台本概要

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タイトル みらいTakt〜第1話・黒潮女学園#1
作者名 風緑ラピス  (@Lapis_019)
ジャンル ファンタジー
演者人数 8人用台本(女6、不問2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 シリーズ2作目。
本編は、22世紀が舞台。

©2023 Lapis.Kazamidori

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
美紅 44 美章園美紅(びしょうえん・みく) 黒潮女学園2年生。 SLG研究部員。
柚子奈 35 河堀柚子奈(こぼれ・ゆずな) 黒潮女学園2年生。 SLG研究部長。
明日香 52 羽倉崎明日香(はぐらざき・あすか) 黒潮女学園2年生。 SLG研究部員。
円華 31 萱島円華(かやしま・まどか) 黒潮女学園1年生。 SLG研究部員。
優香 11 西院優香(さいいん・ゆうか) 黒潮女学園2年生。 生徒会長。
不問 29 樟葉恵(くずは・けい) 黒潮女学園教師。 SLG研究部顧問。
紅蘭 12 柳生紅蘭(やぎゅう・こうらん) 黒潮女学園理事長。 黒潮島を統括している。
ナレーション 不問 64 ナレーター
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
紅蘭:(国際会議場での演説)先日、ルージア国に奇襲を仕掛けた軍団は、私達・地球人にも持ち得ない、特殊な能力を秘めておりました。その時は、私達・新国際防衛軍の出動により、最低限の犠牲に踏み止まり(ふみとどまり)ましたが、再度攻めてくる可能性が、指摘されております。 紅蘭:そこで、新国際防衛軍は、新たなシステムを導入し、来たる襲撃に備えます。新たなシステム……それは…… ナレーション:22世紀に入って間もなく……宇宙から、複数の隕石が、大気圏を突破し、世界各地に落下した。個体が小さいことと、事前の警報が奏功し、被害は最小限に、くい止められた。しかし問題は、それ以降に起こった。 ナレーション:世界中から反旗を掲げる者達が、次々と蜂起し、重要な施設を攻撃、制圧し始めた。彼等は、常識を遥かに超えた武器および兵器を使い、政府軍を圧倒するのである。 ナレーション:そんな中、女史・柳生紅蘭の提唱により誕生したのが……『新国際防衛軍』である。発祥の地は、『黒潮島』。 明日香:(駆けていた足を留める。目前には、アミューズメントパーク)ハァハァ……そこに居るかな……?それ以外に思い当たる場所、無いもんなぁ。……うん!(意を決して、歩き出した) ナレーション:黒潮島……自由を求める、世界各国の投資家によって造成された、世界最新にして、最大級の人工島。 ナレーション:そして当時、若き天才投資家と呼ばれた異端児・柳生紅蘭(やぎゅう・こうらん)によって建立(こんりゅう)されたのが、『黒潮学園都市』である。『黒潮女学園』を中心に、立法・行政・司法を独自に確立させ。工業は勿論、農林水産に至るまで、あらゆる産業を、世界も認める高い水準にまで築き上げた。 ナレーション:そして、世界中が憧れと同時に畏怖する存在なのが……黒潮島で誕生した、『新国際防衛軍』である。常識外れの高い戦闘力および防御力で、反乱軍の侵攻を次々と阻止したのである。しかし……その防衛軍の黒潮支部を率いているのが…… 柚子奈:(黒潮女学園内、地下・秘密基地)円華、敵の動向は? 円華:今のところ、動きは微少(びしょう)。データを集めているのかも、しれません。 柚子奈:了解……もう少しだけ待つよ。 円華:…… ナレーション:女子高校生だとは、表には知られていない。 恵:(会議場のロビー)お疲れ様です、理事長。素晴らしい演説でした。 紅蘭:ただ単に、文章の通りに喋っただけです。西院(さいいん)さんの書く物は、堅すぎるのです。 恵:フフッ……(思い当たる点があるのか、含み笑い) 紅蘭:(恵を睨みつけ)……ところで? 恵:……ハッ!(姿勢を正した) 紅蘭:現在の、反乱軍への対応は? 恵:現在は、互いに沈黙を保っております。ただ…… 紅蘭:……ただ? 恵:些か(いささか)、こちらのメンバー不足にございまして……お恥ずかしながら、集めている最中に…… 紅蘭:(言い訳を遮って)また、美紅ですね……毎度毎度、同じことで、もう慣れましたわ。 恵:度々ご迷惑をお掛けし、申し訳ございません! 紅蘭:いいえ、私の責任でもありますから……それで、目星は着いているのでしょう? 恵:はい、大方(おおかた)。 紅蘭:宜しい……では早速、迎えの車を出して差し上げなさい。 恵:ですが、理事長の御身体(おからだ)が…… 紅蘭:(遮って)私なら、心配には及びません…有事が先決です。適当にタクシーを拾って、帰ります。 恵:…… 紅蘭:それでも、ご不安なら……私はここを動きませんので、後ほど迎えに戻っていらっしゃい。それなら、大丈夫でしょう……ここなら、世界屈指の防御バリアを張れますから? 恵:……承知しました!(敬礼して、踵を返し、速歩で去った) 紅蘭:(呟くように)世界と、未来の宝を……頼みましたよ。   ナレーション:黒潮島内のアミューズメントパークは、通信機器の充実性の高さ、そして最新機能を世界最速で搭載するため、国内のみならず、世界中からユーザーが挑戦に訪れる。 美紅:(出番が訪れ、ゲームのポッドに近寄る)……よし!(意を決して、ポッドの中に入った) ナレーション:1人の女性がゲームに挑もうとすると、ギャラリーのエリアを中心に騒がしくなった。