台本概要

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タイトル DISTOPIA BREAK:Third『終壁』
作者名 NAOKI  (@NAOKI24480603)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(不問5)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 万和(ばんな)213年。一人の剣士がある力に目覚めた。
伸展と呼ばれるそれは、人でありながら人を超える大いなる力。
その力は解放される事で、更に強大な力を剣士に与えた。
伸展を扱える者は少し、また少しと増えていき、やがて人々は彼らを、尊敬と畏怖の念を込めて『伸展師(しんてんし)』と呼ぶようになる。
 
時を経て。伸展解放に次ぐ上位能力『終伸展(しゅうしんてん)』が現れた頃、世にひとつの組織が生まれた。
名を皇組(すめらぎぐみ)。
恐怖こそが誉れ。奪取の先にこそ、誠(まこと)の自由と正義が存在せしと謳う、紫魂(しこん)の夜叉。
彼らは次第に、持たざる者を支配し始めた。
相次ぐ悲惨な戦闘が頻発し、日夜いとも容易く命が失われていく。
そんな中、皇組(すめらぎぐみ)に立ち向かわんとする者たちが現れた。
名を榊組(さかきぐみ)。
正義の名の下に、希望を抱き、世を常闇(とこやみ)から掬いあげんとする、碧き使徒。
 
異なる思想を掲げた二つの組織は、選ばれし者にのみ許された唯一無二の技=『伸展(しんてん)』を振るい、今時代を動かし始める…。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
田夜(でんや) 不問 30 二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 尚悦に懐いている。鞠の実弟。 伸展・一(しんてん・いちもんじ)の解放者。
鞠(まり) 不問 53 二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 密かに尚悦を慕っている。田夜の実姉。 伸展・齟齬総殺(しんてん・そごそうさつ)の解放者。
尚悦(なおえつ) 不問 67 二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 田夜と鞠に懐かれている。実は榊組からの密偵。 伸展・多門ノ壁 夜壁(しんてん・たもんのかべ、やへい)の解放者。
悪間憑(あまつ) 不問 29 二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 残酷で残忍。裏切り者の尚悦を殺そうとする。 伸展・赤凛一擲(しんてん・せきりんいってき)の解放者。
萌寧(もね) 不問 20 皇組と対立する二大勢力の一つ・榊組(さかきぐみ)に属する伸展師。 尚悦の真実を知る人物。特殊な伸展を扱う。 伸展・天泣薊(しんてん・てんきゅうあざみ)の解放者。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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DISTOPIA BREAK:Third『終壁』  :   :登場人物紹介(マーカー用) 田夜(でんや):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 田夜(でんや):尚悦に懐いている。鞠の実弟。 田夜(でんや):伸展・一(しんてん・いちもんじ)の解放者。 鞠(まり):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 鞠(まり):密かに尚悦を慕っている。田夜の実姉。 鞠(まり):伸展・齟齬総殺(しんてん・そごそうさつ)の解放者。 尚悦(なおえつ):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 尚悦(なおえつ):田夜と鞠に懐かれている。実は榊組からの密偵。 尚悦(なおえつ):伸展・多門ノ壁 夜壁(しんてん・たもんのかべ、やへい)の解放者。 悪間憑(あまつ):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 悪間憑(あまつ):残酷で残忍。裏切り者の尚悦を殺そうとする。 悪間憑(あまつ):伸展・赤凛一擲(しんてん・せきりんいってき)の解放者。 萌寧(もね):皇組と対立する二大勢力の一つ・榊組(さかきぐみ)に属する伸展師。 萌寧(もね):尚悦の真実を知る人物。特殊な伸展を扱う。 萌寧(もね):伸展・天泣薊(しんてん・てんきゅうあざみ)の解放者。  :   :  0:シナリオスタート  :   :【場面】無領地・広くひらけた土地  :  田夜(でんや):「…あ、ナオエツさん!」 尚悦(なおえつ):「おー、待たせたなぁ」 田夜(でんや):「いや、こっちこそ呼び出したりなんかして…すいません」 尚悦(なおえつ):「おう…?なんや、今日は随分大人しいやないか」 田夜(でんや):「……」 尚悦(なおえつ):「…なんぞあったんかいな?」 田夜(でんや):「ナオエツさん!…相談したいことがある」 尚悦(なおえつ):「えぇで。話してみぃ」  :   :  萌寧(もね):(タイトルコール) 萌寧(もね):DISTOPIA BREAK Third『終壁』 萌寧(もね):(でぃすとぴあ ぶれいく さーど『ついへき』)  :   :  鞠(まり):「お疲れ様です。ナオエツさん」 尚悦(なおえつ):「おーマリもおったんか、お疲れさん。…お前も暗い顔しよって…つーことは、お前も今の話、知っとるってことやな?」 鞠(まり):「はい…」 尚悦(なおえつ):「なるほどな…。そんで?俺にどうしろって言うんや?」 