台本概要
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タイトル | 人生楽しんだもん勝ち |
---|---|
作者名 | くま@甘党 |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
人生楽しんだもん勝ち精神で生きましょう!!
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
晃 |
男 ![]() |
217 | あきら |
亜衣 |
女 ![]() |
194 | あい |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:人生楽しんだもん勝ち
―:
0:自宅
亜衣:はぁー、仕事辞めたいなぁ…。
晃:本当にそう思うなら辞めたら?
亜衣:またそうやって簡単に言う…。
晃:だって、心が壊れるまで働くより、早めに決断して次に進む準備した方が断然いいじゃん。
亜衣:それはそうだけどさぁ…。
晃:……。
亜衣:晃は…なんで今の仕事続けられてるの?
晃:ん?俺は…楽しいから?
亜衣:嘘だ!全然興味無かったじゃない、ゲームのデバッカーなんて。
晃:そんな事ないよー?
亜衣:えー、本当に?やってみたかった?この仕事。
晃:うん。それに俺、どんな仕事でもそれなりに楽しめるし。
亜衣:へぇ…。羨ましい…。
晃:……。
亜衣:……ねぇ、そろそろ切り上げたら?もう10時間もやってるじゃん…。
晃:そうだなぁ…。あ、そろそろ風呂沸いたんじゃない?
亜衣:うん。さっき沸いたーって音鳴ってた。
晃:じゃあ先入ってこいよ。亜衣が上がったら俺も入るから。
亜衣:…はーい。
晃:いってらっしゃーい。
―:
亜衣:あきらー、上がったよー。
亜衣:
亜衣:
亜衣:……晃?どこ?
―:晃が寝室で倒れているのを発見する
亜衣:…え、晃!?どうしたの!?
亜衣:
亜衣:きゅ…救急車!!
0:病院
亜衣:(晃のベッドに頭を伏せて寝ている)……すぅ…すぅ…。
晃:………ん…。
亜衣:…あ……晃?起きた?
晃:ん……あれ…?
亜衣:病院! …晃、寝室で倒れてたんだよ…?
晃:え…?
亜衣:最近睡眠不足だったから疲れてたんじゃない…?
亜衣:もう、すっごい心配したんだからね!?
晃:あー…ごめん…。
亜衣:あ、先生呼んでくるね。
晃:ん、ありがとう。
亜衣:うん!
0:次の日 診察室
晃:ダウン…プロダム*症候群《しょうこうぐん》…?
亜衣:な、難病…?
晃:寝不足や疲労が溜まると、急に*失神《しっしん》や*心不全《しんふぜん》が起きる*指定難病《していなんびょう》…。
亜衣:……。
晃:しばらく薬で様子見ですか…。…はい、わかりました。ありがとうございました。失礼します。
0:退院日
亜衣:あきらー、おまたせ。会計とか手続き全部終わったよ。
晃:ありがとう!…よし、荷物も全部持ったし…行くか。
亜衣:あ、ねぇ!荷物、私が持つってば!
晃:だからw そんなに*大袈裟《おおげさ》に考えるなってw
亜衣:だって…疲労も溜めちゃダメなんだよ?
晃:ばかw これくらいの荷物を運んだだけで疲労が溜まってたら、
晃:俺この先何にもできないってw
亜衣:………何もしなきゃいいじゃん。
晃:え…?
亜衣:何もしなきゃいいじゃん!!
晃:…ふふw ありがとう。帰ろ?
亜衣:……ん。
0:自宅
晃:ふぅー、数日だったけど…なんか家が懐かしい感じw
亜衣:おかえり!
晃:あぁ、ただいま。
亜衣:ソファに座るか、ベッドで寝るか、どっちにする?
晃:…亜衣w
亜衣:あ、お風呂*沸《わ》かしてくるね!荷物もいいからほら、座るか寝てるかしてて!
晃:…ねぇ、俺ずっと寝たきりだったから体だるいんだけど?ちょっとは動きたいんだけどなぁ…?
亜衣:はいはい、病み上がりの人はジッとしててくださーい。ほら、ソファにでも座ってて。
晃:……やれやれw
―:
亜衣:晃、お風呂沸いたよ!
晃:おぉー、サンキュ。んじゃ、サッパリしてくるかぁ。
亜衣:…ねぇ、1人で大丈夫…?
晃:え?
亜衣:いや…だって…。
晃:あ、久しぶりだから一緒に入りたい?w
亜衣:もー、バカ!!心配してんの!!
晃:あっははw 大丈夫だよw
亜衣:何かあったら、すぐ呼んでよ…?
晃:あぁ。
亜衣:(不安そうに俯く)……んん。
晃:なぁw そんなに心配するなよ、大丈夫だから。
晃:薬も飲んでるし、先生もそんな*頻繁《ひんぱん》には起きないって言ってたろ?
亜衣:そうだけど…。…倒れたのついこの前だもん、落ち着かないよ…。
晃:…よし、じゃあやっぱり一緒に入ろう!
亜衣:え…?
晃:ほら、行こう!
亜衣:いや……それは…。
晃:ん?何…?そんなに一緒に入るの嫌なの?
亜衣:そ…そういう訳じゃないけど……。
晃:ほーら、たまにはいいじゃん、行こ?
亜衣:う……うん…。
―:寝室
晃:さて…、久しぶりに我が家のベッドだぁ!んーー、このフカフカマット…やっぱり気持ちいいw
亜衣:…ねぇ、仕事はどうするの?しばらく休むんでしょ?
晃:ん?んー…いや、ノルマもあるし、とりあえず明日から仕事復帰しようかなー。
亜衣:はぁ!?本気で言ってる!?
晃:え?
亜衣:ねぇ、そんなに生き急いでどうするの?何かに追われてるの?
晃:なんだよそれw
亜衣:……自分の*身体《からだ》を大事にしない人は、他人も大事にできないんだよ。
晃:…それ、出逢った頃俺が亜衣に言った言葉じゃんw
亜衣:そうだよ。だから私は、ちゃんと言われた通り自分を大事にしてきた。
晃:うん…。
亜衣:だから、私は今でも元気に生きてるし、晃と一緒に暮らせてる。
晃:うん。
亜衣:でも晃は…、私との生活を台無しにしようとしてる…。
晃:そんな事…。
亜衣:ある!退院した次の日から仕事って…バカじゃないの。
晃:だって今の仕事、デスクワークだよ?パソコンとにらめっこしてるだけじゃん。
亜衣:そうやって長時間仕事に打ち込んだ結果、疲労が溜まって倒れたんでしょ!
晃:あぁ…まぁ…。じゃあ、程々にするからさ。
亜衣:はぁ…。「ノルマ」なんて言ってるから、何にもわかってないんでしょうねぇ…。
晃:……。
亜衣:………ねぇ晃、私、今の仕事辞める。
晃:あ、決めたんだ?
亜衣:うん。だから、晃も辞めよ?
晃:……は?
亜衣:ちょっとの間だけ!ね!お願い!
亜衣:お互い今までちゃんと貯金してきたし、
亜衣:半年働かなくても困らないくらい、*蓄《たくわ》えはあるでしょ!?
晃:いや…金はあるだろうけど…。いきなりどうしたんだよ?
亜衣:旅行に行きたい!
晃:旅行!?
亜衣:そう!日本中、あちこち行きたい所、全部行こうよ!そして食べたい物全部食べ歩くの!
晃:日本中って…、また*大《だい》それた思い付きをw
亜衣:人生は一度きり!後悔しないようにやりたい事は全部やる!!
晃:……それも俺が前に言ったやつw
亜衣:そうだよ!晃、人にはカッコイイ事言っておいてさ、…自分の人生は?
晃:……。
亜衣:楽しんでるの?やりたい事、全部やれてるの?
晃:……やれてない…。
亜衣:…ね?息抜きには丁度良いタイミングじゃん!
晃:…んん……。
亜衣:今の仕事だって、人が急に辞めて*人手《ひとで》が足りないからって頼まれただけでしょ。
亜衣:もう十分新しい社員さんも入ったんだから、晃はもうお*役御免《やくごめん》じゃん!
晃:…まぁ、確かに人は充実したな…。
亜衣:でしょ?なら晃が無理に続ける事も無いじゃん!
晃:ん……。てか、旅っていつまでするの?
亜衣:んー、少なくとも1ヶ月は旅をしよう!
晃:い…1ヶ月!?
亜衣:そ。あっという間だよー、日本中を旅してたら1ヶ月なんて。
晃:そ…それはそうかもしれないけど…。
亜衣:大丈夫!*休息《きゅうそく》はちゃんと十分に確保できるように予定組むから!
晃:………。
亜衣:………やっぱり…ダメ?
晃:……ふふw
亜衣:…え、なに?
