台本概要

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タイトル 植物に聞いてみた ~ スギナ
作者名 ねこつう  (@nekonotsuuro)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男2) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 なぜか植物と話せるようになった人が、植物と対話しながら、生き方を見つめなおす物語。

・この作品は朗読、配信などで、非商用に限り、無料にて利用していただけますが著作権は放棄しておりません。テキストの著作権は、ねこつうに帰属します。
・配信の際は、概要欄または、サムネイルなどに、作品タイトル、作者名、掲載URLのクレジットをお願いいたします。
・語尾や接続詞、物語の内容や意味を改変しない程度に、言いやすい言い回しに変える事は、構いません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り 12 語り(私の兼役も可)
25 体がこわばる病気を患っている。あるきっかけで、植物の声が聞こえるようになった。
スギナ 28 植物。ひょうきんな性格。「俺は最強だ!」と連呼する単純馬鹿のようだが?
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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私:  いてて! 畜生! 私:  語り:  私は、自転車を止めて休んでいた。 語り:  私は、自転車のスタンドを立てて、 語り:  その空き地に座り込んだ。 語り:  リハビリがうまくいかない。 語り:  膝が痛い。 語り:  呼吸が苦しい。 語り:  私は、体がこわばって痛い病気を患っていて、 語り:  動かさないと、体がますます、固まってしまう。 語り:  だから、リハビリで、いろいろ動かしていないといけない。 語り:  まったく不治の病ではない。 語り:  治る可能性もあると聞いている。 語り:  少しでも楽にならないかと、 語り:  自転車で走る時間を三十分から一時間にしてみた。 語り:  ダメだ。消耗ばかりしてる。 語り:  ちっとも、病気が良くならない。 語り:  空き地に面した道のアスファルトに 語り:  猫がゆっくり歩いてきて、 語り:  ごろーん、ごろーんと、背中をこすりつけるようにして、 語り:  左右に転がっていた。 語り:  猫は目を細めている。 語り:  いいなあ、私はため息をついた。 語り:  私は床に仰向けに寝られない。 語り:  背骨周りが強張り過ぎて、痛いのだ。 語り:  ごろーん。ごろーん、なんて、もってのほかである。 語り:  猫はちらっと、私の方を向いて起き上がると、 語り:  そそくさと、どこかに行ってしまった。 語り:  私の目つきがきつくなっていたのだろうか。 私:  はあ…… スギナ:  おーい! 語り:  私はあたりを見回した。 語り:  猫も何もいないのだが。あぁ、猫はしゃべらないか。 スギナ:  こっちだよ! 私:  ん??? スギナ:  こっちだよ。お前が手をついてるそばの草だよ。 語り:  私は、火傷でもしたように、 語り:  手を地面から、引いてそこを見た。 スギナ:  おー こんちは! 語り:  また、植物に話しかけられているのか?  語り:  植物と話したのは、数か月前のイチョウ以来だった。 語り:  あるきっかけで、私は植物と話せるようになったのだ。 スギナ:  イチョウの爺さんが、心配してたぞ。 スギナ:  「ちょっと、メンタル弱めの奴に、 スギナ:  重い話し過ぎたかもしれん」って。 スギナ:  「お前くらいシンプルな奴の方が スギナ:  フォローにいいかもしれん」とか言ってさー。 スギナ:  でも、おいらが出てくるまで、数か月あるんだぜ?  スギナ:  もっと、早く出てくる、ほかの奴に頼めよなー 私:  あなたは? スギナ:  植物界の最強の存在! スギナだよ!  スギナ:  胞子飛ばす時のツクシの方が有名だけどな! 