台本概要

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タイトル 魔女見習いの夢色の回転木馬(3〜4人可)
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 魔女見習いは16歳の誕生日に魔界より使い魔を召喚する。

50年以上のパートナーとなっているシャロンとジャガー。
いまでこそ孫娘のサナが憧れる二人の関係だが、
召喚当時の二人はすれ違ってばかりだった。
絆を深めるキッカケとなった出来事を描く。

おばあちゃんのシーンと、回想シーンでキャストを分けたり、
サナの手紙のみ別キャストが読むなどし、人数を増やしていただいて構いません。
ふざけなければ、演じる方の性別は問いません。

魔女見習いシリーズの2作目ですが、今作だけでも一話完結の作りにしています。

ご利用時教えていただけると嬉しいですが、強制ではありません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
シャロン 93 使い魔ジャガーと穏やかに暮らしている。71歳。回想シーンでは16歳。水の魔法が使える魔女。もともとはパン屋を営んでいた。孫娘のサナが自分と同じ魔法学校に入学したことを嬉しく思っている。
ジャガー 90 シャロンの使い魔。召喚されて打ち解けるまでは恭しい丁寧語を使うが、主想いの照れ屋な使い魔。風の魔法が得意。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: 0: 0:あたたかい昼間。シャロンの家。夫は他界しており、使い魔のジャガーと二人で暮らしている。 0:玄関から家の中へ入るシャロン。その手には、先程ポストから抜いた手紙がある。リビングから廊下へジャガーが出る。話をしながらシャロンの自室へ向かう二人。 0: シャロン:ジャガー見て?さっきポストに入っていたわ。サナからの手紙。ふふ ジャガー:ほぉ、魔法学校には大分馴染んでいるのか? シャロン:そうねぇ、このあいだの手紙には仲良しのお友達のことが書いてあったわ。サナはお友達のいいところを書くのがとても上手よ?みんなキラキラしていて私もあの学校に戻ったような気分になれたわ。 ジャガー:ふっ…あの頑固で思い込みの激しい頃にか? シャロン:あら!言ってくれるわね。 ジャガー:失敬失敬。サナはお前の孫にしては引っ込み思案というか…おとなしいな。 シャロン:そうでもないわ。マイペースなだけ。 ジャガー:そうか、ならそっくりだ。 シャロン:ジャガー? ジャガー:ふんっ失敬したな。…さぁシャロン手を。 0: 0:ジャガーはシャロンの手を取り、彼女のお気に入りの揺り椅子に腰掛けさせる。 シャロン:ええ…ありがとう。 ジャガー:ああ、そういえばサナが植物魔法の授業で育てたと送ってくれたアメジストの実のジャムがある。あれを紅茶に混ぜたら美味いと思うんだが… シャロン:ええ、とても美味しそうだわ。 ジャガー:だろう?渋めに濃く出した茶にたっぷり入れてやる。少し待ってろ。 シャロン:ありがとう。あ、そうだ…だったらお茶菓子はスコーンにしましょう。甘すぎなくてお茶とよく合うと思うわ。 ジャガー:お前が一昨日焼いたやつだな。分かってる。 シャロン:お願いね。 0:ージャガーは温めたスコーンとジャム入りの紅茶をテーブルの上へ運ぶ シャロン:う〜ん、いいにおい。 ジャガー:アメジストの果実は酸味がきいていて俺も好きだ。 シャロン:そうね、私も大好き。 ジャガー:で?まだ手紙を開けてなかったのか。 シャロン:ゆっくりお茶しながら読みたいと思って。…えーっと…あら、ハサミをここに置いたと思ったんだけど… ジャガー:ちょっと貸してみろ。 0:ージャガーは風の魔法で手紙の封をピッと切る。 シャロン:いつ見ても鮮やかねあなたの魔法は。風をナイフにできちゃうなんて。 ジャガー:ふん、褒めても何も出んぞ。 シャロン:ふふ…もう充分(目を細めてつぶやく) ジャガー:…何か言ったか? シャロン:何でもないわ。さぁサナはどんなことを書いているかしらね! サナ:(手紙)おばぁちゃん!お元気ですか?私は日々学校での生活に追われていますが、とーっても元気です シャロン:ふふ…本当にげんきそう ジャガー:そうだな。 サナ:先日はお誕生日にハンカチをありがとう。端っこのレース飾りは、おばぁちゃんの手作りですか?とっても可愛いので実はまだ使えずにいます…!さて、今日一番お伝えしたかったことなのですが、わたしも16歳になり、先日とうとう使い魔召喚の儀を行いました。 ジャガー:ここに来れば、わーきゃーわーきゃーと喋るくせに随分とかしこまって書いているな。 シャロン:手紙ってそういう雰囲気になるものよ?ふふっ サナ:私の使い魔は、おばぁちゃんが昔欲しいと思っていた猫型でも、ジャガーのようなヒトガタでもなく、どちらにもなれる獣人型だったのです ジャガー:ほぉ…ほぉほぉほぉ! シャロン:ちょ…どうしたのジャガー? ジャガー:お前の孫は随分と変わった星の下に生まれついてるみたいだぞ。獣人型なんて魔界でもそう滅多にお目にかかるもんじゃない。 