台本概要

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タイトル 月が紡いだ物語
作者名 きいろ*  (@kiiro83)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 80 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 月の出ない夜。広い荒野に、銀色の髪をした少年が2人。
モンスターに襲われている少女を助ける。
彼らは「物語を紡ぐ者」と名乗り、少女を襲ったモンスターは自分たちの作った物語が現実になったものだと説明する。
物語を現実化させている「赤い月」を追う少年に同行することになった少女。

※兼ね役いっぱいで見づらくてごめんなさい。
人数がいれば分けてもいいと思います。

※その他「町人」「クマ」「子ども」「衛兵」などモブが出てきますが、その時々で適当に演じてください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
上弦月 96 (かみづき) 物語を紡ぐ者の一人。 クールだが意外と熱くまっすぐなタイプ。
下弦月 99 (しもつき) 物語を紡ぐ者の一人。 人当たりが良いが本心は隠しているタイプ。
待宵 82 (まつよい) 荒野でモンスターに襲われていた少女。 誰かを探している。 お人好しでおっとりしたタイプ。
三日月、朔 - ※兼ね役 「三日月(みかづき)」 物語を紡ぐ者の一人。 無邪気で幼い女の子。 「朔(さく)」 物語を紡ぐ者の一人。 陰キャ女子。
モンピー、王様、赤月、満月 - ※兼ね役 「モンピー」 待宵を襲っていたモンスター。 下弦月の物語が現実化したもの。 「王様」 一国の国王。臆病がゆえに攻撃的。 自国が侵略されないかピリピリしている。 「赤月(あかつき)」 物語を紡ぐ者の一人。 仲間の物語を持ち出して現実化させている。 「満月(みつづき)」 物語を紡ぐ者の一人。 落ち着いた大人の男性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:月の出ない夜。小さく儚い星の光だけが、黒い絨毯の上の埃のように夜空に散られている。 0:下界では、広い荒野の上、2人の少年が当ても無く歩いている。 0:美しい銀色の髪をした、双子のようにそっくりな2人。 0: 上弦月:…何でお前と行かなきゃいけないんだよ 下弦月:俺だって別に君と組みたくて組んでるんじゃないんですケド。 下弦月:ま、でもさ、偶然にしろせっかく同じ場所に降りてきたんだから、二人で行ってもいいんじゃない? 上弦月:ここで分かれてお互い一人で行ったっていいだろ。 下弦月:カミさぁ、そうやって一匹狼気取ってると、いつか足元すくわれるよ? 上弦月:気取ってなんかない。 下弦月:あっそう。じゃあ、はい。(右手を差し出す) 上弦月:…なんだよ? 下弦月:握手。気取ってないならいいでしょ。きっとそのうち俺の協力が必要になるんだから。 上弦月:…力を貸してやるのは俺の方だと思うけどな。 0: 0:上弦月、右手を差し出す。 0:すかっ。 0:下弦月、右手を引っ込める。 0: 下弦月:なんちゃって☆ 上弦月:おまっ…俺をおちょくってんのか!? 下弦月:それ以外に何があるのさ? 上弦月:くっ… 下弦月:クールぶってるだけで意外と短気なんだね。 上弦月:…そうやって人を馬鹿にして楽しいか? 下弦月:うん。とっても♪ 上弦月:シモ、お前の方こそ、いつか痛い目見るぞ。 下弦月:痛いのは御免だなー。 0: 0:下弦月、数十メートル先の闇に、異様にうごめく影を発見する。 0: 下弦月:なーんか非現実的なものが見えてきた…。 上弦月:行くぞ。 下弦月:あーぁ。めんどくさ~。 0: 0:二人、駆け足で目標に向かう。 0: 0: 0: 0: 0: 化け物:こんな醜いオイラのこと、愛してくれる人なんかいないにぃぃぃ! 0: 0:化け物、自分の醜すぎる姿を嘆いて泣いている。 0:触るとぶにぶにしていそうな、ピンク色で巨大な図体。そのあちこちにお粗末なツギハギの跡。 0:にょきっと生えた2本の手は、赤ちゃんの手のように小さかったが、気持ち悪いほどにリアルな人の手。 0:プラスチックで出来ていそうなまん丸の目玉の片方は涙に濡れ、もう片方は黒い糸のようなものにぶら下がってギョロギョロと揺れている。 0:その目玉が本来収まるべきはずの場所には黒い穴がぽっかり開き、その空洞からも涙は溢れている。 0:大きなたらこ唇はがばっと開かれ、ガラガラに枯れた喚きを吐き出し続ける。 0:そんな化け物の前で少女が一人、地面の上に正座して瞳をうるつかせている。 0: 待宵:うぅ…ひっく…さぞかし辛い思いをしてきたのでしょうね…。 待宵:で、でも、泣かないでください。あなたは醜くなんか無いです。 待宵:だって、だってこんなにも、綺麗な涙を流しているではありませんか…! 化け物:ホントに…ホントにそう思ってくれるんにぃ? 待宵:はい!だからもう泣かないでください。私まで悲しくなってしまいます。 化け物:ありがっちょ…じゃあオイラの友達になってくれるにぃ?? 待宵:もちろんです!こんな私で良ければ! 化け物:じゃあ友達ならオイラのお願い、聞いてくれるにぃ? 待宵:えぇ、私にできることなら… 化け物:わーい!それじゃあ食べさせて!いっただっきまーす♪ 待宵:へ…? 0: 0:ばくっ。 0:待宵、丸ごと化け物に飲み込まれる。 下弦月:あ、遅かったか。 上弦月:遅かったかって…そんな平然と言うなよ。 化け物:ん?(二人の存在に気付く) 化け物:うわぁぁぁぁん!哀れなオイラの話を聞いてくれるにぃぃぃ? 上弦月:そんなことより、今食ったやつ早く吐き出せ。 0: 0:化け物、涙をピタリと止め、体をみるみる紅潮させる。 0: 化け物:おいらの話聞いてくれない…酷い!!食ってやるにぃぃぃ!! 上弦月:うわっ 0: 0:化け物、口から長い舌を伸ばし上弦月を巻き取ろうとする。 0:上弦月、とっさに身をひるがえしてそれを避ける。 0:化け物、さらに憤慨し、でかい図体をごろんごろん転がして二人に突進する。 0:二人、同じ方向へと駆け出す。 0: 上弦月:おい。どうする。 下弦月:ん~?物語は作者にしか変更できないけど? 上弦月:そんなこと分かってる!ったく誰だよ、こんな趣味悪いの考えたの。 下弦月:趣味悪くて悪かったねぇ。 上弦月:…え。 下弦月:「あるところにそれはそれは醜い化け物がいました。」 下弦月:「みんなに嫌われ、蔑(さげす)まれていた化け物は、毎晩一人ぼっちで泣いていました。友達が欲しいと泣いていました。」 下弦月:「しかしこの化け物、実は友達がいなかったわけではないのです。」 下弦月:「食いしん坊の化け物は、醜い自分と仲良くしてくれる数少ない友達まで食ってしまっていたのです。」 下弦月:「目に映るもの全てを食べてみたい。結局こいつは、心まで醜い化け物だったのです。」 下弦月:俺が作った物語。ここからが新しいところ。 下弦月:「しかしある夜、一人の少女を食べた化け物は急に悲しくなってきました。」 0: 0:下弦月、人差し指を立てる。その指先から糸のように細い光が伸びて、後ろから転がってくる化け物の周りを取り囲む。 0:化け物、急にぴたっと動きを止める。 0: 0: 下弦月:「あんなに優しかった人を食べてしまったなんて…。化け物は口を開けて長く巻かれた舌を出しました。」 下弦月:「そして巻かれた下を伸ばし、くるまれていた少女をそっと地面に寝かせました。」 0: 0:光の糸、何重にもなって化け物の周りをで束になる。 0:化け物、下弦月の言葉通り、丸呑みした待宵を出して地面に寝かせる。 0:待宵、呆然と目を丸くする。 0: 下弦月:「化け物はやっと気づいたのです。最も醜いのはこの姿ではなく、心だったのだと。めでたしめでたし。」 0: 0:下弦月が言い終わると、光の糸は消えてしまう。 0:化け物、うなだれて大人しくしている。 0: 上弦月:お前が作者…? 下弦月:ね?俺と一緒でよかったでしょ。 上弦月:そうならそうと早く言えよ!…にしても、同情誘った相手を食っちまう化け物の話って…お前ほんとに性格ねじ曲がってるな。 下弦月:いいでしょー。最後はハッピーエンド(?)にしたんだから。 上弦月:はぁ…(待宵に向かって)大丈夫か? 待宵:私…食べられちゃいました… 0: 0:上弦月、待宵を無理矢理立たせる。 0: 待宵:あ、すみません。ええと、助けていただいたんですか…? 上弦月:気にするな。そもそもあの化け物を作り出したのはアイツだ。 下弦月:ちょっと、全部俺のせいみたく言わないでよ。物語を現実のものにさせたのは俺じゃないだろ。 下弦月:それに言っとくけど、その子助けたのは俺なんだからね。何にもしなかった役立たずは黙ってなさい。 上弦月:なんだと!?お前の物語だったならお前がケリつけて当前だろ!! 待宵:あ、あの~…それで、お二人は一体…? 0: 0:二人、口喧嘩をやめて待宵に向き直る。 下弦月:…物語を紡ぐ者、だよ。 待宵:物語を? 下弦月:物語を作って、夜、生き物たちが寝静まってからそれを聞かせるのが俺たちの役目。 下弦月:生き物たちは俺たちの作った物語をそれぞれの心のスクリーンに映して、夢として見る。 下弦月:だから同じ物語でも、聞く命によって見る夢は全部違うんだ。 上弦月:それを俺たちの中の一人が、俺たちの作った物語まで持ち出して現実のものにさせてるんだよ。 上弦月:さっきのも、こいつが作った化け物の話が現実化されてたんだ。俺たちは物語を現実化させている赤い髪の男を探してる。見なかったか? 待宵:いえ…あの変わった生き物さんしかいませんでした。 上弦月:そうか。じゃあ、他にどんな物語が現実になってるか分からないから気をつけろよ。シモ、行くぞ。 下弦月:はいはい。 待宵:あ、あの! 上弦月・下弦月:ん? 待宵:私も…探している方がいるんです。一緒に連れていってもらえませんか? 待宵:その、なんでかわからないけど、あなた方と一緒だったら見つかるんじゃないかって思えて… 下弦月:?俺は別にいいけど…ついてくるだけなら。 上弦月:どうでもいいが、俺たちはアイツ見つけて、さっさと終わらせるぞ。 待宵:はい!お邪魔にならないように気をつけます。 0: 0:大人しくしていた化け物、顔を上げて3人を引き留める。 0: 化け物:待ってくださいにぃ! 下弦月:あれ、君まだいたの?すっかり忘れてた。 上弦月:お前、仮にも自分の物語だろうが。 化け物:オイラも連れて行ってくださいにぃ!オイラ、もう絶対に誰も食べないって約束するにぃ。 化け物:だから、だから、もう一度友達になってくださいにぃぃぃ。 待宵:(もらい泣きしながら)もちろんです!約束してくれてありがとうございます。一緒に行きましょう! 下弦月:あらら、貴方ほんっとうにお人好しなんだねぇ。 上弦月:で、コイツも連れて行くのか? 下弦月:ん?どーでもいいんじゃない? 待宵:あ、ところで皆さんのお名前を教えていただけますか? 下弦月:あぁ、俺は下弦月(シモツキ)だよ。そんでこっちは上弦月(カミヅキ)。」 化け物:オイラは…オイラの名前は?? 下弦月:あーそういや決めてなかったな。「化け物」でいいんじゃない? 上弦月:それはあんまりだろ。 下弦月:じゃあテキトーにモンスターのモンピーとか? 上弦月:ネーミングセンスないんだな。 下弦月:むっ、失敬な! モンピー:モンピー…オイラの名前はモンピー! 待宵:素敵です! 下弦月:ほら、二人とも気に入ってくれた!で、君の名前は? 待宵:私は待宵(まつよい)といいます。 下弦月:じゃあまっちゃんって呼ぶね! 上弦月:俺は普通に呼ぶぞ。 待宵:はい! 下弦月:じゃあ行こうか。 0: 0:進み始めた彼らの先に、小さな町の影が見え始める。 0:夜は静かに明けようとしている。 0: 0: 0: 0: 0: 0:日が昇りその町に着くと、あちこちで人を探す声がする。 0:町の地面は雨が降ったように濡れていて、大小様々な水たまりができている。 0: 町人:ぼうやー! 