぎっちゃおうかなぁ! ティナ:お辞めなさい! 0:ティナの怒号が、支部内に響く…… 輪廻:……冗談ですよ、冗談。マジになんないでくださいよぉ 輪廻:でもいいのかなぁ。こいつ、大和なんでしょ? 輪廻:しかもティナお嬢様を狙いに来たんなら、殺したほうがいいですよ ティナ:…… 狼護:……そいつの言う通りだ。とっとと、やればいい 狼護:悔いは、ない…… 輪廻:ほら、こう言ってるんだしさぁ ティナ:……いえ 輪廻:へ? 0:ティナは少し目を閉じた後、何かを決心したような顔で、狼護の下へ歩み寄る 狼護:……あぁ、そうですかい。皇女自ら、手をかけるってか 狼護:構わねえっすよ……すきにしてくだせえ ティナ:……治癒術を施します 狼護:……? 輪廻:いやいや、ちょっとちょっとぉ! ティナ:なんでしょうか? 輪廻:何でしょうかって。こいつさっきまで敵だったんですよ? 分かってるでしょ、そんなこと? ティナ:あなたの言う通りです、輪廻。彼は先ほどまで私達を敵とみなし、襲ってきた ティナ:でも彼は、自分の身を挺(てい)してまで……そこまでして、神帝国へ報復を果たそうとした。その大きな憤怒(ふんぬ)を生んだのは、私達です 慈悲:姫様……!? 輪廻:うそでしょ!? それ考えなおしたほうがいいですって! ティナ:私が責任を取ります ティナ:……狼護、と申しましたか? 狼護:……本気か? ティナ:はい。……私は、神帝国がやったことを、今でも疑問に思っています 狼護:……口では、何とでも ティナ:そう思っていただいて、構いません 0:ティナは手をかざし、狼護の傷を治していく。彼の体がほんのりと光に包まれた 狼護:……っ 輪廻:ティナお嬢様。……あなたってひとは。何処までもお人よしすぎますよ ティナ:全ての人間に対してそういうわけではありません ティナ:最初は警戒しておりました ティナ:でもその後、慈悲との闘いの中……戦っている表情一つ一つから、やむにやまれない恨みを感じたのです 輪廻:恨みなんて持たれて当たり前でしょ? 輪廻:そこに気を止めなくても、神帝国が滅ぼした事実は変わらない。現実はいつものようにまわってる 輪廻:戦いを知らない人たちは、普通に暮らしているでしょ。それでいいじゃないですか 輪廻:なのにそれを? 今更? 掘り返すかのように、滅ぼした相手を、愛の心で受け止めますって? ティナ:恨みを持たれて当たり前な事をしているからこそ、こちらから歩み寄らねばなりません ティナ:相手にも何か理由があったのだと、思う事が大切なのです 輪廻:……はぁ。だからさぁ、そういう所ですよ、良くないの ティナ:輪廻。私などが、愛をとくつもりはありませんが、少しは理解をしようと努力をしてもいいのではないですか? 輪廻:なんでさ? ティナ:あなたは殻に閉じこもっている。そうやって卑屈な見方をして、心地が良いのですか? 輪廻:それは慈悲さんも同じでしょ。その人も殻のように固い ティナ:慈悲は違います。彼は元々が固いんです 慈悲:……固い、ですか ティナ:そうです! ティナ:でも慈悲は、固いなりに理解をしようと、歩み寄る姿勢が見える ティナ:それは殻を使って、周りと関係を遮断しているあなたとは、大違いです 輪廻:……ちっ。幸せな頭してるよな、ほんと 慈悲:輪廻。言葉をつつしめ 狼護:……はは ティナ:何かおかしかったですか? 狼護:いいや……殿下に似てると思って、どこか ティナ:私が? そうなのですか? 狼護:ええ 狼護:……で、俺をどうするんすか? このまま自由の身じゃないでしょうに ティナ:今なら体も動くはず。私を手にかけることはできますよ 狼護:……やる気が起こりません ティナ:……そうですか 慈悲:姫様、お言葉ですが、この者が支部へ入り、我々の命を狙おうとした事は間違いありません。殺しはしなくとも、なにか処罰を与えるべきかと 狼護:いいですぜ。牢屋でもなんでも、何処にでも連れていってもらえれば ティナ:では、行き先ですが。……この支部の近くに、綺麗なお花畑があるんですよ 狼護:……ん? 慈悲:なっ!?  ティナ:せっかく支部に来られたのですから、彼にも見ていただきたいのです。 ティナ:では、狼護 慈悲:待ってください! 私も、お供します。もしものことがあればいけませんので ティナ:分かりました。 ティナ:輪廻は、どうします? 輪廻:ついて来いってこと? ティナ:もしよければ 輪廻:どうでもいいよ ティナ:でしたら、私たちが出向いている間、支部をお願いします 輪廻:……おおせのとおりに 0: 0: 0:支部から少し離れたところ、草むらを少しかき分けた先にそれはあった 0:青空の元、色とりどりの花が咲いているお花畑が、ティナたちを迎え入れるように存在していた 狼護:……これ、は ティナ:どうですか、狼護 狼護:…… 慈悲:ここに来るのも、何度目か ティナ:慈悲は、好きなお花、見つかりましたか? 慈悲:いや、まだ ティナ:ふふ、見つかるといいですね。焦らずゆっくり ティナ:あ、そうそう! 先ほどお話ししました赤い花、えっと……あそこ! ティナ:ほら、ご覧なさい、慈悲 0:ティナが指をさした先に、真っ赤に咲く花があった 慈悲:……確かに。不思議ですね。ひときわ目立っているのに……全体でみると、違和感がなく、調和がとれている ティナ:きっと、人間同士の在り方も、このお花畑だと思います ティナ:どちらの国だろうと、どんな生まれでも関係ありません ティナ:個性が違うから、世界は魅力的なのです 慈悲:っ? 0:ティナは自分の両手を組み、穏やかな口調で、言葉を紡いだ ティナ:1つ1つが変わっている ティナ:形も色も、みんな違う ティナ:咲いている花によっては、私達の見る景色を変えてくれる ティナ:だから花は、美しいのです 0:ティナはそういって、慈悲と、狼護に向かって微笑んだ 狼護:……あんまりですよ、こりゃ ティナ:お気に、召しませんでしたか 狼護:……いいや、逆です ティナ:えっ? 0:ティナは一瞬、狼護のいう事にきょとんとした。しかし、狼護が、目から涙をこぼしている姿を見て、ティナは再び微笑み返す 狼護:大和ノ国にも、似たような景色の、いい場所がありましてね 狼護:こんなにも綺麗なんざ、反則っすよ 狼護:……畜生 ティナ:ふふ。正直な方なのですね、狼護は ティナ:……慈悲。これも、ある意味処罰ではないですか? ティナ:こんなにも、泣かれておられるのですから 0:慈悲はやれやれと言わんばかりに、ティナへ笑みを返した 慈悲:姫様が、そうおっしゃるのであれば 狼護:……くそ…………クソっ…… 0:狼護は泣く。重くこびりついたものを、一つずつ、洗い流すように 0: 0:それからしばらくの間 ティナ:落ち着きましたか? 狼護:……はい ティナ:それでは、いったん戻りましょうか ティナ:良かったら、大和ノ国のこと、教えてくださいな 0: 0:その頃、第4支部にて 輪廻:はぁー。ひどく暇だ 輪廻:……ティナお嬢様。何にも分かってないよ 輪廻:花なんて、勝手に咲いて、枯れるだけじゃないか 輪廻:そんなものに価値を感じる理由が、わからない 輪廻:……慈悲さんも慈悲さんだろ 輪廻:あいつも分かってないくせに、何を真摯にお嬢様に従ってるんだか 輪廻:真面目って、毒にも金にもならないのにさ 0:慈悲の名前を出したせいか、輪廻は無意識に歯を食いしばった 輪廻:……くそが。なんで慈悲さんなんだよ 輪廻:不公平もいいところだろ 輪廻:……それか、もし公平になりたかったら「理解するように努力しろ」って? 0:輪廻は少しずつ口角を上げ、不気味に笑う 輪廻:……はは、はははははは! 輪廻:……ばっかばかしい 輪廻:そう、本当にね 輪廻:だから…… 0: 0:第4支部に戻ってきたティナたち 0:しかし、行く前と様子が違う事に、狼護が気がついた ティナ:ただいま、戻りました 狼護:……帰ってきたのに、誰もいないっすね ティナ:あれ? 