台本概要
355 views
タイトル | ぬいぐるみと僕の、本当のコト。 |
---|---|
作者名 | レンga (@renganovel) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
◆◆あらすじ◆◆ ずっと昔から大切にしていたぬいぐるみが。 ――突然、しゃべりだした。 おもちゃのぬいぐるみと 大人になってしまった元子供の持ち主の ちょっと不思議で、とっても奇妙な。 ハートフルストーリー。 『ぬいぐるみと僕の、本当のコト。』 ◆◆◆◆◆◆◆◆ ぬいぐるみも僕も、男女不問です。 僕役を女性がやる場合は、必要に応じて一人称を変更してください。 ぬいぐるみ役を男性がやる場合も、必要に応じて一人称を変更してください。 ◆◆許可範囲◆◆ ①アドリブ可 ②男女比率変更可 ③語尾などの軽微な台詞変更可 355 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
僕 |
男 ![]() |
121 | 社会人の男性 |
ぬいぐるみ | 不問 | 118 | しゃべるぬいぐるみ |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:タイトル
0:『ぬいぐるみと僕の、本当のコト。』作:レンga
:
:
ぬいぐるみ:おかえり
僕:ただいま
ぬいぐるみ:なに、今日は遅かったじゃん?
僕:まあ、いろいろあってさ。
僕:働く人間ってのは大変なんだよ。
僕:クマのぬいぐるみと違ってね。
ぬいぐるみ:バカにしてる?
僕:多少はね。
ぬいぐるみ:気分悪い。
僕:ぬいぐるみに気分とかあるんだ。
ぬいぐるみ:そりゃあ、あるよ。
僕:そうなんだね。
:
僕:ちょっと夕飯作るから。
僕:キッチン行ってくるわ。
ぬいぐるみ:そう。
僕:帰ってきてそうそう、かまってあげれなくてごめんね。
ぬいぐるみ:……ちょっとでもそう思ってるなら、キッチンに連れてったら?
僕:ほら、油がとんで、君が汚れたら嫌だしさ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:別にいいけど。
僕:――よっと。
ぬいぐるみ:なに。
僕:ほら、連れてってほしいのかなと思って。
ぬいぐるみ:油が飛ぶんじゃなかったの?
僕:油を使わなければいいだけの事だから。
僕:今日はそばにしようかな。
ぬいぐるみ:そもそも
ぬいぐるみ:置き場をちょっと考えればいいだけじゃないの?
僕:ま、そうなんだけどね。
僕:かわいい君が見れたし充分かなって。
ぬいぐるみ:なにそれ、気分悪い。
僕:ぬいぐるみって、そもそもかわいいものじゃないの?
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいくないといけないなんてことはないし
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいがってほしいとは限らないよ。
ぬいぐるみ:そんなのは作った人間側の勝手な考えでしかなくて
ぬいぐるみ:言葉を話せないぬいぐるみは、その人間の意図に沿ってあげる事しかできないだけ。
ぬいぐるみ:勘違いしないで。
僕:でも、君は?
ぬいぐるみ:何を言わせたいの。
僕:……別に?
ぬいぐるみ:はあ、むかつく。
:
僕:今日のおそばは、オクラと納豆のねばねばそばにしました。
ぬいぐるみ:くさそう。
僕:おいしいよ?
ぬいぐるみ:ぬいぐるみにそばの味を想像させようって?
僕:そもそも、ぬいぐるみにくさそうって概念があることに驚き。
ぬいぐるみ:みためがよくないのよ。
僕:見た目の良い君が言うと説得力があるね。
ぬいぐるみ:食べ物とぬいぐるみを、同じ尺度で測る神経が分からない。
僕:ま、人間もぬいぐるみも、心の中まではわからないってことで。
僕:いただきまーす!
僕:(もぐもぐ)
僕:……疲れた体にオクラはいいね。
僕:元気が出ます。
ぬいぐるみ:ま、あんたがいいならいいんだけど。
僕:一口食べる?
ぬいぐるみ:なに、にこにこして。
ぬいぐるみ:食べれるわけないじゃん。
僕:ほら、あーんして。
ぬいぐるみ:やだ、無理だから。
ぬいぐるみ:こわいって、何してんのあんた。
僕:……冗談。
ぬいぐるみ:冗談になってないから。
僕:ごめんって。
:
僕:片付けが終わりました。
ぬいぐるみ:見てれば分かるから。
僕:明日が早いので、今日はもう寝ます。
ぬいぐるみ:ああそう。
僕:それだけ?
ぬいぐるみ:なに、それ。
僕:「やだー、あそんでー、かまってー」とかないの?
ぬいぐるみ:……ない。
ぬいぐるみ:子供のころと、違うんだから。
僕:つまんないのー。
僕:……あ、でも。
僕:僕が子供のころは、そんなこと言ってくれてたんだ?
ぬいぐるみ:……
:
僕:僕が君の声を聴けるようになったの
僕:まだ最近だし。
僕:ちょっと疑っててさ。
ぬいぐるみ:うたがうって何を?
