台本概要

 272 views 

タイトル 30個のチョコレート
作者名 まゆしぃ  (@mayuseapo3a)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 幼馴染結婚をする二人が幼少期からの思い出を振り返るお話。
ボイコネのペアシナリオ公式イベント参加シナリオ。

【キャプション】
結婚式で上映するビデオのために写真を選ぶ二人。
幼馴染の2人は、それこそ生まれた時からずっと一緒に時を過ごした写真が溢れていた。
懐かしさを噛みしめながらあれやこれやと話す。

【ご確認ください】
〇していい事〇演者性別変更・一人称の変更・語尾の変更・方言への変更
×ご遠慮ください×人数変更・キャラクター性別変更・過度なアドリブ・内容改変

※幼少期や、思春期に場面が飛ぶことがありますが無理に幼児ボイスを出さなくても大丈夫です。地声より少し高いかなくらいを意識していただいてラフに読んでいただければと思います。

・茶化したり、誹謗中傷等はご遠慮ください。
・誤字などございましたら作者TwitterDMまでどうぞ。

□SpecialThanks
編集、読み合わせにご協力頂きました。
ロズナー様

mayu's_story (2020.10.22 投稿) 13,430 文字 (2023.5.12編集/声劇台本置き場様投稿)

 272 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
克一 140 中村克一(なかむらこういち)由香里の旦那になる人。 由香里にはこうちゃんとか、貴方とか呼ばれている。 由香里の幼馴染で家族ぐるみで仲がいい。 母は料理上手で、父はキャンプが好き。 小さい頃から由香里が好きだった。
由香里 143 加藤由香里(かとうゆかり)克一の嫁になる人。 克一にはユカと呼ばれている。 克一の幼馴染で、小さい頃から食い意地が張っている。 母は裁縫が得意で、父はパーティーをするのが好き。 小さい頃から克一が隣にいるのが当たり前で、ある時まで恋愛対象として意識したことはなかった。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:―― 幼い頃。幼稚園の門の外で喧嘩をする二人 0:気の強い由香里は克一に強い言葉をかける。 0:引くに引けない克一も売り言葉に買い言葉で返してしまい、ついには大嫌いと言い合うのだった。  由香里:「こうちゃんなんて大っ嫌い!」 克一:「俺もユカなんか大っ嫌いだよ!」 由香里:「もう、幼稚園一緒に来てあげないから!」 克一:「お、俺だって、もう幼稚園から一緒に帰ってやらねぇからな!」 由香里:「いいもん!もう、バレンタインのチョコレートもあげないし、夏の花火も誘ってあげないんだからっ」 克一:「っ!俺だって!俺だって!母ちゃんがお前の好物を作っても誘ってやらないし、旅行のお土産も買ってきてやらねぇからな!」 由香里:「っ…おばちゃんのごはん……もう食べられないの…?」 克一:「お、おい!泣くなよ!お前が言い出したんだろ!!」 由香里:「…グスン……おばちゃんの…ごはん…うわぁぁぁぁぁあん」 克一:「わかった!わかったよ!なし!今のなしだから!泣くなよ…」 克一:  由香里:(N)控えめに私の頭を撫でるこうちゃんの手はぎこちなかった。 由香里:喧嘩のきっかけはなんだっただろうか…些細なことで意地を張っては、いつもこうちゃんを困らせていた。 由香里:  0:間  克一:(N)俺たちはいつもこうやって喧嘩をして、涙腺の弱いらしいユカが泣いた。 克一:だけど、どうせ毎回このあとに、俺の母ちゃんからげんこつをお見舞いされて俺も大泣きするんだ… 克一:  0:間 0:  0:時間軸は現在 0:リビングのソファーで並んで座りアルバムを開いている2人 0:先ほどの幼稚園の頃の写真を指差している  克一:「この写真、懐かしいな…」 由香里:「えーやだよ。いつの写真?」 克一:「お前顔真っ赤にして泣いてやんの」 由香里:「うっそ、ほんとにいつの?こんな写真燃やしてよ!恥ずかしいもん!」 克一:「ははっ、お前がすんごいくだらない事でキレてさ、いつも家族ぐるみでやっていた夏の花火に、もう誘ってやらないって怒ったんだよな」 由香里:「あー…思い出したわ。こうちゃんが、私の好物をおばさんが作っても、家に呼んでやんないからな!って、言い返してきてさ…」 克一:「俺の母ちゃんの飯が好きなお前は、大泣きしたんだ」 由香里:「しょうがないじゃない!おばさんのご飯を引き合いに出すのは卑怯だよ…!」 克一:「ははっ、あの頃の俺には両家合同(りょうけごうどう)の花火も、それから…お前のチョコがもらえないってことも結構堪えた(こたえた)んだけどな?」 由香里:「え?チョコ、そんなに好きだったっけ?」 克一:「ばーか!そうじゃないことくらいわかるだろ」 由香里:「あはは、そっかぁ…待ち遠しく思ってくれていて、嬉しいよ。しかたないなぁ、今年はこうちゃんの好きな…なんだっけ?あれ、作ってあげる」 克一:「まったく、名前も覚えてないのに本当に作ってくれんのかよ」 由香里:「フォンダンショコラだっけ?(わざと間違う)」 克一:「 ちげぇよ。わかってるくせに。っていうか、難しいんだろ?お前作れんの?」 由香里:「あー!ひどい!前に一回作ってあげたことあったでしょ?」 克一:「いや、覚えてるけど、だって…アレは…(言い淀む)」 由香里:「確かに見た目ちょっと…アレだったけどさぁ」 克一:「いや、味は旨かったよ?」 由香里:「あのね!知ってる?テンパリングって難しいんだよ?」 克一:「はいはい、俺のために、いつもありがとうな」 由香里:「わかればよろしいっ!(楽しそうに笑う)」 由香里:  0:間 由香里:(N)そう、たしかこの年もお母さんと一緒に買った、流行っていたアニメの小さいチョコレートを渡した。 由香里:ぎこちない私とは対照的に、嬉しそうに受け取って、美味しそうに食べていた貴方… 由香里:(ワンテンポ置く)幼稚園に入った年から、母に促されるままパパの分に追加してこうちゃんにもチョコレートを買った。 由香里:でもこの頃の私は、きらきらしたチョコレート売り場の中で、どうしたら自分も美味しいチョコを食べられるか、なんて考えていた気がする。 由香里:隣の男の子へ、義理も義理のチョコを買って、でも渡し行くのはひどく緊張して、恥ずかしかったのを覚えている。 由香里:  克一:(N)毎年、となりの女の子が恥ずかしそうにインターホンを鳴らす冬が好きだった。 克一:いつもはお構いなしに入ってくるくせにその日は決まって、もじもじとして、でもぶっきらぼうにチョコレートを差し出すユカ。 克一:2月に入ると、14日が来るのを指折り数えていた。 克一:年長クラスの頃だったか、2月3日の夜、豆まきが終わった日に、一気に14日になってほしくて13日までのカレンダーにマジックでバッテンを書き込んで父親には怒られ、母親には思いっきり笑われた。 克一:  0:間 0:また別のページを開き、別の写真を指差す由香里 0:由香里の小学生時代の体操部の大会の写真 由香里:「あ、この写真も懐かしい!部活の大会のときのだ!」 克一:「あー…ってお前ブルマじゃん!ブルマとか懐かしいなぁ」 由香里:「バカ!どこ見てんのよ!…しょうがないでしょ、体操部のユニフォームは皆これなんだから」 克一:「そうだったっけ?」 由香里:「この日さ、六年生で最後の大会なのに本番ぎりぎりまで技が一個できなくて…どうしてもできなくてさぁ」 克一:「あれ、そうだっけ?」 由香里:「そうなの!本当にぎりぎりまで練習していたのにできなかったんだよ。でも、本番で何故かできちゃったんだよねぇ…」 克一:「は?なんで本番だけできたの?」 由香里:「天才だからかな…?」 