台本概要
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タイトル | アイラの天秤 |
---|---|
作者名 | レンga (@renganovel) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
『――さて、本物は、どれでしょう。』 ◆◆あらすじ◆◆ “アイラは、バケモノに変えられた” 大切な人を助けに来た時。 すでに彼女は、人の姿をしていなかった。 彼女――アイラを元の姿に戻す代わりに 元凶であるマッドサイエンティストは、 男に、ある取引を持ち掛けてきた。 それは…… 『アイラの天秤』 ――本当の事なんて、きっと誰もわからない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 悪役は、男女不問です。 男性が演じる場合、最後のアイラのセリフは 読まなくても構いません。 ◆◆許可範囲◆◆ ①アドリブ可 ②男女比率変更可 ③語尾などの軽微な台詞変更可 530 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
悪役 | 不問 | 81 | 狂気のマッドサイエンティスト。 実験も思考実験も大好き。 (女性が演じる場合、最後にアイラのセリフがあります) |
男 |
男 ![]() |
69 | 最愛の人、アイラを助けに来た男。 信念のある、まっすぐな人物。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:
:
:
0:タイトル
0:『アイラの天秤』
0:作・★レンg悪役:★
:
:
:
男:くそ……めまいが……目がかすむ……
男:身体が、自分の身体じゃないみたいだ……
:
悪役:おやおや、おやおや
悪役:おやおやおやおやおやおや……!
悪役:目が覚めるのが、早いですねぇー
悪役:びっくりしちゃいましたよ、私ぃ。
悪役:せっかく、捕らえるところでしたのに
:
男:アイラは……どこにいる。
悪役:自分の身が危ないというのに、人の心配ですか?
悪役:見上げた根性ですね。
悪役:私の麻酔スモッグは、そんなに効き目が弱かったでしょうか。
男:そんな話はいい!
男:アイラはどこにいると聞いているんだ!
:
悪役:はて、何の話でしょうか。
男:お前が街から誘拐していった
男:青い髪の、女だ。
悪役:あー、なるほどなるほど
悪役:いやあ、申し訳ございません。
悪役:いちいち、モルモットの名前など調べてもいないもので。
男:答えないというなら
男:今すぐにでも、この剣を抜く。
悪役:いいんですか?
悪役:そんなことをしてしまったら
悪役:どれがアイラさんだったかも、わからなくなってしまいますよ?
男:どういう、意味だ。
悪役:おや、もしかして、あなた……
悪役:頭の悪い方、でしたか?
悪役:いやあ、申し訳ございません。
悪役:頭の悪い方とお話するのは
悪役:慣れていないもので。
:
男:どういう意味だと、聞いている。
悪役:残念ですが……
悪役:アイラさんは、もうあなたの知っているアイラさんの姿をしていません。
悪役:優先的に改造させていただきました。
悪役:いやあ、いい身体でしたよ。
悪役:透き通るような肌、青く美しい髪、すらりとした手足。
男:貴様……!
悪役:知的で、聡明そうな整った顔……
悪役:本当に、いい身体でした。
悪役:今はもう……
悪役:くっくっく……アハハハハハハ!!
悪役:美しいものが醜くなってしまうほど
悪役:興奮するものはありませんよねえ!!!
男:貴様あぁァァァァァァァ!!!
:
悪役:おっと、あぶない。
悪役:いいんですか?そんなことして
悪役:私が死んでしまったら
悪役:もう、その、アイラさんがどれかわからないですよ?
男:貴様だけは、絶対に許さない。
男:アイラを、アイラを返せ!
:
悪役:いいですよ、返して差し上げます。
:
男:なに……?
悪役:醜い姿になっても、なお生きている
悪役:彼女を、アイラとして扱えるのならば。
男:……アイラは、アイラの記憶を持っているのか?
男:オレと共に旅をした、記憶を。
悪役:……ほう、面白いですね。
男:何が面白い。
悪役:あなたは、人は記憶や思い出が残っていれば
悪役:同じ存在だと考えるわけですね?
男:ああ、そうだ。
男:人は、その記憶や意識に魂が宿っている。
男:それが残っているのであれば
男:どんな見た目になってしまっているとしても
男:アイラは、アイラだ。
:
悪役:……なるほど、すばらしい。
悪役:では、その記憶が失われていたら?
悪役:見た目は醜い姿、見るのもおぞましい姿に変わってしまい
悪役:記憶すら、人格すら別物になってしまっていたら
悪役:それはあなたの言う、アイラさんではない別のものだと。
悪役:そういう事ですね?
男:それは……そうだ。
男:その時は
男:アイラと言う人格はもう死んでしまったんだろうな。
:
悪役:ふむ、あなたはなかなか面白い考えをお持ちだ。
悪役:いいでしょう、これは取引ですよぉ。
男:なにが言いたい。
悪役:私の問いに、あなたが真剣に答えてくれるのであれば
悪役:アイラさんを、元の姿に戻してお返ししましょう。
男:そんなことが……できるのか?
