台本概要

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タイトル 『さやかに吹く風』景のニ《炙り鰯と、ホットミルク》
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 東京から、とある地方の、山あいの温泉郷へと移り住んで来た高校生、「さやか」。地元の人びととの、緩やかな交流。

冬の夜の縁側。七輪と網と、ご飯(および酒)の友。
「もう家族とは、ちゃうねんから」。
そんな風な、他愛もないお話です。
―2022年2月初旬―

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
さやか 81 「朱田(あけた) さやか」。東京から引っ越して来た高校1年生。首都圏の郊外の言葉。
弓世 87 「朱田 弓世(あけた ゆみよ)」。 さやかの叔母にあたる女性。日本酒党。関西の、田舎と街の混ざった言葉。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:今を生きる人が、少女であった頃の風。 誰かの声:「もう、会えないなんて、」 誰かの声:「そん、なの、嫌……、」 弓世(少女期):「やめときてっ! 今、もう、そんな時とちゃうやろ!!」 誰かの声:「嫌……、」 弓世(少女期):「会えるか、会えへんか、とか……、」 弓世(少女期):「そんなん! 先の事なんか、わからへんやん誰にもっ!」 弓世(少女期):「ほら、もう、危ないから……っ!」 誰かの声:「サヤカ、」 誰かの声:「サヤカ……っ、」 誰かの声:「約束……っ!」 0:タイトルコール。 弓世:『さやかに吹く風』。 弓世:今日のお話は、 さやか:景(けい)の二、 さやか:《炙り鰯(いわし)と、ホットミルク》。 0:西暦2022年、2月。 0:山林と渓谷の集落。堤防沿いの民家。 0:夜。 さやか:(居間へと入った所で) さやか:……いい匂い。 弓世:おーーー。 弓世:起きたん、さやか。 0:縁側で網を炙る叔母と、パジャマ姿の姪。 さやか:何か、変な夢、見て……、 弓世:どんなんー? さやか:……、忘れちゃった。 さやか:おかえり……、弓世さん。 弓世:ん。ただいま。 さやか:七輪……、お魚……? 弓世:鰯(いわし)よ、いわし。節分やからねぇ。 さやか:節分……、 さやか:そ、っか。 弓世:学校で豆投げたりしたー? さやか:無い、高校生だし……。 さやか:梢(こずえ)ちゃんは、袋の豆持って来てたけど……、 さやか:鬼の役やってくれる人、見つからなかった、みたい。 弓世:あっはははっ、あの子らしいわァ。 弓世:……ん、もうじき焼けるな。さやかも、あったら食べる? さやか:……牛乳、飲む。まず。 0:言い、冷蔵庫へと。コップに牛乳を注ぎ、レンジへ。 弓世:へっへへぇ。 弓世:鰯の匂いで起きてきて、牛乳飲んで。 弓世:ホンマに猫みたいやなぁ。 さやか:……にゃーん。 弓世:ふふ。 弓世:あ、ごめんついでに、中ぐらいの皿持って来てぇ。2枚ー。 さやか:はぁい。 0:食器棚から取り出した皿を、縁側へと。手渡す。 弓世:ん、ありがと。 弓世:これ……、ほな、2匹、後で食べや。 さやか:(受け取りつつ)うん。 0:叔母は七輪の火を止める。 弓世:ご飯食べて寝たん? さやか:……、学校終わって、眠かった、から。 さやか:ちょっと寝ようと思ったら、今。 弓世:ほな鰯、食べななぁ。 弓世:お腹が起きたら。 さやか:……わかんない、けど、ね。 さやか:お腹空いた、とか。 弓世:…ずっと? さやか:ん……、たまに、 さやか:たまに、空く、事もある。 