台本概要
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タイトル | 月が紅く満ちる夜に2 |
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作者名 | ハージ・レイフィールド (@buchholz6789) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男3、女1) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
九尾事件から数ヶ月、尊子は護身の術を身につけたいと考えていた。 そんな尊子に対し、晴明は己の師匠にして、元日ノ本最強の陰陽師・賀茂保憲を推薦した! 平安バトルファンタジー! ・「月が紅く満ちる夜に1(https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/3141 )」の続き ・誤字脱字などがあった場合、連絡いただけますと幸いです。 ・アドリブ、改変は自由です。 一人称、語尾変換、方言変換、大丈夫です。 ・セリフや文章の意味、流れを壊さない程度の自作発言は大丈夫です。 ・女性の声が出せるなら、男性が尊子をやっても大丈夫ですし、男性の声が出せるなら、晴明、保憲、道満を女性がやっても大丈夫です。 224 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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晴明 | 男 | 62 | 安倍晴明(あべの せいめい) 日本最強の陰陽師。優しくて陽気、そしてイケメン。男女問わず人気者。20歳 |
尊子 | 女 | 100 | 尊子(たかこ)日本一の美少女。皇族としての責任感と、困っている人を見捨てられない慈悲深い性格を持つ。また、晴明や道満にも匹敵する程の、高い霊的潜在能力を有している。晴明の事が好きだが全く気づかれていない。14歳 |
道満 | 男 | 68 | 芦屋道満(あしや どうまん)晴明に並ぶ力を持つ陰陽師。知的で冷静、優れた観察眼を持つ。が、嫌味な所がある。20歳 |
保憲 | 男 | 81 | 賀茂保憲(かもの やすのり) 晴明や道満の師匠。元日本最強の陰陽師。全盛期の実力は晴明や道満を超えるが、現在は衰えている。(それでも、晴明や道満に次ぐ三番目の陰陽師。)老いた自分を嫌っており、人前に出るときは霊力を制御する事で、20代の声と見た目をしている。75歳 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
道満:「尊子姫の、陰陽術の指南役(しなんやく)になれ?」
晴明:「はい。お願いできませんか、道満殿」
道満:「答える以前に、話が急すぎて見えない。最初から説明しろ」
晴明:「これは失敬(しっけい)。実はですな─」
0:「回想はじめ」
尊子:「晴明様、私に、陰陽術の指南をつけてください。護身の術(すべ)を身につけたいのです」
晴明:「姫、何をまた急に」
尊子:「数ヶ月前の九尾事件(きゅうびじけん)にて痛感(つうかん)したのです。力が無ければ、どんなに高い理想を持っていてもどうしようもないのだと。あの時、私が無力なばかりに、守るべき大事な民草(たみくさ)である皆様に守られ、皆様の命を危険にさらしてしまいました。あのような事は、もう二度とあってはならないのです」
晴明:「─それで、ご自分の身くらいはご自分で守りたいと?その為の指南役になってほしいと?」
尊子:「はい、その通りです。お願いいたします、晴明様」
晴明:「そういう事ならば、わかりました。この晴明、つつしんでお引き受けしましょう」
尊子:「やった!」
晴明:「と、言いたい所なのですが、、、」
尊子:「─はい?」
晴明:「申し訳ありません、私でなければならない任務が色々とありまして、、。お引き受けしたいのはやまやまなのですが、、。」
尊子:「、、、」
晴明:「本当に申し訳ありません、、、」
尊子:「いえ、こちらこそ、晴明様のご事情を考えず、申し訳ありませんでした、、、。(晴明様と二人きりになれると思ったのに、、、)」
0:「回想おわり」
晴明:「この様な事がありましてな。腕の立つ陰陽師を探しているのです。道満殿、お願いできませんか?」
道満:「バカなのか?貴様は。あのな、私にも、私でなければならない任務があるのだ」
晴明:「ですよなあ」
0:「溜息をつき、残念そうな晴明」
晴明:「ダメもとで頼んでみたのですが。やはりバカなお願いでしたな、申し訳ない」
道満:「(そういう意味だけで言ったのではないのだが─。まあいい)所詮は皇族(こうぞく)の手習いだろう?暇している陰陽師から、テキトーに選べばよいではないか」
晴明:「そういうわけにはいきません!腕の立つ陰陽師でなければ、姫に失礼です!」
道満:「(クソマジメな、、、)しかし、ヒマしている陰陽術の名手(めいしゅ)など、そうそうおらんぞ」
晴明:「そうなのです。参りましたなあ、、」
0:「考え込んでいた晴明だったが、思いついたように声をあげた」
晴明:「あっ!」
道満:「どうした?」
晴明:「います!陰陽術の名手で!あまり忙しくないお方が!」
道満:「──おい、まさか─。加茂(かも)先生か?」
晴明:「ええ、そうです!われらの師、加茂保憲(かもの やすのり)先生にお願いしましょう!」
0:「場面転換 間を開ける」
晴明:「姫。こちらは、私と道満殿の師匠の賀茂保憲先生です。賀茂先生、こちら、指南をお願いした尊子姫様です。」
保憲:「お初におめにかかります。賀茂保憲と申します。かなり前に隠居した身でありながら、このようなお役目を頂けた事、光栄に思います。よろしくお願いいたします」
尊子:「お初にお目にかかります。尊子と申します。晴明様や道満様の師匠である、保憲様を指南役として迎えられたこと、うれしく思います。こちらこそ、よろしくお願いします」
晴明:「姫、賀茂先生は、何十年も陰陽術を研鑽(けんさん)し続けてきた、いわば達人です。」
0:「師の紹介を続ける晴明」
晴明:「前の九尾事件の時、崇徳院(すとくいん)の封印を張りなおすために讃岐(さぬき)に行っていただけで、本来ならば姫の護衛役として、あの場にいたであろうお方です。私や道満殿に並ぶ力をお持ちの陰陽師です」
尊子:「まあ!そのようなお方を、、、ありがとうございます、晴明様」
保憲:「はっはっはっは。晴明、、お前は師を立てることを忘れない良き弟子だ、、。嬉しいよ。しかし、間違った情報を姫様に教えるでない。今の私の力は、お前達二人より下だ」
晴明:「いやいや、ご謙遜(けんそん)を」
保憲:「謙遜なものか─。よいですか?姫様。確かに全盛期の実力は今の晴明達より上です、が、現在は衰えています。今の私は、二人に次ぐ、日ノ本で三番目の陰陽師といった所です」
晴明:「お言葉ですが先生、七つの時に先生に師事して以来、先生を超えたと思った事はありません」
保憲:「はっはっはっは。本当にいい弟子だよ、お前は。こんな弟子を持てた私は幸せ者だ」
晴明:「私の方こそ、先生のような師を持てて、幸せ者です。─おや?どうされました?姫、怪訝(けげん)なお顔をされて」
尊子:「その、、初対面の方にこのような質問は失礼だとはわかっているのですが─今までのお話と、、その、、保憲様のお見た目が─」
保憲:「ああ、この姿ですか。お恥ずかしい話ですが、私は、老いた自分が嫌いでして。霊力(れいりょく)を制御し、二十代の声と見た目で人前に出るようにしているのです」
尊子:「そんな事ができるんですか⁈」
晴明:「普通はムリです。私にもできません」
保憲:「はっはっは。稀男(まれおとこ)のお前にはそもそもいらん技術さ。─さて、無駄話はこのくらいにして、早速修行にはいりますか。まずは、陰陽術の命たる、集中力を研ぎ澄ます修行から」
尊子:「はい、よろしくお願いします!」
晴明:「(やる気満々ですなあ)」
保憲:「よいお返事大変結構。では姫様、あぐらをかき、この石を利手(ききて)で握ってください。─そう言えば晴明、用事があると言ってなかったか?」
晴明:「あっ!そうでした、、。申し訳ありません、姫、先生。私はここで失礼します。姫、頑張って下さい」
尊子:「ありがとうございます!晴明様!」