晃:いや…w 出逢った頃とは別人みたいに行動力ついたよなーってw
亜衣:あーw そりゃあ影響もされるよw だってあの頃の晃、行動力の鬼みたいだったからねw
晃:散々振り回して亜衣によく怒られてたよなw フッ*軽《かる》過ぎってw
亜衣:だって過密スケジュールが当たり前だったんだもんw
亜衣:でもすっごい輝いてたよ!人生楽しんでます!!って感じw
晃:あははw
亜衣:………私の、せいだよね。
晃:え…?
亜衣:………。
晃:……それは違うって何度も言ったろ?
亜衣:…だって…、私が病気になったから…晃は……。
晃:あーい?それ、もう言わない約束じゃなかったか?
亜衣:………うん。
晃:…ったく。
亜衣:………。
晃:よし、じゃあー本当に行っちゃうかぁ!日本中、あちこち飛び回ってさ!w
亜衣:……晃。うん!行く!!やったー!w
晃:よーし、そうと決まれば、仕事もケリつけて、色々と準備しなくちゃな!
亜衣:あ、大事な事! お互い身体に負担が掛からないようにね!
晃:うん、じゃあそれを*根本《こんぽん》に置いて計画しよう!
亜衣:わあーーw なんか一気に楽しみになった!w
晃:あははw 人生楽しんだもん勝ちだからな!
亜衣:出た!晃の名言!w
0:1ヶ月後
晃:よし、亜衣!準備できたぞ!
亜衣:はーい!私ももうすぐ!
晃:薬も持ったし、先週の診察で問題無いって言われたし、大丈夫だろ。
亜衣:おまたせーー!
晃:おぉー、気合いバッチリだなw
亜衣:へっへー!もっちろん!!
晃:よし、それじゃあ、いざ行かん!
亜衣:日本、食い尽くし旅ーー!!w
0:
晃M:とまぁ、そんな訳で。
晃M:
晃M:亜衣の思い付きから始まったこの「日本食い尽くし旅」w
晃M:
晃M:まずは俺達が大好きな、名古屋に行った。
晃M:
晃M:赤味噌ダレがたまらなく美味しい味噌カツ。
晃M:
晃M:あとは有名な名古屋コーチンの親子丼に、ひつまぶし、どれも本当に美味しかった。
亜衣M:限られた時間を有効に、そしてその土地の名物を余す事無く堪能して。
亜衣M:
亜衣M:私達はどんどん*旅路《たびじ》を進めていった。
亜衣M:
亜衣M:夜はホテルでお互いゆっくり体を休ませ、無理をすることなく、新幹線で次の目的地へ。
亜衣M:
亜衣M:大阪、広島、福岡、沖縄と南下していき…
亜衣M:
亜衣M:日本食い尽くし旅、最後の舞台に選んだのは、一気に北上して北海道!
晃M:*苫小牧《とまこまい》、*函館《はこだて》、ニセコに*小樽《おたる》、そして札幌。
晃M:
晃M:海鮮はもちろん、ラーメンにスープカレーにジンギスカン。
晃M:
晃M:北海道ならではのデザートも沢山食べて、最後は腹がはちきれそうだったw
亜衣M:聞いてる人は「食べてばっかり」と思うだろうけど、ちゃんと観光もしたんだよ!
亜衣M:
亜衣M:それぞれの有名な観光地に*赴《おもむ》いたり、
亜衣M:
亜衣M:2人が好きなアニメの*聖地巡礼《せいちじゅんれい》なんかもした。
亜衣M:
亜衣M:そしていよいよ旅も*終盤《しゅうばん》…。
0:*石狩太井町《いしかりふといちょう》 *太井銘泉《ふといめいせん》
晃:はぁー、良い湯だったぁ!数日間にわたる北海道の旅の疲れも吹き飛ぶなぁ!
亜衣:北海道に上陸してから今日で5日目かな? さすがでっかいどうだよね!w
亜衣:あ、ねぇねぇ、露天風呂も入った?心地良い風が吹いててめっちゃ癒されたぁ。
晃:もっちろん!夕陽が綺麗だったなぁ!
晃:はぁー、これで1ヶ月の旅ももう終わりかぁ…。本当にあっという間だったなw
亜衣:ねw
亜衣:
亜衣:………。
亜衣:
亜衣:あの…ごめんね?最後なのに、こんな田舎の方まで来てもらっちゃって…。
晃:ん?別にそれはいいんだけどさ…。どうしてこの町に来たかったんだ?
亜衣:…昔ね、お父さんがこの町で働いていた事があるんだって。
晃:へぇ?
亜衣:それでね、その頃はこの辺に、フクロウが居たんだって。
晃:あぁ…、隣の*当越町《とうえつちょう》のシンボルになってたよな。
亜衣:そう。 …フクロウってね、「幸運の鳥」って呼ばれてるの。知ってた?
晃:え、知らなかった。そうなんだ?
亜衣:ほら、最近フクロウカフェとか流行ってるじゃん!
晃:あー、なんか地元にも新しく出来てたな!
亜衣:うん。
晃:それで?
亜衣:それで……だから、……あやかりたくて…w
晃:…あやかる?
亜衣:フクロウにまつわる神話とか言い伝えってたくさんあってね…。
亜衣:
亜衣:夜行性で夜、目が利くことで「見通しが明るい」と言われたり、
亜衣:
亜衣:幸福の「福」に、人が来るの「来る」に、太郎の「郎」って書いて*福来郎《ふくろう》、だから「福が来る」とか、
亜衣:
亜衣:*不苦労《ふくろう》って書いて、苦労しないって縁起の良い当て字があてられたりとか。
亜衣:
亜衣:あ、あとね、エジプト神話では、
亜衣:
亜衣:異界とコミュニケーションがとれるとされていて、
亜衣:
亜衣:「神秘の聖霊」って言われてるの。すごくない?
亜衣:
亜衣:危険を予知できる予言者として扱われてるんだって!
晃:ず…随分とフクロウに詳しいんだな…w
亜衣:…あ、あははw つい夢中になって調べちゃって…w
晃:…なぁ。
亜衣:え?
晃:さっき「あやかりたい」って言ったけどさ…、何かあったの?
亜衣:あ……えっと……。
晃:…ん?
亜衣:後で話すね!w
晃:はぁ?なんでだよ、大事な事だろ?今話せよ!
亜衣:それより行きたい所があるの!
晃:行きたい所?
亜衣:そう!その為にこの町に来たんだから!
晃:どこ?
亜衣:*当越《とうえつ》ダム!
晃:ダム!?
亜衣:ふふふw そこのダムね、あるスポットになってるの!
晃:……おいおい…、まさか……飛んだりしないよな?
亜衣:バカ!!そんな事する訳ないでしょ?
晃:……お、おう。
亜衣:はい!行くよ!車借りたから準備して!
晃:え、車!?
亜衣:そ!歩くにはちょっと遠いの!だからホテルの人に頼んで車借りちゃったw
晃:そ、そうなんだ…。
亜衣:さぁーしゅっぱーつ!
0:当越ダム
亜衣:はぁー、着いたー!
晃:うわぁ…真っ暗…。下見えないじゃん…こわ。
亜衣:ここにきて下を見る人なんて居ないよw 晃、空見て!
晃:空?
―:頭上には満天の星空が広がっている
亜衣:……うわぁー、スッキリ晴れてくれて良かったー!
晃:こ…これは……すごいな…。
亜衣:ふっふっふw 当越ダムは天体観測のスポットでした!w
晃:…安心したw 他にも何組か来てるんだな。そんなに有名なスポットなのか?
亜衣:うん!ネットで探したらすぐ出てくるくらいには。
晃:そっか。……にしても、都会じゃ絶対見れないな…こんな綺麗な星空…。
亜衣:うん…本当に綺麗…。
晃:……………亜衣。
亜衣:ん?
晃:身体、大丈夫なのか?
亜衣:んー、多分?
晃:多分って…。
亜衣:んふw 大丈夫だよ、きっと…。
晃:……フクロウの話も、この旅の思い付きも、何かあったんだろ?
亜衣:………。
晃:……。急に旅に行きたいって言い出したのも、それでか…。
亜衣:……それもあるけど、でも晃が心配だったのは本当だよ!?
晃:わかってるよw でも、それだけじゃなかったんなら、なんで言ってくれなかったの?
亜衣:え……。
晃:俺達の中で、隠し事は無しなんじゃなかった?
亜衣:………。
晃:…言ってみ?怒らないからw
亜衣:……なにそれ。子供に白状させるお母さんじゃん…。
晃:確かにw
亜衣:しかも言ったら絶対怒られるやつ…。
晃:…ったく。大人だろ?ちゃんと自分の口から言えよ。
亜衣:……。
晃:……いつから悪化してた?
