台本概要

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タイトル 読書家のしおり~白~
作者名 野菜  (@irodlinatuyasai)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男2、女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 それぞれが大切な人と生きるため、歪で高慢な怪異による騒動に巻き込まれていくディストピア×オカルト×タイムリープ(亜種)。
赤→白→黎明の順にお楽しみください。

ふきの死ぬ未来を避けるため、ビイの幸せになる未来にたどり着くため、読書家レディにしおりを使わせたふきとbタイプ。果たして未来は変えられたのか。
キャラ性別は設定していますが、演じられる方の性別は問いません。また、語尾や口調など大きく根本の展開を変えない改編も可能です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
レイメイ 61 世界の存亡と自分の後悔と弱さに向き合うためにbと手を組み死檻に立ち向かう研究者。
62 ふきが飛ばされてくる未来を待ちながら死檻に抗う機械兵。狂気と愛情と怒りで動いている節がある。
ふき 60 青のしおりからやってきた。そのためレイメイやbの緊迫感に追いつけないでいる。
読書家レディ 28 とうとう絶望の未来を餌に終わりの姿に目覚めた怪異。とっても偉そう。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:【青のしおり→白のしおり】 読書家レディ:人類敗北の未来、ふきが間に合わせの研究室で意識を取り戻す。 ふき:俺は目を開ける。暗い、遠い天井に走る線が光って……ああ、なんだ、配線から火花が散っているだけだ。エレベーター周りのお掃除はどうなったんだっけ。明日上層階層の人が来る前に、間に合わせなきゃいけないのに。 b:ふき、ふき。 ふき:夢かな。なぜか俺は覚えている。自分の体が初めて聞く音をたててつぶれた感覚を。ビイを受け止める網の端を、自分の体にたくさんくくりつけた夜を。でも、それはたぶん夢なんだ。さっきまで、初めてビイと外を歩いたところだったんだから。 b:起きて、ふき。私は今日この時を待っていたんだから。 ふき:ぐえっ、うぇっ、……え、え? b:首の脈は動いているのに、おかしい。振ったらちゃんと起きるかしら。 ふき:俺の付けたビイの腕は、こんなに長くない。でかくもない。でも、俺の名前を呼んでくれる人なんて、ビイしかいないはず。 b:ふきって、どれくらいの出力まで握ってよかったんだっけ。これくらい? ふき:俺の知っているビイは、俺の首をつかんで持ち上げたりしない。……しない、はず。いや、できる腕があったらちょっと、やるかもしれない。やりそうな気がしてきた。 レイメイ:b、下ろしなさい。たいていの生き物というものは、首が取れたら死んでしまうものだよ。 b:レイメイ。死檻(しおり)の様子を見に行ってたんじゃ?……じゃない、そんなことより、ふきがちゃんと起きていないわ。 レイメイ:さすがに、電源を入れたらすぐ起動するbのようにはいかないって。ほら、下ろしなさい。そろそろ意識失いそうだから。 ふき:…………っはあ、はあ、はあ。ビイ?ビイ、なの?なにが起きたの? b:今から言うことを聞いて、ふき。死檻(しおり)を倒す。しおりを使って。 レイメイ:b。 b:…………時間がない。 レイメイ:b、ふきに会ったら、真っ先に何をしたかったんだっけ? b:…………。 ふき:ビイ?え、俺の知らないパーツだらけだけど、……よく見たらなんとなく頭部と胴体の大きさはビイかあ、やっぱり。……あれ、そこ以外は全部ちがくない? レイメイ:ふき、君が読書家レディと赤のしおりを使ってから、もう100年は経つんだよ。 ふき:……あの網をかけた夜から、ひゃく……? b:ふき。 ふき:ビイ、ビイは、ちゃんと助かったんだね? b:ふきに、会いたかったよ……!!! ふき:つぶれるつぶれるつぶれるつぶれる!!!! レイメイ:…………やっぱり腕力よりも涙の機能をつけてあげるべきだったかな。 b:ふき!ふき!!ああもうやっぱり私の手でつぶして終わりにしちゃいたい! ふき:ビイが!おかしいんですけど!!? レイメイ:はは、ウケる。 b:ふき。あなたに許してもらえないことが2つもあるの。 ふき:ちょっとだけ締め上げてる腕の力をおさえてほしいなあ、先に。 b:あら、つぶしかけてた? ふき:もう少しでね。…………ビイ。教えて。俺はきっと、何も知らないんだ。 レイメイ:話をする時間くらいあるよ。理解が及ぶかは、甚だ疑問だが。たぶん無理だが。 b:全部、全部聞いて。私頑張ったよ。 ふき:まずあちらの方はだあれ? レイメイ:ええ?僕?そこから? 読書家レディ:人間たちは、読書家レディによって世界が10年も戻されたと、全員が理解するまでに数年も費やした。人間たち全員が読書家レディを認識できる頃には、私は空の全てを覆い、窓の外に満ちあふれるほど巨大化していた。 レイメイ:もはや、レディなどではない。人知や文明にそぐわないただのアイテムとは呼べない。それは人間を死の檻に閉じ込める、災害になった。触れれば老い、肉が腐る、呪われた災害が、窓の外を満たした。 b:いつしか人間たちは、その災害を死の檻、死檻(しおり)と呼び始める。名前をはじめ、前提となる事実を共有し終えて、やっと死檻に立ち向かおうと体制を整えるのが、あまりにも遅すぎた。 