保憲:「─さて、姫様。再開しますか」
尊子:「はい。あの、保憲様、この石は一体?」
保憲:「それはですな、、、まあ、やってみればわかります。手は膝の上に、そして目を閉じ、何も考えず深呼吸して下さい」
尊子:「はい、わかりました」(深呼吸を行う)
保憲:「そうそう、その調子です。──そう言えばですが、姫様。晴明が言っておりました。尊子姫は本当に可愛らしいお方だと。尊子姫と出会えた自分は天下一(てんかいち)の幸せ者だと」
尊子:「えっ//そ、それは本当なのですか?//」
晴明(ナレーション):「尊子が喜んだその瞬間だった」
尊子:「⁉─ッ⁉(石から痛みが?!)」
保憲:「─とまあこのように、集中を乱すと、石から痛みを与えられます。おわかりいただけましたかな?」
尊子:「わ、わかりました」
保憲:「よろしい。ではもう一度」
尊子:「ちなみにですが、、」
保憲:「はい?」
尊子:「//ち、ちなみにですが、今の晴明様のお話は、本当なのでしょうか?//」
保憲:「作り話です。今、テキトーに作りました」
尊子:「あ、そうでしたか、、、」
保憲:「─ご安心ください、姫様。今の事は誰にも言いません故。(本当にテキトーに作ったのだが、、図星(ずぼし)をついてしまったか)」
尊子:「ありがとうございます、、そうしていただけると助かります、、」
晴明(ナレーション):「そして指南開始から数ヶ月がたった」
保憲:「姫様は天才です。わずか数ヶ月の指南ですが、陰陽師として一人前の実力です。私が保証します」
尊子:「いえいえ、保憲様のご指導の賜物(たまもの)でございます」
晴明:「そうご謙遜なさいますな。私も先程拝見させていただきましたが、先生のおっしゃるとおり、姫様はもう一人前の陰陽師です。特に、解呪(かいじゅ)の練度が本当に素晴らしい。薩摩(さつま)に、山賊(さんぞく)の討伐に行った頼光殿が帰ってこられたら驚かれますぞ」
尊子:「//ありがとうございます。晴明様」
保憲:「ええ、晴明の言うとおりです。解呪のコツの習得の早さ、素人とは思えませんでした」
尊子:「ありがとうございます。恐らくは、弘法大師(こうぼうだいし)様がかけた九尾の封印を、5年かけて解いた体験が生きているのでしょう」
保憲:「─これは失礼しました。、、時に姫様、免許皆伝(めんきょかいでん)の試験、、のような物を受ける気はありませんかな?」
尊子:「試験、、ですか?」
晴明:「ああ、あれですか。私や道満殿も受けました。姫なら大丈夫です」
尊子:「─どんな内容だったのでしょう?」
晴明:「夜の森で、数十匹の妖怪を一人で倒すだけです。簡単でした」
尊子:「かん、、、たん、、、?」
晴明:「ええ、簡単でした。」
保憲:「はっはっはっ。大丈夫です、姫様。晴明や道満は、戦闘向きの陰陽師だからそういう試験にしただけです。姫様に課す試験は、そんな血なまぐさい内容にはしませぬ」
尊子:「ほっ。わかりました。試験、お受けします」
保憲:「内容や日時、場所は、おってお伝えします。ああ、晴明。補助として、お前もきてくれないか?危険な試験にするつもりはないが、もしものためだ。石橋を叩いて渡りたい」
晴明:「わかりました。──姫なら大丈夫です。私も先生もついています。肩の力を抜いて受けて下さい」
尊子:「ありがとうございます、晴明様。頑張ります!」
晴明(ナレーション):「後日、試験の日時と場所が尊子に伝えられた。月が紅く満ちる夜の子一時(ねいつどき)に、とある廃寺(はいでら)にて行うと。そして、その日がやってきた」
尊子:「こんばんは、保憲様。よろしくお願いします」
保憲:「こんばんは。こちらこそ、よろしくお願いします。──では、早速はじめましょう。この箱と札をお持ち下さい」
尊子:「?晴明様は待たないのでしょうか?」
保憲:「ええ。なんでも、陰陽師の会合(かいごう)が急に入ったとか。いつ終わるかわからないから、先に始めていてほしいと」
尊子:「わかりました」
保憲:「内容は前にお伝えした通り、とある魂を降ろす儀式です。その箱を持ち、札に書かれてある呪文を、ゆっくりで結構ですので唱えてください。」
尊子:「──あの、ずっと思っていたのですが、なんの魂を降ろすのでしょうか?」
保憲:「それは降ろしてからのお楽しみです、姫様」
尊子:「わかりました。では、──「しいに・まれま・まこい・こさた・よよるえ」」
保憲:「では、その箱を私に。──おめでとうございます、姫。成功です!」
尊子:「やった!」
保憲:「素晴らしいですぞ、姫様。まさか一発で成功とは」
尊子:「ありがとうございます。頑張った甲斐がありました。─それで、一体なんの魂を降ろしたのでしょう?」
保憲:「九尾です」
尊子:「はい?」
保憲:「九尾の魂を降ろしたのです」
尊子:「保憲様、笑えない冗談はやめて下さいまし」
保憲:「冗談などではありません。九尾の魂を降ろしたのです。ああ、意味がわからないというお顔ですね。では説明します。─見たいのですよ、私は。晴明にも匹敵する霊的潜在能力を有する人物の中に、九尾の魂を入れたらどうなるのか?見たいのです!」
尊子:「、、!(く、狂ってる!)」
保憲:「さあ、姫様、九尾の器になってください!」
尊子:「イヤっ!!こないでっ!」
道満(ナレーション):「保憲が襲いかかったその瞬間だった」
晴明:「お辞めなさい!!」
保憲:「ガッ!」
晴明:「危ないところでしたな、姫。お怪我はありませんか?」
尊子:「晴明様!」
0:「晴明が跳び蹴りを保憲に見舞ったのだった」
晴明:「よかった。大丈夫なようですな。しかしここは危険です。お下がりくd」
保憲:「晴明、、!お前には子二つ時(ねふたつどき)だと伝えたハズだが、、、!ああ、そうだった!お前は集合時間の一時(いっとき)前には必ず来る、律儀な性格をしていたな!忘れていたよ、、!」(晴明の「お下がりくd」にかぶせるように」
晴明:「先生!ご自分が何をしているのか、わかっておいですか⁈」
保憲:「何って、、ただ単に、自分の好奇心を満たしたいのさ!お前も陰陽師ならわかるだろう?!陰陽術への探求心が抑えられんのだ!その邪魔をするというのなら、、殺してやる!晴明!」(手を叩く)
晴明:「!」(指を鳴らす)
保憲:「やるな晴明!結界で熱湯を遮断したか!」
晴明:「これで頭を冷やしなさい!先生!」(手を叩く)
保憲:「初撃は必ず氷塊(ひょうかい)を相手の右側から放つクセ!変わっておらんなあ、晴明!」
晴明:「先生の方こそ、相手の攻撃を真後ろに一歩下がってよけるクセ!変わってませんね!」
保憲:「ガッ!(!!氷塊を炸裂させて、、!)」
晴明:「─ふう」
0:「泣きながら晴明に飛びつく尊子姫」
尊子:「晴明様っ!」
晴明:「おっと。もう大丈夫ですよ、姫様。意識を奪いましたから。ですから涙をお止めください、可愛いお顔が台無しですよ?」
尊子:「はい//」
晴明:「それでは、姫。少々お待ち下さい。先生を縛り上げますK」
保憲:「勝ったと思った瞬間が一番危ない。そう教えたハズだぞ、晴明」(晴明の「先生を縛り上げますK」にかぶせるように)
晴明:「な?!」」(二人同時に)
尊子:「っ!」(二人同時に)
保憲:「にそよ・こしらだ・わかたせの!」
晴明:「クッ!」
尊子:「、、!(まぶしいっ、、、!)」
0:「目映い光に目をとじた尊子。目をあけるとー」
尊子:「─どうなったのかし、、、晴明様っ!大丈夫ですか!?」
道満(ナレーション):「晴明と保憲が倒れていた。尊子が晴明に駆け寄ろうとしたその瞬間だった」
保憲:「くっ、、ふっ、、、くははははっ!」
尊子:「え、、?晴明、、、様、、、?」
保憲:「はははははっ!成功だ!手に入れたぞ!晴明の体!狙い通りだ!!!」
尊子:「どういう、、事、、、?なんで、、、晴明様の、、お体、、、なのに、、声が、、、」
晴明(ナレーション):「困惑する尊子に興奮した声で保憲はこたえる」
保憲:「ああ、、、。姫様。最初から、これが狙いだったのですよ。九尾の魂を姫様の体に入れる?そんな何がおこるかわからない事、やるわけがないでしょう。晴明の早めに行動するクセ?忘れる訳がないでしょう!可愛い弟子なのだから!全ては!この晴明の体がほしくてやったことです!」
尊子:「─ッ!なんでっ、なんでこんな事をっ⁈晴明様はどうなったのです⁈」
保憲:「──1つずつお答えしましょう。まず理由ですが、、前に話したでしょう?衰えた自分が嫌いだと。──私は陰陽術を永久に探求したいのです、、、。しかし、、年と共に衰える肉体に霊力、、、」
