台本概要
360 views
タイトル | 魔法使いと幸福人の苦悩 |
---|---|
作者名 | あ~るさん。 (@Rbeats4250) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、不問1) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
昔書いた台本ぱーとに。 なんか好きな妄想キャラ、「魔法使い」シリーズ。 男か女か、善人か悪人か、人間かそれとも…? そんな不思議な存在です。 自由に演じてもらえたら嬉しいです。 360 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
浩志 |
男 ![]() |
15 | こうし。有名な俳優。(語り)と兼役。 |
魔法使い | 不問 | 17 | まほうつかい。男女不明な不思議で、綺麗で、魅力ある存在。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
浩志:はぁ…はぁ…はぁ…
浩志:ここまで来れば…もう、あいつも……!!!
浩志:
浩志:(空白)
浩志:
浩志:
浩志(語り):俺は、俳優として芸能界で生きてきた。
浩志(語り):そこそこ、いや、国民的タレント兼俳優として約20年、日々の仕事をこなしていた。
浩志(語り):色々なランキングで1位を総なめ。順風満帆だった……
浩志(語り):だが、事件は起きた。今の妻が不倫をしたのだ。
浩志(語り):問い詰めて話を聞いてみれば、40過ぎた自分に魅力を感じなくなり、若い男につられるまま肉体関係まで発展していたらしい。
浩志(語り):今まで必死に働いて、頑張って。報われた先がこれだ。
浩志(語り):もう怒りを通り越して、なんにも感じなかった。
浩志(語り):でも、そんな中自分に新しい考えが浮かんで来たんだ。
浩志(語り):今、この瞬間が人生のピークなのではないか?
浩志(語り):今後、歳とともに体も頭も衰えていく。芸能界の世界は、1年後自分の席あるかどうか分からない。
浩志(語り):この瞬間こそ、幸福の絶頂。
浩志(語り):今死ねれば、いいのではないか…?
浩志(語り):そんな身勝手な思考、どこか人の道から外れたような狂気じみた考えを巡らせていれば、混乱してくる。
浩志(語り):普段飲まない酒を飲むため、家近くのバーに入った。人の少ない、こじんまりとしたバーだった。
浩志(語り):このくらいの静かさの方が、今の自分には合っていた。一口、二口。ゆっくり、ゆっくり…
浩志(語り):アルコールの回る感覚と、慣れない味が染みわたってくる。
浩志(語り):そんな時だった。
浩志(語り):
魔法使い:浮かない顔してますね。
魔法使い:
浩志(語り):いつの間にか隣にいた人。
浩志(語り):人、というのには理由がある。
浩志(語り):男か女か、わからなかったからだ。
浩志(語り):その容姿は、男性的なのか、女性的なのか。
浩志(語り):漫画でよく見るような雰囲気のある、ミステリアスな…そんな初対面だった。
浩志(語り):だが、惹き込まれた。彼の灯りのない瞳に。
浩志(語り):
魔法使い:…どうしました?
浩志:あ、…申し訳ない、つい…
魔法使い:いえいえ……どこか、悩んでいるような、辛そうな、それでいて、すっきりしたような。
魔法使い:ぐちゃぐちゃしてる、そんな私の好きな顔をしてたもので。つい、声をかけてしまったんですよ。
魔法使い:
浩志(語り):言動も、行動も不思議だった。
浩志(語り):しかも話を聞けば、魔法使いとも言っていた。馬鹿馬鹿しいとも思ったが、彼の雰囲気は、言葉だけで信憑性を持たせていた。
浩志(語り):そして、感情のままに口が開く、自分の悩みを…そのまま吐き出してしまうように…
浩志:
魔法使い:…ふむ、それは災難ですね。
浩志:まぁ、でも…それで死んでもいいかもしれないって思えたんだ。
浩志:今のこの瞬間が…一番幸せだって。
浩志:名誉だって、地位だって、財産だって貰えたし、それでいて守るべきものもない。
浩志:俺に出来る生き方は、もう達成できたんだ。
魔法使い:だから、今死にたいと…ね。もったいないとおもいますよ?
