台本概要

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タイトル ソクラテスの思考実験-caseケイ-
作者名 レンga  (@renganovel)
ジャンル ミステリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『――二度と会えなくなるわけじゃ、ないんだから』

【アドリブ:〇 性別変更:× 人数変更:× 重大な改変×】

◆◆あらすじ◆◆
目が覚めたケイは、名前以外、自分の事を全て忘れていた。
ソクラテスと名乗る謎の青年が、倒れていた自分を助けてくれたらしい。
……記憶を取り戻すために、ケイはソクラテスと話をする。

『始まりのテセウスの船から、すべての部品が取り換えられてしまったとき、その船は同じテセウスの船と言えるのだろうか』

――彼女は、どんな答えを導くのだろう。
そして……

記憶の先にある「わたし」は、一体……誰なのだろうか。

◆◆合作情報◆◆

▼凹(ペコ)様
代表作:
幕間狂言「桃源郷」
一人芝居「小心者ワープ」……etc

【コメント】
初めまして。凹(ペコ)です。
なんでその名前なのとよく言われるんですが……
たまたまつけたものが定着してしまったので、本当の理由は実は自分でも分かりません。
名付けというのは不思議なものですね。
今回登場する「ケイ」はレンgaさんの力を借りて初めて設定からしっかり考えたキャラクターです。
どうか、みなさんの力で息を吹き込んであげてください。

◆◆執筆方法◆◆
TSW「テーブルトークシナリオライティング」
と言う手法を用い、レンgaと凹(ペコ)様で執筆しました。
執筆の際、レンgaが「ソクラテス」のセリフを
凹(ペコ)様が「ケイ」のセリフを担当しています。

◆◆シナリオ情報◆◆
「ソクラテスの思考実験」[case.ケイ]

ソクラテス:レンga執筆担当
ケイ:凹(ペコ)様執筆担当

◆◆シリーズ補足◆◆

「ソクラテスの思考実験」シリーズは、合作台本シリーズになっています。
ボイコネで活躍されている、様々なライター様と、僕、レンgaが思考実験をテーマに物語を紡ぐシリーズです。

