台本概要
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タイトル | 植物に聞いてみた ~ スギナ |
---|---|
作者名 | ねこつう (@nekonotsuuro) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男2) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
なぜか植物と話せるようになった人が、植物と対話しながら、生き方を見つめなおす物語。 ・この作品は朗読、配信などで、非商用に限り、無料にて利用していただけますが著作権は放棄しておりません。テキストの著作権は、ねこつうに帰属します。 ・配信の際は、概要欄または、サムネイルなどに、作品タイトル、作者名、掲載URLのクレジットをお願いいたします。 ・語尾や接続詞、物語の内容や意味を改変しない程度に、言いやすい言い回しに変える事は、構いません。 78 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
語り |
男 ![]() |
12 | 語り(私の兼役も可) |
私 |
男 ![]() |
25 | 体がこわばる病気を患っている。あるきっかけで、植物の声が聞こえるようになった。 |
スギナ |
男 ![]() |
28 | 植物。ひょうきんな性格。「俺は最強だ!」と連呼する単純馬鹿のようだが? |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
私: いてて! 畜生!
私:
語り: 私は、自転車を止めて休んでいた。
語り: 私は、自転車のスタンドを立てて、
語り: その空き地に座り込んだ。
語り: リハビリがうまくいかない。
語り: 膝が痛い。
語り: 呼吸が苦しい。
語り: 私は、体がこわばって痛い病気を患っていて、
語り: 動かさないと、体がますます、固まってしまう。
語り: だから、リハビリで、いろいろ動かしていないといけない。
語り: まったく不治の病ではない。
語り: 治る可能性もあると聞いている。
語り: 少しでも楽にならないかと、
語り: 自転車で走る時間を三十分から一時間にしてみた。
語り: ダメだ。消耗ばかりしてる。
語り: ちっとも、病気が良くならない。
語り: 空き地に面した道のアスファルトに
語り: 猫がゆっくり歩いてきて、
語り: ごろーん、ごろーんと、背中をこすりつけるようにして、
語り: 左右に転がっていた。
語り: 猫は目を細めている。
語り: いいなあ、私はため息をついた。
語り: 私は床に仰向けに寝られない。
語り: 背骨周りが強張り過ぎて、痛いのだ。
語り: ごろーん。ごろーん、なんて、もってのほかである。
語り: 猫はちらっと、私の方を向いて起き上がると、
語り: そそくさと、どこかに行ってしまった。
語り: 私の目つきがきつくなっていたのだろうか。
私: はあ……
スギナ: おーい!
語り: 私はあたりを見回した。
語り: 猫も何もいないのだが。あぁ、猫はしゃべらないか。
スギナ: こっちだよ!
私: ん???
スギナ: こっちだよ。お前が手をついてるそばの草だよ。
語り: 私は、火傷でもしたように、
語り: 手を地面から、引いてそこを見た。
スギナ: おー こんちは!
語り: また、植物に話しかけられているのか?
語り: 植物と話したのは、数か月前のイチョウ以来だった。
語り: あるきっかけで、私は植物と話せるようになったのだ。
スギナ: イチョウの爺さんが、心配してたぞ。
スギナ: 「ちょっと、メンタル弱めの奴に、
スギナ: 重い話し過ぎたかもしれん」って。
スギナ: 「お前くらいシンプルな奴の方が
スギナ: フォローにいいかもしれん」とか言ってさー。
スギナ: でも、おいらが出てくるまで、数か月あるんだぜ?
スギナ: もっと、早く出てくる、ほかの奴に頼めよなー
私: あなたは?
スギナ: 植物界の最強の存在! スギナだよ!
スギナ: 胞子飛ばす時のツクシの方が有名だけどな!
私: ツクシなんですか!
スギナ: そそ。今は、葉っぱモード。
私: イチョウさん、心配してくださってたんですか。
私: みなさん、優しいですね。
スギナ: イチョウの爺さんも、悪い奴じゃないんだけど、
スギナ: 神社で人の祈りや悩みを聞き過ぎてるから、
スギナ: いちいち、言う事が重いよなー
私: あの話聞いてたら、なんか、いろいろ考えてしまって。
スギナ : 気にすんな!
スギナ : 災害も戦争も、お前なんかができることないだろ?
スギナ : 自分がやれることやれよ!