町人:おじいさ~ん?? 町人:あなたー。 上弦月:おい、赤い髪の男を見なかったか? 町人:え?知らないけど…あなたたちも誰か居なくなっちゃったの? 下弦月:居なくなっちゃったっていうか、俺ら人を探してこの町に寄ってみたんですけど。 町人:あらそう…でもごめんなさい、力になれないわ。 町人:なんだか朝になってみんなが外に出始めてから、次々に行方不明者が出て…私も夫を探しているの。失礼するわ。 上弦月:朝方から次々と行方不明者…また誰かの物語が現実化しているのか? 下弦月:そうじゃない?俺ではなさそうだけど。 待宵:では上弦月(カミヅキ)さんの…? 上弦月:いや、違うと思うけど…物語を紡ぐ者は俺とシモだけじゃないからな。 待宵:そうなんですか? 上弦月:あぁ。他のやつらも別の場所で赤い髪の男を探してる。 下弦月:でも、この怪奇現象が物語の現実化だとしたら、アイツはこの町に寄ったって事でしょ? 下弦月:だったらまだそう遠くに行ってないかも。 モンピー:あれを見るにぃ! 下弦月:うわっ!何、あの巨大なクマのぬいぐるみ!? 下弦月:街ごと踏みつぶしそうなんだけど!? 上弦月:…っ!口から炎を吐き出した!? 0: 0:炎は家々へと燃え移り、中から次々と町人が逃げ出す。 0: 上弦月:…誰だよ、こんなの考えたの。 下弦月:俺じゃないことは確か。 モンピー:そんなことより早く何とかするにぃ!! 上弦月・下弦月:お前は黙ってろ モンピー:にぃぃ(泣) 待宵:あ…見てください!町の人たちが! 上弦月:…!逃げていく町人が…消えた!? 0: 0:逃げ惑う町人が、次々に突然、文字通り消えていく。 0: モンピー:ぬぅぁぁぁ!クマがこっちに来るにぃ! 上弦月:早く逃げろ!! 0: 0:モンピーに続いて下弦月、待宵、そして上弦月が逃げる。 0: 上弦月:…!待宵、止まれ!!シモと化け物が…消えた? 待宵:お2人が消えた場所…水たまり? 0: 0:ボチャンッ…ブクブク…ヒューーーードスンッ 0:2人が水溜りに落ちると、体は水の中をどんどん沈んでいき、水を抜けると空中へと投げ出されそのまま少し下の地面に落下。 0:先にモンピーが落ち、その上にシモツキが落ちると、大福のような体がぶにっとへこむ。 0:二人が落ちてきた頭上では、水が落ちることなく空中にたまっている。 0: モンピー:お…重たいにぃぃ… 下弦月:ここは…水たまりの中…? 0: 0:行方不明になっていた町人たち、二人と同じように水たまりに落ちてこの場所にいる。 0: 町人:どうやってこの場所から抜け出せばいいのか… 町人:地下を歩き回ってみたが、地上に出られそうなのは落ちてきた水たまりしかないようだ。 町人:あの水、邪魔だよな… 0: 0:子どもたち、モンピーに近寄ってきて好き放題にちょっかいを出す。 0: 子ども:うわっ!なんだコイツ!! 子ども:おもしろ~い!触らせて! 子ども:僕も僕も! 子ども:やめなよ~気持ち悪い。 モンピー:うわぁやめれるにぃ! 0: 0: 下弦月:…そっか。思い出した。これやっぱり俺のだ。 0: 0:下弦月:にっと口角を上げ、物語を紡ぎ始める。 0: 下弦月:「あるところにたくさんの水たまりがありました。その水たまりに足を踏み入れると2度と出て来られなくなります。」「そんな時… 0: 0: 0: 待宵:水たまりに落ちちゃいました!? 上弦月:人が消えていったカラクリはそれか。 待宵:どうしますか!? 上弦月:どうするも何も、まずはこのクマを止めるしかないだろ! 上弦月:水たまりを避けながら逃げろ! 待宵:はい! 上弦月:(振り返ってクマを見る)…ん?あれは…鳥? 0: 0:クマの足の間から見えた中央広場で、よろよろと歩いている片翼の小鳥を見つける。 0:上弦月、待宵の手をとり、路地に逃げ込む。 0:クマ、その横をドスンドスンと通りすぎる。 0: 上弦月:ここに隠れてろ。 待宵:あの、私にお手伝いできることは… 上弦月:いいから。 0: 0:上弦月、路地から抜け出し、中央広場へと向かう。 0: 上弦月:やっぱりお前か。 0: 0:上弦月が片翼の小鳥に手を伸ばした、その時。 0: 子ども:おかぁさぁぁぁぁぁん!!! 待宵:あ!危ない! 0: 0:待宵が隠れている路地の正面で、小さな男の子が泣き喚きながらうろついている。 0:待宵、路地から飛び出して男の子に駆けよる。 0:巨大クマ、泣き声に反応して、二人の方に振り返り、近づいていく。 0: 上弦月:馬鹿!よけろ! 0: 0:クマ、上弦月が叫んだのと同時に、口から炎を吐き出す。 0:待宵と子ども、炎に気付くが硬直して動けない。 0:小鳥、上弦月を見上げていたが、上弦月は小鳥に伸ばした手を戻し、力の限り走り出す。 0:突進した勢いで二人を抱きかかえながら炎をよけようとするが、炎は目前。その時。 0: 下弦月:…そしてたまった水は雨となり青空に虹を架けました。」 0: 0:地下で紡がれた下弦月の言葉と共に、水たまりの水は空高くはじけ、激しい雨となり町中に降り注いだ。 0:その雨が家々に燃え移った炎も、上弦月たちに向かってきていた炎も鎮火する。 0:地面にぶつかった雨粒は霧のように細かくなって消え、後には大きな虹が架かった。 0: 上弦月:大丈夫か? 待宵:あ…はい。ごめんなさい。…ありがとうございます。 0: 0:待宵の頬が赤く染まる。つられた上弦月は露骨に目をそらす。 0: 上弦月:今度から気をつけろ。 待宵:…はい! 0: 0:水たまりがの水が空(から)になったことで、町にはたくさんの穴が現れる。 0:下弦月、その穴の一つからひょっこり顔を出す。 0: 下弦月:ごめーん。やっぱこっちは俺のだったみたい。てわけでそっちは任せた! 上弦月:調子いいんだよお前は!早く出て来い。 0: 0:下弦月、渋々穴から出てくる。 0:片翼の小鳥、中央広場からよたよたと上弦月の元へ歩いてくる。 0: 上弦月:飛んでくれるか? 小鳥:チチッ! 上弦月:いい子だ。 上弦月:「片方の翼を失くした小鳥は、空を飛ぶこともできずに、ただ一歩ずつ地面を歩いていた。」 上弦月:「やがて片翼の小鳥は大きく成長し、残された片方の翼だけでも、再び空を飛べるようになった。」 0: 0:紡ぎだされる光の糸が小鳥を取り囲む。 0:小鳥、人を乗せることができるくらい大きく美しく成長する。 0:上弦月、成長した鳥の背に乗る。 0: 上弦月:クマを倒すぞ。 待宵:あ…はい! 上弦月:よし。行くぞ。 0: 0:クマ、ぬいぐるみと同じ素材の体なので、水をかぶったせいで重くなり動きづらそうにしている。 0:片翼の鳥、バランスは悪いが片方の翼を大きく左右に振って、しっかり飛び立つ。 0:上弦月を乗せ風を切りながら、真っすぐ巨大クマの顔の高さまで飛んでいく。 0: 待宵:みなさん!穴の中に逃げてください!クマが倒れます! 町人:あんな大きなやつを倒すことなんてできるのか!? 待宵:私たちじゃ太刀打ちすることはできないと思います。上弦月さんたちを信じてください。 0: 0:町人たち、互いに声を掛け合って穴の中へと入っていく。 0: 待宵:さ、君も入ろう? 子ども:うん! 0: 0:待宵、子どもを抱いて穴の中へと入る。 0:下に降りてみると地面はぼよんぼよんと弾力があって、怪我をすることはなかった。 0:その地面はピンク色をしてツギハギだらけ。うす~く伸ばされたモンピーが敷かれていた。 0: モンピー:まつよいぃぃぃ。 待宵:モンピー!? モンピー:シモにやられたにぃぃ。 0: 0:待宵、みんなの足跡だらけのモンピーを見て、悪いなと思いながらもくすっと笑ってしまう。 0: 待宵:ご苦労様。 0:待宵、穴を通して地上を見る。 0:クマ、上弦月に向かって大きく口を開け、炎をためる。 0:上弦月、クマの目の高さに右手をかざし、その上にパシッと左手も重ねる。 0: 上弦月:炎がくる…クマの目を眩(くら)ませろ! クマ:…!! 0: 0:右掌から激しい閃光が放たれる。 0:驚いたクマ、ためていた炎を飲み込み、両腕で目を隠す。 0: 上弦月:シモ! 下弦月:分かってるよ。 0: 0:下弦月、地上で右腕を大きく後ろに回し前方に伸ばす。 0:それに伴って地面に映し出されていた右腕の影が、真っすぐクマの片足まで伸びる。 0: 下弦月:あいつの足、闇に引きずり込んじゃえ。 0: 0:クマの足、伸びた影に引きずり込まれ、バランスを崩し倒れそうになる。 0:片翼の鳥、クマ目がけて勢いよく飛び、ぶつかりそうなところで旋回する。 0:上弦月、その瞬間にジャンプしてクマに体当たり。 0:クマ、地面に倒れる。体が重くて起き上がれず、ただじたばたしている。 0:片翼の鳥、落ちてくる上弦月を空中で背中に受け止める。 0:穴の中からは大きな歓声が響き渡り、続々と町人たちが出てくる。 0: 町人:やったぞ!兄ちゃんたちがクマを倒した! 待宵:お怪我はありませんか? 上弦月:大丈夫だ。 下弦月:俺も~。 待宵:あの…さっきの光と影も、夢を作る方々の能力なんですか? 下弦月:あぁ。あれは「月として」の能力だよ。 待宵:…え!?月!?それって… 町人:あるがとう!助かったよ! 子ども:すごいねお兄ちゃん!かっこい~! 町人:度胸あるな~。 町人:にしても今朝は不思議なことばかりだな。一体どうなってるんだ? 上弦月:誰か赤い髪の男を見なかったか?全部そいつの仕業だ。 町人:赤い髪? 町人:誰か見たか~? 町人:いいや? 三日月:はいはい!僕見たよ! 上弦月:三日月(ミカヅキ)? 0: 0:三日月、人垣を抜け下弦月の姿を見つけると、アゴ目掛けて勢いよくジャンプし、頭頂部でアッパーを喰らわせる。 0: 下弦月:っが!いった~~~!!会って早々それは無いんじゃないの!? ミカヅキ:ばか下弦月!!僕はもっとも~っと痛い思いしたんだからね!! 下弦月:? 上弦月:三日月、どこでアイツを見たんだ? 三日月:降りてきてすぐ見つけたよ。この町に居るのが見えた。 三日月:距離もそんなに無かったし、急いで来たんだけど、来たときにはもうこの町を出てて。 三日月:僕の物語のクマさんが暴走してたから、止めようとしたら水たまりに落ちちゃって。 三日月:頭から地面に落ちてガッツーン!ってぶつけて、ついさっきまでずっとお星様しか見えなかったんだからぁ! 0: 0:三日月、おでこの上の大きなタンコブを指差して下弦月に詰め寄る。 0: 下弦月:それは俺のせいじゃないでしょ!大体このクマの方が危ないじゃん!みかりんの物語だったんだね~。 三日月:頭ぶつけて気失ってなきゃクマさんすぐ止められたもん! 待宵:あの~すみません…質問してもいいですか? 上弦月:何だ? 待宵:さっき言ってた「月として」の能力ってどういう意味ですか? 待宵:あと三日月さんが言ってた「降りてきた」というのも… 上弦月:だから…俺たちが月で、月は物語を作って夢を見させるのが役目で、 上弦月:赤い月が地上でその物語を現実化させてるから、それを止めるために空から降りてきたって… 待宵:お月様だったんですか!? 上弦月:言わなかったか? 待宵:言ってないです!それじゃ昨日の晩、お月様が出ていなかったのは…皆さんが降りてきたから? 上弦月:あぁ。月が夜になると輝くのは、光に物語を乗せて地上に届けてるからなんだ。 上弦月:でも月には物語を作る以外にもそれぞれの能力があって… 上弦月:俺は上弦の月、朔の闇夜から満月になるまでの中間にいるから、光を生み出す能力を持ってる。 下弦月:下弦の月は逆に満月から朔に導かないといけないから、影を操って闇を生み出す能力ってわけ。 三日月:僕はね僕はね!三日月の鋭い光はどこまでも貫いて見通しちゃうんだよ!だからどんなに遠くに居ても探せちゃうの♪ 待宵:スゴイです…あなた方がお月様だったんですね… 三日月:ところで君は誰? 待宵:あ、私は… 下弦月:この人はまっちゃん。人探してるっつって俺たちについてきてんの。 三日月:へぇそうなんだ!よろしく~☆ 待宵:はい!よろしくお願いします。 上弦月:三日月、今アイツはどこに居る? 三日月:んとね…いた!あっちだよ! 下弦月:距離は? 三日月:けっこうあるかな…でも大丈夫だよ! 0: 0:三日月、物語の続きを紡ぎ始める。 