亜衣:は…半年くらい前…。
晃:……ばか!(軽く亜衣の頭を叩く)
亜衣:いったぁ…。……ごめん…。
晃:なんでちゃんと言わないかなぁ…。
亜衣:だって…心配掛けたくない…。言っても私の場合…変わらないし…。
晃:だからって、俺に内緒で元気なフリをしてたのか?半年間も…。
亜衣:そんなに症状が出ないから大丈夫だったの!てか治った気でいたの!
晃:……下手な噓。治った気になんかなってないだろ。……なれるわけ、ないだろ…。
亜衣:……。
晃M:*不治《ふち》の*病《やまい》…「*染光病《せんこうびょう》」。
晃M:
晃M:身体にできたアザが、徐々に全身に広がっていく。
晃M:
晃M:*死期《しき》が近付くと、そのアザである染色体が光り始めるという謎の病気。
晃M:
晃M:亜衣は20歳の誕生日に発症が確認された。
晃M:
晃M:身に覚えのないアザが見つかり、それが年々広がっているのがわかって受診した。
晃M:
晃M:原因は未だに不明。そして世界でも同じ症例はほぼ無く、治療法もまだ見つかっていないと言われた。
亜衣M:いきなり知らない病名を言われても、全然ピンと来なかった。
亜衣M:
亜衣M:だけど…だんだんと症状が出始めた頃から、どんどん怖くなっていった…。
亜衣M:
亜衣M:急に身体がだるくなったり、*眩暈《めまい》や立ち*眩《くら》みが*頻繁《ひんぱん》に起きたり、
亜衣M:
亜衣M:ひどい時は、朝起きてからずっと力が入らず寝たきりになったり…。
亜衣M:
亜衣M:でも最近は落ち着いていて、そんな症状も出てなかったの。
亜衣M:
亜衣M:だから晃にも何も言わず、平然と日常を過ごしていた…。
亜衣M:
亜衣M:だけど…。
晃:……亜衣?
亜衣:……。
晃:なぁ、何があったんだよ?
亜衣:……背中、見て?
晃:背中…?
―:服を脱ぐ亜衣
晃:あ……アザが、光って……。
亜衣:……うん。
晃:で、でもこの前一緒に風呂に入った時は、なんともなかっただろ!?
亜衣:あの日は…たまたまだと…思う。それかお風呂の電気で目立たなかったのかも…。
晃:………。
亜衣:半年くらい前にね、職場で頭痛がひどくなった時、トイレで確認したの。
亜衣:そしたら…ちょっと光ってるのがわかった。
晃:な……なんでその時に言わないんだよ…。
亜衣:…ごめん。なんか…怖くなっちゃって…。
晃:……。
亜衣:それでね、その次の日から様子を見てたんだけど、全然光る事もないし、
亜衣:頭痛とか他の症状も出なかったの。
晃:……そっか。
亜衣:だけど…それから1週間とか5日置きに光るようになったの。
晃:え…?
亜衣:私…不安になって病院の先生に電話して聞いたの。
亜衣:そしたら、「確実に進行している」って言われて…。原因もまだ解明中だって…。
晃:……じゃあ治療法も…まだか。
亜衣:うん…。でもね、2ヵ月くらい前から症状がパッタリ*治《おさ》まったの。
晃:…2ヶ月前?
亜衣:そう。
亜衣:
亜衣:…だけどさ、なんか光ったアザを見てから、
亜衣:私が生きていられるのは後何年なんだろうって…。
晃:そんな事…
亜衣:考えるでしょ!?普通…。
晃:…あ…ごめん。
亜衣:後何年か…、何ヵ月か、何週間か……。
晃:……亜衣。
亜衣:いつこのアザが急に光り出して、私の命を奪うのかわかんないんだよ…?
晃:…うん……。
亜衣:…だから仕事してる場合じゃないって思ったの。
晃:あぁ…そういう事か…。
亜衣:だって…晃との思い出、まだまだ足りないんだもん!
晃:亜衣…。
亜衣:私がこのまま死んじゃってさ、晃が天国に来るまで後何年ある?
亜衣:向こうで私が退屈しないように、生きてるうちにたくさん思い出作りたいの!
晃:………わかった。
亜衣:…え?
晃:これからできるだけ思い出増やしていこう!
亜衣:…うん!
晃:それに…。
亜衣:ん?
晃:俺だってダウン…なんたら症候群って難病患者なんだ、案外すぐそっち行くかもよ?w
亜衣:……バカ!!!!!
晃:っっ!?
亜衣:そんなの絶対ダメ!!!
晃:あ、亜衣…?
亜衣:…晃は、私が生きられなかった分、しっかり生きるの!!
晃:……。
亜衣:だからそんな事言わないで…。
晃:あ、あぁ…ごめん。冗談のつもりだったんだけど…*不謹慎《ふきんしん》だったな。
亜衣:…バカ。
晃:………。
晃:…亜衣。
亜衣:……なに。
晃:お詫びって訳じゃないけど、今夜、スペシャルコースでやってあげるw
亜衣:え、…マッサージ!?やったー!晃のマッサージお店より気持ちいからから大好き!
晃:あははw それは何よりですw
亜衣:じゃあたっぷり4時間コースでお願いしまーす!w
晃:バーカw やりすぎも良くないんだぞw
亜衣:えー?じゃあ私が満足するまで!
晃:はいはいw
0:次の日
亜衣:(震えながら)あきら……ねぇ、起きて…。
晃:ん…、おはよう亜衣…。どした?
亜衣:これ……見て…。
晃:ん…?なっ…、なんだよ…これ!?
亜衣:わかんない…起きたら足が……足にアザが一気に広がってて……。
晃:………痛みは?身体はなんともないか!?
亜衣:だ…大丈夫…。ちょっと驚いただけ…。
晃:…亜衣。もう帰って一度病院に行こう。
亜衣:ダメ!!
晃:……亜衣…。
亜衣:お願い…。この旅は最後まで続けたいの…。晃、お願い……。
晃:……わかった。
亜衣:…ありがとう。
晃:けど、絶対無理するなよ?何か異変があればすぐに言うんだぞ?
亜衣:うん!そうする!
晃:ん…。じゃあ朝飯食べたら準備して行こうか。
亜衣:うん!…着替えるね。
晃:あぁ…。
亜衣M:私が病気になってから、もう10年が経つ。
亜衣M:
亜衣M:今までは背中と腕だけだったアザが、いきなり足にまで広がった。
亜衣M:
亜衣M:ちょっとずつしか広がらなかったアザが、急にこんなに広がったのは初めてで、
亜衣M:
亜衣M:恐怖と不安で少しパニックになった…。
亜衣M:
亜衣M:私はゆっくり着替えながら、死が近付いているのを実感していた。
亜衣M:
亜衣M:あぁ、残された時間は本当にあと*僅《わず》かなんだろうな、って…。
亜衣M:
亜衣M:だからこそ、旅の最後まで、晃と笑顔で過ごしたいって思った…。
亜衣M:
亜衣M:大好きな晃との思い出をたくさん*抱《だ》いて、天国に行きたいから。
亜衣M:
亜衣M:きっと晃は、私と出逢って無ければもっともっと人生を楽しめていた。
亜衣M:
亜衣M:旅行だって、もっとあちこち行っていたと思う。
亜衣M:
亜衣M:私の身体を気遣って、やりたい事、行きたい所をたくさん諦めてきたんだ…。
亜衣M:
亜衣M:ごめんね…。もうすぐ……解放してあげられるからね…。
亜衣M:
亜衣M:だから……。
亜衣M:
亜衣M:この旅は私の最後のわがまま…。叶えてくれてありがとう…晃…。
0:札幌市内
晃:ここが大通り公園かぁー。あ、トウモロコシ売ってる!
亜衣:本当だー!ちなみに「ゆでとうきび」ね?w
亜衣:ネットで見たけど、甘くてすっごく美味しいんだって!1本買おうよ!
晃:おっけー。じゃあここで座って待ってて、買ってくる!
亜衣:はーい!お願いしまーす!(背伸び)………んーー、良い天気!ピクニック*日和《びより》だぁ。
晃:おまたせ!
亜衣:わっ、早かったね!
晃:あぁ、すぐ買えた!ほれ、アツアツw
亜衣:あっつ!? ちょっとーw
晃:あっははw
亜衣:いっただきまーす!………んんー!!美味しい!!
晃:どれどれ?………本当だ!甘くて美味しい!
亜衣:これは名物になるのも納得!
晃:そうだなw
亜衣:はぁ………のどかだねぇ。
晃:あぁ…。
亜衣:あ、そういえばね、あそこに見えてるテレビ塔って展望台があるんだって!
晃:おぉ、後で登ってみる?
