台本概要

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タイトル 月天神命奇譚~嚆牙濫觴~
作者名 うたう  (@utaunandayo)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男2、女1、不問1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 和風獣耳絵巻
神と人と獣が一つになった世界
物語は牙の咆哮にて始まれり!
月天神命奇譚(げってんしんめいきたん)
【嚆牙濫觴】(こうがらんしょう)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
雛月 64 獣耳少女。戦闘担当。本能で生きてる。
59 獣耳青年。頭脳担当。顔はいい。
70 眼鏡青年。普通。 巻き込まれ体質。
語り部 不問 16 語り部。物語を語る。堕神と兼任可。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
雛月:雛月(ひなつき)獣耳尻尾少女。 雛月:堕神(おちがみ)浄化屋【十六夜堂】(いざよいどう)の戦闘担当。脳筋。もふもふしっぽが自慢。大食い。 雛月:【尾付き様】(おつきさま) 命:命(みこと)獣耳ひねくれ青年。 命:【十六夜堂】の頭脳担当。 命:若干虚弱体質。顔は良いが口が悪い。少食。 命:【耳在り】(みみあり) 命:※男性ですが男女どちらが演じても可。 要:卯月要(うづきかなめ)眼鏡青年。 要:末っ子。寝不足。巻き込まれ体質。普通。 要:【耳無し】(みみなし) 要:※男性ですが男女どちらが演じても可。 語り部:語り部。堕神(おちがみ)も兼任。 語り部:※男女どちらでも可。  :  0:※堕神(おちがみ)耳在り(みみあり)耳無し(みみなし) 0:天月(てんげ)獣神性(じゅうしんせい)  :   :   :  語り部:むかーし、むかし、そのまたむかし。 語り部:突如として天から災いが降り注ぎ、瘴気と疫病が國を覆いました。 語り部:瘴気は八百万の神々さえ侵し、人々は疫病に倒れてゆきました。 語り部:このままではいずれ神も人も死するのみ…その時ある一柱(はしら)の神が御気付きになられました。 語り部:森に住まう「獣」だけが災いに侵されていないことを。 語り部:神々は最後の力を振り絞り、自らの魂を幾多にも分け獣に宿らせました。 語り部:そうして神は半獣神(はんじゅうしん)となり、 語り部:人も半獣神と交わり、獣の血と神の力を得ることで生き永らえました。 語り部:こうして神と人と獣がひとつになり、今の世が、新たな【人】が、出来たので御座います。  :   :   :   :   :  要:それは夜になると聞こえる。 要:侮蔑(ぶべつ)と嘲笑(ちょうしょう)。他人を見下すことしか考えていない声が。 要:微睡みを侵し黒々と染めていく。 要:繰り返される悪夢。 要:そしてそんな悪夢をみる時は決まって、僕を慰めるかのように別の声が聞こえる。 要:愛を囁き、自分だけが僕の味方だという。 要:その声はとても優しい。なのにとてもー  :    :   要:ー恐ろしいんだ。  :   :   :  0:葦原(あしはら)の中央区。 0:道の端で人が倒れている。  :  0:暫くすると一人の少女が近づいてきた。一時眺めていたがすぐに満面の笑みを浮かべ  :  雛月:……わぁあ!  :   :  0:葦原の北区。 0:町外れにある寂れた神社【十六夜堂】境内  :  雛月:みことぉ!みことみことみことみことぉぉ! 命:なんだうっせぇなあ。 雛月:みてみてみて!これ!拾った! 命:ああ?また野良猫かなんか拾ったか? 命:うちでは飼えないって何度いえ…ば……。 雛月:道に!落ちてた!(人を軽々と持ち上げながら) 命:いや!人!?それ行き倒れだろ! 命:なんつーもん持って帰ってきてんだ!? 命:すぐに元の場所に返してきなさい! 雛月:えー!可哀想だよ!面倒ちゃんと見るからぁ。 命:そういって面倒みたことなかっただろうが。 雛月:みことのケチ!でもね、この人ー 要:(かぶせる)う、う……。 命:っと馬鹿な事言い合ってる場合じゃねーな。 命:しょうがねぇ、取り敢えず中入れて横にしておけ。 