私: そうではあるんですけど、
私: 自分がやれそうなことをやってても、うまくいかなくて。
スギナ : お前、頭、硬いなー
スギナ : 体も心もできる範囲で、自由でいいんだぞ?
スギナ : 想像の中だったら「海賊王に、俺はなる!」とか言って
スギナ : 伸び縮みしようが、何しようが、いいんだぞ!
私: どこで、そういうの覚えるんですか?
スギナ: 草むらに、捨ててあった漫画の本だ!
スギナ: 人間って、変な所にいっぱいゴミを捨てるのな!
スギナ: ほかにも、女の人の裸の本とか、あったぞ!
私: ……(少し呆れたような感じで)あはは……
私: あの最強って何ですか?
スギナ: 最強は、最強だ!
私: いや、それじゃ、わけわかりません。
スギナ: 最強伝説、その一!
スギナ: おいらの仲間は三億年前から生きてた!
スギナ: 石炭紀の巨大シダ植物って奴なんだけど!
スギナ: 今は、こんなんだけど、
スギナ: おいらの仲間は、当時は、巨大だったんだぞ!
スギナ: それで分解されないで土に溜まった奴らが石炭になった!
スギナ: 産業革命とかいう奴の原動力になったんだっけ?
私: えええ?
スギナ: 最強伝説、その二!
私: まだあるんですか?
スギナ: 失礼な奴だな。
スギナ: その二!
スギナ: 広島の原爆のあとに、
スギナ: いち早く芽を出して人々を元気づけた!
私: ええええ?
スギナ: えっへん!
私: なんで焼けなかったんですか?
スギナ: 焼けたさ! 上は!
私: 上は?
スギナ: 上は焼けたけど、
スギナ: おいら地下茎(ちかけい)の張り巡らし方が凄いのよ!
スギナ: 地下六十センチとか、
スギナ: 深ければ、二メートル行く事もあるぞ!
スギナ: そして、どんどん横にも広がる!
私: 原爆のあとすぐ復活するのは、確かに最強ですね……
スギナ: おう!
スギナ: 深く根を張れるフィールドがあれば、
スギナ: 大概の事は大丈夫だあ!
スギナ: 取っても、取っても、出てくるから、
スギナ: おいらたちのことを
スギナ: 地獄草(じごくそう)とかいう奴もいるぞ!
スギナ: 地面を、耕せば耕すほど、
スギナ: 地下に潜る性質があるから、
スギナ: おいらは農家にも嫌がられてるな!
スギナ: でも、それが、どうした!
スギナ: 俺は最強だあ!
私: ほんとに最強ですね。
語り: と私はいいつつも、
語り: 「最強」を連呼する、スギナの単純さに、
語り: ちょっと笑ってしまった。
スギナ: お前! 今、俺を単純馬鹿だと、笑ったな?
私: い、いや、そんなこと思ってないですよ!
スギナ: おいらたちは、ただ、存在する。
スギナ: 無心の達人だ!
スギナ: まあ、無心なだけでもないか!
スギナ: 化学物質の変化でいろんなことがわかる!
スギナ: 植物同士や昆虫とだって、
スギナ: 連絡を取り合ってるんだぞ!
スギナ: キャベツとかに聞いてみろ!
私: は? キャベツ?
スギナ: 人間は「木石(ぼくせき)じゃあるまいに」とか、
スギナ: 植物や石をバカにした言い方するけどな!
スギナ: 植物や鉱物から、
スギナ: どれだけたくさんのことが、わかると思ってるんだ!
スギナ: 物質がなきゃ意識さえ宿らないんだぞ!
スギナ: まあ、難しい事はいいや!
スギナ: お前、
スギナ: ほんとに、いろんな事、
スギナ: ごちゃごちゃ考えてるだろ!
スギナ: 猫を見習え!
語り: 怒ったスギナが、
語り: わけがわからないことをまくしたてはじめたので、
語り: 私は、言葉を失った。
スギナ: お前、物凄く、何かになろうとしてるだろ。
スギナ: 健康になりたいとか、強くなりたいとか。
スギナ: 二十四時間そんなことばっか!
スギナ: そして、
スギナ: それを止める事ができなくなっているんじゃないか?
スギナ: 無心に存在することも大事なんだぞ!