弓世:ミルク飲んだら、多分空いてくるよ。 0:チーン、と、電子音。 弓世:ほら、レンジ先生呼んでる。 さやか:……うるさい先生、だ。 弓世:あははっ。 0:湯気立つカップをレンジから取り出し、戻る。 弓世:乾杯、しよかぁ。ミルクと大吟醸で。 さやか:……変なの。 弓世:気は心よ。慎ましい家族の団欒の。 さやか:家族……、 弓世:ふい、乾杯ー。おつかれー。 さやか:あ……、かん、ぱい。 0:チン、と高い音。叔母はきゅ、と杯を干す。 弓世:くぅキくぅーっ。冬の暖房効いた部屋でヒヤ飲むのん、最高やな……。 0:姪もズ、と熱い牛乳を啜り。 さやか:……ぬくいみるくも、さいこう、やな。 弓世:あはははは、下っ手ぁー、関西弁。ふっふふ。 0:注ぎ、飲む叔母。 弓世:っはぁ。 弓世:手酌最高。幸せやわぁ。 弓世:んで……、 弓世:イワシ先生のっ、ご登場です、っと……、 さやか:先生。 0:端をカリ、と齧る。 弓世:んーっ。うンまっ。 弓世:ちょっと塩して焼いただけやけど。 さやか:弓世さんって、 さやか:何でも美味しそうに食べて、飲む、よね。 弓世:食レポ芸人みたいに言わんといてもらえる? さやか:なれると思うよ。 弓世:あん人らプロやから。舐めたらアカンでぇ。 0:また齧り、飲む。感嘆。 弓世:はァー癒やされる……。 弓世:あ、寒ない? 暖房強(つよ)しいや、 さやか:大丈夫……。靴下、温かい。 弓世:モコモコ履いてるやん、ふふ。 弓世:私がなァー、靴下アカン族やからなぁ。 さやか:寒そう。裸足。 弓世:スリッパ温(ぬく)いから。慣れてるしな。 0:ズズ、と牛乳を啜る姪。 さやか:……ふぅ。 弓世:ふふ。 弓世:……馴れた? 色々。 さやか:学校? 弓世:も、含めて。 さやか:……意外と。大丈夫。 弓世:みんなアレやろ、最初は遠巻きやったやろ。 さやか:うん。 弓世:アレおもろいよなぁ、なんか。 弓世:興味あんのはビンビン伝わってくんのになぁ。 さやか:……結構、グイグイ来る人、居たから……、 弓世:あはは。東京からの転校生やしな、友達なるチャンス逃したないわな。 弓世:あとまあ……、さやか可愛いし。 さやか:……、わかんない。 弓世:環(たまき)さんに似てきてるわぁ。 弓世:兄貴の血ィは今んとこ……、髪の色ぐらいかな。 さやか:……、最近会ってない、から。お母さん。 弓世:会(お)うても自分ではわからへんで、多分。 弓世:似てるって言われてもさぁ、いやドコがやねん似てへんわっ、て。 弓世:よう言うヤツやけど。 さやか:弓世さんとお父さんは似てるよ。 弓世:イヤ似てへんってぇー。うちだけは例外やってぇーっ。 さやか:よく言うヤツ、だ。 さやか:……ふ、ふ。 弓世:あははははっ。 さやか:あ……、あと、 弓世:ん? さやか:先生……、 さやか:担任の、向川(むくがわ)先生が、 弓世:んぐっ。 弓世:……お、おー。アイツが。 弓世:何、かなァ、 さやか:弓世さんによろしく、って。 さやか:……知り合い? 弓世:ん、ん、まあ、まーーー。 弓世:アレもこの辺の出身やから。歳近いと、全員カオぐらい、イヤなる程見てるから、さーーー。 さやか:へえ……、 弓世:(小声で、独り言)……アイツあほんだらホンマ……っ。回りクドい事しくさって、別にフツーにメールなりLINEなりして来いやエエ歳してヘタレがホンマ、 さやか:弓世さん……? 弓世:あっ。エエねんエエねん、コッチの事ーー。 弓世:ヤバいヤバい、せっかく炙りたてのいわし先生冷えてまうわーー。 0:無理くり納め、鰯の腹部を齧る。白い身から、湯気が立つ。 弓世:……んン。中の方も焼き加減ちょうど。 