読書家レディ:おまえたちでは、私にかなわない。たった数十メートル高さが違うだけで、文明が数百年もずれた生活をするおまえたち。深呼吸すらもままならない、息をそろえることすらできないおまえたちが、かなう相手ではないの。 レイメイ:死檻討伐に向かった精鋭を蹴散らし、嗤うような耳に障る音を鳴らす、読書家レディだったもの。 読書家レディ:人間など、敵どころか邪魔にさえもならないわあ! b:この世界は終わり。読書家レディが、死檻になった時点で、どうにもならなかった。そのことに気づくのにさえ時間がかかりすぎた。 レイメイ:死檻に汚染された世界の中で、bと僕だけが知る可能性に賭けた。 読書家レディ:ぽかんと間の抜けた顔で、それでも深刻そうな雰囲気は感じたふき。 ふき:大変なことになってるんだね。大変、で片付けちゃいけないのかもしれないけど。……俺が、読書家レディにお願いしたせいなんだよね? レイメイ:直接的な原因は、そうだ。だが、アレはふきに断られても付きまとって、飽きればより愚かな他の奴をそそのかすだけだろう。 ふき:……レイメイと、ビイが知っていたことって、読書家レディのこと? b:それもあるけど。……私ね、ふきを助けるために、私もレディとしおりを使ったの。 ふき:もう一回赤のしおりに時間を戻したの? b:ううん。私は、白のしおり。未来のしおり。 ふき:未来。そんなのもあるんだ。 b:その時に使っていなかった、いつか使うしおりに、ふきを飛ばしてって、お願いしたの。 ふき:俺が、生き返った仕組みがそれなのかな。 レイメイ:レディが約束を守るとは思えなかったけどね。気がむいたようだ。 0:ふきの死亡後、ふきの部屋。読書家レディがbに囁きかける。 b:どうして。なんでふきがこんな目に合うの。貴女は?なに、なんなの。ふきに何をしたの。 読書家レディ:私は読書家レディ。……特別な存在よ。レディとお呼びなさいな、対話を許しましょう。 b:レディが、これをやったの? 読書家レディ:それは少し正解で、少し間違いになる。覚えているだろう?レイメイになすすべもなく連れ去られたこと。そのあとすぐ、レイメイが工場階層のエレベーターを破壊したこと。 b:ふきはそれで死んだの? 読書家レディ:いいや、生きていた。レイメイの教えた姿勢を守り続けたふきは、考えられる限り最小限の怪我だったよ。 b:なら、どうして。 読書家レディ:おまえ、bを助けるため。 b:私?助けるって? 読書家レディ:ふきは過去に戻り、ただの機械であるおまえを、命と引き換えに助ける道を選んだ。もっとも、bタイプがフルバージョンで網にかかったことや、代わりにふきが即死したことは偶然だけどね。無知なふきが直感で変えた行動。ふき自身が道を選んだとは言い難いけれど……。 0:沈黙。大きなbの腕が力を籠めると、ふきだったものの一部から液体が飛ぶ。 b:やだ。私はこんなの望んでない。ふきの最期を看取りたいと考えて家族になった。でも、こんな形を願ったわけじゃない。ふきと過ごした時間を、後悔したことなんて一度も、一瞬だってない! 読書家レディ:ああ、そうだろうとも。 b:人間。どうして人間ってみんな、みんな、勝手よ。レイメイも、ふきも、自分ばかり犠牲にして、私の幸せを全然わかってなんかない。 読書家レディ:そうだね。人間は、愚かだ。 b:一緒に生きてほしかった。ただいまって言ってくれるだけでよかった。抱きしめてくれるだけでよかった。……それが、一番、良かったのに!! 読書家レディ:……ふきに、会いたいかい? b:会いたい。あたたかい、私と話してくれるふきに、会いたいよ。 読書家レディ:読書家レディが会わせてあげる。ふきがそうしたように、おまえもしおりの元に飛ばしてあげる。 b:ふきがそうしたように……時間を戻すとはちがうの?しおりがある時点に行けるってこと? 読書家レディ:賢い子は誰だって読書家レディのお気に入りだよ。そう。レディがしおりを置いたところに行ける。何色のしおりに飛ぶか、誰が飛びたいかレディにお願いするんだ。 b:ふきは何て言ったの。 読書家レディ:『赤のしおりの場所に、俺を飛ばして、読書家レディ。』ってね。ちゃあんと、お願いしますも言える子だったよ。赤色のしおりは、ふきがbをひっかけた網を盗んだ夜にあったから赤をえらんだ。bタイプも、赤色のしおりに飛んでやりなおすといい。 b:何色があるの?まだ使っていない色もあるの? 読書家レディ:今は……赤、青。古いものだと黒にマゼンタ、ルビーなんてのもある。読書家レディは、他にも白とかピンクも持っているけど、まだ使っていない色だ。 b:いつか、使うのね。 読書家レディ:いつか、気が向いたらね。 b:レディ、ふきが生きているしおりは、赤色だけなの? 読書家レディ:青色の時点でも、まだ生きているよ。レイメイが、エレベーターに乗ったときのしおりだからね。青色に戻って、ふきを連れて逃避行なんてのも面白いわ! b:そう……ねえ、レディ。貴女なら、しおりからしおりに飛ばすなんて奇跡も起こせちゃうんじゃない? 読書家レディ:やったことはないけれど、面白そうな話だねえ。 b:『どうかお願いよ、読書家レディ。青色のしおりのふきを、白色のしおりにいる私の近くに飛ばして』。 読書家レディ:ふきの表情は固まっている。bは真剣だが、レイメイはなにかを察した。 レイメイ:……正直、青のしおりのふきがそのまま飛んでくるのか、記憶や知識だけ飛んでくるのか、何もわからなかった。今のふきの体は、僕の研究室でしていた研究の副産物だよ。 b:私は何十年、何百年待ってでも、白色のしおりを読書家レディが置くその時まで、生き続けようと思った。 