克一:「…」 由香里:「いや、突っ込んでよ(軽く克一を叩きながら苦笑する)でもね、全然わかんないんだけど、急にポンッとできちゃってさぁ、私絶対できないと思って本番に望んでいたから、できてびっくりして力抜けそうだったよ(笑う)」 克一:「そっか、そんな裏話があったんだな…。確か母ちゃんに引っ張って行かれたけど、俺、体操なんて全然わかんないし、でも演技が終わったお前が、すごい笑顔だったのは覚えているよ」 由香里:「ふっふ~♪だって突然本番でできたんだもん!体操部、楽しかったなぁ」 克一:「よく言うよ!お前いつも鉄棒で手に豆作って痛い~だの、跳び箱にぶつかって足痛い~だの、泣き言ばっかりだったじゃねぇか。楽しかったなんて聞いたことねぇぞ?」 由香里:「いいの!終わりよければすべてよしなんだよ!」 克一:「はぁ…(ため息)お前は負けず嫌いなんだから、本番なんか、どうせなんとかなったよ」 由香里:「えー!私より、こうちゃんの方が負けず嫌いじゃん!」 克一:「俺のどこが負けず嫌いだよ!」 由香里:「(ぼそっと)そういうとこだよ…」 由香里: 0:間  由香里:(N)小学校の時は、ちょっとだけお小遣いを持てるようになって、量販店で買ったチョコレートを渡していた。 由香里:何かしら貴方のことだけを考えて選んだ、サッカーボールとかのモチーフが入ったチョコレートを選んだ。貴方が喜んでくれると思って。 由香里:6年生の時、クラスメイトと一回だけ、うちでチョコを作ったなぁ。 由香里:あの日一日、こうちゃんは我が家に出入り禁止で、なんでだよー!って、拗ねていたっけ。 由香里:  克一:(N)小学校6年生の冬は、初めてユカから手作りのチョコをもらった。 克一:よくある、チョコレートを溶かして固めただけの可愛らしいチョコ。それでも、俺はひどく感動したし踊りだしたいくらい嬉しかった。 克一:翌日、俺を迎えに来たユカは何か言いたそうにもじもじしていた。 克一:でも俺にはユカが大人しいわけがわかんなくて、能天気に「なんでそんな大人しいんだよ、雨降るぞ」とか言って、また母ちゃんにげんこつをお見舞いされた。 克一:ようやく理解した俺は「おいしかったよ」と痛みをこらえながら言うと、あいつは殴られた俺を笑っていたくせに、頬が紅く(あかく)色づいていた。 克一:  克一:  0:由香里は克一のアルバムのページを覗き込み別の写真を指差す 0:克一の中学時代のサッカーの試合の写真 由香里:「あ、ほらこれ、中学の時の、サッカー部の大会の写真でしょ?」 克一:「げ…これはいいよ」 由香里:「やーだ。私のブルマ姿じっくり見やがったくせに!」 克一:「こんな写真、かっこわるいだろ?」 由香里:「なんで?一生懸命やった結果じゃん」 克一:「…」 由香里:「この日は寒くてさぁ、うちのママが紅茶持ってきてくれてスタンドで飲んだなぁ。おばちゃんがフィナンシェ作ってきてくれてさ、美味しかったぁ」 克一:「お前…こういうときも食欲なのかよ…」 由香里:「ちがっ!ちがうよ!ちゃんと試合中は応援したもん!」 克一:「はいはい、いいですよー別に」 由香里:「ちゃんと見てたよ!こうちゃんが、シュート決めたところ!」 克一:「何本シュート決めたか覚えているのか?」 由香里:「えーっと(目を泳がせる)さん…ぼん?」 克一:「あーたーりー!だけど、お前あてずっぽうだろ!(軽くこづく)」 由香里:「あーイタイイタイ!DVだ!でぃーぶぃぃ!!(大げさに騒ぐ)」 克一:「はいはい、ごめんごめん。(頭を撫でる)ったく、ちゃんと覚えておけよなー。まったく、この写真は使わなくていいって言ってんのに」 由香里:「んー(頭を撫でられて照れる)だって、サッカーやってるこうちゃんも、かっこよかったもん」 克一:「うるせぇ(ちょっと嬉しそう)、どうせこのあと逆転されて負けるんだからいいんだよ、こんなのは」 由香里:「泣いている姿なんて貴重なんだから、この写真はいるの。大事な思い出じゃん!これも使おうっと」 克一:「まったく、お前面白がってんだろ」 由香里:「まぁねー!楽しいもん!」 克一:「お、こっち写真も懐かしいな(ごまかすように別の写真を見る)」 克一:   由香里:(N)中学生になっても、私はお小遣いで買ったチョコを渡した。 由香里:クラスで流行っているファッション雑誌をみては、クラスメイトと何を作るだのどれを買うだの浮き足だった。 由香里:けれど、どんなに作ろうと友達に誘われても、こうちゃんのおばさんの美味しいお菓子には絶対叶うわけがないから、私は恥ずかしくて、ずっと買ったチョコをあげていたんだ。 由香里:  0:間 由香里:「そういえば、中学最後の年にさ、試合で3本もゴール決めたからさ…あの年、すごいバレンタインのチョコ貰ってたじゃん…」 克一:「いや、義理だろあんなの!」 由香里:「はー?え?あのさ…気が付いてないの?」 克一:「え?だって別に告白とかされてねぇよ?」 由香里:「いやマジでまって…中学の地区大会の決勝で、負けたとはいえ3本もシュート決めたんだよ?」 克一:「負けた話はするな…」 由香里:「ねぇ、隣のクラスの亜美さんとか、委員長やっていた菫さんとか本気だったよね?気がついてないの?」 克一:「いや…まじ…?」 由香里:「うわぁ…かわいそう…」 克一:「ぁ…すまん…」 由香里:「まぁ…それはいいのだけどさ、クラスメイトから義理チョコもたっくさん貰ってたじゃん?」 克一:「そう、確か学校で貰ったのは全部で28個!(ちょっと誇らしそうに)」 由香里:「よく覚えてんね…そうね、そのくらい机にあったわね。だからね、あの時すっごくチョコレート貰っていたから、私のチョコ、捨てるか悩んだんだよね」 克一:「っ?なんで?」 由香里:「あーんなにもらっているから、私のチョコなんか、要らないかなって。食べきれないかなって、鼻血でるじゃん…?」 克一:「ばーか。お前のチョコを一番待ってたのに、要らないなんてことあるかよ」 由香里:「でも、捨てようか昇降口で悩んでいたらさ、こうちゃんが紙袋に無造作にいれたチョコを抱えてきて…」 克一:「見かねた女子が紙袋くれたんだよなぁ…あれは助かったわ」 由香里:「そんで、私に『ユカ、チョコ、くれないの?』とか言って子犬みたいな顔してくるから、ついあげちゃったんだよね」 克一:「子犬って…。クラスで待ってんのに、ユカは鞄ごと居なくなってるからさ、家でくれんのかなって帰ろうと思ったら、お前、昇降口にいたから…」 由香里:「いたから?」 克一:「つい、口から出ちゃったんだよ」 由香里:「本音が?」 克一:「まぁ、そう…。そういうことだよ」 由香里:「そんなに待ってたの?」 克一:「待ってた」 由香里:「ほかの子みたいに手作りでもないのに?」 克一:「おう、待ってた」 由香里:「あんなに、たくさん貰ってたのに?」 克一:「俺は!…まぁたしかに、あんなにもらって浮かれていたかもしれないけど、俺はユカからのチョコレートを毎年待ってるんだぜ?」 由香里:「そっかぁ…たくさん悩んだけど、あげてよかったんだねぇ」 克一:「あぁ、嬉しかったよ」 克一:  0:間 克一:(N)小6の冬以来、ユカは手作りのチョコをくれることはなかった。 克一:それでも俺は毎年決まってチョコをくれることが嬉しかったしユカと、母ちゃんがくれる2個のチョコが楽しみだった。 克一:中学最後のバレンタインのあと、ユカがちょいちょい俺の家に遊びに来るようになったけど、それは決まって俺が塾の日で俺と遊んでくれることは減った。 克一:「まったく、母ちゃんばっかりユカとしゃべって、ずるくないか?」 克一:そう言っても、娘が欲しかった母ちゃんが嬉しそうに笑うからそれ以上、俺は何も言えなかった。 克一:  0:間 0:中学生時代。高校受験の日 0:同じ高校を受験する2人だが、学力の十分足りている克一は余裕がある 0:あがり症の由香里は緊張し騒いでいる 由香里:「あーーーもう受験とか嫌だ!!なんでこんなことしなきゃいけないの!