弓世:ご飯にも合うわ、絶対。 さやか:ちょっとだけ……、食べよ、かな。お米。 弓世:ちゃんと炭水化物も食べんとな、頭回らへんで。 さやか:弓世さんは? 弓世:食べてるよ? ちゃんと。 弓世:空きっ腹で飲んだら気持ち悪なるし。飲んだら飲んだで食べたなるし。 さやか:太りそう。 弓世:うぐゥっっっっ! さやか:えっ……、 さやか:え、え、 0:さやか、狼狽。 弓世:(小刻みに震え)……デリケートなお年頃に剥き身のナイフはアカン……! 弓世:「太る」とか……直接表現やから……っ、 さやか:弓世さん、スタイル良い、のに。 さやか:だから、別に、全然……、 弓世:ちゃうねんっ……っ。 弓世:オトナの、ご本人にしかわからへんアレやコレがあんねん……っ、 さやか:ご、ごめん……、 弓世:いや……、ええねんええねん。 弓世:今は気にせず、いっぱい食べナサイ……。 0:キュ、と盃を干し、回復。 弓世:……ふぅ。 弓世:兄貴とは? さやか:え? 弓世:お父さん、とは。 弓世:連絡とか来る? さやか:……、あんまり、かな。 さやか:始業式の前の夜に、「頑張り過ぎたらダメだよ」、って。 さやか:それだけ。 弓世:はァーーー。 弓世:兄貴らしいけど。 弓世:……薄っす。 さやか:ふ、ふ。思った。 さやか:「コメント浅いね」って、返した。 弓世:そしたら? さやか:なんか、泣いてるヤツが来た。ダックスフントの。 弓世:スタンプのチョイスおっさんやん。せめてコーギーやろ。 さやか:違うの? なんか。ふ、ふふ。 弓世:そこがセンスやて。 弓世:コーギーを選べるかどうかが。 さやか:ふふふ、ふ。今度送っとく。 弓世:ダックスより今はコーギーやで、ってな。 さやか:「バイ、弓世」。 弓世:アカンって。「余計な事吹き込むな」て苦情来るから。 さやか:うっふふ。 さやか:…………、 さやか:……良いように、言っといて。 さやか:私の事は。 弓世:ん? さやか:お父さんに。弓世さんから。 さやか:……観察日記。 弓世:……「朱田(あけた)さやか」の自由研究? さやか:ふふ、……そう。 さやか:……よっぽどじゃなければ、お父さん、忙しいだろうし。 弓世:……若い女の相手でなぁ? へっ。けっ。 さやか:今は、奥さんだし。 さやか:……千波(ちなみ)さんは、面白い人だよ。 弓世:兄貴の好みはわかるけどー。 さやか:……でも。 さやか:友達が良い、かな。付き合うなら。 弓世:…………、 さやか:新しいお母さん、とか、 さやか:家族、とかは。 さやか:無理っぽそう、だったから。 弓世:……うん。そーよ、そら。 弓世:ちっちゃい子ォとちゃうねんからなァ? さやか:お父さんも……。 さやか:きっと、今のが、楽だと思うし。 弓世:…………、 弓世:……そォーーーーーー……、 弓世:やなぁ……。 弓世:ん。ぶっちゃけな。 0:くい、と一口含む。 弓世:……私はコレでも、兄貴との付き合い、さやかより長いけど。 さやか:そりゃそうだ。ふふ。 弓世:そーいうヤツやな、アイツは。目の前のおもろい事が全部やから。 さやか:うん。そーいうヤツ。 弓世:嫌いやないけどね。 弓世:チャランポランで楽やし。 弓世:アホでおもろいし。 さやか:……私も。そうだよ。 弓世:……せやからさぁ、 0:きゅ、と含みつつ、姪に目をやり。 弓世:たまぁにLINE送ったるぐらいでええよ。親子なんか。 さやか:……親、子。 弓世:もう家族とは、ちゃうねんから。 さやか:…………。 弓世:親子なんは一生変わらんけど。 弓世:でもそんなん、ソレだけで絆とか、そんなんとはちゃうと思うし。 弓世:相手の事、おもろいやんとか、ココは好きって、思える分だけの繋がりでエエよ。 