悪役:はい、もちろんです。
悪役:私は、マッドサイエンティストですが……天才です。
悪役:あなたが私に危害を加えず、問いに答えることが条件です。
男:わかった、いいだろう。
男:それでアイラが戻ってくるのであれば、問いに応えよう。
悪役:ああそうだ。
悪役:一つだけ、条件を付けさせてもらいます。
男:なんだ?
悪役:問いには、あいまいではなく
悪役:明確に答えてください。
悪役:「わからない」や「選べない」や「どちらともいえない」は無しです。
悪役:わかりましたか?
男:……?
男:ああ、わかった。
:
悪役:くっくっく……!!
悪役:では、話の続きと行きましょう。
悪役:ほら、剣をしまって、座って楽にしてください。
男:いや、このままでいい。
男:貴様を信用などできるか。
悪役:手厳しいですねえ。
悪役:まあ、いいでしょう。
:
悪役:醜くおぞましい姿に変わってしまい
悪役:記憶も、人格も変わってしまったら
悪役:アイラさんは、もうアイラさんではない……と言いましたね?
男:ああ、俺はそう言った。
男:人をその人たらしめるのは、記憶だ。
男:見た目がバケモノになってしまっていたとしても
男:自我がアイラなら、俺はアイラとして扱う。
男:それすらも失われてしまっているのだとしたら……
男:アイラは、もういない。
悪役:よくわかりました。
悪役:では、そんな記憶も人格もすげ替えられた
悪役:バケモノのアイラさんに……
悪役:ほんの少しでも、元の人格に戻る可能性があると
悪役:私があなたに伝えたらどうです?
男:……どういうことだ。
悪役:今は身も心もバケモノだけれど
悪役:一緒に過ごすうちに、人格が戻るかもしれないですよ。
悪役:と、お伝えしたら
悪役:あなたは、バケモノにアイラさんとして接しますか?
悪役:と言う問いです。
男:……接する。
男:ほんの少しでも、アイラに戻る可能性があるなら
男:どんな苦難も乗り越えて見せよう。
:
悪役:いやあ、美しいですね。
悪役:では、条件を付けましょう。
男:条件?
悪役:毎日、一人の若い女性を食べさせないと
悪役:そのバケモノが生きていけない……と知ったらどうです?
:
男:……!?
悪役:いつ、アイラさんの人格が戻るかもわからない。
悪役:人格が戻っても、元の美しい姿に戻ることは決してない。
悪役:何人の女性を犠牲にしなければいけないかもわからない。
悪役:それでもあなたは、バケモノをアイラさんとして接しますか?
男:そ、それは……
男:……
悪役:どうぞ、ゆっくり考えてください。
悪役:真剣に答えていただきたいですが
悪役:本当にそうだとは、言っていませんから。
悪役:違うとも言っていませんが。
男:俺は……
男:もしそうなら、そのバケモノを殺す。
悪役:ほーーう!!!
悪役:なぜです!?
悪役:どうして殺してしまうのですか?
悪役:アイラさんの人格が戻るかもしれないというのに!!!
男:もし、何人もの女性を食わせ
男:いつしか、本当にアイラの人格が取り戻されたとしても
男:優しいあの子は、自分のせいで何人もの女性が死んだと知ったら
男:絶対に、生きてはいけないから。
男:そうなる前に、殺す。
:
悪役:アハーーーーーッ!!
悪役:なるほど、なるほど、実に興味深い!
悪役:いいですねえ、そう、これですよコレ!!
悪役:人間は面白いですねえ。
男:……!(怒)
男:質問は、終わりか?
悪役:いやあ、まさか。
悪役:まだ、続きますよ。
:
悪役:今の質問の根底には
悪役:アイラさんが、バケモノの姿になっていて
悪役:記憶も人格も失われているという定義がありましたね?
男:ああ、そうだな。
悪役:それを、変えてみましょう。
悪役:アイラさんは、見た目も人格も、アイラさんそのもです。
悪役:ただ一つ
悪役:毎日、一人の若い女性を喰わないと
悪役:死んでしまう身体になってしまったら……
悪役:あなたは、どうしますか?
男:こ、こんな質問をして……
男:いったい何の意味が!
悪役:答えてください。
男:アイラが女性を喰うことなく、生きられる方法を、探す。
悪役:そんなものはありません。
男:……!
男:そ、それなら
男:きっと、そんなの、アイラ自身が耐えられない。
男:彼女は、女性を一人も喰うことなく
男:死を選ぶだろう。
悪役:それは答えになっていませんよ。
男:なぜだ。
悪役:私は「あなたは、どうしますか?」と聞いたのです。
悪役:この場合の答えでしたら
悪役:彼女が女性を喰えずに死ぬのを、何もせず見届ける……
悪役:いえ、傍観する。
悪役:……でしょうか。
悪役:よろしいですか?