浩志:いや…元々長生きには興味なかったんだ。人間、どう生きて、どう死ぬか…そう思わないか?
魔法使い:まぁ、人間それぞれ考え方があっていいと思いますよ。
浩志:もう俺は充分生きた。あとは楽に死ぬだけ…
浩志:これから長々と生きるのも、疲れるだけだしな。
魔法使い:…それが貴方の悩み事、ですか?
浩志:え?
魔法使い:それなら…私の魔法でどうにかしてあげましょうか?
魔法使い:綺麗さっぱりと…ね。自殺するのも、気が引けるでしょ?
浩志:……いやいやいや。こんな馬鹿らしいお願い…しかも初対面の人に、そんなこと…
魔法使い:大丈夫ですよ。私、そういうとこもしっかりするんで。
魔法使い:後のことは心配せず…いかがです?
浩志(語り):こんなのあり得ない。魔法なんて存在するわけない。
浩志(語り):なのに、このまま断れない…不思議な彼、もしくは彼女の魅力に惹かれてしまっているようだった。
浩志(語り):私は、その首を縦に振った。
浩志:……なら…本当にお願いしても…いいのか?
魔法使い:ええ。では、改めて……おほん。
魔法使い:私はお喋り好きな魔法使い。良かったら、悩み事を解決してあげよう。
魔法使い:何か、悩み事はあるかい?
浩志:……なんなんだい、それ。
魔法使い:契約、です。雰囲気あっていいと思いませんか?
魔法使い:
魔法使い:
浩志(語り):今考えれば、なんでお願いしたんだろうか。こんなバカげた空想を。
浩志(語り):だが、本当に叶えてくれるような気がして…酔いも相まって悩み事を伝えてしまった。
浩志(語り):彼が言うには、1週間後…すべてが整うらしい。
浩志(語り):その次の日。おぼろげな記憶の中、魔法が本物だということを知る。
浩志(語り):急に仕事がすべてキャンセルになった。しかも、1週間先まで。
浩志(語り):こんなこと、一度もなかったのに……
浩志(語り):俺は、その1週間を身辺整理にあてようと考えた。
浩志(語り):しかし、意外とあっさり終わるものだった。
浩志(語り):後5日。少し外へ出てみた。
浩志(語り):前はあんな変装しててもキャーキャー言われてたが、誰からも話しかけられない。少し寂しいが、気は楽だ。
浩志(語り):余生を過ごす…ということは、こういうことなのだろうか。
浩志(語り):あと3日。急激な不安に襲われる。
浩志(語り):…本当に、死ぬのか…?これは、夢じゃないのか?
浩志(語り):あれほど望んでいた。楽になりたいと、願っていた。
浩志(語り):これ以上生きても、今ほど幸せな時、環境はない。人生、やり切った。そのはずなのに…
浩志(語り):俺はあのバーへと向かった。あの魔法使いに会えるのではないかと考えて……
浩志(語り):そこには、あの魔法使いはいなかった。しかし、店主はどうやら手紙を預かってるらしい。
浩志(語り):その中身は………
浩志(語り):
浩志(語り):
浩志(語り):
魔法使い:『現実、ですよ。夢ではありません。
魔法使い:大丈夫、あなたが死んでも、不慮の事故にしてあげます。
魔法使い:皆、あなたの死を思って泣いてくれますよ。
魔法使い:良かったですね?死んだ後も幸せ者じゃないですか。
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:貴方は三日後に死にます。
魔法使い:楽しみに、しててくださいね。』
魔法使い:
魔法使い:
浩志(語り):俺は逃げた。生きたい、そう願った。
浩志(語り):なぜ死にたいと考えた!?なぜ!?
浩志(語り):どう生きて、どう死ぬか!?そんなもの、関係ない!生きていること自体が幸福なのにそう生きるかなんて関係ない!
浩志(語り):長生きに興味がない?そんなのただ聞こえがいいだけ
浩志(語り):ただの言い訳だ…人生が充実してると勘違いした!
浩志(語り):人生という限られた時間の中で、少しずつ幸せを感じていくんだ!