私:  ツクシなんですか! スギナ:  そそ。今は、葉っぱモード。 私:  イチョウさん、心配してくださってたんですか。 私:  みなさん、優しいですね。 スギナ:  イチョウの爺さんも、悪い奴じゃないんだけど、 スギナ:  神社で人の祈りや悩みを聞き過ぎてるから、 スギナ:  いちいち、言う事が重いよなー 私:  あの話聞いてたら、なんか、いろいろ考えてしまって。 スギナ : 気にすんな!  スギナ : 災害も戦争も、お前なんかができることないだろ?  スギナ : 自分がやれることやれよ! 私:  そうではあるんですけど、 私:  自分がやれそうなことをやってても、うまくいかなくて。 スギナ : お前、頭、硬いなー  スギナ : 体も心もできる範囲で、自由でいいんだぞ?  スギナ : 想像の中だったら「海賊王に、俺はなる!」とか言って スギナ : 伸び縮みしようが、何しようが、いいんだぞ! 私:  どこで、そういうの覚えるんですか? スギナ:  草むらに、捨ててあった漫画の本だ!  スギナ: 人間って、変な所にいっぱいゴミを捨てるのな! スギナ: ほかにも、女の人の裸の本とか、あったぞ! 私:  ……(少し呆れたような感じで)あはは…… 私:  あの最強って何ですか? スギナ:  最強は、最強だ! 私:  いや、それじゃ、わけわかりません。 スギナ:  最強伝説、その一!  スギナ:  おいらの仲間は三億年前から生きてた!  スギナ:  石炭紀の巨大シダ植物って奴なんだけど!  スギナ:  今は、こんなんだけど、 スギナ:  おいらの仲間は、当時は、巨大だったんだぞ!  スギナ:  それで分解されないで土に溜まった奴らが石炭になった!  スギナ:  産業革命とかいう奴の原動力になったんだっけ? 私:  えええ? スギナ:  最強伝説、その二! 私: まだあるんですか? スギナ:  失礼な奴だな。 スギナ:  その二!  スギナ:  広島の原爆のあとに、 スギナ:  いち早く芽を出して人々を元気づけた! 私:  ええええ?  スギナ:  えっへん! 私:  なんで焼けなかったんですか? スギナ:  焼けたさ! 上は! 私:  上は? スギナ:  上は焼けたけど、 スギナ:  おいら地下茎(ちかけい)の張り巡らし方が凄いのよ!  スギナ:  地下六十センチとか、 スギナ:  深ければ、二メートル行く事もあるぞ! スギナ:  そして、どんどん横にも広がる! 私:  原爆のあとすぐ復活するのは、確かに最強ですね…… スギナ:  おう!  スギナ:  深く根を張れるフィールドがあれば、 スギナ:  大概の事は大丈夫だあ!   スギナ:  取っても、取っても、出てくるから、 スギナ:  おいらたちのことを スギナ:  地獄草(じごくそう)とかいう奴もいるぞ!  スギナ:  地面を、耕せば耕すほど、 スギナ:  地下に潜る性質があるから、 スギナ:  おいらは農家にも嫌がられてるな!  スギナ:  でも、それが、どうした!  スギナ:  俺は最強だあ!  私:  ほんとに最強ですね。 語り:  と私はいいつつも、 語り:  「最強」を連呼する、スギナの単純さに、 語り:  ちょっと笑ってしまった。 スギナ:  お前! 今、俺を単純馬鹿だと、笑ったな? 私:  い、いや、そんなこと思ってないですよ! スギナ:  おいらたちは、ただ、存在する。 スギナ: 無心の達人だ!  スギナ: まあ、無心なだけでもないか!  スギナ: 化学物質の変化でいろんなことがわかる!  スギナ: 植物同士や昆虫とだって、 スギナ: 連絡を取り合ってるんだぞ! スギナ: キャベツとかに聞いてみろ! 私:  は? キャベツ?    スギナ:  人間は「木石(ぼくせき)じゃあるまいに」とか、 スギナ:  植物や石をバカにした言い方するけどな!  スギナ:  植物や鉱物から、 スギナ:  どれだけたくさんのことが、わかると思ってるんだ!  スギナ:  物質がなきゃ意識さえ宿らないんだぞ!  スギナ:  まあ、難しい事はいいや!  スギナ:  お前、 スギナ:  ほんとに、いろんな事、 スギナ:  ごちゃごちゃ考えてるだろ!  スギナ:  猫を見習え! 