帰りたい!」 克一:「大丈夫だよ、お前あんなに勉強頑張ってたじゃんか」 由香里:「そうだけど!そうだけど!!どうしよう、急にお腹痛くなったら!」 克一:「大丈夫、大丈夫!おばさんが薬も持たせてくれただろ」 由香里:「どうしよう!シャーペンの芯が折れてかけなくなったら!」 克一:「替えの芯持って来ただろ」 由香里:「どうしよう!!消しゴム落としたら!!」 克一:「手を挙げて監督の先生に拾ってもらえよ!緊張しすぎだ!」 由香里:「わーーーこうちゃぁぁぁん」 由香里:(叫ばなくてもいいのでジタバタしてください) 克一:「わかったわかった。母ちゃんが今夜俺らの好物作って待ってるから、頑張れよ」 由香里:「んんん?!ほんと?!じゃぁ頑張る」 克一:「お前本当…食い意地だけは張ってるんだよなぁ…まさかこんな日まで…まぁ、やる気出たならいいか」 克一: 0:間  由香里:(N)そして私はうんうんと唸りながらなんとか受験を乗り越え、こうちゃんのお母さんの作った美味しいごはんをおなかいっぱい食べた。 克一:(N)それから、俺たちはあっという間に、合格発表の日を迎えた。 克一:余裕の成績だった俺はともかく、俺もユカも、互いの両親も、ユカが合格できたのかどうかを考えて気が気じゃなかった。 克一:  0:中学生時代。高校受験の合格発表の日。 0:冬の寒い日。合格発表も一緒に見に来ている。 0:ちなみにまだ付き合っていない。 由香里:「あーーーーどうしよう!緊張してきた!!!」 克一:「え、緊張してんの?だってお前朝から母ちゃんのフレンチトースト食ってただろ!」 由香里:「おいしいものはおいしいもので、結果発表は結果発表なの!」 克一:「はぁ(ため息)もういいよ…それで。お前、何番?」 由香里:「えっと…あれ?受験票どこだっけ?えっと…」 克一:「はいはい…まったく子供か…」 由香里:「えっと、受験票受験票……(鞄をごそごそとする)」 克一:「俺は…892番か」 由香里:「んっとぉ…887。えっと、887…887…」 克一:「おい!あったぞ!887!!!」 由香里:「え?本当??…あっ!!!ほんとだ!!!やった!やった私!受かった!やった!!」 克一:「よかったなぁ…」 由香里:「こうちゃんは…えっと、892……89…2…ねぇ!あった!あの一番下のところ!!」 克一:「お!ほんとだ。よかったー大丈夫とは思っていたけど、よかった……安心し…ってうわっっ」  0:由香里は克一にだきつく 由香里:「よかったぁ!二人で高校に通えるね!!よかった!!!」 克一:「ちょ、おま、お前!皆見てる!公衆の面前で抱き着くな!こらっ!」 由香里:「あ、え、ごめん……えっと…よ、よかったね、二人共受かってて」 克一:「とりあえず、うちに電話しようぜ。ユカの家族もうちにいるんだろ」 由香里:「うん、こうちゃんちでパーティーの準備するって言ってた」 克一:「あー…ユカが落ちたらどうするつもりなんだろな…」 由香里:「なんで私なのよ!」 克一:「俺のほうが学力上だから」 由香里:「くっ…くっそくっそぉぉ!いいもん!受かったもん!わーたーしーでーもー!!!」 克一:「はいはい、よかったな(由香里の頭を撫でる)」 由香里:「うー!いつまでも子ども扱いするなぁ!」 克一:「いや、お前はいつまでも子供だろ」 由香里:「じゃぁ、子供だからデザート一番大きいのもーらおう♪」 克一:「今日は合格祝賀会だから譲ってやるよ(苦笑)」 克一:  0:家に電話する克一 0:ここから各家族との電話のシーンになります。 0:家族のセリフを考えながら演じてください。  克一:「もしもし?母さん?」 克一:「あぁ、うん、大丈夫。俺は大丈夫だって言っただろ?」 克一:「あぁ、ユカも受かったよ」 克一:(スマホから耳を離す) 克一:「後ろからユカの父さんの叫び声聞こえんだけど…おいユカ、変われよ」 由香里:「うわー…はずかしいな…」 :  由香里:(ありがとうとスマホを受け取って耳に当てる) 由香里:「もしもし?あぁ、おばさん、うちのパパがうるさくてごめんなさい?」 由香里:「あぁ、はい、すみませんありがとうございます…あ、ママ?」 由香里:「ぱぱ…うるさいから黙らせて?」 由香里:「うん、うん!受かった!受かったよぉ!!!(無理のない程度で大声)」 克一:「ちょ!皆見てるから止めろ小さい声で言え!」 由香里:「う、うん。大丈夫!早めに帰るね!」 由香里:「パパ?パパはいいよ。人様の家で騒ぐようなパパには私の口からおしえてあげなぁい!」 由香里:「んー…わかったよ、かわって?」 由香里:「あ、パパ?こうちゃんちで騒がないでよ恥ずかしい」 由香里:「うん、うん…大丈夫。パパとママの子だからね!ぎりぎり合格ぅ!」 由香里:「うん、すぐ帰るから、まってて!じゃーね!」 0:由香里は電話を切って、克一に返す 由香里:「スマホ、ありがと。皆待ってるってさ!よ~し、学校に報告して早く帰ろう!」 克一:「OK!待たせると母ちゃんうるさいから早く行こうぜ!」 由香里:「はぁ、楽しみだなぁ…」 克一:「涎、垂らすなよな…?」 由香里:「うーるーさーいーっ!」 由香里:  0:間 由香里:(N)そのまま高校に手続きのための書類をもらって私たちは中学に帰った。 克一:(N)ユカがなんとか合格してくれて俺はユカとまた3年間一緒なんだという事実が俺の足取りを軽くした。 克一:  0:間 0:  0:再びリビング 0:由香里が紅茶とコーヒーをいれてローテーブルに置く 由香里:はい、珈琲 克一:(小さく)ありがと 由香里:(小さく笑う)どういたしまして 由香里:  0:由香里、再びソファーに座りアルバムを開く 由香里:「見てこれ、中学の卒業式の写真…」 克一:「お前、セーラー服のリボンどうしたの?」 由香里:「後輩に取られたんだよーもー。こうちゃんだって袖のボタンないじゃん」 克一:「うわ…そんなところ見てんなよな?(小声で)お前が欲しがるかもと思って、第二ボタンは死守したのに」 由香里:「ふーん、誰にあげたの?」 克一:「そんな昔の事、覚えているわけないだろっ(覚えている)」 由香里:「ふーん?(圧)」 克一:「…後輩だよ。どうしてもって言われたから、袖ならって…」 由香里:「はー…後輩ちゃん弄んだ(もてあそんだ)のかぁ…」 克一:「そんなこと言うなよ!俺が侘しい(わびしい)だろ!」 由香里:「(小さく)私にはボタンなんかくれなかったくせに…」 克一:「ん?なんか言ったか?」 由香里:「んーん!なんでも!!!ばーか!!」 克一:「なんだよ!バカって言ったほうがバカなんだぞ!」 由香里:「ふるっ!その流れは古いよ!!あ~もう、ほらほら!コーヒー飲んで!せっかく淹れたのに冷めちゃうじゃん!!!」 克一:「あ、ああ…(コーヒーを飲む)」 由香里:「どう?新しい豆買ってきたんだよ!」 克一:「うん、美味しいよ。ユカ、珈琲淹れるのうまくなったよなぁ…」 由香里:「え?!ほんと?(嬉しそうに)」 克一:「うん(もう一口珈琲を飲んで)ありがとな…ユカ」 由香里:「えぇ?なにが?」 克一:「だって、ユカは珈琲飲まないだろ?なのにこんなに美味しく淹れれるようになったなんて。それだけ、たくさん淹れてくれたんだなってさ」 由香里:「なぁに?突然。いいよーだ。貴方は執事さんみたいに紅茶、美味しく淹れてくれるようになるんでしょ?」 克一:「あっははは…それは難しそうだなぁ…まぁでも、頑張るよ。ユカがそれで喜んでくれるなら」 由香里:「(小さく笑って)無理しなくていいよ。貴方の…こうちゃんのその気持ちが嬉しいから」 克一:「まぁ、できるだけ頑張るよ。ありがとな、由香里」 由香里:「なぁに?本当に、今日はサービスデーなのかな?」 