台本概要
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タイトル | 隻星院コウは声真似で盗みたい |
---|---|
作者名 | 熊野むっち (@mucchi_0908) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 5人用台本(男4、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
【声劇配信時の規約】 ・配信時に作者名および作品名を記載 ※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。 (投げ銭の有無、有償無償に関わらず) 433 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
怪盗 | 男 | 32 | 隻星院 コウ(せきせいいん こう) どんな声もそっくりそのままに再現できる特殊能力を持つ、通称「声の怪盗」 |
富豪 | 男 | 43 | 小金井 満(こがねい みつる) 日本でも有数の資産家。 |
頭取 | 男 | 31 | 榿澤 直貴(はんのきざわ なおき) 日本有数のメガバンク「ボイコネ中央銀行」の頭取。 |
警部 | 男 | 30 | 右下 左行(みぎした さぎょう) 声の怪盗の逮捕に執念を燃やす敏腕刑事。 |
音声 | 不問 | 10 | 最新型の声紋認証システムの音声ガイダンス。 兼ね役(ゴリラのボブ役)があります。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:【隻星院コウは声真似で盗みたい】(作・ムッチ)
:
:登場人物
:
怪盗:(配役が決まったらここをタップしてください)
怪盗:隻星院 コウ(せきせいいん こう)
怪盗:どんな声もそっくりそのままに再現できる特殊能力を持つ、通称「声の怪盗」
:
富豪:(配役が決まったらここをタップしてください)
富豪:小金井 満(こがねい みつる)
富豪:日本でも有数の資産家。
:
頭取:(配役が決まったらここをタップしてください)
頭取:榿澤 直貴(はんのきざわ なおき)
頭取:日本有数のメガバンク「ボイコネ中央銀行」の頭取。
:
警部:(配役が決まったらここをタップしてください)
警部:右下 左行(みぎした さぎょう)
警部:声の怪盗の逮捕に執念を燃やす敏腕刑事。
:
音声:(配役が決まったらここをタップしてください)
音声:最新型の声紋認証システムの音声ガイダンス。
音声:兼ね役(ゴリラのボブ役)があります。
:
ボブ:ゴリラのボブ
:
0:場所は銀行の金庫室。
:
富豪:バイオメトリクス…と言ったかね?
頭取:ええ、そうです。
頭取:当行は全てのセキュリティにバイオメトリクス、つまり声紋認証を採用しています。
頭取:指紋認証、虹彩(こうさい)認証、顔認証に静脈(じょうみゃく)認証、現代のテクノロジーでは様々なセキュリティがありますが、当行ではその中でも最も利便性が高く、そして最も強固なセキュリティを誇る声紋認証を、他行よりもいち早く取り入れているんです。
富豪:ほう。だが声紋、声のセキュリティというのはそんなに安全なものなのかね。
富豪:もし、もしもだよ、私のそっくりさんが私の声真似をしたらセキュリティを解除できたりはせんのかね?
頭取:ハッハッハ。小金井様、ご冗談を!
頭取:バイオメトリクスのセキュリティはそんな容易く破れるようなものではございません。
頭取:声紋認証とは、その人個人の特徴を、周波数や音圧、わずかな声帯の震え等にいたるまでデジタルデータ化する事によって、そのパターンは声の数だけ存在するんです。それをモノマネで解除するだなんて絶対にあり得ません!
富豪:そうか、それを聞いて安心したよ。
富豪:それじゃあ早速、預けた金を引き出すのに、その…
頭取:バイオメトリクス
富豪:バイオメトリクスとやらを使わせてもらうとしよう。
頭取:畏まりました。では先日登録した小金井様の秘密のキーワードを、このマイクに向かって仰ってください。
富豪:うむ。(少し間をおいて)アブラカタブラ……開けゴマ!