田夜(でんや):「俺はさ、ナオエツさん…。榊(さかき)だとか皇(すめらぎ)だとか…正直よくわかってないんだ。 田夜(でんや):力を使うのは楽しい、むかつくヤツをぶっ飛ばせる力…俺がずっと欲しかった力だったから…」 尚悦(なおえつ):「……」 田夜(でんや):「俺は単純だからさ?ナオエツさんに助けてもらって、皇に入って…アマツさんの言ってる事はよくわかんないけど、とりあえずいいやって思ったんだ。 田夜(でんや):力を持ってれば自分の身も守れるし、姉ちゃんだって大変な思いをしなくても済む。 田夜(でんや):ナオエツさんは俺らによくしてくれるし、ここが俺らの居場所なんだって…そう、軽く考えてた。 田夜(でんや):  田夜(でんや):でもさ…力を持ってるからって、何もしてないヤツを殺せって言うのはおかしいだろ…?最近そんなのばっかりだ…そんなの、俺らを襲ってきたやつらと一緒じゃんか…」 鞠(まり):「デンヤ…」 田夜(でんや):「…セツナは泣いてた…混乱しながら、苦しそうに泣いてた…っ、大好きなのに!一緒にいたいのに!…それなのに本人たちを無視して、戦わなきゃいけないなんて、おかしいじゃんか!!」 鞠(まり):「デンヤっ…!」 0:鞠、田夜を抱きしめる。 田夜(でんや):「…それが皇にいるせいだって言うなら俺は…昔の自分をぶん殴ってやりたい…っ!」 尚悦(なおえつ):「…そうか…随分悩んどったんやなぁ、デンヤ。気付いてやれんで、ごめんなぁ」 0:田夜の頭を優しく撫でる尚悦。 田夜(でんや):「うっ…((声を押し殺して泣く)」 尚悦(なおえつ):「デンヤ、マリ。俺はなぁ、お前らを気に入っとる。お前らはえぇヤツや。ちっとばかり気が短いのが玉に瑕(きず)だが、情に熱いし真っ直ぐや。 尚悦(なおえつ):せやからな?俺の秘密を教えたる。一度しか言わんから、よく聞いとき?」 鞠(まり):「秘密?」 尚悦(なおえつ): 尚悦(なおえつ):「(少し溜めて)俺はな、皇のもんやない。榊組・縁(えにし)の一人や」 鞠(まり):「……どういうことです?」 田夜(でんや):「…何…冗談いってるんだよ?」 尚悦(なおえつ):「冗談やない」 鞠(まり):「榊組の縁(えにし)って…この間会った、ホウスイと同じ…?」 尚悦(なおえつ):「その通りや。俺はあのホウスイに命じられて、皇組の潜入捜査をしとる。 尚悦(なおえつ):せやからな?俺はいずれ、皇から消える存在なんや」 田夜(でんや):「俺らに嘘ついてたってこと…?」 尚悦(なおえつ):「…まぁ結果的にそういう形になってもうたがな。やけど俺は元々、お前らも連れてくつもりやってんで?(苦笑)」 鞠(まり):「っ!ナオエツさん…!」 尚悦(なおえつ):「はははっ、どうや。驚いたか?」 田夜(でんや):「驚くなんてもんじゃねぇよ…!やっぱナオエツさんは、かっけぇよ!」 尚悦(なおえつ):「褒めるな褒めるな!まぁそういうことやから、何も心配せんでえぇ」 田夜(でんや):「じゃあ!セツナも連れてけば解決ってことだよな!?」 尚悦(なおえつ):「せやな。けどその前に、確認したいことがあるんや…」 鞠(まり):「確認したいこと…?」 尚悦(なおえつ):「デンヤ。セツナの話、もう一度聞かせてくれるか?」 田夜(でんや):「え…?あぁ、いいけど…。えっとまず…俺らが榊組の拠点に一発かまして…」 鞠(まり):「そこにセツナの兄貴がいたんだよな?」 田夜(でんや):「うん。それで兄貴が戻って来いって言ったんだけど、セツナが取り乱して…」 尚悦(なおえつ):「(食い気味に)そこや。セツナはその時、何て言うた? 尚悦(なおえつ):『あの人がそう言った』…そう言うたんやったか?」 田夜(でんや):「え…?あぁ、確かにそう言ってた」 鞠(まり):「…『あの人』って、誰なんだろうな…?アマツさん…?」 尚悦(なおえつ):「いや…おそらくキサラやな」 田夜(でんや):「キサラって…あのたまにアマツさんと話してる、アイツか?」 尚悦(なおえつ):「せや。俺はここ数年、皇組の勢力や個々の伸展、動向について探ってきた。その上でアマツが今、皇組の頭(かしら)なんは間違いない。 尚悦(なおえつ):せやけどキサラについての情報は、ほぼ無いに等しいんや。唯一わかっとるのは、キサラが引き入れた人間が、ここには大勢おるっていうことだけや」 鞠(まり):「引き入れる…ってことは、勧誘ってことですか?」 尚悦(なおえつ):「そうとも言いきれん。勧誘って言うんは、ある程度の実力を持っとるヤツがやることや。反発する者もおるし、場合によっては戦闘も予想されるからな。 尚悦(なおえつ):せやから伸展を扱えるものが行うのが常(つね)なんやが…それなら、なんで誰もキサラの伸展を知らん? 尚悦(なおえつ):それどころやない。伸展の能力はおろか、キサラがどういう人間なのか…誰に聞いても、詳しくはわからんのや」 田夜(でんや):「なんだよそれ…前々から思ってはいたけど、不気味なやつだな…」 尚悦(なおえつ):「そういうこっちゃ。せやからな?俺はまだ帰れへん」 鞠(まり):「…え?」 尚悦(なおえつ):「俺の仕事は終わってへん。もしかしたらキサラは皇にとって、何か重要な役割を担ってるのかも知れんのや」 鞠(まり):「そんな!それじゃ私らは…」 田夜(でんや):「そうだぜ!?ナオエツさんが残るなら、俺らだってここに残る!」 尚悦(なおえつ):「ほんま、お前らはえぇヤツやな。やけど、そうなったらセツナは…」  :  0:尚悦の背後。少し離れた一点が不気味に光り、その光が尚悦めがけて飛んでくる。 0:田夜はいち早くそれに気付き、おもむろに飛び出す。 田夜(でんや):「!? ナオエツさんっ、危ない! ぐあっ…!」 尚悦(なおえつ):「デンヤ!」 0:尚悦が振り返った先。そこから悪間憑がユラリと現れる。 悪間憑(あまつ):「…ナオエツ。そこで何を話している?」 尚悦(なおえつ):「…アマツ」 鞠(まり):「…デン、ヤ…?っ、デンヤ!!」 