克一:「俺は、言いたいなって思ったときに言うんだよ」 由香里:「ふふっ、まったく言われないより、嬉しいけどさ…」 由香里:  0:間 0:コーヒーカップをテーブルに置き、またアルバムを見る 0:克一は高校の入学式の写真を指さす 克一:「懐かしいな、入学式…まだ制服ぴかぴかだわ」 由香里:「そうだねぇ…制服可愛い高校だったから本当に嬉しかったなぁ」 克一:「まぁ女子は人気だったよな。珍しくズボンも選べる高校で結構注目されていたし」 由香里:「そうだよね!でも私はスカートが好きだからスカート一択だったけど」 克一:「男子はあんまり選ぶ余地ないけどな」 由香里:「でも別に、男子がスカート履いてもいいんだからいいじゃん」 克一:「まぁ、時代には合っている学校だったかもな」 克一:  0:由香里は次のページをめくり、次の写真をみる 由香里:「わ、こっちみて!秋の遠足の写真だー!懐かしい!」 克一:「お、修学旅行の練習とかで、中華街にいったやつだな」 由香里:「チェックポイントごとに先生いて、大変そうだったねぇ」 克一:「確かになー、先生たちは動けないわけだし」 由香里:「チェックポイントの横浜スタジアムでさ、内山先生にハイタッチして…」 克一:「赤レンガ倉庫いって、馬車道アイスを食べて…」 由香里:「港の見える丘公園に、キャーキャー言いながら登って…」 克一:「お前がどうしても行きたいって班のメンバーにプレゼンして行先の1つに決まった人形の家に行って…」 由香里:「だって、どうしても行きたかったんだもん(苦笑)それから中華街で長野先生にチェックしてもらって、食べ放題のお店でお腹いっぱい食べたよね!」 克一:「焼き小籠包めちゃくちゃうまかった!!」 由香里:「沙織ちゃんってば胃下垂だからってスカートのホック外そうとして、綾香ちゃんと全力で止めたなぁ…」 克一:「女子ってまじわかんねぇ…そんなことしてたん?」 由香里:「いやー、胃下垂の人って太らないんだーずるい!って思ってたけど、大変なこともあるんだなーって知ったわ。隣の芝生は青い」 克一:「このスタジアムで撮った皆の集合写真も、使おうぜ」 由香里:「いいねぇ!じゃぁ、これも…と」 克一:「お前これ…薔薇園でこんなの撮った?」 由香里:「ふふ、綾香ちゃんが撮ってくれたんだよ。いつも私達がカメラ係をしているから私たち2人の写真が無いでしょって」 克一:「いつの間に…まぁ、いいけど。でも、今思えばどうせ一緒に映るならちゃんと撮りたかったかな…」 由香里:「そうなの?初めて聞いたよ?嫌なのかと思ってた。避けるから」 克一:「そりゃ、そんなこと、恥ずかしくて言えるわけねぇだろ…」 由香里:「ふーん、そっかぁ…ヨシヨシ(克一の頭を撫でる)」 克一:「ばっか、やめろやめろ(由香里の手をそっと取って、自分の頭から降ろす)ったく…ユカは変なところで子ども扱いするよな」 由香里:「えー?赤ちゃん扱いのほういがいいの?」 克一:「そんなんされたら俺のプライド粉々になるからやめろ」 由香里:「あはははは!外では言わないよー!私の大事な赤ちゃんっ」 克一:「お前…二度とそれ言うなよ(苦笑)」 克一:  0:間  由香里:(N)高校の3年間はひたすら、おばさんにお菓子作りを習った。 由香里:料理でさえ簡単なものしか作れなかった私は、素人同然でおばさんにたくさん迷惑もかけたと思う。 由香里:それでも、ずっと隣にいると思っている克一(こういち)があっさりとモテ男子になっていったことに驚きと寂しさと、そして焦りを感じた私が、頑張れることと言ったら年に1回のバレンタインしかなかったのだ。 克一:(N)高校に入ってからも、ユカがかあちゃんに会いに来る時間は変わらなかった。 克一:俺が塾の日や部活の日にかぎってユカは俺の家にいた。 克一:そうしてその冬、俺は再び念願のユカの手作りチョコをゲットすることができた。 克一:トリュフチョコ、ガトーショコラと続いて、高校最後のバレンタイン…あいつが作ってきたバレンタインチョコはチョコレートケーキの王様だった。 克一:お世辞にも見た目が綺麗とは言えないそれを、14日も終わるころ、ぎりぎりの時間に泣きながら持ってきた。 克一:  0:インターホン(SE。ない場合はワンテンポ置いてください) 克一:「はーい…なんだ、ユカか(そわそわしながら)」 由香里:「こうちゃん…(涙目)」 克一:「な…なんで泣いてんだよ?!(慌てる)」 由香里:「あのね…がんばったんだけどね…こうちゃんの、好きな、チョコレート、けーき、ぜんぜん、うまく、つくれなくて…」 克一:「あ?ええ?え?いや、いいよそんなの!こんな時間まで作ってたのか?」 由香里:「うん、でも、味は…大丈夫だと思う…から来年はもっと上手に作るから…いやだったら捨てて」 由香里:  0:間 克一:(N)そう言って差し出された紙袋を受け取ると、ユカは足早に隣の家に駆け込んでいった。 克一:お世辞にも、綺麗とは言えない見た目のチョコレートケーキ。でも、きっと何度も何度も作り直してくれた、愛情のこもったケーキは、今までのチョコの中で一番美味しかった。 由香里:(N)チョコレートケーキまでは人並みにうまくはなったのに、フランツ・ザッハーさんは、本当になんていうものを作ってくれたのだろう。 由香里:ビックリするほどテンパリングをしてチョコレートをかける事がうまくできなかった。 由香里:それでも、どうしても作りたくて頑固にそれだけを練習していたから、結局時間ギリギリになってしまって…見た目がお世辞にも綺麗とは言えないものを渡すことになった…。 由香里:次は絶対失敗しない。そう思い続けてもう三十路も超えてしまったけれど、あのあと私はまだ挑戦さえしてないんだった。 由香里:   0:再びリビング 0:大人になってから極端に少なくなった写真をパラパラとめくっては結婚式で使用する分をアルバムから抜いていく 克一:「だいたいこんなもんでいいかな…」 由香里:「大人になってからの写真って極端に少ないね…」 克一:「いかに学校行事というものが大事かわかるな(苦笑)」 由香里:「まぁ、社会人になってからいったん会わなくなったしね」 克一:「あぁ…」 克一:  0:間   克一:「高校3年の冬、2月15日…お前、いつもみたいに朝俺を迎えに来て、いつもみたいに恥ずかしそうにしていたよな」 由香里:「あはは、やっぱり恥ずかしいじゃん、どうだったのかなって聞くの」 克一:「俺が、美味しかったって言うと、お前は嬉しそうに笑っていた」 由香里:「だって!だって、さすがに…ね、あれはまずったなって思ったし」 克一:「いや、普通においしかったよ。覚えてる」 由香里:「うん、すごく、そういわれて嬉しかった」 克一:「おう、嬉しそうに笑ってお前が言ったんだ、付き合ってくれって」 由香里:「うん、私が言ったね、付き合ってほしいって…」 克一:「びっくりしたよ。いつか、俺から言おうと思っていたのに」 由香里:「ふふっ女子の方が、強いんですよー!」 克一:「なのに、社会人になったら忙しくなってフェードアウトしたのもお前だろ」 由香里:「しょうがないじゃん!私、もううその頃には自分の病気のことわかっていたから…」 克一:「…」 由香里:「だから、こうちゃんには普通の家庭を築いて、普通に幸せになってほしいって思ったんだよ」 克一:「だからって、黙って出ていくことないだろ。おばさんからユカが一人暮らししてるって聞いたとき、俺びっくりしたんだぞ」 由香里:「だって、近くにいたらこうちゃんのこと、忘れられないじゃん」 克一:「ユカ…お前が不安に思っていたことを、わかってやれなくてごめんな」 由香里:「そうじゃない、私が悪いよ」 克一:「俺はユカじゃないから、ユカが考えている事全部わかってやれないし、女心がわかんないってよく言われるから、まぁそうなんだと思う」 由香里:「…うん」 克一:「だから、これからはちゃんと言ってくれよ。俺も、ちゃんと言うから」 由香里:「うん」 克一:「またユカ泣かせたらおじさんにぶっとばされちゃうよ(苦笑)」 由香里:「その前に、おばさんにゲンコツも食らうんでしょ?」 克一:「ああ、そうだったな」 克一:  0:二人笑いあう(3秒くらい) 由香里:「ねぇ、こうちゃん。好きだよ」 克一:「ありがとう」 由香里:「んー?そこはそうじゃないでしょ?」 由香里:  0:間 克一:「……愛してるよ。ずっと、お前だけを見ている」 克一:  克一:  0:間 0:以下(N)  由香里:そうして私は今年の冬、きっと貴方のためだけに 由香里:チョコレートの王様を作るよ。 由香里:30個目のチョコレート。 克一:そして、夫婦になってから、最初のチョコレート。 克一:きらきらと輝いたチョコレートケーキを前に、 克一:俺はユカにとびきり美味しい紅茶を淹れて 克一:ユカがいつも通り旨いコーヒーをいれてくれる。 由香里:日々様々な事が起こって不安にもなるけれど 由香里:こんな世の中だからこそ、ずっと一緒に居ようと決めたから 由香里:(ワンテンポ置いて) 由香里:私たちは 克一:俺たちは 克一:これからの未来、手をとりあって歩いていく。 由香里:きっかけをくれたのは 克一:俺たちをつないでくれたのは :  0:タイトルコール 由香里:『30個のチョコレート』

