台本概要

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タイトル アマガエルのぴっち&ちゃっぷ
作者名 レンga  (@renganovel)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 二匹のアマガエルが
雨に出会うために、魔女の家から飛び出すお話。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ぴっち 不問 124 好奇心旺盛なロマンチストのカエル 魔法は使えないけど、舌が長い。
ちゃっぷ 不問 119 プライドが高いリアリストのカエル ちょっとした魔法が使える。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:三日月の夜。森の中にある、木で作られた家の中 0:壁一面が分厚い本が並ぶ本棚になっている。 0:薄暗い室内は、月明かりと、いくつかのランタンの 0:オレンジ色の揺らめきだけで照らされている。  :  ぴっち:……ねえ、ちゃっぷ。(こそこそ声で) ちゃっぷ:なにさ、ぴっち。 ちゃっぷ:いいかい? 何度も言うようだけど ちゃっぷ:ボクが本を読んでいるときは、声をかけないでほしいんだ。 ちゃっぷ:ぴっち、君とは違ってボクは勉強熱心なんだよ。  :  0:本棚の空いたスペースで 0:二匹のカエルが暮らしている。 0:ちっちゃい眼鏡をかけたカエルは開いた本の上に乗っかって 0:眉間にしわを寄せて 0:ぺらりとページをめくり、文字を読んでいる。  :  ぴっち:ねえってば、ちゃっぷぅ(こそこそ声で) ちゃっぷ:聞こえているよ、ぴっち。 ちゃっぷ:言っただろう? ボクは魔法の勉強をしているんだ。 ちゃっぷ:君も魔法を覚えないと、魔女様に捨てられてしまうぞ?  :  0:もう一匹のカエルは、眼鏡のカエル『ちゃっぷ』の耳に口を寄せ 0:本棚から見える、窓の向こうを指さして 0:そのまんまるで、くりっくりの目ん玉を輝かせながら 0:ちゃっぷにささやく。  :  ぴっち:あのさ、ちゃっぷぅ……(こそこそ声で) ぴっち:外に出てみようよ(こそこそ声で) ちゃっぷ:なんだって!? 何を言うんだいぴっち! ぴっち:あれ、聞こえなかったかな(ひとりごと) ぴっち:ちゃっぷ! 外に出てみようよ! ちゃっぷ:わあああ! 声が大きいぞぴっち! ちゃっぷ:魔女様に聞かれたらどうするんだ!  ちゃっぷ:本当に捨てられたいのか!? ボクはごめんだね! ぴっち:大丈夫だよお。ご主人様はきっとお出かけ中さ。  :  0:おめめがくりくりなカエル『ぴっち』は 0:しきりに窓の外を指さしている。  :  ちゃっぷ:なんだって一体、いきなりそんなことを言い出すのさ? ちゃっぷ:君はいつも突拍子のないことを言うカエルだけど ちゃっぷ:今回のアイデアは、なんていうか、その……あれだ ぴっち:びっくり仰天? ちゃっぷ:そう、びっくり仰天だよ、ぴっち。 ちゃっぷ:驚いて眼鏡がずれちゃったじゃないか!  :  0:ちゃっぷは眼鏡をくいっと上げる。 0:ぴっちは窓の外を指さしたまま 0:くりくりの目でちゃっぷを見つめる。  :  ぴっち:ねえ、ちゃっぷ ぴっち:ぼく達って、アマガエルだよね? ちゃっぷ:今になって何を言うかと思えば。 ちゃっぷ:ボク達は魔女様に作られたアマガエルだ。 ちゃっぷ:ぴっち、私は何者なのか……みたいな哲学の話なら、専門外だぞ?  :  ぴっち:ちがうよ、ちゃっぷ。 ぴっち:哲学の話じゃなくてね。 ぴっち:ぼく達、アマガエルなのに……  :  0:ぴっち、ちょっぴり切なそうな顔になって 0:ちゃっぷ、ぴっちのそんな表情に気が付いて少したじろぐ  :  ちゃっぷ:なんだよ、ぴっち。 ちゃっぷ:そんな切なそうな顔して…… ぴっち:ぼく達、アマガエルなのに ぴっち:雨を知らないなあって思って……  :  0:間  :  ちゃっぷ:雨を知らない? なにを言うか! ええっと…… ちゃっぷ:確かこの辺の本に。  :  0:ちゃっぷ、その言葉をきいて別の本を取り出す。  :  ちゃっぷ:よっと、あったあった。 ちゃっぷ:雨ってのは、雲から降る水のしずくの事だ! ちゃっぷ:雲は水の煙? みたいなものだから、そこから落ちてくるのさ!  :  0:ちゃっぷはドヤ顔をする。 0:ぴっちは小さく首を振る。  :  ぴっち:ちがうよちゃっぷ、そうじゃなくてね 0:間 ぴっち:ぼく達は、アマガエルなのに雨に打たれた事がないんだ。 ぴっち:ぼく達はアマガエルなのに、雨の中で歌ったこともなければ ぴっち:アマガエルなのに、池の蓮の葉の上を、飛び跳ねたこともない。 ぴっち:――はたしてぼく達は、アマガエルなのだろうか。  :  ちゃっぷ:ぴっち、哲学の話になっているよ。 ぴっち:ちがう、ちがうよ、ちゃっぷ。 ぴっち:哲学じゃなくてね、それって変じゃないかな……って話だよ。 ぴっち:ぼくはね、憧れてるんだ。 ぴっち:ずっと黙っていたけれど、もう我慢できないんだよ。  :  0:ぴっち、呆けた顔で窓の外を見る。 0:三日月が紺色の星空に浮かんでいる。  :  ちゃっぷ:それは仕方がないじゃないか ちゃっぷ:ボクらはそんじょそこらのカエルとは違う。 ちゃっぷ:偉大な魔女様の使い魔なんだぞ? ぴっち:でも! ちゃっぷ! 想像してみてよ! ぴっち:水たまりに落ちる雨の音。 ぴっち:緑が濃くなる森の中、苔≪こけ≫むした石の上 ぴっち:ぼくときみとで歌を歌うのさ ぴっち:ぴょんこ、ぴょんこ、飛び跳ねながらね。  :  0:目を輝かせながら語るぴっち 0:首をかしげるちゃっぷ  :  ちゃっぷ:体験したことがないから、想像できないよ、ぴっち。 ぴっち:ちゃっぷ、君はそんなに本を読んでいるのに ぴっち:想像力が足りていないんじゃ、話にならないな。 ちゃっぷ:ちがうさぴっち! 何を言うんだい、ぴっち! ちゃっぷ:ボクは、君のようなロマンチストじゃないのさ。 ちゃっぷ:ボクはリアリストなんだよ、ぴっち!  :  0:ちゃっぷ、怒って顔を真っ赤にして 0:雨について書かれている本の上で 0:ぴょんこぴょんこ跳ねる。  :  ぴっち:落ち着きなよ、ちゃっぷ。 ぴっち:君らしくもない、ぼくの挑発で怒るなんて ぴっち:もしかして、図星だったのかい? ちゃっぷ:まったく! ぴっち! ちゃっぷ:言っていい事と、悪い事があるだろう!? ちゃっぷ:もう! これは、その、ええと、あれだ…… ぴっち:怒り心頭≪しんとう≫? ちゃっぷ:それさ! 怒り心頭に発するぞ! むきー!  :  ぴっち:ちょっと言い過ぎたさ、あやまるよ、ちゃっぷ ぴっち:でも、さっきも言ったけれどさ ぴっち:ぼくはずっと憧れていたんだ。 ぴっち:君と外に出て、雨に打たれたいって。 ちゃっぷ:やだね、ぴっち! ちゃっぷ:外に出たいなら、君一匹で行ってくるといい。 ちゃっぷ:ボクは怒られたくないし、魔女様の使い魔でいる事に誇りを持ってる。 ちゃっぷ:ボクはここで本を読んでいるから、ささ、行ってきなよ!  :  0:ぴっち、とっても悲しそうな顔をする。 0:うるうるしたまんまるおめめでちゃっぷを見る。 0:ちゃっぷ、その目を無視して本を読みながら 0:気になるのか、ちらちらぴっちの方を見る。  :  ぴっち:君と二匹でじゃないと意味がないのさ ぴっち:ねえ、ちゃっぷ。 ぴっち:ぼくは、君と二匹で歌いたいのさ ぴっち:ぼくは、君と二匹で飛び跳ねたいのさ ぴっち:ぼくは、君と二匹で、雨に打たれて ぴっち:――本当の、アマガエルになりたいんだよお。 0:間 ぴっち:生まれたときから、ずっと一緒だったんだからぁ……!(泣きながら)  :  0:ランタンのオレンジ色に揺らめく明かりが 0:ぴっちのうるうるした目に溜まる大粒の涙をきらめかせる。  :  ちゃっぷ:わかったよ、わかったから泣くなよぴっち。 