台本概要
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タイトル | 勇者vs四天王(1、2) |
---|---|
作者名 | 棚からおはぎ (@ohagio_ov) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 3人用台本(不問3) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ついに世界の最果てにある魔王城までたどり着いた勇者。しかし、魔王の前に立ちはだかるのは、最強(?)の四天王だった……! ※上演の際は台本名・作者名(できれば台本リンクも)を、告知ポスト、配信サムネイル、ルーム概要欄等にご記載ください。 Xでメンションくだされば喜んで見に行きます! 性別変更・それに伴う口調変更、アドリブも、過度な改変にならない程度にご自由にどうぞ。 その他ご質問あればお気軽にDMください。 どなたにも楽しく演じていただければ幸いです。 465 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
勇者 | 不問 | 60 | 正義感が強い人。 |
熊1 | 不問 | 49 | ヴァイオレット。四天王最弱。お兄ちゃん大好きっ子。お兄ちゃんに憧れて、敵の前では口調が変わる。 |
熊2 | 不問 | 25 | スノー。ヴァイオレットの兄。四天王2番手。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
勇者:ここが……世界の最果て……魔王城……さすがに禍々しい雰囲気だ……だが私も、今まで数多の敵を倒し、魔王軍幹部すらも退けてきた勇者! どんな強敵がはばかってこようとも、私の敵ではない!
熊1:ふっふっふ……それはどうかな勇者よ……
勇者:! 誰だっ?!
熊1:私は魔王様の忠実なるしもべ、ヴァイオレット。魔王軍四天王がひとり。またの名を、『切先の支配者』
勇者:なに?! 四天王……だと? まだそんな存在が残っていたとは……
熊1:はっはっは! お前など、魔王様の目に入れる価値もないわ。この私が、お前をこの場で始末してくれる!
勇者:望むところだ! さあ姿を表せ邪悪な魔王の手先よ!
熊1:よかろう。感謝しろ、お前のその自尊にまみれた性根、この私が直々にへし折ってやるのだからな!!
0:熊が勇者の前に姿を現す。
勇者:……
熊1:どうだ、私の恐ろしい姿に声も出ないか
勇者:……く、熊……のぬいぐるみ? ……え、私この熊と戦うの?
熊1:ふっ、今更になって恐怖で逃げ出したくなってきたか
勇者:いやどちらかと言えば恐怖が和らぎすぎて恐怖してるんだけど……いや、油断は禁物。こいつがどんな手を使ってくるかわからないのだから
熊1:私の後ろには鉄壁のバリアが張ってある。どんな剣も攻撃を通さない。解除する方法はただひとつ。私を倒すことだ。さあ勇者よ、この先へ進みたくば、私を倒してみろ! まあ、できればの話だがな……ふっふっふ
勇者:くる……こいつの攻撃が……っ!
熊1:……
勇者:……
熊1:……
勇者:……
熊1:ふっふっふ……やはり倒せないか
勇者:? お前からの攻撃を待ってるんだが?
熊1:強がらなくても*良《よ》い、私にはお見通しだ。できないのだろう? 攻撃が
勇者:いやだから……なーんか、話がすれ違ってる気がするな……。おいバイオレット
熊1:ヴァイオレット
勇者:?
熊1:だから、『バ』じゃなくて『ヴァ』。他人の名前を間違えるなんて、失礼なやつだな
勇者:あ、ああ、すまない、バイオレット
熊1:だからぁ! 『ヴァ』イオレットだって!
勇者:言ってるだろ!
熊1:言えてない! 全っ然言えてない!
勇者:ああそうだねヴァ!イオレット! すまなかったね、ヴァ!イオレット。ヴァ!イオレット、これで満足かヴァ!イオレット!
熊1:うむ、よかろう
勇者:いいんだ
熊1:で、なんだ勇者よ
勇者:お前は……どんな魔法を使って、私を攻撃するんだ?
熊1:私は魔法は使わぬ
勇者:なら物理攻撃か。お前の武器は……一体なんだ、早く出せ
熊1:おお、さすが勇者だな。ここからさらに上を求めるとは。さては、私の本気を受けてみたいのだな?
勇者:なに……もう武器を使っている……? まさか、毒か!
熊1:そうだな、私の武器はまさに猛毒だ……よかろう。見せてやる。私の本気を!