語り:  怒ったスギナが、 語り: わけがわからないことをまくしたてはじめたので、 語り: 私は、言葉を失った。 スギナ:  お前、物凄く、何かになろうとしてるだろ。 スギナ:  健康になりたいとか、強くなりたいとか。 スギナ:  二十四時間そんなことばっか! スギナ:  そして、 スギナ:  それを止める事ができなくなっているんじゃないか? スギナ:  無心に存在することも大事なんだぞ! スギナ:  吸収することよりも、 スギナ:  置いていくことが大事なこともあるし、 スギナ:  集める事よりも、 スギナ:  空っぽにすることによって、得られることもあるんだ! 私:  ……え? スギナ:  目を……閉じるんだ……  スギナ: フォースを感じるんだ! 私:  は? スギナ:  お前、ほんとに頭硬いな!  スギナ:  冗談もわからないのか? 私:  いったい、どこで、そういうの覚えるんですか? 語り:  スギナは、今度は、ゆっくり、穏やかに言った。 スギナ : いいから……目を閉じるんだ…… 語り:  私は目を閉じた。 スギナ : ……おいら達は、 スギナ : あの地獄の業火の中、 スギナ : こんな感じで、じっと芽を出せるチャンスを待っていた…… 語り:   焼け野原になった地面の下で、 語り:   静かにスギナが、 待っている姿が見えたような気がした。 語り:   私は、今度は、スギナの言うことを素直に聞けた。 スギナ:  呼吸に意識を向けて…… スギナ:  深呼吸する必要は無いぞ。 スギナ:  ただ、呼吸で空気が スギナ:  喉や肺を行ったり来たりするのを感じるだけでいい。 スギナ:  姿勢も楽にしていいぞ。 スギナ:  自分の好きな恰好でいい。 私:  ふっ……ふっ…… スギナ:  深い呼吸がいいなんていうけど、無理しないでいい。 スギナ:  つぎに、体に意識を向けてみな。 スギナ:  体について考えるのとは違うぞ。 スギナ:  体の温かさ……お前、体が痛いって言ってたし、 スギナ:  体が強張ってる(こわばってる)感じだから スギナ:  気血(きけつ)の巡りが悪そうだな。 スギナ:  体が熱かったり、冷たかったり、 スギナ:  柔らかさや強張りを、 スギナ:  ただ、感じるんだ。 スギナ:  無理やり、リラックスしようって執着するのとも違うぞ。 スギナ:  痛みが酷過ぎる(ひどすぎる)なら、 スギナ:  痛い場所に意識を持っていって、 スギナ:  その痛みと一緒に呼吸しながら スギナ:  痛みの変化を感じてもいい…… スギナ:  考えるな…… 感じろ…… スギナ:  それでも、ごちゃごちゃ考えるようなら、 スギナ:  呼吸の数を十、数えて、十いったらリセットして、 スギナ:  また一から数えるのを繰り返してみろ…… 私 : ふっ……ふっ…… 私:  ふー……ふー…… 語り:  ただただ、呼吸に意識を向けた。 語り:  どのくらい呼吸に意識を向けていただろうか。 語り:  意図していないのに、 語り:  眠っている時のような 語り:  深くてゆっくりした呼吸になってきた。 語り:  不思議だ。 語り:  ガチガチだった体が少し緩んで、楽になった気がした。 語り:  詰まっていたような目の奥の違和感も 語り:  少しあたたかい血が巡ってきて楽になった気がする。 私 : ありがとうございます…… 私 : なんだか……少し体が緩みました。 私 : リラックスしようと思っても、全然できなかったのに。 スギナ:  ほんとに、これをきちんとやる気だったら、 スギナ: ちゃんと人間の師匠につけよ! スギナ: フォースも呼吸法も、深いことをやればやるほど、 スギナ: 暗黒面に堕ちないための、師匠が大事だ! スギナ: ストレスが溜まり過ぎてる奴とか、 スギナ: 執着が強過ぎる奴とか。 スギナ: そういう奴が下手なやり方でやると、 スギナ: ヤバイ領域に行っちまう奴がいるからな。 語り:  「なんだ、なんだ?」と、私は思った。 語り:  スギナは本当にフォースの達人みたいな事を言いだした。 私 : …スギナさん……スギナさんは、 私 : いったい、どこでこんなことを覚えたんですか? スギナ:  うーん?  スギナ: なんか、 スギナ: ここでときどき太極拳やってる爺ちゃんに話しかけたら スギナ: 教えてくれた(笑う)。 