ちゃっぷ:ボクも言い過ぎたさ、謝るよ。 ちゃっぷ:常々ボクも思っていたのさ、雨ってどんなかなあって。  :  ぴっち:本当かい? ちゃっぷ。 ちゃっぷ:本当だとも、ぴっち。 ちゃっぷ:でも、魔女様のそばから離れるわけにはいかないし ちゃっぷ:外から聞こえてくる雨の音で、満足することにしていたのさ。 ぴっち:本当に? ちゃっぷ:本当だとも! ちゃっぷ:ぴっち、君ほど気にはしていなかったけどね。 ぴっち:それじゃあ、ついて来てくれるんだね?! ちゃっぷ:そうだよ、まったく、君はしょうがないカエルだ。 ぴっち:わーい! やったー!   :  0:ぴっち、涙を拭いてにっこりわらう。 0:ぴょんこ、ぴょんこ。 0:ちゃっぷ、あきれたような、あきらめたような表情で 0:眼鏡を上げ、えっこらよっこらと、本を閉じてしまう。  :  ぴっち:ちゃっぷ、本を閉じて片づけたと言うことは ぴっち:早速今から外に行くということだね? ちゃっぷ:そうだよぴっち! ちゃっぷ:魔女様がおでかけなさっているうちに終わらせてしまおう! ぴっち:そうだね、ちゃっぷ!  :  0:ぴっち、嬉しそうにぴょんこ、ぴょんこと跳ねる。  :  ちゃっぷ:さっきのは嘘泣きかい、ぴっち。 ぴっち:そんなわけはないよー? 本泣きさ。 ちゃっぷ:それにしてはケロっとしているなあ。 ぴっち:カエルだからね、ケロっともするさ。 ちゃっぷ:うまい事言ったつもりかい? ぴっち。 ぴっち:ぼくは君よりもユーモラスだからね。ちゃっぷ。 ちゃっぷ:さっきまで泣いていたくせに、調子がいいなあ。 ぴっち:ケロケロケロ(笑い声)  :  0:間  :  ちゃっぷ:ぴっち、それで、どうやって外に出るかは決まってるのかい? ちゃっぷ:さっきから窓の外を気にしているけれど ちゃっぷ:もしかして、窓から出ようってな考えじゃないよね? ぴっち:窓から出る考えに、何か問題でもあるのかい? ちゃっぷ。  :  0:ちゃっぷ、驚いた表情でぴっちを見る。 0:大げさにオーマイガーって感じで両手を広げる。  :  ちゃっぷ:そりゃあ、問題ありありさぁ! ちゃっぷ:いいかい、ぴっち。 ぴっち:なにかな、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:ボクらは、そんじょそこらのカエルとは違う。 ちゃっぷ:偉大な魔女様の使い魔だ。わかるかい、ぴっち。 ぴっち:もちろんさ。その通りだよ、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:その辺の野ネズミや、野カエルとは違うのさ。 ちゃっぷ:偉大な魔女の、偉大なカエルのボクらは ちゃっぷ:窓から外に出るなんてこと、あってはならない。 ぴっち:じゃあどうするのさ、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:そりゃあ、玄関から出るのさ! ちゃっぷ:魔女様だって、いつも玄関から外に出ているだろう?  :  0:ちゃっぷ、眼鏡をくいっとあげ 0:部屋の扉の方を指さす。 0:扉は焦げ茶色の木の扉で、下げるタイプのドアノブが付いている。  :  ぴっち:ちゃっぷ、君はプライドが高いから ぴっち:ご主人様と同じように玄関から出たいと思うのかもしれないけれど ぴっち:ぼく達二匹でこの部屋を出て、 ぴっち:廊下を通って、階段を下りて、玄関にたどり着くのは ぴっち:並大抵のカエルには無理な話だよ? ちゃっぷ:ボクらは並大抵なカエルじゃないだろう? ちゃっぷ:偉大な魔女様の使い魔だ。 ちゃっぷ:これくらいできなくて、自分たちの望みが叶うはずないじゃないか。  :  0:ちゃっぷ、ドヤ顔で眼鏡を輝かせる。  :  ぴっち:ちゃっぷ、ぼくは使い魔でも ぴっち:普通のカエルなんだけどなあ。 ちゃっぷ:ぴっち、それは君が勉強不足だからさ! ちゃっぷ:ボクは、少しなら魔法が使える! ちゃっぷ:これくらいの事なら、きっと朝飯前さ! ぴっち:じゃあ、面倒なことが起きたら、ちゃっぷに全部お任せするよ! ちゃっぷ:なんでそうなるのか、全く分からないや。 ちゃっぷ:外に出たいのは、君だろう? ぴっち。 ぴっち:ぼくは窓から出るつもりだったからね。 ぴっち:わざわざ困難な道を行くとは思っても見なかったんだ。 ちゃっぷ:窓から出るのはボクのプライドがゆるさないよ、ぴっち。 ぴっち:うーん、そうだなあ。 ちゃっぷ:ぴっち、君はボクよりも舌が長いし、ジャンプ力もある。 ちゃっぷ:二匹の力で、困難も乗り越えよう! ぴっち! ぴっち:気が付いたら君の方がノリノリじゃないか、ちゃっぷ! ぴっち:ようし、わかった! ぴっち:憧れへの道が、簡単じゃあつまらないもんね! ぴっち:困難な道も乗り越えて、二匹で雨を探しに行こう! ちゃっぷ!  :  0:二匹は本棚のふちに立ち、部屋の中をもう一度見た。 0:木材切り出しの、木目の美しい丸型の大きなテーブルが部屋の中央にあり 0:白い花瓶に百合の花が生けられ、ランタンの明かりがそれを淡く照らす。 0:黒塗りのグランドピアノは、ふたが開けたままになっており、鍵盤にうっすらと埃がかぶっていた。 0:本棚の一番近くには、大きな観葉植物が葉を広げている。  :  ちゃっぷ:改めて部屋の中を見てみると、 ちゃっぷ:ボクらの魔女様は、やっぱりセンスがいい。 ぴっち:切り出しの机の上で、白い百合の花がランタンに照らされていて。 ちゃっぷ:黒塗りのグランドピアノと、 ちゃっぷ:その上に無造作に置かれたままの、色んな魔女帽子。 ぴっち:ピアノは埃被っちゃってるけどね。 ぴっち:ご主人様、飽きっぽいから。 ちゃっぷ:すぐそこにある観葉植物は、確か……オーガスタかな? ぴっち:へえ、ただの葉っぱじゃないんだあ! ぴっち:さっすがちゃっぷう! 物知りだねえ! ちゃっぷ:もしかしたら、モンテスラかもしれない。 ぴっち:ぼくは、ハスの葉っぱしか知らないやあ!  :  0:間  :  ちゃっぷ:それでだけどさ、ぴっち。 ちゃっぷ:君に、ここから外に出るための、作戦はあるのかい? ぴっち:もちろんあるさ、常々考えていたからね! ぴっち:ほら、君がさっき言っていた、えっと……モンブランだっけ? ちゃっぷ:モンテスラかい? ぴっち:そう、それさ! ぴっち:その、モンテカルロが本棚の近くまで葉を広げているだろう? ちゃっぷ:なるほど! あの葉から、正反対に広がっている葉に移動するんだね? ぴっち:さっすが、ちゃっぷだねえ! ちゃっぷ:あと、モンテカルロではなくてモンテスラだよ。 ぴっち:その先は、どうするかわかるかい、ちゃっぷ? ちゃっぷ:もちろんさ! 簡単なことじゃないか! ちゃっぷ:窓際にあるグランドピアノに飛び移って ちゃっぷ:部屋の扉まで進むんだね? ぴっち:そうさあ! ぴっち:その道のりなら、途中で気が変わって、窓から外に出ることもできるしね。 ちゃっぷ:ぴっち、ボクに限ってそれはないさ。 ちゃっぷ:困難を乗り越えるんだろう? ボクと君で。 ぴっち:確かに、君の気は変わりそうにないね、ちゃっぷ。  :  0:ぴっち、ワクワクした表情でちゃっぷを見る。 0:ちゃっぷ、必死で隠そうとしているが、少しおびえているように見える。  :  ちゃっぷ:さあ、行こうか。 ぴっち:そうだね、早速行こう! ぴっち:ぼくが先に葉に飛び乗るから、後に続いてほしい! ちゃっぷ:……あ、そうだ。ぴっち! ぴっち:いっくよお! えーい!  :  0:何か言おうとしたちゃっぷに気づかず 0:ぴっちはぴょおんと本棚から飛ぶ。 0:モンテスラの葉に着地すると、その大きな葉が一度大きく下に沈み 0:跳ね返ってちゃっぷのいるところまで葉が上がる。  :  ぴっち:っと! 着地大成功さ! ぴっち:葉が跳ね返って、君は楽に飛び移れそうだ! ほら! 今だよ! ちゃっぷ:え、ええい! ままよ! ちゃっぷ:……とお!  ぴっち:ちゃっぷ! ジャンプが足りてないよ!  :  0:ちゃっぷ、カエルなのに全然ジャンプ力がなく 0:すぐ近くまで来ていた葉にすら乗れず、一度空中で静止してバタバタする。  :  ちゃっぷ:あ、これ落ちるやつ ぴっち:ちゃっぷぅぅぅぅぅぅうううううう!!!!  :  0:ちゃっぷ、ひゅーんと落ちる。  :  ちゃっぷ:わあぁぁぁぁっぁああああああ!!! ぴっち:ちゃっぷ! すぐ助けるよ! ぼくの舌につかまるんだ! ぴっち:――れろーんっ!(長い舌をちゃっぷに向けて伸ばす)  :  0:ぴっちのながーい舌が、ちゃっぷのすぐ横まで伸びてくる。 0:ちゃっぷ、目をしろくろさせながらも、それにつかまる。  :  ちゃっぷ:死ぬかと思ったあ……。 ぴっち:ひっはるはら、ひっかりふかまっへへ!(舌を出しながら「引っ張るから、しっかりつかまってて!」)  :  0:重みでまた、葉がぐわんと下がる。 0:ちゃっぷ、涙目で舌にしがみついている。 0:ぴっち、思いっきり舌をひっぱる。  :  ちゃっぷ:わ、わかったよ……! たのむ!! ぴっち:へーーーい!(舌を出しながら「えーーーい!」)  :  0:引っ張る力と、葉が跳ね上がる力が重なって 0:ちゃっぷ、思った以上に飛んでいく。  :  ちゃっぷ:引っ張りすぎだよぴっちいいいいいいいいいい!!!! ちゃっぷ:飛んでっちゃうううううううううう!!! ぴっち:ああああああ! ごへん!!!(舌を出しながら「あああああ! ごめん!」)  :  0:ちゃっぷ、ピアノの鍵盤までしっかり飛んでいく。 0:ぴっちの舌は、ちゃっぷが勢いで離してしまってから 0:勢いよく口の中に戻ってくる。  :  ちゃっぷ:ああああああああああああああああああ!!(飛びながら) ちゃっぷ:……あうっ!(鍵盤の上に落ちて、ダーーーン!! と低音の和音) ぴっち:わあ! ちゃっぷがピアノの鍵盤まで飛んでっちゃった! ちゃっぷ:あうあうあうあう……(おめめくるくる、頭の上で星がちかちか) ぴっち:ごめんよちゃっぷぅ! ぴっち:あああ、頭の上に星が回っちゃってるよ……! ぴっち:今すぐそっちまで行くからねえ!  :  0:ぴっち、急いで反対側の葉まで渡り、葉の先端までぴょこぴょこ行く。 0:葉から、グランドピアノの上部におりて、そこから鍵盤まで降りていく。  :  ちゃっぷ:あうあうあう……(おめめくるくる、頭の上で星がちかちか、ひよこもぴよぴよ) ぴっち:ちゃっぷ、ぼくが来たよ、もう大丈夫だよ。  :  0:ぴっちが鍵盤を歩くたびに、和音が響く。  :  ぴっち:ほら、目を覚まして! ちゃっぷ! ちゃっぷ:……ううう。 ぴっち:ちゃっぷぅ! ちゃっぷ:ぴっち……! 君、ボクを投げ飛ばしたね……。 ぴっち:わざとじゃないんだよう。 ぴっち:モンテネグロの葉が思ったより跳ねたせいで ぴっち:ちゃっぷ、君が飛んで行ってしまったんだ。 ちゃっぷ:ぴっち、モンテネグロではなくてね、モンテスラさ。 ちゃっぷ:そして今更だけど、近くで見たら ちゃっぷ:やっぱりあれはモンテスラでもなくてオーガスタだと思う。 ぴっち:ぼくが悪かったからあ ぴっち:難しいことを言わないでくれるかい? ちゃっぷ:大丈夫さ、ボクは全然、全く、これっぽっちも怒ってないよ。(怒) ぴっち:ちゃっぷう、目が笑ってないよお。  :  0:ちゃっぷ、立ち上がってぴょんこと跳ねる。  :  ちゃっぷ:しかし鍵盤の上を跳ねていくとなると ちゃっぷ:結構うるさくなってしまいそうだなあ。 ぴっち:ご主人様が出かけていてよかったね! ぴっち:どんなにうるさくしたって大丈夫さ!  :  0:ぴっち、鍵盤の上でぴょんこぴょんこ跳ねる。 0:軽快にピアノが鳴る。  :  ちゃっぷ:まあ、確かにそうだね。 ちゃっぷ:こんなことはもうないと思うし、思う存分楽しんでしまおう。 ぴっち:ほら、ちゃっぷ、先に跳ねているよ!(ぴょんこぴょんこ) ちゃっぷ:ぴっち! 待ってくれよもう! 全然反省の色が見えないぞ!(ぴょんこぴょんこ)  :  0:二匹が適当に鍵盤の上で飛び跳ねている音楽が 0:偶然、フランツ・リストの『ラ・カンパネラ』のメロディになっている。  :  0:ひとしきり飛び跳ねて、ちゃっぷは疲れて鍵盤の上に座り込む。  :  0:間  :  ぴっち:はーーー! 楽しかったね! ぴっち:ピアノの音色と言うのは、心を落ち着かせるね。 ちゃっぷ:(息を切らして)大人げなくはしゃいでしまった…… ちゃっぷ:魔女様が帰ってくる前に戻らないといけないのに ちゃっぷ:ボクとしたことが……。 ぴっち:大丈夫だよ! ちゃっぷう! ぴっち:今から急げばきっと平気さ! そうだろう?  :  ちゃっぷ:でも…… ちゃっぷ:ここからあのドアノブまで、またジャンプしないといけないのだろう? ぴっち:そうか、君は思ったよりジャンプ力がなかったんだったね。 ちゃっぷ:す、ストレートな言葉を選びすぎだよ、ぴっち。 ちゃっぷ:もうちょっと、ああええと、何に包むんだっけ ぴっち:オブラートかな? ちゃっぷ:そう、それさ! オブラートに包んでもらえないと傷つくぞ。 ぴっち:でも君は、ちょっとした魔法が使えると言っていたじゃない? ぴっち:それでどうにかできるんじゃないかなあ?  :  0:ちゃっぷ、それを忘れていたと言わんばかりの表情。  :  ちゃっぷ:そうさ! それを忘れていたよ! ちゃっぷ:ボクには魔法があるじゃないか! ぴっち:忘れていたのかい? まったく、君はうっかりさんだなあ。 ちゃっぷ:ぴっち。君とは違ってね。 ちゃっぷ:ボクは色々な事を色々な角度から考えているから ちゃっぷ:大切なことを忘れてしまうことも、少しばかりあるというだけだよ ちゃっぷ:決して、うっかりさんではない。 ぴっち:ちゃっぷう。 ぴっち:……それを、うっかりさんと言うんだよ? ちゃっぷ:うっかりさんじゃないやい! ぴっち:ああもうわかったよう。 ぴっち:ちゃっぷはうっかりさんじゃないから、どんな魔法を見せてくれるんだい?  :  0:ちゃっぷ、少し怒りながらも 0:うんうんと考える。 0:そして、ぴこんっと頭の上に電球を出して  :  ちゃっぷ:そうだ! ドアノブにぶら下がらなくても ちゃっぷ:ボクが扉を開けてしまえばいいんだ! ぴっち:わお、すごいじゃないかちゃっぷう! ぴっち:そんなことができるんだね! ちゃっぷ:これくらいの事、朝飯前さ! ちゃっぷ:ちょっと待っていておくれよ……!  :  0:ちゃっぷ、扉の方に両手を向ける。 0:とてもかわいらしい両手である。  :  ぴっち:なんだか少しワクワクするね。 ちゃっぷ:ようし、いくぞう。 0:間 ちゃっぷ:えっと……【永久≪とこしえ≫の闇より出る≪いずる≫者よ、我の嘆き≪なげき≫を収めたまへ≪え≫……】 ぴっち:ちょっと待ってちょっと待って、ちゃっぷ。 ぴっち:魔法の呪文間違えてない? なんかすごく物騒だよ? ちゃっぷ:いいところなのに止めるなんて、ぴっち、君は空気が読めない系のカエルだな? ぴっち:ちゃっぷう。一度冷静になって今の呪文を振り返ってみてえ? ちゃっぷ:まあ確かに、ちょっぴり違うような気もしたんだけど…… ぴっち:怖いよちゃっぷ……。変なの現れたらひとたまりもないよ?  :  0:ちゃっぷ、もう一度うんうんと考える。 0:眼鏡をくいっとして、顔を上げる。  :  ちゃっぷ:うーん、やっぱりちょっと違っていたみたいだ。 ぴっち:ほら、やっぱりい。  :  ちゃっぷ:それじゃあ、改めて行くよ……! ぴっち:大丈夫かなあ。 ちゃっぷ:ええい! 【開けゴマ!≪ひらけごま≫】  :  0:ガチャ……!  :  ぴっち:うそお! 開いたあ! ちゃっぷ:さすがボクってところだね! ぴっち:ぼく、いまだに信じられないんだけど…… ちゃっぷ:ちゃんと勉強をすれば、ぴっち、君にもできるようになるさ! ぴっち:ちょっぴり興味をそそられるけれど、今は早く外に出ることの方が先決だよ! ちゃっぷ:ケロケロケロ……(あふれ出す笑み) ぴっち:ちゃっぷ、笑い方が少し気持ち悪いよ? ちゃっぷ:ごめんごめん、役に立てたことがうれしくて、つい。 