台本概要
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タイトル | 変わり者の黒猫 |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | 童話 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ご自由にお読みください
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
あなた | 不問 | - | 読み手 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:変わり者の黒猫
0:
0:
0:その黒猫は、他の猫と鳴き声が少し違っていた。
0:
0:鳴き声が少し違う。
0:黒猫が孤独になる理由としては、それだけで充分だった。
0:
0:黒猫は、他の猫たちがゴミ捨て場の残飯(ざんぱん)をあさっている時に、
0:仲間に入れてもらうために近づくと、暴力をふるわれた。
0:
0:他の猫たちから罵声(ばせい)を浴びせられ、体を爪でひっかかれ、耳を噛まれたりもした。
0:だから、他の猫たちの去った後のゴミ捨て場で、ご飯を食べるしかなかった。
0:しかし、残飯は、ほとんど残っていない。
0:
0:黒猫は、いつも空腹だった。
0:
0:他の猫たちの仲間に入れてもらいたくて、普通の猫になりたくて、
0:普通の猫と同じような鳴き声を出せるように、ずっと独りで練習していた。
0:
0:そんなある日のことだ。
0:変わり者の男が、黒猫の鳴き声を耳にし、
0:「ステキな鳴き声だね」
0:空腹で弱りきった黒猫を家に連れ帰った。
0:
0:男は、黒猫の体を優しく撫(な)でた。
0:「どうやら、僕は、君にひとめぼれしたみたいだ。僕の家族になってほしい」
0:
0:男は、本を書く仕事をしていた。
0:黒猫を家族にしてからは、本の主人公は、いつも黒猫だった。
0:
0:男は、黒猫が主人公の本を毎晩のように黒猫に読み聞かせた。
0:しかし、黒猫に人間の言葉は、理解できない。
0:ただ…、
0:『大切にされている』
0:それだけは伝わっていた。
0:
0:黒猫は、生まれて初めて大切にされる存在、必要とされる存在になり、
0:それが苦しかった。
0:黒猫は、男に何も返せない。
0:どんなに愛されても、
0:『ありがとう』の一言さえ言えない。
0:それが、とても苦しかった。
0:
0:そして、その苦しさに耐えられなくなった黒猫は、男のそばから離れていった。
0:
0:男は、黒猫を愛していたが、黒猫を追いかけなかったし、探そうともしなかった。
0:
0:その代わりに、毎日、黒猫のお皿に、ご飯を盛り付けた。
0:黒猫は、どこにもいないのに、戻ってこないのに、
0:毎日、手付かずのご飯とお皿を綺麗に片付けた。
0:
0:一方の黒猫は、男のそばを離れたあとから、
0:不思議なことに、普通の猫と同じような鳴き声が出せるようになっていた。
0:そして、普通の猫の仲間に入れてもらい、普通の猫と一緒にゴミ捨て場の残飯を食べた。
0:
0:もう、他の猫たちが黒猫をいじめることはなかった。
0:
0:黒猫は、普通の猫になれた。
0:
0:それから、長い長い年月が流れ、
0:黒猫は、普通の寿命で、もうすぐ、普通に死ぬことを悟った。
0:
0:もうすぐ普通に死ぬことを悟ってから、
0:何故だか、変わり者の男に会いたくなった。
0:
0:黒猫は、数年ぶりに男の家を訪ねた。
0:「おかえり」
0:男は、変わらず、黒猫のご飯を用意して待っていた。
0:
0:長い長い年月が流れても、黒猫のことを忘れていなかった。