僕:どこかに盗聴器とスピーカーがあって、誰かがどこかでしゃべってるんじゃないかとか。
ぬいぐるみ:なにそれ
ぬいぐるみ:最初に声かけたとき、さんざん体をまさぐって確かめた癖に。
僕:中の綿まで調べてないからさ。
ぬいぐるみ:やめてよ。
ぬいぐるみ:中身開けるの。
ぬいぐるみ:どうなっちゃうかわからないから。
僕:調べないよ
:
僕:でも、君が僕との記憶をもし持ってるなら。
僕:子供の時の事、覚えてるかなって思って。
ぬいぐるみ:ああ、そういうこと?
僕:うん。
僕:君が僕の子供のころの記憶を覚えてるなら
僕:疑いは晴れるだろうね。
ぬいぐるみ:そもそも疑われてるのが気に食わないんだけど
僕:そりゃあ、そうでしょう?
僕:しゃべるクマのぬいぐるみと出会うのはこれが初めてだし
僕:こんなこと、聞いたこともないしね。
ぬいぐるみ:まあ、そうだとは思うけど。
ぬいぐるみ:なんか不服ね、不服かつ不愉快。
僕:あー、なんかごめんね?
:
ぬいぐるみ:で、あんたの子供のころのなにが知りたいの?
僕:何って言われると困るんだけど
僕:そうだな……出会いとか。
ぬいぐるみ:出会いって、あんたと初めて会った時の事?
僕:そう。
ぬいぐるみ:――雪が降ってた。
ぬいぐるみ:とっても寒い日で、あたしはプレゼントの箱の中にいた。
僕:うん。
ぬいぐるみ:あんたの声が聞こえた。
ぬいぐるみ:「サンタさんがプレゼントくれたー!」って、あたしの入った箱をもって
ぬいぐるみ: 両親のもとに走っていった。
僕:そうだったかな
ぬいぐるみ: あんたが覚えてなかったら、意味ないじゃない。
僕:ちょっとは覚えてるよ。
僕: ほら、続けて?
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:両親に、箱を開けていいか聞いたあんたは
ぬいぐるみ:嬉しそうに箱を開けて、中から出てきた私を見て、目を輝かせた。
ぬいぐるみ:それで……その……
僕:……?
ぬいぐるみ:……ぎゅーって、抱きしめてくれた。
僕:そうだったかな。
ぬいぐるみ:そ、そうだったの!
ぬいぐるみ:覚えてないなら、話す意味ないじゃない!
僕:冗談だって、覚えてるよ。
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:こっちは恥ずかしい思いをしてしゃべってるのに。
僕:ごめんって。
僕:かわいかったから、からかいたくなっちゃって。
ぬいぐるみ:もう何もしゃべらない!
僕:悪かったって。
:
僕:……でも、これで本当に
僕:君が僕のぬいぐるみで、
僕:本当に、しゃべってるってことがわかっちゃったね。
ぬいぐるみ:だからそうだって、言ってるじゃない。
僕:でも、そうと分かれば、嬉しいものだね。
ぬいぐるみ:なにが?
僕:小さいころから一緒にいたぬいぐるみと
僕:こうやってお話しできるなんて。
ぬいぐるみ:……なに、いきなり。
僕:いや、今までは半信半疑だったから。
僕:遠隔操作でしゃべってたとしても、それはそれで面白がってたけど
僕:本当にぬいぐるみとお話してるなんて
僕:現実じゃないみたいだなって。
僕:おとぎ話みたいだとは思わない?
ぬいぐるみ:おとぎ話……ね。
ぬいぐるみ:大の大人が、おとぎ話みたい……って心躍らせるのは
ぬいぐるみ:聞いててあたしも、おもしろいわ。
僕:君もおもしろいなら、こんな素晴らしいことはないね。
僕:だけど、今日はもう眠いから、寝ることにするよ。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:それじゃあ、おやすみなさい。
僕:……それだけ?
ぬいぐるみ:それだけ。
僕:なーんだ。
ぬいぐるみ:おやすみ。
僕:おやすみー。
:
0:間
:
ぬいぐるみ:おかえり
僕:ふぅ……!
僕:ただいまー。
ぬいぐるみ:今日は早かったね。
僕:君とおしゃべりしたかったからね。
ぬいぐるみ:なに、気持ち悪いんだけど。
僕:ひどい事言うなあ。
ぬいぐるみ:冗談よ。
僕:冗談でも僕は傷ついたね。
僕:しばらくは立ち直れそうにない。
ぬいぐるみ:そう。
僕:……そう。じゃなくてさ。
僕:ほら、ほかにもっと何かないの?
ぬいぐるみ:なにかってなに?
僕:例えば、かわいらしい声で謝るとか
僕:ちょっとだけ甘えてみるとかさ。
ぬいぐるみ:え、そんなこと考えてたの?
僕:ナチュラルにひかないでよ、それはそれで傷つくよ?
ぬいぐるみ:別に、あんたがそういう人なのは昔から知ってるから
ぬいぐるみ:ひいてるわけじゃないよ。
ぬいぐるみ:ちょっと気持ち悪いだけ。
僕:そんなになんども僕を傷つけるのをやめてくれるかな……
:
ぬいぐるみ:……!