シャロン:ふぅーん…そうなの。 ジャガー:そうなの…うん、そうなのよ。…お前今どーでもいいって思ったろ? シャロン:え?そんなことないわよ。あなたが珍しく興奮してるから、すごい事なんだっていうのは分かるわ。 ジャガー:そうか?まぁ、獣人は魔力も一流なやつが多い。味方につければなかなかに心強い。 シャロン:・・そう上手くは、いってないみたいよ… ジャガー:…? サナ:おばぁちゃん、私と使い魔ダウルとは、まだあまり仲良くなれていません。やっぱり平凡な私に召喚されて嫌だったのかも…。でも一日でも早く仲良くなって、おばぁちゃんとジャガーみたいな素敵なパートナーになりたいな… ジャガー:素敵なパートナーねぇ…。 シャロン:ふふふ 今ではまぁ、そう言って間違いないでしょう? ジャガー:ああ、でも召喚されたときなんて… シャロン:ジャガー!もういつまでも昔のことを蒸し返すんだから。 シャロン:・・サナに返事を書きたいけれど、少し眠くなってしまったわ ジャガー:横になるか?シャロン シャロン:ええ・・少しだけ。だめねぇ最近体力がなくなっちゃって。起きてるだけでも疲れるっていうか(ジャガーに支えられベッドに入る) ジャガー:別にダメじゃない。人間は「やわ」なんだ。気にするな。 シャロン:ふふっ…ありがとう。…ねぇ、 ジャガー:眠るまでいる。心配要らない。 シャロン:ありがとう。夕食はシチューにしましょう。今日は私が作るから夕方・・起こしてちょうだい ジャガー:心得た。 0: 0:静かに寝息を立てるシャロン ジャガー:こいつの孫のサナが、もう使い魔を召喚する歳になったのか。16の誕生日に自分と一番相性のいい使い魔を魔界より召喚する・・か。この相性っていうのは何のことなんだろうなぁ・・シャロン 0: 0:過去回想〜16歳のシャロン召喚の儀 0: シャロン:すごいわ・・あなたが私の使い魔なのね。 ジャガー:私の名前はジャガー。どうぞ以後お見知りおきをミス…? シャロン:シャロン。シャロン・ドナテラ・ミルウォーカーよ? ジャガー:んん、ミスミルウォーカー(恭しく頭を下げる) シャロン:シャロンでいいわ。よろしくねジャガー。 ジャガー:・・・。 シャロン:どうかした? ジャガー:いえ、今回のご主人様は随分と小柄で・・いらっしゃると思い シャロン:ああ、そうかしら?クラスでは真ん中より少し大きいくらいよ?あなたの前の主は、背が高かったのねぇ。 ジャガー:ええ。彼女は背も志も高い素晴らしい魔女でした。 シャロン:そう…。私も志だけは高く持ちたいと思っているわ。 ジャガー:ふむ。そうあっていただきたいミス・・ シャロン。 シャロン:ミスはいらないわよジャガー? ジャガー:・・あいにく私は使い魔としての責務を果たす為にこちらへ呼ばれています。馴れ合いは好みませんのでおゆるしを。ミスシャロン。 シャロン:・・ふぅ、いいわ。・・でもあなたはこれから一生、私が死ぬまで私とパートナーになるのよ?主が死なない限り、あなたは魔界へは還れない。だったら仲良くやっていこうとか、そんな風に思えない? シャロン:これから私が80歳まで生きるとして・・65年近くずっと一緒なのよ? ジャガー:ふはは。ミスシャロンは協調性を重んじる見習い魔女なんですねぇ。ご立派だ。 ジャガー:しかし、たかが65年・・私にとっての65年は、あなたにとっての半年・・位の感覚ですよ。永遠とも思える時をずっと主を待ち続けるんですから。それを使い魔はもう何周も繰り返している。 ジャガー:65年?本当にあっと言う間で、私はずーっとだとは思いませんね。 シャロン:なるほど・・。あなたがあー言えばこう言う減らず口なんだってことはもう分かったわ。 シャロン:ジャガー、あなたにとってはあっという間の時間でも、私にとっては結構長い時間だし、シャロンとして生きられる唯一の時間でもある。つまり重要ってことよ。 シャロン:私はこの先65年を楽しく充実したものにしたいって思っているの。使い魔の役目は主が選んだ道へ進めるよう手助けをすること。だからあなたは、私が掴んでいく人生が充実するように助けてくれるのよね? ジャガー:ふむ シャロン:すこしでも心地よく人生が送れるように最大限の配慮をどーぞよろしく。 ジャガー:ミスシャロンもなかなかに減らず口なお方だ。 シャロン:あ、あと!あなたにも心地良くあっという間の65年を過ごしてもらえるように私も最大限努力するから! ジャガー:使い魔が心地よく過ごせるようにですか? シャロン:そうよっ!これからよろしくねジャガー。 ジャガー:・・ふむ。それが私の責務ならば配慮いたしましょう、ミスシャロン。 0: 0:教室 休み時間 0: ジャガー:クラスのほとんどがもう使い魔を従えているのですね。 シャロン:そうね、私は誕生日が遅いほうだから。みんなが羨ましかったわ。 ジャガー:そういうものですか・・ シャロン:こうしてみんなの使い魔と比べてみると・・ふふっ、ジャガー、あなたは見た目がまず目を惹くわね。背がスラッと高くて「サマ」になる。 ジャガー:ありがとうございます。 シャロン:でも見て。窓際のレイアの机の上、黒猫がいるでしょう? ジャガー:美しいですねデザイアは。 