雛月:…はーい。  :   :  要:…ん? 雛月:あ、起きた!みこと、起きたよ。 要:えっと、君は? 雛月:雛月だよ。おにーさんは? 要:え、僕は卯月要…というかここは? 命:なんだ氏持ちか…ここは北区の神社。 命:お前さん中央区の道端で倒れてたらしいぞ。 要:そう、だったんですか…。 雛月:はい!私が拾いました! 要:拾っ…君が助けてくれたんだね?ありがとう。 雛月:ふへへっ! 命:んで?なんで倒れてたんだ? 命:身なりからしても飢えてという訳でもないだろう? 要:いえ、その少し、寝不足で。 要:多分それで立ち眩みを起こしてしまったようで…。 命:なんだ、じゃあ町医者呼ぶ程でもねーな? 要:…はい、大丈夫です。 要:助けて頂きありがとうございました。すぐにお暇しますのでー 雛月:えー!もう帰っちゃうの?もう少しお話しようよぉー! 雛月:ねーねー!(要を揺さぶる) 要:ちょ、え、いや、でも、ぐぇ。 命:ほら眼鏡も困ってるだろう。我が儘言うな。 要:眼鏡…。 0:間 雛月:……でもね、命、この人とっても「いい匂い」だよ。 命:雛…、お前。 要:へ?匂い? 命:…なるほど、普段警戒心強いお前が懐いてるからおかしいとは思ったがそういう事か。 雛月:ふへへ、私えらい?最近お仕事がない、 雛月:今月もキツイって命言ってたから! 命:へぇへぇ!お心遣い感謝します、雛月さん。ったく。 要:あの…話が全く見えないのですが、匂い?それに仕事とは? 命:あー、卯月といったな…話してみねぇか? 要:はい? 命:お前が寝不足な理由をだ。もしかしたら俺達で解決出来る案件かも知れねぇぞ。  :   :  語り部:(??)【ミツケタミツケタ……愛オシイ。離サナイ離サナイ…ズットズット一緒二…ワタシガイテアゲル…ダッテトッテモ】  :   :  要:えっと、改めまして。僕の名前は「卯月要」と申します。 命:俺は命、そっちで茶菓子頬張ってるのが雛月だ。 雛月:ひふぉふんふぁよ!(口一杯にお菓子を入れてる) 命:んで、ここは堕神(おちがみ)浄化専門の店【十六夜堂】(いざよいどう)だ。 要:堕神…ってあの? 命:ああ、かつての【大厄災】により溢れた瘴気によって侵されし神々、現し世に災いを振り撒く存在。 要:その堕神が僕の寝不足に関係あると言うんですか? 命:それはこれから話を聞いてからの判断だが、 命:うちの食いしん坊さんはこういう直感がやたら当たるんでね。 雛月:むぐむごぉ…ぷは!ん!(親指をぐっと突き立てる) 要:はぁ…。 命:で?寝不足の原因くらいは分かってるんだろ? 要:あ、はい…。その、原因というか最近よく悪夢を見るようになって。 命:ふむ。 要:なんというかその、最初は身の回りで起こった嫌な事とかを夢で時々見る位だったのですが、最近は徐々に酷くなってきて…。 要:何度も、何度も繰り返して責め立てられているような感覚になって、しまいには夢だけじゃなくて夜になると幻聴まで聞こえてくる始末で。 命:そのせいで眠れなくなったと? 要:……はい。あの、これ本当に堕神の仕業なのでしょうか?医者からは精神的なものじゃないかと診断されたのですが。 命:その「精神的な」何かには心覚えがあるってことだな? 要:………。 命:まぁ言いたくないなら構わんがー 要:……(少しの間)僕を見てもらえればわかると思うのすが、その【耳無し】(みみなし)じゃないですか。 命:……そうだな。 要:自分でいうのもあれですが、うちの家系、そこそこな名家で、【耳在り】(みみあり)を多く輩出している家系でして。 命:月の字を姓にしてる位だしな。 要:両親、兄弟ともに全員【耳在り】なのですが僕だけは【耳無し】なのです。 要:それもあり、周りからの目というか、評価などがその、厳しく、色々と……ははっ。 命:…獣神性(じゅうしんせい)を多く受け継いでいるほどその証として獣の耳がついて産まれてくるが、親が【耳在り】だとしても必ず次の子が同じになる確証もない。 命:もとより【耳在り】は【耳無し】に比べて数はそこまで多くないー 命:まぁ【耳在り】の俺がいっても嫌味にしか聞こえねーか。 要:いいえそんな。 要:家族は「そんなこと関係ない」「気にするな」と愛情を持って接してくれています。とても優しくて、でもそう言われるほどになんの力もない自分が惨めで。