亜衣:うん!本当は夜景見てみたかったんだけど…仕方ないね。
晃:そうなぁ…夜には帰りの飛行機だからな。
亜衣:はぁ…終わっちゃうのかぁ…「日本食い尽くし旅」。
晃:たっぷり堪能しただろw
亜衣:…うん。
晃:なかなか居ないと思うぞ?社会人でこんなぶっ飛んだ計画して実行する人w
亜衣:あははw 私に鬼の行動力を伝授した晃のせいだw
晃:確かにw しっかり受け継がれたようでw
亜衣:んふふw
晃:……。
亜衣:……美味しいね、ゆでとうきび。
晃:あぁ。
亜衣:日本中、色んな美味しい物…食べられたね…。
晃:そうだな。
亜衣:満天の星空も…綺麗だった…。
晃:あぁ。あれは感動したw
亜衣:………ありがとう…ね。
晃:…なに*辛気臭《しんきくさ》くなってんだよw
亜衣:……。
晃:亜衣…?
亜衣:…………ごめん、晃……私……。
晃:え…?
―:亜衣が静かに倒れる
晃:あ……亜衣?…おい、…嘘だろ?……亜衣!!!
0:病院
晃:あの、ここの病院の先生に電話してください!主治医です!
晃:
晃:亜衣は*染光病《せんこうびょう》で…、今朝アザが急に広がって!
晃:
晃:あ………はい……。
晃M:あれからすぐに救急車を呼んで近くの病院に運ばれた。
晃M:
晃M:だけど、原因不明の染光病と言っても、医者は聞いた事がないと困惑する。
晃M:
晃M:*搬送後《はんそうご》、意識不明の重体で*ICU《あいしーゆー》に入った。
晃M:
晃M:今は*容態《ようだい》も落ち着いて、とりあえず命に別状は無いと言われた。
晃M:
晃M:だが、それから3日間、亜衣の意識が戻る事は無かった。
晃M:
晃M:ここではカルテも無い為、主治医の居る地元の病院へ移すか問われ、それに応じた。
0:2ヶ月後
晃:先生…、亜衣の様子は…?
晃:
晃:………そうですか…。
晃:
晃:……まだ治療法も見つかってないんですか?
晃:
晃:はい、……はい、わかりました…。
―:
亜衣M:私はあの日、公園で意識を失った。
亜衣M:
亜衣M:気持ちの良い陽気に、だんだんと視界がフワフワしてきて
亜衣M:
亜衣M:気付いたら私は夢の中にいた。
亜衣M:
亜衣M:隣には晃が寝ていて、気持ちよさそうに寝息を立てている。
亜衣M:
亜衣M:私は寝ている晃を笑顔で見ている。
亜衣M:
亜衣M:その空間が、とても心地良くて、
亜衣M:
亜衣M:このまま、一生この時間が続けばいいなと思った。
0:3ヶ月後
晃:…先生、なんで亜衣は目を覚まさないんですか…?
晃:
晃:このままずっと目を覚まさない可能性もあるんですか…?
晃:
晃:こ…このまま…死んだりしませんよね?なんとかしてくださいよ!!
晃:
晃:俺なんでもしますから!!お願いします!先生!!
0:半年後
亜衣M:また夢を見た。
亜衣M:
亜衣M:夢なのか願望なのか…。
亜衣M:
亜衣M:私は晃と旅行に行っている。
亜衣M:
亜衣M:景色から察するに、そこは日本ではなかった。
亜衣M:
亜衣M:海外旅行…。付き合い始めの頃、晃がいつかは行ってみたいと言っていた。
亜衣M:
亜衣M:だけど、私が病気になってから、一度もその話をしなくなった…。
亜衣M:
亜衣M:ごめんね…。ごめんね、晃。私があなたを縛っているから…。
―:病室
晃:亜衣…。なぁ亜衣、早く目を覚ましてくれよ…。
亜衣M:晃…、あなたはもう、私に構わなくていいの…。
晃:起きろよ…亜衣。もうとっくに朝だぞ…。
亜衣M:私の事なんて忘れて、あなたはあなたの人生を生きて…。
晃:今日は亜衣の好きなオムライスを作ろうと思うんだ。
亜衣M:そうやっていつも私を喜ばせてくれた…。
晃:昨日卵を買ったんだ。…帰る途中で2つ割っちゃったけど…w
亜衣M:ふふw しっかりしてる晃もかっこいいけど、ドジな晃も可愛い。
晃:なぁ、この前家の掃除をしたんだけどな。
亜衣M:家事も手伝ってくれて、きっと良い旦那さんになっただろうな…。
晃:昔撮った写真がたくさん出てきたんだよ。
亜衣M:そういえば、若い時は事あるごとに写真を撮ってたね。
晃:見ろよw この亜衣の変顔ww
亜衣M:晃だって…変な顔して寝てるくせにw
晃:もう…随分と写真を撮っていないな…。
亜衣M:そういえば…、旅行中も全然撮らなかったな…。
晃:なぁ亜衣。亜衣が起きたらさ、アルバムを作ろう!
亜衣M:………。
晃:これからじいちゃんばあちゃんになるまで、いっぱい写真を撮ろう!
亜衣M:晃……やめて……。
晃:それで、その思い出のアルバムを抱えて、2人で天国に行こう!
亜衣M:あなたはもう……私と居てはいけないの……。
晃:大丈夫だよ亜衣…。俺がずっと傍に居るから…。
亜衣M:もう私への優しさなんて…いらないの…。
晃:だからさ……だから……。
亜衣M:………泣かないで……晃…。
晃:………俺は…亜衣の事が大好きだ…。
亜衣M:あ……晃……。
晃:早く起きてくれないと……プロポーズできないだろ!!
亜衣M:プ…プロポーズ……?
晃:なぁ…亜衣……。早く起きろよ…。
亜衣M:……晃………私は…。
晃:俺に、プロポーズさせてくれよ!!
亜衣M:…………生きたい……。
晃:頼むからさぁ………亜衣…。
亜衣M:……生きたい…。…晃と……まだ生きたい!!!
―:主治医が勢いよく病室に入ってくる
晃:え……ち、治療法が見つかった!?
晃:
晃:はい!すぐに行きます!!!
0:1ヶ月後
亜衣:……ん……。
晃:……あ、亜衣…?
亜衣:…………あ…き……ら……。
晃:……亜衣!!
亜衣:……あき…ら……。
晃:亜衣!俺だ!俺はここに居る!!
亜衣:………晃…、た…だい…ま……。
晃:……亜衣…。…良かった……本当に……良かった……。
亜衣:……なか…ない…で…。
晃:…ああ……あぁ……。
―:
晃M:1年間も眠っていた亜衣が、ようやく目を覚ました。
晃M:
晃M:治療法が見つかったと聞かされた次の日から、亜衣の治療が始まった。
晃M:
晃M:肌には塗り薬を毎日朝昼晩と塗り、夜に薬を服用する。
晃M:
晃M:とても副作用が強い薬で、意識が戻ってからも退院するまでに2年も掛かった。
晃M:
晃M:3年間、病院のベットで寝ていた亜衣は、今じゃ俺が驚くほどの行動力を見せている。
亜衣:次はオーストラリアに行こう!コアラ抱っこしたい!w
晃:おいおい…。去年アメリカと中国に行って散々*散財《さんざい》しただろー?
晃:せめて国内にしない…?次はオーストラリアって…。
亜衣:お金なら節約すればなんとかなるって!それに…、
晃:人生は一度きり!後悔しないようにやりたい事は全部やる!!
亜衣:わかってんじゃん!ww
晃:ったく…w 無理するなよー?
亜衣:私は完治したもん!それより晃の身体を気遣いましょう!
晃:ん、俺も大丈夫だよw
亜衣:よーし、じゃあ張り切って準備しよう!!
晃:……やれやれww
晃M:ご覧の通り、亜衣はもう元気いっぱいで、
晃M:
晃M:今じゃフッ軽だったはずの俺がちょっと引いてるくらいだw
晃M:
晃M:試した治療法は、見事大成功。亜衣の病気は完治した。
晃M:
晃M:塗り薬のおかげで、アザもほとんど見えないくらいまで消えた。
晃M:
晃M:本人も安心して半袖にショーパンで出掛けられると喜んでいる。
亜衣M:だって夏に長袖なんて着てらんないでしょ?w
亜衣M:
亜衣M:おかげさまで、私は元気に帰ってこれました!
亜衣M:
亜衣M:晃と生きたいと願ったあの時、きっと神様が願いを叶えてくれたのかな。
亜衣M:
亜衣M:けど…薬の副作用は本当に辛かった…。
亜衣M:
亜衣M:毎日*嘔吐《おうと》して、毎日お腹壊して、毎日頭痛に悩まされていた…。
亜衣M:
亜衣M:もう二度と、あんな生活はごめんだぁ…。
亜衣M:
亜衣M:まぁ…おかげでこうして生きていられるんだけどねw
0:出発日
晃:亜衣ー!準備できたー?
亜衣:できたー!!
晃:パスポートも持った?
亜衣:晃こそちゃんと持ったの?前回忘れそうになったくせに!
晃:ごめんってw 今日は大丈夫だよ!持ち物チェック全て済んでる!