勇者:くるっ! 毒耐性上昇魔法、フォロネイラ!
熊1:……きゅるーん
勇者:……
熊1:きゅるるーん
勇者:……は?
熊1:はっはっは! 剣を下ろしたな勇者! やはり、この私の可愛さは猛毒級だな! お前など魔王様の足元にも及ばんわ!
勇者:猛毒……可愛さ……? 待て待て待て待て、何の話だ。お前の武器って……
熊1:他でもないこの可愛さだろう
勇者:そっちの武器じゃねぇよ。早く私に切り込むなり魔法を使うなりしてダメージを与えろっつってんの
熊1:私は攻撃魔法やら剣やら、そんな野蛮なものは使わぬ
勇者:はあ? それでどうやって私を倒すって……
熊1:別に倒さないが
勇者:はあ?
熊1:私がお前を倒すなんていつ言った
勇者:いやだって最初……
0:回想
熊1:この私が、お前をこの場で始末してくれる!
熊1:お前のその自尊にまみれた性根、この私が直々にへし折ってやるのだからな!!
0:回想終わり
勇者:……確かに言ってないな。それじゃあ、お前の目的はなんなんだよ
熊1:勇者を追い返すことだが?
勇者:追い返すだけでいいんだ……でも、攻撃魔法も武器も使わないなら、どうやって
熊1:お前はこの可愛い熊のぬいぐるみを倒せるのか?
勇者:え?
熊1:お前はこの愛らしいもふもふなぬいぐるみに危害を与えることができるのか? お前を直接攻撃もしない無力な熊だぞ?
勇者:まさか……良心に訴えかけてくるタイプの敵?!
熊1:まあ、お前が攻撃したいなら自由にすればよい。その大きな剣で……私の首を、掻っ切って、中の綿を……でも私は抵抗する手段を持ち合わせていない……なすすべもなくやられ……よよよ
0:熊1が泣き真似をする。
勇者:ああ確かに……これは……倒しにくいな……
熊1:さあ切れ勇者……私は、なにもしないから……! ぐすん
勇者:正直見た目はめちゃくちゃ可愛い……もふもふだし……それを、この、大剣で……私は……
熊2:おおヴァイオレット! 勇者とやらを踏みとどまらせたのか! よくやった!
勇者:っ、誰だ!
熊1:お兄ちゃん!
勇者:お、お兄ちゃん……?
熊2:いかにも。我はヴァイオレットの兄、スノーだ
0:熊2が勇者の前に現れる。
勇者:ああこっちもめちゃくちゃに可愛かった……
熊2:はっはっは、当然だ。魔王様が我らを直々に四天王に選んでくださったのだから。やはり、我らの主の目に狂いはない
勇者:おのれ魔王……やるな
熊2:しかしヴァイオレットよ、まさかお主が早速勇者を止めるとは思わなかった。心配で先ほどから物陰に隠れて終始見ていたが、お主ひとりでも立派にやれていた。この我、『泥濘の暗殺者』が出てくる必要もなかった
熊1:えへへ〜
勇者:その二つ名、一体どんな意味があるんだよ。攻撃もできないのに。そっちのバ……ヴァ、イオレットは……なんだっけ
熊1:『切先の支配者』
勇者:そうそうそれ。なんでそう呼ばれてるわけ?」
熊1:だってこの姿を見れば、皆私に向けた剣を下ろすか鞘にしまうだろう
勇者:剣の切先を逸らすから『切先の支配者』? カッコつけすぎだろ。そんで? そっちのスノーは……
熊2:『泥濘の暗殺者』
勇者:強そうな二つ名だけど……?
熊2:我の体の白さを見て、皆我に汚れをつけまいと必死に自分についた泥を払うからだ
勇者:表現力高すぎてもはや芸術家の領域だろこれ
熊2:さあ勇者よ、四天王最弱にやられた気分はどうだ?
勇者:いいや? そろそろその顔にも見慣れてきた。兄弟揃って似たような顔つきしてるもんな。1匹慣れればこっちのものだ。お前らの首は貰った!
熊2:ヴァイオレット、ここはお兄ちゃんに任せて、魔王様の所へ報告に行くんだ
熊1:でもお兄ちゃん!
