台本概要

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タイトル 最終戦争のその前に【東西戦争】
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル ファンタジー
演者人数 6人用台本(男3、女3)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 叫び・戦闘無し/ファンタジー/シリアス
兼ね役可能。2:2:0、3:2:0、2:3:0でも上演可能です。
※3:2でやる場合はシャルロット役の人がキリエル役を、2:3でやる場合は、ガリウス役の人がシド役を兼ねてください。2:2の場合は、シャルロット役の人がキリエル役を、ガリウス役の人がシド役を兼ねてください。

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。
兼ね役OK。1人全役演じ分けもご自由に。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ガリウス 21 ガリウス=ローウォルフ=レヴァンティン。27歳。東の国「レヴァンティン」の王。戦いを愛する戦闘狂で、王でありながら戦いの最前線に立つ。
シャルロット 16 シャルロット=ツーディア=エーベルヴァイン。27歳。西の国「エーベルヴァイン」の女王。人心掌握に長けたカリスマ。皇位継承権を持つ名だたる男たちを蹴落とし、エーベルヴァインの王となった。
シド 18 シド=ヤーカルム。32歳。西国「エーベルヴァイン」の軍師。狡猾で冷静な戦略指揮を得意とする。女王シャルロットに心酔しており、彼女もまた彼を信頼して外交を任せている。
キリエル 23 29歳。生まれつき姓がない。東の国「レヴァンティン」の女神と謳われる巫女様。天眼を持ち、あらゆる未来を先読みする。東の国の政を担う。
グェン 31 グェン=リーファス。18歳。東の国「レヴァンティン」の諜報員。潜入において右に出るものはおらず、自身の容姿や声も自在に変えられる。
パトリシア 27 パトリシア=アンダンテ。22歳。西国「エーベルヴァイン」の近衛隊長。見た目は可愛いが、戦闘となると別人のようになり、身の丈ほどもある大剣を振り回す。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
 :   :   :  シド:(ナレーション)ノルデンエイリーク……五十四もの国がひしめき合うこの大陸で、中央に鎮座したその「二国」だけが、圧倒的に異彩を放っている。 シド:東にあるは皇帝ガリウスが率いるレヴァンティン、西にあるは、我らが唯一の女王、シャルロット様が統べしエーベルヴァイン。 シド:周りの国々は、既に全て、対立するこの二強のどちらかに屈し……今まさに大陸統一……東西の因縁に、決着がつこうとしていた。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・玉座前)  :  グェン:……エルドフリムの獅子王(ししおう)は、ガリウスに牙を折られてからとんと大人しいねぇ。今ではまるで可愛い子猫ちゃんだ。 ガリウス:どいつもこいつも歯ごたえがねえ。 ガリウス:お前が強い強いというからわざわざ残しておいたトリアナも、予定よりだいぶ早く白旗を上げやがった。 ガリウス:……つまんねーな。 グェン:(ため息)……トリアナ海(かい)の蛇と言えば、大陸の誰もが震え上がる武人だぞ? グェン:……ったく、ほんとうちの大将は怖いもの知らずというかなんというか……。 キリエル:……旧世界の神話にも、このような話があります。ヘラクレス、という英雄に与えられた、試練の逸話です。 キリエル:第一にネメアーの獅子を倒し、第二に海蛇の怪物ヒュドラを退治する。 ガリウス:……エル。珍しいな、てめぇがここに来るなんて。 グェン:毎日毎日礼拝堂に引きこもってよく平気だよな。たまには陽の光を浴びねーと、カビが生えちまうぜ?巫女さんよ。 キリエル:(グェンを無視して)そして陛下。ヘラクレスの第三の試練は……ケリュネイアの「鹿」を捕らえることです。 ガリウス:(同時に)……っ!? グェン:(同時に)……っ!? キリエル:全ては私の「視た」通りに。獅子と海蛇の次は……「エーべルヴァイン」の鹿を。 ガリウス:……いよいよか。ふ、ふははははは!いよいよだ!ようやくあの牝鹿(めじか)が俺に屈伏する姿が見られる。 ガリウス:まずはどうする?斬り込むか!それとも攻め込むか! キリエル:一体どう違うのですかそれは……。 キリエル:……焦りは禁物。まずはリーファスに、敵国の視察に行かせてはどうでしょうか。 ガリウス:また「待て」か。 ガリウス:ふんっ。俺に意見すんのは……エル、お前ぐらいだぞ。 キリエル:陛下のお力は存じております。がしかし、慢心は己(おのれ)の足元を掬います。急がずとも、陛下の進む先に、勝利は待っております。 キリエル:……鹿鍋を頂くのは、その後だって良いでしょう?……なあ、リーファス。 グェン:あいよ。ちょうど、いい情報を掴んだから、あちらさんに行こうと思ってたところだ。 グェン:……エーベルヴァインの近衛(このえ)隊長さん、パトリシア=アンダンテ……彼女、わざわざ変装までして、お気に入りの酒場に入り浸ってる、って話だ。 キリエル:……まさか、直接アンダンテと接触するつもりか? グェン:商人に変装して、な。 キリエル:リーファス、お主どんどんと陛下に似てきたのではないか?いくら腕に自信のある者でも、エーベルヴァインの近衛(このえ)隊長相手となれば話は違う。 