頭取:お客様、これまたベタな。
富豪:呪文と言えば、やっぱりこれだろう。
音声:小金井様の声紋を確認しました。ロック解除します。
頭取:はい、確かに小金井様で間違いございません。
富豪:はは、これは便利だな。では事前に伝えていた通り、ここに預けていたキャッシュは全て、持ち帰らせてもらうよ。
頭取:承知致しました。…しかし今回はまた随分と急なお話でしたね。
富豪:まあな。世界情勢が安定するまでは暫く、キャッシュは金のインゴットに変えておこうと思ってね。
頭取:左様でございますか。
富豪:では、私はこれで失礼する。次の会食の予定があるものでね。
頭取:またのご来店をお待ちしております。
:
0:入れ替わりで、警察官が数人、金庫室に駆け込んでくる。
:
警部:警察だ!今この部屋に不審な男がいなかったか!?
頭取:ええ!?
警部:いや、奴の事だ、必ずしも男とは限らん!
警部:…男でも女でも良い、不審な者がここから大金を持ち出しはしなかったか!?
頭取:け、警察…。ですが、ここには我々と、先程までお客様がいらっしゃっただけですが…。
警部:それだ!その客にいつもと違った不審な点はなかったのか!?
頭取:いつもと変わらないご様子でしたが、今日はこの後大口の取引とかで、当行に預けられていた現金の殆どを持ち出されて…ハッ…そんな…まさか!
警部:そのまさかだ!それが奴の、声の怪盗、隻星院コウ(せきせいいん・こう)の手口なんだよ!
怪盗:俺の名は、隻星院コウ。人は俺をこう呼ぶ、声の怪盗と。
怪盗:俺は怪盗にして稀代の声真似師。俺に盗めないお宝はない。そして、俺に真似できない声はない。今夜の俺のターゲットは、お前の、声さ。
怪盗:(タイトルコール)【隻星院コウは声真似で盗みたい】
:
0:時間経過。場所は先程と同じ金庫室。
:
警部:そろそろ予告時刻か…。
富豪:奴は本当に現れるんだろうな!
警部:勿論です。奴は、声の怪盗、隻星院コウは犯行予告の通り必ず現れます。予告電話を受けられたのは他ならぬ貴方でしょう、小金井さん。
:
0:回想
:
富豪:もしもし、小金井だ。
怪盗:(同じ声色で)もしもし、小金井だ。
富豪:…まさか貴様、声の怪盗か!?
怪盗:ハッハッハ!さすが国内有数のセレブと名高い小金井さんだ。察しがいいね。
富豪:当たり前だ!貴様に一体何億盗まれたと思ってるんだ!?
怪盗:お陰様で俺はアンタから貰った金でバカンス中さ。ほら、そっちにも聞こえるだろ?
怪盗:
怪盗:(波音)ザザー ザザー
怪盗:(鳥)ピチチチ…
怪盗:(イルカ)キュッキュ
富豪:くそー!忌々しい!私から盗んだ金で優雅に南国の旅とは…!
怪盗:フッ…フハハハハ!
富豪:なっ、何が可笑しい!?
怪盗:今聴こえている音、これも全て俺の声真似さ!!
富豪:な、なんだってー!?
怪盗:生憎俺もまだ国内さ。3日後、今度はアンタの全財産を頂く。高飛びはその後だ。
富豪:な!?
怪盗:ま、せいぜい厳重に警備する事だな。あの、ヘッポコの警部と間抜けな頭取にも宜しく伝えておいてくれ。じゃ。ガチャ、ツーツーツー。
富豪:もしもし…クソ!声の怪盗め!
怪盗:今のガチャ、ツーツーも俺の声だ。
富豪:わあ!ビックリした!
:
0:回想終わり。
:
富豪:クソっ!思い出しても腹が立つ!!
警部:まあ、落ち着いてください、小金井さん。今回はこうして我々も警備についていますし、セキュリティも前回より強化されているそうですので。
富豪:そもそも、声紋認証は最も強固なセキュリティ技術ではなかったのか!?それをあんなに簡単に破られおって!
頭取:申し訳ございません!ですから、今回は警察の方のご協力も得まして、絶対に破られる事のない鉄壁のセキュリティをご用意しております!