保憲:「嫌だっ!醜い自分は嫌だっ!もっと陰陽術を極めたいっ!そのためにっ!高い霊力を持つ、若い肉体が欲しくてたまらなかったのですよ!」
尊子:「そんな、、、そんな事のためにっ、、、!」
保憲:「そんな事、、?はっ!若い姫様にはわからんでしょうなあ、、日に日にます衰える自分への嫌悪!そんな中、晴明が指南役の話を持って来た時の高揚(こうよう)!」
保憲:「天佑(てんゆう)だと思いましたよ!ああ、これで衰えた醜い自分とおさらばできると!」
尊子:「じゃあ、、最初から、、」
保憲:「ええ、最初からこうするつもりでした、、。あぁ、、まだ答えていませんでしたな、、。晴明がどうなったかについて、、。晴明の魂は、この体の中で眠っています、、。まあ、、、私の魂と晴明の肉体の同化が、完全なものになった時、、、日の出の頃でしょうか、、、その時に消えますが、、」
保憲:「──さて姫様、貴方はもう用済みです。さようなら」
尊子:「!いやっ!いやあああああ!」
晴明(ナレーション):「氷の刀をふりおろした保憲。─だが、刃は空をきった」
道満:「嫌な予感がするから来たのですが、、正解でしたな」
尊子:「道満様っ!」
保憲:「道満、、。お前には試験の話自体、してないのだがなあ、、。晴明か姫様にでも聞いたか?」
道満:「、、(この声、この口ぶり─まさかとは思うが。)姫。ここは一端、私の屋敷にひきます」(手を叩く)
保憲:「─瞬間移動─。いったか」
0:「道満の屋敷に移動したふたり」
道満:「──さて、姫。大体予想はつきますが、何があったか、詳しくお聞かせ願えますかな」
尊子:「はい、、、」
晴明(ナレーション):「姫は泣きながら道満に語った」
尊子:「─以上のような経緯でっ、、、。晴明様のっ、、、お体がっ、、」
道満:「─わかりました。─では姫、この紙を、家の者にお渡し下さい。すぐに武士と陰陽師が招集されるでしょう。私は一足先にあの廃寺に戻ります」
尊子:「っ!私もいきますっ!私にもできる事があるはずですっ!」
道満:「はぁ、、、。ありませんな、何も。大人しくお待ち下さい」
尊子:「バカにしないでくださいっ!私とてっ!実力は一人前の陰陽師です!晴明様にも認めていただきましたっ!」
道満:「ええ、それは認めます」
尊子:「だったら!」
道満:「私からすれば、まだまだ「未熟」」
尊子:「っ?!(何この霊力っ⁈)」
0:「霊力で威圧した道満」
道満:「─私からすれば、まだまだ「未熟」です。私の戦闘には、足手まといです。わかったら大人しくお待ち下さい」
尊子:「はい、、、」
道満:「では、私は廃寺に戻り、晴明の魂ごとあの男を殺します。相打ちになってでも」
尊子:「、、今、、なんと、、、?」
道満:「おや、おかしいですなあ。この距離で聞こえませんでしたか」
尊子:「そういうお話しではありませんっ!なぜ晴明様までっ?!晴明様は何も悪い事をしていないのにっ!晴明様の責任ではないのにっ!」
道満:「それが一番現実的だからです、姫」
尊子:「お願いします!九尾の時みたいに、誰も死なない方法をお考え下さい!清明様をお助け下さい!」
道満:「──大概にしていただけますかな、姫」
尊子:「、、え、、?」
道満:「九尾の時みたいに?あれは本当に奇跡です。奇跡的に誰も死ななかったのです」
晴明(ナレーション):「道満は続けた」
道満:「私は晴明や頼光みたいな、優しいを通り越して、甘いに両足突っ込んでいる人間ではありません。よってハッキリ言います。あれ以上時間を無駄にしたくないから、あの時は黙っていましたが──あの約束、、甘いのですよ。最強の妖怪・九尾を相手に誰も死なない?甘すぎる。笑わせないでいただきたい」
尊子:「っ、、、」
道満:「そして今回、日ノ本一の陰陽師の肉体をのっとった、日ノ本で三番目に強い陰陽師を敵にして、誰も死なない─?甘すぎます。皇女を騙し、弟子の体を乗っ取るような狂人(きょうじん)相手に、そんな千回中一回成功すれば万々歳(ばんばんざい)な道を、採るわけにはいきませんな」
尊子:「そん、、な、、、」
道満:「そもそも、誰が悪いとか彼の責任とか、もはやどうでもよいのです。この現実に、どうやって対処するかが一番の問題なのですから。─まあ、私が戦ったところで、勝てる可能性は百回に一回でしょう。しかし、相討ちに持ち込める可能性なら、五十回に一回程度はあります。それができなくても、都中の武士と陰陽師を総動員すれば、なんとか殺せる程度のキズを入れられる可能性が、十回に一回位はあります」
尊子:「、うっ、、。、、うっ、、」
晴明(ナレーション):「再び泣き出す尊子、道満は無視して続けた」
道満:「それくらいの難敵なのです、今夜の相手は。であるにも関わらず、誰も死なない?本当に大概にしていただきたい。わかりませんか?ここであの男を討てなくては、もはや頼れるのは、薩摩(さつま)に行っている頼光と、奴の四天王(してんのう)達だけになるという現実が。あの5人が戻ってくるまでに、何人の罪なき人間が、あの狂人の毒牙(どくが)にかかるか、、。それでも、あの5人が勝てるのなら、それならばまだよろしい。しかし、そんな保証はどこにもありません。あの5人が負ければ、この日ノ本はおわりです。そういう事態なのです」
尊子:「はいっ、、、。わかりっ、、、ましたっ、、」
道満:「ああ、あえて姫の大好きな、誰が悪い彼の責任という話をしましょうか?─晴明に責任がない?そんな訳がない。あの男が甘いせいで、バカなせいで、こうなっているのですから」
尊子:「なっ⁈晴明様をバカにしないでください!」
道満:「ではなぜ、手を抜いたのか?なぜ命ではなく、意識を奪いにいったのか?あの男の事です、師への情(じょう)があったんでしょう。その分、意識をたてなかった。殺しにいっていれば、それこそ、間違いなく意識を奪えただろうに、、、。手を緩めた結果が今です。日ノ本一の陰陽師という、高い実力と大きな責任がありながら、この現状です。本当に愚かとしか言い様がない」
尊子:「、、うっ、、、うっ、、」
道満:「─これ以上の問答(もんどう)は無用(むよう)でしょう。では」
尊子:「、、、うっ、、。、、うっ、、、。晴明様っ、、、。晴明様っ、、、。晴明様あああああっ!」(号泣)
道満:「─。」
0:「場面転換 間を開ける」
保憲:「おお、きたか道満」
道満:「──先生、今ならまだ間に合います。晴明に体を返し、姫と晴明に頭を下げ、二度と我々の前に姿を見せないと約束してください。甘いあの二人なら、それで許してくれます」
保憲:「──可愛い弟子の頼みだ。わかった。そうしよう。─などと素直に言う人間が、最初からこのような事をすると思うか?道満」
道満:「思いません」
保憲:「ははっ!ならなぜ聞いた?ムダを徹底的に嫌うお前が、分かりきった事を聞くとは思えんが?」
道満:「─申し訳ないと思ったからです」
保憲:「ほう?」
道満:「今となってはヘドが出る過去ですが、貴方は私の師です。そんな人物が、若さ取り戻すために、弟子の体を狙い、皇女(こうじょ)を騙し、、。挙げ句は、弟子によって殺されるなど、、。なんと醜く、なんと哀れな、、、。そう考えると、あまりにも申し訳がないのです」
保憲:「ははっ!言ってくれるではないか道満!挑発のつもりか?」
0:「高笑いをする保憲」
保憲:「──だがわかっているぞ道満、お前はムダを嫌う男だ。挑発などという、つまらんものではない。私の気を、お前の術からそらすのが狙いであろう?」
晴明(ナレーション):「そう言って保憲が一歩後ろに下がった。瞬間、床から焼けた鉄の棒が飛び出した」
道満:「やはり貴方にこのような細工(さいく)は通じませんか」
保憲:「当然だ道満!陰陽術や体術(たいじゅつ)、武器のみならず、話術(わじゅつ)も使って戦いを組み立てよと教えたのはこの私なのだから!」
道満:「では、これならばどうか?」(手を叩く)
晴明(ナレーション):「道満の足下から、6匹の狼が出現し、保憲に襲いかかった」
保憲:「どうも何も─。下らん幻術(げんじゅつ)だ。私には効かん」(手を叩く)
道満:「でしょうな」
保憲:「なにっ⁈ガッ!」
道満:「幻術は破られる事も考えて使用せよ。貴方から教わった事です。」
保憲:「やるではないか、、、。幻の狼で私の視界を塞ぎ、短刀を見えなくするとは。さすがは最強の陰陽師!」
道満:「、、、」
保憲:「では今度は私の番だ」(指を鳴らす)
