台本概要

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タイトル 飼い人形(ペットドール)
作者名 棚からおはぎ  (@ohagio_ov)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 亡くなった最愛の妻と同じ場所で自死を図ろうと、海へ向かう祐介。その道中見つけたのは、飼い人形(ペットドール)なるものを販売する、不思議な店だった。

※上演の際は台本名・作者名(できれば台本リンクも)を、告知ポスト、配信サムネイル、ルーム概要欄等にご記載ください。
Xでメンションくだされば喜んで見に行きます!

性別変更・それに伴う口調変更、アドリブも、過度な改変にならない程度にご自由にどうぞ。

その他ご質問あればお気軽にDMください。
どなたにも楽しく演じていただければ幸いです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
祐介 89 妻である美音を水難事故で亡くした。
ミオ 53 美音とそっくりに作られた飼い人形(ペットドール)。
店員 不問 42 飼い人形(ペットドール)を販売する人。
美愛 3 ※ミオと兼役で演じてください。 人物紹介は不要です。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:○昼・とある海沿いの道路 祐介:*美音《みお》……今、俺も行くから…… 0:ショーウィンドウが祐介の視界に入る。 祐介:……? っ、み、美音……?! いや、そんなはず……! いや、美音だ……なんだこの店……外観はアンティークショップっぽいが……入って、みるか 0:祐介が店に入る。 祐介:すみませーん…… 店員:いらっしゃいませ 祐介:あの、無知で恐縮なのですが、ここって何の店……なんですか? 店員:こちらでは*飼い人形《ペットドール》の販売をしております 祐介:ペット……ドール……? 店員:*飼い人形《ペットドール》に触れるのは初めてでございますか? 祐介:はい。見たことも聞いたことも 店員:では説明をいたしますね。*飼い人形《ペットドール》とは、特殊な技術を持った職人のみが作り出せる特別な人形でございます 祐介:特殊な技術? 店員:申し訳ございません。そこに関しては企業秘密となっておりますので、これ以上の説明は控えさせていただきます 祐介:ああはい 店員:*飼い人形《ペットドール》はその名の通り、ペットにできる人形。人形と言っても、ほぼ生きているに等しく、食事・排泄・睡眠を必要とします。食事は、犬や猫といったペットを飼うのと同じで、当店で販売しております専用の餌を与えるだけで完結します。最初は無口ですが、徐々に人の言葉を発するようにもなりますよ 祐介:へぇ 店員:それと、*飼い人形《ペットドール》には、餌よりも、もっとも必要な栄養がございます 祐介:……それは? 店員:飼い主からの、愛情でございます 祐介:愛情? 店員:*飼い人形《ペットドール》は愛情を1番の栄養とする人形でございます。愛情が深ければ深いほど、*人形《ドール》は美しい状態のまま、長期間維持することが可能になります。個体によっては、餌なしでも愛情だけで栄養を賄える場合もございますよ。まぁ、こちらはほとんど例を見ない例外でございますが 祐介:愛情……随分抽象的というか、なんというか 店員:そうですね。しかし、そこまで不安がることはございません。*飼い人形《ペットドール》も、感情表現をいたします。*人形《ドール》が幸せそうな顔をした時、『この笑顔を守りたい』と思う心があれば、それは充分な愛でございます。基本的にはペットと同じですから、さほど難しい扱いも必要ございません 祐介:ふーん…… 店員:*飼い人形《ペットドール》についての一通りの説明は以上となりますが、どれかお客様のお気に召す子はいらっしゃいましたか? 祐介:あの……ショーウィンドウに飾ってあった人形…… 店員:ああ、少々お待ちくださいね 0:店員がショーウィンドウから人形を取ってくる。 