ふき:本当に、本当に大変、だったんだあ……。 レイメイ:世界は変わってしまった。君から見れば、追い詰められてなりふり構わない今の僕たちは「おかしい」、「変わってしまった」と思うだろうね。 b:ふき。私とレイメイは、あなたをレディと同じ、「読書家」にしたはずなの。 ふき:えっ。俺人間じゃないの?ええ?……よくわかんない。 レイメイ:ふき、レディに話しかけられるまで、レディの声も聞こえないし、見えることもなかったよね? ふき:……たぶん?しおりを使う前に初めて会った。……なんで知ってるんだろ?あれ?レイメイとだってさっきはじめましてだったはず、あれ? レイメイ:本のページをまくるように、ぱっと時間を戻したり進めたりするみたいなんだけど。記憶や知識はそのままにしてるらしい。わざとなのか、できないのか。読書家レディから得られている情報は少なすぎる。死檻になってからは対話もする気がなさそうだ。 b:それでね、ふき。今の私たちは、死檻を見てしまった。知ってしまった。しかもふきは、2回しおりの間を行き来している。しおりとも、読書家レディとの共感性が強くなっ…。 ふき:ビイ。 b:なによ。大事な話なんだから聞いてよ。 ふき:俺、そろそろ2人の言ってることが難しくて分かんなくなってきちゃったんだよ。そもそも2人ほど頭良くないのに!! レイメイ:そんな気はしてたよ。そういう顔してたよ、ふき、途中から。 ふき:読書家になったって言われても、しおりの使い方とか分かんないよ。えいってなんか出たりしなそうだよ。いや、読書家になったってなに? b:だいぶ分かりやすく説明してるつもりなんだけど……。 レイメイ:ほら、工場階層とかまで地下になっちゃうと、学校という概念すら存在してなかったから……。bはそもそも機械、僕は例外的天才。頑張ったよ。うん。これ以上はふきの頭が沸騰しちゃうよ。 b:えーっと、ごはんを食べすぎてレディがでかくなって、私がレディのしっぽをちょんぎって、レイメイ3号がこねこねしてふきっぽい形にして……。 ふき:待って。今俺の中で、分からない話が分かりたくない話になろうとしてる気がする。 レイメイ:……休憩しようか。たいしたお菓子もお茶も出せないけれどね。 読書家レディ:靄のかかった視界の中、化け物が見える。少なくとも、この夢を見ているふきは、化け物だ、と思った。あまりにも遠い、未来になるかもしれない、いつかの記憶。積み重ねた知識の断片。 ふき:まったく、またひとつ古いしおりに飛ばせなくなった。もう駄目かもな。 レイメイ:そう、ですか。 ふき:はっ。白だのピンクだのに飛べなくなったと騒いでいた頃が懐かしいよ。天才だったレイメイが使えなくなり始めたのもそのあたりだったか? レイメイ:僕は、人間なんだからしょうがないじゃないですか。 ふき:人間?よく言うよ。もう電卓みたいなものじゃないか。 レイメイ:……電卓。そんなもの、ありましたね。 ふき:ビイが声を出してた頃が懐かしい。なあ、ビイ?俺はもう思い出せない。俺の狂った妄想だったんじゃないのか? レイメイ:……もう、諦めちゃいます?呼吸できる場所も、もはや残り4畳もないですし。 ふき:もっと早くそうするべきだったかもな。俺はビイを、ビイだけを、救えれば良かったはずなのに。なんで世界なんて救おうとしたんだろうな。 レイメイ:いっそ何も知らずに、人間なんか滅んでしまえばよかったのに。 ふき:……おまえが。おまえがそれを言うのか。 レイメイ:そうは思わないですか?何にも知らないって、幸せそうですよ。何も考えなくていいって、幸せなんじゃないです? ふき:そう、そうだよな。レイメイ。おまえはもう十何台も前の体の時に、メモリが破損したんだったな。 レイメイ:もう最後でいいんじゃないですか。「読書家ふき」まで死檻になったら、めんどくさいですよ。 ふき:おまえが、言うんだな。何も知らなかった俺にすべてを背負わせた、おまえが。 レイメイ:……なにか間違ったことを言いましたか? ふき:いや。そうだな。最後。いいかもな。せっかくなら、一番最初の赤色にでも挑戦してみるか? レイメイ:死んじゃいますよ?のうみそ蒸発ですかね。 ふき:俺が死檻2号になったら面倒なんだろ?蒸発、楽でいい。 レイメイ:それもそうですね。 ふき:赤だったら、おまえもオリジナルだったんじゃないか?戻れたとして、俺は全部忘れているかもな。「読書家ふき」が蒸発して消滅して、せめて「工場員ふき」だったころに戻ったら最高だ。 レイメイ:結局、ここに来ちゃうんじゃないですかね、それ。 ふき:おまえに言わせれば、幸せなんだろ。なんにも知らないってのはさ? レイメイ:……あっ、ふきじゃなくて、このレイメイ最終バージョンを送れたら一番いいですね。読書家のループ能力じゃなくて、技術の結晶だけでここまでやってきた成果を送れるわけですから。当時の物資のクオリティで再現したら最強でしょう。 ふき:オリジナルの天才でも、脳みそ爆発しないか? レイメイ:どうせ最後だし、やってみてもいいんじゃないですか。電卓の僕じゃ、このスペック活用できませんよ。 ふき:……いや、今の「読書家ふき」としても消えかけの俺じゃ無理だな。 レイメイ:無理ですか。仕方ないですね。 ふき:代わりに、ここにしおりを置くとか。 レイメイ:使い切ってませんでしたか、とっくの昔に。 ふき:色も記号も数字も使い切ってなくなった。だから、そのまんま、『黎明のしおり』、なんてどうだ? レイメイ:使えるんですかね、それ。 ふき:さあな。昔、死檻が死檻になる前、聞いたことあるんだよな。