台本概要

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タイトル Fragment・Abyss
作者名 パイナップルMAN  (@MAN24307569)
ジャンル その他
演者人数 4人用台本(男4) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 小牛田、ゲッベルス役の方には兼役をしてもらう事があります。ただ、兼役を必要とする役をしなくても話自体は成り立つと思いますので、兼役は強制ではありません。尚、アドリブは自由です。
原案は私ですが、物語上の表現等をしてくださったのは舟(@fune_ypa)になります。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ラインハルト 58 ラインハルト・ディートリヒ。大ゲルマン帝国親衛隊上級大将。反ユダヤ主義に傾倒する将校であり、内心では総統を見下している。野心家であり冷酷で冷血。
ゲッベルス 74 ヨヒアム・ゲッベルス。大ゲルマン帝国外務大臣。今の不安定なナチ党政権に懐疑的な考えを持つが、公に出来てはいない。
小牛田 24 小牛田宮蔵(こごた、みやぞう)。大日本帝国陸軍大臣。高度国防国家を標榜し、大東亜戦争を勝利へと導いた英雄として讃えられている。
盛田 77 盛田仁(もりた、ひとし)大日本帝国外務大臣。大東亜戦争により息子を亡くしており、新たな戦争の火種を摘もうと奮闘している。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:Fragment・Abyss ラインハルト:ラインハルト・ディートリヒ。大ゲルマン帝国親衛隊上級大将。反ユダヤ主義に傾倒する将校であり、内心では総統を見下している。野心家であり冷酷で冷血。 ゲッベルス:ヨヒアム・ゲッベルス。大ゲルマン帝国外務大臣。今の不安定なナチ党政権に懐疑的な考えを持つが、公に出来てはいない。 小牛田:小牛田宮蔵(こごた、みやぞう)。大日本帝国陸軍大臣。高度国防国家を標榜し、大東亜戦争を勝利へと導いた英雄として讃えられている。 盛田:盛田仁(もりた、ひとし)大日本帝国外務大臣。大東亜戦争により息子を亡くしており、新たな戦争の火種を摘もうと奮闘している。 0:本編 0:(ナレーション。読んでも読まなくても構いません。) N:「もしもドイツが独ソ戦を始めなかったら。もしも大日本帝国の海軍と陸軍の情報報告が綿密であったら。もしもミッドウェーで暗号がバレていなかったら。もしも真珠湾を破滅まで攻撃していたら。もしもヒットラーが核開発に精力的であったら。もしもテニアン島を奪われていなかったら。 N:もしも、枢軸国が連合国に勝っていたら、 N:そんな、IFの話。」 0:大日本帝国外務省客間 0:盛田はお辞儀をし、ゲッベルスはナチ式の敬礼をする。 0:二人が歩み寄り、握手をし、会話が始まる。 ゲッベルス:「ジークハイル。こんばんは、盛田さん。」 盛田:「こんばんは、ゲッベルスさん。相も変わらずの忠君愛国。お見事であります。」 ゲッベルス:「いやはやとんでもない。どうもこればかりは、身体に染み付いて離れないもので。お許しを。」 盛田:「慣習が習慣へと変わったのですな。外交官として、愛国者として、尊敬あるばかりです。私も善処しなければですね。」 ゲッベルス:「光栄です。盛田さんこそ、素晴らしい外交官であり、愛国者であると、私は思っていますよ。何より我々の理念の本懐は、忠誠と愛国心、そこにありますからね。」 盛田:「違いありません。…さ、立ち話もなんです。今日は長くなるんだ。どうぞお掛けください。」 ゲッベルス:「はは、ですな。」 0:二人、椅子に掛け、給仕によって運ばれてきたお茶を互いに啜る。 0:しばし沈黙。 盛田:「さて…ゲッベルスさん、今回はご足労いただきありがとうございます。」 ゲッベルス:「いえいえ、とんでもない。近頃は、どうですかな?」 盛田:「それがなかなか、ある将校を抑え込むのに必死で、」 ゲッベルス:「それは、例の?」 盛田:「ええ…小牛田です。アレは、まったくもって典型的な帝国軍人でして…いつ痺れを切らし、武力へと訴えるのやら…いやはや気が気ではありません。」 ゲッベルス:「…杞憂であることを、祈るばかりですな。」 盛田:「ええ。そちらはどうです?」 ゲッベルス:「盛田さんと似たり寄ったりですかね。ディートリヒときたら、浄化だのなんだのと、それしか口にしない。そのくせ私の声などというものは、右往左往と通り抜けていくばかり。私の喉がいつ愛想を尽かし、奴の耳がいつ私に懐くのか。まるで我慢比べですよ。」 盛田:「その我慢比べ、どちらが先に果てるのでしょうかね?」 ゲッベルス:「十中八九、私でしょうね。奴の耳は節穴ですから。ないものには懐かれませんよ。」 0:二人笑う 盛田:「失敬。これは、火を見るよりも明らかな問いでしたね。いやはや、お恥ずかしい。」 ゲッベルス:「奴は盲目の耳なしですよ、盛田さん。奴は自らをコケにし、自らが叫ぶ浄化によって滅びる運命なのですよ。」 盛田:「はは。それは、何とも皮肉ですな。亡きブリティッシュが口にしそうな黒いジョークだ。」 ゲッベルス:「ブリティッシュ、久々にその名を聞きましたな。ふふ、お褒めに預り何よりです。」 0:しばし沈黙 盛田:「あの勝利から、はや十年が経ちますか。」 ゲッベルス:「ええ。三月(みつき)足らず、ですがね。」 盛田:「…現状。我々の同盟はひ弱ながら続いていますが、猶予はそう長くありません。」 ゲッベルス:「あと一年、ですか。」 盛田:「そうです。あと一年。そうすれば、我々の同盟は無効となり、最悪の場合……」 ゲッベルス:「戦争へと歩が進む……なんて頭の痛い話だ。もしそうなれば、我が国は核を持ち出し、ヒステリックのように絶滅戦争を唱え始めるでしょう。」 盛田:「胸糞の悪い。考えうる限り、最悪のシナリオと言わざるを得ません。」 ゲッベルス:「想像するだけで吐き気がします。」 盛田:「想像で留めて置きたいものです。我が国に戦争は、もう許されない。それは陛下の叡慮でもあり、私の意志でもあります。」 ゲッベルス:「…」 盛田:「失敬。会談の場に私情を持ち出してしまいました。」 ゲッベルス:「いえ結構ですよ。あなたは先の大戦でご子息を亡くされたんです。戦争に対し我(が)が出るのも当然でしょう。」 盛田:「…ありがとうございます。」 ゲッベルス:「さて。最悪を回避する最善とは、一体何でしょうかね。この十年という充分すぎる時間で、我々ドイツも、そしてあなた方日本も、国力があまりに肥大化しすぎた。」 盛田:「植民地化されたアジアやアメリカ、、ヨーロッパにアフリカ……戦争が始まれば、この星は間違いなく、滅びる以外の道を無くすでしょう。」 ゲッベルス:「(大きく溜息)このまま睨み合いの冷戦が続けば、どれほど良い物か。ま、莫大もない軍事費に蝕まれ続ける我が国には、眼球の痒くなる話ですがね。」 盛田:「破壊の経済、ですか。」 ゲッベルス:「ええ。我が国はいついかなる時も、死と破壊によってどうどうと回っています。それが国を壊し、それでいて生かす唯一つの方法ですから。」 盛田:「…」 ゲッベルス:「我が国の内情はこのくらいにして、話題を変えましょう。ソ連についての話題に。近頃のソ連は、我々に臆したのか、沈黙を貫いていますが、叩いて鬼となるのか、蛇となるのか、甚だ疑問です。」 盛田:「(笑う)眠れる獅子ですかな?」 