他の者は? 慈悲:おかしいな。まだ任務の時間は終わっていないはずだ 慈悲:……っ!! 慈悲:姫様! 下がってください! ティナ:えっ!? 0:慈悲は後ろから殺気を感じ、剣を抜いた 慈悲:っ、お前たち……! 何のつもりだっ! なぜ剣を抜いている! ティナ:どうしたのですか!? 狼護:こいつら……様子がなんだか、おかしくないですかい……!? 0:騎士たちは、狼護と慈悲に剣を持ち、襲い掛かる 慈悲:騎士剣(きしけんじゅつ)第3番 慈悲:「スティンガー」! 0:慈悲は、襲ってきた騎士の胴体部分をついて、勢いよく相手を倒した 慈悲:っ! どうなっている? 輪廻:慈悲さん! 助かりましたよ 慈悲:輪廻! 一体何があった!? 輪廻:いや、それが僕にもよくわかんなくて 慈悲:……もしや、例の「裏切り者」たちが、何か仕掛けたのか?  輪廻:さぁ? それか、こいつらが元々裏切り者っていう線か、どっちかでしょ? 狼護:まだ他にもいますぜ。周り 慈悲:……っ、お前たち…… 輪廻:お嬢様は僕が 慈悲:ああ。……いったん屋上まで、連れて行ってくれ。あとは食い止める。そっちは頼めるか 輪廻:もちろん 0:輪廻はティナをつれ、教会の外へと向かう 慈悲:狼護、すまない……戦えるか? 狼護:もう戦ってますぜ、慈悲さん 慈悲:……ありがとう。なら、協力を頼む! 0: 0:第4支部 屋上 0:輪廻は後ろを警戒しつつ、ティナを屋上へつれてくる 輪廻:ここまで来たら安心ですよ ティナ:ありがとうございます 輪廻:いえいえ。あとは慈悲さん達が片付けてくれるでしょ ティナ:……片付ける、という言い方はよくないですね ティナ:彼らは何者かに操られている。敵ではありません 輪廻:……またそれですか 輪廻:そんな悠長にしてたら、「裏切り者」に騙されますよ? ティナ:……えっ? 輪廻:黒術(こくじゅつ) 第17番 輪廻:止縛冥呪(しばくめいじゅ) ティナ:っ……からだ……が! ティナ:これは……こく……じゅつ? 輪廻:そうですよ。禁忌(きんき)とか言われてるんですっけ? 古いですよね~考え方 輪廻:使えるものは使えばいいのにさ ティナ:あなた……なぜ? 輪廻:なぜだと思います? 分かりますか? 輪廻:……僕はね、思い出してほしかったんですよ ティナ:……何、を? 輪廻:ほら。お嬢様は忘れちゃってる 輪廻:そう、馬鹿共のせいで記憶が飛んでしまった ティナ:……えっ? 輪廻:今は、傷が癒えてますけど、振るわれた傷跡は、心の中に残っている 輪廻:その傷跡と一緒に、僕と居た日々もどっかに行っちゃった 輪廻:そう、お嬢様は、忘れているから、いつもぬるいことが言える 輪廻:大和の人間は敵じゃないとか、1人1人は花のように違うとか 輪廻:その「忘却されたティナお嬢様」という状態で、ずっと生き続けている 輪廻:次の日も……次の日も ティナ:……あなたは、何を言って? 輪廻:だから思い出してください 輪廻:偽りの輪廻から、貴方を解き放ちます 輪廻:黒術(こくじゅつ) 第37番 輪廻:「浮憶回出(うおくかいしゅつ)」 ティナ:……あ、ぁぁ……ああ! 0: 慈悲:っ……これで……全部か? 狼護:……そのようですな 慈悲:すまないな、狼護 狼護:なんで謝るんですかい 狼護:助けられた礼っすよ 慈悲:……ありがとう 慈悲:しかし……このような事を、一体何者が…… 狼護:……そういえば、思ったんですが 狼護:あの輪廻って人、これだけ騎士団の人が変な状態になってんのに、何ともなかったっすよな 慈悲:奴も名前付きだ。誰かの術中にやられる人間ではない 狼護:……でも、その「誰か」の事、喋ってましたか? 狼護:だって、俺達が居ない間、ずっと居たんでしょ? 慈悲:……それは、そうだが 慈悲:なら、その間に何があったのか、輪廻に聞こう 0:慈悲は、狼護の言葉から、得体のしれない嫌な予感を感じていた 慈悲:屋上へ 0: 慈悲:(狼護の言葉が、嘘であってほしい) 慈悲:(輪廻はいつも不真面目な態度をとっているが、武器を取ればしっかり戦ってくれる) 慈悲:(だが、屋上へ向かう階段をあがればあがるほど、なぜか、私の中の不安は膨れ上がる) 慈悲:(やがて、その不安は、目の前に移った光景を見て、現実と化してしまった) 慈悲:姫……様? ティナ:……あぁ、あぁ……あ 輪廻:そう、そうだよ、それでいいんだよ 慈悲:輪廻…… 慈悲:何をしている? 輪廻:あぁ、慈悲さん。早かったね 輪廻:そりゃそうか。だって僕と同じ、名前付きか 慈悲:姫様に何をしている!! 輪廻:思い出させてあげてるんだよ 輪廻:お嬢様、僕の事忘れちゃったから 慈悲:その術は……なんだ? 輪廻:黒術(こくじゅつ)だよ。これを使って、ティナお嬢様の記憶を呼び起こしてるんだ 輪廻:こうやって……さぁ! ティナ:あ、ぁぁ! あああ! 慈悲:辞めろぉぉおお!!! 0:慈悲はすかさず剣を抜き、輪廻に斬りかかる 輪廻:なんだよなんだよ! ティナお嬢様に手を出すなって!? 慈悲:お前は! いち個人の為に傷つけるのか!! 慈悲:禁忌(きんき)の術を使ってまでして! 輪廻:あんた……何にも見えてないんだな 慈悲:何……!? 輪廻:お嬢様が記憶を失ったのは、階級の高い人間たちに傷つけられた 輪廻:この神帝国の、上層部だ 慈悲:っ……上層部が……? 輪廻:ああ。この人が再び僕の前に現れた時、それはそれは「どなた?」って言われたよ 輪廻:もう最悪だ……ああ、最悪だよ!! 輪廻:お前にこの気持ちがわかるか!? ええ!? 慈悲:……くっ! 輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第10番 輪廻:「ラン・スケルト」! 慈悲:……がぁぁぁっ! 輪廻:あんたが、たまたまこの第4支部を担当する名前付きってだけでよ 輪廻:お嬢様の隣に居やがって…… 輪廻:見ていてずっと、嫌な気分だったよ……! 輪廻:だからついでだ。ここで息の根を止めてやるよ 狼護:慈悲さん! 輪廻:でしゃばんじゃねえよ……大和の犬が!! 輪廻:黒術(こくじゅつ) 第20番 輪廻:闇獣招来(あんじゅうしょうらい) 狼護:!? なんだこいつら……? 黒い、獣か? 輪廻:せいぜいそいつらと遊んでろよ。お似合いだろ、お前には 慈悲:狼護! 狼護:っ!? 慈悲:輪廻は……私が! 慈悲:お前は、ティナ様を頼む……! 狼護:っ、……分かった……! 輪廻:あれ? もう協力しちゃってんすかぁ!? 大和の人間なのに?  輪廻:もしかして、ティナお嬢様が言ってる事に納得しちゃった? お花畑なんかみて!? ロマンスもここまでくると反吐がでるな! 慈悲:……お前は、姫様を大切に思っているんだろう……? 慈悲:その行為が、彼女のためになっているのか!? 輪廻:分かったような口を聞くな! 輪廻:あんたと僕じゃ、お嬢様と居た時間は全然ちがう 輪廻:一部分しか見えてない奴が、隣にたってんじゃねえよ! 慈悲:いいや! それでも! 慈悲:私に言った数々の言葉は、花を愛していた姫様の姿は、本物だ! 輪廻:その姿が例え、自分の苦しい記憶を忘れているとしてもか!? 慈悲:だからといって……姫様の悲しい顔を見せてまですることか……!! 輪廻:説教するなよ! 慈悲さぁん! 輪廻:さっきから上から目線ばっかりでさぁ……! 輪廻:いくら先に、名前付きになったからって、調子に乗るんじゃねえよ……! 慈悲:っ! 輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第4番 輪廻:「キネルトラスト」! 慈悲:……槍が、湾曲して! どこだ!? 輪廻:後ろ後ろぉ! 慈悲:っ……がぁっ!  輪廻:ほらぁ、反応ができてない 輪廻:それもそうか。