店員:こちらでしょうか? 祐介:ああ、そうです……やっぱり、美音…… 店員:美音? 祐介:僕の、妻……だった、人です。この間……事故で亡くして 店員:それは……大変失礼いたしました 祐介:いえ、そんな……この人形、妻にそっくりで 店員:職人は、ここ最近でもっとも感銘を受けた舞台女優を模したもの、と申しておりました 祐介:妻は……演劇女優でした。そうか……美音は本当に……素晴らしいものを、作っていたんだな 店員:おっしゃる通りかと思います。*飼い人形《ペットドール》は、一朝一夕でできる代物ではございません。大変長い時間をかけてでも、*人形《ドール》として再現したいと思わせるほど、奥様の舞台は素晴らしかったのだと思いますよ 祐介:この子、買えるなら買いたいんですけど…… 店員:申しあげにくいのですが、*飼い人形《ペットドール》は大変高価でして……人形本体だけでもこちらのお値段に 祐介:……家が1軒建ちますね 店員:餌も個体によりますが、月に1万円前後かかると想定していただければ 祐介:買います 店員:! ありがとうございます。ちなみに、ローンを組むことも可能でございますが…… 祐介:いえ、一括で大丈夫です。お金はあるので 店員:左様でございますか。では*飼い人形《ペットドール》購入の手続きに移らせていただきます 0:間 店員:この度はご購入、誠にありがとうございました。お客様と人形の生活が、より良きものになることを、心よりお祈り申し上げます 0:間 0:○祐介の自宅 祐介:思わず買ってしまった…… ミオ:…… 祐介:名前……他に思い浮かばなかったからカタカナでミオにしちゃったけど、本当の美音に悪かったかな。しかし……本当にそっくりだな……夫の俺でも、この子が本物だって言われれば余裕で信じるな。美音には申し訳ないけど。職人は相当な美音のファンだったんだな ミオ:…… 祐介:君は、ミオ ミオ:みお…… 祐介:俺は、祐介 ミオ:ゆう、すけ…… 祐介:そうそう。ははっ、君は頭がいいね 0:祐介がミオの頭を撫でる。 0:ミオが微笑む。 祐介:っ……ははっ、笑い顔も、本当に……ああ美音…… ミオ:ゆうすけ? 祐介:美音……美音…… ミオ:ゆうすけ、ゆうすけ 祐介:N)こうして、*飼い人形《ペットドール》ミオとの生活が始まった 0:間 0:○翌日・朝・祐介の自宅 ミオ:祐介、お腹空いた 祐介:うん、俺も空いた。ご飯にしようか ミオ:今日、外、行く? 祐介:ミオは外に行きたい? ミオ:うん 祐介:そうだな…… ミオ:ミオ、海、見たい 祐介:海……うん、行こうか ミオ:ありがとう! 0:間 0:○海辺 祐介:着いたよ ミオ:わぁ、綺麗! 祐介:はい、日傘。ミオは日差しに弱いから、常にさしておくんだよ。あと、俺の目の届く範囲にいてくれ ミオ:お水、入ってもいい? 祐介:足だけね。深いところには絶対行っちゃダメだよ ミオ:わかった 0:ミオが海の方へ歩き出す。 0:祐介がその背中を見て叫ぶ。 祐介:…………ミオ! ミオ:? 祐介? 祐介:……やっぱり、行かないで ミオ:なんで? 祐介:怖いから ミオ:怖いの? 祐介:うん ミオ:祐介、悲しい、顔 祐介:……大事な人がね、この海に取られちゃったんだ ミオ:取り返せないの? 祐介:取り返せない。もう戻ってこない。美音は…… ミオ:ミオは、私 祐介:いや、美音は…… ミオ:(遮る)『美音』は、ここ 祐介:ミオ…… ミオ:だから泣かないで、祐介 祐介:……うん。ごめんね。……美音と貯めたお金さ、美音を取り返すために使っちゃったけど、また貯めよう。俺、今休んでるけど、仕事再開してまた稼ぐからさ ミオ:お金、何するの? 祐介:2人で家買って、結婚式挙げて、新婚旅行しようって話したじゃん ミオ:それって楽しい? 祐介:楽しいよ。美音と2人なら、絶対楽しい ミオ:ふふ。楽しみ 祐介:N)ミオがいる生活は、楽しかった。時間が経つにつれミオは言葉を順調に覚えていき、ますます、かつての美音そっくりになっていった。俺は、もうミオの前で落ち込まないように……美音が生きていると、思い込むことにした。美音は死んでなんかいない。