台本概要
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タイトル | ひなたの物語 |
---|---|
作者名 | 橘りょう (@tachibana390) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
「ひなた」目線の一人読み 性別不問 語尾など変更して貰っていいです お知らせは強制ではありませんが、教えて貰うととても作者が喜びます。 作品名、作者名、台本リンクのいずれか2点の明記をお願いします。 354 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ひなた | 不問 | 23 | 読み手 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ひなた:随分と長い夢を見ていたような気がする。
:
ひなた:目を覚ますと、冬のやわらかな日差しに照らされた縁側に寝転んでいた。
ひなた:風はなく、遠くで何かの鳥が囀(さえ)ずっている。一体、私はいつの間にここへ移動したのだろう。記憶を探ってみても、まったく覚えが無い。
ひなた:確か、部屋のベッドで転がっていたはずなのだ。
ひなた:お姉ちゃんの部屋は窓辺にベッドが置いてあって、そこには日が当たって昼間はとても心地よい。あまりにも気持ちいいからうとうとしていると「部屋にこもってないで」と、家族が呼びに来る。
ひなた:そして、追い出されるようにそこを後にするのだが、今日はみんな外出していて誰にも邪魔されない筈だったのに。
:
:
ひなた:…いつの間にか縁側にいる。何か損をした気分だ。
ひなた:縁側も気持ちがよかったけれど、ここで昼寝をしていると近所のおばさんが通る度に声をかけてくる。あらあら気持ち良さそうねぇ、なんて笑いながら。
ひなた:分かってるなら放っておいてよ、と思うけどさすがにそれは言えないから、適当に愛想を返しておく。
:
:
ひなた:とても、静かだ。
ひなた:いつもならお姉ちゃんやお父さんの会話、お母さんのパタパタという足音、テレビ、水、電話…いろんな音が聞こえるのに。
:
:
ひなた:私は親の顔を知らない。
ひなた:兄妹がいたようにも思うが、記憶はあやふやで覚えていない。
ひなた:気がついた時には施設に引き取られていて、殺風景な部屋の隅で体を丸めて怯えていた。
ひなた:世話をしてくれる職員さんはいつも笑顔だったし優しかったけど…どうしても馴染めなかった。
ひなた:ただ怖くて、少しでも目立たないようにじっと部屋の片隅で体を小さくしているだけだった。
:
ひなた:施設には似たような、引き取られた子が沢山居た。何人かは新しく家族に迎えられて、そしてまた何人かは施設に入って来た。
ひなた:「この子は家族が決まらないかもね」
ひなた:そんな言葉を呟かれたことがあった。それは私がどんな人が来ても心を開かず、じっとしているばかりだったからだろう。
ひなた:言葉の意味を理解しているとは思わなかったのかも知れないが、その言葉はとてもずっしりとした重みをもって、私の中に沈みこんでいた。
:
ひなた:外に放り出されても構わない。
ひなた:そう思った。
ひなた:体は小さいけれど、きっとどうにか生きていける…そう、思っていた。
:
:
ひなた:ある日、見たこともないような笑顔で職員さんが迎えに来た。
ひなた:私を引き取りたいという人が現れたのだと、とても嬉しそうに。
ひなた:逃げ出そうともがいたけれど、私の小さい体は簡単に抱えあげられてしまった。
:
ひなた:すぐに抵抗は止めた。
ひなた:向けられた笑顔が、私が居なくなることを喜んでいるように見えたから。
ひなた:身の回りの世話をしてもらったのは事実。なら最後位は大人しく従った方が良いように思えたのだ。
:
ひなた:施設の人達にお礼の一言も言えなかった。
ひなた:最後まで可愛げも愛想もない、そんな子供だった。
:
:
ひなた:私が連れられたのは、日差しの良く入る広い家だった。
ひなた:「今日からうちの子になるんだよ」
ひなた:笑顔で声をかけられたが、やはり私は怖かった。広々とした部屋の隅で、カーテンに隠れるようにして小さくなるしかなかった。
ひなた:遠くから見つめられていることで、とても悪いことをしている気持ちになった。
:
ひなた:毎日、決まった時間に用意された食事。
ひなた:暖かい寝床。
ひなた:そして優しい言葉…家の人たちは決して無理強いせず、私から動くのをじっと待ってくれていた。
ひなた:恐る恐る顔をあげた私に「ゆっくりでいいからね」と微笑んでくれた。
ひなた:やさしく、撫でてくれた。
:
:
ひなた:そしていつの間にか、私は彼らのそばで眠れるという事を幸せだと感じれるようになっていた。
ひなた:明かりの灯っていない部屋でも怖くなかった。
ひなた:施設では冷たい布団で、誰もそばで寝てくれなかった。でも今は目が覚めたら、いつもお母さんが私のそばにいてくれる。
ひなた:温かい手で優しく撫でてくれる。
ひなた:お母さんに頭を撫でて貰うのが大好きで、それだけで本当に嬉しい。
:
:
ひなた:家族。
ひなた:私が一番安心していられる場所と、一番幸せを感じられる所。
:
:
ひなた:聞きなれた車の音が聞こえて、縁側に投げ出していた体を飛び上がらせた。
ひなた:そして大急ぎで玄関へと走る。
ひなた:玄関へ着くとほぼ同時に、カラカラという軽い音がして荷物を抱えたお母さんが入ってきた。