0:―― 幼い頃。幼稚園の門の外で喧嘩をする二人 0:気の強い由香里は克一に強い言葉をかける。 0:引くに引けない克一も売り言葉に買い言葉で返してしまい、ついには大嫌いと言い合うのだった。  由香里:「こうちゃんなんて大っ嫌い!」 克一:「俺もユカなんか大っ嫌いだよ!」 由香里:「もう、幼稚園一緒に来てあげないから!」 克一:「お、俺だって、もう幼稚園から一緒に帰ってやらねぇからな!」 由香里:「いいもん!もう、バレンタインのチョコレートもあげないし、夏の花火も誘ってあげないんだからっ」 克一:「っ!俺だって!俺だって!母ちゃんがお前の好物を作っても誘ってやらないし、旅行のお土産も買ってきてやらねぇからな!」 由香里:「っ…おばちゃんのごはん……もう食べられないの…?」 克一:「お、おい!泣くなよ!お前が言い出したんだろ!!」 由香里:「…グスン……おばちゃんの…ごはん…うわぁぁぁぁぁあん」 克一:「わかった!わかったよ!なし!今のなしだから!泣くなよ…」 克一:  由香里:(N)控えめに私の頭を撫でるこうちゃんの手はぎこちなかった。 由香里:喧嘩のきっかけはなんだっただろうか…些細なことで意地を張っては、いつもこうちゃんを困らせていた。 由香里:  0:間  克一:(N)俺たちはいつもこうやって喧嘩をして、涙腺の弱いらしいユカが泣いた。 克一:だけど、どうせ毎回このあとに、俺の母ちゃんからげんこつをお見舞いされて俺も大泣きするんだ… 克一:  0:間 0:  0:時間軸は現在 0:リビングのソファーで並んで座りアルバムを開いている2人 0:先ほどの幼稚園の頃の写真を指差している  克一:「この写真、懐かしいな…」 由香里:「えーやだよ。いつの写真?」 克一:「お前顔真っ赤にして泣いてやんの」 由香里:「うっそ、ほんとにいつの?こんな写真燃やしてよ!恥ずかしいもん!」 克一:「ははっ、お前がすんごいくだらない事でキレてさ、いつも家族ぐるみでやっていた夏の花火に、もう誘ってやらないって怒ったんだよな」 由香里:「あー…思い出したわ。こうちゃんが、私の好物をおばさんが作っても、家に呼んでやんないからな!って、言い返してきてさ…」 克一:「俺の母ちゃんの飯が好きなお前は、大泣きしたんだ」 由香里:「しょうがないじゃない!おばさんのご飯を引き合いに出すのは卑怯だよ…!」 克一:「ははっ、あの頃の俺には両家合同(りょうけごうどう)の花火も、それから…お前のチョコがもらえないってことも結構堪えた(こたえた)んだけどな?」 由香里:「え?チョコ、そんなに好きだったっけ?」 克一:「ばーか!そうじゃないことくらいわかるだろ」 由香里:「あはは、そっかぁ…待ち遠しく思ってくれていて、嬉しいよ。しかたないなぁ、今年はこうちゃんの好きな…なんだっけ?あれ、作ってあげる」 克一:「まったく、名前も覚えてないのに本当に作ってくれんのかよ」 由香里:「フォンダンショコラだっけ?(わざと間違う)」 克一:「 ちげぇよ。わかってるくせに。っていうか、難しいんだろ?お前作れんの?」 由香里:「あー!ひどい!前に一回作ってあげたことあったでしょ?」 克一:「いや、覚えてるけど、だって…アレは…(言い淀む)」 由香里:「確かに見た目ちょっと…アレだったけどさぁ」 克一:「いや、味は旨かったよ?」 由香里:「あのね!知ってる?テンパリングって難しいんだよ?」 克一:「はいはい、俺のために、いつもありがとうな」 由香里:「わかればよろしいっ!(楽しそうに笑う)」 由香里:  0:間 由香里:(N)そう、たしかこの年もお母さんと一緒に買った、流行っていたアニメの小さいチョコレートを渡した。 由香里:ぎこちない私とは対照的に、嬉しそうに受け取って、美味しそうに食べていた貴方… 由香里:(ワンテンポ置く)幼稚園に入った年から、母に促されるままパパの分に追加してこうちゃんにもチョコレートを買った。 由香里:でもこの頃の私は、きらきらしたチョコレート売り場の中で、どうしたら自分も美味しいチョコを食べられるか、なんて考えていた気がする。 由香里:隣の男の子へ、義理も義理のチョコを買って、でも渡し行くのはひどく緊張して、恥ずかしかったのを覚えている。 由香里:  克一:(N)毎年、となりの女の子が恥ずかしそうにインターホンを鳴らす冬が好きだった。 克一:いつもはお構いなしに入ってくるくせにその日は決まって、もじもじとして、でもぶっきらぼうにチョコレートを差し出すユカ。 克一:2月に入ると、14日が来るのを指折り数えていた。 克一:年長クラスの頃だったか、2月3日の夜、豆まきが終わった日に、一気に14日になってほしくて13日までのカレンダーにマジックでバッテンを書き込んで父親には怒られ、母親には思いっきり笑われた。 克一:  0:間 0:また別のページを開き、別の写真を指差す由香里 0:由香里の小学生時代の体操部の大会の写真 由香里:「あ、この写真も懐かしい!部活の大会のときのだ!」 克一:「あー…ってお前ブルマじゃん!ブルマとか懐かしいなぁ」 由香里:「バカ!どこ見てんのよ!…しょうがないでしょ、体操部のユニフォームは皆これなんだから」 克一:「そうだったっけ?」 由香里:「この日さ、六年生で最後の大会なのに本番ぎりぎりまで技が一個できなくて…どうしてもできなくてさぁ」 克一:「あれ、そうだっけ?」 由香里:「そうなの!本当にぎりぎりまで練習していたのにできなかったんだよ。でも、本番で何故かできちゃったんだよねぇ…」 克一:「は?なんで本番だけできたの?」 由香里:「天才だからかな…?」 克一:「…」 由香里:「いや、突っ込んでよ(軽く克一を叩きながら苦笑する)でもね、全然わかんないんだけど、急にポンッとできちゃってさぁ、私絶対できないと思って本番に望んでいたから、できてびっくりして力抜けそうだったよ(笑う)」 克一:「そっか、そんな裏話があったんだな…。確か母ちゃんに引っ張って行かれたけど、俺、体操なんて全然わかんないし、でも演技が終わったお前が、すごい笑顔だったのは覚えているよ」 由香里:「ふっふ~♪だって突然本番でできたんだもん!体操部、楽しかったなぁ」 克一:「よく言うよ!お前いつも鉄棒で手に豆作って痛い~だの、跳び箱にぶつかって足痛い~だの、泣き言ばっかりだったじゃねぇか。楽しかったなんて聞いたことねぇぞ?」 由香里:「いいの!終わりよければすべてよしなんだよ!」 克一:「はぁ…(ため息)お前は負けず嫌いなんだから、本番なんか、どうせなんとかなったよ」 由香里:「えー!私より、こうちゃんの方が負けず嫌いじゃん!」 克一:「俺のどこが負けず嫌いだよ!」 由香里:「(ぼそっと)そういうとこだよ…」 由香里: 0:間  由香里:(N)小学校の時は、ちょっとだけお小遣いを持てるようになって、量販店で買ったチョコレートを渡していた。 