ゲッベルス:「眠ったまま終わってしまいそうですがね。」 0:二人笑う 盛田:「失敬。お世辞にも笑えない話でしたね。」 ゲッベルス:「いえいえ、ソ連の内情は我々も把握しきれていない。仮に攻めたとして、ドイツが圧勝出来るかと言われれば、断言は出来ないでしょう。だがしかし、ディートリヒであれば自信ありげに、ゲルマン民族の血が薄汚れたスラブの血に負けるはずがない、などと頓狂なオカルトを信奉するでしょうがね。」 盛田:「上に立つ者がオカルトに囚われているとは、いやはや救いようがありませんな。」 ゲッベルス:「まったくです。ソ連は巨大だ。腐った納屋も、固めれば城になる。今のソ連は未知の巨城なのです。迂闊に手出しをすれば、確実に痛い目に合う。」 盛田:「19世紀、ナポレオン戦争の時のようにですか?」 ゲッベルス:「ええ。正しくそれですよ。冬将軍の住まう城に、のこのこと足を踏み入れる恐怖を、ディートリヒは分かっていない。それが私には酷く恐ろしいのです。」 盛田:「しかし、そうは言っても、ディートリヒに戦争指導の権利はない。戦争の是非を決めるのは、ディートリヒではなく、ヒットラー総統閣下ではありませんか?総統のご様態はいかがなものなのです?」 ゲッベルス:「……芳しく(かんばしく)はありません。戦前からの持病が悪化し、表舞台からは半ば退いています。生かされていると言った方が適切でしょう。」 盛田:「……だから、ディートリヒが力を持っているというわけですか。」 ゲッベルス:「ええ、そういうわけです。……そちらこそ、陛下のお身体は?」 盛田:「いまや健在です。陛下の存在が、いまの我々の泰平を保っていると言っても過言ではありますまい。」 ゲッベルス:「確かに、そうかもしれませんな。こちらも、総統がまだ虚弱ではありますが息をされている為、新たな総統が決まらず、動けていないにすぎません。」 盛田:「お互い、見据える敵は強大ですな、」 ゲッベルス:「違いありません。」 盛田:「話がやや逸れてしまいましたな。失敬。それでは、本題(に入りましょうか)」 0:扉を強く叩く音 盛田:「ん?なんだ?会談中であるぞ。急ぎでなければ(後にしてくれ)」 0:盛田の部下が入ってくる 部下:「失礼します!!大臣閣下、有事であります!先程!大ゲルマン帝国が、ソビエト連邦に宣戦布告を送ったとの報告が!!」 盛田:「?!」 ゲッベルス:「?!」 盛田:「宣戦布告だと…?!ど、どういうことです!?ゲッベルス大臣!」 ゲッベルス:「分かりません…宣戦布告も含め…外交上の最終手続きの権限は私にあるはず?!一体何が起こって……取り急ぎ確認をすると共に、祖国へ一度帰還致します。」 盛田:「お願いします。くそっ、忙しくなるぞ、これは。」 0:陸軍本部にて 0:小牛田、机を思い切り叩く 小牛田:「クソッ!!どういうことだ盛田!あのナチは何を考えておる!これは外交上の問題だろ!この無能め!!責任は全て外務大臣であるお前にある!!」 盛田:「待ってくれ!これは私も丸っ切り把握していなかった話だ!おそらく、ドイツ国の方針としてでは無く、専ら将官の独断だと思うが…」 小牛田:「お前の見解などどうでもよいわ!俺が今問うておるのは、我々が!先の大戦の戦勝国たる大日本帝国が!世界を牽引する帝国として、この有事を見過ごして良いのかという話だ!」 盛田:「っ…見過ごすも何も…我々は主権国家として為すべきことをするだけで…」 小牛田:「黙れ!この愚図が!事態はまさしく急を要する!もしあの赤い大地が、根こそぎ奴らに掠め取られてでもみろ!我が大日本帝国は、狂ったナチ共から明確に何十、いや何百歩と遅れを取ることになる!そうなれば、俺も貴様も、陛下も、その臣民もろとも、大海の塵芥と化すだろうな!」 盛田:「小牛田貴様!自分が言っている事が分かっているのか!?不敬罪にあたるぞ!」 小牛田:「当然!分かっているに決まっているだろうが馬鹿者め!」 盛田:「つまり貴様は、陛下に対する侮辱を、公然と私に投げたのだな?!」 小牛田:「ネチネチネチネチと、女々しい奴め。嗚呼!そうさ!あんな弱腰の置物など、どうとでもなればいい!」 盛田:「なにを!?」 小牛田:「聞こえんか?ならもう一度大きな声で言ってやる、金玉を肥溜めへ捨てた哀れな者よ!あんな弱腰の置物など、どうとでもなればいい!!!!!!と、俺は言ったのだ。」 盛田:「小牛田ぁ…今すぐその不敬を改めろ!そして慎め!陛下がどれ程、どれ程我々の事を考えて下さっているのか!よく考えろ!考えるんだ!!」 小牛田:「ほう?俺の記憶からじゃ考えられんなぁ?物知りの盛田大臣、教えてくれよ、なぁ?何をしてくれたんだ?聞かせてくれよ?ナチが数千万の人間を虐殺しているのを止めてくれたのかぁ?ミッドウェーで神風でも起こしてくれたかぁ?なぁ?どうなんだよ!!!!!答えてくれよ!!!」 盛田:「っ…我々の精神の根底にあるのは、陛下に対する忠義だ!その確固たる信念に基づき、我々は今こうして世界の先を走っていられる!!!!」 小牛田:「たわけが、聞いた俺が間違いだったよ。そこまでお花畑であれば、さぞ幸せだろうよ。貴様の言うその陛下も、大変にご満悦だろうさ。」 盛田:「貴様…」 小牛田:「ふんっ…貴様がなんと言おうが我々の我慢はとうに限界を越している。これは海軍大臣とも同意見だ。我々は狂ったナチどもから、狂ったボリシェビスト共を守ってやらねばならん。奴らにはまだ、じゃがいもを掘ってもらわねば困るからな。」 盛田:「小牛田!いい加減に…」 小牛田:「さて!我々帝国軍部は、これから大いに忙しくなるんでね。あんたら政治家は、平和だ反戦だと宣って、我々軍人に守ってもらえるという銃後の安心を噛み締めておくといい。さらばだ、哀れな者よ。」 0:小牛田、去ろうとする 盛田:「小牛田、待て。」 小牛田:「なんだ?お説教かぁ?それとも一人は寂しいかぁ?とことん哀れだな、貴様は。」 盛田:「黙って聞け。貴様は、戦争をするというのだな?」 小牛田:「当然!何を今更!頭でもおかしくなったか?我々が参戦せず、誰がナチの暴挙を止められるというのだね?」 盛田:「それは、帝国の皇道であるか?正義であるか?よく考えろ。」 小牛田:「ああ、正義だ。大義だ!我々大日本帝国が、表を切ってやらなければならない。悪しきナチを滅ぼし、返す刀でコミーをも滅ぼす。一石二鳥の大正義だよ。貴様流にいえば、皇道を行く帝国のあるべき姿さ。」 盛田:「そうか。それが小牛田、貴様の答えか。」 小牛田:「ああ、そうだ。さっきから貴様が何を言いたいのか甚だ分らんが、まぁいい。じきに吉報が届く。日の沈まぬ帝国を確固たるものにする吉報がな。」 盛田:「…貴様にも、近日中にいい知らせがあるだろう。坐して待て。」 小牛田:「?」 盛田:「では、失礼する。」 0:盛田、退室 小牛田:「(独白)…盛田仁、哀れな男よ。つまらん男よ。貴様の息子は、多少は使い物になる男だったぞ。ふふ。」 0:ナチス親衛隊大将の部屋 0:ノック音 ラインハルト:「誰です?」 ゲッベルス:「大ゲルマン帝国外務大臣、ヨヒアム・ゲッベルスだ。」 ラインハルト:「あなたですか。入りなさい。」 ゲッベルス:「失礼する。ジークハイル。」 ラインハルト:「ジークハイル!ハイルヒトラー!ハイルマインフューラー!ハイルドイッチェラント!ハイルデムファーターラント! ラインハルト:ふふ、どれも安っぽいが聞こえの良い響きです。プロパガンダとしては、あまりにも成功が過ぎる。そうは思いませんか?ゲッベルス大臣。」 ゲッベルス:「ディートリヒ上級大将。