道満:「!」
0:「指を鳴らした瞬間、無数の石が道満に襲いかかった」
道満:「チッ!」
保憲:「あの量の石、よくかわしたな!だがわかっているぞ!貴様のクセ!お前は自分から見て右側に逃げる!貰った!」
道満:「それはこちらの言葉です」
保憲:「ゴフッ!ガハッ!─本当にやるな道満!そこまで読んでいたか─。だが想定内!」
道満:「⁈ぐあああああ!!(足を掴み、直接雷撃を!!)」
保憲:「鉄をまとわせた手刀(しゅとう)に氷をまとわせた蹴り。いい威力だったぞ、道満。──本当にお前の相手をするのは楽しい。将棋のごとき読みあいが楽しめる!」
道満:「それは、、、どうも、、(まずい、体の痺れが、、)」
保憲:「晴明の体との同化が不完全な今の状態で、お前を相手にするのだ。飛車(ひしゃ)や角(かく)を取られる位は覚悟の上!その代わり、王は私が頂く!」
晴明(ナレーション):「倒れている道満を見下ろす保憲。道満に対して告げる」
保憲:「最後に、何か言い残す事はあるか?道満」
道満:「─勝ちを確信したその瞬間が一番危ない。そう、、晴明に言った、、そうですな、、、」
保憲:「?それがどうした?」
道満:「それは貴方も同じです!今です!姫!」
保憲:「は?グッ!」
晴明(ナレーション):「痛みが走った右肩を保憲がみると、そこには」
保憲:「?(札がつけられた短刀?)なんだk」
尊子:「晴明様を!!返して!!」(保憲の「なんだk」にかぶせるように)(言いながら手を叩く)
保憲:「─ッ?!(なんだこれはっ!?体が焼けるようにあついっ!)」
道満:「いかがですかな?1つの体に、おきている魂が2つあるご気分はッ!」
保憲:「ガッ!!」
道満:「つかせてもらいました、意表」
晴明(ナレーション):「ヒザをつく保憲、蹴り飛ばした道満。尊子との会話を思い出す」
0:「間を取る」
尊子:「、、、うっ、、。、、うっ、、、。晴明様っ、、。晴明様っ、、、。晴明様あああああっ!」(号泣)
道満:「─。」
道満:「千回に一回の奇跡、起こしてみますか?」
尊子:「、、、え?」
道満:「今となっては忌々しい話ですが、あの男は私の師です。私が可能性の高い道を選択する事なぞ、読んでいるハズ。その読みを外したいのです。ただ、姫にも手伝ってもらいますが──よろしいですかな?と、失礼。そのお顔を見るに愚問でしたな。となると。あれはどこだったか、、。ああ、ここか。では姫、こちらを」
尊子:「─この札と短刀は?」
道満:「九尾事件の際、作った術具です。簡単に言えば─魂を体からひっぺがえす術具(じゅつぐ)です。私がスキを作り、合図をします」
尊子:「それに合わせて、この短刀をさす─と?」
道満:「ええ。短刀をさし、手を叩いて下さい。そうすれば発動し、晴明の体の中に、姫の魂が飛ばされます」
晴明(ナレーション):「道満の説明ににうなずく尊子。道満は説明を続けた」
道満:「その後は、九尾の時と同じです。晴明の魂は、何かに覆われているハズ─。それを全て剥がし、晴明の魂を自由にして下さい。よろしいですか?」
尊子:「はい、わかりました」
道満:「よろしい。しかし─」
0:「回想終了」
道満:「(しかし─。魂の帰る場所である、姫の体を守る必要がある。よって、一刻も早く、晴明の魂を解放しなければならない─。時間との勝負、だな)」
保憲:「くっくっくっ。なるほど、、。この札と短刀は、、お前の術具か─。推察するに、姫の魂を私の中に入れ、晴明の魂を起こすつもりか?」
道満:「ご明察(めいさつ)。流石です」
保憲:「まさかお前がこの様な確率の低い道を選択するとは、、、!驚いたぞ!そして競争だな?姫が魂を引き剥がすのが早いか?私がお前を殺し、姫の体を破壊するのが早いか?」
道満:「(やはり見抜かれていたか。)ええ、そうです」
保憲:「面白い!本当に面白いなお前は!」
道満:「(姫。手早い解除、願いますぞ)」
0:「場面転換 間を取る」
尊子:「ぐっ、、、くっ、、」
道満(ナレーション):「道満と保憲が戦っている時、尊子は、晴明の魂をみつけ、まとわりついているツタを切っていた」
尊子:「痛ッ!!ツタを切るたびにッ、、、。道満様のお言葉通りね、、、。「術の解除には、かなりの痛みが伴う。」、、、なんのこれしきっ!」
尊子:「これを、切って、、、!ここを、こうしてっ!絶対にっ、、助けるっ、、!」
晴明:「、、ひ、、め、、、?」
尊子:「っ!晴明様ッ!良かった!目を覚まされましたか!助けに参りました!」
晴明:「助けって、、?ッ!なんですかその手はッ⁈血まみれではないですか⁈」
尊子:「道満様の術具と、九尾の封印を解除した経験からつかんだコツがあるのですが─。まだまだ未熟という事ですね。─もう少しお待ち下さい、絶対にお助けしますから!」
晴明:「─その道満殿は?」
尊子:「今、戦っておられます」
晴明:「、、、です」
尊子:「はい?」
晴明:「もう、、、結構です」
尊子:「─はい?晴明様、、、何を?」
晴明:「もう、結構です、姫。ここまで魂を自由にしていただければ、もう十分です。お体にお戻り下さい」
尊子:「、、、ここから、どうされるおつもりですか?」
晴明:「ここまで自由になれれば、霊力の流れに介入できます。介入し、流れをめちゃくちゃにしてやります。そうすれば、間違いなく道満殿が勝ちます」
尊子:「─そのやり方で、晴明様は助かりますか?」
晴明:「──姫と道満殿は助かります」
尊子:「そんなことは聞いてません。質問に答えて下さい。晴明様は助かりますか?」
晴明:「、、助かりません」
尊子:「ではダメです。戻りません」
晴明:「いいえ、お戻り下さい。」
尊子:「戻りません。清明様の魂を解放します」
晴明:「お願いですから戻って下さい、、!姫、、、!廃人になりたいのですかッ?!」
尊子:「、、、」
晴明:「その血を見るに、魂に相当な負荷がかかっているハズ!精神が壊れます!生きながらの死人(しびと)になりたいのですかッ?!」
尊子:「私なら大丈夫です!」
0:「晴明の言葉を無視してツタを切る姫、しかし─」
尊子:「─グッ!(え?急に、、手の力が、、」
晴明:「そうなって当たり前です!5年の時をかけ、少しづつ封印を解除した九尾の時とは訳が違います!先生の術を一気に解除しようというのですから!」
0:「言葉を続ける晴明」
晴明:「私なぞッ、、どうでもよろしいッ!お願いします!お戻り下さいッ!姫!」
尊子:「、、、」
晴明:「姫ッ!」
道満(ナレーション):「姫を守りたい晴明と、晴明を助けたい尊子。両者は譲れない思いをぶつけあっていた。その頃、保憲と道満は─」
保憲:「ガッ!」
道満:「グッ!(状況は5分5分だが─。ジリ貧だな)」
保憲:「くっ、、ふっ、、、くははははっ!」
道満:「何か、、ハァ、、ッ、、おかしい、、クッ、、ですかな?」
保憲:「ああ、実におかしいよ道満。お前があのような温室育ちの姫に賭けたのだから!」
道満:「、、、」
保憲:「ぬるま湯しから知らん甘い人間に、私の術を解除できるとでも?」
道満:「、、、」
保憲:「皇族の根性で私の術の解除なぞ、できるわけがない!見誤ったなあ!道満!」
道満:「、、、確かに、姫は甘い。そこは認めます。」
保憲:「そうであろう?」
道満:「しかし!しかし根性なし?貴方は尊子姫をわかっていない!」
0:「場面転換 間を取る」
尊子:「、、、晴明様。私は、生きながらの死人なんてイヤです。なりたくありません」
晴明:「ならb!」
尊子:「しかし!!」(晴明の「ならb!」にかぶせるように)
晴明:「ッ!」
尊子:「しかし、晴明様をお助けできないのはもっとイヤなのです」
晴明:「ッ!なぜ?!なぜわかっていただけないのですか⁈」(取り乱しながら)
道満(ナレーション):「取り乱す晴明。瞬間、尊子が叫んだ」
尊子:「落ち着きなされ!」
晴明:「ッ!」
尊子:「心配いりません、晴明様。解除が得意な私が、道満様お手製の術具を使っているのですから。ですから落ち着いて下さい、かっこいいお顔が台無しですよ?」
晴明:「姫、、、」
道満(ナレーション):「尊子は深く息を吸い、一息に叫び、それと同時に一気にツタを切り始めた」
尊子:「今度は、私が晴明様のお力になる番です!お約束します!晴明様を助けます!誰一人として死にません!私も廃人になんかなりません!」
尊子:「初恋の人を!!諦めてなるものですか!!!」
道満(ナレーション):「尊子が最後のツタを切ったその瞬間だった」