いっぱしの騎士団兵とおんなじ事しかできないもんなぁ 慈悲:……真っ直ぐ来たかと思えば、横から、後ろからも来る……! 慈悲:……いつ時も厄介だ、お前の術は……! 輪廻:だから色々対応策を考えてたんだよねぇ。なんか、氷連術(ひょうれんじゅつ)も習得してましたっけ? 輪廻:でも、聖典さんと比べたら中途半端! 何にも得られていない! 輪廻:つまり……あんたは雑魚でしかないんですよ、慈悲さん 輪廻:ただの騎士団兵と変わらない 慈悲:……ぐっ 輪廻:ティナお嬢様には、あんたが裏切り者に殺されたって言っておくよ 輪廻:そして、裏切り者は大和を使って、お嬢様を消そうとしたと報告する 輪廻:最後は全部、僕が始末したってね……! 0: 0: 0:一方、狼護は、輪廻が召喚した黒い獣たちを倒していた 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その七 狼護:旋牙風走脚(せんがふうそうきゃく)! 0:狼護は目然にいる黒い獣を、風を纏った脚で攻撃する 狼護:っ……こいつを倒したら、ティナさんに手が届く……! ティナ:……ぁ、ぁ…… 狼護:ティナさん! 狼護:……っ、駄目だ……呼びかけても、反応がねえ ティナ:……ア、ル………。ロテ、リ……オ 0:ティナは嗚咽を漏らし、目を閉じて気絶する 狼護:この人が、こんな顔するなんて…… 狼護:……これじゃ、殆ど俺達と変わらねえよ…… 0: 輪廻:じゃ、さよなら、慈悲さん 輪廻:あんたとの腐れ縁も、ここまでだ……! 0:輪廻が慈悲を、槍で刺そうとした 輪廻:っ……? ……止め、られた? 慈悲:……白術(はくじゅつ) 第1番 慈悲:「ホーリーバリア」 輪廻:……白術(はくじゅつ)、だと? 輪廻:なんであんたが、そんな術……! 慈悲:黒と相対する、白き術、とても習得できるものでないと思っていたが 慈悲:やっと、まともに出せるようになったか 0:慈悲は剣を白く光らせると、辺りが白い霧のような何かに包まれた 輪廻:っ!? 視界が……! 輪廻:くそ……なんだ、なんだこれ?!  輪廻:周りが……白く!? 0: 0: 慈悲:白(しろ)へ授(さず)けよ 慈悲:聖(せい)なる守護(しゅご)を尊(とうと)い、その命(めい)を 慈悲:永久(えいきゅう)の天王(てんおう)へ返還せん 慈悲:白術(はくじゅつ) 第20番 慈悲:白魔 天生抗(はくま てんせいこう) 0: 0:瞬間、輪廻の身体を白く大きな光が突き抜けた 輪廻:ぐ、がぁぁぁっ!! 0: 慈悲:……ここまでだ 輪廻:っ、くそ、くそ、くそがぁぁぁ! 輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ)、第……! 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その十 狼護:駆風疾爪(かふうしっそう)! 0:狼護は風の爪で、駆け抜けるように、輪廻を攻撃した 輪廻:ぐっ……がぁっ! 狼護:……他の黒い獣は片付けやした。さっきのは、やられた借りだ 輪廻:クソ犬がぁぁぁっ……! 慈悲:姫様は? 狼護:意識を失ってけるど、無事ですよ 慈悲:そうか……助かったよ 0:慈悲は狼護にそう言った後、倒れている輪廻に近づく 慈悲:まだやるか? 輪廻 輪廻:なんだよ? その顔 慈悲:……姫様なら。いや 慈悲:私の中にある、騎士道精神に従って、選択をするだけだ 慈悲:輪廻、お前に「慈悲(じひ)」をくれてやる 慈悲:このまま殺さずに捕らえる。命をもって、罪を償え 輪廻:……はは、ははは! 輪廻:何もかも忘れた姫様なんかの言葉に、影響なんか受けちゃって 輪廻:あんた……マジで嫌いだよ キリア:あっちゃー。 滅茶苦茶押されてるじゃーん 輪廻くん 狼護:っ!? 誰だ! キリア:あー、気にしなくていいですよ~ん! すぐ退散するから~! 輪廻:……キリア、いつの間に 慈悲:キリア……?  キリア:どうも。名前付き候補だった騎士のキリアたんでーす!  今は訳あっていないんだけど~、そこんとこよろしくー! 慈悲:そうだ……確か、失踪したと耳に入っていたが…… キリア:慈悲くんは、はじめましてかな? ふむふむ、輪廻くんと同じくらいの年齢かな? か~わいい 慈悲:……お前たち。まさか二人とも、「裏切り者」側か? キリア:ピンポーン! 慈悲くんに50点プレゼント~!  キリア:……黒術(こくじゅつ) 第20番 キリア:闇獣招来(あんじゅうしょうらい) 狼護:こいつは……さっきとおんなじ黒い獣……でも、数が多い! キリア:とりあえず、動かないでもらえると嬉しいんだけど~ 慈悲:狼護! 油断するな! 狼護:分かって……っ!? キリア:あら? 輪廻く~ん。彼女、起きてるよ~!? 輪廻:うるさいな……言われなくても、「仕事」はすんでるって……。……? ティナ:……っ 慈悲:姫様!  ティナ:ここは? 狼護:ティナさん? ティナ:あなたは? 慈悲:えっ……? 0:ティナは、慈悲と、狼護、そしてキリアと、輪廻の目を見たあと、そういった ティナ:あなたたちは、誰? 輪廻:……は? 輪廻:……待てよ、おい。こんな、こんなことになるなんて、聞いてないぞ……! キリア:うーん、そうね……。浮憶回出(うおくかいしゅつ)は、その人の、刺激の強ーい記憶を引っ張り出す術。記憶障害にまではならないはず 輪廻:じゃあなんで! キリア:もしかしたら、記憶「そのもの」のショックが、あまりに大きかったのかも 輪廻:……なんだ、それ キリア:だって、その経験があったから、君の事、忘れてたわけでしょ?  輪廻:……そんな 輪廻:これじゃ……僕のことを……思い出せないまま キリア:落ち込まないの~、輪廻君。はい、帰るよー キリア:黒術 第8番「冥楼(めいろう)」 慈悲:っ! 待て! 狼護:……黒い霧になって、消えた……二人とも ティナ:……何か、あったのですか? 慈悲:……姫様 ティナ:……申し訳ありません ティナ:姫様、と言われても、何も、わからなくて 狼護:(ティナさんは、終始、どこか途方に暮れたような顔で、ふつふつと言葉を紡いでいた。その姿は、俺が最初に見た時とは、どこか違う) 慈悲:……っ! 狼護:(その隣で、慈悲さんは、血がにじみ出そうなくらい、自分の手を握っていた) 狼護:(そして、激しい感情が静まったあとは) 狼護:(必ず、悲しみが訪れる)  0: 狼護:……慈悲さん 慈悲:分かっている 慈悲:でも、そうやすやすと、受け入れられるか…… 0:しばらくの間 狼護:……っ、そうだ 慈悲:……なんだ? 狼護:お花畑、行ってみませんか? 慈悲:…? 狼護:なにをいってんだって思うけど。ティナさん、花が好きじゃないですか 狼護:そうした方がいい気がして ティナ:……お花畑? この近くに、あるの? 慈悲:……っ。……はい 慈悲:とても綺麗な、お花畑があります 0: 0: 0: 慈悲:(夕方になって、ここの花は変わらない) 慈悲:(私の中が、どんな心持ちだったとしても) 慈悲:(景色の感想とは……自分の心によって、変わるもの、なのかもしれない) 慈悲:(そう思っていると、姫様はすかさず、お花畑のほうへ向かっていく) ティナ:わぁ…! きれい! 狼護:っ、ティナさん? 狼護:あっ、ちょい! 0:ティナは目をキラキラさせてお花畑へかける ティナ:こんなにお花が咲いているなんて…! ティナ:ねぇ、見てロテリオ! あそこの花、とても赤くてきれい…! 慈悲:……! 狼護:ロテ、リオ……? 慈悲:……私の、本当の名前だ 狼護:それって……つまり ティナ:…あれ? ティナ:今、私は……? 慈悲:…っ 0:少しずつ、慈悲から嗚咽が漏れはじめる 慈悲:そういうところは……本当に、お変わりないのですね… ティナ:ごめんなさい。