学部に進んでからはより周囲の反応も強くなり、そしてー 命:悪夢を見るようになった、と。 要:…はい。 命:ふむ。ここまで聞いた限りだと 命:精神的なもんにしか思えないが、どうだ?雛? 雛月:んー?うーん? 雛月:声が聞こえるって言ってたけどどんなの? 要:え?ああ、えっと悪夢を見始めてから少しして夜になると聞こえる様になったんです。 要:途切れ途切れなんですが「ずっと一緒」とか「愛してる」と「離さない」とか聞き覚えのない声が。凄く優しいのに気味が悪い声が。幻聴まで聞こえるってもうやばいですよね……。  :  雛月:やばいね!! 要:うっ! 命:追い討ちかけるなよ。 雛月:??いやだってまじやばだから… 要:そうですよね…どうせ僕なんて……。 雛月:このままだと要死んじゃうよ。 要:え? 命:ということは当たりか? 雛月:うん!今声について話してる時に「匂い」が揺らいだからね。警戒してるのかな? 命:直接か? 雛月:うーん?それにしては薄いよう?なんだろう?近くだけど遠いみたいな? 命:となると遠隔系か精神系か、厄介だな。 要:あ、あの!!さっきから一体何を言ってるんですか!? 要:僕が死ぬってどういうことですか!? 命:結論からいこう。悪夢と声は堕神が原因だ。 要:そんなっ。どうすればいいんですか? 命:さてここからは仕事の話だな。 要:え? 命:忘れたか?俺達は堕神浄化専門屋【十六夜堂】だ。 命:その為にいる。しっかり金を払ってくれるならお前の悩み、見事解決してやるよ! 雛月:美味しいもの沢山でも、いいんだよ!  :   :   :  0:あれから数時間後。 0:【十六夜堂】客間にて。外は夜の帳が下りはじめていた。  :  命:さて、そろそろ夜になるな。声は聞こえるか? 要:いえ、まだです。 命:ふむ、まだ少し早いか? 雛月:みことぉ。おなかすいた。 命:そうだな。長丁場になるかもしれんし、軽く腹になにか入れとくか。 雛月:はい!お肉たべた… 命:(すかさず)うちには素麺しかありません! 雛月:むぇー、またぁそうめん?飽きたぁ! 命:この仕事が無事終わったら食わせてやるから我慢しろ。 雛月:ぶー! 命:ぶーたれない、さて準備してくるから雛、しっかり見張ってろよ? 雛月:はーい!まっかせとけぇ!  :  0:命退出、客間は二人っきりとなり暫し沈黙が流れる。 0:少しして要が口を開く。  :  要:…ほ、本当に大丈夫なんでしょうか? 雛月:何が? 要:堕神ですよ!僕に憑いているのはまだ実感持てませんが、堕神といえば「天月様」(てんげさま)の精鋭部隊が対応するほどの厄災だと瓦版(かわらばん)で見ました。 雛月:瓦版読まないからよくわからんないけど、堕神って色々種類?があって強いやつから弱いやつまでいっぱいいるんだよ。 要:そうなんですか? 雛月:葦原(あしはら)は「天月様」の力で大きいやつは近寄ってこないけど、時々弱いやつは入り込むんだ。 要:知らなかった。 雛月:そういう小さいのやっつけるのが私達【浄化屋】なんだ! 雛月:…って命が言ってた。 要:なるほど、勉強になります。 雛月:それに私強いから小さいやつならどっかーんだよ! 要:確かに雛月ちゃんは尻尾、【尾付き様】(おつきさま)だけど、まだ小さいし、無理しなくていいからね?怪我したら危ないよ。 雛月:むー!子供扱いして! 要:はは、ごめんごめん。  :  0:暫く雑談をし、時間が流れる。  要:それにしても命さん遅いですね? 雛月:…ねぇ。 要:はい? 雛月:おなかすいたね…。 要:え、ええ。 雛月:(要にそっと近よりながら)はじめて会った時からずっと気になってたけど要、凄くいい匂いがするね。 要:え?匂い?するかな?ふんふん。うーん?あ、それ最初の時も言ってたけど。 雛月:うん、とってもいい匂いだよ。甘くて、ふわふわしてて凄く…… 要:あ、あの、ち、ちか…。  :  雛月:「美味しそう」  :  0:瞬間、部屋の明かりが全て消え暗闇に包まれる。 要:わっ!!(押し倒される) 雛月:……ずっと我慢してたんだ。私、偉いよね? 要:雛月さん?どうしたんですか、離して!くっ!びくともしない! 雛月:ふへへぇ。ちょっとだけなら、味見しても…いいよね? 要:ちょっとも駄目です! 雛月:いっただきまぁぁーす! 要:うわぁあ!まっ、舐めな!