ぬいぐるみ:ふふふ
僕:あ!笑った!
ぬいぐるみ:おもしろかったからね。
僕:まったく、君は意地悪なぬいぐるみだ。
ぬいぐるみ:そうかな?
僕:そうだとも。
ぬいぐるみ:まあ、それならそれでいいけど。
僕:そういえばさ
ぬいぐるみ:なに?
僕:君に、聞きたいことがあったんだけど
僕:聞いてもいいかな。
ぬいぐるみ:いいよ、別に。
僕:どうして突然、君はしゃべりだしたの?
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:そんなつまらない事が、知りたいの?
僕:不思議だなって思ってさ。
僕:ぬいぐるみが突然しゃべりだすなんて
僕:普通じゃないし。
ぬいぐるみ:……普通じゃない、ね。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、逆に不思議なことがたくさんあるんだけど。
僕:逆に?
:
ぬいぐるみ:ちょっと長くなるけど。
僕:いいよ、聞きたい。
:
ぬいぐるみ:あのさ。
ぬいぐるみ:子供のころは、まるであたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:本当の友達みたいに扱って。
ぬいぐるみ:名前を付けたり、どこに行くにも一緒にいたり
ぬいぐるみ:当たり前のように、そうしてたじゃない?
僕:……そうだね。
ぬいぐるみ:それなのに、大人になるにつれて
ぬいぐるみ:それが当り前じゃなくなっていった。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみは友達じゃなくて、おもちゃだってわかっていって
ぬいぐるみ:そして、いつしか、ガラクタになってしまう。
ぬいぐるみ:……不思議じゃない?
僕:確かに、不思議、だね。
ぬいぐるみ:あんたは、あたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:一人暮らしの家にまで持ち込む変人だったから
ぬいぐるみ:あたしはガラクタにならずに済んだけど。
僕:変人って。
ぬいぐるみ:世の中の多くのぬいぐるみは、そのほとんどが
ぬいぐるみ:ガラクタとして、最終的には捨てられてるの。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、あたしがしゃべることより
ぬいぐるみ:そっちの方が不思議で仕方がないんだけど。
:
僕:そっか……確かに、それは不思議だ。
ぬいぐるみ:でしょう?
僕:だけど、ちょっとだけなら
僕:なんとなく、答えられるかもしれない。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:聞かせてもらえる?
僕:いいよ。
僕:えっと……うまく伝わるかわからないけど。
:
僕:ぬいぐるみだけじゃなくて、子供のころのおもちゃって
僕:その子供が、大人になるために必要な、道具なんじゃないかって思うんだ。
ぬいぐるみ:道具……?
僕:言い方が悪くて、気分が悪くなったらごめんね。
僕:でも、おもちゃを通して、例えば、おしゃべりを覚えたり。
僕:ごっこ遊びで、想像力を鍛えたり。感性を磨いたり。
僕:そうやって、少しづつ色々な事を覚えていくと思うんだよ。
ぬいぐるみ:……うん。
僕:君たち、おもちゃ側からしたら、それは残酷なことかもしれないけど
僕:大人になっていくにつれて、成長に必要なものが変わっていくんだ。
僕:だから、おもちゃは使われず、捨てられるようになってしまう。
僕:悲しいことだけど、目的が果たされたからこそ、使われなくなってしまうんだ。
ぬいぐるみ:なるほど。
ぬいぐるみ:あたしたちは、道具として生まれてきたから。
ぬいぐるみ:そもそも、友達ごっこはできても、本当の友達にはなれないってことね。
僕:……そう、なっちゃうのかな。
:
僕:悲しいけど、僕が思う、不思議に対する答えはそう。
ぬいぐるみ:ありがとう。
僕:ありがとう?
ぬいぐるみ:うん。
ぬいぐるみ:あんたはいつも正直に、思ったことを口にしてくれるから。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみのあたしに向かって、ダイレクトに道具だなんて
ぬいぐるみ:普通の大人は、そんなこと言わない。
僕:え、ごめんね。
僕:やっぱり、嫌な気持ちにさせたかな。
ぬいぐるみ:いや、逆だよ。
ぬいぐるみ:あんたらしくて、あたしは嬉しかった。
僕:僕……らしい?
僕:そうかな、そんな自覚はないんだけど。
ぬいぐるみ:自覚がないところも、あんたらしいかな。
僕:なんか、ちょっぴり腑に落ちないけど……。
僕:でも、まあいいかな。
僕:君の気分を害さなかったなら、それで。
ぬいぐるみ:……問題ないよ、別に
:
ぬいぐるみ:ところで、ほら、晩御飯。
ぬいぐるみ:今日は何を作るか、もう決めた?
僕:どうしようかな。
僕:まだ何にも考えてないんだけど。
ぬいぐるみ:それなら、カレーにしたら?
僕:カレー?