由香里:何かしら貴方のことだけを考えて選んだ、サッカーボールとかのモチーフが入ったチョコレートを選んだ。貴方が喜んでくれると思って。 由香里:6年生の時、クラスメイトと一回だけ、うちでチョコを作ったなぁ。 由香里:あの日一日、こうちゃんは我が家に出入り禁止で、なんでだよー!って、拗ねていたっけ。 由香里:  克一:(N)小学校6年生の冬は、初めてユカから手作りのチョコをもらった。 克一:よくある、チョコレートを溶かして固めただけの可愛らしいチョコ。それでも、俺はひどく感動したし踊りだしたいくらい嬉しかった。 克一:翌日、俺を迎えに来たユカは何か言いたそうにもじもじしていた。 克一:でも俺にはユカが大人しいわけがわかんなくて、能天気に「なんでそんな大人しいんだよ、雨降るぞ」とか言って、また母ちゃんにげんこつをお見舞いされた。 克一:ようやく理解した俺は「おいしかったよ」と痛みをこらえながら言うと、あいつは殴られた俺を笑っていたくせに、頬が紅く(あかく)色づいていた。 克一:  克一:  0:由香里は克一のアルバムのページを覗き込み別の写真を指差す 0:克一の中学時代のサッカーの試合の写真 由香里:「あ、ほらこれ、中学の時の、サッカー部の大会の写真でしょ?」 克一:「げ…これはいいよ」 由香里:「やーだ。私のブルマ姿じっくり見やがったくせに!」 克一:「こんな写真、かっこわるいだろ?」 由香里:「なんで?一生懸命やった結果じゃん」 克一:「…」 由香里:「この日は寒くてさぁ、うちのママが紅茶持ってきてくれてスタンドで飲んだなぁ。おばちゃんがフィナンシェ作ってきてくれてさ、美味しかったぁ」 克一:「お前…こういうときも食欲なのかよ…」 由香里:「ちがっ!ちがうよ!ちゃんと試合中は応援したもん!」 克一:「はいはい、いいですよー別に」 由香里:「ちゃんと見てたよ!こうちゃんが、シュート決めたところ!」 克一:「何本シュート決めたか覚えているのか?」 由香里:「えーっと(目を泳がせる)さん…ぼん?」 克一:「あーたーりー!だけど、お前あてずっぽうだろ!(軽くこづく)」 由香里:「あーイタイイタイ!DVだ!でぃーぶぃぃ!!(大げさに騒ぐ)」 克一:「はいはい、ごめんごめん。(頭を撫でる)ったく、ちゃんと覚えておけよなー。まったく、この写真は使わなくていいって言ってんのに」 由香里:「んー(頭を撫でられて照れる)だって、サッカーやってるこうちゃんも、かっこよかったもん」 克一:「うるせぇ(ちょっと嬉しそう)、どうせこのあと逆転されて負けるんだからいいんだよ、こんなのは」 由香里:「泣いている姿なんて貴重なんだから、この写真はいるの。大事な思い出じゃん!これも使おうっと」 克一:「まったく、お前面白がってんだろ」 由香里:「まぁねー!楽しいもん!」 克一:「お、こっち写真も懐かしいな(ごまかすように別の写真を見る)」 克一:   由香里:(N)中学生になっても、私はお小遣いで買ったチョコを渡した。 由香里:クラスで流行っているファッション雑誌をみては、クラスメイトと何を作るだのどれを買うだの浮き足だった。 由香里:けれど、どんなに作ろうと友達に誘われても、こうちゃんのおばさんの美味しいお菓子には絶対叶うわけがないから、私は恥ずかしくて、ずっと買ったチョコをあげていたんだ。 由香里:  0:間 由香里:「そういえば、中学最後の年にさ、試合で3本もゴール決めたからさ…あの年、すごいバレンタインのチョコ貰ってたじゃん…」 克一:「いや、義理だろあんなの!」 由香里:「はー?え?あのさ…気が付いてないの?」 克一:「え?だって別に告白とかされてねぇよ?」 由香里:「いやマジでまって…中学の地区大会の決勝で、負けたとはいえ3本もシュート決めたんだよ?」 克一:「負けた話はするな…」 由香里:「ねぇ、隣のクラスの亜美さんとか、委員長やっていた菫さんとか本気だったよね?気がついてないの?」 克一:「いや…まじ…?」 由香里:「うわぁ…かわいそう…」 克一:「ぁ…すまん…」 由香里:「まぁ…それはいいのだけどさ、クラスメイトから義理チョコもたっくさん貰ってたじゃん?」 克一:「そう、確か学校で貰ったのは全部で28個!(ちょっと誇らしそうに)」 由香里:「よく覚えてんね…そうね、そのくらい机にあったわね。だからね、あの時すっごくチョコレート貰っていたから、私のチョコ、捨てるか悩んだんだよね」 克一:「っ?なんで?」 由香里:「あーんなにもらっているから、私のチョコなんか、要らないかなって。食べきれないかなって、鼻血でるじゃん…?」 克一:「ばーか。お前のチョコを一番待ってたのに、要らないなんてことあるかよ」 由香里:「でも、捨てようか昇降口で悩んでいたらさ、こうちゃんが紙袋に無造作にいれたチョコを抱えてきて…」 克一:「見かねた女子が紙袋くれたんだよなぁ…あれは助かったわ」 由香里:「そんで、私に『ユカ、チョコ、くれないの?』とか言って子犬みたいな顔してくるから、ついあげちゃったんだよね」 克一:「子犬って…。クラスで待ってんのに、ユカは鞄ごと居なくなってるからさ、家でくれんのかなって帰ろうと思ったら、お前、昇降口にいたから…」 由香里:「いたから?」 克一:「つい、口から出ちゃったんだよ」 由香里:「本音が?」 克一:「まぁ、そう…。そういうことだよ」 由香里:「そんなに待ってたの?」 克一:「待ってた」 由香里:「ほかの子みたいに手作りでもないのに?」 克一:「おう、待ってた」 由香里:「あんなに、たくさん貰ってたのに?」 克一:「俺は!…まぁたしかに、あんなにもらって浮かれていたかもしれないけど、俺はユカからのチョコレートを毎年待ってるんだぜ?」 由香里:「そっかぁ…たくさん悩んだけど、あげてよかったんだねぇ」 克一:「あぁ、嬉しかったよ」 克一:  0:間 克一:(N)小6の冬以来、ユカは手作りのチョコをくれることはなかった。 克一:それでも俺は毎年決まってチョコをくれることが嬉しかったしユカと、母ちゃんがくれる2個のチョコが楽しみだった。 克一:中学最後のバレンタインのあと、ユカがちょいちょい俺の家に遊びに来るようになったけど、それは決まって俺が塾の日で俺と遊んでくれることは減った。 克一:「まったく、母ちゃんばっかりユカとしゃべって、ずるくないか?」 克一:そう言っても、娘が欲しかった母ちゃんが嬉しそうに笑うからそれ以上、俺は何も言えなかった。 克一:  0:間 0:中学生時代。高校受験の日 0:同じ高校を受験する2人だが、学力の十分足りている克一は余裕がある 0:あがり症の由香里は緊張し騒いでいる 由香里:「あーーーもう受験とか嫌だ!!なんでこんなことしなきゃいけないの!帰りたい!」 克一:「大丈夫だよ、お前あんなに勉強頑張ってたじゃんか」 由香里:「そうだけど!そうだけど!!どうしよう、急にお腹痛くなったら!」 克一:「大丈夫、大丈夫!おばさんが薬も持たせてくれただろ」 由香里:「どうしよう!シャーペンの芯が折れてかけなくなったら!」 克一:「替えの芯持って来ただろ」 由香里:「どうしよう!!消しゴム落としたら!!」 克一:「手を挙げて監督の先生に拾ってもらえよ!緊張しすぎだ!」 由香里:「わーーーこうちゃぁぁぁん」 由香里:(叫ばなくてもいいのでジタバタしてください) 克一:「わかったわかった。母ちゃんが今夜俺らの好物作って待ってるから、頑張れよ」 由香里:「んんん?!ほんと?!じゃぁ頑張る」 克一:「お前本当…食い意地だけは張ってるんだよなぁ…まさかこんな日まで…まぁ、やる気出たならいいか」 克一: 0:間  由香里:(N)そして私はうんうんと唸りながらなんとか受験を乗り越え、こうちゃんのお母さんの作った美味しいごはんをおなかいっぱい食べた。 克一:(N)それから、俺たちはあっという間に、合格発表の日を迎えた。 