キリエル:もう少し慎重さというものを……、 グェン:お。そんなに心配なら、あちらさんが油断するように、男の姿じゃなくて踊り子やバーメイドなんかに変装したほうがいいか? キリエル:…………リーファス? ガリウス:やめろグェン。忘れたのか?お前を女装させて連れて行ったあの舞踏会。後日他国の王子が何人も「レヴァンティンの女神、敬愛なる巫女キリエル様へ」と求婚してきて……それはもう大変だった。 ガリウス:…………特に、エルの機嫌を直すのが。 キリエル:(被せるように)陛下、私はその件で、不機嫌になどなっておりません。 グェン:いやぁ、ありゃほんっと可笑しかったよなあ!手紙や贈り物が届く度に、どんどんと巫女さんの眉間のシワが深くなってよお!直接来た奴らなんか、巫女さん見るなり「こんな年増じゃなかった」って……、 ガリウス:(ため息) キリエル:最終戦争が来る前によほど死にたいらしいなリーファス……? グェン:おっとやっべ。じゃ、ちょっくら数日、出かけてきまーす、っと! キリエル:……待てっ! キリエル:…………(舌打ち)まったく、陛下のお気に入りでなければすぐにでも切り刻んでやるものを! ガリウス:(ため息)……落ち着けキリエル。お前が本気で武器を持ち出せば、グェンとはいえ軽傷では済まねぇだろうよ。 キリエル:ご冗談を。私が本気を出したとて、前線に立つ陛下やリーファスには到底敵いません。 ガリウス:それは「天眼(てんがん)」を使わなかった場合……だろ? キリエル:ふふ、それはどうでしょうか、ね?  :(場面転換)  :(エーベルヴァイン王国・王の間) :  シャルロット:あの狼め、とうとうトリアナの海蛇を倒したか。 シド:トリアナ王は昔ながらの自給自足を美徳とし、貿易にはあまり興味がありませんでしたからね。シャルロット様の「和平協定」には、きっと目も通していらっしゃらないでしょう。 シャルロット:食えん奴だ。我が国(こく)とトリアナ、八対二の「和平協定」など、目を通したとて誰が好き好んでサインするものか。 シド:何を言います、皆さん涙ながらに喜んで名前を書いてくれましたよ? パトリシア:それはシドが怖いからでしょお? シャルロット:こら、パティ。あまり動くと財務資料が読めぬ。じっとしていろ。 パトリシア:はぁい!ごめんなさいシャルロット様。 シド:……そもそも、何故アンダンテ嬢は、その……陛下の、お膝に。 パトリシア:この前の戦いで勝ったご褒美!何が欲しい?って訊かれたから、「シャルロット様にたくさん甘やかして欲しい!」ってお願いしたの! シド:それはなんと羨ま……(咳払い)いえ、一国の王と、軍のリーダーたる近衛(このえ)隊長のこのようなお姿、万一他の者に見られれば示しがつきません。 シド:さぁ、早くおりなさい! パトリシア:あーん! シャルロット:私は約束を違えたりはしない。 シャルロット:……今日はパティの日と決めたのだ、多目に見てくれ、我が軍師よ。 シド:お言葉ですが、陛下はパトリシア嬢に甘すぎます。私にも……いや……本日目を通さなければならない書類が、山ほどあるのですよ、陛下。 シャルロット:シド、この私を誰だと思っている?仕事を先延ばしになど決してせぬ。……それに。 シド:なんです? シャルロット:もし私が行き詰まるようなことがあれば、お前が助けてくれるのだろう?シド。 シド:それは……そう、ですが。 シャルロット:ふふ。 パトリシア:シドシドってぇ……ほんっとシャルロット様が好きだよね! シド:……貴方にだけは言われたくないですね。あと、そのあだ名はやめなさいと何度も……、 シャルロット:ほら、シドも休んだらどうだ?ちょうど、お前の好きな銘柄の紅茶が、産地から届いたばかりなんだ。な? シド:っ、……少し、だけですからね。  :(間)  :  パトリシア:(スコーンをもぐもぐしながら)あ!そうだ! パトリシア:さっきの話だけど、トリアナも、この前やられたエルドフリムも!みーんな戦術としては同じみたいだよ。横隊(おうたい)か行軍縦隊(こうぐんじゅうたい)が基本の正面突破!よく側面攻撃されないなーって思うけど……それだけの精鋭揃(せいえいぞろ)いってことかな。ガリウス皇帝に突っ込まれたら、防御に徹するしかない、って言われてるしね? シド:流石、ヘルヘイムの戦いを制した男、と言うべきでしょうか……。 シャルロット:……ヘルヘイムか。……その戦慄の争いから運良く生き残った者は、皆口を揃えてこう報告した。 シャルロット:彼は王でありながら、その時たった一人で敵の牙城(がじょう)に現れた。そして瞬く間に死体を積み重ね、城を陥落させた、と。真っ赤に染まったその山の上で、彼の赤髪(あかがみ)が風になびく……その鮮烈な映像に、誰ともなく呟いた……赤狼(せきろう)のガリウス、と……。 シド:(笑いながら)その赤狼のガリウス相手に、エーベルヴァインの鹿はどうなさるおつもりで? シャルロット:フッ、赤毛の愛らしい一匹狼に、一体何ができるというのだ?私には、知恵のヤーカルムに、武術のアンダンテがついている。……エーベルヴァインの鹿に負けはない。そうだろう? パトリシア:もぉっちろん!どんな敵だって、私がめっためたにしてあげる! シド:陛下の美しさ、そして強さを前にして、頭(こうべ)を垂れぬ者はおりません。あなたが世界の玉座を手にするために、私の全てをお使いください。 シャルロット:ふふ、頼りにしているぞ、二人とも。 パトリシア:(同時に)うん! シド:(同時に)はっ。  :(場面転換)  :(エーベルヴァイン王国・酒場)  :  パトリシア:マスター!とりあえずエール!あとお腹にたまりそうなもの適当に見繕って!ペコペコだからどんどんちょうだい! パトリシア:はぁん、今日もつっかれたーあ!  :(間)  :  パトリシア:ごくっごくっごくっ……ぷっはー! パトリシア:あー!訓練した後のエールさいっこーーー! パトリシア:(匂いを嗅いで)…………んー!料理も良い匂い!よっし、いっただっきまー、  :◆食事をするパトリシアの横に、商人に変装したグェンが現れる。  :  グェン:(ここから暫く声色を変えて)お食事中に失礼、お嬢さん。また一人ですごい量を頼んでいるね。 パトリシア:え?なに、おじさんいきなり……。 グェン:ご馳走するから、ちょっとお話いいかい?最近この街で流行ってる、装飾品について聞きたいんだが……、 パトリシア:装飾品? グェン:生業(なりわい)でこの街に来たばかりでね、若くて可愛い女性の意見が聞きたいんだ。 グェン:最近ギルベックでは、カメオっていう貝殻や瑪瑙(めのう)の装飾品が流行っていてね。あらゆる女性の横顔が彫られていて、自分に似たカメオを持つのがご令嬢方のステータスになってるんだ。 パトリシア:……商人か。……ま、奢りなら大歓迎!ほーら座って座って!食べて食べて!ここの酒場のお酒と料理はどれもたっまんないよお! パトリシア:……とはいえ……私は普通の女の子が好きなものなんて何一つわっかんないけどね。商人さんの参考になるかどうか……。 パトリシア:ところで、あなたはどうしてエーベルヴァインに? グェン:あぁ。こんな大国をまとめてるのが麗しき女王様ってのも気になったし……この国の近衛隊長様も同じく女性で、すごいやり手だって聞いてね。そうやって女性が活躍できるなんて、さぞ先進的で、目新しいものに溢れた国なのだろうと……、 パトリシア:ふぅん……。 パトリシア:……そうね!あなたの聞いた噂通り、女王陛下と近衛(このえ)隊長様はほんっとに素晴らしい方たちだよ! パトリシア:お二人とも美人で、えと……(大げさな身振り手振りで)スラ〜ッと背が高くて!スタイルなんかもこう、ボンッキュッボンッと豊満で!強くて格好良くて……国の誰もが、憧れる存在なのっ! グェン:(笑いを堪えきれず)……くっ、ぶふふっ……、 パトリシア:な、なによ? グェン:いやいや……くくっ、と、特に近衛隊長様は、身の丈以上もある大剣を振り回して戦うって噂だけど……本当なのか? パトリシア:あぁ~そうよ!そりゃあもう!アンダンテ隊長は?大剣をその可憐な細腕で軽々と扱うし、銃剣(じゅうけん)を持たせてシャルロット女王陛下の右に出る者はいないのよ。ほんっとに強いんだから! グェン:ぷっ、くふふ……ほんと、す、素晴らしい君主と軍人なんだろうね。こんなに国民に愛されて。 パトリシア:えぇ、そう、そうなのよ!陛下はもちろん、アンダンテ隊長のセクシーさと強さといったら……! グェン:ぶふ、ぶぶふふ……っ!  :(間)  :  グェン:いや~まさか、こんなに可愛らしいお嬢さんが軍人さんとは。 パトリシア:だから、今時の女の子の流行とかわっかんないって言ったでしょ?毎日毎日訓練訓練、ドレスで着飾るより、土まみれになる方がめちゃくちゃに多いもん。 グェン:毎日訓練三昧……ってことは、やはりエーベルヴァインは隣国のレヴァンティンと戦争を? パトリシア:ん〜……別にそうじゃなくても訓練怠ったりはしないけど〜……というか、そもそも~うちがわざわざ戦争ふっかけなくても、レヴァンティンが勝手に動き出す感じだと思うけど〜? パトリシア:……まあでも確かに、今、軍は対レヴァンティンの戦争対策ばっかりかな。 グェン:それは……他の国との戦争とは、何かしら違う準備をしてるってこと? パトリシア:ほえ?国ごとに対策を変えるのは当ったり前でしょお?どこかの狼さんみたいに、同じ陣形ばかり使ってたら、すーぐに対抗策練られて総崩れだもん。馬鹿の一つ覚えじゃあるまいし。 グェン:……馬鹿の一つ覚え、ね……。 パトリシア:あとね、あとね!レヴァンティンにはあらゆる暗器を自在に扱う「ちょーほーいん」?がいるんだって! グェン:ん、んんん゛……っ!(咳き込む) パトリシア:えっ大丈夫?(グェンの背中を叩く)ほら、エールで流し込んで……んもー、いくら美味しいからってがっつくのやめなー? グェン:ん……す、すまない。 パトリシア:えーと?何の話だっけ。……あぁ、そうそう。それにレヴァンティンには、「天眼持ちの女神様」って呼ばれている巫女様がいるじゃない?とある舞踏会で顔を見たって人曰く、けーれんせっぱく?純真無垢?な美少女で……、 グェン:く、ぶ、ぶふ、ぶふふふふ……。せ、清廉潔白、ですかな? パトリシア:ん?まあどーでもいいじゃん!……その、けーれん?な美少女の巫女様の予知能力が、どんくらいピタリと当たるものかは知んないけど……。 パトリシア:噂では、その巫女様は大鎌を手に前線で戦うこともあるんだって! パトリシア:やばくない?私、ちょっと興味あるんだよね。一体どんなか、手合わせしてみたい。 グェン:……なるほどなるほど、レヴァンティンの巫女様と、ね。それは面白い。 グェン:(一瞬素に戻って小声で)……伝えておくね、パトリシアちゃん。 パトリシア:え?今なんて……? グェン:おっと、そろそろ時間だ。ここまでのお会計は済ませておくよ。お話楽しかった。では、またどこかで! パトリシア:え、ねえちょっと待っ……!……あぁもう、ご馳走様も言えなかった!  :(間)  :  パトリシア:(突然印象が変わって)あいつの背中の筋肉のつき方……隠してはいたけれど、相当の手練れ、だな……。 パトリシア:冒険者ギルドと二重登録してある商人か、はたまた……ふむ。一応シドシドに報告しておくか。 パトリシア:……敵じゃないと、いいけど。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・玉座前)  :  グェン:ってな訳で、あちらさんはこちらが攻め入るの待ち、って感じかな。