しおりから、しおりに飛ばすっつー、反則技をよ。 レイメイ:使えるといいですねえ、反則。 ふき:…………だな。 読書家レディ:目が覚めて、翌朝。間に合わせの研究室にて目を覚ますふき。 b:……おはよう、ふき。 レイメイ:ん?起きたんだ。よく寝てたねえ。 ふき:よくも俺を「読書家」にしたなレイメイ!!! レイメイ:起き抜けに元気なことで。 b:一度スリープ状態にしたら、更新でも入ったのかしら。 レイメイ:そんな古代のネット環境みたいなことある?彼はもう科学の手を離れた、オカルティック怪異だよ? ふき:「読書家」もしおりもな!!かなり!!アナログだから!!人間ひとりひとりに記憶と知識の設定しなおしとかやってられるかー!! b:更新じゃなくてアップデートが入ったのね。なんだか急に賢くなったわ。 レイメイ:ふき、一晩寝て、何か分かった……いや、むしろ共有された、のかな?教えてごらん? ふき:……たぶん、「読書家」のしおりの力を使って、何度も何度もやりなおした、最後の……夢を見たんだ。力の使い方も分かった。分かったけど……。 b:制限がある、かしら? ふき:制限、かな?夢の中で見た俺は、昔のしおりに飛べなくなったんだって。あとは……レイメイが使えなくなったとか、メモリがどう、とか?よくわかんない。 読書家レディ:ふきは見た記憶を、知識を共有する。 レイメイ:……なるほど。あの時飛んできたのは、そういう……。 b:なにか知っているのね? レイメイ:……とても、個人的なことさ。他に、しおりの話はしていなかったかな?読書家レディのこととか。 ふき:「読書家ふき」が消えそうで、死檻2号になりそう?で……しおりを使い切っちゃったんだって? b:それが本当なら「読書家」は、増やすべきじゃないわね。 レイメイ:死檻をバラバラに切るようなことも避けるべきだろうね。……大変なことになってきたな。だが情報が増えるのは大きな進歩だ。 b:ふきの知った情報が、「読書家ふき」の最後の、最低限のメッセージだとしたら、私たちが選ぶ行動はひとつよ。 ふき:俺にできそう? b:そこが一番の問題ね。 レイメイ:……最後のしおり、『黎明のしおり』にいるレイメイのパーツを、赤のしおりのレイメイに送るんだ。 b:この未来の私たちは消えてしまう。死ぬのか、無かったことになるのかは分からないわ。でも、もう一度はじめからやり直すしかない。小刻みに戻るんじゃなくて、戻れるだけ、私たちのはじまりに戻る。 ふき:赤のしおり。……変なの。俺にとっては、十年前であって、一日前のことでもあるみたいなのにな。 レイメイ:ふき。やってくれ。君ならできる。 b:まるで知っていることのように言うのね?力を使う責任も、あるかどうかも分からない負担も全部、ふきにかかってしまうのに。 レイメイ:確かに、そんな遠い未来から過去へ、しかも他人をどうこうするなんて、大変な代償を払うかもな。読書家レディの様子がおかしくなったのも、bとふきがしおりを使った後だったんだから。 b:それは……。 レイメイ:しおりからしおりへ他人を飛ばす。それは以前bが頼んだことだ。そして読書家レディは育ち、狂い、死檻になった。 b:私のせいだったとして、後悔なんかしない。私は、私の愛する人間さえ幸せならいいのよ。 レイメイ:悪いとは言わない、責める気もないよ。だが、確かなことは、読書家レディはそれを実現してみせたってことだ。 ふき:成功するかもしれない。レディは成功したことが、ある。 レイメイ:そう。もちろん失敗する可能性もあるけれど。成功したって、それがいい未来につながることかも怪しい。 読書家レディ:読書家レディはやってみせた。読書家レディはやってのけた。読書家レディは人間に勝利してみせた。 読書家レディ:誰にも見られない。誰にも聞かれない。永遠の孤独の中取るに足らないおばけでいるのは寂しいのよ。 読書家レディ:狂ってもいい。嫌われても、恨まれてもいい。読書家レディは見てほしかった。聞いてほしかった。先にあるのが滅びでもかまわない。……ああ、そうだ。「私」の始まりは。 読書家レディ:愛した小さな、かわいい人間たちに、気づいてほしかっただけなのだわ。 b:ふき。選ぶのはあなた。でも、私は、ふきが幸せになれない選択は絶対に許さない。どこまでも追いかけて、いつまでも待ち続けて、何度もやりなおしてでも、ふきを幸せにするんだから。だから……。 ふき:うん。ありがとう。こんなにビイがツライ思いをするのは、俺は幸せじゃないよ。 レイメイ:僕は……そうだね。提案するしかできないし、僕の幸せも目的も、ふきの幸せなんて関係ない。 b:レイメイ!! レイメイ:でも……うまいこと利用するといい。bの幸せは、僕の幸せだ。 ふき:……うん?あれ、んん?? b:ふき!あなたからかわれてるだけよ!しっかりして! レイメイ:ははは。ウケる。 ふき:俺も、未来の俺もなんか、そんな話してたなあ。幸せ、ムズカシイね。でも、俺も、ビイが幸せなら、いいなあ。 b:ふき? ふき:ああいや、自分を犠牲にすることはもうしないよ!? レイメイ:すぐに決めなくとも、保留だっていいかもね。数日、数時間くらい2人でこの時間を過ごしたっていいだろう。 b:いつ死檻に襲われるか分かんないんだから、それはダメ。 レイメイ:bが守ればいい。 b:そ、れは……そうだけど!!そうかもだけど!! ふき:決めるし、やってみるよ。自信はあんまりないけど。 レイメイ:……僕は、知っている。ふきは、できるよ。知ってるんだ。 b:……レイメイ? レイメイ:だから、今度は僕が頑張らないといけないね。 ふき:ねえ、ありがとう。レイメイ。