どのお話も
「謎の青年ソクラテス」:レンga担当
「記憶を失ったキャラクター」:ゲストライター様担当
で、物語を紡いでいきます。

各話のソクラテスは、すべてお相手様のキャラクターに応じて別の性格、人生、考え方をする全く違う人物となっています。
絶対同じ話になることのない、素敵な様々な世界を
ぜひ、お楽しみくださいませ。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ソクラテス 73 不思議な雰囲気を持つ、男性。
ケイ 73 記憶を失った女性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
 :  0:タイトル『ソクラテスの思考実験-case.ケイ』  :    :   ケイ:オレがいなくなったからって、また本ばっかり読んでひきこもったりすんじゃねーぞ ケイ:そんなことで泣くなって。二度と会えなくなるわけじゃないんだから。 ケイ:あ、そうだ。じゃあこれ、あげる。 ケイ:(笑って)次会ったら返して。約束ね。  :    :   0:間  :    :   ソクラテス:……え……るかい? ソクラテス:……聞こえ……るかい?  :   ケイ:はい……?  :   ソクラテス:よかった、目を覚ましたか。 ソクラテス:死んでるんじゃないかとひやひやしたよ ケイ:あなたは、お医者さん……ですか? ソクラテス:……ん? 僕かい? ソクラテス:いいや、違うよ。 ソクラテス:僕の屋敷の近くで倒れていた君を助けてあげた、ただの命の恩人さ。 ソクラテス:君の、ヒーローと言っても良い。 ケイ:……? ヒーロー? ケイ:そうなんですか……ありがとうございます。 ソクラテス:で、君はどこの誰で、僕はどこに連絡したら良い? ケイ:え、あ、じゃあ携帯…イタッ… ケイ:すみません、なんかうまく体が動かせなくて ケイ:荷物、取ってもらってもいいですか? ソクラテス:……荷物、か。 ソクラテス:君は、何も持っていなかったようだけど ケイ:え…? ソクラテス:近くにも、何も落ちていなかった。 ケイ:……。  :   ソクラテス:……そうか、なるほど。 ソクラテス:不安だろう。 ソクラテス:何か、温かいものでも持ってこようか? ケイ:そんな、これ以上迷惑かけられません…ッ…。 ソクラテス:なに、気にしないでくれ ソクラテス:ちょうど僕も口が渇いていてね、ついでだ。 ケイ:……ありがとうございます。 ソクラテス:紅茶でいいかな? ケイ:砂糖、ありますか? ケイ:恥ずかしいんですけど、甘くないと飲めなくって、紅茶。 ソクラテス:ああ、一緒に持ってこよう。 ソクラテス:少し待っていてくれ、すぐに戻る。 ケイ:はい。  :   ケイ:『きれいな部屋。ベッドもすごく柔らかい。お金持ちの人なのかな。』 ケイ:『でも、どうしてわたしはここに?』  :   0:間  :   ソクラテス:……待たせたね。 ソクラテス:はい、これ。 ソクラテス:角砂糖は二つで足りるかい? ケイ:はい。いただきます。  :   ソクラテス:ああ、そうだ。 ソクラテス:まだ名乗っていなかったね。 ソクラテス:僕は、ソクラテス。 ソクラテス:ふざけてはいないよ、訳があってね。 ソクラテス:最近はずっと、この名を名乗っているんだ。 ケイ:そうなんですか。ふふ、噛みそうな名前ですね。 ケイ:わたしはケイって言います、えっと、え…っと。 ケイ:あれ? わたし苗字なんだっけ……。  :   ソクラテス:「ケイ」だね。 ソクラテス:よろしく、ケイ。 ソクラテス:で、改めて聞くけれど ソクラテス:君はどこの誰で、なんであんなところに倒れていたんだい? ケイ:……ごめんなさい。落ち着いて考えてみたんですけど、自分の名前以外何も思い出せなくて…… ソクラテス:おっと、それは大変だ。 ソクラテス:「記憶喪失」というやつかい。  :   ケイ:あの、本当に近くに何もありませんでしたか?身分証明証とか、家の鍵とか。 ソクラテス:不思議なことに、君以外は何も落っこちていなかったよ。 ケイ:じゃあ今ごろ警察とかがわたしのこと探してるんじゃ…… ソクラテス:滅多なこと言うもんじゃないよ。 ソクラテス:一日帰ってこなかったくらいで、行方不明扱いはされないさ。 ソクラテス:明日、麓(ふもと)の病院に連れて行ってあげよう。それまでは、ゆっくり体を休めるといい。 ケイ:そうですか……。そうですね、ありがとうございます、ソクラテスさん。  :   ソクラテス:ああ……そうだ、ケイ。 ソクラテス:君がもし良ければ、少し話に付き合ってくれないかい? ソクラテス:こんなところに住んでいるからね、人と話す機会もあまりなくて、寂しい思いをしていたんだ。 ソクラテス:もしかすると、君の記憶を取り戻す手助けになるかもしれない。 