ぬいぐるみ:子供のころ、あたしはよくあんたに
ぬいぐるみ:カレーを食べさせられそうになったじゃない。
僕:あー、そんな写真、アルバムで見たことあるや。
ぬいぐるみ:あんた、自分がカレー好きだからって
ぬいぐるみ:あたしにも食べさせてあげたいって。
僕:恥ずかしいから、もう、言わなくていいから。
ぬいぐるみ:ふふふ、形勢逆転、だね。
僕:……もう。
僕:でも、いいや、カレーにしよう。
ぬいぐるみ:ちゃんと食べさせてね。
僕:え……よごれるよ?
ぬいぐるみ:冗談。
僕:なんだ、冗談か。
僕:騙されたよ。
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:でも、あんたが作ってるところ、眺めたいかな。
僕:わかった。
僕:じゃあ、一緒に行こうか。
ぬいぐるみ:ありがとう。
:
0:間
:
僕:……ふわあ。
ぬいぐるみ:お腹がいっぱいになったら、すぐに眠くなるなんて
ぬいぐるみ:あんたはいつまでたっても子供ね。
僕:どうだろう。
僕:僕は君と話していると、だんだんと子供に戻ってる気分なんだ。
僕:そのせいなのかもしれない。
ぬいぐるみ:きっと、子供のころのことを、あんた自身が、思い出しているだけだよ。
ぬいぐるみ:子供に戻ってるんじゃなくて
ぬいぐるみ:あんたの中にずっとあった、子供らしい自分が
ぬいぐるみ:戻ってきてるんだ。
僕:どうして君は、そんなことがわかるんだ?
ぬいぐるみ:さあ、なんでだと思う?
僕:質問を質問で返すのは卑怯だ。
ぬいぐるみ:じゃあ、あたしは卑怯でいい。
僕:その返しも卑怯だ!
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:じゃあ、教えてあげる。
僕:やっぱり、何か知ってるんだ?
ぬいぐるみ:推測でしかないけどね。
ぬいぐるみ:ご飯を食べる前、あんたと話してて、気が付いたんだ。
僕:なにに気が付いたのさ。
ぬいぐるみ:あたし、自分で言ったじゃない。
ぬいぐるみ:「友達ごっこはできても、本当の友達にはなれない」 って
僕:うん、言ってたね。
僕:僕は、なんて返したらいいかわからなかった。
ぬいぐるみ:そうだったね。
ぬいぐるみ:きっと、八つ当たりだったんだろうと思う。
ぬいぐるみ:あたし自身は、ごっこ遊びのために生まれて
ぬいぐるみ:“本当”を知らないまま、捨てられるんだと思ったから。
ぬいぐるみ:ごめんね。
僕:謝らないでよ。
ぬいぐるみ:だけどさ、あたし、気づいたんだ。
:
ぬいぐるみ:“本当”を知ることができたから、君と話せるようになったんじゃないかって。
:
僕:本当を……。
ぬいぐるみ:うん。
僕:僕が君と、本当の友達になれたから
僕:君は、僕と話ができるようになったってこと?
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:あんたが、一人暮らしの家にまで、あたしみたいなぬいぐるみを連れてくるほど
ぬいぐるみ:あたしを、大事に思ってくれていたからこそ、あたしは“本当”になることができた。
僕:そっか。
僕:もし、それが本当のコトなら、嬉しいな。
ぬいぐるみ:あたしも、嬉しい。
:
僕:……なんか、今日はやけに素直だね。
ぬいぐるみ:そ、そう?
僕:いつもなら、「……別に」みたいな感じなのに。
ぬいぐるみ:え、なにそれムカつく。
僕:そうそう、そんな感じ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:じゃあ、今日は特別ってことで。
ぬいぐるみ:こんなに嬉しいことがあったんだから、今日くらいいいでしょう?
僕:いや、僕としては
僕:いつも、今日みたいな君だと
僕:もっと僕らしさが出ると思うんだけどな。
ぬいぐるみ:今日のあんたも、ちょっと変だよ?
僕:……そう?
ぬいぐるみ:いつもはもっと、なんていうか、意地悪?
僕:そんなことないでしょう。
ぬいぐるみ:意地悪……って言うより、余裕がある感じでいけ好かない。
僕:口が悪いぬいぐるみめ。
ぬいぐるみ:そうそう、そんな感じ。
僕:やっぱりわかんないや。
ぬいぐるみ:そっか。
ぬいぐるみ:もう……そろそろ眠たくなってきちゃった?
僕:お腹がいっぱいでさ、さっきからずっと眠いよ。
ぬいぐるみ:そう。
僕:だから、ごめんだけどさ
僕:今日はもうおやすみ。
僕:素直な君とたくさん話せて、僕は満足したし
僕:君がしゃべれる理由もわかって、すっきりしたしね。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:明日になったら、いつもの生意気なあたしに、もどっちゃうよ?
僕:いつもの君も、僕の大事な君だから、大丈夫。
ぬいぐるみ:そっか。
僕:ふわあ……
僕:だから、もう、おやすみなさい。
僕:しゃべり疲れたでしょう?
僕:君も、ゆっくり休んで。
ぬいぐるみ:そうだね。
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:……でも。
僕:……ふわあ。
僕:でも?
