台本概要
315 views
タイトル | ぬいぐるみと私の、本当のコト。 |
---|---|
作者名 | レンga (@renganovel) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(女1、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
◆◆あらすじ◆◆ ずっと昔から大切にしていたぬいぐるみが。 ――突然、しゃべりだした。 おもちゃのぬいぐるみと 大人になってしまった元子供の持ち主の ちょっと不思議で、とっても奇妙な。 ハートフルストーリー。 『ぬいぐるみと私の、本当のコト。』 ◆◆◆◆◆◆◆◆ ぬいぐるみも私も、男女不問です。 私役を男性がやる場合は、必要に応じて一人称を変更してください。 ぬいぐるみ役を男性がやる場合も、必要に応じて一人称を変更してください。 ◆◆許可範囲◆◆ ①アドリブ可 ②男女比率変更可 ③語尾などの軽微な台詞変更可 315 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
私 |
女 ![]() |
121 | 社会人の女性 |
ぬいぐるみ | 不問 | 118 | しゃべるクマのぬいぐるみ |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:タイトル
0:『ぬいぐるみと私の、本当のコト。』作:レンga
:
:
ぬいぐるみ:おかえり
私:ただいま
ぬいぐるみ:なに、今日は遅かったじゃん?
私:まあ、いろいろあってさ。
私:働く人間ってのは大変なんだよ。
私:クマのぬいぐるみと違ってね。
ぬいぐるみ:バカにしてる?
私:多少はね。
ぬいぐるみ:気分悪い。
私:ぬいぐるみに気分とかあるんだ。
ぬいぐるみ:そりゃあ、あるよ。
私:そうなんだね。
:
私:ちょっと夕飯作るから。
私:キッチン行ってくるわ。
ぬいぐるみ:そう。
私:帰ってきてそうそう、かまってあげれなくてごめんね。
ぬいぐるみ:……ちょっとでもそう思ってるなら、キッチンに連れてったら?
私:ほら、油がとんで、君が汚れたら嫌だしさ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:別にいいけど。
私:――よっと。
ぬいぐるみ:なに。
私:ほら、連れてってほしいのかなと思って。
ぬいぐるみ:油が飛ぶんじゃなかったの?
私:油を使わなければいいだけの事だから。
私:今日はそばにしようかな。
ぬいぐるみ:そもそも
ぬいぐるみ:置き場をちょっと考えればいいだけじゃないの?
私:ま、そうなんだけどね。
私:かわいい君が見れたし充分かなって。
ぬいぐるみ:なにそれ、気分悪い。
私:ぬいぐるみって、そもそもかわいいものじゃないの?
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいくないといけないなんてことはないし
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいがってほしいとは限らないよ。
ぬいぐるみ:そんなのは作った人間側の勝手な考えでしかなくて
ぬいぐるみ:言葉を話せないぬいぐるみは、その人間の意図に沿ってあげる事しかできないだけ。
ぬいぐるみ:勘違いしないで。
私:でも、君は?
ぬいぐるみ:何を言わせたいの。
私:……別に?
ぬいぐるみ:はあ、むかつく。
:
私:今日のおそばは、オクラと納豆のねばねばそばにしました。
ぬいぐるみ:くさそう。
私:おいしいよ?
ぬいぐるみ:ぬいぐるみにそばの味を想像させようって?
私:そもそも、ぬいぐるみにくさそうって概念があることに驚き。
ぬいぐるみ:みためがよくないのよ。
私:見た目の良い君が言うと説得力があるね。
ぬいぐるみ:食べ物とぬいぐるみを、同じ尺度で測る神経が分からない。
私:ま、人間もぬいぐるみも、心の中まではわからないってことで。
私:いただきまーす!
私:(もぐもぐ)
私:……疲れた体にオクラはいいね。
私:元気が出ます。
ぬいぐるみ:ま、あんたがいいならいいんだけど。
私:一口食べる?
ぬいぐるみ:なに、にこにこして。
ぬいぐるみ:食べれるわけないじゃん。
私:ほら、あーんして。
ぬいぐるみ:やだ、無理だから。
ぬいぐるみ:こわいって、何してんのあんた。
私:……冗談。
ぬいぐるみ:冗談になってないから。
私:ごめんって。
:
私:片付けが終わりました。
ぬいぐるみ:見てれば分かるから。
私:明日が早いので、今日はもう寝ます。
ぬいぐるみ:ああそう。
私:それだけ?
ぬいぐるみ:なに、それ。
私:「やだー、あそんでー、かまってー」とかないの?
ぬいぐるみ:……ない。
ぬいぐるみ:子供のころと、違うんだから。
私:つまんないのー。
私:……あ、でも。
私:私が子供のころは、そんなこと言ってくれてたんだ?
ぬいぐるみ:……
:
私:私が君の声を聴けるようになったの
私:まだ最近だし。
私:ちょっと疑っててさ。
ぬいぐるみ:うたがうって何を?