スギナ: 吸収することよりも、
スギナ: 置いていくことが大事なこともあるし、
スギナ: 集める事よりも、
スギナ: 空っぽにすることによって、得られることもあるんだ!
私: ……え?
スギナ: 目を……閉じるんだ……
スギナ: フォースを感じるんだ!
私: は?
スギナ: お前、ほんとに頭硬いな!
スギナ: 冗談もわからないのか?
私: いったい、どこで、そういうの覚えるんですか?
語り: スギナは、今度は、ゆっくり、穏やかに言った。
スギナ : いいから……目を閉じるんだ……
語り: 私は目を閉じた。
スギナ : ……おいら達は、
スギナ : あの地獄の業火の中、
スギナ : こんな感じで、じっと芽を出せるチャンスを待っていた……
語り: 焼け野原になった地面の下で、
語り: 静かにスギナが、 待っている姿が見えたような気がした。
語り: 私は、今度は、スギナの言うことを素直に聞けた。
スギナ: 呼吸に意識を向けて……
スギナ: 深呼吸する必要は無いぞ。
スギナ: ただ、呼吸で空気が
スギナ: 喉や肺を行ったり来たりするのを感じるだけでいい。
スギナ: 姿勢も楽にしていいぞ。
スギナ: 自分の好きな恰好でいい。
私: ふっ……ふっ……
スギナ: 深い呼吸がいいなんていうけど、無理しないでいい。
スギナ: つぎに、体に意識を向けてみな。
スギナ: 体について考えるのとは違うぞ。
スギナ: 体の温かさ……お前、体が痛いって言ってたし、
スギナ: 体が強張ってる(こわばってる)感じだから
スギナ: 気血(きけつ)の巡りが悪そうだな。
スギナ: 体が熱かったり、冷たかったり、
スギナ: 柔らかさや強張りを、
スギナ: ただ、感じるんだ。
スギナ: 無理やり、リラックスしようって執着するのとも違うぞ。
スギナ: 痛みが酷過ぎる(ひどすぎる)なら、
スギナ: 痛い場所に意識を持っていって、
スギナ: その痛みと一緒に呼吸しながら
スギナ: 痛みの変化を感じてもいい……
スギナ: 考えるな…… 感じろ……
スギナ: それでも、ごちゃごちゃ考えるようなら、
スギナ: 呼吸の数を十、数えて、十いったらリセットして、
スギナ: また一から数えるのを繰り返してみろ……
私 : ふっ……ふっ……
私: ふー……ふー……
語り: ただただ、呼吸に意識を向けた。
語り: どのくらい呼吸に意識を向けていただろうか。
語り: 意図していないのに、
語り: 眠っている時のような
語り: 深くてゆっくりした呼吸になってきた。
語り: 不思議だ。
語り: ガチガチだった体が少し緩んで、楽になった気がした。
語り: 詰まっていたような目の奥の違和感も
語り: 少しあたたかい血が巡ってきて楽になった気がする。
私 : ありがとうございます……
私 : なんだか……少し体が緩みました。
私 : リラックスしようと思っても、全然できなかったのに。
スギナ: ほんとに、これをきちんとやる気だったら、
スギナ: ちゃんと人間の師匠につけよ!
スギナ: フォースも呼吸法も、深いことをやればやるほど、
スギナ: 暗黒面に堕ちないための、師匠が大事だ!
スギナ: ストレスが溜まり過ぎてる奴とか、
スギナ: 執着が強過ぎる奴とか。
スギナ: そういう奴が下手なやり方でやると、
スギナ: ヤバイ領域に行っちまう奴がいるからな。
語り: 「なんだ、なんだ?」と、私は思った。
語り: スギナは本当にフォースの達人みたいな事を言いだした。
私 : …スギナさん……スギナさんは、
私 : いったい、どこでこんなことを覚えたんですか?
スギナ: うーん?
スギナ: なんか、
スギナ: ここでときどき太極拳やってる爺ちゃんに話しかけたら
スギナ: 教えてくれた(笑う)。
スギナ: 爺ちゃんの話、聞いてたら、
スギナ: おいらたちの境地と似てるなあって思った。
スギナ: あ、元鍼灸師(もとしんきゅうし)だそうだ!
私 : 境地が似てるって……
私 : それでも……ただ……聞いただけで、
私 : あれを習得したんですか?