富豪:それは本当だろうな。
頭取:はい!今回は声紋トリプル認証方式を採用しております!
富豪:トリプル認証方式?
頭取:はい!そうでございます!
頭取:通常ですとこちらの金庫室のロックを解除するには小金井様の声紋認証が必要になる訳ですが、今回はそのロック解除に小金井様だけでなく、こちらの右下(みぎした)警部、そしてわたくしの3人の声が必要となる、特別仕様になっております!
富豪:つまり、私だけでなく、あなた方ふたりの声がこの金庫を開けるために必要になると。
頭取:左様でございます。
富豪:だがあの声の怪盗にかかれば、私たち3人の声など容易く再現できてしまうのではないのか!?
警部:そこはご安心ください。今回は打倒、声の怪盗のための秘策を用意してありますので。
警部:それにこの建物は我々警察が厳重に警備しています。この金庫室にはネズミ一匹…いや、インコ一羽も入れさせません!!
富豪:ふうむ。だと良いんだが…。
頭取:ささ、それでは早速、セキュリティの解除に必要な私たち3人の声紋を登録致しましょう。
富豪:うむ。
警部:前回、小金井さんが声紋を登録された時の言葉は、たしか…
富豪:『アブラカタブラ、開けゴマ』だったな。
警部:ええ。ですので、今回は声の怪盗も思わず苦戦してしまうような、少し言いづらい言葉にしてみてはどうかと。
富豪:ほう、そりゃ面白そうなアイデアだ。
警部:既に文章も考えてあります。さあ、これを読んでみてください。
富豪:えーなになに…
富豪:『炙ったカルビが炙りカルビなら、軽く炙ったワラビーは軽炙りワラビー』
富豪:…これでいいか?
音声:小金井様の声紋を登録致しました。
頭取:これで奴に、声の怪盗に一泡吹かせられますね。
富豪:ああ、奴の慌てふためく顔が目に浮かぶな。
警部:では、続いてはこの文章を頭取、あなたが読んでみてください。
頭取:おお、次は私ですね。えーと、なになに…
頭取:『貨客船の貨客が、可逆反応の逆の化学反応は不可逆反応だと言う』
頭取:…よし、言えた。
音声:榿澤(はんのきざわ)頭取の声紋を登録致しました。
富豪:これはまた言い難そうな言葉だな。
頭取:本当です。これは声紋を登録した本人でも、セキュリティの解除に苦戦しそうです。
警部:これなら、よしんば声の怪盗がこの金庫室に辿り着いたとしても、セキュリティの解除にもたついてる間に捕まえる事が出来ます。
富豪:なるほど。だが警部、あなたついさっき「この金庫室にはインコ一羽も入れさせん」と言ったばかりだろう。
警部:ですから、これは万一に備えてです。
頭取:まあまあ。さ、次は警部、あなたの番ですよ。
警部:ええ、私は自分用にとっておきの合言葉を考えてありますので。
警部:では、まいります…
警部:『美術室技術室手術室魔術室 美術準備室技術準備室手術準備室魔術準備室 美術室で技術師が魔術師手術中』
警部:…ふう。なんとか言えましたな。
音声:右下(みぎした)警部の声紋を登録致しました。
頭取:これはさすがの声の怪盗、隻星院コウと言えども、簡単には突破できんでしょうな。
警部:ええ。今日は奴が、無様に地面に這いつくばる記念の日です。
富豪:これは楽しみだ。夜は長い、シャンパンでも開けて軽く前祝いでも洒落こみたい気分だ…
:
怪盗:ガコン!バチン!ガシャーン!(金庫室の照明が落ちる)
:
富豪:…な!
警部:おい!灯りが消えたぞ!一体どうなってる!
頭取:ま、まさか、これは声の怪盗の仕業かなのか!?
:
0:暗闇の中で3人の声だけが響き渡る。
:
怪盗:パチッ(室内が明るくなる)
:
0:やがてゆっくりと室内が明るくなると、3人は柱に縛り付けられている。
:
富豪:クソ!なんなんだ一体。
頭取:う、動けない…。
怪盗:フッフッフ…ハッーハッハッハッ!