シャロン:ええ。レイアはもう半年も前にデザイアを召喚して、それからずっと2人は一緒にいるわ。ああしてよく背中を撫でてあげてる。 シャロン:実は私も猫型の使い魔に憧れていたの。 ジャガー:ほぉ。それは私への苦情と受け取って良いでしょうか? シャロン:え?あー・・うん・・?いや、ジャガーへの不満じゃないのよ。いや、不満になるのかしら。 シャロン:うーん・・ただちょっと猫型使い魔のフワフワの毛を撫でてみたいとか、一緒に寝てみたいとか、そういう希望があったものだから。 ジャガー:ご命令とあらば一緒に寝るくらいはしてさしあげますが? シャロン:あ、結構です。あと私命令なんてしないわ。 ジャガー:主なのに? シャロン:パートナーよ。 ジャガー:ミスシャロン。私とあなたには魔女と使い魔の関係の捉え方に大きな違いがあるようだ。 シャロン:どんな? ジャガー:私は使い魔。あなたは魔女。私は使われる側で、あなたは使う側です。そこには対等であるとかパートナーシップなど存在しないんですよ。 ジャガー:あなたは使い魔を一生の友人か何かと勘違いされているようだ。 シャロン:勘違いねぇ。ジャガー?ひとクラスだけでもこれだけ多くの魔女と使い魔がいるのよ?それぞれのペアにそれぞれの関係性があっていいと私は思うわ。 ジャガー:いいえ。主は主らしく命令してくださらなくては。 シャロン:そう・・じゃあ主らしく私の使い魔に「お願い」するわ。もうすぐ授業が始まるから他の使い魔たちの様に後ろへ下がって見ていてちょうだい。 ジャガー:ぐっ・・かしこまりました。ミスシャロン。 0: 0: 0:夏休みがはじまってすぐ シャロンの部屋 0: ジャガー:それはつまり、暇(いとま)を取れと? シャロン:バケーションは人生において必要よ?あなたはこの半年以上ずーっと休みなく私につきっきりですもの。少しくらい休んだってバチは当たらないわ。 ジャガー:ミスシャロン?あなたの夏季休暇に私の同行は必要ないと仰るんですね? シャロン:どうしても意地悪な言い方が抜けないわねぇジャガー。 シャロン:・・まぁ必要か、必要じゃないかと聞かれれば、ただ休むだけだし特に用事もないし必要じゃないっていうのが本当だけど・・。 シャロン:でもずーっと私のためにいるのって、あなたにとって良くないと思うの。あなたには、あなたの人生を送って欲しいってわたしそう・・ ジャガー:意地悪な言い方をなさっているのはどちらですかミスシャロン。私はこの半年以上ずーっと言い続けていますよね、私達は対等でないと。あなたはちっとも分かっちゃいない・・。 ジャガー:私達使い魔は、主の役に立つために呼ばれているのに、何が私の人生だ・・。 シャロン:それなら私だって言い続けてるわ!あなただって、主(あるじ)の言う事をちっともきいてくれないじゃない! ジャガー:・・・はいはい。分かりましたよ。せいぜいおひとりで、短い夏休みを楽しんでください。私は必要がないようですしね。 シャロン:そんな事言ってないでしょう! ジャガー:仰ってるのも同じですよ。 シャロン:私は、あなたに私の世話だけで終わるような人生を歩んで欲しくないのよ! ジャガー:私の人生とやらは、主のためにあるのに?ミスシャロン、これは平行線だ。どこまで行っても私達は交わることはない。話はまとまらない。 シャロン:どうしても分かって貰えないのね・・。 シャロン:私はあなたと対等でいたい。自分のことも自分で出来なくなるのは嫌なのよ! ジャガー:なるほどなるほど。私がいると、あなたは赤ん坊の様に何もできなくなってしまうということですね。 ジャガー:よく分かりましたよ(目を伏せ体を翻す) シャロン:待って!あなたは曲がって捉えてる! ジャガー:いいえ。私はいつだって冷静沈着な有能使い魔です。 ジャガー:至極真っ直ぐに、我が主の言葉、受け止めましたよ。それでは、バケーションをおひとりでどうぞお楽しみください。(恭しいお辞儀) シャロン:ジャガー!(引き留めようとする) シャロン:ひゃっ…! 0:強い風がひとつ吹いて、シャロンは目をつぶる。目を開けるがジャガーの姿はない。 シャロン:あなたはどうしてそんなに・・。 0:翌朝、キッチン。バックパックにランチボックスを詰め、水筒にハーブティーを入れるシャロン。仁王立ちで大きな声を張り上げる。 シャロン:ジャガーいる!?いるなら聞いてちょうだい!私は今からスタッカート山にピクニックに行くわ! シャロン:パンの材料になる星の式部(しきぶ)を取りに行くの。夕方には戻るから心配しないでちょうだい。 シャロン:あなたの分のパンは、戸棚に入れたから食べていいわ。酸っぱいガーネットの実をたっぷり入れてるからきっと気に入るわ! 0:静まりかえるキッチン。ジャガーは姿を見せない、返事をしない。 シャロン:ふぅ・・本当にいないみたいね。バケーションを楽しんでくれてるといいんだけど・・。じゃあ、行ってきます。 0: 0: 0:崖の下、人が1人乗れる程度の足場に落ち、横たわっているシャロン。気を失っている。そこに雨が降ってくる。 シャロン:ん・・。 シャロン:・・わたし・・。 0:あたりは薄暗くなりはじめており、頭上に自分が先程まで立っていた崖が見える。 