私 : スギナさん……
私 : あなた、いったい、どうなってるんですか?
スギナ: お前、俺の事をただの単純馬鹿だと思ってただろう!
スギナ: だから、言ったろ?
スギナ: 俺は最強だって!
スギナ: ちゃんと尊敬しろよっ!
語り: なぜかわからないが、そのすぐあとに、
語り: さっき逃げていった猫が、
語り: またアスファルトにやってきて、
語り: 背中をごろーん、ごろーんとやり始めた。
私: いてて! 畜生!
私:
語り: 私は、自転車を止めて休んでいた。
語り: 私は、自転車のスタンドを立てて、
語り: その空き地に座り込んだ。
語り: リハビリがうまくいかない。
語り: 膝が痛い。
語り: 呼吸が苦しい。
語り: 私は、体がこわばって痛い病気を患っていて、
語り: 動かさないと、体がますます、固まってしまう。
語り: だから、リハビリで、いろいろ動かしていないといけない。
語り: まったく不治の病ではない。
語り: 治る可能性もあると聞いている。
語り: 少しでも楽にならないかと、
語り: 自転車で走る時間を三十分から一時間にしてみた。
語り: ダメだ。消耗ばかりしてる。
語り: ちっとも、病気が良くならない。
語り: 空き地に面した道のアスファルトに
語り: 猫がゆっくり歩いてきて、
語り: ごろーん、ごろーんと、背中をこすりつけるようにして、
語り: 左右に転がっていた。
語り: 猫は目を細めている。
語り: いいなあ、私はため息をついた。
語り: 私は床に仰向けに寝られない。
語り: 背骨周りが強張り過ぎて、痛いのだ。
語り: ごろーん。ごろーん、なんて、もってのほかである。
語り: 猫はちらっと、私の方を向いて起き上がると、
語り: そそくさと、どこかに行ってしまった。
語り: 私の目つきがきつくなっていたのだろうか。
私: はあ……
スギナ: おーい!
語り: 私はあたりを見回した。
語り: 猫も何もいないのだが。あぁ、猫はしゃべらないか。
スギナ: こっちだよ!
私: ん???
スギナ: こっちだよ。お前が手をついてるそばの草だよ。
語り: 私は、火傷でもしたように、
語り: 手を地面から、引いてそこを見た。
スギナ: おー こんちは!
語り: また、植物に話しかけられているのか?
語り: 植物と話したのは、数か月前のイチョウ以来だった。
語り: あるきっかけで、私は植物と話せるようになったのだ。
スギナ: イチョウの爺さんが、心配してたぞ。
スギナ: 「ちょっと、メンタル弱めの奴に、
スギナ: 重い話し過ぎたかもしれん」って。
スギナ: 「お前くらいシンプルな奴の方が
スギナ: フォローにいいかもしれん」とか言ってさー。
スギナ: でも、おいらが出てくるまで、数か月あるんだぜ?
スギナ: もっと、早く出てくる、ほかの奴に頼めよなー
私: あなたは?
スギナ: 植物界の最強の存在! スギナだよ!
スギナ: 胞子飛ばす時のツクシの方が有名だけどな!
私: ツクシなんですか!
スギナ: そそ。今は、葉っぱモード。
私: イチョウさん、心配してくださってたんですか。
私: みなさん、優しいですね。
スギナ: イチョウの爺さんも、悪い奴じゃないんだけど、
スギナ: 神社で人の祈りや悩みを聞き過ぎてるから、
スギナ: いちいち、言う事が重いよなー
私: あの話聞いてたら、なんか、いろいろ考えてしまって。
スギナ : 気にすんな!
スギナ : 災害も戦争も、お前なんかができることないだろ?
スギナ : 自分がやれることやれよ!
私: そうではあるんですけど、
私: 自分がやれそうなことをやってても、うまくいかなくて。
スギナ : お前、頭、硬いなー
スギナ : 体も心もできる範囲で、自由でいいんだぞ?
スギナ : 想像の中だったら「海賊王に、俺はなる!」とか言って
スギナ : 伸び縮みしようが、何しようが、いいんだぞ!
私: どこで、そういうの覚えるんですか?
スギナ: 草むらに、捨ててあった漫画の本だ!