警部:ああ!貴様は!声の怪盗!
怪盗:(同じ声色で)ああ!貴様は!声の怪盗!
怪盗:…いかにも、私が声の怪盗、隻星院コウだ!!
警部:ぐぬ、警備の人間はどうした?
怪盗:皆、仲良く眠っているよ。インコ一羽も通さぬ警備と言っていたが、たいした事なかったな。
警部:チイッ!
怪盗:あとはこの金庫室のセキュリティを解除するだけだな。さっきの君たちの会話は全て聴かせてもらっていたよ。金庫室の扉を開けるには、君たち3人の声紋認証が必要なんだろ?
頭取:…な!?そんな事まで!
怪盗:たしか一人目は小金井さん、アンタの声でこう言うんだ。
富豪:(回想)『炙ったカルビが炙りカルビなら、軽く炙ったワラビーは軽炙りワラビー』
怪盗:よし、じゃあサクッと開けちゃいますか。
怪盗:(同じ声色で)『炙ったカルビが炙りカルビなら、軽く炙ったワラビーは軽炙りワラビー』
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:小金井様の声紋を確認致しました。
音声:
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
怪盗:よし。まずは一人目クリアっと。
頭取:な!?
富豪:すごい…。目の前で聞いていても自分の声にしか聞こえん。
怪盗:どんどん行くよ。次は榿澤頭取、アンタだったね。アンタの合言葉はこうだ。
頭取:(回想)『貨客船の貨客が、可逆反応の逆の化学反応は不可逆反応だと言う』
怪盗:さあ、行くよ。
怪盗:(同じ声色で)『貨客船の貨客が、可逆反応の逆の化学反応は不可逆反応だと言う』
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:榿澤(はんのきざわ)頭取の声紋を確認致しました。
音声:
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
警部:ぐぬぅ、こんなに易々と突破されるとは。
怪盗:言ったろ?僕は声の怪盗。僕に盗めない声は、ない。
怪盗:さあ、次で最後だ。最後は右下警部、アンタの声でこう言うんだったな。
警部:(回想)『美術室技術室手術室魔術室 美術準備室技術準備室手術準備室魔術準備室 美術室で技術師が魔術師手術中』
怪盗:行くぞ…。
怪盗:(同じ声色で)『美術室技術室手術室魔術室 美術準備室技術準備室手術準備室魔術準備室 美術室で技術師が魔術師手術中』
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:右下(みぎした)警部の声紋を確認致しました。
音声:
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
頭取:なんて事だ!当行のセキュリティが、またしても破られてしまうとは…!
怪盗:さてと、それじゃあ世界に名高い富豪の財宝を拝ませてもらうとするか。
音声:…最後の声紋認証を行ってください。
怪盗:っっ!?
警部:フハハハハ。こんな事もあろうかとあと一人、いや、あと一匹の声紋を登録しておいたのだ!
警部:…来るんだ!ボブ!
:
0:警部に招かれて金庫室に一匹のゴリラが入ってくる
:
ボブ:ウホ?
頭取:ゴ、ゴリラ!?いつの間に…
警部:さあ、ボブ!お前のとっておきの合言葉を見せてやるんだ!
ボブ:(ゴリラ語)ウホ、ウホウホ、ウッホ!ウッホ!ウホ~!
警部:さすがの声の怪盗も、ボブの声紋は再現できまい!
怪盗:…。
警部:再現できまい!
怪盗:えと、…ゴリラの声真似って事?
警部:できまい!
怪盗:わかった!わかったよ!やるよ!やればいいんだろ!
怪盗:(同じ声色で)ウホ、ウホウホ、ウッホ!ウッホ!ウホ~!
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:ゴリラのボブの声紋を確認致しました。
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
怪盗:…ふう。ようやく開いた。
警部:クソ~!ボブの声紋認証も突破されるとは!
