台本概要

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タイトル 紫炎の魔術師~蛇神の巫女~
作者名 カタギリ  (@Kata_giriV)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男1、女1、不問2) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 商用、非商用問わず、連絡不要ですが、Xなどで呟いていただけるととても嬉しいです。こっそり聞きに行かせていただきます。
紫炎の魔術師の3作目ですが、いきなり本作からやっても問題はないと思います。
響役は女性、宗隆役は男性でお願いしたいですが、雰囲気が崩れなければ、演者の方の性別は基本不問です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
乃亜 不問 120 紫ノ宮 乃亜(しのみや のあ) 「アンティークショップ 椿屋」店長兼魔術師。女性。紫の炎をはじめとする様々な魔術を扱う。
煉次 不問 145 鳥羽 煉次(とば れんじ) 「アンティークショップ 椿屋」兼魔術師見習い。男性。武器は刀。炎の魔術を使う。父親の仇を追う。
69 蛇喰 響(じゃばみ ひびき)メガネをかけた大人しい女性。
イブキ 25 気さくな感じの女性。響に似ている?※響役が兼役。
宗隆 18 蛇喰 宗隆(じゃばみ むねたか) 響の父親。落ち着いた雰囲気。
霧洲 43 霧洲 崇明(きりす たかあき)幻術使い。掴みどころがない怪しい雰囲気。声がデカい。※宗隆役が兼役。
亡霊 4 ※宗隆役が兼役。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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紫炎の魔術師~蛇神の巫女~ 登場人物:紫ノ宮 乃亜(しのみや のあ) 「アンティークショップ 椿屋」店長 登場人物:   兼魔術師。紫の炎をはじめとする様々な魔術を扱う。 登場人物:   使い魔として炎の番犬(愛称フェンリル)を従える。 登場人物:鳥羽 煉次(とば れんじ) 「アンティークショップ 椿屋」兼魔術師見習い。 登場人物:   武器は刀。炎の魔術を使う。父親の仇を追う。 登場人物:蛇喰 響(じゃばみ ひびき)メガネをかけた大人しい女性。 登場人物:イブキ 気さくな感じの女性。響に似ている?※響役が兼役。 登場人物:蛇喰 宗隆(じゃばみ むねたか) 響の父親。落ち着いた雰囲気。 登場人物:霧洲 崇明(きりす たかあき)幻術使い。掴みどころがない怪しい雰囲気。 登場人物:   声がデカい。※宗隆役が兼役。 登場人物:亡霊 ※宗隆役が兼役。 あらすじ:世界に絶望した娘が光を見つける話。紫炎の魔術師シリーズ三作目。 本編: 響:(何度も、同じ夢を見る。 響:私は不安定な木製の足場に立っている。足元では大雨により増水した川が濁流となって暴れ狂っていて、濁った水面は底が見えない。 響:そして、両岸には牙のように鋭い岩壁がそびえ立っている。その光景は、獲物を今か今かと待ち侘びる獰猛な怪物の顎(あぎと)に見えた。 響:怯える私の隣で姉が何かを囁く。) 0:響、目が覚める 響:お姉ちゃん! 響:また、同じ夢、、、。 宗隆:響、時間だ。 響:はい。お父様。 響:(なぜ、私が生き残ってしまったのだろう。しかし、蛇の腹の底から逃げ出せない私は、死んでいるのと変わらないのかもしれない。) 響: 響:『紫炎の魔術師 蛇神の巫女』 0:椿屋の事務所にて。 乃亜:ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。 煉次:ほんと、普段の師匠と接客してる時の師匠は別人ですね。 乃亜:仕事なんだから当然だろう。アタシだって時と場合に応じて仮面を付け替えてるのさ。 煉次:仮面? 乃亜:煉次、ペルソナって知ってるか? 煉次:いえ、何ですか、それは? 乃亜:ペルソナっていうのは心理学者のユングが提唱した概念の一つ。人間の外的側面、簡単に言えば外面のことだな。もともとは古典劇で使われた仮面を表す言葉らしいが。 煉次:はぁ。 乃亜:人は外的から身を守る為にペルソナを使い分けることで周囲と上手に付き合っているってこと。 煉次:それが仮面を付け替えるってことですか。面白い考え方ですね。家族や友人、会社の同僚。俺達は様々な場面で様々な仮面を付け替えてるってことか。 乃亜:そういうこと。一つ賢くなったな。 煉次:ペルソナは二重人格とはまた違うんですか?なんとなく似ている気がしたんですけど? 乃亜:ペルソナは自ら生み出したコントロール可能な人格だから全て自分自身と言える。一方、二重人格は極度のストレスなどから発生するコントロール不可能なものだ。つまり、人格というか全く違う人間が一つの肉体に存在することになる。 煉次:ペルソナが暴走してしまったのが二重人格とか多重人格ってことなんですかね? 乃亜:そうとも言えるか。まあアタシはその道に関しては専門外なんだが。 煉次:なんか可哀想ですね。元は自分自身なのに主人格から切り離されてしまうのは。 乃亜:別人格も自分自身として認めることができればペルソナに戻せるという話もあるが、そう簡単にはいかんだろうな。 0:間  乃亜:そろそろ郵便の時間か。見てきてくれ。煉次。何か依頼が来てるかもしれない。 煉次:わかりました。 0:間 煉次:師匠宛に手紙が届いてましたよ。 乃亜:サンキュー。んーなになに、ほうほうほう。 煉次:何かの依頼ですか? 乃亜:煉次君。旅行は好きかい? 煉次:どこかに飛ばされるんですか?俺? 乃亜:違うよ。出張だ。準備を頼むよ。 煉次:急ですね。いつからですか? 乃亜:明日からだ。 0:列車の中 乃亜:たまには鈍行列車も乙なもんだね。 煉次:鈍行にも程がありませんか?何時間走ってると思ってるんです? 乃亜:そうでも言ってないとやってらんないっての。今月資金繰りが厳しいからしょうがないでしょうが。 煉次:師匠が必要経費だとか言って豪遊し過ぎだからですよ。まずは弛んだ食生活から見直さないと。毎日高いスイーツ買うの禁止ですからね。 乃亜:えぇー!?それはあんまりだ!私から細やかな楽しみを奪うんじゃないよ!ストライキしてやる! 煉次:ストライキって。あなたはされる方でしょう。あ、やっと到着だ。 乃亜:手紙によると依頼主が駅まで迎えにきてくれるそうだ。その間にアタシはちょっと買い物してくる。 煉次:そんな時間ありますか? 乃亜:大丈夫だよ。約束の時間までまだ余裕あるから。ご当地名物でも買ってこよっと。 煉次:早っ。お金ないって言ったそばからこれだ。一筋縄ではいかないのが師匠だけど。 0:女性とぶつかる煉次。 煉次:あっ、すいません。大丈夫ですか? イブキ:ああ私は大丈夫よ。ごめんなさい。こっちも不注意だったわ。 イブキ:あら?君、あまり見ない顔ね。 煉次:ええと、こちらにはシゴ、、、いや、観光で来てまして。 イブキ:そうだったんだ。この町はこぢんまりとしてるけど、いい茶葉が取れるし、水は澄んでるし。割といいところだよ。あと何と言ってもマスコットキャラのナギちゃんが可愛い! 煉次:な、なるほど。お詳しいですね。 イブキ:まあね。私は地域雑誌のライターもやってるから他の住人よりもこの土地に詳しいんだ。 煉次:ライターさんだったんですね。僕は物書きは全くできないので尊敬します。 イブキ:私は趣味の延長線みたいなものだから有り難くやらせてもらってる。 イブキ:私はイブキ。仕事でこの町をウロウロしていることが多いから、何か知りたいことがあったら何でも聞いて。それじゃあ、またどこかで。 煉次:俺は鳥羽煉次です。ありがとうございました。 0:乃亜が買い物から戻る。 乃亜:いい買い物ができた。抹茶系のお菓子は至高だな。 煉次:またそんなに買い込んで。 乃亜:いいの、いいの必要経費。おっ、依頼人が来たみたいだぞ。 0:宗隆、登場。 宗隆:こんにちは、はじめまして。紫ノ宮様ですね?依頼した蛇喰宗隆と申します。よろしくお願いします。 0:蛇喰邸に到着。 宗隆:改めまして。ようこそ、いらっしゃいました。 乃亜:いやぁ、まさかこんな素敵なお屋敷にお招きいただけるとは。 宗隆:ただただ古いだけですが、ありがとうございます。 乃亜:早速本題なのですが、お嬢様が訳ありとの事でしたね。 宗隆:はい、先に見ていただいた方が早いと思います。 宗隆:響、入りなさい。 0:響、部屋に入る。 宗隆:こちらが娘の響です。 響:響と申します。この度はご足労いただきありがとうございます。 乃亜:これはこれはご丁寧に。紫ノ宮乃亜と申します。よろしくお願いします。 煉次:あれっ?あなたは?先程の? 響:?。どこかで、お会いしましたか? 煉次:あれっ?、、、すいません。記憶違いのようです。(イブキさんかと思ったけど、別人か。それにしてもよく似てる。) 響:、、、。 乃亜:こらこら、煉次君ったら。ナンパは他所でしなさいよ。今は仕事中だぞ? 煉次:ち、違いますよ! 乃亜:おいおい、そんなマジトーンで来られると困るだろうが。冗談だよ、冗談。 煉次:(ため息) 宗隆:ははは、先生も冗談を言われるんですね。高名な魔術師と聞いてもう少しお堅い方かと。 乃亜:そんな大層なものではございませんよ。確か蛇喰家も魔術師の家系なんですよね? 宗隆:かつてはと言うのが正しいですね。今はその魔術の殆どが失われていますから。私も魔術に関しては疎くて。 乃亜:そうでしたか、失礼。話の腰を折ってしまった。 宗隆:では、話を戻しましょうか。響、お見せしなさい。 響:、、、はい。 0:響、着物を少しずらし背中を見せる。 煉次:えっ、ちょ、何をして!? 乃亜:これは、ひどいですね。 