台本概要

 898 views 

タイトル 殺人現場~恐怖の旅館編~
作者名 あまくケイ  (@amak0331)
ジャンル コメディ
演者人数 4人用台本(不問4)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 とある古びた、おぞましい旅館にて、泊まりに来ていた観光客が殺された
刑事さんからの依頼で来た探偵は、怪しい雰囲気を纏った支配人から話を聞く

殺人現場シリーズ第2弾
4人不問
15~20分程度です
ストーリーの展開が崩れない程度のアドリブは可

良かったらどうぞ

 898 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
探偵 不問 54 事件を解決しに来た探偵 ツッコミ 不問
刑事 不問 43 現場を担当する刑事 不問
支配人 不問 50 旅館の支配人 不問
料理長 不問 42 旅館でメニューを作っている料理長 不問
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:朝、おぞましい外観をした旅館 探偵:どうも 刑事:あぁ、探偵さん 探偵:聞いたよ。難航してるって? 刑事:はは……情けない限りです。さっそく現場、見られます? 探偵:そうだな、案内してくれ 0:現場へ到着 探偵:ここが犯行現場か 刑事:ええ。被害者の遺体や証拠品は、すでにこちらで回収しています 探偵:部屋の様子から見ると……あまり揉みあった形跡もない。おそらく何か鈍器のようなもので殴られて一発かな 刑事:流石、探偵さん。おっしゃる通りです 探偵:まだまだ序の口さ。手段が判っても、犯人を暴くのに繋げないと意味がないからな 刑事:そうですね…… 探偵:にしても、古い旅館だよな、ここ 支配人:ありがとうございます。それが、我が旅館のアピールポイントですので 0:部屋の入り口から声が聞こえた 探偵:あなたは? 刑事:この方は、支配人さんです 支配人:この度はお世話になります 探偵:どうも、はじめまして。……早速だけど、質問をいいかな? 支配人:はい、なんなりと 探偵:この旅館には、全員で何人いたんだ? 支配人:私と、泊まりに来ていたカップルの観光客、あとは食事を任せている料理長ですね 刑事:そのうち、殺害されたのは、女性の観光客です。女性は、後ろから頭を殴られ死亡。犯行時刻は夜21時から、24時の間と思われます 支配人:他のアルバイトやスタッフはいませんでした。定時にあがったので 探偵:料理長は帰らなかったのか? 支配人:ええ。泊まり込みで仕事をしてました。なにせ、仕事熱心なもので 探偵:なるほど。そしたら、観光客か……えっと 刑事:大丈夫です。こちらで先に、事情聴取をしています 探偵:仕事が早いね。なんて言ってた? 刑事:その件ですが……気が動転しておりまして、まだこれからです 探偵:ふうん。となると、まずは候補が1人か。一見、一緒に居た男性が、明らかに犯人のように見えるが…… 刑事:それで決めつけるのは良くない、でしたね 探偵:はは……。こりゃ一本とられたな 探偵:そしたら、支配人さんから聞くか、いや、料理長からにするか……あれ? その料理長はどこに? 支配人:あぁ。申し訳ない……。あの人、まだ寝てるのかな……? 料理長:呼んだか……? 0:眠そうな様子で、料理長が入ってくる 支配人:おお、起きましたか 料理長:何があったんだ? この状況 支配人:殺人ですよ 料理長:へぇ……寝ている間にそんなことが 探偵:昨日の夜から、泊まり込みで旅館に? 料理長:ああ 探偵:具体的に何をしていたんですか? 料理長:次のメニューをどうするか考えていたんだ 料理長:このまま帰ったら、いいアイデアも出てこないと思ってな 支配人:だからと言って、そこまで身を削らなくても…… 料理長:客が喜んでくれる料理を作りたいんだ。眠ってなんかいられない。