怪盗:いよいよ、お宝とのご対面だな。……あ、あれ?…なにもない。
富豪:あっ、そうだった。
頭取:えっ
富豪:やっぱり現金で預けとくのは危ないって、秘書が全額電子マネーに変えたんだったわ。
警部:は?
富豪:うん!1兆ペイペイ!ポイントも付くし、小銭も持ち歩かなくて良いし便利だよ~!
怪盗:……。
富豪:ん?どうしたの?
怪盗:俺の時間盗んでんじゃねえー!!!!
:
:
0:終わり
:【隻星院コウは声真似で盗みたい】(作・ムッチ)
:
:登場人物
:
怪盗:(配役が決まったらここをタップしてください)
怪盗:隻星院 コウ(せきせいいん こう)
怪盗:どんな声もそっくりそのままに再現できる特殊能力を持つ、通称「声の怪盗」
:
富豪:(配役が決まったらここをタップしてください)
富豪:小金井 満(こがねい みつる)
富豪:日本でも有数の資産家。
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頭取:(配役が決まったらここをタップしてください)
頭取:榿澤 直貴(はんのきざわ なおき)
頭取:日本有数のメガバンク「ボイコネ中央銀行」の頭取。
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警部:(配役が決まったらここをタップしてください)
警部:右下 左行(みぎした さぎょう)
警部:声の怪盗の逮捕に執念を燃やす敏腕刑事。
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音声:(配役が決まったらここをタップしてください)
音声:最新型の声紋認証システムの音声ガイダンス。
音声:兼ね役(ゴリラのボブ役)があります。
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ボブ:ゴリラのボブ
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0:場所は銀行の金庫室。
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富豪:バイオメトリクス…と言ったかね?
頭取:ええ、そうです。
頭取:当行は全てのセキュリティにバイオメトリクス、つまり声紋認証を採用しています。
頭取:指紋認証、虹彩(こうさい)認証、顔認証に静脈(じょうみゃく)認証、現代のテクノロジーでは様々なセキュリティがありますが、当行ではその中でも最も利便性が高く、そして最も強固なセキュリティを誇る声紋認証を、他行よりもいち早く取り入れているんです。
富豪:ほう。だが声紋、声のセキュリティというのはそんなに安全なものなのかね。
富豪:もし、もしもだよ、私のそっくりさんが私の声真似をしたらセキュリティを解除できたりはせんのかね?
頭取:ハッハッハ。小金井様、ご冗談を!
頭取:バイオメトリクスのセキュリティはそんな容易く破れるようなものではございません。
頭取:声紋認証とは、その人個人の特徴を、周波数や音圧、わずかな声帯の震え等にいたるまでデジタルデータ化する事によって、そのパターンは声の数だけ存在するんです。それをモノマネで解除するだなんて絶対にあり得ません!
富豪:そうか、それを聞いて安心したよ。
富豪:それじゃあ早速、預けた金を引き出すのに、その…
頭取:バイオメトリクス
富豪:バイオメトリクスとやらを使わせてもらうとしよう。
頭取:畏まりました。では先日登録した小金井様の秘密のキーワードを、このマイクに向かって仰ってください。
富豪:うむ。(少し間をおいて)アブラカタブラ……開けゴマ!
頭取:お客様、これまたベタな。
富豪:呪文と言えば、やっぱりこれだろう。
音声:小金井様の声紋を確認しました。ロック解除します。
頭取:はい、確かに小金井様で間違いございません。
富豪:はは、これは便利だな。では事前に伝えていた通り、ここに預けていたキャッシュは全て、持ち帰らせてもらうよ。
頭取:承知致しました。…しかし今回はまた随分と急なお話でしたね。
富豪:まあな。世界情勢が安定するまでは暫く、キャッシュは金のインゴットに変えておこうと思ってね。
頭取:左様でございますか。
富豪:では、私はこれで失礼する。次の会食の予定があるものでね。
頭取:またのご来店をお待ちしております。
:
0:入れ替わりで、警察官が数人、金庫室に駆け込んでくる。
:
警部:警察だ!今この部屋に不審な男がいなかったか!?