ぴっち:ありがとうね、ちゃっぷ!  :  ぴっち:よし、それじゃあちゃっぷ、君は僕の背に乗りなよ! ちゃっぷ:ん? どうしてだい? ぴっち:ぼくはジャンプが得意だから、君を連れて行ってあげるのさ! ちゃっぷ:そんな、大丈夫さ! ボクは君の助けがなくたって外に出られる。 ぴっち:いいんだよ! お互いの得意を生かし合うんだ! ぴっち:君には、玄関の扉も開けてもらわないといけないし ぴっち:そこまではぼくが君を運ぶことにする! ちゃっぷ:ぴっち……。 ちゃっぷ:本当にいいのかい? ぴっち:さっき、君を投げ飛ばしちゃったしね。 ぴっち:これで許してもらえるかなあ? ちゃっぷ:最初から怒ってなんかないけどね。 ちゃっぷ:いいだろう、許してあげるよ。 ぴっち:やったあ!  :  ぴっち:それじゃあ、ぼくの背中に乗るんだ、ちゃっぷ! ちゃっぷ:わかった。 ちゃっぷ:っと……これでいいかい? ぴっち:しっかりつかまってるんだよ、ちゃっぷ! ちゃっぷ:勢いあまって落としたりしないでくれよ!? ぴっち:……ようし、それじゃあいくよおおおお!! ちゃっぷ:今、ちゃんと聞こえてたかい!? ちゃっぷ:落とさないように気を付けて……うわあああああああ!!!!  :  0:ぴっち、ちゃっぷを背にのっけて思いっきりジャンプ。 0:その時、鍵盤を押して、高音の和音が響く。 0:開いた扉の裏側までジャンプすると、着地と同時にそのまま扉を蹴って廊下の壁に着地。 0:ちゃっぷはもう勢いでつかまるというよりぴっちにぶら下がる感じになってる。  :  ちゃっぷ:ああああああ! 落ちるうううう! 落ちるよぴっちいいいいい!!!  :  0:ちゃっぷの声が聞こえているのかいないのか 0:ぴっちは壁から壁に三角跳びしながら階段へむかう。  :  ぴっち:ちゃっぷ、あっという間に階段だよ! ちゃっぷ:ひい、ひい、これは拷問かい? ぴっちい! ぴっち:ようし! 一気に行くよおお! ちゃんとつかまっててね! ちゃっぷ:ちょっと、激しすぎ……! 休憩を……あああああああ!!!!  :  0:ぴょんこ! ぴょんこ! 0:勢い良く、階段を跳ね降りていくぴっち。 0:ぴっちの首元に涙目でしがみつくちゃっぷ。  :  ちゃっぷ:うわああああああああ!!!(ぶら下がりながら) ぴっち:まったくもう! ちゃっぷは大げさだなあ!(跳ねながら) ぴっち:階段の手すりから、玄関の扉に向けて大きくジャンプするから!(跳ねながら) ちゃっぷ:ええ!? なんでそんなことするのさあああ!?(ぶら下がりながら) ぴっち:空中で魔法を唱えてくれるかい! ちゃっぷう!(跳ねながら) ちゃっぷ:だから、なんでそんなことするのさ!?(ぶら下がりながら) ぴっち:いっくよおおおお!!!(跳ねながら) ちゃっぷ:だからあああ!! なんでええええ!!!?(ぶら下がりながら)  :  ぴっち:さ-ん! にーい! いーち! とう!!!  :  0:ぴっち、階段の手すりから、玄関に向けて大ジャンプ! 0:スローモーションな感じの映像。  :  ぴっち:さあ! 魔法の呪文を! ちゃっぷうう!!(大ジャンプ! すがすがしい表情) ちゃっぷ:あわわわわわわわわ!!!(涙で軌跡を描きながら恐怖と困惑の表情)  :  0:二匹が玄関の扉に飛んでいく。 0:扉に直撃する寸前で、ガチャ……っと扉が開き 0:外から黒いローブの黒髪の女性が、魔女帽を被って入ってきた。  :  ぴっち:わああああ!!! 扉が開いた!!!!(ジャンプ中に) ぴっち:ご主人様が帰ってきた!!!!(ジャンプ中に) ちゃっぷ:魔女様ごめんなさいいいいい!!!(ジャンプ中に) ちゃっぷ:ぴっちが雨に打たれたいって言うからあああああ!!!(ジャンプ中に) ぴっち:ご主人様ごめんなさああああい!!!(ジャンプ中に) ぴっち:勢いがすごくて止まれないので!!(ジャンプ中に) ぴっち:このまま、雨に打たれてきまあああああす!!!(ジャンプ中に)  :  0:勢いよく外に飛び出した二匹をまだ若い魔女は微笑みながら見送る。 0:そして二匹はしばらく空中を飛んで、坂道を転がって 0:気が付くと、森の中の泉付近で転がっていた。  :  ちゃっぷ:あう……(おめめくるくる) ぴっち:あいたたた…… ぴっち:ここは……! 外だ! ぴっち:ちゃっぷう! 目を覚まして! 外に出れたんだ! ちゃっぷ:ボクはもう君の背中には一生のらないからな……! ちゃっぷ:まさか、森の泉まで転がってくるなんて……! ちゃっぷ:君のジャンプ力にはあきれ返るよ。 ぴっち:ほら! みてみて! ちゃっぷ! 苔≪こけ≫の生えた石だよ! ちゃっぷ:土の感触も、なかなか悪くないものだね。 ちゃっぷ:草の香りも、初めて嗅いだけどなんだか落ち着くものがある。  :  ぴっち:後はそうだなあ。 ぴっち:雨が、降ってくれたらいいのに。 ちゃっぷ:三日月が笑ってるよ。 ちゃっぷ:こりゃあ、当分雨は降りそうにないなあ。 ぴっち:そんな、せっかくここまで来たのに ぴっち:雨はお預けなんて、そんなのはあんまりじゃないかい? ちゃっぷ:でも仕方がないじゃないか。 ちゃっぷ:ボクも、雨を降らせる魔法なんて知らないし……  :  0:と、ここで突然、魔女の家の方から 0:青い光の筋が、三日月へ向かってとんでいく。 0:それが空に広がると、厚い雲が空を覆い始めた。  :  ぴっち:ちゃっぷ、空を見ているかい? ちゃっぷ:ああ、ぴっち、ボクは空を見ているよ。  :  ぴっち:きっと! ご主人様の魔法さあ! ぴっち:青い光の筋が、空に飛んで行って―― ちゃっぷ:ああ! きっとそうさ!! ちゃっぷ:厚い雲が……! どんどん三日月を覆い隠していくよ!! ぴっち:ちゃっぷ、ご主人様は、ぼく達のために!? ちゃっぷ:魔女様あ……(泣きそう)  :  0:ぽつ 0:ぽつ、ぽつと。 0:雨が降ってくる。  :  ぴっち:ああ…… ぴっち:ああ、ああ…… ぴっち:――これが、雨なんだね。 0:ぴっちは両手を広げて、雨を全身に感じている。  :  ちゃっぷ:いい香りだね、ぴっち。 ちゃっぷ:こんなにいいものだなんて、おもわなかった。 ちゃっぷ:世界が、どんどん美しくなっていく。 ちゃっぷ:何もかもが、きらめいていく…… 0:ちゃっぷは、景色をくるりと眺めた。  :  ぴっち:雨の音だ、雨のリズムだ。 ぴっち:泉を、雨が踊ってるよ、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:ぴっち、君の言っていたことがやっとボクにも分かったよ。 ちゃっぷ:ボクたちはアマガエルなんだね。 ちゃっぷ:ぴっち、ボクたちは、アマガエルなんだ。 ぴっち:そうだよ、ちゃっぷ。 ぴっち:ぼくらはアマガエルだ。 ぴっち:雨に打たれるというのは、こんなに幸せなことだったんだね。  :  ちゃっぷ:ねえ、ぴっち。 ちゃっぷ:そういえば、君。 ちゃっぷ:ボクと二匹で、したいことがあると言っていたね。 ぴっち:そうだ! 雨に感動して忘れるところだったよ! ぴっち:さあ、この苔の石に君もおいでよ! ぴっち:一緒に歌おう! 一緒に跳ねよう! ちゃっぷ:まったく、君には参ったものだよ。 ちゃっぷ:でもせっかくここまで来たんだから ちゃっぷ:君のそのわがままに、ボクも付き合ってあげようじゃないか。  :  0:二匹は、苔むした石の上で 0:ぴょんこ、ぴょんこと跳ねる。 0:雨音が、森を包み、緑をより一層濃くしていく。 0:泉に跳ねる雨音が、リズミカルに伴奏を奏でていく。  :   :  ぴっち:さあ、歌おう、ちゃっぷ。(ぴょんこ、ぴょんこ) ちゃっぷ:ああ、歌おうか、ぴっち。(ぴょんこ、ぴょんこ)  :  ぴっち:行くよー?  :  ぴっち:ぴっち♪ ぴっち♪ ちゃっぷ:ちゃっぷ♪ ちゃっぷ♪ ぴっち:らん♪ らん♪ らん♪(同時) ちゃっぷ:らん♪ らん♪ らん♪(同時)  :  ぴっち:ぴっち♪ ぴっち♪ ちゃっぷ:ちゃっぷ♪ ちゃっぷ♪ ぴっち:らん♪ らん♪ らん♪(同時) ちゃっぷ:らん♪ らん♪ らん♪(同時)  :  ぴっち:ぴっち♪ ぴっち♪ ちゃっぷ:ちゃっぷ♪ ちゃっぷ♪ ぴっち:らん♪ らん♪ らん♪(同時) ちゃっぷ:らん♪ らん♪ らん♪(同時)  :  0:フェードアウトしていく。  :  0:おしまい♪  :