さやか:…………、 0:暫し、静寂。黙考する姪。 さやか:……ダックスフントの、スタンプの分だけ? 弓世:あっははははっ。 弓世:そーそー。薄っすいコメントの分だけで十分よ。 弓世:あ、家族や友達は違うで? 弓世:チームやからな、ちょい面倒くても、上手いコトするトコはせなな。 さやか:家族、か……、 弓世:さやかも面倒いトコあるしなー? さやか:え、 さやか:……え? 弓世:晩酌(ば・ん・しゃ・く)、 弓世:付き合ってくれへんやーん。 弓世:せっかく鰯も焼いたのにっ。 さやか:…………、 弓世:へっへっへー。 さやか:……未成年、だし……、 さやか:それに……、私は、家族じゃ、 弓世:家族や、無かったらナニ? さやか:……え、と、 弓世:言うたやん。家族なんか、簡単にちゃうくなったり、なってもーたりすんねんて。 弓世:この家来て、最初にご飯食べて、お茶飲んで、風呂入って、お布団入って寝た辺りで、 弓世:さやか、家族なってもーてんねんで。 さやか:……、……、 弓世:面倒い事もあるやろし。 弓世:いつまで続く、って、先の事は誰もわからんけど。 弓世:……ひとまず、今を生きよや。 さやか:今……、 弓世:何や言うたかて若いねんから。さやかは。 さやか:…………。 0:にこり、と笑い。 さやか:弓世さんも。 さやか:若いもんね。 弓世:うぐゥゥっっっ!! 弓世:リ、リアル若い子ォのそーいうのんが1番効く……っ、 弓世:お、鬼ィ……っ、 さやか:うふ、ふふふっ。鬼。 さやか:豆、投げられなきゃ。 弓世:…………、豆撒き、する? さやか:ある、の? 豆、 弓世:無い。 さやか:ぷっ、ふふふっ、じゃ駄目じゃん。 弓世:鰯は居(お)るからなーっ。 弓世:頭でも飾るかァ。 さやか:それ、ホントにやってる家あって、へぇって思った……、 弓世:あーでもヒイラギ千切ってくんのん面倒いなァー……、 0:遮り、ぐうーーー、と、腹の虫。 さやか:……あ。 弓世:おっ。お腹先生起きはったやーん。 さやか:……喋ってたら、 弓世:たら。お腹がぁ? さやか:…………。 さやか:空いた、ような……、 さやか:感じ? 弓世:ひひっ。 弓世:よォっしゃっ、 弓世:米盛ろォーっ。 0:縁側より、立ち上がる。 0:外は真冬の寒気。 0:追儺(ついな)の鰯の丸い目が、家族の姿を見つめていた。 0:【終】 0:景の三へ、続く。

0:今を生きる人が、少女であった頃の風。 誰かの声:「もう、会えないなんて、」 誰かの声:「そん、なの、嫌……、」 弓世(少女期):「やめときてっ! 今、もう、そんな時とちゃうやろ!!」 誰かの声:「嫌……、」 弓世(少女期):「会えるか、会えへんか、とか……、」 弓世(少女期):「そんなん! 先の事なんか、わからへんやん誰にもっ!」 弓世(少女期):「ほら、もう、危ないから……っ!」 誰かの声:「サヤカ、」 誰かの声:「サヤカ……っ、」 誰かの声:「約束……っ!」 0:タイトルコール。 弓世:『さやかに吹く風』。 弓世:今日のお話は、 さやか:景(けい)の二、 さやか:《炙り鰯(いわし)と、ホットミルク》。 0:西暦2022年、2月。 0:山林と渓谷の集落。堤防沿いの民家。 0:夜。 さやか:(居間へと入った所で) さやか:……いい匂い。 弓世:おーーー。 弓世:起きたん、さやか。 0:縁側で網を炙る叔母と、パジャマ姿の姪。 さやか:何か、変な夢、見て……、 弓世:どんなんー? さやか:……、忘れちゃった。 さやか:おかえり……、弓世さん。 弓世:ん。ただいま。 さやか:七輪……、お魚……? 弓世:鰯(いわし)よ、いわし。節分やからねぇ。 