ケイ:わたしも嬉しいです。ここはベッドもふかふかで居心地はいいけれど、退屈しちゃいそうで。 ケイ:あっ、ごめんなさい、つい。 ケイ:こんなに良くしてもらってるのに。  :   ソクラテス:いや、いいんだ。 ソクラテス:紅茶……おかわりはいるかい? ケイ:いただきます。  :    0:間  :   ソクラテス:君は、『テセウスの船』……という話を、知っているかな? ケイ:船?昔話か何かですか? ソクラテス:そうだね、昔話……といえば、昔話になるのかな。 ソクラテス:テセウス……という船乗りのお話さ。  :   ソクラテス:彼は、長い旅をしていたんだ。 ソクラテス:それはそれは、長い旅だった。 ソクラテス:――旅の途中、テセウスの乗った船は、少しずつ壊れてしまう。 ソクラテス:でも、そのたびに、壊れた部品を新しい部品に交換していったんだ。旅を続けるためにね。  :   ケイ:テセウスは、どこかに行きたかったんですか?  :   ソクラテス:友人を探していたんだ ソクラテス:だから、彼は旅をしていた。 ケイ:友人かぁ……。 ソクラテス:そんな、長い旅が終わってね。そうして、彼は友人と再会して、こう言われるんだ。 ソクラテス:「2人で作った、思い出の船で会いに来てくれてありがとう」ってね。  :   ケイ:それは、友人も喜んだでしょうね!  :   ソクラテス:その時、テセウスはこう考えてしまう。 ソクラテス:『元の、友人と2人で作った船から、全ての部品が取り替えられてしまったこの船は、同じ船といえるのだろうか』……ってね ソクラテス:さて……ケイ ソクラテス:君は、どう感じ、どう考える?  :  ケイ:え?わたしって、どういうことですか? ソクラテス:ちょっとした頭の体操さ ソクラテス:『元の船と、全ての部品が取り替わった今の船。どちらも同じテセウスの船と言える』と思うかい? ソクラテス:ちょっと、難しい質問だったかな。  :   ケイ:これ、わたしの答えでいいんですよね? ソクラテス:もちろん ソクラテス:君の考えが、知りたいんだ。  :   ケイ:わたしは、全ての部品が取り替わった船も、テセウスの船だと思います。  :   ソクラテス:――なるほど。 ソクラテス:……でも、どうしてそう考えたんだい?  :   ケイ:だって、その船がテセウスと過ごした時間はほんものだし、テセウスが直しながらも乗ってきてくれたから友人も「2人で作った船」って言ったわけですよね。 ケイ:だったらそれは、テセウスさんの船ですよ。誰が何と言おうと。  :   ソクラテス:……。 ソクラテス:――君は、変わらないね。  :   ケイ:え? ソクラテス:いいや、なんでもない。 ソクラテス:それじゃあ君は、本質は「共に過ごした時間」や「思い出」にあると、そういう事だね? ケイ:そういうことなんですかね。あまりこういう難しいこと考えないんで……あれ?  :   ケイ:……! ソクラテス:どうか、したのかい? ケイ:もしかして、わたし…… ケイ:学生だったのかもしれない……です。  :   ソクラテス:そ、そうか。 ソクラテス:君は、学生さんだったんだね。 ソクラテス:……他にはなにか、思い出したかい? ケイ:……いいえ、これ以上は……  :   ソクラテス:そうか……。  :   ソクラテス:じゃあ、もう一つ、質問をしても良いかな? ケイ:それは、記憶をとりもどすため、ですよね。 ソクラテス:もちろん、その通りさ。  :   ケイ:分かりました。お願いします。 ソクラテス:もし、テセウスとその友人が ソクラテス:交換してしまった元の部品を集め直してもう一隻船を作ったとしよう。 ソクラテス:もちろん、壊れているから動かないけれどね。 ソクラテス:さて、「旅をしてきた船」と「造りなおした船」本物の『テセウスの船』はどちらだと思う?  :   ケイ:……! ケイ:あの、ええと…… ケイ:……なんか、怖いです。ソクラテスさん。  :   ソクラテス:――すまない。 ソクラテス:少し、酷な質問をしてしまったかな? ケイ:いえ……。  :   ケイ:でもなんでしょう、答えを考えるたび、胸のあたりが苦しいんです。 ケイ:どうしてなのかは自分でもわからないんですけど。 ソクラテス:何か、核心に近づいているのかもしれない。 ソクラテス:しかし、そうだな…… ソクラテス:空気を変えよう、少し窓を開けてくる。  :   ケイ:ありがとうございます。  :   ソクラテス:今夜は……ずいぶんと明るい夜だね。 ソクラテス:……少し、風が強いみたいだ。寒くはないかな? ケイ:かもしれないですね、何か羽織るものがあったらよかったんだけど…… ケイ:そういえばわたし、なんでパジャマのまま倒れて……ああっ!! ケイ:え?わたし……ああ……!