台本概要

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タイトル M.I.A 1 (男女不問)
作者名 市野世  (@ichinose_ohoh)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(不問3)
時間 50 分
台本使用規定 商用、非商用問わず作者へ連絡要
説明 あなたは気が付くといつも歩道橋の下の大通りにいる。ここが何処なのかも、何故ここにいるのかも分からず同じ日々を過ごしていた。でも今日は違った…元の場所へ帰るためにあなたは自分だけの扉を探しに行く。


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この度は台本を手に取って頂きありがとうございます。
こちらのお話は今までとは毛色の違うお話になってます。
《あなた》に関してですが多少の口調変更OKです。(例:俺、僕に変更。〜だよ→だろ。のように語尾の変更など)
あなたの思う《あなた》を演じてもらえればと思います。
《くちなし》ですがキャラ説明にあった通り
これと言った言葉を話しません。セリフは無いも同然です。基本は身振り手振りだったりします。
自分ならこんな感じの反応をすると思ったら
そのようにして頂いて構いません。
深く考えず不思議な台本をやりたい方、是非。



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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
あなた 不問 175 記憶をなくしている。思うままに演じて下さい。
鬼丸 不問 169 鬼丸(おにまる)。あなたを助けに来た6つ目の人物。多少乱暴な口調ではあるが世話焼きで優しい性格。
くちなし 不問 60 優しくて暖かくて感受性豊かな人物。1つ目でいつも口に包帯をしている。話せない。基本はジェスチャーや感情的な吐息、漏れた笑い声などで会話をし相手に意志を伝える。今回は二言だけ喋るが言語自体は未熟。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
あなた:「(気が付くといつも此処に居る。綺麗な夕陽に沢山の光を浴びた高層ビル。顔もよく見えない人達が楽しげに会話をし私だけを避け行き来するこの大通り。…私はこの場所を知らない。なのに、懐かしさが消えない。この世界は私の世界では無い。帰らなきゃ行けない。わかっているのに私はずっと動けずにいる。)」 0:桃色と橙色の混ざった夕空。夕陽に照らされ美しく輝くビルの窓。誰ものぼらない歩道橋。顔の無い人々の雑踏。あなたは大通りの真ん中で1人立ち尽くす あなた:「どうしていつも此処にいるんだろう。私は何処へ行けばいいんだろう。なんで誰も教えてくれないんだろう…私はきっと。此処に居ては行けないのに…」 0:あなたは空を舞う色とりどりの風船に気づく あなた:「…風船だ。アハハ…綺麗だな。欲しいな。1つでいいから…ダメかな 。いつもはこんな感情湧かないのに。おかしいな…」 0:あなたは風船を追いかけ始める あなた:「ねぇ。待って。いつもいつも欲しいって思ってたんだ。*風船《きみ》を欲しいと思ってたんだ。待って…待ってよ」 0:先程よりも小走りになる あなた:「…お願い。待って。1つでいい。1つでいいから…*風船《きみ》が居れば私はきっと帰れるから!だから!待って!」 0:風船は知らん顔をしてあなたから遠ざかろうとする あなた:「待って…!待ってよ!ねえ!止まって!」 0:あなたはさっきよりも早く駆け出す あなた:「お願いだよ!ソレがあれば良いんだ!*風船《きみ》だけでいい!だから…だから!」 0:あなたの顔つきは鬼の形相のようだ あなた:「待って!止まって!!」 0:そんなあなたを引き留めるモノがいた 鬼丸:「止まるのはお前だ!」 あなた:「?!」 鬼丸:「…間に合った」 あなた:「…」 0:あなたは何者かに手を掴まれそっと振り返る あなた:「!!」 鬼丸:「なんだよ」 あなた:「き、君は…なに?え…どうして」 鬼丸:「は?」 あなた:「おかしいよ。こんな事一度も」 鬼丸:「何の話だよ」 あなた:「(此処には何度も来てるのに、何度もこの大通りに立っていたのに…初めての事が起こった。この人はなんだ。目が左右に3つずつある…肌だってどこか赤いような桃色のような…誰なんだろ。どうして私を引き止めるんだろ。)」 鬼丸:「おい」 あなた:「…君は、誰なの。」 鬼丸:「そんな事よりお前!危なかったんだぞ!」 あなた:「なにが…」 鬼丸:「目の前を見ろよ!」 あなた:「…?」 0:あなたの目の前に広がる景色は断崖絶壁だった。まるで空間が無理やり遮断されたように黒々とした世界が広がっている あなた:「!!」 鬼丸:「やっとわかったか。そうだ。見ての通り断崖絶壁。あのままあの風船を追いかけていたら、お前は死んでた。」 あなた:「どうして…」 鬼丸:「お前は*誘《いざな》われてたんだよ」 あなた:「どういうこと。あの風船を欲しくなったのは今日が初めてだよ」 鬼丸:「…あの風船に魅力を感じたか?」 あなた:「…」 鬼丸:「でなけりゃ追い掛けないよな」 あなた:「でも、欲しいんだ…欲しかったんだ…!」 鬼丸:「あの風船は''誘惑''だよ。」 あなた:「誘惑?なんの」 鬼丸:「お前みたいにこの世界へ閉じ込められちまった奴らを二度と逃がさないために…あーいうやり口をするんだよ奴らは。お前、帰りたいんだろ?」 あなた:「…わからない。でも此処に居ちゃいけない気がしてるんだ。」 鬼丸:「…」 あなた:「どうしたらいいのかな。もうずっと此処に居るのに、誰も何をどうしたらいいのか教えてくれないんだ。私自身、居てはいけない事は分かってるんだけど…そんなに帰りたいワケでも無くて」 鬼丸:「でもこれ以上此処に居たらお前は消えちまう。それでいいのか?」 あなた:「嫌だ。それは嫌なんだ。君、名前は?」 鬼丸:「…俺は”鬼丸”。お前みたいに迷っちまった奴らをここから引き剥がしに来たんだ。でも困ったな…。」 あなた:「?」 鬼丸:「お前の”この世界”での滞在時間が長すぎる。本来ならこんなとこに居るべきじゃないし、お前だけの扉が用意されてたハズだが…どういうワケかその扉は消えてた。そのせいでお前は此処に閉じ込められちまったし、お前のための道も今は閉ざされちまった。」 あなた:「よくわからない…何を言ってるんだ。」 鬼丸:「1から説明してもきっとわかんねーだろ?とりあえず着いてこいよ」 あなた:「君に?出会ったばかりの君に着いていかなきゃ行けないのは…少し怖いよ」 鬼丸:「こんなヘンテコな奴らが居る場所の居心地は良くて俺は信用できないってのか?」 あなた:「…だって」 鬼丸:「言っておくが、俺たちは初対面じゃない。俺はお前を知ってる。だから安心しろ」 あなた:「そんな事言われても…私は君を知らない」 鬼丸:「いいから来い!とりあえず緊急用の扉を作ったから、その扉を使って安全な場所へ逃げるぞ。」 あなた:「逃げる?どうして」 鬼丸:「此処に居ちゃ行けない気がするんだろ?」 あなた:「…そうだった」 鬼丸:「マズイな。お前けっこーコッチに染まってるぜ?」 あなた:「そうなの?」 鬼丸:「そーだよ。今俺達が居る”この世界”は…お前みたいな存在にとっては毒なんだ。滞在時間が長ければ長いほど脳が溶かされて終いには自我も無くしちまう。そうなったら…お前はこの世界を行き来してるアイツらと同じになっちまうよ」 あなた:「あの…顔がよく見えない人達?」 