0:三日月の夜。森の中にある、木で作られた家の中 0:壁一面が分厚い本が並ぶ本棚になっている。 0:薄暗い室内は、月明かりと、いくつかのランタンの 0:オレンジ色の揺らめきだけで照らされている。  :  ぴっち:……ねえ、ちゃっぷ。(こそこそ声で) ちゃっぷ:なにさ、ぴっち。 ちゃっぷ:いいかい? 何度も言うようだけど ちゃっぷ:ボクが本を読んでいるときは、声をかけないでほしいんだ。 ちゃっぷ:ぴっち、君とは違ってボクは勉強熱心なんだよ。  :  0:本棚の空いたスペースで 0:二匹のカエルが暮らしている。 0:ちっちゃい眼鏡をかけたカエルは開いた本の上に乗っかって 0:眉間にしわを寄せて 0:ぺらりとページをめくり、文字を読んでいる。  :  ぴっち:ねえってば、ちゃっぷぅ(こそこそ声で) ちゃっぷ:聞こえているよ、ぴっち。 ちゃっぷ:言っただろう? ボクは魔法の勉強をしているんだ。 ちゃっぷ:君も魔法を覚えないと、魔女様に捨てられてしまうぞ?  :  0:もう一匹のカエルは、眼鏡のカエル『ちゃっぷ』の耳に口を寄せ 0:本棚から見える、窓の向こうを指さして 0:そのまんまるで、くりっくりの目ん玉を輝かせながら 0:ちゃっぷにささやく。  :  ぴっち:あのさ、ちゃっぷぅ……(こそこそ声で) ぴっち:外に出てみようよ(こそこそ声で) ちゃっぷ:なんだって!? 何を言うんだいぴっち! ぴっち:あれ、聞こえなかったかな(ひとりごと) ぴっち:ちゃっぷ! 外に出てみようよ! ちゃっぷ:わあああ! 声が大きいぞぴっち! ちゃっぷ:魔女様に聞かれたらどうするんだ!  ちゃっぷ:本当に捨てられたいのか!? ボクはごめんだね! ぴっち:大丈夫だよお。ご主人様はきっとお出かけ中さ。  :  0:おめめがくりくりなカエル『ぴっち』は 0:しきりに窓の外を指さしている。  :  ちゃっぷ:なんだって一体、いきなりそんなことを言い出すのさ? ちゃっぷ:君はいつも突拍子のないことを言うカエルだけど ちゃっぷ:今回のアイデアは、なんていうか、その……あれだ ぴっち:びっくり仰天? ちゃっぷ:そう、びっくり仰天だよ、ぴっち。 ちゃっぷ:驚いて眼鏡がずれちゃったじゃないか!  :  0:ちゃっぷは眼鏡をくいっと上げる。 0:ぴっちは窓の外を指さしたまま 0:くりくりの目でちゃっぷを見つめる。  :  ぴっち:ねえ、ちゃっぷ ぴっち:ぼく達って、アマガエルだよね? ちゃっぷ:今になって何を言うかと思えば。 ちゃっぷ:ボク達は魔女様に作られたアマガエルだ。 ちゃっぷ:ぴっち、私は何者なのか……みたいな哲学の話なら、専門外だぞ?  :  ぴっち:ちがうよ、ちゃっぷ。 ぴっち:哲学の話じゃなくてね。 ぴっち:ぼく達、アマガエルなのに……  :  0:ぴっち、ちょっぴり切なそうな顔になって 0:ちゃっぷ、ぴっちのそんな表情に気が付いて少したじろぐ  :  ちゃっぷ:なんだよ、ぴっち。 ちゃっぷ:そんな切なそうな顔して…… ぴっち:ぼく達、アマガエルなのに ぴっち:雨を知らないなあって思って……  :  0:間  :  ちゃっぷ:雨を知らない? なにを言うか! ええっと…… ちゃっぷ:確かこの辺の本に。  :  0:ちゃっぷ、その言葉をきいて別の本を取り出す。  :  ちゃっぷ:よっと、あったあった。 ちゃっぷ:雨ってのは、雲から降る水のしずくの事だ! ちゃっぷ:雲は水の煙? みたいなものだから、そこから落ちてくるのさ!  :  0:ちゃっぷはドヤ顔をする。 0:ぴっちは小さく首を振る。  :  ぴっち:ちがうよちゃっぷ、そうじゃなくてね 0:間 ぴっち:ぼく達は、アマガエルなのに雨に打たれた事がないんだ。 ぴっち:ぼく達はアマガエルなのに、雨の中で歌ったこともなければ ぴっち:アマガエルなのに、池の蓮の葉の上を、飛び跳ねたこともない。 ぴっち:――はたしてぼく達は、アマガエルなのだろうか。  :  ちゃっぷ:ぴっち、哲学の話になっているよ。 ぴっち:ちがう、ちがうよ、ちゃっぷ。 ぴっち:哲学じゃなくてね、それって変じゃないかな……って話だよ。 ぴっち:ぼくはね、憧れてるんだ。 ぴっち:ずっと黙っていたけれど、もう我慢できないんだよ。  :  0:ぴっち、呆けた顔で窓の外を見る。 0:三日月が紺色の星空に浮かんでいる。  :  ちゃっぷ:それは仕方がないじゃないか ちゃっぷ:ボクらはそんじょそこらのカエルとは違う。 ちゃっぷ:偉大な魔女様の使い魔なんだぞ? ぴっち:でも! ちゃっぷ! 想像してみてよ! ぴっち:水たまりに落ちる雨の音。 ぴっち:緑が濃くなる森の中、苔≪こけ≫むした石の上 ぴっち:ぼくときみとで歌を歌うのさ ぴっち:ぴょんこ、ぴょんこ、飛び跳ねながらね。  :  0:目を輝かせながら語るぴっち 0:首をかしげるちゃっぷ  :  ちゃっぷ:体験したことがないから、想像できないよ、ぴっち。 ぴっち:ちゃっぷ、君はそんなに本を読んでいるのに ぴっち:想像力が足りていないんじゃ、話にならないな。 ちゃっぷ:ちがうさぴっち! 何を言うんだい、ぴっち! ちゃっぷ:ボクは、君のようなロマンチストじゃないのさ。 ちゃっぷ:ボクはリアリストなんだよ、ぴっち!  :  0:ちゃっぷ、怒って顔を真っ赤にして 0:雨について書かれている本の上で 0:ぴょんこぴょんこ跳ねる。  :  ぴっち:落ち着きなよ、ちゃっぷ。 ぴっち:君らしくもない、ぼくの挑発で怒るなんて ぴっち:もしかして、図星だったのかい? ちゃっぷ:まったく! ぴっち! ちゃっぷ:言っていい事と、悪い事があるだろう!? ちゃっぷ:もう! これは、その、ええと、あれだ…… ぴっち:怒り心頭≪しんとう≫? ちゃっぷ:それさ! 怒り心頭に発するぞ! むきー!  :  ぴっち:ちょっと言い過ぎたさ、あやまるよ、ちゃっぷ ぴっち:でも、さっきも言ったけれどさ ぴっち:ぼくはずっと憧れていたんだ。 ぴっち:君と外に出て、雨に打たれたいって。 ちゃっぷ:やだね、ぴっち! ちゃっぷ:外に出たいなら、君一匹で行ってくるといい。 ちゃっぷ:ボクは怒られたくないし、魔女様の使い魔でいる事に誇りを持ってる。 ちゃっぷ:ボクはここで本を読んでいるから、ささ、行ってきなよ!  :  0:ぴっち、とっても悲しそうな顔をする。 0:うるうるしたまんまるおめめでちゃっぷを見る。 0:ちゃっぷ、その目を無視して本を読みながら 0:気になるのか、ちらちらぴっちの方を見る。  :  ぴっち:君と二匹でじゃないと意味がないのさ ぴっち:ねえ、ちゃっぷ。 ぴっち:ぼくは、君と二匹で歌いたいのさ ぴっち:ぼくは、君と二匹で飛び跳ねたいのさ ぴっち:ぼくは、君と二匹で、雨に打たれて ぴっち:――本当の、アマガエルになりたいんだよお。 0:間 ぴっち:生まれたときから、ずっと一緒だったんだからぁ……!(泣きながら)  :  0:ランタンのオレンジ色に揺らめく明かりが 0:ぴっちのうるうるした目に溜まる大粒の涙をきらめかせる。  :  ちゃっぷ:わかったよ、わかったから泣くなよぴっち。 ちゃっぷ:ボクも言い過ぎたさ、謝るよ。 ちゃっぷ:常々ボクも思っていたのさ、雨ってどんなかなあって。  :  ぴっち:本当かい? ちゃっぷ。 ちゃっぷ:本当だとも、ぴっち。 ちゃっぷ:でも、魔女様のそばから離れるわけにはいかないし ちゃっぷ:外から聞こえてくる雨の音で、満足することにしていたのさ。 