それに、アイデアが浮かんでくるのは、いつだって現場なんだよ 刑事:ほんとうに、仕事熱心な方なんですね 刑事:私も現場主義なもので、お気持ち、分かります 料理長:へぇ。話が分かるな、あんた。気が合いそうだ 探偵:ふうん、眠ってなんかいられない、か 料理長:なんだよ? 探偵:いや。メニューの事以外で、眠れない事情があったんじゃないか、と思っただけだよ 料理長:あんた……俺を疑ってるのか? 探偵:別に。まだ犯人だとは思ってない。ただ、候補には入っている。 料理長:……気に入らない奴だな 支配人:まぁまぁ、落ち着いて 探偵:もちろん、支配人さんもだ 探偵:あなたは夜、何をしていたんだ? 支配人:私はスタッフの管理作業に終われていて、パソコンに向かってひたすら作業をしていました 探偵:仕事を終えた後は? 支配人:その後ですか……、実は、お客様を、私の部屋へお呼びしたんです 探偵:えっ? なんで? 支配人:せっかく来ていただいたので、怪談話をしたんですよ 探偵:怪談話?  料理長:この人、客が来た時はいつもこれなんだよ。自分の部屋に呼んで、怪談話を聞かせるんだ 支配人:それはそれは、怖がっていました……私としても、それが楽しくてですね 刑事:怪談話かぁ、苦手だなぁ 支配人:身が凍るお話も面白い物ですよ、ふふふ…… 料理長:一番怪しいのはあんただよな。どうみても 支配人:私は、怖がらせたいだけですよ 探偵:本当に?  支配人:はい。でも、まさか殺人が起こるとは、全く思っていませんでした…… 刑事:支配人さんの立場からすると、殺人が起こった館なんて言われ始めたら、人が来なくなるわけですし、嫌ですよね 支配人:困ったものです…… 探偵:そういえば、客は二人だけ? 支配人:はい……やはり……外観のせいか、予約数も少なく 支配人:まぁいかんせん、怖さをウリにした旅館ですので 刑事:でも、こういった風情が好きな人に、ウケはいいと思いますね 支配人:ありがとうございます 探偵:ふむ。犯人候補は、一緒に居た観光客、料理長、支配人…… 探偵:もちろん、観光客が犯人……と考えるのが定石だが、料理長は果たして仕事の為だけに泊まったのか……疑わしいのが一つ、あとは支配人も……犯行現場にいなかったアリバイはない 刑事:支配人さん、監視カメラなどは? 支配人:あぁ……ごめんなさい、建物が古く、経費が足りないもので……設置はしていないんですよ……。もちろん、部屋には鍵がついていますが、防犯対策と言えど、その程度ですね…… 刑事:マスターキーは? 支配人:ロビーにあります 刑事:それを使っているのは、支配人さんだけ? 料理長:いいや、俺もだ 刑事:えっ? 料理長さんも? 料理長:接客の対応を任される時があってな 支配人:どうしても手が離せない時のために、ですね。万が一、他の仕事も出来るように、最低限のことは教えています 料理長:まったく、こき使うのがうまいもんだぜ 刑事:ふうむ……マスターキーを使って部屋に入ることも、この二人にはできてしまう……犯行は可能、か。ますます分からないな…… 探偵:とりあえず、聞ける事を聞いていこう 支配人:はぁ……殺人があった旅館と噂が広まったら、どうやって経営していけばいいのか…… 料理長:これじゃ料理のひとつも、ふるえなくなるな 探偵:お二人とも、見聞きしたことでいいので、何かありませんか? 支配人:……そういえば。こちらに来られる前、二人とも、喧嘩をしていたのかな? 怒号が飛び交っていて 刑事:え? そうなんですか? 支配人:はい。部屋の前まで来られても、まだ言い合っているので、なだめてあげたんですよ 料理長:おいおい。そんな状況でよく怪談話なんかしたな 支配人:来ていただいた方には、満足して帰っていただきたいですから。それがこの旅館のブランド価値だと思っていますので 支配人:ただ……そのあと、部屋を出たら、また口論を再開したみたいで、よほどストレスが溜まっているのかもしれません 探偵:ふうん。