台本概要

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タイトル 月天神命奇譚〜嚆牙濫觴〜
作者名 うたう  (@utaunandayo)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男2、女1、不問1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明  
和風獣耳絵巻
神と人と獣が一つになった世界
物語は牙の咆哮にて始まれれり!
*月天神命奇譚《げってんしんめいきたん》
*嚆牙濫觴《こうがらんしょう》

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
雛月 84 *雛月《ひなつき》獣耳尻尾少女。 堕神浄化屋【十六夜堂】の戦闘担当。 脳筋。もふもふ尻尾が自慢。大食い。 【*尾付き様《おつきさま》】
69 *命《みこと》獣耳ひねくれ青年。 【*十六夜堂《いざよいどう》】頭脳担当。 若干虚弱体質。顔はいいが口が悪い。少食。 【*獣耳在り《みみあり》】
83 *卯月要《うづきかなめ》眼鏡青年。 末っ子。巻き込まれ体質。寝不足。普通。 【*獣耳無し《みみなし》】
堕神 不問 17 *堕神 謎の声の主。※台詞数少ないので語り部と兼任可。
語り部 不問 2 語り部。 ※台詞数少ないので堕神と兼任可。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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   :   :  語り部:むかーし、むかし、そのまたむかし。 語り部:突如として天から災いが降り注ぎ、瘴気と疫病が*國《くに》を覆いました。 語り部:瘴気は八百万の神々さえ侵し、人々は疫病に倒れてゆきました。 語り部:このままではいずれ神も人も死するのみ…その時ある*一柱《ひとはしら》の神が御気付きになられました。 語り部:森に住まう「獣」だけが災いに侵されていないことを。 語り部:神々は最後の力を振り絞り、自らの魂を幾多にも分け獣に宿らせました。 語り部:神は*半獣神《はんじゅうしん》となり、 語り部:人も*半獣神《はんじゅうしん》と交わり、獣の血と神の力を得ることで生き永らえました。 語り部:こうして神と人と獣がひとつになり、今の世が、新たな【人】が、出来たので御座います。  :   :   :   :   :  要:それは夜になると聞こえる。 要:*侮蔑《ぶべつ》と*嘲笑《ちょうしょう》。他人を見下すことしか考えていない声が。 要:微睡みを侵し、黒々と染めていく。 要:繰り返される悪夢。 要:そしてそんな悪夢をみる時は決まって、僕を慰めるかのように別の声が聞こえる。 要:愛を囁き、自分だけが僕の味方だという。 要:その声はとても優しい。なのにとてもー  :    :   要:ー恐ろしいんだ。  :   :   :  0:*葦原《あしはら》の中央区。 0:大通りから離れた路地で人が倒れている。 0:暫くすると一人の少女が近づいてきた。 雛月:……ん? 0:少女は近づくと暫く観察していたが、ふと匂いを嗅ぎ始め 雛月:ふんふん、……わぁあ!  :   :  0:*葦原《あしはら》の北区。 0:町外れにある寂れた神社*十六夜《いざよい》神社境内 0:一人の青年が境内の掃き掃除をしていると騒がしい声と共に一人の少女が全速力で青年に駆け寄っていく。  :  雛月:みことぉ!みことみことみことみことぉぉ! 命:なんだうっせぇなあ。そんなデカい声出さんでも聞こえるわ。 雛月:えへへ…あのね、あのね!みてみてみて!これ!拾った! 命:ああ?また野良猫かなんか拾ったか? 命:うちでは飼えませんと何度いえ…ば……。  :  雛月:道に!落ちてた!(人を軽々と持ち上げながら)  :  命:は?  :  命:……いや、人!?どっから攫ってきた!? 雛月:違うよ!道に落ちてたんだってば。 命:だからって野良猫みたいに拾ってくるなよ! 命:全く、どうしてこう毎度厄介事を持ち込むんだ…。いいからすぐに元の場所に返してきなさい! 雛月:えー!可哀想だよ!面倒ちゃんと見るからさぁ。 命:そういって面倒みたことなかっただろうが。 雛月:みことのケチ!ん、でもねでもね、この人… 要:(かぶせる)う、うう……。 雛月:あ、起きそうかも? 命:…はあ、しょうがねえなぁ。とりあえず居間に転がしとけ。 雛月:はーい。  :   :   :   :  堕神:【大丈夫…ダイジョウブ…誰モアナタヲミナクテモ、ワタシガ側ニイルカラ…】  :   :   :  要:…ん?あれ、ここは…? 雛月:あ、起きた!みことぉ、起きたよ。 要:あ…えっと、君は? 雛月:雛月だよ。おにーさんは? 要:え、ああ、僕は卯月要と言います。というかここは?僕は何故ここに? 命:なんだ氏持ちか…ここは北区の神社。 命:お前さん中央区の道端で倒れてたらしいぞ。 要:そう、だったんですか…。 命:そんで、そこのおバカが拾ってわざわざここまで運んできたんだよ。 雛月:はい!私が拾いました! 要:拾っ……君が助けてくれたんですね?ありがとうございます。 雛月:ふへへっ! 雛月:ねえねえお兄さんはなんであそこで寝てたの?お昼寝? 