頭取:ええ!?
警部:いや、奴の事だ、必ずしも男とは限らん!
警部:…男でも女でも良い、不審な者がここから大金を持ち出しはしなかったか!?
頭取:け、警察…。ですが、ここには我々と、先程までお客様がいらっしゃっただけですが…。
警部:それだ!その客にいつもと違った不審な点はなかったのか!?
頭取:いつもと変わらないご様子でしたが、今日はこの後大口の取引とかで、当行に預けられていた現金の殆どを持ち出されて…ハッ…そんな…まさか!
警部:そのまさかだ!それが奴の、声の怪盗、隻星院コウ(せきせいいん・こう)の手口なんだよ!
怪盗:俺の名は、隻星院コウ。人は俺をこう呼ぶ、声の怪盗と。
怪盗:俺は怪盗にして稀代の声真似師。俺に盗めないお宝はない。そして、俺に真似できない声はない。今夜の俺のターゲットは、お前の、声さ。
怪盗:(タイトルコール)【隻星院コウは声真似で盗みたい】
:
0:時間経過。場所は先程と同じ金庫室。
:
警部:そろそろ予告時刻か…。
富豪:奴は本当に現れるんだろうな!
警部:勿論です。奴は、声の怪盗、隻星院コウは犯行予告の通り必ず現れます。予告電話を受けられたのは他ならぬ貴方でしょう、小金井さん。
:
0:回想
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富豪:もしもし、小金井だ。
怪盗:(同じ声色で)もしもし、小金井だ。
富豪:…まさか貴様、声の怪盗か!?
怪盗:ハッハッハ!さすが国内有数のセレブと名高い小金井さんだ。察しがいいね。
富豪:当たり前だ!貴様に一体何億盗まれたと思ってるんだ!?
怪盗:お陰様で俺はアンタから貰った金でバカンス中さ。ほら、そっちにも聞こえるだろ?
怪盗:
怪盗:(波音)ザザー ザザー
怪盗:(鳥)ピチチチ…
怪盗:(イルカ)キュッキュ
富豪:くそー!忌々しい!私から盗んだ金で優雅に南国の旅とは…!
怪盗:フッ…フハハハハ!
富豪:なっ、何が可笑しい!?
怪盗:今聴こえている音、これも全て俺の声真似さ!!
富豪:な、なんだってー!?
怪盗:生憎俺もまだ国内さ。3日後、今度はアンタの全財産を頂く。高飛びはその後だ。
富豪:な!?
怪盗:ま、せいぜい厳重に警備する事だな。あの、ヘッポコの警部と間抜けな頭取にも宜しく伝えておいてくれ。じゃ。ガチャ、ツーツーツー。
富豪:もしもし…クソ!声の怪盗め!
怪盗:今のガチャ、ツーツーも俺の声だ。
富豪:わあ!ビックリした!
:
0:回想終わり。
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富豪:クソっ!思い出しても腹が立つ!!
警部:まあ、落ち着いてください、小金井さん。今回はこうして我々も警備についていますし、セキュリティも前回より強化されているそうですので。
富豪:そもそも、声紋認証は最も強固なセキュリティ技術ではなかったのか!?それをあんなに簡単に破られおって!
頭取:申し訳ございません!ですから、今回は警察の方のご協力も得まして、絶対に破られる事のない鉄壁のセキュリティをご用意しております!
富豪:それは本当だろうな。
頭取:はい!今回は声紋トリプル認証方式を採用しております!
富豪:トリプル認証方式?
頭取:はい!そうでございます!
頭取:通常ですとこちらの金庫室のロックを解除するには小金井様の声紋認証が必要になる訳ですが、今回はそのロック解除に小金井様だけでなく、こちらの右下(みぎした)警部、そしてわたくしの3人の声が必要となる、特別仕様になっております!
富豪:つまり、私だけでなく、あなた方ふたりの声がこの金庫を開けるために必要になると。
頭取:左様でございます。
富豪:だがあの声の怪盗にかかれば、私たち3人の声など容易く再現できてしまうのではないのか!?