ぴっち:本当に? ちゃっぷ:本当だとも! ちゃっぷ:ぴっち、君ほど気にはしていなかったけどね。 ぴっち:それじゃあ、ついて来てくれるんだね?! ちゃっぷ:そうだよ、まったく、君はしょうがないカエルだ。 ぴっち:わーい! やったー!   :  0:ぴっち、涙を拭いてにっこりわらう。 0:ぴょんこ、ぴょんこ。 0:ちゃっぷ、あきれたような、あきらめたような表情で 0:眼鏡を上げ、えっこらよっこらと、本を閉じてしまう。  :  ぴっち:ちゃっぷ、本を閉じて片づけたと言うことは ぴっち:早速今から外に行くということだね? ちゃっぷ:そうだよぴっち! ちゃっぷ:魔女様がおでかけなさっているうちに終わらせてしまおう! ぴっち:そうだね、ちゃっぷ!  :  0:ぴっち、嬉しそうにぴょんこ、ぴょんこと跳ねる。  :  ちゃっぷ:さっきのは嘘泣きかい、ぴっち。 ぴっち:そんなわけはないよー? 本泣きさ。 ちゃっぷ:それにしてはケロっとしているなあ。 ぴっち:カエルだからね、ケロっともするさ。 ちゃっぷ:うまい事言ったつもりかい? ぴっち。 ぴっち:ぼくは君よりもユーモラスだからね。ちゃっぷ。 ちゃっぷ:さっきまで泣いていたくせに、調子がいいなあ。 ぴっち:ケロケロケロ(笑い声)  :  0:間  :  ちゃっぷ:ぴっち、それで、どうやって外に出るかは決まってるのかい? ちゃっぷ:さっきから窓の外を気にしているけれど ちゃっぷ:もしかして、窓から出ようってな考えじゃないよね? ぴっち:窓から出る考えに、何か問題でもあるのかい? ちゃっぷ。  :  0:ちゃっぷ、驚いた表情でぴっちを見る。 0:大げさにオーマイガーって感じで両手を広げる。  :  ちゃっぷ:そりゃあ、問題ありありさぁ! ちゃっぷ:いいかい、ぴっち。 ぴっち:なにかな、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:ボクらは、そんじょそこらのカエルとは違う。 ちゃっぷ:偉大な魔女様の使い魔だ。わかるかい、ぴっち。 ぴっち:もちろんさ。その通りだよ、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:その辺の野ネズミや、野カエルとは違うのさ。 ちゃっぷ:偉大な魔女の、偉大なカエルのボクらは ちゃっぷ:窓から外に出るなんてこと、あってはならない。 ぴっち:じゃあどうするのさ、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:そりゃあ、玄関から出るのさ! ちゃっぷ:魔女様だって、いつも玄関から外に出ているだろう?  :  0:ちゃっぷ、眼鏡をくいっとあげ 0:部屋の扉の方を指さす。 0:扉は焦げ茶色の木の扉で、下げるタイプのドアノブが付いている。  :  ぴっち:ちゃっぷ、君はプライドが高いから ぴっち:ご主人様と同じように玄関から出たいと思うのかもしれないけれど ぴっち:ぼく達二匹でこの部屋を出て、 ぴっち:廊下を通って、階段を下りて、玄関にたどり着くのは ぴっち:並大抵のカエルには無理な話だよ? ちゃっぷ:ボクらは並大抵なカエルじゃないだろう? ちゃっぷ:偉大な魔女様の使い魔だ。 ちゃっぷ:これくらいできなくて、自分たちの望みが叶うはずないじゃないか。  :  0:ちゃっぷ、ドヤ顔で眼鏡を輝かせる。  :  ぴっち:ちゃっぷ、ぼくは使い魔でも ぴっち:普通のカエルなんだけどなあ。 ちゃっぷ:ぴっち、それは君が勉強不足だからさ! ちゃっぷ:ボクは、少しなら魔法が使える! ちゃっぷ:これくらいの事なら、きっと朝飯前さ! ぴっち:じゃあ、面倒なことが起きたら、ちゃっぷに全部お任せするよ! ちゃっぷ:なんでそうなるのか、全く分からないや。 ちゃっぷ:外に出たいのは、君だろう? ぴっち。 ぴっち:ぼくは窓から出るつもりだったからね。 ぴっち:わざわざ困難な道を行くとは思っても見なかったんだ。 ちゃっぷ:窓から出るのはボクのプライドがゆるさないよ、ぴっち。 ぴっち:うーん、そうだなあ。 ちゃっぷ:ぴっち、君はボクよりも舌が長いし、ジャンプ力もある。 ちゃっぷ:二匹の力で、困難も乗り越えよう! ぴっち! ぴっち:気が付いたら君の方がノリノリじゃないか、ちゃっぷ! ぴっち:ようし、わかった! ぴっち:憧れへの道が、簡単じゃあつまらないもんね! ぴっち:困難な道も乗り越えて、二匹で雨を探しに行こう! ちゃっぷ!  :  0:二匹は本棚のふちに立ち、部屋の中をもう一度見た。 0:木材切り出しの、木目の美しい丸型の大きなテーブルが部屋の中央にあり 0:白い花瓶に百合の花が生けられ、ランタンの明かりがそれを淡く照らす。 0:黒塗りのグランドピアノは、ふたが開けたままになっており、鍵盤にうっすらと埃がかぶっていた。 0:本棚の一番近くには、大きな観葉植物が葉を広げている。  :  ちゃっぷ:改めて部屋の中を見てみると、 ちゃっぷ:ボクらの魔女様は、やっぱりセンスがいい。 ぴっち:切り出しの机の上で、白い百合の花がランタンに照らされていて。 ちゃっぷ:黒塗りのグランドピアノと、 ちゃっぷ:その上に無造作に置かれたままの、色んな魔女帽子。 ぴっち:ピアノは埃被っちゃってるけどね。 ぴっち:ご主人様、飽きっぽいから。 ちゃっぷ:すぐそこにある観葉植物は、確か……オーガスタかな? ぴっち:へえ、ただの葉っぱじゃないんだあ! ぴっち:さっすがちゃっぷう! 物知りだねえ! ちゃっぷ:もしかしたら、モンテスラかもしれない。 ぴっち:ぼくは、ハスの葉っぱしか知らないやあ!  :  0:間  :  ちゃっぷ:それでだけどさ、ぴっち。 ちゃっぷ:君に、ここから外に出るための、作戦はあるのかい? ぴっち:もちろんあるさ、常々考えていたからね! ぴっち:ほら、君がさっき言っていた、えっと……モンブランだっけ? ちゃっぷ:モンテスラかい? ぴっち:そう、それさ! ぴっち:その、モンテカルロが本棚の近くまで葉を広げているだろう? ちゃっぷ:なるほど! あの葉から、正反対に広がっている葉に移動するんだね? ぴっち:さっすが、ちゃっぷだねえ! ちゃっぷ:あと、モンテカルロではなくてモンテスラだよ。 ぴっち:その先は、どうするかわかるかい、ちゃっぷ? ちゃっぷ:もちろんさ! 簡単なことじゃないか! ちゃっぷ:窓際にあるグランドピアノに飛び移って ちゃっぷ:部屋の扉まで進むんだね? ぴっち:そうさあ! ぴっち:その道のりなら、途中で気が変わって、窓から外に出ることもできるしね。 ちゃっぷ:ぴっち、ボクに限ってそれはないさ。 ちゃっぷ:困難を乗り越えるんだろう? ボクと君で。 ぴっち:確かに、君の気は変わりそうにないね、ちゃっぷ。  :  0:ぴっち、ワクワクした表情でちゃっぷを見る。 0:ちゃっぷ、必死で隠そうとしているが、少しおびえているように見える。  :  ちゃっぷ:さあ、行こうか。 ぴっち:そうだね、早速行こう! ぴっち:ぼくが先に葉に飛び乗るから、後に続いてほしい! ちゃっぷ:……あ、そうだ。ぴっち! ぴっち:いっくよお! えーい!  :  0:何か言おうとしたちゃっぷに気づかず 0:ぴっちはぴょおんと本棚から飛ぶ。 0:モンテスラの葉に着地すると、その大きな葉が一度大きく下に沈み 0:跳ね返ってちゃっぷのいるところまで葉が上がる。  :  ぴっち:っと! 着地大成功さ! ぴっち:葉が跳ね返って、君は楽に飛び移れそうだ! ほら! 今だよ! ちゃっぷ:え、ええい! ままよ! ちゃっぷ:……とお!  ぴっち:ちゃっぷ! ジャンプが足りてないよ!  :  0:ちゃっぷ、カエルなのに全然ジャンプ力がなく 0:すぐ近くまで来ていた葉にすら乗れず、一度空中で静止してバタバタする。  :  ちゃっぷ:あ、これ落ちるやつ ぴっち:ちゃっぷぅぅぅぅぅぅうううううう!!!!  :  0:ちゃっぷ、ひゅーんと落ちる。  :  ちゃっぷ:わあぁぁぁぁっぁああああああ!!! ぴっち:ちゃっぷ! すぐ助けるよ! ぼくの舌につかまるんだ! ぴっち:――れろーんっ!