……その話から推察するに、二人の関係は良くなかった、か 刑事:そのようですね…… 支配人:私が話を終えて、部屋を出ていかれた後も「お前は最悪な女だ! 別の男と寝やがって!」とか言っていて 探偵:だいぶ荒れてるな 支配人:えぇ、それもすごい喧噪で…… 料理長:そうだ、思い出した 探偵:ん? 料理長:昨日のディナー、男がずっと不機嫌そうな顔しててさ、女が先に帰っても、まだ残っていて 料理長:んで、食事の片づけをするとき、ふと男の方を見たら、テーブルで……ぶつぶつ独り言を言ってて…… 探偵:へぇ。なんて言ってたんだ? 料理長:「あいつだけは絶対に許さねえ」とか「今夜殺してやる」とか……流石に冗談かと思ったけど 探偵:……ほう 料理長:あと、どこから拾ってきたんだろうかな。木の棒をひっさげて、部屋に帰って行ったのを見たんだよ 探偵:……木の棒? 料理長:ああ。たしかバットくらいの大きさだったな 支配人:もしかしたら、拾ったのかも。近くの林で、林業をしている業者がいて。その作業のあとでしょう、散らばってることが多いんですよ 刑事:そういえば、部屋の中に、へし折れた木の棒がありましたね。現場のものを回収した時に、なんでこんなところにあるか、疑問に思ったのですが……なるほど……あれは外から持ってきたのか 探偵:……えっ? 料理長:あの業者、昼頃によく作業してるんだよな。音がうるさいのなんのって 支配人:でも、この間来られて、差し入れもくれました 刑事:その業者の方は、最近は訪れましたか? 支配人:いや……見ないですね 料理長:忙しくなったんじゃねえのか? 刑事:ううむ、怪しいな。その線も洗ってみたほうがいいかもしれない 料理長:まさか、業者が? 刑事:でも、もし観光客と知り合いなら……少なからず、何かある気が 支配人:前から準備していた、計画的な犯行……ということでしょうか? 刑事:その可能性が高いですね。探偵さんも以前おっしゃっていたのですが、既に殺されたパターンもあると 料理長:既に、か……。例えば1週間前とか? 支配人:それだと、私が怪談話をしていた被害者の女性は……誰なんです? 刑事:おそらくですが、霊として出てきた可能性も、考えられます 支配人:なるほど…… 料理長:いい線いっているんじゃねえか、刑事さん 刑事:ありがとうございます……。なら、さっそく、その林業会社を調べるか…… 探偵:いや、必要ないと思う 刑事:えっ? 料理長:なんでだよ? 支配人:まさか……犯人が分かったのですか? 探偵:うん 料理長:へぇ、じゃあ聞いてやろうじゃねえか 刑事:一体……誰なんです? 探偵さん 探偵:……刑事さん、確認なんだけど 刑事:なんでしょう? 探偵:……へし折れた木の棒があったんだよね? 刑事:ええ、そうですが 探偵:現場に? 刑事:はい 探偵:……いやそれ……観光客が殺したんじゃないの? 支配人:ええっ!? 料理長:なんだって!? 刑事:待ってください! それは本当に間違いないんですか!? 探偵:いやいや確定だって。木の棒、明らかに凶器だろ 探偵:それに、さっきの証言踏まえたらさ、殺したとしか考えられないよ 探偵:あと業者関係なさすぎるし、心霊現象とか、おかしいだろ 刑事:いやでも、まだ殺したとは…… 料理長:っ! おい、支配人……お前が殺すように仕向けたんじゃないのか? 支配人:なっ、なんですか、急に! 料理長:怖い話に乗っかって、客人に変なことを吹き込んだんだろ!? 支配人:そんなわけないですよ! 信じてください! 探偵:あの、ちょっと落ち着いて…… 料理長:売上が悪くて辛いからって、何でもしていいって思ってんのか! 支配人:私は本当にしていない! そもそも、客人とは初めて会うし、私が関与する必要性がありません! 料理長:嘘つけ! 俺はな……お前が本気でこの旅館を広めたいって聞いた時から、ついていくって決めてたんだよ! なのに今はどうだ! みじめにいいわけか! 支配人:私は……私はやってない……神にかけて誓う! 支配人:本当に……私はやっていないんだ……! 