俺、上層の人って、皆、もっと怖い人だと思ってたよ。 レイメイ:はは、僕もさ。 b:レイメイ。私、貴方の自己犠牲も望んだことないの。 読書家レディ:一瞬、レイメイの笑顔が固まる。しかしそれもすぐに繕われる。 レイメイ:それは……知らなかった。 b:私も、言い損ねたわ。 読書家レディ:ふきの肉体、輪郭が歪む。しおりを使うのだ。人間の身の程もわきまえず、より傲慢で高慢な、上位の理解しえぬものへとあり方を変える。それは、人が狂気と呼ぶ所業と同じであるもの。 ふき:レイメイ。レイメイにしようか。俺に提案をしてみて。どうやって、しおりを使ってほしいんだ? レイメイ:『黎明のしおりのレイメイのボディを、赤のしおりの、オリジナルのレイメイへ飛ばしてほしい。お願いだ。』 読書家レディ:「読書家ふき」の誕生だ。 ふき:物語は再び、赤のしおりから始まる。

0:【青のしおり→白のしおり】 読書家レディ:人類敗北の未来、ふきが間に合わせの研究室で意識を取り戻す。 ふき:俺は目を開ける。暗い、遠い天井に走る線が光って……ああ、なんだ、配線から火花が散っているだけだ。エレベーター周りのお掃除はどうなったんだっけ。明日上層階層の人が来る前に、間に合わせなきゃいけないのに。 b:ふき、ふき。 ふき:夢かな。なぜか俺は覚えている。自分の体が初めて聞く音をたててつぶれた感覚を。ビイを受け止める網の端を、自分の体にたくさんくくりつけた夜を。でも、それはたぶん夢なんだ。さっきまで、初めてビイと外を歩いたところだったんだから。 b:起きて、ふき。私は今日この時を待っていたんだから。 ふき:ぐえっ、うぇっ、……え、え? b:首の脈は動いているのに、おかしい。振ったらちゃんと起きるかしら。 ふき:俺の付けたビイの腕は、こんなに長くない。でかくもない。でも、俺の名前を呼んでくれる人なんて、ビイしかいないはず。 b:ふきって、どれくらいの出力まで握ってよかったんだっけ。これくらい? ふき:俺の知っているビイは、俺の首をつかんで持ち上げたりしない。……しない、はず。いや、できる腕があったらちょっと、やるかもしれない。やりそうな気がしてきた。 レイメイ:b、下ろしなさい。たいていの生き物というものは、首が取れたら死んでしまうものだよ。 b:レイメイ。死檻(しおり)の様子を見に行ってたんじゃ?……じゃない、そんなことより、ふきがちゃんと起きていないわ。 レイメイ:さすがに、電源を入れたらすぐ起動するbのようにはいかないって。ほら、下ろしなさい。そろそろ意識失いそうだから。 ふき:…………っはあ、はあ、はあ。ビイ?ビイ、なの?なにが起きたの? b:今から言うことを聞いて、ふき。死檻(しおり)を倒す。しおりを使って。 レイメイ:b。 b:…………時間がない。 レイメイ:b、ふきに会ったら、真っ先に何をしたかったんだっけ? b:…………。 ふき:ビイ?え、俺の知らないパーツだらけだけど、……よく見たらなんとなく頭部と胴体の大きさはビイかあ、やっぱり。……あれ、そこ以外は全部ちがくない? レイメイ:ふき、君が読書家レディと赤のしおりを使ってから、もう100年は経つんだよ。 ふき:……あの網をかけた夜から、ひゃく……? b:ふき。 ふき:ビイ、ビイは、ちゃんと助かったんだね? b:ふきに、会いたかったよ……!!! ふき:つぶれるつぶれるつぶれるつぶれる!!!! レイメイ:…………やっぱり腕力よりも涙の機能をつけてあげるべきだったかな。 b:ふき!ふき!!ああもうやっぱり私の手でつぶして終わりにしちゃいたい! ふき:ビイが!おかしいんですけど!!? レイメイ:はは、ウケる。 b:ふき。あなたに許してもらえないことが2つもあるの。 ふき:ちょっとだけ締め上げてる腕の力をおさえてほしいなあ、先に。 b:あら、つぶしかけてた? ふき:もう少しでね。…………ビイ。教えて。俺はきっと、何も知らないんだ。 レイメイ:話をする時間くらいあるよ。理解が及ぶかは、甚だ疑問だが。たぶん無理だが。 b:全部、全部聞いて。私頑張ったよ。 ふき:まずあちらの方はだあれ? レイメイ:ええ?僕?そこから? 読書家レディ:人間たちは、読書家レディによって世界が10年も戻されたと、全員が理解するまでに数年も費やした。人間たち全員が読書家レディを認識できる頃には、私は空の全てを覆い、窓の外に満ちあふれるほど巨大化していた。 レイメイ:もはや、レディなどではない。人知や文明にそぐわないただのアイテムとは呼べない。それは人間を死の檻に閉じ込める、災害になった。触れれば老い、肉が腐る、呪われた災害が、窓の外を満たした。 b:いつしか人間たちは、その災害を死の檻、死檻(しおり)と呼び始める。名前をはじめ、前提となる事実を共有し終えて、やっと死檻に立ち向かおうと体制を整えるのが、あまりにも遅すぎた。 読書家レディ:おまえたちでは、私にかなわない。たった数十メートル高さが違うだけで、文明が数百年もずれた生活をするおまえたち。深呼吸すらもままならない、息をそろえることすらできないおまえたちが、かなう相手ではないの。 レイメイ:死檻討伐に向かった精鋭を蹴散らし、嗤うような耳に障る音を鳴らす、読書家レディだったもの。 読書家レディ:人間など、敵どころか邪魔にさえもならないわあ! b:この世界は終わり。読書家レディが、死檻になった時点で、どうにもならなかった。そのことに気づくのにさえ時間がかかりすぎた。 レイメイ:死檻に汚染された世界の中で、bと僕だけが知る可能性に賭けた。 読書家レディ:ぽかんと間の抜けた顔で、それでも深刻そうな雰囲気は感じたふき。 ふき:大変なことになってるんだね。