さやか:節分……、 さやか:そ、っか。 弓世:学校で豆投げたりしたー? さやか:無い、高校生だし……。 さやか:梢(こずえ)ちゃんは、袋の豆持って来てたけど……、 さやか:鬼の役やってくれる人、見つからなかった、みたい。 弓世:あっはははっ、あの子らしいわァ。 弓世:……ん、もうじき焼けるな。さやかも、あったら食べる? さやか:……牛乳、飲む。まず。 0:言い、冷蔵庫へと。コップに牛乳を注ぎ、レンジへ。 弓世:へっへへぇ。 弓世:鰯の匂いで起きてきて、牛乳飲んで。 弓世:ホンマに猫みたいやなぁ。 さやか:……にゃーん。 弓世:ふふ。 弓世:あ、ごめんついでに、中ぐらいの皿持って来てぇ。2枚ー。 さやか:はぁい。 0:食器棚から取り出した皿を、縁側へと。手渡す。 弓世:ん、ありがと。 弓世:これ……、ほな、2匹、後で食べや。 さやか:(受け取りつつ)うん。 0:叔母は七輪の火を止める。 弓世:ご飯食べて寝たん? さやか:……、学校終わって、眠かった、から。 さやか:ちょっと寝ようと思ったら、今。 弓世:ほな鰯、食べななぁ。 弓世:お腹が起きたら。 さやか:……わかんない、けど、ね。 さやか:お腹空いた、とか。 弓世:…ずっと? さやか:ん……、たまに、 さやか:たまに、空く、事もある。 弓世:ミルク飲んだら、多分空いてくるよ。 0:チーン、と、電子音。 弓世:ほら、レンジ先生呼んでる。 さやか:……うるさい先生、だ。 弓世:あははっ。 0:湯気立つカップをレンジから取り出し、戻る。 弓世:乾杯、しよかぁ。ミルクと大吟醸で。 さやか:……変なの。 弓世:気は心よ。慎ましい家族の団欒の。 さやか:家族……、 弓世:ふい、乾杯ー。おつかれー。 さやか:あ……、かん、ぱい。 0:チン、と高い音。叔母はきゅ、と杯を干す。 弓世:くぅキくぅーっ。冬の暖房効いた部屋でヒヤ飲むのん、最高やな……。 0:姪もズ、と熱い牛乳を啜り。 さやか:……ぬくいみるくも、さいこう、やな。 弓世:あはははは、下っ手ぁー、関西弁。ふっふふ。 0:注ぎ、飲む叔母。 弓世:っはぁ。 弓世:手酌最高。幸せやわぁ。 弓世:んで……、 弓世:イワシ先生のっ、ご登場です、っと……、 さやか:先生。 0:端をカリ、と齧る。 弓世:んーっ。うンまっ。 弓世:ちょっと塩して焼いただけやけど。 さやか:弓世さんって、 さやか:何でも美味しそうに食べて、飲む、よね。 弓世:食レポ芸人みたいに言わんといてもらえる? さやか:なれると思うよ。 弓世:あん人らプロやから。舐めたらアカンでぇ。 0:また齧り、飲む。感嘆。 弓世:はァー癒やされる……。 弓世:あ、寒ない? 暖房強(つよ)しいや、 さやか:大丈夫……。靴下、温かい。 弓世:モコモコ履いてるやん、ふふ。 弓世:私がなァー、靴下アカン族やからなぁ。 さやか:寒そう。裸足。 弓世:スリッパ温(ぬく)いから。慣れてるしな。 0:ズズ、と牛乳を啜る姪。 さやか:……ふぅ。 弓世:ふふ。 弓世:……馴れた? 色々。 さやか:学校? 弓世:も、含めて。 さやか:……意外と。大丈夫。 弓世:みんなアレやろ、最初は遠巻きやったやろ。 さやか:うん。 弓世:アレおもろいよなぁ、なんか。 弓世:興味あんのはビンビン伝わってくんのになぁ。 さやか:……結構、グイグイ来る人、居たから……、 弓世:あはは。東京からの転校生やしな、友達なるチャンス逃したないわな。 弓世:あとまあ……、さやか可愛いし。 さやか:……、わかんない。 弓世:環(たまき)さんに似てきてるわぁ。 弓世:兄貴の血ィは今んとこ……、髪の色ぐらいかな。 さやか:……、最近会ってない、から。お母さん。 