男:……そうだ。
悪役:いやあ、間抜けですねえ!
悪役:せっかく見た目も人格も戻っているのに!
悪役:死ぬのを見届けるしかできないなんて!
悪役:どんなに無力感を感じるんでしょう!
男:貴様……!
悪役:イライラしますねえ。
悪役:でも耐えないと
悪役:アイラさんが戻ってこれないですよ?
悪役:全部、あなたにかかってるんですから。
男:まだ、続きがあるんだろう?
男:早くしてくれ。
悪役:そんな、急かさないでください。
悪役:ゆっくりおしゃべりしましょうよぉー。
悪役:せっかくですし、紅茶でも入れてきましょうか。
男:お前が出したものを
男:俺が飲むと思うのか?
悪役:じゃあいいです。
悪役:私の分だけ淹れてきますから。
悪役:あ、色々漁っちゃだめですよぉ
悪役:爆発したり、ガスが出ると危ないですからねぇ。
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0:間
:
男(M):俺は、いまだに続くひどいめまいに耐えるように
男(M):耳に意識を集中させ、目をつむり
男(M):そして……アイラの事を考えていた。
:
男(M):アイラと俺は、旅の途中に出会った。
男(M):治癒術師だった彼女は、旅の中、多くの人を救いたいと
男(M):俺とバディを組んで、一緒に旅をしてくれることになったんだ。
男(M):つややかで、綺麗な青い髪。深い藍色の瞳。
男(M):澄んだ声は、話すだけで、気持ちを落ち着かせてくれる。
男(M):最初こそ、おたがい頑固で喧嘩ばかりだったけれど
男(M):間違いなく……彼女との旅は、楽しかった。
男(M):長い日々の中で、彼女に恋をしてしまうのは、必然だろう。
男(M):そして彼女も、俺を好きだと言ってくれた。
男(M):旅をやめて、一緒に暮らそうと、
男(M):そう言ってくれたのは、アイラからだった。
男(M):俺たちは、彼女の故郷に戻り
男(M):危険な旅をやめ、平穏な日常を送る……はずだった。
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0:間
:
悪役:いやあ、いい香りですねえ。
悪役:紅茶はアールグレイに限ります。
悪役:私、ハーブティーは苦手なんですよぉ
悪役:なんか、いつも調合してる薬と同じ匂いなんですもん。
男:そんなことはどうでもいい。
男:早く、つづきだ。
悪役:いいでしょう。
悪役:では、次の質問です。
:
悪役:先ほどまでの質問と、また少し条件を変えてみます。
男:……なんだ。
悪役:アイラさんですが……
悪役:見た目は、元の姿のまま、記憶や人格が
悪役:別のものに変えられていたら……どうです?
男:それはアイラじゃない。
男:アイラと同じ姿の別の存在だ。
悪役:では、アイラさんはもう死んだと。
男:そうだ。
悪役:即答でしたね。
男:俺の考えは変わらない。
男:人をその人たらしめるのは、記憶だ。
男:記憶から、人格が生まれる。
男:それが違うなら、それは別の存在だ。
悪役:では、すこし変えてみましょう。
:
悪役:アイラさんの見た目はそのまま、記憶や人格は別のもの
悪役:しかし、その違う人格を殺せば
悪役:元のアイラさんの人格が戻ってくるのなら
悪役:あなたは、その別の人格を殺しますか?
男:人格を殺すというのはどういうことだ?
悪役:私が、その人の人格を消すんですよ。
悪役:その人の意識がそこで途絶える……それは死でしょう。
男:……そうか。
男:それなら、答えは決まっている。
男:俺は、その人格を消して、アイラの人格を取り戻す。
悪役:おや、アイラさんは許してくれますかねぇ?
悪役:自分のために、人が死ぬんですよ?
男:お前が黙っていれば、気づかれないだろう。
男:死体もない、ただの人格が消えるだけだと、言うのであれば。
:
悪役:アハハハハハ!!!
悪役:隠すんですか!!!
悪役:いいですねえそういうの!!!!
悪役:いいですよ!黙っててあげますよ!私は!!
男:……次の質問は、なんだ。
悪役:いやあ、次が最後の質問なんですがね?
悪役:……ちょっと、遅れてるみたいで。
男:遅れてる?
男:どういうことだ……!
:
悪役:魔法と言うのは、実に便利ですよね。
男:なんだ、急に。
悪役:科学と魔法の融合。
悪役:それこそ、この世界に生まれた者だけが得ることのできる
悪役:究極の知識ではないでしょうか。
男:なにがいいたい。
悪役:魔法を使えば、幻覚を見せることができます。
悪役:科学を使えば、脳みそをいじることができます。
男:貴様……!!
男:アイラをどうする気だ!!