彼女は、このゲームでは全国トップ10の実力を持っているからだ。 ナレーション:嫉妬からか、ヤジる者……参考にしようと、画面を注視する者……周囲は、ギャラリーで埋め尽くされた。 明日香:う〜ん、ここにも居ない……あっ、まだ残ってたんだ、懐かしい(カードゲームに目を向けた) 明日香:また、やりたいなぁ。カード、まだ残ってるから、大丈夫……じゃなかった、今はソレどころじゃない!(慌てて移動した) ナレーション:一方、学園内の秘密基地では 柚子奈:まだ動きは、なさそうね? 円華:いいえ、少しずつ……将棋でいう、陣形作りのようなモノでしょうか? 柚子奈:……仕方ない。こちらも、少しずつ隊列を作りましょう。 円華:了解! ナレーション:円華のタッチパネルによって、地上・海上、および空上の機体を操作することが、可能となる。当然ながら、ミサイルなどの発射や、空母からの戦闘機の発進も、タッチパネルで選択できるのだ。   柚子奈:本当に……美紅は、いったいどこに行ったの……まったく! 円華:…… ナレーション:再び、アミューズメントパーク内 明日香:うわぁ、凄い人集り(ひとだかり)……もしかして、ここに美紅がいるかな……? ナレーション:果たして、彼女の予想は的中するのであった。 美紅:(対戦ポッドから、出てきた)……ふぅ ナレーション:彼女の余裕を残した圧勝劇は、ギャラリーを再び騒然とさせた。 明日香:終わったのかな……行ってみよう! ナレーション:そして彼女は、お目当ての少女と会うのである。 明日香:見つけた!! ナレーション:明日香は手を振って、少女に視線を向けさせた。 美紅:(明日香の手振りに気付いた)あっ……明日香!? 明日香:ようやく見付けたよ……! 美紅:どうした、何か大事(おおごと)か?   明日香:大事も、大事だよ……敵が、かなりの数で動いたの! 美紅:なんだって……そんな兆候は無かったはず!? 明日香:うん……あっ、ここじゃマズいから、外で! 美紅:解った、直ぐに移動しよう! ナレーション:美紅と明日香は、店の外へと移動した。黒潮島には、路面電車も運行されており、通学の足としても貴重な存在となっている。 明日香:ねえ美紅、路面電車に乗る? 美紅:流石に、路面電車では、ゆっくり過ぎる。お金はあるから、タクシーを拾いたい……んっ? 明日香:……何かあったの? 美紅:あのスーパーカーに乗ろう! ナレーション:美紅は、歩道沿いに駐車しているスーパーカーを指差した。 明日香:ちょっと美紅……まさか、無免許で車を運転する気……というか、車を盗む気!? 美紅:(呆れ笑いをしながら)そんなワケ、ないだろ……乗せてもらうのさ。 明日香:え〜っ、見ず知らずの私達を乗せてくれるワケ…… 美紅:(遮るように)私の記憶が確かならば……行くぞ!(走り出した) 明日香:あっ……待ってよ、美紅!(明日香も、慌てて走り出した) ナレーション:美紅と明日香は、目的の外車に、たどり着いた。 美紅:(運転席を覗く)やはり、先生のでしたか…… 明日香:えっ、樟葉先生!? 恵:(下車して、穏やかな笑顔で)私も、予想通りでした。 美紅:はいはい、予想しやすいワンパターンで、すいません。 恵:急ぎます。美紅は反対側から……明日香は後ろに!   ナレーション:恵は、運転席のシートを倒し、明日香が後ろに乗り込んだ。そして、2人を乗せた恵は、学園に向けて、車を一気に走らせた。 明日香:でも、よく先生の車だと解ったね……樟葉先生、いつも登校は徒歩でしょ? 美紅:実は……恵先生とは、さっきのアミューズメントでの付き合いがあってね。その後、ゴチしてもらう為に、乗せていただいたのさ。 明日香:えぇ〜っ、ズルい〜っ……私だって誘ってくれたら、良かったじゃん! 美紅:あの時、明日香は柚子奈と、とことんボードでやりあってただろ?……だから、私は訓練がてらに移動していたんだ。 明日香:あっ、そうか……あの時だったか……テヘッ♪(可愛く舌を出した) 恵:本来なら、雑談にお付き合いしたいところですが……現状について、簡単に説明します。 美紅:お願いします! 明日香:はいっ! ナレーション:恵の説明は、明日香が伝えたかったことと全く同じで、その詳細だった。 美紅:相手も、賢くなったということかな……あっちに失礼だけど。 明日香:前までは、あっちが積極的に来てくれるから、攻めやすかったよね? 美紅:それが一転して、にらめっこの状態……どういう心境の変化なのか? 恵:ですから、柚子奈も先を予想しきれないのです。 ナレーション:黒潮女学園は、単なる女子限定の一貫校に留まらず、あらゆる戦略の中心に位置する。本部が『心臓部』ならば、女学園は『頭脳』である。そして、その『頭脳』には、表と裏がある。 恵:ナンバーの裏にチップを付けているので、開くハズですが……? ナレーション:恵達は、厳重警戒のエリアからの入場を、試みた。すると、門扉が自動で開いた。 恵:……急ぎます! ナレーション:車は、側道に掘られている地下道に入った。そして、ターミナル状の広場に差し掛かった。通常ならば、行き止まりであるが…… 恵:美紅、名札を! ナレーション:美紅は黙ったまま、名札を外し、車内の正面から壁に見せ付けた。すると今度は、壁が左右に開いた。 ナレーション:そして、その先には、頑丈な鏡に覆われた通路が存在していた。車は、一気に直進した。 明日香:何度も見るけど……まるで万華鏡で、キモいわ。 恵:万華鏡そのものが、狙いなのです。 明日香:……狙いって? 恵:先ずは、侵入者を混乱させる。それから、私達に敵の位置や状況を知らせてくれるのです。そして…… 美紅:万華鏡の配置を確認すれば、銃の反射を利用して、敵を倒せる。 