克一:余裕の成績だった俺はともかく、俺もユカも、互いの両親も、ユカが合格できたのかどうかを考えて気が気じゃなかった。 克一:  0:中学生時代。高校受験の合格発表の日。 0:冬の寒い日。合格発表も一緒に見に来ている。 0:ちなみにまだ付き合っていない。 由香里:「あーーーーどうしよう!緊張してきた!!!」 克一:「え、緊張してんの?だってお前朝から母ちゃんのフレンチトースト食ってただろ!」 由香里:「おいしいものはおいしいもので、結果発表は結果発表なの!」 克一:「はぁ(ため息)もういいよ…それで。お前、何番?」 由香里:「えっと…あれ?受験票どこだっけ?えっと…」 克一:「はいはい…まったく子供か…」 由香里:「えっと、受験票受験票……(鞄をごそごそとする)」 克一:「俺は…892番か」 由香里:「んっとぉ…887。えっと、887…887…」 克一:「おい!あったぞ!887!!!」 由香里:「え?本当??…あっ!!!ほんとだ!!!やった!やった私!受かった!やった!!」 克一:「よかったなぁ…」 由香里:「こうちゃんは…えっと、892……89…2…ねぇ!あった!あの一番下のところ!!」 克一:「お!ほんとだ。よかったー大丈夫とは思っていたけど、よかった……安心し…ってうわっっ」  0:由香里は克一にだきつく 由香里:「よかったぁ!二人で高校に通えるね!!よかった!!!」 克一:「ちょ、おま、お前!皆見てる!公衆の面前で抱き着くな!こらっ!」 由香里:「あ、え、ごめん……えっと…よ、よかったね、二人共受かってて」 克一:「とりあえず、うちに電話しようぜ。ユカの家族もうちにいるんだろ」 由香里:「うん、こうちゃんちでパーティーの準備するって言ってた」 克一:「あー…ユカが落ちたらどうするつもりなんだろな…」 由香里:「なんで私なのよ!」 克一:「俺のほうが学力上だから」 由香里:「くっ…くっそくっそぉぉ!いいもん!受かったもん!わーたーしーでーもー!!!」 克一:「はいはい、よかったな(由香里の頭を撫でる)」 由香里:「うー!いつまでも子ども扱いするなぁ!」 克一:「いや、お前はいつまでも子供だろ」 由香里:「じゃぁ、子供だからデザート一番大きいのもーらおう♪」 克一:「今日は合格祝賀会だから譲ってやるよ(苦笑)」 克一:  0:家に電話する克一 0:ここから各家族との電話のシーンになります。 0:家族のセリフを考えながら演じてください。  克一:「もしもし?母さん?」 克一:「あぁ、うん、大丈夫。俺は大丈夫だって言っただろ?」 克一:「あぁ、ユカも受かったよ」 克一:(スマホから耳を離す) 克一:「後ろからユカの父さんの叫び声聞こえんだけど…おいユカ、変われよ」 由香里:「うわー…はずかしいな…」 :  由香里:(ありがとうとスマホを受け取って耳に当てる) 由香里:「もしもし?あぁ、おばさん、うちのパパがうるさくてごめんなさい?」 由香里:「あぁ、はい、すみませんありがとうございます…あ、ママ?」 由香里:「ぱぱ…うるさいから黙らせて?」 由香里:「うん、うん!受かった!受かったよぉ!!!(無理のない程度で大声)」 克一:「ちょ!皆見てるから止めろ小さい声で言え!」 由香里:「う、うん。大丈夫!早めに帰るね!」 由香里:「パパ?パパはいいよ。人様の家で騒ぐようなパパには私の口からおしえてあげなぁい!」 由香里:「んー…わかったよ、かわって?」 由香里:「あ、パパ?こうちゃんちで騒がないでよ恥ずかしい」 由香里:「うん、うん…大丈夫。パパとママの子だからね!ぎりぎり合格ぅ!」 由香里:「うん、すぐ帰るから、まってて!じゃーね!」 0:由香里は電話を切って、克一に返す 由香里:「スマホ、ありがと。皆待ってるってさ!よ~し、学校に報告して早く帰ろう!」 克一:「OK!待たせると母ちゃんうるさいから早く行こうぜ!」 由香里:「はぁ、楽しみだなぁ…」 克一:「涎、垂らすなよな…?」 由香里:「うーるーさーいーっ!」 由香里:  0:間 由香里:(N)そのまま高校に手続きのための書類をもらって私たちは中学に帰った。 克一:(N)ユカがなんとか合格してくれて俺はユカとまた3年間一緒なんだという事実が俺の足取りを軽くした。 克一:  0:間 0:  0:再びリビング 0:由香里が紅茶とコーヒーをいれてローテーブルに置く 由香里:はい、珈琲 克一:(小さく)ありがと 由香里:(小さく笑う)どういたしまして 由香里:  0:由香里、再びソファーに座りアルバムを開く 由香里:「見てこれ、中学の卒業式の写真…」 克一:「お前、セーラー服のリボンどうしたの?」 由香里:「後輩に取られたんだよーもー。こうちゃんだって袖のボタンないじゃん」 克一:「うわ…そんなところ見てんなよな?(小声で)お前が欲しがるかもと思って、第二ボタンは死守したのに」 由香里:「ふーん、誰にあげたの?」 克一:「そんな昔の事、覚えているわけないだろっ(覚えている)」 由香里:「ふーん?(圧)」 克一:「…後輩だよ。どうしてもって言われたから、袖ならって…」 由香里:「はー…後輩ちゃん弄んだ(もてあそんだ)のかぁ…」 克一:「そんなこと言うなよ!俺が侘しい(わびしい)だろ!」 由香里:「(小さく)私にはボタンなんかくれなかったくせに…」 克一:「ん?なんか言ったか?」 由香里:「んーん!なんでも!!!ばーか!!」 克一:「なんだよ!バカって言ったほうがバカなんだぞ!」 由香里:「ふるっ!その流れは古いよ!!あ~もう、ほらほら!コーヒー飲んで!せっかく淹れたのに冷めちゃうじゃん!!!」 克一:「あ、ああ…(コーヒーを飲む)」 由香里:「どう?新しい豆買ってきたんだよ!」 克一:「うん、美味しいよ。ユカ、珈琲淹れるのうまくなったよなぁ…」 由香里:「え?!ほんと?(嬉しそうに)」 克一:「うん(もう一口珈琲を飲んで)ありがとな…ユカ」 由香里:「えぇ?なにが?」 克一:「だって、ユカは珈琲飲まないだろ?なのにこんなに美味しく淹れれるようになったなんて。それだけ、たくさん淹れてくれたんだなってさ」 由香里:「なぁに?突然。いいよーだ。貴方は執事さんみたいに紅茶、美味しく淹れてくれるようになるんでしょ?」 克一:「あっははは…それは難しそうだなぁ…まぁでも、頑張るよ。ユカがそれで喜んでくれるなら」 由香里:「(小さく笑って)無理しなくていいよ。貴方の…こうちゃんのその気持ちが嬉しいから」 克一:「まぁ、できるだけ頑張るよ。ありがとな、由香里」 由香里:「なぁに?本当に、今日はサービスデーなのかな?」 克一:「俺は、言いたいなって思ったときに言うんだよ」 由香里:「ふふっ、まったく言われないより、嬉しいけどさ…」 由香里:  0:間 0:コーヒーカップをテーブルに置き、またアルバムを見る 0:克一は高校の入学式の写真を指さす 克一:「懐かしいな、入学式…まだ制服ぴかぴかだわ」 由香里:「そうだねぇ…制服可愛い高校だったから本当に嬉しかったなぁ」 克一:「まぁ女子は人気だったよな。珍しくズボンも選べる高校で結構注目されていたし」 由香里:「そうだよね!でも私はスカートが好きだからスカート一択だったけど」 克一:「男子はあんまり選ぶ余地ないけどな」 由香里:「でも別に、男子がスカート履いてもいいんだからいいじゃん」 克一:「まぁ、時代には合っている学校だったかもな」 克一:  0:由香里は次のページをめくり、次の写真をみる 由香里:「わ、こっちみて!秋の遠足の写真だー!懐かしい!」 克一:「お、修学旅行の練習とかで、中華街にいったやつだな」 由香里:「チェックポイントごとに先生いて、大変そうだったねぇ」 克一:「確かになー、先生たちは動けないわけだし」 由香里:「チェックポイントの横浜スタジアムでさ、内山先生にハイタッチして…」 克一:「赤レンガ倉庫いって、馬車道アイスを食べて…」 由香里:「港の見える丘公園に、キャーキャー言いながら登って…」 克一:「お前がどうしても行きたいって班のメンバーにプレゼンして行先の1つに決まった人形の家に行って…」 由香里:「だって、どうしても行きたかったんだもん(苦笑)それから中華街で長野先生にチェックしてもらって、食べ放題のお店でお腹いっぱい食べたよね!」 