ぬいぐるみ:……
:
ぬいぐるみ:……やだ。(かわいく)
ぬいぐるみ:……あそんで。(かわいく)
ぬいぐるみ:……かまって。(かわいく)
:
僕:……!
僕:……仕方ないなあ。
僕:――今日だけ、特別だよ……。
:
:
:
0:おしまい。
0:めでたし、めでたし。
:
:
0:タイトル
0:『ぬいぐるみと僕の、本当のコト。』作:レンga
:
:
ぬいぐるみ:おかえり
僕:ただいま
ぬいぐるみ:なに、今日は遅かったじゃん?
僕:まあ、いろいろあってさ。
僕:働く人間ってのは大変なんだよ。
僕:クマのぬいぐるみと違ってね。
ぬいぐるみ:バカにしてる?
僕:多少はね。
ぬいぐるみ:気分悪い。
僕:ぬいぐるみに気分とかあるんだ。
ぬいぐるみ:そりゃあ、あるよ。
僕:そうなんだね。
:
僕:ちょっと夕飯作るから。
僕:キッチン行ってくるわ。
ぬいぐるみ:そう。
僕:帰ってきてそうそう、かまってあげれなくてごめんね。
ぬいぐるみ:……ちょっとでもそう思ってるなら、キッチンに連れてったら?
僕:ほら、油がとんで、君が汚れたら嫌だしさ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:別にいいけど。
僕:――よっと。
ぬいぐるみ:なに。
僕:ほら、連れてってほしいのかなと思って。
ぬいぐるみ:油が飛ぶんじゃなかったの?
僕:油を使わなければいいだけの事だから。
僕:今日はそばにしようかな。
ぬいぐるみ:そもそも
ぬいぐるみ:置き場をちょっと考えればいいだけじゃないの?
僕:ま、そうなんだけどね。
僕:かわいい君が見れたし充分かなって。
ぬいぐるみ:なにそれ、気分悪い。
僕:ぬいぐるみって、そもそもかわいいものじゃないの?
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいくないといけないなんてことはないし
ぬいぐるみ:すべてのぬいぐるみが、かわいがってほしいとは限らないよ。
ぬいぐるみ:そんなのは作った人間側の勝手な考えでしかなくて
ぬいぐるみ:言葉を話せないぬいぐるみは、その人間の意図に沿ってあげる事しかできないだけ。
ぬいぐるみ:勘違いしないで。
僕:でも、君は?
ぬいぐるみ:何を言わせたいの。
僕:……別に?
ぬいぐるみ:はあ、むかつく。
:
僕:今日のおそばは、オクラと納豆のねばねばそばにしました。
ぬいぐるみ:くさそう。
僕:おいしいよ?
ぬいぐるみ:ぬいぐるみにそばの味を想像させようって?
僕:そもそも、ぬいぐるみにくさそうって概念があることに驚き。
ぬいぐるみ:みためがよくないのよ。
僕:見た目の良い君が言うと説得力があるね。
ぬいぐるみ:食べ物とぬいぐるみを、同じ尺度で測る神経が分からない。
僕:ま、人間もぬいぐるみも、心の中まではわからないってことで。
僕:いただきまーす!
僕:(もぐもぐ)
僕:……疲れた体にオクラはいいね。
僕:元気が出ます。
ぬいぐるみ:ま、あんたがいいならいいんだけど。
僕:一口食べる?
ぬいぐるみ:なに、にこにこして。
ぬいぐるみ:食べれるわけないじゃん。
僕:ほら、あーんして。
ぬいぐるみ:やだ、無理だから。
ぬいぐるみ:こわいって、何してんのあんた。
僕:……冗談。
ぬいぐるみ:冗談になってないから。
僕:ごめんって。
:
僕:片付けが終わりました。
ぬいぐるみ:見てれば分かるから。
僕:明日が早いので、今日はもう寝ます。
ぬいぐるみ:ああそう。
僕:それだけ?
ぬいぐるみ:なに、それ。
僕:「やだー、あそんでー、かまってー」とかないの?
ぬいぐるみ:……ない。
ぬいぐるみ:子供のころと、違うんだから。
僕:つまんないのー。
僕:……あ、でも。
僕:僕が子供のころは、そんなこと言ってくれてたんだ?
ぬいぐるみ:……
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僕:僕が君の声を聴けるようになったの
僕:まだ最近だし。
僕:ちょっと疑っててさ。
ぬいぐるみ:うたがうって何を?
僕:どこかに盗聴器とスピーカーがあって、誰かがどこかでしゃべってるんじゃないかとか。
ぬいぐるみ:なにそれ
ぬいぐるみ:最初に声かけたとき、さんざん体をまさぐって確かめた癖に。
僕:中の綿まで調べてないからさ。
ぬいぐるみ:やめてよ。
ぬいぐるみ:中身開けるの。
ぬいぐるみ:どうなっちゃうかわからないから。
僕:調べないよ
:
僕:でも、君が僕との記憶をもし持ってるなら。
僕:子供の時の事、覚えてるかなって思って。
ぬいぐるみ:ああ、そういうこと?
