台本概要
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タイトル | 物語の奏楽 第二話 『哀愁』 |
---|---|
作者名 | 明桜 リア (@ria_meiou) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 7人用台本(男1、女1、不問5) ※兼役あり |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
様々な世界は、沢山の物語で溢れている。 それは、生き物達、自然、多くの歴史が作り上げている物語。 しかし、誰も知らない事がある。 物語は最初から定められているのだ 逸脱して仕舞えば、ある人物が現れる。 この話は二つ目の曲。 *使用について* ・使用許可は要りません。 ・配信に使っていただいても構いませんん。もし使うよーって言ってくださったら、飛んで見に行きます。 ・商用利用の際は、一言お伝えください。 ・自作発言はお控えください。 ・改変、加工は可能です ・男性と書いておりますが、女性の方が演じていただいて大丈夫です。雰囲気があっていればオッケーです。 ※不協和音と族長は兼ね役です。 後は、とにかく楽しんで演じてください! 114 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
マエストロ | 不問 | 39 | 世界の中にある物語の指揮者。物語に愛されているもの。 |
協和音 | 不問 | 35 | マエストロの右手。マエストロを愛してやまない。使っている楽器はヴァイオリン。 |
コンダクター | 不問 | 22 | 指揮者がしていることを否定し続けている。マエストロの下くらいの指揮者。 |
不協和音 | 不問 | 16 | コンダクターの右手。機械的。使っている楽器は調律されてないオーボエ。※族長と兼ね役 |
カーマイン |
男 ![]() |
46 | エルフの女性に恋をした人間。人間にある王国の騎士団長。堅物。子どもも奥さんも愛している。 |
アカシア |
女 ![]() |
75 | 人間に対する不信感はあったが、カーマインにいつの間にか惚れてしまっていた。だが…。 |
族長 | 不問 | 5 | 1番の戦犯。あんな事をしなければ…。 1000歳以上なので、若くても可。お年寄りでも可。※不協和音と兼ね役 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
マエストロ:さてはて、次の世界はこちら!エルフと人間が共存している世界!
マエストロ:この世界は人間とエルフが共存している。しかしエルフは*閉鎖的《へいさてき》な民族であり、妖精と森で一緒に暮らしていた!人間は*極《ごく》わずかしか入れない。人間国の王のみかエルフが家族と選んだ者のみ!
マエストロ:それほどにエルフたちは人間を*忌《い》み嫌っていた。
マエストロ:しかし!そんな時に、女性のエルフと男性の人間がちょうど*境目《さかいめ》の場所で出会ってしまった!
マエストロ:二人は最初こそ、警戒し合っていた。特にエルフの女性は人間の事を嫌っていたからこそ。だが!そんな二人も、いつしか*惹《ひ》かれ合って恋に落ちていく!
マエストロ:愛を*育《はぐく》む二人に*愛子《いとしご》ができる。なんという素晴らしい事か!!生まれた子どもと一緒に境目である森の奥で、ひっそりと三人仲良く暮らしていた。それはそれは素敵な日々であったのだ!!
マエストロ:でも…そこで終わらないのが物語。
マエストロ:隠れて*育《はぐく》まれた愛はエルフの族長に見つかったことで、幸せな日常は壊れていってしまう!
マエストロ:エルフの族長は二人の間に生まれた子を認める事はなかった。*半人《はんじん》じゃなんて、許される事ではないと叫んだ!
マエストロ:二人の愛の結晶である子どもをエルフ達が、女性の夫ともども殺してしまった!
マエストロ:その時にエルフの女性は、悲しみのあまりにその場で自らの命をたってしまった!
マエストロ:これがこの世界の物語!しかし、ここもこの物語は変化しようとしている。ある者の恨みによって。
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マエストロ:それは…悲しい話だとしても、許されないのです…。
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カーマイン:しまった。王がエルフの王と話をしている間に、少し見渡そうと思って森の中に入ったら、かなり迷ってしまった。ここは一体どこなんだ?
カーマイン:…ん?何か聞こえてくるな。なんかだか…ここは、とても綺麗な空気が*漂《ただよ》っている。
カーマイン:光が、とても、素敵だ…。この先から、歌声が聞こえてくる。
アカシア:(好きな感じで歌って)『アーミアラーアータートゥウーラーアートゥウラー』
カーマイン:ここは、湖…?こんな所に湖があったとは。…ん?あそこにいるのは…。
アカシア:『ベーネーエーディッテーヅィアトゥッティーエアー』
カーマイン:エルフの、女性…?何と美しい声なんだ。
アカシア:あら、声を聴いて来てくれの?うふふ、嬉しい。
カーマイン:彼女の周りにたくさんの動物達が。すごいな。
アカシア:どうしたの?皆、同じ方向を向いて…。何かある、の…人間!?何でこんな所に!!
カーマイン:す、すまない!少し見回るつもりが、迷ってしまったんだ…。驚かすつもりはなかったんだ。
アカシア:人間なんて、信用できないわ。だって、族長が言っていらしたもの。人間は私たちを攻撃しようといつも*企《たくら》んでいるって。
カーマイン:そんな事はしない!我々はあなた方と交流も持ちたいだけなんだ!
アカシア:嘘に決まってるわ。だって、人間は*野蛮《やばん》な種族だと聞いてるわ。今だって、何も言わずに近づいてきたじゃない。
カーマイン:それは…君の声に見入ってしまって、気がついたら湖に来てしまってたんだ。そうしたら君がいて…。
アカシア:な、何を言っているのよ!私はこの子たちと一緒にいたくて、ここで歌っていたいただけなんだ。
カーマイン:聞こえてきた歌声があまりに綺麗だったんだ。そして、美しいエルフがいた。この事が私にとっては最高の出会いなんだ。
アカシア:ちょっと!意味わからないこと言わないで!