スギナ: 爺ちゃんの話、聞いてたら、 スギナ: おいらたちの境地と似てるなあって思った。 スギナ: あ、元鍼灸師(もとしんきゅうし)だそうだ! 私 :  境地が似てるって…… 私 :  それでも……ただ……聞いただけで、 私 :  あれを習得したんですか? 私 :  スギナさん…… 私 :  あなた、いったい、どうなってるんですか? スギナ:  お前、俺の事をただの単純馬鹿だと思ってただろう! スギナ:  だから、言ったろ? スギナ:  俺は最強だって!  スギナ:  ちゃんと尊敬しろよっ!  語り:  なぜかわからないが、そのすぐあとに、 語り:  さっき逃げていった猫が、 語り:  またアスファルトにやってきて、 語り:  背中をごろーん、ごろーんとやり始めた。

私:  いてて! 畜生! 私:  語り:  私は、自転車を止めて休んでいた。 語り:  私は、自転車のスタンドを立てて、 語り:  その空き地に座り込んだ。 語り:  リハビリがうまくいかない。 語り:  膝が痛い。 語り:  呼吸が苦しい。 語り:  私は、体がこわばって痛い病気を患っていて、 語り:  動かさないと、体がますます、固まってしまう。 語り:  だから、リハビリで、いろいろ動かしていないといけない。 語り:  まったく不治の病ではない。 語り:  治る可能性もあると聞いている。 語り:  少しでも楽にならないかと、 語り:  自転車で走る時間を三十分から一時間にしてみた。 語り:  ダメだ。消耗ばかりしてる。 語り:  ちっとも、病気が良くならない。 語り:  空き地に面した道のアスファルトに 語り:  猫がゆっくり歩いてきて、 語り:  ごろーん、ごろーんと、背中をこすりつけるようにして、 語り:  左右に転がっていた。 語り:  猫は目を細めている。 語り:  いいなあ、私はため息をついた。 語り:  私は床に仰向けに寝られない。 語り:  背骨周りが強張り過ぎて、痛いのだ。 語り:  ごろーん。ごろーん、なんて、もってのほかである。 語り:  猫はちらっと、私の方を向いて起き上がると、 語り:  そそくさと、どこかに行ってしまった。 語り:  私の目つきがきつくなっていたのだろうか。 私:  はあ…… スギナ:  おーい! 語り:  私はあたりを見回した。 語り:  猫も何もいないのだが。あぁ、猫はしゃべらないか。 スギナ:  こっちだよ! 私:  ん??? スギナ:  こっちだよ。お前が手をついてるそばの草だよ。 語り:  私は、火傷でもしたように、 語り:  手を地面から、引いてそこを見た。 スギナ:  おー こんちは! 語り:  また、植物に話しかけられているのか?  語り:  植物と話したのは、数か月前のイチョウ以来だった。 語り:  あるきっかけで、私は植物と話せるようになったのだ。 スギナ:  イチョウの爺さんが、心配してたぞ。 スギナ:  「ちょっと、メンタル弱めの奴に、 スギナ:  重い話し過ぎたかもしれん」って。 スギナ:  「お前くらいシンプルな奴の方が スギナ:  フォローにいいかもしれん」とか言ってさー。 スギナ:  でも、おいらが出てくるまで、数か月あるんだぜ?  スギナ:  もっと、早く出てくる、ほかの奴に頼めよなー 私:  あなたは? スギナ:  植物界の最強の存在! スギナだよ!  スギナ:  胞子飛ばす時のツクシの方が有名だけどな! 私:  ツクシなんですか! スギナ:  そそ。今は、葉っぱモード。 私:  イチョウさん、心配してくださってたんですか。 私:  みなさん、優しいですね。 スギナ:  イチョウの爺さんも、悪い奴じゃないんだけど、 スギナ:  神社で人の祈りや悩みを聞き過ぎてるから、 スギナ:  いちいち、言う事が重いよなー 私:  あの話聞いてたら、なんか、いろいろ考えてしまって。 スギナ : 気にすんな!  スギナ : 災害も戦争も、お前なんかができることないだろ?  スギナ : 自分がやれることやれよ! 私:  そうではあるんですけど、 私:  自分がやれそうなことをやってても、うまくいかなくて。 スギナ : お前、頭、硬いなー  スギナ : 体も心もできる範囲で、自由でいいんだぞ?  