シャロン:・・あそこから落ちたのね。くっ・・(立ち上がろうとするが足が痛く立ち上がることができない) シャロン:どうにか上へ上がれたらいいんだけど・・・。この足じゃ・・。 0:雨が細かく降りつづける。 シャロン:クシュン…!うう…本格的に冷えてきたわ。うちに帰ったらお風呂でしっかり温まらなくっちゃ。 ジャガー:どうやって帰るつもりなのです?ミスシャロン。(シャロンの這う崖の横に浮いている) シャロン:ジャガー!あなた、バケーション中なんじゃ・・! ジャガー:独り言が多い上に馬鹿なんですか?ミスシャロン。主のピンチに駆けつけられない使い魔は能無しにも程がある。 シャロン:私のことなんていいのよ! ジャガー:・・どこまでも強情なお人だ。ではこの雨の中、私が去っても構わないとそう仰るんですね? シャロン:ええ、それでいいわ。私のことは心配しないで、あなたの休日を楽しんで。 ジャガー:あなたを助けることは、使い魔の義務だと言うのに? シャロン:そういうので助けて欲しいわけじゃないから。パートナーとして、心から私を助けたいって思ったら、その時は助けてくれればいいの。 ジャガー:私はあなたとパートナーとやらになる気はありませんから、一生あなたを助けられないというわけですか。 シャロン:それは寂しいことだけど、無理やりにあなたを従わせるより数倍マシだわ。 ジャガー:では、もうお好きになさって下さい。どうなっても知りませんよ? シャロン:ええ。来てくれてありがとう。もう立てると思うから。(立とうとするが足に激痛が走る)…っ!! ジャガー:馬鹿野郎!! ジャガー:さっきも言ったがお前は馬鹿か!その足で、こんな場所からどう帰るつもりだ! ジャガー:お前は俺と対等でいたいなんて言いながら、ただ意地を張ってるだけの小娘だ! ジャガー:お前は命令すればいい!魔女から使い魔へ命令すればいいんだ。俺はお前を助けるためにここに呼ばれた。お前を・・ずっと長い時を待ち続けていたんだからな! ジャガー:俺の生きる意味も考えられず、何がパートナーだ!お前は俺から存在する意味を奪いたいのか!どうなんだ!! シャロン:・・・・ジャガー・・あなた言葉が・・・。 ジャガー:・・・!(自分でも言葉が乱れたことに気づく)チッ! ジャガー:これは・・お前の望みを叶えたまでだ。対等になりたいんだろ。主の望みを叶えるのも使い魔の仕事だからな。 シャロン:ジャガー・・・。 シャロン:私、あなたに好きなように生きてほしくて…その中で助け合える関係になれたらって・・・。 シャロン:ごめん・・やっとあなたの言いたいことが分かった。あなた自身の言葉が、私の中に落ちてきたみたい・・・。 ジャガー:さぁ、俺の主よ、命令してくれ。俺は全力でお前を守ってやる。助けてやる。 シャロン:助けて・・。 ジャガー:聞こえないな。 シャロン:なっ・・!それが主への口の利き方なの!?しかも怪我して弱ってる主への! ジャガー:お前と俺は対等なんだろ? シャロン:都合よく解釈しないで! ジャガー:くくっ・・今回の主は、前の主よりずっと減らず口だ。 シャロン:あなたの影響も大いにあると思うわ! ジャガー:ああ、そうだな。これから先のお前の長い人生に俺はお前に多大な影響を与えるだろう。 シャロン:私だって、あなたのあっという間の使い魔生活にきっと影響を与え続けるわ! ジャガー:・・・そうだろうな(微笑む) シャロン:(拍子抜けする)え? ジャガー:さぁ、帰るぞ我が主。自分でできないことは俺に頼ればいい。お前に出来ることは、見守ってやらなくもない。 シャロン:恭しくなくなっても意地悪な言い方は変わらないのね。 ジャガー:うるさい。さぁ、命じろ。 シャロン:助けて、ジャガー。 ジャガー:ふん(満足気に笑む)主の思うままに。 0:風がふわっと吹き、ジャガーの腕の中に抱えられるシャロン。 0: 0: 0:場面が現代に戻る。眠るシャロンを眺めるジャガー。気配に目を覚ますシャロン。 0: シャロン:・・夢を見ていたわ。 ジャガー:ほう。 シャロン:あの崖の夢よ? ジャガー:あの崖か・・。 シャロン:あなたが本性を現してくれた、あの崖。 ジャガー:ふっ、よく言う。頑固者のお前がやっと俺の言うことを理解出来た、あの崖だろ。 シャロン:失礼ねぇ。 ジャガー:お互い様だ。夕食はシチューだったな。野菜は切ってあるから、それを使ったらいい。 シャロン:ありがとう。なんなら味付けだってしてくれていいのよ? ジャガー:ふん。俺はまだお前を何も出来ない赤ん坊にする気はないからな。 シャロン:心遣いありがとう(笑う) シャロン:ねぇ? ジャガー:ん? シャロン:あなたは、私が死んだら、また一人で魔界で新しい主を待つのよね? ジャガー:今更何だ。 シャロン:私とのあっという間の55年はどうだった? ジャガー:・・楽しいぞ。 シャロン:充実してた? ジャガー:過去形で話すな。まだ予定では10年あるんだ。それにもっと延びるかもしれん。 シャロン:あなたに幸せな使い魔生活を送って貰えてるかしらってね。 ジャガー:こんなに主らしくない主は、初めてだ。今までと求められる事が違うから非常に刺激的だ。