私:どこかに盗聴器とスピーカーがあって、誰かがどこかでしゃべってるんじゃないかとか。
ぬいぐるみ:なにそれ
ぬいぐるみ:最初に声かけたとき、さんざん体をまさぐって確かめた癖に。
私:中の綿まで調べてないからさ。
ぬいぐるみ:やめてよ。
ぬいぐるみ:中身開けるの。
ぬいぐるみ:どうなっちゃうかわからないから。
私:調べないよ
:
私:でも、君が私との記憶をもし持ってるなら。
私:子供の時の事、覚えてるかなって思って。
ぬいぐるみ:ああ、そういうこと?
私:うん。
私:君が私の子供のころの記憶を覚えてるなら
私:疑いは晴れるだろうね。
ぬいぐるみ:そもそも疑われてるのが気に食わないんだけど
私:そりゃあ、そうでしょう?
私:しゃべるクマのぬいぐるみと出会うのはこれが初めてだし
私:こんなこと、聞いたこともないしね。
ぬいぐるみ:まあ、そうだとは思うけど。
ぬいぐるみ:なんか不服ね、不服かつ不愉快。
私:あー、なんかごめんね?
:
ぬいぐるみ:で、あんたの子供のころのなにが知りたいの?
私:何って言われると困るんだけど
私:そうだな……出会いとか。
ぬいぐるみ:出会いって、あんたと初めて会った時の事?
私:そう。
ぬいぐるみ:――雪が降ってた。
ぬいぐるみ:とっても寒い日で、あたしはプレゼントの箱の中にいた。
私:うん。
ぬいぐるみ:あんたの声が聞こえた。
ぬいぐるみ:「サンタさんがプレゼントくれたー!」って、あたしの入った箱をもって
ぬいぐるみ: 両親のもとに走っていった。
私:そうだったかな
ぬいぐるみ: あんたが覚えてなかったら、意味ないじゃない。
私:ちょっとは覚えてるよ。
私: ほら、続けて?
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:両親に、箱を開けていいか聞いたあんたは
ぬいぐるみ:嬉しそうに箱を開けて、中から出てきたあたしを見て、目を輝かせた。
ぬいぐるみ:それで……その……
私:……?
ぬいぐるみ:……ぎゅーって、抱きしめてくれた。
私:そうだったかな。
ぬいぐるみ:そ、そうだったの!
ぬいぐるみ:覚えてないなら、話す意味ないじゃない!
私:冗談だって、覚えてるよ。
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:こっちは恥ずかしい思いをしてしゃべってるのに。
私:ごめんって。
私:かわいかったから、からかいたくなっちゃって。
ぬいぐるみ:もう何もしゃべらない!
私:悪かったって。
:
私:……でも、これで本当に
私:君が私のぬいぐるみで、
私:本当に、しゃべってるってことがわかっちゃったね。
ぬいぐるみ:だからそうだって、言ってるじゃない。
私:でも、そうと分かれば、嬉しいものだね。
ぬいぐるみ:なにが?
私:小さいころから一緒にいたぬいぐるみと
私:こうやってお話しできるなんて。
ぬいぐるみ:……なに、いきなり。
私:いや、今までは半信半疑だったから。
私:遠隔操作でしゃべってたとしても、それはそれで面白がってたけど
私:本当にぬいぐるみとお話してるなんて
私:現実じゃないみたいだなって。
私:おとぎ話みたいだとは思わない?
ぬいぐるみ:おとぎ話……ね。
ぬいぐるみ:大の大人が、おとぎ話みたい……って心躍らせるのは
ぬいぐるみ:聞いててあたしも、おもしろいわ。
私:君もおもしろいなら、こんな素晴らしいことはないね。
私:だけど、今日はもう眠いから、寝ることにするよ。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:それじゃあ、おやすみなさい。
私:……それだけ?
ぬいぐるみ:それだけ。
私:なーんだ。
ぬいぐるみ:おやすみ。
私:おやすみー。
:
0:間
:
ぬいぐるみ:おかえり
私:ふぅ……!
私:ただいまー。
ぬいぐるみ:今日は早かったね。
私:君とおしゃべりしたかったからね。
ぬいぐるみ:なに、気持ち悪いんだけど。
私:ひどい事言うなあ。
ぬいぐるみ:冗談よ。
私:冗談でも私は傷ついたね。
私:しばらくは立ち直れそうにない。
ぬいぐるみ:そう。
私:……そう。じゃなくてさ。
私:ほら、ほかにもっと何かないの?
ぬいぐるみ:なにかってなに?
私:例えば、かわいらしい声で謝るとか
私:ちょっとだけ甘えてみるとかさ。
ぬいぐるみ:え、そんなこと考えてたの?
私:ナチュラルにひかないでよ、それはそれで傷つくよ?