カーマイン:私は本当のことを言っている。まさか、こんなにも美しい方がいらっしゃるなんて思いもしなかったのだ。
アカシア:あなたって…変な人ね。
カーマイン:そ、そうだろうか…。
アカシア:ふふ、でも、嫌いじゃないわ。
カーマイン:嫌いじゃないか、嬉しい言葉だな。しまった、名乗り損ねてしまっていた。私はビリジアン王国、騎士団長カーマイン・セルトリア。もしよければ、貴女の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?
アカシア:え、えっと…。私は…アカシアっていうの。
カーマイン:アカシア…とてもいい名前だ。素敵な*響《ひび》きだな。
アカシア:…そんな、ことはないわ。あなたの名前も、かっこいいと、思うわ。
カーマイン:ありがとう。嬉しいよ。
アカシア:…ねぇ、お願いがあるんだけど…。
カーマイン:何だろうか。
アカシア:これからも、ここで会ってくれると…嬉しいんだけど…。
カーマイン:私は構わない。むしろありがたい。
アカシア:ありがとう…。カーマイン、さん…。
カーマイン:さん付けは要らない。カーマインと呼んでくれ。
アカシア:私の事も、アカシアって呼んでくれていいわ。
カーマイン:分かった。アカシア。これから、よろしく頼む。
アカシア:私こそ、よろしくね。
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コンダクター:ここでは、つけ込む要素はありそうだ。*恨《うら》みが*溜《た》まっていきそうだからな。
不協和音:ソノ通りダ。主。
コンダクター:私はこの世界ならば、あの者にも負けることはないだろう。ここには*怨念《おんねん》に*溢《あふ》れている。
不協和音:確カニ、そうだナ。楽シミダ。
コンダクター:さて、進めていこうか。
コンダクター:今度こそ、物語の*歪《ゆが》めていくように。
0:
アカシア:あ、今日も来てくれたのね。
カーマイン:アカシア。当たり前じゃないか。君と会える日なんだ、ちゃんと来るに決まっている。
アカシア:何でそんなに簡単に言えるのよ。恥ずかしいじゃない。
カーマイン:君にはストレートに伝えないといけないと思ったからな。
アカシア:うるさいわよ!
カーマイン:はは、そう怒るな。でも、怒っている君も可愛いな。
アカシア:もう!すぐにそういう事を言う!!
0:
マエストロ:うーん、何とも素晴らしい物語だ。美しい。
協和音:そうですね、マスター。
マエストロ:この物語が悲しくなってしまうのは、とても苦しんだが…。でも決められていることだ。*円滑《えんかつ》に進めないとね。
協和音:確かに、とても悲しい物語であります。…マスター、あまり気乗りは致しませんか?
マエストロ:そうだね…。いや、そんな事はないさ。ちゃんと物語を円滑に進めないとね。それが僕の役割だからね。
協和音:…そうですね。
マエストロ:さて、コンダクターくんが*不穏《ふおん》な動きをしているようだから、見ておかないとだね。今回も頼むよ。僕の大事な子。
協和音:お任せください。マスター。
0:
アカシア:ねぇ。カーマイン…。
カーマイン:どうした、アカシア。
アカシア:ここでずっと会い続けるのは無理だと思う。いつか族長にバレてしまうわ。そうしたら、会えなくなってしまう。
カーマイン:…そうだな。エルフの族長様は我々人間を信じてはいらっしゃらない…。
アカシア:そうなの…。だから見つからないような、もっと森の奥深いところで一緒に暮らさない?…お腹の中にいる、この子と一緒に。
カーマイン:あぁ、そうだな。見つからないように、森の奥、に…待ってくれ。いま、なんて…。
アカシア:ここにね、貴方との子どもがいるの。
カーマイン:そんな…。
アカシア:違う、違うんだ…!こんな幸せなことが、私に起こっていいのだろうか…!
アカシア:ふふ。貴方って意外に泣き虫なのね。いいに決まってるでしょ。私と貴方とこの子で一緒に幸せになりましょ?
カーマイン:あぁ、あぁ…!一緒に幸せになってくれ…!守るから、君たちを。絶対に守ると誓う…!!
アカシア:お願いね。お父さん。
カーマイン:あぁ、こちらこそ。頼む、お母さん。
カーマイン:実は…子ができたら、その、名前をと…考えていたんだ。
アカシア:ふふふ。あんなに泣いていたから、名前なんて考えてなかったのかと思ったわ。
カーマイン:言えなかったんだが…。できたら、付けたいと思っていた名前がある…。
アカシア:なんて名前なの?
カーマイン:クンシランとジニアだ。
アカシア:なんか…不思議な名前ね。
カーマイン:柄にもないが…花の名前からつけたんだ。
アカシア:花の名前?
カーマイン:あぁ、女性騎士から教えてもらったんだが…、この名前はとても*縁起《えんぎ》がいいらしいとな。内容は…、すまない。覚えてなくて。
アカシア:全く。そう言うところよ。
カーマイン:すまない…。でもいい名前だと思ってな。
アカシア:仕方ないんだから。それで?どっちが女の子か男の子なの?
カーマイン:クラシランは女の子、ジニアが男だ。
アカシア:ふふ、いい名前ね。ねー、いい名前をもらえそうね。大切な我が子。
0:
コンダクター:そろそろだな。『あの時』になれば、私が付け入る隙ができるだろう。
不協和音:アァ。コレでアノ者を出し抜けルダロウ。
コンダクター:あぁ、必ず奴を倒してくれる…!
不協和音:勿論ダ。必ズ、奴らヲ、協和音ヲ倒してミセル。
0:
カーマイン:可愛いな。こんなにも小さいからこそ、とても愛らしいのだな。
アカシア:もう、カーマインたら。すごい子煩悩*《こぼんのう》になってるんだから。クラシアンのこと、あんまり甘やかさないでね。
カーマイン:しかし、こんなにも可愛いんだぞ。
アカシア:だからって甘やかしてたら、*我儘《わがまま》な子になっちゃうじゃない。それは駄目よ。
カーマイン:そ、そうか…。気を引き締めよう。
アカシア:本当にお硬いんだから。
カーマイン:しかし…っ!アカシア!子どもを連れて逃げろ!