命:見たところ怪我や追い剥ぎに遭ったとかじゃあなさそうだが、身なりからしても飢えてという訳でもないだろう? 要:あ…いえ…その…お恥ずかしながら最近寝不足でして、 要:立ちくらみがした所までは覚えているのですが、多分そのまま倒れてしまったのかと。 雛月:やっぱりお昼寝? 命:あながち間違えでもないのがあれだが……警戒するこったなかったか(ぼそりと) 要:…?あの? 命:いや、こっちの話だ。まだ具合悪いなら近くの町医者までは案内するがどうする? 要:いえ!体調も落ち着いてきましたので大丈夫です。ご迷惑おかけしました。すぐに帰りますね。 雛月:えー!もう帰っちゃうの?もうちょっとお話しようよぅ! 雛月:ねーねー!(要を揺さぶる) 要:ちょ、え、いや、でも、ぐぇ。 命:こら雛、やめなさい。眼鏡も困ってるだろう。我が儘言うな。 要:眼鏡…。  :  雛月:……でもね、命、この人とっても「いい匂い」がするんだよ。  :  命:雛…、お前。 要:へ?匂い? 命:…はぁ、なるほど。普段警戒心強いお前がわざわざ連れてくるから何かあるとは思ったがそういうことか。 雛月:ふへへ、私えらい?最近「仕事が少ない」「今月もきつい」って命ぼやいてたから。 命:へぇへぇ!お心遣い感謝します、雛月さん。 命:ったく。 要:あの…話が全く見えないのですが、匂い?それに仕事とは? 命:あー、卯月といったか……話してみねぇか? 要:はい? 命:お前が寝不足な理由をだ。もしかしたら俺達で解決出来る案件かも知れねぇぞ。  :   :   :  堕神:【愛オシイ。愛オシイ。ズットズット一緒二イルヨ】  :   :   :  要:えっと、改めまして。僕の名前は「卯月要」と申します。 命:俺は命、そっちで茶菓子頬張ってるのが雛月だ。 雛月:ひふぉふんふぁよ!(口一杯にお菓子を入れてる) 命:んで、ここは*堕神《おちがみ》浄化専門の店*十六夜堂《いざよいどう》だ。 要:*堕神《おちがみ》…ってあの? 命:ああ、かつての【大厄災】により溢れた瘴気によって侵されし神々の成れの果て。 命:現し世に災いを振り撒く存在だ。 命:で、俺達はそんなのを相手にする仕事をしている。 要:それでその*堕神《おちがみ》が何故僕の寝不足に関係あると思ったんですか? 命:まあまだ確定ではないし、そこはこれから話を聞いてから判断なんだが…一番の理由はコイツの「感」だな。 要:雛月さんの? 命:こと、うちの食いしん坊さんはこの手の直感がやたら当たるんでね。 雛月:むぐむごぉ…ぷは!ん!(親指をぐっと突き立てる) 要:はぁ…。 命:で?寝不足の原因はなんなんだ?理由は分かってるのか? 要:あ、はい…。その、原因というか最近よく悪夢を見るようになって。 命:悪夢? 要:なんというかその、最初は身の回りで起こった嫌な事とかを夢で時々見る位だったのです。 要:ですが最近になって徐々に酷くなっていき、遂には悪夢に毎晩*魘《うな》される様に…。 要:何度も、何度も悪夢が夢の中で繰り返されて、寝るのが怖くなってしまい…。 命:…それで倒れたという訳か。 要:…はい。更に夜になると幻聴まで聞こえるようにまでなって…。 雛月:………。 要:あの、これ本当に*堕神《おちがみ》の仕業なのでしょうか? 要:医者からは幻聴などから、精神的なものじゃないかと診断されたのですが。 命:ってと、お前さんには「精神的な」何かには心覚えがあるってことだな? 要:………。 命:まぁ言いたくないなら構わんが。 要:……その、僕を見てもらえればわかると思うのすが、【*獣耳無し《みみなし》】じゃないですか。 命:…そうだな。 要:自分でいうのもあれですが、うちの家系、そこそこな名家で、【*獣耳在り《みみあり》】を多く輩出している家系でして。 命:氏持ち、しかも「月」の字を姓にしてる位だしな。 要:両親、兄弟ともに全員【*獣耳在り《みみあり》】なのですが僕だけは【*獣耳無し《みみなし》】なのです。 要:それもあり、昔から周りからの目というか、評価などがその、厳しく、色々と……ははっ。 命:俺達*半獣神《はんじゅうしん》の子孫は*獣神性《じゅうしんせい》を多く受け継いでいるほど、その証として獣の耳がついて産まれてくる。 命:名家とならば力の強い血筋を代々守ってきたのあるだろうしな。 要:……ええ。 命:だが、親が【*獣耳在り《みみあり》】だとしても必ず次の子が同じになる確証もない。 命:もとより【*獣耳在り《みみあり》】は【*獣耳無し《みみなし》】に比べて数はそこまで多くない。 命:…まぁ【*獣耳在り《みみあり》】の俺がいっても嫌味にしか聞こえねーか。 要:いいえそんな! 雛月:みことやさしい、めずらしい。 命:っせ。 要:…家族は「そんなこと関係ない」「気にするな」と愛情を持って接してくれています。 要:とても優しくて、でもそう言われるほどになんの力もない自分が惨めで。 要:学部に進んでからは他の名家の人達からも色々と言われるようになってきまして、そしてー 命:悪夢を見るようになった、と。 要:…はい。 命:ふむ。ここまで聞いた限りだと精神的なもんにしか思えないが、どうだ?雛? 雛月:んー?うーん? 雛月:声が聞こえるって言ってたけどどんなの? 要:え?ああ、えっと悪夢を見始めてから少しして夜になると聞こえる様になったんです。 要:途切れ途切れなんですが「ずっと一緒」とか「愛してる」と「離さない」とか聞き覚えのない声が。 要:凄く優しい言葉ばかりなのですが、どこか不安になるというか。