目の前にいるミオは、最初から、俺が愛した美音なのだと、そう思うことにした。それが、俺の犯した過ちだった 0:間 0:○朝・祐介の自宅 祐介:行ってきます ミオ:行ってらっしゃい、祐介! 今日の晩ご飯、祐介の好きなポテトサラダ作るからね 祐介:ほんと? 美音お手製のやつ? ミオ:もちろん! 祐介:やった。美音の作るポテサラ、好きなんだ。今日は早く帰らなきゃ ミオ:……あ 0:ミオの指から指輪が抜け落ちる。 祐介:あれ、指輪、また抜けちゃった? 最近よくあるね。……美音、そういえばかなり痩せてない? ミオ:えっ? そ、そうかな 祐介:うん。あれ、でもちゃんとご飯は食べてるよなぁ ミオ:うーん、最近ちょっと疲れ気味だから、やつれて見えるのかも。今日はゆっくり休むね 祐介:大丈夫? ポテサラも、無理しなくていいんだからね ミオ:大丈夫だよ、料理好きだし。あっほら、時間 祐介:おっと、電車に遅れる。行ってきます! ミオ:行ってらっしゃい! 0:間 0:○夜・祐介の自宅 祐介:ただいまー ミオ:あ、お、おかえり祐介! 祐介:うん。あ、もうできてる! 楽しみにしてたんだ。ご飯にしよう ミオ:えと……私はまだお腹空いてないから、祐介先食べてて。私は後で食べるよ 祐介:え、そう……? 美音、なんかぎこちないけど、何か隠してる? ミオ:え?! う、ううん、そんなことないよ? 祐介:さっきからずっと左手庇ってるよね。どっか怪我でもしたの? ミオ:ち、違うってば 祐介:見せて ミオ:い、嫌…… 祐介:……ちょっと失礼 ミオ:ちょっ…… 祐介:……! 薬指が……ない……? ミオ:…… 祐介:美音、指どうしたの?! ミオ:ここ…… 0:ミオが取れた左薬指を右手で差し出す。 ミオ:さっき、取れちゃって…… 祐介:救急車……! ミオ:待って祐介。私は病院じゃ直らない 祐介:じゃあどうすれば! ミオ:店に、連れて行って。私を買ったとこ 0:間 0:○*飼い人形《ペットドール》ショップ 0:ミオを横抱きにした祐介が店に駆け込む。 祐介:すみませんっ! はぁ……はぁ…… 店員:い、いらっしゃいませ……そんなに急いでどうされましたか? 祐介:美音が……美音の指が……! 店員:お客様の*人形《ドール》……? っ! こ、これは ミオ:私、直る? 店員:ええ、修理は可能でございますが…… 祐介:! よ、良かった…… 店員:……修理が終わった後でお話を伺っても? 祐介:ええ、いくらでも聞きますから、早く美音を……! 店員:かしこまりました。ミオ様、こちらへ 0:間 店員:終わりました 祐介:美音! ほんとだ……綺麗になってる! もう大丈夫? 痛くない? ミオ:うん、大丈夫だよ 店員:そもそも*飼い人形《ペットドール》に痛覚はございませんので、そこはご安心を。お客様、なぜこのような事態になったか、お分かりですか? 祐介:いや…… 店員:今、ミオ様は極度の栄養失調状態にあります 祐介:は……? そんなはず……だって、ご飯はちゃんと…… 店員:*飼い人形《ペットドール》にもっとも必要な栄養……なんだったか、覚えていらっしゃいますか? 祐介:愛、情…… 店員:そうです。ミオ様には、愛情が極度に不足しています 祐介:いやでも……美音とは普通に生活してたし、一緒に出かけたりもしてた。愛情が不足してたとは…… 店員:ふむ……確かお客様は、今は亡き奥様と同じ名前を、*飼い人形《ペットドール》につけておられましたよね? 祐介:っ……いや、それは…… 店員:……なるほど。察しがつきました。お客様は、*飼い人形《ペットドール》に故人である奥様を重ね、そのまま現在まで生活していたのですね。今までお客様が愛を注いでいたのはかつての奥様の美音様であり、ここにいる*人形《ドール》のミオではない 祐介:そう、です……俺は、美音が生きていることにして、ミオと生活を始めました 店員:……お引き取りください 祐介:え? 店員:この*飼い人形《ペットドール》はわたくしが引き取ります。購入された金額から下がってはしまいますが、買取という形にさせていただきますので 祐介:ちょ、ちょっと待ってください! どうして…… 店員:どうして? 