浩志(語り):それなのに…それなのに…!!!!!
浩志(語り):
浩志(語り):
浩志(語り):
0:海外のとあるホテル
浩志:はぁ…はぁ…はぁ……!
浩志:ここまで、来れば…あいつだって…わからないはずだ…
浩志:魔法使い?なに言ってんだ…ただの不気味なやつじゃねえか…
浩志:…まさか…こんなところまで……
浩志:
浩志:
浩志:
魔法使い:きちゃうんですよ。それが。
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
浩志:っ………!!!く…ぁ…(体と口の自由が利かなくなる)
魔法使い:へぇ…綺麗ねぇ。良い死に場所だと思いますよ?
魔法使い:あらら。どうしたんです?そんなに怖がって、汗までかいて。
浩志:あ˝……ぐ……っ!!!
魔法使い:さて。予定通り殺しますね。失礼しまーす……
魔法使い:(鼻と口を押える)
浩志:んーーーーーー!!!っ………!
浩志:(魔法使いのセリフ中も小さく呻き続ける)
魔法使い:ようやくわかりましたか?生きていることがどれだけ幸せか。
魔法使い:貴方は死ぬ、ということがどんなことか分かっていない。
魔法使い:幸せ者にこそ、死ぬことがわからなくなる。恐れるものがなくなるから。
魔法使い:死ぬ、というのは、貴方自身を認識できなくなるという事。
魔法使い:認識できない、ということは…貴方は生きていないと同等なのです。
魔法使い:ふふふ…どうです・死を感じるということは、無抵抗のまま…何もできず、無力に死に近づくこと。
魔法使い:誰かの言ってる武勇伝なんて、指動かせるくらいの抵抗はできるでしょ?それは死を感じるとは言わない。
魔法使い:こうやって、すこしずつ…無力に…ね。そして段々1秒1秒が尊く感じてくる……
浩志:(だんだん弱ってくる)
魔法使い:おっと。もうじき、意識が落ちますか?安心してください。
魔法使い:死ぬその時まで、付き合ってあげますよ。
魔法使い:
魔法使い:あー、そうそう。一つ、伝えておきますね。
魔法使い:
魔法使い:私、不気味な奴でもなんでもないですよ。
魔法使い:だって、人間じゃないんで。
魔法使い:人間じゃないのに、奴、はおかしいでしょ?
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:おはよう、こんにちは、こんばんは。
魔法使い:私はお喋り好きな魔法使い。今少し海外旅行に行ってきて疲れたので、少しだけお喋りを。
魔法使い:…ん?今手に持ってるのは何かって?
魔法使い:紫のバーベナ、です。いやぁ、綺麗ですね。
魔法使い:
魔法使い:えっと。私が花が好きなのには、いくつか理由がありまして。その一つが、儚さです。
魔法使い:花は儚い。短い期間に、咲き、繁殖し、そして散る。
魔法使い:だからこそ愛を注ぎ、少しでも長く咲けるように、綺麗になるように世話したくなるんです。
魔法使い:花の一生も、人間の人生も同じです。いずれ無くなる命を、尽きるまで世話をする。
魔法使い:段々色あせたり、触れただけで朽ちたり、萎れたり…そうやって過去の綺麗な姿を羨む。
魔法使い:これも味だと喜ぶ人もいるでしょう。満足するか、後悔するか、それは死ぬ寸前まで分からない。
魔法使い:それまでの過程が、見てる側も世話する側も楽しい…はずなんですけど。
魔法使い:たった100年ぽっちしか生きれない人間が?死ぬ生きるを?人間如きが決める?
魔法使い:ははは!冗談にしては笑えない…笑っちゃったけど。
魔法使い:
魔法使い:まぁとにかく。長く生きましょうね。自殺は論外。
魔法使い:どんなに苦しくたって、明日は来ます。例外はありますけど。
魔法使い:本当に死にたくなったときは、誰かのために死んでください。
魔法使い:それが、老衰以外で最も幸福な死に方です。
魔法使い:幸福じゃなくても、僕はニヤニヤ出来るんで、どっちにしても嬉しいってことで。
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:身勝手に死ぬとか言わないでくださいね。
魔法使い:長生きが眼中にない人は、目標も守るべきものも自ら捨ててるつまらない人間です。
魔法使い:決して、そうならないように。
魔法使い:
魔法使い:そうじゃないと、その命。貰いに行きますよ?