悪間憑(あまつ):「…ふん、私の攻撃に気付いたのは褒めてやってもいいが、それを弾きもせずに飛び出してくるとは…」 鞠(まり):「デンヤっ!大丈夫か?!おい、デンヤ!」 悪間憑(あまつ):「はぁ…まったくもって耳障りだな、頭に響く…」 尚悦(なおえつ):「アマツ…何をしとるんや?仲間をこんな目に合わせてもうて、どないする…」 悪間憑(あまつ):「(被せて)ナオエツぅぅぅ!」 尚悦(なおえつ):「……」 悪間憑(あまつ):「…気付いているだろう?今、何が起きているのか。自分の立たされている状況が…」 尚悦(なおえつ):「(溜め息)…せやな。…いつから気付いとった?」 悪間憑(あまつ):「全く忌々しいやつめ…してやられたぞ。口惜しい…。 悪間憑(あまつ):あの日、貴様を向かわせたにも関わらず、あの小僧を取り逃がしたと聞いた時から怪しいとは思っていたが…。 悪間憑(あまつ):まさか貴様が憎き榊に組みする裏切り者だとはなぁ…!」 尚悦(なおえつ):「なぜそこまでアイツに執着する?」 悪間憑(あまつ):「あやつはいずれ、邪魔になる」 尚悦(なおえつ):「…どうやらお前にとって、良くない可能性を秘めた存在のようやな」 悪間憑(あまつ):「貴様が知る事ではない。あやつには価値があった。しかし…手に入らぬのならば、殺すのが当然の選択」 尚悦(なおえつ):「芽吹く前に腐らせるか、刈り取るかゆーこっちゃな」 悪間憑(あまつ):「少なくとも、そこに転がっている紛い物とは違うからなぁ!あははははは」 鞠(まり):「! ……取り消せ…」 悪間憑(あまつ):「…何?」 尚悦(なおえつ):「マリ、よせ」 鞠(まり):「こいつは…デンヤは必死に戦ってたんだ…。涙を流すほどの悩みを抱えても、心配させまいと気丈に振る舞いながら、必死に…!」 悪間憑(あまつ):「では無駄死にだったな!」 鞠(まり):「っ…アマツううぅぅぁぁぁぁ!!伸展解放(しんてんかいほう)!」 尚悦(なおえつ):「チッ…!伸展解放(しんてんかいほう)…!」 鞠(まり):「齟齬相殺(そごそうさつ)!」 0:尚悦が伸展を発動させるより早く、鞠が悪間憑に切りかかる。 悪間憑(あまつ):「ふん…死に急ぐか」 尚悦(なおえつ):「多門ノ壁 夜壁(たもんのかべ、やへい)!」 悪間憑(あまつ):「伸展解放 赤凛一擲 悪間憑(あまつ):(しんてんかいほう、せきりんいってき)」 0:尚悦の伸展発動により悪間憑の攻撃が逸れるも、鞠に被弾。 鞠(まり):「っ!?…っ、うああっ!!」 尚悦(なおえつ):「マリ!!」 悪間憑(あまつ):「あーっはっはっはっはっはっは!(大笑い)」 0:尚悦、衝撃によって吹き飛んだ鞠の元へ。 尚悦(なおえつ):「マリ!大丈夫か!?」 鞠(まり):「ぐっ…大丈夫、です…すいません…」 尚悦(なおえつ):「…まだ動けるな?」 鞠(まり):「…はい、っ」 尚悦(なおえつ):「お前はデンヤと逃げぇ…後は俺が引き受ける」 鞠(まり):「!? 嫌です!私も戦います!」 尚悦(なおえつ):「デンヤはまだ息がある。でもこのままやったらわからへん…大事な弟やろ?お前が守らな、誰が守るんや…?」 悪間憑(あまつ):「行かせるか…っ、何!?」 田夜(でんや):「それは俺のセリフだ…」 0:倒れていた田夜が悪間憑の足をつかんで止める  :   :【SE】高い金属音 田夜(でんや):「(詠唱)『命乞いする時に大切なことは二つ。一つ、命を握っている者を楽しませること。二つ、正当な理由を提示すること。』 田夜(でんや):  田夜(でんや):終伸展解放 紫剣宣判 一 田夜(でんや):(しゅうしんてんかいほう、しけんせんばん、いちもんじ)」 0:田夜の一太刀が、悪間憑を襲う。剣で受け止めるも悪間憑、大きく吹き飛ぶ。 悪間憑(あまつ):「ぐああああ!」 尚悦(なおえつ):「デンヤ!?」 田夜(でんや):「ナオエツさん!姉ちゃんを連れて、逃げて…!」 鞠(まり):「デンヤ!!」 田夜(でんや):「…姉ちゃん、今までありがとな…俺、ずっと姉ちゃんに守られてばっかでさ…。やっと、姉ちゃんの事…守れそうだよ…」 鞠(まり):「…何、言ってんだよ?…っ、早くこっち来い!みんなで逃げるんだよ!!」 田夜(でんや):「はは…そりゃ無理かな…血ぃ流しすぎたみたいだ…。目が霞んでてさ…よく見えないんだ…」 鞠(まり):「私が連れていくから!だからこっちに…!」 田夜(でんや):「(被せて)姉ちゃん。…これさ、渡してくんないかな?あいつに…」 0:声を便りに田夜、鞠に向かってネックレスを投げる。 鞠(まり):「…これ…」 田夜(でんや):「前に話したろ…?…俺の、大事な人…榊組にさ、いるんだ…。桜が似合う…暖かい、春風の様な人…」 鞠(まり):「…嫌だ…お前が渡せよ…っ自分の手でさぁ!」 0:起き上がった悪間憑が近付いてくる 悪間憑(あまつ):「行かせると思うか…?」 田夜(でんや):「くっ…!ナオエツさんっ、姉ちゃんを…頼みます! 田夜(でんや):うわああああ!」 悪間憑(あまつ):「この死にぞこないが!邪魔をするな!」 田夜(でんや):「ぐあ!」 尚悦(なおえつ):「デンヤ!ほんま、えぇ男になったなぁ…。安心せぇ、マリは必ず逃がす…けどなぁ。 尚悦(なおえつ):お前を一人では残さへん…!」 0:田夜と鞠の間に立ち、構える。  :   :【SE】手を打ち鳴らす音  尚悦(なおえつ):「(詠唱)『お前にこの壁が乗り越えられるんか?』 尚悦(なおえつ):  尚悦(なおえつ):終伸展解放 影導黒炎多門ノ壁 貴金観鈍壁 尚悦(なおえつ):(しゅうしんてんかいほう、いんどうこくえんたもんのかべ、きごんかんどんへき)」 0:強固な壁が、鞠の視界を遮る。 鞠(まり):「…え?」 悪間憑(あまつ):「面白い、いいだろう…貴様と私で力比べと行こうじゃないか」 尚悦(なおえつ):「マリ、お前は逃げぇ。デンヤを連れて、後から追うでな…」 鞠(まり):「ナオエツさん!?」 悪間憑(あまつ):「ははは!!