探偵:いやだから観光客だって 料理長:お前の言う事は信じないぞ、探偵 刑事:落ち着いてください。ここで争っても仕方ありません 料理長:……悪い、刑事さん。ついカッとなっちまった 刑事:寝不足だと、イライラしがちですから 刑事:……探偵さん。お言葉ですが、一緒に居た観光客もまだやったと認めていませんので、早急に決めるのは、よろしくないかと 探偵:でもなぁ……証拠が綺麗に揃ってるからな 支配人:私は、その……長年この旅館を経営しておりますが、殺人などは絶対にしません。私は、この旅館に来ていただいたお客様を、幸せにしたいだけなのです 支配人:探偵さん、信じてください 探偵:信じるも何も、犯人は…… 料理長:その犯人は実際に捕まってないんだよな? 探偵:まぁ……そうだけども 料理長:だったら安心するのは早くないか? 探偵:ううむ…… 刑事:少しずつ情報は出てきているんですがね…… 刑事:ん……? 電話 0:刑事は携帯を取り出す 刑事:もしもし? ……おお、事情聴取が終わったのか。どうだった? 刑事:……え!? なんだって……! 刑事:ああ、わかった。連絡ありがとう 0:電話を切る 探偵:どうした? 刑事:同行していた観光客が……罪を認めたようです 探偵:だと思ったよ 支配人:そんな……まさか、お客様が…… 料理長:マジか……本当に、探偵の言う通りだったのか…… 支配人:……探偵さん、改めて、ありがとうございます 料理長:あんたの事、疑って悪かった……見直したよ 探偵:えっ? あ、ああ、どうも 支配人:お客様がそのようなことをした、というショックはまだ……大きいですが……営業の再開を、これから考えていかないと 料理長:実際に殺人がおこっちまったからな……どうやってその辺りを払拭していくか 支配人:それは私が考える仕事です。料理長はお客様の為に、いい料理をふるうよう、引き続きお願いします 料理長:ふっ。なら、あんたの不安がぶっ飛ぶような、いい料理を作ろうじゃないか 支配人:頼もしい限りです 刑事:とりあえず、これで解決ですね…… 探偵:そうだな 支配人:もしよかったら、また旅館にもお越しください。良かったら刑事さんと一緒にどうですか? 刑事:はは、さっきも言いましたが、怖いものは苦手で……ただ、もし、被害者の女性が化けて出てくるのであれば、しっかり供養してあげたいものです 支配人:ふふ、そうですね…… 刑事:……やはり流石です、探偵さん。今回も、ありがとうございました 刑事:また後程、報酬をお支払いいたします。今後とも、よしなに 探偵:……何しに来たんだ、俺は!

0:朝、おぞましい外観をした旅館 探偵:どうも 刑事:あぁ、探偵さん 探偵:聞いたよ。難航してるって? 刑事:はは……情けない限りです。さっそく現場、見られます? 探偵:そうだな、案内してくれ 0:現場へ到着 探偵:ここが犯行現場か 刑事:ええ。被害者の遺体や証拠品は、すでにこちらで回収しています 探偵:部屋の様子から見ると……あまり揉みあった形跡もない。おそらく何か鈍器のようなもので殴られて一発かな 刑事:流石、探偵さん。おっしゃる通りです 探偵:まだまだ序の口さ。手段が判っても、犯人を暴くのに繋げないと意味がないからな 刑事:そうですね…… 探偵:にしても、古い旅館だよな、ここ 支配人:ありがとうございます。それが、我が旅館のアピールポイントですので 0:部屋の入り口から声が聞こえた 探偵:あなたは? 刑事:この方は、支配人さんです 支配人:この度はお世話になります 探偵:どうも、はじめまして。……早速だけど、質問をいいかな? 支配人:はい、なんなりと 探偵:この旅館には、全員で何人いたんだ? 支配人:私と、泊まりに来ていたカップルの観光客、あとは食事を任せている料理長ですね 刑事:そのうち、殺害されたのは、女性の観光客です。女性は、後ろから頭を殴られ死亡。犯行時刻は夜21時から、24時の間と思われます 支配人:他のアルバイトやスタッフはいませんでした。