保憲:「ウッ、、!グッ!この、、痛み、、まさ、、k、、ァァアアアァァ!!」
道満:「ハァ、、ッ、、ハァ、、。やっと、、ですか、、。待ちくたびれましたぞ、、姫、、。グッ!」
晴明(ナレーション):「晴明の体が目映く光り、膨大な霊力が渦を巻いて野分け(のわけ)の如き勢いであふれ出た。それと同時に、保憲と尊子の魂がはじき出された」
保憲:「ク、クソッ、、。こんな、、、こんな所でっ、、。まだだっ!体に戻りさえればまだっ!!」
道満:「─見苦しいですぞ、先生」
保憲:「ど、道満、、、」
道満:「─ご安心ください。この事は口外しません故。先生は突然死したという事で処理しておきます」
保憲:「き、貴様、、、」
道満:「先程も言いましたが、若さを取り戻すために、弟子の体を狙い、皇女(こうじょ)を騙し─。あげくは返り討ちにあったなど─余りにも醜い話ですからなあ。あの賀茂保憲の名に、このような汚点が残るなど、元弟子としてあまりにもしのびない」
保憲:「ぁ、ぁ、、、」
道満:「さようなら、賀茂先生」
晴明(ナレーション):「道満が放った黒炎が、保憲の魂を焼いた。元日ノ本最強の陰陽師・賀茂保憲、ここに散る」
道満:「ふう、、。さて、二人とm、、、(今声をかけるのは野暮か)」
保憲(ナレーション):「道満が振り向いて目をやった先には、気を失いながらも、抱きしめあう晴明と尊子姫の姿があった」
道満:「尊子姫の、陰陽術の指南役(しなんやく)になれ?」
晴明:「はい。お願いできませんか、道満殿」
道満:「答える以前に、話が急すぎて見えない。最初から説明しろ」
晴明:「これは失敬(しっけい)。実はですな─」
0:「回想はじめ」
尊子:「晴明様、私に、陰陽術の指南をつけてください。護身の術(すべ)を身につけたいのです」
晴明:「姫、何をまた急に」
尊子:「数ヶ月前の九尾事件(きゅうびじけん)にて痛感(つうかん)したのです。力が無ければ、どんなに高い理想を持っていてもどうしようもないのだと。あの時、私が無力なばかりに、守るべき大事な民草(たみくさ)である皆様に守られ、皆様の命を危険にさらしてしまいました。あのような事は、もう二度とあってはならないのです」
晴明:「─それで、ご自分の身くらいはご自分で守りたいと?その為の指南役になってほしいと?」
尊子:「はい、その通りです。お願いいたします、晴明様」
晴明:「そういう事ならば、わかりました。この晴明、つつしんでお引き受けしましょう」
尊子:「やった!」
晴明:「と、言いたい所なのですが、、、」
尊子:「─はい?」
晴明:「申し訳ありません、私でなければならない任務が色々とありまして、、。お引き受けしたいのはやまやまなのですが、、。」
尊子:「、、、」
晴明:「本当に申し訳ありません、、、」
尊子:「いえ、こちらこそ、晴明様のご事情を考えず、申し訳ありませんでした、、、。(晴明様と二人きりになれると思ったのに、、、)」
0:「回想おわり」
晴明:「この様な事がありましてな。腕の立つ陰陽師を探しているのです。道満殿、お願いできませんか?」
道満:「バカなのか?貴様は。あのな、私にも、私でなければならない任務があるのだ」
晴明:「ですよなあ」
0:「溜息をつき、残念そうな晴明」
晴明:「ダメもとで頼んでみたのですが。やはりバカなお願いでしたな、申し訳ない」
道満:「(そういう意味だけで言ったのではないのだが─。まあいい)所詮は皇族(こうぞく)の手習いだろう?暇している陰陽師から、テキトーに選べばよいではないか」
晴明:「そういうわけにはいきません!腕の立つ陰陽師でなければ、姫に失礼です!」
道満:「(クソマジメな、、、)しかし、ヒマしている陰陽術の名手(めいしゅ)など、そうそうおらんぞ」
晴明:「そうなのです。参りましたなあ、、」
0:「考え込んでいた晴明だったが、思いついたように声をあげた」
晴明:「あっ!」
道満:「どうした?」
晴明:「います!陰陽術の名手で!あまり忙しくないお方が!」
道満:「──おい、まさか─。加茂(かも)先生か?」
晴明:「ええ、そうです!われらの師、加茂保憲(かもの やすのり)先生にお願いしましょう!」
0:「場面転換 間を開ける」
晴明:「姫。こちらは、私と道満殿の師匠の賀茂保憲先生です。賀茂先生、こちら、指南をお願いした尊子姫様です。」
保憲:「お初におめにかかります。賀茂保憲と申します。かなり前に隠居した身でありながら、このようなお役目を頂けた事、光栄に思います。よろしくお願いいたします」
尊子:「お初にお目にかかります。尊子と申します。晴明様や道満様の師匠である、保憲様を指南役として迎えられたこと、うれしく思います。こちらこそ、よろしくお願いします」
晴明:「姫、賀茂先生は、何十年も陰陽術を研鑽(けんさん)し続けてきた、いわば達人です。」
0:「師の紹介を続ける晴明」
晴明:「前の九尾事件の時、崇徳院(すとくいん)の封印を張りなおすために讃岐(さぬき)に行っていただけで、本来ならば姫の護衛役として、あの場にいたであろうお方です。私や道満殿に並ぶ力をお持ちの陰陽師です」
尊子:「まあ!そのようなお方を、、、ありがとうございます、晴明様」
保憲:「はっはっはっは。晴明、、お前は師を立てることを忘れない良き弟子だ、、。嬉しいよ。しかし、間違った情報を姫様に教えるでない。今の私の力は、お前達二人より下だ」
晴明:「いやいや、ご謙遜(けんそん)を」
保憲:「謙遜なものか─。よいですか?姫様。確かに全盛期の実力は今の晴明達より上です、が、現在は衰えています。今の私は、二人に次ぐ、日ノ本で三番目の陰陽師といった所です」
晴明:「お言葉ですが先生、七つの時に先生に師事して以来、先生を超えたと思った事はありません」
保憲:「はっはっはっは。本当にいい弟子だよ、お前は。こんな弟子を持てた私は幸せ者だ」
晴明:「私の方こそ、先生のような師を持てて、幸せ者です。─おや?どうされました?姫、怪訝(けげん)なお顔をされて」
尊子:「その、、初対面の方にこのような質問は失礼だとはわかっているのですが─今までのお話と、、その、、保憲様のお見た目が─」
保憲:「ああ、この姿ですか。お恥ずかしい話ですが、私は、老いた自分が嫌いでして。霊力(れいりょく)を制御し、二十代の声と見た目で人前に出るようにしているのです」
尊子:「そんな事ができるんですか⁈」
晴明:「普通はムリです。私にもできません」
保憲:「はっはっは。稀男(まれおとこ)のお前にはそもそもいらん技術さ。─さて、無駄話はこのくらいにして、早速修行にはいりますか。まずは、陰陽術の命たる、集中力を研ぎ澄ます修行から」
尊子:「はい、よろしくお願いします!」
晴明:「(やる気満々ですなあ)」
保憲:「よいお返事大変結構。では姫様、あぐらをかき、この石を利手(ききて)で握ってください。─そう言えば晴明、用事があると言ってなかったか?」
晴明:「あっ!そうでした、、。申し訳ありません、姫、先生。私はここで失礼します。姫、頑張って下さい」
尊子:「ありがとうございます!晴明様!」
保憲:「─さて、姫様。再開しますか」
尊子:「はい。あの、保憲様、この石は一体?」
保憲:「それはですな、、、まあ、やってみればわかります。手は膝の上に、そして目を閉じ、何も考えず深呼吸して下さい」
尊子:「はい、わかりました」(深呼吸を行う)
保憲:「そうそう、その調子です。──そう言えばですが、姫様。晴明が言っておりました。尊子姫は本当に可愛らしいお方だと。尊子姫と出会えた自分は天下一(てんかいち)の幸せ者だと」
尊子:「えっ//そ、それは本当なのですか?//」
晴明(ナレーション):「尊子が喜んだその瞬間だった」
尊子:「⁉─ッ⁉(石から痛みが?!)」
保憲:「─とまあこのように、集中を乱すと、石から痛みを与えられます。おわかりいただけましたかな?」
尊子:「わ、わかりました」
保憲:「よろしい。ではもう一度」
尊子:「ちなみにですが、、」
保憲:「はい?」
尊子:「//ち、ちなみにですが、今の晴明様のお話は、本当なのでしょうか?//」
保憲:「作り話です。今、テキトーに作りました」
尊子:「あ、そうでしたか、、、」
保憲:「─ご安心ください、姫様。今の事は誰にも言いません故。(本当にテキトーに作ったのだが、、図星(ずぼし)をついてしまったか)」
尊子:「ありがとうございます、、そうしていただけると助かります、、」
晴明(ナレーション):「そして指南開始から数ヶ月がたった」