今の発言は、心からの言葉ではないと言っているように感じるが。ナチズムを軽く見ているのなら発言を撤回して頂きたい。」 ラインハルト:「ふふ、そんなに怖い目で私を見なくても良いじゃないですか。仲良くやりましょうよ?ね?ゲッベルス大臣閣下。」 ゲッベルス:「仲良く?そんな言葉が、まさか君の口から出るとは思わなかったよ。」 ラインハルト:「はは、人聞きの悪い。私は平和主義者ですよ。少々合理的なね。」 ゲッベルス:「平和主義者、か。平和主義者は、外務大臣である私の許可なく、他国に宣戦布告をするのか?」 ラインハルト:「あら、耳が早いですね。そういえば、あなたは黄色い猿どもの国にいるんじゃありませんでしたか?」 ゲッベルス:「黄色い猿…?」 ラインハルト:「いえ、何でもありません。日本に居たのでは?」 ゲッベルス:「…あぁ、如何にも。だが先程帰投した。」 ラインハルト:「何故です?」 ゲッベルス:「決まっているだろう。我が国が、ソビエトに宣戦布告を送ったとの報せを受けたからだ。間違いはないのか?」 ラインハルト:「成程…ええ、間違いありません。何せ、私が書簡を書いて、私が彼の国へ送りましたから。」 ゲッベルス:「何故、外務大臣でもなければ、外交官でもない君にそんな権限があるんだ。」 ラインハルト:「権限なんて、大義名分さえあれば、誰でも生み出せますよ。大臣閣下。」 ゲッベルス:「大義名分とは?」 ラインハルト:「うーん…では、こう言ったものはいかがでしょうか?ある総督府が、赤軍の悪辣な爆弾による攻撃を受けた、というのはどうでしょう?」 ゲッベルス:「事実を捏造したのか?」 ラインハルト:「ええ。勿論。何かご不満で?先の大戦も、そうして始まったではありませんか。総統閣下も、そうして権力の座に就いたではありませんか。まさかあなたは、総統閣下の行いを間違いだと仰りたいんですか?それは、明確な造反行為ですよ。我々ゲシュタポとしては見逃せませんね。」 ゲッベルス:「もういい…総統閣下は何と仰っている。」 ラインハルト:「はい?」 ゲッベルス:「この宣戦布告に対して、ヒットラー総統閣下は何と仰っているのだと聞いているのだ。答えろ。」 ラインハルト:「さあ、特には。スカートを履いた物なら何でも追い回すあの下賤な男から、聞かされているとは思いますがね。それが何か?」 ゲッベルス:「、、何かだと?総統の命令なくして、我々は動けない。それがこの国の鉄則だ。総統閣下が、この件に対し首を縦に振ったのかと聞いている。」 ラインハルト:「いいえ」 ゲッベルス:「ではなぜ!?」 ラインハルト:「うーん…大臣閣下、あなたは何か勘違いをされているようだ。」 ゲッベルス:「勘違い?」 ラインハルト:「今総統閣下に、命令を出すような力などありません。かのヒンデンブルク大統領と何ら変わらないお飾りの元首です。死んでいるも同然の、ただのか弱い老人です。」 ゲッベルス:「ディートリヒ!!!ついに総統閣下への忠誠まで捨てたか!!今すぐ発言を撤回しろ!そして頭を垂れて謝罪の言葉を並べろ!」 ラインハルト:「大臣閣下、一つ教えておきましょう。私がこの地位に上り詰めたのは、総統への忠誠心の高さゆえではありません。もっとも、私は親衛隊に入る前も後も、ただの一度として、あの男に忠誠を誓ったことなどありませんがね。」 ゲッベルス:「!?、、はは、本性を現したな。この逆徒め!」 ラインハルト:「ええ、逆徒で何ら問題ありません。私はゲシュタポの長官です。サイン一つで、黒でも白になりましょうよ。」 0:二人沈黙 ゲッベルス:「…戦争を、本気で始めるつもりか?」 ラインハルト:「(吹き出す)戦争なんて耳障りの悪い言葉は止して下さい。これは聖戦です。わが崇高なゲルマン民族以外をこの地球から排す為の聖戦なのです。我々は天命を受け、この地上を浄化する、宛らソドムの天使なのですよ。」 ゲッベルス:「はっ、酷く飛躍した話だ。そんな理屈は罷り通らないぞ。」 ラインハルト:「通しますよ。あの薄汚い悪魔どもには、この楽園は甚だ場違い過ぎます。そうそうに暗がりに帰ってもらわねばなりません。」 ゲッベルス:「…っ!ディートリヒ!!」 ラインハルト:「話は変わりますが、」 ゲッベルス:「?!」 ラインハルト:「最近、どうもうるさい羽虫が耳元を右へ左へと逡巡してましてね。大変厄介なんですよこれが。ですがね、そういう時私はいつも、潰して黙らせるんですよ。」 ゲッベルス:「そ、その話がなんだという、」 ラインハルト:「二度も言わせないでください。私、気は長い方ではないのでね。」 ゲッベルス:「私だって大臣だ!この国を憂いて意見することの何が悪いという!」 ラインハルト:「なら、我々は武器を持ち、クーデターを起こすとしましょう。そうすれば、羽虫は勿論のこと、敗北主義者も、マルクス・レーニン主義者も、イエローモンキーも、ユダヤ人も皆、潰せる。」 ゲッベルス:「ぐっ!!失礼する!」 0:足音を立てて出ていくゲッベルス ラインハルト:「ふふ。ゲッベルス、ゲッベルス、ゲッベルス!!!…うーん、困りましたね。どう処分するのが、、合理的でしょうか。」 0:廊下を小走りするゲッベルス ゲッベルス:「くそ!くそくそくそ!見立て違いだ!あいつはもうダメだ!骨の髄まで狂ってやがる!あれはもう人ではない!金髪を靡かせた、宛ら野獣だ!」 0:国際電話 盛田:「もしもし、ゲッベルスさん聞こえますか?」 ゲッベルス:「えぇ、聞こえますとも…」 盛田:「ゲッベルスさん、こちらはもう止められないかも知れません。」 ゲッベルス:「、、、私は、悔しいですが、最終手段をとることにしました。」 盛田:「まさか…」 ゲッベルス:「奴を、、ラインハルト・ディートリヒを殺します。」 盛田:「もし、失敗したら、、」 ゲッベルス:「私は死に、戦争は止められないでしょうね。ですが!これ以外にもう、私は思いつかない…!手は尽くしましたよ……全てね。」 0:二人沈黙 盛田:「私は先ほど、内務大臣宛てで、小牛田へ不敬罪による逮捕状を請求しました。特高も動いている。奴に逃げ場はありません。」 ゲッベルス:「分かりました。お互いに手数は講じた訳ですね。…こうなってしまったことは、本当に申し訳なく思います。」 盛田:「いえ、我々は全力を尽くしました。寧ろ、これ以上無いほどに。私も、ゲッベルスさんも。」 ゲッベルス:「……ありがとうございます、盛田さん。」 盛田:「ええ、ご武運を、ゲッベルスさん。」 ゲッベルス:「そちらこそ。では、失礼します。」 盛田:「ええ。」 0:二日後 盛田:(M)「あれから丸二日経つが、一向に小牛田逮捕の報せがないのは何故だ…。特高は何をしている…。」 0:電話のベルがなる 盛田:「ん?もしもし、盛田だ。?!なに?小牛田が、クーデターを起こした?!官邸に押し入ったのか!誰が殺られた!陸相、海相、そして、首相まで?!、、分かった、ここで待機する、、」 盛田:「(溜息)…っ…国の中枢を担う者共が散ってしまった、、そして、戌井首相とたまたま居合わせた藤原実氏までも、」 盛田:「陛下と親睦の深かった藤原氏が殺されたのだ、、陛下もさぞご立腹であろう。」 0:首相官邸 0:バルコニーへ向かい歩く二人 佐官:「ついぞやり遂げましたね、小牛田大将。昭和維新を。」 小牛田:「ああ。野暮な新聞屋どもにはクーデターだと罵られるだろうがな。」 佐官:「いえ。この成功は、日本史に刻まれる大きなものです。今の弱腰な帝国に憂いていた幾多の国民が喜びますよ。」 小牛田:「だといいがな。しかし、一喜一憂しとる場合ではない。我々には、これからの戦争を指導する責任があるのだから。」 