大変、で片付けちゃいけないのかもしれないけど。……俺が、読書家レディにお願いしたせいなんだよね? レイメイ:直接的な原因は、そうだ。だが、アレはふきに断られても付きまとって、飽きればより愚かな他の奴をそそのかすだけだろう。 ふき:……レイメイと、ビイが知っていたことって、読書家レディのこと? b:それもあるけど。……私ね、ふきを助けるために、私もレディとしおりを使ったの。 ふき:もう一回赤のしおりに時間を戻したの? b:ううん。私は、白のしおり。未来のしおり。 ふき:未来。そんなのもあるんだ。 b:その時に使っていなかった、いつか使うしおりに、ふきを飛ばしてって、お願いしたの。 ふき:俺が、生き返った仕組みがそれなのかな。 レイメイ:レディが約束を守るとは思えなかったけどね。気がむいたようだ。 0:ふきの死亡後、ふきの部屋。読書家レディがbに囁きかける。 b:どうして。なんでふきがこんな目に合うの。貴女は?なに、なんなの。ふきに何をしたの。 読書家レディ:私は読書家レディ。……特別な存在よ。レディとお呼びなさいな、対話を許しましょう。 b:レディが、これをやったの? 読書家レディ:それは少し正解で、少し間違いになる。覚えているだろう?レイメイになすすべもなく連れ去られたこと。そのあとすぐ、レイメイが工場階層のエレベーターを破壊したこと。 b:ふきはそれで死んだの? 読書家レディ:いいや、生きていた。レイメイの教えた姿勢を守り続けたふきは、考えられる限り最小限の怪我だったよ。 b:なら、どうして。 読書家レディ:おまえ、bを助けるため。 b:私?助けるって? 読書家レディ:ふきは過去に戻り、ただの機械であるおまえを、命と引き換えに助ける道を選んだ。もっとも、bタイプがフルバージョンで網にかかったことや、代わりにふきが即死したことは偶然だけどね。無知なふきが直感で変えた行動。ふき自身が道を選んだとは言い難いけれど……。 0:沈黙。大きなbの腕が力を籠めると、ふきだったものの一部から液体が飛ぶ。 b:やだ。私はこんなの望んでない。ふきの最期を看取りたいと考えて家族になった。でも、こんな形を願ったわけじゃない。ふきと過ごした時間を、後悔したことなんて一度も、一瞬だってない! 読書家レディ:ああ、そうだろうとも。 b:人間。どうして人間ってみんな、みんな、勝手よ。レイメイも、ふきも、自分ばかり犠牲にして、私の幸せを全然わかってなんかない。 読書家レディ:そうだね。人間は、愚かだ。 b:一緒に生きてほしかった。ただいまって言ってくれるだけでよかった。抱きしめてくれるだけでよかった。……それが、一番、良かったのに!! 読書家レディ:……ふきに、会いたいかい? b:会いたい。あたたかい、私と話してくれるふきに、会いたいよ。 読書家レディ:読書家レディが会わせてあげる。ふきがそうしたように、おまえもしおりの元に飛ばしてあげる。 b:ふきがそうしたように……時間を戻すとはちがうの?しおりがある時点に行けるってこと? 読書家レディ:賢い子は誰だって読書家レディのお気に入りだよ。そう。レディがしおりを置いたところに行ける。何色のしおりに飛ぶか、誰が飛びたいかレディにお願いするんだ。 b:ふきは何て言ったの。 読書家レディ:『赤のしおりの場所に、俺を飛ばして、読書家レディ。』ってね。ちゃあんと、お願いしますも言える子だったよ。赤色のしおりは、ふきがbをひっかけた網を盗んだ夜にあったから赤をえらんだ。bタイプも、赤色のしおりに飛んでやりなおすといい。 b:何色があるの?まだ使っていない色もあるの? 読書家レディ:今は……赤、青。古いものだと黒にマゼンタ、ルビーなんてのもある。読書家レディは、他にも白とかピンクも持っているけど、まだ使っていない色だ。 b:いつか、使うのね。 読書家レディ:いつか、気が向いたらね。 b:レディ、ふきが生きているしおりは、赤色だけなの? 読書家レディ:青色の時点でも、まだ生きているよ。レイメイが、エレベーターに乗ったときのしおりだからね。青色に戻って、ふきを連れて逃避行なんてのも面白いわ! b:そう……ねえ、レディ。貴女なら、しおりからしおりに飛ばすなんて奇跡も起こせちゃうんじゃない? 読書家レディ:やったことはないけれど、面白そうな話だねえ。 b:『どうかお願いよ、読書家レディ。青色のしおりのふきを、白色のしおりにいる私の近くに飛ばして』。 読書家レディ:ふきの表情は固まっている。bは真剣だが、レイメイはなにかを察した。 レイメイ:……正直、青のしおりのふきがそのまま飛んでくるのか、記憶や知識だけ飛んでくるのか、何もわからなかった。今のふきの体は、僕の研究室でしていた研究の副産物だよ。 b:私は何十年、何百年待ってでも、白色のしおりを読書家レディが置くその時まで、生き続けようと思った。 ふき:本当に、本当に大変、だったんだあ……。 レイメイ:世界は変わってしまった。君から見れば、追い詰められてなりふり構わない今の僕たちは「おかしい」、「変わってしまった」と思うだろうね。 b:ふき。私とレイメイは、あなたをレディと同じ、「読書家」にしたはずなの。 ふき:えっ。俺人間じゃないの?ええ?……よくわかんない。 レイメイ:ふき、レディに話しかけられるまで、レディの声も聞こえないし、見えることもなかったよね? ふき:……たぶん?しおりを使う前に初めて会った。……なんで知ってるんだろ?あれ?レイメイとだってさっきはじめましてだったはず、あれ? レイメイ:本のページをまくるように、ぱっと時間を戻したり進めたりするみたいなんだけど。記憶や知識はそのままにしてるらしい。