食まないで……… 語り部:(??)【ヤメロォォオ!!!】  :  0:要の後方から突如として奇っ怪な叫びと影のような化物が出現する。  雛月:お、本当に出てきた。 要:食べても美味しくな…、え、うわっ!なんだこれ! 命:やはりな 雛月:命の言った通りだね!凄い! 要:命さん!どこ行ってたんですか!僕雛月さんに食べられそうに…いやこの化物なんなんですか!?どういうことなんですか!? 命:それがお前に憑いてた堕神だよ。 要:これが…!? 語り部:(堕神)【ダメダメダメ!ワタシダケノ…愛オシイ……渡サナイ渡サナイ!!】 要:この声!あの幻聴と一緒だ。 命:影に憑いてたのか、道理で昼間は気配が薄い筈だ。 要:僕の、影に? 命:雛!相手さんが逃げちまう前にさっさと終わらすぞ! 雛月:まっかせてぇ!  :  語り部:(堕神)【ユルサナイユルサナイユルサナイ!】  :  0:影憑は触手のような物を伸ばし雛月を捕まえようとするがスルリと躱されてしまう。そして逆に触手を捕られてしまった。  :  雛月:命!今!  :  命:【灯せ!明楼!】(めいろう)  :  0:命の掌から光の球体が出現し、辺りが眩い光で覆われる。  :  語り部:(堕神)【アアア!!眩シイ!眩シイ!】 命:これで他の影には移動出来ないだろう。雛! 雛月:任せて! 雛月:そりゃぁああ!!  :  0:要の影に戻ろうとする堕神を力任せに引きずり出す。 要:凄い……! 語り部:(堕神)【オノレオノレ、ヨクモワタシノ!ズットズット一緒………美味シイ美味シイワタシノ餌ナノニ!】 雛月:もう影には逃がさない!! 雛月:せぇい! 語り部:(堕神)【オノレェェ!!】  :  0:力いっぱい振り抜き床に叩きつける。 雛月:そぉりやぁ! 語り部:(堕神)【呪ッテヤル!!】 雛月:てりゃぁあ! 語り部:(堕神)【痛イ痛イ痛イ!!】 雛月:もういっちょぉお! 語り部:(堕神)【アアアアアア!】  :  0:どこか気が抜ける掛け声と共に暫く繰り返し堕神を叩き付けている。 要:あ、あのこれどういう状況なんでしょうか? 命:ああ。いやな、お前さんに憑いてるやつが何処にいるかまでは分からなかったから、雛と相談してな。誘きだしてもらったんだ。 要:誘きだす? 命:お前さんが聞いた声とやらからも、どうやらだいぶ執着しているみたいだしな。 命:さて、そんな奴が自分の獲物を横から掠め取られそうなったら…どうする? 要:……慌てて取り戻そうとする? 命:正解。恐らくだが影に憑きその宿主の心の隙を増幅させ、徐々に生命力を貪ってたんだろうな。 要:それが、悪夢と幻聴の正体。 命:さて、そろそろいいだろう。雛ぁ!仕上げだ! 雛月:あ、投げるの楽しくって忘れてた!よぉし! 語り部:(堕神)【ぐ、グググ!】 雛月:【やがて天へ至る者、獣神に願い奉る】 0:雛月の耳と尻尾が淡く光始める。 雛月:【禍(まが)を払い、浄める力を】 語り部:(堕神)【アァァ!!クルナクルナーーー!!】 雛月:【月牙桜爪】(げつがおうしょう)! 語り部:(堕神)【グアァァアアア!!】  :   :  0:放たれた一撃で堕神は光の粒となり霧散してゆくー  :   :  0:翌朝  :  要:本当にお世話になりました。 命:まぁこっちは仕事だしな。金もしっかり貰ったんだ。 雛月:お肉食べれる? 命:ああ、特売肉だがすき焼きも行けるぞ! 雛月:やったぁぁあ! 要:しかし雛月ちゃんがあんなに強いなんて。 要:【尾付き様】って凄いんですね。 命:【尾付き】は獣神性の塊みたいなもんだからな・・・。 雛月:ふふん!もっと褒めてもいいんだよ! 命:調子にのるな。 要:いやでもあの時は本当に食べられちゃうかと思いました。まさか誘きだす為の演技だったなんて。ははは! 雛月:………………ソウダネ。 要:え、なんですかその間。なんでカタコトなんですか? 要:え?え?演技ですよね? 雛月:………。(目を逸らす) 要:本気だった!? 命:やめとけ、そんなもん食っても腹壊すぞ。 雛月:甘噛みなら……… 要:駄目です! 雛月:ケチ! 命:まあ、堕神は隙があると付け入るからな。あまり悩みすぎるなよ。 要:…はい!ありがとうございました。 命:もしまた堕神にあったら是非【十六夜堂】をご利用下さいってな! 雛月:よろしくね!!  :   :   :  語り部:こうして、一人の青年は二人の奇妙な【浄化屋】に出会いました。 語り部:この出会いこそが葦原を巻き込む大きな物語の始まりだったので御座います。 語り部:幾多の年月を越え天から地へと堕ちた神々。 語り部:獣と成り果てようとも世に縋る者。 語り部:己が貴き(たっとき)を護る為に生きる者。 語り部:幾重に重なる人の想い、神話の幕開けにてー 語り部:その名も【月天神命奇譚】(げってんしんめいきたん)! 語り部:これより、はじまり、はじまりぃ!  :   :   :  0:始