アカシア:どうしたの!?カーマイン。
カーマイン:(被せるように)エルフの人たちにバレた!このままでは、子どもや君にまで危険が及んでしまう!だから逃げてくれ!!
アカシア:なんできたとわかって…。
カーマイン:足音と窓から見えた姿だ。さぁ、早く行くんだ!
アカシア:でも、貴方はどうするの!?
カーマイン:抑えれたら、必ず追いつく。急げ!!
アカシア:っ無事に来てね!!
カーマイン:もちろんだ。待っててくれ。
族長:気がつかれた。早く捕まえろ!!
カーマイン:早く!俺が食い止めている間に!
アカシア:分かった…!!はぁ、はぁ…!ごめんね、怖いよね。でも、パパは強いから、きっと、大丈夫よ…。…え、あ…そんな、なぜ…。何で…貴方たちが、ここに…。待って、待ってよ!彼は、カーマインはどうしたの!?
0:
0:アカシアの前に血まみれのカーマインが倒れ込む。
0:
アカシア:嘘…嘘よ!待って、死なないで!貴方が死んだら、この子と私はどうしたらいいの!?
アカシア:…何で…何で!こんな事をできるのですか!ただ、森の奥深くで一緒に暮らしていただけではないですか!なぜ、それを許してくださらないのですか!!
族長:人間など、*野蛮《やばん》でしかない。そんな*下賤《げせん》な者たちとの子など、許されるわけない。この者との子も殺さねばならない。
アカシア:待って、待ってください!お願いします…!
族長:連れていけ。
アカシア:ちょっと、触らないで!やめて、お願い、お願いします!!その子、私たちの子どもは!!
族長:許せ。しきたりだ。殺せ。
アカシア:いやーー!!
族長:さぁ。帰るぞ。
アカシア:…こんな事をされるのなら…私も、私も死なせていただくわ。もう、この世に*未練《みれん》はない。でも、最後に族長、貴方を道連れに…!
マエストロ:そこまで!!
0:
0:場面転換
0:
アカシア:な、何…この白い世界は…。
マエストロ:ここは私が*創《つく》り出した世界!君が起こそうとした事を、止めるために創り出したんだよ。
アカシア:な、何を言って…。それに、貴方は誰!?
マエストロ:おっとぉ、すまないね。私としたことが名乗り損ねていた!名前はマエストロ。物語を指揮するもの。そして、物語を*逸脱《いつだつ》しようとした者を、元に戻すために存在するのです。
アカシア:指揮…、物語…?何を、言って…。
マエストロ:いいかい?全ての世界には決まっている物語、つまりは歴史がある。この世界にもある。それを逸脱することは許されない。
アカシア:何を言ってるの…?今起こったのが、歴史だっていうの!?こんな、こんな事が決められたことなんて!!それなら…こんな歴史なんて、壊れちゃえばいいのよ!
マエストロ:それで本当にいいのかい?もしかしたら、それで君と同じように悲しむ人が現れたとしても?
アカシア:…え?
コンダクター:何も聞くな。言っただろう、お前の人生はお前で決めていいと。決められた人生を生きなくてもいい。
アカシア:コンダクター!歴史って何!?決められてるなんて事、聞いてないわ!私が*己《おのれ》の人生を決めていいって…!
コンダクター:その通りだ。己で決めていい。決められた人生などに意味はないだろう?それに、自分の大切な者たちを取り戻せるかもしれないんだぞ。
不協和音:主ノ言う通りダ。お前ノ好きニするガイイ。取り戻せルのだゾ。
アカシア:私の、大切な人たちを…。
マエストロ:すまないね。それをする事は絶対に許されることではない。
アカシア:何で!?どうして、愛する人たちを取り戻せるのが、悪いことなの!?
マエストロ:それはね。この世界の崩壊を招くことと、君のような人たちが増えてしまうからだよ。
アカシア:どう言うこと…?
コンダクター:聞く必要は…
マエストロ:(強めに遮って)コンダクター。悪いけど、黙っててもらおう。おいで、私の大事な子。協和音。
協和音:イエス、マスター。コンダクター様、黙っていただきましょう。邪魔は許されません。
コンダクター:また貴様か。不協和音。
不協和音:協和音、主ノ邪魔は許さナイ。今度コソ、消えてもラウゾ。ふんっ!
協和音:くっ!蹴ってくるとは、*野蛮《やばん》ですね。さすがは物語を*紡《つむ》ぐ邪魔をする者。
不協和音:黙ってイロ。
協和音:それは貴方です。
不協和音:来い、『オーボエ』。
協和音:現れなさい、『ヴァイオリン』。
不協和音:(同時に)奏でヨウ、この世界を。
協和音:(同時に)奏でよう、この世界を。
0:
アカシア:ちょ、な、何なの!?この音!!綺麗な音と不安定な音が混じってる…!
マエストロ:これは攻撃をしあっているんだよ。綺麗な音色と不安定な音色でね。ほら、音符が見えるかい?ぶつかり合っているだろう。あれが攻撃しあっていると言うことなんだ。
アカシア:そんな事が…。でもなんで、そんな事をしなくちゃいけないの…?
マエストロ:それは…
コンダクター:(強く遮って)聞く必要はない!いいか。お前の*本懐《ほんかい》を成し*遂《なしと》げたければ、私の言う事を聞いておけ。そうしたら、愛する者たちとの再会が叶うのだぞ。もっと違う場所で、笑い合って暮らせる。
アカシア:そう、私はそれを望んでる。たったそれだけなのよ!なのに叶わない…。こんな理不尽、ないわ…。
マエストロ:その気持ち、察しよう。私も同じような経験をしたからね。
アカシア:じゃあ…!