ずいぶん余裕だな…? 悪間憑(あまつ):安心しろ。すぐに貴様ら全員、息の根を止めてくれる…」 尚悦(なおえつ):「ふっ…それはずいぶん穏やかやないな?ここで死ぬんは、お前一人で充分や」 悪間憑(あまつ):「守ることしか出来ん貴様が、本当に私を倒せると思っているのか?」 尚悦(なおえつ):「俺はなぁ、アマツ…確かに守るのが役目の男や。せやけど…守ってるだけでは誰も助けられへんって事も、知っとるんやで…?」 悪間憑(あまつ):「……」 尚悦(なおえつ):「マリ、デンヤ…ありがとうなぁ。お前達が俺の代わりに受けた傷の分まで、今度は俺がお前達の盾となり、槍になる。 尚悦(なおえつ):俺のありったけの…全てをかけて…!」 悪間憑(あまつ):「…槍?…まさか!」 尚悦(なおえつ):「(食い気味に)終伸展が一つだけなんて、誰が言うた?」  :   :【同時刻】貴金観鈍壁の外・鞠  :  鞠(まり):「嫌だ、ナオエツさん!技を…技を解いてください!!」 0:壁に追い縋る鞠。そこに騒ぎを聞きつけて、萌寧が現れる。 萌寧(もね):「そちらの方?何があったのですか…っ!貴方は…」 鞠(まり):「!?」 萌寧(もね):「皇組(すめらぎぐみ)…。こんなところで…何をしているのです?」 鞠(まり):「うるさい!今はお前に構ってる暇なんてないんだよ!」 萌寧(もね):「それは好都合です。私の伸展はあまり戦闘向きではありませんから」 鞠(まり):「私に構うな!今はそれどころじゃ…ぐっ…」 萌寧(もね):「…負傷しているのですね?」 鞠(まり):「そんなことどうでもいい!この向うでデンヤが…ナオエツさんが…!」 萌寧(もね):「まさかこの壁はナオエツの?…この向こうにナオエツがいるのですか?」 鞠(まり):「そうだよ!ふたりだけでアマツと…」 萌寧(もね):「アマツ!?あのアマツですか!?たったふたりで!?そんな!」 鞠(まり):「ナオエツさん!開けてください!お願いします!私も一緒に戦います!ナオエツさん!ナオエツさん!」 萌寧(もね):「ちょっと落ち着いて下さい!貴方のケガも軽くはないでしょう!?」  :   :【時間経過】壁の内側と外側が交わる  :  尚悦(なおえつ):「終伸展が一つだけなんて、誰が言うた? 尚悦(なおえつ):  尚悦(なおえつ):(詠唱)『我が鉄壁の守護神よ。敵の一切を打ち消せ。』 尚悦(なおえつ):  尚悦(なおえつ):終伸展解放 壁消一切 摩利支天 尚悦(なおえつ):(しゅうしんてんかいほう、へきしょういっさい、まりしてん)」 悪間憑(あまつ):「終伸展が…二つだと!?」 尚悦(なおえつ):「榊組・縁(えにし)の一柱(ひとはしら)…舐めてもらったら困るで?」 悪間憑(あまつ):「(同時に)ナオエツうううううううううううううう!」 尚悦(なおえつ):「(同時に)アマツうううううううううううううう!」  :【SE】撞鐘の音。次いで、高速で貫く音。  :※ダメージを受けている声は被せても可。 悪間憑(あまつ):「ぐうぅぅ!」 尚悦(なおえつ):「がふっ…」 鞠(まり):「っ!デンヤ!?ナオエツさん!!」 萌寧(もね):「ナオエツ…?ナオエツがそこにいるのですか?」 鞠(まり):「(モネの声は無視して)…ねぇ…ナオエツさん、ここ…開けてくださいよ…!お願いだから…っ」 悪間憑(あまつ):「…くふっ…くくくく、くはっ…あははははははははははははは!(大笑い)」 萌寧(もね):「ひっ!?ああ…!!」 鞠(まり):「…そん、な…」 悪間憑(あまつ):「…何が盾だ、何が槍だ?笑わせるな!貴様らはそのまま地に伏しているがいい!! 悪間憑(あまつ):あはっ、あははは、はは…は…がはっ!? 悪間憑(あまつ):…ふん…思ったよりも食らった、か…?まぁいい…ナオエツさえ仕留められればもう榊など取るに足りぬ…。 悪間憑(あまつ):ふふ、ふふふふふ…あーっはっはっはっはっはっはっはっは!(大笑い)」 0:悪間憑、負傷しつつも去る。  :  萌寧(もね):「なんなのですか…?この身も凍る様な笑い声は…」 鞠(まり):「…アマツだ…。アマツが、ナオエツさんを…デンヤを…っ!!」 萌寧(もね):「これが…アマツ」 尚悦(なおえつ):「……マリ、まだおったんか…」 鞠(まり):「!? …ナオエツ、さん…?」 萌寧(もね):「ナオエツ。貴方なのですか?」 尚悦(なおえつ):「…その声は、モネか…?えぇとこに来たな…」 0:貴金観鈍壁が消え、視界が開ける。 鞠(まり):「ナオエツさん!大丈夫ですか!?」 尚悦(なおえつ):「おぉ…久々に、本気出してもうた…。疲れたわ…」 鞠(まり):「っお疲れ様です…!なんて無茶するんですか…本当に、心配したんですからっ…!」 尚悦(なおえつ):「俺はいい…デンヤを…」 鞠(まり):「デンヤ…デンヤっ…!」 0:田夜に駆け寄る鞠。入れ替わりで萌寧が尚悦に声をかける。 萌寧(もね):「お久しぶりですね、ナオエツ、大丈夫ですか?」 尚悦(なおえつ):「本当やなぁ…。丁度ええ、あそこに倒れてる男がおるやろ…。そいつを…」 萌寧(もね):「ナオエツ…残念ですが…彼はもう…」 尚悦(なおえつ):「…さよか…。守ってやれん、かったか…」 鞠(まり):「そん、な…嘘だろ…?…なぁ、デンヤ。冗談やめろよ…なぁ…?目ぇ開けろよ…頼むから、なぁ…どうし、て…うぅ…」 尚悦(なおえつ):「…モネ、久しぶりに会うたのに悪いんやが、こいつのこと頼めへんか?」 萌寧(もね):「その方は一体……?」 尚悦(なおえつ):「マリゆーてな…真っ直ぐでえぇヤツなんや…。本当は、俺が連れてったろ思てたんやけどな…?ちぃと、厳しそうやわ…」 鞠(まり):「ナオエツさん…?」 尚悦(なおえつ):「マリ…今まで、ほんまにありがとな…。お前らと過ごせたんは、楽しかったで?」 鞠(まり):「…何、言ってるんです…か…?」 尚悦(なおえつ):「…榊組にはモネが連れてってくれるで…他の奴らと仲良くな…。これからは…人を守る為に、伸展使うんやで…?」 