亜衣:いよーーし!!ではではーー、いざ行かん!
晃:「世界食い尽くし旅」!
0:人生楽しんだもん勝ち
―:
0:自宅
亜衣:はぁー、仕事辞めたいなぁ…。
晃:本当にそう思うなら辞めたら?
亜衣:またそうやって簡単に言う…。
晃:だって、心が壊れるまで働くより、早めに決断して次に進む準備した方が断然いいじゃん。
亜衣:それはそうだけどさぁ…。
晃:……。
亜衣:晃は…なんで今の仕事続けられてるの?
晃:ん?俺は…楽しいから?
亜衣:嘘だ!全然興味無かったじゃない、ゲームのデバッカーなんて。
晃:そんな事ないよー?
亜衣:えー、本当に?やってみたかった?この仕事。
晃:うん。それに俺、どんな仕事でもそれなりに楽しめるし。
亜衣:へぇ…。羨ましい…。
晃:……。
亜衣:……ねぇ、そろそろ切り上げたら?もう10時間もやってるじゃん…。
晃:そうだなぁ…。あ、そろそろ風呂沸いたんじゃない?
亜衣:うん。さっき沸いたーって音鳴ってた。
晃:じゃあ先入ってこいよ。亜衣が上がったら俺も入るから。
亜衣:…はーい。
晃:いってらっしゃーい。
―:
亜衣:あきらー、上がったよー。
亜衣:
亜衣:
亜衣:……晃?どこ?
―:晃が寝室で倒れているのを発見する
亜衣:…え、晃!?どうしたの!?
亜衣:
亜衣:きゅ…救急車!!
0:病院
亜衣:(晃のベッドに頭を伏せて寝ている)……すぅ…すぅ…。
晃:………ん…。
亜衣:…あ……晃?起きた?
晃:ん……あれ…?
亜衣:病院! …晃、寝室で倒れてたんだよ…?
晃:え…?
亜衣:最近睡眠不足だったから疲れてたんじゃない…?
亜衣:もう、すっごい心配したんだからね!?
晃:あー…ごめん…。
亜衣:あ、先生呼んでくるね。
晃:ん、ありがとう。
亜衣:うん!
0:次の日 診察室
晃:ダウン…プロダム*症候群《しょうこうぐん》…?
亜衣:な、難病…?
晃:寝不足や疲労が溜まると、急に*失神《しっしん》や*心不全《しんふぜん》が起きる*指定難病《していなんびょう》…。
亜衣:……。
晃:しばらく薬で様子見ですか…。…はい、わかりました。ありがとうございました。失礼します。
0:退院日
亜衣:あきらー、おまたせ。会計とか手続き全部終わったよ。
晃:ありがとう!…よし、荷物も全部持ったし…行くか。
亜衣:あ、ねぇ!荷物、私が持つってば!
晃:だからw そんなに*大袈裟《おおげさ》に考えるなってw
亜衣:だって…疲労も溜めちゃダメなんだよ?
晃:ばかw これくらいの荷物を運んだだけで疲労が溜まってたら、
晃:俺この先何にもできないってw
亜衣:………何もしなきゃいいじゃん。
晃:え…?
亜衣:何もしなきゃいいじゃん!!
晃:…ふふw ありがとう。帰ろ?
亜衣:……ん。
0:自宅
晃:ふぅー、数日だったけど…なんか家が懐かしい感じw
亜衣:おかえり!
晃:あぁ、ただいま。
亜衣:ソファに座るか、ベッドで寝るか、どっちにする?
晃:…亜衣w
亜衣:あ、お風呂*沸《わ》かしてくるね!荷物もいいからほら、座るか寝てるかしてて!
晃:…ねぇ、俺ずっと寝たきりだったから体だるいんだけど?ちょっとは動きたいんだけどなぁ…?
亜衣:はいはい、病み上がりの人はジッとしててくださーい。ほら、ソファにでも座ってて。
晃:……やれやれw
―:
亜衣:晃、お風呂沸いたよ!
晃:おぉー、サンキュ。んじゃ、サッパリしてくるかぁ。
亜衣:…ねぇ、1人で大丈夫…?
晃:え?
亜衣:いや…だって…。
晃:あ、久しぶりだから一緒に入りたい?w
亜衣:もー、バカ!!心配してんの!!
晃:あっははw 大丈夫だよw
亜衣:何かあったら、すぐ呼んでよ…?
晃:あぁ。
亜衣:(不安そうに俯く)……んん。
晃:なぁw そんなに心配するなよ、大丈夫だから。
晃:薬も飲んでるし、先生もそんな*頻繁《ひんぱん》には起きないって言ってたろ?
亜衣:そうだけど…。…倒れたのついこの前だもん、落ち着かないよ…。
晃:…よし、じゃあやっぱり一緒に入ろう!
亜衣:え…?
晃:ほら、行こう!
亜衣:いや……それは…。
晃:ん?何…?そんなに一緒に入るの嫌なの?
亜衣:そ…そういう訳じゃないけど……。
晃:ほーら、たまにはいいじゃん、行こ?
亜衣:う……うん…。
―:寝室
晃:さて…、久しぶりに我が家のベッドだぁ!んーー、このフカフカマット…やっぱり気持ちいいw
亜衣:…ねぇ、仕事はどうするの?しばらく休むんでしょ?
晃:ん?んー…いや、ノルマもあるし、とりあえず明日から仕事復帰しようかなー。
亜衣:はぁ!?本気で言ってる!?
晃:え?
亜衣:ねぇ、そんなに生き急いでどうするの?何かに追われてるの?
晃:なんだよそれw
亜衣:……自分の*身体《からだ》を大事にしない人は、他人も大事にできないんだよ。
晃:…それ、出逢った頃俺が亜衣に言った言葉じゃんw
亜衣:そうだよ。だから私は、ちゃんと言われた通り自分を大事にしてきた。
晃:うん…。
亜衣:だから、私は今でも元気に生きてるし、晃と一緒に暮らせてる。
晃:うん。
亜衣:でも晃は…、私との生活を台無しにしようとしてる…。
晃:そんな事…。
亜衣:ある!退院した次の日から仕事って…バカじゃないの。
晃:だって今の仕事、デスクワークだよ?パソコンとにらめっこしてるだけじゃん。
亜衣:そうやって長時間仕事に打ち込んだ結果、疲労が溜まって倒れたんでしょ!
晃:あぁ…まぁ…。じゃあ、程々にするからさ。
亜衣:はぁ…。「ノルマ」なんて言ってるから、何にもわかってないんでしょうねぇ…。
晃:……。
亜衣:………ねぇ晃、私、今の仕事辞める。
晃:あ、決めたんだ?
亜衣:うん。だから、晃も辞めよ?
晃:……は?
亜衣:ちょっとの間だけ!ね!お願い!
亜衣:お互い今までちゃんと貯金してきたし、
亜衣:半年働かなくても困らないくらい、*蓄《たくわ》えはあるでしょ!?
晃:いや…金はあるだろうけど…。いきなりどうしたんだよ?
亜衣:旅行に行きたい!
晃:旅行!?
亜衣:そう!日本中、あちこち行きたい所、全部行こうよ!そして食べたい物全部食べ歩くの!
晃:日本中って…、また*大《だい》それた思い付きをw
亜衣:人生は一度きり!後悔しないようにやりたい事は全部やる!!
晃:……それも俺が前に言ったやつw
亜衣:そうだよ!晃、人にはカッコイイ事言っておいてさ、…自分の人生は?
晃:……。
亜衣:楽しんでるの?やりたい事、全部やれてるの?
晃:……やれてない…。
亜衣:…ね?息抜きには丁度良いタイミングじゃん!
晃:…んん……。
亜衣:今の仕事だって、人が急に辞めて*人手《ひとで》が足りないからって頼まれただけでしょ。
亜衣:もう十分新しい社員さんも入ったんだから、晃はもうお*役御免《やくごめん》じゃん!
晃:…まぁ、確かに人は充実したな…。
亜衣:でしょ?なら晃が無理に続ける事も無いじゃん!
晃:ん……。てか、旅っていつまでするの?
亜衣:んー、少なくとも1ヶ月は旅をしよう!
晃:い…1ヶ月!?
亜衣:そ。あっという間だよー、日本中を旅してたら1ヶ月なんて。
晃:そ…それはそうかもしれないけど…。
亜衣:大丈夫!*休息《きゅうそく》はちゃんと十分に確保できるように予定組むから!
晃:………。
亜衣:………やっぱり…ダメ?
晃:……ふふw
亜衣:…え、なに?