0: 三日月:「大きな大きなクマのぬいぐるみは倒されて観念し、暴れるのを止めていい子になりました。そして空を飛べるようになりました~。」 上弦月:脈絡ないな。 三日月:この際気にしちゃダメだよ。 下弦月:うわ!クマの背から大きな翼が生えた! 三日月:さ!早く乗ろう! 上弦月:そういえば、あのピンクのどうした? 待宵:あ… 0: 0:待宵が穴の中を覗くと、町中の人に踏み潰されたモンピーがいる。 0: 待宵:穴から出るときに踏み台になってくれたんでした…。 モンピー:みんなひどいにぃ… 三日月:なにこれ!おもしろ~い! モンピー:ぶにぶにするなにぃ。 下弦月:ほらほら。そんなことしてないでさっさと行くよ。 0: 0:モンピーを穴から引っ張り出し、、三日月、下弦月、待宵、モンピーは巨大クマの背に、上弦月は鳥の背に乗る。 0:飛び立ってから暫くすると、晴れていた空にはいつの間にか厚い雲が蔓延り、薄暗くなる。 0: 上弦月:曇ってきたな。 下弦月:…っ! 下弦月(M):かすかだけど殺気と…発砲音? 0: 下弦月:てぃやっ。 0: 0:下弦月、待宵と三日月をクマから突き落とす。 0: 待宵・三日月:…へ? 待宵:なっ…お前何やってんだよ!? 0: 0:上弦月、二人を受け止めるためすぐさま降下。 0: 下弦月:はい、お前もイッテラッシャイ。 モンピー:にぃぃぃ!!!!!? 0: 0:二人をキャッチして3人を乗せた鳥の真上から、ピンクの塊が降ってくる。 0: 三人:うわぁ!!! 0: 0:鳥、さすがに重さに耐えられなくなり、ヘロヘロと落下。 0:その瞬間、3発の砲弾が勢いよくかすめていく。 0: 下弦月:クマ坊、砲弾が飛んできた方に行って。 下弦月:ごめん。先にアイツんとこ行ってて。 上弦月:な…何考えてるんだよお前!! 0: 0:ドッカーーーーーーーン 0:目標にあたらなかった砲弾が地面に落下して爆発。すさまじい音を立てる。 0:その音を聞きつけたものが、遠くにも一人。 0: 0: 0: 0: 0: 0:下弦月が到着したのは、大きな城が建つ国。 0: 下弦月:なんだこの国。自然に侵食されてる…? 下弦月:舗装された道や家の屋根を突き破って、高い木がいくつも生えてる… 下弦月:国中すごい甘い匂いがするけど、この木の花の匂いかな。見たこともない白い花。 下弦月:これも誰かの物語なんだろうな。 0: 0:国民たちのざわめきの声。 0:砲弾はその城の城壁から次々に飛んでくる。 0:下弦月、それをかわしながら近づき、大砲が並び王らしき人物のいる城壁内へと降り立つ。 0: 王様:貴様何者だ!? 下弦月:そっちこそ何のつもり?そんなもの飛ばしてきて、危ないでしょ。 王様:わけの分からん物体が飛んでいたから打ち落とそうとしたまでだ! 王様:貴様こそ一体何なんだ!?何がどうなっている!? 王様:いきなり変な木がわが国を侵食したかと思ったら、その直後にそんなものに乗ってきて… 王様:この国をこんな有様にしたのも貴様か!?わが国をのっとろうとでもしているのか!? 下弦月:それはない。この国こんな姿にしても俺に何のメリットもないし。 下弦月:むしろ俺たちは、この国をこんな姿にしたかもしれないやつを追ってるんだよ。 下弦月:そいつ見つけたらこの国も元に戻せるだろうから、心配しないで待ってて。 下弦月:そんで、そんな物騒なものはもう飛ばしてくんな。…国民も余計に不安がるよ。それじゃ。 0: 王様:待て!衛兵! 0: 0:衛兵たち、下弦月に剣の切っ先を向け周りを取り囲む。 0: 下弦月:何の真似かなぁ。 王様:貴様のような得体の知れない輩を生かしておくのは危険だろう?この妙な乗り物は我らが譲り受けてやる。 下弦月:こんなもの、何に使うつもりだよ。 王様:備えあれば憂いなしと言うではないか。いつどこの国と争いが起こるかわからないんでな。やれ!! 0: 0:王の合図と同時に、下弦月を取り囲んでいた刃が四方八方から突き刺される。 0:下弦月、低くしゃがみ込み数多の切っ先を避ける。 0:目の前の衛兵の足を蹴り払い、倒れた衛兵の落とした剣を拾い包囲網を脱出する。 0: 下弦月:クマ坊は逆か。痛いのも争うのも御免なんだけどな。 王様:逃がすな! 下弦月:あーあ。何で曇っちゃったんだよ~。影ができなきゃ能力も使えないじゃん。 0: 0:下弦月、向かってくる衛兵の刃を避けながら反対側のクマのいる城壁外へ向かう。 0:降りかかる刃をはじきながらクマの元に到達し飛び移ろうとするが、クマの肩に隠れていた衛兵に切り付けられ城壁外へ転落する。 0: 下弦月:っ痛!! 0: 0:右腕から鮮血が流れ、握っていた剣が落ちる。 0: 下弦月:あー…かっこわる… 0:落下していく下弦月、鳥の背に受け止められる。 0:片翼の大きな鳥と、上弦月だ。 0: 上弦月:一匹狼気取ってるのはどっちだ。 下弦月:…ばーか。俺は先に行っててって言ったのに。赤月(アカツキ)はどうしたんだよ。 上弦月:怪我人が偉そうな口叩くな。 下弦月:余裕。 0: 0:鳥、二人を乗せてクマのところまで上昇する。 0:上弦月、上弦の月の能力で掌から光を出す。 0: 衛兵たち:うわっ!眩しい!! 0: 0:下弦月、クマの肩に移り、そこに隠れていた衛兵を城壁内へ蹴り飛ばす。 0: 下弦月:お返しだよっ! 衛兵:うぎゃぁ! 0: 0:上弦月の光によって、衛兵たちの足元には彼らの影がくっきり浮き出ている。 0:下弦月、右腕を伸ばしてひらひら振ると、衛兵たちの影が次々と繋がっていき、彼らの足元に大きな黒い穴ができる。 0: 下弦月:イッテラッシャイ♥ 衛兵たち:うわああああああああ!! 0: 0:衛兵たち、影でできた大穴の中を落ちていき、城の一階に放り出される。 0:国王、ただ一人その城壁内に残る。 0:下弦月、一本残った剣を拾い、王ののど元に切っ先を向ける。 0: 下弦月:ねぇ王様、もう一度だけ言ってあげる。その物騒なもので俺たちの邪魔しないで。ウザイから。 王様:わ…分かった!悪かった! 0: 0:三日月、待宵、城の一階で団子になって倒れている衛兵たちを通り過ぎ城壁内に登ってくる。 0: 三日月:うわっ!下弦月、大丈夫!? 下弦月:あぁ、みかりんとまっちゃんも来ちゃったの。全然平気なのに。 上弦月:嘘つけ。 待宵:あ、あの下弦月さん、早く手当てを… 下弦月:だーいじょうぶっ。みんなしてそんな心配しないでよ。そんなんじゃ俺ダサすぎでしょ? 0: 0:黒髪の少女、音もなく突如下弦月の後ろに現れ、傷ついた腕をつかむ。 0: 下弦月:はぐぅっ!!? 上弦月:朔か? 朔:どこが平気なんだよ。見え張ってる方がダサいぞ。 下弦月:朔…おま、いつの間に… 朔:私を誰だと思ってるの?朔月(サクヅキ)の得意技は闇に乗じることだよ。 下弦月:普通に出て来いよ!それとも、もっと前からここにいたのか? 朔:面倒は嫌いなんだ。ま、本当に死にそうだったら助けたかもしれないけどな。 下弦月:お前… 三日月:ごめんね、下弦月。僕、一つのものに集中すると他のものは見えなくなっちゃって、大砲飛んでくるの全然気づかなかった… 下弦月:いいよいいよ。それがみかりんの役目だったんだから。 待宵:とにかく、止血しないと… 0: 0:待宵、服の裾を破り下弦月の腕に巻く。 0: 朔:優しすぎだな。 待宵:え? 0: 0:朔、待宵を押しのけ、布の結び目をありったけの力で締めあげる。 0: 下弦月:ぎゃぁぁ!!鬼か! 朔:このくらいやらなきゃ意味ないだろ。 三日月:下弦月、情けな~い。 下弦月:っるさいなぁ!!それよりみかりん、赤い月さんはどうなったの?もう大分遠くまで行っちゃった? 三日月:あー…それがね、いつ言おうかなって思ってたんだけど… 0: 0:赤月、城内の階段から皆がいる場所に登場する。 0: 赤月:ここに居たんだ。 赤月:君たちが僕に追いつくのを待っていたのに、来るのが遅いよ。 上弦月:赤月…!! 0: 0:蔓延っていた雲は流れ、所々の切れ間から洩れる光が、彼の赤い髪をより色鮮やかに見せる。 0: 赤月:物騒な爆発音がしたから、また人間が愚かなことしてるのか見に来たんだよ。 上弦月:そうか。そっちから来てくれるならこっちも助かる。もうイタズラには飽きたのか? 赤月:イタズラだなんて、そんな軽薄な言葉使ってほしくないなぁ。ちゃんと目的があるんだよ。 上弦月:目的…? 赤月:確かに、君たちの物語を現実にしたのは単なる余興だけど。僕にとってはここからが始まり。 下弦月:何をする気? 赤月:僕の物語を現実化する。 三日月:赤月の物語って…? 赤月:「人間は馬鹿で愚かで救いようのない生き物でした。」 赤月:「地球という星で自分たちが一番偉いと勘違いしていました。」 赤月:「自分たちが一番優れていると思いこんでいました。自分たちが一番支配する権利(ちから)があると思い上がっていました。」 赤月:「そんなある日、突如未確認の生物が現れました。彼らは人間よりも強く、優れていました。」 赤月:「彼らは、今まで人間たちが他の動物たちにしてきたように、人間たちのことを支配していくのでした。」 待宵:そんな!そんなこと… 赤月:もう遅いよ。 0:赤月、大きな白い羽で出来たペンを取り出す。 0:ペン先から細く長い光の糸が紡がれ、束となり形作られていく。 0:大きな生物が4体。羽が生えている。人間が巨大化して変形し、様々な生物と合体したような、異形の姿。 0:強大な力を秘めているような禍々しさを放っている。 0: 朔:なんだこの気味の悪い生き物は…!? 赤月:僕はね、人間が嫌いなの。大嫌い。 上弦月:こいつらに人間を支配させるつもりか?!お前にもそんなことする権利はないだろ! 赤月:そう言うと思った。確かにそうかもしれない。 赤月:でもさ、こいつらを生かしておく理由がある?こいつらに、地球(ここ)にいる価値がある? 赤月:僕にはそれが分からないんだ。だからね、君たちに教えてほしいんだよ。 赤月:本当に人間たちにそれだけの価値があるというなら、君たちがしっかり守って見せて。 0: 0:異形の生物たちが方々に散る。この国の人間から襲おうとしている。 0:それぞれ手分けして後を追う。 0: 上弦月:光よ、奴の視界を封じろ。 上弦月:…:よし、二体動きが止まった。三日月! 三日月:うん!クマさん、いけー!炎! 三日月:やったー!二体焼いた! 0: 下弦月:晴れてくれば影もできるもんね。朔、いくよ? 朔:あぁ。お前の影に潜らせてもらうぞ。 0: 0:下弦月、異形の生物一体に向かって影を伸ばし、周りを取り囲む。 0:朔、影の中から異形の眼前に飛び出し、持っていた剣で胸のあたりを突き刺す。 0: 朔:よし!一体潰した! 下弦月:でも…一体逃げられた! 0: 0:残り一体の異形、高い木々の下の民衆の方へ向かっていく。 0: 0:城の外、ぼよんぼよんと跳ねながらモンピーが向かってくる。 0: モンピー:みんな酷いにぃ!!いくらオイラが歩くの遅いからって置いていくことないにぃ! 待宵:モンピーさん!? 下弦月:モンピー!!跳べ!! モンピー:にぃ?シモ?どこに… 0: 0:モンピー、見上げると異形が突進してきている。 0: モンピー:にぃぃぃぃ!!!? 下弦月:早く跳べ! モンピー:よくわかんないし怖いけど…にぃぃぃぃぃ!!! 0: 0:モンピー、わけも分からずその場から思いっきりジャンプする。 0:意外にもそのジャンプ力には勢いがあり、どんどん加速して異形の正面から衝突する。 0:異形、そのまま突き飛ばされて城壁内まで戻って来ると、壁にぶつかりメキメキと食い込む。 0: モンピー:にぃぃ…目が回るにぃ… 下弦月:いい仕事するじゃん♪ 0: 0:それぞれ異形をとらえ一撃を食らわせたが、ほとんど効いておらず、4体それぞれ再び動き出す。 0: 赤月:それじゃ僕は高みの見物でもしてるから。 赤月:そいつらほとんど不死身だから気を付けてね。 0: 0:赤月、城の中へと消えていく。 0: 上弦月:待宵、お前はここを離れろ。 待宵:で、でも… 上弦月:人を探してるんだろ?もう俺たちといても見つからないぞ。俺たちの心配なんかしなくていい。 上弦月:(腰を抜かしている国王に向かって)おい!