僕:うん。
僕:君が僕の子供のころの記憶を覚えてるなら
僕:疑いは晴れるだろうね。
ぬいぐるみ:そもそも疑われてるのが気に食わないんだけど
僕:そりゃあ、そうでしょう?
僕:しゃべるクマのぬいぐるみと出会うのはこれが初めてだし
僕:こんなこと、聞いたこともないしね。
ぬいぐるみ:まあ、そうだとは思うけど。
ぬいぐるみ:なんか不服ね、不服かつ不愉快。
僕:あー、なんかごめんね?
:
ぬいぐるみ:で、あんたの子供のころのなにが知りたいの?
僕:何って言われると困るんだけど
僕:そうだな……出会いとか。
ぬいぐるみ:出会いって、あんたと初めて会った時の事?
僕:そう。
ぬいぐるみ:――雪が降ってた。
ぬいぐるみ:とっても寒い日で、あたしはプレゼントの箱の中にいた。
僕:うん。
ぬいぐるみ:あんたの声が聞こえた。
ぬいぐるみ:「サンタさんがプレゼントくれたー!」って、あたしの入った箱をもって
ぬいぐるみ: 両親のもとに走っていった。
僕:そうだったかな
ぬいぐるみ: あんたが覚えてなかったら、意味ないじゃない。
僕:ちょっとは覚えてるよ。
僕: ほら、続けて?
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:両親に、箱を開けていいか聞いたあんたは
ぬいぐるみ:嬉しそうに箱を開けて、中から出てきた私を見て、目を輝かせた。
ぬいぐるみ:それで……その……
僕:……?
ぬいぐるみ:……ぎゅーって、抱きしめてくれた。
僕:そうだったかな。
ぬいぐるみ:そ、そうだったの!
ぬいぐるみ:覚えてないなら、話す意味ないじゃない!
僕:冗談だって、覚えてるよ。
ぬいぐるみ:……もう。
ぬいぐるみ:こっちは恥ずかしい思いをしてしゃべってるのに。
僕:ごめんって。
僕:かわいかったから、からかいたくなっちゃって。
ぬいぐるみ:もう何もしゃべらない!
僕:悪かったって。
:
僕:……でも、これで本当に
僕:君が僕のぬいぐるみで、
僕:本当に、しゃべってるってことがわかっちゃったね。
ぬいぐるみ:だからそうだって、言ってるじゃない。
僕:でも、そうと分かれば、嬉しいものだね。
ぬいぐるみ:なにが?
僕:小さいころから一緒にいたぬいぐるみと
僕:こうやってお話しできるなんて。
ぬいぐるみ:……なに、いきなり。
僕:いや、今までは半信半疑だったから。
僕:遠隔操作でしゃべってたとしても、それはそれで面白がってたけど
僕:本当にぬいぐるみとお話してるなんて
僕:現実じゃないみたいだなって。
僕:おとぎ話みたいだとは思わない?
ぬいぐるみ:おとぎ話……ね。
ぬいぐるみ:大の大人が、おとぎ話みたい……って心躍らせるのは
ぬいぐるみ:聞いててあたしも、おもしろいわ。
僕:君もおもしろいなら、こんな素晴らしいことはないね。
僕:だけど、今日はもう眠いから、寝ることにするよ。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:それじゃあ、おやすみなさい。
僕:……それだけ?
ぬいぐるみ:それだけ。
僕:なーんだ。
ぬいぐるみ:おやすみ。
僕:おやすみー。
:
0:間
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ぬいぐるみ:おかえり
僕:ふぅ……!
僕:ただいまー。
ぬいぐるみ:今日は早かったね。
僕:君とおしゃべりしたかったからね。
ぬいぐるみ:なに、気持ち悪いんだけど。
僕:ひどい事言うなあ。
ぬいぐるみ:冗談よ。
僕:冗談でも僕は傷ついたね。
僕:しばらくは立ち直れそうにない。
ぬいぐるみ:そう。
僕:……そう。じゃなくてさ。
僕:ほら、ほかにもっと何かないの?
ぬいぐるみ:なにかってなに?
僕:例えば、かわいらしい声で謝るとか
僕:ちょっとだけ甘えてみるとかさ。
ぬいぐるみ:え、そんなこと考えてたの?
僕:ナチュラルにひかないでよ、それはそれで傷つくよ?
ぬいぐるみ:別に、あんたがそういう人なのは昔から知ってるから
ぬいぐるみ:ひいてるわけじゃないよ。
ぬいぐるみ:ちょっと気持ち悪いだけ。
僕:そんなになんども僕を傷つけるのをやめてくれるかな……
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ぬいぐるみ:……!
ぬいぐるみ:ふふふ
僕:あ!笑った!
ぬいぐるみ:おもしろかったからね。
僕:まったく、君は意地悪なぬいぐるみだ。
ぬいぐるみ:そうかな?
僕:そうだとも。
ぬいぐるみ:まあ、それならそれでいいけど。
僕:そういえばさ
ぬいぐるみ:なに?
僕:君に、聞きたいことがあったんだけど
僕:聞いてもいいかな。
ぬいぐるみ:いいよ、別に。
僕:どうして突然、君はしゃべりだしたの?