どうして!?  :   ソクラテス:――ケイ、どうした!  :   ケイ:あああ……。 ケイ:そうだ、わたし、あの時屋上から飛び降りて、それで……。 ソクラテス:――!! ケイ:なんで……?なんで生きてるの……? ケイ:おかしい、わたしは、死んだはず……なのに!! ケイ:ねぇ!どうして!あなた、何か知ってるんでしょう!? ソクラテス:……ケイ、落ち着くんだ。 ケイ:もしかして、全部分かっててわたしを助けたの?なんで?! ソクラテス:……君は、生きている。それじゃダメなのかい?  :   ケイ:もういい……。しばらく一人にして……。お願い……。  :   ソクラテス:……! ソクラテス:わかった。 ソクラテス:紅茶を、いれてくるよ。  :    :   0:間  :    :   ケイ:『わたしの名前は宮本圭、21歳。都内に一人暮らしの大学生。ちょっと人と違うことといえば、バイト代わりに女性誌の読者モデルをやっているって事くらい。』 ケイ:『モデルを始めたのはなんてことない理由だった。友達の付き添いで行ったオーディション、わたしだけが受かった。よくある話。』 ケイ:『やりがいとかは特になかった。でも実際収入になるのはありがたかったし、素敵な服を着て写真を撮ってもらうのも気持ちがよかった、あの日までは。』 ケイ:『ある撮影の時、カメラマンさんが言った「ケイちゃーん、もっと素の笑顔見せて―!」。わたしは固まってしまった。素の笑顔ってなんだっけ。 ケイ:『求められるままに学校に行って、誘われたからモデルをして、そうやって生きてきた。ほんとうのわたしの気持ちはどこにあるんだろう。ずっと目を背けていた現実が一気に襲い掛かってきた気分だった。』 ケイ:『途端に、「わたし」の居場所が分からなくなって……それで。』 ケイ:『――わたしは、あの屋上に立った』  :   ケイ:なんで、体、動かないんだろう……  :   0:間  :    :   ソクラテス:――角砂糖は、二つで良かったよね。 ケイ:……。 ソクラテス:……  :   ケイ:本当の自分って、どこにあるんだと思いますか? ソクラテス:……そうだな。 ソクラテス:もしかすると、本当の自分なんてないのかもしれないと思うよ。 ソクラテス:いつだって自分は、自分のなりたい自分を演じるんだ。 ソクラテス:だから、苦しくなるときもある。 ケイ:……そう。  :   ケイ:わたしは、死んだんです。 ケイ:自分が分からなくなって、今どこに立っているのかさえ、曖昧になって。 ケイ:――わたしは、自ら死を選んだんです。 ソクラテス:君は、自分の事を知らなすぎたんだね。 ケイ:自暴自棄になってしまったんです…… ケイ:笑ってくださいよ。 ケイ:こんな事で、死を選んだわたしを。  :   ソクラテス:……笑うわけないじゃないか ソクラテス:僕はね、ケイ。 ソクラテス:君が、どうして自ら命を絶とうとしたかなんて、さっぱり分からないし。 ソクラテス:理解しようとも思わない。 ソクラテス:でも、一つだけ知っていることがあるとするならば ソクラテス:「ケイくん」は…… ソクラテス:僕の知ってる「ケイくん」は、簡単に死なないって事だけ。  :   ケイ:え? ケイ:ケイくんって……。 ソクラテス:忘れたとは言わせないよ。 ソクラテス:僕は、ずっと覚えていたのに ソクラテス:君だけ忘れるなんて、ずるいじゃないか  :   ケイ:どういう……こと……? ソクラテス:……そうだな ソクラテス:――昔話をしよう。 ソクラテス:いじめられていた泣き虫な少年が、ヒーローに救われる物語だ。 ケイ:また……なにか、質問するつもりですか? ソクラテス:いいや、違うさ。 ソクラテス:君に聞いて欲しくてね。 ソクラテス:いいかな? 話しても。  :   ケイ:はい。  :   ソクラテス:…… ソクラテス:その少年の上靴は、いつもゴミ箱の中にあった。 ソクラテス:少年は泣きながらゴミ箱から上靴を取り出して履くんだ。 ソクラテス:それを見て、笑う子の声を聞きながら。 ソクラテス:それが日常だった。 ソクラテス:日常、だった…… ケイ:……。 ソクラテス:いじめられていたのさ。 ソクラテス:かわいそうにね。 ソクラテス:でも、ヒーローは突然現れた。 ソクラテス:公園でさ、ランドセルを取られて泣いてた少年を見て、いじめっこを殴り飛ばしたんだ。 ソクラテス:うずくまって泣く少年に手を伸ばして「立てよ、泣き虫」って ソクラテス:ひどいよね。  :   ケイ:同い年の子?  :   ソクラテス:……かもね。 ソクラテス:その子、別の学校の生徒らしくて、少年と会うのは公園でだけだったんだ。 ソクラテス:……だから分からなかった。 ソクラテス:その日から、少年はそのヒーローと仲良くなって、学校が終われば、いつも一緒に遊んでいた。 