刺激は非常に楽しい。これでいいか? シャロン:照れ屋なんだから。 ジャガー:うるさい。夢を見たか何だか知らんが、しつこいぞ。 シャロン:ごめんなさい(微笑む) ジャガー:これだけ楽しいことが、あっという間の中にあったんだ。俺はまた次の主を待つまでに、お前と過ごした日々を繰り返し繰り返し思い出すだろう。 シャロン:ジャガー・・(同情的な声で) ジャガー:心配するな。使い魔とはそういうものだ。そして、繰り返し思い出して笑えることが沢山あるのは、・・幸せだと思う。 シャロン:そうね。 ジャガー:ほら、シチューを作れ。お前の味付けじゃないと食う気が起きん。 シャロン:あら、珍しく素直だこと。 ジャガー:減らず口が(笑う) 0: 0:夕陽がさすキッチンに並ぶ2人 0: 0:おしまい

0: 0: 0:あたたかい昼間。シャロンの家。夫は他界しており、使い魔のジャガーと二人で暮らしている。 0:玄関から家の中へ入るシャロン。その手には、先程ポストから抜いた手紙がある。リビングから廊下へジャガーが出る。話をしながらシャロンの自室へ向かう二人。 0: シャロン:ジャガー見て?さっきポストに入っていたわ。サナからの手紙。ふふ ジャガー:ほぉ、魔法学校には大分馴染んでいるのか? シャロン:そうねぇ、このあいだの手紙には仲良しのお友達のことが書いてあったわ。サナはお友達のいいところを書くのがとても上手よ?みんなキラキラしていて私もあの学校に戻ったような気分になれたわ。 ジャガー:ふっ…あの頑固で思い込みの激しい頃にか? シャロン:あら!言ってくれるわね。 ジャガー:失敬失敬。サナはお前の孫にしては引っ込み思案というか…おとなしいな。 シャロン:そうでもないわ。マイペースなだけ。 ジャガー:そうか、ならそっくりだ。 シャロン:ジャガー? ジャガー:ふんっ失敬したな。…さぁシャロン手を。 0: 0:ジャガーはシャロンの手を取り、彼女のお気に入りの揺り椅子に腰掛けさせる。 シャロン:ええ…ありがとう。 ジャガー:ああ、そういえばサナが植物魔法の授業で育てたと送ってくれたアメジストの実のジャムがある。あれを紅茶に混ぜたら美味いと思うんだが… シャロン:ええ、とても美味しそうだわ。 ジャガー:だろう?渋めに濃く出した茶にたっぷり入れてやる。少し待ってろ。 シャロン:ありがとう。あ、そうだ…だったらお茶菓子はスコーンにしましょう。甘すぎなくてお茶とよく合うと思うわ。 ジャガー:お前が一昨日焼いたやつだな。分かってる。 シャロン:お願いね。 0:ージャガーは温めたスコーンとジャム入りの紅茶をテーブルの上へ運ぶ シャロン:う〜ん、いいにおい。 ジャガー:アメジストの果実は酸味がきいていて俺も好きだ。 シャロン:そうね、私も大好き。 ジャガー:で?まだ手紙を開けてなかったのか。 シャロン:ゆっくりお茶しながら読みたいと思って。…えーっと…あら、ハサミをここに置いたと思ったんだけど… ジャガー:ちょっと貸してみろ。 0:ージャガーは風の魔法で手紙の封をピッと切る。 シャロン:いつ見ても鮮やかねあなたの魔法は。風をナイフにできちゃうなんて。 ジャガー:ふん、褒めても何も出んぞ。 シャロン:ふふ…もう充分(目を細めてつぶやく) ジャガー:…何か言ったか? シャロン:何でもないわ。さぁサナはどんなことを書いているかしらね! サナ:(手紙)おばぁちゃん!お元気ですか?私は日々学校での生活に追われていますが、とーっても元気です シャロン:ふふ…本当にげんきそう ジャガー:そうだな。 サナ:先日はお誕生日にハンカチをありがとう。端っこのレース飾りは、おばぁちゃんの手作りですか?とっても可愛いので実はまだ使えずにいます…!さて、今日一番お伝えしたかったことなのですが、わたしも16歳になり、先日とうとう使い魔召喚の儀を行いました。 ジャガー:ここに来れば、わーきゃーわーきゃーと喋るくせに随分とかしこまって書いているな。 シャロン:手紙ってそういう雰囲気になるものよ?ふふっ サナ:私の使い魔は、おばぁちゃんが昔欲しいと思っていた猫型でも、ジャガーのようなヒトガタでもなく、どちらにもなれる獣人型だったのです ジャガー:ほぉ…ほぉほぉほぉ! シャロン:ちょ…どうしたのジャガー? ジャガー:お前の孫は随分と変わった星の下に生まれついてるみたいだぞ。獣人型なんて魔界でもそう滅多にお目にかかるもんじゃない。 シャロン:ふぅーん…そうなの。 ジャガー:そうなの…うん、そうなのよ。…お前今どーでもいいって思ったろ? シャロン:え?そんなことないわよ。あなたが珍しく興奮してるから、すごい事なんだっていうのは分かるわ。 ジャガー:そうか?まぁ、獣人は魔力も一流なやつが多い。味方につければなかなかに心強い。 シャロン:・・そう上手くは、いってないみたいよ… ジャガー:…? サナ:おばぁちゃん、私と使い魔ダウルとは、まだあまり仲良くなれていません。やっぱり平凡な私に召喚されて嫌だったのかも…。でも一日でも早く仲良くなって、おばぁちゃんとジャガーみたいな素敵なパートナーになりたいな… ジャガー:素敵なパートナーねぇ…。 