定時にあがったので 探偵:料理長は帰らなかったのか? 支配人:ええ。泊まり込みで仕事をしてました。なにせ、仕事熱心なもので 探偵:なるほど。そしたら、観光客か……えっと 刑事:大丈夫です。こちらで先に、事情聴取をしています 探偵:仕事が早いね。なんて言ってた? 刑事:その件ですが……気が動転しておりまして、まだこれからです 探偵:ふうん。となると、まずは候補が1人か。一見、一緒に居た男性が、明らかに犯人のように見えるが…… 刑事:それで決めつけるのは良くない、でしたね 探偵:はは……。こりゃ一本とられたな 探偵:そしたら、支配人さんから聞くか、いや、料理長からにするか……あれ? その料理長はどこに? 支配人:あぁ。申し訳ない……。あの人、まだ寝てるのかな……? 料理長:呼んだか……? 0:眠そうな様子で、料理長が入ってくる 支配人:おお、起きましたか 料理長:何があったんだ? この状況 支配人:殺人ですよ 料理長:へぇ……寝ている間にそんなことが 探偵:昨日の夜から、泊まり込みで旅館に? 料理長:ああ 探偵:具体的に何をしていたんですか? 料理長:次のメニューをどうするか考えていたんだ 料理長:このまま帰ったら、いいアイデアも出てこないと思ってな 支配人:だからと言って、そこまで身を削らなくても…… 料理長:客が喜んでくれる料理を作りたいんだ。眠ってなんかいられない。それに、アイデアが浮かんでくるのは、いつだって現場なんだよ 刑事:ほんとうに、仕事熱心な方なんですね 刑事:私も現場主義なもので、お気持ち、分かります 料理長:へぇ。話が分かるな、あんた。気が合いそうだ 探偵:ふうん、眠ってなんかいられない、か 料理長:なんだよ? 探偵:いや。メニューの事以外で、眠れない事情があったんじゃないか、と思っただけだよ 料理長:あんた……俺を疑ってるのか? 探偵:別に。まだ犯人だとは思ってない。ただ、候補には入っている。 料理長:……気に入らない奴だな 支配人:まぁまぁ、落ち着いて 探偵:もちろん、支配人さんもだ 探偵:あなたは夜、何をしていたんだ? 支配人:私はスタッフの管理作業に終われていて、パソコンに向かってひたすら作業をしていました 探偵:仕事を終えた後は? 支配人:その後ですか……、実は、お客様を、私の部屋へお呼びしたんです 探偵:えっ? なんで? 支配人:せっかく来ていただいたので、怪談話をしたんですよ 探偵:怪談話?  料理長:この人、客が来た時はいつもこれなんだよ。自分の部屋に呼んで、怪談話を聞かせるんだ 支配人:それはそれは、怖がっていました……私としても、それが楽しくてですね 刑事:怪談話かぁ、苦手だなぁ 支配人:身が凍るお話も面白い物ですよ、ふふふ…… 料理長:一番怪しいのはあんただよな。どうみても 支配人:私は、怖がらせたいだけですよ 探偵:本当に?  支配人:はい。でも、まさか殺人が起こるとは、全く思っていませんでした…… 刑事:支配人さんの立場からすると、殺人が起こった館なんて言われ始めたら、人が来なくなるわけですし、嫌ですよね 支配人:困ったものです…… 探偵:そういえば、客は二人だけ? 支配人:はい……やはり……外観のせいか、予約数も少なく 支配人:まぁいかんせん、怖さをウリにした旅館ですので 刑事:でも、こういった風情が好きな人に、ウケはいいと思いますね 支配人:ありがとうございます 探偵:ふむ。犯人候補は、一緒に居た観光客、料理長、支配人…… 探偵:もちろん、観光客が犯人……と考えるのが定石だが、料理長は果たして仕事の為だけに泊まったのか……疑わしいのが一つ、あとは支配人も……犯行現場にいなかったアリバイはない 刑事:支配人さん、監視カメラなどは? 支配人:あぁ……ごめんなさい、建物が古く、経費が足りないもので……設置はしていないんですよ……。もちろん、部屋には鍵がついていますが、防犯対策と言えど、その程度ですね…… 刑事:マスターキーは? 支配人:ロビーにあります 刑事:それを使っているのは、支配人さんだけ? 