ソクラテス:来る日も、来る日も―― ソクラテス:毎日……毎日。 ソクラテス:ヒーローが、別の街に引っ越してしまう、その日まで、ずっと。  :   ソクラテス:……  :   ソクラテス:…………僕はね、ケイくん。 ソクラテス:君に、憧れていたんだ。 ソクラテス:ずっと、男の子だって思っていたけどね。 ケイ:じゃあ、少年と、ヒーローって…… ソクラテス:――僕にとっての、ヒーローは君なんだ。  :   ケイ:……!!! ケイ:ああ、わたし、混乱してるみたい。 ケイ:まだ、わからないの。 ケイ:そんな、男の子みたいなわたし…… ケイ:……でも、思い出したい。 ケイ:どんなつらい話でも受け入れる。だから、話して。ソクラテスさん。  :   ソクラテス:……僕は、君を探していたんだ。 ソクラテス:まさか、女の子だったなんて思ってなかったから ソクラテス:全然、見つからなかった。 ケイ:うん。 ソクラテス:でも、偶然雑誌で、モデルをしている君を見つけたんだ。 ソクラテス:……びっくりしたよ、君なのに、僕の知っている君とは違うんだもの ソクラテス:驚いたけど、嬉しかった。 ケイ:……うん。 ソクラテス:連絡先も分からなかったし ソクラテス:君は、別の世界の人になっていたから ソクラテス:もう、会うことなんて出来ないと思っていた。 ケイ:……。  :   ソクラテス:――偶然、だったんだ。 ソクラテス:君が、僕の目の前に落ちてきたのは。 ケイ:……そんなことって! ソクラテス:……あったんだ!! ソクラテス:僕は、誰にも見つからないように、君の死体を持って帰った。 ソクラテス:そして…… ソクラテス:僕は、自殺した君を  :   ソクラテス:――生き返らせた。  :    :   ケイ:……そんな、事が……! ケイ:ううん、でも ケイ:……なんとなく、わかってたよ。 ケイ:だって、わたしの事を知らない人が ケイ:――わたしにこんなに、優しくしてくれるわけ、ないもん。  :   ソクラテス:……!! ソクラテス:――強いね、君は。 ソクラテス:僕は未だに、弱いままなのに。 ソクラテス:まだ、まだ……手が震えて仕方がないんだ。 ソクラテス:僕は、僕の勝手で、死んでしまった君の体から、君の脳を、別の体に移し替えた。 ソクラテス:あんな、バケモノの力を借りて……! ソクラテス:震えた手で、禁忌に触れた。 ソクラテス:それなのに、君は……!!!  :   ケイ:ソクラテスだって、強いよ。 ケイ:人を生き返らせるなんて、そう簡単にできるわけない。 ケイ:わたしの今の体が、別の体だって聞いて、怖い、とは思う。 ケイ:バケモノの力って言うのも、よく、分からないけど ケイ:でも、わたしがこうやって話せてるのもあなたのおかげ。 ケイ:――ありがとう。  :   ソクラテス:……!!! ソクラテス:ありがとうなんて言葉!!僕にはふさわしくない!!!! ソクラテス:僕は、君を勝手に生き返らせた!!!! ソクラテス:ニセモノの体で!!! ソクラテス:そんな僕を、どうして許せる!? ソクラテス:自分の罪の意識を、少しでも軽くするために、テセウスの船なんて話でごまかして!!!! ソクラテス:僕は君に、そのニセモノの体で生きていくことを強要しようとしたんだ!! ソクラテス:……!! なんでっ!!! ソクラテス:なんで……どうして、君はそんなに強いんだ……!!! ソクラテス:僕を、許さないでくれよ……!!!!  :    :   ケイ:――許せるよ。 ケイ:ねぇ、約束、覚えてる?  :   ソクラテス:……!  :   ケイ:「二度と会えなくなるわけじゃ、ないんだから」 ケイ:まだ持ってる? ケイ:「オレ」があげた、変身ベルト。  :   ソクラテス:…………! ソクラテス:――僕は、君のヒーローになりたかったんだ。  :   ケイ:……うん。 ソクラテス:これを、君に返すために、約束を果たすために ソクラテス:僕は……君を生き返らせた。  :   ソクラテス:でも、これを返したら――全部、終わっちゃうのかな。  :   ケイ:(笑う) ケイ:馬鹿だなぁ。ほんと。 ケイ:ヒーローは見返りを求めないんだよ?  :   ソクラテス:君は、どこまで行っても、やっぱり君だね。 ソクラテス:「僕が、君と過ごした時間はほんものだ。今の君があの頃と変わってしまっても、『僕たち』は変わらない」 ソクラテス:――これは、返すよ。 ケイ:……うん!  :    :   0:間  :    :   ソクラテス:あのさ……ケイ。 ケイ:なに? ソクラテス:今更、変なこと聞くんだけどさ ケイ:……うん ソクラテス:僕は――君のヒーローに、なれたのかな。  :   ケイ:(笑って)……さあ、どうだろうね?  :    :   0:――FIN――  :    :