そんな声が。 雛月:………。 要:幻聴まで聞こえてくるようになるなんて、もうやばいですよね…。 雛月:やばいね!! 要:うっ! 命:追い討ちかけるなよ。 雛月:??いやだってまじやばだから。 要:そうですよね…どうせ僕なんて……。  :  雛月:このままだと要死んじゃうよ。  :  要:え? 命:ってことは当たりか? 雛月:うん!今声について話してる時に「匂い」が揺らいだからね。警戒してるのかな? 命:直接か? 雛月:うーん?それにしては薄いよう?なんだろう?近くだけど遠いみたいな?ふわふわ? 命:となると遠隔系か精神系か、どっちにしろ厄介だな。 要:あ、あの!!さっきから一体何を言ってるんですか? 要:僕が死ぬってどういうことですか!? 命:結論からいこう。悪夢と声は*堕神《おちがみ》が原因だ。 要:そんなっ。一体どうすれば…! 命:さてここからは仕事の話だな。 要:え? 命:忘れたか?俺達は*堕神《おちがみ》浄化専門屋だ。  :  雛月:*堕神《おちがみ》でお困りなら*十六夜堂《いざよいどう》にお任せあれ! 命:しっかり金を払ってくれるならお前の悩み、見事解決してやるよ!  :  雛月:あ、美味しいもの沢山でも、いいんだよ!  :   :   :  堕神:【離サナイ、離レナイ、ズットズット。ダッテトッテモー】  :   :   :  0:あれから数時間後。 0:客間にて。外は夜の帳が下りはじめていた。  :  命:さてそろそろ夜になるが、声は聞こえるか? 要:いえ、まだです。 命:ふむ、まだ少し早いか? 雛月:みことぉ。おなかすいた。 命:そうだな。長丁場になるかもしれんし、軽く腹になにか入れとくか。 雛月:はいはい!お肉たべた… 命:(すかさず)うちには素麺しかありません! 雛月:むぇー、またぁそうめん?飽きたぁ! 命:先日誰かさんが米まで食い尽くしたせいなんだがな。 雛月:だってすぐお腹空いちゃうんだもん。 命:この育ち盛りさんめ。 命:今回の仕事が終わったら買ってやるから我慢しろ。 雛月:ぶー! 命:ぶーたれない、さて飯準備してくるか。その前に…雛、ちょっと来い。 雛月:!はぁーい。  :   :  0:二人共退出するが数分後すぐに雛月だけ部屋に戻ってきた。  :  雛月:ただいまぁ! 要:お帰りなさい。あの、何かありましたか? 雛月:んとね、ご飯できるまで茶菓子食べてていいって。ほら! 要:よかったですね。 雛月:特別に半分食べてもいいよ?お客様だし。 要:はは。…あ、あの雛月さん。 雛月:雛月でいいよ?さんはなんかやだ、私も要って呼ぶから! 要:じゃあ雛月、ちゃん? 雛月:うんうん。でなーに? 要:あの、本当なんでしょうか?僕に*堕神《おちがみ》が憑いているというのは。 要:まだ実感持てないというか、実際に*堕神《おちがみ》をこの目で見たことがないのですが 要:瓦版では「天月様」《てんげさま》の精鋭部隊が対応するほどの厄災だと書かれていて…。 雛月:瓦版読まないからよくわかんないけど、*堕神《おちがみ》って色々種類?があって強いやつから弱いやつまでいっぱいいるんだよ。 要:そうなんですか? 雛月:*葦原《あしはら》は*「天月様」《てんげさま》の力で守られているけどそれも完全じゃないんだって。 雛月:この街でも小さい奴はたまに出るんだよね。中央区は*「天月」《てんげさま》に近いからあまりいないみたいだけど。 要:知らなかった。 雛月:そういう小さいのやっつけるのが俺達浄化屋なんだ! 雛月:…って命が言ってた。 要:なるほど、勉強になります。 雛月:それに私強いからどんな奴でもどっかーんだよ! 要:確かに雛月ちゃんは尻尾、【*尾付き様《おつきさま》】だけど小さいし、無理しなくていいからね?怪我したら危ないよ。 雛月:むー!子供扱いして!信じてないなぁ! 要:はは、ごめんごめん。  :  0:暫く雑談をし、時間が流れる。   :  要:それにしても命さん遅いですね? 雛月:……ねぇ。 要:はい? 雛月:おなかすいたね。 要:え、ええ。 要:M(な、なんだろう急に雛月ちゃんの雰囲気が…) 雛月:(要にそっと近よりながら)はじめて会った時からずっと気になってたけど要、凄くいい匂いがするね。 要:え?匂い?するかな?ふんふん。うーん?あ、それ最初の時も言ってたけど。 雛月:うん、とってもいい匂いだよ。甘くて、ふわふわしてて凄く…… 要:あ、あの、ち、ちか…。  :  雛月:「美味しそう」  :  0:瞬間、部屋の明かりが全て消え暗闇に包まれる。 要:わっ!!(押し倒される) 雛月:……ふふ。 0:暗闇の中、僅かに差す月明かりの様に琥珀色の少女の瞳が怪しく輝く。 要:雛月ちゃん?どうしたんですか!? 雛月:……ずっとずっとお腹が空いて、でも我慢してたんだ。私。偉いでしょ? 要:やめ、く、離して…!びくともしない…! 雛月:ふふ…。  :  雛月:ふへへぇ。ちょっとだけなら、味見しても…いいよね?  :  要:え? 雛月:ちょっとだけ、カプってするだけだから…。 要:ちょっとも駄目です! 雛月:いっただきまぁぁーす! 要:うわぁあ!まっ、舐め!*食《は》まないで………!  :  堕神:【ヤメロォォオオオオオオオ!!!】  :  0:要の後方から突如として奇っ怪な叫びと真っ黒な塊のような化物が出現する。  :  雛月:あ。出てきた。 要:食べても美味しくな…、え、うわっ!なんだこれ!ひぃ! 