パトリシアちゃんの話にはフェイクもあるかもしれないけど、他の調査でも別の動きは見られなかった。 ガリウス:なるほどな。防御だけでは敵を打ち砕くことはできねえってのに、エーベルヴァインって国ァ、やはり相当頭でっかちでお堅えなあ? キリエル:相手が攻めの一手を打つなら、受ける側は当然守りの一手しかないでしょう? ガリウス:馬鹿を言え。攻めの一手に対抗するなら、更に激しい攻めの一手一択だろうが。俺は止まることも、ましてや引くこともしない。 グェン:さっすがガリウス。……とはいえ、あちらさんも当然、ただ守るだけの腹づもりじゃない。……北の同盟国から、大砲を幾門(いくもん)も買い付けてやがった。 ガリウス:大砲……なるほどな……なら。 キリエル:ええ。すぐにこちらも、南の同盟国に大砲を送らせましょう。 ガリウス:両国の真ん中には、どでかい運河が通っている。どうせ最初は、川越しに緊張した睨み合いだ。なら、お互いドカンと一発、派手にやろうぜ? キリエル:派手に、ですか……祭りの時期とかなりずれていますが……。 ガリウス:何言ってんだエル。……戦争だぞ?これ以上に胸躍る祭り、他にねぇだろーが。 キリエル:ふふ、本当に、仕様のないお人。  :(間)  :  グェン:あ。そいや巫女さん。近衛隊長さんが、あんたと戦ってみたいって言ってたぜ? キリエル:馬鹿を言え。女だてらに一国の軍を背負う武人に、非力な私がかなうと思うか。 ガリウス:へえ、面白いことを言う奴だな。一体どんな女だったんだ? グェン:……そう、だなあ。(ピンと思いついて、キリエルを煽るように)俺が「女装した」時みたいな……、 キリエル:……ほほう? グェン:若くてピチピチの……そりゃあもう超ッッッ絶の美少女だったぜ? キリエル:ふむふむふむ、そうか、なるほどなあ?近衛隊長だか何だか知らぬが、世間を知らぬ小娘には、現実を叩きつけてやらねばならぬな。……ご指名とあらば、この私が、直々にその心の臓を切り裂いてくれよう。 ガリウス:……(ため息)。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・礼拝堂対エーべルヴァイン王国・軍師執務室)  :  シド:……なる、ほど。パトリシア嬢に酒場で接触してきた商人……わざわざ戦争について事細かに質問してくるなど……考え過ぎかもしれませんが……もしや、あの噂の潜入調査員、グェン=リーファス、では……? シド:……だとしたら……流石ガリウス皇帝の優秀な手駒の一人、というところでしょうか。近衛隊長に直接接触とは、なんと大胆な……ふふ、面白い。是非此度の戦争で、彼と戦ってみたいものですね。 キリエル:若さ故の過ち。……誰にしもあるものだ……がしかし。酸(すい)も甘いも知らぬ女子(おみなご)が、私に喧嘩をふっかけてくるとは…………なんと浅はか。自身の口から出た軽口を、地獄の果てで後悔すると良い。 シド:最終戦争へ向けて、同盟国も含めた兵の総数、武器の調達や物資の補給準備などもほぼ互角。……ならば大抵の者は、破竹(はちく)の勢いで勝ち進んできた、ガリウス=ローウォルフ=レヴァンティン皇帝の勝利を疑わない。……しかし。 キリエル:これまでの国と違って、エーベルヴァインはそのように単純には落とせない。シャルロット女王、そして……軍師シド=ヤーカルムが、我らガリウス陛下の前に大きな壁となって立ちはだかるであろう。……だが。 シド:それも全て、諜報員グェン=リーファスの情報と、先読みの巫女キリエル嬢の天眼があれば……悔しいかな、我らシャルロット陛下の先手を打つことも容易い。……ならば。 シド:天眼で視える、その一歩先まで。何十何百と、全てのパターンを計算し尽くしましょう。 キリエル:私が視るのは、揺るぐことのない事象の結果、ただそれだけ。私の読みには、絶対に間違いがあってはならない。 シド:私の計算には、絶対に狂いがあってはならない。陛下の勝利のために。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・玉座前対エーベルヴァイン王国・王の間)  :  ガリウス:ようやくエーベルヴァインを手中に収める時が来た。待つのが嫌いな俺様が、こんだけ長い間おあずけをくらったんだ。 ガリウス:……ちぃと……張り切りすぎちまうかもしれねえなあ? シャルロット:貴様と再び相見(あいまみ)えるのが楽しみでならぬ。レディをこれだけ待たすとは……いい加減、そろそろ首が伸び切ってしまうぞ。私が痺(しび)れを切らす前に、早く私の前に来い、狼皇帝。 ガリウス:あぁ、早く会いたいぜ。てめえの眼前で、てめぇが大事にしている兵士たちを。土地を。旗を。……この手で、粉々にぶち壊してやるのが楽しみでならねえ。……なぁ、女王様。 シャルロット:積年の恨み、長年の因縁、王としての宿命……全て。全てがこの戦いで終わる。 ガリウス:引き分けも協定も同盟もねえ。俺たちの末路は、勝つか負けるか、生きるか死ぬか、その二択だ。……いや、俺の末路はもう決まってる。何が起きても勝利し生きる、それだけだ。 シャルロット:ふふ、思い上がっていられるのは今の内だけだ。玉座に座れるその誉れを、残りの一時(いっとき)精々味わい尽くすが良い。 ガリウス:周辺諸国は我がレヴァンティンに落ちた。てめえもさっさと俺にひれ伏せ、シャーリー? シャルロット:貴様が無様な醜態を晒し息絶えた後は……その骸(むくろ)と踊ってやろう、ガリウス? ガリウス:勝つのは……、 ガリウス:(同時に)レヴァンティンだ! シャルロット:(同時に)エーベルヴァインだ! シャルロット: シャルロット: シャルロット: シャルロット: シャルロット:.