 :  0:タイトル『ソクラテスの思考実験-case.ケイ』  :    :   ケイ:オレがいなくなったからって、また本ばっかり読んでひきこもったりすんじゃねーぞ ケイ:そんなことで泣くなって。二度と会えなくなるわけじゃないんだから。 ケイ:あ、そうだ。じゃあこれ、あげる。 ケイ:(笑って)次会ったら返して。約束ね。  :    :   0:間  :    :   ソクラテス:……え……るかい? ソクラテス:……聞こえ……るかい?  :   ケイ:はい……?  :   ソクラテス:よかった、目を覚ましたか。 ソクラテス:死んでるんじゃないかとひやひやしたよ ケイ:あなたは、お医者さん……ですか? ソクラテス:……ん? 僕かい? ソクラテス:いいや、違うよ。 ソクラテス:僕の屋敷の近くで倒れていた君を助けてあげた、ただの命の恩人さ。 ソクラテス:君の、ヒーローと言っても良い。 ケイ:……? ヒーロー? ケイ:そうなんですか……ありがとうございます。 ソクラテス:で、君はどこの誰で、僕はどこに連絡したら良い? ケイ:え、あ、じゃあ携帯…イタッ… ケイ:すみません、なんかうまく体が動かせなくて ケイ:荷物、取ってもらってもいいですか? ソクラテス:……荷物、か。 ソクラテス:君は、何も持っていなかったようだけど ケイ:え…? ソクラテス:近くにも、何も落ちていなかった。 ケイ:……。  :   ソクラテス:……そうか、なるほど。 ソクラテス:不安だろう。 ソクラテス:何か、温かいものでも持ってこようか? ケイ:そんな、これ以上迷惑かけられません…ッ…。 ソクラテス:なに、気にしないでくれ ソクラテス:ちょうど僕も口が渇いていてね、ついでだ。 ケイ:……ありがとうございます。 ソクラテス:紅茶でいいかな? ケイ:砂糖、ありますか? ケイ:恥ずかしいんですけど、甘くないと飲めなくって、紅茶。 ソクラテス:ああ、一緒に持ってこよう。 ソクラテス:少し待っていてくれ、すぐに戻る。 ケイ:はい。  :   ケイ:『きれいな部屋。ベッドもすごく柔らかい。お金持ちの人なのかな。』 ケイ:『でも、どうしてわたしはここに?』  :   0:間  :   ソクラテス:……待たせたね。 ソクラテス:はい、これ。 ソクラテス:角砂糖は二つで足りるかい? ケイ:はい。いただきます。  :   ソクラテス:ああ、そうだ。 ソクラテス:まだ名乗っていなかったね。 ソクラテス:僕は、ソクラテス。 ソクラテス:ふざけてはいないよ、訳があってね。 ソクラテス:最近はずっと、この名を名乗っているんだ。 ケイ:そうなんですか。ふふ、噛みそうな名前ですね。 ケイ:わたしはケイって言います、えっと、え…っと。 ケイ:あれ? わたし苗字なんだっけ……。  :   ソクラテス:「ケイ」だね。 ソクラテス:よろしく、ケイ。 ソクラテス:で、改めて聞くけれど ソクラテス:君はどこの誰で、なんであんなところに倒れていたんだい? ケイ:……ごめんなさい。落ち着いて考えてみたんですけど、自分の名前以外何も思い出せなくて…… ソクラテス:おっと、それは大変だ。 ソクラテス:「記憶喪失」というやつかい。  :   ケイ:あの、本当に近くに何もありませんでしたか?身分証明証とか、家の鍵とか。 ソクラテス:不思議なことに、君以外は何も落っこちていなかったよ。 ケイ:じゃあ今ごろ警察とかがわたしのこと探してるんじゃ…… ソクラテス:滅多なこと言うもんじゃないよ。 ソクラテス:一日帰ってこなかったくらいで、行方不明扱いはされないさ。 ソクラテス:明日、麓(ふもと)の病院に連れて行ってあげよう。それまでは、ゆっくり体を休めるといい。 ケイ:そうですか……。そうですね、ありがとうございます、ソクラテスさん。  :   ソクラテス:ああ……そうだ、ケイ。 ソクラテス:君がもし良ければ、少し話に付き合ってくれないかい? ソクラテス:こんなところに住んでいるからね、人と話す機会もあまりなくて、寂しい思いをしていたんだ。 ソクラテス:もしかすると、君の記憶を取り戻す手助けになるかもしれない。 ケイ:わたしも嬉しいです。ここはベッドもふかふかで居心地はいいけれど、退屈しちゃいそうで。 ケイ:あっ、ごめんなさい、つい。 ケイ:こんなに良くしてもらってるのに。  :   ソクラテス:いや、いいんだ。 ソクラテス:紅茶……おかわりはいるかい? ケイ:いただきます。  :    0:間  :   ソクラテス:君は、『テセウスの船』……という話を、知っているかな? ケイ:船?昔話か何かですか? ソクラテス:そうだね、昔話……といえば、昔話になるのかな。 ソクラテス:テセウス……という船乗りのお話さ。  :   ソクラテス:彼は、長い旅をしていたんだ。 ソクラテス:それはそれは、長い旅だった。 ソクラテス:――旅の途中、テセウスの乗った船は、少しずつ壊れてしまう。 ソクラテス:でも、そのたびに、壊れた部品を新しい部品に交換していったんだ。旅を続けるためにね。  :   ケイ:テセウスは、どこかに行きたかったんですか?  :   ソクラテス:友人を探していたんだ ソクラテス:だから、彼は旅をしていた。 ケイ:友人かぁ……。 ソクラテス:そんな、長い旅が終わってね。そうして、彼は友人と再会して、こう言われるんだ。 ソクラテス:「2人で作った、思い出の船で会いに来てくれてありがとう」ってね。  :   ケイ:それは、友人も喜んだでしょうね!  :   ソクラテス:その時、テセウスはこう考えてしまう。 ソクラテス:『元の、友人と2人で作った船から、全ての部品が取り替えられてしまったこの船は、同じ船といえるのだろうか』……ってね ソクラテス:さて……ケイ ソクラテス:君は、どう感じ、どう考える?  :  ケイ:え?わたしって、どういうことですか? ソクラテス:ちょっとした頭の体操さ ソクラテス:『元の船と、全ての部品が取り替わった今の船。どちらも同じテセウスの船と言える』と思うかい? ソクラテス:ちょっと、難しい質問だったかな。  :   ケイ:これ、わたしの答えでいいんですよね? ソクラテス:もちろん ソクラテス:君の考えが、知りたいんだ。  :   ケイ:わたしは、全ての部品が取り替わった船も、テセウスの船だと思います。  :   ソクラテス:――なるほど。 ソクラテス:……でも、どうしてそう考えたんだい?  :   ケイ:だって、その船がテセウスと過ごした時間はほんものだし、テセウスが直しながらも乗ってきてくれたから友人も「2人で作った船」って言ったわけですよね。 ケイ:だったらそれは、テセウスさんの船ですよ。誰が何と言おうと。  :   ソクラテス:……。 ソクラテス:――君は、変わらないね。  :   ケイ:え? ソクラテス:いいや、なんでもない。 ソクラテス:それじゃあ君は、本質は「共に過ごした時間」や「思い出」にあると、そういう事だね? ケイ:そういうことなんですかね。あまりこういう難しいこと考えないんで……あれ?  :   ケイ:……! ソクラテス:どうか、したのかい? ケイ:もしかして、わたし…… ケイ:学生だったのかもしれない……です。  :   ソクラテス:そ、そうか。 ソクラテス:君は、学生さんだったんだね。 ソクラテス:……他にはなにか、思い出したかい? ケイ:……いいえ、これ以上は……  :   ソクラテス:そうか……。  :   ソクラテス:じゃあ、もう一つ、質問をしても良いかな? ケイ:それは、記憶をとりもどすため、ですよね。 ソクラテス:もちろん、その通りさ。  :   ケイ:分かりました。お願いします。 ソクラテス:もし、テセウスとその友人が ソクラテス:交換してしまった元の部品を集め直してもう一隻船を作ったとしよう。 ソクラテス:もちろん、壊れているから動かないけれどね。 ソクラテス:さて、「旅をしてきた船」と「造りなおした船」本物の『テセウスの船』はどちらだと思う?  :   ケイ:……! ケイ:あの、ええと…… ケイ:……なんか、怖いです。ソクラテスさん。  :   ソクラテス:――すまない。 ソクラテス:少し、酷な質問をしてしまったかな? ケイ:いえ……。  :   ケイ:でもなんでしょう、答えを考えるたび、胸のあたりが苦しいんです。 ケイ:どうしてなのかは自分でもわからないんですけど。 ソクラテス:何か、核心に近づいているのかもしれない。 ソクラテス:しかし、そうだな…… ソクラテス:空気を変えよう、少し窓を開けてくる。  :   ケイ:ありがとうございます。  :   ソクラテス:今夜は……ずいぶんと明るい夜だね。 ソクラテス:……少し、風が強いみたいだ。寒くはないかな? ケイ:かもしれないですね、何か羽織るものがあったらよかったんだけど…… ケイ:そういえばわたし、なんでパジャマのまま倒れて……ああっ!! ケイ:え?わたし……ああ……!どうして!?  :   ソクラテス:――ケイ、どうした!  :   ケイ:あああ……。 ケイ:そうだ、わたし、あの時屋上から飛び降りて、それで……。 ソクラテス:――!! ケイ:なんで……?なんで生きてるの……? ケイ:おかしい、わたしは、死んだはず……なのに!! ケイ:ねぇ!どうして!あなた、何か知ってるんでしょう!? ソクラテス:……ケイ、落ち着くんだ。 ケイ:もしかして、全部分かっててわたしを助けたの?なんで?! ソクラテス:……君は、生きている。それじゃダメなのかい?  :   ケイ:もういい……。しばらく一人にして……。お願い……。  :   ソクラテス:……! ソクラテス:わかった。 ソクラテス:紅茶を、いれてくるよ。  :    :   0:間  :    :   ケイ:『わたしの名前は宮本圭、21歳。都内に一人暮らしの大学生。ちょっと人と違うことといえば、バイト代わりに女性誌の読者モデルをやっているって事くらい。』 ケイ:『モデルを始めたのはなんてことない理由だった。友達の付き添いで行ったオーディション、わたしだけが受かった。よくある話。』 ケイ:『やりがいとかは特になかった。でも実際収入になるのはありがたかったし、素敵な服を着て写真を撮ってもらうのも気持ちがよかった、あの日までは。』 ケイ:『ある撮影の時、カメラマンさんが言った「ケイちゃーん、もっと素の笑顔見せて―!」。わたしは固まってしまった。素の笑顔ってなんだっけ。 ケイ:『求められるままに学校に行って、誘われたからモデルをして、そうやって生きてきた。ほんとうのわたしの気持ちはどこにあるんだろう。ずっと目を背けていた現実が一気に襲い掛かってきた気分だった。』 ケイ:『途端に、「わたし」の居場所が分からなくなって……それで。』 ケイ:『――わたしは、あの屋上に立った』  :   ケイ:なんで、体、動かないんだろう……  :   0:間  :    :   ソクラテス:――角砂糖は、二つで良かったよね。 ケイ:……。 ソクラテス:……  :   ケイ:本当の自分って、どこにあるんだと思いますか? ソクラテス:……そうだな。 ソクラテス:もしかすると、本当の自分なんてないのかもしれないと思うよ。 ソクラテス:いつだって自分は、自分のなりたい自分を演じるんだ。 ソクラテス:だから、苦しくなるときもある。 ケイ:……そう。  :   ケイ:わたしは、死んだんです。 ケイ:自分が分からなくなって、今どこに立っているのかさえ、曖昧になって。 ケイ:――わたしは、自ら死を選んだんです。 ソクラテス:君は、自分の事を知らなすぎたんだね。 ケイ:自暴自棄になってしまったんです…… ケイ:笑ってくださいよ。 ケイ:こんな事で、死を選んだわたしを。  :   ソクラテス:……笑うわけないじゃないか ソクラテス:僕はね、ケイ。 ソクラテス:君が、どうして自ら命を絶とうとしたかなんて、さっぱり分からないし。 ソクラテス:理解しようとも思わない。 ソクラテス:でも、一つだけ知っていることがあるとするならば ソクラテス:「ケイくん」は…… ソクラテス:僕の知ってる「ケイくん」は、簡単に死なないって事だけ。  :   ケイ:え? ケイ:ケイくんって……。 ソクラテス:忘れたとは言わせないよ。 ソクラテス:僕は、ずっと覚えていたのに ソクラテス:君だけ忘れるなんて、ずるいじゃないか  :   ケイ:どういう……こと……? ソクラテス:……そうだな ソクラテス:――昔話をしよう。 