保憲:「姫様は天才です。わずか数ヶ月の指南ですが、陰陽師として一人前の実力です。私が保証します」
尊子:「いえいえ、保憲様のご指導の賜物(たまもの)でございます」
晴明:「そうご謙遜なさいますな。私も先程拝見させていただきましたが、先生のおっしゃるとおり、姫様はもう一人前の陰陽師です。特に、解呪(かいじゅ)の練度が本当に素晴らしい。薩摩(さつま)に、山賊(さんぞく)の討伐に行った頼光殿が帰ってこられたら驚かれますぞ」
尊子:「//ありがとうございます。晴明様」
保憲:「ええ、晴明の言うとおりです。解呪のコツの習得の早さ、素人とは思えませんでした」
尊子:「ありがとうございます。恐らくは、弘法大師(こうぼうだいし)様がかけた九尾の封印を、5年かけて解いた体験が生きているのでしょう」
保憲:「─これは失礼しました。、、時に姫様、免許皆伝(めんきょかいでん)の試験、、のような物を受ける気はありませんかな?」
尊子:「試験、、ですか?」
晴明:「ああ、あれですか。私や道満殿も受けました。姫なら大丈夫です」
尊子:「─どんな内容だったのでしょう?」
晴明:「夜の森で、数十匹の妖怪を一人で倒すだけです。簡単でした」
尊子:「かん、、、たん、、、?」
晴明:「ええ、簡単でした。」
保憲:「はっはっはっ。大丈夫です、姫様。晴明や道満は、戦闘向きの陰陽師だからそういう試験にしただけです。姫様に課す試験は、そんな血なまぐさい内容にはしませぬ」
尊子:「ほっ。わかりました。試験、お受けします」
保憲:「内容や日時、場所は、おってお伝えします。ああ、晴明。補助として、お前もきてくれないか?危険な試験にするつもりはないが、もしものためだ。石橋を叩いて渡りたい」
晴明:「わかりました。──姫なら大丈夫です。私も先生もついています。肩の力を抜いて受けて下さい」
尊子:「ありがとうございます、晴明様。頑張ります!」
晴明(ナレーション):「後日、試験の日時と場所が尊子に伝えられた。月が紅く満ちる夜の子一時(ねいつどき)に、とある廃寺(はいでら)にて行うと。そして、その日がやってきた」
尊子:「こんばんは、保憲様。よろしくお願いします」
保憲:「こんばんは。こちらこそ、よろしくお願いします。──では、早速はじめましょう。この箱と札をお持ち下さい」
尊子:「?晴明様は待たないのでしょうか?」
保憲:「ええ。なんでも、陰陽師の会合(かいごう)が急に入ったとか。いつ終わるかわからないから、先に始めていてほしいと」
尊子:「わかりました」
保憲:「内容は前にお伝えした通り、とある魂を降ろす儀式です。その箱を持ち、札に書かれてある呪文を、ゆっくりで結構ですので唱えてください。」
尊子:「──あの、ずっと思っていたのですが、なんの魂を降ろすのでしょうか?」
保憲:「それは降ろしてからのお楽しみです、姫様」
尊子:「わかりました。では、──「しいに・まれま・まこい・こさた・よよるえ」」
保憲:「では、その箱を私に。──おめでとうございます、姫。成功です!」
尊子:「やった!」
保憲:「素晴らしいですぞ、姫様。まさか一発で成功とは」
尊子:「ありがとうございます。頑張った甲斐がありました。─それで、一体なんの魂を降ろしたのでしょう?」
保憲:「九尾です」
尊子:「はい?」
保憲:「九尾の魂を降ろしたのです」
尊子:「保憲様、笑えない冗談はやめて下さいまし」
保憲:「冗談などではありません。九尾の魂を降ろしたのです。ああ、意味がわからないというお顔ですね。では説明します。─見たいのですよ、私は。晴明にも匹敵する霊的潜在能力を有する人物の中に、九尾の魂を入れたらどうなるのか?見たいのです!」
尊子:「、、!(く、狂ってる!)」
保憲:「さあ、姫様、九尾の器になってください!」
尊子:「イヤっ!!こないでっ!」
道満(ナレーション):「保憲が襲いかかったその瞬間だった」
晴明:「お辞めなさい!!」
保憲:「ガッ!」
晴明:「危ないところでしたな、姫。お怪我はありませんか?」
尊子:「晴明様!」
0:「晴明が跳び蹴りを保憲に見舞ったのだった」
晴明:「よかった。大丈夫なようですな。しかしここは危険です。お下がりくd」
保憲:「晴明、、!お前には子二つ時(ねふたつどき)だと伝えたハズだが、、、!ああ、そうだった!お前は集合時間の一時(いっとき)前には必ず来る、律儀な性格をしていたな!忘れていたよ、、!」(晴明の「お下がりくd」にかぶせるように」
晴明:「先生!ご自分が何をしているのか、わかっておいですか⁈」
保憲:「何って、、ただ単に、自分の好奇心を満たしたいのさ!お前も陰陽師ならわかるだろう?!陰陽術への探求心が抑えられんのだ!その邪魔をするというのなら、、殺してやる!晴明!」(手を叩く)
晴明:「!」(指を鳴らす)
保憲:「やるな晴明!結界で熱湯を遮断したか!」
晴明:「これで頭を冷やしなさい!先生!」(手を叩く)
保憲:「初撃は必ず氷塊(ひょうかい)を相手の右側から放つクセ!変わっておらんなあ、晴明!」
晴明:「先生の方こそ、相手の攻撃を真後ろに一歩下がってよけるクセ!変わってませんね!」
保憲:「ガッ!(!!氷塊を炸裂させて、、!)」
晴明:「─ふう」
0:「泣きながら晴明に飛びつく尊子姫」
尊子:「晴明様っ!」
晴明:「おっと。もう大丈夫ですよ、姫様。意識を奪いましたから。ですから涙をお止めください、可愛いお顔が台無しですよ?」
尊子:「はい//」
晴明:「それでは、姫。少々お待ち下さい。先生を縛り上げますK」
保憲:「勝ったと思った瞬間が一番危ない。そう教えたハズだぞ、晴明」(晴明の「先生を縛り上げますK」にかぶせるように)
晴明:「な?!」」(二人同時に)
尊子:「っ!」(二人同時に)
保憲:「にそよ・こしらだ・わかたせの!」
晴明:「クッ!」
尊子:「、、!(まぶしいっ、、、!)」
0:「目映い光に目をとじた尊子。目をあけるとー」
尊子:「─どうなったのかし、、、晴明様っ!大丈夫ですか!?」
道満(ナレーション):「晴明と保憲が倒れていた。尊子が晴明に駆け寄ろうとしたその瞬間だった」
保憲:「くっ、、ふっ、、、くははははっ!」
尊子:「え、、?晴明、、、様、、、?」
保憲:「はははははっ!成功だ!手に入れたぞ!晴明の体!狙い通りだ!!!」
尊子:「どういう、、事、、、?なんで、、、晴明様の、、お体、、、なのに、、声が、、、」
晴明(ナレーション):「困惑する尊子に興奮した声で保憲はこたえる」
保憲:「ああ、、、。姫様。最初から、これが狙いだったのですよ。九尾の魂を姫様の体に入れる?そんな何がおこるかわからない事、やるわけがないでしょう。晴明の早めに行動するクセ?忘れる訳がないでしょう!可愛い弟子なのだから!全ては!この晴明の体がほしくてやったことです!」
尊子:「─ッ!なんでっ、なんでこんな事をっ⁈晴明様はどうなったのです⁈」
保憲:「──1つずつお答えしましょう。まず理由ですが、、前に話したでしょう?衰えた自分が嫌いだと。──私は陰陽術を永久に探求したいのです、、、。しかし、、年と共に衰える肉体に霊力、、、」
保憲:「嫌だっ!醜い自分は嫌だっ!もっと陰陽術を極めたいっ!そのためにっ!高い霊力を持つ、若い肉体が欲しくてたまらなかったのですよ!」
尊子:「そんな、、、そんな事のためにっ、、、!」
保憲:「そんな事、、?はっ!若い姫様にはわからんでしょうなあ、、日に日にます衰える自分への嫌悪!そんな中、晴明が指南役の話を持って来た時の高揚(こうよう)!」
保憲:「天佑(てんゆう)だと思いましたよ!ああ、これで衰えた醜い自分とおさらばできると!」
尊子:「じゃあ、、最初から、、」
保憲:「ええ、最初からこうするつもりでした、、。あぁ、、まだ答えていませんでしたな、、。晴明がどうなったかについて、、。晴明の魂は、この体の中で眠っています、、。まあ、、、私の魂と晴明の肉体の同化が、完全なものになった時、、、日の出の頃でしょうか、、、その時に消えますが、、」
保憲:「──さて姫様、貴方はもう用済みです。さようなら」
尊子:「!いやっ!いやあああああ!」
晴明(ナレーション):「氷の刀をふりおろした保憲。─だが、刃は空をきった」
道満:「嫌な予感がするから来たのですが、、正解でしたな」
尊子:「道満様っ!」
保憲:「道満、、。お前には試験の話自体、してないのだがなあ、、。晴明か姫様にでも聞いたか?」