シャロン:ふふふ 今ではまぁ、そう言って間違いないでしょう? ジャガー:ああ、でも召喚されたときなんて… シャロン:ジャガー!もういつまでも昔のことを蒸し返すんだから。 シャロン:・・サナに返事を書きたいけれど、少し眠くなってしまったわ ジャガー:横になるか?シャロン シャロン:ええ・・少しだけ。だめねぇ最近体力がなくなっちゃって。起きてるだけでも疲れるっていうか(ジャガーに支えられベッドに入る) ジャガー:別にダメじゃない。人間は「やわ」なんだ。気にするな。 シャロン:ふふっ…ありがとう。…ねぇ、 ジャガー:眠るまでいる。心配要らない。 シャロン:ありがとう。夕食はシチューにしましょう。今日は私が作るから夕方・・起こしてちょうだい ジャガー:心得た。 0: 0:静かに寝息を立てるシャロン ジャガー:こいつの孫のサナが、もう使い魔を召喚する歳になったのか。16の誕生日に自分と一番相性のいい使い魔を魔界より召喚する・・か。この相性っていうのは何のことなんだろうなぁ・・シャロン 0: 0:過去回想〜16歳のシャロン召喚の儀 0: シャロン:すごいわ・・あなたが私の使い魔なのね。 ジャガー:私の名前はジャガー。どうぞ以後お見知りおきをミス…? シャロン:シャロン。シャロン・ドナテラ・ミルウォーカーよ? ジャガー:んん、ミスミルウォーカー(恭しく頭を下げる) シャロン:シャロンでいいわ。よろしくねジャガー。 ジャガー:・・・。 シャロン:どうかした? ジャガー:いえ、今回のご主人様は随分と小柄で・・いらっしゃると思い シャロン:ああ、そうかしら?クラスでは真ん中より少し大きいくらいよ?あなたの前の主は、背が高かったのねぇ。 ジャガー:ええ。彼女は背も志も高い素晴らしい魔女でした。 シャロン:そう…。私も志だけは高く持ちたいと思っているわ。 ジャガー:ふむ。そうあっていただきたいミス・・ シャロン。 シャロン:ミスはいらないわよジャガー? ジャガー:・・あいにく私は使い魔としての責務を果たす為にこちらへ呼ばれています。馴れ合いは好みませんのでおゆるしを。ミスシャロン。 シャロン:・・ふぅ、いいわ。・・でもあなたはこれから一生、私が死ぬまで私とパートナーになるのよ?主が死なない限り、あなたは魔界へは還れない。だったら仲良くやっていこうとか、そんな風に思えない? シャロン:これから私が80歳まで生きるとして・・65年近くずっと一緒なのよ? ジャガー:ふはは。ミスシャロンは協調性を重んじる見習い魔女なんですねぇ。ご立派だ。 ジャガー:しかし、たかが65年・・私にとっての65年は、あなたにとっての半年・・位の感覚ですよ。永遠とも思える時をずっと主を待ち続けるんですから。それを使い魔はもう何周も繰り返している。 ジャガー:65年?本当にあっと言う間で、私はずーっとだとは思いませんね。 シャロン:なるほど・・。あなたがあー言えばこう言う減らず口なんだってことはもう分かったわ。 シャロン:ジャガー、あなたにとってはあっという間の時間でも、私にとっては結構長い時間だし、シャロンとして生きられる唯一の時間でもある。つまり重要ってことよ。 シャロン:私はこの先65年を楽しく充実したものにしたいって思っているの。使い魔の役目は主が選んだ道へ進めるよう手助けをすること。だからあなたは、私が掴んでいく人生が充実するように助けてくれるのよね? ジャガー:ふむ シャロン:すこしでも心地よく人生が送れるように最大限の配慮をどーぞよろしく。 ジャガー:ミスシャロンもなかなかに減らず口なお方だ。 シャロン:あ、あと!あなたにも心地良くあっという間の65年を過ごしてもらえるように私も最大限努力するから! ジャガー:使い魔が心地よく過ごせるようにですか? シャロン:そうよっ!これからよろしくねジャガー。 ジャガー:・・ふむ。それが私の責務ならば配慮いたしましょう、ミスシャロン。 0: 0:教室 休み時間 0: ジャガー:クラスのほとんどがもう使い魔を従えているのですね。 シャロン:そうね、私は誕生日が遅いほうだから。みんなが羨ましかったわ。 ジャガー:そういうものですか・・ シャロン:こうしてみんなの使い魔と比べてみると・・ふふっ、ジャガー、あなたは見た目がまず目を惹くわね。背がスラッと高くて「サマ」になる。 ジャガー:ありがとうございます。 シャロン:でも見て。窓際のレイアの机の上、黒猫がいるでしょう? ジャガー:美しいですねデザイアは。 シャロン:ええ。レイアはもう半年も前にデザイアを召喚して、それからずっと2人は一緒にいるわ。ああしてよく背中を撫でてあげてる。 シャロン:実は私も猫型の使い魔に憧れていたの。 ジャガー:ほぉ。それは私への苦情と受け取って良いでしょうか? シャロン:え?あー・・うん・・?いや、ジャガーへの不満じゃないのよ。いや、不満になるのかしら。 シャロン:うーん・・ただちょっと猫型使い魔のフワフワの毛を撫でてみたいとか、一緒に寝てみたいとか、そういう希望があったものだから。 ジャガー:ご命令とあらば一緒に寝るくらいはしてさしあげますが? シャロン:あ、結構です。あと私命令なんてしないわ。 ジャガー:主なのに? シャロン:パートナーよ。 ジャガー:ミスシャロン。