煉次:えっ、、、背中に蛇のような痣が、いくつも。 宗隆:医者に診てもらったのですが、全く原因がわからないのです。魔術的な類のものではないかと思いましたが、先程申し上げた通りで私には皆目検討がつかず、知り合いの伝手で先生の噂をお聞きして依頼したのです。 乃亜:ふむ、まだ憶測の域を出ませんが、この痣から察するに、蛇に由来するものであることは明らかでしょう。何か心当たりはありませんか? 宗隆:実は私の母、響の祖母がかつて裏山の奥地にあった村の出身なのですが、そこでは蛇神信仰が残っていたようです。 宗隆:それが関係しているのではないかと。 乃亜:蛇神。関係なくはないでしょうね。 乃亜:あったということはその村はもう存在していないと? 宗隆:はい。大洪水による土砂崩れの下敷きになってしまいました。母は数少ない生き残りだそうです。 乃亜:因みにお母様にお話をお伺いする事は可能ですか? 宗隆:実は母はすでに亡くなっておりまして。 乃亜:そうでしたか。失礼しました。では、まず手始めに明日、現地調査に行ってみます。 宗隆:えっ?ですが、あそこはもう何もありませんし、人が立ち入れるような場所ではありませんよ? 乃亜:私にとってはその方がかえって好都合なので大丈夫ですよ。お任せください。蛇喰さんには報酬さえ用意していただければ。 宗隆:わかりました。蛇神に由来する魔術書でまだ残っているものがございますので、そちらを差し上げましょう。それなりに期待がもてる代物かと思います。 乃亜:ほお、それは興味深い。 0:その夜、乃亜の宿泊部屋。 煉次:師匠、あんな安請け合いしてよかったんですか?手がかりも多くはない訳ですし。 乃亜:アタシには十分だよ。村がなくなっていたとしても、土地の霊脈は残っているだろうから、そこから幾らか探れるだろうさ。 煉次:じゃあ明日はフィールドワークですね。俺は早目に休んで備えようかな。 乃亜:現地には私一人で向かうぞ。 煉次:え?俺は何をしていればいいんですか? 乃亜:お前は町で情報収集担当だ。図書館とかで関係ありそうな郷土資料や地方紙を調べてほしい。流石にそこまで手が回りそうにないからな。、、、面倒くさそうだし(小声) 煉次:はいはい、厄介ごとはお任せを。 乃亜:よーし、じゃあ夜に報告会するからな。 0:翌日、煉次、調査に出かける前。庭の東屋に腰掛ける響を見かける。 煉次:おはようございます、響さん。 響:あ、おはようございます、ええと、、、。 煉次:あ、鳥羽煉次です。 響:すみません。名前を覚えるのが苦手で。 煉次:ああ、大丈夫ですよ。昨日の今日では、なかなか覚えられないですよね。 響:、、、これからお出かけですか? 煉次:はい、師匠とは別行動なんですけどね。 響:依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます。 煉次:お役に立てるように全力を尽くします。 響:よろしくお願いします。 煉次:おや、読書中でしたか?本がお好きなんですね。 響:ええ、読書をしている時は嫌なことも一時的に忘れられるので。 煉次:なんかわかります。本の世界に没頭するのは良いものです。 響:はい、姉より出来の悪い自分はその世界には存在しませんから。 煉次:ああ、、、お、お姉さんがいらっしゃるんですか? 響:いた、というのが正しいですね。十年程前に亡くなりました。 煉次:そうだったんですか、、、。 響:もう随分前の事なので気にしないでください。 煉次:お姉さんはどんな方だったんですか? 響:こんな私をいつも気にかけてくれるような優しくて明るい姉でした。 煉次:素敵なお姉さんだったんですね。 響:はい、本当に。、、、私が代わりに死んだ方が、良かったと思います。 煉次:、、、お姉さんは、あなたが平穏無事に過ごしてくれた方が喜んでくれますよ。きっと。 響:知ったようなことを言わないで。 煉次:、、、すみません。 響:、、、。 煉次:、、、。 響:、、、ごめんなさい。失礼な言い方をしてしまいました。気を遣ってくださったんですよね。 煉次:ああ、いえ。ではそろそろ出かけてきます。 響:お気をつけていってらっしゃいませ。 煉次:(気まずい空気にしてしまった。でも、お姉さんは亡くなっているということは、やっぱりイブキさんとは他人の空似なのかな?) 0:煉次、図書館にて。 煉次:うーん、蛇神を祀る祭事とかの資料は出てくるけど、事件性がありそうなのは中々見つからない。アプローチを変えたほうがいいかな、、、。 イブキ:観光中に歴史のお勉強なんて真面目なのね、君は。 煉次:うわっ、て、イブキさん!?どうしてこんなところに? イブキ:しーっ、図書館では、お静かに。 煉次:あっ、すいません。 イブキ:ふふっ、君の方こそ、どうしてここに? 煉次:あ、いや、、、。すみません。嘘をつきました。あまり詳細な事は言えないんですが、 仕事でこちらまで来たんです。 イブキ:あら、そうだったんだ。見たところ蛇神様について調べてるのね。 煉次:ええ。蛇神じゃなくても、蛇に関連した事件の記事なんかが見つかればよかったんですけど。 イブキ:それなら心当たりがあるけど、私が教えてあげようか? 煉次:本当ですか!?それは助かります。 イブキ:ただし、私のお願いを聞いてくれるならの話だけどね。 煉次:はい、俺にできることなら。 0:町のカレー店『夕凪亭』にて。 煉次:何でこんなところにいるんだ?俺は? イブキ:ここのお店ね。他所からも沢山お客さんが来るくらいの人気店なんだけど、ここの激辛ヤマカガシ級カレーを食べ切れたら豪華賞品がもらえるらしいの。でも私、辛いのそんなに得意じゃなくてさ。誰か代わりに手伝ってくれないかなと思ってて。 煉次:ヤマカガシ級というのは不穏な空気を感じますが、辛いものは多少得意なので頑張ります。 0:カレー到着。 煉次:うっ!?(何だ!?この見るからに殺意マシマシな赤色は?すでに汗が噴き出してるし、スパイス?のせいか、目が痛い!?) イブキ:わぁーお!これはアメイジングなカレーね! 煉次:(楽しそうだな、この人。) イブキ:レンジくん!ファイト!お姉さん、応援してるぞ! 煉次:これは仕事なんだ、仕事、仕事。いざ、尋常に、、、。 0:その後 イブキ:すごい!すごいよ!レンジ君! 煉次:た、食べ物に殺されかけたのは初めてですよ、、、うぷっ。 イブキ:ぷっ、あははは。唇が、タラコみたいに。くくく。 煉次:、、、。(ムスッとしている) イブキ:笑い過ぎた、ごめんね。でもナイスファイトだったよ。おかげで我が町の誇るマスコットキャラクター、ナギちゃんのありがたーい置物もゲット出来たし、ありがとう。超嬉しい! 煉次:このゆるい感じで本当にご利益あるのかな。(ため息)それで例の件、教えていただけますか? イブキ:もちろん。それは十年前に起きたとある水難事故なんだけど。 煉次:(また十年前か。)もしかして誰か亡くなったんですか? イブキ:ええ、残念ながらね。小学生の女の子が川に流されてしまったの。昔ほどではないけど、この土地にはまだ蛇神様への畏怖が残ってる。事故のことは蛇神様の怒りだって巷で騒がれてたわ。 煉次:蛇は水の神や川の神と呼ばれることもあるから水難事故と紐付けられてしまったということか。 イブキ:そうかもね。 煉次:、、、あの、その女の子には姉妹がいたとか聞いた事はありませんか? イブキ:そこまでは、ごめんなさい。個人情報の関係でわからなかった。 煉次:いえいえ。役に立ちそうな情報はいただけたので助かりました。 イブキ:どういたしまして。ただ、水難事故のことはこの町ではまだデリケートな話題だから気をつけてね。 煉次:わかりました。気をつけます。 イブキ:さてと、そろそろ私も仕事に戻ろうかな。サボりすぎると怒られちゃうから。 煉次:ははは、俺はもう少し調べていこうと思います。本当にありがとうございました。 イブキ:大したことじゃないわ。でも、今日はとっても楽しかったわ。また会えるといいわね。 煉次:もう激辛はこりごりですけどね。 イブキ:ふふふ、次はとびっきり甘いものでも食べましょ。それじゃあね。 0:裏山にて。 乃亜:ここが例の大洪水があった現場か。本当に村なんかあったのかってくらい跡形も残ってない。確かに人の足でここまで来るのは骨が折れるな。 乃亜:とりあえず、霊脈でも探ってみるか。 0:乃亜、掌を地面にかざす。 乃亜:『オシラ・解析開始』 乃亜:ふむ。微かな魔力は感じるが、蛇神程のものは残ってないな。じゃあ、あの娘の痣の原因は他にあるか? 乃亜:もう少し調べてみないとわからないな、、、あー面倒だ。やっぱり煉次も連れてくればよかった。 乃亜:という訳で悪いがもう少しだけ覗かせてもらうよ。ん? 0:突如、何十体の亡霊が出現する。 亡霊:(唸り声) 乃亜:おいおい、百鬼夜行の時分には早過ぎるんじゃないかい?見られちゃまずい物でもあるみたいだ。 乃亜:丁度いい。ウチの使い魔の餌になってもらおうか。腹を空かせて不貞腐れてたところだ。 乃亜:フェンリルも本調子じゃないから、ついでにアタシもウォーミングアップさせてもらおう。 乃亜:『テイワズ・エワズ・イングス、身体強化』アタシの拳は痛いぞ。 亡霊:(唸り声) 0:乃亜が魔力を込めた拳で亡霊たちを次々と打ち倒していく。 乃亜:あははは、殴り合いは気持ちがいいねぇ!いや、これじゃあただの打ち込みか。お前達も打ち込んできていいんだぞ。できるもんなら。ふふふ。 亡霊:(唸り声) 乃亜:ほらほら、これで、フィニッシュだ! 亡霊:(消え入るような唸り声) 乃亜:ふぅー良い汗かいた。ルーンはシンプルなのがいい。長い詠唱はあまり好みじゃないんだよな。どっかの弟子は好きみたいだが。 乃亜:それにしても亡霊共め、勝手に出てきて勝手に消えやがって。手掛かりやアイテムの一つや二つドロップしていけってんだ。 乃亜:まあ、ゲームみたいにそううまくはいかないか。でも、このやり口は、、、。