料理長:いいや、俺もだ 刑事:えっ? 料理長さんも? 料理長:接客の対応を任される時があってな 支配人:どうしても手が離せない時のために、ですね。万が一、他の仕事も出来るように、最低限のことは教えています 料理長:まったく、こき使うのがうまいもんだぜ 刑事:ふうむ……マスターキーを使って部屋に入ることも、この二人にはできてしまう……犯行は可能、か。ますます分からないな…… 探偵:とりあえず、聞ける事を聞いていこう 支配人:はぁ……殺人があった旅館と噂が広まったら、どうやって経営していけばいいのか…… 料理長:これじゃ料理のひとつも、ふるえなくなるな 探偵:お二人とも、見聞きしたことでいいので、何かありませんか? 支配人:……そういえば。こちらに来られる前、二人とも、喧嘩をしていたのかな? 怒号が飛び交っていて 刑事:え? そうなんですか? 支配人:はい。部屋の前まで来られても、まだ言い合っているので、なだめてあげたんですよ 料理長:おいおい。そんな状況でよく怪談話なんかしたな 支配人:来ていただいた方には、満足して帰っていただきたいですから。それがこの旅館のブランド価値だと思っていますので 支配人:ただ……そのあと、部屋を出たら、また口論を再開したみたいで、よほどストレスが溜まっているのかもしれません 探偵:ふうん。……その話から推察するに、二人の関係は良くなかった、か 刑事:そのようですね…… 支配人:私が話を終えて、部屋を出ていかれた後も「お前は最悪な女だ! 別の男と寝やがって!」とか言っていて 探偵:だいぶ荒れてるな 支配人:えぇ、それもすごい喧噪で…… 料理長:そうだ、思い出した 探偵:ん? 料理長:昨日のディナー、男がずっと不機嫌そうな顔しててさ、女が先に帰っても、まだ残っていて 料理長:んで、食事の片づけをするとき、ふと男の方を見たら、テーブルで……ぶつぶつ独り言を言ってて…… 探偵:へぇ。なんて言ってたんだ? 料理長:「あいつだけは絶対に許さねえ」とか「今夜殺してやる」とか……流石に冗談かと思ったけど 探偵:……ほう 料理長:あと、どこから拾ってきたんだろうかな。木の棒をひっさげて、部屋に帰って行ったのを見たんだよ 探偵:……木の棒? 料理長:ああ。たしかバットくらいの大きさだったな 支配人:もしかしたら、拾ったのかも。近くの林で、林業をしている業者がいて。その作業のあとでしょう、散らばってることが多いんですよ 刑事:そういえば、部屋の中に、へし折れた木の棒がありましたね。現場のものを回収した時に、なんでこんなところにあるか、疑問に思ったのですが……なるほど……あれは外から持ってきたのか 探偵:……えっ? 料理長:あの業者、昼頃によく作業してるんだよな。音がうるさいのなんのって 支配人:でも、この間来られて、差し入れもくれました 刑事:その業者の方は、最近は訪れましたか? 支配人:いや……見ないですね 料理長:忙しくなったんじゃねえのか? 刑事:ううむ、怪しいな。その線も洗ってみたほうがいいかもしれない 料理長:まさか、業者が? 刑事:でも、もし観光客と知り合いなら……少なからず、何かある気が 支配人:前から準備していた、計画的な犯行……ということでしょうか? 刑事:その可能性が高いですね。探偵さんも以前おっしゃっていたのですが、既に殺されたパターンもあると 料理長:既に、か……。例えば1週間前とか? 支配人:それだと、私が怪談話をしていた被害者の女性は……誰なんです? 刑事:おそらくですが、霊として出てきた可能性も、考えられます 支配人:なるほど…… 料理長:いい線いっているんじゃねえか、刑事さん 刑事:ありがとうございます……。なら、さっそく、その林業会社を調べるか…… 探偵:いや、必要ないと思う 刑事:えっ? 料理長:なんでだよ? 支配人:まさか……犯人が分かったのですか? 探偵:うん 料理長:へぇ、じゃあ聞いてやろうじゃねえか 刑事:一体……誰なんです? 