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
浩志:はぁ…はぁ…はぁ…
浩志:ここまで来れば…もう、あいつも……!!!
浩志:
浩志:(空白)
浩志:
浩志:
浩志(語り):俺は、俳優として芸能界で生きてきた。
浩志(語り):そこそこ、いや、国民的タレント兼俳優として約20年、日々の仕事をこなしていた。
浩志(語り):色々なランキングで1位を総なめ。順風満帆だった……
浩志(語り):だが、事件は起きた。今の妻が不倫をしたのだ。
浩志(語り):問い詰めて話を聞いてみれば、40過ぎた自分に魅力を感じなくなり、若い男につられるまま肉体関係まで発展していたらしい。
浩志(語り):今まで必死に働いて、頑張って。報われた先がこれだ。
浩志(語り):もう怒りを通り越して、なんにも感じなかった。
浩志(語り):でも、そんな中自分に新しい考えが浮かんで来たんだ。
浩志(語り):今、この瞬間が人生のピークなのではないか?
浩志(語り):今後、歳とともに体も頭も衰えていく。芸能界の世界は、1年後自分の席あるかどうか分からない。
浩志(語り):この瞬間こそ、幸福の絶頂。
浩志(語り):今死ねれば、いいのではないか…?
浩志(語り):そんな身勝手な思考、どこか人の道から外れたような狂気じみた考えを巡らせていれば、混乱してくる。
浩志(語り):普段飲まない酒を飲むため、家近くのバーに入った。人の少ない、こじんまりとしたバーだった。
浩志(語り):このくらいの静かさの方が、今の自分には合っていた。一口、二口。ゆっくり、ゆっくり…
浩志(語り):アルコールの回る感覚と、慣れない味が染みわたってくる。
浩志(語り):そんな時だった。
浩志(語り):
魔法使い:浮かない顔してますね。
魔法使い:
浩志(語り):いつの間にか隣にいた人。
浩志(語り):人、というのには理由がある。
浩志(語り):男か女か、わからなかったからだ。
浩志(語り):その容姿は、男性的なのか、女性的なのか。
浩志(語り):漫画でよく見るような雰囲気のある、ミステリアスな…そんな初対面だった。
浩志(語り):だが、惹き込まれた。彼の灯りのない瞳に。
浩志(語り):
魔法使い:…どうしました?
浩志:あ、…申し訳ない、つい…
魔法使い:いえいえ……どこか、悩んでいるような、辛そうな、それでいて、すっきりしたような。
魔法使い:ぐちゃぐちゃしてる、そんな私の好きな顔をしてたもので。つい、声をかけてしまったんですよ。
魔法使い:
浩志(語り):言動も、行動も不思議だった。
浩志(語り):しかも話を聞けば、魔法使いとも言っていた。馬鹿馬鹿しいとも思ったが、彼の雰囲気は、言葉だけで信憑性を持たせていた。
浩志(語り):そして、感情のままに口が開く、自分の悩みを…そのまま吐き出してしまうように…
浩志:
魔法使い:…ふむ、それは災難ですね。
浩志:まぁ、でも…それで死んでもいいかもしれないって思えたんだ。
浩志:今のこの瞬間が…一番幸せだって。
浩志:名誉だって、地位だって、財産だって貰えたし、それでいて守るべきものもない。
浩志:俺に出来る生き方は、もう達成できたんだ。
魔法使い:だから、今死にたいと…ね。もったいないとおもいますよ?
浩志:いや…元々長生きには興味なかったんだ。人間、どう生きて、どう死ぬか…そう思わないか?
魔法使い:まぁ、人間それぞれ考え方があっていいと思いますよ。
浩志:もう俺は充分生きた。あとは楽に死ぬだけ…
浩志:これから長々と生きるのも、疲れるだけだしな。
魔法使い:…それが貴方の悩み事、ですか?