恵:御名答……エキスパートなら、直ぐに慣れるでしょう。 美紅:そういう先生の仰言る(おっしゃる)エキスパートが、いつ誕生することやら……? 恵:最低1人、もう誕生してますが……? 美紅:もしかして、円華? 明日香:えっ、円華って、銃が使えるの!? 恵:使えます。ただし、弾丸は薬莢(やっきょう)を拾うのが面倒らしいので、“レーザー銃”ですが。 美紅:まあ、レーザーの方が便利だろうね。質によっては周囲が光るから、弾道が読めない。 恵:その通りです……さあ、着きましたよ! ナレーション:先程のイミテーションのロータリーとは違い、豪華なターミナルに到着した。車両は、ここで終点である。 恵:後は頼みましたよ、御二人さん。 明日香:あれ、先生は? 恵:私は、直ぐに理事長を迎えに戻ります。 明日香:そっか……了解! 美紅:……   ナレーション:明日香は直ぐに降り、一方の美紅は複雑な表情を浮かべながら降りた。 恵:……美紅 ナレーション:美紅は、背中を向けたまま、立ち止まった。 恵:柚子奈には、正直に謝るのですよ……ああ見えて、心配性ですから。 美紅:……解ってます! ナレーション:美紅は返事して間もなく、走り出した。 明日香:あっ……待ってよ、美紅〜っ!! ナレーション:明日香も、慌てて追走した。 恵:やれやれ……“10代は微妙な世代”とは、よく言ったものです。 ナレーション:恵は、ハンドルにチカラを込めた。   恵:“私達”の頃は、どうだったでしょうね……“メグ”? ナレーション:恵はそう呟き、車をUターンさせた。 ナレーション:その頃、司令室では…… 円華:これは……もしかして……? 柚子奈:何か解ったの、円華? 円華:私達が出るのを、待ってた……? 柚子奈:まさか……ということは、向こうは自信を持って、攻めようと……? 円華:でも、私達は“防衛軍”です。コチラから動くワケには…… 美紅:(遮るように)動いても、問題は無い! 柚子奈:ハッ!? 円華:…… ナレーション:扉越しから声がして、柚子奈は驚き、逆に円華は冷静さを保っていた。 ナレーション:自動ドアが開くと、そこには美紅と明日香が立っていた。美紅は、長い距離を走ってなお、自然体を保っているが、逆に明日香は呼吸が激しい。 明日香:ゼェゼェ……もう、ここのダッシュ……勘弁して! 柚子奈:美紅、明日香!? 明日香:お待たせ……ハァハァ……任務完了……ビシッ!   ナレーション:明日香は、疲れた笑顔で敬礼した。一方の美紅は、無言で素通りを試みた。 柚子奈:待ちなさい!(美紅の前に立ちはだかる) 美紅:…… 柚子奈:最初に言うべきことが、あるでしょう? 美紅:(頭を軽く掻きながら)柚子奈…… 柚子奈:…… 明日香:……ウフッ♪(先を読んでいるのか、密かに含み笑い) 円華:……(いつもの無表情) 美紅:ツッコミは、胸元にチョップした方が、いいぞ! ナレーション:美紅はそう言って、ポッドに向かおうとした。 柚子奈:(激しい口調で)そうじゃないでしょ!? ナレーション:美紅は、いったん立ち止まった。 美紅:私は、まだまだSLGには未熟だからね……モチベーションを上げる必要があった……申し訳ない。 ナレーション:彼女は照れ屋か、向き直らないまま頭を下げ、再びポッドへと歩を進めた。 柚子奈:……全くもう! ナレーション:柚子奈は割り切ったのか、これ以上は追及せず、自分のポジションに戻った。 明日香:キャハッ、いつもの通りだ♪ 柚子奈:明日香は、早く円華と交代して……彼女には、全体を観て貰わないといけないから! 明日香:りょうか〜い! ナレーション:明日香は、円華と引き継ぎ作業に入った。 明日香:まだ、動きない? 円華:……静かです。 明日香:……そっか。 円華:……明日香センパイとは、正反対です。 明日香:あの……そこだけ直して貰えると、超カワイクなるんだけどね。 円華:私は、カワイイ必要は、ありません。 明日香:あうっ! ナレーション:円華にボケが通用しないことを改めて確認した、明日香であった。 明日香:……よし、こっちはOKだよ! 円華:私もです……美紅先輩、“シンクロ”問題ありません。 美紅:了解……こちらも完璧だ。 柚子奈:それじゃあ美紅、早速だけどシンクロ・モードに入ってくれる? 美紅:了解! ナレーション:シンクロとは、ユーザーの精神を操縦している機体に移動させる行為である。ユーザーとシステムが短時間で“同化”し、ユーザーは、あたかも機体に瞬間移動した感覚になるのだ。 円華:(通信で)“リング”が下りていますか? 美紅:うん、いま下りてきた。 ナレーション:ポッドに取り付けられているリングを、頭に被り……そして目を閉じて、全神経をリングに集中させる。これが、シンクロ作業である。   ナレーション:通常なら、5分前後の時間が必要であり、一瞬の呼吸の乱れさえも許されない、厳しい集中力が、問われる。 円華:シンクロ、開始しました……あっ!? 柚子奈:どうしたの……まさか、ポッドに異常でも!? 明日香:マジ、異常って……!? 円華:いえ、違います。美紅先輩のシンクロ率……上がり方が急なのです。40%……50……もう70、速すぎる! 柚子奈:それ、本当なの……にわかに信じられないんだけど……!? 明日香:美紅は、やる時はやるからね。確かに、いつもの美紅はマイペースだし、学校もサボってるけど…… 明日香:かと言って、落第生じゃない……むしろ成績は上位だし。そして何より、正義に熱いからね……スーパーヒロインだよ、私から見れば! 円華:美紅先輩、シンクロ完了です。 柚子奈:そんなの、有り得ない……こんなに早く……美紅は、バケモノなの!? 