台本概要

 476 views 

タイトル 片喰竜胆退魔行 第2話「あの娘のナイトは両声類!?」
作者名 熊野むっち  (@mucchi_0908)
ジャンル ホラー
演者人数 3人用台本(男2、女1)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【声劇配信時の規約】
・配信時に作者名および作品名を記載
※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。
(投げ銭の有無、有償無償に関わらず)

 476 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
竜胆 52 片喰竜胆(かたばみ りんどう) 不動明王の真言を操り、禍津日(マガツヒ)と呼ばれる物の怪を退治する退魔師。声劇配信に出没する禍津日を追うために、協力者を探している。
万作 66 一富士万作(いちふじ まんさく) 声劇配信にドハマり中の青年。とある理由で片喰竜胆のマガツヒ退治に協力している。
スノウ 66 スノウドロップ 人気女性配信者。とある事件がきっかけで竜胆と万作のもとを訪れた。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: : :タイトル : 【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう】 : 【第2話「あの娘のナイトは両声類!?」】作・くまのムッチ : :登場人物 : 竜胆: 竜胆:(配役が決まったらここをタップしてください) 竜胆:片喰 竜胆 竜胆:兼ね役(男性配信者役・新たなマガツヒ役)があります。 : 男性配信者:: 男性配信者::男性配信者: 男性配信者::(竜胆役の方はここをタップしてください) : 新たなマガツヒ: 新たなマガツヒ:新たなマガツヒ: 新たなマガツヒ:(竜胆役の方はここをタップしてください) : : スノウ: スノウ:(配役が決まったらここをタップしてください) スノウ:スノウドロップ : : 万作: 万作:(配役が決まったらここをタップしてください) 万作:一富士 万作(いちふじ まんさく) 万作:兼ね役(不気味な声役・マガツヒ役)があります。 : 不気味な声: 不気味な声:不気味な声 不気味な声:(万作役の方はここをタップしてください) : マガツヒ: マガツヒ:禍津日 マガツヒ:(万作役の方はここをタップしてください) : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:場所は竜胆と万作の秘密の声劇部屋。 0:ふたりはスノウドロップと名乗る女性配信者と通話している。 : 万作:出会い厨、ですか? : スノウ:はい、最初はそれくらいにしか思ってなかったんですけど…。 : 竜胆:万作くん、出会い厨とは一体どういう意味かね? : 万作:ああ、出会い厨っていうのは、ネットやSNSで知り合った人と、すぐに実際に会って恋愛につなげたがる人の事を指す言葉です。 : 竜胆:ふむ。共通の趣味を通じて愛を育むというのは、そんなに悪い事の様にも感じないのだが。 : 万作:もちろん、ネットやSNSがきっかけで真剣な恋愛に発展する事もあるんですが、この出会い厨っていうのは、間にある友人関係をすっ飛ばして、すぐに男女の関係になろうとする人の事を言うんですよ。 : 竜胆:なるほどな…。それもまた悲しき人間の業だな。 竜胆:そしてその業深さは禍津日(マガツヒ)を育てる苗床(なえどこ)となり得る…。 : 万作:(モノローグ) 万作:僕の名前は一富士万作、声劇配信にドハマり中のごくごく普通の一般成人男子。 万作:そしてこの人は片喰竜胆。マガツヒ?とかいう化け物を退治するために、僕は半ば強引に竜胆さんの協力者に仕立て上げられてしまった。 万作: 万作:そしていま、僕たちのところに、とある女性配信者が相談にやって来たのだ。 : スノウ:お願いです!片喰さん!あの恐ろしい化け物を、どうか退治してください!じゃないと私…怖くて… : : 0:竜胆と万作のモニターヘッドフォンに、スノウのすすり泣く声が響く。 0:スノウの声は小さく震えているようにも聞こえる。 : : 万作:ほんとに、怖かったんですね、スノウドロップさん…。 万作:僕も先日同じような目に遭いましてね。心中お察しします。 : スノウ:スノウでいいですよ。 スノウ:さっきも言った通り、今までも、出会い厨とか、ちょっとセクハラっぽい事言ってくる人もいなかった訳じゃなかったんです。 スノウ:でも昨日は、なんて言うか、その、普通じゃない感じで…。 : 竜胆:それじゃあ、当時の状況をもう少し詳しく聞かせてもらえるかな。 : スノウ:はい、わかりました…。 スノウ:あの日はちょうど深夜に声劇をしたくて、一緒に劇してくれる人を募集してたところだったんです…。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:回想シーン。 0:スノウドロップが男性配信者とふたりで声劇配信の準備をしている。 : スノウ:どうも、こんばんは。よろしくお願いします。 : 男性配信者:あ、よろしくー! 男性配信者:俺さ、結構ツレからイケボって言われんだけど、俺の声どう?イケボだと思う? : スノウ:あ、はい。確かに、なんかカッコ良いお声、されてますよね。 : 男性配信者:そうかなあ~!自分じゃよくわかんないんだけど、ツレからはめっちゃ言われんだよね~! : スノウ:(返答に困って)はあ… スノウ:えっと、じゃあ、シナリオ、選んでいきますね。やってみたいシナリオとかって何か(ありますか?) : 男性配信者:(遮って)ねえ? : スノウ:え、あ、はい。 : 男性配信者:どこ住み? : スノウ:…え? : 男性配信者:どこ住み?俺、都内。 男性配信者:オフ会とか興味ある人? : スノウ:いや、その… : 男性配信者:あーあと、ライン交換しない?自撮りとかある? 男性配信者:俺さ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル飼ってるんだけど、家近かったら見に来ない?知ってる?キャバリア… : スノウ:(遮って)解散しますねー。 スノウ:フウ…今日はツイてないな…。 スノウ: スノウ:あともう一回だけ枠立てて、ダメだったら今日は寝よ…。 スノウ: スノウ:えと、サシ劇希望、男性キャスト募集中っと。 : : 0:スノウドロップが声劇配信の共演者をネットワーク上で募集する。 