ぬいぐるみ:別に、あんたがそういう人なのは昔から知ってるから
ぬいぐるみ:ひいてるわけじゃないよ。
ぬいぐるみ:ちょっと気持ち悪いだけ。
私:そんなになんども私を傷つけるのをやめてくれるかな……
:
ぬいぐるみ:……!
ぬいぐるみ:ふふふ
私:あ!笑った!
ぬいぐるみ:おもしろかったからね。
私:まったく、君は意地悪なぬいぐるみだ。
ぬいぐるみ:そうかな?
私:そうだとも。
ぬいぐるみ:まあ、それならそれでいいけど。
私:そういえばさ
ぬいぐるみ:なに?
私:君に、聞きたいことがあったんだけど
私:聞いてもいいかな。
ぬいぐるみ:いいよ、別に。
私:どうして突然、君はしゃべりだしたの?
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:そんなつまらない事が、知りたいの?
私:不思議だなって思ってさ。
私:ぬいぐるみが突然しゃべりだすなんて
私:普通じゃないし。
ぬいぐるみ:……普通じゃない、ね。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、逆に不思議なことがたくさんあるんだけど。
私:逆に?
:
ぬいぐるみ:ちょっと長くなるけど。
私:いいよ、聞きたい。
:
ぬいぐるみ:あのさ。
ぬいぐるみ:子供のころは、まるであたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:本当の友達みたいに扱って。
ぬいぐるみ:名前を付けたり、どこに行くにも一緒にいたり
ぬいぐるみ:当たり前のように、そうしてたじゃない?
私:……そうだね。
ぬいぐるみ:それなのに、大人になるにつれて
ぬいぐるみ:それが当り前じゃなくなっていった。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみは友達じゃなくて、おもちゃだってわかっていって
ぬいぐるみ:そして、いつしか、ガラクタになってしまう。
ぬいぐるみ:……不思議じゃない?
私:確かに、不思議、だね。
ぬいぐるみ:あんたは、あたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:一人暮らしの家にまで持ち込む変人だったから
ぬいぐるみ:あたしはガラクタにならずに済んだけど。
私:変人って。
ぬいぐるみ:世の中の多くのぬいぐるみは、そのほとんどが
ぬいぐるみ:ガラクタとして、最終的には捨てられてるの。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、あたしがしゃべることより
ぬいぐるみ:そっちの方が不思議で仕方がないんだけど。
:
私:そっか……確かに、それは不思議だね。
ぬいぐるみ:でしょう?
私:だけど、ちょっとだけなら
私:なんとなく、答えられるかもしれない。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:聞かせてもらえる?
私:いいよ。
私:えっと……うまく伝わるかわからないけど。
:
私:ぬいぐるみだけじゃなくて、子供のころのおもちゃって
私:その子供が、大人になるために必要な、道具なんじゃないかって思うの。
ぬいぐるみ:道具……?
私:言い方が悪くて、気分が悪くなったらごめんね。
私:でも、おもちゃを通して、例えば、おしゃべりを覚えたり。
私:ごっこ遊びで、想像力を鍛えたり。感性を磨いたり。
私:そうやって、少しづつ色々な事を覚えていくと思うのよ。
ぬいぐるみ:……うん。
私:君たち、おもちゃ側からしたら、それは残酷なことかもしれないけど
私:大人になっていくにつれて、成長に必要なものが変わっていくの。
私:だから、おもちゃは使われず、捨てられるようになってしまう。
私:悲しいことだけど、目的が果たされたからこそ、使われなくなってしまうの。
ぬいぐるみ:なるほど。
ぬいぐるみ:あたしたちは、道具として生まれてきたから。
ぬいぐるみ:そもそも、友達ごっこはできても、本当の友達にはなれないってことね。
私:……そう、なっちゃうのかな。
:
私:悲しいけど、私が思う、不思議に対する答えはそう。
ぬいぐるみ:ありがとう。
私:ありがとう?
ぬいぐるみ:うん。
ぬいぐるみ:あんたはいつも正直に、思ったことを口にしてくれるから。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみのあたしに向かって、ダイレクトに道具だなんて
ぬいぐるみ:普通の大人は、そんなこと言わない。
私:え、ごめんね。
私:やっぱり、嫌な気持ちにさせたかな。
ぬいぐるみ:いや、逆だよ。
ぬいぐるみ:あんたらしくて、あたしは嬉しかった。
私:私……らしい?
私:そうかな、そんな自覚はないんだけど。
ぬいぐるみ:自覚がないところも、あんたらしいかな。
私:なんか、ちょっぴり腑に落ちないけど……。
私:でも、まあいいかな。
私:君の気分を害さなかったなら、それで。
ぬいぐるみ:……問題ないよ、別に
:
ぬいぐるみ:ところで、ほら、晩御飯。
ぬいぐるみ:今日は何を作るか、もう決めた?
私:どうしようかな。
私:まだ何にも考えてないんだけど。
ぬいぐるみ:それなら、カレーにしたら?
私:カレー?