私、ここの事を、殆ど覚えていなくて ティナ:もし良ければ……どんな場所なのか、教えてくれますか? 慈悲:……ここは、色とりどりの花が咲く場所です 慈悲:でも、どんな花が咲いても、周りの花同士が調和して、一つのお花畑として成り立っている。 慈悲:時が経つにつれて、もしかしたら違う花も咲くかもしれません。そうなれば、また景色が変わっていき、違う形になる 慈悲:そしてその都度、違う感想を持つことができるんです ティナ:……素敵ですね ティナ:あなたは……ここが好きなのですか? 慈悲:……はい 慈悲:まだ、好きな花は見つけられていませんが 慈悲:とても、とても…………大切な場所です………… 0: 輪廻:…… キリア:すごーい不機嫌 輪廻:だったら? キリア:別にさ、記憶が一生、なくなるわけじゃないんだから 輪廻:……何がわかる キリア:むぅ、つめた~い。ウィルの氷連術並みに冷たいよ、その態度。ぷんぷん! キリア:……それで? 頼りになる情報はあった? 輪廻:……気になる名前が出てきた、そんだけ キリア:ご苦労様、十分でございますよー。あとで、ナデナデしてあげよっか? キリア:あーでも、輪廻くんは、ティナお姫様のほうがいいか。幼馴染なんだよね? それだと流石に私じゃ勝てないかな、なーんて! あっはははは! 0:キリアの楽しそうな笑みがこだました後、再び黒い霧に包まれ、どこかへ消えた 0: 狼護:…… 慈悲:ありがとう、狼護 狼護:なんですかい、改まって 狼護:俺、あんたを殺そうとしてたんですよ?  狼護:そんな奴をわざわざ、見送りまでしてくれるなんざ、ありえないですぜ 慈悲:確かに、他の名前付きや、騎士から見たら、狼護と同じ感想を抱くかもな 慈悲:でも、お前はお前なりの気持ちがあり、思いがあり、ここに来た 慈悲:そこには敬意を払いたい 狼護:ははっ、さすがナイト様 狼護:あんた達と、会えて良かった 慈悲:こちらもだ 狼護:……んじゃ、俺は行きますわ 慈悲:これからどうするんだ? 例の……灼炎の焔と、合流するのか? 狼護:そうですな……このまま戻るか、どうするか 狼護:今殿下と会ったら「どの面下げて来た」なんざ言われそうで 慈悲:そうだろうか。きっと、その焔殿は分かってくれると思うぞ 狼護:へ? 慈悲:姫様と似てるんだろ? 狼護:……まぁ、俺の感覚になっちまいますが、ね 狼護:そういえば、その、「裏切り者」でしたっけ? そっちは大丈夫なんすか? 慈悲:その件だが、私もどう動いたものかわからない 慈悲:……輪廻が言うには、姫様は、暴力を振るわれていた 慈悲:それを無理やり掘り起こした輪廻を、許したわけではない 慈悲:ただ、最初に姫様に危害を加えたのは、神帝国の……上層部たちというのが、信じられなくてな 狼護:……そうですよな、そりゃ。自分の国なんですから、なおさらか 慈悲:まだ私自身……整理ができない……この件はひとまずおいておく 慈悲:とりあえず、最低限の報告はしておかないとな…… 慈悲:あと、狼護。お前の件だが「ならず者に襲撃を受けたが、すみやかに撃退した」と、言っておく。お前の名前は出さない。心配するな 狼護:いいんですか?  慈悲:構わない。私の騎士道精神に従って、決めたことだ 狼護:はは……こりゃ、騎士道精神も、舐めたもんじゃないっすね 慈悲:精神「も」? ということは、お前たちにも似たようなものがあるのか? 狼護:一応、あります。「大和の魂」っていう、ね 慈悲:大和の魂……いい響きだな 狼護:そんな大したもんじゃないですぜ 狼護:……お世話になりやした 慈悲:礼などいらない。もし焔殿がこちらにも来たら、事情を説明しておく 狼護:ありがとうございます 慈悲:では……さらばだ。大和の戦士よ 狼護:ええ。もし会えたら、どこかで、また 0:互いに握手を交わした

ティナ:一つ一つが変わっている ティナ:形も色も、みなちがう ティナ:だから花は美しいのです 0: 慈悲:姫様はそういって、目を閉じながら笑みを浮かべた 慈悲:「好きな花は見つかった?」と聞かれたが 慈悲:それは、未だに見つかっていない 0: 0:神帝国 第4支部 慈悲:「灼炎の焔」……か 慈悲:「国盗り」という名目で、強い騎士に勝負を挑み、勝てばその場所を制圧したとみなすやり方で、神帝国を攻め落とす……普通では考えられない方法だ ティナ:しかし、その御方は、国民に手を出しておりません 慈悲:姫様……。おはようございます ティナ:おはよう。ロテリオ 慈悲:「慈悲」とお呼びください。何度も言っていると思いますが ティナ:私としては、本名で呼んだ方がしっくり来ますのに…… 慈悲:それでも、です。決してこの名前が、嫌というわけではありません。名前を与えられた者として、使命を全うすると決めておりますので ティナ:……そうですか。では、「慈悲」。話がそれてしまいましたね 慈悲:お話を戻しますが……大和は、我々神帝国の敵です ティナ:敵……そうですね。灼炎の焔は、大和の人間であり、大和王の息子であると聞きました ティナ:彼らはまさに、「穢れた血」と呼ばれた、神帝国にとっての敵。確かに、慈悲の言う通りです ティナ:しかし、果たしてそれは本当なのでしょうか? 慈悲:……と、いいますと? ティナ:彼は、なるべく被害を出さない「陣地とり」をしている ティナ:普通なら、たくさんの民を根絶やしにしても、おかしくはないでしょう ティナ:攻めたのはこちらだというのに、優しいやり方を選んでいる……そんな方が、本当に敵なのかと 慈悲:そうですが…… ティナ:……そういえば、先日、また一つ、綺麗なお花が咲いていましてね 慈悲:? 花ですか? ティナ:慈悲。この間、連れて行ったばかりでしょう…… 慈悲:あ、ああ。そうでした。すみません ティナ:……そのお花は、赤く、鮮やかに、咲きほこっていました 慈悲:赤、ですか ティナ:はい。他の花と違って、とてもよく目立っています ティナ:でも、なぜか、他の花の美しさを消すことなく、周りと調和している。不思議な花です ティナ:そこで私は思いました、この花も、大和の方と同じではないかって 慈悲:つまり、害はない、と言いたいのでしょうか ティナ:もう……。少しは、汲(く)み取ることを覚えなさい 慈悲:申し訳ありません。どうしても疎(うと)いもので ティナ:……構いませんわ。きっといつか分かります 0:そこに1人の騎士が慌ただしく入ってくる 慈悲:どうした?  騎士団兵:報告! 第4支部内に侵入者が! 慈悲:何……?   騎士団兵:突然、門の前に現れて…… ティナ:その者は、どちらに? 騎士団兵:もう間もなく、こちらに来るかと…… 慈悲:まもなく? 他の兵はどうした? 騎士団兵:……申し訳ありません 騎士団兵:我々だけで、抑えきれなく…… 慈悲:抑えられない? どういうことだ? 騎士団兵:その者、「大和の人間」と名乗っていて……野次馬かと思っていましたが…とんでもない強さで 慈悲:……分かった。そいつをこの場に通せ。私が相手をしよう 騎士団兵:はっ 0:しばらくして、先ほど報告に来た騎士団兵が、その人間を連れてきた 狼護:わざわざ通してくれるなんざ、寛容なんですな。神帝の人間は 慈悲:何者だ? 狼護:俺の名は、「狼護」。そこにいる皇女さんの首、獲りにきやした 慈悲:姫様が狙いか?  狼護:そりゃぁ、ね。偉い方の首もらわないと、示しがつきませんのでね 慈悲:……どういうことだ?  狼護:大和王の第一子息「焔」。耳に入ってるんでしょ? 狼護:俺は、その焔殿下の、従者です ティナ:……本当に、大和の人間? 狼護:その通り 慈悲:待て。支部を攻めてきた大和は、二人と聞いたはずだ 狼護:そりゃ、俺だけ別なんでね 狼護:殿下と一緒に行動するなんざ、考えられない 慈悲:っ! 0:狼護は手足を広げて、構えを取る。