念の為、ラブレターでも残しておいてやろう。 乃亜:『アンサズ・我が言の葉を示せ』 乃亜:これで良しと。あー面倒くさい、面倒くさいが、勤勉なアタシはもう少し調査を続けるのであった。 乃亜:『オシラ・ダガズ・解析再開』 0:乃亜、過去視の魔術を行使する。 乃亜:解析完了。ふー疲れた。だが、これで大まかな出来事はわかった。ラブロマンスが一本作れそうな内容だったが、何を見せられてるんだか。帰って一休みしよう。 0:屋敷、乃亜と煉次の報告会。 乃亜:あははははは。煉次、お前、その顔、蜂にでも刺されたのか、ふふふ。 煉次:、、、これは名誉の負傷です。情報はちゃんと手に入れてきましたよ。 乃亜:くくく、そうか、でかしたぞ、ぷっ、くふふふ。 煉次:笑い過ぎですよ。 0:煉次の報告の後。 乃亜:十年前の水難事故ねぇ。 煉次:おそらく被害者の女の子は響さんの姉妹ではないかと思いまして。 乃亜:その辺りは本人に聞いてみるしかないが、なかなかデリケートな話だな。 乃亜:じゃあ次はアタシの報告。蛇喰家は代々、蛇神信仰における巫女を務めていたようだ。 煉次:そうなんですね。どうやって調べたんですか? 乃亜:まあ、アタシくらいの魔術師なら、土地の霊脈に触れて過去視をするくらい造作もない。 煉次:(過去視って、しれっととんでもないことしてないか?この人?)し、師匠は探索系の魔術も得意なんですね。 乃亜:得意って訳でもないよ。過去視なんてVHSよりも荒い画質を超高速で巻き戻してるようなものだ。とても疲れる。 煉次:ぶいえいちえすって何ですか? 乃亜:はぁ!?VHS知らないの? 煉次:知りませんよ。ぶいえいちえす。 乃亜:これがジェネレーションギャップってやつか。地味に効いたよ。 煉次:で、結局何なんです?ぶいえいちえすって?あと巻き戻しっていうのも、、、。 乃亜:ああーそこはどうでもいいんだよ!過去視なんて便利なものじゃないってことだ! 乃亜:コホン、話を戻すが、蛇喰氏が語っていた大洪水の件だが、当時の村にはまだ生贄の慣習が残っていたそうだ。 煉次:生贄、、、物騒なワードだ。 乃亜:大洪水の直前にもその生贄の儀式が行われようとしていたんだが、失敗した。 煉次:それはなぜですか? 乃亜:巫女と生贄が駆け落ちしたんだ。 煉次:えっ!? 乃亜:その生贄は運悪く村に迷い込んでしまった旅人の青年だった。しかし、青年と巫女は儀式までの数日間、言葉を交わすうちに恋仲になっていく。そして駆け落ちを計画したんだな。 煉次:なんだか急展開ですね。 乃亜:吊り橋効果。危険な恋ほどよく燃えるものさ。 煉次:そうですか。 0:乃亜の語り口が大袈裟な感じになってくる。 乃亜:しかし、危険な恋路、一筋縄ではいかない!計画に気づいた村人達が二人を追った!多勢に無勢!二人は崖に追い詰められてしまう!絶対絶命の二人!恋の行方はどうなってしまうのか! 煉次:楽しそうですね、師匠。 乃亜:万事休すかと思った、その時、大雨で発生した濁流が村人達を飲み込んだんだ。しかし、なんと二人だけは奇跡的に助かった!愛の力って素晴らしい! 煉次:その二人がもしかして? 乃亜:うむ、おそらく蛇喰家の関係者だろうな。 煉次:なるほど、、、でも、それだと蛇喰家には蛇神の呪いというよりは加護がかかっていませんか?二人は助かってる訳ですし。 乃亜:そこなんだよな。ご先祖様からの呪いって訳ではなさそうだから。あの痣の原因は蛇神の呪いではないと思う。 煉次:なんだか、ますますわからなくなってきましたね。 乃亜:となると自然と答えは絞られてくるんだけど。 煉次:え、何ですか? 乃亜:ま、お前は優しいからな。 煉次:それ関係あります? 乃亜:大いにある。あ、そうだ。あちらにラブレターを送っておいたから、アタシの予想通りなら今夜にも方はつくよ。 煉次:は?ラブレター?何で? 乃亜:さて、我々もこのくだらん茶番劇の終幕を見届けに行こうじゃないか。 0:夜中、煉次の部屋に忍び寄る、響。 響:この人を贄にすれば、私は解放される。この刃を突き立てれば、全て、終わる。 響:なのに、どうして、手が震えるの。覚悟してここまできたのに。 0:乃亜と煉次、登場 乃亜:現代人は何かと嫌なことがあれば、すぐ殺す殺す言うものだが、実際、殺人事件なんてのは言うほど簡単に発生しないだろう?。 響:え!? 乃亜:人間はその衝動を理性で抑えられる生き物だからだ。それを可能とするのは、理性を超える強い負荷をかけられた時か、あるいは元々タガが外れていたか。 響:なぜ!?気づいていたの? 乃亜:手がかりを探れば探るほど、蛇神の呪いの線が薄くなっていった。となれば痣自体が自作自演じゃないかという考えに至るのは難しくない。 煉次:響さん、どうしてこんなことを。 響:私は、私は、殺すつもりは、、、いや、殺さないと、、、私は。 乃亜:ふむ、この錯乱状態、おそらく幻術にかけられてるな。 煉次:幻術? 乃亜:おい、そんなところで高みの見物決め込んでないで出てきなよ。ラブレターは受け取ってくれたんだろう? 0:蛇喰氏が物陰から現れる。 宗隆:まさかルーンによる伝達とはまた古風な術を。それにしてもこんなに早くバレてしまうとは残念です。もう少し楽しんでもらおうと思っていたのですが。 煉次:蛇喰さん!? 乃亜:いや、こいつは蛇喰氏の皮を被った別人だ。 煉次:え!? 宗隆:ほう。 乃亜:亡霊共にアタシを襲わせたのは蛇足だったね。あんな趣味の悪い死霊魔術を使うのは、アタシの知る限り一人しか思い浮かばない。お前の正体は、霧幻(ムゲン)の魔術師、霧洲 崇明(キリス タカアキ)。 宗隆:く、く、く。 0:蛇喰の姿が別人に変わっていく。 煉次:姿が変わって!? 響:お、とうさ、ま? 霧洲:くふふふ、ふはははははは!御名答!さすがは紫炎の魔術師!紫ノ宮 乃亜! 乃亜:ちっ、相変わらず五月蝿いやつだ。 煉次:師匠、あの人は誰なんですか? 乃亜:かつて同じ学院で魔術を学んだ同期だ。まったく、あんなのが同期だって思うと反吐が出る。 霧洲:くくく。相変わらずつれないですね、紫ノ宮さん。 響:あなたは誰!?お父様はどこ? 霧洲:おやぁ?何をおっしゃいますか、響さん。貴方の目の前で始末して差し上げたではありませんか? 響:嘘、、、そんな、、、。 霧洲:むむ?少々、術が効き過ぎましたか。記憶に齟齬があるようですね。 煉次:なんてことを。 霧洲:何はともあれ、むしろせいせいしたのではありませんか?あんなに酷い仕打ちを長年受け続けてきたのです。殺意の一つや二つ沸いてもおかしくはない。 響:ち、ちがう!死んで欲しいだなんて。 霧洲:私は知っていますよ。貴方がどのような扱いを受けてきたか。自らの魔術の研鑽のために実の娘をまるで実験動物のごとく使い倒してきた彼奴の悪業の数々。 霧洲:言葉に出すのも憚られるほどです。涙無くして語れません。 響:や、めて。 霧洲:私は貴方の思いを代弁したのですよ。こんな苦しみから解放されて楽になりたいという心の叫び。 響:それ、は。 霧洲:故に!その願望を実現して差し上げたまで!かの者の死という形で! 響:ちがう、私は、そんなこと望んで、なんか。 霧洲:自分の心に素直におなりなさい、響さん。彼は貴方が殺したも同然なのですから。 響:わ、私が、ころした? 煉次:響さんはやってない!あいつ、何を言って!? 霧洲:如何にも。貴方は人殺しだ。世界は人殺しに優しくはない。もはやこの世界に貴方の味方は一人もおりません。 響:味方は、いない。 霧洲:ですが!貴方が受けた仕打ちを思えば手を差し伸べなかった全てに!世界に!復讐する権利がある。 響:復讐する、権利? 霧洲:そうです。私がまた力を貸して差し上げましょう。 煉次:もうやめろ! 乃亜:そこまでだ。霧洲。お前のくだらん茶番劇には飽きた。 霧洲:いーや、ここからが本番ですよ、紫ノ宮さん。 響:わたしは、ひとごろし、せかいの、てき、だれも、わたしを、たすけては、くれない。 そんなせかいは、そんなせかい、、、こわしてしまえばいいんだ。 0:響の周りに悍ましい魔力が満ちる。 煉次:師匠!響さんから異様な魔力が! 乃亜:霧洲め。あいつの吐く言の葉は呪いだ。あの娘の闇を刺激してしまったか。 響:全て、なくなってしまえばいいんだ。あは、あはははははは! 0:響の周りに人の身の丈以上の大蛇が次々と召喚される。 霧洲:くはははは、素晴らしい!私が思っていた以上に彼女の闇は深かったようです! 乃亜:構えろ、煉次。 煉次:くそっ、響さん、、、。 響:あははははは! 乃亜:おい、バカ弟子。呑気に呆けてたら死ぬぞ。 煉次:くっ、生成、抜刀! 0:乃亜はフェンリルを召喚し、煉次は炎の剣で大蛇の大群を斬り伏せていく。 乃亜:喰らえ、フェンリル。 煉次:はあああ! 霧洲:くふふ、威勢は良いですが、いつまで保ちますかねぇ。 響:消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ! 煉次:くっ、斬っても斬っても際限なく大蛇が出てくる! 乃亜:確かに、これは些か面倒だね。 乃亜:とはいえ、一気に燃やし尽くそうものなら、あの娘がただじゃ済まないだろう。 煉次:じゃあ、どうすれば!? 乃亜:何とかして術者である彼女を鎮めるしかない。 霧洲:説得しても無駄ですよ。彼女は現世(うつしよ)を憎む復讐者と成り果てた。かのヤマタノオロチにも負けず劣らずの莫大な魔力!最早何者も彼女を止められますまい。ふははははは。 乃亜:五月蝿いんだよ!お前は!、、、煉次、一つ策があるんだが。 煉次:やれることは何でもやります。 乃亜:よし。役割分担だ。これほどの魔力を帯びた大蛇共に対処するのはアタシの方が適任だろう。それで彼女の説得はお前に任せる。 煉次:あの状態で話が通じるでしょうか? 乃亜:このルーンを刻んだ石を持っていけ。霧洲の呪いに対抗できるだろう。 0:煉次、ルーンの刻まれた魔石を受け取る。 