本気で言ってますそれ? お客様、なぜわたくしがこの店で、この数の*飼い人形《ペットドール》を売り物として相応しい綺麗な状態で維持することができているか分かりますか? *飼い人形《ペットドール》を誰よりも愛しているからですよ。それでも、他の飼い主がその愛を一途に*人形《ドール》に注いでくだされば、さらに*人形《ドール》が幸せになると信じて引き渡しているのです。それなのに、愛しの我が子同然の*人形《ドール》をこんな酷い状態にして……到底看過できるものではございません 祐介:…… 店員:どうか、その*飼い人形《ペットドール》を置いてお引き取りを 祐介:……俺は…… ミオ:祐介をいじめないで 祐介:……ミオ? ミオ:私が言ったの。『美音は私』って。それで祐介が元気になるなら、私はいくらでも『美音』になる 店員:あなたをこんな状態にした人間を庇う必要がどこに…… ミオ:あなたはなんにも祐介のことを分かってない。祐介は優しいの。元気がなかった時も、私を欠かさず外に遊びに連れて行ってくれた。仕事を始めて忙しくしている今もよ。休日に一緒に出かけてくれる。可愛い服だって着せてくれる。興味があるものを聞いてくれる。私を大切に守ってくれる。今こうして言葉を話しているのも祐介のおかげ。今祐介が仕事を頑張っているのだってね、私を幸せにするためなのよ 祐介:ミオ…… ミオ:私、充分幸せよ。祐介が元気を取り戻すきっかけになれたのなら光栄だし、それで*壊れる《死ぬ》なら本望だわ 祐介:もう、やめてくれミオ……俺は……君に酷いことを ミオ:私、祐介になんにも酷いことされてない。酷いのはこの人間だわ 店員:そう……こんな*飼い人形《ペットドール》が……いるんだな…… ミオ:私、祐介から離れるつもりないから 店員:……分かりました。いいでしょう。あなたの生涯です。好きにしなさい ミオ:言われなくてもそのつもり 祐介:ミオ……今までごめ……いや、ありがとう。俺、君の飼い主なのにな。助けられてたのは俺の方みたいだ。……俺、ちゃんと向き合う。君を、ちゃんと*飼い人形《ペットドール》として愛すから。やり直しに、付き合ってくれる? ミオ:もちろん! これからも、祐介のそばにいるよ! 祐介:ありがとう。じゃあ、手始めに…… 0:間 店員:ご来店、ありがとうございました。……*飼い人形《ペットドール》との新たな生活が、より良きものになることを、心よりお祈り申し上げます 祐介:さ、帰ろうか、*美愛《みあ》 美愛:えへへ、なんだか聞き慣れないなぁ、美愛って 祐介:嫌だった? 美愛:ううん、そんなわけ! 美しい愛で美愛……すごく素敵な名前。ありがとう! 祐介:こちらこそ。今まで沢山俺を支えてくれてありがとう。今度は美愛も一緒に、幸せにするからね 美愛:うん! 0:完

0:○昼・とある海沿いの道路 祐介:*美音《みお》……今、俺も行くから…… 0:ショーウィンドウが祐介の視界に入る。 祐介:……? っ、み、美音……?! いや、そんなはず……! いや、美音だ……なんだこの店……外観はアンティークショップっぽいが……入って、みるか 0:祐介が店に入る。 祐介:すみませーん…… 店員:いらっしゃいませ 祐介:あの、無知で恐縮なのですが、ここって何の店……なんですか? 店員:こちらでは*飼い人形《ペットドール》の販売をしております 祐介:ペット……ドール……? 店員:*飼い人形《ペットドール》に触れるのは初めてでございますか? 祐介:はい。見たことも聞いたことも 店員:では説明をいたしますね。*飼い人形《ペットドール》とは、特殊な技術を持った職人のみが作り出せる特別な人形でございます 祐介:特殊な技術? 店員:申し訳ございません。そこに関しては企業秘密となっておりますので、これ以上の説明は控えさせていただきます 祐介:ああはい 店員:*飼い人形《ペットドール》はその名の通り、ペットにできる人形。人形と言っても、ほぼ生きているに等しく、食事・排泄・睡眠を必要とします。食事は、犬や猫といったペットを飼うのと同じで、当店で販売しております専用の餌を与えるだけで完結します。