道満:「、、(この声、この口ぶり─まさかとは思うが。)姫。ここは一端、私の屋敷にひきます」(手を叩く)
保憲:「─瞬間移動─。いったか」
0:「道満の屋敷に移動したふたり」
道満:「──さて、姫。大体予想はつきますが、何があったか、詳しくお聞かせ願えますかな」
尊子:「はい、、、」
晴明(ナレーション):「姫は泣きながら道満に語った」
尊子:「─以上のような経緯でっ、、、。晴明様のっ、、、お体がっ、、」
道満:「─わかりました。─では姫、この紙を、家の者にお渡し下さい。すぐに武士と陰陽師が招集されるでしょう。私は一足先にあの廃寺に戻ります」
尊子:「っ!私もいきますっ!私にもできる事があるはずですっ!」
道満:「はぁ、、、。ありませんな、何も。大人しくお待ち下さい」
尊子:「バカにしないでくださいっ!私とてっ!実力は一人前の陰陽師です!晴明様にも認めていただきましたっ!」
道満:「ええ、それは認めます」
尊子:「だったら!」
道満:「私からすれば、まだまだ「未熟」」
尊子:「っ?!(何この霊力っ⁈)」
0:「霊力で威圧した道満」
道満:「─私からすれば、まだまだ「未熟」です。私の戦闘には、足手まといです。わかったら大人しくお待ち下さい」
尊子:「はい、、、」
道満:「では、私は廃寺に戻り、晴明の魂ごとあの男を殺します。相打ちになってでも」
尊子:「、、今、、なんと、、、?」
道満:「おや、おかしいですなあ。この距離で聞こえませんでしたか」
尊子:「そういうお話しではありませんっ!なぜ晴明様までっ?!晴明様は何も悪い事をしていないのにっ!晴明様の責任ではないのにっ!」
道満:「それが一番現実的だからです、姫」
尊子:「お願いします!九尾の時みたいに、誰も死なない方法をお考え下さい!清明様をお助け下さい!」
道満:「──大概にしていただけますかな、姫」
尊子:「、、え、、?」
道満:「九尾の時みたいに?あれは本当に奇跡です。奇跡的に誰も死ななかったのです」
晴明(ナレーション):「道満は続けた」
道満:「私は晴明や頼光みたいな、優しいを通り越して、甘いに両足突っ込んでいる人間ではありません。よってハッキリ言います。あれ以上時間を無駄にしたくないから、あの時は黙っていましたが──あの約束、、甘いのですよ。最強の妖怪・九尾を相手に誰も死なない?甘すぎる。笑わせないでいただきたい」
尊子:「っ、、、」
道満:「そして今回、日ノ本一の陰陽師の肉体をのっとった、日ノ本で三番目に強い陰陽師を敵にして、誰も死なない─?甘すぎます。皇女を騙し、弟子の体を乗っ取るような狂人(きょうじん)相手に、そんな千回中一回成功すれば万々歳(ばんばんざい)な道を、採るわけにはいきませんな」
尊子:「そん、、な、、、」
道満:「そもそも、誰が悪いとか彼の責任とか、もはやどうでもよいのです。この現実に、どうやって対処するかが一番の問題なのですから。─まあ、私が戦ったところで、勝てる可能性は百回に一回でしょう。しかし、相討ちに持ち込める可能性なら、五十回に一回程度はあります。それができなくても、都中の武士と陰陽師を総動員すれば、なんとか殺せる程度のキズを入れられる可能性が、十回に一回位はあります」
尊子:「、うっ、、。、、うっ、、」
晴明(ナレーション):「再び泣き出す尊子、道満は無視して続けた」
道満:「それくらいの難敵なのです、今夜の相手は。であるにも関わらず、誰も死なない?本当に大概にしていただきたい。わかりませんか?ここであの男を討てなくては、もはや頼れるのは、薩摩(さつま)に行っている頼光と、奴の四天王(してんのう)達だけになるという現実が。あの5人が戻ってくるまでに、何人の罪なき人間が、あの狂人の毒牙(どくが)にかかるか、、。それでも、あの5人が勝てるのなら、それならばまだよろしい。しかし、そんな保証はどこにもありません。あの5人が負ければ、この日ノ本はおわりです。そういう事態なのです」
尊子:「はいっ、、、。わかりっ、、、ましたっ、、」
道満:「ああ、あえて姫の大好きな、誰が悪い彼の責任という話をしましょうか?─晴明に責任がない?そんな訳がない。あの男が甘いせいで、バカなせいで、こうなっているのですから」
尊子:「なっ⁈晴明様をバカにしないでください!」
道満:「ではなぜ、手を抜いたのか?なぜ命ではなく、意識を奪いにいったのか?あの男の事です、師への情(じょう)があったんでしょう。その分、意識をたてなかった。殺しにいっていれば、それこそ、間違いなく意識を奪えただろうに、、、。手を緩めた結果が今です。日ノ本一の陰陽師という、高い実力と大きな責任がありながら、この現状です。本当に愚かとしか言い様がない」
尊子:「、、うっ、、、うっ、、」
道満:「─これ以上の問答(もんどう)は無用(むよう)でしょう。では」
尊子:「、、、うっ、、。、、うっ、、、。晴明様っ、、、。晴明様っ、、、。晴明様あああああっ!」(号泣)
道満:「─。」
0:「場面転換 間を開ける」
保憲:「おお、きたか道満」
道満:「──先生、今ならまだ間に合います。晴明に体を返し、姫と晴明に頭を下げ、二度と我々の前に姿を見せないと約束してください。甘いあの二人なら、それで許してくれます」
保憲:「──可愛い弟子の頼みだ。わかった。そうしよう。─などと素直に言う人間が、最初からこのような事をすると思うか?道満」
道満:「思いません」
保憲:「ははっ!ならなぜ聞いた?ムダを徹底的に嫌うお前が、分かりきった事を聞くとは思えんが?」
道満:「─申し訳ないと思ったからです」
保憲:「ほう?」
道満:「今となってはヘドが出る過去ですが、貴方は私の師です。そんな人物が、若さ取り戻すために、弟子の体を狙い、皇女(こうじょ)を騙し、、。挙げ句は、弟子によって殺されるなど、、。なんと醜く、なんと哀れな、、、。そう考えると、あまりにも申し訳がないのです」
保憲:「ははっ!言ってくれるではないか道満!挑発のつもりか?」
0:「高笑いをする保憲」
保憲:「──だがわかっているぞ道満、お前はムダを嫌う男だ。挑発などという、つまらんものではない。私の気を、お前の術からそらすのが狙いであろう?」
晴明(ナレーション):「そう言って保憲が一歩後ろに下がった。瞬間、床から焼けた鉄の棒が飛び出した」
道満:「やはり貴方にこのような細工(さいく)は通じませんか」
保憲:「当然だ道満!陰陽術や体術(たいじゅつ)、武器のみならず、話術(わじゅつ)も使って戦いを組み立てよと教えたのはこの私なのだから!」
道満:「では、これならばどうか?」(手を叩く)
晴明(ナレーション):「道満の足下から、6匹の狼が出現し、保憲に襲いかかった」
保憲:「どうも何も─。下らん幻術(げんじゅつ)だ。私には効かん」(手を叩く)
道満:「でしょうな」
保憲:「なにっ⁈ガッ!」
道満:「幻術は破られる事も考えて使用せよ。貴方から教わった事です。」
保憲:「やるではないか、、、。幻の狼で私の視界を塞ぎ、短刀を見えなくするとは。さすがは最強の陰陽師!」
道満:「、、、」
保憲:「では今度は私の番だ」(指を鳴らす)
道満:「!」
0:「指を鳴らした瞬間、無数の石が道満に襲いかかった」
道満:「チッ!」
保憲:「あの量の石、よくかわしたな!だがわかっているぞ!貴様のクセ!お前は自分から見て右側に逃げる!貰った!」
道満:「それはこちらの言葉です」
保憲:「ゴフッ!ガハッ!─本当にやるな道満!そこまで読んでいたか─。だが想定内!」
道満:「⁈ぐあああああ!!(足を掴み、直接雷撃を!!)」
保憲:「鉄をまとわせた手刀(しゅとう)に氷をまとわせた蹴り。いい威力だったぞ、道満。──本当にお前の相手をするのは楽しい。将棋のごとき読みあいが楽しめる!」
道満:「それは、、、どうも、、(まずい、体の痺れが、、)」
保憲:「晴明の体との同化が不完全な今の状態で、お前を相手にするのだ。飛車(ひしゃ)や角(かく)を取られる位は覚悟の上!その代わり、王は私が頂く!」
晴明(ナレーション):「倒れている道満を見下ろす保憲。道満に対して告げる」
保憲:「最後に、何か言い残す事はあるか?道満」
道満:「─勝ちを確信したその瞬間が一番危ない。そう、、晴明に言った、、そうですな、、、」
保憲:「?それがどうした?」
道満:「それは貴方も同じです!今です!姫!」
保憲:「は?グッ!」
晴明(ナレーション):「痛みが走った右肩を保憲がみると、そこには」
保憲:「?(札がつけられた短刀?)なんだk」