熊2:大丈夫、我を誰だと思っている。お主のお兄ちゃんだぞ? 負けるはずなかろう。この間魔王様に教わったばかりの光魔法、ハルトも使えるようになったのだ。ゆけ
熊1:いやだお兄ちゃん……! 私も戦う!
熊2:ヴァイオレット……
熊1:私たち兄弟は、ずっと一緒。そうでしょ?
勇者:くうぅぅ……美しい兄弟愛のみならず、一生懸命に動かしている短いもふもふな手足、だんだん潤んでいくくりくりな目、使える魔法もレベル1の雑魚だけど、それを誇る姿……何から何まで可哀想で可愛くてあああああああ!
熊2:ふっ、我にかかればこんなものよ
熊1:兄ちゃんすごーい!
熊2:ヴァイオレットも、よく我のアドリブに合わせられたな。偉いぞ
熊1:えっへへ〜
勇者:ダメだ……私にはできない。でもここで引き下がれば世界中の人間に顔向けできない……一体どうすれば
熊2:勇者よ。ならば、いっそこっち側につかないか
0:同時に
勇者:は?!
熊2:は?!
勇者:何を言うかと思えば!
熊1:そうだよお兄ちゃん!
勇者:この私が悪の手に落ちるなどあり得ない!
熊2:まあ落ち着け2人とも。それに勇者よ、我らを悪と決めつけるのは、この話を聞いた後で決めてくれ。確かに我ら魔王軍はこの世界を支配しようとしているが……それはこの世界の労働を改革するためなのだ
勇者:労働を……改革?
熊2:そうだ。魔王様は、実はお主と同じ人間だ。魔王様がお主と同じ、人の世界で暮らしていた時代、労働環境でそれはそれは辛い目に遭われた
勇者:そんな……魔王が、人間?!
熊2:無理だと言っているのに上の命令に逆らえず、無理にシフトを入れられ1日10時間労働なんてざら、最高30日連勤、なのに理由もなく給料を減らされ、横行するパワハラにも酷い精神的苦痛を味わったそうだ
勇者:うわぁ、考えるだけでもおぞましい……
熊2:だから魔王様は、この世界の労働問題を改善し、環境を変えると心に誓った。そのために、まずは誰よりも上へ行くことを望まれた。魔王様の活動が、誰にも邪魔されぬように。これ以上、自分と同じような人間を増やさないために
勇者:だからって、人を殺していい理由にはならない!
熊2:仕方がなかったのだ。この世界には、強固な身分制度が存在している。人が人である限り、これは簡単には覆らない。世界を変える上でもっとも早く、確実で、本当の悪人を成敗できる唯一の方法が、魔王となり世界中の魔族を従え、人類を支配することだったのだ。勇者よ、お主にも覚えはないのか? 今まで散々、貴族や王族から無茶言われては来なかったのか?
勇者:それは……確かに、今まで、ずっとひとりで正義のために戦ってきた……それは私が望んだことだから良かったものの、ぶっちゃけ労働環境に無茶がなかったとは言えない。ひとりで何時間も、何体も、魔族を倒して……それを労働と捉えたら、一体1日に何時間働いていることになるのか……給料は到底、それに見合う額じゃない
熊2:そうだろうそうだろう! どうだ、我らと一緒に、その労働環境を改善しないか! 勇者さえ軍門に降れば、世界の支配はすぐそこだ!
勇者:いや、それじゃあ、私は、一体今まで、なんのために……
熊1:私たちと出会うためだよ
勇者:ヴァイオレット……
熊1:私たち、絶対いい仲間になれるよ。魔王様はね、無駄に争って血を流すことを好まないの。私たちの邪魔さえしなければ、絶対に人類の安全は保証する。それどころか、今よりもっと良い世の中で一緒に暮らせるんだよ? これって良いことだと思わない?
勇者:でも……
熊2:我ら、最高でも1日8時間労働で週5日勤務だぞ
勇者:え?
熊2:それ以上は絶対に労働時間は増えない。しかもこの広い魔王城住み込み、家賃もタダ
熊1:報酬は1日銀貨4枚は固定。さらに働きが評価されれば別で褒賞が出たり、報酬額が上がったりする
熊2:我らは四天王とかなり高位な位置にいるからな。報酬は1日銀貨8枚だ
勇者:はちッ……?! 待遇良すぎて怖いくらいなんだが……なんか裏ないか?