佐官:「ええ。ですね。」 0:バルコニーが開き、兵士たちが官邸の下で雄たけびを上げている 小牛田:「聞け同志よ!!!!!!」 0:小牛田の威勢に場が静まり返る 小牛田:「皆の衆、よくぞ集まってくれた!我々、大日本帝国の屈強なる兵は、此度のナチ、ソ連侵攻において、遅れをとるわけには行かない。ここで指を加えていれば確実にナチから遅れることになる!我々は祖国のために戦う!妻子を置いてきているもの、高齢の両親が居るもの。皆、様々な訳を抱えている。それでも皆、私に付いて来てくれた一騎当千の強者達である!!もしこの戦いで散ることがあれば靖国へ逝くことになるだろう。そこでは我々より先に着いたものが出迎えてくれることであろう!!我々の行いは後世で批判されるやもしれん!だが!人々はいつか気づくであろう!我々が正しかったと!だから我々が戦わねばならぬのだ!志士達よ!よいな!!」 0:兵達が再び雄叫びをあげる 小牛田:「では!ゆくぞ!!」 0:ソ連前線 ラインハルト:「ふむ、あれが新型戦車ですか、ん?そこの兵何しているのです?腕が折れた?では、あのトラックに乗りなさい、ハンドルが固定してあるので腕は必要ありません。さぁ、早く、」 0:親衛隊大将が話しかける 大将:「ラインハルト上級大将殿!!今兵士を乗せたあのトラックには火薬が!」 ラインハルト:「えぇ、分かっていますよ。親衛隊大将殿。あのトラックには並の戦車なら爆破できるほどの火薬が入っています。特攻、腕の折れた兵にはそれくらいしか仕事は無いでしょう?祖国に貢献して死ぬ。これほどに誇らしいことはないように感じますがね。まっ、そこまで近づくことが出来ればの話ですがね、」 大将:「貴様ァ…兵の事をなんだと思っている!!…このユダヤ人が!!」 ラインハルト:「、、今なんと言った?私がユダヤ人だと、?」 0:拳銃で撃ち殺す ラインハルト:「違う、私は、ユダヤなどでは、決して、決してない!決して、、決して、、」 0:電話が鳴る ラインハルト:「もしもし、作戦本部のラインハルト・ディートリヒです。」 ゲッベルス:「ゲッベルスだ」 ラインハルト:「なんだ、あなたでしたか。用件は何です?」 ゲッベルス:「侵攻をやめろ。」 ラインハルト:「何を言っているのです?頭でも打ちましたか?ここまで来て、止めるなんていう選択肢はありません。」 ゲッベルス:「大日本帝国外務大臣から、会談の申し出だ。まだ同盟関係は続いている。断る訳にはいかないだろう。」 ラインハルト:「…あなたの差し金ですか?」 ゲッベルス:「まさか。こんな状況なら相手方から来るに決まっているだろう。」 ラインハルト:「、、今は、手が離せません。代わりに私の副官を寄越すというのでは、行けませんか?」 ゲッベルス:「ダメだ。日本は、ラインハルト上級大将を直々に指名しておられる。直ちに帰国せよ。」 ラインハルト:「、、わかりました。直ちに帰国しましょう。」 ゲッベルス:「日時はおって伝える。では。」 0:ベルリン、官邸 盛田:「お忙しい中申し訳ない、どうも、大日本帝国外務大臣、盛田仁です。あの、ゲッベルスさんは?」 ラインハルト:「彼は、他の職務で手一杯だそうで、会談には顔を出せないそうです。かく言う私も、随分多忙でしてね、あまり時間は取れません。」 盛田:「それは、ソ連侵攻で、ですか?」 ラインハルト:「ええ、もちろん」 盛田:「侵攻をやめてはいただけませんか?今ならまだ、わが国が仲介国となり、休戦を結ぶことも可能なはずです。」 ラインハルト:「お気持ちだけで結構です。ところで、なぜ他国の戦争を止める権利が貴方に?国際法には則っているはずです。ま、形骸化したものですがね。」 盛田:「、、今私は、大日本帝国の外務大臣としてでは無く、一人の人間として話しています。これ以上戦火が広がれば国単位ではなく、一つの惑星が滅びます。そんなこと、あなたも、私も、誰も、望んでいないはずでしょう。」 ラインハルト:「ふむ。ひとつ伺いますが、今のあなたは、一人の人間として話しているのですね?一国の外務大臣としてではなく、一人の人間として。」 盛田:「えぇ、そうです。」 ラインハルト:「そうですか。なら、これ以上お話しすることはありません。」 盛田:「なっ!」 ラインハルト:「ほら、お客人のお帰りです。お見送りして差し上げなさい。」 盛田:「ぐっ!離せ!私は外交官だぞ!!」 ラインハルト:「おやおや。困りましたね。私は平和主義者なのですが……あまり、手荒な真似はさせないで下さいよ。ね?」 0:銃を盛田に突きつける 盛田:「、、これは、間違いなく外交問題になるぞ、、貴公がこの責任をどう取るつもりかは知らんがな……」 ラインハルト:「どうもこうも。責任など微塵もありませんよ。端から、我々の国交など破綻しているのですから。」 盛田:「……お前は、狂っているよ。」 ラインハルト:「おや、狂気を口にしますか。では、あなたの狂気の中で、私は狂っているのでしょうね。しかし、人間など皆狂っています。人は皆狂い、狂う中生きているのです。それが人が人である所以なんです。え?あなたは狂っていないと?ふふ、そんなわけが無いでしょう。あの大戦に身を置いた人間が正常なわけがありません!ですからつまり、、、 ラインハルト:(耳元で囁く)お前も狂ってるんだよ。」 盛田:「っ…?!……異常だ、お前も…お前に従う兵たちも…!」 ラインハルト:「ええ、そうですか。ところであなたは、私がユダヤ人だと思いますか?」 盛田:「、、?」 ラインハルト:「この質問に彼は、ゲッベルスはこう答えました。」 0:回想、牢獄 0:ラインハルト、螺旋階段をゆっくりと降りる 0:そして、椅子に縛られたぼろぼろのゲッベルスに語り掛ける 0:ゲッベルスの薄い息の音が響いている ラインハルト:「大臣閣下。あなたは私を殺そうとした。だから私は、あなたへこうして拷問を施している訳ですが。どうもあなたは何ももっていないようだ。」 ゲッベルス:「…」 ラインハルト:「そこで、最期にあなたに、個人的な質問がしたい。あなたは、私を、ユダヤ人だと思いますかな?」 ゲッベルス:「(息切れ)あぁ、お前はユダヤだ。おかしい話だ、ユダヤ人を1番殺したやつがユダヤ人だとはな、ははは」 ラインハルト:「そうですか……そうですか。分かりました。」 0:銃口をゲッベルスに向ける ゲッベルス:「はぁ…はぁ…ははははははははは……ジークハイル!!!ハイルヒットラー!!!!!」 0:一発の銃声、回想終了 盛田:「まさか!」 ラインハルト:「ええ、彼は既に天上です。」 盛田:「くそ、くそくそくそぉ……」 ラインハルト:「さて、時間も惜しい。ここで無駄話をしている暇は、私にはありませんので。失礼します。」 0:兵士が来てラインハルトに耳打ちする ラインハルト:「ん…何です……ふむふむ……なっ!?まさか……」 盛田:「どうした、」 ラインハルト:「はは、はははははははは!!!!!やってくれましたね!いやぁまんまと嵌められた。えらく姑息な手を使うものだ。この会談は時間稼ぎだったのですね!!」 盛田:「なんの事だ……?」 ラインハルト:「惚けるのがお上手で。つい先程、大日本帝国が我が大ゲルマン帝国に宣戦布告してきたそうです!大量の兵士や戦車、艦艇を率いて!!!」 盛田:「、、!?、ふは、やってくれたな小牛田、終わりだ、もう何もかも滅茶苦茶だ……」 ラインハルト:「この瞬間から貴国とドイツは敵同士となりました。まずは見せしめにあなたの脳みそを吹き飛ばしましょう。」 0:兵が銃を突きつける 盛田:(M)「私の人生とは何をなせたのだろうか、争いを止めることも出来ず、こんな所で死ぬのか、、、」 盛田:「天皇陛下!」 0:二人同時に 盛田:「万歳!!」 ラインハルト:「撃て!!」 0:大日本帝国軍艦の甲板 小牛田:「どうした?、なに?盛田が?そうか、、ふっ、ようやっとあの邪魔者が死んだか。」 0:無線を取る 小牛田:「大日本帝国の男児諸君!これから臨む戦は必ず歴史に残るであろう!さぁ!これより幾万の英雄が生まれるのだ!敵はすぐそこにおる!心してかかるのだ!!よいな!!ゆくぞぉ!!」 N:「こうして戦争を止めようとする者たちは散った。残ったのはナチの殺人鬼かイエローモンキーの脳筋、果たしてどちらが勝利の美酒を味わえるのか、それとも共にこの惑星ごと沈んでしまうのか。これより始まる戦争を止めることはもう誰にも出来ない