鞠(まり):「そんな…お別れみたいなこと…」 尚悦(なおえつ):「(食い気味に)マリ。時間のない俺が今更、正しさを解こうとは思わん…。ただ、せめて…お前達の前を歩いて…死なせてくれや…」 鞠(まり):「! …ずるいですよ…。私まだ…ナオエツさんに伝えたい事…何も、伝えられてないのにっ…!」 尚悦(なおえつ):「…すまんな。お前と行けん代わりに、デンヤと一緒に逝くで…堪忍したってや…?…モネ」 萌寧(もね):「わかりました…ナオエツ。貴方の言葉、聴き入れましょう。マリさんはお任せください」 尚悦(なおえつ):「あぁ…。ほな、頼むで…」  :   :【SE】水の落ちる音 萌寧(もね):「(詠唱)『悲しいことを我慢しすぎると、大切な事を忘れてしまいますよ。苦しいのでしょう?眠りなさい。』 萌寧(もね):  萌寧(もね):終伸展解放 露歌 信風黄昏 天泣薊 萌寧(もね):(しゅうしんてんかいほう、ろか、しんぷうたそがれ、てんきゅうあざみ)」 0:尚悦と田夜を暖かな光が包み、じんわりと溶けて消えていく。 尚悦(なおえつ):「ほな…おおきに……」 鞠(まり):「っっっ!…うっ、うわあああああああああああああああああああ!!(号泣)」  :   :  0:次回予告 萌寧(もね):モネの伸展に導かれ、永遠の眠りについたデンヤとナオエツ。 萌寧(もね):マリの慟哭(どうこく)は無情にも、虚空(こくう)へと消えてゆく…。 萌寧(もね):次に彼らを待ち受ける物語の色とは…? 萌寧(もね):  萌寧(もね):次回。DISTOPIA BREAK Forth『血約』 萌寧(もね):(でぃすとぴあ ぶれいく ふぉーす『けつやく』) 0:続く

DISTOPIA BREAK:Third『終壁』  :   :登場人物紹介(マーカー用) 田夜(でんや):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 田夜(でんや):尚悦に懐いている。鞠の実弟。 田夜(でんや):伸展・一(しんてん・いちもんじ)の解放者。 鞠(まり):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 鞠(まり):密かに尚悦を慕っている。田夜の実姉。 鞠(まり):伸展・齟齬総殺(しんてん・そごそうさつ)の解放者。 尚悦(なおえつ):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 尚悦(なおえつ):田夜と鞠に懐かれている。実は榊組からの密偵。 尚悦(なおえつ):伸展・多門ノ壁 夜壁(しんてん・たもんのかべ、やへい)の解放者。 悪間憑(あまつ):二大勢力の一つ・皇組(すめらぎぐみ)に属する伸展師。 悪間憑(あまつ):残酷で残忍。裏切り者の尚悦を殺そうとする。 悪間憑(あまつ):伸展・赤凛一擲(しんてん・せきりんいってき)の解放者。 萌寧(もね):皇組と対立する二大勢力の一つ・榊組(さかきぐみ)に属する伸展師。 萌寧(もね):尚悦の真実を知る人物。特殊な伸展を扱う。 萌寧(もね):伸展・天泣薊(しんてん・てんきゅうあざみ)の解放者。  :   :  0:シナリオスタート  :   :【場面】無領地・広くひらけた土地  :  田夜(でんや):「…あ、ナオエツさん!」 尚悦(なおえつ):「おー、待たせたなぁ」 田夜(でんや):「いや、こっちこそ呼び出したりなんかして…すいません」 尚悦(なおえつ):「おう…?なんや、今日は随分大人しいやないか」 田夜(でんや):「……」 尚悦(なおえつ):「…なんぞあったんかいな?」 田夜(でんや):「ナオエツさん!…相談したいことがある」 尚悦(なおえつ):「えぇで。話してみぃ」  :   :  萌寧(もね):(タイトルコール) 萌寧(もね):DISTOPIA BREAK Third『終壁』 萌寧(もね):(でぃすとぴあ ぶれいく さーど『ついへき』)  :   :  鞠(まり):「お疲れ様です。ナオエツさん」 尚悦(なおえつ):「おーマリもおったんか、お疲れさん。…お前も暗い顔しよって…つーことは、お前も今の話、知っとるってことやな?」 鞠(まり):「はい…」 尚悦(なおえつ):「なるほどな…。そんで?俺にどうしろって言うんや?」 田夜(でんや):「俺はさ、ナオエツさん…。榊(さかき)だとか皇(すめらぎ)だとか…正直よくわかってないんだ。 田夜(でんや):力を使うのは楽しい、むかつくヤツをぶっ飛ばせる力…俺がずっと欲しかった力だったから…」 尚悦(なおえつ):「……」 田夜(でんや):「俺は単純だからさ?ナオエツさんに助けてもらって、皇に入って…アマツさんの言ってる事はよくわかんないけど、とりあえずいいやって思ったんだ。 田夜(でんや):力を持ってれば自分の身も守れるし、姉ちゃんだって大変な思いをしなくても済む。 田夜(でんや):ナオエツさんは俺らによくしてくれるし、ここが俺らの居場所なんだって…そう、軽く考えてた。 田夜(でんや):  田夜(でんや):でもさ…力を持ってるからって、何もしてないヤツを殺せって言うのはおかしいだろ…?最近そんなのばっかりだ…そんなの、俺らを襲ってきたやつらと一緒じゃんか…」 鞠(まり):「デンヤ…」 田夜(でんや):「…セツナは泣いてた…混乱しながら、苦しそうに泣いてた…っ、大好きなのに!一緒にいたいのに!…それなのに本人たちを無視して、戦わなきゃいけないなんて、おかしいじゃんか!!」 鞠(まり):「デンヤっ…!」 0:鞠、田夜を抱きしめる。 田夜(でんや):「…それが皇にいるせいだって言うなら俺は…昔の自分をぶん殴ってやりたい…っ!」 尚悦(なおえつ):「…そうか…随分悩んどったんやなぁ、デンヤ。気付いてやれんで、ごめんなぁ」 0:田夜の頭を優しく撫でる尚悦。 田夜(でんや):「うっ…((声を押し殺して泣く)」 尚悦(なおえつ):「デンヤ、マリ。俺はなぁ、お前らを気に入っとる。お前らはえぇヤツや。