美紅:ふぅ……聴こえてるよ。バケモノは流石に失礼だぞ、柚子奈? ナレーション:美紅は、リングを外した。 柚子奈:……ごめんなさい。どう、美紅……感度は? 美紅:うん、良好だ……相変わらず、不思議な感覚がするけどね。 柚子奈:仕方ないよ、このシステム自体が常識外れだもん。“ボク”だって戸惑ってるのだから。 美紅:いいのかい、“男言葉”なんか使って……レコーダーに録音されていても、知らないぞ? 柚子奈:そう言う美紅だって……もう、その話は、あと!……円華、敵の状況、大雑把に解る? 円華:動きが止まりました。恐らくですが、陣形が完成したものと。 柚子奈:あくまで、コチラが動かないと、攻撃してこないのかな? 円華:私達は、あくまで“防衛軍”です。相手が攻めてこない限り、コチラから攻撃することは許されません。 明日香:そこが、もどかしいんだよね……戦力的には、コッチが有利なんでしょ? 円華:はい。相手は、ルージア国の使っていた、旧式のモノです。 美紅:陣形まで作ったんだ……ここまで来たら、相手も動かざるを得ないだろう。 明日香:何か根拠が、あるの?   美紅:エネルギーが無駄になる。燃料は勿論、パイロットもね。向こうに予算が山ほど……いや、星の数ほどあるなら、話は別だけど。 明日香:それで……私達の方は? 美紅:……んっ? 明日香:いや、私達……黒潮の予算だよ? 美紅:それは全く問題ない。黒潮の資金は、“世界屈指の底なし沼”だよ。そこは、母……いや、理事長が自慢していた。 円華:部長、動きが……! 柚子奈:……本当。数機だけ、微妙に……まるで、働きバチみたいに。 明日香:美紅、これって……? 美紅:逆に挑発しているのかもね。それで……部長なら、どう対処する? 柚子奈:そうね……美紅、軽く周回してくれる? ……解ってると思うけど、自陣の周りだけだよ。 美紅:見解一致だ、了解! ナレーション:美紅は加速レバーを引き、自機を動かし始めた。だが、動作は、ゆっくり、そして丁寧……まるで、初心者のような模範的なモノだった。 明日香:あれ……美紅って、操縦技術、こんなもんだったっけ? 柚子奈:…… 円華:……私の予想が確かでしたら……美紅先輩は、誘っているのです。 明日香:えっ……どう誘ってるの!? 円華:相手に“笑わせる”のです。そうすれば、“大した事ない”と思い込んで、攻めようとする者が出てくる……先輩は、そこを狙っている。 柚子奈:……あっ、相手の陣形が変わったような気がする。円華、詳しくチェックして!? 円華:やはり……相手の陣形が崩れて、コチラに向かっている戦闘機……3機です! 美紅:来たか、尖兵(せんぺい)かな……明日香、行くぞ! 明日香:待ってました、了解っ!! 柚子奈:ムダだと思うけど、一応警告メールを送るね? 円華:ルールですので、妥当な判断かと思います。 美紅:条約は絶対だからね……でも、今日も会長が“帰れなくなる”かもね……フフッ。 柚子奈:まあ……それはそれで……仕方の無いことで…… 明日香:案外、そうでないかもだよ……優香はだったら、お茶菓子を食べながら、仕事してるんじゃない? 柚子奈:流石に、そこまでフザケるわけ無いでしょ。パソコンなどが壊れるわよ。 美紅:応接間で、一緒に食べたことがあるよ…… 会長室、思った以上に広かった。 柚子奈:えっ!? 明日香:えぇ~っ!?……(ボソッと)ズルい! 美紅:……んっ? ナレーション:その、ウワサの“生徒会長室”では……生徒会長の西院優香が、1人で職務に励んでいた。   ナレーション:会長室は、理事長室と勘違いするぐらいに広く、更に壁は音声を遮断するため、分厚い。これも、重大な理由がある。 優香:……理事長は、相変わらず動き無し。ご無事だと宜しいのですが。……さて、契約書類をチェックして、今日は上がりましょうか。 ナレーション:彼女の目の前に積まれた書類は、生徒会に関係するモノばかりではない。実は、学園全体に関係するモノも含まれている。 ナレーション:黒潮女学園の生徒会長は、理事長の代行も務めているのである。紅蘭は、生徒会長に“決定権”を与えており、『女学生のリーダー』に、命運を託しているのだ。 優香:これは……かなり複雑な事情ですね。理事会で話し合って戴きましょう。 ナレーション:1年生にして会長に選出された優香は、2年目。最初は戸惑った業務も、板に付いてきた。今や、黒潮島の“影の総理大臣”である。 優香:これは、サインで問題ないですね……はい?……このチャイム、まさかSLGからですか!? ナレーション:優香は、パソコンのデッキに移動した。 優香:(ゆっくりと座る)……やはり、当たりでしたわ! ナレーション:優香は、メールの内容を確認した。 優香:やれやれ、今日も帰れないのですか……仕方が無いですね、ウフフ。 ナレーション:優香は、笑みを浮かべながら、敵側への警告メールを丁寧に改訂し、送信した。 優香:さて……これまでの流れでしたら、無視されるのでしょうけど……規約は絶対ですから。今夜も缶詰めですね。 ナレーション:優香は、再び会長席に移動した。 優香:時間に余裕が出来ましたから、少しお菓子を摂ってからにしましょう。 ナレーション:優香が、応接間に移動しようとした、その時だった! 優香:あら、またチャイムだわ。でも、SLGとは違う! ナレーション:優香は、少し早足で、デッキに移った。 優香:これは……まさか、そんな信じられないことが……!? ナレーション:優香は、何度も内容を見直した。 優香:これが事実なら、明らかに協約に抵触する……早急に、柚子奈さんに知らせないと! ナレーション:優香は、驚異的な早打ちでメールを仕上げ、送信した。 優香:余り、大事(おおごと)にならなければ、良いのですが……? ナレーション:そして、司令室。 円華:……あっ! 柚子奈:どうしたの、円華? 円華:会長から、メールです。 柚子奈:優香なら安心よ、開けて。 円華:了解…… 明日香:警告が届かなかったのかな? 柚子奈:そんなに早く出るワケが、無いわ。 円華:……えっ、そんな!? 明日香:えっ、円華が驚くって……そんなに大事(おおごと)? 円華:隊長……航空防衛隊のスクランブルです。 明日香:えぇ〜っ!? 柚子奈:何ですって!? ナレーション:国内を守護する、もう一つの組織……防衛隊。その出動を新防衛軍のメンバーが驚く、その理由とは?次回を待て! ※この物語は、フィクションです。 ©2023 Lapis.Kazamidori

紅蘭:(国際会議場での演説)先日、ルージア国に奇襲を仕掛けた軍団は、私達・地球人にも持ち得ない、特殊な能力を秘めておりました。その時は、私達・新国際防衛軍の出動により、最低限の犠牲に踏み止まり(ふみとどまり)ましたが、再度攻めてくる可能性が、指摘されております。 紅蘭:そこで、新国際防衛軍は、新たなシステムを導入し、来たる襲撃に備えます。新たなシステム……それは…… ナレーション:22世紀に入って間もなく……宇宙から、複数の隕石が、大気圏を突破し、世界各地に落下した。個体が小さいことと、事前の警報が奏功し、被害は最小限に、くい止められた。しかし問題は、それ以降に起こった。 ナレーション:世界中から反旗を掲げる者達が、次々と蜂起し、重要な施設を攻撃、制圧し始めた。彼等は、常識を遥かに超えた武器および兵器を使い、政府軍を圧倒するのである。 ナレーション:そんな中、女史・柳生紅蘭の提唱により誕生したのが……『新国際防衛軍』である。発祥の地は、『黒潮島』。 明日香:(駆けていた足を留める。目前には、アミューズメントパーク)ハァハァ……そこに居るかな……?それ以外に思い当たる場所、無いもんなぁ。……うん!(意を決して、歩き出した) ナレーション:黒潮島……自由を求める、世界各国の投資家によって造成された、世界最新にして、最大級の人工島。 ナレーション:そして当時、若き天才投資家と呼ばれた異端児・柳生紅蘭(やぎゅう・こうらん)によって建立(こんりゅう)されたのが、『黒潮学園都市』である。『黒潮女学園』を中心に、立法・行政・司法を独自に確立させ。工業は勿論、農林水産に至るまで、あらゆる産業を、世界も認める高い水準にまで築き上げた。 ナレーション:そして、世界中が憧れと同時に畏怖する存在なのが……黒潮島で誕生した、『新国際防衛軍』である。常識外れの高い戦闘力および防御力で、反乱軍の侵攻を次々と阻止したのである。しかし……その防衛軍の黒潮支部を率いているのが…… 柚子奈:(黒潮女学園内、地下・秘密基地)円華、敵の動向は? 円華:今のところ、動きは微少(びしょう)。データを集めているのかも、しれません。 柚子奈:了解……もう少しだけ待つよ。 円華:…… ナレーション:女子高校生だとは、表には知られていない。 恵:(会議場のロビー)お疲れ様です、理事長。素晴らしい演説でした。 紅蘭:ただ単に、文章の通りに喋っただけです。西院(さいいん)さんの書く物は、堅すぎるのです。 恵:フフッ……(思い当たる点があるのか、含み笑い) 紅蘭:(恵を睨みつけ)……ところで? 恵:……ハッ!(姿勢を正した) 紅蘭:現在の、反乱軍への対応は? 恵:現在は、互いに沈黙を保っております。ただ…… 紅蘭:……ただ? 恵:些か(いささか)、こちらのメンバー不足にございまして……お恥ずかしながら、集めている最中に…… 紅蘭:(言い訳を遮って)また、美紅ですね……毎度毎度、同じことで、もう慣れましたわ。 恵:度々ご迷惑をお掛けし、申し訳ございません! 紅蘭:いいえ、私の責任でもありますから……それで、目星は着いているのでしょう? 恵:はい、大方(おおかた)。 紅蘭:宜しい……では早速、迎えの車を出して差し上げなさい。 恵:ですが、理事長の御身体(おからだ)が…… 紅蘭:(遮って)私なら、心配には及びません…有事が先決です。適当にタクシーを拾って、帰ります。 恵:…… 紅蘭:それでも、ご不安なら……私はここを動きませんので、後ほど迎えに戻っていらっしゃい。それなら、大丈夫でしょう……ここなら、世界屈指の防御バリアを張れますから? 恵:……承知しました!(敬礼して、踵を返し、速歩で去った) 紅蘭:(呟くように)世界と、未来の宝を……頼みましたよ。   ナレーション:黒潮島内のアミューズメントパークは、通信機器の充実性の高さ、そして最新機能を世界最速で搭載するため、国内のみならず、世界中からユーザーが挑戦に訪れる。 美紅:(出番が訪れ、ゲームのポッドに近寄る)……よし!(意を決して、ポッドの中に入った) ナレーション:1人の女性がゲームに挑もうとすると、ギャラリーのエリアを中心に騒がしくなった。彼女は、このゲームでは全国トップ10の実力を持っているからだ。 ナレーション:嫉妬からか、ヤジる者……参考にしようと、画面を注視する者……周囲は、ギャラリーで埋め尽くされた。 明日香:う〜ん、ここにも居ない……あっ、まだ残ってたんだ、懐かしい(カードゲームに目を向けた) 明日香:また、やりたいなぁ。カード、まだ残ってるから、大丈夫……じゃなかった、今はソレどころじゃない!(慌てて移動した) ナレーション:一方、学園内の秘密基地では 柚子奈:まだ動きは、なさそうね? 円華:いいえ、少しずつ……将棋でいう、陣形作りのようなモノでしょうか? 柚子奈:……仕方ない。こちらも、少しずつ隊列を作りましょう。 