浩志:え?
魔法使い:それなら…私の魔法でどうにかしてあげましょうか?
魔法使い:綺麗さっぱりと…ね。自殺するのも、気が引けるでしょ?
浩志:……いやいやいや。こんな馬鹿らしいお願い…しかも初対面の人に、そんなこと…
魔法使い:大丈夫ですよ。私、そういうとこもしっかりするんで。
魔法使い:後のことは心配せず…いかがです?
浩志(語り):こんなのあり得ない。魔法なんて存在するわけない。
浩志(語り):なのに、このまま断れない…不思議な彼、もしくは彼女の魅力に惹かれてしまっているようだった。
浩志(語り):私は、その首を縦に振った。
浩志:……なら…本当にお願いしても…いいのか?
魔法使い:ええ。では、改めて……おほん。
魔法使い:私はお喋り好きな魔法使い。良かったら、悩み事を解決してあげよう。
魔法使い:何か、悩み事はあるかい?
浩志:……なんなんだい、それ。
魔法使い:契約、です。雰囲気あっていいと思いませんか?
魔法使い:
魔法使い:
浩志(語り):今考えれば、なんでお願いしたんだろうか。こんなバカげた空想を。
浩志(語り):だが、本当に叶えてくれるような気がして…酔いも相まって悩み事を伝えてしまった。
浩志(語り):彼が言うには、1週間後…すべてが整うらしい。
浩志(語り):その次の日。おぼろげな記憶の中、魔法が本物だということを知る。
浩志(語り):急に仕事がすべてキャンセルになった。しかも、1週間先まで。
浩志(語り):こんなこと、一度もなかったのに……
浩志(語り):俺は、その1週間を身辺整理にあてようと考えた。
浩志(語り):しかし、意外とあっさり終わるものだった。
浩志(語り):後5日。少し外へ出てみた。
浩志(語り):前はあんな変装しててもキャーキャー言われてたが、誰からも話しかけられない。少し寂しいが、気は楽だ。
浩志(語り):余生を過ごす…ということは、こういうことなのだろうか。
浩志(語り):あと3日。急激な不安に襲われる。
浩志(語り):…本当に、死ぬのか…?これは、夢じゃないのか?
浩志(語り):あれほど望んでいた。楽になりたいと、願っていた。
浩志(語り):これ以上生きても、今ほど幸せな時、環境はない。人生、やり切った。そのはずなのに…
浩志(語り):俺はあのバーへと向かった。あの魔法使いに会えるのではないかと考えて……
浩志(語り):そこには、あの魔法使いはいなかった。しかし、店主はどうやら手紙を預かってるらしい。
浩志(語り):その中身は………
浩志(語り):
浩志(語り):
浩志(語り):
魔法使い:『現実、ですよ。夢ではありません。
魔法使い:大丈夫、あなたが死んでも、不慮の事故にしてあげます。
魔法使い:皆、あなたの死を思って泣いてくれますよ。
魔法使い:良かったですね?死んだ後も幸せ者じゃないですか。
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:貴方は三日後に死にます。
魔法使い:楽しみに、しててくださいね。』
魔法使い:
魔法使い:
浩志(語り):俺は逃げた。生きたい、そう願った。
浩志(語り):なぜ死にたいと考えた!?なぜ!?
浩志(語り):どう生きて、どう死ぬか!?そんなもの、関係ない!生きていること自体が幸福なのにそう生きるかなんて関係ない!
浩志(語り):長生きに興味がない?そんなのただ聞こえがいいだけ
浩志(語り):ただの言い訳だ…人生が充実してると勘違いした!
浩志(語り):人生という限られた時間の中で、少しずつ幸せを感じていくんだ!
浩志(語り):それなのに…それなのに…!!!!!
浩志(語り):
浩志(語り):
浩志(語り):
0:海外のとあるホテル
浩志:はぁ…はぁ…はぁ……!