悪役:何をおっしゃるのですか。
悪役:約束は、私は必ず守りますよ。
悪役:最後の質問に、あなたが答えてくれるのであれば。
:
男(M):そこで、どたどたと、足音が聞こえてきた。
男(M):その足音は、次第に大きくなっていき
男(M):研究室の大きな扉の前で、一度止まった。
:
悪役:おっと、どうやら来たみたいですねえ。
男(M):俺が剣を構えようとすると
男(M):そこにあったはずの剣は、どこにもないことに気づく。
:
男(M):そして、扉が勢いよく開け放たれ
男(M):大きな声が、部屋中に響いた。
:
男:アイラを返せ!!!
:
男(M):扉から勢いよく入ってきたのは
男(M):俺の姿だった。
:
0:間
:
悪役:ストップ。
男(M):声と共に指をはじく音がすると
男(M):同時に、扉から入ってきた、俺の姿が止まった。
:
悪役:さて、最後の質問です。
男:おい……どういう……ことだ?
男:なんで、俺の姿が……あいつは誰だ?
男:いや……俺か?
男:俺は……俺は誰だ?
:
悪役:……あなたは、アイラさんです。
:
男:……は?
悪役:今は幻覚で、彼と同じ見た目と声に見えていますが。
悪役:私はあなたの見た目には、一切手を付けていません。
悪役:醜い姿にした、と言うのは嘘です。
男:ど、どういうことだ!
男:意味が分からない!
悪役:わかるように説明しましょう。
悪役:そうでないと、最後の質問が意味をなさなくなってしまいますからね。
男:な……どういう……
男:俺が……アイラ……?
悪役:私はあなた……アイラさんの脳の中から、彼の記憶を掘り出し
悪役:架空の彼の人格を生成し、あなたに定着させました。
悪役:あなたが思っているあなた自身は、私が作った彼の人格です。
悪役:ほぼほぼ、オリジナル通りの人格と言えるでしょう。
男:そんな……バカな……
:
悪役:くっくっく!いい顔ですねえ!!
悪役:かわいらしい顔が台無しですよ!!!
男:なんで、そんなこと……
悪役:実験のためですよ。
悪役:おかげでいいデータが取れました。
悪役:とても、感謝しています。
:
男:それなら……!
男:アイラの人格は!アイラの記憶はいったいどこに!
悪役:まだわからないんですか?
男:まさか……貴様……!
悪役:頭の悪いあなたでも、さすがに分かりましたか。
男:俺の……頭の中に……
悪役:……その通りです。
悪役:アイラさんの人格は、あなたの人格が死ねば復活します。
悪役:よかったですねぇ!
悪役:即答したほうの答えのやつじゃないですか!
悪役:バケモノの姿とか、女性を食べなきゃ生きていけないとか
悪役:そう言うのではなくて、良かったですねえ!
:
男:……!
男:……こ、殺してくれ、俺を。
男:……アイラを、救ってくれ……。
悪役:いやあ、素晴らしいですねえ。
悪役:私、びっくりしちゃいましたぁ!
悪役:即答じゃないですか!いやあ、感動しちゃうなあ!!!
悪役:……でも、まだ、最後の問いを言っていません。
悪役:最後まで聞いてください。
男:……なんだ。
:
悪役:では、最後の問いです。
:
悪役:アイラさんの見た目で、アイラさんの人格を自分の人格がのっとっていた時
悪役:あなたは自分の人格を殺し、アイラさんを救うか。
悪役:それとも……
悪役:目の前にいる、自分の姿をした、自分の本当の人格を殺し
悪役:その体を乗っ取るか。
悪役:どちらを選びますか?
男:……っな……!
悪役:もちろん、相手の体を乗っ取るほうを選べば
悪役:人格が移るわけですから、アイラさんも元通りです。
:
悪役:さあ、もう、体が自由に動くようになっているはずです。
悪役:このメスを受け取ってください。
:
悪役:あなたが、自分の人格の死を選ぶなら、そのメスで自分の……
悪役:いえ、アイラさんの右目をくり抜いてください。
悪役:大丈夫、すぐに元に戻せますから。
:
悪役:あなたが、本当の人格の死を選ぶなら、そのメスで
悪役:目の前にいる、自分の姿をした人物の左目をくり抜いてください。
悪役:大丈夫ですよ、すぐに元に戻せますので。
:
男:なんで……こんなこと……。
男:俺は……俺は……アイラを……。
:
悪役:あなたが選べば
悪役:アイラさんは必ず、帰ってきますよ。
:
男:アイラ……!
男:アイラ、俺は……!!!
:
悪役:記憶が、人格が、その人をその人たらしめる。
悪役:――さて、本物は、どれでしょう。
:
0:間
:
男:……決めたぞ、マッドサイエンティスト。
:
男(M):ずぶり、と、湿った嫌な音がした。
:
悪役:くっくっく……
悪役:アーッハハハハハハハハハハハハ!!!