円華:了解! ナレーション:円華のタッチパネルによって、地上・海上、および空上の機体を操作することが、可能となる。当然ながら、ミサイルなどの発射や、空母からの戦闘機の発進も、タッチパネルで選択できるのだ。   柚子奈:本当に……美紅は、いったいどこに行ったの……まったく! 円華:…… ナレーション:再び、アミューズメントパーク内 明日香:うわぁ、凄い人集り(ひとだかり)……もしかして、ここに美紅がいるかな……? ナレーション:果たして、彼女の予想は的中するのであった。 美紅:(対戦ポッドから、出てきた)……ふぅ ナレーション:彼女の余裕を残した圧勝劇は、ギャラリーを再び騒然とさせた。 明日香:終わったのかな……行ってみよう! ナレーション:そして彼女は、お目当ての少女と会うのである。 明日香:見つけた!! ナレーション:明日香は手を振って、少女に視線を向けさせた。 美紅:(明日香の手振りに気付いた)あっ……明日香!? 明日香:ようやく見付けたよ……! 美紅:どうした、何か大事(おおごと)か?   明日香:大事も、大事だよ……敵が、かなりの数で動いたの! 美紅:なんだって……そんな兆候は無かったはず!? 明日香:うん……あっ、ここじゃマズいから、外で! 美紅:解った、直ぐに移動しよう! ナレーション:美紅と明日香は、店の外へと移動した。黒潮島には、路面電車も運行されており、通学の足としても貴重な存在となっている。 明日香:ねえ美紅、路面電車に乗る? 美紅:流石に、路面電車では、ゆっくり過ぎる。お金はあるから、タクシーを拾いたい……んっ? 明日香:……何かあったの? 美紅:あのスーパーカーに乗ろう! ナレーション:美紅は、歩道沿いに駐車しているスーパーカーを指差した。 明日香:ちょっと美紅……まさか、無免許で車を運転する気……というか、車を盗む気!? 美紅:(呆れ笑いをしながら)そんなワケ、ないだろ……乗せてもらうのさ。 明日香:え〜っ、見ず知らずの私達を乗せてくれるワケ…… 美紅:(遮るように)私の記憶が確かならば……行くぞ!(走り出した) 明日香:あっ……待ってよ、美紅!(明日香も、慌てて走り出した) ナレーション:美紅と明日香は、目的の外車に、たどり着いた。 美紅:(運転席を覗く)やはり、先生のでしたか…… 明日香:えっ、樟葉先生!? 恵:(下車して、穏やかな笑顔で)私も、予想通りでした。 美紅:はいはい、予想しやすいワンパターンで、すいません。 恵:急ぎます。美紅は反対側から……明日香は後ろに!   ナレーション:恵は、運転席のシートを倒し、明日香が後ろに乗り込んだ。そして、2人を乗せた恵は、学園に向けて、車を一気に走らせた。 明日香:でも、よく先生の車だと解ったね……樟葉先生、いつも登校は徒歩でしょ? 美紅:実は……恵先生とは、さっきのアミューズメントでの付き合いがあってね。その後、ゴチしてもらう為に、乗せていただいたのさ。 明日香:えぇ〜っ、ズルい〜っ……私だって誘ってくれたら、良かったじゃん! 美紅:あの時、明日香は柚子奈と、とことんボードでやりあってただろ?……だから、私は訓練がてらに移動していたんだ。 明日香:あっ、そうか……あの時だったか……テヘッ♪(可愛く舌を出した) 恵:本来なら、雑談にお付き合いしたいところですが……現状について、簡単に説明します。 美紅:お願いします! 明日香:はいっ! ナレーション:恵の説明は、明日香が伝えたかったことと全く同じで、その詳細だった。 美紅:相手も、賢くなったということかな……あっちに失礼だけど。 明日香:前までは、あっちが積極的に来てくれるから、攻めやすかったよね? 美紅:それが一転して、にらめっこの状態……どういう心境の変化なのか? 恵:ですから、柚子奈も先を予想しきれないのです。 ナレーション:黒潮女学園は、単なる女子限定の一貫校に留まらず、あらゆる戦略の中心に位置する。本部が『心臓部』ならば、女学園は『頭脳』である。そして、その『頭脳』には、表と裏がある。 恵:ナンバーの裏にチップを付けているので、開くハズですが……? ナレーション:恵達は、厳重警戒のエリアからの入場を、試みた。すると、門扉が自動で開いた。 恵:……急ぎます! ナレーション:車は、側道に掘られている地下道に入った。そして、ターミナル状の広場に差し掛かった。通常ならば、行き止まりであるが…… 恵:美紅、名札を! ナレーション:美紅は黙ったまま、名札を外し、車内の正面から壁に見せ付けた。すると今度は、壁が左右に開いた。 ナレーション:そして、その先には、頑丈な鏡に覆われた通路が存在していた。車は、一気に直進した。 明日香:何度も見るけど……まるで万華鏡で、キモいわ。 恵:万華鏡そのものが、狙いなのです。 明日香:……狙いって? 恵:先ずは、侵入者を混乱させる。それから、私達に敵の位置や状況を知らせてくれるのです。そして…… 美紅:万華鏡の配置を確認すれば、銃の反射を利用して、敵を倒せる。 恵:御名答……エキスパートなら、直ぐに慣れるでしょう。 美紅:そういう先生の仰言る(おっしゃる)エキスパートが、いつ誕生することやら……? 恵:最低1人、もう誕生してますが……? 美紅:もしかして、円華? 明日香:えっ、円華って、銃が使えるの!? 恵:使えます。ただし、弾丸は薬莢(やっきょう)を拾うのが面倒らしいので、“レーザー銃”ですが。 美紅:まあ、レーザーの方が便利だろうね。質によっては周囲が光るから、弾道が読めない。 恵:その通りです……さあ、着きましたよ! ナレーション:先程のイミテーションのロータリーとは違い、豪華なターミナルに到着した。車両は、ここで終点である。 恵:後は頼みましたよ、御二人さん。 