(長い舌をちゃっぷに向けて伸ばす)  :  0:ぴっちのながーい舌が、ちゃっぷのすぐ横まで伸びてくる。 0:ちゃっぷ、目をしろくろさせながらも、それにつかまる。  :  ちゃっぷ:死ぬかと思ったあ……。 ぴっち:ひっはるはら、ひっかりふかまっへへ!(舌を出しながら「引っ張るから、しっかりつかまってて!」)  :  0:重みでまた、葉がぐわんと下がる。 0:ちゃっぷ、涙目で舌にしがみついている。 0:ぴっち、思いっきり舌をひっぱる。  :  ちゃっぷ:わ、わかったよ……! たのむ!! ぴっち:へーーーい!(舌を出しながら「えーーーい!」)  :  0:引っ張る力と、葉が跳ね上がる力が重なって 0:ちゃっぷ、思った以上に飛んでいく。  :  ちゃっぷ:引っ張りすぎだよぴっちいいいいいいいいいい!!!! ちゃっぷ:飛んでっちゃうううううううううう!!! ぴっち:ああああああ! ごへん!!!(舌を出しながら「あああああ! ごめん!」)  :  0:ちゃっぷ、ピアノの鍵盤までしっかり飛んでいく。 0:ぴっちの舌は、ちゃっぷが勢いで離してしまってから 0:勢いよく口の中に戻ってくる。  :  ちゃっぷ:ああああああああああああああああああ!!(飛びながら) ちゃっぷ:……あうっ!(鍵盤の上に落ちて、ダーーーン!! と低音の和音) ぴっち:わあ! ちゃっぷがピアノの鍵盤まで飛んでっちゃった! ちゃっぷ:あうあうあうあう……(おめめくるくる、頭の上で星がちかちか) ぴっち:ごめんよちゃっぷぅ! ぴっち:あああ、頭の上に星が回っちゃってるよ……! ぴっち:今すぐそっちまで行くからねえ!  :  0:ぴっち、急いで反対側の葉まで渡り、葉の先端までぴょこぴょこ行く。 0:葉から、グランドピアノの上部におりて、そこから鍵盤まで降りていく。  :  ちゃっぷ:あうあうあう……(おめめくるくる、頭の上で星がちかちか、ひよこもぴよぴよ) ぴっち:ちゃっぷ、ぼくが来たよ、もう大丈夫だよ。  :  0:ぴっちが鍵盤を歩くたびに、和音が響く。  :  ぴっち:ほら、目を覚まして! ちゃっぷ! ちゃっぷ:……ううう。 ぴっち:ちゃっぷぅ! ちゃっぷ:ぴっち……! 君、ボクを投げ飛ばしたね……。 ぴっち:わざとじゃないんだよう。 ぴっち:モンテネグロの葉が思ったより跳ねたせいで ぴっち:ちゃっぷ、君が飛んで行ってしまったんだ。 ちゃっぷ:ぴっち、モンテネグロではなくてね、モンテスラさ。 ちゃっぷ:そして今更だけど、近くで見たら ちゃっぷ:やっぱりあれはモンテスラでもなくてオーガスタだと思う。 ぴっち:ぼくが悪かったからあ ぴっち:難しいことを言わないでくれるかい? ちゃっぷ:大丈夫さ、ボクは全然、全く、これっぽっちも怒ってないよ。(怒) ぴっち:ちゃっぷう、目が笑ってないよお。  :  0:ちゃっぷ、立ち上がってぴょんこと跳ねる。  :  ちゃっぷ:しかし鍵盤の上を跳ねていくとなると ちゃっぷ:結構うるさくなってしまいそうだなあ。 ぴっち:ご主人様が出かけていてよかったね! ぴっち:どんなにうるさくしたって大丈夫さ!  :  0:ぴっち、鍵盤の上でぴょんこぴょんこ跳ねる。 0:軽快にピアノが鳴る。  :  ちゃっぷ:まあ、確かにそうだね。 ちゃっぷ:こんなことはもうないと思うし、思う存分楽しんでしまおう。 ぴっち:ほら、ちゃっぷ、先に跳ねているよ!(ぴょんこぴょんこ) ちゃっぷ:ぴっち! 待ってくれよもう! 全然反省の色が見えないぞ!(ぴょんこぴょんこ)  :  0:二匹が適当に鍵盤の上で飛び跳ねている音楽が 0:偶然、フランツ・リストの『ラ・カンパネラ』のメロディになっている。  :  0:ひとしきり飛び跳ねて、ちゃっぷは疲れて鍵盤の上に座り込む。  :  0:間  :  ぴっち:はーーー! 楽しかったね! ぴっち:ピアノの音色と言うのは、心を落ち着かせるね。 ちゃっぷ:(息を切らして)大人げなくはしゃいでしまった…… ちゃっぷ:魔女様が帰ってくる前に戻らないといけないのに ちゃっぷ:ボクとしたことが……。 ぴっち:大丈夫だよ! ちゃっぷう! ぴっち:今から急げばきっと平気さ! そうだろう?  :  ちゃっぷ:でも…… ちゃっぷ:ここからあのドアノブまで、またジャンプしないといけないのだろう? ぴっち:そうか、君は思ったよりジャンプ力がなかったんだったね。 ちゃっぷ:す、ストレートな言葉を選びすぎだよ、ぴっち。 ちゃっぷ:もうちょっと、ああええと、何に包むんだっけ ぴっち:オブラートかな? ちゃっぷ:そう、それさ! オブラートに包んでもらえないと傷つくぞ。 ぴっち:でも君は、ちょっとした魔法が使えると言っていたじゃない? ぴっち:それでどうにかできるんじゃないかなあ?  :  0:ちゃっぷ、それを忘れていたと言わんばかりの表情。  :  ちゃっぷ:そうさ! それを忘れていたよ! ちゃっぷ:ボクには魔法があるじゃないか! ぴっち:忘れていたのかい? まったく、君はうっかりさんだなあ。 ちゃっぷ:ぴっち。君とは違ってね。 ちゃっぷ:ボクは色々な事を色々な角度から考えているから ちゃっぷ:大切なことを忘れてしまうことも、少しばかりあるというだけだよ ちゃっぷ:決して、うっかりさんではない。 ぴっち:ちゃっぷう。 ぴっち:……それを、うっかりさんと言うんだよ? ちゃっぷ:うっかりさんじゃないやい! ぴっち:ああもうわかったよう。 ぴっち:ちゃっぷはうっかりさんじゃないから、どんな魔法を見せてくれるんだい?  :  0:ちゃっぷ、少し怒りながらも 0:うんうんと考える。 0:そして、ぴこんっと頭の上に電球を出して  :  ちゃっぷ:そうだ! ドアノブにぶら下がらなくても ちゃっぷ:ボクが扉を開けてしまえばいいんだ! ぴっち:わお、すごいじゃないかちゃっぷう! ぴっち:そんなことができるんだね! ちゃっぷ:これくらいの事、朝飯前さ! ちゃっぷ:ちょっと待っていておくれよ……!  :  0:ちゃっぷ、扉の方に両手を向ける。 0:とてもかわいらしい両手である。  :  ぴっち:なんだか少しワクワクするね。 ちゃっぷ:ようし、いくぞう。 0:間 ちゃっぷ:えっと……【永久≪とこしえ≫の闇より出る≪いずる≫者よ、我の嘆き≪なげき≫を収めたまへ≪え≫……】 ぴっち:ちょっと待ってちょっと待って、ちゃっぷ。 ぴっち:魔法の呪文間違えてない? なんかすごく物騒だよ? ちゃっぷ:いいところなのに止めるなんて、ぴっち、君は空気が読めない系のカエルだな? ぴっち:ちゃっぷう。一度冷静になって今の呪文を振り返ってみてえ? ちゃっぷ:まあ確かに、ちょっぴり違うような気もしたんだけど…… ぴっち:怖いよちゃっぷ……。変なの現れたらひとたまりもないよ?  :  0:ちゃっぷ、もう一度うんうんと考える。 0:眼鏡をくいっとして、顔を上げる。  :  ちゃっぷ:うーん、やっぱりちょっと違っていたみたいだ。 ぴっち:ほら、やっぱりい。  :  ちゃっぷ:それじゃあ、改めて行くよ……! ぴっち:大丈夫かなあ。 ちゃっぷ:ええい! 【開けゴマ!≪ひらけごま≫】  :  0:ガチャ……!  :  ぴっち:うそお! 開いたあ! ちゃっぷ:さすがボクってところだね! ぴっち:ぼく、いまだに信じられないんだけど…… ちゃっぷ:ちゃんと勉強をすれば、ぴっち、君にもできるようになるさ! ぴっち:ちょっぴり興味をそそられるけれど、今は早く外に出ることの方が先決だよ! ちゃっぷ:ケロケロケロ……(あふれ出す笑み) ぴっち:ちゃっぷ、笑い方が少し気持ち悪いよ? ちゃっぷ:ごめんごめん、役に立てたことがうれしくて、つい。 ぴっち:ありがとうね、ちゃっぷ!  :  ぴっち:よし、それじゃあちゃっぷ、君は僕の背に乗りなよ! ちゃっぷ:ん? どうしてだい? ぴっち:ぼくはジャンプが得意だから、君を連れて行ってあげるのさ! ちゃっぷ:そんな、大丈夫さ! ボクは君の助けがなくたって外に出られる。 