慈悲もそれに合わせて剣を抜いた 狼護:「国盗り」なんて……殿下のやり方は甘いんですよ。そんな人には、誰もついていけやしません。何より、民が納得できないはずだ…… 狼護:だから代わりに、殿下ができないことを、俺がやる 狼護:神帝のお姫様。その命、頂戴いたしやす 慈悲:悪いが、そうはさせない ティナ:慈悲 慈悲:大丈夫です。姫様は下がっていてください 狼護:あんた、皇女様の護衛かなにか? 慈悲:姫様の護衛と、この第4支部を任されている。騎士の中でも、腕の立つ「名前付き」の一人、慈悲だ 狼護:名前付き……? あぁ、どっかで聞いたな……。騎士の中で強い人間に与えらえる、特別な名前だとか 狼護:なら、是非ともその強さ、拝見といきますかい……! 0:狼護は両手をかざす。瞬間、手に段々と風が集まっていく 慈悲:……っ、風を使うか 狼護:これが俺の術。 狼護:拳と足を使って、風を生み、攻撃の手段にする 狼護:まず一発目は、こいつだ 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ)その二「鎌鼬(かまいたち)」 0:狼護は手を勢いよく前に突き出し、渦上になった風がすかさず発生し、慈悲に向かって飛んでく 慈悲:風が、渦を巻いてこちらに…… 慈悲:だが、この程度なら……! 慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ)第9番「リカバリー」! 狼護:ほう、やりますな 慈悲:そのまま、攻撃に移る! 慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ)第2番「蓮制斬(れんせいざん)」! 狼護:接近戦ですかい、上等……! 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その七「風打連撃(ふうだれんげき)」 慈悲:……風が……手数が多いッ! 狼護:はぁっ! 0:狼護の手足から繰り出される、風の勢いを使った連続攻撃を、慈悲は、避けつつ、剣で防御する 慈悲:くっ……!  狼護:おや。名前付きってのは、これくらいの実力ですかい? 慈悲:攻めるばかりが強いわけじゃない……。そこだ! 狼護:っ……!?  慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ) 第12番 慈悲:二連抜突(にれんばっとつ)! 0:慈悲は、一度まっすぐ突き攻撃を放つ。狼護はそれを一回避けるが、二度目の突き攻撃を予想していなく、気をとられた 狼護:っ……!  慈悲:まだ、もう一突き……! 狼護:それは返しますぜ……!  狼護:風闘術(ふうとうじゅつ)その三 「回し風(まわしかぜ)」! 慈悲:っ……ぐっ……二連抜突を……風を起こして、止めたか 狼護:……確かに、並大抵の実力じゃあ、なさそうだ 輪廻:でも、それが2人増えちゃったら、どうなるんでしょうねぇ~? 狼護:っ!?  輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第3番 「キネスティンガー」 狼護:っ……!がぁ……っ 輪廻:見切りづらいでしょ、これ? それが、僕の槍なんで 狼護:こいつ……は? ティナ:輪廻……! 来ていたのですか!? 輪廻:いやぁ、なんか暇つぶしに寄ってみたら、騎士団兵さんみんな意識失ってるからさぁ。大丈夫?って思ってきたんですよ 輪廻:そしたら、慈悲さんがすんげー戦ってるから、マジモンじゃんこれ~!って 輪廻:っていうか、こいつ何なんすか? 慈悲:大和の人間、らしい 輪廻:へぇ~! 二人だけかと思ったんですけど、もう一人いたんですねぇ 輪廻:お? なんだこれ? 0:輪廻は狼護の髪を無理やり引っ張る 狼護:ぐっ……あ! 輪廻:へぇ~! 獣耳だ! すごいや、本物じゃん! 輪廻:これ、売ったらいくらになるんですかね? 輪廻:せっかくだし……このままちぎっちゃおうかなぁ! ティナ:お辞めなさい! 0:ティナの怒号が、支部内に響く…… 輪廻:……冗談ですよ、冗談。マジになんないでくださいよぉ 輪廻:でもいいのかなぁ。こいつ、大和なんでしょ? 輪廻:しかもティナお嬢様を狙いに来たんなら、殺したほうがいいですよ ティナ:…… 狼護:……そいつの言う通りだ。とっとと、やればいい 狼護:悔いは、ない…… 輪廻:ほら、こう言ってるんだしさぁ ティナ:……いえ 輪廻:へ? 0:ティナは少し目を閉じた後、何かを決心したような顔で、狼護の下へ歩み寄る 狼護:……あぁ、そうですかい。皇女自ら、手をかけるってか 狼護:構わねえっすよ……すきにしてくだせえ ティナ:……治癒術を施します 狼護:……? 輪廻:いやいや、ちょっとちょっとぉ! ティナ:なんでしょうか? 輪廻:何でしょうかって。こいつさっきまで敵だったんですよ? 分かってるでしょ、そんなこと? ティナ:あなたの言う通りです、輪廻。彼は先ほどまで私達を敵とみなし、襲ってきた ティナ:でも彼は、自分の身を挺(てい)してまで……そこまでして、神帝国へ報復を果たそうとした。その大きな憤怒(ふんぬ)を生んだのは、私達です 慈悲:姫様……!? 輪廻:うそでしょ!? それ考えなおしたほうがいいですって! ティナ:私が責任を取ります ティナ:……狼護、と申しましたか? 狼護:……本気か? ティナ:はい。……私は、神帝国がやったことを、今でも疑問に思っています 狼護:……口では、何とでも ティナ:そう思っていただいて、構いません 0:ティナは手をかざし、狼護の傷を治していく。彼の体がほんのりと光に包まれた 狼護:……っ 輪廻:ティナお嬢様。……あなたってひとは。何処までもお人よしすぎますよ ティナ:全ての人間に対してそういうわけではありません ティナ:最初は警戒しておりました ティナ:でもその後、慈悲との闘いの中……戦っている表情一つ一つから、やむにやまれない恨みを感じたのです 輪廻:恨みなんて持たれて当たり前でしょ? 輪廻:そこに気を止めなくても、神帝国が滅ぼした事実は変わらない。現実はいつものようにまわってる 輪廻:戦いを知らない人たちは、普通に暮らしているでしょ。それでいいじゃないですか 輪廻:なのにそれを? 今更? 掘り返すかのように、滅ぼした相手を、愛の心で受け止めますって? ティナ:恨みを持たれて当たり前な事をしているからこそ、こちらから歩み寄らねばなりません ティナ:相手にも何か理由があったのだと、思う事が大切なのです 輪廻:……はぁ。だからさぁ、そういう所ですよ、良くないの ティナ:輪廻。私などが、愛をとくつもりはありませんが、少しは理解をしようと努力をしてもいいのではないですか? 輪廻:なんでさ? ティナ:あなたは殻に閉じこもっている。そうやって卑屈な見方をして、心地が良いのですか? 輪廻:それは慈悲さんも同じでしょ。その人も殻のように固い ティナ:慈悲は違います。彼は元々が固いんです 慈悲:……固い、ですか ティナ:そうです! ティナ:でも慈悲は、固いなりに理解をしようと、歩み寄る姿勢が見える ティナ:それは殻を使って、周りと関係を遮断しているあなたとは、大違いです 輪廻:……ちっ。幸せな頭してるよな、ほんと 慈悲:輪廻。言葉をつつしめ 狼護:……はは ティナ:何かおかしかったですか? 狼護:いいや……殿下に似てると思って、どこか ティナ:私が? そうなのですか? 狼護:ええ 狼護:……で、俺をどうするんすか? このまま自由の身じゃないでしょうに ティナ:今なら体も動くはず。私を手にかけることはできますよ 狼護:……やる気が起こりません ティナ:……そうですか 慈悲:姫様、お言葉ですが、この者が支部へ入り、我々の命を狙おうとした事は間違いありません。