スギナ: 人間って、変な所にいっぱいゴミを捨てるのな!
スギナ: ほかにも、女の人の裸の本とか、あったぞ!
私: ……(少し呆れたような感じで)あはは……
私: あの最強って何ですか?
スギナ: 最強は、最強だ!
私: いや、それじゃ、わけわかりません。
スギナ: 最強伝説、その一!
スギナ: おいらの仲間は三億年前から生きてた!
スギナ: 石炭紀の巨大シダ植物って奴なんだけど!
スギナ: 今は、こんなんだけど、
スギナ: おいらの仲間は、当時は、巨大だったんだぞ!
スギナ: それで分解されないで土に溜まった奴らが石炭になった!
スギナ: 産業革命とかいう奴の原動力になったんだっけ?
私: えええ?
スギナ: 最強伝説、その二!
私: まだあるんですか?
スギナ: 失礼な奴だな。
スギナ: その二!
スギナ: 広島の原爆のあとに、
スギナ: いち早く芽を出して人々を元気づけた!
私: ええええ?
スギナ: えっへん!
私: なんで焼けなかったんですか?
スギナ: 焼けたさ! 上は!
私: 上は?
スギナ: 上は焼けたけど、
スギナ: おいら地下茎(ちかけい)の張り巡らし方が凄いのよ!
スギナ: 地下六十センチとか、
スギナ: 深ければ、二メートル行く事もあるぞ!
スギナ: そして、どんどん横にも広がる!
私: 原爆のあとすぐ復活するのは、確かに最強ですね……
スギナ: おう!
スギナ: 深く根を張れるフィールドがあれば、
スギナ: 大概の事は大丈夫だあ!
スギナ: 取っても、取っても、出てくるから、
スギナ: おいらたちのことを
スギナ: 地獄草(じごくそう)とかいう奴もいるぞ!
スギナ: 地面を、耕せば耕すほど、
スギナ: 地下に潜る性質があるから、
スギナ: おいらは農家にも嫌がられてるな!
スギナ: でも、それが、どうした!
スギナ: 俺は最強だあ!
私: ほんとに最強ですね。
語り: と私はいいつつも、
語り: 「最強」を連呼する、スギナの単純さに、
語り: ちょっと笑ってしまった。
スギナ: お前! 今、俺を単純馬鹿だと、笑ったな?
私: い、いや、そんなこと思ってないですよ!
スギナ: おいらたちは、ただ、存在する。
スギナ: 無心の達人だ!
スギナ: まあ、無心なだけでもないか!
スギナ: 化学物質の変化でいろんなことがわかる!
スギナ: 植物同士や昆虫とだって、
スギナ: 連絡を取り合ってるんだぞ!
スギナ: キャベツとかに聞いてみろ!
私: は? キャベツ?
スギナ: 人間は「木石(ぼくせき)じゃあるまいに」とか、
スギナ: 植物や石をバカにした言い方するけどな!
スギナ: 植物や鉱物から、
スギナ: どれだけたくさんのことが、わかると思ってるんだ!
スギナ: 物質がなきゃ意識さえ宿らないんだぞ!
スギナ: まあ、難しい事はいいや!
スギナ: お前、
スギナ: ほんとに、いろんな事、
スギナ: ごちゃごちゃ考えてるだろ!
スギナ: 猫を見習え!
語り: 怒ったスギナが、
語り: わけがわからないことをまくしたてはじめたので、
語り: 私は、言葉を失った。
スギナ: お前、物凄く、何かになろうとしてるだろ。
スギナ: 健康になりたいとか、強くなりたいとか。
スギナ: 二十四時間そんなことばっか!
スギナ: そして、
スギナ: それを止める事ができなくなっているんじゃないか?
スギナ: 無心に存在することも大事なんだぞ!
スギナ: 吸収することよりも、
スギナ: 置いていくことが大事なこともあるし、
スギナ: 集める事よりも、
スギナ: 空っぽにすることによって、得られることもあるんだ!
私: ……え?
スギナ: 目を……閉じるんだ……
スギナ: フォースを感じるんだ!
私: は?
スギナ: お前、ほんとに頭硬いな!
スギナ: 冗談もわからないのか?
私: いったい、どこで、そういうの覚えるんですか?