悪役:ククククククククッ!!!
悪役:クハハハハハッ!!!!(好きなだけ高笑いしてください)
:
悪役:あなた……らしいですねぇ……!
:
:
0:間
:
:
男:アイラ……おはよう。
男:体、大丈夫か?
男:悪いな、怖い思いをさせて。
:
0:悪役が女性だった場合、兼役で読んで下さい。
アイラ:……ありがと、助けてくれて。
:
:
0:あなたはどちらを、選びましたか?
:
0:おしまい。
:
:
:
:
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0:タイトル
0:『アイラの天秤』
0:作・★レンg悪役:★
:
:
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男:くそ……めまいが……目がかすむ……
男:身体が、自分の身体じゃないみたいだ……
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悪役:おやおや、おやおや
悪役:おやおやおやおやおやおや……!
悪役:目が覚めるのが、早いですねぇー
悪役:びっくりしちゃいましたよ、私ぃ。
悪役:せっかく、捕らえるところでしたのに
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男:アイラは……どこにいる。
悪役:自分の身が危ないというのに、人の心配ですか?
悪役:見上げた根性ですね。
悪役:私の麻酔スモッグは、そんなに効き目が弱かったでしょうか。
男:そんな話はいい!
男:アイラはどこにいると聞いているんだ!
:
悪役:はて、何の話でしょうか。
男:お前が街から誘拐していった
男:青い髪の、女だ。
悪役:あー、なるほどなるほど
悪役:いやあ、申し訳ございません。
悪役:いちいち、モルモットの名前など調べてもいないもので。
男:答えないというなら
男:今すぐにでも、この剣を抜く。
悪役:いいんですか?
悪役:そんなことをしてしまったら
悪役:どれがアイラさんだったかも、わからなくなってしまいますよ?
男:どういう、意味だ。
悪役:おや、もしかして、あなた……
悪役:頭の悪い方、でしたか?
悪役:いやあ、申し訳ございません。
悪役:頭の悪い方とお話するのは
悪役:慣れていないもので。
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男:どういう意味だと、聞いている。
悪役:残念ですが……
悪役:アイラさんは、もうあなたの知っているアイラさんの姿をしていません。
悪役:優先的に改造させていただきました。
悪役:いやあ、いい身体でしたよ。
悪役:透き通るような肌、青く美しい髪、すらりとした手足。
男:貴様……!
悪役:知的で、聡明そうな整った顔……
悪役:本当に、いい身体でした。
悪役:今はもう……
悪役:くっくっく……アハハハハハハ!!
悪役:美しいものが醜くなってしまうほど
悪役:興奮するものはありませんよねえ!!!
男:貴様あぁァァァァァァァ!!!
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悪役:おっと、あぶない。
悪役:いいんですか?そんなことして
悪役:私が死んでしまったら
悪役:もう、その、アイラさんがどれかわからないですよ?
男:貴様だけは、絶対に許さない。
男:アイラを、アイラを返せ!
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悪役:いいですよ、返して差し上げます。
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男:なに……?
悪役:醜い姿になっても、なお生きている
悪役:彼女を、アイラとして扱えるのならば。
男:……アイラは、アイラの記憶を持っているのか?
男:オレと共に旅をした、記憶を。
悪役:……ほう、面白いですね。
男:何が面白い。
悪役:あなたは、人は記憶や思い出が残っていれば
悪役:同じ存在だと考えるわけですね?
男:ああ、そうだ。
男:人は、その記憶や意識に魂が宿っている。
男:それが残っているのであれば
男:どんな見た目になってしまっているとしても
男:アイラは、アイラだ。
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悪役:……なるほど、すばらしい。
悪役:では、その記憶が失われていたら?
悪役:見た目は醜い姿、見るのもおぞましい姿に変わってしまい
悪役:記憶すら、人格すら別物になってしまっていたら
悪役:それはあなたの言う、アイラさんではない別のものだと。
悪役:そういう事ですね?
男:それは……そうだ。
男:その時は
男:アイラと言う人格はもう死んでしまったんだろうな。
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悪役:ふむ、あなたはなかなか面白い考えをお持ちだ。
悪役:いいでしょう、これは取引ですよぉ。
男:なにが言いたい。
悪役:私の問いに、あなたが真剣に答えてくれるのであれば
悪役:アイラさんを、元の姿に戻してお返ししましょう。
男:そんなことが……できるのか?
悪役:はい、もちろんです。
悪役:私は、マッドサイエンティストですが……天才です。
悪役:あなたが私に危害を加えず、問いに答えることが条件です。
男:わかった、いいだろう。
男:それでアイラが戻ってくるのであれば、問いに応えよう。
悪役:ああそうだ。
悪役:一つだけ、条件を付けさせてもらいます。
男:なんだ?