0:少しすると、別の配信者が現れる。 : : スノウ:あ、こんばんはー。 スノウ:よろしくお願いします。 : 不気味な声:……。 : スノウ:えーと、男女サシで、良かったですか? : 不気味な声:……。 : スノウ:あの、 : 不気味な声:教えて…ください… : スノウ:えっ? : 不気味な声:ねえ…教えて… : スノウ:えっ、なに? : 不気味な声:教えて…直すから…ねえ…教えて : : 0:スノウドロップが配信している室内の照明が激しく点滅を始める。 0:それと同時にバチン!と大きい音を立ててスノウドロップのヘッドフォンから白煙が上がる。 : : スノウ:ヒイッ! : 不気味な声:……ねえ、言って… 不気味な声:……言えよ…言え!言えー!! : : 0:恐怖で後ずさるスノウドロップの手にドロリとした液体の感触が。 0:手元を見ると黒く濁った血液がベットリと手に付着している。 : : スノウ:なにこれ……血…!? スノウ:キャーー!! : 万作:(タイトルコール) 万作:【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう)第2話「あの娘のナイトは両声類!?」】 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 万作:よく、話してくれましたね。さぞ、怖い思いをされた事でしょう。 : スノウ:本当に怖かったです。あれは一体、何なんでしょう…。 スノウ:片喰さんたちはあれの正体をご存知なんですか? : 万作:(キリッとして)僕たちはマガツヒって呼んでます。 : スノウ:マガツヒ? : 万作:そう。怒りや嫉妬、絶望なんかの強い負の感情をきっかけに、物の怪に心と身体を乗っ取られてしまった人の事を、マガツヒと呼ぶそうです。 : 竜胆:万作くん、今日はやけに饒舌だね。 : 万作:そそ、そんな事ないですよ! 万作:竜胆さん!スノウさんのために、僕たちでマガツヒを退治しましょうよ!このままじゃ彼女が可哀想過ぎます! : 竜胆:スノウさん、とお呼びして良かったのだね。 : スノウ:ええ。 : 竜胆:私はこの、声劇配信に触れて日も浅いので、是非後学のために教えてもらいたいんだが、 : スノウ:はい。 : 竜胆:何故、そこまでして配信を続ける? : スノウ:…え? : 竜胆:筆舌し難いような怖い思いをしたんだろう?だったらこれを機会に配信を辞める、という選択肢もある筈だ。 竜胆:なのに、君は配信はこれまで通り続けたいという。それはどうしてなんだい? : スノウ:あの、それは…(口ごもる) : 万作:ちょっと!竜胆さん!いきなりなんて事言うんですか!? : 竜胆:これは失礼。私は単純な興味で聞いただけなんだが、ご気分を害されたのならば謝罪しよう。 : 万作:こら!こらこらこらー!それが人に詫びる態度ですかー!そういうとこだぞ片喰竜胆!スノウさんにもっとちゃんと謝ってくださいー!! : スノウ:(遮って)いえ、いいんです。私なんかで良いんだったら、お答えさせてください…。 スノウ: スノウ:確かに、またこの間みたいな怖い事が起きたらどうしようって気持ちはあります。今だって震えが止まりませんし。 : 万作:スノウさん、 : スノウ:でも今の私にとって声劇配信は生き甲斐なんです!何者でもなかった私が、声劇をしてる間だけは特別な私になれるんです! スノウ:色んな役を演じて、たくさんの人に見て、聴いてもらってる瞬間だけが、私にとって何者かになれる、特別な時間なんです……! : 万作:(スノウの言葉に感動して)スノウさん、すごく分かります! 万作:声劇配信してる時の、なんかこう、自分が自分じゃなくなるような高揚感、本当に他の何にも代えがたいですよね! : スノウ:ええ。 : 竜胆:なるほど。その高揚感のためなら、命を引き替えにしても良いと。 : 万作:だから竜胆さん!言い方!! 竜胆:まあ、いいでしょう。私の目的はあくまでもマガツヒ退治なのでね。 竜胆: 竜胆:わかりました。お引き受けしましょう。 竜胆:万作くん、早速、スノウさんを危険に晒さずにマガツヒを釣り出す、良いアイデアが浮かんだのだが聞いてくれるかい? : 万作:うわ。なんかもう嫌な予感しかしないんだけど…。 万作:どうせそれって、スノウさんの代わりに、僕が危険に晒されるアイデアなんでしょー!? : 竜胆:ご明察だ、万作くん。さすがに2回目ともなると察しがいいな。 : 万作:いや、でも!僕は男ですよ!スノウさんの代役を務めるなら、女性じゃなきゃダメじゃないですか。 : 竜胆:万作くん、私も君にばかり頼っていてはいけないと、ここ数日、独学で声劇について学んでいるんだが、聞くところによると、声劇配信には両声類と呼ばれる者たちがいるそうだね。 : スノウ:ああ、両声類ですか。 : 竜胆:おお、やはりスノウさんはご存知な様だね。 竜胆:最初聞いた時はカエルやイモリが声劇と何の関係があるのかと思ったのだが、その両声類と呼ばれる者たちは、男性と女性、両方の声を出せるそうじゃないか。 : 万作:いや、まあ、間違いではないですけど…。 : スノウ:そもそも、両声類と言われる人たちは、元々はネットで歌配信をしている人の中でも、とりわけ幅広い音域を持っていて、ひとりで男性と女性、両方の声を使い分ける歌い手の事を指して言った言葉なんです。 : 竜胆:歌い手?……また新しい言葉が出てきたな。 : スノウ:あー、歌い手っていうのは、すごく簡単に言うとネットで歌手活動をしている人たちの事です。 : 万作:まあ、声劇配信においての両声類って言うのは、男性と女性、両方の声を使い分けて演技する人の事を指します。 : 竜胆:うむ。だから今回は万作くんに両声類になってもらおうと考えているんだ。 : 万作:……え? : 竜胆:……ん? : 万作:えーと、その、あの 万作:……は? : 竜胆:なんだ?察しが良いのか悪いのか、よく分からないやつだな君は。 竜胆:今回は君に両声類になってもらって、スノウさんの代役を務めてもらおうと思っている。 : 万作:いやいやいや、竜胆さん、さっきの説明聞いてました? 万作:そもそも両声っていうのは幅広い音域という才能に恵まれた人が、厳しい訓練を経てやるから成立するもんなんです! 万作:そんな急にやれって言われても、一朝一夕に出来るようなもんじゃないから! : 竜胆:なんだ万作くん、出来るのか、出来ないのか、どっちなんだ? : 万作:だから出来ないってさっきから言ってるでしょー!! 万作:あー駄目だ、話通じなさ過ぎて頭痛くなってきた…。 : 竜胆:ちょっと待ってくれ、万作くん。 