鬼丸:「よく見えないんじゃない。無いんだ」 あなた:「え?顔が?」 鬼丸:「思い出せよ。初めてこの世界へ来た時、ヤツらの顔は真っ黒に見えてたハズだぜ」 あなた:「…?いつ来たのか覚えてないし、彼らの顔はずっとうっすら見えていたよ」 鬼丸:「記憶までイカレてきてるじゃねえか。いいか!とにかく今はこの世界から逃げるんだ!分かったら着いてこい!」 あなた:「でも!待ってよ!ほら…周囲を見て?こんなに綺麗な空なんだ!夕陽に照らされた高層ビルだって…窓に光が反射して物凄く綺麗だよ!それに顔の無い彼らだって皆個性的な格好をしていて面白いよ!見てて飽きないんだ!空には風船があんなに沢山飛んでて…!それにさ!よく聞いて?パレードみたいな愉快な曲が何処からかずっと流れてて…楽しいんだよここは!」 鬼丸:「いい加減にしろ!お前…死にたいのか!」 あなた:「…だって…こんな景色、見た事ないよ。すごく綺麗なんだよ…」 鬼丸:「綺麗なんかじゃねぇんだ。此処はな…お前から見れば美しいかもしれない。でも、正常なヤツの目にうつってるのは…赤黒い世界なんだよ。」 あなた:「…でも、この世界を歩いてる人達は幸せそうに笑ってるよ。聞こえないの?みんな楽しそうに笑ってるよ」 鬼丸:「いいか。よく聞け。アイツら笑ってない。断末魔みたいな声を上げてんだ。それに…夕陽が美しい?あんなの血と変わらない。ボロボロの高層ビルに枯れた地面。歩いている「顔なし」だってゾンビみたいなんだよ。わかるか?お前と俺の違いが。」 あなた:「…嘘だよ。そんな。」 鬼丸:「嘘じゃねえ。お前が欲しがってた風船は…頭なんだよ。人の頭。生首みたいなモンだ。」 あなた:「え?!」 鬼丸:「あの生首には意思がある。囁いてお前達みたいな綺麗な奴らを*誘《いざな》うんだ。これがこの世界での現実なんだよ。波長が合っちまうヤツは皆アイツらに連れてかれて二度とこの世界から逃げられなくなる。分かったか」 あなた:「そんな…」 鬼丸:「俺が用意した扉を抜ければ、そんな気持ち全部無くなる。俺の見ている景色が理解出来る。だから来い。俺はお前を裏切らねえ」 あなた:「…」 鬼丸:「信じろ。一刻を争うんだ。」 あなた:「でも」 鬼丸:「そんなに不安なら…」 0:鬼丸は懐から小さなナイフを出した 鬼丸:「コレを持ってろ」 あなた:「…そのナイフは、なに」 鬼丸:「この世界の全てのモノを消すことが出来る。勿論。俺の事もな。」 あなた:「え…」 鬼丸:「不安ならお前に渡す。扉を抜けてもお前が俺を信頼できないなら、気持ちが変わらないなら…そのナイフで俺を消せ」 あなた:「そんな…!いいよ。要らない!」 鬼丸:「持ってろ。俺の言ったことが本当だと思ったらその時に返してくれればいい」 あなた:「…」 鬼丸:「もう本当に時間が無い。行くぞ。」 0:鬼丸はあなたの手を引く あなた:「…何処にあるの。その扉は。」 鬼丸:「歩道橋の上」 あなた:「そういえばあの歩道橋。誰も近づかないんだ。どうして?」 鬼丸:「近づけないようにしてるんだ。あの歩道橋はただの歩道橋じゃない。扉を開く為に大切な役割を*担《にな》ってるんだ。普段は結界みたいなモノを張って隠してんだよ。」 あなた:「じゃあどうして私は見えるの?」 鬼丸:「お前はこの世界の住人じゃない。助けが必要な存在だろ?」 あなた:「…」 鬼丸:「歩道橋が見えてきた。」 あなた:「あ…。」 鬼丸:「どうした?」 あなた:「最初…最初にここへ来た時…歩道橋の上に何かあった気がするんだ。」 鬼丸:「思い出したか?」 あなた:「綺麗な扉…うん。あった。あったよ」 鬼丸:「どうして扉へ入らなかった?」 あなた:「…誰かに」 鬼丸:「?」 あなた:「誰かに、話しかけられた気がする。」 鬼丸:「なに?どんなヤツだ」 あなた:「…綺麗な人だった。髪が長くて…でもどこか変で」 鬼丸:「…」 0:あなたは何かを思い出したかのように興奮気味に話し始める あなた:「その人と話してたら扉は無くなってて、気がついたらその人も居なくなってて…それで!1人だった。此処で1人で…どうしたらいいかわからなくて!そうしたら風船が現れてさ。いつも欲しいなって思ってて…でも動けなかった。欲しいけど取りに行くって考えがなかったんだ。」 鬼丸:「続けてくれ」 あなた:「それで気がつくと、また歩道橋の下に居て…それの繰り返しだった気がする。誰も私を助けてくれなかったし、誰も話しかけてくれなかったし、私なんて存在しないみたいに皆通り過ぎてくんだ…でも何とも思ってなかった。これでいいとすら思ってた。なのに…今日は違った。」 鬼丸:「どう違ったんだ?」 あなた:「風船が欲しくて走ったし、鬼丸さんが来た。」 鬼丸:「なるほど…」 あなた:「話しかけてきたその人の事、わかる?」 鬼丸:「…いや、わからない。」 あなた:「そっか。」 0:気が付くと歩道橋をのぼり扉の前まで来ていた 鬼丸:「さ。着いた。」 あなた:「…」 鬼丸:「大丈夫。怖くねぇよ。ただの扉だ」 あなた:「でもこの扉…中が真っ暗だよ。怖い。」 鬼丸:「そう見えてるだけだよ。俺には光り輝いて見えてる。だから安心してくれ。」 あなた:「でも」 鬼丸:「言ったろ?俺がお前を裏切ったらそのナイフで刺せ。」 あなた:「…」 鬼丸:「切り札があれば怖くないハズだ。ほら、行くぞ。」 あなた:「あ…待って…!」 0:鬼丸はあなたの手をそっと引き扉の中へ誘う あなた:「…」 0:あなたは怖くて目を瞑っていた 鬼丸:「おい。目を開けてみろ。大丈夫だから」 あなた:「…ッ…でも」 鬼丸:「ほら。怖くない。」 あなた:「…」 0:あなたはそっと目を開ける あなた:「…!!眩しい。あったかい!アハハ!すごい。何だろうここ…好きだな。ねぇ見てよ!どこもかしこもすごく真っ白で綺麗だよ!」 鬼丸:「言ったろ?じゃあ…さっき入った扉を見てみろ。」 あなた:「…」 0:あなたはそっと先程まで居た世界を扉越しに見つめる あなた:「!!」 鬼丸:「どうだ?」 あなた:「な…なにあれ、あの場所…な、なに!怖いよ…気持ち悪いよ…まるで…地獄じゃないか!」 鬼丸:「俺の言った通りだろ?赤黒くて気持ちの悪い場所だ。美しいか?」 あなた:「こ、こわ…怖いよ。私はずっと*彼処《あそこ》に居たの?!美しいと思っていたの?あんな所に居たいと思っていたの…?どうして。」 鬼丸:「あはは!さあな!もう風船も欲しくないだろ。」 あなた:「え?風船?」 鬼丸:「忘れてんならいいかな。そのナイフ…どうする?まだ持ってるか?」 あなた:「…」 鬼丸:「持ってたって構わねぇよ。不安は不安だろうし」 あなた:「いや、返すよ。」 鬼丸:「…」 あなた:「ごめんね。疑って。ありがとう」 鬼丸:「なら遠慮なく返してもらう」 あなた:「ねぇ。次はどこへ行くの?」 鬼丸:「今の所1番安全な場所」 あなた:「?」 鬼丸:「お前の見てた偽物の夕陽なんか目じゃない場所さ。あそこは本当に綺麗なんだ。一旦「くちなし」の元へ行って肩の力をぬけ」 あなた:「くちなし?」 鬼丸:「この世界での俺の唯一の友達。喋んないけどな」 あなた:「?」 鬼丸:「でも良い奴なんだよ。きっとお前の事を安心させてくれる。」 あなた:「…」 鬼丸:「ほら…見えてきた」 0:真っ白な空間の中1箇所だけ夕陽に照らされた空間を鬼丸は指さす 鬼丸:「…ここからでも分かる。綺麗だろ?」 あなた:「…すごいや。なんだか涙が出てきそうだよ」 鬼丸:「同感だ。俺も疲れたらよくあの丘へ行くんだ」 あなた:「丘なの?」 鬼丸:「あぁ。丘の上に一つだけ家がある。それがくちなしの家なんだ。下には夕陽に照らされた海に浜辺があってな…本当に落ち着くんだ。聞こえるのは騒がしい音じゃなくて…波の音だけだし」 あなた:「…」 鬼丸:「さ。行くぞ。」 あなた:「はい…」 0:2人は光の中を抜け出し夕陽に照らされた美しい海の見える場所へ出た あなた:「…海だ。真っ赤だ。綺麗だな。」 鬼丸:「さっきの場所とは比べ物にならないだろ?」 あなた:「うん。すごく…懐かしいや」 鬼丸:「…そうだな」 0:すると二人の背後から何者かがそっと近づく気配がある あなた:「?」 鬼丸:「よ。くちなし。」 あなた:「!!」 くちなし:「(※焦りながら微笑む)」 あなた:「目が…1つしかな、ない…」 鬼丸:「俺は6つだけどな」 あなた:「張り合うところじゃないよ。それに口が包帯で覆われてる。どうして?」 鬼丸:「喋らないからな」 くちなし:「(※少し照れくさそうに微笑む)」 あなた:「あの。君がくちなしさん?」 くちなし:「(※嬉しそうに首を縦に振る)」 あなた:「…」 鬼丸:「どう見ても無害だろ?」 あなた:「みたいだね。優しそう。」 くちなし:「(※照れ笑い)」 あなた:「あの。宜しくね」 0:あなたはくちなしへ握手の意味を込めて手を差し出す。するとくちなしも応えるように握手をする くちなし:「(※照れながら頷く)」 あなた:「…鬼丸さんとは違って、君は青白い肌をしているね。水色に近いや」 くちなし:「(※照れている)」 鬼丸:「照れるところじゃないだろ。そうだくちなし。コイツの事、少し*匿《かくま》ってくれないか?」 くちなし:「?」 鬼丸:「さっき言ったろ?置き去りにされた迷子が居るって。ソレ、こいつのこと。」 くちなし:「(*納得したように口を開く)」 鬼丸:「この世界ではコイツみたいな存在はかなり珍しいから…変なヤツに目をつけられたくない。だからお前にしか頼めない。いいか?」 くちなし:「(※首を大きく縦に振る)」 鬼丸:「それとさ。俺以外にあの世界へ行けるヤツなんか居たっけ?」 くちなし:「(※大きく首を横に反る)?」 鬼丸:「だよな…俺もさ、もしかしたらって人物は浮かんでんだけどよ。」 あなた:「あの…私は此処で何をしたら良いんですか。」 鬼丸:「とりあえずはくちなしに世話になる事になる。頭下げとけよ」 あなた:「…よろしくお願いします」 くちなし:「(※満面の笑みで微笑む)」 鬼丸:「とは言っても…いつまでも隠れてるワケにも行かねえからさ。別の世界へ行ってお前だけの扉を探すしかない。」 あなた:「私だけの?歩道橋にあったような扉が他にもあるんですか?」 鬼丸:「お前が存在する限り、この世界に取り込まれない限り…扉は在り続ける。気配消えてないんだ。でも…どっかの世界にあるな。こりゃ骨が折れるぞ」 あなた:「…そうなんだ」 鬼丸:「よく聞け。この世界の連中はおかしいんだ。まともじゃない。お前のような感性を持ったヤツは存在しないに等しい。だから何処が安全でどいつが信用できるのかなんて俺にも分からない。いいか?俺が偵察しに行ってる間はお前は此処に居ること。」 あなた:「それなら私も一緒に…」 鬼丸:「だめだ。お前は此処にいろ。くちなしなら安心だ。」 くちなし:「(※勢いよく首を縦に振る)」 あなた:「でも、私にとって今のところ1番信用できるのは鬼丸さんだけだよ」 くちなし:「(※あからさまに落ち込む)」 あなた:「あ…」 鬼丸:「あのな…?くちなしの見た目は確かに怖いかもしれない。でもコイツは良い奴なんだ。この丘に夕陽が昇ってる間はコイツは無害だから安心しろって」 あなた:「え?夕陽が昇ってる間…?どういうこと」 くちなし:「(※焦りながらモジモジする)」 鬼丸:「この世界はある程度の時間が経つとリセットされるんだ。リセットが来たらどこの世界も真っ暗になってこの世界の住人達の本能が剥き出しになる。つまりは夜になったら危ないってワケだ」 あなた:「それはつまり…」 鬼丸:「俺もくちなしも安全じゃなくなる。体感的には5分程度だけどな。でもどうなるか俺たちにもわかんねえんだ。けど、安心しろ。夜が来ると分かった時点で俺もくちなしもお前に近づかない。」 あなた:「そうじゃなくて…その間私はどこにいたらいいんですか」 鬼丸:「何処にいたらいいんだろうな…」 くちなし:「(※顎に手を当て考える)」 鬼丸:「夜になっても無害なヤツ…」 くちなし:「(※悩んでいる)」 鬼丸:「ウィッチ達の元は…ダメだ。罪人は…何とも言えないな。ドクトルは論外だし…シスターは存在が過ちみたいなヤツだし」 くちなし:「(※閃いた様に身振り手振りをする)」 鬼丸:「?」 あなた:「?」 くちなし:「(※腕をブンブン振っている)」 鬼丸:「…目…が?無い…あ!ミロワールか!」 くちなし:「(※首を縦に振る)」 あなた:「ミロワール?」 鬼丸:「鏡の世界に住んでるヤツだ。確かにアイツの世界はずっと暗闇だから夜になろうがアイツには関係ないな!よし!とりあえず手始めにミロワールの元へ行くか!」 あなた:「…あのさっき、目が無いって…」 鬼丸:「無いわけじゃないんだが…視覚を奪われちまってさ。白目しか無いんだ。」 あなた:「奪われた?何に?」 鬼丸:「あ、そうだ。今のうちに説明しておく。この世界の連中は見た目も性格も基本おかしいが良いヤツらではあるんだ。だが*神獣《しんじゅう》…というか、*獣《ケモノ》と泥棒には気をつけろ。近づくな。」 くちなし:「(※必死に頷く)」 あなた:「獣と泥棒?」 鬼丸:「獣は自らを神獣と名乗っているイカレ野郎だ。禁忌を犯した罪人だって噂がある。それに好き嫌いが激しいんだ。ヤツだけは誰とも世界を共有しないし気に入ったヤツ以外の前には現れないし招かない。もし招かれたらお前は二度とこの世界から出られない。逆に嫌われたらその場で存在を消されてしまう。」 あなた:「どういうことですか」 鬼丸:「どういう訳か獣も俺と同じナイフを持ってるんだ。アイツのは槍見てぇなモンだけどよ。このナイフは…誰でも持てるモンじゃねぇんだ。世界の*均衡《きんこう》を保てるモノだけが所有を許される。それがどうしてあんなヤツが持ってるのか…」 あなた:「…」 鬼丸:「共有しないクセに人の世界にはズカズカと踏み込んでくる無礼者だ。だから気をつけろよ。なるべく1人になるな。珍しいモノを好むとも聞いてるから。それと泥棒だが…」 あなた:「?」 鬼丸:「アイツは…欲しがりだ。何でも欲しいんだ。己の目を惹くモノ、心を奪うモノは何だって奪う。ミロワールの視覚を奪ったのもソイツだ。ミロワールは美しい目を持っていたし特殊なチカラを宿した目だった。誰がどこにいるのか考えるだけで居場所が見える。あのクソッタレはその目が欲しくなってミロワールから無理やり奪った。そういヤツなんだよ」 あなた:「酷い…身勝手にも程が…」 鬼丸:「だから絶対に近づくな。奴らの区域に立ち入るなんて言語道断だ。」 あなた:「近付かないからどこが危ないかちゃんと言ってね。それと…泥棒は泥棒って名前なの?」 くちなし:「(※誤魔化すように笑う)」 鬼丸:「…ラバァって名前があるけど結局は泥棒だ。だから泥棒でいいんだよ。」 あなた:「じゃあさっき呟いてた''罪人''てのは?」 鬼丸:「…罪人は善人の代わりに罪を被ってるんだ」 あなた:「え…」 鬼丸:「善人が悪党にならなきゃいけない瞬間があるだろ?この世界もそうさ。俺達はただ存在してる訳じゃない。みんなそれぞれ役割があるんだ。だが夜が来るまでに己の役割を果たせていないと俺達は消えちまう。」 あなた:「役割ってどんな」 鬼丸:「例えばAの役割は毎日りんごをBに送り届けること。だが何かが起こってAはりんごを届けられなくなってしまった。」 くちなし:「(※にこやかに頷く)」 鬼丸:「だが夜までには時間が無い。時は進まないが今日という日の1回分のりんごを届けないと役割から外されて消されてしまう。そんなAの前にりんごを持ったCが現れる。」 あなた:「…」 鬼丸:「AはCからりんごを奪いBの元へ送り届けられて無事役割を果たした。」 あなた:「でもCはどうなるの」 鬼丸:「Cは大切なリンゴを奪われたからこの世界の裁判官に申し立てる。するとAは犯罪者だ。」 あなた:「でも強奪したんだから仕方ないんじゃ…」 鬼丸:「では、Aが人助けをしていて己の役割に間に合わなったとしよう。それでもAは犯罪者か?」 あなた:「…」 鬼丸:「怪我人を助けた。迷子を道案内してた。消えそうな友人のために何かを手伝っていたから間に合いそうになかったとしたら…どうだ?」 あなた:「そう言われると…」 鬼丸:「その為にこの罪人が居るんだ。罪人が本人に姿形を似せ化ける。そして釈放されるまで本人の代わりに牢獄で暮らすんだ。」 あなた:「でもそれだとその罪人は…」 鬼丸:「それが罪人の役割なんだ。」 くちなし:「(※頷く)」 鬼丸:「罪人は悪意のない善人だけを助ける。救う対象を間違えたら罪人が消えちまうんだ。」 あなた:「…」 鬼丸:「そして罪人に助けられたヤツらは必ず罪人にお礼をしなきゃいけない。それが何かわかるか?」 あなた:「いや…わからない」 鬼丸:「''同じ過ちを犯さない''こと。そうすれば悪いヤツらが減るだろ?罪人の存在と対価はこの世界の均衡を保つ為に必要なんだ。だから誰も冤罪だなんて言わない。罪人が罪を被ることで本人は二度と罪を犯さないからな」 あなた:「もし、二度と罪を犯さないという約束を…対価を破ったら…どうなるの」 鬼丸:「罪人が処刑人へと変わり約束を放棄したヤツをこの世から消す」 あなた:「え?消すって…鬼丸さんと同じような立場なの?罪人は」 鬼丸:「あぁ。そうだ。言ったろ?誰でも持てるワケじゃねぇって…」 あなた:「なるほど…」 鬼丸:「でも罪人は善人しか助けない。助けちゃいけないんだ。となれば根っからの悪はどうなるのか…」 くちなし:「(※わざとらしく考える)」 鬼丸:「ソイツらを消すのが俺の役割だ。」 あなた:「でも鬼丸さんはさっき迷子を助ける役割だって…」 鬼丸:「誰もンな事言ってねぇよ。それにアレは悪人を仕留めるためのオマケみたいなもんだ。俺の目…6つあるだろ?」 あなた:「…」 鬼丸:「上2つは俺から見た背後の世界を、真ん中は目の前の人を、下2つは…別の世界を見るためにあるんだ。」 あなた:「え…え?」 鬼丸:「ミロワールとは違うが俺も此処に居ながら別の世界を監視することが出来るんだよ。お前やくちなしと話してる時に俺の上下の目が変なトコ見てたらお前らと話しながら仕事してるって事。」 あなた:「え…ちょっと気持ち悪いな」 くちなし:「(※鬼丸を馬鹿にするように笑う)」 鬼丸:「殴るぞくちなし」 くちなし:「(※被害者ヅラで泣き真似をする)」 あなた:「とりあえず、自分の世界へ還るタメの扉を探す以外此処から出る方法は無いんだね」 鬼丸:「無い」 くちなし:「(※わざとらしく涙を流す)」 あなた:「同情してくれてるのかな。ありがとう。」 くちなし:「(※優しく微笑む)」 鬼丸:「安全かどうか俺が確認するまでくちなしの元を離れるなよ。」 あなた:「うん…」 鬼丸:「なんだよ。しっくり来ねぇ返事だな。」 あなた:「いや…その。鬼丸さんに任せっきりは良くないかなって」 鬼丸:「いいんだよ。お前はこの世界の住人じゃねぇんだから…わかんねぇ事のが多いだろ。なら、わかる俺が動くだけだ。」 あなた:「頼もしいな…ありがとう」 鬼丸:「さっきも言ったが、お前と同じ感性のヤツがそこら中にいると思うな。全員どこかがおかしいんだ。お前が1人でこの世界を探索したいってんなら止めねぇが責任は取れねぇよ。」 あなた:「…確かに。そうだね。」 鬼丸:「とりあえずはミロワールに会う事が目標だ。」 くちなし:「(※頷く)」 あなた:「その人は…どんな人?」 鬼丸:「泣き虫」 くちなし:「(※泣いたフリ)」 鬼丸:「ネガティブ」 くちなし:「(※ネガティブなフリ)」 あなた:「…」 鬼丸:「変なヤツ」 くちなし:「(※誤魔化すように笑う)」 鬼丸:「見た目は1番綺麗だけどな」 くちなし:「(※明るく大袈裟に頷く)」 あなた:「…なるほど」 鬼丸:「多分お前に1番近い見た目だと思うぜ。白目だけど。」 あなた:「…不安だな」 鬼丸:「どうする。もう少し休んでからにするか?それとも今すぐ行くか?」 あなた:「…」 0:あなたはくちなしを見つめる くちなし:「(※見つめ返す)」 あなた:「…見つめ返されちゃった」 くちなし:「(※何か閃いた様子)」 鬼丸:「どした?くちなし」 あなた:「?」 0:くちなしはポケットから綺麗なペンダントを出す あなた:「ペンダント…だね?凄く綺麗だね」 くちなし:「(※満面の笑みで差し出す)」 あなた:「え、え?」 鬼丸:「おいくちなし。それ、あげんのかよ」 くちなし:「(※激しく頷く)」 鬼丸:「でもそのペンダントは…お前の大切なヤツだろ。夜を超える時に必要なやつだろ?いいのかよ」 くちなし:「(※優しく頷く)」 あなた:「え!そんな大切なモノ貰えないよ!」 くちなし:「(※強引に渡す)」 あなた:「いや、で、でも…!」 くちなし:「(※睨みつける)」 あなた:「そんな睨まないでよ。普通に怖い。それに…そのペンダントが君の支えなら、貰えないよ」 0:するとくちなしがゆっくりモゴモゴと話始める くちなし:「…ぁ…ッ…」 鬼丸:「ん?くちなし?どした?」 くちなし:「ッ…ぇ…ぞ…」 鬼丸:「くちなし?!え?くちなし?!」 あなた:「え?え??!!」 くちなし:「…そ…れ''…ッ…き''…きみ…た''…た…すけ…う''ッ…」 あなた:「…」 鬼丸:「くちなしぃいぃい!!お前喋れるのか!!なあ!なあ!!!嘘だろ?!ほんとかよ!」 くちなし:「(※誤魔化すように笑う)」 あなた:「…」 0:鬼丸はくちなしの両肩を持ちブンブンと振り回す 鬼丸:「なんでじゃあ普段から喋らないんだよぉおぉぉ!!!もっと喋ってくれよ!俺友達お前しかいないんだよ?!」 くちなし:「(※ぶん回されて目が回る)」 あなた:「鬼丸さん!ストップストップ!くちなしさん目が回ってるよ!」 鬼丸:「あ…悪ぃ」 くちなし:「(※困っている)」 鬼丸:「なぁ〜くちなしィ…なんで普段から喋らないんだよ」 くちなし:「…」 0:くちなしは浜辺に字を書き始める あなた:「ん?何か砂にかきはじめた。」 くちなし:「…」 鬼丸:「ん?''ボクは…アクニン''?」 くちなし:「(※激しく頷く)」 鬼丸:「なんだ…''だから…しゃべったら…だめ''?」 あなた:「そんなことないよ」 くちなし:「(※否定するように首を振る)」 鬼丸:「お前が悪人なら俺はどーなるんだよ」 くちなし:「(※自信ありげに親指を突き出す)」 鬼丸:「俺はいい人じゃねぇの!均衡を保つ為に役割を果たしてるだけだ!」 あなた:「鬼丸さんも!いい人だよ」 鬼丸:「…」 0:くちなしはもう一度話そうと頑張る くちなし:「…も…ッ…もら…で…ぇッ…」 あなた:「くちなしさん…」 鬼丸:「お前…」 くちなし:「(※満足気に微笑む)」 あなた:「くちなしさん。このペンダント…貰うね。ありがとう。肌身離さずつけてるよ」 くちなし:「(※嬉しさのあまり首を縦に振りまくる)」 あなた:「首がもげちゃうよ」 0:くちなしがあなたの背後に回りペンダントをつける あなた:「付けてくれるの?ありがとう」 くちなし:「(※微笑みながら一生懸命つける)」 鬼丸:「世話焼きだよなお前も」 くちなし:「(※照れる)」 鬼丸:「照れるところじゃないだろうが。」 あなた:「あ。ついた。ありがとう」 くちなし:「(※さらに照れる)」 鬼丸:「まぁ、な、なんだ。とりあえずミロワールの元へ行く…けどよ。一旦この丘で休んでこうぜ?お前も色々疲れたろ。」 あなた:「そうだね…そうしてもいいかな」 くちなし:「(※頷く)」 鬼丸:「そうと決まれば、くちなしの家で茶でもしばこうぜ。」 あなた:「しばくって…」 鬼丸:「なんだよ」 あなた:「いや。なんでも」 くちなし:「(※嬉しそうに微笑む)」 鬼丸:「細かい事は中で話す。先ずは俺とくちなしが今の所無害だってことをちゃんとわかってもらわないとな」 あなた:「もうわかってるよ。」 鬼丸:「わかってねぇんだよ」 あなた:「あのさ…ずっと濁されてきたんだけど」 鬼丸:「なんだよ」 あなた:「この世界は…なに」 くちなし:「…」 0:鬼丸は悲しそうに微笑む 鬼丸:「…なんだろうな」

あなた:「(気が付くといつも此処に居る。綺麗な夕陽に沢山の光を浴びた高層ビル。顔もよく見えない人達が楽しげに会話をし私だけを避け行き来するこの大通り。…私はこの場所を知らない。なのに、懐かしさが消えない。この世界は私の世界では無い。帰らなきゃ行けない。わかっているのに私はずっと動けずにいる。)」 0:桃色と橙色の混ざった夕空。夕陽に照らされ美しく輝くビルの窓。誰ものぼらない歩道橋。顔の無い人々の雑踏。あなたは大通りの真ん中で1人立ち尽くす あなた:「どうしていつも此処にいるんだろう。私は何処へ行けばいいんだろう。なんで誰も教えてくれないんだろう…私はきっと。此処に居ては行けないのに…」 0:あなたは空を舞う色とりどりの風船に気づく あなた:「…風船だ。アハハ…綺麗だな。欲しいな。1つでいいから…ダメかな 。いつもはこんな感情湧かないのに。おかしいな…」 0:あなたは風船を追いかけ始める あなた:「ねぇ。待って。いつもいつも欲しいって思ってたんだ。*風船《きみ》を欲しいと思ってたんだ。待って…待ってよ」 0:先程よりも小走りになる あなた:「…お願い。待って。1つでいい。1つでいいから…*風船《きみ》が居れば私はきっと帰れるから!だから!待って!」 0:風船は知らん顔をしてあなたから遠ざかろうとする あなた:「待って…!待ってよ!ねえ!止まって!」 0:あなたはさっきよりも早く駆け出す あなた:「お願いだよ!ソレがあれば良いんだ!*風船《きみ》だけでいい!だから…だから!」 0:あなたの顔つきは鬼の形相のようだ あなた:「待って!止まって!!」 0:そんなあなたを引き留めるモノがいた 鬼丸:「止まるのはお前だ!」 あなた:「?!」 鬼丸:「…間に合った」 あなた:「…」 0:あなたは何者かに手を掴まれそっと振り返る あなた:「!!」 鬼丸:「なんだよ」 あなた:「き、君は…なに?え…どうして」 鬼丸:「は?」 あなた:「おかしいよ。こんな事一度も」 鬼丸:「何の話だよ」 あなた:「(此処には何度も来てるのに、何度もこの大通りに立っていたのに…初めての事が起こった。この人はなんだ。目が左右に3つずつある…肌だってどこか赤いような桃色のような…誰なんだろ。どうして私を引き止めるんだろ。)」 鬼丸:「おい」 あなた:「…君は、誰なの。」 鬼丸:「そんな事よりお前!危なかったんだぞ!」 あなた:「なにが…」 鬼丸:「目の前を見ろよ!」 あなた:「…?」 0:あなたの目の前に広がる景色は断崖絶壁だった。まるで空間が無理やり遮断されたように黒々とした世界が広がっている あなた:「!!」 鬼丸:「やっとわかったか。そうだ。見ての通り断崖絶壁。あのままあの風船を追いかけていたら、お前は死んでた。」 あなた:「どうして…」 鬼丸:「お前は*誘《いざな》われてたんだよ」 あなた:「どういうこと。あの風船を欲しくなったのは今日が初めてだよ」 鬼丸:「…あの風船に魅力を感じたか?」 あなた:「…」 鬼丸:「でなけりゃ追い掛けないよな」 あなた:「でも、欲しいんだ…欲しかったんだ…!」 鬼丸:「あの風船は''誘惑''だよ。」 あなた:「誘惑?なんの」 鬼丸:「お前みたいにこの世界へ閉じ込められちまった奴らを二度と逃がさないために…あーいうやり口をするんだよ奴らは。お前、帰りたいんだろ?」 あなた:「…わからない。でも此処に居ちゃいけない気がしてるんだ。」 鬼丸:「…」 あなた:「どうしたらいいのかな。もうずっと此処に居るのに、誰も何をどうしたらいいのか教えてくれないんだ。私自身、居てはいけない事は分かってるんだけど…そんなに帰りたいワケでも無くて」 鬼丸:「でもこれ以上此処に居たらお前は消えちまう。それでいいのか?」 あなた:「嫌だ。それは嫌なんだ。君、名前は?」 鬼丸:「…俺は”鬼丸”。お前みたいに迷っちまった奴らをここから引き剥がしに来たんだ。でも困ったな…。」 あなた:「?」 鬼丸:「お前の”この世界”での滞在時間が長すぎる。本来ならこんなとこに居るべきじゃないし、お前だけの扉が用意されてたハズだが…どういうワケかその扉は消えてた。そのせいでお前は此処に閉じ込められちまったし、お前のための道も今は閉ざされちまった。」 あなた:「よくわからない…何を言ってるんだ。」 鬼丸:「1から説明してもきっとわかんねーだろ?とりあえず着いてこいよ」 あなた:「君に?出会ったばかりの君に着いていかなきゃ行けないのは…少し怖いよ」 鬼丸:「こんなヘンテコな奴らが居る場所の居心地は良くて俺は信用できないってのか?」 あなた:「…だって」 鬼丸:「言っておくが、俺たちは初対面じゃない。俺はお前を知ってる。だから安心しろ」 あなた:「そんな事言われても…私は君を知らない」 鬼丸:「いいから来い!とりあえず緊急用の扉を作ったから、その扉を使って安全な場所へ逃げるぞ。」 あなた:「逃げる?どうして」 鬼丸:「此処に居ちゃ行けない気がするんだろ?」 あなた:「…そうだった」 鬼丸:「マズイな。お前けっこーコッチに染まってるぜ?」 あなた:「そうなの?」 鬼丸:「そーだよ。今俺達が居る”この世界”は…お前みたいな存在にとっては毒なんだ。滞在時間が長ければ長いほど脳が溶かされて終いには自我も無くしちまう。そうなったら…お前はこの世界を行き来してるアイツらと同じになっちまうよ」 あなた:「あの…顔がよく見えない人達?」 鬼丸:「よく見えないんじゃない。無いんだ」 あなた:「え?顔が?」 鬼丸:「思い出せよ。初めてこの世界へ来た時、ヤツらの顔は真っ黒に見えてたハズだぜ」 あなた:「…?いつ来たのか覚えてないし、彼らの顔はずっとうっすら見えていたよ」 鬼丸:「記憶までイカレてきてるじゃねえか。いいか!とにかく今はこの世界から逃げるんだ!分かったら着いてこい!」 あなた:「でも!待ってよ!ほら…周囲を見て?こんなに綺麗な空なんだ!夕陽に照らされた高層ビルだって…窓に光が反射して物凄く綺麗だよ!それに顔の無い彼らだって皆個性的な格好をしていて面白いよ!見てて飽きないんだ!空には風船があんなに沢山飛んでて…!それにさ!よく聞いて?パレードみたいな愉快な曲が何処からかずっと流れてて…楽しいんだよここは!」 鬼丸:「いい加減にしろ!お前…死にたいのか!」 あなた:「…だって…こんな景色、見た事ないよ。すごく綺麗なんだよ…」 鬼丸:「綺麗なんかじゃねぇんだ。此処はな…お前から見れば美しいかもしれない。でも、正常なヤツの目にうつってるのは…赤黒い世界なんだよ。」 あなた:「…でも、この世界を歩いてる人達は幸せそうに笑ってるよ。聞こえないの?みんな楽しそうに笑ってるよ」 鬼丸:「いいか。よく聞け。アイツら笑ってない。断末魔みたいな声を上げてんだ。それに…夕陽が美しい?あんなの血と変わらない。ボロボロの高層ビルに枯れた地面。歩いている「顔なし」だってゾンビみたいなんだよ。わかるか?お前と俺の違いが。」 あなた:「…嘘だよ。そんな。」 鬼丸:「嘘じゃねえ。お前が欲しがってた風船は…頭なんだよ。人の頭。生首みたいなモンだ。」 あなた:「え?!」 鬼丸:「あの生首には意思がある。囁いてお前達みたいな綺麗な奴らを*誘《いざな》うんだ。これがこの世界での現実なんだよ。波長が合っちまうヤツは皆アイツらに連れてかれて二度とこの世界から逃げられなくなる。分かったか」 あなた:「そんな…」 鬼丸:「俺が用意した扉を抜ければ、そんな気持ち全部無くなる。俺の見ている景色が理解出来る。だから来い。俺はお前を裏切らねえ」 あなた:「…」 鬼丸:「信じろ。一刻を争うんだ。」 あなた:「でも」 鬼丸:「そんなに不安なら…」 0:鬼丸は懐から小さなナイフを出した 鬼丸:「コレを持ってろ」 あなた:「…そのナイフは、なに」 鬼丸:「この世界の全てのモノを消すことが出来る。勿論。俺の事もな。」 あなた:「え…」 鬼丸:「不安ならお前に渡す。扉を抜けてもお前が俺を信頼できないなら、気持ちが変わらないなら…そのナイフで俺を消せ」 あなた:「そんな…!いいよ。要らない!」 鬼丸:「持ってろ。俺の言ったことが本当だと思ったらその時に返してくれればいい」 あなた:「…」 鬼丸:「もう本当に時間が無い。行くぞ。」 0:鬼丸はあなたの手を引く あなた:「…何処にあるの。その扉は。」 鬼丸:「歩道橋の上」 あなた:「そういえばあの歩道橋。誰も近づかないんだ。どうして?」 鬼丸:「近づけないようにしてるんだ。あの歩道橋はただの歩道橋じゃない。扉を開く為に大切な役割を*担《にな》ってるんだ。普段は結界みたいなモノを張って隠してんだよ。」 あなた:「じゃあどうして私は見えるの?」 鬼丸:「お前はこの世界の住人じゃない。助けが必要な存在だろ?」 あなた:「…」 鬼丸:「歩道橋が見えてきた。」 あなた:「あ…。」 鬼丸:「どうした?」 あなた:「最初…最初にここへ来た時…歩道橋の上に何かあった気がするんだ。」 鬼丸:「思い出したか?」 あなた:「綺麗な扉…うん。あった。あったよ」 鬼丸:「どうして扉へ入らなかった?」 あなた:「…誰かに」 鬼丸:「?」 あなた:「誰かに、話しかけられた気がする。」 鬼丸:「なに?どんなヤツだ」 あなた:「…綺麗な人だった。髪が長くて…でもどこか変で」 鬼丸:「…」 0:あなたは何かを思い出したかのように興奮気味に話し始める あなた:「その人と話してたら扉は無くなってて、気がついたらその人も居なくなってて…それで!1人だった。此処で1人で…どうしたらいいかわからなくて!そうしたら風船が現れてさ。いつも欲しいなって思ってて…でも動けなかった。欲しいけど取りに行くって考えがなかったんだ。」 鬼丸:「続けてくれ」 あなた:「それで気がつくと、また歩道橋の下に居て…それの繰り返しだった気がする。誰も私を助けてくれなかったし、誰も話しかけてくれなかったし、私なんて存在しないみたいに皆通り過ぎてくんだ…でも何とも思ってなかった。これでいいとすら思ってた。なのに…今日は違った。」 鬼丸:「どう違ったんだ?」 あなた:「風船が欲しくて走ったし、鬼丸さんが来た。」 鬼丸:「なるほど…」 あなた:「話しかけてきたその人の事、わかる?」 鬼丸:「…いや、わからない。」 あなた:「そっか。」 0:気が付くと歩道橋をのぼり扉の前まで来ていた 鬼丸:「さ。着いた。」 あなた:「…」 鬼丸:「大丈夫。怖くねぇよ。ただの扉だ」 あなた:「でもこの扉…中が真っ暗だよ。怖い。」 鬼丸:「そう見えてるだけだよ。俺には光り輝いて見えてる。だから安心してくれ。」 あなた:「でも」 鬼丸:「言ったろ?俺がお前を裏切ったらそのナイフで刺せ。」 あなた:「…」 鬼丸:「切り札があれば怖くないハズだ。ほら、行くぞ。」 あなた:「あ…待って…!」 0:鬼丸はあなたの手をそっと引き扉の中へ誘う あなた:「…」 0:あなたは怖くて目を瞑っていた 鬼丸:「おい。目を開けてみろ。大丈夫だから」 あなた:「…ッ…でも」 鬼丸:「ほら。怖くない。」 あなた:「…」 0:あなたはそっと目を開ける あなた:「…!!眩しい。あったかい!アハハ!すごい。何だろうここ…好きだな。ねぇ見てよ!どこもかしこもすごく真っ白で綺麗だよ!」 鬼丸:「言ったろ?じゃあ…さっき入った扉を見てみろ。」 あなた:「…」 0:あなたはそっと先程まで居た世界を扉越しに見つめる あなた:「!!」 鬼丸:「どうだ?」 あなた:「な…なにあれ、あの場所…な、なに!怖いよ…気持ち悪いよ…まるで…地獄じゃないか!」 鬼丸:「俺の言った通りだろ?赤黒くて気持ちの悪い場所だ。美しいか?」 あなた:「こ、こわ…怖いよ。私はずっと*彼処《あそこ》に居たの?!美しいと思っていたの?あんな所に居たいと思っていたの…?どうして。」 鬼丸:「あはは!さあな!もう風船も欲しくないだろ。」 あなた:「え?風船?」 鬼丸:「忘れてんならいいかな。そのナイフ…どうする?まだ持ってるか?」 あなた:「…」 鬼丸:「持ってたって構わねぇよ。不安は不安だろうし」 あなた:「いや、返すよ。」 鬼丸:「…」 あなた:「ごめんね。疑って。ありがとう」 鬼丸:「なら遠慮なく返してもらう」 あなた:「ねぇ。次はどこへ行くの?」 鬼丸:「今の所1番安全な場所」 あなた:「?」 鬼丸:「お前の見てた偽物の夕陽なんか目じゃない場所さ。あそこは本当に綺麗なんだ。一旦「くちなし」の元へ行って肩の力をぬけ」 あなた:「くちなし?」 鬼丸:「この世界での俺の唯一の友達。喋んないけどな」 あなた:「?」 鬼丸:「でも良い奴なんだよ。きっとお前の事を安心させてくれる。」 あなた:「…」 鬼丸:「ほら…見えてきた」 0:真っ白な空間の中1箇所だけ夕陽に照らされた空間を鬼丸は指さす 鬼丸:「…ここからでも分かる。綺麗だろ?」 あなた:「…すごいや。なんだか涙が出てきそうだよ」 鬼丸:「同感だ。俺も疲れたらよくあの丘へ行くんだ」 あなた:「丘なの?」 鬼丸:「あぁ。丘の上に一つだけ家がある。それがくちなしの家なんだ。下には夕陽に照らされた海に浜辺があってな…本当に落ち着くんだ。聞こえるのは騒がしい音じゃなくて…波の音だけだし」 あなた:「…」 鬼丸:「さ。行くぞ。」 あなた:「はい…」 0:2人は光の中を抜け出し夕陽に照らされた美しい海の見える場所へ出た あなた:「…海だ。真っ赤だ。綺麗だな。」 鬼丸:「さっきの場所とは比べ物にならないだろ?」 あなた:「うん。すごく…懐かしいや」 鬼丸:「…そうだな」 0:すると二人の背後から何者かがそっと近づく気配がある あなた:「?」 鬼丸:「よ。くちなし。」 あなた:「!!」 くちなし:「(※焦りながら微笑む)」 あなた:「目が…1つしかな、ない…」 鬼丸:「俺は6つだけどな」 あなた:「張り合うところじゃないよ。それに口が包帯で覆われてる。どうして?」 鬼丸:「喋らないからな」 くちなし:「(※少し照れくさそうに微笑む)」 あなた:「あの。君がくちなしさん?」 くちなし:「(※嬉しそうに首を縦に振る)」 あなた:「…」 鬼丸:「どう見ても無害だろ?」 あなた:「みたいだね。優しそう。」 くちなし:「(※照れ笑い)」 あなた:「あの。宜しくね」 0:あなたはくちなしへ握手の意味を込めて手を差し出す。するとくちなしも応えるように握手をする くちなし:「(※照れながら頷く)」 あなた:「…鬼丸さんとは違って、君は青白い肌をしているね。水色に近いや」 くちなし:「(※照れている)」 鬼丸:「照れるところじゃないだろ。そうだくちなし。コイツの事、少し*匿《かくま》ってくれないか?」 くちなし:「?」 鬼丸:「さっき言ったろ?置き去りにされた迷子が居るって。ソレ、こいつのこと。」 くちなし:「(*納得したように口を開く)」 鬼丸:「この世界ではコイツみたいな存在はかなり珍しいから…変なヤツに目をつけられたくない。だからお前にしか頼めない。いいか?」 くちなし:「(※首を大きく縦に振る)」 鬼丸:「それとさ。俺以外にあの世界へ行けるヤツなんか居たっけ?」 くちなし:「(※大きく首を横に反る)?」 鬼丸:「だよな…俺もさ、もしかしたらって人物は浮かんでんだけどよ。」 あなた:「あの…私は此処で何をしたら良いんですか。」 鬼丸:「とりあえずはくちなしに世話になる事になる。頭下げとけよ」 あなた:「…よろしくお願いします」 くちなし:「(※満面の笑みで微笑む)」 鬼丸:「とは言っても…いつまでも隠れてるワケにも行かねえからさ。別の世界へ行ってお前だけの扉を探すしかない。」 あなた:「私だけの?歩道橋にあったような扉が他にもあるんですか?」 鬼丸:「お前が存在する限り、この世界に取り込まれない限り…扉は在り続ける。気配消えてないんだ。でも…どっかの世界にあるな。こりゃ骨が折れるぞ」 あなた:「…そうなんだ」 鬼丸:「よく聞け。この世界の連中はおかしいんだ。まともじゃない。お前のような感性を持ったヤツは存在しないに等しい。だから何処が安全でどいつが信用できるのかなんて俺にも分からない。いいか?俺が偵察しに行ってる間はお前は此処に居ること。」 あなた:「それなら私も一緒に…」 鬼丸:「だめだ。お前は此処にいろ。くちなしなら安心だ。」 くちなし:「(※勢いよく首を縦に振る)」 あなた:「でも、私にとって今のところ1番信用できるのは鬼丸さんだけだよ」 くちなし:「(※あからさまに落ち込む)」 あなた:「あ…」 鬼丸:「あのな…?くちなしの見た目は確かに怖いかもしれない。でもコイツは良い奴なんだ。この丘に夕陽が昇ってる間はコイツは無害だから安心しろって」 あなた:「え?夕陽が昇ってる間…?どういうこと」 くちなし:「(※焦りながらモジモジする)」 鬼丸:「この世界はある程度の時間が経つとリセットされるんだ。リセットが来たらどこの世界も真っ暗になってこの世界の住人達の本能が剥き出しになる。つまりは夜になったら危ないってワケだ」 あなた:「それはつまり…」 鬼丸:「俺もくちなしも安全じゃなくなる。体感的には5分程度だけどな。でもどうなるか俺たちにもわかんねえんだ。けど、安心しろ。夜が来ると分かった時点で俺もくちなしもお前に近づかない。」 あなた:「そうじゃなくて…その間私はどこにいたらいいんですか」 鬼丸:「何処にいたらいいんだろうな…」 くちなし:「(※顎に手を当て考える)」 鬼丸:「夜になっても無害なヤツ…」 くちなし:「(※悩んでいる)」 鬼丸:「ウィッチ達の元は…ダメだ。罪人は…何とも言えないな。ドクトルは論外だし…シスターは存在が過ちみたいなヤツだし」 くちなし:「(※閃いた様に身振り手振りをする)」 鬼丸:「?」 あなた:「?」 くちなし:「(※腕をブンブン振っている)」 鬼丸:「…目…が?無い…あ!ミロワールか!」 くちなし:「(※首を縦に振る)」 あなた:「ミロワール?」 鬼丸:「鏡の世界に住んでるヤツだ。確かにアイツの世界はずっと暗闇だから夜になろうがアイツには関係ないな!よし!とりあえず手始めにミロワールの元へ行くか!」 あなた:「…あのさっき、目が無いって…」 鬼丸:「無いわけじゃないんだが…視覚を奪われちまってさ。白目しか無いんだ。」 あなた:「奪われた?何に?」 鬼丸:「あ、そうだ。今のうちに説明しておく。この世界の連中は見た目も性格も基本おかしいが良いヤツらではあるんだ。だが*神獣《しんじゅう》…というか、*獣《ケモノ》と泥棒には気をつけろ。近づくな。」 くちなし:「(※必死に頷く)」 あなた:「獣と泥棒?」 鬼丸:「獣は自らを神獣と名乗っているイカレ野郎だ。禁忌を犯した罪人だって噂がある。それに好き嫌いが激しいんだ。ヤツだけは誰とも世界を共有しないし気に入ったヤツ以外の前には現れないし招かない。もし招かれたらお前は二度とこの世界から出られない。逆に嫌われたらその場で存在を消されてしまう。」 あなた:「どういうことですか」 鬼丸:「どういう訳か獣も俺と同じナイフを持ってるんだ。アイツのは槍見てぇなモンだけどよ。このナイフは…誰でも持てるモンじゃねぇんだ。世界の*均衡《きんこう》を保てるモノだけが所有を許される。それがどうしてあんなヤツが持ってるのか…」 あなた:「…」 鬼丸:「共有しないクセに人の世界にはズカズカと踏み込んでくる無礼者だ。だから気をつけろよ。なるべく1人になるな。珍しいモノを好むとも聞いてるから。それと泥棒だが…」 あなた:「?」 鬼丸:「アイツは…欲しがりだ。何でも欲しいんだ。己の目を惹くモノ、心を奪うモノは何だって奪う。ミロワールの視覚を奪ったのもソイツだ。ミロワールは美しい目を持っていたし特殊なチカラを宿した目だった。誰がどこにいるのか考えるだけで居場所が見える。あのクソッタレはその目が欲しくなってミロワールから無理やり奪った。そういヤツなんだよ」 あなた:「酷い…身勝手にも程が…」 鬼丸:「だから絶対に近づくな。奴らの区域に立ち入るなんて言語道断だ。」 あなた:「近付かないからどこが危ないかちゃんと言ってね。それと…泥棒は泥棒って名前なの?」 くちなし:「(※誤魔化すように笑う)」 鬼丸:「…ラバァって名前があるけど結局は泥棒だ。だから泥棒でいいんだよ。」 あなた:「じゃあさっき呟いてた''罪人''てのは?」 鬼丸:「…罪人は善人の代わりに罪を被ってるんだ」 あなた:「え…」 鬼丸:「善人が悪党にならなきゃいけない瞬間があるだろ?この世界もそうさ。俺達はただ存在してる訳じゃない。みんなそれぞれ役割があるんだ。だが夜が来るまでに己の役割を果たせていないと俺達は消えちまう。」 あなた:「役割ってどんな」 鬼丸:「例えばAの役割は毎日りんごをBに送り届けること。だが何かが起こってAはりんごを届けられなくなってしまった。」 くちなし:「(※にこやかに頷く)」 鬼丸:「だが夜までには時間が無い。時は進まないが今日という日の1回分のりんごを届けないと役割から外されて消されてしまう。そんなAの前にりんごを持ったCが現れる。」 あなた:「…」 鬼丸:「AはCからりんごを奪いBの元へ送り届けられて無事役割を果たした。」 あなた:「でもCはどうなるの」 鬼丸:「Cは大切なリンゴを奪われたからこの世界の裁判官に申し立てる。するとAは犯罪者だ。」 あなた:「でも強奪したんだから仕方ないんじゃ…」 鬼丸:「では、Aが人助けをしていて己の役割に間に合わなったとしよう。それでもAは犯罪者か?」 あなた:「…」 鬼丸:「怪我人を助けた。迷子を道案内してた。消えそうな友人のために何かを手伝っていたから間に合いそうになかったとしたら…どうだ?」 あなた:「そう言われると…」 鬼丸:「その為にこの罪人が居るんだ。罪人が本人に姿形を似せ化ける。そして釈放されるまで本人の代わりに牢獄で暮らすんだ。」 あなた:「でもそれだとその罪人は…」 鬼丸:「それが罪人の役割なんだ。」 くちなし:「(※頷く)」 鬼丸:「罪人は悪意のない善人だけを助ける。救う対象を間違えたら罪人が消えちまうんだ。」 あなた:「…」 鬼丸:「そして罪人に助けられたヤツらは必ず罪人にお礼をしなきゃいけない。それが何かわかるか?」 あなた:「いや…わからない」 鬼丸:「''同じ過ちを犯さない''こと。そうすれば悪いヤツらが減るだろ?罪人の存在と対価はこの世界の均衡を保つ為に必要なんだ。だから誰も冤罪だなんて言わない。罪人が罪を被ることで本人は二度と罪を犯さないからな」 あなた:「もし、二度と罪を犯さないという約束を…対価を破ったら…どうなるの」 鬼丸:「罪人が処刑人へと変わり約束を放棄したヤツをこの世から消す」 あなた:「え?消すって…鬼丸さんと同じような立場なの?罪人は」 鬼丸:「あぁ。そうだ。言ったろ?誰でも持てるワケじゃねぇって…」 あなた:「なるほど…」 鬼丸:「でも罪人は善人しか助けない。助けちゃいけないんだ。となれば根っからの悪はどうなるのか…」 くちなし:「(※わざとらしく考える)」 鬼丸:「ソイツらを消すのが俺の役割だ。」 あなた:「でも鬼丸さんはさっき迷子を助ける役割だって…」 鬼丸:「誰もンな事言ってねぇよ。それにアレは悪人を仕留めるためのオマケみたいなもんだ。俺の目…6つあるだろ?」 あなた:「…」 鬼丸:「上2つは俺から見た背後の世界を、真ん中は目の前の人を、下2つは…別の世界を見るためにあるんだ。」 あなた:「え…え?」 鬼丸:「ミロワールとは違うが俺も此処に居ながら別の世界を監視することが出来るんだよ。お前やくちなしと話してる時に俺の上下の目が変なトコ見てたらお前らと話しながら仕事してるって事。」 あなた:「え…ちょっと気持ち悪いな」 くちなし:「(※鬼丸を馬鹿にするように笑う)」 鬼丸:「殴るぞくちなし」 くちなし:「(※被害者ヅラで泣き真似をする)」 あなた:「とりあえず、自分の世界へ還るタメの扉を探す以外此処から出る方法は無いんだね」 鬼丸:「無い」 くちなし:「(※わざとらしく涙を流す)」 あなた:「同情してくれてるのかな。ありがとう。」 くちなし:「(※優しく微笑む)」 鬼丸:「安全かどうか俺が確認するまでくちなしの元を離れるなよ。」 あなた:「うん…」 鬼丸:「なんだよ。しっくり来ねぇ返事だな。」 あなた:「いや…その。鬼丸さんに任せっきりは良くないかなって」 鬼丸:「いいんだよ。お前はこの世界の住人じゃねぇんだから…わかんねぇ事のが多いだろ。なら、わかる俺が動くだけだ。」 あなた:「頼もしいな…ありがとう」 鬼丸:「さっきも言ったが、お前と同じ感性のヤツがそこら中にいると思うな。全員どこかがおかしいんだ。お前が1人でこの世界を探索したいってんなら止めねぇが責任は取れねぇよ。」 あなた:「…確かに。そうだね。」 鬼丸:「とりあえずはミロワールに会う事が目標だ。」 くちなし:「(※頷く)」 あなた:「その人は…どんな人?」 鬼丸:「泣き虫」 くちなし:「(※泣いたフリ)」 鬼丸:「ネガティブ」 くちなし:「(※ネガティブなフリ)」 あなた:「…」 鬼丸:「変なヤツ」 くちなし:「(※誤魔化すように笑う)」 鬼丸:「見た目は1番綺麗だけどな」 くちなし:「(※明るく大袈裟に頷く)」 あなた:「…なるほど」 鬼丸:「多分お前に1番近い見た目だと思うぜ。白目だけど。」 あなた:「…不安だな」 鬼丸:「どうする。もう少し休んでからにするか?それとも今すぐ行くか?」 あなた:「…」 0:あなたはくちなしを見つめる くちなし:「(※見つめ返す)」 あなた:「…見つめ返されちゃった」 くちなし:「(※何か閃いた様子)」 鬼丸:「どした?くちなし」 あなた:「?」 0:くちなしはポケットから綺麗なペンダントを出す あなた:「ペンダント…だね?凄く綺麗だね」 くちなし:「(※満面の笑みで差し出す)」 あなた:「え、え?」 鬼丸:「おいくちなし。それ、あげんのかよ」 くちなし:「(※激しく頷く)」 鬼丸:「でもそのペンダントは…お前の大切なヤツだろ。夜を超える時に必要なやつだろ?いいのかよ」 くちなし:「(※優しく頷く)」 あなた:「え!そんな大切なモノ貰えないよ!」 くちなし:「(※強引に渡す)」 あなた:「いや、で、でも…!」 くちなし:「(※睨みつける)」 あなた:「そんな睨まないでよ。普通に怖い。それに…そのペンダントが君の支えなら、貰えないよ」 0:するとくちなしがゆっくりモゴモゴと話始める くちなし:「…ぁ…ッ…」 鬼丸:「ん?くちなし?どした?」 くちなし:「ッ…ぇ…ぞ…」 鬼丸:「くちなし?!え?くちなし?!」 あなた:「え?え??!!」 くちなし:「…そ…れ''…ッ…き''…きみ…た''…た…すけ…う''ッ…」 あなた:「…」 鬼丸:「くちなしぃいぃい!!お前喋れるのか!!なあ!なあ!!!嘘だろ?!ほんとかよ!」 くちなし:「(※誤魔化すように笑う)」 あなた:「…」 0:鬼丸はくちなしの両肩を持ちブンブンと振り回す 鬼丸:「なんでじゃあ普段から喋らないんだよぉおぉぉ!!!もっと喋ってくれよ!俺友達お前しかいないんだよ?!」 くちなし:「(※ぶん回されて目が回る)」 あなた:「鬼丸さん!ストップストップ!くちなしさん目が回ってるよ!」 鬼丸:「あ…悪ぃ」 くちなし:「(※困っている)」 鬼丸:「なぁ〜くちなしィ…なんで普段から喋らないんだよ」 くちなし:「…」 0:くちなしは浜辺に字を書き始める あなた:「ん?何か砂にかきはじめた。」 くちなし:「…」 鬼丸:「ん?''ボクは…アクニン''?」 くちなし:「(※激しく頷く)」 鬼丸:「なんだ…''だから…しゃべったら…だめ''?」 あなた:「そんなことないよ」 くちなし:「(※否定するように首を振る)」 鬼丸:「お前が悪人なら俺はどーなるんだよ」 くちなし:「(※自信ありげに親指を突き出す)」 鬼丸:「俺はいい人じゃねぇの!均衡を保つ為に役割を果たしてるだけだ!」 あなた:「鬼丸さんも!いい人だよ」 鬼丸:「…」 0:くちなしはもう一度話そうと頑張る くちなし:「…も…ッ…もら…で…ぇッ…」 あなた:「くちなしさん…」 鬼丸:「お前…」 くちなし:「(※満足気に微笑む)」 あなた:「くちなしさん。このペンダント…貰うね。ありがとう。肌身離さずつけてるよ」 くちなし:「(※嬉しさのあまり首を縦に振りまくる)」 あなた:「首がもげちゃうよ」 0:くちなしがあなたの背後に回りペンダントをつける あなた:「付けてくれるの?ありがとう」 くちなし:「(※微笑みながら一生懸命つける)」 鬼丸:「世話焼きだよなお前も」 くちなし:「(※照れる)」 鬼丸:「照れるところじゃないだろうが。」 あなた:「あ。ついた。ありがとう」 くちなし:「(※さらに照れる)」 鬼丸:「まぁ、な、なんだ。とりあえずミロワールの元へ行く…けどよ。一旦この丘で休んでこうぜ?お前も色々疲れたろ。」 あなた:「そうだね…そうしてもいいかな」 くちなし:「(※頷く)」 鬼丸:「そうと決まれば、くちなしの家で茶でもしばこうぜ。」 あなた:「しばくって…」 鬼丸:「なんだよ」 あなた:「いや。なんでも」 くちなし:「(※嬉しそうに微笑む)」 鬼丸:「細かい事は中で話す。先ずは俺とくちなしが今の所無害だってことをちゃんとわかってもらわないとな」 あなた:「もうわかってるよ。」 鬼丸:「わかってねぇんだよ」 あなた:「あのさ…ずっと濁されてきたんだけど」 鬼丸:「なんだよ」 あなた:「この世界は…なに」 くちなし:「…」 0:鬼丸は悲しそうに微笑む 鬼丸:「…なんだろうな」