晃:いや…w 出逢った頃とは別人みたいに行動力ついたよなーってw
亜衣:あーw そりゃあ影響もされるよw だってあの頃の晃、行動力の鬼みたいだったからねw
晃:散々振り回して亜衣によく怒られてたよなw フッ*軽《かる》過ぎってw
亜衣:だって過密スケジュールが当たり前だったんだもんw
亜衣:でもすっごい輝いてたよ!人生楽しんでます!!って感じw
晃:あははw
亜衣:………私の、せいだよね。
晃:え…?
亜衣:………。
晃:……それは違うって何度も言ったろ?
亜衣:…だって…、私が病気になったから…晃は……。
晃:あーい?それ、もう言わない約束じゃなかったか?
亜衣:………うん。
晃:…ったく。
亜衣:………。
晃:よし、じゃあー本当に行っちゃうかぁ!日本中、あちこち飛び回ってさ!w
亜衣:……晃。うん!行く!!やったー!w
晃:よーし、そうと決まれば、仕事もケリつけて、色々と準備しなくちゃな!
亜衣:あ、大事な事! お互い身体に負担が掛からないようにね!
晃:うん、じゃあそれを*根本《こんぽん》に置いて計画しよう!
亜衣:わあーーw なんか一気に楽しみになった!w
晃:あははw 人生楽しんだもん勝ちだからな!
亜衣:出た!晃の名言!w
0:1ヶ月後
晃:よし、亜衣!準備できたぞ!
亜衣:はーい!私ももうすぐ!
晃:薬も持ったし、先週の診察で問題無いって言われたし、大丈夫だろ。
亜衣:おまたせーー!
晃:おぉー、気合いバッチリだなw
亜衣:へっへー!もっちろん!!
晃:よし、それじゃあ、いざ行かん!
亜衣:日本、食い尽くし旅ーー!!w
0:
晃M:とまぁ、そんな訳で。
晃M:
晃M:亜衣の思い付きから始まったこの「日本食い尽くし旅」w
晃M:
晃M:まずは俺達が大好きな、名古屋に行った。
晃M:
晃M:赤味噌ダレがたまらなく美味しい味噌カツ。
晃M:
晃M:あとは有名な名古屋コーチンの親子丼に、ひつまぶし、どれも本当に美味しかった。
亜衣M:限られた時間を有効に、そしてその土地の名物を余す事無く堪能して。
亜衣M:
亜衣M:私達はどんどん*旅路《たびじ》を進めていった。
亜衣M:
亜衣M:夜はホテルでお互いゆっくり体を休ませ、無理をすることなく、新幹線で次の目的地へ。
亜衣M:
亜衣M:大阪、広島、福岡、沖縄と南下していき…
亜衣M:
亜衣M:日本食い尽くし旅、最後の舞台に選んだのは、一気に北上して北海道!
晃M:*苫小牧《とまこまい》、*函館《はこだて》、ニセコに*小樽《おたる》、そして札幌。
晃M:
晃M:海鮮はもちろん、ラーメンにスープカレーにジンギスカン。
晃M:
晃M:北海道ならではのデザートも沢山食べて、最後は腹がはちきれそうだったw
亜衣M:聞いてる人は「食べてばっかり」と思うだろうけど、ちゃんと観光もしたんだよ!
亜衣M:
亜衣M:それぞれの有名な観光地に*赴《おもむ》いたり、
亜衣M:
亜衣M:2人が好きなアニメの*聖地巡礼《せいちじゅんれい》なんかもした。
亜衣M:
亜衣M:そしていよいよ旅も*終盤《しゅうばん》…。
0:*石狩太井町《いしかりふといちょう》 *太井銘泉《ふといめいせん》
晃:はぁー、良い湯だったぁ!数日間にわたる北海道の旅の疲れも吹き飛ぶなぁ!
亜衣:北海道に上陸してから今日で5日目かな? さすがでっかいどうだよね!w
亜衣:あ、ねぇねぇ、露天風呂も入った?心地良い風が吹いててめっちゃ癒されたぁ。
晃:もっちろん!夕陽が綺麗だったなぁ!
晃:はぁー、これで1ヶ月の旅ももう終わりかぁ…。本当にあっという間だったなw
亜衣:ねw
亜衣:
亜衣:………。
亜衣:
亜衣:あの…ごめんね?最後なのに、こんな田舎の方まで来てもらっちゃって…。
晃:ん?別にそれはいいんだけどさ…。どうしてこの町に来たかったんだ?
亜衣:…昔ね、お父さんがこの町で働いていた事があるんだって。
晃:へぇ?
亜衣:それでね、その頃はこの辺に、フクロウが居たんだって。
晃:あぁ…、隣の*当越町《とうえつちょう》のシンボルになってたよな。
亜衣:そう。 …フクロウってね、「幸運の鳥」って呼ばれてるの。知ってた?
晃:え、知らなかった。そうなんだ?
亜衣:ほら、最近フクロウカフェとか流行ってるじゃん!
晃:あー、なんか地元にも新しく出来てたな!
亜衣:うん。
晃:それで?
亜衣:それで……だから、……あやかりたくて…w
晃:…あやかる?
亜衣:フクロウにまつわる神話とか言い伝えってたくさんあってね…。
亜衣:
亜衣:夜行性で夜、目が利くことで「見通しが明るい」と言われたり、
亜衣:
亜衣:幸福の「福」に、人が来るの「来る」に、太郎の「郎」って書いて*福来郎《ふくろう》、だから「福が来る」とか、
亜衣:
亜衣:*不苦労《ふくろう》って書いて、苦労しないって縁起の良い当て字があてられたりとか。
亜衣:
亜衣:あ、あとね、エジプト神話では、
亜衣:
亜衣:異界とコミュニケーションがとれるとされていて、
亜衣:
亜衣:「神秘の聖霊」って言われてるの。すごくない?
亜衣:
亜衣:危険を予知できる予言者として扱われてるんだって!
晃:ず…随分とフクロウに詳しいんだな…w
亜衣:…あ、あははw つい夢中になって調べちゃって…w
晃:…なぁ。
亜衣:え?
晃:さっき「あやかりたい」って言ったけどさ…、何かあったの?
亜衣:あ……えっと……。
晃:…ん?
亜衣:後で話すね!w
晃:はぁ?なんでだよ、大事な事だろ?今話せよ!
亜衣:それより行きたい所があるの!
晃:行きたい所?
亜衣:そう!その為にこの町に来たんだから!
晃:どこ?
亜衣:*当越《とうえつ》ダム!
晃:ダム!?
亜衣:ふふふw そこのダムね、あるスポットになってるの!
晃:……おいおい…、まさか……飛んだりしないよな?
亜衣:バカ!!そんな事する訳ないでしょ?
晃:……お、おう。
亜衣:はい!行くよ!車借りたから準備して!
晃:え、車!?
亜衣:そ!歩くにはちょっと遠いの!だからホテルの人に頼んで車借りちゃったw
晃:そ、そうなんだ…。
亜衣:さぁーしゅっぱーつ!
0:当越ダム
亜衣:はぁー、着いたー!
晃:うわぁ…真っ暗…。下見えないじゃん…こわ。
亜衣:ここにきて下を見る人なんて居ないよw 晃、空見て!
晃:空?
―:頭上には満天の星空が広がっている
亜衣:……うわぁー、スッキリ晴れてくれて良かったー!
晃:こ…これは……すごいな…。
亜衣:ふっふっふw 当越ダムは天体観測のスポットでした!w
晃:…安心したw 他にも何組か来てるんだな。そんなに有名なスポットなのか?
亜衣:うん!ネットで探したらすぐ出てくるくらいには。
晃:そっか。……にしても、都会じゃ絶対見れないな…こんな綺麗な星空…。
亜衣:うん…本当に綺麗…。
晃:……………亜衣。
亜衣:ん?
晃:身体、大丈夫なのか?
亜衣:んー、多分?
晃:多分って…。
亜衣:んふw 大丈夫だよ、きっと…。
晃:……フクロウの話も、この旅の思い付きも、何かあったんだろ?
亜衣:………。
晃:……。急に旅に行きたいって言い出したのも、それでか…。
亜衣:……それもあるけど、でも晃が心配だったのは本当だよ!?
晃:わかってるよw でも、それだけじゃなかったんなら、なんで言ってくれなかったの?
亜衣:え……。
晃:俺達の中で、隠し事は無しなんじゃなかった?
亜衣:………。
晃:…言ってみ?怒らないからw
亜衣:……なにそれ。子供に白状させるお母さんじゃん…。
晃:確かにw
亜衣:しかも言ったら絶対怒られるやつ…。
晃:…ったく。大人だろ?ちゃんと自分の口から言えよ。
亜衣:……。
晃:……いつから悪化してた?
亜衣:は…半年くらい前…。
晃:……ばか!(軽く亜衣の頭を叩く)
亜衣:いったぁ…。……ごめん…。
晃:なんでちゃんと言わないかなぁ…。
亜衣:だって…心配掛けたくない…。言っても私の場合…変わらないし…。
晃:だからって、俺に内緒で元気なフリをしてたのか?半年間も…。
亜衣:そんなに症状が出ないから大丈夫だったの!てか治った気でいたの!