悪役:問いには、あいまいではなく
悪役:明確に答えてください。
悪役:「わからない」や「選べない」や「どちらともいえない」は無しです。
悪役:わかりましたか?
男:……?
男:ああ、わかった。
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悪役:くっくっく……!!
悪役:では、話の続きと行きましょう。
悪役:ほら、剣をしまって、座って楽にしてください。
男:いや、このままでいい。
男:貴様を信用などできるか。
悪役:手厳しいですねえ。
悪役:まあ、いいでしょう。
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悪役:醜くおぞましい姿に変わってしまい
悪役:記憶も、人格も変わってしまったら
悪役:アイラさんは、もうアイラさんではない……と言いましたね?
男:ああ、俺はそう言った。
男:人をその人たらしめるのは、記憶だ。
男:見た目がバケモノになってしまっていたとしても
男:自我がアイラなら、俺はアイラとして扱う。
男:それすらも失われてしまっているのだとしたら……
男:アイラは、もういない。
悪役:よくわかりました。
悪役:では、そんな記憶も人格もすげ替えられた
悪役:バケモノのアイラさんに……
悪役:ほんの少しでも、元の人格に戻る可能性があると
悪役:私があなたに伝えたらどうです?
男:……どういうことだ。
悪役:今は身も心もバケモノだけれど
悪役:一緒に過ごすうちに、人格が戻るかもしれないですよ。
悪役:と、お伝えしたら
悪役:あなたは、バケモノにアイラさんとして接しますか?
悪役:と言う問いです。
男:……接する。
男:ほんの少しでも、アイラに戻る可能性があるなら
男:どんな苦難も乗り越えて見せよう。
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悪役:いやあ、美しいですね。
悪役:では、条件を付けましょう。
男:条件?
悪役:毎日、一人の若い女性を食べさせないと
悪役:そのバケモノが生きていけない……と知ったらどうです?
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男:……!?
悪役:いつ、アイラさんの人格が戻るかもわからない。
悪役:人格が戻っても、元の美しい姿に戻ることは決してない。
悪役:何人の女性を犠牲にしなければいけないかもわからない。
悪役:それでもあなたは、バケモノをアイラさんとして接しますか?
男:そ、それは……
男:……
悪役:どうぞ、ゆっくり考えてください。
悪役:真剣に答えていただきたいですが
悪役:本当にそうだとは、言っていませんから。
悪役:違うとも言っていませんが。
男:俺は……
男:もしそうなら、そのバケモノを殺す。
悪役:ほーーう!!!
悪役:なぜです!?
悪役:どうして殺してしまうのですか?
悪役:アイラさんの人格が戻るかもしれないというのに!!!
男:もし、何人もの女性を食わせ
男:いつしか、本当にアイラの人格が取り戻されたとしても
男:優しいあの子は、自分のせいで何人もの女性が死んだと知ったら
男:絶対に、生きてはいけないから。
男:そうなる前に、殺す。
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悪役:アハーーーーーッ!!
悪役:なるほど、なるほど、実に興味深い!
悪役:いいですねえ、そう、これですよコレ!!
悪役:人間は面白いですねえ。
男:……!(怒)
男:質問は、終わりか?
悪役:いやあ、まさか。
悪役:まだ、続きますよ。
:
悪役:今の質問の根底には
悪役:アイラさんが、バケモノの姿になっていて
悪役:記憶も人格も失われているという定義がありましたね?
男:ああ、そうだな。
悪役:それを、変えてみましょう。
悪役:アイラさんは、見た目も人格も、アイラさんそのもです。
悪役:ただ一つ
悪役:毎日、一人の若い女性を喰わないと
悪役:死んでしまう身体になってしまったら……
悪役:あなたは、どうしますか?
男:こ、こんな質問をして……
男:いったい何の意味が!
悪役:答えてください。
男:アイラが女性を喰うことなく、生きられる方法を、探す。
悪役:そんなものはありません。
男:……!
男:そ、それなら
男:きっと、そんなの、アイラ自身が耐えられない。
男:彼女は、女性を一人も喰うことなく
男:死を選ぶだろう。
悪役:それは答えになっていませんよ。
男:なぜだ。
悪役:私は「あなたは、どうしますか?」と聞いたのです。
悪役:この場合の答えでしたら
悪役:彼女が女性を喰えずに死ぬのを、何もせず見届ける……
悪役:いえ、傍観する。
悪役:……でしょうか。
悪役:よろしいですか?
男:……そうだ。
悪役:いやあ、間抜けですねえ!
悪役:せっかく見た目も人格も戻っているのに!
悪役:死ぬのを見届けるしかできないなんて!
悪役:どんなに無力感を感じるんでしょう!
男:貴様……!
悪役:イライラしますねえ。
悪役:でも耐えないと
悪役:アイラさんが戻ってこれないですよ?
悪役:全部、あなたにかかってるんですから。
男:まだ、続きがあるんだろう?