武器があるだろ!?早く持ってこい! 王様:な…わしに命令… 上弦月:このまま滅ぼされたいか!? 王様:…くそっ! 0: 0:国王、城の中へと走っていく。 0: 上弦月:お前も早く。 待宵:…っ! 0: 0:待宵、城内へ走り去る。 0:4人とモンピー、異形を城外へ出さぬよう攻防を続ける。 0: 0: 0: 待宵(M):このまま戦っている皆さんを残して、逃げれるわけがない…! 待宵(M):赤い月さんは高みの見物をしていると言ってた…! 0: 0:待宵、城の塔に登る階段を探す。 0: 0: 0: 0: 王様:とりあえず近場にあった武器はこれだけだ! 0: 0:国王、2本の剣を持って戻って来る。 0:上弦月、1本を自分で持ち、もう1本を下弦月に投げる。 0: 上弦月:シモ!使え! 下弦月:どーもっ。 0: 0:下弦月、朔、それぞれ剣を持ち影を操りながら共闘。 0:上弦月、鳥の背に乗りながら空中で激しい攻防戦が繰り返す。 0: 上弦月:こいつら、何度斬りつけても立ち上がってくる…! 0: 0:三日月、クマに乗って飛んでくる。後ろからは焼け焦げた異形が追ってきている。 0: 三日月:上弦月~~~~~~~~~!! 三日月:あいつ、何回焼いてもへっちゃら~って感じなのぉ。 上弦月:あぁ。きりが無いな。 上弦月:三日月!赤月はどこにいる!? 三日月:えっと…いた!!この塔の上!! 上弦月:話しつけてきてやる! 下弦月:無理だよ。こいつら行かせてくれやしない。 0: 0:不死身の化け物4体を相手に、苦戦を強いられる一行。 0:赤月、塔の窓に頬杖しながら、その様子を遠い目で見下ろしている。 0: 待宵:見つけました。 赤月:君、人間だよね。何しに来た? 赤月:あいつらが人間の為に戦っているときに、当の人間は逃げてきたの? 待宵:お願いに来たんです。どうか、あなたの物語を止めてください。 赤月:君は、なんで僕がこんなことしてると思う? 待宵:それは…人間がお嫌いだって… 赤月:…地球はね、神様の作った物語なんだよ。 待宵:え? 赤月:温かい命溢れる星の物語。空は青くて、海は澄んでいて、風は気持ちよくて、緑は美しくて、花はいい香りがして、動物たちは楽しそうで… 赤月:そんな生命(いのち)の物語。神様はそれを実現できる力を持っていた。それで地球が生まれたんだ。 赤月:神様は、僕ら「月」のことも作ってくれた。 赤月:夜になってお日様が沈んだら、今度は君たちが命を照らしてあげなさいって。そして光に乗せて物語を届けなさいって。 赤月:僕感動したんだ。なんてキレイな星なんだろう…なんて温かい星なんだろうって。 赤月:神様はこの地球という物語の続きは、この星に暮す命に任せることにするって言った。 赤月:僕らも真似て終わりのない物語を作った。ストーリーは聞き手の命が夢の中で紡いでくれるように。そうやって見守ってきたんだ。この星を。 赤月:なのに人間は…争いばかりでこの星を汚していく。他の動物たちを平気で殺す。植物たちを踏みにじる。 赤月:果てには人間同士が醜く殺しあって、地球は血に染められていった。僕には耐えられなかった。 赤月:だから僕は、人間たちに悪夢を見させるようになった。警告のつもりだった。なのにあいつらは、目が覚めるとすぐに忘れてしまう。 赤月:実際、みんなの物語を現実化してみても、それを夢で見たことがあるって覚えてるやつなんていた? 赤月:こいつらは夢物語を虚像としか取ってくれない。どんなに物語で訴えても、あいつらには届かない。 赤月:だから…こうでもしないと、分かってくれないだろ? 0:赤月、眼下で戦い、傷ついていく月たちを見て、僅かに悲しそうな表情を浮かべる。 0: 赤月:何で彼らは、あんなになってまで人間を助けようとするのかな… 待宵:それは…皆さんとてもお優しい方だから… 待宵:赤月さんだって、とってもお優しい方です。本当なら地球に降りてきてすぐにあなたの物語を実行に移せば、人間はすぐ負けてしまったでしょう。 待宵:今だって、あの生き物の数をもっともっと増やすだけで、簡単に人間は負けてしまうでしょう。 待宵:あなたは…迷ってくれているんですよね? 0: 0:赤月、相変わらす遠い目で戦いの様子を見る。 0:待宵、瞳にじんわり涙を浮かべる。 0: 待宵:ごめんなさい…あなたの言う通りかもしれません。 待宵:人間は愚かで、救いようがなくて…失くしてからじゃないと、大切なものに気付くことができない。 待宵:でも、人の心も、本当はとっても温かいんです。争いが消えない世界の中で、傷つきながら、お互いに支え合って生きています。 待宵:それに…皆さんの物語だって、ちゃんと届いてる人もいるんです。 0: 0:赤月の虚ろな瞳が、待宵に向く。 0: 赤月:届いてる…?誰に? 待宵:上弦月さんの物語…片方の翼の鳥の… 0: 0:待宵、最初の街でのことを思い出す。 0:穴ぼこだらけの地面の下から地上を見上げ、上弦月と鳥を見つけて少年が言ったこと。 0: 子ども:僕、あの鳥さん見たことある。 待宵:ほんと? 子ども:うん。夢の中で。片っぽしか羽がなくて、飛べなくて、一人でいたの。 待宵:それで…君はどうしたの? 子ども:小さくて踏み潰されちゃいそうだったから、ずっと抱いててあげたんだ。 0: 待宵:…あの時、あの子の言葉を聞いて、とても温かい気持ちになりました。 0: 0:虚ろな赤月の視線が窓の外に戻る。 0: 赤月:そう…そんなこと言ってる子がいたの。 0: 0:塔の下では月たちが満身創痍になりながら戦っている。 0: 上弦月:はぁ…はぁ…くそっ。 0: 0:異形たち、太刀打ちできなくなった4人から離れ、城外の国民たちへ攻撃の矛先を向ける。 0: 上弦月:っ、待て!! 0: 満月:「…木々は覆いかぶさり、人々を守る盾となりました。」 0: 0:物語を紡ぐ声。その言葉通り、国中の高い木々はしなり、国全体を覆うように互いに重なり、ドームのようになって異形たちの侵入を拒んだ。 0:ドームになった木の上に、銀の長髪をなびかせた男が一人、立っている。 0: 満月:まんまる満月に欠けるところはありません。 0: 0:その声とともに、巨大な黄色い光の玉が生み出される。 0:その玉は侵入を拒まれた異形たちの元へ飛んでいき、光の中に異形たちを封じ込めた。 0:異形たちは中から爪やビームで球体を破壊しようとするが、どこも欠けることがない。 0:その男が指をパチンと鳴らすと、球体内で異形ともども大爆発を起こした。球体はどこも欠けない。 0: 0:長い銀髪の男は木々のドームの上を歩き、月たちのいる城壁内へと上がった。 0: 上弦月:「満月(ミツヅキ)…」 満月:遅くなってすみません。ところで皆さん怪我をしていますけど、大丈夫ですか? 朔:大丈夫じゃない!!何でもっと早く来ないんだよ!! 満月:誰かの物語だと思うんですけど… 満月:真っ暗で、しかも難解な迷路に迷い込んでしまって、抜けるのに時間がかかってしまいました。本当にすみません。 朔:…そう、か。 三日月:あれ?もしかして朔ちゃんの物語だった? 朔:黙ってろ! 下弦月:てか、おみつの能力、相変わらずチートすぎ。 0: 0:上弦月、鳥の背に乗り、塔の上へ向かう。 0: 上弦月:話をつけてくる。 三日月:…あれ、球体の中に3体しかいない!? 0: 0:満月の球体でとらえ損なっていた一体の化け物、上弦月に向かってビームを放つ。 0: 三日月:上弦月!!後ろ!! 0: 0:上弦月、ビームをよけると、その先の赤月と待宵のいる塔に命中する。 0: 満月:すみません!今度こそちゃんととらえます! 0: 0:満月、瞬時に球体を作り直し4体を封じ込める。 0:塔の一部が破壊され、今にも崩れそうな状態になる。 0:塔の上では激しい振動が起き、大きな窓に頬杖をしていた赤月は窓の外に放り出される。 0: 待宵:赤月さん!! 0: 0:待宵、赤月の手を掴み、宙ぶらりんの状態で支える。 0: 赤月:やめなよ。君も落ちるよ? 待宵:嫌…です!! 赤月:ねぇ。腕、痛いでしょ?何で助けるの?僕、君たちを滅ぼそうとしてるんだよ? 待宵:…っ!! 赤月:(小声で)…温かい手。 0:ぐらぐら傾いていた塔が折れ、二人は瓦礫と共に落ちていく。 0:鳥に乗ってきた上弦月、すかさず二人をキャッチする。 0: 待宵:上弦月さん…! 上弦月:待宵!?なんでここに…いや、それよりも。 上弦月:いいか赤月!!!命の価値なんて、誰にも決められないんだぞ!! 赤月:…うん。分かった。 上弦月:…?そう…か? 0: 0: 0: 0: 0:三人、他のメンバーの元へ戻る。 0: 赤月:みんな、ごめんね。 0: 0:赤月、傷だらけの月たちに両手を掲げる。彼の持つ治癒の力が、彼らの傷を癒す。 0: 赤月:赤は血の色。でもそれは、血を流して死んでいくことを象徴するんじゃない。命の証。生きていることの象徴。その温かさ。 赤月:あの子達も出してくれる? 0: 0:赤月の要望に、満月はにこっと笑んで球体の呪縛を解いた。 0:異形の生き物たちの体もボロボロだった。 0: 赤月:「もう人間を滅ぼさなくてもいいよ。」 0: 0:赤月、彼らの傷も癒す。 0: 上弦月:物語を終わらせよう。 赤月:うん。 0: 0:赤月、大きな羽ペンを出す。 0: 三日月:物語を現実にする力を持ったペン。赤月はそれをどこで手に入れたの? 赤月:これは神様の翼の羽でできているんだ。1枚抜けていたのを偶然拾ってね。 赤月:これを折れば、現実になった物語は全部消える… 0: モンピー:待ってにぃ!!!おいら…おいらも消えちゃうにぃ!? 待宵:大丈夫だよ。また夢の中で会おうね。 0: 0:待宵、モンピーの体を優しく抱きしめる。 0: モンピー:…うん。 0: 0:上弦月と三日月、それぞれ片翼の鳥とクマのぬいぐるみの頭を撫でる。 0: 満月:この国を覆っている木々に咲いている花、私の物語なんですけど、平和を願う心がこの花を咲かせるんですよ。 待宵:…きれい。どの木も満開ですね。 0: 0:赤月、ペンを折る。平和の花が消える。 0: モンピー:またね、待宵。 0: 0:モンピーも、巨大なクマのぬいぐるみも、片翼の鳥も、異形の生き物たちも消える。 0:現実化した物語の影響によって崩れた城も、その他すべての影響を受けた場所も、元通りになる。 0: 下弦月:あーやっと終わった! 三日月:僕たちももう帰る? 朔:あぁ。もうすぐ夜になるしな。 待宵:そうですか…寂しいです。 0: 0:待宵、上弦月をちらっと見る。 0: 下弦月:あれ…?まっちゃんもしかして… 三日月:え!あれれ!?そうなの!? 待宵:え!?あ、あの、そんなんじゃ… 赤月:(くすっと笑う) 0: 上弦月:そういえば、お前はまだ探してるやつ見つかってないんだよな。 待宵:あ、えっとそれは…もう、見つかったんです。 上弦月:そうなのか?結局、誰だったんだ? 0: 0:待宵、そっと上弦月に耳打ちする。 0: 上弦月:…え。 下弦月:なになに?けっきょく誰探してたって? 待宵:あ!ダメです!内緒にしてください! 三日月:え~?二人だけの秘密?あやし~。 待宵:だって…絶対笑われるもん。 0: 待宵(M):絶対、笑われる。「お月様」を探してたなんて… 待宵(M):いつも眠る前に月を見るのが好きで、なのにあの日はお月様が空にいなかったから… 待宵(M):例え朔の晩で光っていなくても、そこにいることが感じられていたのに。 待宵(M):その日は本当に空のどこにもいなかったから探してたなんて…言えません。 0: 上弦月:…待宵、夜になったらいつでも会える。だから寂しいとか言うな。 待宵:…はい! 0: 待宵(M):そう、夜になればまたいつでも会える。あなた達はいつも見守ってくれているのだから。 0: 上弦月:じゃあな 下弦月:また遊びに来るかもよ。 待宵:はい!是非! 待宵(M):そして彼らは空へと消えていってしまいました。 待宵(M):いつの間にか暗くなっていた空に優しい光を灯して、一瞬赤く光り、満ち欠けを一周しながらキラリと瞬きました。 待宵(M):まるで皆さん一人一人が挨拶してくださったように。 0: 待宵:今日は上弦の月…上弦月(カミヅキ)さんの物語が見れるのね。 0: 0: 0:国王、城壁内の影から出てきて待宵の隣に並ぶ。 0: 王様:…不思議な出来事だった。平和を願う心が咲かせる花… 0:国王、冷たい大砲の表面に触れる。 王様:もしかしたら、こんなものはいらないのかもしれないな… 待宵:そうですね。 0: 待宵(M):争いが無くなればいい。地球がいつまでも美しいといい。きっとみんなそう思ってる。 0: 王様:君はこれから自分の家に帰るのか? 待宵:…いえ。私、帰る場所がないんです。二人きりで旅をしていた父が亡くなって、今は一人… 王様:そうか。ならば…この国に住むか? 0: 待宵(M):ほら、あったかい言葉。 0: 待宵:はい!ありがとうございます! 0: 待宵(M):人間は愚かかもしれない。でも人間だって、あったかい生き物です。こうやって支えられているんです。 待宵(M):だからどうか、信じていてください。信じて、見守っていてください。 待宵(M):夜空に浮かぶ月に願う。 待宵(M):「地球」という物語が、これからも温かい命によって紡がれ続けていきますように… 0: 0:END