雛月:雛月(ひなつき)獣耳尻尾少女。 雛月:堕神(おちがみ)浄化屋【十六夜堂】(いざよいどう)の戦闘担当。脳筋。もふもふしっぽが自慢。大食い。 雛月:【尾付き様】(おつきさま) 命:命(みこと)獣耳ひねくれ青年。 命:【十六夜堂】の頭脳担当。 命:若干虚弱体質。顔は良いが口が悪い。少食。 命:【耳在り】(みみあり) 命:※男性ですが男女どちらが演じても可。 要:卯月要(うづきかなめ)眼鏡青年。 要:末っ子。寝不足。巻き込まれ体質。普通。 要:【耳無し】(みみなし) 要:※男性ですが男女どちらが演じても可。 語り部:語り部。堕神(おちがみ)も兼任。 語り部:※男女どちらでも可。  :  0:※堕神(おちがみ)耳在り(みみあり)耳無し(みみなし) 0:天月(てんげ)獣神性(じゅうしんせい)  :   :   :  語り部:むかーし、むかし、そのまたむかし。 語り部:突如として天から災いが降り注ぎ、瘴気と疫病が國を覆いました。 語り部:瘴気は八百万の神々さえ侵し、人々は疫病に倒れてゆきました。 語り部:このままではいずれ神も人も死するのみ…その時ある一柱(はしら)の神が御気付きになられました。 語り部:森に住まう「獣」だけが災いに侵されていないことを。 語り部:神々は最後の力を振り絞り、自らの魂を幾多にも分け獣に宿らせました。 語り部:そうして神は半獣神(はんじゅうしん)となり、 語り部:人も半獣神と交わり、獣の血と神の力を得ることで生き永らえました。 語り部:こうして神と人と獣がひとつになり、今の世が、新たな【人】が、出来たので御座います。  :   :   :   :   :  要:それは夜になると聞こえる。 要:侮蔑(ぶべつ)と嘲笑(ちょうしょう)。他人を見下すことしか考えていない声が。 要:微睡みを侵し黒々と染めていく。 要:繰り返される悪夢。 要:そしてそんな悪夢をみる時は決まって、僕を慰めるかのように別の声が聞こえる。 要:愛を囁き、自分だけが僕の味方だという。 要:その声はとても優しい。なのにとてもー  :    :   要:ー恐ろしいんだ。  :   :   :  0:葦原(あしはら)の中央区。 0:道の端で人が倒れている。  :  0:暫くすると一人の少女が近づいてきた。一時眺めていたがすぐに満面の笑みを浮かべ  :  雛月:……わぁあ!  :   :  0:葦原の北区。 0:町外れにある寂れた神社【十六夜堂】境内  :  雛月:みことぉ!みことみことみことみことぉぉ! 命:なんだうっせぇなあ。 雛月:みてみてみて!これ!拾った! 命:ああ?また野良猫かなんか拾ったか? 命:うちでは飼えないって何度いえ…ば……。 雛月:道に!落ちてた!(人を軽々と持ち上げながら) 命:いや!人!?それ行き倒れだろ! 命:なんつーもん持って帰ってきてんだ!? 命:すぐに元の場所に返してきなさい! 雛月:えー!可哀想だよ!面倒ちゃんと見るからぁ。 命:そういって面倒みたことなかっただろうが。 雛月:みことのケチ!でもね、この人ー 要:(かぶせる)う、う……。 命:っと馬鹿な事言い合ってる場合じゃねーな。 命:しょうがねぇ、取り敢えず中入れて横にしておけ。 雛月:…はーい。  :   :  要:…ん? 雛月:あ、起きた!みこと、起きたよ。 要:えっと、君は? 雛月:雛月だよ。おにーさんは? 要:え、僕は卯月要…というかここは? 命:なんだ氏持ちか…ここは北区の神社。 命:お前さん中央区の道端で倒れてたらしいぞ。 要:そう、だったんですか…。 雛月:はい!私が拾いました! 要:拾っ…君が助けてくれたんだね?ありがとう。 雛月:ふへへっ! 命:んで?なんで倒れてたんだ? 命:身なりからしても飢えてという訳でもないだろう? 