スギナ : 想像の中だったら「海賊王に、俺はなる!」とか言って スギナ : 伸び縮みしようが、何しようが、いいんだぞ! 私:  どこで、そういうの覚えるんですか? スギナ:  草むらに、捨ててあった漫画の本だ!  スギナ: 人間って、変な所にいっぱいゴミを捨てるのな! スギナ: ほかにも、女の人の裸の本とか、あったぞ! 私:  ……(少し呆れたような感じで)あはは…… 私:  あの最強って何ですか? スギナ:  最強は、最強だ! 私:  いや、それじゃ、わけわかりません。 スギナ:  最強伝説、その一!  スギナ:  おいらの仲間は三億年前から生きてた!  スギナ:  石炭紀の巨大シダ植物って奴なんだけど!  スギナ:  今は、こんなんだけど、 スギナ:  おいらの仲間は、当時は、巨大だったんだぞ!  スギナ:  それで分解されないで土に溜まった奴らが石炭になった!  スギナ:  産業革命とかいう奴の原動力になったんだっけ? 私:  えええ? スギナ:  最強伝説、その二! 私: まだあるんですか? スギナ:  失礼な奴だな。 スギナ:  その二!  スギナ:  広島の原爆のあとに、 スギナ:  いち早く芽を出して人々を元気づけた! 私:  ええええ?  スギナ:  えっへん! 私:  なんで焼けなかったんですか? スギナ:  焼けたさ! 上は! 私:  上は? スギナ:  上は焼けたけど、 スギナ:  おいら地下茎(ちかけい)の張り巡らし方が凄いのよ!  スギナ:  地下六十センチとか、 スギナ:  深ければ、二メートル行く事もあるぞ! スギナ:  そして、どんどん横にも広がる! 私:  原爆のあとすぐ復活するのは、確かに最強ですね…… スギナ:  おう!  スギナ:  深く根を張れるフィールドがあれば、 スギナ:  大概の事は大丈夫だあ!   スギナ:  取っても、取っても、出てくるから、 スギナ:  おいらたちのことを スギナ:  地獄草(じごくそう)とかいう奴もいるぞ!  スギナ:  地面を、耕せば耕すほど、 スギナ:  地下に潜る性質があるから、 スギナ:  おいらは農家にも嫌がられてるな!  スギナ:  でも、それが、どうした!  スギナ:  俺は最強だあ!  私:  ほんとに最強ですね。 語り:  と私はいいつつも、 語り:  「最強」を連呼する、スギナの単純さに、 語り:  ちょっと笑ってしまった。 スギナ:  お前! 今、俺を単純馬鹿だと、笑ったな? 私:  い、いや、そんなこと思ってないですよ! スギナ:  おいらたちは、ただ、存在する。 スギナ: 無心の達人だ!  スギナ: まあ、無心なだけでもないか!  スギナ: 化学物質の変化でいろんなことがわかる!  スギナ: 植物同士や昆虫とだって、 スギナ: 連絡を取り合ってるんだぞ! スギナ: キャベツとかに聞いてみろ! 私:  は? キャベツ?    スギナ:  人間は「木石(ぼくせき)じゃあるまいに」とか、 スギナ:  植物や石をバカにした言い方するけどな!  スギナ:  植物や鉱物から、 スギナ:  どれだけたくさんのことが、わかると思ってるんだ!  スギナ:  物質がなきゃ意識さえ宿らないんだぞ!  スギナ:  まあ、難しい事はいいや!  スギナ:  お前、 スギナ:  ほんとに、いろんな事、 スギナ:  ごちゃごちゃ考えてるだろ!  スギナ:  猫を見習え! 語り:  怒ったスギナが、 語り: わけがわからないことをまくしたてはじめたので、 語り: 私は、言葉を失った。 スギナ:  お前、物凄く、何かになろうとしてるだろ。 スギナ:  健康になりたいとか、強くなりたいとか。 スギナ:  二十四時間そんなことばっか! スギナ:  そして、 スギナ:  それを止める事ができなくなっているんじゃないか? スギナ:  無心に存在することも大事なんだぞ! スギナ:  吸収することよりも、 スギナ:  置いていくことが大事なこともあるし、 スギナ:  集める事よりも、 スギナ:  空っぽにすることによって、得られることもあるんだ! 私:  ……え? スギナ:  目を……閉じるんだ……  スギナ: フォースを感じるんだ! 私:  は? スギナ:  お前、ほんとに頭硬いな!  スギナ:  冗談もわからないのか? 