ちっとばかり気が短いのが玉に瑕(きず)だが、情に熱いし真っ直ぐや。 尚悦(なおえつ):せやからな?俺の秘密を教えたる。一度しか言わんから、よく聞いとき?」 鞠(まり):「秘密?」 尚悦(なおえつ): 尚悦(なおえつ):「(少し溜めて)俺はな、皇のもんやない。榊組・縁(えにし)の一人や」 鞠(まり):「……どういうことです?」 田夜(でんや):「…何…冗談いってるんだよ?」 尚悦(なおえつ):「冗談やない」 鞠(まり):「榊組の縁(えにし)って…この間会った、ホウスイと同じ…?」 尚悦(なおえつ):「その通りや。俺はあのホウスイに命じられて、皇組の潜入捜査をしとる。 尚悦(なおえつ):せやからな?俺はいずれ、皇から消える存在なんや」 田夜(でんや):「俺らに嘘ついてたってこと…?」 尚悦(なおえつ):「…まぁ結果的にそういう形になってもうたがな。やけど俺は元々、お前らも連れてくつもりやってんで?(苦笑)」 鞠(まり):「っ!ナオエツさん…!」 尚悦(なおえつ):「はははっ、どうや。驚いたか?」 田夜(でんや):「驚くなんてもんじゃねぇよ…!やっぱナオエツさんは、かっけぇよ!」 尚悦(なおえつ):「褒めるな褒めるな!まぁそういうことやから、何も心配せんでえぇ」 田夜(でんや):「じゃあ!セツナも連れてけば解決ってことだよな!?」 尚悦(なおえつ):「せやな。けどその前に、確認したいことがあるんや…」 鞠(まり):「確認したいこと…?」 尚悦(なおえつ):「デンヤ。セツナの話、もう一度聞かせてくれるか?」 田夜(でんや):「え…?あぁ、いいけど…。えっとまず…俺らが榊組の拠点に一発かまして…」 鞠(まり):「そこにセツナの兄貴がいたんだよな?」 田夜(でんや):「うん。それで兄貴が戻って来いって言ったんだけど、セツナが取り乱して…」 尚悦(なおえつ):「(食い気味に)そこや。セツナはその時、何て言うた? 尚悦(なおえつ):『あの人がそう言った』…そう言うたんやったか?」 田夜(でんや):「え…?あぁ、確かにそう言ってた」 鞠(まり):「…『あの人』って、誰なんだろうな…?アマツさん…?」 尚悦(なおえつ):「いや…おそらくキサラやな」 田夜(でんや):「キサラって…あのたまにアマツさんと話してる、アイツか?」 尚悦(なおえつ):「せや。俺はここ数年、皇組の勢力や個々の伸展、動向について探ってきた。その上でアマツが今、皇組の頭(かしら)なんは間違いない。 尚悦(なおえつ):せやけどキサラについての情報は、ほぼ無いに等しいんや。唯一わかっとるのは、キサラが引き入れた人間が、ここには大勢おるっていうことだけや」 鞠(まり):「引き入れる…ってことは、勧誘ってことですか?」 尚悦(なおえつ):「そうとも言いきれん。勧誘って言うんは、ある程度の実力を持っとるヤツがやることや。反発する者もおるし、場合によっては戦闘も予想されるからな。 尚悦(なおえつ):せやから伸展を扱えるものが行うのが常(つね)なんやが…それなら、なんで誰もキサラの伸展を知らん? 尚悦(なおえつ):それどころやない。伸展の能力はおろか、キサラがどういう人間なのか…誰に聞いても、詳しくはわからんのや」 田夜(でんや):「なんだよそれ…前々から思ってはいたけど、不気味なやつだな…」 尚悦(なおえつ):「そういうこっちゃ。せやからな?俺はまだ帰れへん」 鞠(まり):「…え?」 尚悦(なおえつ):「俺の仕事は終わってへん。もしかしたらキサラは皇にとって、何か重要な役割を担ってるのかも知れんのや」 鞠(まり):「そんな!それじゃ私らは…」 田夜(でんや):「そうだぜ!?ナオエツさんが残るなら、俺らだってここに残る!」 尚悦(なおえつ):「ほんま、お前らはえぇヤツやな。やけど、そうなったらセツナは…」  :  0:尚悦の背後。少し離れた一点が不気味に光り、その光が尚悦めがけて飛んでくる。 0:田夜はいち早くそれに気付き、おもむろに飛び出す。 田夜(でんや):「!? ナオエツさんっ、危ない! ぐあっ…!」 尚悦(なおえつ):「デンヤ!」 0:尚悦が振り返った先。そこから悪間憑がユラリと現れる。 悪間憑(あまつ):「…ナオエツ。そこで何を話している?」 尚悦(なおえつ):「…アマツ」 鞠(まり):「…デン、ヤ…?っ、デンヤ!!」 悪間憑(あまつ):「…ふん、私の攻撃に気付いたのは褒めてやってもいいが、それを弾きもせずに飛び出してくるとは…」 鞠(まり):「デンヤっ!大丈夫か?!おい、デンヤ!」 悪間憑(あまつ):「はぁ…まったくもって耳障りだな、頭に響く…」 尚悦(なおえつ):「アマツ…何をしとるんや?仲間をこんな目に合わせてもうて、どないする…」 悪間憑(あまつ):「(被せて)ナオエツぅぅぅ!」 尚悦(なおえつ):「……」 悪間憑(あまつ):「…気付いているだろう?今、何が起きているのか。自分の立たされている状況が…」 尚悦(なおえつ):「(溜め息)…せやな。…いつから気付いとった?」 悪間憑(あまつ):「全く忌々しいやつめ…してやられたぞ。口惜しい…。 悪間憑(あまつ):あの日、貴様を向かわせたにも関わらず、あの小僧を取り逃がしたと聞いた時から怪しいとは思っていたが…。 悪間憑(あまつ):まさか貴様が憎き榊に組みする裏切り者だとはなぁ…!」 尚悦(なおえつ):「なぜそこまでアイツに執着する?」 悪間憑(あまつ):「あやつはいずれ、邪魔になる」 尚悦(なおえつ):「…どうやらお前にとって、良くない可能性を秘めた存在のようやな」 悪間憑(あまつ):「貴様が知る事ではない。あやつには価値があった。しかし…手に入らぬのならば、殺すのが当然の選択」 尚悦(なおえつ):「芽吹く前に腐らせるか、刈り取るかゆーこっちゃな」 悪間憑(あまつ):「少なくとも、そこに転がっている紛い物とは違うからなぁ!あははははは」 鞠(まり):「! ……取り消せ…」 悪間憑(あまつ):「…何?」 尚悦(なおえつ):「マリ、よせ」 鞠(まり):「こいつは…デンヤは必死に戦ってたんだ…。