わざとなのか、できないのか。読書家レディから得られている情報は少なすぎる。死檻になってからは対話もする気がなさそうだ。 b:それでね、ふき。今の私たちは、死檻を見てしまった。知ってしまった。しかもふきは、2回しおりの間を行き来している。しおりとも、読書家レディとの共感性が強くなっ…。 ふき:ビイ。 b:なによ。大事な話なんだから聞いてよ。 ふき:俺、そろそろ2人の言ってることが難しくて分かんなくなってきちゃったんだよ。そもそも2人ほど頭良くないのに!! レイメイ:そんな気はしてたよ。そういう顔してたよ、ふき、途中から。 ふき:読書家になったって言われても、しおりの使い方とか分かんないよ。えいってなんか出たりしなそうだよ。いや、読書家になったってなに? b:だいぶ分かりやすく説明してるつもりなんだけど……。 レイメイ:ほら、工場階層とかまで地下になっちゃうと、学校という概念すら存在してなかったから……。bはそもそも機械、僕は例外的天才。頑張ったよ。うん。これ以上はふきの頭が沸騰しちゃうよ。 b:えーっと、ごはんを食べすぎてレディがでかくなって、私がレディのしっぽをちょんぎって、レイメイ3号がこねこねしてふきっぽい形にして……。 ふき:待って。今俺の中で、分からない話が分かりたくない話になろうとしてる気がする。 レイメイ:……休憩しようか。たいしたお菓子もお茶も出せないけれどね。 読書家レディ:靄のかかった視界の中、化け物が見える。少なくとも、この夢を見ているふきは、化け物だ、と思った。あまりにも遠い、未来になるかもしれない、いつかの記憶。積み重ねた知識の断片。 ふき:まったく、またひとつ古いしおりに飛ばせなくなった。もう駄目かもな。 レイメイ:そう、ですか。 ふき:はっ。白だのピンクだのに飛べなくなったと騒いでいた頃が懐かしいよ。天才だったレイメイが使えなくなり始めたのもそのあたりだったか? レイメイ:僕は、人間なんだからしょうがないじゃないですか。 ふき:人間?よく言うよ。もう電卓みたいなものじゃないか。 レイメイ:……電卓。そんなもの、ありましたね。 ふき:ビイが声を出してた頃が懐かしい。なあ、ビイ?俺はもう思い出せない。俺の狂った妄想だったんじゃないのか? レイメイ:……もう、諦めちゃいます?呼吸できる場所も、もはや残り4畳もないですし。 ふき:もっと早くそうするべきだったかもな。俺はビイを、ビイだけを、救えれば良かったはずなのに。なんで世界なんて救おうとしたんだろうな。 レイメイ:いっそ何も知らずに、人間なんか滅んでしまえばよかったのに。 ふき:……おまえが。おまえがそれを言うのか。 レイメイ:そうは思わないですか?何にも知らないって、幸せそうですよ。何も考えなくていいって、幸せなんじゃないです? ふき:そう、そうだよな。レイメイ。おまえはもう十何台も前の体の時に、メモリが破損したんだったな。 レイメイ:もう最後でいいんじゃないですか。「読書家ふき」まで死檻になったら、めんどくさいですよ。 ふき:おまえが、言うんだな。何も知らなかった俺にすべてを背負わせた、おまえが。 レイメイ:……なにか間違ったことを言いましたか? ふき:いや。そうだな。最後。いいかもな。せっかくなら、一番最初の赤色にでも挑戦してみるか? レイメイ:死んじゃいますよ?のうみそ蒸発ですかね。 ふき:俺が死檻2号になったら面倒なんだろ?蒸発、楽でいい。 レイメイ:それもそうですね。 ふき:赤だったら、おまえもオリジナルだったんじゃないか?戻れたとして、俺は全部忘れているかもな。「読書家ふき」が蒸発して消滅して、せめて「工場員ふき」だったころに戻ったら最高だ。 レイメイ:結局、ここに来ちゃうんじゃないですかね、それ。 ふき:おまえに言わせれば、幸せなんだろ。なんにも知らないってのはさ? レイメイ:……あっ、ふきじゃなくて、このレイメイ最終バージョンを送れたら一番いいですね。読書家のループ能力じゃなくて、技術の結晶だけでここまでやってきた成果を送れるわけですから。当時の物資のクオリティで再現したら最強でしょう。 ふき:オリジナルの天才でも、脳みそ爆発しないか? レイメイ:どうせ最後だし、やってみてもいいんじゃないですか。電卓の僕じゃ、このスペック活用できませんよ。 ふき:……いや、今の「読書家ふき」としても消えかけの俺じゃ無理だな。 レイメイ:無理ですか。仕方ないですね。 ふき:代わりに、ここにしおりを置くとか。 レイメイ:使い切ってませんでしたか、とっくの昔に。 ふき:色も記号も数字も使い切ってなくなった。だから、そのまんま、『黎明のしおり』、なんてどうだ? レイメイ:使えるんですかね、それ。 ふき:さあな。昔、死檻が死檻になる前、聞いたことあるんだよな。しおりから、しおりに飛ばすっつー、反則技をよ。 レイメイ:使えるといいですねえ、反則。 ふき:…………だな。 読書家レディ:目が覚めて、翌朝。間に合わせの研究室にて目を覚ますふき。 b:……おはよう、ふき。 レイメイ:ん?起きたんだ。よく寝てたねえ。 ふき:よくも俺を「読書家」にしたなレイメイ!!! レイメイ:起き抜けに元気なことで。 b:一度スリープ状態にしたら、更新でも入ったのかしら。 レイメイ:そんな古代のネット環境みたいなことある?彼はもう科学の手を離れた、オカルティック怪異だよ? ふき:「読書家」もしおりもな!!かなり!!アナログだから!!人間ひとりひとりに記憶と知識の設定しなおしとかやってられるかー!! b:更新じゃなくてアップデートが入ったのね。なんだか急に賢くなったわ。 レイメイ:ふき、一晩寝て、何か分かった……いや、むしろ共有された、のかな?