最初は無口ですが、徐々に人の言葉を発するようにもなりますよ 祐介:へぇ 店員:それと、*飼い人形《ペットドール》には、餌よりも、もっとも必要な栄養がございます 祐介:……それは? 店員:飼い主からの、愛情でございます 祐介:愛情? 店員:*飼い人形《ペットドール》は愛情を1番の栄養とする人形でございます。愛情が深ければ深いほど、*人形《ドール》は美しい状態のまま、長期間維持することが可能になります。個体によっては、餌なしでも愛情だけで栄養を賄える場合もございますよ。まぁ、こちらはほとんど例を見ない例外でございますが 祐介:愛情……随分抽象的というか、なんというか 店員:そうですね。しかし、そこまで不安がることはございません。*飼い人形《ペットドール》も、感情表現をいたします。*人形《ドール》が幸せそうな顔をした時、『この笑顔を守りたい』と思う心があれば、それは充分な愛でございます。基本的にはペットと同じですから、さほど難しい扱いも必要ございません 祐介:ふーん…… 店員:*飼い人形《ペットドール》についての一通りの説明は以上となりますが、どれかお客様のお気に召す子はいらっしゃいましたか? 祐介:あの……ショーウィンドウに飾ってあった人形…… 店員:ああ、少々お待ちくださいね 0:店員がショーウィンドウから人形を取ってくる。 店員:こちらでしょうか? 祐介:ああ、そうです……やっぱり、美音…… 店員:美音? 祐介:僕の、妻……だった、人です。この間……事故で亡くして 店員:それは……大変失礼いたしました 祐介:いえ、そんな……この人形、妻にそっくりで 店員:職人は、ここ最近でもっとも感銘を受けた舞台女優を模したもの、と申しておりました 祐介:妻は……演劇女優でした。そうか……美音は本当に……素晴らしいものを、作っていたんだな 店員:おっしゃる通りかと思います。*飼い人形《ペットドール》は、一朝一夕でできる代物ではございません。大変長い時間をかけてでも、*人形《ドール》として再現したいと思わせるほど、奥様の舞台は素晴らしかったのだと思いますよ 祐介:この子、買えるなら買いたいんですけど…… 店員:申しあげにくいのですが、*飼い人形《ペットドール》は大変高価でして……人形本体だけでもこちらのお値段に 祐介:……家が1軒建ちますね 店員:餌も個体によりますが、月に1万円前後かかると想定していただければ 祐介:買います 店員:! ありがとうございます。ちなみに、ローンを組むことも可能でございますが…… 祐介:いえ、一括で大丈夫です。お金はあるので 店員:左様でございますか。では*飼い人形《ペットドール》購入の手続きに移らせていただきます 0:間 店員:この度はご購入、誠にありがとうございました。お客様と人形の生活が、より良きものになることを、心よりお祈り申し上げます 0:間 0:○祐介の自宅 祐介:思わず買ってしまった…… ミオ:…… 祐介:名前……他に思い浮かばなかったからカタカナでミオにしちゃったけど、本当の美音に悪かったかな。しかし……本当にそっくりだな……夫の俺でも、この子が本物だって言われれば余裕で信じるな。美音には申し訳ないけど。職人は相当な美音のファンだったんだな ミオ:…… 祐介:君は、ミオ ミオ:みお…… 祐介:俺は、祐介 ミオ:ゆう、すけ…… 祐介:そうそう。ははっ、君は頭がいいね 0:祐介がミオの頭を撫でる。 0:ミオが微笑む。 祐介:っ……ははっ、笑い顔も、本当に……ああ美音…… ミオ:ゆうすけ? 祐介:美音……美音…… ミオ:ゆうすけ、ゆうすけ 祐介:N)こうして、*飼い人形《ペットドール》ミオとの生活が始まった 0:間 0:○翌日・朝・祐介の自宅 ミオ:祐介、お腹空いた 祐介:うん、俺も空いた。ご飯にしようか ミオ:今日、外、行く? 祐介:ミオは外に行きたい? ミオ:うん 祐介:そうだな…… ミオ:ミオ、海、見たい 祐介:海……うん、行こうか ミオ:ありがとう! 0:間 0:○海辺 祐介:着いたよ ミオ:わぁ、綺麗! 祐介:はい、日傘。ミオは日差しに弱いから、常にさしておくんだよ。あと、俺の目の届く範囲にいてくれ ミオ:お水、入ってもいい? 