0:月の出ない夜。小さく儚い星の光だけが、黒い絨毯の上の埃のように夜空に散られている。 0:下界では、広い荒野の上、2人の少年が当ても無く歩いている。 0:美しい銀色の髪をした、双子のようにそっくりな2人。 0: 上弦月:…何でお前と行かなきゃいけないんだよ 下弦月:俺だって別に君と組みたくて組んでるんじゃないんですケド。 下弦月:ま、でもさ、偶然にしろせっかく同じ場所に降りてきたんだから、二人で行ってもいいんじゃない? 上弦月:ここで分かれてお互い一人で行ったっていいだろ。 下弦月:カミさぁ、そうやって一匹狼気取ってると、いつか足元すくわれるよ? 上弦月:気取ってなんかない。 下弦月:あっそう。じゃあ、はい。(右手を差し出す) 上弦月:…なんだよ? 下弦月:握手。気取ってないならいいでしょ。きっとそのうち俺の協力が必要になるんだから。 上弦月:…力を貸してやるのは俺の方だと思うけどな。 0: 0:上弦月、右手を差し出す。 0:すかっ。 0:下弦月、右手を引っ込める。 0: 下弦月:なんちゃって☆ 上弦月:おまっ…俺をおちょくってんのか!? 下弦月:それ以外に何があるのさ? 上弦月:くっ… 下弦月:クールぶってるだけで意外と短気なんだね。 上弦月:…そうやって人を馬鹿にして楽しいか? 下弦月:うん。とっても♪ 上弦月:シモ、お前の方こそ、いつか痛い目見るぞ。 下弦月:痛いのは御免だなー。 0: 0:下弦月、数十メートル先の闇に、異様にうごめく影を発見する。 0: 下弦月:なーんか非現実的なものが見えてきた…。 上弦月:行くぞ。 下弦月:あーぁ。めんどくさ~。 0: 0:二人、駆け足で目標に向かう。 0: 0: 0: 0: 0: 化け物:こんな醜いオイラのこと、愛してくれる人なんかいないにぃぃぃ! 0: 0:化け物、自分の醜すぎる姿を嘆いて泣いている。 0:触るとぶにぶにしていそうな、ピンク色で巨大な図体。そのあちこちにお粗末なツギハギの跡。 0:にょきっと生えた2本の手は、赤ちゃんの手のように小さかったが、気持ち悪いほどにリアルな人の手。 0:プラスチックで出来ていそうなまん丸の目玉の片方は涙に濡れ、もう片方は黒い糸のようなものにぶら下がってギョロギョロと揺れている。 0:その目玉が本来収まるべきはずの場所には黒い穴がぽっかり開き、その空洞からも涙は溢れている。 0:大きなたらこ唇はがばっと開かれ、ガラガラに枯れた喚きを吐き出し続ける。 0:そんな化け物の前で少女が一人、地面の上に正座して瞳をうるつかせている。 0: 待宵:うぅ…ひっく…さぞかし辛い思いをしてきたのでしょうね…。 待宵:で、でも、泣かないでください。あなたは醜くなんか無いです。 待宵:だって、だってこんなにも、綺麗な涙を流しているではありませんか…! 化け物:ホントに…ホントにそう思ってくれるんにぃ? 待宵:はい!だからもう泣かないでください。私まで悲しくなってしまいます。 化け物:ありがっちょ…じゃあオイラの友達になってくれるにぃ?? 待宵:もちろんです!こんな私で良ければ! 化け物:じゃあ友達ならオイラのお願い、聞いてくれるにぃ? 待宵:えぇ、私にできることなら… 化け物:わーい!それじゃあ食べさせて!いっただっきまーす♪ 待宵:へ…? 0: 0:ばくっ。 0:待宵、丸ごと化け物に飲み込まれる。 下弦月:あ、遅かったか。 上弦月:遅かったかって…そんな平然と言うなよ。 化け物:ん?(二人の存在に気付く) 化け物:うわぁぁぁぁん!哀れなオイラの話を聞いてくれるにぃぃぃ? 上弦月:そんなことより、今食ったやつ早く吐き出せ。 0: 0:化け物、涙をピタリと止め、体をみるみる紅潮させる。 0: 化け物:おいらの話聞いてくれない…酷い!!食ってやるにぃぃぃ!! 上弦月:うわっ 0: 0:化け物、口から長い舌を伸ばし上弦月を巻き取ろうとする。 0:上弦月、とっさに身をひるがえしてそれを避ける。 0:化け物、さらに憤慨し、でかい図体をごろんごろん転がして二人に突進する。 0:二人、同じ方向へと駆け出す。 0: 上弦月:おい。どうする。 下弦月:ん~?物語は作者にしか変更できないけど? 上弦月:そんなこと分かってる!ったく誰だよ、こんな趣味悪いの考えたの。 下弦月:趣味悪くて悪かったねぇ。 上弦月:…え。 下弦月:「あるところにそれはそれは醜い化け物がいました。」 下弦月:「みんなに嫌われ、蔑(さげす)まれていた化け物は、毎晩一人ぼっちで泣いていました。友達が欲しいと泣いていました。」 下弦月:「しかしこの化け物、実は友達がいなかったわけではないのです。」 下弦月:「食いしん坊の化け物は、醜い自分と仲良くしてくれる数少ない友達まで食ってしまっていたのです。」 下弦月:「目に映るもの全てを食べてみたい。結局こいつは、心まで醜い化け物だったのです。」 下弦月:俺が作った物語。ここからが新しいところ。 下弦月:「しかしある夜、一人の少女を食べた化け物は急に悲しくなってきました。」 0: 0:下弦月、人差し指を立てる。その指先から糸のように細い光が伸びて、後ろから転がってくる化け物の周りを取り囲む。 0:化け物、急にぴたっと動きを止める。 0: 0: 下弦月:「あんなに優しかった人を食べてしまったなんて…。化け物は口を開けて長く巻かれた舌を出しました。」 下弦月:「そして巻かれた下を伸ばし、くるまれていた少女をそっと地面に寝かせました。」 0: 0:光の糸、何重にもなって化け物の周りをで束になる。 0:化け物、下弦月の言葉通り、丸呑みした待宵を出して地面に寝かせる。 0:待宵、呆然と目を丸くする。 0: 下弦月:「化け物はやっと気づいたのです。最も醜いのはこの姿ではなく、心だったのだと。めでたしめでたし。」 0: 0:下弦月が言い終わると、光の糸は消えてしまう。 0:化け物、うなだれて大人しくしている。 0: 上弦月:お前が作者…? 下弦月:ね?俺と一緒でよかったでしょ。 上弦月:そうならそうと早く言えよ!…にしても、同情誘った相手を食っちまう化け物の話って…お前ほんとに性格ねじ曲がってるな。 下弦月:いいでしょー。最後はハッピーエンド(?)にしたんだから。 上弦月:はぁ…(待宵に向かって)大丈夫か? 待宵:私…食べられちゃいました… 0: 0:上弦月、待宵を無理矢理立たせる。 0: 待宵:あ、すみません。ええと、助けていただいたんですか…? 上弦月:気にするな。そもそもあの化け物を作り出したのはアイツだ。 下弦月:ちょっと、全部俺のせいみたく言わないでよ。物語を現実のものにさせたのは俺じゃないだろ。 下弦月:それに言っとくけど、その子助けたのは俺なんだからね。何にもしなかった役立たずは黙ってなさい。 上弦月:なんだと!?お前の物語だったならお前がケリつけて当前だろ!! 待宵:あ、あの~…それで、お二人は一体…? 0: 0:二人、口喧嘩をやめて待宵に向き直る。 下弦月:…物語を紡ぐ者、だよ。 待宵:物語を? 下弦月:物語を作って、夜、生き物たちが寝静まってからそれを聞かせるのが俺たちの役目。 下弦月:生き物たちは俺たちの作った物語をそれぞれの心のスクリーンに映して、夢として見る。 下弦月:だから同じ物語でも、聞く命によって見る夢は全部違うんだ。 上弦月:それを俺たちの中の一人が、俺たちの作った物語まで持ち出して現実のものにさせてるんだよ。 上弦月:さっきのも、こいつが作った化け物の話が現実化されてたんだ。俺たちは物語を現実化させている赤い髪の男を探してる。見なかったか? 待宵:いえ…あの変わった生き物さんしかいませんでした。 上弦月:そうか。じゃあ、他にどんな物語が現実になってるか分からないから気をつけろよ。シモ、行くぞ。 下弦月:はいはい。 待宵:あ、あの! 上弦月・下弦月:ん? 待宵:私も…探している方がいるんです。一緒に連れていってもらえませんか? 待宵:その、なんでかわからないけど、あなた方と一緒だったら見つかるんじゃないかって思えて… 下弦月:?俺は別にいいけど…ついてくるだけなら。 上弦月:どうでもいいが、俺たちはアイツ見つけて、さっさと終わらせるぞ。 待宵:はい!お邪魔にならないように気をつけます。 0: 0:大人しくしていた化け物、顔を上げて3人を引き留める。 0: 化け物:待ってくださいにぃ! 下弦月:あれ、君まだいたの?すっかり忘れてた。 上弦月:お前、仮にも自分の物語だろうが。 化け物:オイラも連れて行ってくださいにぃ!オイラ、もう絶対に誰も食べないって約束するにぃ。 化け物:だから、だから、もう一度友達になってくださいにぃぃぃ。 待宵:(もらい泣きしながら)もちろんです!約束してくれてありがとうございます。一緒に行きましょう! 下弦月:あらら、貴方ほんっとうにお人好しなんだねぇ。 上弦月:で、コイツも連れて行くのか? 下弦月:ん?どーでもいいんじゃない? 待宵:あ、ところで皆さんのお名前を教えていただけますか? 下弦月:あぁ、俺は下弦月(シモツキ)だよ。そんでこっちは上弦月(カミヅキ)。」 化け物:オイラは…オイラの名前は?? 下弦月:あーそういや決めてなかったな。「化け物」でいいんじゃない? 上弦月:それはあんまりだろ。 下弦月:じゃあテキトーにモンスターのモンピーとか? 上弦月:ネーミングセンスないんだな。 下弦月:むっ、失敬な! モンピー:モンピー…オイラの名前はモンピー! 待宵:素敵です! 下弦月:ほら、二人とも気に入ってくれた!で、君の名前は? 待宵:私は待宵(まつよい)といいます。 下弦月:じゃあまっちゃんって呼ぶね! 上弦月:俺は普通に呼ぶぞ。 待宵:はい! 下弦月:じゃあ行こうか。 0: 0:進み始めた彼らの先に、小さな町の影が見え始める。 0:夜は静かに明けようとしている。 0: 0: 0: 0: 0: 0:日が昇りその町に着くと、あちこちで人を探す声がする。 0:町の地面は雨が降ったように濡れていて、大小様々な水たまりができている。 0: 町人:ぼうやー! 町人:おじいさ~ん?? 町人:あなたー。 上弦月:おい、赤い髪の男を見なかったか? 町人:え?知らないけど…あなたたちも誰か居なくなっちゃったの? 下弦月:居なくなっちゃったっていうか、俺ら人を探してこの町に寄ってみたんですけど。 町人:あらそう…でもごめんなさい、力になれないわ。 町人:なんだか朝になってみんなが外に出始めてから、次々に行方不明者が出て…私も夫を探しているの。失礼するわ。 上弦月:朝方から次々と行方不明者…また誰かの物語が現実化しているのか? 下弦月:そうじゃない?俺ではなさそうだけど。 待宵:では上弦月(カミヅキ)さんの…? 上弦月:いや、違うと思うけど…物語を紡ぐ者は俺とシモだけじゃないからな。 待宵:そうなんですか? 上弦月:あぁ。他のやつらも別の場所で赤い髪の男を探してる。 下弦月:でも、この怪奇現象が物語の現実化だとしたら、アイツはこの町に寄ったって事でしょ? 下弦月:だったらまだそう遠くに行ってないかも。 モンピー:あれを見るにぃ! 下弦月:うわっ!何、あの巨大なクマのぬいぐるみ!? 