マエストロ:でもね。それで*歪《ゆが》めようとした結果、何が起こったと思うかな?
アカシア:…何が、起こったの。
マエストロ:私のいた世界は*崩壊《ほうかい》して、大事な人たちも消えてしまった。なぜなら、たった一つ、このちいさな『たった一つ』の事が次々と歴史を壊していってしまったから。
アカシア:そんな、そんなわけないわ!小さい事でしょ…?なのにどうして…。
マエストロ:すまないね!これ以上は語れないんだよねー!まぁ、何が言いたいかって言うと。君の大切にしていた人たちも消えてしまう可能性があるんだよねぇ。それでも構わないなら、この歴史を変えてしまうといい!
アカシア:だって、私は…あの子とあの人と一緒に、ただ一緒にひっそりと暮らしていけたらいいと思っただけなのに…。
コンダクター:それでいい!気にする必要などない!気にする必要などないのだ!お前の思った道を進んだらいいだけだ。人生を選ぶ権利がある!
アカシア:…そうだ。決められたことなんてないわ!絶対に取り戻してみせるわ!
コンダクター:わかったなら、定められている道とは違うところを歩め。
アカシア:えぇ、してみせるわ!
マエストロ:はぁ…。悲しいね。僕の言葉が伝わらないなんて…。じゃあ、見てもらうしかない。大丈夫かい?協和音。
協和音:は、はい…。今回は手こずりましたが、何とか…。
コンダクター:不協和音!
不協和音:すまなイ、主。傷を負わせタガ、倒すマデハ至らなカッタ…。
コンダクター:くそ!
マエストロ:傷があるのは重々承知なんだが、頼まれてくれるかな。僕の大事な子、協和音。
協和音:もちろんです。マスター。
不協和音:させンゾ!鳴れ!オーボエ!!
協和音:その程度では…。
不協和音:(遮って)『フォルティッシッモ』!耳ガ壊れルがイイ!!
マエストロ:そんな『非常に強い音』を出させないよ。『五線譜』。
不協和音:五線譜が絡んデ…!邪魔をスルナ!!貴様のセイで主ガ迷惑してイルのダゾ…!このママでいサセてオク訳には!!
マエストロ:これで頼めるかな?
協和音:ありがとうございます、マスター。貴方はそこで大人しくしていてください。『貴方の想いを届けにきたれませ。*con・anima《コン・アニマ》』
マエストロ:視えるかな?君の大切な人たちが。
アカシア:あ…あぁ…!カーマイン、クラシアン…!!私の愛しい人たち…!!どうして…。
マエストロ:『con・anima*《コン・アニマ》』はね、魂を込めてって意味があるんだよ。その想いを込めた音楽で、ここに呼び出させてもらったんだ。君に伝えたい事があるようだったからね。
アカシア:そうなのね…。ねぇ、貴方たち。私たち、一緒にいたいわよね…?ずっと一緒に…。
カーマイン:『違うんだ。アカシア。』
アカシア:何言って…。
カーマイン:『私は君に幸せになってほしい。しかし、それがダメならば、こちらに来て一緒にいよう。ずっと、私たちがいるところに来て、共にずっと*在《あ》り続けよう。』
アカシア:カーマイン…。
カーマイン:『私は騎士だ。他の人々を*犠牲《ぎせい》にしてまで、アカシアが不幸になる人を増やしてほしくない。だから、頼む。一緒にこちらに来てくれ。歴史をそのままにしよう。そして、こっちで共に暮らそう。』
アカシア:…貴方が、そう言うのであれば…。一緒にいられるのね、なら…私もそっちに、行くわ…。
コンダクター:待て!お前は、お前たちはそれでいいのか!幸せになれる方法があるだろう!
アカシア:えぇ…あの人が…大切な人たちがいるのなら、私はそちらの世界に行きたい…。
コンダクター:くっ!ならば、不協和音!この女を消してしまえ!
不協和音:ウグッ…リョ、了解しタ、主。貴様ヲ消えてモラオウ。
マエストロ:おっと、仕方ない子達だね…。協和音、頼んだよぉ。
協和音:お任せください。マスターの邪魔はさせません。
不協和音:協和音、邪魔をスルなぁ!!
マエストロ:さて、コンダクター君。君に邪魔はさせないし、これ以上のこともさせるわけない。諦めてくれるかな?
コンダクター:く!貴様…!何度も何度も!!許されないぞ!!
マエストロ:許されているんだよ。だから今、僕はここにいる。違うかい?
コンダクター:貴様!!
マエストロ:でも見てくれないかな?あの嬉しそうな家族の姿を。あれが本来の姿なんだよ。
コンダクター:…。
マエストロ:例え悲しい物語であったとしても、幸せはあるんだよ。これが大事なことなんだよ。覚えていておいてほしいな。
コンダクター:覚える事は一生ない。貴様のやっていることを許すつもりはない。
マエストロ:まぁ、いいよ。これから教えていってあげるさ。
コンダクター:要らん。不協和音、もういい。帰るぞ。
不協和音:ぅ…わ、分カッタ。協和音、今度は私が勝ツと思エ。イイナ。
協和音:貴方に負けるなどありえません。さっさと消えなさい。
コンダクター:ゲート。
0:
0:二人はゲートの中へ消えていく
0:
マエストロ:さて、と。君たちは、一緒に*逝《い》くかい?
カーマイン:『そうする。』
アカシア:えぇ。愛する人たちと一緒にいるわ。『共に*逝《い》ける』。この事はすごい事だわ。マエストロさん。教えてくれて、ありがとう。
マエストロ:構わないよ。さて、一緒に逝くといい!また次も一緒に生まれて幸せになれるように!