要:いえ、その少し、寝不足で。 要:多分それで立ち眩みを起こしてしまったようで…。 命:なんだ、じゃあ町医者呼ぶ程でもねーな? 要:…はい、大丈夫です。 要:助けて頂きありがとうございました。すぐにお暇しますのでー 雛月:えー!もう帰っちゃうの?もう少しお話しようよぉー! 雛月:ねーねー!(要を揺さぶる) 要:ちょ、え、いや、でも、ぐぇ。 命:ほら眼鏡も困ってるだろう。我が儘言うな。 要:眼鏡…。 0:間 雛月:……でもね、命、この人とっても「いい匂い」だよ。 命:雛…、お前。 要:へ?匂い? 命:…なるほど、普段警戒心強いお前が懐いてるからおかしいとは思ったがそういう事か。 雛月:ふへへ、私えらい?最近お仕事がない、 雛月:今月もキツイって命言ってたから! 命:へぇへぇ!お心遣い感謝します、雛月さん。ったく。 要:あの…話が全く見えないのですが、匂い?それに仕事とは? 命:あー、卯月といったな…話してみねぇか? 要:はい? 命:お前が寝不足な理由をだ。もしかしたら俺達で解決出来る案件かも知れねぇぞ。  :   :  語り部:(??)【ミツケタミツケタ……愛オシイ。離サナイ離サナイ…ズットズット一緒二…ワタシガイテアゲル…ダッテトッテモ】  :   :  要:えっと、改めまして。僕の名前は「卯月要」と申します。 命:俺は命、そっちで茶菓子頬張ってるのが雛月だ。 雛月:ひふぉふんふぁよ!(口一杯にお菓子を入れてる) 命:んで、ここは堕神(おちがみ)浄化専門の店【十六夜堂】(いざよいどう)だ。 要:堕神…ってあの? 命:ああ、かつての【大厄災】により溢れた瘴気によって侵されし神々、現し世に災いを振り撒く存在。 要:その堕神が僕の寝不足に関係あると言うんですか? 命:それはこれから話を聞いてからの判断だが、 命:うちの食いしん坊さんはこういう直感がやたら当たるんでね。 雛月:むぐむごぉ…ぷは!ん!(親指をぐっと突き立てる) 要:はぁ…。 命:で?寝不足の原因くらいは分かってるんだろ? 要:あ、はい…。その、原因というか最近よく悪夢を見るようになって。 命:ふむ。 要:なんというかその、最初は身の回りで起こった嫌な事とかを夢で時々見る位だったのですが、最近は徐々に酷くなってきて…。 要:何度も、何度も繰り返して責め立てられているような感覚になって、しまいには夢だけじゃなくて夜になると幻聴まで聞こえてくる始末で。 命:そのせいで眠れなくなったと? 要:……はい。あの、これ本当に堕神の仕業なのでしょうか?医者からは精神的なものじゃないかと診断されたのですが。 命:その「精神的な」何かには心覚えがあるってことだな? 要:………。 命:まぁ言いたくないなら構わんがー 要:……(少しの間)僕を見てもらえればわかると思うのすが、その【耳無し】(みみなし)じゃないですか。 命:……そうだな。 要:自分でいうのもあれですが、うちの家系、そこそこな名家で、【耳在り】(みみあり)を多く輩出している家系でして。 命:月の字を姓にしてる位だしな。 要:両親、兄弟ともに全員【耳在り】なのですが僕だけは【耳無し】なのです。 要:それもあり、周りからの目というか、評価などがその、厳しく、色々と……ははっ。 命:…獣神性(じゅうしんせい)を多く受け継いでいるほどその証として獣の耳がついて産まれてくるが、親が【耳在り】だとしても必ず次の子が同じになる確証もない。 命:もとより【耳在り】は【耳無し】に比べて数はそこまで多くないー 命:まぁ【耳在り】の俺がいっても嫌味にしか聞こえねーか。 要:いいえそんな。 要:家族は「そんなこと関係ない」「気にするな」と愛情を持って接してくれています。とても優しくて、でもそう言われるほどになんの力もない自分が惨めで。学部に進んでからはより周囲の反応も強くなり、そしてー 命:悪夢を見るようになった、と。 要:…はい。 命:ふむ。ここまで聞いた限りだと 命:精神的なもんにしか思えないが、どうだ?雛? 雛月:んー?うーん? 雛月:声が聞こえるって言ってたけどどんなの? 要:え?ああ、えっと悪夢を見始めてから少しして夜になると聞こえる様になったんです。 要:途切れ途切れなんですが「ずっと一緒」とか「愛してる」と「離さない」とか聞き覚えのない声が。凄く優しいのに気味が悪い声が。