晃:……下手な噓。治った気になんかなってないだろ。……なれるわけ、ないだろ…。
亜衣:……。
晃M:*不治《ふち》の*病《やまい》…「*染光病《せんこうびょう》」。
晃M:
晃M:身体にできたアザが、徐々に全身に広がっていく。
晃M:
晃M:*死期《しき》が近付くと、そのアザである染色体が光り始めるという謎の病気。
晃M:
晃M:亜衣は20歳の誕生日に発症が確認された。
晃M:
晃M:身に覚えのないアザが見つかり、それが年々広がっているのがわかって受診した。
晃M:
晃M:原因は未だに不明。そして世界でも同じ症例はほぼ無く、治療法もまだ見つかっていないと言われた。
亜衣M:いきなり知らない病名を言われても、全然ピンと来なかった。
亜衣M:
亜衣M:だけど…だんだんと症状が出始めた頃から、どんどん怖くなっていった…。
亜衣M:
亜衣M:急に身体がだるくなったり、*眩暈《めまい》や立ち*眩《くら》みが*頻繁《ひんぱん》に起きたり、
亜衣M:
亜衣M:ひどい時は、朝起きてからずっと力が入らず寝たきりになったり…。
亜衣M:
亜衣M:でも最近は落ち着いていて、そんな症状も出てなかったの。
亜衣M:
亜衣M:だから晃にも何も言わず、平然と日常を過ごしていた…。
亜衣M:
亜衣M:だけど…。
晃:……亜衣?
亜衣:……。
晃:なぁ、何があったんだよ?
亜衣:……背中、見て?
晃:背中…?
―:服を脱ぐ亜衣
晃:あ……アザが、光って……。
亜衣:……うん。
晃:で、でもこの前一緒に風呂に入った時は、なんともなかっただろ!?
亜衣:あの日は…たまたまだと…思う。それかお風呂の電気で目立たなかったのかも…。
晃:………。
亜衣:半年くらい前にね、職場で頭痛がひどくなった時、トイレで確認したの。
亜衣:そしたら…ちょっと光ってるのがわかった。
晃:な……なんでその時に言わないんだよ…。
亜衣:…ごめん。なんか…怖くなっちゃって…。
晃:……。
亜衣:それでね、その次の日から様子を見てたんだけど、全然光る事もないし、
亜衣:頭痛とか他の症状も出なかったの。
晃:……そっか。
亜衣:だけど…それから1週間とか5日置きに光るようになったの。
晃:え…?
亜衣:私…不安になって病院の先生に電話して聞いたの。
亜衣:そしたら、「確実に進行している」って言われて…。原因もまだ解明中だって…。
晃:……じゃあ治療法も…まだか。
亜衣:うん…。でもね、2ヵ月くらい前から症状がパッタリ*治《おさ》まったの。
晃:…2ヶ月前?
亜衣:そう。
亜衣:
亜衣:…だけどさ、なんか光ったアザを見てから、
亜衣:私が生きていられるのは後何年なんだろうって…。
晃:そんな事…
亜衣:考えるでしょ!?普通…。
晃:…あ…ごめん。
亜衣:後何年か…、何ヵ月か、何週間か……。
晃:……亜衣。
亜衣:いつこのアザが急に光り出して、私の命を奪うのかわかんないんだよ…?
晃:…うん……。
亜衣:…だから仕事してる場合じゃないって思ったの。
晃:あぁ…そういう事か…。
亜衣:だって…晃との思い出、まだまだ足りないんだもん!
晃:亜衣…。
亜衣:私がこのまま死んじゃってさ、晃が天国に来るまで後何年ある?
亜衣:向こうで私が退屈しないように、生きてるうちにたくさん思い出作りたいの!
晃:………わかった。
亜衣:…え?
晃:これからできるだけ思い出増やしていこう!
亜衣:…うん!
晃:それに…。
亜衣:ん?
晃:俺だってダウン…なんたら症候群って難病患者なんだ、案外すぐそっち行くかもよ?w
亜衣:……バカ!!!!!
晃:っっ!?
亜衣:そんなの絶対ダメ!!!
晃:あ、亜衣…?
亜衣:…晃は、私が生きられなかった分、しっかり生きるの!!
晃:……。
亜衣:だからそんな事言わないで…。
晃:あ、あぁ…ごめん。冗談のつもりだったんだけど…*不謹慎《ふきんしん》だったな。
亜衣:…バカ。
晃:………。
晃:…亜衣。
亜衣:……なに。
晃:お詫びって訳じゃないけど、今夜、スペシャルコースでやってあげるw
亜衣:え、…マッサージ!?やったー!晃のマッサージお店より気持ちいからから大好き!
晃:あははw それは何よりですw
亜衣:じゃあたっぷり4時間コースでお願いしまーす!w
晃:バーカw やりすぎも良くないんだぞw
亜衣:えー?じゃあ私が満足するまで!
晃:はいはいw
0:次の日
亜衣:(震えながら)あきら……ねぇ、起きて…。
晃:ん…、おはよう亜衣…。どした?
亜衣:これ……見て…。
晃:ん…?なっ…、なんだよ…これ!?
亜衣:わかんない…起きたら足が……足にアザが一気に広がってて……。
晃:………痛みは?身体はなんともないか!?
亜衣:だ…大丈夫…。ちょっと驚いただけ…。
晃:…亜衣。もう帰って一度病院に行こう。
亜衣:ダメ!!
晃:……亜衣…。
亜衣:お願い…。この旅は最後まで続けたいの…。晃、お願い……。
晃:……わかった。
亜衣:…ありがとう。
晃:けど、絶対無理するなよ?何か異変があればすぐに言うんだぞ?
亜衣:うん!そうする!
晃:ん…。じゃあ朝飯食べたら準備して行こうか。
亜衣:うん!…着替えるね。
晃:あぁ…。
亜衣M:私が病気になってから、もう10年が経つ。
亜衣M:
亜衣M:今までは背中と腕だけだったアザが、いきなり足にまで広がった。
亜衣M:
亜衣M:ちょっとずつしか広がらなかったアザが、急にこんなに広がったのは初めてで、
亜衣M:
亜衣M:恐怖と不安で少しパニックになった…。
亜衣M:
亜衣M:私はゆっくり着替えながら、死が近付いているのを実感していた。
亜衣M:
亜衣M:あぁ、残された時間は本当にあと*僅《わず》かなんだろうな、って…。
亜衣M:
亜衣M:だからこそ、旅の最後まで、晃と笑顔で過ごしたいって思った…。
亜衣M:
亜衣M:大好きな晃との思い出をたくさん*抱《だ》いて、天国に行きたいから。
亜衣M:
亜衣M:きっと晃は、私と出逢って無ければもっともっと人生を楽しめていた。
亜衣M:
亜衣M:旅行だって、もっとあちこち行っていたと思う。
亜衣M:
亜衣M:私の身体を気遣って、やりたい事、行きたい所をたくさん諦めてきたんだ…。
亜衣M:
亜衣M:ごめんね…。もうすぐ……解放してあげられるからね…。
亜衣M:
亜衣M:だから……。
亜衣M:
亜衣M:この旅は私の最後のわがまま…。叶えてくれてありがとう…晃…。
0:札幌市内
晃:ここが大通り公園かぁー。あ、トウモロコシ売ってる!
亜衣:本当だー!ちなみに「ゆでとうきび」ね?w
亜衣:ネットで見たけど、甘くてすっごく美味しいんだって!1本買おうよ!
晃:おっけー。じゃあここで座って待ってて、買ってくる!
亜衣:はーい!お願いしまーす!(背伸び)………んーー、良い天気!ピクニック*日和《びより》だぁ。
晃:おまたせ!
亜衣:わっ、早かったね!
晃:あぁ、すぐ買えた!ほれ、アツアツw
亜衣:あっつ!? ちょっとーw
晃:あっははw
亜衣:いっただきまーす!………んんー!!美味しい!!
晃:どれどれ?………本当だ!甘くて美味しい!
亜衣:これは名物になるのも納得!
晃:そうだなw
亜衣:はぁ………のどかだねぇ。
晃:あぁ…。
亜衣:あ、そういえばね、あそこに見えてるテレビ塔って展望台があるんだって!
晃:おぉ、後で登ってみる?