明日香:あれ、先生は? 恵:私は、直ぐに理事長を迎えに戻ります。 明日香:そっか……了解! 美紅:……   ナレーション:明日香は直ぐに降り、一方の美紅は複雑な表情を浮かべながら降りた。 恵:……美紅 ナレーション:美紅は、背中を向けたまま、立ち止まった。 恵:柚子奈には、正直に謝るのですよ……ああ見えて、心配性ですから。 美紅:……解ってます! ナレーション:美紅は返事して間もなく、走り出した。 明日香:あっ……待ってよ、美紅〜っ!! ナレーション:明日香も、慌てて追走した。 恵:やれやれ……“10代は微妙な世代”とは、よく言ったものです。 ナレーション:恵は、ハンドルにチカラを込めた。   恵:“私達”の頃は、どうだったでしょうね……“メグ”? ナレーション:恵はそう呟き、車をUターンさせた。 ナレーション:その頃、司令室では…… 円華:これは……もしかして……? 柚子奈:何か解ったの、円華? 円華:私達が出るのを、待ってた……? 柚子奈:まさか……ということは、向こうは自信を持って、攻めようと……? 円華:でも、私達は“防衛軍”です。コチラから動くワケには…… 美紅:(遮るように)動いても、問題は無い! 柚子奈:ハッ!? 円華:…… ナレーション:扉越しから声がして、柚子奈は驚き、逆に円華は冷静さを保っていた。 ナレーション:自動ドアが開くと、そこには美紅と明日香が立っていた。美紅は、長い距離を走ってなお、自然体を保っているが、逆に明日香は呼吸が激しい。 明日香:ゼェゼェ……もう、ここのダッシュ……勘弁して! 柚子奈:美紅、明日香!? 明日香:お待たせ……ハァハァ……任務完了……ビシッ!   ナレーション:明日香は、疲れた笑顔で敬礼した。一方の美紅は、無言で素通りを試みた。 柚子奈:待ちなさい!(美紅の前に立ちはだかる) 美紅:…… 柚子奈:最初に言うべきことが、あるでしょう? 美紅:(頭を軽く掻きながら)柚子奈…… 柚子奈:…… 明日香:……ウフッ♪(先を読んでいるのか、密かに含み笑い) 円華:……(いつもの無表情) 美紅:ツッコミは、胸元にチョップした方が、いいぞ! ナレーション:美紅はそう言って、ポッドに向かおうとした。 柚子奈:(激しい口調で)そうじゃないでしょ!? ナレーション:美紅は、いったん立ち止まった。 美紅:私は、まだまだSLGには未熟だからね……モチベーションを上げる必要があった……申し訳ない。 ナレーション:彼女は照れ屋か、向き直らないまま頭を下げ、再びポッドへと歩を進めた。 柚子奈:……全くもう! ナレーション:柚子奈は割り切ったのか、これ以上は追及せず、自分のポジションに戻った。 明日香:キャハッ、いつもの通りだ♪ 柚子奈:明日香は、早く円華と交代して……彼女には、全体を観て貰わないといけないから! 明日香:りょうか〜い! ナレーション:明日香は、円華と引き継ぎ作業に入った。 明日香:まだ、動きない? 円華:……静かです。 明日香:……そっか。 円華:……明日香センパイとは、正反対です。 明日香:あの……そこだけ直して貰えると、超カワイクなるんだけどね。 円華:私は、カワイイ必要は、ありません。 明日香:あうっ! ナレーション:円華にボケが通用しないことを改めて確認した、明日香であった。 明日香:……よし、こっちはOKだよ! 円華:私もです……美紅先輩、“シンクロ”問題ありません。 美紅:了解……こちらも完璧だ。 柚子奈:それじゃあ美紅、早速だけどシンクロ・モードに入ってくれる? 美紅:了解! ナレーション:シンクロとは、ユーザーの精神を操縦している機体に移動させる行為である。ユーザーとシステムが短時間で“同化”し、ユーザーは、あたかも機体に瞬間移動した感覚になるのだ。 円華:(通信で)“リング”が下りていますか? 美紅:うん、いま下りてきた。 ナレーション:ポッドに取り付けられているリングを、頭に被り……そして目を閉じて、全神経をリングに集中させる。これが、シンクロ作業である。   ナレーション:通常なら、5分前後の時間が必要であり、一瞬の呼吸の乱れさえも許されない、厳しい集中力が、問われる。 円華:シンクロ、開始しました……あっ!? 柚子奈:どうしたの……まさか、ポッドに異常でも!? 明日香:マジ、異常って……!? 円華:いえ、違います。美紅先輩のシンクロ率……上がり方が急なのです。40%……50……もう70、速すぎる! 柚子奈:それ、本当なの……にわかに信じられないんだけど……!? 明日香:美紅は、やる時はやるからね。確かに、いつもの美紅はマイペースだし、学校もサボってるけど…… 明日香:かと言って、落第生じゃない……むしろ成績は上位だし。そして何より、正義に熱いからね……スーパーヒロインだよ、私から見れば! 円華:美紅先輩、シンクロ完了です。 柚子奈:そんなの、有り得ない……こんなに早く……美紅は、バケモノなの!? 美紅:ふぅ……聴こえてるよ。バケモノは流石に失礼だぞ、柚子奈? ナレーション:美紅は、リングを外した。 柚子奈:……ごめんなさい。どう、美紅……感度は? 美紅:うん、良好だ……相変わらず、不思議な感覚がするけどね。 柚子奈:仕方ないよ、このシステム自体が常識外れだもん。“ボク”だって戸惑ってるのだから。 美紅:いいのかい、“男言葉”なんか使って……レコーダーに録音されていても、知らないぞ? 柚子奈:そう言う美紅だって……もう、その話は、あと!……円華、敵の状況、大雑把に解る? 円華:動きが止まりました。恐らくですが、陣形が完成したものと。 柚子奈:あくまで、コチラが動かないと、攻撃してこないのかな? 円華:私達は、あくまで“防衛軍”です。