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:そんなつまらない事が、知りたいの?
僕:不思議だなって思ってさ。
僕:ぬいぐるみが突然しゃべりだすなんて
僕:普通じゃないし。
ぬいぐるみ:……普通じゃない、ね。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、逆に不思議なことがたくさんあるんだけど。
僕:逆に?
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ぬいぐるみ:ちょっと長くなるけど。
僕:いいよ、聞きたい。
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ぬいぐるみ:あのさ。
ぬいぐるみ:子供のころは、まるであたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:本当の友達みたいに扱って。
ぬいぐるみ:名前を付けたり、どこに行くにも一緒にいたり
ぬいぐるみ:当たり前のように、そうしてたじゃない?
僕:……そうだね。
ぬいぐるみ:それなのに、大人になるにつれて
ぬいぐるみ:それが当り前じゃなくなっていった。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみは友達じゃなくて、おもちゃだってわかっていって
ぬいぐるみ:そして、いつしか、ガラクタになってしまう。
ぬいぐるみ:……不思議じゃない?
僕:確かに、不思議、だね。
ぬいぐるみ:あんたは、あたしみたいなぬいぐるみを
ぬいぐるみ:一人暮らしの家にまで持ち込む変人だったから
ぬいぐるみ:あたしはガラクタにならずに済んだけど。
僕:変人って。
ぬいぐるみ:世の中の多くのぬいぐるみは、そのほとんどが
ぬいぐるみ:ガラクタとして、最終的には捨てられてるの。
ぬいぐるみ:あたしからしたら、あたしがしゃべることより
ぬいぐるみ:そっちの方が不思議で仕方がないんだけど。
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僕:そっか……確かに、それは不思議だ。
ぬいぐるみ:でしょう?
僕:だけど、ちょっとだけなら
僕:なんとなく、答えられるかもしれない。
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:聞かせてもらえる?
僕:いいよ。
僕:えっと……うまく伝わるかわからないけど。
:
僕:ぬいぐるみだけじゃなくて、子供のころのおもちゃって
僕:その子供が、大人になるために必要な、道具なんじゃないかって思うんだ。
ぬいぐるみ:道具……?
僕:言い方が悪くて、気分が悪くなったらごめんね。
僕:でも、おもちゃを通して、例えば、おしゃべりを覚えたり。
僕:ごっこ遊びで、想像力を鍛えたり。感性を磨いたり。
僕:そうやって、少しづつ色々な事を覚えていくと思うんだよ。
ぬいぐるみ:……うん。
僕:君たち、おもちゃ側からしたら、それは残酷なことかもしれないけど
僕:大人になっていくにつれて、成長に必要なものが変わっていくんだ。
僕:だから、おもちゃは使われず、捨てられるようになってしまう。
僕:悲しいことだけど、目的が果たされたからこそ、使われなくなってしまうんだ。
ぬいぐるみ:なるほど。
ぬいぐるみ:あたしたちは、道具として生まれてきたから。
ぬいぐるみ:そもそも、友達ごっこはできても、本当の友達にはなれないってことね。
僕:……そう、なっちゃうのかな。
:
僕:悲しいけど、僕が思う、不思議に対する答えはそう。
ぬいぐるみ:ありがとう。
僕:ありがとう?
ぬいぐるみ:うん。
ぬいぐるみ:あんたはいつも正直に、思ったことを口にしてくれるから。
ぬいぐるみ:ぬいぐるみのあたしに向かって、ダイレクトに道具だなんて
ぬいぐるみ:普通の大人は、そんなこと言わない。
僕:え、ごめんね。
僕:やっぱり、嫌な気持ちにさせたかな。
ぬいぐるみ:いや、逆だよ。
ぬいぐるみ:あんたらしくて、あたしは嬉しかった。
僕:僕……らしい?
僕:そうかな、そんな自覚はないんだけど。
ぬいぐるみ:自覚がないところも、あんたらしいかな。
僕:なんか、ちょっぴり腑に落ちないけど……。
僕:でも、まあいいかな。
僕:君の気分を害さなかったなら、それで。
ぬいぐるみ:……問題ないよ、別に
:
ぬいぐるみ:ところで、ほら、晩御飯。
ぬいぐるみ:今日は何を作るか、もう決めた?
僕:どうしようかな。
僕:まだ何にも考えてないんだけど。
ぬいぐるみ:それなら、カレーにしたら?
僕:カレー?
ぬいぐるみ:子供のころ、あたしはよくあんたに
ぬいぐるみ:カレーを食べさせられそうになったじゃない。
僕:あー、そんな写真、アルバムで見たことあるや。
ぬいぐるみ:あんた、自分がカレー好きだからって
ぬいぐるみ:あたしにも食べさせてあげたいって。
僕:恥ずかしいから、もう、言わなくていいから。
ぬいぐるみ:ふふふ、形勢逆転、だね。
僕:……もう。
僕:でも、いいや、カレーにしよう。
ぬいぐるみ:ちゃんと食べさせてね。
僕:え……よごれるよ?