煉次:どう説得すればいいんですか? 乃亜:彼女は自分の存在価値に揺らぎが生じている状態だ。それを安定させろ。この間、講義してやったことを思い出せ。ヒントはペルソナ。そこに勝機がある。 煉次:ペルソナ、、、。 乃亜:下手に考え過ぎなくていい。お前の口から自然に出てくる言の葉を伝えろ。 煉次:やるしかない。 乃亜:頼んだぞ、煉次。 乃亜:さーて、アタシも少々本気を出してやるよ、クソペテン師。 霧洲:くふふふ、久方振りに貴方の素晴らしい力を拝見できそうだ。 乃亜:さあ、くだらない同窓会の時間だよ! 霧洲:いざ、愉しみましょう! 0:乃亜 対 霧洲 乃亜:ほら、さっさと使い魔も出しなよ。モタモタしてるとお前から燃え滓になってしまうよ! 霧洲:そう焦りなさるな。 霧洲:さあ!無念のうちに散った勇敢なる先人達よ!怨讐を抱きて蘇りたまえ! 0:亡者の軍勢が現れる。 乃亜:『カノ・ソウェル・焼き尽くせ!』 霧洲:くははは!流石!ルーン魔術の腕前も一級品だ!これだけでは壁にもなりませんか。ならば圧倒的な数の暴力で蹂躙するまで! 0:さらに亡者と大蛇が大量に召喚される。 乃亜:ちっ馬鹿の一つ覚えみたいに増やしやがって。 霧洲:これで五分五分に持ち込めましたかな? 乃亜:すぐにひっくり返してやるよ。ウチの弟子を舐めるな。あいつは必ずやり遂げるぞ。 霧洲:なにやら説得を試みてるようですが、あの娘の闇は相当なもの。簡単にはいきませんよ。 0:間 霧洲:そういえば新しいお弟子さん、兼光氏に似てますね。 乃亜:あん?あいつの息子だからな。 霧洲:ほう、独り立ちされたんですね。彼。 乃亜:違う。あいつは何年も前に死んだ。 霧洲:んん?先日、四国で見かけたのは別人でしたか? 乃亜:何!?つまらん冗談吐きやがるとお前から灰にするぞ。 霧洲:おや、これはやぶ蛇でしたか? 霧洲:まあ信じる信じないかは、貴方次第ですが、くふふ、くははははは! 乃亜:(兼光が生きてる?) 乃亜:いや、今は目の前の事に集中しろ。 0:響と対峙する煉次。 煉次:響さん、もうこんなことはやめましょう。 響:黙れ、こんな世界、私諸共なくなってしまえばいい。 煉次:滅ぼす必要はありませんよ。世界も、あなたも。 響:また説教か。忌々しい奴。 響:魔術の素養がない私はなんでもできる姉と違っていらない存在なのよ。 煉次:お姉さんってもしかしてイブキさんという名前ではありませんか? 響:何故それを、あなたが?、、、くっ、イブキめ、また勝手に出てきて邪魔をしていたのね。 煉次:やはり、イブキさんはあなたと同一人物なんですね。 響:そうよ。今更隠す必要もない。 響:姉が死んだことで、父は私に蛇神の魔術を引き継がせるため無茶な秘術を施した。蛇毒に全身を蝕まれているような強烈な痛み、蛇が身体中を這いずり回るようなあの悍(おぞ)ましい感覚はいまだに忘れられない。 煉次:なんてことを、、、。 響:その責苦を乗り越えるには姉さんのような強い精神力が必要だった。そこで作り上げたのがイブキという人格。しかし、蛇神の魔力と混ざり合った人格は私のコントロールを離れて動き出すようになり、記憶が飛ぶことが増えていった。私の身体から私自身が消えてしまうのではないかと怖くなった。やはり私はいらない存在だったのだと絶望した。 煉次:違いますよ。 響:まだ言うつもり!?あなたに何がわかるの!? 煉次:俺はイブキさんと何回か話をしました。 煉次:彼女はあなたを止めたかった、救いたかったんだと思います。 響:また知ったような口を! 煉次:いえ、これは言わせてください。 煉次:響さん、言ってましたよね。生前のお姉さんは優しい人だったって。 響:それは、、、。 煉次:あなたの作り上げたイブキさんにもその優しさは受け継がれていたと思う。心配していたんですよ。自分の存在価値を否定し続けるあなたを。それにつけ込まれて堕ちていくあなたを救おうと、俺に助力してくれたんだ。 響:私は、そんなことしてもらえるような人間じゃない。価値がない。私が姉さんの代わりに死ねばよかったのに。 煉次:それでも残されたのはあなただ。彼女じゃない。その事実は変えられない。 響:うっ、、、。 煉次:あなたは、あなたの人生を歩めばいいんですよ。お姉さんとは違う、あなた自身の。 響:私、自身の。 煉次:はい、あなたの人生はあなたのものだ。 響:こんな汚れてしまった私なんか生きてていいはずがない。 煉次:あなたは汚れてなんかいない。お姉さんのような優しい綺麗な心を持ってる。 響:、、、優しい?私が?。 煉次:ええ。でなければイブキさんみたいな人格は作れないと思います。それも元々はあなた自身なんだから。 響:! 、、、本当に、私は、生きてていいのかな? 煉次:何度でも言いますよ。生きてください。響さんが生きててくれたら俺も嬉しいです。 響:う、ううう、、、。 0:次々と現れていた大蛇の大群が消えていく。 霧洲:何!?大蛇の召喚が止まった!? 乃亜:ひゅー、やるじゃないの。 響:、、、あなたって、不思議な人ね。 煉次:そうですか? 響:ふふ、そうよ。変な、人。 0:響が気を失って倒れそうになるところを煉次が受け止める。 煉次:響さん!響さん!しっかりしてください! 乃亜:大丈夫。気を失ってるだけだ。 乃亜:あれだけ使い魔を召喚して膨大な魔力を消費したんだ。仕方あるまい。 煉次:はぁー良かった。 霧洲:良くない!おのれ、見習い風情が小賢しい真似を! 乃亜:作戦大成功ってところだな。煉次はその娘と一緒に少し離れてろよ。そろそろこのバカにお灸を据えてやらないと。 霧洲:くっ!? 乃亜:お前の悪趣味な演目も終幕だぞ、霧洲? 霧洲:いやはや、紫ノ宮さん。久々の再会に歓喜の余りはしゃぎ過ぎてしまったということで見逃してもらえませんか? 乃亜:竜頭蛇尾ってやつだな。最初の威勢はどこへ行ったんだか。 乃亜:まあ同じ釜の飯を食った同期だし、多少は譲歩を、、、。 霧洲:おお! 乃亜:なんて言うとでも思ったか?人一人殺してる分際で? 霧洲:ぐっ、それは、なんというか。苦しい境遇に耐えかねていた響さんをお救いしたまでで。 乃亜:それに、私の大切な愛弟子も殺させようとしてたよな? 霧洲:そうすれば、響さんの闇が深まりさらに大きな魔力が見込めると、、、。 乃亜:もういい。喋るな。吐き気がする。 霧洲:ぐぬぬ。 乃亜:人命を軽視しがちな魔術師が倫理や道徳を問うのもおかしな話だが。 霧洲:そ、そうですとも。我々魔術師にとって魔術を極めることこそが本懐。その前には命も紙屑同然でしょう。私の行いはまだ人助け、そう!人助けの範疇とも言えるではありませんか!? 乃亜:それとこれとは別の話だ。調子に乗るなよ、外道が。 乃亜:余所者が勝手に家庭の事情に首を突っ込むな。 霧洲:ぐっ、万事休す、絶対絶命と言ったところですか? 乃亜:その通りだよ。同期のよしみだ。最後の懺悔を聞いてやる。 霧洲:少々手心を加えてはいただけませんか、同期のよしみで? 乃亜:うん、無理。 霧洲:ですよね、は、はは、は、、、。 乃亜:さあ、フィナーレだ!火種となって盛大に燃え尽きな! 乃亜:『アンサズ・カノ・ソウェル・塵芥になるがいい!』 0:紫の爆炎が起きて一瞬にして霧洲を包み込む。 霧洲:ぐおおおおお!! 乃亜:あははははは!! 乃亜:もっと良い声で鳴きな!アタシを愉しませろ! 霧洲:ぐあああああ(っと、つい勢いで叫んでしまいましたが、残念!この肉体は身代わりの幻術!この隙にさっさとお暇してしまいましょう!) 乃亜:知ってるよ。どうせその身体も幻術か何かで本体はここにはいない。 霧洲:ぬ!? 乃亜:あまりアタシを舐めるなよ。 乃亜:直接焼きを入れられないのがムカつくが、特別サービスだ。術者に少しばかり貫通ダメージを与える術式を組んでみた。死にはしないだろうが、しばらく痛みでのたうち回ることになるだろうな。 霧洲:そんな!? 乃亜:これにて同窓会はお開き。地獄の二次会は一人でやってな。 霧洲:おのれ!紫ノ宮ぁ!あついぃぃ!ぐああああぁぁ! 乃亜:バイバーイ。 煉次:(こうして、夢幻の魔術師、霧洲崇明が引き起こした事件は幕を下ろした。) 0:数日後 煉次:見送りなんかよかったのに。 響:いいえ、これくらいさせて。本当にお世話になったんだから。 煉次:俺は師匠に比べたら大したことしてませんよ。 乃亜:素直に喜んでおきなよ。お前も頑張ってたじゃないか。なんだっけ?『響さんが生きててくれたら、俺も嬉しいです。キリッ』だっけ? 煉次:ちょ!?やめてくださいよ!恥ずかしい! 響:ふふふ、でもカッコよかったよ。煉次君。 煉次:ええ!?  乃亜:おいおい良かったな!煉次君!あら?あらあら?顔が赤くなってるぞ? 煉次:み、見ないでください! 響:ふふ、忘れないうちに、こちら今回のお礼です。 煉次:こんなに沢山の魔術書いいんですか? 響:うん。私はもう頭に入ってしまってるから。 乃亜:どれどれ。おおーこれはなかなか希少な代物だぞ!また新しい術が作れそうだ! 煉次:苦労した甲斐がありましたね。 響:あと、煉次君。あなたに渡したいものがあるの。 煉次:俺にですか? 響:うん。イブキからの手紙なんだけど。 0:間 イブキ:(煉次君、これを読んでる頃には私のこと、全部聞いてると思うけど、嘘をついてたのは私もだった、ごめんね。 イブキ:このイブキの人格はあの子が作ったものだから本当の姉の言葉とはいえないかもしれないけど、響を助けてくれて、見捨てないでくれて本当にありがとう。これは純粋な、私自身の本当の気持ち。これで私も安心してあの子の中に帰れるわ。 イブキ:あと忙しいとは思うけど、たまには響に会ってあげてね。喜ぶと思うから。でも、あの子を泣かしたら承知しないぞ。化けて出ちゃうから。) 煉次:ふふ。(あの人らしいな、、、ちゃんとお姉さんでしたよ。あなたは。) 響:イブキはあの夜以来、ほとんど出てこなくなったの。少し寂しい気がするけど、きっと私の中でいつも見守ってくれてる。生き続けてる。 煉次:その通りだと思います。 響:あのね、すぐには難しいと思うけど、私、少しずつでも自分のことを好きになっていこうと思う。姉さんが心配しないように。 煉次:はい。応援してますよ。 響:あと、これは、私からのお願いなんだけど、、、。 煉次:何ですか? 響:また、煉次君とお話できたらって、これ私の連絡先、です。 煉次:ありがとうございます。嬉しいです。必ず連絡します。 響:あ!?うん。 乃亜:おーい、電車来るぞ。いつまでやってんだ、この女たらし。 煉次:は!?誰が女たらしですか!? 響:(私は大切な人にずっと守られていたのにそれを見ようとしてなかった。でもやっと、それに気づくことができた。) 響:(新しい出逢いもあった。ああ、こんな気持ちは初めて。) 響:(先の見えない暗闇でじっとしているのはこれでおしまい。まだ見ぬ未来に想いを馳せながら、私の人生を、新たな一歩をここから始めよう。) 0:END