熊1:むぅ。私たちの主はそんなことしないよ
熊2:勇者ならその実力も評価されるだろうし、魔王様の*下《もと》に入れば1日銀貨6枚は固いだろう
勇者:今すぐ魔王の元へ案内してくれ。剣や武器は捨てていく
熊1:切り替えはやっ
熊2:N)こうして、我ら魔王軍に勇者が加わり、魔王様は無事に世界を支配することができた。この世界の身分制度を撤廃し、世界中に労働に関する法律を作り、世界を平和にしましたとさ。めでたしめでたし
0:完
勇者:ここが……世界の最果て……魔王城……さすがに禍々しい雰囲気だ……だが私も、今まで数多の敵を倒し、魔王軍幹部すらも退けてきた勇者! どんな強敵がはばかってこようとも、私の敵ではない!
熊1:ふっふっふ……それはどうかな勇者よ……
勇者:! 誰だっ?!
熊1:私は魔王様の忠実なるしもべ、ヴァイオレット。魔王軍四天王がひとり。またの名を、『切先の支配者』
勇者:なに?! 四天王……だと? まだそんな存在が残っていたとは……
熊1:はっはっは! お前など、魔王様の目に入れる価値もないわ。この私が、お前をこの場で始末してくれる!
勇者:望むところだ! さあ姿を表せ邪悪な魔王の手先よ!
熊1:よかろう。感謝しろ、お前のその自尊にまみれた性根、この私が直々にへし折ってやるのだからな!!
0:熊が勇者の前に姿を現す。
勇者:……
熊1:どうだ、私の恐ろしい姿に声も出ないか
勇者:……く、熊……のぬいぐるみ? ……え、私この熊と戦うの?
熊1:ふっ、今更になって恐怖で逃げ出したくなってきたか
勇者:いやどちらかと言えば恐怖が和らぎすぎて恐怖してるんだけど……いや、油断は禁物。こいつがどんな手を使ってくるかわからないのだから
熊1:私の後ろには鉄壁のバリアが張ってある。どんな剣も攻撃を通さない。解除する方法はただひとつ。私を倒すことだ。さあ勇者よ、この先へ進みたくば、私を倒してみろ! まあ、できればの話だがな……ふっふっふ
勇者:くる……こいつの攻撃が……っ!
熊1:……
勇者:……
熊1:……
勇者:……
熊1:ふっふっふ……やはり倒せないか
勇者:? お前からの攻撃を待ってるんだが?
熊1:強がらなくても*良《よ》い、私にはお見通しだ。できないのだろう? 攻撃が
勇者:いやだから……なーんか、話がすれ違ってる気がするな……。おいバイオレット
熊1:ヴァイオレット
勇者:?
熊1:だから、『バ』じゃなくて『ヴァ』。他人の名前を間違えるなんて、失礼なやつだな
勇者:あ、ああ、すまない、バイオレット
熊1:だからぁ! 『ヴァ』イオレットだって!
勇者:言ってるだろ!
熊1:言えてない! 全っ然言えてない!
勇者:ああそうだねヴァ!イオレット! すまなかったね、ヴァ!イオレット。ヴァ!イオレット、これで満足かヴァ!イオレット!
熊1:うむ、よかろう
勇者:いいんだ
熊1:で、なんだ勇者よ
勇者:お前は……どんな魔法を使って、私を攻撃するんだ?
熊1:私は魔法は使わぬ
勇者:なら物理攻撃か。お前の武器は……一体なんだ、早く出せ
熊1:おお、さすが勇者だな。ここからさらに上を求めるとは。さては、私の本気を受けてみたいのだな?
勇者:なに……もう武器を使っている……? まさか、毒か!
熊1:そうだな、私の武器はまさに猛毒だ……よかろう。見せてやる。私の本気を!
勇者:くるっ! 毒耐性上昇魔法、フォロネイラ!
熊1:……きゅるーん
勇者:……
熊1:きゅるるーん
勇者:……は?
熊1:はっはっは! 剣を下ろしたな勇者! やはり、この私の可愛さは猛毒級だな! お前など魔王様の足元にも及ばんわ!