 :   :   :  シド:(ナレーション)ノルデンエイリーク……五十四もの国がひしめき合うこの大陸で、中央に鎮座したその「二国」だけが、圧倒的に異彩を放っている。 シド:東にあるは皇帝ガリウスが率いるレヴァンティン、西にあるは、我らが唯一の女王、シャルロット様が統べしエーベルヴァイン。 シド:周りの国々は、既に全て、対立するこの二強のどちらかに屈し……今まさに大陸統一……東西の因縁に、決着がつこうとしていた。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・玉座前)  :  グェン:……エルドフリムの獅子王(ししおう)は、ガリウスに牙を折られてからとんと大人しいねぇ。今ではまるで可愛い子猫ちゃんだ。 ガリウス:どいつもこいつも歯ごたえがねえ。 ガリウス:お前が強い強いというからわざわざ残しておいたトリアナも、予定よりだいぶ早く白旗を上げやがった。 ガリウス:……つまんねーな。 グェン:(ため息)……トリアナ海(かい)の蛇と言えば、大陸の誰もが震え上がる武人だぞ? グェン:……ったく、ほんとうちの大将は怖いもの知らずというかなんというか……。 キリエル:……旧世界の神話にも、このような話があります。ヘラクレス、という英雄に与えられた、試練の逸話です。 キリエル:第一にネメアーの獅子を倒し、第二に海蛇の怪物ヒュドラを退治する。 ガリウス:……エル。珍しいな、てめぇがここに来るなんて。 グェン:毎日毎日礼拝堂に引きこもってよく平気だよな。たまには陽の光を浴びねーと、カビが生えちまうぜ?巫女さんよ。 キリエル:(グェンを無視して)そして陛下。ヘラクレスの第三の試練は……ケリュネイアの「鹿」を捕らえることです。 ガリウス:(同時に)……っ!? グェン:(同時に)……っ!? キリエル:全ては私の「視た」通りに。獅子と海蛇の次は……「エーべルヴァイン」の鹿を。 ガリウス:……いよいよか。ふ、ふははははは!いよいよだ!ようやくあの牝鹿(めじか)が俺に屈伏する姿が見られる。 ガリウス:まずはどうする?斬り込むか!それとも攻め込むか! キリエル:一体どう違うのですかそれは……。 キリエル:……焦りは禁物。まずはリーファスに、敵国の視察に行かせてはどうでしょうか。 ガリウス:また「待て」か。 ガリウス:ふんっ。俺に意見すんのは……エル、お前ぐらいだぞ。 キリエル:陛下のお力は存じております。がしかし、慢心は己(おのれ)の足元を掬います。急がずとも、陛下の進む先に、勝利は待っております。 キリエル:……鹿鍋を頂くのは、その後だって良いでしょう?……なあ、リーファス。 グェン:あいよ。ちょうど、いい情報を掴んだから、あちらさんに行こうと思ってたところだ。 グェン:……エーベルヴァインの近衛(このえ)隊長さん、パトリシア=アンダンテ……彼女、わざわざ変装までして、お気に入りの酒場に入り浸ってる、って話だ。 キリエル:……まさか、直接アンダンテと接触するつもりか? グェン:商人に変装して、な。 キリエル:リーファス、お主どんどんと陛下に似てきたのではないか?いくら腕に自信のある者でも、エーベルヴァインの近衛(このえ)隊長相手となれば話は違う。 キリエル:もう少し慎重さというものを……、 グェン:お。そんなに心配なら、あちらさんが油断するように、男の姿じゃなくて踊り子やバーメイドなんかに変装したほうがいいか? キリエル:…………リーファス? ガリウス:やめろグェン。忘れたのか?お前を女装させて連れて行ったあの舞踏会。後日他国の王子が何人も「レヴァンティンの女神、敬愛なる巫女キリエル様へ」と求婚してきて……それはもう大変だった。 ガリウス:…………特に、エルの機嫌を直すのが。 キリエル:(被せるように)陛下、私はその件で、不機嫌になどなっておりません。 グェン:いやぁ、ありゃほんっと可笑しかったよなあ!手紙や贈り物が届く度に、どんどんと巫女さんの眉間のシワが深くなってよお!直接来た奴らなんか、巫女さん見るなり「こんな年増じゃなかった」って……、 ガリウス:(ため息) キリエル:最終戦争が来る前によほど死にたいらしいなリーファス……? グェン:おっとやっべ。じゃ、ちょっくら数日、出かけてきまーす、っと! キリエル:……待てっ! キリエル:…………(舌打ち)まったく、陛下のお気に入りでなければすぐにでも切り刻んでやるものを! ガリウス:(ため息)……落ち着けキリエル。お前が本気で武器を持ち出せば、グェンとはいえ軽傷では済まねぇだろうよ。 キリエル:ご冗談を。私が本気を出したとて、前線に立つ陛下やリーファスには到底敵いません。 ガリウス:それは「天眼(てんがん)」を使わなかった場合……だろ? キリエル:ふふ、それはどうでしょうか、ね?  :(場面転換)  :(エーベルヴァイン王国・王の間) :  シャルロット:あの狼め、とうとうトリアナの海蛇を倒したか。 シド:トリアナ王は昔ながらの自給自足を美徳とし、貿易にはあまり興味がありませんでしたからね。シャルロット様の「和平協定」には、きっと目も通していらっしゃらないでしょう。 