相手が攻めてこない限り、コチラから攻撃することは許されません。 明日香:そこが、もどかしいんだよね……戦力的には、コッチが有利なんでしょ? 円華:はい。相手は、ルージア国の使っていた、旧式のモノです。 美紅:陣形まで作ったんだ……ここまで来たら、相手も動かざるを得ないだろう。 明日香:何か根拠が、あるの?   美紅:エネルギーが無駄になる。燃料は勿論、パイロットもね。向こうに予算が山ほど……いや、星の数ほどあるなら、話は別だけど。 明日香:それで……私達の方は? 美紅:……んっ? 明日香:いや、私達……黒潮の予算だよ? 美紅:それは全く問題ない。黒潮の資金は、“世界屈指の底なし沼”だよ。そこは、母……いや、理事長が自慢していた。 円華:部長、動きが……! 柚子奈:……本当。数機だけ、微妙に……まるで、働きバチみたいに。 明日香:美紅、これって……? 美紅:逆に挑発しているのかもね。それで……部長なら、どう対処する? 柚子奈:そうね……美紅、軽く周回してくれる? ……解ってると思うけど、自陣の周りだけだよ。 美紅:見解一致だ、了解! ナレーション:美紅は加速レバーを引き、自機を動かし始めた。だが、動作は、ゆっくり、そして丁寧……まるで、初心者のような模範的なモノだった。 明日香:あれ……美紅って、操縦技術、こんなもんだったっけ? 柚子奈:…… 円華:……私の予想が確かでしたら……美紅先輩は、誘っているのです。 明日香:えっ……どう誘ってるの!? 円華:相手に“笑わせる”のです。そうすれば、“大した事ない”と思い込んで、攻めようとする者が出てくる……先輩は、そこを狙っている。 柚子奈:……あっ、相手の陣形が変わったような気がする。円華、詳しくチェックして!? 円華:やはり……相手の陣形が崩れて、コチラに向かっている戦闘機……3機です! 美紅:来たか、尖兵(せんぺい)かな……明日香、行くぞ! 明日香:待ってました、了解っ!! 柚子奈:ムダだと思うけど、一応警告メールを送るね? 円華:ルールですので、妥当な判断かと思います。 美紅:条約は絶対だからね……でも、今日も会長が“帰れなくなる”かもね……フフッ。 柚子奈:まあ……それはそれで……仕方の無いことで…… 明日香:案外、そうでないかもだよ……優香はだったら、お茶菓子を食べながら、仕事してるんじゃない? 柚子奈:流石に、そこまでフザケるわけ無いでしょ。パソコンなどが壊れるわよ。 美紅:応接間で、一緒に食べたことがあるよ…… 会長室、思った以上に広かった。 柚子奈:えっ!? 明日香:えぇ~っ!?……(ボソッと)ズルい! 美紅:……んっ? ナレーション:その、ウワサの“生徒会長室”では……生徒会長の西院優香が、1人で職務に励んでいた。   ナレーション:会長室は、理事長室と勘違いするぐらいに広く、更に壁は音声を遮断するため、分厚い。これも、重大な理由がある。 優香:……理事長は、相変わらず動き無し。ご無事だと宜しいのですが。……さて、契約書類をチェックして、今日は上がりましょうか。 ナレーション:彼女の目の前に積まれた書類は、生徒会に関係するモノばかりではない。実は、学園全体に関係するモノも含まれている。 ナレーション:黒潮女学園の生徒会長は、理事長の代行も務めているのである。紅蘭は、生徒会長に“決定権”を与えており、『女学生のリーダー』に、命運を託しているのだ。 優香:これは……かなり複雑な事情ですね。理事会で話し合って戴きましょう。 ナレーション:1年生にして会長に選出された優香は、2年目。最初は戸惑った業務も、板に付いてきた。今や、黒潮島の“影の総理大臣”である。 優香:これは、サインで問題ないですね……はい?……このチャイム、まさかSLGからですか!? ナレーション:優香は、パソコンのデッキに移動した。 優香:(ゆっくりと座る)……やはり、当たりでしたわ! ナレーション:優香は、メールの内容を確認した。 優香:やれやれ、今日も帰れないのですか……仕方が無いですね、ウフフ。 ナレーション:優香は、笑みを浮かべながら、敵側への警告メールを丁寧に改訂し、送信した。 優香:さて……これまでの流れでしたら、無視されるのでしょうけど……規約は絶対ですから。今夜も缶詰めですね。 ナレーション:優香は、再び会長席に移動した。 優香:時間に余裕が出来ましたから、少しお菓子を摂ってからにしましょう。 ナレーション:優香が、応接間に移動しようとした、その時だった! 優香:あら、またチャイムだわ。でも、SLGとは違う! ナレーション:優香は、少し早足で、デッキに移った。 優香:これは……まさか、そんな信じられないことが……!? ナレーション:優香は、何度も内容を見直した。 優香:これが事実なら、明らかに協約に抵触する……早急に、柚子奈さんに知らせないと! ナレーション:優香は、驚異的な早打ちでメールを仕上げ、送信した。 優香:余り、大事(おおごと)にならなければ、良いのですが……? ナレーション:そして、司令室。 円華:……あっ! 柚子奈:どうしたの、円華? 円華:会長から、メールです。 柚子奈:優香なら安心よ、開けて。 円華:了解…… 明日香:警告が届かなかったのかな? 柚子奈:そんなに早く出るワケが、無いわ。 円華:……えっ、そんな!? 明日香:えっ、円華が驚くって……そんなに大事(おおごと)? 円華:隊長……航空防衛隊のスクランブルです。 明日香:えぇ〜っ!? 柚子奈:何ですって!? ナレーション:国内を守護する、もう一つの組織……防衛隊。その出動を新防衛軍のメンバーが驚く、その理由とは?次回を待て! ※この物語は、フィクションです。 ©2023 Lapis.Kazamidori