紫炎の魔術師~蛇神の巫女~ 登場人物:紫ノ宮 乃亜(しのみや のあ) 「アンティークショップ 椿屋」店長 登場人物:   兼魔術師。紫の炎をはじめとする様々な魔術を扱う。 登場人物:   使い魔として炎の番犬(愛称フェンリル)を従える。 登場人物:鳥羽 煉次(とば れんじ) 「アンティークショップ 椿屋」兼魔術師見習い。 登場人物:   武器は刀。炎の魔術を使う。父親の仇を追う。 登場人物:蛇喰 響(じゃばみ ひびき)メガネをかけた大人しい女性。 登場人物:イブキ 気さくな感じの女性。響に似ている?※響役が兼役。 登場人物:蛇喰 宗隆(じゃばみ むねたか) 響の父親。落ち着いた雰囲気。 登場人物:霧洲 崇明(きりす たかあき)幻術使い。掴みどころがない怪しい雰囲気。 登場人物:   声がデカい。※宗隆役が兼役。 登場人物:亡霊 ※宗隆役が兼役。 あらすじ:世界に絶望した娘が光を見つける話。紫炎の魔術師シリーズ三作目。 本編: 響:(何度も、同じ夢を見る。 響:私は不安定な木製の足場に立っている。足元では大雨により増水した川が濁流となって暴れ狂っていて、濁った水面は底が見えない。 響:そして、両岸には牙のように鋭い岩壁がそびえ立っている。その光景は、獲物を今か今かと待ち侘びる獰猛な怪物の顎(あぎと)に見えた。 響:怯える私の隣で姉が何かを囁く。) 0:響、目が覚める 響:お姉ちゃん! 響:また、同じ夢、、、。 宗隆:響、時間だ。 響:はい。お父様。 響:(なぜ、私が生き残ってしまったのだろう。しかし、蛇の腹の底から逃げ出せない私は、死んでいるのと変わらないのかもしれない。) 響: 響:『紫炎の魔術師 蛇神の巫女』 0:椿屋の事務所にて。 乃亜:ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。 煉次:ほんと、普段の師匠と接客してる時の師匠は別人ですね。 乃亜:仕事なんだから当然だろう。アタシだって時と場合に応じて仮面を付け替えてるのさ。 煉次:仮面? 乃亜:煉次、ペルソナって知ってるか? 煉次:いえ、何ですか、それは? 乃亜:ペルソナっていうのは心理学者のユングが提唱した概念の一つ。人間の外的側面、簡単に言えば外面のことだな。もともとは古典劇で使われた仮面を表す言葉らしいが。 煉次:はぁ。 乃亜:人は外的から身を守る為にペルソナを使い分けることで周囲と上手に付き合っているってこと。 煉次:それが仮面を付け替えるってことですか。面白い考え方ですね。家族や友人、会社の同僚。俺達は様々な場面で様々な仮面を付け替えてるってことか。 乃亜:そういうこと。一つ賢くなったな。 煉次:ペルソナは二重人格とはまた違うんですか?なんとなく似ている気がしたんですけど? 乃亜:ペルソナは自ら生み出したコントロール可能な人格だから全て自分自身と言える。一方、二重人格は極度のストレスなどから発生するコントロール不可能なものだ。つまり、人格というか全く違う人間が一つの肉体に存在することになる。 煉次:ペルソナが暴走してしまったのが二重人格とか多重人格ってことなんですかね? 乃亜:そうとも言えるか。まあアタシはその道に関しては専門外なんだが。 煉次:なんか可哀想ですね。元は自分自身なのに主人格から切り離されてしまうのは。 乃亜:別人格も自分自身として認めることができればペルソナに戻せるという話もあるが、そう簡単にはいかんだろうな。 0:間  乃亜:そろそろ郵便の時間か。見てきてくれ。煉次。何か依頼が来てるかもしれない。 煉次:わかりました。 0:間 煉次:師匠宛に手紙が届いてましたよ。 乃亜:サンキュー。んーなになに、ほうほうほう。 煉次:何かの依頼ですか? 乃亜:煉次君。旅行は好きかい? 煉次:どこかに飛ばされるんですか?俺? 乃亜:違うよ。出張だ。準備を頼むよ。 煉次:急ですね。いつからですか? 乃亜:明日からだ。 0:列車の中 乃亜:たまには鈍行列車も乙なもんだね。 煉次:鈍行にも程がありませんか?何時間走ってると思ってるんです? 乃亜:そうでも言ってないとやってらんないっての。今月資金繰りが厳しいからしょうがないでしょうが。 煉次:師匠が必要経費だとか言って豪遊し過ぎだからですよ。まずは弛んだ食生活から見直さないと。毎日高いスイーツ買うの禁止ですからね。 乃亜:えぇー!?それはあんまりだ!私から細やかな楽しみを奪うんじゃないよ!ストライキしてやる! 煉次:ストライキって。あなたはされる方でしょう。あ、やっと到着だ。 乃亜:手紙によると依頼主が駅まで迎えにきてくれるそうだ。その間にアタシはちょっと買い物してくる。 煉次:そんな時間ありますか? 乃亜:大丈夫だよ。約束の時間までまだ余裕あるから。ご当地名物でも買ってこよっと。 煉次:早っ。お金ないって言ったそばからこれだ。一筋縄ではいかないのが師匠だけど。 0:女性とぶつかる煉次。 煉次:あっ、すいません。大丈夫ですか? イブキ:ああ私は大丈夫よ。ごめんなさい。こっちも不注意だったわ。 イブキ:あら?君、あまり見ない顔ね。 煉次:ええと、こちらにはシゴ、、、いや、観光で来てまして。 イブキ:そうだったんだ。この町はこぢんまりとしてるけど、いい茶葉が取れるし、水は澄んでるし。割といいところだよ。あと何と言ってもマスコットキャラのナギちゃんが可愛い! 煉次:な、なるほど。お詳しいですね。 イブキ:まあね。私は地域雑誌のライターもやってるから他の住人よりもこの土地に詳しいんだ。 煉次:ライターさんだったんですね。僕は物書きは全くできないので尊敬します。 イブキ:私は趣味の延長線みたいなものだから有り難くやらせてもらってる。 イブキ:私はイブキ。仕事でこの町をウロウロしていることが多いから、何か知りたいことがあったら何でも聞いて。それじゃあ、またどこかで。 煉次:俺は鳥羽煉次です。ありがとうございました。 0:乃亜が買い物から戻る。 乃亜:いい買い物ができた。抹茶系のお菓子は至高だな。 煉次:またそんなに買い込んで。 乃亜:いいの、いいの必要経費。おっ、依頼人が来たみたいだぞ。 0:宗隆、登場。 宗隆:こんにちは、はじめまして。紫ノ宮様ですね?依頼した蛇喰宗隆と申します。よろしくお願いします。 0:蛇喰邸に到着。 宗隆:改めまして。ようこそ、いらっしゃいました。 乃亜:いやぁ、まさかこんな素敵なお屋敷にお招きいただけるとは。 宗隆:ただただ古いだけですが、ありがとうございます。 乃亜:早速本題なのですが、お嬢様が訳ありとの事でしたね。 宗隆:はい、先に見ていただいた方が早いと思います。 宗隆:響、入りなさい。 0:響、部屋に入る。 宗隆:こちらが娘の響です。 響:響と申します。この度はご足労いただきありがとうございます。 乃亜:これはこれはご丁寧に。紫ノ宮乃亜と申します。よろしくお願いします。 煉次:あれっ?あなたは?先程の? 響:?。どこかで、お会いしましたか? 煉次:あれっ?、、、すいません。記憶違いのようです。(イブキさんかと思ったけど、別人か。それにしてもよく似てる。) 響:、、、。 乃亜:こらこら、煉次君ったら。ナンパは他所でしなさいよ。今は仕事中だぞ? 煉次:ち、違いますよ! 乃亜:おいおい、そんなマジトーンで来られると困るだろうが。冗談だよ、冗談。 煉次:(ため息) 宗隆:ははは、先生も冗談を言われるんですね。高名な魔術師と聞いてもう少しお堅い方かと。 乃亜:そんな大層なものではございませんよ。確か蛇喰家も魔術師の家系なんですよね? 宗隆:かつてはと言うのが正しいですね。今はその魔術の殆どが失われていますから。私も魔術に関しては疎くて。 乃亜:そうでしたか、失礼。話の腰を折ってしまった。 宗隆:では、話を戻しましょうか。響、お見せしなさい。 響:、、、はい。 0:響、着物を少しずらし背中を見せる。 煉次:えっ、ちょ、何をして!? 乃亜:これは、ひどいですね。 煉次:えっ、、、背中に蛇のような痣が、いくつも。 宗隆:医者に診てもらったのですが、全く原因がわからないのです。魔術的な類のものではないかと思いましたが、先程申し上げた通りで私には皆目検討がつかず、知り合いの伝手で先生の噂をお聞きして依頼したのです。 乃亜:ふむ、まだ憶測の域を出ませんが、この痣から察するに、蛇に由来するものであることは明らかでしょう。何か心当たりはありませんか? 宗隆:実は私の母、響の祖母がかつて裏山の奥地にあった村の出身なのですが、そこでは蛇神信仰が残っていたようです。 宗隆:それが関係しているのではないかと。 乃亜:蛇神。関係なくはないでしょうね。 乃亜:あったということはその村はもう存在していないと? 宗隆:はい。大洪水による土砂崩れの下敷きになってしまいました。母は数少ない生き残りだそうです。 乃亜:因みにお母様にお話をお伺いする事は可能ですか? 宗隆:実は母はすでに亡くなっておりまして。 