シャルロット:食えん奴だ。我が国(こく)とトリアナ、八対二の「和平協定」など、目を通したとて誰が好き好んでサインするものか。 シド:何を言います、皆さん涙ながらに喜んで名前を書いてくれましたよ? パトリシア:それはシドが怖いからでしょお? シャルロット:こら、パティ。あまり動くと財務資料が読めぬ。じっとしていろ。 パトリシア:はぁい!ごめんなさいシャルロット様。 シド:……そもそも、何故アンダンテ嬢は、その……陛下の、お膝に。 パトリシア:この前の戦いで勝ったご褒美!何が欲しい?って訊かれたから、「シャルロット様にたくさん甘やかして欲しい!」ってお願いしたの! シド:それはなんと羨ま……(咳払い)いえ、一国の王と、軍のリーダーたる近衛(このえ)隊長のこのようなお姿、万一他の者に見られれば示しがつきません。 シド:さぁ、早くおりなさい! パトリシア:あーん! シャルロット:私は約束を違えたりはしない。 シャルロット:……今日はパティの日と決めたのだ、多目に見てくれ、我が軍師よ。 シド:お言葉ですが、陛下はパトリシア嬢に甘すぎます。私にも……いや……本日目を通さなければならない書類が、山ほどあるのですよ、陛下。 シャルロット:シド、この私を誰だと思っている?仕事を先延ばしになど決してせぬ。……それに。 シド:なんです? シャルロット:もし私が行き詰まるようなことがあれば、お前が助けてくれるのだろう?シド。 シド:それは……そう、ですが。 シャルロット:ふふ。 パトリシア:シドシドってぇ……ほんっとシャルロット様が好きだよね! シド:……貴方にだけは言われたくないですね。あと、そのあだ名はやめなさいと何度も……、 シャルロット:ほら、シドも休んだらどうだ?ちょうど、お前の好きな銘柄の紅茶が、産地から届いたばかりなんだ。な? シド:っ、……少し、だけですからね。  :(間)  :  パトリシア:(スコーンをもぐもぐしながら)あ!そうだ! パトリシア:さっきの話だけど、トリアナも、この前やられたエルドフリムも!みーんな戦術としては同じみたいだよ。横隊(おうたい)か行軍縦隊(こうぐんじゅうたい)が基本の正面突破!よく側面攻撃されないなーって思うけど……それだけの精鋭揃(せいえいぞろ)いってことかな。ガリウス皇帝に突っ込まれたら、防御に徹するしかない、って言われてるしね? シド:流石、ヘルヘイムの戦いを制した男、と言うべきでしょうか……。 シャルロット:……ヘルヘイムか。……その戦慄の争いから運良く生き残った者は、皆口を揃えてこう報告した。 シャルロット:彼は王でありながら、その時たった一人で敵の牙城(がじょう)に現れた。そして瞬く間に死体を積み重ね、城を陥落させた、と。真っ赤に染まったその山の上で、彼の赤髪(あかがみ)が風になびく……その鮮烈な映像に、誰ともなく呟いた……赤狼(せきろう)のガリウス、と……。 シド:(笑いながら)その赤狼のガリウス相手に、エーベルヴァインの鹿はどうなさるおつもりで? シャルロット:フッ、赤毛の愛らしい一匹狼に、一体何ができるというのだ?私には、知恵のヤーカルムに、武術のアンダンテがついている。……エーベルヴァインの鹿に負けはない。そうだろう? パトリシア:もぉっちろん!どんな敵だって、私がめっためたにしてあげる! シド:陛下の美しさ、そして強さを前にして、頭(こうべ)を垂れぬ者はおりません。あなたが世界の玉座を手にするために、私の全てをお使いください。 シャルロット:ふふ、頼りにしているぞ、二人とも。 パトリシア:(同時に)うん! シド:(同時に)はっ。  :(場面転換)  :(エーベルヴァイン王国・酒場)  :  パトリシア:マスター!とりあえずエール!あとお腹にたまりそうなもの適当に見繕って!ペコペコだからどんどんちょうだい! パトリシア:はぁん、今日もつっかれたーあ!  :(間)  :  パトリシア:ごくっごくっごくっ……ぷっはー! パトリシア:あー!訓練した後のエールさいっこーーー! パトリシア:(匂いを嗅いで)…………んー!料理も良い匂い!よっし、いっただっきまー、  :◆食事をするパトリシアの横に、商人に変装したグェンが現れる。  :  グェン:(ここから暫く声色を変えて)お食事中に失礼、お嬢さん。また一人ですごい量を頼んでいるね。 パトリシア:え?なに、おじさんいきなり……。 グェン:ご馳走するから、ちょっとお話いいかい?最近この街で流行ってる、装飾品について聞きたいんだが……、 パトリシア:装飾品? グェン:生業(なりわい)でこの街に来たばかりでね、若くて可愛い女性の意見が聞きたいんだ。 グェン:最近ギルベックでは、カメオっていう貝殻や瑪瑙(めのう)の装飾品が流行っていてね。あらゆる女性の横顔が彫られていて、自分に似たカメオを持つのがご令嬢方のステータスになってるんだ。 パトリシア:……商人か。……ま、奢りなら大歓迎!ほーら座って座って!食べて食べて!ここの酒場のお酒と料理はどれもたっまんないよお! パトリシア:……とはいえ……私は普通の女の子が好きなものなんて何一つわっかんないけどね。