浩志:ここまで、来れば…あいつだって…わからないはずだ…
浩志:魔法使い?なに言ってんだ…ただの不気味なやつじゃねえか…
浩志:…まさか…こんなところまで……
浩志:
浩志:
浩志:
魔法使い:きちゃうんですよ。それが。
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
浩志:っ………!!!く…ぁ…(体と口の自由が利かなくなる)
魔法使い:へぇ…綺麗ねぇ。良い死に場所だと思いますよ?
魔法使い:あらら。どうしたんです?そんなに怖がって、汗までかいて。
浩志:あ˝……ぐ……っ!!!
魔法使い:さて。予定通り殺しますね。失礼しまーす……
魔法使い:(鼻と口を押える)
浩志:んーーーーーー!!!っ………!
浩志:(魔法使いのセリフ中も小さく呻き続ける)
魔法使い:ようやくわかりましたか?生きていることがどれだけ幸せか。
魔法使い:貴方は死ぬ、ということがどんなことか分かっていない。
魔法使い:幸せ者にこそ、死ぬことがわからなくなる。恐れるものがなくなるから。
魔法使い:死ぬ、というのは、貴方自身を認識できなくなるという事。
魔法使い:認識できない、ということは…貴方は生きていないと同等なのです。
魔法使い:ふふふ…どうです・死を感じるということは、無抵抗のまま…何もできず、無力に死に近づくこと。
魔法使い:誰かの言ってる武勇伝なんて、指動かせるくらいの抵抗はできるでしょ?それは死を感じるとは言わない。
魔法使い:こうやって、すこしずつ…無力に…ね。そして段々1秒1秒が尊く感じてくる……
浩志:(だんだん弱ってくる)
魔法使い:おっと。もうじき、意識が落ちますか?安心してください。
魔法使い:死ぬその時まで、付き合ってあげますよ。
魔法使い:
魔法使い:あー、そうそう。一つ、伝えておきますね。
魔法使い:
魔法使い:私、不気味な奴でもなんでもないですよ。
魔法使い:だって、人間じゃないんで。
魔法使い:人間じゃないのに、奴、はおかしいでしょ?
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:おはよう、こんにちは、こんばんは。
魔法使い:私はお喋り好きな魔法使い。今少し海外旅行に行ってきて疲れたので、少しだけお喋りを。
魔法使い:…ん?今手に持ってるのは何かって?
魔法使い:紫のバーベナ、です。いやぁ、綺麗ですね。
魔法使い:
魔法使い:えっと。私が花が好きなのには、いくつか理由がありまして。その一つが、儚さです。
魔法使い:花は儚い。短い期間に、咲き、繁殖し、そして散る。
魔法使い:だからこそ愛を注ぎ、少しでも長く咲けるように、綺麗になるように世話したくなるんです。
魔法使い:花の一生も、人間の人生も同じです。いずれ無くなる命を、尽きるまで世話をする。
魔法使い:段々色あせたり、触れただけで朽ちたり、萎れたり…そうやって過去の綺麗な姿を羨む。
魔法使い:これも味だと喜ぶ人もいるでしょう。満足するか、後悔するか、それは死ぬ寸前まで分からない。
魔法使い:それまでの過程が、見てる側も世話する側も楽しい…はずなんですけど。
魔法使い:たった100年ぽっちしか生きれない人間が?死ぬ生きるを?人間如きが決める?
魔法使い:ははは!冗談にしては笑えない…笑っちゃったけど。
魔法使い:
魔法使い:まぁとにかく。長く生きましょうね。自殺は論外。
魔法使い:どんなに苦しくたって、明日は来ます。例外はありますけど。
魔法使い:本当に死にたくなったときは、誰かのために死んでください。
魔法使い:それが、老衰以外で最も幸福な死に方です。
魔法使い:幸福じゃなくても、僕はニヤニヤ出来るんで、どっちにしても嬉しいってことで。
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い:身勝手に死ぬとか言わないでくださいね。
魔法使い:長生きが眼中にない人は、目標も守るべきものも自ら捨ててるつまらない人間です。
魔法使い:決して、そうならないように。
魔法使い:
魔法使い:そうじゃないと、その命。貰いに行きますよ?
魔法使い:
魔法使い:
魔法使い: