台本概要
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タイトル | 怪異戯曲・天魔が咲う |
---|---|
作者名 | てくす (@daihooon) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
さぁ、始めよう 音と詞は無いが、演劇だ 演じるも、踊るも謳うも自由だろ? それじゃあ……『御披露目』だ 幽霊、妖怪、都市伝説に呪具やetc… そんな世界に生きる青年『天満』 呪禁師である彼は笑う 543 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
天満 | 男 | 90 | てんま。登場時20歳。蔵面をしているが、特殊なもので 霊感が無いとその面は見えない呪物 呪禁師であり、妖術、呪術にも精通している。 |
喜邏 | 女 | 56 | きら。登場時20歳。天満の幼馴染。目隠しをしており、百々目鬼という妖怪から目を取っている。 |
叶芽 | 女 | 116 | かなめ。登場時17歳。女子高生。霊感があったが、気づいていなかった。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
天満:さぁ、始めよう
天満:音と詞は無いが、演劇だ
天満:演じるも、踊るも謳うも自由だろ?
天満:それじゃあ……
天満:『御披露目』だ
0:怪異戯曲・天魔が咲う
0:
叶芽:はぁ……つまんない人生
叶芽:こんな田舎じゃ何も起きないし
0:学校からの帰り道
0:独り言を吐き捨て、石を蹴り歩く
0:辺りは山と田に囲まれ、長閑な風が吹く
叶芽:どこかにイケメン落ちてないかなー、なんて
叶芽:……普通、一億円とかだっけ?
叶芽:……ん?なにあれ?
天満:本当に何も無いな!
天満:田舎は空気が美味いって言うだろ?
天満:なぁ、空気に味があるのか確かめよう
喜邏:そんな暇あります?天満くん
喜邏:空気に味があるなら
喜邏:既に味わったことがありますよ
天満:田舎だけ特別ってことは?
喜邏:……なるほど
喜邏:有り得ませんね
天満:ノリ悪〜
叶芽:なにしてるんだろ……
叶芽:(ていうか、あれ何?顔に……布?)
叶芽:触らぬ何とかに祟り無しっと
0:何事もなかったかのように通り過ぎようとする叶芽
0:しかし、それに気づかれた
喜邏:第一村人発見です
天満:はっはー!
天満:話聞かなきゃなぁ?
叶芽:い!?
天満:田舎の人間は人情味あるんじゃないのか?
天満:余所者を避けるのは感心しないなぁ
叶芽:ふ……不審者……!!
天満:どこがだ!!
天満:今、此処に着いたばかりだっての
天満:それにこっちは探し物してんだよ
喜邏:ふふふ、不審者だって天満くん
天満:誰も俺とは言ってないだろ?喜邏ぁ?
叶芽:どっちもです!
喜邏:!?何故……
叶芽:顔に布貼っつけてるし!目隠ししてるし!
天満:……へぇ
喜邏:探す手間が省けそうですね
天満:悪いな、女
天満:少し付き合ってもらうぜ
叶芽:えっ、え……いや、え?
叶芽:(確かにつまんない人生と言ったのは私です
叶芽:だけど、これは望んで無いです、神様!
叶芽:これが出会いで、運命なら
叶芽:私は呪われているのでしょうか!?)
0:
天満:駅から最寄りのコンビニまで車で15分
天満:食材を買いに行くなら20分
天満:栄えていると言える場所まで30分以上
喜邏:バスは1時間に一本あれば良し
喜邏:あ、あれ見たことないお店ですね
叶芽:(この人、見えてるの…?)
叶芽:……ホームセンターです
喜邏:知っていますよ
喜邏:田舎を中心に出店しているものですね
喜邏:都会に進展せず、田舎の地域密着ってヤツですね
喜邏:戦略型店舗、素晴らしいです
叶芽:詳しいですね……
喜邏:田舎に行くと聞いていましたからね
喜邏:お、あれは農業組合のやつですね!
叶芽:なんか恥ずかしいからやめてください!
天満:誇れよ、自分の住んでいる場所だろ?
天満:まぁ今時ってやつは、都会に憧れるもんか
喜邏:天満くんも若いくせに何を今時なんて
叶芽:何処から来たんですか?二人とも
天満:山も畑も、無いところからだよ
叶芽:ははっ……羨ましいです
叶芽:あ、ここです
天満:こういうのは好きだぜ、俺は
喜邏:私もですよ
叶芽:入りましょう
0:三人はひっそりと佇む喫茶店に入る
叶芽:それで……その、話って
天満:再度確認だ
天満:俺のイケてるツラ、見えてるか?
喜邏:……
叶芽:イケてるツラは見えません
喜邏:ふふふ、イケてないみたい天満くん
天満:残念だなぁ、俺の顔が見れないなんて
喜邏:えぇ、とても
叶芽:なんで顔を隠してるんですか?
天満:信じるか信じないかはお前次第
叶芽:は?
天満:俺たちは特殊な仕事をしている
天満:此処に来たのも仕事の為
天満:顔を隠しているのも、こいつが目隠ししてるのも
天満:それに関係している事だ
叶芽:はぁ
天満:お前、霊感はあるか?
叶芽:霊感?
叶芽:いや、ないですけど
天満:へぇ?
天満:じゃあ俺から質問
天満:"ひとひと"って聞いた事あるか?
叶芽:ひとひと?
喜邏:漢字でこう書きます
0:喜邏はメモ帳を取り出し、書く
0:そこには『人人』と書かれている
叶芽:あ、にんじん様ですか?
喜邏:にんじん様、ですか
喜邏:こっちが正しそうですね
天満:まぁ、現地人がそう呼ぶなら、そうだろうな
天満:それ、詳しく話せるか?
叶芽:いや、大人が子どもに言い聞かせる
叶芽:昔話ですよ?夜に出歩かないための
天満:注意喚起か
叶芽:山も近いし、夜行性の動物に襲われたり
叶芽:田舎っていっても夜は危ないから
叶芽:そのための話ですよ
天満:それでいい
叶芽:17時になるとサイレンが鳴るんです
叶芽:小学生までは、そのサイレンが鳴ったら
叶芽:家に帰るのが学校でもルールにあって
叶芽:あ、ちょうど鳴った
0:外からサイレンの音が響く
天満:それで?
叶芽:今のサイレンは普通ですけど
叶芽:時々、違うサイレンが鳴るんです
叶芽:それが、にんじん様が人攫いをした時
天満:へぇ?
叶芽:だから、夜に出歩いた人が攫われた
叶芽:次はお前の番になるかもしれない
叶芽:サイレンが鳴る前に家に帰れ
叶芽:夜は家で過ごせ
叶芽:っていうのが、親とかが聞かせる話です
天満:実際は違うと?
叶芽:実際にサイレンは鳴りますけど
叶芽:此処ら辺一体は町内放送が流れるんです
叶芽:いつもと違うサイレンは
叶芽:町内や近くの地域で行方不明者が出た
叶芽:お知らせなんですよ
叶芽:まぁ、ほとんど老人ですけど
喜邏:なるほど、にんじん様に攫われた、と
叶芽:そんなわけ!
叶芽:ボケてるおじいちゃん、おばあちゃんですよ
叶芽:大体すぐに見つかりますし
喜邏:確認したんですか?
叶芽:いや……確認ていうか
叶芽:町内放送で名前から歳まで放送されますし
叶芽:消防団とか捜索に行くし
喜邏:けど、それがにんじん様じゃない
喜邏:という、確証もない訳でしょう?
叶芽:いやいや、どう考えても作り話ですから!
天満:作り話じゃなかったら、どうする?
叶芽:え?
天満:確かにボケたジジババが勝手に消えるのは
天満:よくある話かもしれねぇな
天満:だが、にんじん様も嘘かどうか解らねぇだろ?
叶芽:それは……
天満:喜邏、どう思う?
喜邏:天満くんの仰せのままに
天満:そりゃ、責任転嫁だろ
天満:じゃあ、選択してもらうか
叶芽:な、なんですか!?
天満:疑問に答えてやるよ……叶芽だったか?
天満:ただし、答えたらお前も知る事になる
天満:それが、何だろうが受け入れるか?
叶芽:ちょ、なんですか、いきなり
天満:答えて欲しけりゃイエスだ
天満:忘れて帰るなら、そのまま帰れ
叶芽:……なんか、ムカつく
天満:あぁ、こっちも事情があるんでな
叶芽:いいです、聞きます
天満:『天幕』
叶芽:えっ……なにこれ?
天満:俺は呪禁師ってやつなんだ
天満:聞いた事ないだろ?
天満:呪いに言葉じゃなくて禁止の字を書いて
天満:"じゅごん"だ
天満:邪を祓う術も使えれば、魘魅
天満:つまり、邪術と言って呪い殺す術も知っている
天満:これもその一つ
天満:空間を仕切り、音を遮断する
喜邏:今から語る言葉は、聞かせられませんから
喜邏:解るとおもいますが、他言無用ですよ
叶芽:一体……なんなんですか…
天満:まずはお前のことだ
天満:俺のこの布は、蔵面ってやつだが
天満:呪物の一つで、喜邏の目隠しも同じだ
天満:ある力が込められている
叶芽:力?
天満:霊、或いは霊感がある者しか見ることができない
叶芽:えっ……
喜邏:本来、顔を見せない為のものですが
喜邏:私たちは見せる相手を選択しています
喜邏:この面を外す時は、そういう時です
天満:霊感がなけりゃ、俺のツラは拝める
天満:だが、お前は違った
天満:それは、霊感があるってことだ
叶芽:何を言ってるんですか
叶芽:そんものあるわけないでしょ
天満:霊感っていうのは色々あってな
天満:先天的に持つ者もいる
天満:家系や、そういう星の元に生まれた奴だ
天満:後天的に宿るやつもいる
天満:邪に魅入られた奴、死に触れた奴とかな
叶芽:生まれて今まで幽霊なんて見てないし
叶芽:死に触れるってそんなこともないです!
天満:それと自覚してない奴
叶芽:自覚?
天満:100メートルを9秒で走る才能がある奴が
天満:自分の身体が病弱で走ることを知らずに成長したら
天満:その才能に気づくことなく終わるだろうな
叶芽:霊を見る機会がなかった…?
喜邏:察しが良いのは嫌いじゃないですよ
喜邏:さて、話を聞いたということは
喜邏:それは、触れたと同義
喜邏:つまり、あなたはもう、こちら側
叶芽:!?
0:辺りを見渡す叶芽
天満:無駄だ
天満:ここには何もいねーよ
天満:それに、天幕の中だ
天満:見ることもできないからな
叶芽:私……これからもしかして…
天満:人の話は聞かないとダメだと学校で教わるよな
天満:本当は違うってのは知らなかったか?
天満:人の話ってのはな
天満:聞いていい人からしか聞いちゃ駄目なんだよ
喜邏:選択というはいつも自己責任ですからね
叶芽:あなたたちの仕事って
叶芽:霊媒師?
天満:まぁ、それでいい
天満:やってることは変わらないからな
叶芽:私は、どうすれば……
天満:そうだな
天満:夜、家を抜け出せるか?
叶芽:えっ……できます
天満:訳アリか?
叶芽:……死に触れたこと、ありますから
喜邏:嘘はよくないですが
喜邏:少しは自覚しましたか
叶芽:けど、物心つく前だったし
叶芽:……両親が死んだのは
天満:なるほどなァ
天満:施設か?
叶芽:いえ、祖母の家です
叶芽:父の実家って聞いてます
天満:あんまり心配はさせたくないな
天満:ま、けど仕方ない
天満:こういうのは、出会ったら終わりだからな
叶芽:……他人事ですね
叶芽:それはそうですけど
天満:まぁ、今回の俺たちがやることは
天満:稀も稀だ
天満:別に霊感がある奴なんざ
天満:そこらにいるからな
天満:だが、教えたからには責任は持ってやるよ
喜邏:では、夜にまたあのバス停に来てください
喜邏:私たちは少し、調べますから
叶芽:……はい
0:
叶芽:……
叶芽:(そういえば、夜に出歩いたのっていつぶりだろ
叶芽:……ちょっと怖い…
叶芽:それも全部、昼間に変な話聞いたからじゃん
叶芽:なんで……私は此処に来たんだろう……)
天満:来ないと思ったよ
叶芽:!?
天満:嘘だ、妄想だ
天満:幽霊なんているはずないってさ
叶芽:本当にそう思いますよ
喜邏:でも、此処に来たと言うことは
喜邏:本心で感じているんでしょう?
叶芽:それは……そうかも
天満:嘘だ妄想だついでに
天満:話でもしながら向かおうぜ
0:
天満:まずは妄想を現実にしようか
天満:喜邏
喜邏:あまり見せびらかすモノではないですが
0:そう言うと首から下げているモノを
0:胸元から取り出す喜邏
叶芽:ひっ!?なにこれ……
喜邏:何故、目隠しをしているのに
喜邏:誰の介助も要らず歩けると思いますか?
叶芽:えっ?
喜邏:こんな夜道でも、天満くんは手を取ってくれません
喜邏:転んだら危ないでしょう?
叶芽:その目隠しが薄い布で見えてるから、とか
喜邏:それは面白い発想
喜邏:確かにそれも考えられますね
喜邏:じゃあ、そちらから私の目は見えるんですね?
叶芽:……全然見えない
喜邏:ちなみに
喜邏:目隠しの中身は目を瞑っていますよ
叶芽:じゃあ、ソレが?
天満:百々目鬼
天満:喜邏は、その妖怪から目を手に入れている
叶芽:妖怪!?
天満:幽霊がいるなら、妖怪だっているさ
天満:都市伝説も、呪具も全部
天満:纏めて、怪異と呼ぶがな
0:喜邏の首から下げている目が動く
0:黒目だけが、動いている
0:それは、普通では考えられない現象だった
叶芽:なにそれ……なんで動いて
喜邏:私の目と繋がってますから
天満:まぁ、世の中にはこういう奴もいるってわけ
天満:どうだ?少しは妄想が現実になったか?
叶芽:信じられませんけど、それは……
天満:じゃあ、本題に入る
天満:俺たちが此処にきた理由
天満:にんじん様を殺す為だ
叶芽:にんじん様を殺す?
叶芽:ただの、作り話なのに?
天満:にんじん様の様な話は幾らでもある
天満:だが、あまりに信じすぎたものは怪異に成る
天満:それが、都市伝説怪異だ
天満:行方不明になる奴がいるんだろ?
天満:じゃあ、それがにんじん様の仕業じゃないって
天満:保証は誰がするんだ?
天満:お前と別れたあと、聞いて回ったがな
天満:サイレンが変わることは一切無いってよ
叶芽:……えっ
天満:霊感がある奴しか聞こえ方が変わらない
天満:なぁ、怪異が標的にするのは何も
天満:健康な人間だけじゃないぜ?
天満:ボケたジジババだろうが、変わらないんだよ
叶芽:じゃ、じゃあ今までの全部……
天満:残念なことだな
天満:この地域の行方不明は全部にんじん様だ
叶芽:嘘っ……
喜邏:ふふふ、噂をすれば
天満:あぁ、お出ましか
叶芽:な、なに……あれ
喜邏:にんじん様
喜邏:人を行方不明にする霊障を引き起こす
喜邏:気まぐれで解放し、気まぐれでそのまま殺す
喜邏:伝承は100年以上前から伝わっており
喜邏:信仰の数が一定以上に達した為、怪異化
喜邏:対象は、夜中に出歩く人間
喜邏:依頼者のものと一致
喜邏:人型、黒、異形有り、触れたら危険
喜邏:認定、怪異『人人様』
天満:まぁ、B級クエストってとこか?
喜邏:天満くんなら、そのくらい
天満:じゃあ、叶芽
天満:最後の妄想を現実にする時間だ
天満:お前はそこで喜邏といろ
叶芽:何をするの?
天満:さぁ、始めよう
天満:音と詞は無いが、演劇だ
天満:演じるも、踊るも謳うも自由だろ?
天満:それじゃあ……
天満:『御披露目』だ
0:そう言い、蔵面を取る
0:そして、その目は紅く輝いていた
叶芽:赤い、目…?
天満:『三十四の禁』
天満:じゃ、喜邏そいつ頼んだぜ
喜邏:仰せのままに
叶芽:あなた達は、一体……何なの?
喜邏:天満くんは、ずっと虐められていました
叶芽:いじめ?
喜邏:さっき、目を見たでしょう?
喜邏:あんな綺麗な目を持っているのに
喜邏:人は、それを不気味だと言う
喜邏:何も知らないくせに、人とは違うと排斥する
喜邏:昼間に霊感の話をしましたね?
叶芽:……はい
喜邏:天満くんは、先天的
喜邏:生まれつき赤い目を持ち、霊が見えた
喜邏:それは、家系ではなく
喜邏:言葉を借りるなら、そういう星の元生まれた
喜邏:不気味、悪魔の子、呪い、化け物
喜邏:天満くんは親からもそう言われ育ちました
喜邏:だけど、天満くんは強い人
喜邏:自分の状態を理解し、呪禁師になった
喜邏:殆ど独学で
叶芽:……想像できません
叶芽:なんで霊媒師なんかを?
喜邏:そうですね、常人は無理でしょうね
喜邏:天満くんは優しい人です
喜邏:そんな自分が近くにいると迷惑だからと
喜邏:中学を卒業と同時に家を出て
喜邏:これを続けています
喜邏:お金の為です、生きる為に
叶芽:生きる為、の仕事
喜邏:こういう依頼、したことないでしょう?
喜邏:相場も何も解らないですから
喜邏:結構、言い値なんですよ、ふふふ
叶芽:……理解、できます
叶芽:じゃあ、あなたは?
喜邏:それと、私たちは病気を患っていまして
叶芽:病気?
喜邏:厨二病って知ってます?
叶芽:ふざけてるんですか?
喜邏:見てください
喜邏:あんなに楽しそうに怪異と戯れて、咲って
喜邏:赤い目、かっこいいだろ?と言わんばかりに
喜邏:怪異に見せびらかせて倒すんです、いつも
喜邏:怪異相手にあんなに遊ぶのは
喜邏:天満くんくらいじゃないかなぁ?ふふふ
叶芽:確かに、楽しそう……なのかな?
天満:喜邏ぁ!余計な事喋ってるならヤれ!
喜邏:はいはい
喜邏:では、私の病気も見せましょうか
叶芽:ヒッ!?
喜邏:手に目があるなんて
喜邏:ビームでも出せそうですよね?
喜邏:残念ながら出ませんが
叶芽:それは…?何?
喜邏:何も、百々目鬼から貰った目は
喜邏:一つ、とは限らないという話です
喜邏:『見つめろ』
0:その言葉を聞いた人人様は
0:喜邏の手にある目を見つめた
0:そして、人人様は動けなくなった
天満:『躰匚(ていほう)』
0:その瞬間、人人様は匣になった
天満:大した事ないな
天満:喜邏、余計な事喋りすぎなんだよ
喜邏:暇だったので、つい
叶芽:綺麗な……目…
天満:はっ!憐れみならいらねーよ
叶芽:違っ!本心です!
天満:二人目だ
叶芽:え?
天満:コレを綺麗だと言った奴は
天満:だが、残念
天満:御披露目はこれで終わりだ
0:そう言い、蔵面を付け直す
叶芽:それ、普通の人は見えないのに
叶芽:する意味あるんですか?
天満:この呪力で目の色が黒くなるんだよ
天満:あとな、見れるってのは
天満:見つかりやすくなるんだよ
天満:良くも悪くもな
叶芽:なるほど
叶芽:その箱、どうするんですか?
天満:然るべき所で対処する
天満:ま、これでこの地域の行方不明も減るだろうな
叶芽:ありがとう…ございます……?
天満:依頼は別の奴からだ
天満:お前から貰うもんじゃねーよ
天満:俺たちがやってることはこういうことだ
天満:だが、これは稀
天満:お前の様にただ霊感があるやつは
天満:見ても無視しとけばいい
叶芽:なんで、見せてくれたんですか?
喜邏:話だけでは信じれませんからね
喜邏:体験すると話もすんなり理解できます
叶芽:確かに、そうですね
天満:これ、やるよ
叶芽:名刺……ですか?
天満:まぁ、何かあれば連絡しろ
天満:報酬は要相談だがな
叶芽:相談しないで済むようにしたいです
叶芽:あ、喜邏さんの話は聞けず仕舞いですね
喜邏:敢えて言っていませんから
喜邏:うーん、そうですね
喜邏:では、一つだけ
喜邏:私も、死に触れた一人です
叶芽:だから、霊感が?
喜邏:さぁ、それはどうでしょうか
叶芽:意味深……
天満:じゃあな
天満:今回のことを教訓に、不審者の話は聞くなよ
叶芽:やっぱり不審者じゃないですか!!
天満:ま、でも……
叶芽:えっ?
天満:お前は守られてきたんだろうな
天満:今日のことは他言無用だが
天満:どうしても話したい時は
天満:お前のばあちゃんになら許可する
叶芽:それ、どういう……
喜邏:じゃ、そういうことみたいなので
喜邏:寂しいからと追わないでくださいね
天満:またな
そう言うと、来た方向と逆方向に向かう二人
叶芽:あ、ちょ!
叶芽:女の子一人残すな!夜道だぞ!
叶芽:えっ、嘘、ちょっと!
叶芽:何この最悪な別れ!!!
0:
叶芽:(最悪の出会いに、最悪の別れ
叶芽:あの後から、確かに霊が見える様になった
叶芽:想像していたモノよりもリアルで
叶芽:無視するのにも限界がきた私は
叶芽:おばあちゃんに話す事にした)
叶芽:……えっ?
叶芽:(衝撃的な話だった
叶芽:どうやら、おばあちゃんも霊感があり
叶芽:サイレンのことは、知っていた
叶芽:私にも何かあると昔から感じていたから
叶芽:伝わっている話を変えて話してくれていたらしい)
0:
叶芽:……私は、守られてきた…?
叶芽:それって……いつから?
叶芽:……(小声で)つまんない人生…?
叶芽:そんなわけ……なかったんだ…
0:叶芽は何かを決意した
0:その目は力強く、何かを見据えていた
0:そしてーー
0:一年後
天満:……どうぞ
叶芽:っ
天満:それで?何しに来たんだよ?
喜邏:天満くん、お客様
天満:じゃ、ねーよな?
叶芽:ここで働かせてください
天満:学校は?
叶芽:卒業しました
叶芽:祖母からの許可も得てます
叶芽:だから!
天満:理由は?
叶芽:……探したい怪異がいます
喜邏:……
天満:依頼じゃ駄目なんだな?
叶芽:はい
叶芽:それと、天満さんから学びたいです
天満:……それ慣れねぇな
叶芽:え?
天満:俺のことは呼び捨てか君付けにしてくれ
天満:呼ばれ慣れてないのは気持ち悪りぃ
叶芽:それって、じゃあ!
喜邏:私のことは、さん付けで
叶芽:はい!喜邏さん!
叶芽:それと……天満くん…?
天満:はっは!なんで疑問なんだよ
天満:ま、それでいい
天満:叶芽、よろしくな
叶芽:よろしくお願いします!
叶芽:(これが出会いで、運命なら
叶芽:私は呪われていても構わない
叶芽:この人たちと、私は歩いていく)
天満:じゃあ、早速行こうか
天満:……御披露目だ!
0:怪異戯曲・天魔が咲う 終
天満:さぁ、始めよう
天満:音と詞は無いが、演劇だ
天満:演じるも、踊るも謳うも自由だろ?
天満:それじゃあ……
天満:『御披露目』だ
0:怪異戯曲・天魔が咲う
0:
叶芽:はぁ……つまんない人生
叶芽:こんな田舎じゃ何も起きないし
0:学校からの帰り道
0:独り言を吐き捨て、石を蹴り歩く
0:辺りは山と田に囲まれ、長閑な風が吹く
叶芽:どこかにイケメン落ちてないかなー、なんて
叶芽:……普通、一億円とかだっけ?
叶芽:……ん?なにあれ?
天満:本当に何も無いな!
天満:田舎は空気が美味いって言うだろ?
天満:なぁ、空気に味があるのか確かめよう
喜邏:そんな暇あります?天満くん
喜邏:空気に味があるなら
喜邏:既に味わったことがありますよ
天満:田舎だけ特別ってことは?
喜邏:……なるほど
喜邏:有り得ませんね
天満:ノリ悪〜
叶芽:なにしてるんだろ……
叶芽:(ていうか、あれ何?顔に……布?)
叶芽:触らぬ何とかに祟り無しっと
0:何事もなかったかのように通り過ぎようとする叶芽
0:しかし、それに気づかれた
喜邏:第一村人発見です
天満:はっはー!
天満:話聞かなきゃなぁ?
叶芽:い!?
天満:田舎の人間は人情味あるんじゃないのか?
天満:余所者を避けるのは感心しないなぁ
叶芽:ふ……不審者……!!
天満:どこがだ!!
天満:今、此処に着いたばかりだっての
天満:それにこっちは探し物してんだよ
喜邏:ふふふ、不審者だって天満くん
天満:誰も俺とは言ってないだろ?喜邏ぁ?
叶芽:どっちもです!
喜邏:!?何故……
叶芽:顔に布貼っつけてるし!目隠ししてるし!
天満:……へぇ
喜邏:探す手間が省けそうですね
天満:悪いな、女
天満:少し付き合ってもらうぜ
叶芽:えっ、え……いや、え?
叶芽:(確かにつまんない人生と言ったのは私です
叶芽:だけど、これは望んで無いです、神様!
叶芽:これが出会いで、運命なら
叶芽:私は呪われているのでしょうか!?)
0:
天満:駅から最寄りのコンビニまで車で15分
天満:食材を買いに行くなら20分
天満:栄えていると言える場所まで30分以上
喜邏:バスは1時間に一本あれば良し
喜邏:あ、あれ見たことないお店ですね
叶芽:(この人、見えてるの…?)
叶芽:……ホームセンターです
喜邏:知っていますよ
喜邏:田舎を中心に出店しているものですね
喜邏:都会に進展せず、田舎の地域密着ってヤツですね
喜邏:戦略型店舗、素晴らしいです
叶芽:詳しいですね……
喜邏:田舎に行くと聞いていましたからね
喜邏:お、あれは農業組合のやつですね!
叶芽:なんか恥ずかしいからやめてください!
天満:誇れよ、自分の住んでいる場所だろ?
天満:まぁ今時ってやつは、都会に憧れるもんか
喜邏:天満くんも若いくせに何を今時なんて
叶芽:何処から来たんですか?二人とも
天満:山も畑も、無いところからだよ
叶芽:ははっ……羨ましいです
叶芽:あ、ここです
天満:こういうのは好きだぜ、俺は
喜邏:私もですよ
叶芽:入りましょう
0:三人はひっそりと佇む喫茶店に入る
叶芽:それで……その、話って
天満:再度確認だ
天満:俺のイケてるツラ、見えてるか?
喜邏:……
叶芽:イケてるツラは見えません
喜邏:ふふふ、イケてないみたい天満くん
天満:残念だなぁ、俺の顔が見れないなんて
喜邏:えぇ、とても
叶芽:なんで顔を隠してるんですか?
天満:信じるか信じないかはお前次第
叶芽:は?
天満:俺たちは特殊な仕事をしている
天満:此処に来たのも仕事の為
天満:顔を隠しているのも、こいつが目隠ししてるのも
天満:それに関係している事だ
叶芽:はぁ
天満:お前、霊感はあるか?
叶芽:霊感?
叶芽:いや、ないですけど
天満:へぇ?
天満:じゃあ俺から質問
天満:"ひとひと"って聞いた事あるか?
叶芽:ひとひと?
喜邏:漢字でこう書きます
0:喜邏はメモ帳を取り出し、書く
0:そこには『人人』と書かれている
叶芽:あ、にんじん様ですか?
喜邏:にんじん様、ですか
喜邏:こっちが正しそうですね
天満:まぁ、現地人がそう呼ぶなら、そうだろうな
天満:それ、詳しく話せるか?
叶芽:いや、大人が子どもに言い聞かせる
叶芽:昔話ですよ?夜に出歩かないための
天満:注意喚起か
叶芽:山も近いし、夜行性の動物に襲われたり
叶芽:田舎っていっても夜は危ないから
叶芽:そのための話ですよ
天満:それでいい
叶芽:17時になるとサイレンが鳴るんです
叶芽:小学生までは、そのサイレンが鳴ったら
叶芽:家に帰るのが学校でもルールにあって
叶芽:あ、ちょうど鳴った
0:外からサイレンの音が響く
天満:それで?
叶芽:今のサイレンは普通ですけど
叶芽:時々、違うサイレンが鳴るんです
叶芽:それが、にんじん様が人攫いをした時
天満:へぇ?
叶芽:だから、夜に出歩いた人が攫われた
叶芽:次はお前の番になるかもしれない
叶芽:サイレンが鳴る前に家に帰れ
叶芽:夜は家で過ごせ
叶芽:っていうのが、親とかが聞かせる話です
天満:実際は違うと?
叶芽:実際にサイレンは鳴りますけど
叶芽:此処ら辺一体は町内放送が流れるんです
叶芽:いつもと違うサイレンは
叶芽:町内や近くの地域で行方不明者が出た
叶芽:お知らせなんですよ
叶芽:まぁ、ほとんど老人ですけど
喜邏:なるほど、にんじん様に攫われた、と
叶芽:そんなわけ!
叶芽:ボケてるおじいちゃん、おばあちゃんですよ
叶芽:大体すぐに見つかりますし
喜邏:確認したんですか?
叶芽:いや……確認ていうか
叶芽:町内放送で名前から歳まで放送されますし
叶芽:消防団とか捜索に行くし
喜邏:けど、それがにんじん様じゃない
喜邏:という、確証もない訳でしょう?
叶芽:いやいや、どう考えても作り話ですから!
天満:作り話じゃなかったら、どうする?
叶芽:え?
天満:確かにボケたジジババが勝手に消えるのは
天満:よくある話かもしれねぇな
天満:だが、にんじん様も嘘かどうか解らねぇだろ?
叶芽:それは……
天満:喜邏、どう思う?
喜邏:天満くんの仰せのままに
天満:そりゃ、責任転嫁だろ
天満:じゃあ、選択してもらうか
叶芽:な、なんですか!?
天満:疑問に答えてやるよ……叶芽だったか?
天満:ただし、答えたらお前も知る事になる
天満:それが、何だろうが受け入れるか?
叶芽:ちょ、なんですか、いきなり
天満:答えて欲しけりゃイエスだ
天満:忘れて帰るなら、そのまま帰れ
叶芽:……なんか、ムカつく
天満:あぁ、こっちも事情があるんでな
叶芽:いいです、聞きます
天満:『天幕』
叶芽:えっ……なにこれ?
天満:俺は呪禁師ってやつなんだ
天満:聞いた事ないだろ?
天満:呪いに言葉じゃなくて禁止の字を書いて
天満:"じゅごん"だ
天満:邪を祓う術も使えれば、魘魅
天満:つまり、邪術と言って呪い殺す術も知っている
天満:これもその一つ
天満:空間を仕切り、音を遮断する
喜邏:今から語る言葉は、聞かせられませんから
喜邏:解るとおもいますが、他言無用ですよ
叶芽:一体……なんなんですか…
天満:まずはお前のことだ
天満:俺のこの布は、蔵面ってやつだが
天満:呪物の一つで、喜邏の目隠しも同じだ
天満:ある力が込められている
叶芽:力?
天満:霊、或いは霊感がある者しか見ることができない
叶芽:えっ……
喜邏:本来、顔を見せない為のものですが
喜邏:私たちは見せる相手を選択しています
喜邏:この面を外す時は、そういう時です
天満:霊感がなけりゃ、俺のツラは拝める
天満:だが、お前は違った
天満:それは、霊感があるってことだ
叶芽:何を言ってるんですか
叶芽:そんものあるわけないでしょ
天満:霊感っていうのは色々あってな
天満:先天的に持つ者もいる
天満:家系や、そういう星の元に生まれた奴だ
天満:後天的に宿るやつもいる
天満:邪に魅入られた奴、死に触れた奴とかな
叶芽:生まれて今まで幽霊なんて見てないし
叶芽:死に触れるってそんなこともないです!
天満:それと自覚してない奴
叶芽:自覚?
天満:100メートルを9秒で走る才能がある奴が
天満:自分の身体が病弱で走ることを知らずに成長したら
天満:その才能に気づくことなく終わるだろうな
叶芽:霊を見る機会がなかった…?
喜邏:察しが良いのは嫌いじゃないですよ
喜邏:さて、話を聞いたということは
喜邏:それは、触れたと同義
喜邏:つまり、あなたはもう、こちら側
叶芽:!?
0:辺りを見渡す叶芽
天満:無駄だ
天満:ここには何もいねーよ
天満:それに、天幕の中だ
天満:見ることもできないからな
叶芽:私……これからもしかして…
天満:人の話は聞かないとダメだと学校で教わるよな
天満:本当は違うってのは知らなかったか?
天満:人の話ってのはな
天満:聞いていい人からしか聞いちゃ駄目なんだよ
喜邏:選択というはいつも自己責任ですからね
叶芽:あなたたちの仕事って
叶芽:霊媒師?
天満:まぁ、それでいい
天満:やってることは変わらないからな
叶芽:私は、どうすれば……
天満:そうだな
天満:夜、家を抜け出せるか?
叶芽:えっ……できます
天満:訳アリか?
叶芽:……死に触れたこと、ありますから
喜邏:嘘はよくないですが
喜邏:少しは自覚しましたか
叶芽:けど、物心つく前だったし
叶芽:……両親が死んだのは
天満:なるほどなァ
天満:施設か?
叶芽:いえ、祖母の家です
叶芽:父の実家って聞いてます
天満:あんまり心配はさせたくないな
天満:ま、けど仕方ない
天満:こういうのは、出会ったら終わりだからな
叶芽:……他人事ですね
叶芽:それはそうですけど
天満:まぁ、今回の俺たちがやることは
天満:稀も稀だ
天満:別に霊感がある奴なんざ
天満:そこらにいるからな
天満:だが、教えたからには責任は持ってやるよ
喜邏:では、夜にまたあのバス停に来てください
喜邏:私たちは少し、調べますから
叶芽:……はい
0:
叶芽:……
叶芽:(そういえば、夜に出歩いたのっていつぶりだろ
叶芽:……ちょっと怖い…
叶芽:それも全部、昼間に変な話聞いたからじゃん
叶芽:なんで……私は此処に来たんだろう……)
天満:来ないと思ったよ
叶芽:!?
天満:嘘だ、妄想だ
天満:幽霊なんているはずないってさ
叶芽:本当にそう思いますよ
喜邏:でも、此処に来たと言うことは
喜邏:本心で感じているんでしょう?
叶芽:それは……そうかも
天満:嘘だ妄想だついでに
天満:話でもしながら向かおうぜ
0:
天満:まずは妄想を現実にしようか
天満:喜邏
喜邏:あまり見せびらかすモノではないですが
0:そう言うと首から下げているモノを
0:胸元から取り出す喜邏
叶芽:ひっ!?なにこれ……
喜邏:何故、目隠しをしているのに
喜邏:誰の介助も要らず歩けると思いますか?
叶芽:えっ?
喜邏:こんな夜道でも、天満くんは手を取ってくれません
喜邏:転んだら危ないでしょう?
叶芽:その目隠しが薄い布で見えてるから、とか
喜邏:それは面白い発想
喜邏:確かにそれも考えられますね
喜邏:じゃあ、そちらから私の目は見えるんですね?
叶芽:……全然見えない
喜邏:ちなみに
喜邏:目隠しの中身は目を瞑っていますよ
叶芽:じゃあ、ソレが?
天満:百々目鬼
天満:喜邏は、その妖怪から目を手に入れている
叶芽:妖怪!?
天満:幽霊がいるなら、妖怪だっているさ
天満:都市伝説も、呪具も全部
天満:纏めて、怪異と呼ぶがな
0:喜邏の首から下げている目が動く
0:黒目だけが、動いている
0:それは、普通では考えられない現象だった
叶芽:なにそれ……なんで動いて
喜邏:私の目と繋がってますから
天満:まぁ、世の中にはこういう奴もいるってわけ
天満:どうだ?少しは妄想が現実になったか?
叶芽:信じられませんけど、それは……
天満:じゃあ、本題に入る
天満:俺たちが此処にきた理由
天満:にんじん様を殺す為だ
叶芽:にんじん様を殺す?
叶芽:ただの、作り話なのに?
天満:にんじん様の様な話は幾らでもある
天満:だが、あまりに信じすぎたものは怪異に成る
天満:それが、都市伝説怪異だ
天満:行方不明になる奴がいるんだろ?
天満:じゃあ、それがにんじん様の仕業じゃないって
天満:保証は誰がするんだ?
天満:お前と別れたあと、聞いて回ったがな
天満:サイレンが変わることは一切無いってよ
叶芽:……えっ
天満:霊感がある奴しか聞こえ方が変わらない
天満:なぁ、怪異が標的にするのは何も
天満:健康な人間だけじゃないぜ?
天満:ボケたジジババだろうが、変わらないんだよ
叶芽:じゃ、じゃあ今までの全部……
天満:残念なことだな
天満:この地域の行方不明は全部にんじん様だ
叶芽:嘘っ……
喜邏:ふふふ、噂をすれば
天満:あぁ、お出ましか
叶芽:な、なに……あれ
喜邏:にんじん様
喜邏:人を行方不明にする霊障を引き起こす
喜邏:気まぐれで解放し、気まぐれでそのまま殺す
喜邏:伝承は100年以上前から伝わっており
喜邏:信仰の数が一定以上に達した為、怪異化
喜邏:対象は、夜中に出歩く人間
喜邏:依頼者のものと一致
喜邏:人型、黒、異形有り、触れたら危険
喜邏:認定、怪異『人人様』
天満:まぁ、B級クエストってとこか?
喜邏:天満くんなら、そのくらい
天満:じゃあ、叶芽
天満:最後の妄想を現実にする時間だ
天満:お前はそこで喜邏といろ
叶芽:何をするの?
天満:さぁ、始めよう
天満:音と詞は無いが、演劇だ
天満:演じるも、踊るも謳うも自由だろ?
天満:それじゃあ……
天満:『御披露目』だ
0:そう言い、蔵面を取る
0:そして、その目は紅く輝いていた
叶芽:赤い、目…?
天満:『三十四の禁』
天満:じゃ、喜邏そいつ頼んだぜ
喜邏:仰せのままに
叶芽:あなた達は、一体……何なの?
喜邏:天満くんは、ずっと虐められていました
叶芽:いじめ?
喜邏:さっき、目を見たでしょう?
喜邏:あんな綺麗な目を持っているのに
喜邏:人は、それを不気味だと言う
喜邏:何も知らないくせに、人とは違うと排斥する
喜邏:昼間に霊感の話をしましたね?
叶芽:……はい
喜邏:天満くんは、先天的
喜邏:生まれつき赤い目を持ち、霊が見えた
喜邏:それは、家系ではなく
喜邏:言葉を借りるなら、そういう星の元生まれた
喜邏:不気味、悪魔の子、呪い、化け物
喜邏:天満くんは親からもそう言われ育ちました
喜邏:だけど、天満くんは強い人
喜邏:自分の状態を理解し、呪禁師になった
喜邏:殆ど独学で
叶芽:……想像できません
叶芽:なんで霊媒師なんかを?
喜邏:そうですね、常人は無理でしょうね
喜邏:天満くんは優しい人です
喜邏:そんな自分が近くにいると迷惑だからと
喜邏:中学を卒業と同時に家を出て
喜邏:これを続けています
喜邏:お金の為です、生きる為に
叶芽:生きる為、の仕事
喜邏:こういう依頼、したことないでしょう?
喜邏:相場も何も解らないですから
喜邏:結構、言い値なんですよ、ふふふ
叶芽:……理解、できます
叶芽:じゃあ、あなたは?