マエストロ:奏でよう!君たちの音楽を!おいで、*指揮棒《タクト》。
マエストロ:『*奏楽《そうがく》、felicità*《フェリチータ》』
アカシア:あぁ…綺麗…。
協和音:『奏楽』は音楽を奏でること。そして、『felicità*《フェリチータ》』は幸福と幸運という意味を持ちます。これからのあなた方の幸せを願って、この曲を使っていらっしゃいます。
協和音:これがあなた方の物語であり、*旋律《せんりつ》なのです。
マエストロ:さ、幸せになっておいで。
アカシア:えぇ、そうなりたいわ。
カーマイン:『あぁ、そうだな…。』
0:
0:三人が消えていく。
0:
協和音:…*逝《い》かれましたね。
マエストロ:そうだねぇ。
協和音:…マエストロ。これでよろしかったのですか?
マエストロ:ん?何がだい?
協和音:いえ…こちらの話です。
マエストロ:そうかい?ならいいよ!!さて、次も指揮していこうか。
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マエストロ:物語を、*円滑《えんかつ》に進めるために。
マエストロ:さてはて、次の世界はこちら!エルフと人間が共存している世界!
マエストロ:この世界は人間とエルフが共存している。しかしエルフは*閉鎖的《へいさてき》な民族であり、妖精と森で一緒に暮らしていた!人間は*極《ごく》わずかしか入れない。人間国の王のみかエルフが家族と選んだ者のみ!
マエストロ:それほどにエルフたちは人間を*忌《い》み嫌っていた。
マエストロ:しかし!そんな時に、女性のエルフと男性の人間がちょうど*境目《さかいめ》の場所で出会ってしまった!
マエストロ:二人は最初こそ、警戒し合っていた。特にエルフの女性は人間の事を嫌っていたからこそ。だが!そんな二人も、いつしか*惹《ひ》かれ合って恋に落ちていく!
マエストロ:愛を*育《はぐく》む二人に*愛子《いとしご》ができる。なんという素晴らしい事か!!生まれた子どもと一緒に境目である森の奥で、ひっそりと三人仲良く暮らしていた。それはそれは素敵な日々であったのだ!!
マエストロ:でも…そこで終わらないのが物語。
マエストロ:隠れて*育《はぐく》まれた愛はエルフの族長に見つかったことで、幸せな日常は壊れていってしまう!
マエストロ:エルフの族長は二人の間に生まれた子を認める事はなかった。*半人《はんじん》じゃなんて、許される事ではないと叫んだ!
マエストロ:二人の愛の結晶である子どもをエルフ達が、女性の夫ともども殺してしまった!
マエストロ:その時にエルフの女性は、悲しみのあまりにその場で自らの命をたってしまった!
マエストロ:これがこの世界の物語!しかし、ここもこの物語は変化しようとしている。ある者の恨みによって。
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マエストロ:それは…悲しい話だとしても、許されないのです…。
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カーマイン:しまった。王がエルフの王と話をしている間に、少し見渡そうと思って森の中に入ったら、かなり迷ってしまった。ここは一体どこなんだ?
カーマイン:…ん?何か聞こえてくるな。なんかだか…ここは、とても綺麗な空気が*漂《ただよ》っている。
カーマイン:光が、とても、素敵だ…。この先から、歌声が聞こえてくる。
アカシア:(好きな感じで歌って)『アーミアラーアータートゥウーラーアートゥウラー』
カーマイン:ここは、湖…?こんな所に湖があったとは。…ん?あそこにいるのは…。
アカシア:『ベーネーエーディッテーヅィアトゥッティーエアー』
カーマイン:エルフの、女性…?何と美しい声なんだ。
アカシア:あら、声を聴いて来てくれの?うふふ、嬉しい。
カーマイン:彼女の周りにたくさんの動物達が。すごいな。
アカシア:どうしたの?皆、同じ方向を向いて…。何かある、の…人間!?何でこんな所に!!
カーマイン:す、すまない!少し見回るつもりが、迷ってしまったんだ…。驚かすつもりはなかったんだ。
アカシア:人間なんて、信用できないわ。だって、族長が言っていらしたもの。人間は私たちを攻撃しようといつも*企《たくら》んでいるって。
カーマイン:そんな事はしない!我々はあなた方と交流も持ちたいだけなんだ!
アカシア:嘘に決まってるわ。だって、人間は*野蛮《やばん》な種族だと聞いてるわ。今だって、何も言わずに近づいてきたじゃない。
カーマイン:それは…君の声に見入ってしまって、気がついたら湖に来てしまってたんだ。そうしたら君がいて…。
アカシア:な、何を言っているのよ!私はこの子たちと一緒にいたくて、ここで歌っていたいただけなんだ。
カーマイン:聞こえてきた歌声があまりに綺麗だったんだ。そして、美しいエルフがいた。この事が私にとっては最高の出会いなんだ。
アカシア:ちょっと!意味わからないこと言わないで!
カーマイン:私は本当のことを言っている。まさか、こんなにも美しい方がいらっしゃるなんて思いもしなかったのだ。
アカシア:あなたって…変な人ね。
カーマイン:そ、そうだろうか…。
アカシア:ふふ、でも、嫌いじゃないわ。
カーマイン:嫌いじゃないか、嬉しい言葉だな。しまった、名乗り損ねてしまっていた。私はビリジアン王国、騎士団長カーマイン・セルトリア。もしよければ、貴女の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?