幻聴まで聞こえるってもうやばいですよね……。  :  雛月:やばいね!! 要:うっ! 命:追い討ちかけるなよ。 雛月:??いやだってまじやばだから… 要:そうですよね…どうせ僕なんて……。 雛月:このままだと要死んじゃうよ。 要:え? 命:ということは当たりか? 雛月:うん!今声について話してる時に「匂い」が揺らいだからね。警戒してるのかな? 命:直接か? 雛月:うーん?それにしては薄いよう?なんだろう?近くだけど遠いみたいな? 命:となると遠隔系か精神系か、厄介だな。 要:あ、あの!!さっきから一体何を言ってるんですか!? 要:僕が死ぬってどういうことですか!? 命:結論からいこう。悪夢と声は堕神が原因だ。 要:そんなっ。どうすればいいんですか? 命:さてここからは仕事の話だな。 要:え? 命:忘れたか?俺達は堕神浄化専門屋【十六夜堂】だ。 命:その為にいる。しっかり金を払ってくれるならお前の悩み、見事解決してやるよ! 雛月:美味しいもの沢山でも、いいんだよ!  :   :   :  0:あれから数時間後。 0:【十六夜堂】客間にて。外は夜の帳が下りはじめていた。  :  命:さて、そろそろ夜になるな。声は聞こえるか? 要:いえ、まだです。 命:ふむ、まだ少し早いか? 雛月:みことぉ。おなかすいた。 命:そうだな。長丁場になるかもしれんし、軽く腹になにか入れとくか。 雛月:はい!お肉たべた… 命:(すかさず)うちには素麺しかありません! 雛月:むぇー、またぁそうめん?飽きたぁ! 命:この仕事が無事終わったら食わせてやるから我慢しろ。 雛月:ぶー! 命:ぶーたれない、さて準備してくるから雛、しっかり見張ってろよ? 雛月:はーい!まっかせとけぇ!  :  0:命退出、客間は二人っきりとなり暫し沈黙が流れる。 0:少しして要が口を開く。  :  要:…ほ、本当に大丈夫なんでしょうか? 雛月:何が? 要:堕神ですよ!僕に憑いているのはまだ実感持てませんが、堕神といえば「天月様」(てんげさま)の精鋭部隊が対応するほどの厄災だと瓦版(かわらばん)で見ました。 雛月:瓦版読まないからよくわからんないけど、堕神って色々種類?があって強いやつから弱いやつまでいっぱいいるんだよ。 要:そうなんですか? 雛月:葦原(あしはら)は「天月様」の力で大きいやつは近寄ってこないけど、時々弱いやつは入り込むんだ。 要:知らなかった。 雛月:そういう小さいのやっつけるのが私達【浄化屋】なんだ! 雛月:…って命が言ってた。 要:なるほど、勉強になります。 雛月:それに私強いから小さいやつならどっかーんだよ! 要:確かに雛月ちゃんは尻尾、【尾付き様】(おつきさま)だけど、まだ小さいし、無理しなくていいからね?怪我したら危ないよ。 雛月:むー!子供扱いして! 要:はは、ごめんごめん。  :  0:暫く雑談をし、時間が流れる。  要:それにしても命さん遅いですね? 雛月:…ねぇ。 要:はい? 雛月:おなかすいたね…。 要:え、ええ。 雛月:(要にそっと近よりながら)はじめて会った時からずっと気になってたけど要、凄くいい匂いがするね。 要:え?匂い?するかな?ふんふん。うーん?あ、それ最初の時も言ってたけど。 雛月:うん、とってもいい匂いだよ。甘くて、ふわふわしてて凄く…… 要:あ、あの、ち、ちか…。  :  雛月:「美味しそう」  :  0:瞬間、部屋の明かりが全て消え暗闇に包まれる。 要:わっ!!(押し倒される) 雛月:……ずっと我慢してたんだ。私、偉いよね? 要:雛月さん?どうしたんですか、離して!くっ!びくともしない! 雛月:ふへへぇ。ちょっとだけなら、味見しても…いいよね? 要:ちょっとも駄目です! 雛月:いっただきまぁぁーす! 要:うわぁあ!まっ、舐めな!食まないで……… 語り部:(??)【ヤメロォォオ!!!】  :  0:要の後方から突如として奇っ怪な叫びと影のような化物が出現する。  雛月:お、本当に出てきた。 要:食べても美味しくな…、え、うわっ!なんだこれ! 命:やはりな 雛月:命の言った通りだね!凄い! 要:命さん!どこ行ってたんですか!僕雛月さんに食べられそうに…いやこの化物なんなんですか!?どういうことなんですか!? 命:それがお前に憑いてた堕神だよ。 要:これが…!? 語り部:(堕神)【ダメダメダメ!