0:Fragment・Abyss ラインハルト:ラインハルト・ディートリヒ。大ゲルマン帝国親衛隊上級大将。反ユダヤ主義に傾倒する将校であり、内心では総統を見下している。野心家であり冷酷で冷血。 ゲッベルス:ヨヒアム・ゲッベルス。大ゲルマン帝国外務大臣。今の不安定なナチ党政権に懐疑的な考えを持つが、公に出来てはいない。 小牛田:小牛田宮蔵(こごた、みやぞう)。大日本帝国陸軍大臣。高度国防国家を標榜し、大東亜戦争を勝利へと導いた英雄として讃えられている。 盛田:盛田仁(もりた、ひとし)大日本帝国外務大臣。大東亜戦争により息子を亡くしており、新たな戦争の火種を摘もうと奮闘している。 0:本編 0:(ナレーション。読んでも読まなくても構いません。) N:「もしもドイツが独ソ戦を始めなかったら。もしも大日本帝国の海軍と陸軍の情報報告が綿密であったら。もしもミッドウェーで暗号がバレていなかったら。もしも真珠湾を破滅まで攻撃していたら。もしもヒットラーが核開発に精力的であったら。もしもテニアン島を奪われていなかったら。 N:もしも、枢軸国が連合国に勝っていたら、 N:そんな、IFの話。」 0:大日本帝国外務省客間 0:盛田はお辞儀をし、ゲッベルスはナチ式の敬礼をする。 0:二人が歩み寄り、握手をし、会話が始まる。 ゲッベルス:「ジークハイル。こんばんは、盛田さん。」 盛田:「こんばんは、ゲッベルスさん。相も変わらずの忠君愛国。お見事であります。」 ゲッベルス:「いやはやとんでもない。どうもこればかりは、身体に染み付いて離れないもので。お許しを。」 盛田:「慣習が習慣へと変わったのですな。外交官として、愛国者として、尊敬あるばかりです。私も善処しなければですね。」 ゲッベルス:「光栄です。盛田さんこそ、素晴らしい外交官であり、愛国者であると、私は思っていますよ。何より我々の理念の本懐は、忠誠と愛国心、そこにありますからね。」 盛田:「違いありません。…さ、立ち話もなんです。今日は長くなるんだ。どうぞお掛けください。」 ゲッベルス:「はは、ですな。」 0:二人、椅子に掛け、給仕によって運ばれてきたお茶を互いに啜る。 0:しばし沈黙。 盛田:「さて…ゲッベルスさん、今回はご足労いただきありがとうございます。」 ゲッベルス:「いえいえ、とんでもない。近頃は、どうですかな?」 盛田:「それがなかなか、ある将校を抑え込むのに必死で、」 ゲッベルス:「それは、例の?」 盛田:「ええ…小牛田です。アレは、まったくもって典型的な帝国軍人でして…いつ痺れを切らし、武力へと訴えるのやら…いやはや気が気ではありません。」 ゲッベルス:「…杞憂であることを、祈るばかりですな。」 盛田:「ええ。そちらはどうです?」 ゲッベルス:「盛田さんと似たり寄ったりですかね。ディートリヒときたら、浄化だのなんだのと、それしか口にしない。そのくせ私の声などというものは、右往左往と通り抜けていくばかり。私の喉がいつ愛想を尽かし、奴の耳がいつ私に懐くのか。まるで我慢比べですよ。」 盛田:「その我慢比べ、どちらが先に果てるのでしょうかね?」 ゲッベルス:「十中八九、私でしょうね。奴の耳は節穴ですから。ないものには懐かれませんよ。」 0:二人笑う 盛田:「失敬。これは、火を見るよりも明らかな問いでしたね。いやはや、お恥ずかしい。」 ゲッベルス:「奴は盲目の耳なしですよ、盛田さん。奴は自らをコケにし、自らが叫ぶ浄化によって滅びる運命なのですよ。」 盛田:「はは。それは、何とも皮肉ですな。亡きブリティッシュが口にしそうな黒いジョークだ。」 ゲッベルス:「ブリティッシュ、久々にその名を聞きましたな。ふふ、お褒めに預り何よりです。」 0:しばし沈黙 盛田:「あの勝利から、はや十年が経ちますか。」 ゲッベルス:「ええ。三月(みつき)足らず、ですがね。」 盛田:「…現状。我々の同盟はひ弱ながら続いていますが、猶予はそう長くありません。」 ゲッベルス:「あと一年、ですか。」 盛田:「そうです。あと一年。そうすれば、我々の同盟は無効となり、最悪の場合……」 ゲッベルス:「戦争へと歩が進む……なんて頭の痛い話だ。もしそうなれば、我が国は核を持ち出し、ヒステリックのように絶滅戦争を唱え始めるでしょう。」 盛田:「胸糞の悪い。考えうる限り、最悪のシナリオと言わざるを得ません。」 ゲッベルス:「想像するだけで吐き気がします。」 盛田:「想像で留めて置きたいものです。我が国に戦争は、もう許されない。それは陛下の叡慮でもあり、私の意志でもあります。」 ゲッベルス:「…」 盛田:「失敬。会談の場に私情を持ち出してしまいました。」 ゲッベルス:「いえ結構ですよ。あなたは先の大戦でご子息を亡くされたんです。戦争に対し我(が)が出るのも当然でしょう。」 盛田:「…ありがとうございます。」 ゲッベルス:「さて。最悪を回避する最善とは、一体何でしょうかね。この十年という充分すぎる時間で、我々ドイツも、そしてあなた方日本も、国力があまりに肥大化しすぎた。」 盛田:「植民地化されたアジアやアメリカ、、ヨーロッパにアフリカ……戦争が始まれば、この星は間違いなく、滅びる以外の道を無くすでしょう。」 ゲッベルス:「(大きく溜息)このまま睨み合いの冷戦が続けば、どれほど良い物か。ま、莫大もない軍事費に蝕まれ続ける我が国には、眼球の痒くなる話ですがね。」 盛田:「破壊の経済、ですか。」 ゲッベルス:「ええ。我が国はいついかなる時も、死と破壊によってどうどうと回っています。それが国を壊し、それでいて生かす唯一つの方法ですから。」 盛田:「…」 ゲッベルス:「我が国の内情はこのくらいにして、話題を変えましょう。ソ連についての話題に。近頃のソ連は、我々に臆したのか、沈黙を貫いていますが、叩いて鬼となるのか、蛇となるのか、甚だ疑問です。」 盛田:「(笑う)眠れる獅子ですかな?」 ゲッベルス:「眠ったまま終わってしまいそうですがね。」 0:二人笑う 盛田:「失敬。お世辞にも笑えない話でしたね。」 ゲッベルス:「いえいえ、ソ連の内情は我々も把握しきれていない。仮に攻めたとして、ドイツが圧勝出来るかと言われれば、断言は出来ないでしょう。だがしかし、ディートリヒであれば自信ありげに、ゲルマン民族の血が薄汚れたスラブの血に負けるはずがない、などと頓狂なオカルトを信奉するでしょうがね。」 盛田:「上に立つ者がオカルトに囚われているとは、いやはや救いようがありませんな。」 ゲッベルス:「まったくです。ソ連は巨大だ。腐った納屋も、固めれば城になる。今のソ連は未知の巨城なのです。迂闊に手出しをすれば、確実に痛い目に合う。」 盛田:「19世紀、ナポレオン戦争の時のようにですか?」 ゲッベルス:「ええ。