弓世:会(お)うても自分ではわからへんで、多分。 弓世:似てるって言われてもさぁ、いやドコがやねん似てへんわっ、て。 弓世:よう言うヤツやけど。 さやか:弓世さんとお父さんは似てるよ。 弓世:イヤ似てへんってぇー。うちだけは例外やってぇーっ。 さやか:よく言うヤツ、だ。 さやか:……ふ、ふ。 弓世:あははははっ。 さやか:あ……、あと、 弓世:ん? さやか:先生……、 さやか:担任の、向川(むくがわ)先生が、 弓世:んぐっ。 弓世:……お、おー。アイツが。 弓世:何、かなァ、 さやか:弓世さんによろしく、って。 さやか:……知り合い? 弓世:ん、ん、まあ、まーーー。 弓世:アレもこの辺の出身やから。歳近いと、全員カオぐらい、イヤなる程見てるから、さーーー。 さやか:へえ……、 弓世:(小声で、独り言)……アイツあほんだらホンマ……っ。回りクドい事しくさって、別にフツーにメールなりLINEなりして来いやエエ歳してヘタレがホンマ、 さやか:弓世さん……? 弓世:あっ。エエねんエエねん、コッチの事ーー。 弓世:ヤバいヤバい、せっかく炙りたてのいわし先生冷えてまうわーー。 0:無理くり納め、鰯の腹部を齧る。白い身から、湯気が立つ。 弓世:……んン。中の方も焼き加減ちょうど。 弓世:ご飯にも合うわ、絶対。 さやか:ちょっとだけ……、食べよ、かな。お米。 弓世:ちゃんと炭水化物も食べんとな、頭回らへんで。 さやか:弓世さんは? 弓世:食べてるよ? ちゃんと。 弓世:空きっ腹で飲んだら気持ち悪なるし。飲んだら飲んだで食べたなるし。 さやか:太りそう。 弓世:うぐゥっっっっ! さやか:えっ……、 さやか:え、え、 0:さやか、狼狽。 弓世:(小刻みに震え)……デリケートなお年頃に剥き身のナイフはアカン……! 弓世:「太る」とか……直接表現やから……っ、 さやか:弓世さん、スタイル良い、のに。 さやか:だから、別に、全然……、 弓世:ちゃうねんっ……っ。 弓世:オトナの、ご本人にしかわからへんアレやコレがあんねん……っ、 さやか:ご、ごめん……、 弓世:いや……、ええねんええねん。 弓世:今は気にせず、いっぱい食べナサイ……。 0:キュ、と盃を干し、回復。 弓世:……ふぅ。 弓世:兄貴とは? さやか:え? 弓世:お父さん、とは。 弓世:連絡とか来る? さやか:……、あんまり、かな。 さやか:始業式の前の夜に、「頑張り過ぎたらダメだよ」、って。 さやか:それだけ。 弓世:はァーーー。 弓世:兄貴らしいけど。 弓世:……薄っす。 さやか:ふ、ふ。思った。 さやか:「コメント浅いね」って、返した。 弓世:そしたら? さやか:なんか、泣いてるヤツが来た。ダックスフントの。 弓世:スタンプのチョイスおっさんやん。せめてコーギーやろ。 さやか:違うの? なんか。ふ、ふふ。 弓世:そこがセンスやて。 弓世:コーギーを選べるかどうかが。 さやか:ふふふ、ふ。今度送っとく。 弓世:ダックスより今はコーギーやで、ってな。 さやか:「バイ、弓世」。 弓世:アカンって。「余計な事吹き込むな」て苦情来るから。 さやか:うっふふ。 さやか:…………、 さやか:……良いように、言っといて。 さやか:私の事は。 弓世:ん? さやか:お父さんに。弓世さんから。 さやか:……観察日記。 弓世:……「朱田(あけた)さやか」の自由研究? さやか:ふふ、……そう。 さやか:……よっぽどじゃなければ、お父さん、忙しいだろうし。 弓世:……若い女の相手でなぁ? へっ。けっ。 さやか:今は、奥さんだし。 さやか:……千波(ちなみ)さんは、面白い人だよ。 弓世:兄貴の好みはわかるけどー。 さやか:……でも。 さやか:友達が良い、かな。