命:やっと出たか。よくやった雛。 雛月:命の言った通りだったよ!凄い! 要:命さん!どこ行ってたんですか!僕雛月ちゃんに食べられそうに…いやこの化物なんなんですか!?どういうことなんですか!? 命:落ち着け。それが、お前に憑いてた*堕神《おちがみ》だよ。 要:これが…!?  :  堕神:【嗚呼、阿阿アア亜アア!!ヨクモヨクモ!!ワタシダケノ…愛オシイ……渡サナイ渡サナイ!!】  :  要:この声!あの幻聴と一緒だ。 命:影に憑いてたのか、道理で昼間は気配が薄い筈だ。 要:僕の、影に?  :  堕神:【ユルサナイユルサナイユルサナイ許サナイ!!】  :  命:おーおー、随分とご執心だな。そんなに奪われるのがいやか? 雛月:ちょっと噛んだだけなのに。 命:そこまでしろとは言ってない。  :  堕神:【奪ワセナイ!ワタシモノダ!】 0:影憑は触手のような物を伸ばし雛月を捕まえようとする。がー 雛月:おっと!っふ、ほい! 墜神:【邪魔ヲスルナ!!】 雛月:へへ、当たらないよ! 要:凄い、あれだけの攻撃を全部躱してる!  :  堕神:【ウウ、ダメダメワタシノ、私ダケノモノだ!!】  :  0:影憑は今度は体の形を大きく広げ、宿主である要を覆おうとする。 堕神:【大丈夫、ズットズット守ッテ一緒二、ヤット見ツケタ大事ナー】 要:う、うわあああ!? 墜神:*【餌ダモノ】《・・・・》  :  雛月:命!今!!  :  命:【灯せ!*明楼《めいろう》!!】  :  0:命の掌から光の球体が出現し、辺りが眩い光で覆われる。  :  堕神:【アアアアアアアアアア!!眩シイ!眩シイ…!】 命:やはり光が弱点か、雛っ! 雛月:任せて! 0:要の影に戻ろうとする*堕神《おちがみ》を咄嗟に捕まえると、力任せに引きずり出しー 雛月:おんりゃぁぁぁぁ!!!っせい! 0:堕神の抵抗など歯牙にもかけず、床に叩きつけたのだった。  :  堕神:【グ、アア、ヨクモワタシノ!美味シイ美味シイワタシノ餌ナノニ!】  :  雛月:もう影には逃がさないよ! 堕神:【オノレェェ!】 0:再び*堕神《おちがみ》を掴み直すと、 雛月:よいしょー! 堕神:【呪ッテヤル!殺シテヤル!】 雛月:てりゃぁあ! 堕神)【痛イ痛イ痛イ!!】 雛月:もういっちょぉお! 堕神:【アアアアアア!】  :  0:どこか気が抜ける掛け声と共に繰り返し叩き付けられる*堕神《おちがみ》。その異様な光景を要は呆然と見つめていた。  :  命:平気か? 要:…あ、あの!これどういう状況なんでしょうか? 命:ああ。いやな、お前さんに憑いてるやつが何処にいるかまでは分からなかったから、 命:さっき雛と相談してな。*誘《おび》きだしてもらったんだ。 要:あ、あの時の…!でも*誘《おび》きだすとは? 命:お前さんが聞いた声とやらからも、どうやらだいぶ入れ込んでるみたいだったからな。 命:さて、問題だ。そんな奴が自分の獲物を突然横から別の奴に掠め取られそうなったら…どうする? 要:……慌てて取り戻そうとする? 命:正解。あの手の輩は恐らくだが、影に憑きその宿主の心の隙を増幅させ、徐々に生命力を貪ってたんだろうな。 要:それが、悪夢と幻聴の正体。 命:だが捕まえちまえばこっちのもんだ。 命:さて、雛ぁ!仕上げだ! 雛月:あ、投げるの楽しくって忘れてた!よぉし! 0:幾度となく無慈悲に叩き付けられていた堕神は既に満身創痍といった風に弱りきっていた。 堕神:【アア、グググ!】  :  雛月:【やがて天へ*到《いた》る者、獣神に願い奉る】  :  0:奉じる言の葉と共に、雛月の耳と尻尾が淡く光始める。 雛月:【*禍《まが》を払い、浄める力を】 0:光は強くなり、瞳は煌々と輝き、力は収束し爪となし、獣が獲物を狩るそのものとなる。 堕神:【アァァ!!クルナクルナーーー!!】  :  雛月:【咲喰らえ!*月牙《げつが》、*桜爪《おうしょう》ぉぉぉおお!!!】  :  堕神:【グアァァアアア!!】  :   :  0:放たれた一撃で*堕神《おちがみ》は光の粒となり霧散してゆくー  :   :   :  0:翌朝  :  要:本当にお世話になりました。 命:まぁこっちは仕事だしな。金もしっかり貰ったんだ。 雛月:お肉食べれる? 命:ああ、安肉だがすき焼きも行けるぞ! 雛月:やったぁぁあ! 要:しかし雛月ちゃんがあんなに強いなんて。 要:【*尾付き様《おつきさま》】って凄いんですね。 命:【*尾付き《おつき》】は獣神性の塊みたいなもんだからな。 命:今回のもそうだが、大抵の奴なら雛にとって敵じゃない。まぁこいつは単に力任せとも言えるが…。 要:確かに圧倒的でしたね。 雛月:ふふん!もっと褒めてもいいんだよ! 命:調子にのるな。 要:いやでもあの時のは誘き出す為の演技だったなんて。気が付きませんでした。 雛月:ふふ、中々の演技だったでしょ?芝居小屋でも働けるかな? 要:本当に食べられちゃうかと思いましたよ。ははは! 雛月:………………ソウダネ。 要:え、なんですかその間。なんでカタコトなんですか? 要:え?え?演技ですよね? 雛月:………。(目を逸らす) 要:本気だった!? 命:途中から明らかに本能で行動してただろ? 雛月:…ちょっとならいいかなって? 命:やめとけ、そんなもん食っても腹壊すぞ。 雛月:甘噛みなら… 要:駄目です! 雛月:ケチ!  :  命:まあ、堕神は隙があると付け入るからな。あまり悩みすぎるなよ。 要:…はい!