竜胆:となると私とのパートナーシップはどうなる? : 万作:最初からパートナーなんかじゃありません!竜胆さんが一方的に言ってるだけでしょうが! : 竜胆:ふむ…残念だ。 竜胆:君はスノウさんに随分と鼻の下を伸ばしている様子だったから、てっきり協力してくれるものだと思っていたが。 竜胆:仕方ない、じゃあその伸びきった鼻の下の件を含めて、菫(すみれ)さんにも伝えなければいかんなあ。 : スノウ:…菫(すみれ)さん? : 万作:ちょ!何言ってんだよ!?菫(すみれ)は関係ないだろー!? : 竜胆:関係あるかないかは私が決める事だ。 竜胆:君が恋人に隠れて声劇配信をしているという秘密を、その恋人である菫さんに明かすのは少々気が引けるが、まあ仕方あるまい。 : 万作:ぐぬぬぬ…。 : 竜胆:あーあと、約束を反古にするのだから君に譲った機材も全て返してもらおう。 竜胆:もっとも、君はいつもこの私の配信部屋で声劇しているから、機材は既にこの部屋にあるのだがね。 : 万作:(小さく消え入るような声で)…やります。 : 竜胆:ん? : 万作:…やります!やらせてください! : 竜胆:その意気だ、万作くん。 竜胆:やはりこの間君に言った通りになったな。 竜胆:「君とは長い付き合いになる気がする」と。 竜胆: 竜胆:さあ!万作くん!急いで準備したまえ! 竜胆:楽しい声劇の始まりだ! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:場所は再び竜胆と万作の秘密の声劇部屋。 : : 竜胆:ではもう一度、作戦をおさらいしておこう。万作くん、君にはこれからスノウさんのアカウントを使用して、配信してもらう。これによって君はデータ上は、女性配信者スノウドロップという事になる訳だが。 : 万作:あの、そんな事して良いんですか? : 竜胆:彼女を身の危険から守るため、今回だけ特別にだ。勿論、スノウさんからも了承は得ている。 : 万作:はあ…。 : スノウ:よろしくお願いします。 スノウ:ただ、その、私のアカウントなんであんまり変な事しないでくださいね…。 : 万作:ええ、それはもちろん。 : 竜胆:話を続けよう。そしてスノウさんに成り代わった君は、女性として、男性キャストを募集する。 竜胆:…そうだな、男女ふたりで飛びっきりの甘い愛の言葉を交わすようなシナリオがいいな。 : 万作:え!?僕が男性と甘い愛の言葉を交わすんですか!?いや無理無理無理! : 竜胆:万作くん、私は出来る出来ないの話をしているんじゃない。 竜胆:君は私のビジネスパートナーとして、これをやり抜かなければならないんだ。 : 万作:ええー!?そんなあ~! : 竜胆:つべこべ言わずにさっさとやるぞ。 竜胆:さ、配信の準備だ。 : 万作:クソ~、なんて勝手な人だ。僕の弱みさえ握られていなければこんな人の言う事絶対聞かないのに…。 : 竜胆:おい、全部聞こえているぞ。 : 万作:ふぁっ!? : 竜胆:万作くん、そのモノローグを声に出す癖はいい加減直らないものなのか? 竜胆:それとも私への当て付けにわざとやっているのか? : 万作:違いますー!!イヤ過ぎて知らないうちに声に出ちゃってるんですー! : スノウ:万作さん、すいません。私のせいでこんな事になってしまって…。 : 万作:(態度を変えて)いえ、スノウさんは気にしないで。 万作:スノウさんの事は僕たちで必ずお守りします。 : 竜胆:いいから早くしてくれ。時間が惜しい。 : 万作:もー!やればいいんでしょ、やればー!! : 竜胆:よし。それでいい。私はマガツヒが現れるまで身を潜めているから、あとは手筈通り進めておいてくれたまえ。 : 万作:ええー!?そんなあ!竜胆さん! 万作:危なくなったらすぐに助けてくださいよね! 万作: 万作:もう…大丈夫かな、ほんと…。 : : 0:万作、しぶしぶ配信用の端末を操作し始める。 : : 万作:えっと、男性1名募集、甘いラブストーリー希望、っと。 万作:これで、よし、と。 : : 0:すぐに配信者が現れる。 : : 男性配信者:(軽薄そうに)あっ、どもー、こんばんは。 : 万作:(女性を演じながら話す)ご、ご、…ごきげんよう。 : 男性配信者:…ふーん。スノウドロップって名前なんだ。 男性配信者: 男性配信者:スノウちゃんさ、このアイコンってスノウちゃんなの? 男性配信者:つーか ぎゃんカワじゃね?もうマジヤバイんですけど。 : 万作:(小声で)なんだよ、コイツ…。まあ、いいや。とにかく話を合わせなきゃ…。 : : 0:万作、相手の口調に合わせて、何故かギャルっぽい言葉遣いになる。 : : 万作:えー、そうだよー。アイコンはウチ。 万作:ってかぎゃんカワって嬉しみなんだけどー! 万作:嬉しみ、眠たみ、岩倉具視~!! 万作:(うれしみ ねむたみ いわくらともみ) : 男性配信者:は? : 万作:(小声で)しまった!キャラ設定間違えた! 万作:えーと、そのですね…… : 男性配信者:スノウちゃん、超おもしれ~!! 男性配信者:なんか俺ら波長合うんじゃね? : 万作:え!?そマ!?嬉しみ、尊み、尊みの秀吉~!! : 男性配信者:スノウちゃん、個性エグくね?つか個性しかないじゃん! 男性配信者:もう俺ら会うしかないっしょ!?どこ住み? : 万作:(戸惑い)えー、いやいや、それは、その… 万作:(誤魔化して)スノウちゃんは、遠い宇宙の果て、スノリン星からやってきたんだスノ! : 男性配信者:(意に介さず)君面白いね~!ねえそれでどこ住み?ライン交換しよ? : 万作:えっと、あの、私、ラインやってなくって…。 : 男性配信者:いやいや、そんな訳ないって。 男性配信者:ラインやってないって何時代の人よ? : 万作:えと、その、スノリン星にはぁ、ラインはないスノよ。 万作:スノリン星のスノリン星人は、普段はテレパシーで会話してるから、スマートフォンとかは持ってなくてですね…。 万作:えーっと、それで、その…(苦しい言い訳に言葉が詰まる) : : 0:突然、通信が切れ、万作と男性配信者のやり取りが終了する。 : : 万作:あ、あれ?…切れちゃった。 : スノウ:…私が切りました。 : 万作:はあ~!スノウさん、助かりましたー! 万作:いやあ~、男ってバレないかドキドキしちゃいましたよ~! 万作:でも、マガツヒは見つからなかったですね。 : スノウ:……。 : 竜胆:なんだね万作くん、今の芝居は? 竜胆:あれが本当に両声類というものなのか? : スノウ:いえ、違います。 : 万作:いやいやいや!そもそも作戦に無理があるんですよー! : 竜胆:いや、私の作戦は完璧だった。君の両声類としてのポテンシャルがもっと高ければ、成功していた筈だ。 : 万作:いやだから!そこ込みで作戦でしょ! 万作:あとなんなんですか!両声類としてのポテンシャルって! 万作: 万作:あーでも、今回は上手くいかなかったけど、根気よく続けてたら、いつかマガツヒの尻尾を掴めるんじゃないかな? : スノウ:あの、万作さん。 : 万作:はい。 : スノウ:こういうのは、ちょっと、困ります。 : 万作:…え? : スノウ:私のアカウントで、こんな低クオリティの配信を繰り返されたら私のイメージが台無しです! : 万作:あ、いや… : スノウ:私がこれまでどれだけの思いをしてリスナーを獲得したと思ってるんですか!?二度とこんな事しないで!! : 万作:ご、ごめんなさい…。 : スノウ:竜胆さん。 : 竜胆:……。 : スノウ:私やります。囮捜査。 : 竜胆:ほう。 : スノウ:私、逃げたくない。やっとここまで、来たんだもの。 スノウ:マガツヒ?そんなものに私の生き甲斐を奪わせるもんですか! スノウ:さあ、配信を続けましょう。 スノウ: スノウ:その代わりいいですか、竜胆さん。 スノウ:マガツヒがまた出たら、すぐに始末してちょうだい! : 万作:ス、スノウさん? : 竜胆:はは。スノウさん、その意気やよし、だ。 竜胆:私はようやく君らしさを感じる事が出来てとても嬉しいよ。 竜胆:さあ、ショウを続けよう!! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : スノウ:こんばんは。 : マガツヒ:…。 : スノウ:こんばんは、スノウドロップと言います。 : マガツヒ:ウ…ウウ… : スノウ:(息を吞む) : マガツヒ:ねえ…教えて… : スノウ:…あなた一体誰!? : マガツヒ:ねえ…どうして…僕の何がいけなかったの…? : スノウ:し、知らないわよ! : マガツヒ:たくさん…推したよ…ギフトだって…ウィッシュリストだって…たくさん : スノウ:…え? : マガツヒ:なのに…なのに…なのになのになのに : スノウ:…ヒッ! : マガツヒ:もっと推せばよかったの?ギフトももっとたくさん…でも僕…僕 : スノウ:な、何言ってるのコイツ… : マガツヒ:ねえ教えて。教えて教えて… マガツヒ:言えよ言えよ言えよおおぉぉお!! : スノウ:竜胆さん!早くして! : 竜胆:(手で印を組んで真言を唱える) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : マガツヒ:グワッ! : : 0:竜胆が真言を唱えると、竜胆のいる配信部屋にユラユラと揺れる影のようなものが浮かび上がる。 0:それは怒り狂う巨大な体躯の鼠の様にも見え、嘆き悲しむ男性のようにも見える。 : : マガツヒ:…どうして!どうして僕にこんな事するんだ…スノウちゃん… : 竜胆:おや。スノウさん、お知り合いの様だね。 : スノウ:知らない…こんな気持ち悪い化け物、知る訳ないでしょ! スノウ:それより早くこいつを始末して!! : マガツヒ:そんな…僕の聞き間違いだよね…。 マガツヒ:君の事、あんなに推したのに、始末するだなんて… マガツヒ:(嗚咽して)ウグ…グ…ヒック…ズノヴぢゃん…オゴ…アガ… : : 0:絶望を糧に禍々しさを増すマガツヒの巨大な影。 : : スノウ:キャアー! : マガツヒ:オゴ…オガ…ゴガガガガ… : 竜胆:完全に心を喰われてしまったか。 竜胆:こうなってしまっては仕方ない。せめて私にできるのは黄泉路の障り(よみじのさわり)を取り除いてやる事ぐらいだ。 竜胆:(再び手で印を組んで) 竜胆: 竜胆:迦楼羅の羽!穿つ倶利伽羅!奈落の業火に命ず! 竜胆:(かるらのはね うがつくりから ならくのごうかにめいず) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : マガツヒ:グギャアアァーー!!! : : 0:いくつもの火柱に包まれたマガツヒの影が、ゆっくりと男性の姿へと形を変え、次第に朽ち果てていく。 : : スノウ:…助かった。 : 竜胆:これで、私の仕事は終わりだ。スノウさん。 : スノウ:あ、ありがとうございます。何とお礼を言ったら…。 : 竜胆:(遮って)しかし君も罪な女性だな。君に恋焦がれたファンを、マガツヒに堕としてしまうとは。 : スノウ:…な!? : 竜胆:だが、人気配信者を目指すなら、これも求められる能力のひとつなのだろうな。 : スノウ:……。 : 万作:竜胆さーん! : 竜胆:おや、万作くん。今頃ノコノコ現れて、これまでどこで何をしていた? : 万作:(言い訳がましく)いや、その、竜胆さんのピンチにいつでも援護出来る様に、身を潜めていました。 万作:名付けて、万作、埋伏の計(まいふくのけい)…! : 竜胆:嘘を付け。おおかたマガツヒが怖くて部屋の隅に隠れていたのだろう。 : 万作:(図星を突かれて)うぐ。 万作:で、でも!スノウさん、良かったですね!これでもう怖い思いせずに、安心して声劇配信できますよね! : スノウ:今日の事は他言無用でお願いします。 : 万作:え? : スノウ:…失礼します。 : : 0:スノウは一言いい残すと、プツリと通信を切ってその場を去ってしまう。 : : 万作:スノウさん!?あれ?…切れちゃった。 万作:もしかして竜胆さん、また彼女の事怒らせちゃったんですか? : 竜胆:いいや、私たちとはもう関わりたくないという彼女の意思表示だろう。 竜胆:なあ、万作くん。何故私がこの声劇配信の界隈で、退魔師をやっていると思う? : 万作:いえ、わかりません。 : 竜胆:顕示欲、承認欲、物欲に色欲、嫉妬や猜疑心、この声劇配信の世界には、あらゆる欲望と、負の感情が渦巻いている。 竜胆:そしてその果ての無い欲望が、次々とマガツヒを生み出すからさ。 : 万作:そんな。 : 竜胆:だが、最も恐ろしいのは、そのマガツヒさえ追い落とす、人間の穢れかもしれないね。 : 万作:竜胆さん…。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:場面変わり、スノウの部屋。 0:スノウが声劇配信の準備をしている。 : スノウ:やっとこれで声劇配信を再開できる。 スノウ:もう何日もまともに配信できてないから、ランキングも下がっちゃったし、ほんと最悪。 スノウ:早くたくさん配信して、遅れを取り返さなきゃ。 : 新たなマガツヒ:…。 : スノウ:クソッ!すぐに配信しなきゃ、みんなに忘れられちゃう! スノウ:たくさん配信して、再生回数も伸ばさなきゃ!ギフトだってもっと、たくさん。 : 新たなマガツヒ:グゴ…グゴガガ… : : 0:スノウ、配信に夢中で、マガツヒの気配に気付かない。 : : スノウ:それも全部アイツのせい! スノウ:たいした額のギフトでもないのに、キモいコメントばっかするからブロックしただけなのに。 スノウ:クソッ!まだまだ足りない。もっと有名配信者になって、ファンの質を上げなきゃ…。 : 新たなマガツヒ:グゴ・・・グゴゲゲガガ・・ : スノウ:…!? : 新たなマガツヒ:グゴガガ…ゴゲゴゲ…ゴブバアアア!!!! : スノウ:ギャアアアァァアア! : : 0:ゴトリと不気味な音を立てて、スノウドロップの刎ねられた首が床に落ちる。 : : 0:終わり