アカシア:え、えっと…。私は…アカシアっていうの。
カーマイン:アカシア…とてもいい名前だ。素敵な*響《ひび》きだな。
アカシア:…そんな、ことはないわ。あなたの名前も、かっこいいと、思うわ。
カーマイン:ありがとう。嬉しいよ。
アカシア:…ねぇ、お願いがあるんだけど…。
カーマイン:何だろうか。
アカシア:これからも、ここで会ってくれると…嬉しいんだけど…。
カーマイン:私は構わない。むしろありがたい。
アカシア:ありがとう…。カーマイン、さん…。
カーマイン:さん付けは要らない。カーマインと呼んでくれ。
アカシア:私の事も、アカシアって呼んでくれていいわ。
カーマイン:分かった。アカシア。これから、よろしく頼む。
アカシア:私こそ、よろしくね。
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コンダクター:ここでは、つけ込む要素はありそうだ。*恨《うら》みが*溜《た》まっていきそうだからな。
不協和音:ソノ通りダ。主。
コンダクター:私はこの世界ならば、あの者にも負けることはないだろう。ここには*怨念《おんねん》に*溢《あふ》れている。
不協和音:確カニ、そうだナ。楽シミダ。
コンダクター:さて、進めていこうか。
コンダクター:今度こそ、物語の*歪《ゆが》めていくように。
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アカシア:あ、今日も来てくれたのね。
カーマイン:アカシア。当たり前じゃないか。君と会える日なんだ、ちゃんと来るに決まっている。
アカシア:何でそんなに簡単に言えるのよ。恥ずかしいじゃない。
カーマイン:君にはストレートに伝えないといけないと思ったからな。
アカシア:うるさいわよ!
カーマイン:はは、そう怒るな。でも、怒っている君も可愛いな。
アカシア:もう!すぐにそういう事を言う!!
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マエストロ:うーん、何とも素晴らしい物語だ。美しい。
協和音:そうですね、マスター。
マエストロ:この物語が悲しくなってしまうのは、とても苦しんだが…。でも決められていることだ。*円滑《えんかつ》に進めないとね。
協和音:確かに、とても悲しい物語であります。…マスター、あまり気乗りは致しませんか?
マエストロ:そうだね…。いや、そんな事はないさ。ちゃんと物語を円滑に進めないとね。それが僕の役割だからね。
協和音:…そうですね。
マエストロ:さて、コンダクターくんが*不穏《ふおん》な動きをしているようだから、見ておかないとだね。今回も頼むよ。僕の大事な子。
協和音:お任せください。マスター。
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アカシア:ねぇ。カーマイン…。
カーマイン:どうした、アカシア。
アカシア:ここでずっと会い続けるのは無理だと思う。いつか族長にバレてしまうわ。そうしたら、会えなくなってしまう。
カーマイン:…そうだな。エルフの族長様は我々人間を信じてはいらっしゃらない…。
アカシア:そうなの…。だから見つからないような、もっと森の奥深いところで一緒に暮らさない?…お腹の中にいる、この子と一緒に。
カーマイン:あぁ、そうだな。見つからないように、森の奥、に…待ってくれ。いま、なんて…。
アカシア:ここにね、貴方との子どもがいるの。
カーマイン:そんな…。
アカシア:違う、違うんだ…!こんな幸せなことが、私に起こっていいのだろうか…!
アカシア:ふふ。貴方って意外に泣き虫なのね。いいに決まってるでしょ。私と貴方とこの子で一緒に幸せになりましょ?
カーマイン:あぁ、あぁ…!一緒に幸せになってくれ…!守るから、君たちを。絶対に守ると誓う…!!
アカシア:お願いね。お父さん。
カーマイン:あぁ、こちらこそ。頼む、お母さん。
カーマイン:実は…子ができたら、その、名前をと…考えていたんだ。
アカシア:ふふふ。あんなに泣いていたから、名前なんて考えてなかったのかと思ったわ。
カーマイン:言えなかったんだが…。できたら、付けたいと思っていた名前がある…。
アカシア:なんて名前なの?
カーマイン:クンシランとジニアだ。
アカシア:なんか…不思議な名前ね。
カーマイン:柄にもないが…花の名前からつけたんだ。
アカシア:花の名前?
カーマイン:あぁ、女性騎士から教えてもらったんだが…、この名前はとても*縁起《えんぎ》がいいらしいとな。内容は…、すまない。覚えてなくて。
アカシア:全く。そう言うところよ。
カーマイン:すまない…。でもいい名前だと思ってな。
アカシア:仕方ないんだから。それで?どっちが女の子か男の子なの?
カーマイン:クラシランは女の子、ジニアが男だ。
アカシア:ふふ、いい名前ね。ねー、いい名前をもらえそうね。大切な我が子。
0:
コンダクター:そろそろだな。『あの時』になれば、私が付け入る隙ができるだろう。
不協和音:アァ。コレでアノ者を出し抜けルダロウ。
コンダクター:あぁ、必ず奴を倒してくれる…!
不協和音:勿論ダ。必ズ、奴らヲ、協和音ヲ倒してミセル。
0:
カーマイン:可愛いな。こんなにも小さいからこそ、とても愛らしいのだな。
アカシア:もう、カーマインたら。すごい子煩悩*《こぼんのう》になってるんだから。クラシアンのこと、あんまり甘やかさないでね。
カーマイン:しかし、こんなにも可愛いんだぞ。
アカシア:だからって甘やかしてたら、*我儘《わがまま》な子になっちゃうじゃない。それは駄目よ。
カーマイン:そ、そうか…。気を引き締めよう。
アカシア:本当にお硬いんだから。
カーマイン:しかし…っ!アカシア!子どもを連れて逃げろ!
アカシア:どうしたの!?カーマイン。
カーマイン:(被せるように)エルフの人たちにバレた!このままでは、子どもや君にまで危険が及んでしまう!だから逃げてくれ!!
アカシア:なんできたとわかって…。
カーマイン:足音と窓から見えた姿だ。さぁ、早く行くんだ!
アカシア:でも、貴方はどうするの!?
カーマイン:抑えれたら、必ず追いつく。急げ!!
アカシア:っ無事に来てね!!
カーマイン:もちろんだ。待っててくれ。
族長:気がつかれた。早く捕まえろ!!
カーマイン:早く!俺が食い止めている間に!
アカシア:分かった…!!はぁ、はぁ…!ごめんね、怖いよね。でも、パパは強いから、きっと、大丈夫よ…。…え、あ…そんな、なぜ…。何で…貴方たちが、ここに…。待って、待ってよ!彼は、カーマインはどうしたの!?
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0:アカシアの前に血まみれのカーマインが倒れ込む。
0:
アカシア:嘘…嘘よ!待って、死なないで!貴方が死んだら、この子と私はどうしたらいいの!?
アカシア:…何で…何で!こんな事をできるのですか!ただ、森の奥深くで一緒に暮らしていただけではないですか!なぜ、それを許してくださらないのですか!!
族長:人間など、*野蛮《やばん》でしかない。そんな*下賤《げせん》な者たちとの子など、許されるわけない。この者との子も殺さねばならない。
アカシア:待って、待ってください!お願いします…!
族長:連れていけ。
アカシア:ちょっと、触らないで!やめて、お願い、お願いします!!その子、私たちの子どもは!!
族長:許せ。しきたりだ。殺せ。
アカシア:いやーー!!
族長:さぁ。帰るぞ。
アカシア:…こんな事をされるのなら…私も、私も死なせていただくわ。もう、この世に*未練《みれん》はない。でも、最後に族長、貴方を道連れに…!
マエストロ:そこまで!!
0:
0:場面転換
0:
アカシア:な、何…この白い世界は…。
マエストロ:ここは私が*創《つく》り出した世界!君が起こそうとした事を、止めるために創り出したんだよ。
アカシア:な、何を言って…。それに、貴方は誰!?
マエストロ:おっとぉ、すまないね。私としたことが名乗り損ねていた!名前はマエストロ。物語を指揮するもの。そして、物語を*逸脱《いつだつ》しようとした者を、元に戻すために存在するのです。
アカシア:指揮…、物語…?何を、言って…。
マエストロ:いいかい?全ての世界には決まっている物語、つまりは歴史がある。この世界にもある。それを逸脱することは許されない。
アカシア:何を言ってるの…?今起こったのが、歴史だっていうの!?こんな、こんな事が決められたことなんて!!それなら…こんな歴史なんて、壊れちゃえばいいのよ!
マエストロ:それで本当にいいのかい?もしかしたら、それで君と同じように悲しむ人が現れたとしても?
アカシア:…え?
コンダクター:何も聞くな。言っただろう、お前の人生はお前で決めていいと。決められた人生を生きなくてもいい。
アカシア:コンダクター!歴史って何!?決められてるなんて事、聞いてないわ!私が*己《おのれ》の人生を決めていいって…!
コンダクター:その通りだ。己で決めていい。決められた人生などに意味はないだろう?それに、自分の大切な者たちを取り戻せるかもしれないんだぞ。
不協和音:主ノ言う通りダ。お前ノ好きニするガイイ。取り戻せルのだゾ。
アカシア:私の、大切な人たちを…。
マエストロ:すまないね。それをする事は絶対に許されることではない。
アカシア:何で!?どうして、愛する人たちを取り戻せるのが、悪いことなの!?
マエストロ:それはね。この世界の崩壊を招くことと、君のような人たちが増えてしまうからだよ。
アカシア:どう言うこと…?
コンダクター:聞く必要は…
マエストロ:(強めに遮って)コンダクター。悪いけど、黙っててもらおう。おいで、私の大事な子。協和音。
協和音:イエス、マスター。コンダクター様、黙っていただきましょう。邪魔は許されません。
コンダクター:また貴様か。不協和音。
不協和音:協和音、主ノ邪魔は許さナイ。今度コソ、消えてもラウゾ。ふんっ!
協和音:くっ!蹴ってくるとは、*野蛮《やばん》ですね。さすがは物語を*紡《つむ》ぐ邪魔をする者。
不協和音:黙ってイロ。
協和音:それは貴方です。
不協和音:来い、『オーボエ』。
協和音:現れなさい、『ヴァイオリン』。
不協和音:(同時に)奏でヨウ、この世界を。
協和音:(同時に)奏でよう、この世界を。
0:
アカシア:ちょ、な、何なの!?この音!!綺麗な音と不安定な音が混じってる…!
マエストロ:これは攻撃をしあっているんだよ。綺麗な音色と不安定な音色でね。ほら、音符が見えるかい?ぶつかり合っているだろう。あれが攻撃しあっていると言うことなんだ。
アカシア:そんな事が…。でもなんで、そんな事をしなくちゃいけないの…?
マエストロ:それは…
コンダクター:(強く遮って)聞く必要はない!いいか。お前の*本懐《ほんかい》を成し*遂《なしと》げたければ、私の言う事を聞いておけ。そうしたら、愛する者たちとの再会が叶うのだぞ。もっと違う場所で、笑い合って暮らせる。
アカシア:そう、私はそれを望んでる。たったそれだけなのよ!なのに叶わない…。こんな理不尽、ないわ…。
マエストロ:その気持ち、察しよう。私も同じような経験をしたからね。
アカシア:じゃあ…!
マエストロ:でもね。それで*歪《ゆが》めようとした結果、何が起こったと思うかな?
アカシア:…何が、起こったの。
マエストロ:私のいた世界は*崩壊《ほうかい》して、大事な人たちも消えてしまった。なぜなら、たった一つ、このちいさな『たった一つ』の事が次々と歴史を壊していってしまったから。
アカシア:そんな、そんなわけないわ!小さい事でしょ…?なのにどうして…。
マエストロ:すまないね!これ以上は語れないんだよねー!まぁ、何が言いたいかって言うと。君の大切にしていた人たちも消えてしまう可能性があるんだよねぇ。それでも構わないなら、この歴史を変えてしまうといい!
アカシア:だって、私は…あの子とあの人と一緒に、ただ一緒にひっそりと暮らしていけたらいいと思っただけなのに…。
コンダクター:それでいい!気にする必要などない!気にする必要などないのだ!お前の思った道を進んだらいいだけだ。人生を選ぶ権利がある!