正しくそれですよ。冬将軍の住まう城に、のこのこと足を踏み入れる恐怖を、ディートリヒは分かっていない。それが私には酷く恐ろしいのです。」 盛田:「しかし、そうは言っても、ディートリヒに戦争指導の権利はない。戦争の是非を決めるのは、ディートリヒではなく、ヒットラー総統閣下ではありませんか?総統のご様態はいかがなものなのです?」 ゲッベルス:「……芳しく(かんばしく)はありません。戦前からの持病が悪化し、表舞台からは半ば退いています。生かされていると言った方が適切でしょう。」 盛田:「……だから、ディートリヒが力を持っているというわけですか。」 ゲッベルス:「ええ、そういうわけです。……そちらこそ、陛下のお身体は?」 盛田:「いまや健在です。陛下の存在が、いまの我々の泰平を保っていると言っても過言ではありますまい。」 ゲッベルス:「確かに、そうかもしれませんな。こちらも、総統がまだ虚弱ではありますが息をされている為、新たな総統が決まらず、動けていないにすぎません。」 盛田:「お互い、見据える敵は強大ですな、」 ゲッベルス:「違いありません。」 盛田:「話がやや逸れてしまいましたな。失敬。それでは、本題(に入りましょうか)」 0:扉を強く叩く音 盛田:「ん?なんだ?会談中であるぞ。急ぎでなければ(後にしてくれ)」 0:盛田の部下が入ってくる 部下:「失礼します!!大臣閣下、有事であります!先程!大ゲルマン帝国が、ソビエト連邦に宣戦布告を送ったとの報告が!!」 盛田:「?!」 ゲッベルス:「?!」 盛田:「宣戦布告だと…?!ど、どういうことです!?ゲッベルス大臣!」 ゲッベルス:「分かりません…宣戦布告も含め…外交上の最終手続きの権限は私にあるはず?!一体何が起こって……取り急ぎ確認をすると共に、祖国へ一度帰還致します。」 盛田:「お願いします。くそっ、忙しくなるぞ、これは。」 0:陸軍本部にて 0:小牛田、机を思い切り叩く 小牛田:「クソッ!!どういうことだ盛田!あのナチは何を考えておる!これは外交上の問題だろ!この無能め!!責任は全て外務大臣であるお前にある!!」 盛田:「待ってくれ!これは私も丸っ切り把握していなかった話だ!おそらく、ドイツ国の方針としてでは無く、専ら将官の独断だと思うが…」 小牛田:「お前の見解などどうでもよいわ!俺が今問うておるのは、我々が!先の大戦の戦勝国たる大日本帝国が!世界を牽引する帝国として、この有事を見過ごして良いのかという話だ!」 盛田:「っ…見過ごすも何も…我々は主権国家として為すべきことをするだけで…」 小牛田:「黙れ!この愚図が!事態はまさしく急を要する!もしあの赤い大地が、根こそぎ奴らに掠め取られてでもみろ!我が大日本帝国は、狂ったナチ共から明確に何十、いや何百歩と遅れを取ることになる!そうなれば、俺も貴様も、陛下も、その臣民もろとも、大海の塵芥と化すだろうな!」 盛田:「小牛田貴様!自分が言っている事が分かっているのか!?不敬罪にあたるぞ!」 小牛田:「当然!分かっているに決まっているだろうが馬鹿者め!」 盛田:「つまり貴様は、陛下に対する侮辱を、公然と私に投げたのだな?!」 小牛田:「ネチネチネチネチと、女々しい奴め。嗚呼!そうさ!あんな弱腰の置物など、どうとでもなればいい!」 盛田:「なにを!?」 小牛田:「聞こえんか?ならもう一度大きな声で言ってやる、金玉を肥溜めへ捨てた哀れな者よ!あんな弱腰の置物など、どうとでもなればいい!!!!!!と、俺は言ったのだ。」 盛田:「小牛田ぁ…今すぐその不敬を改めろ!そして慎め!陛下がどれ程、どれ程我々の事を考えて下さっているのか!よく考えろ!考えるんだ!!」 小牛田:「ほう?俺の記憶からじゃ考えられんなぁ?物知りの盛田大臣、教えてくれよ、なぁ?何をしてくれたんだ?聞かせてくれよ?ナチが数千万の人間を虐殺しているのを止めてくれたのかぁ?ミッドウェーで神風でも起こしてくれたかぁ?なぁ?どうなんだよ!!!!!答えてくれよ!!!」 盛田:「っ…我々の精神の根底にあるのは、陛下に対する忠義だ!その確固たる信念に基づき、我々は今こうして世界の先を走っていられる!!!!」 小牛田:「たわけが、聞いた俺が間違いだったよ。そこまでお花畑であれば、さぞ幸せだろうよ。貴様の言うその陛下も、大変にご満悦だろうさ。」 盛田:「貴様…」 小牛田:「ふんっ…貴様がなんと言おうが我々の我慢はとうに限界を越している。これは海軍大臣とも同意見だ。我々は狂ったナチどもから、狂ったボリシェビスト共を守ってやらねばならん。奴らにはまだ、じゃがいもを掘ってもらわねば困るからな。」 盛田:「小牛田!いい加減に…」 小牛田:「さて!我々帝国軍部は、これから大いに忙しくなるんでね。あんたら政治家は、平和だ反戦だと宣って、我々軍人に守ってもらえるという銃後の安心を噛み締めておくといい。さらばだ、哀れな者よ。」 0:小牛田、去ろうとする 盛田:「小牛田、待て。」 小牛田:「なんだ?お説教かぁ?それとも一人は寂しいかぁ?とことん哀れだな、貴様は。」 盛田:「黙って聞け。貴様は、戦争をするというのだな?」 小牛田:「当然!何を今更!頭でもおかしくなったか?我々が参戦せず、誰がナチの暴挙を止められるというのだね?」 盛田:「それは、帝国の皇道であるか?正義であるか?よく考えろ。」 小牛田:「ああ、正義だ。大義だ!我々大日本帝国が、表を切ってやらなければならない。悪しきナチを滅ぼし、返す刀でコミーをも滅ぼす。一石二鳥の大正義だよ。貴様流にいえば、皇道を行く帝国のあるべき姿さ。」 盛田:「そうか。それが小牛田、貴様の答えか。」 小牛田:「ああ、そうだ。さっきから貴様が何を言いたいのか甚だ分らんが、まぁいい。じきに吉報が届く。日の沈まぬ帝国を確固たるものにする吉報がな。」 盛田:「…貴様にも、近日中にいい知らせがあるだろう。坐して待て。」 小牛田:「?」 盛田:「では、失礼する。」 0:盛田、退室 小牛田:「(独白)…盛田仁、哀れな男よ。つまらん男よ。貴様の息子は、多少は使い物になる男だったぞ。ふふ。」 0:ナチス親衛隊大将の部屋 0:ノック音 ラインハルト:「誰です?」 ゲッベルス:「大ゲルマン帝国外務大臣、ヨヒアム・ゲッベルスだ。」 ラインハルト:「あなたですか。入りなさい。」 ゲッベルス:「失礼する。ジークハイル。」 ラインハルト:「ジークハイル!ハイルヒトラー!ハイルマインフューラー!ハイルドイッチェラント!ハイルデムファーターラント! ラインハルト:ふふ、どれも安っぽいが聞こえの良い響きです。プロパガンダとしては、あまりにも成功が過ぎる。そうは思いませんか?ゲッベルス大臣。」 ゲッベルス:「ディートリヒ上級大将。今の発言は、心からの言葉ではないと言っているように感じるが。ナチズムを軽く見ているのなら発言を撤回して頂きたい。」 ラインハルト:「ふふ、そんなに怖い目で私を見なくても良いじゃないですか。仲良くやりましょうよ?ね?ゲッベルス大臣閣下。」 ゲッベルス:「仲良く?そんな言葉が、まさか君の口から出るとは思わなかったよ。」 ラインハルト:「はは、人聞きの悪い。私は平和主義者ですよ。少々合理的なね。」 ゲッベルス:「平和主義者、か。平和主義者は、外務大臣である私の許可なく、他国に宣戦布告をするのか?」 ラインハルト:「あら、耳が早いですね。そういえば、あなたは黄色い猿どもの国にいるんじゃありませんでしたか?」 ゲッベルス:「黄色い猿…?」 ラインハルト:「いえ、何でもありません。日本に居たのでは?」 ゲッベルス:「…あぁ、如何にも。