下弦月:街ごと踏みつぶしそうなんだけど!? 上弦月:…っ!口から炎を吐き出した!? 0: 0:炎は家々へと燃え移り、中から次々と町人が逃げ出す。 0: 上弦月:…誰だよ、こんなの考えたの。 下弦月:俺じゃないことは確か。 モンピー:そんなことより早く何とかするにぃ!! 上弦月・下弦月:お前は黙ってろ モンピー:にぃぃ(泣) 待宵:あ…見てください!町の人たちが! 上弦月:…!逃げていく町人が…消えた!? 0: 0:逃げ惑う町人が、次々に突然、文字通り消えていく。 0: モンピー:ぬぅぁぁぁ!クマがこっちに来るにぃ! 上弦月:早く逃げろ!! 0: 0:モンピーに続いて下弦月、待宵、そして上弦月が逃げる。 0: 上弦月:…!待宵、止まれ!!シモと化け物が…消えた? 待宵:お2人が消えた場所…水たまり? 0: 0:ボチャンッ…ブクブク…ヒューーーードスンッ 0:2人が水溜りに落ちると、体は水の中をどんどん沈んでいき、水を抜けると空中へと投げ出されそのまま少し下の地面に落下。 0:先にモンピーが落ち、その上にシモツキが落ちると、大福のような体がぶにっとへこむ。 0:二人が落ちてきた頭上では、水が落ちることなく空中にたまっている。 0: モンピー:お…重たいにぃぃ… 下弦月:ここは…水たまりの中…? 0: 0:行方不明になっていた町人たち、二人と同じように水たまりに落ちてこの場所にいる。 0: 町人:どうやってこの場所から抜け出せばいいのか… 町人:地下を歩き回ってみたが、地上に出られそうなのは落ちてきた水たまりしかないようだ。 町人:あの水、邪魔だよな… 0: 0:子どもたち、モンピーに近寄ってきて好き放題にちょっかいを出す。 0: 子ども:うわっ!なんだコイツ!! 子ども:おもしろ~い!触らせて! 子ども:僕も僕も! 子ども:やめなよ~気持ち悪い。 モンピー:うわぁやめれるにぃ! 0: 0: 下弦月:…そっか。思い出した。これやっぱり俺のだ。 0: 0:下弦月:にっと口角を上げ、物語を紡ぎ始める。 0: 下弦月:「あるところにたくさんの水たまりがありました。その水たまりに足を踏み入れると2度と出て来られなくなります。」「そんな時… 0: 0: 0: 待宵:水たまりに落ちちゃいました!? 上弦月:人が消えていったカラクリはそれか。 待宵:どうしますか!? 上弦月:どうするも何も、まずはこのクマを止めるしかないだろ! 上弦月:水たまりを避けながら逃げろ! 待宵:はい! 上弦月:(振り返ってクマを見る)…ん?あれは…鳥? 0: 0:クマの足の間から見えた中央広場で、よろよろと歩いている片翼の小鳥を見つける。 0:上弦月、待宵の手をとり、路地に逃げ込む。 0:クマ、その横をドスンドスンと通りすぎる。 0: 上弦月:ここに隠れてろ。 待宵:あの、私にお手伝いできることは… 上弦月:いいから。 0: 0:上弦月、路地から抜け出し、中央広場へと向かう。 0: 上弦月:やっぱりお前か。 0: 0:上弦月が片翼の小鳥に手を伸ばした、その時。 0: 子ども:おかぁさぁぁぁぁぁん!!! 待宵:あ!危ない! 0: 0:待宵が隠れている路地の正面で、小さな男の子が泣き喚きながらうろついている。 0:待宵、路地から飛び出して男の子に駆けよる。 0:巨大クマ、泣き声に反応して、二人の方に振り返り、近づいていく。 0: 上弦月:馬鹿!よけろ! 0: 0:クマ、上弦月が叫んだのと同時に、口から炎を吐き出す。 0:待宵と子ども、炎に気付くが硬直して動けない。 0:小鳥、上弦月を見上げていたが、上弦月は小鳥に伸ばした手を戻し、力の限り走り出す。 0:突進した勢いで二人を抱きかかえながら炎をよけようとするが、炎は目前。その時。 0: 下弦月:…そしてたまった水は雨となり青空に虹を架けました。」 0: 0:地下で紡がれた下弦月の言葉と共に、水たまりの水は空高くはじけ、激しい雨となり町中に降り注いだ。 0:その雨が家々に燃え移った炎も、上弦月たちに向かってきていた炎も鎮火する。 0:地面にぶつかった雨粒は霧のように細かくなって消え、後には大きな虹が架かった。 0: 上弦月:大丈夫か? 待宵:あ…はい。ごめんなさい。…ありがとうございます。 0: 0:待宵の頬が赤く染まる。つられた上弦月は露骨に目をそらす。 0: 上弦月:今度から気をつけろ。 待宵:…はい! 0: 0:水たまりがの水が空(から)になったことで、町にはたくさんの穴が現れる。 0:下弦月、その穴の一つからひょっこり顔を出す。 0: 下弦月:ごめーん。やっぱこっちは俺のだったみたい。てわけでそっちは任せた! 上弦月:調子いいんだよお前は!早く出て来い。 0: 0:下弦月、渋々穴から出てくる。 0:片翼の小鳥、中央広場からよたよたと上弦月の元へ歩いてくる。 0: 上弦月:飛んでくれるか? 小鳥:チチッ! 上弦月:いい子だ。 上弦月:「片方の翼を失くした小鳥は、空を飛ぶこともできずに、ただ一歩ずつ地面を歩いていた。」 上弦月:「やがて片翼の小鳥は大きく成長し、残された片方の翼だけでも、再び空を飛べるようになった。」 0: 0:紡ぎだされる光の糸が小鳥を取り囲む。 0:小鳥、人を乗せることができるくらい大きく美しく成長する。 0:上弦月、成長した鳥の背に乗る。 0: 上弦月:クマを倒すぞ。 待宵:あ…はい! 上弦月:よし。行くぞ。 0: 0:クマ、ぬいぐるみと同じ素材の体なので、水をかぶったせいで重くなり動きづらそうにしている。 0:片翼の鳥、バランスは悪いが片方の翼を大きく左右に振って、しっかり飛び立つ。 0:上弦月を乗せ風を切りながら、真っすぐ巨大クマの顔の高さまで飛んでいく。 0: 待宵:みなさん!穴の中に逃げてください!クマが倒れます! 町人:あんな大きなやつを倒すことなんてできるのか!? 待宵:私たちじゃ太刀打ちすることはできないと思います。上弦月さんたちを信じてください。 0: 0:町人たち、互いに声を掛け合って穴の中へと入っていく。 0: 待宵:さ、君も入ろう? 子ども:うん! 0: 0:待宵、子どもを抱いて穴の中へと入る。 0:下に降りてみると地面はぼよんぼよんと弾力があって、怪我をすることはなかった。 0:その地面はピンク色をしてツギハギだらけ。うす~く伸ばされたモンピーが敷かれていた。 0: モンピー:まつよいぃぃぃ。 待宵:モンピー!? モンピー:シモにやられたにぃぃ。 0: 0:待宵、みんなの足跡だらけのモンピーを見て、悪いなと思いながらもくすっと笑ってしまう。 0: 待宵:ご苦労様。 0:待宵、穴を通して地上を見る。 0:クマ、上弦月に向かって大きく口を開け、炎をためる。 0:上弦月、クマの目の高さに右手をかざし、その上にパシッと左手も重ねる。 0: 上弦月:炎がくる…クマの目を眩(くら)ませろ! クマ:…!! 0: 0:右掌から激しい閃光が放たれる。 0:驚いたクマ、ためていた炎を飲み込み、両腕で目を隠す。 0: 上弦月:シモ! 下弦月:分かってるよ。 0: 0:下弦月、地上で右腕を大きく後ろに回し前方に伸ばす。 0:それに伴って地面に映し出されていた右腕の影が、真っすぐクマの片足まで伸びる。 0: 下弦月:あいつの足、闇に引きずり込んじゃえ。 0: 0:クマの足、伸びた影に引きずり込まれ、バランスを崩し倒れそうになる。 0:片翼の鳥、クマ目がけて勢いよく飛び、ぶつかりそうなところで旋回する。 0:上弦月、その瞬間にジャンプしてクマに体当たり。 0:クマ、地面に倒れる。体が重くて起き上がれず、ただじたばたしている。 0:片翼の鳥、落ちてくる上弦月を空中で背中に受け止める。 0:穴の中からは大きな歓声が響き渡り、続々と町人たちが出てくる。 0: 町人:やったぞ!兄ちゃんたちがクマを倒した! 待宵:お怪我はありませんか? 上弦月:大丈夫だ。 下弦月:俺も~。 待宵:あの…さっきの光と影も、夢を作る方々の能力なんですか? 下弦月:あぁ。あれは「月として」の能力だよ。 待宵:…え!?月!?それって… 町人:あるがとう!助かったよ! 子ども:すごいねお兄ちゃん!かっこい~! 町人:度胸あるな~。 町人:にしても今朝は不思議なことばかりだな。一体どうなってるんだ? 上弦月:誰か赤い髪の男を見なかったか?全部そいつの仕業だ。 町人:赤い髪? 町人:誰か見たか~? 町人:いいや? 三日月:はいはい!僕見たよ! 上弦月:三日月(ミカヅキ)? 0: 0:三日月、人垣を抜け下弦月の姿を見つけると、アゴ目掛けて勢いよくジャンプし、頭頂部でアッパーを喰らわせる。 0: 下弦月:っが!いった~~~!!会って早々それは無いんじゃないの!? ミカヅキ:ばか下弦月!!僕はもっとも~っと痛い思いしたんだからね!! 下弦月:? 上弦月:三日月、どこでアイツを見たんだ? 三日月:降りてきてすぐ見つけたよ。この町に居るのが見えた。 三日月:距離もそんなに無かったし、急いで来たんだけど、来たときにはもうこの町を出てて。 三日月:僕の物語のクマさんが暴走してたから、止めようとしたら水たまりに落ちちゃって。 三日月:頭から地面に落ちてガッツーン!ってぶつけて、ついさっきまでずっとお星様しか見えなかったんだからぁ! 0: 0:三日月、おでこの上の大きなタンコブを指差して下弦月に詰め寄る。 0: 下弦月:それは俺のせいじゃないでしょ!大体このクマの方が危ないじゃん!みかりんの物語だったんだね~。 三日月:頭ぶつけて気失ってなきゃクマさんすぐ止められたもん! 待宵:あの~すみません…質問してもいいですか? 上弦月:何だ? 待宵:さっき言ってた「月として」の能力ってどういう意味ですか? 待宵:あと三日月さんが言ってた「降りてきた」というのも… 上弦月:だから…俺たちが月で、月は物語を作って夢を見させるのが役目で、 上弦月:赤い月が地上でその物語を現実化させてるから、それを止めるために空から降りてきたって… 待宵:お月様だったんですか!? 上弦月:言わなかったか? 待宵:言ってないです!それじゃ昨日の晩、お月様が出ていなかったのは…皆さんが降りてきたから? 上弦月:あぁ。月が夜になると輝くのは、光に物語を乗せて地上に届けてるからなんだ。 上弦月:でも月には物語を作る以外にもそれぞれの能力があって… 上弦月:俺は上弦の月、朔の闇夜から満月になるまでの中間にいるから、光を生み出す能力を持ってる。 下弦月:下弦の月は逆に満月から朔に導かないといけないから、影を操って闇を生み出す能力ってわけ。 三日月:僕はね僕はね!三日月の鋭い光はどこまでも貫いて見通しちゃうんだよ!だからどんなに遠くに居ても探せちゃうの♪ 待宵:スゴイです…あなた方がお月様だったんですね… 三日月:ところで君は誰? 待宵:あ、私は… 下弦月:この人はまっちゃん。人探してるっつって俺たちについてきてんの。 三日月:へぇそうなんだ!よろしく~☆ 待宵:はい!よろしくお願いします。 上弦月:三日月、今アイツはどこに居る? 三日月:んとね…いた!あっちだよ! 下弦月:距離は? 三日月:けっこうあるかな…でも大丈夫だよ! 0: 0:三日月、物語の続きを紡ぎ始める。 0: 三日月:「大きな大きなクマのぬいぐるみは倒されて観念し、暴れるのを止めていい子になりました。そして空を飛べるようになりました~。」 上弦月:脈絡ないな。 三日月:この際気にしちゃダメだよ。 下弦月:うわ!クマの背から大きな翼が生えた! 三日月:さ!早く乗ろう! 上弦月:そういえば、あのピンクのどうした? 待宵:あ… 0: 0:待宵が穴の中を覗くと、町中の人に踏み潰されたモンピーがいる。 0: 待宵:穴から出るときに踏み台になってくれたんでした…。 モンピー:みんなひどいにぃ… 三日月:なにこれ!おもしろ~い! モンピー:ぶにぶにするなにぃ。 下弦月:ほらほら。そんなことしてないでさっさと行くよ。 0: 0:モンピーを穴から引っ張り出し、、三日月、下弦月、待宵、モンピーは巨大クマの背に、上弦月は鳥の背に乗る。 0:飛び立ってから暫くすると、晴れていた空にはいつの間にか厚い雲が蔓延り、薄暗くなる。 0: 上弦月:曇ってきたな。 下弦月:…っ! 下弦月(M):かすかだけど殺気と…発砲音? 0: 下弦月:てぃやっ。 