殺しはしなくとも、なにか処罰を与えるべきかと 狼護:いいですぜ。牢屋でもなんでも、何処にでも連れていってもらえれば ティナ:では、行き先ですが。……この支部の近くに、綺麗なお花畑があるんですよ 狼護:……ん? 慈悲:なっ!?  ティナ:せっかく支部に来られたのですから、彼にも見ていただきたいのです。 ティナ:では、狼護 慈悲:待ってください! 私も、お供します。もしものことがあればいけませんので ティナ:分かりました。 ティナ:輪廻は、どうします? 輪廻:ついて来いってこと? ティナ:もしよければ 輪廻:どうでもいいよ ティナ:でしたら、私たちが出向いている間、支部をお願いします 輪廻:……おおせのとおりに 0: 0: 0:支部から少し離れたところ、草むらを少しかき分けた先にそれはあった 0:青空の元、色とりどりの花が咲いているお花畑が、ティナたちを迎え入れるように存在していた 狼護:……これ、は ティナ:どうですか、狼護 狼護:…… 慈悲:ここに来るのも、何度目か ティナ:慈悲は、好きなお花、見つかりましたか? 慈悲:いや、まだ ティナ:ふふ、見つかるといいですね。焦らずゆっくり ティナ:あ、そうそう! 先ほどお話ししました赤い花、えっと……あそこ! ティナ:ほら、ご覧なさい、慈悲 0:ティナが指をさした先に、真っ赤に咲く花があった 慈悲:……確かに。不思議ですね。ひときわ目立っているのに……全体でみると、違和感がなく、調和がとれている ティナ:きっと、人間同士の在り方も、このお花畑だと思います ティナ:どちらの国だろうと、どんな生まれでも関係ありません ティナ:個性が違うから、世界は魅力的なのです 慈悲:っ? 0:ティナは自分の両手を組み、穏やかな口調で、言葉を紡いだ ティナ:1つ1つが変わっている ティナ:形も色も、みんな違う ティナ:咲いている花によっては、私達の見る景色を変えてくれる ティナ:だから花は、美しいのです 0:ティナはそういって、慈悲と、狼護に向かって微笑んだ 狼護:……あんまりですよ、こりゃ ティナ:お気に、召しませんでしたか 狼護:……いいや、逆です ティナ:えっ? 0:ティナは一瞬、狼護のいう事にきょとんとした。しかし、狼護が、目から涙をこぼしている姿を見て、ティナは再び微笑み返す 狼護:大和ノ国にも、似たような景色の、いい場所がありましてね 狼護:こんなにも綺麗なんざ、反則っすよ 狼護:……畜生 ティナ:ふふ。正直な方なのですね、狼護は ティナ:……慈悲。これも、ある意味処罰ではないですか? ティナ:こんなにも、泣かれておられるのですから 0:慈悲はやれやれと言わんばかりに、ティナへ笑みを返した 慈悲:姫様が、そうおっしゃるのであれば 狼護:……くそ…………クソっ…… 0:狼護は泣く。重くこびりついたものを、一つずつ、洗い流すように 0: 0:それからしばらくの間 ティナ:落ち着きましたか? 狼護:……はい ティナ:それでは、いったん戻りましょうか ティナ:良かったら、大和ノ国のこと、教えてくださいな 0: 0:その頃、第4支部にて 輪廻:はぁー。ひどく暇だ 輪廻:……ティナお嬢様。何にも分かってないよ 輪廻:花なんて、勝手に咲いて、枯れるだけじゃないか 輪廻:そんなものに価値を感じる理由が、わからない 輪廻:……慈悲さんも慈悲さんだろ 輪廻:あいつも分かってないくせに、何を真摯にお嬢様に従ってるんだか 輪廻:真面目って、毒にも金にもならないのにさ 0:慈悲の名前を出したせいか、輪廻は無意識に歯を食いしばった 輪廻:……くそが。なんで慈悲さんなんだよ 輪廻:不公平もいいところだろ 輪廻:……それか、もし公平になりたかったら「理解するように努力しろ」って? 0:輪廻は少しずつ口角を上げ、不気味に笑う 輪廻:……はは、はははははは! 輪廻:……ばっかばかしい 輪廻:そう、本当にね 輪廻:だから…… 0: 0:第4支部に戻ってきたティナたち 0:しかし、行く前と様子が違う事に、狼護が気がついた ティナ:ただいま、戻りました 狼護:……帰ってきたのに、誰もいないっすね ティナ:あれ? 他の者は? 慈悲:おかしいな。まだ任務の時間は終わっていないはずだ 慈悲:……っ!! 慈悲:姫様! 下がってください! ティナ:えっ!? 0:慈悲は後ろから殺気を感じ、剣を抜いた 慈悲:っ、お前たち……! 何のつもりだっ! なぜ剣を抜いている! ティナ:どうしたのですか!? 狼護:こいつら……様子がなんだか、おかしくないですかい……!? 0:騎士たちは、狼護と慈悲に剣を持ち、襲い掛かる 慈悲:騎士剣(きしけんじゅつ)第3番 慈悲:「スティンガー」! 0:慈悲は、襲ってきた騎士の胴体部分をついて、勢いよく相手を倒した 慈悲:っ! どうなっている? 輪廻:慈悲さん! 助かりましたよ 慈悲:輪廻! 一体何があった!? 輪廻:いや、それが僕にもよくわかんなくて 慈悲:……もしや、例の「裏切り者」たちが、何か仕掛けたのか?  輪廻:さぁ? それか、こいつらが元々裏切り者っていう線か、どっちかでしょ? 狼護:まだ他にもいますぜ。周り 慈悲:……っ、お前たち…… 輪廻:お嬢様は僕が 慈悲:ああ。……いったん屋上まで、連れて行ってくれ。あとは食い止める。そっちは頼めるか 輪廻:もちろん 0:輪廻はティナをつれ、教会の外へと向かう 慈悲:狼護、すまない……戦えるか? 狼護:もう戦ってますぜ、慈悲さん 慈悲:……ありがとう。なら、協力を頼む! 0: 0:第4支部 屋上 0:輪廻は後ろを警戒しつつ、ティナを屋上へつれてくる 輪廻:ここまで来たら安心ですよ ティナ:ありがとうございます 輪廻:いえいえ。あとは慈悲さん達が片付けてくれるでしょ ティナ:……片付ける、という言い方はよくないですね ティナ:彼らは何者かに操られている。敵ではありません 輪廻:……またそれですか 輪廻:そんな悠長にしてたら、「裏切り者」に騙されますよ? ティナ:……えっ? 輪廻:黒術(こくじゅつ) 第17番 輪廻:止縛冥呪(しばくめいじゅ) ティナ:っ……からだ……が! ティナ:これは……こく……じゅつ? 輪廻:そうですよ。禁忌(きんき)とか言われてるんですっけ? 古いですよね~考え方 輪廻:使えるものは使えばいいのにさ ティナ:あなた……なぜ? 輪廻:なぜだと思います? 分かりますか? 輪廻:……僕はね、思い出してほしかったんですよ ティナ:……何、を? 輪廻:ほら。お嬢様は忘れちゃってる 輪廻:そう、馬鹿共のせいで記憶が飛んでしまった ティナ:……えっ? 輪廻:今は、傷が癒えてますけど、振るわれた傷跡は、心の中に残っている 輪廻:その傷跡と一緒に、僕と居た日々もどっかに行っちゃった 輪廻:そう、お嬢様は、忘れているから、いつもぬるいことが言える 輪廻:大和の人間は敵じゃないとか、1人1人は花のように違うとか 輪廻:その「忘却されたティナお嬢様」という状態で、ずっと生き続けている 輪廻:次の日も……次の日も ティナ:……あなたは、何を言って? 輪廻:だから思い出してください 輪廻:偽りの輪廻から、貴方を解き放ちます 輪廻:黒術(こくじゅつ) 第37番 輪廻:「浮憶回出(うおくかいしゅつ)」 ティナ:……あ、ぁぁ……ああ! 0: 慈悲:っ……これで……全部か? 狼護:……そのようですな 慈悲:すまないな、狼護 狼護:なんで謝るんですかい 狼護:助けられた礼っすよ 慈悲:……ありがとう 慈悲:しかし……このような事を、一体何者が…… 狼護:……そういえば、思ったんですが 狼護:あの輪廻って人、これだけ騎士団の人が変な状態になってんのに、何ともなかったっすよな 慈悲:奴も名前付きだ。誰かの術中にやられる人間ではない 狼護:……でも、その「誰か」の事、喋ってましたか? 狼護:だって、俺達が居ない間、ずっと居たんでしょ? 