探偵さん 探偵:……刑事さん、確認なんだけど 刑事:なんでしょう? 探偵:……へし折れた木の棒があったんだよね? 刑事:ええ、そうですが 探偵:現場に? 刑事:はい 探偵:……いやそれ……観光客が殺したんじゃないの? 支配人:ええっ!? 料理長:なんだって!? 刑事:待ってください! それは本当に間違いないんですか!? 探偵:いやいや確定だって。木の棒、明らかに凶器だろ 探偵:それに、さっきの証言踏まえたらさ、殺したとしか考えられないよ 探偵:あと業者関係なさすぎるし、心霊現象とか、おかしいだろ 刑事:いやでも、まだ殺したとは…… 料理長:っ! おい、支配人……お前が殺すように仕向けたんじゃないのか? 支配人:なっ、なんですか、急に! 料理長:怖い話に乗っかって、客人に変なことを吹き込んだんだろ!? 支配人:そんなわけないですよ! 信じてください! 探偵:あの、ちょっと落ち着いて…… 料理長:売上が悪くて辛いからって、何でもしていいって思ってんのか! 支配人:私は本当にしていない! そもそも、客人とは初めて会うし、私が関与する必要性がありません! 料理長:嘘つけ! 俺はな……お前が本気でこの旅館を広めたいって聞いた時から、ついていくって決めてたんだよ! なのに今はどうだ! みじめにいいわけか! 支配人:私は……私はやってない……神にかけて誓う! 支配人:本当に……私はやっていないんだ……! 探偵:いやだから観光客だって 料理長:お前の言う事は信じないぞ、探偵 刑事:落ち着いてください。ここで争っても仕方ありません 料理長:……悪い、刑事さん。ついカッとなっちまった 刑事:寝不足だと、イライラしがちですから 刑事:……探偵さん。お言葉ですが、一緒に居た観光客もまだやったと認めていませんので、早急に決めるのは、よろしくないかと 探偵:でもなぁ……証拠が綺麗に揃ってるからな 支配人:私は、その……長年この旅館を経営しておりますが、殺人などは絶対にしません。私は、この旅館に来ていただいたお客様を、幸せにしたいだけなのです 支配人:探偵さん、信じてください 探偵:信じるも何も、犯人は…… 料理長:その犯人は実際に捕まってないんだよな? 探偵:まぁ……そうだけども 料理長:だったら安心するのは早くないか? 探偵:ううむ…… 刑事:少しずつ情報は出てきているんですがね…… 刑事:ん……? 電話 0:刑事は携帯を取り出す 刑事:もしもし? ……おお、事情聴取が終わったのか。どうだった? 刑事:……え!? なんだって……! 刑事:ああ、わかった。連絡ありがとう 0:電話を切る 探偵:どうした? 刑事:同行していた観光客が……罪を認めたようです 探偵:だと思ったよ 支配人:そんな……まさか、お客様が…… 料理長:マジか……本当に、探偵の言う通りだったのか…… 支配人:……探偵さん、改めて、ありがとうございます 料理長:あんたの事、疑って悪かった……見直したよ 探偵:えっ? あ、ああ、どうも 支配人:お客様がそのようなことをした、というショックはまだ……大きいですが……営業の再開を、これから考えていかないと 料理長:実際に殺人がおこっちまったからな……どうやってその辺りを払拭していくか 支配人:それは私が考える仕事です。料理長はお客様の為に、いい料理をふるうよう、引き続きお願いします 料理長:ふっ。なら、あんたの不安がぶっ飛ぶような、いい料理を作ろうじゃないか 支配人:頼もしい限りです 刑事:とりあえず、これで解決ですね…… 探偵:そうだな 支配人:もしよかったら、また旅館にもお越しください。良かったら刑事さんと一緒にどうですか? 刑事:はは、さっきも言いましたが、怖いものは苦手で……ただ、もし、被害者の女性が化けて出てくるのであれば、しっかり供養してあげたいものです 支配人:ふふ、そうですね…… 刑事:……やはり流石です、探偵さん。今回も、ありがとうございました 刑事:また後程、報酬をお支払いいたします。今後とも、よしなに 探偵:……何しに来たんだ、俺は!