0: 0:下弦月、待宵と三日月をクマから突き落とす。 0: 待宵・三日月:…へ? 待宵:なっ…お前何やってんだよ!? 0: 0:上弦月、二人を受け止めるためすぐさま降下。 0: 下弦月:はい、お前もイッテラッシャイ。 モンピー:にぃぃぃ!!!!!? 0: 0:二人をキャッチして3人を乗せた鳥の真上から、ピンクの塊が降ってくる。 0: 三人:うわぁ!!! 0: 0:鳥、さすがに重さに耐えられなくなり、ヘロヘロと落下。 0:その瞬間、3発の砲弾が勢いよくかすめていく。 0: 下弦月:クマ坊、砲弾が飛んできた方に行って。 下弦月:ごめん。先にアイツんとこ行ってて。 上弦月:な…何考えてるんだよお前!! 0: 0:ドッカーーーーーーーン 0:目標にあたらなかった砲弾が地面に落下して爆発。すさまじい音を立てる。 0:その音を聞きつけたものが、遠くにも一人。 0: 0: 0: 0: 0: 0:下弦月が到着したのは、大きな城が建つ国。 0: 下弦月:なんだこの国。自然に侵食されてる…? 下弦月:舗装された道や家の屋根を突き破って、高い木がいくつも生えてる… 下弦月:国中すごい甘い匂いがするけど、この木の花の匂いかな。見たこともない白い花。 下弦月:これも誰かの物語なんだろうな。 0: 0:国民たちのざわめきの声。 0:砲弾はその城の城壁から次々に飛んでくる。 0:下弦月、それをかわしながら近づき、大砲が並び王らしき人物のいる城壁内へと降り立つ。 0: 王様:貴様何者だ!? 下弦月:そっちこそ何のつもり?そんなもの飛ばしてきて、危ないでしょ。 王様:わけの分からん物体が飛んでいたから打ち落とそうとしたまでだ! 王様:貴様こそ一体何なんだ!?何がどうなっている!? 王様:いきなり変な木がわが国を侵食したかと思ったら、その直後にそんなものに乗ってきて… 王様:この国をこんな有様にしたのも貴様か!?わが国をのっとろうとでもしているのか!? 下弦月:それはない。この国こんな姿にしても俺に何のメリットもないし。 下弦月:むしろ俺たちは、この国をこんな姿にしたかもしれないやつを追ってるんだよ。 下弦月:そいつ見つけたらこの国も元に戻せるだろうから、心配しないで待ってて。 下弦月:そんで、そんな物騒なものはもう飛ばしてくんな。…国民も余計に不安がるよ。それじゃ。 0: 王様:待て!衛兵! 0: 0:衛兵たち、下弦月に剣の切っ先を向け周りを取り囲む。 0: 下弦月:何の真似かなぁ。 王様:貴様のような得体の知れない輩を生かしておくのは危険だろう?この妙な乗り物は我らが譲り受けてやる。 下弦月:こんなもの、何に使うつもりだよ。 王様:備えあれば憂いなしと言うではないか。いつどこの国と争いが起こるかわからないんでな。やれ!! 0: 0:王の合図と同時に、下弦月を取り囲んでいた刃が四方八方から突き刺される。 0:下弦月、低くしゃがみ込み数多の切っ先を避ける。 0:目の前の衛兵の足を蹴り払い、倒れた衛兵の落とした剣を拾い包囲網を脱出する。 0: 下弦月:クマ坊は逆か。痛いのも争うのも御免なんだけどな。 王様:逃がすな! 下弦月:あーあ。何で曇っちゃったんだよ~。影ができなきゃ能力も使えないじゃん。 0: 0:下弦月、向かってくる衛兵の刃を避けながら反対側のクマのいる城壁外へ向かう。 0:降りかかる刃をはじきながらクマの元に到達し飛び移ろうとするが、クマの肩に隠れていた衛兵に切り付けられ城壁外へ転落する。 0: 下弦月:っ痛!! 0: 0:右腕から鮮血が流れ、握っていた剣が落ちる。 0: 下弦月:あー…かっこわる… 0:落下していく下弦月、鳥の背に受け止められる。 0:片翼の大きな鳥と、上弦月だ。 0: 上弦月:一匹狼気取ってるのはどっちだ。 下弦月:…ばーか。俺は先に行っててって言ったのに。赤月(アカツキ)はどうしたんだよ。 上弦月:怪我人が偉そうな口叩くな。 下弦月:余裕。 0: 0:鳥、二人を乗せてクマのところまで上昇する。 0:上弦月、上弦の月の能力で掌から光を出す。 0: 衛兵たち:うわっ!眩しい!! 0: 0:下弦月、クマの肩に移り、そこに隠れていた衛兵を城壁内へ蹴り飛ばす。 0: 下弦月:お返しだよっ! 衛兵:うぎゃぁ! 0: 0:上弦月の光によって、衛兵たちの足元には彼らの影がくっきり浮き出ている。 0:下弦月、右腕を伸ばしてひらひら振ると、衛兵たちの影が次々と繋がっていき、彼らの足元に大きな黒い穴ができる。 0: 下弦月:イッテラッシャイ♥ 衛兵たち:うわああああああああ!! 0: 0:衛兵たち、影でできた大穴の中を落ちていき、城の一階に放り出される。 0:国王、ただ一人その城壁内に残る。 0:下弦月、一本残った剣を拾い、王ののど元に切っ先を向ける。 0: 下弦月:ねぇ王様、もう一度だけ言ってあげる。その物騒なもので俺たちの邪魔しないで。ウザイから。 王様:わ…分かった!悪かった! 0: 0:三日月、待宵、城の一階で団子になって倒れている衛兵たちを通り過ぎ城壁内に登ってくる。 0: 三日月:うわっ!下弦月、大丈夫!? 下弦月:あぁ、みかりんとまっちゃんも来ちゃったの。全然平気なのに。 上弦月:嘘つけ。 待宵:あ、あの下弦月さん、早く手当てを… 下弦月:だーいじょうぶっ。みんなしてそんな心配しないでよ。そんなんじゃ俺ダサすぎでしょ? 0: 0:黒髪の少女、音もなく突如下弦月の後ろに現れ、傷ついた腕をつかむ。 0: 下弦月:はぐぅっ!!? 上弦月:朔か? 朔:どこが平気なんだよ。見え張ってる方がダサいぞ。 下弦月:朔…おま、いつの間に… 朔:私を誰だと思ってるの?朔月(サクヅキ)の得意技は闇に乗じることだよ。 下弦月:普通に出て来いよ!それとも、もっと前からここにいたのか? 朔:面倒は嫌いなんだ。ま、本当に死にそうだったら助けたかもしれないけどな。 下弦月:お前… 三日月:ごめんね、下弦月。僕、一つのものに集中すると他のものは見えなくなっちゃって、大砲飛んでくるの全然気づかなかった… 下弦月:いいよいいよ。それがみかりんの役目だったんだから。 待宵:とにかく、止血しないと… 0: 0:待宵、服の裾を破り下弦月の腕に巻く。 0: 朔:優しすぎだな。 待宵:え? 0: 0:朔、待宵を押しのけ、布の結び目をありったけの力で締めあげる。 0: 下弦月:ぎゃぁぁ!!鬼か! 朔:このくらいやらなきゃ意味ないだろ。 三日月:下弦月、情けな~い。 下弦月:っるさいなぁ!!それよりみかりん、赤い月さんはどうなったの?もう大分遠くまで行っちゃった? 三日月:あー…それがね、いつ言おうかなって思ってたんだけど… 0: 0:赤月、城内の階段から皆がいる場所に登場する。 0: 赤月:ここに居たんだ。 赤月:君たちが僕に追いつくのを待っていたのに、来るのが遅いよ。 上弦月:赤月…!! 0: 0:蔓延っていた雲は流れ、所々の切れ間から洩れる光が、彼の赤い髪をより色鮮やかに見せる。 0: 赤月:物騒な爆発音がしたから、また人間が愚かなことしてるのか見に来たんだよ。 上弦月:そうか。そっちから来てくれるならこっちも助かる。もうイタズラには飽きたのか? 赤月:イタズラだなんて、そんな軽薄な言葉使ってほしくないなぁ。ちゃんと目的があるんだよ。 上弦月:目的…? 赤月:確かに、君たちの物語を現実にしたのは単なる余興だけど。僕にとってはここからが始まり。 下弦月:何をする気? 赤月:僕の物語を現実化する。 三日月:赤月の物語って…? 赤月:「人間は馬鹿で愚かで救いようのない生き物でした。」 赤月:「地球という星で自分たちが一番偉いと勘違いしていました。」 赤月:「自分たちが一番優れていると思いこんでいました。自分たちが一番支配する権利(ちから)があると思い上がっていました。」 赤月:「そんなある日、突如未確認の生物が現れました。彼らは人間よりも強く、優れていました。」 赤月:「彼らは、今まで人間たちが他の動物たちにしてきたように、人間たちのことを支配していくのでした。」 待宵:そんな!そんなこと… 赤月:もう遅いよ。 0:赤月、大きな白い羽で出来たペンを取り出す。 0:ペン先から細く長い光の糸が紡がれ、束となり形作られていく。 0:大きな生物が4体。羽が生えている。人間が巨大化して変形し、様々な生物と合体したような、異形の姿。 0:強大な力を秘めているような禍々しさを放っている。 0: 朔:なんだこの気味の悪い生き物は…!? 赤月:僕はね、人間が嫌いなの。大嫌い。 上弦月:こいつらに人間を支配させるつもりか?!お前にもそんなことする権利はないだろ! 赤月:そう言うと思った。確かにそうかもしれない。 赤月:でもさ、こいつらを生かしておく理由がある?こいつらに、地球(ここ)にいる価値がある? 赤月:僕にはそれが分からないんだ。だからね、君たちに教えてほしいんだよ。 赤月:本当に人間たちにそれだけの価値があるというなら、君たちがしっかり守って見せて。 0: 0:異形の生物たちが方々に散る。この国の人間から襲おうとしている。 0:それぞれ手分けして後を追う。 0: 上弦月:光よ、奴の視界を封じろ。 上弦月:…:よし、二体動きが止まった。三日月! 三日月:うん!クマさん、いけー!炎! 三日月:やったー!二体焼いた! 0: 下弦月:晴れてくれば影もできるもんね。朔、いくよ? 朔:あぁ。お前の影に潜らせてもらうぞ。 0: 0:下弦月、異形の生物一体に向かって影を伸ばし、周りを取り囲む。 0:朔、影の中から異形の眼前に飛び出し、持っていた剣で胸のあたりを突き刺す。 0: 朔:よし!一体潰した! 下弦月:でも…一体逃げられた! 0: 0:残り一体の異形、高い木々の下の民衆の方へ向かっていく。 0: 0:城の外、ぼよんぼよんと跳ねながらモンピーが向かってくる。 0: モンピー:みんな酷いにぃ!!いくらオイラが歩くの遅いからって置いていくことないにぃ! 待宵:モンピーさん!? 下弦月:モンピー!!跳べ!! モンピー:にぃ?シモ?どこに… 0: 0:モンピー、見上げると異形が突進してきている。 0: モンピー:にぃぃぃぃ!!!? 下弦月:早く跳べ! モンピー:よくわかんないし怖いけど…にぃぃぃぃぃ!!! 0: 0:モンピー、わけも分からずその場から思いっきりジャンプする。 0:意外にもそのジャンプ力には勢いがあり、どんどん加速して異形の正面から衝突する。 0:異形、そのまま突き飛ばされて城壁内まで戻って来ると、壁にぶつかりメキメキと食い込む。 0: モンピー:にぃぃ…目が回るにぃ… 下弦月:いい仕事するじゃん♪ 0: 0:それぞれ異形をとらえ一撃を食らわせたが、ほとんど効いておらず、4体それぞれ再び動き出す。 0: 赤月:それじゃ僕は高みの見物でもしてるから。 赤月:そいつらほとんど不死身だから気を付けてね。 0: 0:赤月、城の中へと消えていく。 0: 上弦月:待宵、お前はここを離れろ。 待宵:で、でも… 上弦月:人を探してるんだろ?もう俺たちといても見つからないぞ。俺たちの心配なんかしなくていい。 上弦月:(腰を抜かしている国王に向かって)おい!武器があるだろ!?早く持ってこい! 王様:な…わしに命令… 上弦月:このまま滅ぼされたいか!? 王様:…くそっ! 0: 0:国王、城の中へと走っていく。 0: 上弦月:お前も早く。 待宵:…っ! 0: 0:待宵、城内へ走り去る。 0:4人とモンピー、異形を城外へ出さぬよう攻防を続ける。 0: 0: 0: 待宵(M):このまま戦っている皆さんを残して、逃げれるわけがない…! 待宵(M):赤い月さんは高みの見物をしていると言ってた…! 0: 0:待宵、城の塔に登る階段を探す。 0: 0: 0: 0: 王様:とりあえず近場にあった武器はこれだけだ! 0: 0:国王、2本の剣を持って戻って来る。 0:上弦月、1本を自分で持ち、もう1本を下弦月に投げる。 0: 上弦月:シモ!使え! 下弦月:どーもっ。 0: 0:下弦月、朔、それぞれ剣を持ち影を操りながら共闘。 0:上弦月、鳥の背に乗りながら空中で激しい攻防戦が繰り返す。 0: 上弦月:こいつら、何度斬りつけても立ち上がってくる…! 0: 0:三日月、クマに乗って飛んでくる。