ひなた:そして私の姿を見て、いつもの優しい笑顔を向けてくれた。
ひなた:「ただいま、ひなた」
ひなた:お母さんは荷物をを置いて私を撫で、そのまま私を抱き上げた。
ひなた:「お留守番できてたのね、良い子良い子」
:
:
ひなた:そこで思い当たった。
ひなた:誰かが帰って来たらすぐ分かるように。すぐ駆けつけれるように、私は外の音が良く聞こえる縁側にいたんだな、と。
ひなた:「暖かいわね、縁側でお昼寝してたの?」
ひなた:頷くような私の声に、お母さんはニコニコしながら撫でてくれる。
ひなた:「さ、片付けましょ。ひなたのおやつも買ってきたのよ」
:
:
ひなた:ひなたはお母さんがつけてくれた新しい名前。
ひなた:部屋の隅で小さくなってばかりだった私に、祈りを込めて、と言ってた。
:
:
ひなた:お母さんの足元を、邪魔にならないようについていく。きっともうすぐお父さんも帰ってくる。外が暗くなったら、お姉ちゃんもお仕事から帰ってくるだろう。
ひなた:この家は怖くないけど、やっぱり誰もいないと広すぎるし、何よりとても静かで寂しくなる。
:
:
ひなた:私はのんびりとソファーに寝転んだ。
ひなた:もう待ち構えなくても良い。
:
ひなた:いつものパタパタという足音。
ひなた:水とテレビ。
ひなた:誰か一人いるだけで変わる部屋の空気。
:
ひなた:私の好きな場所。
:
ひなた:「猫は良いわね、 寝てばかりで」
ひなた:お母さんは笑いながらそういうけど、猫だって色々考えてる。
ひなた:言葉もわかってないって思ってる?
ひなた:そんなことない。気づかないところで良く見てるし、言葉だってよく知ってる。
ひなた:人の言葉は話せないけど、ありがとうと大好きの気持ちは、しっかり伝える自信もある。
ひなた:言葉では表せない分、全身で伝えることができる。言語が違うだけで、心は同じ。
ひなた:出来るなら、人にもわかる言葉で伝えたいけれど。
:
:
ひなた:家族になってくれてありがとう。
ひなた:暖かさを教えてくれてありがとう、と。
:
:
:ひなたの物語、終。
ひなた:随分と長い夢を見ていたような気がする。
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ひなた:目を覚ますと、冬のやわらかな日差しに照らされた縁側に寝転んでいた。
ひなた:風はなく、遠くで何かの鳥が囀(さえ)ずっている。一体、私はいつの間にここへ移動したのだろう。記憶を探ってみても、まったく覚えが無い。
ひなた:確か、部屋のベッドで転がっていたはずなのだ。
ひなた:お姉ちゃんの部屋は窓辺にベッドが置いてあって、そこには日が当たって昼間はとても心地よい。あまりにも気持ちいいからうとうとしていると「部屋にこもってないで」と、家族が呼びに来る。
ひなた:そして、追い出されるようにそこを後にするのだが、今日はみんな外出していて誰にも邪魔されない筈だったのに。
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ひなた:…いつの間にか縁側にいる。何か損をした気分だ。
ひなた:縁側も気持ちがよかったけれど、ここで昼寝をしていると近所のおばさんが通る度に声をかけてくる。あらあら気持ち良さそうねぇ、なんて笑いながら。
ひなた:分かってるなら放っておいてよ、と思うけどさすがにそれは言えないから、適当に愛想を返しておく。
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ひなた:とても、静かだ。
ひなた:いつもならお姉ちゃんやお父さんの会話、お母さんのパタパタという足音、テレビ、水、電話…いろんな音が聞こえるのに。
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ひなた:私は親の顔を知らない。
ひなた:兄妹がいたようにも思うが、記憶はあやふやで覚えていない。
ひなた:気がついた時には施設に引き取られていて、殺風景な部屋の隅で体を丸めて怯えていた。
ひなた:世話をしてくれる職員さんはいつも笑顔だったし優しかったけど…どうしても馴染めなかった。
ひなた:ただ怖くて、少しでも目立たないようにじっと部屋の片隅で体を小さくしているだけだった。
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ひなた:施設には似たような、引き取られた子が沢山居た。何人かは新しく家族に迎えられて、そしてまた何人かは施設に入って来た。
ひなた:「この子は家族が決まらないかもね」
ひなた:そんな言葉を呟かれたことがあった。それは私がどんな人が来ても心を開かず、じっとしているばかりだったからだろう。
ひなた:言葉の意味を理解しているとは思わなかったのかも知れないが、その言葉はとてもずっしりとした重みをもって、私の中に沈みこんでいた。
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ひなた:外に放り出されても構わない。
ひなた:そう思った。
ひなた:体は小さいけれど、きっとどうにか生きていける…そう、思っていた。
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ひなた:ある日、見たこともないような笑顔で職員さんが迎えに来た。
ひなた:私を引き取りたいという人が現れたのだと、とても嬉しそうに。
ひなた:逃げ出そうともがいたけれど、私の小さい体は簡単に抱えあげられてしまった。