亜衣:うん!本当は夜景見てみたかったんだけど…仕方ないね。
晃:そうなぁ…夜には帰りの飛行機だからな。
亜衣:はぁ…終わっちゃうのかぁ…「日本食い尽くし旅」。
晃:たっぷり堪能しただろw
亜衣:…うん。
晃:なかなか居ないと思うぞ?社会人でこんなぶっ飛んだ計画して実行する人w
亜衣:あははw 私に鬼の行動力を伝授した晃のせいだw
晃:確かにw しっかり受け継がれたようでw
亜衣:んふふw
晃:……。
亜衣:……美味しいね、ゆでとうきび。
晃:あぁ。
亜衣:日本中、色んな美味しい物…食べられたね…。
晃:そうだな。
亜衣:満天の星空も…綺麗だった…。
晃:あぁ。あれは感動したw
亜衣:………ありがとう…ね。
晃:…なに*辛気臭《しんきくさ》くなってんだよw
亜衣:……。
晃:亜衣…?
亜衣:…………ごめん、晃……私……。
晃:え…?
―:亜衣が静かに倒れる
晃:あ……亜衣?…おい、…嘘だろ?……亜衣!!!
0:病院
晃:あの、ここの病院の先生に電話してください!主治医です!
晃:
晃:亜衣は*染光病《せんこうびょう》で…、今朝アザが急に広がって!
晃:
晃:あ………はい……。
晃M:あれからすぐに救急車を呼んで近くの病院に運ばれた。
晃M:
晃M:だけど、原因不明の染光病と言っても、医者は聞いた事がないと困惑する。
晃M:
晃M:*搬送後《はんそうご》、意識不明の重体で*ICU《あいしーゆー》に入った。
晃M:
晃M:今は*容態《ようだい》も落ち着いて、とりあえず命に別状は無いと言われた。
晃M:
晃M:だが、それから3日間、亜衣の意識が戻る事は無かった。
晃M:
晃M:ここではカルテも無い為、主治医の居る地元の病院へ移すか問われ、それに応じた。
0:2ヶ月後
晃:先生…、亜衣の様子は…?
晃:
晃:………そうですか…。
晃:
晃:……まだ治療法も見つかってないんですか?
晃:
晃:はい、……はい、わかりました…。
―:
亜衣M:私はあの日、公園で意識を失った。
亜衣M:
亜衣M:気持ちの良い陽気に、だんだんと視界がフワフワしてきて
亜衣M:
亜衣M:気付いたら私は夢の中にいた。
亜衣M:
亜衣M:隣には晃が寝ていて、気持ちよさそうに寝息を立てている。
亜衣M:
亜衣M:私は寝ている晃を笑顔で見ている。
亜衣M:
亜衣M:その空間が、とても心地良くて、
亜衣M:
亜衣M:このまま、一生この時間が続けばいいなと思った。
0:3ヶ月後
晃:…先生、なんで亜衣は目を覚まさないんですか…?
晃:
晃:このままずっと目を覚まさない可能性もあるんですか…?
晃:
晃:こ…このまま…死んだりしませんよね?なんとかしてくださいよ!!
晃:
晃:俺なんでもしますから!!お願いします!先生!!
0:半年後
亜衣M:また夢を見た。
亜衣M:
亜衣M:夢なのか願望なのか…。
亜衣M:
亜衣M:私は晃と旅行に行っている。
亜衣M:
亜衣M:景色から察するに、そこは日本ではなかった。
亜衣M:
亜衣M:海外旅行…。付き合い始めの頃、晃がいつかは行ってみたいと言っていた。
亜衣M:
亜衣M:だけど、私が病気になってから、一度もその話をしなくなった…。
亜衣M:
亜衣M:ごめんね…。ごめんね、晃。私があなたを縛っているから…。
―:病室
晃:亜衣…。なぁ亜衣、早く目を覚ましてくれよ…。
亜衣M:晃…、あなたはもう、私に構わなくていいの…。
晃:起きろよ…亜衣。もうとっくに朝だぞ…。
亜衣M:私の事なんて忘れて、あなたはあなたの人生を生きて…。
晃:今日は亜衣の好きなオムライスを作ろうと思うんだ。
亜衣M:そうやっていつも私を喜ばせてくれた…。
晃:昨日卵を買ったんだ。…帰る途中で2つ割っちゃったけど…w
亜衣M:ふふw しっかりしてる晃もかっこいいけど、ドジな晃も可愛い。
晃:なぁ、この前家の掃除をしたんだけどな。
亜衣M:家事も手伝ってくれて、きっと良い旦那さんになっただろうな…。
晃:昔撮った写真がたくさん出てきたんだよ。
亜衣M:そういえば、若い時は事あるごとに写真を撮ってたね。
晃:見ろよw この亜衣の変顔ww
亜衣M:晃だって…変な顔して寝てるくせにw
晃:もう…随分と写真を撮っていないな…。
亜衣M:そういえば…、旅行中も全然撮らなかったな…。
晃:なぁ亜衣。亜衣が起きたらさ、アルバムを作ろう!
亜衣M:………。
晃:これからじいちゃんばあちゃんになるまで、いっぱい写真を撮ろう!
亜衣M:晃……やめて……。
晃:それで、その思い出のアルバムを抱えて、2人で天国に行こう!
亜衣M:あなたはもう……私と居てはいけないの……。
晃:大丈夫だよ亜衣…。俺がずっと傍に居るから…。
亜衣M:もう私への優しさなんて…いらないの…。
晃:だからさ……だから……。
亜衣M:………泣かないで……晃…。
晃:………俺は…亜衣の事が大好きだ…。
亜衣M:あ……晃……。
晃:早く起きてくれないと……プロポーズできないだろ!!
亜衣M:プ…プロポーズ……?
晃:なぁ…亜衣……。早く起きろよ…。
亜衣M:……晃………私は…。
晃:俺に、プロポーズさせてくれよ!!
亜衣M:…………生きたい……。
晃:頼むからさぁ………亜衣…。
亜衣M:……生きたい…。…晃と……まだ生きたい!!!
―:主治医が勢いよく病室に入ってくる
晃:え……ち、治療法が見つかった!?
晃:
晃:はい!すぐに行きます!!!
0:1ヶ月後
亜衣:……ん……。
晃:……あ、亜衣…?
亜衣:…………あ…き……ら……。
晃:……亜衣!!
亜衣:……あき…ら……。
晃:亜衣!俺だ!俺はここに居る!!
亜衣:………晃…、た…だい…ま……。
晃:……亜衣…。…良かった……本当に……良かった……。
亜衣:……なか…ない…で…。
晃:…ああ……あぁ……。
―:
晃M:1年間も眠っていた亜衣が、ようやく目を覚ました。
晃M:
晃M:治療法が見つかったと聞かされた次の日から、亜衣の治療が始まった。
晃M:
晃M:肌には塗り薬を毎日朝昼晩と塗り、夜に薬を服用する。
晃M:
晃M:とても副作用が強い薬で、意識が戻ってからも退院するまでに2年も掛かった。
晃M:
晃M:3年間、病院のベットで寝ていた亜衣は、今じゃ俺が驚くほどの行動力を見せている。
亜衣:次はオーストラリアに行こう!コアラ抱っこしたい!w
晃:おいおい…。去年アメリカと中国に行って散々*散財《さんざい》しただろー?
晃:せめて国内にしない…?次はオーストラリアって…。
亜衣:お金なら節約すればなんとかなるって!それに…、
晃:人生は一度きり!後悔しないようにやりたい事は全部やる!!
亜衣:わかってんじゃん!ww
晃:ったく…w 無理するなよー?
亜衣:私は完治したもん!それより晃の身体を気遣いましょう!
晃:ん、俺も大丈夫だよw
亜衣:よーし、じゃあ張り切って準備しよう!!
晃:……やれやれww
晃M:ご覧の通り、亜衣はもう元気いっぱいで、
晃M:
晃M:今じゃフッ軽だったはずの俺がちょっと引いてるくらいだw
晃M:
晃M:試した治療法は、見事大成功。亜衣の病気は完治した。
晃M:
晃M:塗り薬のおかげで、アザもほとんど見えないくらいまで消えた。
晃M:
晃M:本人も安心して半袖にショーパンで出掛けられると喜んでいる。
亜衣M:だって夏に長袖なんて着てらんないでしょ?w
亜衣M:
亜衣M:おかげさまで、私は元気に帰ってこれました!
亜衣M:
亜衣M:晃と生きたいと願ったあの時、きっと神様が願いを叶えてくれたのかな。
亜衣M:
亜衣M:けど…薬の副作用は本当に辛かった…。
亜衣M:
亜衣M:毎日*嘔吐《おうと》して、毎日お腹壊して、毎日頭痛に悩まされていた…。
亜衣M:
亜衣M:もう二度と、あんな生活はごめんだぁ…。
亜衣M:
亜衣M:まぁ…おかげでこうして生きていられるんだけどねw
0:出発日
晃:亜衣ー!準備できたー?
亜衣:できたー!!
晃:パスポートも持った?
亜衣:晃こそちゃんと持ったの?前回忘れそうになったくせに!
晃:ごめんってw 今日は大丈夫だよ!持ち物チェック全て済んでる!
亜衣:いよーーし!!ではではーー、いざ行かん!
晃:「世界食い尽くし旅」!