0: : :タイトル : 【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう】 : 【第2話「あの娘のナイトは両声類!?」】作・くまのムッチ : :登場人物 : 竜胆: 竜胆:(配役が決まったらここをタップしてください) 竜胆:片喰 竜胆 竜胆:兼ね役(男性配信者役・新たなマガツヒ役)があります。 : 男性配信者:: 男性配信者::男性配信者: 男性配信者::(竜胆役の方はここをタップしてください) : 新たなマガツヒ: 新たなマガツヒ:新たなマガツヒ: 新たなマガツヒ:(竜胆役の方はここをタップしてください) : : スノウ: スノウ:(配役が決まったらここをタップしてください) スノウ:スノウドロップ : : 万作: 万作:(配役が決まったらここをタップしてください) 万作:一富士 万作(いちふじ まんさく) 万作:兼ね役(不気味な声役・マガツヒ役)があります。 : 不気味な声: 不気味な声:不気味な声 不気味な声:(万作役の方はここをタップしてください) : マガツヒ: マガツヒ:禍津日 マガツヒ:(万作役の方はここをタップしてください) : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:場所は竜胆と万作の秘密の声劇部屋。 0:ふたりはスノウドロップと名乗る女性配信者と通話している。 : 万作:出会い厨、ですか? : スノウ:はい、最初はそれくらいにしか思ってなかったんですけど…。 : 竜胆:万作くん、出会い厨とは一体どういう意味かね? : 万作:ああ、出会い厨っていうのは、ネットやSNSで知り合った人と、すぐに実際に会って恋愛につなげたがる人の事を指す言葉です。 : 竜胆:ふむ。共通の趣味を通じて愛を育むというのは、そんなに悪い事の様にも感じないのだが。 : 万作:もちろん、ネットやSNSがきっかけで真剣な恋愛に発展する事もあるんですが、この出会い厨っていうのは、間にある友人関係をすっ飛ばして、すぐに男女の関係になろうとする人の事を言うんですよ。 : 竜胆:なるほどな…。それもまた悲しき人間の業だな。 竜胆:そしてその業深さは禍津日(マガツヒ)を育てる苗床(なえどこ)となり得る…。 : 万作:(モノローグ) 万作:僕の名前は一富士万作、声劇配信にドハマり中のごくごく普通の一般成人男子。 万作:そしてこの人は片喰竜胆。マガツヒ?とかいう化け物を退治するために、僕は半ば強引に竜胆さんの協力者に仕立て上げられてしまった。 万作: 万作:そしていま、僕たちのところに、とある女性配信者が相談にやって来たのだ。 : スノウ:お願いです!片喰さん!あの恐ろしい化け物を、どうか退治してください!じゃないと私…怖くて… : : 0:竜胆と万作のモニターヘッドフォンに、スノウのすすり泣く声が響く。 0:スノウの声は小さく震えているようにも聞こえる。 : : 万作:ほんとに、怖かったんですね、スノウドロップさん…。 万作:僕も先日同じような目に遭いましてね。心中お察しします。 : スノウ:スノウでいいですよ。 スノウ:さっきも言った通り、今までも、出会い厨とか、ちょっとセクハラっぽい事言ってくる人もいなかった訳じゃなかったんです。 スノウ:でも昨日は、なんて言うか、その、普通じゃない感じで…。 : 竜胆:それじゃあ、当時の状況をもう少し詳しく聞かせてもらえるかな。 : スノウ:はい、わかりました…。 スノウ:あの日はちょうど深夜に声劇をしたくて、一緒に劇してくれる人を募集してたところだったんです…。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:回想シーン。 0:スノウドロップが男性配信者とふたりで声劇配信の準備をしている。 : スノウ:どうも、こんばんは。よろしくお願いします。 : 男性配信者:あ、よろしくー! 男性配信者:俺さ、結構ツレからイケボって言われんだけど、俺の声どう?イケボだと思う? : スノウ:あ、はい。確かに、なんかカッコ良いお声、されてますよね。 : 男性配信者:そうかなあ~!自分じゃよくわかんないんだけど、ツレからはめっちゃ言われんだよね~! : スノウ:(返答に困って)はあ… スノウ:えっと、じゃあ、シナリオ、選んでいきますね。やってみたいシナリオとかって何か(ありますか?) : 男性配信者:(遮って)ねえ? : スノウ:え、あ、はい。 : 男性配信者:どこ住み? : スノウ:…え? : 男性配信者:どこ住み?俺、都内。 男性配信者:オフ会とか興味ある人? : スノウ:いや、その… : 男性配信者:あーあと、ライン交換しない?自撮りとかある? 男性配信者:俺さ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル飼ってるんだけど、家近かったら見に来ない?知ってる?キャバリア… : スノウ:(遮って)解散しますねー。 スノウ:フウ…今日はツイてないな…。 スノウ: スノウ:あともう一回だけ枠立てて、ダメだったら今日は寝よ…。 スノウ: スノウ:えと、サシ劇希望、男性キャスト募集中っと。 : : 0:スノウドロップが声劇配信の共演者をネットワーク上で募集する。 0:少しすると、別の配信者が現れる。 : : スノウ:あ、こんばんはー。 スノウ:よろしくお願いします。 : 不気味な声:……。 : スノウ:えーと、男女サシで、良かったですか? : 不気味な声:……。 : スノウ:あの、 : 不気味な声:教えて…ください… : スノウ:えっ? : 不気味な声:ねえ…教えて… : スノウ:えっ、なに? : 不気味な声:教えて…直すから…ねえ…教えて : : 0:スノウドロップが配信している室内の照明が激しく点滅を始める。 0:それと同時にバチン!と大きい音を立ててスノウドロップのヘッドフォンから白煙が上がる。 : : スノウ:ヒイッ! : 不気味な声:……ねえ、言って… 不気味な声:……言えよ…言え!言えー!! : : 0:恐怖で後ずさるスノウドロップの手にドロリとした液体の感触が。 0:手元を見ると黒く濁った血液がベットリと手に付着している。 : : スノウ:なにこれ……血…!? スノウ:キャーー!! : 万作:(タイトルコール) 万作:【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう)第2話「あの娘のナイトは両声類!?」】 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 万作:よく、話してくれましたね。さぞ、怖い思いをされた事でしょう。 : スノウ:本当に怖かったです。あれは一体、何なんでしょう…。 スノウ:片喰さんたちはあれの正体をご存知なんですか? : 万作:(キリッとして)僕たちはマガツヒって呼んでます。 : スノウ:マガツヒ? : 万作:そう。怒りや嫉妬、絶望なんかの強い負の感情をきっかけに、物の怪に心と身体を乗っ取られてしまった人の事を、マガツヒと呼ぶそうです。 : 竜胆:万作くん、今日はやけに饒舌だね。 : 万作:そそ、そんな事ないですよ! 万作:竜胆さん!スノウさんのために、僕たちでマガツヒを退治しましょうよ!このままじゃ彼女が可哀想過ぎます! : 竜胆:スノウさん、とお呼びして良かったのだね。 : スノウ:ええ。 : 竜胆:私はこの、声劇配信に触れて日も浅いので、是非後学のために教えてもらいたいんだが、 : スノウ:はい。 : 竜胆:何故、そこまでして配信を続ける? : スノウ:…え? : 竜胆:筆舌し難いような怖い思いをしたんだろう?だったらこれを機会に配信を辞める、という選択肢もある筈だ。 竜胆:なのに、君は配信はこれまで通り続けたいという。それはどうしてなんだい? : スノウ:あの、それは…(口ごもる) : 万作:ちょっと!竜胆さん!いきなりなんて事言うんですか!? : 竜胆:これは失礼。私は単純な興味で聞いただけなんだが、ご気分を害されたのならば謝罪しよう。 : 万作:こら!こらこらこらー!それが人に詫びる態度ですかー!そういうとこだぞ片喰竜胆!スノウさんにもっとちゃんと謝ってくださいー!! : スノウ:(遮って)いえ、いいんです。私なんかで良いんだったら、お答えさせてください…。 スノウ: スノウ:確かに、またこの間みたいな怖い事が起きたらどうしようって気持ちはあります。今だって震えが止まりませんし。 : 万作:スノウさん、 : スノウ:でも今の私にとって声劇配信は生き甲斐なんです!何者でもなかった私が、声劇をしてる間だけは特別な私になれるんです! スノウ:色んな役を演じて、たくさんの人に見て、聴いてもらってる瞬間だけが、私にとって何者かになれる、特別な時間なんです……! : 万作:(スノウの言葉に感動して)スノウさん、すごく分かります! 万作:声劇配信してる時の、なんかこう、自分が自分じゃなくなるような高揚感、本当に他の何にも代えがたいですよね! : スノウ:ええ。 : 竜胆:なるほど。その高揚感のためなら、命を引き替えにしても良いと。 : 万作:だから竜胆さん!言い方!! 竜胆:まあ、いいでしょう。私の目的はあくまでもマガツヒ退治なのでね。 竜胆: 竜胆:わかりました。お引き受けしましょう。 竜胆:万作くん、早速、スノウさんを危険に晒さずにマガツヒを釣り出す、良いアイデアが浮かんだのだが聞いてくれるかい? : 万作:うわ。なんかもう嫌な予感しかしないんだけど…。 万作:どうせそれって、スノウさんの代わりに、僕が危険に晒されるアイデアなんでしょー!? : 竜胆:ご明察だ、万作くん。さすがに2回目ともなると察しがいいな。 : 万作:いや、でも!僕は男ですよ!スノウさんの代役を務めるなら、女性じゃなきゃダメじゃないですか。 : 竜胆:万作くん、私も君にばかり頼っていてはいけないと、ここ数日、独学で声劇について学んでいるんだが、聞くところによると、声劇配信には両声類と呼ばれる者たちがいるそうだね。 : スノウ:ああ、両声類ですか。 : 竜胆:おお、やはりスノウさんはご存知な様だね。 竜胆:最初聞いた時はカエルやイモリが声劇と何の関係があるのかと思ったのだが、その両声類と呼ばれる者たちは、男性と女性、両方の声を出せるそうじゃないか。 : 万作:いや、まあ、間違いではないですけど…。 : スノウ:そもそも、両声類と言われる人たちは、元々はネットで歌配信をしている人の中でも、とりわけ幅広い音域を持っていて、ひとりで男性と女性、両方の声を使い分ける歌い手の事を指して言った言葉なんです。 : 竜胆:歌い手?……また新しい言葉が出てきたな。 : スノウ:あー、歌い手っていうのは、すごく簡単に言うとネットで歌手活動をしている人たちの事です。 : 万作:まあ、声劇配信においての両声類って言うのは、男性と女性、両方の声を使い分けて演技する人の事を指します。 : 竜胆:うむ。だから今回は万作くんに両声類になってもらおうと考えているんだ。 : 万作:……え? : 竜胆:……ん? : 万作:えーと、その、あの 万作:……は? : 竜胆:なんだ?察しが良いのか悪いのか、よく分からないやつだな君は。 竜胆:今回は君に両声類になってもらって、スノウさんの代役を務めてもらおうと思っている。 : 万作:いやいやいや、竜胆さん、さっきの説明聞いてました? 万作:そもそも両声っていうのは幅広い音域という才能に恵まれた人が、厳しい訓練を経てやるから成立するもんなんです! 万作:そんな急にやれって言われても、一朝一夕に出来るようなもんじゃないから! : 竜胆:なんだ万作くん、出来るのか、出来ないのか、どっちなんだ? : 万作:だから出来ないってさっきから言ってるでしょー!! 万作:あー駄目だ、話通じなさ過ぎて頭痛くなってきた…。 : 竜胆:ちょっと待ってくれ、万作くん。 竜胆:となると私とのパートナーシップはどうなる? : 万作:最初からパートナーなんかじゃありません!竜胆さんが一方的に言ってるだけでしょうが! : 竜胆:ふむ…残念だ。 竜胆:君はスノウさんに随分と鼻の下を伸ばしている様子だったから、てっきり協力してくれるものだと思っていたが。 竜胆:仕方ない、じゃあその伸びきった鼻の下の件を含めて、菫(すみれ)さんにも伝えなければいかんなあ。 : スノウ:…菫(すみれ)さん? : 万作:ちょ!何言ってんだよ!?菫(すみれ)は関係ないだろー!? : 竜胆:関係あるかないかは私が決める事だ。 竜胆:君が恋人に隠れて声劇配信をしているという秘密を、その恋人である菫さんに明かすのは少々気が引けるが、まあ仕方あるまい。 : 万作:ぐぬぬぬ…。 : 竜胆:あーあと、約束を反古にするのだから君に譲った機材も全て返してもらおう。 竜胆:もっとも、君はいつもこの私の配信部屋で声劇しているから、機材は既にこの部屋にあるのだがね。 : 万作:(小さく消え入るような声で)…やります。 : 竜胆:ん? : 万作:…やります!やらせてください! : 竜胆:その意気だ、万作くん。 竜胆:やはりこの間君に言った通りになったな。 竜胆:「君とは長い付き合いになる気がする」と。 竜胆: 竜胆:さあ!万作くん!急いで準備したまえ! 竜胆:楽しい声劇の始まりだ! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:場所は再び竜胆と万作の秘密の声劇部屋。 : : 竜胆:ではもう一度、作戦をおさらいしておこう。万作くん、君にはこれからスノウさんのアカウントを使用して、配信してもらう。これによって君はデータ上は、女性配信者スノウドロップという事になる訳だが。 : 万作:あの、そんな事して良いんですか? : 竜胆:彼女を身の危険から守るため、今回だけ特別にだ。勿論、スノウさんからも了承は得ている。 : 万作:はあ…。 : スノウ:よろしくお願いします。 スノウ:ただ、その、私のアカウントなんであんまり変な事しないでくださいね…。 : 万作:ええ、それはもちろん。 : 竜胆:話を続けよう。そしてスノウさんに成り代わった君は、女性として、男性キャストを募集する。 竜胆:…そうだな、男女ふたりで飛びっきりの甘い愛の言葉を交わすようなシナリオがいいな。 : 万作:え!?僕が男性と甘い愛の言葉を交わすんですか!?いや無理無理無理! : 竜胆:万作くん、私は出来る出来ないの話をしているんじゃない。 竜胆:君は私のビジネスパートナーとして、これをやり抜かなければならないんだ。 : 万作:ええー!?そんなあ~! : 竜胆:つべこべ言わずにさっさとやるぞ。 竜胆:さ、配信の準備だ。 : 万作:クソ~、なんて勝手な人だ。僕の弱みさえ握られていなければこんな人の言う事絶対聞かないのに…。 : 竜胆:おい、全部聞こえているぞ。 : 万作:ふぁっ!? : 竜胆:万作くん、そのモノローグを声に出す癖はいい加減直らないものなのか? 竜胆:それとも私への当て付けにわざとやっているのか? : 万作:違いますー!!イヤ過ぎて知らないうちに声に出ちゃってるんですー! : スノウ:万作さん、すいません。私のせいでこんな事になってしまって…。 : 万作:(態度を変えて)いえ、スノウさんは気にしないで。 万作:スノウさんの事は僕たちで必ずお守りします。 : 竜胆:いいから早くしてくれ。時間が惜しい。 : 万作:もー!やればいいんでしょ、やればー!! : 竜胆:よし。それでいい。私はマガツヒが現れるまで身を潜めているから、あとは手筈通り進めておいてくれたまえ。 : 万作:ええー!?そんなあ!竜胆さん! 万作:危なくなったらすぐに助けてくださいよね! 万作: 万作:もう…大丈夫かな、ほんと…。 : : 0:万作、しぶしぶ配信用の端末を操作し始める。 : : 万作:えっと、男性1名募集、甘いラブストーリー希望、っと。 万作:これで、よし、と。 : : 0:すぐに配信者が現れる。 : : 男性配信者:(軽薄そうに)あっ、どもー、こんばんは。 : 万作:(女性を演じながら話す)ご、ご、…ごきげんよう。 : 男性配信者:…ふーん。スノウドロップって名前なんだ。 男性配信者: 男性配信者:スノウちゃんさ、このアイコンってスノウちゃんなの? 男性配信者:つーか ぎゃんカワじゃね?もうマジヤバイんですけど。 : 万作:(小声で)なんだよ、コイツ…。まあ、いいや。とにかく話を合わせなきゃ…。 : : 0:万作、相手の口調に合わせて、何故かギャルっぽい言葉遣いになる。 : : 万作:えー、そうだよー。アイコンはウチ。 万作:ってかぎゃんカワって嬉しみなんだけどー! 万作:嬉しみ、眠たみ、岩倉具視~!! 万作:(うれしみ ねむたみ いわくらともみ) : 男性配信者:は? : 万作:(小声で)しまった!キャラ設定間違えた! 万作:えーと、そのですね…… : 男性配信者:スノウちゃん、超おもしれ~!! 男性配信者:なんか俺ら波長合うんじゃね? : 万作:え!?そマ!?嬉しみ、尊み、尊みの秀吉~!! : 男性配信者:スノウちゃん、個性エグくね?つか個性しかないじゃん! 男性配信者:もう俺ら会うしかないっしょ!?どこ住み? : 万作:(戸惑い)えー、いやいや、それは、その… 万作:(誤魔化して)スノウちゃんは、遠い宇宙の果て、スノリン星からやってきたんだスノ! : 男性配信者:(意に介さず)君面白いね~!ねえそれでどこ住み?ライン交換しよ? : 万作:えっと、あの、私、ラインやってなくって…。 : 男性配信者:いやいや、そんな訳ないって。 男性配信者:ラインやってないって何時代の人よ? : 万作:えと、その、スノリン星にはぁ、ラインはないスノよ。 万作:スノリン星のスノリン星人は、普段はテレパシーで会話してるから、スマートフォンとかは持ってなくてですね…。 万作:えーっと、それで、その…(苦しい言い訳に言葉が詰まる) : : 0:突然、通信が切れ、万作と男性配信者のやり取りが終了する。 : : 万作:あ、あれ?…切れちゃった。 : スノウ:…私が切りました。 : 万作:はあ~!スノウさん、助かりましたー! 万作:いやあ~、男ってバレないかドキドキしちゃいましたよ~! 万作:でも、マガツヒは見つからなかったですね。 : スノウ:……。 : 竜胆:なんだね万作くん、今の芝居は? 竜胆:あれが本当に両声類というものなのか? : スノウ:いえ、違います。 : 万作:いやいやいや!そもそも作戦に無理があるんですよー! : 竜胆:いや、私の作戦は完璧だった。君の両声類としてのポテンシャルがもっと高ければ、成功していた筈だ。 : 万作:いやだから!そこ込みで作戦でしょ! 万作:あとなんなんですか!両声類としてのポテンシャルって! 万作: 万作:あーでも、今回は上手くいかなかったけど、根気よく続けてたら、いつかマガツヒの尻尾を掴めるんじゃないかな? : スノウ:あの、万作さん。 : 万作:はい。 : スノウ:こういうのは、ちょっと、困ります。 : 万作:…え? : スノウ:私のアカウントで、こんな低クオリティの配信を繰り返されたら私のイメージが台無しです! : 万作:あ、いや… : スノウ:私がこれまでどれだけの思いをしてリスナーを獲得したと思ってるんですか!?