涙を流すほどの悩みを抱えても、心配させまいと気丈に振る舞いながら、必死に…!」 悪間憑(あまつ):「では無駄死にだったな!」 鞠(まり):「っ…アマツううぅぅぁぁぁぁ!!伸展解放(しんてんかいほう)!」 尚悦(なおえつ):「チッ…!伸展解放(しんてんかいほう)…!」 鞠(まり):「齟齬相殺(そごそうさつ)!」 0:尚悦が伸展を発動させるより早く、鞠が悪間憑に切りかかる。 悪間憑(あまつ):「ふん…死に急ぐか」 尚悦(なおえつ):「多門ノ壁 夜壁(たもんのかべ、やへい)!」 悪間憑(あまつ):「伸展解放 赤凛一擲 悪間憑(あまつ):(しんてんかいほう、せきりんいってき)」 0:尚悦の伸展発動により悪間憑の攻撃が逸れるも、鞠に被弾。 鞠(まり):「っ!?…っ、うああっ!!」 尚悦(なおえつ):「マリ!!」 悪間憑(あまつ):「あーっはっはっはっはっはっは!(大笑い)」 0:尚悦、衝撃によって吹き飛んだ鞠の元へ。 尚悦(なおえつ):「マリ!大丈夫か!?」 鞠(まり):「ぐっ…大丈夫、です…すいません…」 尚悦(なおえつ):「…まだ動けるな?」 鞠(まり):「…はい、っ」 尚悦(なおえつ):「お前はデンヤと逃げぇ…後は俺が引き受ける」 鞠(まり):「!? 嫌です!私も戦います!」 尚悦(なおえつ):「デンヤはまだ息がある。でもこのままやったらわからへん…大事な弟やろ?お前が守らな、誰が守るんや…?」 悪間憑(あまつ):「行かせるか…っ、何!?」 田夜(でんや):「それは俺のセリフだ…」 0:倒れていた田夜が悪間憑の足をつかんで止める  :   :【SE】高い金属音 田夜(でんや):「(詠唱)『命乞いする時に大切なことは二つ。一つ、命を握っている者を楽しませること。二つ、正当な理由を提示すること。』 田夜(でんや):  田夜(でんや):終伸展解放 紫剣宣判 一 田夜(でんや):(しゅうしんてんかいほう、しけんせんばん、いちもんじ)」 0:田夜の一太刀が、悪間憑を襲う。剣で受け止めるも悪間憑、大きく吹き飛ぶ。 悪間憑(あまつ):「ぐああああ!」 尚悦(なおえつ):「デンヤ!?」 田夜(でんや):「ナオエツさん!姉ちゃんを連れて、逃げて…!」 鞠(まり):「デンヤ!!」 田夜(でんや):「…姉ちゃん、今までありがとな…俺、ずっと姉ちゃんに守られてばっかでさ…。やっと、姉ちゃんの事…守れそうだよ…」 鞠(まり):「…何、言ってんだよ?…っ、早くこっち来い!みんなで逃げるんだよ!!」 田夜(でんや):「はは…そりゃ無理かな…血ぃ流しすぎたみたいだ…。目が霞んでてさ…よく見えないんだ…」 鞠(まり):「私が連れていくから!だからこっちに…!」 田夜(でんや):「(被せて)姉ちゃん。…これさ、渡してくんないかな?あいつに…」 0:声を便りに田夜、鞠に向かってネックレスを投げる。 鞠(まり):「…これ…」 田夜(でんや):「前に話したろ…?…俺の、大事な人…榊組にさ、いるんだ…。桜が似合う…暖かい、春風の様な人…」 鞠(まり):「…嫌だ…お前が渡せよ…っ自分の手でさぁ!」 0:起き上がった悪間憑が近付いてくる 悪間憑(あまつ):「行かせると思うか…?」 田夜(でんや):「くっ…!ナオエツさんっ、姉ちゃんを…頼みます! 田夜(でんや):うわああああ!」 悪間憑(あまつ):「この死にぞこないが!邪魔をするな!」 田夜(でんや):「ぐあ!」 尚悦(なおえつ):「デンヤ!ほんま、えぇ男になったなぁ…。安心せぇ、マリは必ず逃がす…けどなぁ。 尚悦(なおえつ):お前を一人では残さへん…!」 0:田夜と鞠の間に立ち、構える。  :   :【SE】手を打ち鳴らす音  尚悦(なおえつ):「(詠唱)『お前にこの壁が乗り越えられるんか?』 尚悦(なおえつ):  尚悦(なおえつ):終伸展解放 影導黒炎多門ノ壁 貴金観鈍壁 尚悦(なおえつ):(しゅうしんてんかいほう、いんどうこくえんたもんのかべ、きごんかんどんへき)」 0:強固な壁が、鞠の視界を遮る。 鞠(まり):「…え?」 悪間憑(あまつ):「面白い、いいだろう…貴様と私で力比べと行こうじゃないか」 尚悦(なおえつ):「マリ、お前は逃げぇ。デンヤを連れて、後から追うでな…」 鞠(まり):「ナオエツさん!?」 悪間憑(あまつ):「ははは!!ずいぶん余裕だな…? 悪間憑(あまつ):安心しろ。すぐに貴様ら全員、息の根を止めてくれる…」 尚悦(なおえつ):「ふっ…それはずいぶん穏やかやないな?ここで死ぬんは、お前一人で充分や」 悪間憑(あまつ):「守ることしか出来ん貴様が、本当に私を倒せると思っているのか?」 尚悦(なおえつ):「俺はなぁ、アマツ…確かに守るのが役目の男や。せやけど…守ってるだけでは誰も助けられへんって事も、知っとるんやで…?」 悪間憑(あまつ):「……」 尚悦(なおえつ):「マリ、デンヤ…ありがとうなぁ。お前達が俺の代わりに受けた傷の分まで、今度は俺がお前達の盾となり、槍になる。 尚悦(なおえつ):俺のありったけの…全てをかけて…!」 悪間憑(あまつ):「…槍?…まさか!」 尚悦(なおえつ):「(食い気味に)終伸展が一つだけなんて、誰が言うた?」  :   :【同時刻】貴金観鈍壁の外・鞠  :  鞠(まり):「嫌だ、ナオエツさん!技を…技を解いてください!!」 0:壁に追い縋る鞠。そこに騒ぎを聞きつけて、萌寧が現れる。 萌寧(もね):「そちらの方?何があったのですか…っ!貴方は…」 鞠(まり):「!?」 萌寧(もね):「皇組(すめらぎぐみ)…。こんなところで…何をしているのです?」 鞠(まり):「うるさい!今はお前に構ってる暇なんてないんだよ!」 萌寧(もね):「それは好都合です。私の伸展はあまり戦闘向きではありませんから」 鞠(まり):「私に構うな!今はそれどころじゃ…ぐっ…」 萌寧(もね):「…負傷しているのですね?」 鞠(まり):「そんなことどうでもいい!この向うでデンヤが…ナオエツさんが…!」 萌寧(もね):「まさかこの壁はナオエツの?