商人さんの参考になるかどうか……。 パトリシア:ところで、あなたはどうしてエーベルヴァインに? グェン:あぁ。こんな大国をまとめてるのが麗しき女王様ってのも気になったし……この国の近衛隊長様も同じく女性で、すごいやり手だって聞いてね。そうやって女性が活躍できるなんて、さぞ先進的で、目新しいものに溢れた国なのだろうと……、 パトリシア:ふぅん……。 パトリシア:……そうね!あなたの聞いた噂通り、女王陛下と近衛(このえ)隊長様はほんっとに素晴らしい方たちだよ! パトリシア:お二人とも美人で、えと……(大げさな身振り手振りで)スラ〜ッと背が高くて!スタイルなんかもこう、ボンッキュッボンッと豊満で!強くて格好良くて……国の誰もが、憧れる存在なのっ! グェン:(笑いを堪えきれず)……くっ、ぶふふっ……、 パトリシア:な、なによ? グェン:いやいや……くくっ、と、特に近衛隊長様は、身の丈以上もある大剣を振り回して戦うって噂だけど……本当なのか? パトリシア:あぁ~そうよ!そりゃあもう!アンダンテ隊長は?大剣をその可憐な細腕で軽々と扱うし、銃剣(じゅうけん)を持たせてシャルロット女王陛下の右に出る者はいないのよ。ほんっとに強いんだから! グェン:ぷっ、くふふ……ほんと、す、素晴らしい君主と軍人なんだろうね。こんなに国民に愛されて。 パトリシア:えぇ、そう、そうなのよ!陛下はもちろん、アンダンテ隊長のセクシーさと強さといったら……! グェン:ぶふ、ぶぶふふ……っ!  :(間)  :  グェン:いや~まさか、こんなに可愛らしいお嬢さんが軍人さんとは。 パトリシア:だから、今時の女の子の流行とかわっかんないって言ったでしょ?毎日毎日訓練訓練、ドレスで着飾るより、土まみれになる方がめちゃくちゃに多いもん。 グェン:毎日訓練三昧……ってことは、やはりエーベルヴァインは隣国のレヴァンティンと戦争を? パトリシア:ん〜……別にそうじゃなくても訓練怠ったりはしないけど〜……というか、そもそも~うちがわざわざ戦争ふっかけなくても、レヴァンティンが勝手に動き出す感じだと思うけど〜? パトリシア:……まあでも確かに、今、軍は対レヴァンティンの戦争対策ばっかりかな。 グェン:それは……他の国との戦争とは、何かしら違う準備をしてるってこと? パトリシア:ほえ?国ごとに対策を変えるのは当ったり前でしょお?どこかの狼さんみたいに、同じ陣形ばかり使ってたら、すーぐに対抗策練られて総崩れだもん。馬鹿の一つ覚えじゃあるまいし。 グェン:……馬鹿の一つ覚え、ね……。 パトリシア:あとね、あとね!レヴァンティンにはあらゆる暗器を自在に扱う「ちょーほーいん」?がいるんだって! グェン:ん、んんん゛……っ!(咳き込む) パトリシア:えっ大丈夫?(グェンの背中を叩く)ほら、エールで流し込んで……んもー、いくら美味しいからってがっつくのやめなー? グェン:ん……す、すまない。 パトリシア:えーと?何の話だっけ。……あぁ、そうそう。それにレヴァンティンには、「天眼持ちの女神様」って呼ばれている巫女様がいるじゃない?とある舞踏会で顔を見たって人曰く、けーれんせっぱく?純真無垢?な美少女で……、 グェン:く、ぶ、ぶふ、ぶふふふふ……。せ、清廉潔白、ですかな? パトリシア:ん?まあどーでもいいじゃん!……その、けーれん?な美少女の巫女様の予知能力が、どんくらいピタリと当たるものかは知んないけど……。 パトリシア:噂では、その巫女様は大鎌を手に前線で戦うこともあるんだって! パトリシア:やばくない?私、ちょっと興味あるんだよね。一体どんなか、手合わせしてみたい。 グェン:……なるほどなるほど、レヴァンティンの巫女様と、ね。それは面白い。 グェン:(一瞬素に戻って小声で)……伝えておくね、パトリシアちゃん。 パトリシア:え?今なんて……? グェン:おっと、そろそろ時間だ。ここまでのお会計は済ませておくよ。お話楽しかった。では、またどこかで! パトリシア:え、ねえちょっと待っ……!……あぁもう、ご馳走様も言えなかった!  :(間)  :  パトリシア:(突然印象が変わって)あいつの背中の筋肉のつき方……隠してはいたけれど、相当の手練れ、だな……。 パトリシア:冒険者ギルドと二重登録してある商人か、はたまた……ふむ。一応シドシドに報告しておくか。 パトリシア:……敵じゃないと、いいけど。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・玉座前)  :  グェン:ってな訳で、あちらさんはこちらが攻め入るの待ち、って感じかな。パトリシアちゃんの話にはフェイクもあるかもしれないけど、他の調査でも別の動きは見られなかった。 ガリウス:なるほどな。防御だけでは敵を打ち砕くことはできねえってのに、エーベルヴァインって国ァ、やはり相当頭でっかちでお堅えなあ? キリエル:相手が攻めの一手を打つなら、受ける側は当然守りの一手しかないでしょう? ガリウス:馬鹿を言え。攻めの一手に対抗するなら、更に激しい攻めの一手一択だろうが。俺は止まることも、ましてや引くこともしない。 