警部:そこはご安心ください。今回は打倒、声の怪盗のための秘策を用意してありますので。
警部:それにこの建物は我々警察が厳重に警備しています。この金庫室にはネズミ一匹…いや、インコ一羽も入れさせません!!
富豪:ふうむ。だと良いんだが…。
頭取:ささ、それでは早速、セキュリティの解除に必要な私たち3人の声紋を登録致しましょう。
富豪:うむ。
警部:前回、小金井さんが声紋を登録された時の言葉は、たしか…
富豪:『アブラカタブラ、開けゴマ』だったな。
警部:ええ。ですので、今回は声の怪盗も思わず苦戦してしまうような、少し言いづらい言葉にしてみてはどうかと。
富豪:ほう、そりゃ面白そうなアイデアだ。
警部:既に文章も考えてあります。さあ、これを読んでみてください。
富豪:えーなになに…
富豪:『炙ったカルビが炙りカルビなら、軽く炙ったワラビーは軽炙りワラビー』
富豪:…これでいいか?
音声:小金井様の声紋を登録致しました。
頭取:これで奴に、声の怪盗に一泡吹かせられますね。
富豪:ああ、奴の慌てふためく顔が目に浮かぶな。
警部:では、続いてはこの文章を頭取、あなたが読んでみてください。
頭取:おお、次は私ですね。えーと、なになに…
頭取:『貨客船の貨客が、可逆反応の逆の化学反応は不可逆反応だと言う』
頭取:…よし、言えた。
音声:榿澤(はんのきざわ)頭取の声紋を登録致しました。
富豪:これはまた言い難そうな言葉だな。
頭取:本当です。これは声紋を登録した本人でも、セキュリティの解除に苦戦しそうです。
警部:これなら、よしんば声の怪盗がこの金庫室に辿り着いたとしても、セキュリティの解除にもたついてる間に捕まえる事が出来ます。
富豪:なるほど。だが警部、あなたついさっき「この金庫室にはインコ一羽も入れさせん」と言ったばかりだろう。
警部:ですから、これは万一に備えてです。
頭取:まあまあ。さ、次は警部、あなたの番ですよ。
警部:ええ、私は自分用にとっておきの合言葉を考えてありますので。
警部:では、まいります…
警部:『美術室技術室手術室魔術室 美術準備室技術準備室手術準備室魔術準備室 美術室で技術師が魔術師手術中』
警部:…ふう。なんとか言えましたな。
音声:右下(みぎした)警部の声紋を登録致しました。
頭取:これはさすがの声の怪盗、隻星院コウと言えども、簡単には突破できんでしょうな。
警部:ええ。今日は奴が、無様に地面に這いつくばる記念の日です。
富豪:これは楽しみだ。夜は長い、シャンパンでも開けて軽く前祝いでも洒落こみたい気分だ…
:
怪盗:ガコン!バチン!ガシャーン!(金庫室の照明が落ちる)
:
富豪:…な!
警部:おい!灯りが消えたぞ!一体どうなってる!
頭取:ま、まさか、これは声の怪盗の仕業かなのか!?
:
0:暗闇の中で3人の声だけが響き渡る。
:
怪盗:パチッ(室内が明るくなる)
:
0:やがてゆっくりと室内が明るくなると、3人は柱に縛り付けられている。
:
富豪:クソ!なんなんだ一体。
頭取:う、動けない…。
怪盗:フッフッフ…ハッーハッハッハッ!
警部:ああ!貴様は!声の怪盗!
怪盗:(同じ声色で)ああ!貴様は!声の怪盗!
怪盗:…いかにも、私が声の怪盗、隻星院コウだ!!
警部:ぐぬ、警備の人間はどうした?
怪盗:皆、仲良く眠っているよ。インコ一羽も通さぬ警備と言っていたが、たいした事なかったな。
警部:チイッ!
怪盗:あとはこの金庫室のセキュリティを解除するだけだな。さっきの君たちの会話は全て聴かせてもらっていたよ。金庫室の扉を開けるには、君たち3人の声紋認証が必要なんだろ?