男:早くしてくれ。
悪役:そんな、急かさないでください。
悪役:ゆっくりおしゃべりしましょうよぉー。
悪役:せっかくですし、紅茶でも入れてきましょうか。
男:お前が出したものを
男:俺が飲むと思うのか?
悪役:じゃあいいです。
悪役:私の分だけ淹れてきますから。
悪役:あ、色々漁っちゃだめですよぉ
悪役:爆発したり、ガスが出ると危ないですからねぇ。
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0:間
:
男(M):俺は、いまだに続くひどいめまいに耐えるように
男(M):耳に意識を集中させ、目をつむり
男(M):そして……アイラの事を考えていた。
:
男(M):アイラと俺は、旅の途中に出会った。
男(M):治癒術師だった彼女は、旅の中、多くの人を救いたいと
男(M):俺とバディを組んで、一緒に旅をしてくれることになったんだ。
男(M):つややかで、綺麗な青い髪。深い藍色の瞳。
男(M):澄んだ声は、話すだけで、気持ちを落ち着かせてくれる。
男(M):最初こそ、おたがい頑固で喧嘩ばかりだったけれど
男(M):間違いなく……彼女との旅は、楽しかった。
男(M):長い日々の中で、彼女に恋をしてしまうのは、必然だろう。
男(M):そして彼女も、俺を好きだと言ってくれた。
男(M):旅をやめて、一緒に暮らそうと、
男(M):そう言ってくれたのは、アイラからだった。
男(M):俺たちは、彼女の故郷に戻り
男(M):危険な旅をやめ、平穏な日常を送る……はずだった。
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0:間
:
悪役:いやあ、いい香りですねえ。
悪役:紅茶はアールグレイに限ります。
悪役:私、ハーブティーは苦手なんですよぉ
悪役:なんか、いつも調合してる薬と同じ匂いなんですもん。
男:そんなことはどうでもいい。
男:早く、つづきだ。
悪役:いいでしょう。
悪役:では、次の質問です。
:
悪役:先ほどまでの質問と、また少し条件を変えてみます。
男:……なんだ。
悪役:アイラさんですが……
悪役:見た目は、元の姿のまま、記憶や人格が
悪役:別のものに変えられていたら……どうです?
男:それはアイラじゃない。
男:アイラと同じ姿の別の存在だ。
悪役:では、アイラさんはもう死んだと。
男:そうだ。
悪役:即答でしたね。
男:俺の考えは変わらない。
男:人をその人たらしめるのは、記憶だ。
男:記憶から、人格が生まれる。
男:それが違うなら、それは別の存在だ。
悪役:では、すこし変えてみましょう。
:
悪役:アイラさんの見た目はそのまま、記憶や人格は別のもの
悪役:しかし、その違う人格を殺せば
悪役:元のアイラさんの人格が戻ってくるのなら
悪役:あなたは、その別の人格を殺しますか?
男:人格を殺すというのはどういうことだ?
悪役:私が、その人の人格を消すんですよ。
悪役:その人の意識がそこで途絶える……それは死でしょう。
男:……そうか。
男:それなら、答えは決まっている。
男:俺は、その人格を消して、アイラの人格を取り戻す。
悪役:おや、アイラさんは許してくれますかねぇ?
悪役:自分のために、人が死ぬんですよ?
男:お前が黙っていれば、気づかれないだろう。
男:死体もない、ただの人格が消えるだけだと、言うのであれば。
:
悪役:アハハハハハ!!!
悪役:隠すんですか!!!
悪役:いいですねえそういうの!!!!
悪役:いいですよ!黙っててあげますよ!私は!!
男:……次の質問は、なんだ。
悪役:いやあ、次が最後の質問なんですがね?
悪役:……ちょっと、遅れてるみたいで。
男:遅れてる?
男:どういうことだ……!
:
悪役:魔法と言うのは、実に便利ですよね。
男:なんだ、急に。
悪役:科学と魔法の融合。
悪役:それこそ、この世界に生まれた者だけが得ることのできる
悪役:究極の知識ではないでしょうか。
男:なにがいいたい。
悪役:魔法を使えば、幻覚を見せることができます。
悪役:科学を使えば、脳みそをいじることができます。
男:貴様……!!
男:アイラをどうする気だ!!
悪役:何をおっしゃるのですか。
悪役:約束は、私は必ず守りますよ。
悪役:最後の質問に、あなたが答えてくれるのであれば。
:
男(M):そこで、どたどたと、足音が聞こえてきた。
男(M):その足音は、次第に大きくなっていき
男(M):研究室の大きな扉の前で、一度止まった。
:
悪役:おっと、どうやら来たみたいですねえ。
男(M):俺が剣を構えようとすると
男(M):そこにあったはずの剣は、どこにもないことに気づく。
:
男(M):そして、扉が勢いよく開け放たれ
男(M):大きな声が、部屋中に響いた。
:
男:アイラを返せ!!!