0:黒猫の居場所は、まだそこにあった。
0:
0:黒猫は、もうすぐ普通の寿命で、普通に死ぬことがわかっていたのに、
0:自分が死ぬことで男が悲しむことがわかっていたのに、
0:男のそばを離れられなくなっていた。
0:
0:普通の黒猫は、変わり者の男の愛で、変わり者の黒猫になった。
0:そして、特別で、幸せな一生を終えた。
0:
0:―了―
0:変わり者の黒猫
0:
0:
0:その黒猫は、他の猫と鳴き声が少し違っていた。
0:
0:鳴き声が少し違う。
0:黒猫が孤独になる理由としては、それだけで充分だった。
0:
0:黒猫は、他の猫たちがゴミ捨て場の残飯(ざんぱん)をあさっている時に、
0:仲間に入れてもらうために近づくと、暴力をふるわれた。
0:
0:他の猫たちから罵声(ばせい)を浴びせられ、体を爪でひっかかれ、耳を噛まれたりもした。
0:だから、他の猫たちの去った後のゴミ捨て場で、ご飯を食べるしかなかった。
0:しかし、残飯は、ほとんど残っていない。
0:
0:黒猫は、いつも空腹だった。
0:
0:他の猫たちの仲間に入れてもらいたくて、普通の猫になりたくて、
0:普通の猫と同じような鳴き声を出せるように、ずっと独りで練習していた。
0:
0:そんなある日のことだ。
0:変わり者の男が、黒猫の鳴き声を耳にし、
0:「ステキな鳴き声だね」
0:空腹で弱りきった黒猫を家に連れ帰った。
0:
0:男は、黒猫の体を優しく撫(な)でた。
0:「どうやら、僕は、君にひとめぼれしたみたいだ。僕の家族になってほしい」
0:
0:男は、本を書く仕事をしていた。
0:黒猫を家族にしてからは、本の主人公は、いつも黒猫だった。
0:
0:男は、黒猫が主人公の本を毎晩のように黒猫に読み聞かせた。
0:しかし、黒猫に人間の言葉は、理解できない。
0:ただ…、
0:『大切にされている』
0:それだけは伝わっていた。
0:
0:黒猫は、生まれて初めて大切にされる存在、必要とされる存在になり、
0:それが苦しかった。
0:黒猫は、男に何も返せない。
0:どんなに愛されても、
0:『ありがとう』の一言さえ言えない。
0:それが、とても苦しかった。
0:
0:そして、その苦しさに耐えられなくなった黒猫は、男のそばから離れていった。
0:
0:男は、黒猫を愛していたが、黒猫を追いかけなかったし、探そうともしなかった。
0:
0:その代わりに、毎日、黒猫のお皿に、ご飯を盛り付けた。
0:黒猫は、どこにもいないのに、戻ってこないのに、
0:毎日、手付かずのご飯とお皿を綺麗に片付けた。
0:
0:一方の黒猫は、男のそばを離れたあとから、
0:不思議なことに、普通の猫と同じような鳴き声が出せるようになっていた。
0:そして、普通の猫の仲間に入れてもらい、普通の猫と一緒にゴミ捨て場の残飯を食べた。
0:
0:もう、他の猫たちが黒猫をいじめることはなかった。
0:
0:黒猫は、普通の猫になれた。
0:
0:それから、長い長い年月が流れ、
0:黒猫は、普通の寿命で、もうすぐ、普通に死ぬことを悟った。
0:
0:もうすぐ普通に死ぬことを悟ってから、
0:何故だか、変わり者の男に会いたくなった。
0:
0:黒猫は、数年ぶりに男の家を訪ねた。
0:「おかえり」
0:男は、変わらず、黒猫のご飯を用意して待っていた。
0:
0:長い長い年月が流れても、黒猫のことを忘れていなかった。
0:黒猫の居場所は、まだそこにあった。
0:
0:黒猫は、もうすぐ普通の寿命で、普通に死ぬことがわかっていたのに、
0:自分が死ぬことで男が悲しむことがわかっていたのに、
0:男のそばを離れられなくなっていた。
0:
0:普通の黒猫は、変わり者の男の愛で、変わり者の黒猫になった。
0:そして、特別で、幸せな一生を終えた。
0:
0:―了―