ありがとうございました。  :   :  雛月:もしまた*堕神《おちがみ》が出たら是非*十六夜堂《いざよいどう》をお任せあれ! 雛月:異変・怪異の悩みごと、金さえ払ってくれるなら見事解決してやるよ!  :   :   :  語り部:こうして、一人の青年は二人の奇妙な浄化屋に出会いました。 語り部:この出会いこそが*葦原《あしはら》を巻き込む大きな物語の始まりだったので御座います。 語り部:幾多の年月を越え天から地へと堕ちた神々。 語り部:獣と成り果てようとも世に縋る者。 語り部:己が*貴き《たっとき》を護る為に生きる者。 語り部:幾重に重なる人の想い、神話の幕開けにてー 語り部:その名も*【月天神命奇譚】《げってんしんめいきたん》! 語り部:これより、はじまり、はじまりぃ!  :   :   :  0:始  : 

   :   :  語り部:むかーし、むかし、そのまたむかし。 語り部:突如として天から災いが降り注ぎ、瘴気と疫病が*國《くに》を覆いました。 語り部:瘴気は八百万の神々さえ侵し、人々は疫病に倒れてゆきました。 語り部:このままではいずれ神も人も死するのみ…その時ある*一柱《ひとはしら》の神が御気付きになられました。 語り部:森に住まう「獣」だけが災いに侵されていないことを。 語り部:神々は最後の力を振り絞り、自らの魂を幾多にも分け獣に宿らせました。 語り部:神は*半獣神《はんじゅうしん》となり、 語り部:人も*半獣神《はんじゅうしん》と交わり、獣の血と神の力を得ることで生き永らえました。 語り部:こうして神と人と獣がひとつになり、今の世が、新たな【人】が、出来たので御座います。  :   :   :   :   :  要:それは夜になると聞こえる。 要:*侮蔑《ぶべつ》と*嘲笑《ちょうしょう》。他人を見下すことしか考えていない声が。 要:微睡みを侵し、黒々と染めていく。 要:繰り返される悪夢。 要:そしてそんな悪夢をみる時は決まって、僕を慰めるかのように別の声が聞こえる。 要:愛を囁き、自分だけが僕の味方だという。 要:その声はとても優しい。なのにとてもー  :    :   要:ー恐ろしいんだ。  :   :   :  0:*葦原《あしはら》の中央区。 0:大通りから離れた路地で人が倒れている。 0:暫くすると一人の少女が近づいてきた。 雛月:……ん? 0:少女は近づくと暫く観察していたが、ふと匂いを嗅ぎ始め 雛月:ふんふん、……わぁあ!  :   :  0:*葦原《あしはら》の北区。 0:町外れにある寂れた神社*十六夜《いざよい》神社境内 0:一人の青年が境内の掃き掃除をしていると騒がしい声と共に一人の少女が全速力で青年に駆け寄っていく。  :  雛月:みことぉ!みことみことみことみことぉぉ! 命:なんだうっせぇなあ。そんなデカい声出さんでも聞こえるわ。 雛月:えへへ…あのね、あのね!みてみてみて!これ!拾った! 命:ああ?また野良猫かなんか拾ったか? 命:うちでは飼えませんと何度いえ…ば……。  :  雛月:道に!落ちてた!(人を軽々と持ち上げながら)  :  命:は?  :  命:……いや、人!?どっから攫ってきた!? 雛月:違うよ!道に落ちてたんだってば。 命:だからって野良猫みたいに拾ってくるなよ! 命:全く、どうしてこう毎度厄介事を持ち込むんだ…。いいからすぐに元の場所に返してきなさい! 雛月:えー!可哀想だよ!面倒ちゃんと見るからさぁ。 命:そういって面倒みたことなかっただろうが。 雛月:みことのケチ!ん、でもねでもね、この人… 要:(かぶせる)う、うう……。 雛月:あ、起きそうかも? 命:…はあ、しょうがねえなぁ。とりあえず居間に転がしとけ。 雛月:はーい。  :   :   :   :  堕神:【大丈夫…ダイジョウブ…誰モアナタヲミナクテモ、ワタシガ側ニイルカラ…】  :   :   :  要:…ん?あれ、ここは…? 雛月:あ、起きた!みことぉ、起きたよ。 要:あ…えっと、君は? 雛月:雛月だよ。おにーさんは? 要:え、ああ、僕は卯月要と言います。というかここは?僕は何故ここに? 命:なんだ氏持ちか…ここは北区の神社。 命:お前さん中央区の道端で倒れてたらしいぞ。 要:そう、だったんですか…。 命:そんで、そこのおバカが拾ってわざわざここまで運んできたんだよ。 雛月:はい!私が拾いました! 要:拾っ……君が助けてくれたんですね?ありがとうございます。 雛月:ふへへっ! 雛月:ねえねえお兄さんはなんであそこで寝てたの?お昼寝? 命:見たところ怪我や追い剥ぎに遭ったとかじゃあなさそうだが、身なりからしても飢えてという訳でもないだろう? 要:あ…いえ…その…お恥ずかしながら最近寝不足でして、 要:立ちくらみがした所までは覚えているのですが、多分そのまま倒れてしまったのかと。 雛月:やっぱりお昼寝? 命:あながち間違えでもないのがあれだが……警戒するこったなかったか(ぼそりと) 要:…?あの? 命:いや、こっちの話だ。まだ具合悪いなら近くの町医者までは案内するがどうする? 要:いえ!体調も落ち着いてきましたので大丈夫です。ご迷惑おかけしました。すぐに帰りますね。 雛月:えー!もう帰っちゃうの?もうちょっとお話しようよぅ! 雛月:ねーねー!(要を揺さぶる) 要:ちょ、え、いや、でも、ぐぇ。 命:こら雛、やめなさい。眼鏡も困ってるだろう。我が儘言うな。 要:眼鏡…。  :  雛月:……でもね、命、この人とっても「いい匂い」がするんだよ。  :  命:雛…、お前。 要:へ?匂い? 命:…はぁ、なるほど。普段警戒心強いお前がわざわざ連れてくるから何かあるとは思ったがそういうことか。 雛月:ふへへ、私えらい?最近「仕事が少ない」「今月もきつい」って命ぼやいてたから。 命:へぇへぇ!お心遣い感謝します、雛月さん。 命:ったく。 要:あの…話が全く見えないのですが、匂い?それに仕事とは? 命:あー、卯月といったか……話してみねぇか? 要:はい? 命:お前が寝不足な理由をだ。もしかしたら俺達で解決出来る案件かも知れねぇぞ。  :   :   :  堕神:【愛オシイ。愛オシイ。ズットズット一緒二イルヨ】  :   :   :  要:えっと、改めまして。僕の名前は「卯月要」と申します。 命:俺は命、そっちで茶菓子頬張ってるのが雛月だ。 雛月:ひふぉふんふぁよ!(口一杯にお菓子を入れてる) 命:んで、ここは*堕神《おちがみ》浄化専門の店*十六夜堂《いざよいどう》だ。 要:*堕神《おちがみ》…ってあの? 命:ああ、かつての【大厄災】により溢れた瘴気によって侵されし神々の成れの果て。 命:現し世に災いを振り撒く存在だ。 命:で、俺達はそんなのを相手にする仕事をしている。 要:それでその*堕神《おちがみ》が何故僕の寝不足に関係あると思ったんですか? 命:まあまだ確定ではないし、そこはこれから話を聞いてから判断なんだが…一番の理由はコイツの「感」だな。 要:雛月さんの? 命:こと、うちの食いしん坊さんはこの手の直感がやたら当たるんでね。 雛月:むぐむごぉ…ぷは!ん!(親指をぐっと突き立てる) 要:はぁ…。 命:で?寝不足の原因はなんなんだ?理由は分かってるのか? 要:あ、はい…。その、原因というか最近よく悪夢を見るようになって。 命:悪夢? 要:なんというかその、最初は身の回りで起こった嫌な事とかを夢で時々見る位だったのです。 要:ですが最近になって徐々に酷くなっていき、遂には悪夢に毎晩*魘《うな》される様に…。 要:何度も、何度も悪夢が夢の中で繰り返されて、寝るのが怖くなってしまい…。 命:…それで倒れたという訳か。 要:…はい。更に夜になると幻聴まで聞こえるようにまでなって…。 雛月:………。 要:あの、これ本当に*堕神《おちがみ》の仕業なのでしょうか? 要:医者からは幻聴などから、精神的なものじゃないかと診断されたのですが。 命:ってと、お前さんには「精神的な」何かには心覚えがあるってことだな? 要:………。 命:まぁ言いたくないなら構わんが。 要:……その、僕を見てもらえればわかると思うのすが、【*獣耳無し《みみなし》】じゃないですか。 命:…そうだな。 要:自分でいうのもあれですが、うちの家系、そこそこな名家で、【*獣耳在り《みみあり》】を多く輩出している家系でして。 命:氏持ち、しかも「月」の字を姓にしてる位だしな。 要:両親、兄弟ともに全員【*獣耳在り《みみあり》】なのですが僕だけは【*獣耳無し《みみなし》】なのです。 要:それもあり、昔から周りからの目というか、評価などがその、厳しく、色々と……ははっ。 命:俺達*半獣神《はんじゅうしん》の子孫は*獣神性《じゅうしんせい》を多く受け継いでいるほど、その証として獣の耳がついて産まれてくる。 命:名家とならば力の強い血筋を代々守ってきたのあるだろうしな。 要:……ええ。 命:だが、親が【*獣耳在り《みみあり》】だとしても必ず次の子が同じになる確証もない。 命:もとより【*獣耳在り《みみあり》】は【*獣耳無し《みみなし》】に比べて数はそこまで多くない。 命:…まぁ【*獣耳在り《みみあり》】の俺がいっても嫌味にしか聞こえねーか。 要:いいえそんな! 雛月:みことやさしい、めずらしい。 命:っせ。 要:…家族は「そんなこと関係ない」「気にするな」と愛情を持って接してくれています。 要:とても優しくて、でもそう言われるほどになんの力もない自分が惨めで。 要:学部に進んでからは他の名家の人達からも色々と言われるようになってきまして、そしてー 命:悪夢を見るようになった、と。 要:…はい。 命:ふむ。ここまで聞いた限りだと精神的なもんにしか思えないが、どうだ?雛? 雛月:んー?うーん? 雛月:声が聞こえるって言ってたけどどんなの? 要:え?ああ、えっと悪夢を見始めてから少しして夜になると聞こえる様になったんです。 要:途切れ途切れなんですが「ずっと一緒」とか「愛してる」と「離さない」とか聞き覚えのない声が。 要:凄く優しい言葉ばかりなのですが、どこか不安になるというか。そんな声が。 雛月:………。 要:幻聴まで聞こえてくるようになるなんて、もうやばいですよね…。 雛月:やばいね!! 要:うっ! 命:追い討ちかけるなよ。 雛月:??いやだってまじやばだから。 要:そうですよね…どうせ僕なんて……。  :  雛月:このままだと要死んじゃうよ。  :  要:え? 命:ってことは当たりか? 雛月:うん!今声について話してる時に「匂い」が揺らいだからね。警戒してるのかな? 命:直接か? 雛月:うーん?それにしては薄いよう?なんだろう?近くだけど遠いみたいな?ふわふわ? 命:となると遠隔系か精神系か、どっちにしろ厄介だな。 要:あ、あの!!さっきから一体何を言ってるんですか? 要:僕が死ぬってどういうことですか!? 命:結論からいこう。悪夢と声は*堕神《おちがみ》が原因だ。 要:そんなっ。一体どうすれば…! 命:さてここからは仕事の話だな。 要:え? 命:忘れたか?俺達は*堕神《おちがみ》浄化専門屋だ。  :  雛月:*堕神《おちがみ》でお困りなら*十六夜堂《いざよいどう》にお任せあれ! 命:しっかり金を払ってくれるならお前の悩み、見事解決してやるよ!  :  雛月:あ、美味しいもの沢山でも、いいんだよ!  :   :   :  堕神:【離サナイ、離レナイ、ズットズット。ダッテトッテモー】  :   :   :  0:あれから数時間後。 0:客間にて。外は夜の帳が下りはじめていた。  :  命:さてそろそろ夜になるが、声は聞こえるか? 要:いえ、まだです。 命:ふむ、まだ少し早いか? 雛月:みことぉ。おなかすいた。 命:そうだな。長丁場になるかもしれんし、軽く腹になにか入れとくか。 雛月:はいはい!お肉たべた… 命:(すかさず)うちには素麺しかありません! 雛月:むぇー、またぁそうめん?飽きたぁ! 命:先日誰かさんが米まで食い尽くしたせいなんだがな。 雛月:だってすぐお腹空いちゃうんだもん。 命:この育ち盛りさんめ。 命:今回の仕事が終わったら買ってやるから我慢しろ。 雛月:ぶー! 命:ぶーたれない、さて飯準備してくるか。その前に…雛、ちょっと来い。 雛月:!はぁーい。  :   :  0:二人共退出するが数分後すぐに雛月だけ部屋に戻ってきた。  :  雛月:ただいまぁ! 要:お帰りなさい。あの、何かありましたか? 雛月:んとね、ご飯できるまで茶菓子食べてていいって。ほら! 要:よかったですね。 雛月:特別に半分食べてもいいよ?お客様だし。 要:はは。…あ、あの雛月さん。 雛月:雛月でいいよ?さんはなんかやだ、私も要って呼ぶから! 要:じゃあ雛月、ちゃん? 雛月:うんうん。でなーに? 要:あの、本当なんでしょうか?僕に*堕神《おちがみ》が憑いているというのは。 要:まだ実感持てないというか、実際に*堕神《おちがみ》をこの目で見たことがないのですが 要:瓦版では「天月様」《てんげさま》の精鋭部隊が対応するほどの厄災だと書かれていて…。 雛月:瓦版読まないからよくわかんないけど、*堕神《おちがみ》って色々種類?があって強いやつから弱いやつまでいっぱいいるんだよ。 要:そうなんですか? 雛月:*葦原《あしはら》は*「天月様」《てんげさま》の力で守られているけどそれも完全じゃないんだって。 雛月:この街でも小さい奴はたまに出るんだよね。中央区は*「天月」《てんげさま》に近いからあまりいないみたいだけど。 要:知らなかった。 雛月:そういう小さいのやっつけるのが俺達浄化屋なんだ! 雛月:…って命が言ってた。 要:なるほど、勉強になります。 雛月:それに私強いからどんな奴でもどっかーんだよ! 要:確かに雛月ちゃんは尻尾、【*尾付き様《おつきさま》】だけど小さいし、無理しなくていいからね?怪我したら危ないよ。 雛月:むー!子供扱いして!信じてないなぁ! 要:はは、ごめんごめん。  :  0:暫く雑談をし、時間が流れる。   :  要:それにしても命さん遅いですね? 雛月:……ねぇ。 要:はい? 雛月:おなかすいたね。 要:え、ええ。 要:M(な、なんだろう急に雛月ちゃんの雰囲気が…) 雛月:(要にそっと近よりながら)はじめて会った時からずっと気になってたけど要、凄くいい匂いがするね。 要:え?匂い?するかな?ふんふん。うーん?あ、それ最初の時も言ってたけど。 雛月:うん、とってもいい匂いだよ。甘くて、ふわふわしてて凄く…… 要:あ、あの、ち、ちか…。  :  雛月:「美味しそう」  :  0:瞬間、部屋の明かりが全て消え暗闇に包まれる。 要:わっ!!(押し倒される) 雛月:……ふふ。 0:暗闇の中、僅かに差す月明かりの様に琥珀色の少女の瞳が怪しく輝く。 要:雛月ちゃん?どうしたんですか!? 雛月:……ずっとずっとお腹が空いて、でも我慢してたんだ。私。偉いでしょ? 要:やめ、く、離して…!びくともしない…! 雛月:ふふ…。  :  雛月:ふへへぇ。ちょっとだけなら、味見しても…いいよね?  :  要:え? 雛月:ちょっとだけ、カプってするだけだから…。 要:ちょっとも駄目です! 雛月:いっただきまぁぁーす! 要:うわぁあ!まっ、舐め!*食《は》まないで………!  :  堕神:【ヤメロォォオオオオオオオ!!!】  :  0:要の後方から突如として奇っ怪な叫びと真っ黒な塊のような化物が出現する。  :  雛月:あ。出てきた。 要:食べても美味しくな…、え、うわっ!なんだこれ!ひぃ! 命:やっと出たか。よくやった雛。 雛月:命の言った通りだったよ!凄い! 要:命さん!どこ行ってたんですか!僕雛月ちゃんに食べられそうに…いやこの化物なんなんですか!?どういうことなんですか!? 命:落ち着け。それが、お前に憑いてた*堕神《おちがみ》だよ。 要:これが…!?  :  堕神:【嗚呼、阿阿アア亜アア!!ヨクモヨクモ!!ワタシダケノ…愛オシイ……渡サナイ渡サナイ!!】  :  要:この声!あの幻聴と一緒だ。 命:影に憑いてたのか、道理で昼間は気配が薄い筈だ。 要:僕の、影に?  :  堕神:【ユルサナイユルサナイユルサナイ許サナイ!!】  :  命:おーおー、随分とご執心だな。そんなに奪われるのがいやか? 雛月:ちょっと噛んだだけなのに。 命:そこまでしろとは言ってない。  :  堕神:【奪ワセナイ!