私とあなたには魔女と使い魔の関係の捉え方に大きな違いがあるようだ。 シャロン:どんな? ジャガー:私は使い魔。あなたは魔女。私は使われる側で、あなたは使う側です。そこには対等であるとかパートナーシップなど存在しないんですよ。 ジャガー:あなたは使い魔を一生の友人か何かと勘違いされているようだ。 シャロン:勘違いねぇ。ジャガー?ひとクラスだけでもこれだけ多くの魔女と使い魔がいるのよ?それぞれのペアにそれぞれの関係性があっていいと私は思うわ。 ジャガー:いいえ。主は主らしく命令してくださらなくては。 シャロン:そう・・じゃあ主らしく私の使い魔に「お願い」するわ。もうすぐ授業が始まるから他の使い魔たちの様に後ろへ下がって見ていてちょうだい。 ジャガー:ぐっ・・かしこまりました。ミスシャロン。 0: 0: 0:夏休みがはじまってすぐ シャロンの部屋 0: ジャガー:それはつまり、暇(いとま)を取れと? シャロン:バケーションは人生において必要よ?あなたはこの半年以上ずーっと休みなく私につきっきりですもの。少しくらい休んだってバチは当たらないわ。 ジャガー:ミスシャロン?あなたの夏季休暇に私の同行は必要ないと仰るんですね? シャロン:どうしても意地悪な言い方が抜けないわねぇジャガー。 シャロン:・・まぁ必要か、必要じゃないかと聞かれれば、ただ休むだけだし特に用事もないし必要じゃないっていうのが本当だけど・・。 シャロン:でもずーっと私のためにいるのって、あなたにとって良くないと思うの。あなたには、あなたの人生を送って欲しいってわたしそう・・ ジャガー:意地悪な言い方をなさっているのはどちらですかミスシャロン。私はこの半年以上ずーっと言い続けていますよね、私達は対等でないと。あなたはちっとも分かっちゃいない・・。 ジャガー:私達使い魔は、主の役に立つために呼ばれているのに、何が私の人生だ・・。 シャロン:それなら私だって言い続けてるわ!あなただって、主(あるじ)の言う事をちっともきいてくれないじゃない! ジャガー:・・・はいはい。分かりましたよ。せいぜいおひとりで、短い夏休みを楽しんでください。私は必要がないようですしね。 シャロン:そんな事言ってないでしょう! ジャガー:仰ってるのも同じですよ。 シャロン:私は、あなたに私の世話だけで終わるような人生を歩んで欲しくないのよ! ジャガー:私の人生とやらは、主のためにあるのに?ミスシャロン、これは平行線だ。どこまで行っても私達は交わることはない。話はまとまらない。 シャロン:どうしても分かって貰えないのね・・。 シャロン:私はあなたと対等でいたい。自分のことも自分で出来なくなるのは嫌なのよ! ジャガー:なるほどなるほど。私がいると、あなたは赤ん坊の様に何もできなくなってしまうということですね。 ジャガー:よく分かりましたよ(目を伏せ体を翻す) シャロン:待って!あなたは曲がって捉えてる! ジャガー:いいえ。私はいつだって冷静沈着な有能使い魔です。 ジャガー:至極真っ直ぐに、我が主の言葉、受け止めましたよ。それでは、バケーションをおひとりでどうぞお楽しみください。(恭しいお辞儀) シャロン:ジャガー!(引き留めようとする) シャロン:ひゃっ…! 0:強い風がひとつ吹いて、シャロンは目をつぶる。目を開けるがジャガーの姿はない。 シャロン:あなたはどうしてそんなに・・。 0:翌朝、キッチン。バックパックにランチボックスを詰め、水筒にハーブティーを入れるシャロン。仁王立ちで大きな声を張り上げる。 シャロン:ジャガーいる!?いるなら聞いてちょうだい!私は今からスタッカート山にピクニックに行くわ! シャロン:パンの材料になる星の式部(しきぶ)を取りに行くの。夕方には戻るから心配しないでちょうだい。 シャロン:あなたの分のパンは、戸棚に入れたから食べていいわ。酸っぱいガーネットの実をたっぷり入れてるからきっと気に入るわ! 0:静まりかえるキッチン。ジャガーは姿を見せない、返事をしない。 シャロン:ふぅ・・本当にいないみたいね。バケーションを楽しんでくれてるといいんだけど・・。じゃあ、行ってきます。 0: 0: 0:崖の下、人が1人乗れる程度の足場に落ち、横たわっているシャロン。気を失っている。そこに雨が降ってくる。 シャロン:ん・・。 シャロン:・・わたし・・。 0:あたりは薄暗くなりはじめており、頭上に自分が先程まで立っていた崖が見える。 シャロン:・・あそこから落ちたのね。くっ・・(立ち上がろうとするが足が痛く立ち上がることができない) シャロン:どうにか上へ上がれたらいいんだけど・・・。この足じゃ・・。 0:雨が細かく降りつづける。 シャロン:クシュン…!うう…本格的に冷えてきたわ。うちに帰ったらお風呂でしっかり温まらなくっちゃ。 ジャガー:どうやって帰るつもりなのです?ミスシャロン。(シャロンの這う崖の横に浮いている) シャロン:ジャガー!あなた、バケーション中なんじゃ・・! ジャガー:独り言が多い上に馬鹿なんですか?ミスシャロン。主のピンチに駆けつけられない使い魔は能無しにも程がある。 シャロン:私のことなんていいのよ! ジャガー:・・どこまでも強情なお人だ。