ぴっち:いいんだよ! お互いの得意を生かし合うんだ! ぴっち:君には、玄関の扉も開けてもらわないといけないし ぴっち:そこまではぼくが君を運ぶことにする! ちゃっぷ:ぴっち……。 ちゃっぷ:本当にいいのかい? ぴっち:さっき、君を投げ飛ばしちゃったしね。 ぴっち:これで許してもらえるかなあ? ちゃっぷ:最初から怒ってなんかないけどね。 ちゃっぷ:いいだろう、許してあげるよ。 ぴっち:やったあ!  :  ぴっち:それじゃあ、ぼくの背中に乗るんだ、ちゃっぷ! ちゃっぷ:わかった。 ちゃっぷ:っと……これでいいかい? ぴっち:しっかりつかまってるんだよ、ちゃっぷ! ちゃっぷ:勢いあまって落としたりしないでくれよ!? ぴっち:……ようし、それじゃあいくよおおおお!! ちゃっぷ:今、ちゃんと聞こえてたかい!? ちゃっぷ:落とさないように気を付けて……うわあああああああ!!!!  :  0:ぴっち、ちゃっぷを背にのっけて思いっきりジャンプ。 0:その時、鍵盤を押して、高音の和音が響く。 0:開いた扉の裏側までジャンプすると、着地と同時にそのまま扉を蹴って廊下の壁に着地。 0:ちゃっぷはもう勢いでつかまるというよりぴっちにぶら下がる感じになってる。  :  ちゃっぷ:ああああああ! 落ちるうううう! 落ちるよぴっちいいいいい!!!  :  0:ちゃっぷの声が聞こえているのかいないのか 0:ぴっちは壁から壁に三角跳びしながら階段へむかう。  :  ぴっち:ちゃっぷ、あっという間に階段だよ! ちゃっぷ:ひい、ひい、これは拷問かい? ぴっちい! ぴっち:ようし! 一気に行くよおお! ちゃんとつかまっててね! ちゃっぷ:ちょっと、激しすぎ……! 休憩を……あああああああ!!!!  :  0:ぴょんこ! ぴょんこ! 0:勢い良く、階段を跳ね降りていくぴっち。 0:ぴっちの首元に涙目でしがみつくちゃっぷ。  :  ちゃっぷ:うわああああああああ!!!(ぶら下がりながら) ぴっち:まったくもう! ちゃっぷは大げさだなあ!(跳ねながら) ぴっち:階段の手すりから、玄関の扉に向けて大きくジャンプするから!(跳ねながら) ちゃっぷ:ええ!? なんでそんなことするのさあああ!?(ぶら下がりながら) ぴっち:空中で魔法を唱えてくれるかい! ちゃっぷう!(跳ねながら) ちゃっぷ:だから、なんでそんなことするのさ!?(ぶら下がりながら) ぴっち:いっくよおおおお!!!(跳ねながら) ちゃっぷ:だからあああ!! なんでええええ!!!?(ぶら下がりながら)  :  ぴっち:さ-ん! にーい! いーち! とう!!!  :  0:ぴっち、階段の手すりから、玄関に向けて大ジャンプ! 0:スローモーションな感じの映像。  :  ぴっち:さあ! 魔法の呪文を! ちゃっぷうう!!(大ジャンプ! すがすがしい表情) ちゃっぷ:あわわわわわわわわ!!!(涙で軌跡を描きながら恐怖と困惑の表情)  :  0:二匹が玄関の扉に飛んでいく。 0:扉に直撃する寸前で、ガチャ……っと扉が開き 0:外から黒いローブの黒髪の女性が、魔女帽を被って入ってきた。  :  ぴっち:わああああ!!! 扉が開いた!!!!(ジャンプ中に) ぴっち:ご主人様が帰ってきた!!!!(ジャンプ中に) ちゃっぷ:魔女様ごめんなさいいいいい!!!(ジャンプ中に) ちゃっぷ:ぴっちが雨に打たれたいって言うからあああああ!!!(ジャンプ中に) ぴっち:ご主人様ごめんなさああああい!!!(ジャンプ中に) ぴっち:勢いがすごくて止まれないので!!(ジャンプ中に) ぴっち:このまま、雨に打たれてきまあああああす!!!(ジャンプ中に)  :  0:勢いよく外に飛び出した二匹をまだ若い魔女は微笑みながら見送る。 0:そして二匹はしばらく空中を飛んで、坂道を転がって 0:気が付くと、森の中の泉付近で転がっていた。  :  ちゃっぷ:あう……(おめめくるくる) ぴっち:あいたたた…… ぴっち:ここは……! 外だ! ぴっち:ちゃっぷう! 目を覚まして! 外に出れたんだ! ちゃっぷ:ボクはもう君の背中には一生のらないからな……! ちゃっぷ:まさか、森の泉まで転がってくるなんて……! ちゃっぷ:君のジャンプ力にはあきれ返るよ。 ぴっち:ほら! みてみて! ちゃっぷ! 苔≪こけ≫の生えた石だよ! ちゃっぷ:土の感触も、なかなか悪くないものだね。 ちゃっぷ:草の香りも、初めて嗅いだけどなんだか落ち着くものがある。  :  ぴっち:後はそうだなあ。 ぴっち:雨が、降ってくれたらいいのに。 ちゃっぷ:三日月が笑ってるよ。 ちゃっぷ:こりゃあ、当分雨は降りそうにないなあ。 ぴっち:そんな、せっかくここまで来たのに ぴっち:雨はお預けなんて、そんなのはあんまりじゃないかい? ちゃっぷ:でも仕方がないじゃないか。 ちゃっぷ:ボクも、雨を降らせる魔法なんて知らないし……  :  0:と、ここで突然、魔女の家の方から 0:青い光の筋が、三日月へ向かってとんでいく。 0:それが空に広がると、厚い雲が空を覆い始めた。  :  ぴっち:ちゃっぷ、空を見ているかい? ちゃっぷ:ああ、ぴっち、ボクは空を見ているよ。  :  ぴっち:きっと! ご主人様の魔法さあ! ぴっち:青い光の筋が、空に飛んで行って―― ちゃっぷ:ああ! きっとそうさ!! ちゃっぷ:厚い雲が……! どんどん三日月を覆い隠していくよ!! ぴっち:ちゃっぷ、ご主人様は、ぼく達のために!? ちゃっぷ:魔女様あ……(泣きそう)  :  0:ぽつ 0:ぽつ、ぽつと。 0:雨が降ってくる。  :  ぴっち:ああ…… ぴっち:ああ、ああ…… ぴっち:――これが、雨なんだね。 0:ぴっちは両手を広げて、雨を全身に感じている。  :  ちゃっぷ:いい香りだね、ぴっち。 ちゃっぷ:こんなにいいものだなんて、おもわなかった。 ちゃっぷ:世界が、どんどん美しくなっていく。 ちゃっぷ:何もかもが、きらめいていく…… 0:ちゃっぷは、景色をくるりと眺めた。  :  ぴっち:雨の音だ、雨のリズムだ。 ぴっち:泉を、雨が踊ってるよ、ちゃっぷ。 ちゃっぷ:ぴっち、君の言っていたことがやっとボクにも分かったよ。 ちゃっぷ:ボクたちはアマガエルなんだね。 ちゃっぷ:ぴっち、ボクたちは、アマガエルなんだ。 ぴっち:そうだよ、ちゃっぷ。 ぴっち:ぼくらはアマガエルだ。 ぴっち:雨に打たれるというのは、こんなに幸せなことだったんだね。  :  ちゃっぷ:ねえ、ぴっち。 ちゃっぷ:そういえば、君。 ちゃっぷ:ボクと二匹で、したいことがあると言っていたね。 ぴっち:そうだ! 雨に感動して忘れるところだったよ! ぴっち:さあ、この苔の石に君もおいでよ! ぴっち:一緒に歌おう! 一緒に跳ねよう! ちゃっぷ:まったく、君には参ったものだよ。 ちゃっぷ:でもせっかくここまで来たんだから ちゃっぷ:君のそのわがままに、ボクも付き合ってあげようじゃないか。  :  0:二匹は、苔むした石の上で 0:ぴょんこ、ぴょんこと跳ねる。 0:雨音が、森を包み、緑をより一層濃くしていく。 0:泉に跳ねる雨音が、リズミカルに伴奏を奏でていく。  :   :  ぴっち:さあ、歌おう、ちゃっぷ。(ぴょんこ、ぴょんこ) ちゃっぷ:ああ、歌おうか、ぴっち。(ぴょんこ、ぴょんこ)  :  ぴっち:行くよー?  :  ぴっち:ぴっち♪ ぴっち♪ ちゃっぷ:ちゃっぷ♪ ちゃっぷ♪ ぴっち:らん♪ らん♪ らん♪(同時) ちゃっぷ:らん♪ らん♪ らん♪(同時)  :  ぴっち:ぴっち♪ ぴっち♪ ちゃっぷ:ちゃっぷ♪ ちゃっぷ♪ ぴっち:らん♪ らん♪ らん♪(同時) ちゃっぷ:らん♪ らん♪ らん♪(同時)  :  ぴっち:ぴっち♪ ぴっち♪ ちゃっぷ:ちゃっぷ♪ ちゃっぷ♪ ぴっち:らん♪ らん♪ らん♪(同時) ちゃっぷ:らん♪ らん♪ らん♪(同時)  :  0:フェードアウトしていく。  :  0:おしまい♪  :