祐介:足だけね。深いところには絶対行っちゃダメだよ ミオ:わかった 0:ミオが海の方へ歩き出す。 0:祐介がその背中を見て叫ぶ。 祐介:…………ミオ! ミオ:? 祐介? 祐介:……やっぱり、行かないで ミオ:なんで? 祐介:怖いから ミオ:怖いの? 祐介:うん ミオ:祐介、悲しい、顔 祐介:……大事な人がね、この海に取られちゃったんだ ミオ:取り返せないの? 祐介:取り返せない。もう戻ってこない。美音は…… ミオ:ミオは、私 祐介:いや、美音は…… ミオ:(遮る)『美音』は、ここ 祐介:ミオ…… ミオ:だから泣かないで、祐介 祐介:……うん。ごめんね。……美音と貯めたお金さ、美音を取り返すために使っちゃったけど、また貯めよう。俺、今休んでるけど、仕事再開してまた稼ぐからさ ミオ:お金、何するの? 祐介:2人で家買って、結婚式挙げて、新婚旅行しようって話したじゃん ミオ:それって楽しい? 祐介:楽しいよ。美音と2人なら、絶対楽しい ミオ:ふふ。楽しみ 祐介:N)ミオがいる生活は、楽しかった。時間が経つにつれミオは言葉を順調に覚えていき、ますます、かつての美音そっくりになっていった。俺は、もうミオの前で落ち込まないように……美音が生きていると、思い込むことにした。美音は死んでなんかいない。目の前にいるミオは、最初から、俺が愛した美音なのだと、そう思うことにした。それが、俺の犯した過ちだった 0:間 0:○朝・祐介の自宅 祐介:行ってきます ミオ:行ってらっしゃい、祐介! 今日の晩ご飯、祐介の好きなポテトサラダ作るからね 祐介:ほんと? 美音お手製のやつ? ミオ:もちろん! 祐介:やった。美音の作るポテサラ、好きなんだ。今日は早く帰らなきゃ ミオ:……あ 0:ミオの指から指輪が抜け落ちる。 祐介:あれ、指輪、また抜けちゃった? 最近よくあるね。……美音、そういえばかなり痩せてない? ミオ:えっ? そ、そうかな 祐介:うん。あれ、でもちゃんとご飯は食べてるよなぁ ミオ:うーん、最近ちょっと疲れ気味だから、やつれて見えるのかも。今日はゆっくり休むね 祐介:大丈夫? ポテサラも、無理しなくていいんだからね ミオ:大丈夫だよ、料理好きだし。あっほら、時間 祐介:おっと、電車に遅れる。行ってきます! ミオ:行ってらっしゃい! 0:間 0:○夜・祐介の自宅 祐介:ただいまー ミオ:あ、お、おかえり祐介! 祐介:うん。あ、もうできてる! 楽しみにしてたんだ。ご飯にしよう ミオ:えと……私はまだお腹空いてないから、祐介先食べてて。私は後で食べるよ 祐介:え、そう……? 美音、なんかぎこちないけど、何か隠してる? ミオ:え?! う、ううん、そんなことないよ? 祐介:さっきからずっと左手庇ってるよね。どっか怪我でもしたの? ミオ:ち、違うってば 祐介:見せて ミオ:い、嫌…… 祐介:……ちょっと失礼 ミオ:ちょっ…… 祐介:……! 薬指が……ない……? ミオ:…… 祐介:美音、指どうしたの?! ミオ:ここ…… 0:ミオが取れた左薬指を右手で差し出す。 ミオ:さっき、取れちゃって…… 祐介:救急車……! ミオ:待って祐介。私は病院じゃ直らない 祐介:じゃあどうすれば! ミオ:店に、連れて行って。私を買ったとこ 0:間 0:○*飼い人形《ペットドール》ショップ 0:ミオを横抱きにした祐介が店に駆け込む。 祐介:すみませんっ! はぁ……はぁ…… 店員:い、いらっしゃいませ……そんなに急いでどうされましたか? 祐介:美音が……美音の指が……! 店員:お客様の*人形《ドール》……? っ! こ、これは ミオ:私、直る? 店員:ええ、修理は可能でございますが…… 祐介:! よ、良かった…… 店員:……修理が終わった後でお話を伺っても? 祐介:ええ、いくらでも聞きますから、早く美音を……! 店員:かしこまりました。ミオ様、こちらへ 0:間 店員:終わりました 祐介:美音! ほんとだ……綺麗になってる! もう大丈夫? 痛くない? ミオ:うん、大丈夫だよ 店員:そもそも*飼い人形《ペットドール》に痛覚はございませんので、そこはご安心を。