ぬいぐるみ:子供のころ、あたしはよくあんたに
ぬいぐるみ:カレーを食べさせられそうになったじゃない。
私:あー、そんな写真、アルバムで見たことあるかも。
ぬいぐるみ:あんた、自分がカレー好きだからって
ぬいぐるみ:あたしにも食べさせてあげたいって。
私:恥ずかしいから、もう、言わなくていいから。
ぬいぐるみ:ふふふ、形勢逆転、だね。
私:……もう。
私:でも、いいや、カレーにしよう。
ぬいぐるみ:ちゃんと食べさせてね。
私:え……よごれるよ?
ぬいぐるみ:冗談。
私:なんだ、冗談か。
私:騙されたよ。
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:でも、あんたが作ってるところ、眺めたいかな。
私:わかった。
私:じゃあ、一緒に行こうか。
ぬいぐるみ:ありがとう。
:
0:間
:
私:……ふわあ。
ぬいぐるみ:お腹がいっぱいになったら、すぐに眠くなるなんて
ぬいぐるみ:あんたはいつまでたっても子供ね。
私:どうだろう。
私:私は君と話していると、だんだんと子供に戻ってる気分なんだよね。
私:そのせいなのかもしれない。
ぬいぐるみ:きっと、子供のころのことを、あんた自身が、思い出しているだけだよ。
ぬいぐるみ:子供に戻ってるんじゃなくて
ぬいぐるみ:あんたの中にずっとあった、子供らしい自分が
ぬいぐるみ:戻ってきてるんだ。
私:どうして君は、そんなことがわかるの?
ぬいぐるみ:さあ、なんでだと思う?
私:質問を質問で返すのは卑怯だ。
ぬいぐるみ:じゃあ、あたしは卑怯でいい。
私:その返しも卑怯だ!
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:じゃあ、教えてあげる。
私:やっぱり、何か知ってるんだ?
ぬいぐるみ:推測でしかないけどね。
ぬいぐるみ:ご飯を食べる前、あんたと話してて、気が付いたんだ。
私:なにに気が付いたのさ。
ぬいぐるみ:あたし、自分で言ったじゃない。
ぬいぐるみ:「友達ごっこはできても、本当の友達にはなれない」 って
私:うん、言ってたね。
私:私は、なんて返したらいいかわからなかった。
ぬいぐるみ:そうだったね。
ぬいぐるみ:きっと、八つ当たりだったんだろうと思う。
ぬいぐるみ:あたし自身は、ごっこ遊びのために生まれて
ぬいぐるみ:“本当”を知らないまま、捨てられるんだと思ったから。
ぬいぐるみ:ごめんね。
私:謝らないでよ。
ぬいぐるみ:だけどさ、あたし、気づいたんだ。
:
ぬいぐるみ:“本当”を知ることができたから、君と話せるようになったんじゃないかって。
:
私:本当を……。
ぬいぐるみ:うん。
私:私が君と、本当の友達になれたから
私:君は、私と話ができるようになったってこと?
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:あんたが、一人暮らしの家にまで、あたしみたいなぬいぐるみを連れてくるほど
ぬいぐるみ:あたしを、大事に思ってくれていたからこそ、あたしは“本当”になることができた。
私:そっか。
私:もし、それが本当のコトなら、嬉しいな。
ぬいぐるみ:あたしも、嬉しい。
:
私:……なんか、今日はやけに素直だね。
ぬいぐるみ:そ、そう?
私:いつもなら、「……別に」みたいな感じなのに。
ぬいぐるみ:え、なにそれムカつく。
私:そうそう、そんな感じ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:じゃあ、今日は特別ってことで。
ぬいぐるみ:こんなに嬉しいことがあったんだから、今日くらいいいでしょう?
私:いや、私としては
私:いつも、今日みたいな君だと
私:もっと私らしさが出ると思うんだけどな。
ぬいぐるみ:今日のあんたも、ちょっと変だよ?
私:……そう?
ぬいぐるみ:いつもはもっと、なんていうか、意地悪?
私:そんなことないでしょう。
ぬいぐるみ:意地悪……って言うより、余裕がある感じでいけ好かない。
私:口が悪いぬいぐるみめ。
ぬいぐるみ:そうそう、そんな感じ。
私:やっぱりわかんないや。
ぬいぐるみ:そっか。
ぬいぐるみ:もう……そろそろ眠たくなってきちゃった?
私:お腹がいっぱいでさ、さっきからずっと眠いよ。
ぬいぐるみ:そう。
私:だから、ごめんだけどさ
私:今日はもうおやすみ。
私:素直な君とたくさん話せて、私は満足したし
私:君がしゃべれる理由もわかって、すっきりしたしね。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:明日になったら、いつもの生意気なあたしに、もどっちゃうよ?
私:いつもの君も、私の大事な君だから、大丈夫。
ぬいぐるみ:そっか。
私:ふわあ……
私:だから、もう、おやすみなさい。
私:しゃべり疲れたでしょう?