克一:「焼き小籠包めちゃくちゃうまかった!!」 由香里:「沙織ちゃんってば胃下垂だからってスカートのホック外そうとして、綾香ちゃんと全力で止めたなぁ…」 克一:「女子ってまじわかんねぇ…そんなことしてたん?」 由香里:「いやー、胃下垂の人って太らないんだーずるい!って思ってたけど、大変なこともあるんだなーって知ったわ。隣の芝生は青い」 克一:「このスタジアムで撮った皆の集合写真も、使おうぜ」 由香里:「いいねぇ!じゃぁ、これも…と」 克一:「お前これ…薔薇園でこんなの撮った?」 由香里:「ふふ、綾香ちゃんが撮ってくれたんだよ。いつも私達がカメラ係をしているから私たち2人の写真が無いでしょって」 克一:「いつの間に…まぁ、いいけど。でも、今思えばどうせ一緒に映るならちゃんと撮りたかったかな…」 由香里:「そうなの?初めて聞いたよ?嫌なのかと思ってた。避けるから」 克一:「そりゃ、そんなこと、恥ずかしくて言えるわけねぇだろ…」 由香里:「ふーん、そっかぁ…ヨシヨシ(克一の頭を撫でる)」 克一:「ばっか、やめろやめろ(由香里の手をそっと取って、自分の頭から降ろす)ったく…ユカは変なところで子ども扱いするよな」 由香里:「えー?赤ちゃん扱いのほういがいいの?」 克一:「そんなんされたら俺のプライド粉々になるからやめろ」 由香里:「あはははは!外では言わないよー!私の大事な赤ちゃんっ」 克一:「お前…二度とそれ言うなよ(苦笑)」 克一:  0:間  由香里:(N)高校の3年間はひたすら、おばさんにお菓子作りを習った。 由香里:料理でさえ簡単なものしか作れなかった私は、素人同然でおばさんにたくさん迷惑もかけたと思う。 由香里:それでも、ずっと隣にいると思っている克一(こういち)があっさりとモテ男子になっていったことに驚きと寂しさと、そして焦りを感じた私が、頑張れることと言ったら年に1回のバレンタインしかなかったのだ。 克一:(N)高校に入ってからも、ユカがかあちゃんに会いに来る時間は変わらなかった。 克一:俺が塾の日や部活の日にかぎってユカは俺の家にいた。 克一:そうしてその冬、俺は再び念願のユカの手作りチョコをゲットすることができた。 克一:トリュフチョコ、ガトーショコラと続いて、高校最後のバレンタイン…あいつが作ってきたバレンタインチョコはチョコレートケーキの王様だった。 克一:お世辞にも見た目が綺麗とは言えないそれを、14日も終わるころ、ぎりぎりの時間に泣きながら持ってきた。 克一:  0:インターホン(SE。ない場合はワンテンポ置いてください) 克一:「はーい…なんだ、ユカか(そわそわしながら)」 由香里:「こうちゃん…(涙目)」 克一:「な…なんで泣いてんだよ?!(慌てる)」 由香里:「あのね…がんばったんだけどね…こうちゃんの、好きな、チョコレート、けーき、ぜんぜん、うまく、つくれなくて…」 克一:「あ?ええ?え?いや、いいよそんなの!こんな時間まで作ってたのか?」 由香里:「うん、でも、味は…大丈夫だと思う…から来年はもっと上手に作るから…いやだったら捨てて」 由香里:  0:間 克一:(N)そう言って差し出された紙袋を受け取ると、ユカは足早に隣の家に駆け込んでいった。 克一:お世辞にも、綺麗とは言えない見た目のチョコレートケーキ。でも、きっと何度も何度も作り直してくれた、愛情のこもったケーキは、今までのチョコの中で一番美味しかった。 由香里:(N)チョコレートケーキまでは人並みにうまくはなったのに、フランツ・ザッハーさんは、本当になんていうものを作ってくれたのだろう。 由香里:ビックリするほどテンパリングをしてチョコレートをかける事がうまくできなかった。 由香里:それでも、どうしても作りたくて頑固にそれだけを練習していたから、結局時間ギリギリになってしまって…見た目がお世辞にも綺麗とは言えないものを渡すことになった…。 由香里:次は絶対失敗しない。そう思い続けてもう三十路も超えてしまったけれど、あのあと私はまだ挑戦さえしてないんだった。 由香里:   0:再びリビング 0:大人になってから極端に少なくなった写真をパラパラとめくっては結婚式で使用する分をアルバムから抜いていく 克一:「だいたいこんなもんでいいかな…」 由香里:「大人になってからの写真って極端に少ないね…」 克一:「いかに学校行事というものが大事かわかるな(苦笑)」 由香里:「まぁ、社会人になってからいったん会わなくなったしね」 克一:「あぁ…」 克一:  0:間   克一:「高校3年の冬、2月15日…お前、いつもみたいに朝俺を迎えに来て、いつもみたいに恥ずかしそうにしていたよな」 由香里:「あはは、やっぱり恥ずかしいじゃん、どうだったのかなって聞くの」 克一:「俺が、美味しかったって言うと、お前は嬉しそうに笑っていた」 由香里:「だって!だって、さすがに…ね、あれはまずったなって思ったし」 克一:「いや、普通においしかったよ。覚えてる」 由香里:「うん、すごく、そういわれて嬉しかった」 克一:「おう、嬉しそうに笑ってお前が言ったんだ、付き合ってくれって」 由香里:「うん、私が言ったね、付き合ってほしいって…」 克一:「びっくりしたよ。いつか、俺から言おうと思っていたのに」 由香里:「ふふっ女子の方が、強いんですよー!」 克一:「なのに、社会人になったら忙しくなってフェードアウトしたのもお前だろ」 由香里:「しょうがないじゃん!私、もううその頃には自分の病気のことわかっていたから…」 克一:「…」 由香里:「だから、こうちゃんには普通の家庭を築いて、普通に幸せになってほしいって思ったんだよ」 克一:「だからって、黙って出ていくことないだろ。おばさんからユカが一人暮らししてるって聞いたとき、俺びっくりしたんだぞ」 由香里:「だって、近くにいたらこうちゃんのこと、忘れられないじゃん」 克一:「ユカ…お前が不安に思っていたことを、わかってやれなくてごめんな」 由香里:「そうじゃない、私が悪いよ」 克一:「俺はユカじゃないから、ユカが考えている事全部わかってやれないし、女心がわかんないってよく言われるから、まぁそうなんだと思う」 由香里:「…うん」 克一:「だから、これからはちゃんと言ってくれよ。俺も、ちゃんと言うから」 由香里:「うん」 克一:「またユカ泣かせたらおじさんにぶっとばされちゃうよ(苦笑)」 由香里:「その前に、おばさんにゲンコツも食らうんでしょ?」 克一:「ああ、そうだったな」 克一:  0:二人笑いあう(3秒くらい) 由香里:「ねぇ、こうちゃん。好きだよ」 克一:「ありがとう」 由香里:「んー?そこはそうじゃないでしょ?」 由香里:  0:間 克一:「……愛してるよ。ずっと、お前だけを見ている」 克一:  克一:  0:間 0:以下(N)  由香里:そうして私は今年の冬、きっと貴方のためだけに 由香里:チョコレートの王様を作るよ。 由香里:30個目のチョコレート。 克一:そして、夫婦になってから、最初のチョコレート。 克一:きらきらと輝いたチョコレートケーキを前に、 克一:俺はユカにとびきり美味しい紅茶を淹れて 克一:ユカがいつも通り旨いコーヒーをいれてくれる。 由香里:日々様々な事が起こって不安にもなるけれど 由香里:こんな世の中だからこそ、ずっと一緒に居ようと決めたから 由香里:(ワンテンポ置いて) 由香里:私たちは 克一:俺たちは 克一:これからの未来、手をとりあって歩いていく。 由香里:きっかけをくれたのは 克一:俺たちをつないでくれたのは :  0:タイトルコール 由香里:『30個のチョコレート』