アカシア:…そうだ。決められたことなんてないわ!絶対に取り戻してみせるわ!
コンダクター:わかったなら、定められている道とは違うところを歩め。
アカシア:えぇ、してみせるわ!
マエストロ:はぁ…。悲しいね。僕の言葉が伝わらないなんて…。じゃあ、見てもらうしかない。大丈夫かい?協和音。
協和音:は、はい…。今回は手こずりましたが、何とか…。
コンダクター:不協和音!
不協和音:すまなイ、主。傷を負わせタガ、倒すマデハ至らなカッタ…。
コンダクター:くそ!
マエストロ:傷があるのは重々承知なんだが、頼まれてくれるかな。僕の大事な子、協和音。
協和音:もちろんです。マスター。
不協和音:させンゾ!鳴れ!オーボエ!!
協和音:その程度では…。
不協和音:(遮って)『フォルティッシッモ』!耳ガ壊れルがイイ!!
マエストロ:そんな『非常に強い音』を出させないよ。『五線譜』。
不協和音:五線譜が絡んデ…!邪魔をスルナ!!貴様のセイで主ガ迷惑してイルのダゾ…!このママでいサセてオク訳には!!
マエストロ:これで頼めるかな?
協和音:ありがとうございます、マスター。貴方はそこで大人しくしていてください。『貴方の想いを届けにきたれませ。*con・anima《コン・アニマ》』
マエストロ:視えるかな?君の大切な人たちが。
アカシア:あ…あぁ…!カーマイン、クラシアン…!!私の愛しい人たち…!!どうして…。
マエストロ:『con・anima*《コン・アニマ》』はね、魂を込めてって意味があるんだよ。その想いを込めた音楽で、ここに呼び出させてもらったんだ。君に伝えたい事があるようだったからね。
アカシア:そうなのね…。ねぇ、貴方たち。私たち、一緒にいたいわよね…?ずっと一緒に…。
カーマイン:『違うんだ。アカシア。』
アカシア:何言って…。
カーマイン:『私は君に幸せになってほしい。しかし、それがダメならば、こちらに来て一緒にいよう。ずっと、私たちがいるところに来て、共にずっと*在《あ》り続けよう。』
アカシア:カーマイン…。
カーマイン:『私は騎士だ。他の人々を*犠牲《ぎせい》にしてまで、アカシアが不幸になる人を増やしてほしくない。だから、頼む。一緒にこちらに来てくれ。歴史をそのままにしよう。そして、こっちで共に暮らそう。』
アカシア:…貴方が、そう言うのであれば…。一緒にいられるのね、なら…私もそっちに、行くわ…。
コンダクター:待て!お前は、お前たちはそれでいいのか!幸せになれる方法があるだろう!
アカシア:えぇ…あの人が…大切な人たちがいるのなら、私はそちらの世界に行きたい…。
コンダクター:くっ!ならば、不協和音!この女を消してしまえ!
不協和音:ウグッ…リョ、了解しタ、主。貴様ヲ消えてモラオウ。
マエストロ:おっと、仕方ない子達だね…。協和音、頼んだよぉ。
協和音:お任せください。マスターの邪魔はさせません。
不協和音:協和音、邪魔をスルなぁ!!
マエストロ:さて、コンダクター君。君に邪魔はさせないし、これ以上のこともさせるわけない。諦めてくれるかな?
コンダクター:く!貴様…!何度も何度も!!許されないぞ!!
マエストロ:許されているんだよ。だから今、僕はここにいる。違うかい?
コンダクター:貴様!!
マエストロ:でも見てくれないかな?あの嬉しそうな家族の姿を。あれが本来の姿なんだよ。
コンダクター:…。
マエストロ:例え悲しい物語であったとしても、幸せはあるんだよ。これが大事なことなんだよ。覚えていておいてほしいな。
コンダクター:覚える事は一生ない。貴様のやっていることを許すつもりはない。
マエストロ:まぁ、いいよ。これから教えていってあげるさ。
コンダクター:要らん。不協和音、もういい。帰るぞ。
不協和音:ぅ…わ、分カッタ。協和音、今度は私が勝ツと思エ。イイナ。
協和音:貴方に負けるなどありえません。さっさと消えなさい。
コンダクター:ゲート。
0:
0:二人はゲートの中へ消えていく
0:
マエストロ:さて、と。君たちは、一緒に*逝《い》くかい?
カーマイン:『そうする。』
アカシア:えぇ。愛する人たちと一緒にいるわ。『共に*逝《い》ける』。この事はすごい事だわ。マエストロさん。教えてくれて、ありがとう。
マエストロ:構わないよ。さて、一緒に逝くといい!また次も一緒に生まれて幸せになれるように!
マエストロ:奏でよう!君たちの音楽を!おいで、*指揮棒《タクト》。
マエストロ:『*奏楽《そうがく》、felicità*《フェリチータ》』
アカシア:あぁ…綺麗…。
協和音:『奏楽』は音楽を奏でること。そして、『felicità*《フェリチータ》』は幸福と幸運という意味を持ちます。これからのあなた方の幸せを願って、この曲を使っていらっしゃいます。
協和音:これがあなた方の物語であり、*旋律《せんりつ》なのです。
マエストロ:さ、幸せになっておいで。
アカシア:えぇ、そうなりたいわ。
カーマイン:『あぁ、そうだな…。』
0:
0:三人が消えていく。
0:
協和音:…*逝《い》かれましたね。
マエストロ:そうだねぇ。
協和音:…マエストロ。これでよろしかったのですか?
マエストロ:ん?何がだい?
協和音:いえ…こちらの話です。
マエストロ:そうかい?ならいいよ!!さて、次も指揮していこうか。
0:
マエストロ:物語を、*円滑《えんかつ》に進めるために。