乃亜:そうでしたか。失礼しました。では、まず手始めに明日、現地調査に行ってみます。 宗隆:えっ?ですが、あそこはもう何もありませんし、人が立ち入れるような場所ではありませんよ? 乃亜:私にとってはその方がかえって好都合なので大丈夫ですよ。お任せください。蛇喰さんには報酬さえ用意していただければ。 宗隆:わかりました。蛇神に由来する魔術書でまだ残っているものがございますので、そちらを差し上げましょう。それなりに期待がもてる代物かと思います。 乃亜:ほお、それは興味深い。 0:その夜、乃亜の宿泊部屋。 煉次:師匠、あんな安請け合いしてよかったんですか?手がかりも多くはない訳ですし。 乃亜:アタシには十分だよ。村がなくなっていたとしても、土地の霊脈は残っているだろうから、そこから幾らか探れるだろうさ。 煉次:じゃあ明日はフィールドワークですね。俺は早目に休んで備えようかな。 乃亜:現地には私一人で向かうぞ。 煉次:え?俺は何をしていればいいんですか? 乃亜:お前は町で情報収集担当だ。図書館とかで関係ありそうな郷土資料や地方紙を調べてほしい。流石にそこまで手が回りそうにないからな。、、、面倒くさそうだし(小声) 煉次:はいはい、厄介ごとはお任せを。 乃亜:よーし、じゃあ夜に報告会するからな。 0:翌日、煉次、調査に出かける前。庭の東屋に腰掛ける響を見かける。 煉次:おはようございます、響さん。 響:あ、おはようございます、ええと、、、。 煉次:あ、鳥羽煉次です。 響:すみません。名前を覚えるのが苦手で。 煉次:ああ、大丈夫ですよ。昨日の今日では、なかなか覚えられないですよね。 響:、、、これからお出かけですか? 煉次:はい、師匠とは別行動なんですけどね。 響:依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます。 煉次:お役に立てるように全力を尽くします。 響:よろしくお願いします。 煉次:おや、読書中でしたか?本がお好きなんですね。 響:ええ、読書をしている時は嫌なことも一時的に忘れられるので。 煉次:なんかわかります。本の世界に没頭するのは良いものです。 響:はい、姉より出来の悪い自分はその世界には存在しませんから。 煉次:ああ、、、お、お姉さんがいらっしゃるんですか? 響:いた、というのが正しいですね。十年程前に亡くなりました。 煉次:そうだったんですか、、、。 響:もう随分前の事なので気にしないでください。 煉次:お姉さんはどんな方だったんですか? 響:こんな私をいつも気にかけてくれるような優しくて明るい姉でした。 煉次:素敵なお姉さんだったんですね。 響:はい、本当に。、、、私が代わりに死んだ方が、良かったと思います。 煉次:、、、お姉さんは、あなたが平穏無事に過ごしてくれた方が喜んでくれますよ。きっと。 響:知ったようなことを言わないで。 煉次:、、、すみません。 響:、、、。 煉次:、、、。 響:、、、ごめんなさい。失礼な言い方をしてしまいました。気を遣ってくださったんですよね。 煉次:ああ、いえ。ではそろそろ出かけてきます。 響:お気をつけていってらっしゃいませ。 煉次:(気まずい空気にしてしまった。でも、お姉さんは亡くなっているということは、やっぱりイブキさんとは他人の空似なのかな?) 0:煉次、図書館にて。 煉次:うーん、蛇神を祀る祭事とかの資料は出てくるけど、事件性がありそうなのは中々見つからない。アプローチを変えたほうがいいかな、、、。 イブキ:観光中に歴史のお勉強なんて真面目なのね、君は。 煉次:うわっ、て、イブキさん!?どうしてこんなところに? イブキ:しーっ、図書館では、お静かに。 煉次:あっ、すいません。 イブキ:ふふっ、君の方こそ、どうしてここに? 煉次:あ、いや、、、。すみません。嘘をつきました。あまり詳細な事は言えないんですが、 仕事でこちらまで来たんです。 イブキ:あら、そうだったんだ。見たところ蛇神様について調べてるのね。 煉次:ええ。蛇神じゃなくても、蛇に関連した事件の記事なんかが見つかればよかったんですけど。 イブキ:それなら心当たりがあるけど、私が教えてあげようか? 煉次:本当ですか!?それは助かります。 イブキ:ただし、私のお願いを聞いてくれるならの話だけどね。 煉次:はい、俺にできることなら。 0:町のカレー店『夕凪亭』にて。 煉次:何でこんなところにいるんだ?俺は? イブキ:ここのお店ね。他所からも沢山お客さんが来るくらいの人気店なんだけど、ここの激辛ヤマカガシ級カレーを食べ切れたら豪華賞品がもらえるらしいの。でも私、辛いのそんなに得意じゃなくてさ。誰か代わりに手伝ってくれないかなと思ってて。 煉次:ヤマカガシ級というのは不穏な空気を感じますが、辛いものは多少得意なので頑張ります。 0:カレー到着。 煉次:うっ!?(何だ!?この見るからに殺意マシマシな赤色は?すでに汗が噴き出してるし、スパイス?のせいか、目が痛い!?) イブキ:わぁーお!これはアメイジングなカレーね! 煉次:(楽しそうだな、この人。) イブキ:レンジくん!ファイト!お姉さん、応援してるぞ! 煉次:これは仕事なんだ、仕事、仕事。いざ、尋常に、、、。 0:その後 イブキ:すごい!すごいよ!レンジ君! 煉次:た、食べ物に殺されかけたのは初めてですよ、、、うぷっ。 イブキ:ぷっ、あははは。唇が、タラコみたいに。くくく。 煉次:、、、。(ムスッとしている) イブキ:笑い過ぎた、ごめんね。でもナイスファイトだったよ。おかげで我が町の誇るマスコットキャラクター、ナギちゃんのありがたーい置物もゲット出来たし、ありがとう。超嬉しい! 煉次:このゆるい感じで本当にご利益あるのかな。(ため息)それで例の件、教えていただけますか? イブキ:もちろん。それは十年前に起きたとある水難事故なんだけど。 煉次:(また十年前か。)もしかして誰か亡くなったんですか? イブキ:ええ、残念ながらね。小学生の女の子が川に流されてしまったの。昔ほどではないけど、この土地にはまだ蛇神様への畏怖が残ってる。事故のことは蛇神様の怒りだって巷で騒がれてたわ。 煉次:蛇は水の神や川の神と呼ばれることもあるから水難事故と紐付けられてしまったということか。 イブキ:そうかもね。 煉次:、、、あの、その女の子には姉妹がいたとか聞いた事はありませんか? イブキ:そこまでは、ごめんなさい。個人情報の関係でわからなかった。 煉次:いえいえ。役に立ちそうな情報はいただけたので助かりました。 イブキ:どういたしまして。ただ、水難事故のことはこの町ではまだデリケートな話題だから気をつけてね。 煉次:わかりました。気をつけます。 イブキ:さてと、そろそろ私も仕事に戻ろうかな。サボりすぎると怒られちゃうから。 煉次:ははは、俺はもう少し調べていこうと思います。本当にありがとうございました。 イブキ:大したことじゃないわ。でも、今日はとっても楽しかったわ。また会えるといいわね。 煉次:もう激辛はこりごりですけどね。 イブキ:ふふふ、次はとびっきり甘いものでも食べましょ。それじゃあね。 0:裏山にて。 乃亜:ここが例の大洪水があった現場か。本当に村なんかあったのかってくらい跡形も残ってない。確かに人の足でここまで来るのは骨が折れるな。 乃亜:とりあえず、霊脈でも探ってみるか。 0:乃亜、掌を地面にかざす。 乃亜:『オシラ・解析開始』 乃亜:ふむ。微かな魔力は感じるが、蛇神程のものは残ってないな。じゃあ、あの娘の痣の原因は他にあるか? 乃亜:もう少し調べてみないとわからないな、、、あー面倒だ。やっぱり煉次も連れてくればよかった。 乃亜:という訳で悪いがもう少しだけ覗かせてもらうよ。ん? 0:突如、何十体の亡霊が出現する。 亡霊:(唸り声) 乃亜:おいおい、百鬼夜行の時分には早過ぎるんじゃないかい?見られちゃまずい物でもあるみたいだ。 乃亜:丁度いい。ウチの使い魔の餌になってもらおうか。腹を空かせて不貞腐れてたところだ。 乃亜:フェンリルも本調子じゃないから、ついでにアタシもウォーミングアップさせてもらおう。 乃亜:『テイワズ・エワズ・イングス、身体強化』アタシの拳は痛いぞ。 亡霊:(唸り声) 0:乃亜が魔力を込めた拳で亡霊たちを次々と打ち倒していく。 乃亜:あははは、殴り合いは気持ちがいいねぇ!いや、これじゃあただの打ち込みか。お前達も打ち込んできていいんだぞ。できるもんなら。ふふふ。 亡霊:(唸り声) 乃亜:ほらほら、これで、フィニッシュだ! 亡霊:(消え入るような唸り声) 乃亜:ふぅー良い汗かいた。ルーンはシンプルなのがいい。長い詠唱はあまり好みじゃないんだよな。どっかの弟子は好きみたいだが。 乃亜:それにしても亡霊共め、勝手に出てきて勝手に消えやがって。手掛かりやアイテムの一つや二つドロップしていけってんだ。 乃亜:まあ、ゲームみたいにそううまくはいかないか。でも、このやり口は、、、。念の為、ラブレターでも残しておいてやろう。 乃亜:『アンサズ・我が言の葉を示せ』 乃亜:これで良しと。あー面倒くさい、面倒くさいが、勤勉なアタシはもう少し調査を続けるのであった。 乃亜:『オシラ・ダガズ・解析再開』 0:乃亜、過去視の魔術を行使する。 乃亜:解析完了。ふー疲れた。だが、これで大まかな出来事はわかった。ラブロマンスが一本作れそうな内容だったが、何を見せられてるんだか。帰って一休みしよう。 0:屋敷、乃亜と煉次の報告会。 乃亜:あははははは。煉次、お前、その顔、蜂にでも刺されたのか、ふふふ。 煉次:、、、これは名誉の負傷です。情報はちゃんと手に入れてきましたよ。 乃亜:くくく、そうか、でかしたぞ、ぷっ、くふふふ。 煉次:笑い過ぎですよ。 0:煉次の報告の後。 乃亜:十年前の水難事故ねぇ。 煉次:おそらく被害者の女の子は響さんの姉妹ではないかと思いまして。 乃亜:その辺りは本人に聞いてみるしかないが、なかなかデリケートな話だな。 