だが先程帰投した。」 ラインハルト:「何故です?」 ゲッベルス:「決まっているだろう。我が国が、ソビエトに宣戦布告を送ったとの報せを受けたからだ。間違いはないのか?」 ラインハルト:「成程…ええ、間違いありません。何せ、私が書簡を書いて、私が彼の国へ送りましたから。」 ゲッベルス:「何故、外務大臣でもなければ、外交官でもない君にそんな権限があるんだ。」 ラインハルト:「権限なんて、大義名分さえあれば、誰でも生み出せますよ。大臣閣下。」 ゲッベルス:「大義名分とは?」 ラインハルト:「うーん…では、こう言ったものはいかがでしょうか?ある総督府が、赤軍の悪辣な爆弾による攻撃を受けた、というのはどうでしょう?」 ゲッベルス:「事実を捏造したのか?」 ラインハルト:「ええ。勿論。何かご不満で?先の大戦も、そうして始まったではありませんか。総統閣下も、そうして権力の座に就いたではありませんか。まさかあなたは、総統閣下の行いを間違いだと仰りたいんですか?それは、明確な造反行為ですよ。我々ゲシュタポとしては見逃せませんね。」 ゲッベルス:「もういい…総統閣下は何と仰っている。」 ラインハルト:「はい?」 ゲッベルス:「この宣戦布告に対して、ヒットラー総統閣下は何と仰っているのだと聞いているのだ。答えろ。」 ラインハルト:「さあ、特には。スカートを履いた物なら何でも追い回すあの下賤な男から、聞かされているとは思いますがね。それが何か?」 ゲッベルス:「、、何かだと?総統の命令なくして、我々は動けない。それがこの国の鉄則だ。総統閣下が、この件に対し首を縦に振ったのかと聞いている。」 ラインハルト:「いいえ」 ゲッベルス:「ではなぜ!?」 ラインハルト:「うーん…大臣閣下、あなたは何か勘違いをされているようだ。」 ゲッベルス:「勘違い?」 ラインハルト:「今総統閣下に、命令を出すような力などありません。かのヒンデンブルク大統領と何ら変わらないお飾りの元首です。死んでいるも同然の、ただのか弱い老人です。」 ゲッベルス:「ディートリヒ!!!ついに総統閣下への忠誠まで捨てたか!!今すぐ発言を撤回しろ!そして頭を垂れて謝罪の言葉を並べろ!」 ラインハルト:「大臣閣下、一つ教えておきましょう。私がこの地位に上り詰めたのは、総統への忠誠心の高さゆえではありません。もっとも、私は親衛隊に入る前も後も、ただの一度として、あの男に忠誠を誓ったことなどありませんがね。」 ゲッベルス:「!?、、はは、本性を現したな。この逆徒め!」 ラインハルト:「ええ、逆徒で何ら問題ありません。私はゲシュタポの長官です。サイン一つで、黒でも白になりましょうよ。」 0:二人沈黙 ゲッベルス:「…戦争を、本気で始めるつもりか?」 ラインハルト:「(吹き出す)戦争なんて耳障りの悪い言葉は止して下さい。これは聖戦です。わが崇高なゲルマン民族以外をこの地球から排す為の聖戦なのです。我々は天命を受け、この地上を浄化する、宛らソドムの天使なのですよ。」 ゲッベルス:「はっ、酷く飛躍した話だ。そんな理屈は罷り通らないぞ。」 ラインハルト:「通しますよ。あの薄汚い悪魔どもには、この楽園は甚だ場違い過ぎます。そうそうに暗がりに帰ってもらわねばなりません。」 ゲッベルス:「…っ!ディートリヒ!!」 ラインハルト:「話は変わりますが、」 ゲッベルス:「?!」 ラインハルト:「最近、どうもうるさい羽虫が耳元を右へ左へと逡巡してましてね。大変厄介なんですよこれが。ですがね、そういう時私はいつも、潰して黙らせるんですよ。」 ゲッベルス:「そ、その話がなんだという、」 ラインハルト:「二度も言わせないでください。私、気は長い方ではないのでね。」 ゲッベルス:「私だって大臣だ!この国を憂いて意見することの何が悪いという!」 ラインハルト:「なら、我々は武器を持ち、クーデターを起こすとしましょう。そうすれば、羽虫は勿論のこと、敗北主義者も、マルクス・レーニン主義者も、イエローモンキーも、ユダヤ人も皆、潰せる。」 ゲッベルス:「ぐっ!!失礼する!」 0:足音を立てて出ていくゲッベルス ラインハルト:「ふふ。ゲッベルス、ゲッベルス、ゲッベルス!!!…うーん、困りましたね。どう処分するのが、、合理的でしょうか。」 0:廊下を小走りするゲッベルス ゲッベルス:「くそ!くそくそくそ!見立て違いだ!あいつはもうダメだ!骨の髄まで狂ってやがる!あれはもう人ではない!金髪を靡かせた、宛ら野獣だ!」 0:国際電話 盛田:「もしもし、ゲッベルスさん聞こえますか?」 ゲッベルス:「えぇ、聞こえますとも…」 盛田:「ゲッベルスさん、こちらはもう止められないかも知れません。」 ゲッベルス:「、、、私は、悔しいですが、最終手段をとることにしました。」 盛田:「まさか…」 ゲッベルス:「奴を、、ラインハルト・ディートリヒを殺します。」 盛田:「もし、失敗したら、、」 ゲッベルス:「私は死に、戦争は止められないでしょうね。ですが!これ以外にもう、私は思いつかない…!手は尽くしましたよ……全てね。」 0:二人沈黙 盛田:「私は先ほど、内務大臣宛てで、小牛田へ不敬罪による逮捕状を請求しました。特高も動いている。奴に逃げ場はありません。」 ゲッベルス:「分かりました。お互いに手数は講じた訳ですね。…こうなってしまったことは、本当に申し訳なく思います。」 盛田:「いえ、我々は全力を尽くしました。寧ろ、これ以上無いほどに。私も、ゲッベルスさんも。」 ゲッベルス:「……ありがとうございます、盛田さん。」 盛田:「ええ、ご武運を、ゲッベルスさん。」 ゲッベルス:「そちらこそ。では、失礼します。」 盛田:「ええ。」 0:二日後 盛田:(M)「あれから丸二日経つが、一向に小牛田逮捕の報せがないのは何故だ…。特高は何をしている…。」 0:電話のベルがなる 盛田:「ん?もしもし、盛田だ。?!なに?小牛田が、クーデターを起こした?!官邸に押し入ったのか!誰が殺られた!陸相、海相、そして、首相まで?!、、分かった、ここで待機する、、」 盛田:「(溜息)…っ…国の中枢を担う者共が散ってしまった、、そして、戌井首相とたまたま居合わせた藤原実氏までも、」 盛田:「陛下と親睦の深かった藤原氏が殺されたのだ、、陛下もさぞご立腹であろう。」 0:首相官邸 0:バルコニーへ向かい歩く二人 佐官:「ついぞやり遂げましたね、小牛田大将。昭和維新を。」 小牛田:「ああ。野暮な新聞屋どもにはクーデターだと罵られるだろうがな。」 佐官:「いえ。この成功は、日本史に刻まれる大きなものです。今の弱腰な帝国に憂いていた幾多の国民が喜びますよ。」 小牛田:「だといいがな。しかし、一喜一憂しとる場合ではない。我々には、これからの戦争を指導する責任があるのだから。」 佐官:「ええ。ですね。」 0:バルコニーが開き、兵士たちが官邸の下で雄たけびを上げている 小牛田:「聞け同志よ!!!!!!」 0:小牛田の威勢に場が静まり返る 小牛田:「皆の衆、よくぞ集まってくれた!我々、大日本帝国の屈強なる兵は、此度のナチ、ソ連侵攻において、遅れをとるわけには行かない。ここで指を加えていれば確実にナチから遅れることになる!我々は祖国のために戦う!妻子を置いてきているもの、高齢の両親が居るもの。皆、様々な訳を抱えている。それでも皆、私に付いて来てくれた一騎当千の強者達である!!もしこの戦いで散ることがあれば靖国へ逝くことになるだろう。そこでは我々より先に着いたものが出迎えてくれることであろう!!我々の行いは後世で批判されるやもしれん!だが!人々はいつか気づくであろう!