語り: スギナは、今度は、ゆっくり、穏やかに言った。
スギナ : いいから……目を閉じるんだ……
語り: 私は目を閉じた。
スギナ : ……おいら達は、
スギナ : あの地獄の業火の中、
スギナ : こんな感じで、じっと芽を出せるチャンスを待っていた……
語り: 焼け野原になった地面の下で、
語り: 静かにスギナが、 待っている姿が見えたような気がした。
語り: 私は、今度は、スギナの言うことを素直に聞けた。
スギナ: 呼吸に意識を向けて……
スギナ: 深呼吸する必要は無いぞ。
スギナ: ただ、呼吸で空気が
スギナ: 喉や肺を行ったり来たりするのを感じるだけでいい。
スギナ: 姿勢も楽にしていいぞ。
スギナ: 自分の好きな恰好でいい。
私: ふっ……ふっ……
スギナ: 深い呼吸がいいなんていうけど、無理しないでいい。
スギナ: つぎに、体に意識を向けてみな。
スギナ: 体について考えるのとは違うぞ。
スギナ: 体の温かさ……お前、体が痛いって言ってたし、
スギナ: 体が強張ってる(こわばってる)感じだから
スギナ: 気血(きけつ)の巡りが悪そうだな。
スギナ: 体が熱かったり、冷たかったり、
スギナ: 柔らかさや強張りを、
スギナ: ただ、感じるんだ。
スギナ: 無理やり、リラックスしようって執着するのとも違うぞ。
スギナ: 痛みが酷過ぎる(ひどすぎる)なら、
スギナ: 痛い場所に意識を持っていって、
スギナ: その痛みと一緒に呼吸しながら
スギナ: 痛みの変化を感じてもいい……
スギナ: 考えるな…… 感じろ……
スギナ: それでも、ごちゃごちゃ考えるようなら、
スギナ: 呼吸の数を十、数えて、十いったらリセットして、
スギナ: また一から数えるのを繰り返してみろ……
私 : ふっ……ふっ……
私: ふー……ふー……
語り: ただただ、呼吸に意識を向けた。
語り: どのくらい呼吸に意識を向けていただろうか。
語り: 意図していないのに、
語り: 眠っている時のような
語り: 深くてゆっくりした呼吸になってきた。
語り: 不思議だ。
語り: ガチガチだった体が少し緩んで、楽になった気がした。
語り: 詰まっていたような目の奥の違和感も
語り: 少しあたたかい血が巡ってきて楽になった気がする。
私 : ありがとうございます……
私 : なんだか……少し体が緩みました。
私 : リラックスしようと思っても、全然できなかったのに。
スギナ: ほんとに、これをきちんとやる気だったら、
スギナ: ちゃんと人間の師匠につけよ!
スギナ: フォースも呼吸法も、深いことをやればやるほど、
スギナ: 暗黒面に堕ちないための、師匠が大事だ!
スギナ: ストレスが溜まり過ぎてる奴とか、
スギナ: 執着が強過ぎる奴とか。
スギナ: そういう奴が下手なやり方でやると、
スギナ: ヤバイ領域に行っちまう奴がいるからな。
語り: 「なんだ、なんだ?」と、私は思った。
語り: スギナは本当にフォースの達人みたいな事を言いだした。
私 : …スギナさん……スギナさんは、
私 : いったい、どこでこんなことを覚えたんですか?
スギナ: うーん?
スギナ: なんか、
スギナ: ここでときどき太極拳やってる爺ちゃんに話しかけたら
スギナ: 教えてくれた(笑う)。
スギナ: 爺ちゃんの話、聞いてたら、
スギナ: おいらたちの境地と似てるなあって思った。
スギナ: あ、元鍼灸師(もとしんきゅうし)だそうだ!
私 : 境地が似てるって……
私 : それでも……ただ……聞いただけで、
私 : あれを習得したんですか?
私 : スギナさん……
私 : あなた、いったい、どうなってるんですか?
スギナ: お前、俺の事をただの単純馬鹿だと思ってただろう!
スギナ: だから、言ったろ?
スギナ: 俺は最強だって!
スギナ: ちゃんと尊敬しろよっ!
語り: なぜかわからないが、そのすぐあとに、
語り: さっき逃げていった猫が、
語り: またアスファルトにやってきて、
語り: 背中をごろーん、ごろーんとやり始めた。