台本概要

 304 views 

タイトル 変わり者の黒猫
作者名 天道司
ジャンル 童話
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ご自由にお読みください

 304 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
あなた 不問 - 読み手
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:変わり者の黒猫 0: 0: 0:その黒猫は、他の猫と鳴き声が少し違っていた。 0: 0:鳴き声が少し違う。 0:黒猫が孤独になる理由としては、それだけで充分だった。 0: 0:黒猫は、他の猫たちがゴミ捨て場の残飯(ざんぱん)をあさっている時に、 0:仲間に入れてもらうために近づくと、暴力をふるわれた。 0: 0:他の猫たちから罵声(ばせい)を浴びせられ、体を爪でひっかかれ、耳を噛まれたりもした。 0:だから、他の猫たちの去った後のゴミ捨て場で、ご飯を食べるしかなかった。 0:しかし、残飯は、ほとんど残っていない。 0: 0:黒猫は、いつも空腹だった。 0: 0:他の猫たちの仲間に入れてもらいたくて、普通の猫になりたくて、 0:普通の猫と同じような鳴き声を出せるように、ずっと独りで練習していた。 0: 0:そんなある日のことだ。 0:変わり者の男が、黒猫の鳴き声を耳にし、 0:「ステキな鳴き声だね」 0:空腹で弱りきった黒猫を家に連れ帰った。 0: 0:男は、黒猫の体を優しく撫(な)でた。 0:「どうやら、僕は、君にひとめぼれしたみたいだ。僕の家族になってほしい」 0: 0:男は、本を書く仕事をしていた。 0:黒猫を家族にしてからは、本の主人公は、いつも黒猫だった。 0: 0:男は、黒猫が主人公の本を毎晩のように黒猫に読み聞かせた。 0:しかし、黒猫に人間の言葉は、理解できない。 0:ただ…、 0:『大切にされている』 0:それだけは伝わっていた。 0: 0:黒猫は、生まれて初めて大切にされる存在、必要とされる存在になり、 0:それが苦しかった。 0:黒猫は、男に何も返せない。 0:どんなに愛されても、 0:『ありがとう』の一言さえ言えない。 0:それが、とても苦しかった。 0: 0:そして、その苦しさに耐えられなくなった黒猫は、男のそばから離れていった。 0: 0:男は、黒猫を愛していたが、黒猫を追いかけなかったし、探そうともしなかった。 0: 0:その代わりに、毎日、黒猫のお皿に、ご飯を盛り付けた。 0:黒猫は、どこにもいないのに、戻ってこないのに、 0:毎日、手付かずのご飯とお皿を綺麗に片付けた。 0: 0:一方の黒猫は、男のそばを離れたあとから、 0:不思議なことに、普通の猫と同じような鳴き声が出せるようになっていた。 0:そして、普通の猫の仲間に入れてもらい、普通の猫と一緒にゴミ捨て場の残飯を食べた。 0: 0:もう、他の猫たちが黒猫をいじめることはなかった。 0: 0:黒猫は、普通の猫になれた。 0: 0:それから、長い長い年月が流れ、 0:黒猫は、普通の寿命で、もうすぐ、普通に死ぬことを悟った。 0: 0:もうすぐ普通に死ぬことを悟ってから、 0:何故だか、変わり者の男に会いたくなった。 0: 0:黒猫は、数年ぶりに男の家を訪ねた。 0:「おかえり」 0:男は、変わらず、黒猫のご飯を用意して待っていた。 0: 0:長い長い年月が流れても、黒猫のことを忘れていなかった。 0:黒猫の居場所は、まだそこにあった。 0: 0:黒猫は、もうすぐ普通の寿命で、普通に死ぬことがわかっていたのに、 0:自分が死ぬことで男が悲しむことがわかっていたのに、 0:男のそばを離れられなくなっていた。 0: 0:普通の黒猫は、変わり者の男の愛で、変わり者の黒猫になった。 0:そして、特別で、幸せな一生を終えた。 0: 0:―了―

0:変わり者の黒猫 0: 0: 0:その黒猫は、他の猫と鳴き声が少し違っていた。 0: 0:鳴き声が少し違う。 0:黒猫が孤独になる理由としては、それだけで充分だった。 0: 0:黒猫は、他の猫たちがゴミ捨て場の残飯(ざんぱん)をあさっている時に、 0:仲間に入れてもらうために近づくと、暴力をふるわれた。 0: 0:他の猫たちから罵声(ばせい)を浴びせられ、体を爪でひっかかれ、耳を噛まれたりもした。 0:だから、他の猫たちの去った後のゴミ捨て場で、ご飯を食べるしかなかった。 0:しかし、残飯は、ほとんど残っていない。 0: 0:黒猫は、いつも空腹だった。 0: 0:他の猫たちの仲間に入れてもらいたくて、普通の猫になりたくて、 0:普通の猫と同じような鳴き声を出せるように、ずっと独りで練習していた。 0: 0:そんなある日のことだ。 0:変わり者の男が、黒猫の鳴き声を耳にし、 0:「ステキな鳴き声だね」 0:空腹で弱りきった黒猫を家に連れ帰った。 0: 0:男は、黒猫の体を優しく撫(な)でた。 0:「どうやら、僕は、君にひとめぼれしたみたいだ。僕の家族になってほしい」 0: 0:男は、本を書く仕事をしていた。 0:黒猫を家族にしてからは、本の主人公は、いつも黒猫だった。 0: 0:男は、黒猫が主人公の本を毎晩のように黒猫に読み聞かせた。 0:しかし、黒猫に人間の言葉は、理解できない。 0:ただ…、 0:『大切にされている』 0:それだけは伝わっていた。 0: 0:黒猫は、生まれて初めて大切にされる存在、必要とされる存在になり、 0:それが苦しかった。 0:黒猫は、男に何も返せない。 0:どんなに愛されても、 0:『ありがとう』の一言さえ言えない。 0:それが、とても苦しかった。 0: 0:そして、その苦しさに耐えられなくなった黒猫は、男のそばから離れていった。 0: 0:男は、黒猫を愛していたが、黒猫を追いかけなかったし、探そうともしなかった。 0: 0:その代わりに、毎日、黒猫のお皿に、ご飯を盛り付けた。 0:黒猫は、どこにもいないのに、戻ってこないのに、 0:毎日、手付かずのご飯とお皿を綺麗に片付けた。 0: 0:一方の黒猫は、男のそばを離れたあとから、 0:不思議なことに、普通の猫と同じような鳴き声が出せるようになっていた。 0:そして、普通の猫の仲間に入れてもらい、普通の猫と一緒にゴミ捨て場の残飯を食べた。 0: 0:もう、他の猫たちが黒猫をいじめることはなかった。 0: 0:黒猫は、普通の猫になれた。 0: 0:それから、長い長い年月が流れ、 0:黒猫は、普通の寿命で、もうすぐ、普通に死ぬことを悟った。 0: 0:もうすぐ普通に死ぬことを悟ってから、 0:何故だか、変わり者の男に会いたくなった。 0: 0:黒猫は、数年ぶりに男の家を訪ねた。 0:「おかえり」 0:男は、変わらず、黒猫のご飯を用意して待っていた。 0: 0:長い長い年月が流れても、黒猫のことを忘れていなかった。 0:黒猫の居場所は、まだそこにあった。 0: 0:黒猫は、もうすぐ普通の寿命で、普通に死ぬことがわかっていたのに、 0:自分が死ぬことで男が悲しむことがわかっていたのに、 0:男のそばを離れられなくなっていた。 0: 0:普通の黒猫は、変わり者の男の愛で、変わり者の黒猫になった。 0:そして、特別で、幸せな一生を終えた。 0: 0:―了―