ソクラテス:いじめられていた泣き虫な少年が、ヒーローに救われる物語だ。 ケイ:また……なにか、質問するつもりですか? ソクラテス:いいや、違うさ。 ソクラテス:君に聞いて欲しくてね。 ソクラテス:いいかな? 話しても。  :   ケイ:はい。  :   ソクラテス:…… ソクラテス:その少年の上靴は、いつもゴミ箱の中にあった。 ソクラテス:少年は泣きながらゴミ箱から上靴を取り出して履くんだ。 ソクラテス:それを見て、笑う子の声を聞きながら。 ソクラテス:それが日常だった。 ソクラテス:日常、だった…… ケイ:……。 ソクラテス:いじめられていたのさ。 ソクラテス:かわいそうにね。 ソクラテス:でも、ヒーローは突然現れた。 ソクラテス:公園でさ、ランドセルを取られて泣いてた少年を見て、いじめっこを殴り飛ばしたんだ。 ソクラテス:うずくまって泣く少年に手を伸ばして「立てよ、泣き虫」って ソクラテス:ひどいよね。  :   ケイ:同い年の子?  :   ソクラテス:……かもね。 ソクラテス:その子、別の学校の生徒らしくて、少年と会うのは公園でだけだったんだ。 ソクラテス:……だから分からなかった。 ソクラテス:その日から、少年はそのヒーローと仲良くなって、学校が終われば、いつも一緒に遊んでいた。 ソクラテス:来る日も、来る日も―― ソクラテス:毎日……毎日。 ソクラテス:ヒーローが、別の街に引っ越してしまう、その日まで、ずっと。  :   ソクラテス:……  :   ソクラテス:…………僕はね、ケイくん。 ソクラテス:君に、憧れていたんだ。 ソクラテス:ずっと、男の子だって思っていたけどね。 ケイ:じゃあ、少年と、ヒーローって…… ソクラテス:――僕にとっての、ヒーローは君なんだ。  :   ケイ:……!!! ケイ:ああ、わたし、混乱してるみたい。 ケイ:まだ、わからないの。 ケイ:そんな、男の子みたいなわたし…… ケイ:……でも、思い出したい。 ケイ:どんなつらい話でも受け入れる。だから、話して。ソクラテスさん。  :   ソクラテス:……僕は、君を探していたんだ。 ソクラテス:まさか、女の子だったなんて思ってなかったから ソクラテス:全然、見つからなかった。 ケイ:うん。 ソクラテス:でも、偶然雑誌で、モデルをしている君を見つけたんだ。 ソクラテス:……びっくりしたよ、君なのに、僕の知っている君とは違うんだもの ソクラテス:驚いたけど、嬉しかった。 ケイ:……うん。 ソクラテス:連絡先も分からなかったし ソクラテス:君は、別の世界の人になっていたから ソクラテス:もう、会うことなんて出来ないと思っていた。 ケイ:……。  :   ソクラテス:――偶然、だったんだ。 ソクラテス:君が、僕の目の前に落ちてきたのは。 ケイ:……そんなことって! ソクラテス:……あったんだ!! ソクラテス:僕は、誰にも見つからないように、君の死体を持って帰った。 ソクラテス:そして…… ソクラテス:僕は、自殺した君を  :   ソクラテス:――生き返らせた。  :    :   ケイ:……そんな、事が……! ケイ:ううん、でも ケイ:……なんとなく、わかってたよ。 ケイ:だって、わたしの事を知らない人が ケイ:――わたしにこんなに、優しくしてくれるわけ、ないもん。  :   ソクラテス:……!! ソクラテス:――強いね、君は。 ソクラテス:僕は未だに、弱いままなのに。 ソクラテス:まだ、まだ……手が震えて仕方がないんだ。 ソクラテス:僕は、僕の勝手で、死んでしまった君の体から、君の脳を、別の体に移し替えた。 ソクラテス:あんな、バケモノの力を借りて……! ソクラテス:震えた手で、禁忌に触れた。 ソクラテス:それなのに、君は……!!!  :   ケイ:ソクラテスだって、強いよ。 ケイ:人を生き返らせるなんて、そう簡単にできるわけない。 ケイ:わたしの今の体が、別の体だって聞いて、怖い、とは思う。 ケイ:バケモノの力って言うのも、よく、分からないけど ケイ:でも、わたしがこうやって話せてるのもあなたのおかげ。 ケイ:――ありがとう。  :   ソクラテス:……!!! ソクラテス:ありがとうなんて言葉!!僕にはふさわしくない!!!! ソクラテス:僕は、君を勝手に生き返らせた!!!! ソクラテス:ニセモノの体で!!! ソクラテス:そんな僕を、どうして許せる!? ソクラテス:自分の罪の意識を、少しでも軽くするために、テセウスの船なんて話でごまかして!!!! ソクラテス:僕は君に、そのニセモノの体で生きていくことを強要しようとしたんだ!! ソクラテス:……!! なんでっ!!! ソクラテス:なんで……どうして、君はそんなに強いんだ……!!! ソクラテス:僕を、許さないでくれよ……!!!!  :    :   ケイ:――許せるよ。 ケイ:ねぇ、約束、覚えてる?  :   ソクラテス:……!  :   ケイ:「二度と会えなくなるわけじゃ、ないんだから」 ケイ:まだ持ってる? ケイ:「オレ」があげた、変身ベルト。  :   ソクラテス:…………! ソクラテス:――僕は、君のヒーローになりたかったんだ。  :   ケイ:……うん。 ソクラテス:これを、君に返すために、約束を果たすために ソクラテス:僕は……君を生き返らせた。  :   ソクラテス:でも、これを返したら――全部、終わっちゃうのかな。  :   ケイ:(笑う) ケイ:馬鹿だなぁ。ほんと。 ケイ:ヒーローは見返りを求めないんだよ?  :   ソクラテス:君は、どこまで行っても、やっぱり君だね。 ソクラテス:「僕が、君と過ごした時間はほんものだ。今の君があの頃と変わってしまっても、『僕たち』は変わらない」 ソクラテス:――これは、返すよ。 ケイ:……うん!  :    :   0:間  :    :   ソクラテス:あのさ……ケイ。 ケイ:なに? ソクラテス:今更、変なこと聞くんだけどさ ケイ:……うん ソクラテス:僕は――君のヒーローに、なれたのかな。  :   ケイ:(笑って)……さあ、どうだろうね?  :    :   0:――FIN――  :    :