私:君も、ゆっくり休んで。
ぬいぐるみ:そうだね。
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:……でも。
私:……ふわあ。
私:でも?
ぬいぐるみ:……
:
ぬいぐるみ:……やだ。(かわいく)
ぬいぐるみ:……あそんで。(かわいく)
ぬいぐるみ:……かまって。(かわいく)
:
私:……!
私:……仕方ないなあ。
私:――今日だけ、特別だからね……。
:
:
:
0:おしまい。
0:めでたし、めでたし。
:
:
0:タイトル
0:『ぬいぐるみと私の、本当のコト。』作:レンga
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:
ぬいぐるみ:おかえり
私:ただいま
ぬいぐるみ:なに、今日は遅かったじゃん?
私:まあ、いろいろあってさ。
私:働く人間ってのは大変なんだよ。
私:クマのぬいぐるみと違ってね。
ぬいぐるみ:バカにしてる?
私:多少はね。
ぬいぐるみ:気分悪い。
私:ぬいぐるみに気分とかあるんだ。
ぬいぐるみ:そりゃあ、あるよ。
私:そうなんだね。
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私:ちょっと夕飯作るから。
私:キッチン行ってくるわ。
ぬいぐるみ:そう。
私:帰ってきてそうそう、かまってあげれなくてごめんね。
ぬいぐるみ:……ちょっとでもそう思ってるなら、キッチンに連れてったら?
私:ほら、油がとんで、君が汚れたら嫌だしさ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:別にいいけど。
私:――よっと。
ぬいぐるみ:なに。
私:ほら、連れてってほしいのかなと思って。
ぬいぐるみ:油が飛ぶんじゃなかったの?
私:油を使わなければいいだけの事だから。
私:今日はそばにしようかな。
ぬいぐるみ:そもそも
ぬいぐるみ:置き場をちょっと考えればいいだけじゃないの?
私:ま、そうなんだけどね。
私:かわいい君が見れたし充分かなって。
ぬいぐるみ:なにそれ、気分悪い。
私:ぬいぐるみって、そもそもかわいいものじゃないの?
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいくないといけないなんてことはないし
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいがってほしいとは限らないよ。
ぬいぐるみ:そんなのは作った人間側の勝手な考えでしかなくて
ぬいぐるみ:言葉を話せないぬいぐるみは、その人間の意図に沿ってあげる事しかできないだけ。
ぬいぐるみ:勘違いしないで。
私:でも、君は?
ぬいぐるみ:何を言わせたいの。
私:……別に?
ぬいぐるみ:はあ、むかつく。
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私:今日のおそばは、オクラと納豆のねばねばそばにしました。
ぬいぐるみ:くさそう。
私:おいしいよ?
ぬいぐるみ:ぬいぐるみにそばの味を想像させようって?
私:そもそも、ぬいぐるみにくさそうって概念があることに驚き。
ぬいぐるみ:みためがよくないのよ。
私:見た目の良い君が言うと説得力があるね。
ぬいぐるみ:食べ物とぬいぐるみを、同じ尺度で測る神経が分からない。
私:ま、人間もぬいぐるみも、心の中まではわからないってことで。
私:いただきまーす!
私:(もぐもぐ)
私:……疲れた体にオクラはいいね。
私:元気が出ます。
ぬいぐるみ:ま、あんたがいいならいいんだけど。
私:一口食べる?
ぬいぐるみ:なに、にこにこして。
ぬいぐるみ:食べれるわけないじゃん。
私:ほら、あーんして。
ぬいぐるみ:やだ、無理だから。
ぬいぐるみ:こわいって、何してんのあんた。
私:……冗談。
ぬいぐるみ:冗談になってないから。
私:ごめんって。
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私:片付けが終わりました。
ぬいぐるみ:見てれば分かるから。
私:明日が早いので、今日はもう寝ます。
ぬいぐるみ:ああそう。
私:それだけ?
ぬいぐるみ:なに、それ。
私:「やだー、あそんでー、かまってー」とかないの?
ぬいぐるみ:……ない。
ぬいぐるみ:子供のころと、違うんだから。
私:つまんないのー。
私:……あ、でも。
私:私が子供のころは、そんなこと言ってくれてたんだ?
ぬいぐるみ:……
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私:私が君の声を聴けるようになったの
私:まだ最近だし。
私:ちょっと疑っててさ。
ぬいぐるみ:うたがうって何を?
私:どこかに盗聴器とスピーカーがあって、誰かがどこかでしゃべってるんじゃないかとか。
ぬいぐるみ:なにそれ
ぬいぐるみ:最初に声かけたとき、さんざん体をまさぐって確かめた癖に。
私:中の綿まで調べてないからさ。
ぬいぐるみ:やめてよ。
ぬいぐるみ:中身開けるの。
ぬいぐるみ:どうなっちゃうかわからないから。
私:調べないよ
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私:でも、君が私との記憶をもし持ってるなら。
私:子供の時の事、覚えてるかなって思って。
ぬいぐるみ:ああ、そういうこと?