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ひなた:すぐに抵抗は止めた。
ひなた:向けられた笑顔が、私が居なくなることを喜んでいるように見えたから。
ひなた:身の回りの世話をしてもらったのは事実。なら最後位は大人しく従った方が良いように思えたのだ。
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ひなた:施設の人達にお礼の一言も言えなかった。
ひなた:最後まで可愛げも愛想もない、そんな子供だった。
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ひなた:私が連れられたのは、日差しの良く入る広い家だった。
ひなた:「今日からうちの子になるんだよ」
ひなた:笑顔で声をかけられたが、やはり私は怖かった。広々とした部屋の隅で、カーテンに隠れるようにして小さくなるしかなかった。
ひなた:遠くから見つめられていることで、とても悪いことをしている気持ちになった。
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ひなた:毎日、決まった時間に用意された食事。
ひなた:暖かい寝床。
ひなた:そして優しい言葉…家の人たちは決して無理強いせず、私から動くのをじっと待ってくれていた。
ひなた:恐る恐る顔をあげた私に「ゆっくりでいいからね」と微笑んでくれた。
ひなた:やさしく、撫でてくれた。
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ひなた:そしていつの間にか、私は彼らのそばで眠れるという事を幸せだと感じれるようになっていた。
ひなた:明かりの灯っていない部屋でも怖くなかった。
ひなた:施設では冷たい布団で、誰もそばで寝てくれなかった。でも今は目が覚めたら、いつもお母さんが私のそばにいてくれる。
ひなた:温かい手で優しく撫でてくれる。
ひなた:お母さんに頭を撫でて貰うのが大好きで、それだけで本当に嬉しい。
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ひなた:家族。
ひなた:私が一番安心していられる場所と、一番幸せを感じられる所。
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ひなた:聞きなれた車の音が聞こえて、縁側に投げ出していた体を飛び上がらせた。
ひなた:そして大急ぎで玄関へと走る。
ひなた:玄関へ着くとほぼ同時に、カラカラという軽い音がして荷物を抱えたお母さんが入ってきた。
ひなた:そして私の姿を見て、いつもの優しい笑顔を向けてくれた。
ひなた:「ただいま、ひなた」
ひなた:お母さんは荷物をを置いて私を撫で、そのまま私を抱き上げた。
ひなた:「お留守番できてたのね、良い子良い子」
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ひなた:そこで思い当たった。
ひなた:誰かが帰って来たらすぐ分かるように。すぐ駆けつけれるように、私は外の音が良く聞こえる縁側にいたんだな、と。
ひなた:「暖かいわね、縁側でお昼寝してたの?」
ひなた:頷くような私の声に、お母さんはニコニコしながら撫でてくれる。
ひなた:「さ、片付けましょ。ひなたのおやつも買ってきたのよ」
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ひなた:ひなたはお母さんがつけてくれた新しい名前。
ひなた:部屋の隅で小さくなってばかりだった私に、祈りを込めて、と言ってた。
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ひなた:お母さんの足元を、邪魔にならないようについていく。きっともうすぐお父さんも帰ってくる。外が暗くなったら、お姉ちゃんもお仕事から帰ってくるだろう。
ひなた:この家は怖くないけど、やっぱり誰もいないと広すぎるし、何よりとても静かで寂しくなる。
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ひなた:私はのんびりとソファーに寝転んだ。
ひなた:もう待ち構えなくても良い。
:
ひなた:いつものパタパタという足音。
ひなた:水とテレビ。
ひなた:誰か一人いるだけで変わる部屋の空気。
:
ひなた:私の好きな場所。
:
ひなた:「猫は良いわね、 寝てばかりで」
ひなた:お母さんは笑いながらそういうけど、猫だって色々考えてる。
ひなた:言葉もわかってないって思ってる?
ひなた:そんなことない。気づかないところで良く見てるし、言葉だってよく知ってる。
ひなた:人の言葉は話せないけど、ありがとうと大好きの気持ちは、しっかり伝える自信もある。
ひなた:言葉では表せない分、全身で伝えることができる。言語が違うだけで、心は同じ。
ひなた:出来るなら、人にもわかる言葉で伝えたいけれど。
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ひなた:家族になってくれてありがとう。
ひなた:暖かさを教えてくれてありがとう、と。
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:ひなたの物語、終。