お客様、なぜこのような事態になったか、お分かりですか? 祐介:いや…… 店員:今、ミオ様は極度の栄養失調状態にあります 祐介:は……? そんなはず……だって、ご飯はちゃんと…… 店員:*飼い人形《ペットドール》にもっとも必要な栄養……なんだったか、覚えていらっしゃいますか? 祐介:愛、情…… 店員:そうです。ミオ様には、愛情が極度に不足しています 祐介:いやでも……美音とは普通に生活してたし、一緒に出かけたりもしてた。愛情が不足してたとは…… 店員:ふむ……確かお客様は、今は亡き奥様と同じ名前を、*飼い人形《ペットドール》につけておられましたよね? 祐介:っ……いや、それは…… 店員:……なるほど。察しがつきました。お客様は、*飼い人形《ペットドール》に故人である奥様を重ね、そのまま現在まで生活していたのですね。今までお客様が愛を注いでいたのはかつての奥様の美音様であり、ここにいる*人形《ドール》のミオではない 祐介:そう、です……俺は、美音が生きていることにして、ミオと生活を始めました 店員:……お引き取りください 祐介:え? 店員:この*飼い人形《ペットドール》はわたくしが引き取ります。購入された金額から下がってはしまいますが、買取という形にさせていただきますので 祐介:ちょ、ちょっと待ってください! どうして…… 店員:どうして? 本気で言ってますそれ? お客様、なぜわたくしがこの店で、この数の*飼い人形《ペットドール》を売り物として相応しい綺麗な状態で維持することができているか分かりますか? *飼い人形《ペットドール》を誰よりも愛しているからですよ。それでも、他の飼い主がその愛を一途に*人形《ドール》に注いでくだされば、さらに*人形《ドール》が幸せになると信じて引き渡しているのです。それなのに、愛しの我が子同然の*人形《ドール》をこんな酷い状態にして……到底看過できるものではございません 祐介:…… 店員:どうか、その*飼い人形《ペットドール》を置いてお引き取りを 祐介:……俺は…… ミオ:祐介をいじめないで 祐介:……ミオ? ミオ:私が言ったの。『美音は私』って。それで祐介が元気になるなら、私はいくらでも『美音』になる 店員:あなたをこんな状態にした人間を庇う必要がどこに…… ミオ:あなたはなんにも祐介のことを分かってない。祐介は優しいの。元気がなかった時も、私を欠かさず外に遊びに連れて行ってくれた。仕事を始めて忙しくしている今もよ。休日に一緒に出かけてくれる。可愛い服だって着せてくれる。興味があるものを聞いてくれる。私を大切に守ってくれる。今こうして言葉を話しているのも祐介のおかげ。今祐介が仕事を頑張っているのだってね、私を幸せにするためなのよ 祐介:ミオ…… ミオ:私、充分幸せよ。祐介が元気を取り戻すきっかけになれたのなら光栄だし、それで*壊れる《死ぬ》なら本望だわ 祐介:もう、やめてくれミオ……俺は……君に酷いことを ミオ:私、祐介になんにも酷いことされてない。酷いのはこの人間だわ 店員:そう……こんな*飼い人形《ペットドール》が……いるんだな…… ミオ:私、祐介から離れるつもりないから 店員:……分かりました。いいでしょう。あなたの生涯です。好きにしなさい ミオ:言われなくてもそのつもり 祐介:ミオ……今までごめ……いや、ありがとう。俺、君の飼い主なのにな。助けられてたのは俺の方みたいだ。……俺、ちゃんと向き合う。君を、ちゃんと*飼い人形《ペットドール》として愛すから。やり直しに、付き合ってくれる? ミオ:もちろん! これからも、祐介のそばにいるよ! 祐介:ありがとう。じゃあ、手始めに…… 0:間 店員:ご来店、ありがとうございました。……*飼い人形《ペットドール》との新たな生活が、より良きものになることを、心よりお祈り申し上げます 祐介:さ、帰ろうか、*美愛《みあ》 美愛:えへへ、なんだか聞き慣れないなぁ、美愛って 祐介:嫌だった? 美愛:ううん、そんなわけ! 美しい愛で美愛……すごく素敵な名前。ありがとう! 祐介:こちらこそ。今まで沢山俺を支えてくれてありがとう。今度は美愛も一緒に、幸せにするからね 美愛:うん! 0:完