ワタシモノダ!】 0:影憑は触手のような物を伸ばし雛月を捕まえようとする。がー 雛月:おっと!っふ、ほい! 墜神:【邪魔ヲスルナ!!】 雛月:へへ、当たらないよ! 要:凄い、あれだけの攻撃を全部躱してる!  :  堕神:【ウウ、ダメダメワタシノ、私ダケノモノだ!!】  :  0:影憑は今度は体の形を大きく広げ、宿主である要を覆おうとする。 堕神:【大丈夫、ズットズット守ッテ一緒二、ヤット見ツケタ大事ナー】 要:う、うわあああ!? 墜神:*【餌ダモノ】《・・・・》  :  雛月:命!今!!  :  命:【灯せ!*明楼《めいろう》!!】  :  0:命の掌から光の球体が出現し、辺りが眩い光で覆われる。  :  堕神:【アアアアアアアアアア!!眩シイ!眩シイ…!】 命:やはり光が弱点か、雛っ! 雛月:任せて! 0:要の影に戻ろうとする*堕神《おちがみ》を咄嗟に捕まえると、力任せに引きずり出しー 雛月:おんりゃぁぁぁぁ!!!っせい! 0:堕神の抵抗など歯牙にもかけず、床に叩きつけたのだった。  :  堕神:【グ、アア、ヨクモワタシノ!美味シイ美味シイワタシノ餌ナノニ!】  :  雛月:もう影には逃がさないよ! 堕神:【オノレェェ!】 0:再び*堕神《おちがみ》を掴み直すと、 雛月:よいしょー! 堕神:【呪ッテヤル!殺シテヤル!】 雛月:てりゃぁあ! 堕神)【痛イ痛イ痛イ!!】 雛月:もういっちょぉお! 堕神:【アアアアアア!】  :  0:どこか気が抜ける掛け声と共に繰り返し叩き付けられる*堕神《おちがみ》。その異様な光景を要は呆然と見つめていた。  :  命:平気か? 要:…あ、あの!これどういう状況なんでしょうか? 命:ああ。いやな、お前さんに憑いてるやつが何処にいるかまでは分からなかったから、 命:さっき雛と相談してな。*誘《おび》きだしてもらったんだ。 要:あ、あの時の…!でも*誘《おび》きだすとは? 命:お前さんが聞いた声とやらからも、どうやらだいぶ入れ込んでるみたいだったからな。 命:さて、問題だ。そんな奴が自分の獲物を突然横から別の奴に掠め取られそうなったら…どうする? 要:……慌てて取り戻そうとする? 命:正解。あの手の輩は恐らくだが、影に憑きその宿主の心の隙を増幅させ、徐々に生命力を貪ってたんだろうな。 要:それが、悪夢と幻聴の正体。 命:だが捕まえちまえばこっちのもんだ。 命:さて、雛ぁ!仕上げだ! 雛月:あ、投げるの楽しくって忘れてた!よぉし! 0:幾度となく無慈悲に叩き付けられていた堕神は既に満身創痍といった風に弱りきっていた。 堕神:【アア、グググ!】  :  雛月:【やがて天へ*到《いた》る者、獣神に願い奉る】  :  0:奉じる言の葉と共に、雛月の耳と尻尾が淡く光始める。 雛月:【*禍《まが》を払い、浄める力を】 0:光は強くなり、瞳は煌々と輝き、力は収束し爪となし、獣が獲物を狩るそのものとなる。 堕神:【アァァ!!クルナクルナーーー!!】  :  雛月:【咲喰らえ!*月牙《げつが》、*桜爪《おうしょう》ぉぉぉおお!!!】  :  堕神:【グアァァアアア!!】  :   :  0:放たれた一撃で*堕神《おちがみ》は光の粒となり霧散してゆくー  :   :   :  0:翌朝  :  要:本当にお世話になりました。 命:まぁこっちは仕事だしな。金もしっかり貰ったんだ。 雛月:お肉食べれる? 命:ああ、安肉だがすき焼きも行けるぞ! 雛月:やったぁぁあ! 要:しかし雛月ちゃんがあんなに強いなんて。 要:【*尾付き様《おつきさま》】って凄いんですね。 命:【*尾付き《おつき》】は獣神性の塊みたいなもんだからな。 命:今回のもそうだが、大抵の奴なら雛にとって敵じゃない。まぁこいつは単に力任せとも言えるが…。 要:確かに圧倒的でしたね。 雛月:ふふん!もっと褒めてもいいんだよ! 命:調子にのるな。 要:いやでもあの時のは誘き出す為の演技だったなんて。気が付きませんでした。 雛月:ふふ、中々の演技だったでしょ?芝居小屋でも働けるかな? 要:本当に食べられちゃうかと思いましたよ。ははは! 雛月:………………ソウダネ。 要:え、なんですかその間。なんでカタコトなんですか? 要:え?え?演技ですよね? 雛月:………。(目を逸らす) 要:本気だった!? 命:途中から明らかに本能で行動してただろ? 雛月:…ちょっとならいいかなって? 命:やめとけ、そんなもん食っても腹壊すぞ。 雛月:甘噛みなら… 要:駄目です! 雛月:ケチ!  :  命:まあ、堕神は隙があると付け入るからな。あまり悩みすぎるなよ。 要:…はい!ありがとうございました。  :   :  雛月:もしまた*堕神《おちがみ》が出たら是非*十六夜堂《いざよいどう》をお任せあれ! 雛月:異変・怪異の悩みごと、金さえ払ってくれるなら見事解決してやるよ!  :   :   :  語り部:こうして、一人の青年は二人の奇妙な浄化屋に出会いました。 語り部:この出会いこそが*葦原《あしはら》を巻き込む大きな物語の始まりだったので御座います。 語り部:幾多の年月を越え天から地へと堕ちた神々。 語り部:獣と成り果てようとも世に縋る者。 語り部:己が*貴き《たっとき》を護る為に生きる者。 語り部:幾重に重なる人の想い、神話の幕開けにてー 語り部:その名も*【月天神命奇譚】《げってんしんめいきたん》! 語り部:これより、はじまり、はじまりぃ!  :   :   :  0:始  :