頭取:…な!?そんな事まで!
怪盗:たしか一人目は小金井さん、アンタの声でこう言うんだ。
富豪:(回想)『炙ったカルビが炙りカルビなら、軽く炙ったワラビーは軽炙りワラビー』
怪盗:よし、じゃあサクッと開けちゃいますか。
怪盗:(同じ声色で)『炙ったカルビが炙りカルビなら、軽く炙ったワラビーは軽炙りワラビー』
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:小金井様の声紋を確認致しました。
音声:
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
怪盗:よし。まずは一人目クリアっと。
頭取:な!?
富豪:すごい…。目の前で聞いていても自分の声にしか聞こえん。
怪盗:どんどん行くよ。次は榿澤頭取、アンタだったね。アンタの合言葉はこうだ。
頭取:(回想)『貨客船の貨客が、可逆反応の逆の化学反応は不可逆反応だと言う』
怪盗:さあ、行くよ。
怪盗:(同じ声色で)『貨客船の貨客が、可逆反応の逆の化学反応は不可逆反応だと言う』
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:榿澤(はんのきざわ)頭取の声紋を確認致しました。
音声:
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
警部:ぐぬぅ、こんなに易々と突破されるとは。
怪盗:言ったろ?僕は声の怪盗。僕に盗めない声は、ない。
怪盗:さあ、次で最後だ。最後は右下警部、アンタの声でこう言うんだったな。
警部:(回想)『美術室技術室手術室魔術室 美術準備室技術準備室手術準備室魔術準備室 美術室で技術師が魔術師手術中』
怪盗:行くぞ…。
怪盗:(同じ声色で)『美術室技術室手術室魔術室 美術準備室技術準備室手術準備室魔術準備室 美術室で技術師が魔術師手術中』
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:右下(みぎした)警部の声紋を確認致しました。
音声:
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
頭取:なんて事だ!当行のセキュリティが、またしても破られてしまうとは…!
怪盗:さてと、それじゃあ世界に名高い富豪の財宝を拝ませてもらうとするか。
音声:…最後の声紋認証を行ってください。
怪盗:っっ!?
警部:フハハハハ。こんな事もあろうかとあと一人、いや、あと一匹の声紋を登録しておいたのだ!
警部:…来るんだ!ボブ!
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0:警部に招かれて金庫室に一匹のゴリラが入ってくる
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ボブ:ウホ?
頭取:ゴ、ゴリラ!?いつの間に…
警部:さあ、ボブ!お前のとっておきの合言葉を見せてやるんだ!
ボブ:(ゴリラ語)ウホ、ウホウホ、ウッホ!ウッホ!ウホ~!
警部:さすがの声の怪盗も、ボブの声紋は再現できまい!
怪盗:…。
警部:再現できまい!
怪盗:えと、…ゴリラの声真似って事?
警部:できまい!
怪盗:わかった!わかったよ!やるよ!やればいいんだろ!
怪盗:(同じ声色で)ウホ、ウホウホ、ウッホ!ウッホ!ウホ~!
音声:(怪盗の声が『同じ声紋であれば』次のセリフへ)
音声:ゴリラのボブの声紋を確認致しました。
音声:(怪盗の声が『違う声紋であれば』次のセリフへ)
音声:声紋認証をお願いします。
怪盗:…ふう。ようやく開いた。
警部:クソ~!ボブの声紋認証も突破されるとは!
怪盗:いよいよ、お宝とのご対面だな。……あ、あれ?…なにもない。
富豪:あっ、そうだった。
頭取:えっ
富豪:やっぱり現金で預けとくのは危ないって、秘書が全額電子マネーに変えたんだったわ。
警部:は?
富豪:うん!1兆ペイペイ!ポイントも付くし、小銭も持ち歩かなくて良いし便利だよ~!
怪盗:……。
富豪:ん?どうしたの?
怪盗:俺の時間盗んでんじゃねえー!!!!
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0:終わり