ではこの雨の中、私が去っても構わないとそう仰るんですね? シャロン:ええ、それでいいわ。私のことは心配しないで、あなたの休日を楽しんで。 ジャガー:あなたを助けることは、使い魔の義務だと言うのに? シャロン:そういうので助けて欲しいわけじゃないから。パートナーとして、心から私を助けたいって思ったら、その時は助けてくれればいいの。 ジャガー:私はあなたとパートナーとやらになる気はありませんから、一生あなたを助けられないというわけですか。 シャロン:それは寂しいことだけど、無理やりにあなたを従わせるより数倍マシだわ。 ジャガー:では、もうお好きになさって下さい。どうなっても知りませんよ? シャロン:ええ。来てくれてありがとう。もう立てると思うから。(立とうとするが足に激痛が走る)…っ!! ジャガー:馬鹿野郎!! ジャガー:さっきも言ったがお前は馬鹿か!その足で、こんな場所からどう帰るつもりだ! ジャガー:お前は俺と対等でいたいなんて言いながら、ただ意地を張ってるだけの小娘だ! ジャガー:お前は命令すればいい!魔女から使い魔へ命令すればいいんだ。俺はお前を助けるためにここに呼ばれた。お前を・・ずっと長い時を待ち続けていたんだからな! ジャガー:俺の生きる意味も考えられず、何がパートナーだ!お前は俺から存在する意味を奪いたいのか!どうなんだ!! シャロン:・・・・ジャガー・・あなた言葉が・・・。 ジャガー:・・・!(自分でも言葉が乱れたことに気づく)チッ! ジャガー:これは・・お前の望みを叶えたまでだ。対等になりたいんだろ。主の望みを叶えるのも使い魔の仕事だからな。 シャロン:ジャガー・・・。 シャロン:私、あなたに好きなように生きてほしくて…その中で助け合える関係になれたらって・・・。 シャロン:ごめん・・やっとあなたの言いたいことが分かった。あなた自身の言葉が、私の中に落ちてきたみたい・・・。 ジャガー:さぁ、俺の主よ、命令してくれ。俺は全力でお前を守ってやる。助けてやる。 シャロン:助けて・・。 ジャガー:聞こえないな。 シャロン:なっ・・!それが主への口の利き方なの!?しかも怪我して弱ってる主への! ジャガー:お前と俺は対等なんだろ? シャロン:都合よく解釈しないで! ジャガー:くくっ・・今回の主は、前の主よりずっと減らず口だ。 シャロン:あなたの影響も大いにあると思うわ! ジャガー:ああ、そうだな。これから先のお前の長い人生に俺はお前に多大な影響を与えるだろう。 シャロン:私だって、あなたのあっという間の使い魔生活にきっと影響を与え続けるわ! ジャガー:・・・そうだろうな(微笑む) シャロン:(拍子抜けする)え? ジャガー:さぁ、帰るぞ我が主。自分でできないことは俺に頼ればいい。お前に出来ることは、見守ってやらなくもない。 シャロン:恭しくなくなっても意地悪な言い方は変わらないのね。 ジャガー:うるさい。さぁ、命じろ。 シャロン:助けて、ジャガー。 ジャガー:ふん(満足気に笑む)主の思うままに。 0:風がふわっと吹き、ジャガーの腕の中に抱えられるシャロン。 0: 0: 0:場面が現代に戻る。眠るシャロンを眺めるジャガー。気配に目を覚ますシャロン。 0: シャロン:・・夢を見ていたわ。 ジャガー:ほう。 シャロン:あの崖の夢よ? ジャガー:あの崖か・・。 シャロン:あなたが本性を現してくれた、あの崖。 ジャガー:ふっ、よく言う。頑固者のお前がやっと俺の言うことを理解出来た、あの崖だろ。 シャロン:失礼ねぇ。 ジャガー:お互い様だ。夕食はシチューだったな。野菜は切ってあるから、それを使ったらいい。 シャロン:ありがとう。なんなら味付けだってしてくれていいのよ? ジャガー:ふん。俺はまだお前を何も出来ない赤ん坊にする気はないからな。 シャロン:心遣いありがとう(笑う) シャロン:ねぇ? ジャガー:ん? シャロン:あなたは、私が死んだら、また一人で魔界で新しい主を待つのよね? ジャガー:今更何だ。 シャロン:私とのあっという間の55年はどうだった? ジャガー:・・楽しいぞ。 シャロン:充実してた? ジャガー:過去形で話すな。まだ予定では10年あるんだ。それにもっと延びるかもしれん。 シャロン:あなたに幸せな使い魔生活を送って貰えてるかしらってね。 ジャガー:こんなに主らしくない主は、初めてだ。今までと求められる事が違うから非常に刺激的だ。刺激は非常に楽しい。これでいいか? シャロン:照れ屋なんだから。 ジャガー:うるさい。夢を見たか何だか知らんが、しつこいぞ。 シャロン:ごめんなさい(微笑む) ジャガー:これだけ楽しいことが、あっという間の中にあったんだ。俺はまた次の主を待つまでに、お前と過ごした日々を繰り返し繰り返し思い出すだろう。 シャロン:ジャガー・・(同情的な声で) ジャガー:心配するな。使い魔とはそういうものだ。そして、繰り返し思い出して笑えることが沢山あるのは、・・幸せだと思う。 シャロン:そうね。 ジャガー:ほら、シチューを作れ。お前の味付けじゃないと食う気が起きん。 シャロン:あら、珍しく素直だこと。 ジャガー:減らず口が(笑う) 0: 0:夕陽がさすキッチンに並ぶ2人 0: 0:おしまい