二度とこんな事しないで!! : 万作:ご、ごめんなさい…。 : スノウ:竜胆さん。 : 竜胆:……。 : スノウ:私やります。囮捜査。 : 竜胆:ほう。 : スノウ:私、逃げたくない。やっとここまで、来たんだもの。 スノウ:マガツヒ?そんなものに私の生き甲斐を奪わせるもんですか! スノウ:さあ、配信を続けましょう。 スノウ: スノウ:その代わりいいですか、竜胆さん。 スノウ:マガツヒがまた出たら、すぐに始末してちょうだい! : 万作:ス、スノウさん? : 竜胆:はは。スノウさん、その意気やよし、だ。 竜胆:私はようやく君らしさを感じる事が出来てとても嬉しいよ。 竜胆:さあ、ショウを続けよう!! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : スノウ:こんばんは。 : マガツヒ:…。 : スノウ:こんばんは、スノウドロップと言います。 : マガツヒ:ウ…ウウ… : スノウ:(息を吞む) : マガツヒ:ねえ…教えて… : スノウ:…あなた一体誰!? : マガツヒ:ねえ…どうして…僕の何がいけなかったの…? : スノウ:し、知らないわよ! : マガツヒ:たくさん…推したよ…ギフトだって…ウィッシュリストだって…たくさん : スノウ:…え? : マガツヒ:なのに…なのに…なのになのになのに : スノウ:…ヒッ! : マガツヒ:もっと推せばよかったの?ギフトももっとたくさん…でも僕…僕 : スノウ:な、何言ってるのコイツ… : マガツヒ:ねえ教えて。教えて教えて… マガツヒ:言えよ言えよ言えよおおぉぉお!! : スノウ:竜胆さん!早くして! : 竜胆:(手で印を組んで真言を唱える) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : マガツヒ:グワッ! : : 0:竜胆が真言を唱えると、竜胆のいる配信部屋にユラユラと揺れる影のようなものが浮かび上がる。 0:それは怒り狂う巨大な体躯の鼠の様にも見え、嘆き悲しむ男性のようにも見える。 : : マガツヒ:…どうして!どうして僕にこんな事するんだ…スノウちゃん… : 竜胆:おや。スノウさん、お知り合いの様だね。 : スノウ:知らない…こんな気持ち悪い化け物、知る訳ないでしょ! スノウ:それより早くこいつを始末して!! : マガツヒ:そんな…僕の聞き間違いだよね…。 マガツヒ:君の事、あんなに推したのに、始末するだなんて… マガツヒ:(嗚咽して)ウグ…グ…ヒック…ズノヴぢゃん…オゴ…アガ… : : 0:絶望を糧に禍々しさを増すマガツヒの巨大な影。 : : スノウ:キャアー! : マガツヒ:オゴ…オガ…ゴガガガガ… : 竜胆:完全に心を喰われてしまったか。 竜胆:こうなってしまっては仕方ない。せめて私にできるのは黄泉路の障り(よみじのさわり)を取り除いてやる事ぐらいだ。 竜胆:(再び手で印を組んで) 竜胆: 竜胆:迦楼羅の羽!穿つ倶利伽羅!奈落の業火に命ず! 竜胆:(かるらのはね うがつくりから ならくのごうかにめいず) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : マガツヒ:グギャアアァーー!!! : : 0:いくつもの火柱に包まれたマガツヒの影が、ゆっくりと男性の姿へと形を変え、次第に朽ち果てていく。 : : スノウ:…助かった。 : 竜胆:これで、私の仕事は終わりだ。スノウさん。 : スノウ:あ、ありがとうございます。何とお礼を言ったら…。 : 竜胆:(遮って)しかし君も罪な女性だな。君に恋焦がれたファンを、マガツヒに堕としてしまうとは。 : スノウ:…な!? : 竜胆:だが、人気配信者を目指すなら、これも求められる能力のひとつなのだろうな。 : スノウ:……。 : 万作:竜胆さーん! : 竜胆:おや、万作くん。今頃ノコノコ現れて、これまでどこで何をしていた? : 万作:(言い訳がましく)いや、その、竜胆さんのピンチにいつでも援護出来る様に、身を潜めていました。 万作:名付けて、万作、埋伏の計(まいふくのけい)…! : 竜胆:嘘を付け。おおかたマガツヒが怖くて部屋の隅に隠れていたのだろう。 : 万作:(図星を突かれて)うぐ。 万作:で、でも!スノウさん、良かったですね!これでもう怖い思いせずに、安心して声劇配信できますよね! : スノウ:今日の事は他言無用でお願いします。 : 万作:え? : スノウ:…失礼します。 : : 0:スノウは一言いい残すと、プツリと通信を切ってその場を去ってしまう。 : : 万作:スノウさん!?あれ?…切れちゃった。 万作:もしかして竜胆さん、また彼女の事怒らせちゃったんですか? : 竜胆:いいや、私たちとはもう関わりたくないという彼女の意思表示だろう。 竜胆:なあ、万作くん。何故私がこの声劇配信の界隈で、退魔師をやっていると思う? : 万作:いえ、わかりません。 : 竜胆:顕示欲、承認欲、物欲に色欲、嫉妬や猜疑心、この声劇配信の世界には、あらゆる欲望と、負の感情が渦巻いている。 竜胆:そしてその果ての無い欲望が、次々とマガツヒを生み出すからさ。 : 万作:そんな。 : 竜胆:だが、最も恐ろしいのは、そのマガツヒさえ追い落とす、人間の穢れかもしれないね。 : 万作:竜胆さん…。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:場面変わり、スノウの部屋。 0:スノウが声劇配信の準備をしている。 : スノウ:やっとこれで声劇配信を再開できる。 スノウ:もう何日もまともに配信できてないから、ランキングも下がっちゃったし、ほんと最悪。 スノウ:早くたくさん配信して、遅れを取り返さなきゃ。 : 新たなマガツヒ:…。 : スノウ:クソッ!すぐに配信しなきゃ、みんなに忘れられちゃう! スノウ:たくさん配信して、再生回数も伸ばさなきゃ!ギフトだってもっと、たくさん。 : 新たなマガツヒ:グゴ…グゴガガ… : : 0:スノウ、配信に夢中で、マガツヒの気配に気付かない。 : : スノウ:それも全部アイツのせい! スノウ:たいした額のギフトでもないのに、キモいコメントばっかするからブロックしただけなのに。 スノウ:クソッ!まだまだ足りない。もっと有名配信者になって、ファンの質を上げなきゃ…。 : 新たなマガツヒ:グゴ・・・グゴゲゲガガ・・ : スノウ:…!? : 新たなマガツヒ:グゴガガ…ゴゲゴゲ…ゴブバアアア!!!! : スノウ:ギャアアアァァアア! : : 0:ゴトリと不気味な音を立てて、スノウドロップの刎ねられた首が床に落ちる。 : : 0:終わり