喜邏:それと、私たちは病気を患っていまして
叶芽:病気?
喜邏:厨二病って知ってます?
叶芽:ふざけてるんですか?
喜邏:見てください
喜邏:あんなに楽しそうに怪異と戯れて、咲って
喜邏:赤い目、かっこいいだろ?と言わんばかりに
喜邏:怪異に見せびらかせて倒すんです、いつも
喜邏:怪異相手にあんなに遊ぶのは
喜邏:天満くんくらいじゃないかなぁ?ふふふ
叶芽:確かに、楽しそう……なのかな?
天満:喜邏ぁ!余計な事喋ってるならヤれ!
喜邏:はいはい
喜邏:では、私の病気も見せましょうか
叶芽:ヒッ!?
喜邏:手に目があるなんて
喜邏:ビームでも出せそうですよね?
喜邏:残念ながら出ませんが
叶芽:それは…?何?
喜邏:何も、百々目鬼から貰った目は
喜邏:一つ、とは限らないという話です
喜邏:『見つめろ』
0:その言葉を聞いた人人様は
0:喜邏の手にある目を見つめた
0:そして、人人様は動けなくなった
天満:『躰匚(ていほう)』
0:その瞬間、人人様は匣になった
天満:大した事ないな
天満:喜邏、余計な事喋りすぎなんだよ
喜邏:暇だったので、つい
叶芽:綺麗な……目…
天満:はっ!憐れみならいらねーよ
叶芽:違っ!本心です!
天満:二人目だ
叶芽:え?
天満:コレを綺麗だと言った奴は
天満:だが、残念
天満:御披露目はこれで終わりだ
0:そう言い、蔵面を付け直す
叶芽:それ、普通の人は見えないのに
叶芽:する意味あるんですか?
天満:この呪力で目の色が黒くなるんだよ
天満:あとな、見れるってのは
天満:見つかりやすくなるんだよ
天満:良くも悪くもな
叶芽:なるほど
叶芽:その箱、どうするんですか?
天満:然るべき所で対処する
天満:ま、これでこの地域の行方不明も減るだろうな
叶芽:ありがとう…ございます……?
天満:依頼は別の奴からだ
天満:お前から貰うもんじゃねーよ
天満:俺たちがやってることはこういうことだ
天満:だが、これは稀
天満:お前の様にただ霊感があるやつは
天満:見ても無視しとけばいい
叶芽:なんで、見せてくれたんですか?
喜邏:話だけでは信じれませんからね
喜邏:体験すると話もすんなり理解できます
叶芽:確かに、そうですね
天満:これ、やるよ
叶芽:名刺……ですか?
天満:まぁ、何かあれば連絡しろ
天満:報酬は要相談だがな
叶芽:相談しないで済むようにしたいです
叶芽:あ、喜邏さんの話は聞けず仕舞いですね
喜邏:敢えて言っていませんから
喜邏:うーん、そうですね
喜邏:では、一つだけ
喜邏:私も、死に触れた一人です
叶芽:だから、霊感が?
喜邏:さぁ、それはどうでしょうか
叶芽:意味深……
天満:じゃあな
天満:今回のことを教訓に、不審者の話は聞くなよ
叶芽:やっぱり不審者じゃないですか!!
天満:ま、でも……
叶芽:えっ?
天満:お前は守られてきたんだろうな
天満:今日のことは他言無用だが
天満:どうしても話したい時は
天満:お前のばあちゃんになら許可する
叶芽:それ、どういう……
喜邏:じゃ、そういうことみたいなので
喜邏:寂しいからと追わないでくださいね
天満:またな
そう言うと、来た方向と逆方向に向かう二人
叶芽:あ、ちょ!
叶芽:女の子一人残すな!夜道だぞ!
叶芽:えっ、嘘、ちょっと!
叶芽:何この最悪な別れ!!!
0:
叶芽:(最悪の出会いに、最悪の別れ
叶芽:あの後から、確かに霊が見える様になった
叶芽:想像していたモノよりもリアルで
叶芽:無視するのにも限界がきた私は
叶芽:おばあちゃんに話す事にした)
叶芽:……えっ?
叶芽:(衝撃的な話だった
叶芽:どうやら、おばあちゃんも霊感があり
叶芽:サイレンのことは、知っていた
叶芽:私にも何かあると昔から感じていたから
叶芽:伝わっている話を変えて話してくれていたらしい)
0:
叶芽:……私は、守られてきた…?
叶芽:それって……いつから?
叶芽:……(小声で)つまんない人生…?
叶芽:そんなわけ……なかったんだ…
0:叶芽は何かを決意した
0:その目は力強く、何かを見据えていた
0:そしてーー
0:一年後
天満:……どうぞ
叶芽:っ
天満:それで?何しに来たんだよ?
喜邏:天満くん、お客様
天満:じゃ、ねーよな?
叶芽:ここで働かせてください
天満:学校は?
叶芽:卒業しました
叶芽:祖母からの許可も得てます
叶芽:だから!
天満:理由は?
叶芽:……探したい怪異がいます
喜邏:……
天満:依頼じゃ駄目なんだな?
叶芽:はい
叶芽:それと、天満さんから学びたいです
天満:……それ慣れねぇな
叶芽:え?
天満:俺のことは呼び捨てか君付けにしてくれ
天満:呼ばれ慣れてないのは気持ち悪りぃ
叶芽:それって、じゃあ!
喜邏:私のことは、さん付けで
叶芽:はい!喜邏さん!
叶芽:それと……天満くん…?
天満:はっは!なんで疑問なんだよ
天満:ま、それでいい
天満:叶芽、よろしくな
叶芽:よろしくお願いします!
叶芽:(これが出会いで、運命なら
叶芽:私は呪われていても構わない
叶芽:この人たちと、私は歩いていく)
天満:じゃあ、早速行こうか
天満:……御披露目だ!
0:怪異戯曲・天魔が咲う 終