私:うん。
私:君が私の子供のころの記憶を覚えてるなら
私:疑いは晴れるだろうね。
ぬいぐるみ:そもそも疑われてるのが気に食わないんだけど
私:そりゃあ、そうでしょう?
私:しゃべるクマのぬいぐるみと出会うのはこれが初めてだし
私:こんなこと、聞いたこともないしね。
ぬいぐるみ:まあ、そうだとは思うけど。
ぬいぐるみ:なんか不服ね、不服かつ不愉快。
私:あー、なんかごめんね?
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ぬいぐるみ:で、あんたの子供のころのなにが知りたいの?
私:何って言われると困るんだけど
私:そうだな……出会いとか。
ぬいぐるみ:出会いって、あんたと初めて会った時の事?
私:そう。
ぬいぐるみ:――雪が降ってた。
ぬいぐるみ:とっても寒い日で、あたしはプレゼントの箱の中にいた。
私:うん。
ぬいぐるみ:あんたの声が聞こえた。
ぬいぐるみ:「サンタさんがプレゼントくれたー!」って、あたしの入った箱をもって
ぬいぐるみ: 両親のもとに走っていった。
私:そうだったかな
ぬいぐるみ: あんたが覚えてなかったら、意味ないじゃない。
私:ちょっとは覚えてるよ。
私: ほら、続けて?
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:両親に、箱を開けていいか聞いたあんたは
ぬいぐるみ:嬉しそうに箱を開けて、中から出てきたあたしを見て、目を輝かせた。
ぬいぐるみ:それで……その……
私:……?
ぬいぐるみ:……ぎゅーって、抱きしめてくれた。
私:そうだったかな。
ぬいぐるみ:そ、そうだったの!
ぬいぐるみ:覚えてないなら、話す意味ないじゃない!
私:冗談だって、覚えてるよ。
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:こっちは恥ずかしい思いをしてしゃべってるのに。
私:ごめんって。
私:かわいかったから、からかいたくなっちゃって。
ぬいぐるみ:もう何もしゃべらない!
私:悪かったって。
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私:……でも、これで本当に
私:君が私のぬいぐるみで、
私:本当に、しゃべってるってことがわかっちゃったね。
ぬいぐるみ:だからそうだって、言ってるじゃない。
私:でも、そうと分かれば、嬉しいものだね。
ぬいぐるみ:なにが?
私:小さいころから一緒にいたぬいぐるみと
私:こうやってお話しできるなんて。
ぬいぐるみ:……なに、いきなり。
私:いや、今までは半信半疑だったから。
私:遠隔操作でしゃべってたとしても、それはそれで面白がってたけど
私:本当にぬいぐるみとお話してるなんて
私:現実じゃないみたいだなって。
私:おとぎ話みたいだとは思わない?
ぬいぐるみ:おとぎ話……ね。
ぬいぐるみ:大の大人が、おとぎ話みたい……って心躍らせるのは
ぬいぐるみ:聞いててあたしも、おもしろいわ。
私:君もおもしろいなら、こんな素晴らしいことはないね。
私:だけど、今日はもう眠いから、寝ることにするよ。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:それじゃあ、おやすみなさい。
私:……それだけ?
ぬいぐるみ:それだけ。
私:なーんだ。
ぬいぐるみ:おやすみ。
私:おやすみー。
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0:間
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ぬいぐるみ:おかえり
私:ふぅ……!
私:ただいまー。
ぬいぐるみ:今日は早かったね。
私:君とおしゃべりしたかったからね。
ぬいぐるみ:なに、気持ち悪いんだけど。
私:ひどい事言うなあ。
ぬいぐるみ:冗談よ。
私:冗談でも私は傷ついたね。
私:しばらくは立ち直れそうにない。
ぬいぐるみ:そう。
私:……そう。じゃなくてさ。
私:ほら、ほかにもっと何かないの?
ぬいぐるみ:なにかってなに?
私:例えば、かわいらしい声で謝るとか
私:ちょっとだけ甘えてみるとかさ。
ぬいぐるみ:え、そんなこと考えてたの?
私:ナチュラルにひかないでよ、それはそれで傷つくよ?
ぬいぐるみ:別に、あんたがそういう人なのは昔から知ってるから
ぬいぐるみ:ひいてるわけじゃないよ。
ぬいぐるみ:ちょっと気持ち悪いだけ。
私:そんなになんども私を傷つけるのをやめてくれるかな……
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ぬいぐるみ:……!
ぬいぐるみ:ふふふ
私:あ!笑った!
ぬいぐるみ:おもしろかったからね。
私:まったく、君は意地悪なぬいぐるみだ。
ぬいぐるみ:そうかな?
私:そうだとも。
ぬいぐるみ:まあ、それならそれでいいけど。
私:そういえばさ
ぬいぐるみ:なに?