ワタシダケノ…愛オシイ……渡サナイ渡サナイ!!】 要:この声!あの幻聴と一緒だ。 命:影に憑いてたのか、道理で昼間は気配が薄い筈だ。 要:僕の、影に? 命:雛!相手さんが逃げちまう前にさっさと終わらすぞ! 雛月:まっかせてぇ!  :  語り部:(堕神)【ユルサナイユルサナイユルサナイ!】  :  0:影憑は触手のような物を伸ばし雛月を捕まえようとするがスルリと躱されてしまう。そして逆に触手を捕られてしまった。  :  雛月:命!今!  :  命:【灯せ!明楼!】(めいろう)  :  0:命の掌から光の球体が出現し、辺りが眩い光で覆われる。  :  語り部:(堕神)【アアア!!眩シイ!眩シイ!】 命:これで他の影には移動出来ないだろう。雛! 雛月:任せて! 雛月:そりゃぁああ!!  :  0:要の影に戻ろうとする堕神を力任せに引きずり出す。 要:凄い……! 語り部:(堕神)【オノレオノレ、ヨクモワタシノ!ズットズット一緒………美味シイ美味シイワタシノ餌ナノニ!】 雛月:もう影には逃がさない!! 雛月:せぇい! 語り部:(堕神)【オノレェェ!!】  :  0:力いっぱい振り抜き床に叩きつける。 雛月:そぉりやぁ! 語り部:(堕神)【呪ッテヤル!!】 雛月:てりゃぁあ! 語り部:(堕神)【痛イ痛イ痛イ!!】 雛月:もういっちょぉお! 語り部:(堕神)【アアアアアア!】  :  0:どこか気が抜ける掛け声と共に暫く繰り返し堕神を叩き付けている。 要:あ、あのこれどういう状況なんでしょうか? 命:ああ。いやな、お前さんに憑いてるやつが何処にいるかまでは分からなかったから、雛と相談してな。誘きだしてもらったんだ。 要:誘きだす? 命:お前さんが聞いた声とやらからも、どうやらだいぶ執着しているみたいだしな。 命:さて、そんな奴が自分の獲物を横から掠め取られそうなったら…どうする? 要:……慌てて取り戻そうとする? 命:正解。恐らくだが影に憑きその宿主の心の隙を増幅させ、徐々に生命力を貪ってたんだろうな。 要:それが、悪夢と幻聴の正体。 命:さて、そろそろいいだろう。雛ぁ!仕上げだ! 雛月:あ、投げるの楽しくって忘れてた!よぉし! 語り部:(堕神)【ぐ、グググ!】 雛月:【やがて天へ至る者、獣神に願い奉る】 0:雛月の耳と尻尾が淡く光始める。 雛月:【禍(まが)を払い、浄める力を】 語り部:(堕神)【アァァ!!クルナクルナーーー!!】 雛月:【月牙桜爪】(げつがおうしょう)! 語り部:(堕神)【グアァァアアア!!】  :   :  0:放たれた一撃で堕神は光の粒となり霧散してゆくー  :   :  0:翌朝  :  要:本当にお世話になりました。 命:まぁこっちは仕事だしな。金もしっかり貰ったんだ。 雛月:お肉食べれる? 命:ああ、特売肉だがすき焼きも行けるぞ! 雛月:やったぁぁあ! 要:しかし雛月ちゃんがあんなに強いなんて。 要:【尾付き様】って凄いんですね。 命:【尾付き】は獣神性の塊みたいなもんだからな・・・。 雛月:ふふん!もっと褒めてもいいんだよ! 命:調子にのるな。 要:いやでもあの時は本当に食べられちゃうかと思いました。まさか誘きだす為の演技だったなんて。ははは! 雛月:………………ソウダネ。 要:え、なんですかその間。なんでカタコトなんですか? 要:え?え?演技ですよね? 雛月:………。(目を逸らす) 要:本気だった!? 命:やめとけ、そんなもん食っても腹壊すぞ。 雛月:甘噛みなら……… 要:駄目です! 雛月:ケチ! 命:まあ、堕神は隙があると付け入るからな。あまり悩みすぎるなよ。 要:…はい!ありがとうございました。 命:もしまた堕神にあったら是非【十六夜堂】をご利用下さいってな! 雛月:よろしくね!!  :   :   :  語り部:こうして、一人の青年は二人の奇妙な【浄化屋】に出会いました。 語り部:この出会いこそが葦原を巻き込む大きな物語の始まりだったので御座います。 語り部:幾多の年月を越え天から地へと堕ちた神々。 語り部:獣と成り果てようとも世に縋る者。 語り部:己が貴き(たっとき)を護る為に生きる者。 語り部:幾重に重なる人の想い、神話の幕開けにてー 語り部:その名も【月天神命奇譚】(げってんしんめいきたん)! 語り部:これより、はじまり、はじまりぃ!  :   :   :  0:始