付き合うなら。 弓世:…………、 さやか:新しいお母さん、とか、 さやか:家族、とかは。 さやか:無理っぽそう、だったから。 弓世:……うん。そーよ、そら。 弓世:ちっちゃい子ォとちゃうねんからなァ? さやか:お父さんも……。 さやか:きっと、今のが、楽だと思うし。 弓世:…………、 弓世:……そォーーーーーー……、 弓世:やなぁ……。 弓世:ん。ぶっちゃけな。 0:くい、と一口含む。 弓世:……私はコレでも、兄貴との付き合い、さやかより長いけど。 さやか:そりゃそうだ。ふふ。 弓世:そーいうヤツやな、アイツは。目の前のおもろい事が全部やから。 さやか:うん。そーいうヤツ。 弓世:嫌いやないけどね。 弓世:チャランポランで楽やし。 弓世:アホでおもろいし。 さやか:……私も。そうだよ。 弓世:……せやからさぁ、 0:きゅ、と含みつつ、姪に目をやり。 弓世:たまぁにLINE送ったるぐらいでええよ。親子なんか。 さやか:……親、子。 弓世:もう家族とは、ちゃうねんから。 さやか:…………。 弓世:親子なんは一生変わらんけど。 弓世:でもそんなん、ソレだけで絆とか、そんなんとはちゃうと思うし。 弓世:相手の事、おもろいやんとか、ココは好きって、思える分だけの繋がりでエエよ。 さやか:…………、 0:暫し、静寂。黙考する姪。 さやか:……ダックスフントの、スタンプの分だけ? 弓世:あっははははっ。 弓世:そーそー。薄っすいコメントの分だけで十分よ。 弓世:あ、家族や友達は違うで? 弓世:チームやからな、ちょい面倒くても、上手いコトするトコはせなな。 さやか:家族、か……、 弓世:さやかも面倒いトコあるしなー? さやか:え、 さやか:……え? 弓世:晩酌(ば・ん・しゃ・く)、 弓世:付き合ってくれへんやーん。 弓世:せっかく鰯も焼いたのにっ。 さやか:…………、 弓世:へっへっへー。 さやか:……未成年、だし……、 さやか:それに……、私は、家族じゃ、 弓世:家族や、無かったらナニ? さやか:……え、と、 弓世:言うたやん。家族なんか、簡単にちゃうくなったり、なってもーたりすんねんて。 弓世:この家来て、最初にご飯食べて、お茶飲んで、風呂入って、お布団入って寝た辺りで、 弓世:さやか、家族なってもーてんねんで。 さやか:……、……、 弓世:面倒い事もあるやろし。 弓世:いつまで続く、って、先の事は誰もわからんけど。 弓世:……ひとまず、今を生きよや。 さやか:今……、 弓世:何や言うたかて若いねんから。さやかは。 さやか:…………。 0:にこり、と笑い。 さやか:弓世さんも。 さやか:若いもんね。 弓世:うぐゥゥっっっ!! 弓世:リ、リアル若い子ォのそーいうのんが1番効く……っ、 弓世:お、鬼ィ……っ、 さやか:うふ、ふふふっ。鬼。 さやか:豆、投げられなきゃ。 弓世:…………、豆撒き、する? さやか:ある、の? 豆、 弓世:無い。 さやか:ぷっ、ふふふっ、じゃ駄目じゃん。 弓世:鰯は居(お)るからなーっ。 弓世:頭でも飾るかァ。 さやか:それ、ホントにやってる家あって、へぇって思った……、 弓世:あーでもヒイラギ千切ってくんのん面倒いなァー……、 0:遮り、ぐうーーー、と、腹の虫。 さやか:……あ。 弓世:おっ。お腹先生起きはったやーん。 さやか:……喋ってたら、 弓世:たら。お腹がぁ? さやか:…………。 さやか:空いた、ような……、 さやか:感じ? 弓世:ひひっ。 弓世:よォっしゃっ、 弓世:米盛ろォーっ。 0:縁側より、立ち上がる。 0:外は真冬の寒気。 0:追儺(ついな)の鰯の丸い目が、家族の姿を見つめていた。 0:【終】 0:景の三へ、続く。