教えてごらん? ふき:……たぶん、「読書家」のしおりの力を使って、何度も何度もやりなおした、最後の……夢を見たんだ。力の使い方も分かった。分かったけど……。 b:制限がある、かしら? ふき:制限、かな?夢の中で見た俺は、昔のしおりに飛べなくなったんだって。あとは……レイメイが使えなくなったとか、メモリがどう、とか?よくわかんない。 読書家レディ:ふきは見た記憶を、知識を共有する。 レイメイ:……なるほど。あの時飛んできたのは、そういう……。 b:なにか知っているのね? レイメイ:……とても、個人的なことさ。他に、しおりの話はしていなかったかな?読書家レディのこととか。 ふき:「読書家ふき」が消えそうで、死檻2号になりそう?で……しおりを使い切っちゃったんだって? b:それが本当なら「読書家」は、増やすべきじゃないわね。 レイメイ:死檻をバラバラに切るようなことも避けるべきだろうね。……大変なことになってきたな。だが情報が増えるのは大きな進歩だ。 b:ふきの知った情報が、「読書家ふき」の最後の、最低限のメッセージだとしたら、私たちが選ぶ行動はひとつよ。 ふき:俺にできそう? b:そこが一番の問題ね。 レイメイ:……最後のしおり、『黎明のしおり』にいるレイメイのパーツを、赤のしおりのレイメイに送るんだ。 b:この未来の私たちは消えてしまう。死ぬのか、無かったことになるのかは分からないわ。でも、もう一度はじめからやり直すしかない。小刻みに戻るんじゃなくて、戻れるだけ、私たちのはじまりに戻る。 ふき:赤のしおり。……変なの。俺にとっては、十年前であって、一日前のことでもあるみたいなのにな。 レイメイ:ふき。やってくれ。君ならできる。 b:まるで知っていることのように言うのね?力を使う責任も、あるかどうかも分からない負担も全部、ふきにかかってしまうのに。 レイメイ:確かに、そんな遠い未来から過去へ、しかも他人をどうこうするなんて、大変な代償を払うかもな。読書家レディの様子がおかしくなったのも、bとふきがしおりを使った後だったんだから。 b:それは……。 レイメイ:しおりからしおりへ他人を飛ばす。それは以前bが頼んだことだ。そして読書家レディは育ち、狂い、死檻になった。 b:私のせいだったとして、後悔なんかしない。私は、私の愛する人間さえ幸せならいいのよ。 レイメイ:悪いとは言わない、責める気もないよ。だが、確かなことは、読書家レディはそれを実現してみせたってことだ。 ふき:成功するかもしれない。レディは成功したことが、ある。 レイメイ:そう。もちろん失敗する可能性もあるけれど。成功したって、それがいい未来につながることかも怪しい。 読書家レディ:読書家レディはやってみせた。読書家レディはやってのけた。読書家レディは人間に勝利してみせた。 読書家レディ:誰にも見られない。誰にも聞かれない。永遠の孤独の中取るに足らないおばけでいるのは寂しいのよ。 読書家レディ:狂ってもいい。嫌われても、恨まれてもいい。読書家レディは見てほしかった。聞いてほしかった。先にあるのが滅びでもかまわない。……ああ、そうだ。「私」の始まりは。 読書家レディ:愛した小さな、かわいい人間たちに、気づいてほしかっただけなのだわ。 b:ふき。選ぶのはあなた。でも、私は、ふきが幸せになれない選択は絶対に許さない。どこまでも追いかけて、いつまでも待ち続けて、何度もやりなおしてでも、ふきを幸せにするんだから。だから……。 ふき:うん。ありがとう。こんなにビイがツライ思いをするのは、俺は幸せじゃないよ。 レイメイ:僕は……そうだね。提案するしかできないし、僕の幸せも目的も、ふきの幸せなんて関係ない。 b:レイメイ!! レイメイ:でも……うまいこと利用するといい。bの幸せは、僕の幸せだ。 ふき:……うん?あれ、んん?? b:ふき!あなたからかわれてるだけよ!しっかりして! レイメイ:ははは。ウケる。 ふき:俺も、未来の俺もなんか、そんな話してたなあ。幸せ、ムズカシイね。でも、俺も、ビイが幸せなら、いいなあ。 b:ふき? ふき:ああいや、自分を犠牲にすることはもうしないよ!? レイメイ:すぐに決めなくとも、保留だっていいかもね。数日、数時間くらい2人でこの時間を過ごしたっていいだろう。 b:いつ死檻に襲われるか分かんないんだから、それはダメ。 レイメイ:bが守ればいい。 b:そ、れは……そうだけど!!そうかもだけど!! ふき:決めるし、やってみるよ。自信はあんまりないけど。 レイメイ:……僕は、知っている。ふきは、できるよ。知ってるんだ。 b:……レイメイ? レイメイ:だから、今度は僕が頑張らないといけないね。 ふき:ねえ、ありがとう。レイメイ。俺、上層の人って、皆、もっと怖い人だと思ってたよ。 レイメイ:はは、僕もさ。 b:レイメイ。私、貴方の自己犠牲も望んだことないの。 読書家レディ:一瞬、レイメイの笑顔が固まる。しかしそれもすぐに繕われる。 レイメイ:それは……知らなかった。 b:私も、言い損ねたわ。 読書家レディ:ふきの肉体、輪郭が歪む。しおりを使うのだ。人間の身の程もわきまえず、より傲慢で高慢な、上位の理解しえぬものへとあり方を変える。それは、人が狂気と呼ぶ所業と同じであるもの。 ふき:レイメイ。レイメイにしようか。俺に提案をしてみて。どうやって、しおりを使ってほしいんだ? レイメイ:『黎明のしおりのレイメイのボディを、赤のしおりの、オリジナルのレイメイへ飛ばしてほしい。お願いだ。』 読書家レディ:「読書家ふき」の誕生だ。 ふき:物語は再び、赤のしおりから始まる。