勇者:猛毒……可愛さ……? 待て待て待て待て、何の話だ。お前の武器って……
熊1:他でもないこの可愛さだろう
勇者:そっちの武器じゃねぇよ。早く私に切り込むなり魔法を使うなりしてダメージを与えろっつってんの
熊1:私は攻撃魔法やら剣やら、そんな野蛮なものは使わぬ
勇者:はあ? それでどうやって私を倒すって……
熊1:別に倒さないが
勇者:はあ?
熊1:私がお前を倒すなんていつ言った
勇者:いやだって最初……
0:回想
熊1:この私が、お前をこの場で始末してくれる!
熊1:お前のその自尊にまみれた性根、この私が直々にへし折ってやるのだからな!!
0:回想終わり
勇者:……確かに言ってないな。それじゃあ、お前の目的はなんなんだよ
熊1:勇者を追い返すことだが?
勇者:追い返すだけでいいんだ……でも、攻撃魔法も武器も使わないなら、どうやって
熊1:お前はこの可愛い熊のぬいぐるみを倒せるのか?
勇者:え?
熊1:お前はこの愛らしいもふもふなぬいぐるみに危害を与えることができるのか? お前を直接攻撃もしない無力な熊だぞ?
勇者:まさか……良心に訴えかけてくるタイプの敵?!
熊1:まあ、お前が攻撃したいなら自由にすればよい。その大きな剣で……私の首を、掻っ切って、中の綿を……でも私は抵抗する手段を持ち合わせていない……なすすべもなくやられ……よよよ
0:熊1が泣き真似をする。
勇者:ああ確かに……これは……倒しにくいな……
熊1:さあ切れ勇者……私は、なにもしないから……! ぐすん
勇者:正直見た目はめちゃくちゃ可愛い……もふもふだし……それを、この、大剣で……私は……
熊2:おおヴァイオレット! 勇者とやらを踏みとどまらせたのか! よくやった!
勇者:っ、誰だ!
熊1:お兄ちゃん!
勇者:お、お兄ちゃん……?
熊2:いかにも。我はヴァイオレットの兄、スノーだ
0:熊2が勇者の前に現れる。
勇者:ああこっちもめちゃくちゃに可愛かった……
熊2:はっはっは、当然だ。魔王様が我らを直々に四天王に選んでくださったのだから。やはり、我らの主の目に狂いはない
勇者:おのれ魔王……やるな
熊2:しかしヴァイオレットよ、まさかお主が早速勇者を止めるとは思わなかった。心配で先ほどから物陰に隠れて終始見ていたが、お主ひとりでも立派にやれていた。この我、『泥濘の暗殺者』が出てくる必要もなかった
熊1:えへへ〜
勇者:その二つ名、一体どんな意味があるんだよ。攻撃もできないのに。そっちのバ……ヴァ、イオレットは……なんだっけ
熊1:『切先の支配者』
勇者:そうそうそれ。なんでそう呼ばれてるわけ?」
熊1:だってこの姿を見れば、皆私に向けた剣を下ろすか鞘にしまうだろう
勇者:剣の切先を逸らすから『切先の支配者』? カッコつけすぎだろ。そんで? そっちのスノーは……
熊2:『泥濘の暗殺者』
勇者:強そうな二つ名だけど……?
熊2:我の体の白さを見て、皆我に汚れをつけまいと必死に自分についた泥を払うからだ
勇者:表現力高すぎてもはや芸術家の領域だろこれ
熊2:さあ勇者よ、四天王最弱にやられた気分はどうだ?
勇者:いいや? そろそろその顔にも見慣れてきた。兄弟揃って似たような顔つきしてるもんな。1匹慣れればこっちのものだ。お前らの首は貰った!
熊2:ヴァイオレット、ここはお兄ちゃんに任せて、魔王様の所へ報告に行くんだ
熊1:でもお兄ちゃん!
熊2:大丈夫、我を誰だと思っている。お主のお兄ちゃんだぞ? 負けるはずなかろう。この間魔王様に教わったばかりの光魔法、ハルトも使えるようになったのだ。ゆけ
熊1:いやだお兄ちゃん……! 私も戦う!
熊2:ヴァイオレット……
熊1:私たち兄弟は、ずっと一緒。そうでしょ?
勇者:くうぅぅ……美しい兄弟愛のみならず、一生懸命に動かしている短いもふもふな手足、だんだん潤んでいくくりくりな目、使える魔法もレベル1の雑魚だけど、それを誇る姿……何から何まで可哀想で可愛くてあああああああ!