我々が正しかったと!だから我々が戦わねばならぬのだ!志士達よ!よいな!!」 0:兵達が再び雄叫びをあげる 小牛田:「では!ゆくぞ!!」 0:ソ連前線 ラインハルト:「ふむ、あれが新型戦車ですか、ん?そこの兵何しているのです?腕が折れた?では、あのトラックに乗りなさい、ハンドルが固定してあるので腕は必要ありません。さぁ、早く、」 0:親衛隊大将が話しかける 大将:「ラインハルト上級大将殿!!今兵士を乗せたあのトラックには火薬が!」 ラインハルト:「えぇ、分かっていますよ。親衛隊大将殿。あのトラックには並の戦車なら爆破できるほどの火薬が入っています。特攻、腕の折れた兵にはそれくらいしか仕事は無いでしょう?祖国に貢献して死ぬ。これほどに誇らしいことはないように感じますがね。まっ、そこまで近づくことが出来ればの話ですがね、」 大将:「貴様ァ…兵の事をなんだと思っている!!…このユダヤ人が!!」 ラインハルト:「、、今なんと言った?私がユダヤ人だと、?」 0:拳銃で撃ち殺す ラインハルト:「違う、私は、ユダヤなどでは、決して、決してない!決して、、決して、、」 0:電話が鳴る ラインハルト:「もしもし、作戦本部のラインハルト・ディートリヒです。」 ゲッベルス:「ゲッベルスだ」 ラインハルト:「なんだ、あなたでしたか。用件は何です?」 ゲッベルス:「侵攻をやめろ。」 ラインハルト:「何を言っているのです?頭でも打ちましたか?ここまで来て、止めるなんていう選択肢はありません。」 ゲッベルス:「大日本帝国外務大臣から、会談の申し出だ。まだ同盟関係は続いている。断る訳にはいかないだろう。」 ラインハルト:「…あなたの差し金ですか?」 ゲッベルス:「まさか。こんな状況なら相手方から来るに決まっているだろう。」 ラインハルト:「、、今は、手が離せません。代わりに私の副官を寄越すというのでは、行けませんか?」 ゲッベルス:「ダメだ。日本は、ラインハルト上級大将を直々に指名しておられる。直ちに帰国せよ。」 ラインハルト:「、、わかりました。直ちに帰国しましょう。」 ゲッベルス:「日時はおって伝える。では。」 0:ベルリン、官邸 盛田:「お忙しい中申し訳ない、どうも、大日本帝国外務大臣、盛田仁です。あの、ゲッベルスさんは?」 ラインハルト:「彼は、他の職務で手一杯だそうで、会談には顔を出せないそうです。かく言う私も、随分多忙でしてね、あまり時間は取れません。」 盛田:「それは、ソ連侵攻で、ですか?」 ラインハルト:「ええ、もちろん」 盛田:「侵攻をやめてはいただけませんか?今ならまだ、わが国が仲介国となり、休戦を結ぶことも可能なはずです。」 ラインハルト:「お気持ちだけで結構です。ところで、なぜ他国の戦争を止める権利が貴方に?国際法には則っているはずです。ま、形骸化したものですがね。」 盛田:「、、今私は、大日本帝国の外務大臣としてでは無く、一人の人間として話しています。これ以上戦火が広がれば国単位ではなく、一つの惑星が滅びます。そんなこと、あなたも、私も、誰も、望んでいないはずでしょう。」 ラインハルト:「ふむ。ひとつ伺いますが、今のあなたは、一人の人間として話しているのですね?一国の外務大臣としてではなく、一人の人間として。」 盛田:「えぇ、そうです。」 ラインハルト:「そうですか。なら、これ以上お話しすることはありません。」 盛田:「なっ!」 ラインハルト:「ほら、お客人のお帰りです。お見送りして差し上げなさい。」 盛田:「ぐっ!離せ!私は外交官だぞ!!」 ラインハルト:「おやおや。困りましたね。私は平和主義者なのですが……あまり、手荒な真似はさせないで下さいよ。ね?」 0:銃を盛田に突きつける 盛田:「、、これは、間違いなく外交問題になるぞ、、貴公がこの責任をどう取るつもりかは知らんがな……」 ラインハルト:「どうもこうも。責任など微塵もありませんよ。端から、我々の国交など破綻しているのですから。」 盛田:「……お前は、狂っているよ。」 ラインハルト:「おや、狂気を口にしますか。では、あなたの狂気の中で、私は狂っているのでしょうね。しかし、人間など皆狂っています。人は皆狂い、狂う中生きているのです。それが人が人である所以なんです。え?あなたは狂っていないと?ふふ、そんなわけが無いでしょう。あの大戦に身を置いた人間が正常なわけがありません!ですからつまり、、、 ラインハルト:(耳元で囁く)お前も狂ってるんだよ。」 盛田:「っ…?!……異常だ、お前も…お前に従う兵たちも…!」 ラインハルト:「ええ、そうですか。ところであなたは、私がユダヤ人だと思いますか?」 盛田:「、、?」 ラインハルト:「この質問に彼は、ゲッベルスはこう答えました。」 0:回想、牢獄 0:ラインハルト、螺旋階段をゆっくりと降りる 0:そして、椅子に縛られたぼろぼろのゲッベルスに語り掛ける 0:ゲッベルスの薄い息の音が響いている ラインハルト:「大臣閣下。あなたは私を殺そうとした。だから私は、あなたへこうして拷問を施している訳ですが。どうもあなたは何ももっていないようだ。」 ゲッベルス:「…」 ラインハルト:「そこで、最期にあなたに、個人的な質問がしたい。あなたは、私を、ユダヤ人だと思いますかな?」 ゲッベルス:「(息切れ)あぁ、お前はユダヤだ。おかしい話だ、ユダヤ人を1番殺したやつがユダヤ人だとはな、ははは」 ラインハルト:「そうですか……そうですか。分かりました。」 0:銃口をゲッベルスに向ける ゲッベルス:「はぁ…はぁ…ははははははははは……ジークハイル!!!ハイルヒットラー!!!!!」 0:一発の銃声、回想終了 盛田:「まさか!」 ラインハルト:「ええ、彼は既に天上です。」 盛田:「くそ、くそくそくそぉ……」 ラインハルト:「さて、時間も惜しい。ここで無駄話をしている暇は、私にはありませんので。失礼します。」 0:兵士が来てラインハルトに耳打ちする ラインハルト:「ん…何です……ふむふむ……なっ!?まさか……」 盛田:「どうした、」 ラインハルト:「はは、はははははははは!!!!!やってくれましたね!いやぁまんまと嵌められた。えらく姑息な手を使うものだ。この会談は時間稼ぎだったのですね!!」 盛田:「なんの事だ……?」 ラインハルト:「惚けるのがお上手で。つい先程、大日本帝国が我が大ゲルマン帝国に宣戦布告してきたそうです!大量の兵士や戦車、艦艇を率いて!!!」 盛田:「、、!?、ふは、やってくれたな小牛田、終わりだ、もう何もかも滅茶苦茶だ……」 ラインハルト:「この瞬間から貴国とドイツは敵同士となりました。まずは見せしめにあなたの脳みそを吹き飛ばしましょう。」 0:兵が銃を突きつける 盛田:(M)「私の人生とは何をなせたのだろうか、争いを止めることも出来ず、こんな所で死ぬのか、、、」 盛田:「天皇陛下!」 0:二人同時に 盛田:「万歳!!」 ラインハルト:「撃て!!」 0:大日本帝国軍艦の甲板 小牛田:「どうした?、なに?盛田が?そうか、、ふっ、ようやっとあの邪魔者が死んだか。」 0:無線を取る 小牛田:「大日本帝国の男児諸君!これから臨む戦は必ず歴史に残るであろう!さぁ!これより幾万の英雄が生まれるのだ!敵はすぐそこにおる!心してかかるのだ!!よいな!!ゆくぞぉ!!」 N:「こうして戦争を止めようとする者たちは散った。残ったのはナチの殺人鬼かイエローモンキーの脳筋、果たしてどちらが勝利の美酒を味わえるのか、それとも共にこの惑星ごと沈んでしまうのか。これより始まる戦争を止めることはもう誰にも出来ない