私:君に、聞きたいことがあったんだけど
私:聞いてもいいかな。
ぬいぐるみ:いいよ、別に。
私:どうして突然、君はしゃべりだしたの?
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:そんなつまらない事が、知りたいの?
私:不思議だなって思ってさ。
私:ぬいぐるみが突然しゃべりだすなんて
私:普通じゃないし。
ぬいぐるみ:……普通じゃない、ね。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、逆に不思議なことがたくさんあるんだけど。
私:逆に?
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ぬいぐるみ:ちょっと長くなるけど。
私:いいよ、聞きたい。
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ぬいぐるみ:あのさ。
ぬいぐるみ:子供のころは、まるであたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:本当の友達みたいに扱って。
ぬいぐるみ:名前を付けたり、どこに行くにも一緒にいたり
ぬいぐるみ:当たり前のように、そうしてたじゃない?
私:……そうだね。
ぬいぐるみ:それなのに、大人になるにつれて
ぬいぐるみ:それが当り前じゃなくなっていった。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみは友達じゃなくて、おもちゃだってわかっていって
ぬいぐるみ:そして、いつしか、ガラクタになってしまう。
ぬいぐるみ:……不思議じゃない?
私:確かに、不思議、だね。
ぬいぐるみ:あんたは、あたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:一人暮らしの家にまで持ち込む変人だったから
ぬいぐるみ:あたしはガラクタにならずに済んだけど。
私:変人って。
ぬいぐるみ:世の中の多くのぬいぐるみは、そのほとんどが
ぬいぐるみ:ガラクタとして、最終的には捨てられてるの。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、あたしがしゃべることより
ぬいぐるみ:そっちの方が不思議で仕方がないんだけど。
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私:そっか……確かに、それは不思議だね。
ぬいぐるみ:でしょう?
私:だけど、ちょっとだけなら
私:なんとなく、答えられるかもしれない。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:聞かせてもらえる?
私:いいよ。
私:えっと……うまく伝わるかわからないけど。
:
私:ぬいぐるみだけじゃなくて、子供のころのおもちゃって
私:その子供が、大人になるために必要な、道具なんじゃないかって思うの。
ぬいぐるみ:道具……?
私:言い方が悪くて、気分が悪くなったらごめんね。
私:でも、おもちゃを通して、例えば、おしゃべりを覚えたり。
私:ごっこ遊びで、想像力を鍛えたり。感性を磨いたり。
私:そうやって、少しづつ色々な事を覚えていくと思うのよ。
ぬいぐるみ:……うん。
私:君たち、おもちゃ側からしたら、それは残酷なことかもしれないけど
私:大人になっていくにつれて、成長に必要なものが変わっていくの。
私:だから、おもちゃは使われず、捨てられるようになってしまう。
私:悲しいことだけど、目的が果たされたからこそ、使われなくなってしまうの。
ぬいぐるみ:なるほど。
ぬいぐるみ:あたしたちは、道具として生まれてきたから。
ぬいぐるみ:そもそも、友達ごっこはできても、本当の友達にはなれないってことね。
私:……そう、なっちゃうのかな。
:
私:悲しいけど、私が思う、不思議に対する答えはそう。
ぬいぐるみ:ありがとう。
私:ありがとう?
ぬいぐるみ:うん。
ぬいぐるみ:あんたはいつも正直に、思ったことを口にしてくれるから。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみのあたしに向かって、ダイレクトに道具だなんて
ぬいぐるみ:普通の大人は、そんなこと言わない。
私:え、ごめんね。
私:やっぱり、嫌な気持ちにさせたかな。
ぬいぐるみ:いや、逆だよ。
ぬいぐるみ:あんたらしくて、あたしは嬉しかった。
私:私……らしい?
私:そうかな、そんな自覚はないんだけど。
ぬいぐるみ:自覚がないところも、あんたらしいかな。
私:なんか、ちょっぴり腑に落ちないけど……。
私:でも、まあいいかな。
私:君の気分を害さなかったなら、それで。
ぬいぐるみ:……問題ないよ、別に
:
ぬいぐるみ:ところで、ほら、晩御飯。
ぬいぐるみ:今日は何を作るか、もう決めた?
私:どうしようかな。
私:まだ何にも考えてないんだけど。
ぬいぐるみ:それなら、カレーにしたら?
私:カレー?
ぬいぐるみ:子供のころ、あたしはよくあんたに
ぬいぐるみ:カレーを食べさせられそうになったじゃない。
私:あー、そんな写真、アルバムで見たことあるかも。
ぬいぐるみ:あんた、自分がカレー好きだからって
ぬいぐるみ:あたしにも食べさせてあげたいって。
私:恥ずかしいから、もう、言わなくていいから。
ぬいぐるみ:ふふふ、形勢逆転、だね。
私:……もう。
私:でも、いいや、カレーにしよう。
ぬいぐるみ:ちゃんと食べさせてね。
私:え……よごれるよ?