熊2:ふっ、我にかかればこんなものよ
熊1:兄ちゃんすごーい!
熊2:ヴァイオレットも、よく我のアドリブに合わせられたな。偉いぞ
熊1:えっへへ〜
勇者:ダメだ……私にはできない。でもここで引き下がれば世界中の人間に顔向けできない……一体どうすれば
熊2:勇者よ。ならば、いっそこっち側につかないか
0:同時に
勇者:は?!
熊2:は?!
勇者:何を言うかと思えば!
熊1:そうだよお兄ちゃん!
勇者:この私が悪の手に落ちるなどあり得ない!
熊2:まあ落ち着け2人とも。それに勇者よ、我らを悪と決めつけるのは、この話を聞いた後で決めてくれ。確かに我ら魔王軍はこの世界を支配しようとしているが……それはこの世界の労働を改革するためなのだ
勇者:労働を……改革?
熊2:そうだ。魔王様は、実はお主と同じ人間だ。魔王様がお主と同じ、人の世界で暮らしていた時代、労働環境でそれはそれは辛い目に遭われた
勇者:そんな……魔王が、人間?!
熊2:無理だと言っているのに上の命令に逆らえず、無理にシフトを入れられ1日10時間労働なんてざら、最高30日連勤、なのに理由もなく給料を減らされ、横行するパワハラにも酷い精神的苦痛を味わったそうだ
勇者:うわぁ、考えるだけでもおぞましい……
熊2:だから魔王様は、この世界の労働問題を改善し、環境を変えると心に誓った。そのために、まずは誰よりも上へ行くことを望まれた。魔王様の活動が、誰にも邪魔されぬように。これ以上、自分と同じような人間を増やさないために
勇者:だからって、人を殺していい理由にはならない!
熊2:仕方がなかったのだ。この世界には、強固な身分制度が存在している。人が人である限り、これは簡単には覆らない。世界を変える上でもっとも早く、確実で、本当の悪人を成敗できる唯一の方法が、魔王となり世界中の魔族を従え、人類を支配することだったのだ。勇者よ、お主にも覚えはないのか? 今まで散々、貴族や王族から無茶言われては来なかったのか?
勇者:それは……確かに、今まで、ずっとひとりで正義のために戦ってきた……それは私が望んだことだから良かったものの、ぶっちゃけ労働環境に無茶がなかったとは言えない。ひとりで何時間も、何体も、魔族を倒して……それを労働と捉えたら、一体1日に何時間働いていることになるのか……給料は到底、それに見合う額じゃない
熊2:そうだろうそうだろう! どうだ、我らと一緒に、その労働環境を改善しないか! 勇者さえ軍門に降れば、世界の支配はすぐそこだ!
勇者:いや、それじゃあ、私は、一体今まで、なんのために……
熊1:私たちと出会うためだよ
勇者:ヴァイオレット……
熊1:私たち、絶対いい仲間になれるよ。魔王様はね、無駄に争って血を流すことを好まないの。私たちの邪魔さえしなければ、絶対に人類の安全は保証する。それどころか、今よりもっと良い世の中で一緒に暮らせるんだよ? これって良いことだと思わない?
勇者:でも……
熊2:我ら、最高でも1日8時間労働で週5日勤務だぞ
勇者:え?
熊2:それ以上は絶対に労働時間は増えない。しかもこの広い魔王城住み込み、家賃もタダ
熊1:報酬は1日銀貨4枚は固定。さらに働きが評価されれば別で褒賞が出たり、報酬額が上がったりする
熊2:我らは四天王とかなり高位な位置にいるからな。報酬は1日銀貨8枚だ
勇者:はちッ……?! 待遇良すぎて怖いくらいなんだが……なんか裏ないか?
熊1:むぅ。私たちの主はそんなことしないよ
熊2:勇者ならその実力も評価されるだろうし、魔王様の*下《もと》に入れば1日銀貨6枚は固いだろう
勇者:今すぐ魔王の元へ案内してくれ。剣や武器は捨てていく
熊1:切り替えはやっ
熊2:N)こうして、我ら魔王軍に勇者が加わり、魔王様は無事に世界を支配することができた。この世界の身分制度を撤廃し、世界中に労働に関する法律を作り、世界を平和にしましたとさ。めでたしめでたし
0:完