慈悲:……それは、そうだが 慈悲:なら、その間に何があったのか、輪廻に聞こう 0:慈悲は、狼護の言葉から、得体のしれない嫌な予感を感じていた 慈悲:屋上へ 0: 慈悲:(狼護の言葉が、嘘であってほしい) 慈悲:(輪廻はいつも不真面目な態度をとっているが、武器を取ればしっかり戦ってくれる) 慈悲:(だが、屋上へ向かう階段をあがればあがるほど、なぜか、私の中の不安は膨れ上がる) 慈悲:(やがて、その不安は、目の前に移った光景を見て、現実と化してしまった) 慈悲:姫……様? ティナ:……あぁ、あぁ……あ 輪廻:そう、そうだよ、それでいいんだよ 慈悲:輪廻…… 慈悲:何をしている? 輪廻:あぁ、慈悲さん。早かったね 輪廻:そりゃそうか。だって僕と同じ、名前付きか 慈悲:姫様に何をしている!! 輪廻:思い出させてあげてるんだよ 輪廻:お嬢様、僕の事忘れちゃったから 慈悲:その術は……なんだ? 輪廻:黒術(こくじゅつ)だよ。これを使って、ティナお嬢様の記憶を呼び起こしてるんだ 輪廻:こうやって……さぁ! ティナ:あ、ぁぁ! あああ! 慈悲:辞めろぉぉおお!!! 0:慈悲はすかさず剣を抜き、輪廻に斬りかかる 輪廻:なんだよなんだよ! ティナお嬢様に手を出すなって!? 慈悲:お前は! いち個人の為に傷つけるのか!! 慈悲:禁忌(きんき)の術を使ってまでして! 輪廻:あんた……何にも見えてないんだな 慈悲:何……!? 輪廻:お嬢様が記憶を失ったのは、階級の高い人間たちに傷つけられた 輪廻:この神帝国の、上層部だ 慈悲:っ……上層部が……? 輪廻:ああ。この人が再び僕の前に現れた時、それはそれは「どなた?」って言われたよ 輪廻:もう最悪だ……ああ、最悪だよ!! 輪廻:お前にこの気持ちがわかるか!? ええ!? 慈悲:……くっ! 輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第10番 輪廻:「ラン・スケルト」! 慈悲:……がぁぁぁっ! 輪廻:あんたが、たまたまこの第4支部を担当する名前付きってだけでよ 輪廻:お嬢様の隣に居やがって…… 輪廻:見ていてずっと、嫌な気分だったよ……! 輪廻:だからついでだ。ここで息の根を止めてやるよ 狼護:慈悲さん! 輪廻:でしゃばんじゃねえよ……大和の犬が!! 輪廻:黒術(こくじゅつ) 第20番 輪廻:闇獣招来(あんじゅうしょうらい) 狼護:!? なんだこいつら……? 黒い、獣か? 輪廻:せいぜいそいつらと遊んでろよ。お似合いだろ、お前には 慈悲:狼護! 狼護:っ!? 慈悲:輪廻は……私が! 慈悲:お前は、ティナ様を頼む……! 狼護:っ、……分かった……! 輪廻:あれ? もう協力しちゃってんすかぁ!? 大和の人間なのに?  輪廻:もしかして、ティナお嬢様が言ってる事に納得しちゃった? お花畑なんかみて!? ロマンスもここまでくると反吐がでるな! 慈悲:……お前は、姫様を大切に思っているんだろう……? 慈悲:その行為が、彼女のためになっているのか!? 輪廻:分かったような口を聞くな! 輪廻:あんたと僕じゃ、お嬢様と居た時間は全然ちがう 輪廻:一部分しか見えてない奴が、隣にたってんじゃねえよ! 慈悲:いいや! それでも! 慈悲:私に言った数々の言葉は、花を愛していた姫様の姿は、本物だ! 輪廻:その姿が例え、自分の苦しい記憶を忘れているとしてもか!? 慈悲:だからといって……姫様の悲しい顔を見せてまですることか……!! 輪廻:説教するなよ! 慈悲さぁん! 輪廻:さっきから上から目線ばっかりでさぁ……! 輪廻:いくら先に、名前付きになったからって、調子に乗るんじゃねえよ……! 慈悲:っ! 輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第4番 輪廻:「キネルトラスト」! 慈悲:……槍が、湾曲して! どこだ!? 輪廻:後ろ後ろぉ! 慈悲:っ……がぁっ!  輪廻:ほらぁ、反応ができてない 輪廻:それもそうか。いっぱしの騎士団兵とおんなじ事しかできないもんなぁ 慈悲:……真っ直ぐ来たかと思えば、横から、後ろからも来る……! 慈悲:……いつ時も厄介だ、お前の術は……! 輪廻:だから色々対応策を考えてたんだよねぇ。なんか、氷連術(ひょうれんじゅつ)も習得してましたっけ? 輪廻:でも、聖典さんと比べたら中途半端! 何にも得られていない! 輪廻:つまり……あんたは雑魚でしかないんですよ、慈悲さん 輪廻:ただの騎士団兵と変わらない 慈悲:……ぐっ 輪廻:ティナお嬢様には、あんたが裏切り者に殺されたって言っておくよ 輪廻:そして、裏切り者は大和を使って、お嬢様を消そうとしたと報告する 輪廻:最後は全部、僕が始末したってね……! 0: 0: 0:一方、狼護は、輪廻が召喚した黒い獣たちを倒していた 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その七 狼護:旋牙風走脚(せんがふうそうきゃく)! 0:狼護は目然にいる黒い獣を、風を纏った脚で攻撃する 狼護:っ……こいつを倒したら、ティナさんに手が届く……! ティナ:……ぁ、ぁ…… 狼護:ティナさん! 狼護:……っ、駄目だ……呼びかけても、反応がねえ ティナ:……ア、ル………。ロテ、リ……オ 0:ティナは嗚咽を漏らし、目を閉じて気絶する 狼護:この人が、こんな顔するなんて…… 狼護:……これじゃ、殆ど俺達と変わらねえよ…… 0: 輪廻:じゃ、さよなら、慈悲さん 輪廻:あんたとの腐れ縁も、ここまでだ……! 0:輪廻が慈悲を、槍で刺そうとした 輪廻:っ……? ……止め、られた? 慈悲:……白術(はくじゅつ) 第1番 慈悲:「ホーリーバリア」 輪廻:……白術(はくじゅつ)、だと? 輪廻:なんであんたが、そんな術……! 慈悲:黒と相対する、白き術、とても習得できるものでないと思っていたが 慈悲:やっと、まともに出せるようになったか 0:慈悲は剣を白く光らせると、辺りが白い霧のような何かに包まれた 輪廻:っ!? 視界が……! 輪廻:くそ……なんだ、なんだこれ?!  輪廻:周りが……白く!? 0: 0: 慈悲:白(しろ)へ授(さず)けよ 慈悲:聖(せい)なる守護(しゅご)を尊(とうと)い、その命(めい)を 慈悲:永久(えいきゅう)の天王(てんおう)へ返還せん 慈悲:白術(はくじゅつ) 第20番 慈悲:白魔 天生抗(はくま てんせいこう) 0: 0:瞬間、輪廻の身体を白く大きな光が突き抜けた 輪廻:ぐ、がぁぁぁっ!! 0: 慈悲:……ここまでだ 輪廻:っ、くそ、くそ、くそがぁぁぁ! 輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ)、第……! 狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その十 狼護:駆風疾爪(かふうしっそう)! 0:狼護は風の爪で、駆け抜けるように、輪廻を攻撃した 輪廻:ぐっ……がぁっ! 狼護:……他の黒い獣は片付けやした。さっきのは、やられた借りだ 輪廻:クソ犬がぁぁぁっ……! 慈悲:姫様は? 狼護:意識を失ってけるど、無事ですよ 慈悲:そうか……助かったよ 0:慈悲は狼護にそう言った後、倒れている輪廻に近づく 慈悲:まだやるか? 輪廻 輪廻:なんだよ? その顔 慈悲:……姫様なら。いや 慈悲:私の中にある、騎士道精神に従って、選択をするだけだ 慈悲:輪廻、お前に「慈悲(じひ)」をくれてやる 慈悲:このまま殺さずに捕らえる。命をもって、罪を償え 輪廻:……はは、ははは! 輪廻:何もかも忘れた姫様なんかの言葉に、影響なんか受けちゃって 輪廻:あんた……マジで嫌いだよ キリア:あっちゃー。 滅茶苦茶押されてるじゃーん 輪廻くん 狼護:っ!? 