ぬいぐるみ:冗談。
私:なんだ、冗談か。
私:騙されたよ。
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:でも、あんたが作ってるところ、眺めたいかな。
私:わかった。
私:じゃあ、一緒に行こうか。
ぬいぐるみ:ありがとう。
:
0:間
:
私:……ふわあ。
ぬいぐるみ:お腹がいっぱいになったら、すぐに眠くなるなんて
ぬいぐるみ:あんたはいつまでたっても子供ね。
私:どうだろう。
私:私は君と話していると、だんだんと子供に戻ってる気分なんだよね。
私:そのせいなのかもしれない。
ぬいぐるみ:きっと、子供のころのことを、あんた自身が、思い出しているだけだよ。
ぬいぐるみ:子供に戻ってるんじゃなくて
ぬいぐるみ:あんたの中にずっとあった、子供らしい自分が
ぬいぐるみ:戻ってきてるんだ。
私:どうして君は、そんなことがわかるの?
ぬいぐるみ:さあ、なんでだと思う?
私:質問を質問で返すのは卑怯だ。
ぬいぐるみ:じゃあ、あたしは卑怯でいい。
私:その返しも卑怯だ!
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:じゃあ、教えてあげる。
私:やっぱり、何か知ってるんだ?
ぬいぐるみ:推測でしかないけどね。
ぬいぐるみ:ご飯を食べる前、あんたと話してて、気が付いたんだ。
私:なにに気が付いたのさ。
ぬいぐるみ:あたし、自分で言ったじゃない。
ぬいぐるみ:「友達ごっこはできても、本当の友達にはなれない」 って
私:うん、言ってたね。
私:私は、なんて返したらいいかわからなかった。
ぬいぐるみ:そうだったね。
ぬいぐるみ:きっと、八つ当たりだったんだろうと思う。
ぬいぐるみ:あたし自身は、ごっこ遊びのために生まれて
ぬいぐるみ:“本当”を知らないまま、捨てられるんだと思ったから。
ぬいぐるみ:ごめんね。
私:謝らないでよ。
ぬいぐるみ:だけどさ、あたし、気づいたんだ。
:
ぬいぐるみ:“本当”を知ることができたから、君と話せるようになったんじゃないかって。
:
私:本当を……。
ぬいぐるみ:うん。
私:私が君と、本当の友達になれたから
私:君は、私と話ができるようになったってこと?
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:あんたが、一人暮らしの家にまで、あたしみたいなぬいぐるみを連れてくるほど
ぬいぐるみ:あたしを、大事に思ってくれていたからこそ、あたしは“本当”になることができた。
私:そっか。
私:もし、それが本当のコトなら、嬉しいな。
ぬいぐるみ:あたしも、嬉しい。
:
私:……なんか、今日はやけに素直だね。
ぬいぐるみ:そ、そう?
私:いつもなら、「……別に」みたいな感じなのに。
ぬいぐるみ:え、なにそれムカつく。
私:そうそう、そんな感じ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:じゃあ、今日は特別ってことで。
ぬいぐるみ:こんなに嬉しいことがあったんだから、今日くらいいいでしょう?
私:いや、私としては
私:いつも、今日みたいな君だと
私:もっと私らしさが出ると思うんだけどな。
ぬいぐるみ:今日のあんたも、ちょっと変だよ?
私:……そう?
ぬいぐるみ:いつもはもっと、なんていうか、意地悪?
私:そんなことないでしょう。
ぬいぐるみ:意地悪……って言うより、余裕がある感じでいけ好かない。
私:口が悪いぬいぐるみめ。
ぬいぐるみ:そうそう、そんな感じ。
私:やっぱりわかんないや。
ぬいぐるみ:そっか。
ぬいぐるみ:もう……そろそろ眠たくなってきちゃった?
私:お腹がいっぱいでさ、さっきからずっと眠いよ。
ぬいぐるみ:そう。
私:だから、ごめんだけどさ
私:今日はもうおやすみ。
私:素直な君とたくさん話せて、私は満足したし
私:君がしゃべれる理由もわかって、すっきりしたしね。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:明日になったら、いつもの生意気なあたしに、もどっちゃうよ?
私:いつもの君も、私の大事な君だから、大丈夫。
ぬいぐるみ:そっか。
私:ふわあ……
私:だから、もう、おやすみなさい。
私:しゃべり疲れたでしょう?
私:君も、ゆっくり休んで。
ぬいぐるみ:そうだね。
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:……でも。
私:……ふわあ。
私:でも?
ぬいぐるみ:……
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ぬいぐるみ:……やだ。(かわいく)
ぬいぐるみ:……あそんで。(かわいく)
ぬいぐるみ:……かまって。(かわいく)
:
私:……!
私:……仕方ないなあ。
私:――今日だけ、特別だからね……。
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:
:
0:おしまい。
0:めでたし、めでたし。
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