グェン:さっすがガリウス。……とはいえ、あちらさんも当然、ただ守るだけの腹づもりじゃない。……北の同盟国から、大砲を幾門(いくもん)も買い付けてやがった。 ガリウス:大砲……なるほどな……なら。 キリエル:ええ。すぐにこちらも、南の同盟国に大砲を送らせましょう。 ガリウス:両国の真ん中には、どでかい運河が通っている。どうせ最初は、川越しに緊張した睨み合いだ。なら、お互いドカンと一発、派手にやろうぜ? キリエル:派手に、ですか……祭りの時期とかなりずれていますが……。 ガリウス:何言ってんだエル。……戦争だぞ?これ以上に胸躍る祭り、他にねぇだろーが。 キリエル:ふふ、本当に、仕様のないお人。  :(間)  :  グェン:あ。そいや巫女さん。近衛隊長さんが、あんたと戦ってみたいって言ってたぜ? キリエル:馬鹿を言え。女だてらに一国の軍を背負う武人に、非力な私がかなうと思うか。 ガリウス:へえ、面白いことを言う奴だな。一体どんな女だったんだ? グェン:……そう、だなあ。(ピンと思いついて、キリエルを煽るように)俺が「女装した」時みたいな……、 キリエル:……ほほう? グェン:若くてピチピチの……そりゃあもう超ッッッ絶の美少女だったぜ? キリエル:ふむふむふむ、そうか、なるほどなあ?近衛隊長だか何だか知らぬが、世間を知らぬ小娘には、現実を叩きつけてやらねばならぬな。……ご指名とあらば、この私が、直々にその心の臓を切り裂いてくれよう。 ガリウス:……(ため息)。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・礼拝堂対エーべルヴァイン王国・軍師執務室)  :  シド:……なる、ほど。パトリシア嬢に酒場で接触してきた商人……わざわざ戦争について事細かに質問してくるなど……考え過ぎかもしれませんが……もしや、あの噂の潜入調査員、グェン=リーファス、では……? シド:……だとしたら……流石ガリウス皇帝の優秀な手駒の一人、というところでしょうか。近衛隊長に直接接触とは、なんと大胆な……ふふ、面白い。是非此度の戦争で、彼と戦ってみたいものですね。 キリエル:若さ故の過ち。……誰にしもあるものだ……がしかし。酸(すい)も甘いも知らぬ女子(おみなご)が、私に喧嘩をふっかけてくるとは…………なんと浅はか。自身の口から出た軽口を、地獄の果てで後悔すると良い。 シド:最終戦争へ向けて、同盟国も含めた兵の総数、武器の調達や物資の補給準備などもほぼ互角。……ならば大抵の者は、破竹(はちく)の勢いで勝ち進んできた、ガリウス=ローウォルフ=レヴァンティン皇帝の勝利を疑わない。……しかし。 キリエル:これまでの国と違って、エーベルヴァインはそのように単純には落とせない。シャルロット女王、そして……軍師シド=ヤーカルムが、我らガリウス陛下の前に大きな壁となって立ちはだかるであろう。……だが。 シド:それも全て、諜報員グェン=リーファスの情報と、先読みの巫女キリエル嬢の天眼があれば……悔しいかな、我らシャルロット陛下の先手を打つことも容易い。……ならば。 シド:天眼で視える、その一歩先まで。何十何百と、全てのパターンを計算し尽くしましょう。 キリエル:私が視るのは、揺るぐことのない事象の結果、ただそれだけ。私の読みには、絶対に間違いがあってはならない。 シド:私の計算には、絶対に狂いがあってはならない。陛下の勝利のために。  :(場面転換)  :(レヴァンティン帝国・玉座前対エーベルヴァイン王国・王の間)  :  ガリウス:ようやくエーベルヴァインを手中に収める時が来た。待つのが嫌いな俺様が、こんだけ長い間おあずけをくらったんだ。 ガリウス:……ちぃと……張り切りすぎちまうかもしれねえなあ? シャルロット:貴様と再び相見(あいまみ)えるのが楽しみでならぬ。レディをこれだけ待たすとは……いい加減、そろそろ首が伸び切ってしまうぞ。私が痺(しび)れを切らす前に、早く私の前に来い、狼皇帝。 ガリウス:あぁ、早く会いたいぜ。てめえの眼前で、てめぇが大事にしている兵士たちを。土地を。旗を。……この手で、粉々にぶち壊してやるのが楽しみでならねえ。……なぁ、女王様。 シャルロット:積年の恨み、長年の因縁、王としての宿命……全て。全てがこの戦いで終わる。 ガリウス:引き分けも協定も同盟もねえ。俺たちの末路は、勝つか負けるか、生きるか死ぬか、その二択だ。……いや、俺の末路はもう決まってる。何が起きても勝利し生きる、それだけだ。 シャルロット:ふふ、思い上がっていられるのは今の内だけだ。玉座に座れるその誉れを、残りの一時(いっとき)精々味わい尽くすが良い。 ガリウス:周辺諸国は我がレヴァンティンに落ちた。てめえもさっさと俺にひれ伏せ、シャーリー? シャルロット:貴様が無様な醜態を晒し息絶えた後は……その骸(むくろ)と踊ってやろう、ガリウス? ガリウス:勝つのは……、 ガリウス:(同時に)レヴァンティンだ! シャルロット:(同時に)エーベルヴァインだ! シャルロット: シャルロット: シャルロット: シャルロット: シャルロット:.