後ろからは焼け焦げた異形が追ってきている。 0: 三日月:上弦月~~~~~~~~~!! 三日月:あいつ、何回焼いてもへっちゃら~って感じなのぉ。 上弦月:あぁ。きりが無いな。 上弦月:三日月!赤月はどこにいる!? 三日月:えっと…いた!!この塔の上!! 上弦月:話しつけてきてやる! 下弦月:無理だよ。こいつら行かせてくれやしない。 0: 0:不死身の化け物4体を相手に、苦戦を強いられる一行。 0:赤月、塔の窓に頬杖しながら、その様子を遠い目で見下ろしている。 0: 待宵:見つけました。 赤月:君、人間だよね。何しに来た? 赤月:あいつらが人間の為に戦っているときに、当の人間は逃げてきたの? 待宵:お願いに来たんです。どうか、あなたの物語を止めてください。 赤月:君は、なんで僕がこんなことしてると思う? 待宵:それは…人間がお嫌いだって… 赤月:…地球はね、神様の作った物語なんだよ。 待宵:え? 赤月:温かい命溢れる星の物語。空は青くて、海は澄んでいて、風は気持ちよくて、緑は美しくて、花はいい香りがして、動物たちは楽しそうで… 赤月:そんな生命(いのち)の物語。神様はそれを実現できる力を持っていた。それで地球が生まれたんだ。 赤月:神様は、僕ら「月」のことも作ってくれた。 赤月:夜になってお日様が沈んだら、今度は君たちが命を照らしてあげなさいって。そして光に乗せて物語を届けなさいって。 赤月:僕感動したんだ。なんてキレイな星なんだろう…なんて温かい星なんだろうって。 赤月:神様はこの地球という物語の続きは、この星に暮す命に任せることにするって言った。 赤月:僕らも真似て終わりのない物語を作った。ストーリーは聞き手の命が夢の中で紡いでくれるように。そうやって見守ってきたんだ。この星を。 赤月:なのに人間は…争いばかりでこの星を汚していく。他の動物たちを平気で殺す。植物たちを踏みにじる。 赤月:果てには人間同士が醜く殺しあって、地球は血に染められていった。僕には耐えられなかった。 赤月:だから僕は、人間たちに悪夢を見させるようになった。警告のつもりだった。なのにあいつらは、目が覚めるとすぐに忘れてしまう。 赤月:実際、みんなの物語を現実化してみても、それを夢で見たことがあるって覚えてるやつなんていた? 赤月:こいつらは夢物語を虚像としか取ってくれない。どんなに物語で訴えても、あいつらには届かない。 赤月:だから…こうでもしないと、分かってくれないだろ? 0:赤月、眼下で戦い、傷ついていく月たちを見て、僅かに悲しそうな表情を浮かべる。 0: 赤月:何で彼らは、あんなになってまで人間を助けようとするのかな… 待宵:それは…皆さんとてもお優しい方だから… 待宵:赤月さんだって、とってもお優しい方です。本当なら地球に降りてきてすぐにあなたの物語を実行に移せば、人間はすぐ負けてしまったでしょう。 待宵:今だって、あの生き物の数をもっともっと増やすだけで、簡単に人間は負けてしまうでしょう。 待宵:あなたは…迷ってくれているんですよね? 0: 0:赤月、相変わらす遠い目で戦いの様子を見る。 0:待宵、瞳にじんわり涙を浮かべる。 0: 待宵:ごめんなさい…あなたの言う通りかもしれません。 待宵:人間は愚かで、救いようがなくて…失くしてからじゃないと、大切なものに気付くことができない。 待宵:でも、人の心も、本当はとっても温かいんです。争いが消えない世界の中で、傷つきながら、お互いに支え合って生きています。 待宵:それに…皆さんの物語だって、ちゃんと届いてる人もいるんです。 0: 0:赤月の虚ろな瞳が、待宵に向く。 0: 赤月:届いてる…?誰に? 待宵:上弦月さんの物語…片方の翼の鳥の… 0: 0:待宵、最初の街でのことを思い出す。 0:穴ぼこだらけの地面の下から地上を見上げ、上弦月と鳥を見つけて少年が言ったこと。 0: 子ども:僕、あの鳥さん見たことある。 待宵:ほんと? 子ども:うん。夢の中で。片っぽしか羽がなくて、飛べなくて、一人でいたの。 待宵:それで…君はどうしたの? 子ども:小さくて踏み潰されちゃいそうだったから、ずっと抱いててあげたんだ。 0: 待宵:…あの時、あの子の言葉を聞いて、とても温かい気持ちになりました。 0: 0:虚ろな赤月の視線が窓の外に戻る。 0: 赤月:そう…そんなこと言ってる子がいたの。 0: 0:塔の下では月たちが満身創痍になりながら戦っている。 0: 上弦月:はぁ…はぁ…くそっ。 0: 0:異形たち、太刀打ちできなくなった4人から離れ、城外の国民たちへ攻撃の矛先を向ける。 0: 上弦月:っ、待て!! 0: 満月:「…木々は覆いかぶさり、人々を守る盾となりました。」 0: 0:物語を紡ぐ声。その言葉通り、国中の高い木々はしなり、国全体を覆うように互いに重なり、ドームのようになって異形たちの侵入を拒んだ。 0:ドームになった木の上に、銀の長髪をなびかせた男が一人、立っている。 0: 満月:まんまる満月に欠けるところはありません。 0: 0:その声とともに、巨大な黄色い光の玉が生み出される。 0:その玉は侵入を拒まれた異形たちの元へ飛んでいき、光の中に異形たちを封じ込めた。 0:異形たちは中から爪やビームで球体を破壊しようとするが、どこも欠けることがない。 0:その男が指をパチンと鳴らすと、球体内で異形ともども大爆発を起こした。球体はどこも欠けない。 0: 0:長い銀髪の男は木々のドームの上を歩き、月たちのいる城壁内へと上がった。 0: 上弦月:「満月(ミツヅキ)…」 満月:遅くなってすみません。ところで皆さん怪我をしていますけど、大丈夫ですか? 朔:大丈夫じゃない!!何でもっと早く来ないんだよ!! 満月:誰かの物語だと思うんですけど… 満月:真っ暗で、しかも難解な迷路に迷い込んでしまって、抜けるのに時間がかかってしまいました。本当にすみません。 朔:…そう、か。 三日月:あれ?もしかして朔ちゃんの物語だった? 朔:黙ってろ! 下弦月:てか、おみつの能力、相変わらずチートすぎ。 0: 0:上弦月、鳥の背に乗り、塔の上へ向かう。 0: 上弦月:話をつけてくる。 三日月:…あれ、球体の中に3体しかいない!? 0: 0:満月の球体でとらえ損なっていた一体の化け物、上弦月に向かってビームを放つ。 0: 三日月:上弦月!!後ろ!! 0: 0:上弦月、ビームをよけると、その先の赤月と待宵のいる塔に命中する。 0: 満月:すみません!今度こそちゃんととらえます! 0: 0:満月、瞬時に球体を作り直し4体を封じ込める。 0:塔の一部が破壊され、今にも崩れそうな状態になる。 0:塔の上では激しい振動が起き、大きな窓に頬杖をしていた赤月は窓の外に放り出される。 0: 待宵:赤月さん!! 0: 0:待宵、赤月の手を掴み、宙ぶらりんの状態で支える。 0: 赤月:やめなよ。君も落ちるよ? 待宵:嫌…です!! 赤月:ねぇ。腕、痛いでしょ?何で助けるの?僕、君たちを滅ぼそうとしてるんだよ? 待宵:…っ!! 赤月:(小声で)…温かい手。 0:ぐらぐら傾いていた塔が折れ、二人は瓦礫と共に落ちていく。 0:鳥に乗ってきた上弦月、すかさず二人をキャッチする。 0: 待宵:上弦月さん…! 上弦月:待宵!?なんでここに…いや、それよりも。 上弦月:いいか赤月!!!命の価値なんて、誰にも決められないんだぞ!! 赤月:…うん。分かった。 上弦月:…?そう…か? 0: 0: 0: 0: 0:三人、他のメンバーの元へ戻る。 0: 赤月:みんな、ごめんね。 0: 0:赤月、傷だらけの月たちに両手を掲げる。彼の持つ治癒の力が、彼らの傷を癒す。 0: 赤月:赤は血の色。でもそれは、血を流して死んでいくことを象徴するんじゃない。命の証。生きていることの象徴。その温かさ。 赤月:あの子達も出してくれる? 0: 0:赤月の要望に、満月はにこっと笑んで球体の呪縛を解いた。 0:異形の生き物たちの体もボロボロだった。 0: 赤月:「もう人間を滅ぼさなくてもいいよ。」 0: 0:赤月、彼らの傷も癒す。 0: 上弦月:物語を終わらせよう。 赤月:うん。 0: 0:赤月、大きな羽ペンを出す。 0: 三日月:物語を現実にする力を持ったペン。赤月はそれをどこで手に入れたの? 赤月:これは神様の翼の羽でできているんだ。1枚抜けていたのを偶然拾ってね。 赤月:これを折れば、現実になった物語は全部消える… 0: モンピー:待ってにぃ!!!おいら…おいらも消えちゃうにぃ!? 待宵:大丈夫だよ。また夢の中で会おうね。 0: 0:待宵、モンピーの体を優しく抱きしめる。 0: モンピー:…うん。 0: 0:上弦月と三日月、それぞれ片翼の鳥とクマのぬいぐるみの頭を撫でる。 0: 満月:この国を覆っている木々に咲いている花、私の物語なんですけど、平和を願う心がこの花を咲かせるんですよ。 待宵:…きれい。どの木も満開ですね。 0: 0:赤月、ペンを折る。平和の花が消える。 0: モンピー:またね、待宵。 0: 0:モンピーも、巨大なクマのぬいぐるみも、片翼の鳥も、異形の生き物たちも消える。 0:現実化した物語の影響によって崩れた城も、その他すべての影響を受けた場所も、元通りになる。 0: 下弦月:あーやっと終わった! 三日月:僕たちももう帰る? 朔:あぁ。もうすぐ夜になるしな。 待宵:そうですか…寂しいです。 0: 0:待宵、上弦月をちらっと見る。 0: 下弦月:あれ…?まっちゃんもしかして… 三日月:え!あれれ!?そうなの!? 待宵:え!?あ、あの、そんなんじゃ… 赤月:(くすっと笑う) 0: 上弦月:そういえば、お前はまだ探してるやつ見つかってないんだよな。 待宵:あ、えっとそれは…もう、見つかったんです。 上弦月:そうなのか?結局、誰だったんだ? 0: 0:待宵、そっと上弦月に耳打ちする。 0: 上弦月:…え。 下弦月:なになに?けっきょく誰探してたって? 待宵:あ!ダメです!内緒にしてください! 三日月:え~?二人だけの秘密?あやし~。 待宵:だって…絶対笑われるもん。 0: 待宵(M):絶対、笑われる。「お月様」を探してたなんて… 待宵(M):いつも眠る前に月を見るのが好きで、なのにあの日はお月様が空にいなかったから… 待宵(M):例え朔の晩で光っていなくても、そこにいることが感じられていたのに。 待宵(M):その日は本当に空のどこにもいなかったから探してたなんて…言えません。 0: 上弦月:…待宵、夜になったらいつでも会える。だから寂しいとか言うな。 待宵:…はい! 0: 待宵(M):そう、夜になればまたいつでも会える。あなた達はいつも見守ってくれているのだから。 0: 上弦月:じゃあな 下弦月:また遊びに来るかもよ。 待宵:はい!是非! 待宵(M):そして彼らは空へと消えていってしまいました。 待宵(M):いつの間にか暗くなっていた空に優しい光を灯して、一瞬赤く光り、満ち欠けを一周しながらキラリと瞬きました。 待宵(M):まるで皆さん一人一人が挨拶してくださったように。 0: 待宵:今日は上弦の月…上弦月(カミヅキ)さんの物語が見れるのね。 0: 0: 0:国王、城壁内の影から出てきて待宵の隣に並ぶ。 0: 王様:…不思議な出来事だった。平和を願う心が咲かせる花… 0:国王、冷たい大砲の表面に触れる。 王様:もしかしたら、こんなものはいらないのかもしれないな… 待宵:そうですね。 0: 待宵(M):争いが無くなればいい。地球がいつまでも美しいといい。きっとみんなそう思ってる。 0: 王様:君はこれから自分の家に帰るのか? 待宵:…いえ。私、帰る場所がないんです。二人きりで旅をしていた父が亡くなって、今は一人… 王様:そうか。ならば…この国に住むか? 0: 待宵(M):ほら、あったかい言葉。 0: 待宵:はい!ありがとうございます! 0: 待宵(M):人間は愚かかもしれない。でも人間だって、あったかい生き物です。こうやって支えられているんです。 待宵(M):だからどうか、信じていてください。信じて、見守っていてください。 待宵(M):夜空に浮かぶ月に願う。 待宵(M):「地球」という物語が、これからも温かい命によって紡がれ続けていきますように… 0: 0:END