私:  いったい、どこで、そういうの覚えるんですか? 語り:  スギナは、今度は、ゆっくり、穏やかに言った。 スギナ : いいから……目を閉じるんだ…… 語り:  私は目を閉じた。 スギナ : ……おいら達は、 スギナ : あの地獄の業火の中、 スギナ : こんな感じで、じっと芽を出せるチャンスを待っていた…… 語り:   焼け野原になった地面の下で、 語り:   静かにスギナが、 待っている姿が見えたような気がした。 語り:   私は、今度は、スギナの言うことを素直に聞けた。 スギナ:  呼吸に意識を向けて…… スギナ:  深呼吸する必要は無いぞ。 スギナ:  ただ、呼吸で空気が スギナ:  喉や肺を行ったり来たりするのを感じるだけでいい。 スギナ:  姿勢も楽にしていいぞ。 スギナ:  自分の好きな恰好でいい。 私:  ふっ……ふっ…… スギナ:  深い呼吸がいいなんていうけど、無理しないでいい。 スギナ:  つぎに、体に意識を向けてみな。 スギナ:  体について考えるのとは違うぞ。 スギナ:  体の温かさ……お前、体が痛いって言ってたし、 スギナ:  体が強張ってる(こわばってる)感じだから スギナ:  気血(きけつ)の巡りが悪そうだな。 スギナ:  体が熱かったり、冷たかったり、 スギナ:  柔らかさや強張りを、 スギナ:  ただ、感じるんだ。 スギナ:  無理やり、リラックスしようって執着するのとも違うぞ。 スギナ:  痛みが酷過ぎる(ひどすぎる)なら、 スギナ:  痛い場所に意識を持っていって、 スギナ:  その痛みと一緒に呼吸しながら スギナ:  痛みの変化を感じてもいい…… スギナ:  考えるな…… 感じろ…… スギナ:  それでも、ごちゃごちゃ考えるようなら、 スギナ:  呼吸の数を十、数えて、十いったらリセットして、 スギナ:  また一から数えるのを繰り返してみろ…… 私 : ふっ……ふっ…… 私:  ふー……ふー…… 語り:  ただただ、呼吸に意識を向けた。 語り:  どのくらい呼吸に意識を向けていただろうか。 語り:  意図していないのに、 語り:  眠っている時のような 語り:  深くてゆっくりした呼吸になってきた。 語り:  不思議だ。 語り:  ガチガチだった体が少し緩んで、楽になった気がした。 語り:  詰まっていたような目の奥の違和感も 語り:  少しあたたかい血が巡ってきて楽になった気がする。 私 : ありがとうございます…… 私 : なんだか……少し体が緩みました。 私 : リラックスしようと思っても、全然できなかったのに。 スギナ:  ほんとに、これをきちんとやる気だったら、 スギナ: ちゃんと人間の師匠につけよ! スギナ: フォースも呼吸法も、深いことをやればやるほど、 スギナ: 暗黒面に堕ちないための、師匠が大事だ! スギナ: ストレスが溜まり過ぎてる奴とか、 スギナ: 執着が強過ぎる奴とか。 スギナ: そういう奴が下手なやり方でやると、 スギナ: ヤバイ領域に行っちまう奴がいるからな。 語り:  「なんだ、なんだ?」と、私は思った。 語り:  スギナは本当にフォースの達人みたいな事を言いだした。 私 : …スギナさん……スギナさんは、 私 : いったい、どこでこんなことを覚えたんですか? スギナ:  うーん?  スギナ: なんか、 スギナ: ここでときどき太極拳やってる爺ちゃんに話しかけたら スギナ: 教えてくれた(笑う)。 スギナ: 爺ちゃんの話、聞いてたら、 スギナ: おいらたちの境地と似てるなあって思った。 スギナ: あ、元鍼灸師(もとしんきゅうし)だそうだ! 私 :  境地が似てるって…… 私 :  それでも……ただ……聞いただけで、 私 :  あれを習得したんですか? 私 :  スギナさん…… 私 :  あなた、いったい、どうなってるんですか? スギナ:  お前、俺の事をただの単純馬鹿だと思ってただろう! スギナ:  だから、言ったろ? スギナ:  俺は最強だって!  スギナ:  ちゃんと尊敬しろよっ!  語り:  なぜかわからないが、そのすぐあとに、 語り:  さっき逃げていった猫が、 語り:  またアスファルトにやってきて、 語り:  背中をごろーん、ごろーんとやり始めた。