…この向こうにナオエツがいるのですか?」 鞠(まり):「そうだよ!ふたりだけでアマツと…」 萌寧(もね):「アマツ!?あのアマツですか!?たったふたりで!?そんな!」 鞠(まり):「ナオエツさん!開けてください!お願いします!私も一緒に戦います!ナオエツさん!ナオエツさん!」 萌寧(もね):「ちょっと落ち着いて下さい!貴方のケガも軽くはないでしょう!?」  :   :【時間経過】壁の内側と外側が交わる  :  尚悦(なおえつ):「終伸展が一つだけなんて、誰が言うた? 尚悦(なおえつ):  尚悦(なおえつ):(詠唱)『我が鉄壁の守護神よ。敵の一切を打ち消せ。』 尚悦(なおえつ):  尚悦(なおえつ):終伸展解放 壁消一切 摩利支天 尚悦(なおえつ):(しゅうしんてんかいほう、へきしょういっさい、まりしてん)」 悪間憑(あまつ):「終伸展が…二つだと!?」 尚悦(なおえつ):「榊組・縁(えにし)の一柱(ひとはしら)…舐めてもらったら困るで?」 悪間憑(あまつ):「(同時に)ナオエツうううううううううううううう!」 尚悦(なおえつ):「(同時に)アマツうううううううううううううう!」  :【SE】撞鐘の音。次いで、高速で貫く音。  :※ダメージを受けている声は被せても可。 悪間憑(あまつ):「ぐうぅぅ!」 尚悦(なおえつ):「がふっ…」 鞠(まり):「っ!デンヤ!?ナオエツさん!!」 萌寧(もね):「ナオエツ…?ナオエツがそこにいるのですか?」 鞠(まり):「(モネの声は無視して)…ねぇ…ナオエツさん、ここ…開けてくださいよ…!お願いだから…っ」 悪間憑(あまつ):「…くふっ…くくくく、くはっ…あははははははははははははは!(大笑い)」 萌寧(もね):「ひっ!?ああ…!!」 鞠(まり):「…そん、な…」 悪間憑(あまつ):「…何が盾だ、何が槍だ?笑わせるな!貴様らはそのまま地に伏しているがいい!! 悪間憑(あまつ):あはっ、あははは、はは…は…がはっ!? 悪間憑(あまつ):…ふん…思ったよりも食らった、か…?まぁいい…ナオエツさえ仕留められればもう榊など取るに足りぬ…。 悪間憑(あまつ):ふふ、ふふふふふ…あーっはっはっはっはっはっはっはっは!(大笑い)」 0:悪間憑、負傷しつつも去る。  :  萌寧(もね):「なんなのですか…?この身も凍る様な笑い声は…」 鞠(まり):「…アマツだ…。アマツが、ナオエツさんを…デンヤを…っ!!」 萌寧(もね):「これが…アマツ」 尚悦(なおえつ):「……マリ、まだおったんか…」 鞠(まり):「!? …ナオエツ、さん…?」 萌寧(もね):「ナオエツ。貴方なのですか?」 尚悦(なおえつ):「…その声は、モネか…?えぇとこに来たな…」 0:貴金観鈍壁が消え、視界が開ける。 鞠(まり):「ナオエツさん!大丈夫ですか!?」 尚悦(なおえつ):「おぉ…久々に、本気出してもうた…。疲れたわ…」 鞠(まり):「っお疲れ様です…!なんて無茶するんですか…本当に、心配したんですからっ…!」 尚悦(なおえつ):「俺はいい…デンヤを…」 鞠(まり):「デンヤ…デンヤっ…!」 0:田夜に駆け寄る鞠。入れ替わりで萌寧が尚悦に声をかける。 萌寧(もね):「お久しぶりですね、ナオエツ、大丈夫ですか?」 尚悦(なおえつ):「本当やなぁ…。丁度ええ、あそこに倒れてる男がおるやろ…。そいつを…」 萌寧(もね):「ナオエツ…残念ですが…彼はもう…」 尚悦(なおえつ):「…さよか…。守ってやれん、かったか…」 鞠(まり):「そん、な…嘘だろ…?…なぁ、デンヤ。冗談やめろよ…なぁ…?目ぇ開けろよ…頼むから、なぁ…どうし、て…うぅ…」 尚悦(なおえつ):「…モネ、久しぶりに会うたのに悪いんやが、こいつのこと頼めへんか?」 萌寧(もね):「その方は一体……?」 尚悦(なおえつ):「マリゆーてな…真っ直ぐでえぇヤツなんや…。本当は、俺が連れてったろ思てたんやけどな…?ちぃと、厳しそうやわ…」 鞠(まり):「ナオエツさん…?」 尚悦(なおえつ):「マリ…今まで、ほんまにありがとな…。お前らと過ごせたんは、楽しかったで?」 鞠(まり):「…何、言ってるんです…か…?」 尚悦(なおえつ):「…榊組にはモネが連れてってくれるで…他の奴らと仲良くな…。これからは…人を守る為に、伸展使うんやで…?」 鞠(まり):「そんな…お別れみたいなこと…」 尚悦(なおえつ):「(食い気味に)マリ。時間のない俺が今更、正しさを解こうとは思わん…。ただ、せめて…お前達の前を歩いて…死なせてくれや…」 鞠(まり):「! …ずるいですよ…。私まだ…ナオエツさんに伝えたい事…何も、伝えられてないのにっ…!」 尚悦(なおえつ):「…すまんな。お前と行けん代わりに、デンヤと一緒に逝くで…堪忍したってや…?…モネ」 萌寧(もね):「わかりました…ナオエツ。貴方の言葉、聴き入れましょう。マリさんはお任せください」 尚悦(なおえつ):「あぁ…。ほな、頼むで…」  :   :【SE】水の落ちる音 萌寧(もね):「(詠唱)『悲しいことを我慢しすぎると、大切な事を忘れてしまいますよ。苦しいのでしょう?眠りなさい。』 萌寧(もね):  萌寧(もね):終伸展解放 露歌 信風黄昏 天泣薊 萌寧(もね):(しゅうしんてんかいほう、ろか、しんぷうたそがれ、てんきゅうあざみ)」 0:尚悦と田夜を暖かな光が包み、じんわりと溶けて消えていく。 尚悦(なおえつ):「ほな…おおきに……」 鞠(まり):「っっっ!…うっ、うわあああああああああああああああああああ!!(号泣)」  :   :  0:次回予告 萌寧(もね):モネの伸展に導かれ、永遠の眠りについたデンヤとナオエツ。 萌寧(もね):マリの慟哭(どうこく)は無情にも、虚空(こくう)へと消えてゆく…。 萌寧(もね):次に彼らを待ち受ける物語の色とは…? 萌寧(もね):  萌寧(もね):次回。DISTOPIA BREAK Forth『血約』 萌寧(もね):(でぃすとぴあ ぶれいく ふぉーす『けつやく』) 0:続く