乃亜:じゃあ次はアタシの報告。蛇喰家は代々、蛇神信仰における巫女を務めていたようだ。 煉次:そうなんですね。どうやって調べたんですか? 乃亜:まあ、アタシくらいの魔術師なら、土地の霊脈に触れて過去視をするくらい造作もない。 煉次:(過去視って、しれっととんでもないことしてないか?この人?)し、師匠は探索系の魔術も得意なんですね。 乃亜:得意って訳でもないよ。過去視なんてVHSよりも荒い画質を超高速で巻き戻してるようなものだ。とても疲れる。 煉次:ぶいえいちえすって何ですか? 乃亜:はぁ!?VHS知らないの? 煉次:知りませんよ。ぶいえいちえす。 乃亜:これがジェネレーションギャップってやつか。地味に効いたよ。 煉次:で、結局何なんです?ぶいえいちえすって?あと巻き戻しっていうのも、、、。 乃亜:ああーそこはどうでもいいんだよ!過去視なんて便利なものじゃないってことだ! 乃亜:コホン、話を戻すが、蛇喰氏が語っていた大洪水の件だが、当時の村にはまだ生贄の慣習が残っていたそうだ。 煉次:生贄、、、物騒なワードだ。 乃亜:大洪水の直前にもその生贄の儀式が行われようとしていたんだが、失敗した。 煉次:それはなぜですか? 乃亜:巫女と生贄が駆け落ちしたんだ。 煉次:えっ!? 乃亜:その生贄は運悪く村に迷い込んでしまった旅人の青年だった。しかし、青年と巫女は儀式までの数日間、言葉を交わすうちに恋仲になっていく。そして駆け落ちを計画したんだな。 煉次:なんだか急展開ですね。 乃亜:吊り橋効果。危険な恋ほどよく燃えるものさ。 煉次:そうですか。 0:乃亜の語り口が大袈裟な感じになってくる。 乃亜:しかし、危険な恋路、一筋縄ではいかない!計画に気づいた村人達が二人を追った!多勢に無勢!二人は崖に追い詰められてしまう!絶対絶命の二人!恋の行方はどうなってしまうのか! 煉次:楽しそうですね、師匠。 乃亜:万事休すかと思った、その時、大雨で発生した濁流が村人達を飲み込んだんだ。しかし、なんと二人だけは奇跡的に助かった!愛の力って素晴らしい! 煉次:その二人がもしかして? 乃亜:うむ、おそらく蛇喰家の関係者だろうな。 煉次:なるほど、、、でも、それだと蛇喰家には蛇神の呪いというよりは加護がかかっていませんか?二人は助かってる訳ですし。 乃亜:そこなんだよな。ご先祖様からの呪いって訳ではなさそうだから。あの痣の原因は蛇神の呪いではないと思う。 煉次:なんだか、ますますわからなくなってきましたね。 乃亜:となると自然と答えは絞られてくるんだけど。 煉次:え、何ですか? 乃亜:ま、お前は優しいからな。 煉次:それ関係あります? 乃亜:大いにある。あ、そうだ。あちらにラブレターを送っておいたから、アタシの予想通りなら今夜にも方はつくよ。 煉次:は?ラブレター?何で? 乃亜:さて、我々もこのくだらん茶番劇の終幕を見届けに行こうじゃないか。 0:夜中、煉次の部屋に忍び寄る、響。 響:この人を贄にすれば、私は解放される。この刃を突き立てれば、全て、終わる。 響:なのに、どうして、手が震えるの。覚悟してここまできたのに。 0:乃亜と煉次、登場 乃亜:現代人は何かと嫌なことがあれば、すぐ殺す殺す言うものだが、実際、殺人事件なんてのは言うほど簡単に発生しないだろう?。 響:え!? 乃亜:人間はその衝動を理性で抑えられる生き物だからだ。それを可能とするのは、理性を超える強い負荷をかけられた時か、あるいは元々タガが外れていたか。 響:なぜ!?気づいていたの? 乃亜:手がかりを探れば探るほど、蛇神の呪いの線が薄くなっていった。となれば痣自体が自作自演じゃないかという考えに至るのは難しくない。 煉次:響さん、どうしてこんなことを。 響:私は、私は、殺すつもりは、、、いや、殺さないと、、、私は。 乃亜:ふむ、この錯乱状態、おそらく幻術にかけられてるな。 煉次:幻術? 乃亜:おい、そんなところで高みの見物決め込んでないで出てきなよ。ラブレターは受け取ってくれたんだろう? 0:蛇喰氏が物陰から現れる。 宗隆:まさかルーンによる伝達とはまた古風な術を。それにしてもこんなに早くバレてしまうとは残念です。もう少し楽しんでもらおうと思っていたのですが。 煉次:蛇喰さん!? 乃亜:いや、こいつは蛇喰氏の皮を被った別人だ。 煉次:え!? 宗隆:ほう。 乃亜:亡霊共にアタシを襲わせたのは蛇足だったね。あんな趣味の悪い死霊魔術を使うのは、アタシの知る限り一人しか思い浮かばない。お前の正体は、霧幻(ムゲン)の魔術師、霧洲 崇明(キリス タカアキ)。 宗隆:く、く、く。 0:蛇喰の姿が別人に変わっていく。 煉次:姿が変わって!? 響:お、とうさ、ま? 霧洲:くふふふ、ふはははははは!御名答!さすがは紫炎の魔術師!紫ノ宮 乃亜! 乃亜:ちっ、相変わらず五月蝿いやつだ。 煉次:師匠、あの人は誰なんですか? 乃亜:かつて同じ学院で魔術を学んだ同期だ。まったく、あんなのが同期だって思うと反吐が出る。 霧洲:くくく。相変わらずつれないですね、紫ノ宮さん。 響:あなたは誰!?お父様はどこ? 霧洲:おやぁ?何をおっしゃいますか、響さん。貴方の目の前で始末して差し上げたではありませんか? 響:嘘、、、そんな、、、。 霧洲:むむ?少々、術が効き過ぎましたか。記憶に齟齬があるようですね。 煉次:なんてことを。 霧洲:何はともあれ、むしろせいせいしたのではありませんか?あんなに酷い仕打ちを長年受け続けてきたのです。殺意の一つや二つ沸いてもおかしくはない。 響:ち、ちがう!死んで欲しいだなんて。 霧洲:私は知っていますよ。貴方がどのような扱いを受けてきたか。自らの魔術の研鑽のために実の娘をまるで実験動物のごとく使い倒してきた彼奴の悪業の数々。 霧洲:言葉に出すのも憚られるほどです。涙無くして語れません。 響:や、めて。 霧洲:私は貴方の思いを代弁したのですよ。こんな苦しみから解放されて楽になりたいという心の叫び。 響:それ、は。 霧洲:故に!その願望を実現して差し上げたまで!かの者の死という形で! 響:ちがう、私は、そんなこと望んで、なんか。 霧洲:自分の心に素直におなりなさい、響さん。彼は貴方が殺したも同然なのですから。 響:わ、私が、ころした? 煉次:響さんはやってない!あいつ、何を言って!? 霧洲:如何にも。貴方は人殺しだ。世界は人殺しに優しくはない。もはやこの世界に貴方の味方は一人もおりません。 響:味方は、いない。 霧洲:ですが!貴方が受けた仕打ちを思えば手を差し伸べなかった全てに!世界に!復讐する権利がある。 響:復讐する、権利? 霧洲:そうです。私がまた力を貸して差し上げましょう。 煉次:もうやめろ! 乃亜:そこまでだ。霧洲。お前のくだらん茶番劇には飽きた。 霧洲:いーや、ここからが本番ですよ、紫ノ宮さん。 響:わたしは、ひとごろし、せかいの、てき、だれも、わたしを、たすけては、くれない。 そんなせかいは、そんなせかい、、、こわしてしまえばいいんだ。 0:響の周りに悍ましい魔力が満ちる。 煉次:師匠!響さんから異様な魔力が! 乃亜:霧洲め。あいつの吐く言の葉は呪いだ。あの娘の闇を刺激してしまったか。 響:全て、なくなってしまえばいいんだ。あは、あはははははは! 0:響の周りに人の身の丈以上の大蛇が次々と召喚される。 霧洲:くはははは、素晴らしい!私が思っていた以上に彼女の闇は深かったようです! 乃亜:構えろ、煉次。 煉次:くそっ、響さん、、、。 響:あははははは! 乃亜:おい、バカ弟子。呑気に呆けてたら死ぬぞ。 煉次:くっ、生成、抜刀! 0:乃亜はフェンリルを召喚し、煉次は炎の剣で大蛇の大群を斬り伏せていく。 乃亜:喰らえ、フェンリル。 煉次:はあああ! 霧洲:くふふ、威勢は良いですが、いつまで保ちますかねぇ。 響:消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ! 煉次:くっ、斬っても斬っても際限なく大蛇が出てくる! 乃亜:確かに、これは些か面倒だね。 乃亜:とはいえ、一気に燃やし尽くそうものなら、あの娘がただじゃ済まないだろう。 煉次:じゃあ、どうすれば!? 乃亜:何とかして術者である彼女を鎮めるしかない。 霧洲:説得しても無駄ですよ。彼女は現世(うつしよ)を憎む復讐者と成り果てた。かのヤマタノオロチにも負けず劣らずの莫大な魔力!最早何者も彼女を止められますまい。ふははははは。 乃亜:五月蝿いんだよ!お前は!、、、煉次、一つ策があるんだが。 煉次:やれることは何でもやります。 乃亜:よし。役割分担だ。これほどの魔力を帯びた大蛇共に対処するのはアタシの方が適任だろう。それで彼女の説得はお前に任せる。 煉次:あの状態で話が通じるでしょうか? 乃亜:このルーンを刻んだ石を持っていけ。霧洲の呪いに対抗できるだろう。 0:煉次、ルーンの刻まれた魔石を受け取る。 煉次:どう説得すればいいんですか? 乃亜:彼女は自分の存在価値に揺らぎが生じている状態だ。それを安定させろ。この間、講義してやったことを思い出せ。ヒントはペルソナ。そこに勝機がある。 煉次:ペルソナ、、、。 乃亜:下手に考え過ぎなくていい。お前の口から自然に出てくる言の葉を伝えろ。 煉次:やるしかない。 乃亜:頼んだぞ、煉次。 乃亜:さーて、アタシも少々本気を出してやるよ、クソペテン師。 霧洲:くふふふ、久方振りに貴方の素晴らしい力を拝見できそうだ。 乃亜:さあ、くだらない同窓会の時間だよ! 霧洲:いざ、愉しみましょう! 0:乃亜 対 霧洲 乃亜:ほら、さっさと使い魔も出しなよ。モタモタしてるとお前から燃え滓になってしまうよ! 霧洲:そう焦りなさるな。 霧洲:さあ!無念のうちに散った勇敢なる先人達よ!怨讐を抱きて蘇りたまえ! 0:亡者の軍勢が現れる。 乃亜:『カノ・ソウェル・焼き尽くせ!』 霧洲:くははは!流石!ルーン魔術の腕前も一級品だ!