ぬいぐるみ:冗談。
僕:なんだ、冗談か。
僕:騙されたよ。
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:でも、あんたが作ってるところ、眺めたいかな。
僕:わかった。
僕:じゃあ、一緒に行こうか。
ぬいぐるみ:ありがとう。
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0:間
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僕:……ふわあ。
ぬいぐるみ:お腹がいっぱいになったら、すぐに眠くなるなんて
ぬいぐるみ:あんたはいつまでたっても子供ね。
僕:どうだろう。
僕:僕は君と話していると、だんだんと子供に戻ってる気分なんだ。
僕:そのせいなのかもしれない。
ぬいぐるみ:きっと、子供のころのことを、あんた自身が、思い出しているだけだよ。
ぬいぐるみ:子供に戻ってるんじゃなくて
ぬいぐるみ:あんたの中にずっとあった、子供らしい自分が
ぬいぐるみ:戻ってきてるんだ。
僕:どうして君は、そんなことがわかるんだ?
ぬいぐるみ:さあ、なんでだと思う?
僕:質問を質問で返すのは卑怯だ。
ぬいぐるみ:じゃあ、あたしは卑怯でいい。
僕:その返しも卑怯だ!
ぬいぐるみ:ふふふ。
ぬいぐるみ:じゃあ、教えてあげる。
僕:やっぱり、何か知ってるんだ?
ぬいぐるみ:推測でしかないけどね。
ぬいぐるみ:ご飯を食べる前、あんたと話してて、気が付いたんだ。
僕:なにに気が付いたのさ。
ぬいぐるみ:あたし、自分で言ったじゃない。
ぬいぐるみ:「友達ごっこはできても、本当の友達にはなれない」 って
僕:うん、言ってたね。
僕:僕は、なんて返したらいいかわからなかった。
ぬいぐるみ:そうだったね。
ぬいぐるみ:きっと、八つ当たりだったんだろうと思う。
ぬいぐるみ:あたし自身は、ごっこ遊びのために生まれて
ぬいぐるみ:“本当”を知らないまま、捨てられるんだと思ったから。
ぬいぐるみ:ごめんね。
僕:謝らないでよ。
ぬいぐるみ:だけどさ、あたし、気づいたんだ。
:
ぬいぐるみ:“本当”を知ることができたから、君と話せるようになったんじゃないかって。
:
僕:本当を……。
ぬいぐるみ:うん。
僕:僕が君と、本当の友達になれたから
僕:君は、僕と話ができるようになったってこと?
ぬいぐるみ:そう。
ぬいぐるみ:あんたが、一人暮らしの家にまで、あたしみたいなぬいぐるみを連れてくるほど
ぬいぐるみ:あたしを、大事に思ってくれていたからこそ、あたしは“本当”になることができた。
僕:そっか。
僕:もし、それが本当のコトなら、嬉しいな。
ぬいぐるみ:あたしも、嬉しい。
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僕:……なんか、今日はやけに素直だね。
ぬいぐるみ:そ、そう?
僕:いつもなら、「……別に」みたいな感じなのに。
ぬいぐるみ:え、なにそれムカつく。
僕:そうそう、そんな感じ。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:じゃあ、今日は特別ってことで。
ぬいぐるみ:こんなに嬉しいことがあったんだから、今日くらいいいでしょう?
僕:いや、僕としては
僕:いつも、今日みたいな君だと
僕:もっと僕らしさが出ると思うんだけどな。
ぬいぐるみ:今日のあんたも、ちょっと変だよ?
僕:……そう?
ぬいぐるみ:いつもはもっと、なんていうか、意地悪?
僕:そんなことないでしょう。
ぬいぐるみ:意地悪……って言うより、余裕がある感じでいけ好かない。
僕:口が悪いぬいぐるみめ。
ぬいぐるみ:そうそう、そんな感じ。
僕:やっぱりわかんないや。
ぬいぐるみ:そっか。
ぬいぐるみ:もう……そろそろ眠たくなってきちゃった?
僕:お腹がいっぱいでさ、さっきからずっと眠いよ。
ぬいぐるみ:そう。
僕:だから、ごめんだけどさ
僕:今日はもうおやすみ。
僕:素直な君とたくさん話せて、僕は満足したし
僕:君がしゃべれる理由もわかって、すっきりしたしね。
ぬいぐるみ:ふうん。
ぬいぐるみ:明日になったら、いつもの生意気なあたしに、もどっちゃうよ?
僕:いつもの君も、僕の大事な君だから、大丈夫。
ぬいぐるみ:そっか。
僕:ふわあ……
僕:だから、もう、おやすみなさい。
僕:しゃべり疲れたでしょう?
僕:君も、ゆっくり休んで。
ぬいぐるみ:そうだね。
ぬいぐるみ:……
ぬいぐるみ:……でも。
僕:……ふわあ。
僕:でも?
ぬいぐるみ:……
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ぬいぐるみ:……やだ。(かわいく)
ぬいぐるみ:……あそんで。(かわいく)
ぬいぐるみ:……かまって。(かわいく)
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僕:……!
僕:……仕方ないなあ。
僕:――今日だけ、特別だよ……。
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:
0:おしまい。
0:めでたし、めでたし。
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