尊子:「晴明様を!!返して!!」(保憲の「なんだk」にかぶせるように)(言いながら手を叩く)
保憲:「─ッ?!(なんだこれはっ!?体が焼けるようにあついっ!)」
道満:「いかがですかな?1つの体に、おきている魂が2つあるご気分はッ!」
保憲:「ガッ!!」
道満:「つかせてもらいました、意表」
晴明(ナレーション):「ヒザをつく保憲、蹴り飛ばした道満。尊子との会話を思い出す」
0:「間を取る」
尊子:「、、、うっ、、。、、うっ、、、。晴明様っ、、。晴明様っ、、、。晴明様あああああっ!」(号泣)
道満:「─。」
道満:「千回に一回の奇跡、起こしてみますか?」
尊子:「、、、え?」
道満:「今となっては忌々しい話ですが、あの男は私の師です。私が可能性の高い道を選択する事なぞ、読んでいるハズ。その読みを外したいのです。ただ、姫にも手伝ってもらいますが──よろしいですかな?と、失礼。そのお顔を見るに愚問でしたな。となると。あれはどこだったか、、。ああ、ここか。では姫、こちらを」
尊子:「─この札と短刀は?」
道満:「九尾事件の際、作った術具です。簡単に言えば─魂を体からひっぺがえす術具(じゅつぐ)です。私がスキを作り、合図をします」
尊子:「それに合わせて、この短刀をさす─と?」
道満:「ええ。短刀をさし、手を叩いて下さい。そうすれば発動し、晴明の体の中に、姫の魂が飛ばされます」
晴明(ナレーション):「道満の説明ににうなずく尊子。道満は説明を続けた」
道満:「その後は、九尾の時と同じです。晴明の魂は、何かに覆われているハズ─。それを全て剥がし、晴明の魂を自由にして下さい。よろしいですか?」
尊子:「はい、わかりました」
道満:「よろしい。しかし─」
0:「回想終了」
道満:「(しかし─。魂の帰る場所である、姫の体を守る必要がある。よって、一刻も早く、晴明の魂を解放しなければならない─。時間との勝負、だな)」
保憲:「くっくっくっ。なるほど、、。この札と短刀は、、お前の術具か─。推察するに、姫の魂を私の中に入れ、晴明の魂を起こすつもりか?」
道満:「ご明察(めいさつ)。流石です」
保憲:「まさかお前がこの様な確率の低い道を選択するとは、、、!驚いたぞ!そして競争だな?姫が魂を引き剥がすのが早いか?私がお前を殺し、姫の体を破壊するのが早いか?」
道満:「(やはり見抜かれていたか。)ええ、そうです」
保憲:「面白い!本当に面白いなお前は!」
道満:「(姫。手早い解除、願いますぞ)」
0:「場面転換 間を取る」
尊子:「ぐっ、、、くっ、、」
道満(ナレーション):「道満と保憲が戦っている時、尊子は、晴明の魂をみつけ、まとわりついているツタを切っていた」
尊子:「痛ッ!!ツタを切るたびにッ、、、。道満様のお言葉通りね、、、。「術の解除には、かなりの痛みが伴う。」、、、なんのこれしきっ!」
尊子:「これを、切って、、、!ここを、こうしてっ!絶対にっ、、助けるっ、、!」
晴明:「、、ひ、、め、、、?」
尊子:「っ!晴明様ッ!良かった!目を覚まされましたか!助けに参りました!」
晴明:「助けって、、?ッ!なんですかその手はッ⁈血まみれではないですか⁈」
尊子:「道満様の術具と、九尾の封印を解除した経験からつかんだコツがあるのですが─。まだまだ未熟という事ですね。─もう少しお待ち下さい、絶対にお助けしますから!」
晴明:「─その道満殿は?」
尊子:「今、戦っておられます」
晴明:「、、、です」
尊子:「はい?」
晴明:「もう、、、結構です」
尊子:「─はい?晴明様、、、何を?」
晴明:「もう、結構です、姫。ここまで魂を自由にしていただければ、もう十分です。お体にお戻り下さい」
尊子:「、、、ここから、どうされるおつもりですか?」
晴明:「ここまで自由になれれば、霊力の流れに介入できます。介入し、流れをめちゃくちゃにしてやります。そうすれば、間違いなく道満殿が勝ちます」
尊子:「─そのやり方で、晴明様は助かりますか?」
晴明:「──姫と道満殿は助かります」
尊子:「そんなことは聞いてません。質問に答えて下さい。晴明様は助かりますか?」
晴明:「、、助かりません」
尊子:「ではダメです。戻りません」
晴明:「いいえ、お戻り下さい。」
尊子:「戻りません。清明様の魂を解放します」
晴明:「お願いですから戻って下さい、、!姫、、、!廃人になりたいのですかッ?!」
尊子:「、、、」
晴明:「その血を見るに、魂に相当な負荷がかかっているハズ!精神が壊れます!生きながらの死人(しびと)になりたいのですかッ?!」
尊子:「私なら大丈夫です!」
0:「晴明の言葉を無視してツタを切る姫、しかし─」
尊子:「─グッ!(え?急に、、手の力が、、」
晴明:「そうなって当たり前です!5年の時をかけ、少しづつ封印を解除した九尾の時とは訳が違います!先生の術を一気に解除しようというのですから!」
0:「言葉を続ける晴明」
晴明:「私なぞッ、、どうでもよろしいッ!お願いします!お戻り下さいッ!姫!」
尊子:「、、、」
晴明:「姫ッ!」
道満(ナレーション):「姫を守りたい晴明と、晴明を助けたい尊子。両者は譲れない思いをぶつけあっていた。その頃、保憲と道満は─」
保憲:「ガッ!」
道満:「グッ!(状況は5分5分だが─。ジリ貧だな)」
保憲:「くっ、、ふっ、、、くははははっ!」
道満:「何か、、ハァ、、ッ、、おかしい、、クッ、、ですかな?」
保憲:「ああ、実におかしいよ道満。お前があのような温室育ちの姫に賭けたのだから!」
道満:「、、、」
保憲:「ぬるま湯しから知らん甘い人間に、私の術を解除できるとでも?」
道満:「、、、」
保憲:「皇族の根性で私の術の解除なぞ、できるわけがない!見誤ったなあ!道満!」
道満:「、、、確かに、姫は甘い。そこは認めます。」
保憲:「そうであろう?」
道満:「しかし!しかし根性なし?貴方は尊子姫をわかっていない!」
0:「場面転換 間を取る」
尊子:「、、、晴明様。私は、生きながらの死人なんてイヤです。なりたくありません」
晴明:「ならb!」
尊子:「しかし!!」(晴明の「ならb!」にかぶせるように)
晴明:「ッ!」
尊子:「しかし、晴明様をお助けできないのはもっとイヤなのです」
晴明:「ッ!なぜ?!なぜわかっていただけないのですか⁈」(取り乱しながら)
道満(ナレーション):「取り乱す晴明。瞬間、尊子が叫んだ」
尊子:「落ち着きなされ!」
晴明:「ッ!」
尊子:「心配いりません、晴明様。解除が得意な私が、道満様お手製の術具を使っているのですから。ですから落ち着いて下さい、かっこいいお顔が台無しですよ?」
晴明:「姫、、、」
道満(ナレーション):「尊子は深く息を吸い、一息に叫び、それと同時に一気にツタを切り始めた」
尊子:「今度は、私が晴明様のお力になる番です!お約束します!晴明様を助けます!誰一人として死にません!私も廃人になんかなりません!」
尊子:「初恋の人を!!諦めてなるものですか!!!」
道満(ナレーション):「尊子が最後のツタを切ったその瞬間だった」
保憲:「ウッ、、!グッ!この、、痛み、、まさ、、k、、ァァアアアァァ!!」
道満:「ハァ、、ッ、、ハァ、、。やっと、、ですか、、。待ちくたびれましたぞ、、姫、、。グッ!」
晴明(ナレーション):「晴明の体が目映く光り、膨大な霊力が渦を巻いて野分け(のわけ)の如き勢いであふれ出た。それと同時に、保憲と尊子の魂がはじき出された」
保憲:「ク、クソッ、、。こんな、、、こんな所でっ、、。まだだっ!体に戻りさえればまだっ!!」
道満:「─見苦しいですぞ、先生」
保憲:「ど、道満、、、」
道満:「─ご安心ください。この事は口外しません故。先生は突然死したという事で処理しておきます」
保憲:「き、貴様、、、」
道満:「先程も言いましたが、若さを取り戻すために、弟子の体を狙い、皇女(こうじょ)を騙し─。あげくは返り討ちにあったなど─余りにも醜い話ですからなあ。あの賀茂保憲の名に、このような汚点が残るなど、元弟子としてあまりにもしのびない」
保憲:「ぁ、ぁ、、、」
道満:「さようなら、賀茂先生」
晴明(ナレーション):「道満が放った黒炎が、保憲の魂を焼いた。元日ノ本最強の陰陽師・賀茂保憲、ここに散る」
道満:「ふう、、。さて、二人とm、、、(今声をかけるのは野暮か)」
保憲(ナレーション):「道満が振り向いて目をやった先には、気を失いながらも、抱きしめあう晴明と尊子姫の姿があった」