誰だ! キリア:あー、気にしなくていいですよ~ん! すぐ退散するから~! 輪廻:……キリア、いつの間に 慈悲:キリア……?  キリア:どうも。名前付き候補だった騎士のキリアたんでーす!  今は訳あっていないんだけど~、そこんとこよろしくー! 慈悲:そうだ……確か、失踪したと耳に入っていたが…… キリア:慈悲くんは、はじめましてかな? ふむふむ、輪廻くんと同じくらいの年齢かな? か~わいい 慈悲:……お前たち。まさか二人とも、「裏切り者」側か? キリア:ピンポーン! 慈悲くんに50点プレゼント~!  キリア:……黒術(こくじゅつ) 第20番 キリア:闇獣招来(あんじゅうしょうらい) 狼護:こいつは……さっきとおんなじ黒い獣……でも、数が多い! キリア:とりあえず、動かないでもらえると嬉しいんだけど~ 慈悲:狼護! 油断するな! 狼護:分かって……っ!? キリア:あら? 輪廻く~ん。彼女、起きてるよ~!? 輪廻:うるさいな……言われなくても、「仕事」はすんでるって……。……? ティナ:……っ 慈悲:姫様!  ティナ:ここは? 狼護:ティナさん? ティナ:あなたは? 慈悲:えっ……? 0:ティナは、慈悲と、狼護、そしてキリアと、輪廻の目を見たあと、そういった ティナ:あなたたちは、誰? 輪廻:……は? 輪廻:……待てよ、おい。こんな、こんなことになるなんて、聞いてないぞ……! キリア:うーん、そうね……。浮憶回出(うおくかいしゅつ)は、その人の、刺激の強ーい記憶を引っ張り出す術。記憶障害にまではならないはず 輪廻:じゃあなんで! キリア:もしかしたら、記憶「そのもの」のショックが、あまりに大きかったのかも 輪廻:……なんだ、それ キリア:だって、その経験があったから、君の事、忘れてたわけでしょ?  輪廻:……そんな 輪廻:これじゃ……僕のことを……思い出せないまま キリア:落ち込まないの~、輪廻君。はい、帰るよー キリア:黒術 第8番「冥楼(めいろう)」 慈悲:っ! 待て! 狼護:……黒い霧になって、消えた……二人とも ティナ:……何か、あったのですか? 慈悲:……姫様 ティナ:……申し訳ありません ティナ:姫様、と言われても、何も、わからなくて 狼護:(ティナさんは、終始、どこか途方に暮れたような顔で、ふつふつと言葉を紡いでいた。その姿は、俺が最初に見た時とは、どこか違う) 慈悲:……っ! 狼護:(その隣で、慈悲さんは、血がにじみ出そうなくらい、自分の手を握っていた) 狼護:(そして、激しい感情が静まったあとは) 狼護:(必ず、悲しみが訪れる)  0: 狼護:……慈悲さん 慈悲:分かっている 慈悲:でも、そうやすやすと、受け入れられるか…… 0:しばらくの間 狼護:……っ、そうだ 慈悲:……なんだ? 狼護:お花畑、行ってみませんか? 慈悲:…? 狼護:なにをいってんだって思うけど。ティナさん、花が好きじゃないですか 狼護:そうした方がいい気がして ティナ:……お花畑? この近くに、あるの? 慈悲:……っ。……はい 慈悲:とても綺麗な、お花畑があります 0: 0: 0: 慈悲:(夕方になって、ここの花は変わらない) 慈悲:(私の中が、どんな心持ちだったとしても) 慈悲:(景色の感想とは……自分の心によって、変わるもの、なのかもしれない) 慈悲:(そう思っていると、姫様はすかさず、お花畑のほうへ向かっていく) ティナ:わぁ…! きれい! 狼護:っ、ティナさん? 狼護:あっ、ちょい! 0:ティナは目をキラキラさせてお花畑へかける ティナ:こんなにお花が咲いているなんて…! ティナ:ねぇ、見てロテリオ! あそこの花、とても赤くてきれい…! 慈悲:……! 狼護:ロテ、リオ……? 慈悲:……私の、本当の名前だ 狼護:それって……つまり ティナ:…あれ? ティナ:今、私は……? 慈悲:…っ 0:少しずつ、慈悲から嗚咽が漏れはじめる 慈悲:そういうところは……本当に、お変わりないのですね… ティナ:ごめんなさい。私、ここの事を、殆ど覚えていなくて ティナ:もし良ければ……どんな場所なのか、教えてくれますか? 慈悲:……ここは、色とりどりの花が咲く場所です 慈悲:でも、どんな花が咲いても、周りの花同士が調和して、一つのお花畑として成り立っている。 慈悲:時が経つにつれて、もしかしたら違う花も咲くかもしれません。そうなれば、また景色が変わっていき、違う形になる 慈悲:そしてその都度、違う感想を持つことができるんです ティナ:……素敵ですね ティナ:あなたは……ここが好きなのですか? 慈悲:……はい 慈悲:まだ、好きな花は見つけられていませんが 慈悲:とても、とても…………大切な場所です………… 0: 輪廻:…… キリア:すごーい不機嫌 輪廻:だったら? キリア:別にさ、記憶が一生、なくなるわけじゃないんだから 輪廻:……何がわかる キリア:むぅ、つめた~い。ウィルの氷連術並みに冷たいよ、その態度。ぷんぷん! キリア:……それで? 頼りになる情報はあった? 輪廻:……気になる名前が出てきた、そんだけ キリア:ご苦労様、十分でございますよー。あとで、ナデナデしてあげよっか? キリア:あーでも、輪廻くんは、ティナお姫様のほうがいいか。幼馴染なんだよね? それだと流石に私じゃ勝てないかな、なーんて! あっはははは! 0:キリアの楽しそうな笑みがこだました後、再び黒い霧に包まれ、どこかへ消えた 0: 狼護:…… 慈悲:ありがとう、狼護 狼護:なんですかい、改まって 狼護:俺、あんたを殺そうとしてたんですよ?  狼護:そんな奴をわざわざ、見送りまでしてくれるなんざ、ありえないですぜ 慈悲:確かに、他の名前付きや、騎士から見たら、狼護と同じ感想を抱くかもな 慈悲:でも、お前はお前なりの気持ちがあり、思いがあり、ここに来た 慈悲:そこには敬意を払いたい 狼護:ははっ、さすがナイト様 狼護:あんた達と、会えて良かった 慈悲:こちらもだ 狼護:……んじゃ、俺は行きますわ 慈悲:これからどうするんだ? 例の……灼炎の焔と、合流するのか? 狼護:そうですな……このまま戻るか、どうするか 狼護:今殿下と会ったら「どの面下げて来た」なんざ言われそうで 慈悲:そうだろうか。きっと、その焔殿は分かってくれると思うぞ 狼護:へ? 慈悲:姫様と似てるんだろ? 狼護:……まぁ、俺の感覚になっちまいますが、ね 狼護:そういえば、その、「裏切り者」でしたっけ? そっちは大丈夫なんすか? 慈悲:その件だが、私もどう動いたものかわからない 慈悲:……輪廻が言うには、姫様は、暴力を振るわれていた 慈悲:それを無理やり掘り起こした輪廻を、許したわけではない 慈悲:ただ、最初に姫様に危害を加えたのは、神帝国の……上層部たちというのが、信じられなくてな 狼護:……そうですよな、そりゃ。自分の国なんですから、なおさらか 慈悲:まだ私自身……整理ができない……この件はひとまずおいておく 慈悲:とりあえず、最低限の報告はしておかないとな…… 慈悲:あと、狼護。お前の件だが「ならず者に襲撃を受けたが、すみやかに撃退した」と、言っておく。お前の名前は出さない。心配するな 狼護:いいんですか?  慈悲:構わない。私の騎士道精神に従って、決めたことだ 狼護:はは……こりゃ、騎士道精神も、舐めたもんじゃないっすね 慈悲:精神「も」? ということは、お前たちにも似たようなものがあるのか? 狼護:一応、あります。「大和の魂」っていう、ね 慈悲:大和の魂……いい響きだな 狼護:そんな大したもんじゃないですぜ 狼護:……お世話になりやした 慈悲:礼などいらない。もし焔殿がこちらにも来たら、事情を説明しておく 狼護:ありがとうございます 慈悲:では……さらばだ。大和の戦士よ 狼護:ええ。もし会えたら、どこかで、また 0:互いに握手を交わした