これだけでは壁にもなりませんか。ならば圧倒的な数の暴力で蹂躙するまで! 0:さらに亡者と大蛇が大量に召喚される。 乃亜:ちっ馬鹿の一つ覚えみたいに増やしやがって。 霧洲:これで五分五分に持ち込めましたかな? 乃亜:すぐにひっくり返してやるよ。ウチの弟子を舐めるな。あいつは必ずやり遂げるぞ。 霧洲:なにやら説得を試みてるようですが、あの娘の闇は相当なもの。簡単にはいきませんよ。 0:間 霧洲:そういえば新しいお弟子さん、兼光氏に似てますね。 乃亜:あん?あいつの息子だからな。 霧洲:ほう、独り立ちされたんですね。彼。 乃亜:違う。あいつは何年も前に死んだ。 霧洲:んん?先日、四国で見かけたのは別人でしたか? 乃亜:何!?つまらん冗談吐きやがるとお前から灰にするぞ。 霧洲:おや、これはやぶ蛇でしたか? 霧洲:まあ信じる信じないかは、貴方次第ですが、くふふ、くははははは! 乃亜:(兼光が生きてる?) 乃亜:いや、今は目の前の事に集中しろ。 0:響と対峙する煉次。 煉次:響さん、もうこんなことはやめましょう。 響:黙れ、こんな世界、私諸共なくなってしまえばいい。 煉次:滅ぼす必要はありませんよ。世界も、あなたも。 響:また説教か。忌々しい奴。 響:魔術の素養がない私はなんでもできる姉と違っていらない存在なのよ。 煉次:お姉さんってもしかしてイブキさんという名前ではありませんか? 響:何故それを、あなたが?、、、くっ、イブキめ、また勝手に出てきて邪魔をしていたのね。 煉次:やはり、イブキさんはあなたと同一人物なんですね。 響:そうよ。今更隠す必要もない。 響:姉が死んだことで、父は私に蛇神の魔術を引き継がせるため無茶な秘術を施した。蛇毒に全身を蝕まれているような強烈な痛み、蛇が身体中を這いずり回るようなあの悍(おぞ)ましい感覚はいまだに忘れられない。 煉次:なんてことを、、、。 響:その責苦を乗り越えるには姉さんのような強い精神力が必要だった。そこで作り上げたのがイブキという人格。しかし、蛇神の魔力と混ざり合った人格は私のコントロールを離れて動き出すようになり、記憶が飛ぶことが増えていった。私の身体から私自身が消えてしまうのではないかと怖くなった。やはり私はいらない存在だったのだと絶望した。 煉次:違いますよ。 響:まだ言うつもり!?あなたに何がわかるの!? 煉次:俺はイブキさんと何回か話をしました。 煉次:彼女はあなたを止めたかった、救いたかったんだと思います。 響:また知ったような口を! 煉次:いえ、これは言わせてください。 煉次:響さん、言ってましたよね。生前のお姉さんは優しい人だったって。 響:それは、、、。 煉次:あなたの作り上げたイブキさんにもその優しさは受け継がれていたと思う。心配していたんですよ。自分の存在価値を否定し続けるあなたを。それにつけ込まれて堕ちていくあなたを救おうと、俺に助力してくれたんだ。 響:私は、そんなことしてもらえるような人間じゃない。価値がない。私が姉さんの代わりに死ねばよかったのに。 煉次:それでも残されたのはあなただ。彼女じゃない。その事実は変えられない。 響:うっ、、、。 煉次:あなたは、あなたの人生を歩めばいいんですよ。お姉さんとは違う、あなた自身の。 響:私、自身の。 煉次:はい、あなたの人生はあなたのものだ。 響:こんな汚れてしまった私なんか生きてていいはずがない。 煉次:あなたは汚れてなんかいない。お姉さんのような優しい綺麗な心を持ってる。 響:、、、優しい?私が?。 煉次:ええ。でなければイブキさんみたいな人格は作れないと思います。それも元々はあなた自身なんだから。 響:! 、、、本当に、私は、生きてていいのかな? 煉次:何度でも言いますよ。生きてください。響さんが生きててくれたら俺も嬉しいです。 響:う、ううう、、、。 0:次々と現れていた大蛇の大群が消えていく。 霧洲:何!?大蛇の召喚が止まった!? 乃亜:ひゅー、やるじゃないの。 響:、、、あなたって、不思議な人ね。 煉次:そうですか? 響:ふふ、そうよ。変な、人。 0:響が気を失って倒れそうになるところを煉次が受け止める。 煉次:響さん!響さん!しっかりしてください! 乃亜:大丈夫。気を失ってるだけだ。 乃亜:あれだけ使い魔を召喚して膨大な魔力を消費したんだ。仕方あるまい。 煉次:はぁー良かった。 霧洲:良くない!おのれ、見習い風情が小賢しい真似を! 乃亜:作戦大成功ってところだな。煉次はその娘と一緒に少し離れてろよ。そろそろこのバカにお灸を据えてやらないと。 霧洲:くっ!? 乃亜:お前の悪趣味な演目も終幕だぞ、霧洲? 霧洲:いやはや、紫ノ宮さん。久々の再会に歓喜の余りはしゃぎ過ぎてしまったということで見逃してもらえませんか? 乃亜:竜頭蛇尾ってやつだな。最初の威勢はどこへ行ったんだか。 乃亜:まあ同じ釜の飯を食った同期だし、多少は譲歩を、、、。 霧洲:おお! 乃亜:なんて言うとでも思ったか?人一人殺してる分際で? 霧洲:ぐっ、それは、なんというか。苦しい境遇に耐えかねていた響さんをお救いしたまでで。 乃亜:それに、私の大切な愛弟子も殺させようとしてたよな? 霧洲:そうすれば、響さんの闇が深まりさらに大きな魔力が見込めると、、、。 乃亜:もういい。喋るな。吐き気がする。 霧洲:ぐぬぬ。 乃亜:人命を軽視しがちな魔術師が倫理や道徳を問うのもおかしな話だが。 霧洲:そ、そうですとも。我々魔術師にとって魔術を極めることこそが本懐。その前には命も紙屑同然でしょう。私の行いはまだ人助け、そう!人助けの範疇とも言えるではありませんか!? 乃亜:それとこれとは別の話だ。調子に乗るなよ、外道が。 乃亜:余所者が勝手に家庭の事情に首を突っ込むな。 霧洲:ぐっ、万事休す、絶対絶命と言ったところですか? 乃亜:その通りだよ。同期のよしみだ。最後の懺悔を聞いてやる。 霧洲:少々手心を加えてはいただけませんか、同期のよしみで? 乃亜:うん、無理。 霧洲:ですよね、は、はは、は、、、。 乃亜:さあ、フィナーレだ!火種となって盛大に燃え尽きな! 乃亜:『アンサズ・カノ・ソウェル・塵芥になるがいい!』 0:紫の爆炎が起きて一瞬にして霧洲を包み込む。 霧洲:ぐおおおおお!! 乃亜:あははははは!! 乃亜:もっと良い声で鳴きな!アタシを愉しませろ! 霧洲:ぐあああああ(っと、つい勢いで叫んでしまいましたが、残念!この肉体は身代わりの幻術!この隙にさっさとお暇してしまいましょう!) 乃亜:知ってるよ。どうせその身体も幻術か何かで本体はここにはいない。 霧洲:ぬ!? 乃亜:あまりアタシを舐めるなよ。 乃亜:直接焼きを入れられないのがムカつくが、特別サービスだ。術者に少しばかり貫通ダメージを与える術式を組んでみた。死にはしないだろうが、しばらく痛みでのたうち回ることになるだろうな。 霧洲:そんな!? 乃亜:これにて同窓会はお開き。地獄の二次会は一人でやってな。 霧洲:おのれ!紫ノ宮ぁ!あついぃぃ!ぐああああぁぁ! 乃亜:バイバーイ。 煉次:(こうして、夢幻の魔術師、霧洲崇明が引き起こした事件は幕を下ろした。) 0:数日後 煉次:見送りなんかよかったのに。 響:いいえ、これくらいさせて。本当にお世話になったんだから。 煉次:俺は師匠に比べたら大したことしてませんよ。 乃亜:素直に喜んでおきなよ。お前も頑張ってたじゃないか。なんだっけ?『響さんが生きててくれたら、俺も嬉しいです。キリッ』だっけ? 煉次:ちょ!?やめてくださいよ!恥ずかしい! 響:ふふふ、でもカッコよかったよ。煉次君。 煉次:ええ!?  乃亜:おいおい良かったな!煉次君!あら?あらあら?顔が赤くなってるぞ? 煉次:み、見ないでください! 響:ふふ、忘れないうちに、こちら今回のお礼です。 煉次:こんなに沢山の魔術書いいんですか? 響:うん。私はもう頭に入ってしまってるから。 乃亜:どれどれ。おおーこれはなかなか希少な代物だぞ!また新しい術が作れそうだ! 煉次:苦労した甲斐がありましたね。 響:あと、煉次君。あなたに渡したいものがあるの。 煉次:俺にですか? 響:うん。イブキからの手紙なんだけど。 0:間 イブキ:(煉次君、これを読んでる頃には私のこと、全部聞いてると思うけど、嘘をついてたのは私もだった、ごめんね。 イブキ:このイブキの人格はあの子が作ったものだから本当の姉の言葉とはいえないかもしれないけど、響を助けてくれて、見捨てないでくれて本当にありがとう。これは純粋な、私自身の本当の気持ち。これで私も安心してあの子の中に帰れるわ。 イブキ:あと忙しいとは思うけど、たまには響に会ってあげてね。喜ぶと思うから。でも、あの子を泣かしたら承知しないぞ。化けて出ちゃうから。) 煉次:ふふ。(あの人らしいな、、、ちゃんとお姉さんでしたよ。あなたは。) 響:イブキはあの夜以来、ほとんど出てこなくなったの。少し寂しい気がするけど、きっと私の中でいつも見守ってくれてる。生き続けてる。 煉次:その通りだと思います。 響:あのね、すぐには難しいと思うけど、私、少しずつでも自分のことを好きになっていこうと思う。姉さんが心配しないように。 煉次:はい。応援してますよ。 響:あと、これは、私からのお願いなんだけど、、、。 煉次:何ですか? 響:また、煉次君とお話できたらって、これ私の連絡先、です。 煉次:ありがとうございます。嬉しいです。必ず連絡します。 響:あ!?うん。 乃亜:おーい、電車来るぞ。いつまでやってんだ、この女たらし。 煉次:は!?誰が女たらしですか!? 響:(私は大切な人にずっと守られていたのにそれを見ようとしてなかった。でもやっと、それに気づくことができた。) 響:(新しい出逢いもあった。ああ、こんな気持ちは初めて。) 響:(先の見えない暗闇でじっとしているのはこれでおしまい。まだ見ぬ未来に想いを馳せながら、私の人生を、新たな一歩をここから始めよう。) 0:END