:
男(M):扉から勢いよく入ってきたのは
男(M):俺の姿だった。
:
0:間
:
悪役:ストップ。
男(M):声と共に指をはじく音がすると
男(M):同時に、扉から入ってきた、俺の姿が止まった。
:
悪役:さて、最後の質問です。
男:おい……どういう……ことだ?
男:なんで、俺の姿が……あいつは誰だ?
男:いや……俺か?
男:俺は……俺は誰だ?
:
悪役:……あなたは、アイラさんです。
:
男:……は?
悪役:今は幻覚で、彼と同じ見た目と声に見えていますが。
悪役:私はあなたの見た目には、一切手を付けていません。
悪役:醜い姿にした、と言うのは嘘です。
男:ど、どういうことだ!
男:意味が分からない!
悪役:わかるように説明しましょう。
悪役:そうでないと、最後の質問が意味をなさなくなってしまいますからね。
男:な……どういう……
男:俺が……アイラ……?
悪役:私はあなた……アイラさんの脳の中から、彼の記憶を掘り出し
悪役:架空の彼の人格を生成し、あなたに定着させました。
悪役:あなたが思っているあなた自身は、私が作った彼の人格です。
悪役:ほぼほぼ、オリジナル通りの人格と言えるでしょう。
男:そんな……バカな……
:
悪役:くっくっく!いい顔ですねえ!!
悪役:かわいらしい顔が台無しですよ!!!
男:なんで、そんなこと……
悪役:実験のためですよ。
悪役:おかげでいいデータが取れました。
悪役:とても、感謝しています。
:
男:それなら……!
男:アイラの人格は!アイラの記憶はいったいどこに!
悪役:まだわからないんですか?
男:まさか……貴様……!
悪役:頭の悪いあなたでも、さすがに分かりましたか。
男:俺の……頭の中に……
悪役:……その通りです。
悪役:アイラさんの人格は、あなたの人格が死ねば復活します。
悪役:よかったですねぇ!
悪役:即答したほうの答えのやつじゃないですか!
悪役:バケモノの姿とか、女性を食べなきゃ生きていけないとか
悪役:そう言うのではなくて、良かったですねえ!
:
男:……!
男:……こ、殺してくれ、俺を。
男:……アイラを、救ってくれ……。
悪役:いやあ、素晴らしいですねえ。
悪役:私、びっくりしちゃいましたぁ!
悪役:即答じゃないですか!いやあ、感動しちゃうなあ!!!
悪役:……でも、まだ、最後の問いを言っていません。
悪役:最後まで聞いてください。
男:……なんだ。
:
悪役:では、最後の問いです。
:
悪役:アイラさんの見た目で、アイラさんの人格を自分の人格がのっとっていた時
悪役:あなたは自分の人格を殺し、アイラさんを救うか。
悪役:それとも……
悪役:目の前にいる、自分の姿をした、自分の本当の人格を殺し
悪役:その体を乗っ取るか。
悪役:どちらを選びますか?
男:……っな……!
悪役:もちろん、相手の体を乗っ取るほうを選べば
悪役:人格が移るわけですから、アイラさんも元通りです。
:
悪役:さあ、もう、体が自由に動くようになっているはずです。
悪役:このメスを受け取ってください。
:
悪役:あなたが、自分の人格の死を選ぶなら、そのメスで自分の……
悪役:いえ、アイラさんの右目をくり抜いてください。
悪役:大丈夫、すぐに元に戻せますから。
:
悪役:あなたが、本当の人格の死を選ぶなら、そのメスで
悪役:目の前にいる、自分の姿をした人物の左目をくり抜いてください。
悪役:大丈夫ですよ、すぐに元に戻せますので。
:
男:なんで……こんなこと……。
男:俺は……俺は……アイラを……。
:
悪役:あなたが選べば
悪役:アイラさんは必ず、帰ってきますよ。
:
男:アイラ……!
男:アイラ、俺は……!!!
:
悪役:記憶が、人格が、その人をその人たらしめる。
悪役:――さて、本物は、どれでしょう。
:
0:間
:
男:……決めたぞ、マッドサイエンティスト。
:
男(M):ずぶり、と、湿った嫌な音がした。
:
悪役:くっくっく……
悪役:アーッハハハハハハハハハハハハ!!!
悪役:ククククククククッ!!!
悪役:クハハハハハッ!!!!(好きなだけ高笑いしてください)
:
悪役:あなた……らしいですねぇ……!
:
:
0:間
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:
男:アイラ……おはよう。
男:体、大丈夫か?
男:悪いな、怖い思いをさせて。
:
0:悪役が女性だった場合、兼役で読んで下さい。
アイラ:……ありがと、助けてくれて。
:
:
0:あなたはどちらを、選びましたか?
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0:おしまい。
:
: