台本概要
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タイトル | かくれんぼ |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ご自由に、お読みください。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
司 | 男 | 37 | 主人公 |
澪 | 女 | 4 | ※兼ね役・黒猫 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
司:眠っている僕の耳元で、
澪:「早く見つけて」
司:女の子の声がした。
司:透明感のある優しい声。
司:目を開けると、部屋は白黒だった。
司:布団もテレビも掃除機も白黒だった。
司:体を起こし、カーテンを開けてみると、窓の外も白黒だった。
司:隣の家も電柱も空さえも、古い写真のように、白と黒の色しか成していなかった。
司:何かの病気にかかったのかも知れないと思い、スマホで調べてみようとしたが、電源が入らない。
司:寝る前に充電はしていたはずなのに、電源が入らない。
0:【間】
司:そして、もうひとつの異変に気づく。
司:扉の開閉時の音がしない。
司:足音がしない。
司:ガラスコップが割れても、何も聞こえない。
司:世界から、音という音が消えていた。
司:最後に聴いた音は、
澪:「早く見つけて」
司:という女の子の声。
司:周囲を見渡してみても、誰もいない。
司:だけど、何故か女の子を探さないといけないという使命感が僕の心を突き動かした。
0:【間】
司:外に出ると、人の気配はなく、走っている車もない。
司:雑音さえもしない。
司:僕は、白黒の世界に、たったひとりだった。
0:【間】
司:学校まで走っても、デパートの中に入っても、誰もいない。
司:動いているモノはなく、音の消えた空虚な世界。
司:だけど、不思議と居心地が良かった。
司:このままでも良いと思ってしまった。
司:その時だ。
澪:「早く見つけて」
司:目醒めた時と同じ女の子の声がした。
司:周囲を見渡すが、やっぱり誰もいない。
司:だけど、女の子の声は、確かに聴こえた。
司:だから、きっと、どこかにいるはずなんだ。
0:【間】
司:僕は、女の子を探した。
司:公園の土管の中、神社の賽銭箱の中、コンビニのカウンターの裏。
司:だけど、女の子は、どこにもいなかった。
司:途方に暮れて、地べたにあぐらをかいて座った。
司:すると、遠くから黒猫がこちらに向かって駆けてきた。
司:この空虚な世界で、初めて出会う生き物。
黒猫:「何か探しモノでもしているのかね?」
司:「女の子を探しているんです」
黒猫:「ほぉ。では、その女の子の特徴は?」
司:「姿は、見ていないので、外見の特徴は分かりません。ただ、声は、透明感のある優しい声でした」
司:「そして、『私を見つけて』と言っていました」
黒猫:「ほぉ、ならば、鍵を見つけないとだね」
司:「鍵、ですか?」
司:黒猫は、踵(きびす)を返し、尾っぽで付いてくるように合図してきたので、僕は付いてゆくことにした。
0:【間】
司:黒猫は、公園の土管のそばで立ち止まった。
黒猫:「ここは、探したのか?」
司:「探しました。土管の中まで見ました」
黒猫:「もう一度、よく見てみると良い」
司:「分かりました」
司:僕は、もう一度土管の中を見た。
司:土管の中には、人の名前が書いてあったり、漫画に出てくるヒーローの絵が描かれていたり、割り箸や空き缶やタバコの吸い殻が無造作に転がっていた。
司:「汚いですね」
黒猫:「吾輩は、美しいと思うがね」
司:「どうして、美しいと思うんですか?落書きやゴミですよ?」
黒猫:「刻まれた名前からは、誰かに対する強い想い。描かれた絵からは、そのキャラクターに対する強い憧れを読み取ることができる」
黒猫:「ゴミの山は、人間が確かにそこに存在していたという証明であり、歴史だ。それらは、すべて、物語となり、吾輩に語りかけてくる」
司:「視点を変えて物事を見たなら、世界は、先ほどまでとは違って見えてくる」
黒猫:「ほむ。そういうことじゃよ。ゴミだと思っていたモノに、物語や理由を与える。それは、面白いことだとは思わないかね?」
司:「面白いことだと思います」
黒猫:「そうじゃろ?この世界に、本当のゴミは、存在せん。ゴミになるか宝モノになるかは、受け取る側の心次第といったところじゃな」
黒猫:「そう、その心次第で、世界は、どこまでも面白いモノに変わってゆく」
司:黒猫は、そう言って踵を返し、再び尾っぽで付いてくるように合図した。
0:【間】
司:黒猫は、神社の賽銭箱のそばで立ち止まった。
黒猫:「ここは、探したのか?」
司:「探しました。賽銭箱の中まで見ました」
黒猫:「もう一度、よく見てみると良い」
司:「分かりました」
司:僕は、もう一度賽銭箱の中を見た。
司:「願い事の書いてある一万円札が気になりました」
黒猫:「ほぅ。その願い事の内容とは?」
司:「我が子が看護師の国家試験に合格しますようにと書かれていました」
黒猫:「例外は存在するが、ほとんどの親は、子供の幸せを一番に願う。子供の幸せのためなら、見えないモノの力さえ借りようとする」
司:「だけど、一万円札が、なんか、もったいない気がします」
黒猫:「何がもったいないか、何が大切か、価値観は人の数ほどある」
黒猫:「同じモノを見て、同じように『美しい』と言っても、美しいの大きさは、本当は違っている」
黒猫:「そして、それは、音楽や恋心にも同様のことがいえる」
司:「つまり、同じ音楽を聴いても、メロディに心を重ねる人もいれば、歌詞に心を重ねる人もいる」
司:「『良い曲だね』の言葉の裏にある想いの種類や大きさは、決して同じではない」
司:「そして、誰かに対する好きという気持ちの大きさも実は違っていて、誰も本当の両想いにはなれない」
司:「『好き』という言葉の裏にも様々な想いが隠されていて、何を犠牲にしても相手の幸せを願う人もいれば、肉体関係さえ持つことができればそれで良いという人もいる」
黒猫:「ほむ。そういうことじゃよ。自分の価値観が、絶対ではない。自分の価値観を他人に押し付けることで、争いが生まれる」
司:「争い、ですか…」
黒猫:「おっ!そういえば、鍵は見つかったかね?」
司:「見つかりませんでした」
黒猫:「ふっ」
司:黒猫は、踵を返し、先ほどと同じように尾っぽで付いてくるように合図した。
0:【間】
司:黒猫は、コンビニのカウンターの前で立ち止まった。
黒猫:「この裏は、探したのか?」
司:「探しました。カウンターの裏まで見ました」
黒猫:「もう一度、よく見てみると良い」
司:「分かりました」
司:僕は、もう一度カウンターの裏を見た。
司:「えっと…。箸やスプーンが、それぞれの場所に効率良く収まっていて、ビニール袋も大きさ別に場所を分けられていました」
黒猫:「コンビニに限った話しではなく、世の中は、効率良く物事がまわるように考えられている。速やかに物事が行えることが美徳だと考えられている」
司:「そうですね。学校でも、計算が速くできる人の方が、間違わない方が先生から褒められるし、足が速くて、顔が整った人の方が女子から人気があります」
黒猫:「そのような世界を、面白いと思うか?」
司:「面白くはないです。僕は、勉強が苦手だし、運動音痴だし、顔も良くない。すべてにおいて平均以下。生きていても、面白いことは、何もありません」
黒猫:「本当にそうか?」
司:「はい」
黒猫:「では、ポケットの中を見てみると良い。鍵は、きっとそこにある」
司:ポケットの中に手を入れると、名札が入っていた。
司:「星宮澪(ほしみやみお)」
司:昨日の放課後、これを拾った。
黒猫:「鍵は、見つかったかな?」
司:声のした方を見ると、そこには、もう、黒猫の姿はなかった。
0:【間】
司:星宮澪とは、クラスが違う。
司:入学以来、一度も話したことがない。
司:そもそも、授業や委員会以外で女子と話したことがない。
司:いや、それは男子も同様だ。
司:僕には、学校に友達がいない。
司:学校に通う理由が見つからない。
司:だけど、親がうるさいから、先生がめんどくさいから、仕方なく学校に通っている。
司:だけど、明日は、学校に行く理由がある。
司:この名札を、持ち主に返す。
司:返したあとは、それっきりで終わりかも知れない。
司:だけど、そこから何かが始まるかも知れない。
司:楽しい何かが始まるイメージだけで、世界は生まれ変わる。
司:きっかけは、何だっていい。
司:探していた鍵は、最初からポケットの中に入っていた。
0:
澪:「見つけてくれて、ありがとう」
司:白黒の世界に、色が広がった。
司:音のない世界に、音が広がった。
司:そして、世界は、息を吹き返した。
:
0:―了―
司:眠っている僕の耳元で、
澪:「早く見つけて」
司:女の子の声がした。
司:透明感のある優しい声。
司:目を開けると、部屋は白黒だった。
司:布団もテレビも掃除機も白黒だった。
司:体を起こし、カーテンを開けてみると、窓の外も白黒だった。
司:隣の家も電柱も空さえも、古い写真のように、白と黒の色しか成していなかった。
司:何かの病気にかかったのかも知れないと思い、スマホで調べてみようとしたが、電源が入らない。
司:寝る前に充電はしていたはずなのに、電源が入らない。
0:【間】
司:そして、もうひとつの異変に気づく。
司:扉の開閉時の音がしない。
司:足音がしない。
司:ガラスコップが割れても、何も聞こえない。
司:世界から、音という音が消えていた。
司:最後に聴いた音は、
澪:「早く見つけて」
司:という女の子の声。
司:周囲を見渡してみても、誰もいない。
司:だけど、何故か女の子を探さないといけないという使命感が僕の心を突き動かした。
0:【間】
司:外に出ると、人の気配はなく、走っている車もない。
司:雑音さえもしない。
司:僕は、白黒の世界に、たったひとりだった。
0:【間】
司:学校まで走っても、デパートの中に入っても、誰もいない。
司:動いているモノはなく、音の消えた空虚な世界。
司:だけど、不思議と居心地が良かった。
司:このままでも良いと思ってしまった。
司:その時だ。
澪:「早く見つけて」
司:目醒めた時と同じ女の子の声がした。
司:周囲を見渡すが、やっぱり誰もいない。
司:だけど、女の子の声は、確かに聴こえた。
司:だから、きっと、どこかにいるはずなんだ。
0:【間】
司:僕は、女の子を探した。
司:公園の土管の中、神社の賽銭箱の中、コンビニのカウンターの裏。
司:だけど、女の子は、どこにもいなかった。
司:途方に暮れて、地べたにあぐらをかいて座った。
司:すると、遠くから黒猫がこちらに向かって駆けてきた。
司:この空虚な世界で、初めて出会う生き物。
黒猫:「何か探しモノでもしているのかね?」
司:「女の子を探しているんです」
黒猫:「ほぉ。では、その女の子の特徴は?」
司:「姿は、見ていないので、外見の特徴は分かりません。ただ、声は、透明感のある優しい声でした」
司:「そして、『私を見つけて』と言っていました」
黒猫:「ほぉ、ならば、鍵を見つけないとだね」
司:「鍵、ですか?」
司:黒猫は、踵(きびす)を返し、尾っぽで付いてくるように合図してきたので、僕は付いてゆくことにした。
0:【間】
司:黒猫は、公園の土管のそばで立ち止まった。
黒猫:「ここは、探したのか?」
司:「探しました。土管の中まで見ました」
黒猫:「もう一度、よく見てみると良い」
司:「分かりました」
司:僕は、もう一度土管の中を見た。
司:土管の中には、人の名前が書いてあったり、漫画に出てくるヒーローの絵が描かれていたり、割り箸や空き缶やタバコの吸い殻が無造作に転がっていた。
司:「汚いですね」
黒猫:「吾輩は、美しいと思うがね」
司:「どうして、美しいと思うんですか?落書きやゴミですよ?」
黒猫:「刻まれた名前からは、誰かに対する強い想い。描かれた絵からは、そのキャラクターに対する強い憧れを読み取ることができる」
黒猫:「ゴミの山は、人間が確かにそこに存在していたという証明であり、歴史だ。それらは、すべて、物語となり、吾輩に語りかけてくる」
司:「視点を変えて物事を見たなら、世界は、先ほどまでとは違って見えてくる」
黒猫:「ほむ。そういうことじゃよ。ゴミだと思っていたモノに、物語や理由を与える。それは、面白いことだとは思わないかね?」
司:「面白いことだと思います」
黒猫:「そうじゃろ?この世界に、本当のゴミは、存在せん。ゴミになるか宝モノになるかは、受け取る側の心次第といったところじゃな」
黒猫:「そう、その心次第で、世界は、どこまでも面白いモノに変わってゆく」
司:黒猫は、そう言って踵を返し、再び尾っぽで付いてくるように合図した。
0:【間】
司:黒猫は、神社の賽銭箱のそばで立ち止まった。
黒猫:「ここは、探したのか?」
司:「探しました。賽銭箱の中まで見ました」
黒猫:「もう一度、よく見てみると良い」
司:「分かりました」
司:僕は、もう一度賽銭箱の中を見た。
司:「願い事の書いてある一万円札が気になりました」
黒猫:「ほぅ。その願い事の内容とは?」
司:「我が子が看護師の国家試験に合格しますようにと書かれていました」
黒猫:「例外は存在するが、ほとんどの親は、子供の幸せを一番に願う。子供の幸せのためなら、見えないモノの力さえ借りようとする」
司:「だけど、一万円札が、なんか、もったいない気がします」
黒猫:「何がもったいないか、何が大切か、価値観は人の数ほどある」
黒猫:「同じモノを見て、同じように『美しい』と言っても、美しいの大きさは、本当は違っている」
黒猫:「そして、それは、音楽や恋心にも同様のことがいえる」
司:「つまり、同じ音楽を聴いても、メロディに心を重ねる人もいれば、歌詞に心を重ねる人もいる」
司:「『良い曲だね』の言葉の裏にある想いの種類や大きさは、決して同じではない」
司:「そして、誰かに対する好きという気持ちの大きさも実は違っていて、誰も本当の両想いにはなれない」
司:「『好き』という言葉の裏にも様々な想いが隠されていて、何を犠牲にしても相手の幸せを願う人もいれば、肉体関係さえ持つことができればそれで良いという人もいる」
黒猫:「ほむ。そういうことじゃよ。自分の価値観が、絶対ではない。自分の価値観を他人に押し付けることで、争いが生まれる」
司:「争い、ですか…」
黒猫:「おっ!そういえば、鍵は見つかったかね?」
司:「見つかりませんでした」
黒猫:「ふっ」
司:黒猫は、踵を返し、先ほどと同じように尾っぽで付いてくるように合図した。
0:【間】
司:黒猫は、コンビニのカウンターの前で立ち止まった。
黒猫:「この裏は、探したのか?」
司:「探しました。カウンターの裏まで見ました」
黒猫:「もう一度、よく見てみると良い」
司:「分かりました」
司:僕は、もう一度カウンターの裏を見た。
司:「えっと…。箸やスプーンが、それぞれの場所に効率良く収まっていて、ビニール袋も大きさ別に場所を分けられていました」
黒猫:「コンビニに限った話しではなく、世の中は、効率良く物事がまわるように考えられている。速やかに物事が行えることが美徳だと考えられている」
司:「そうですね。学校でも、計算が速くできる人の方が、間違わない方が先生から褒められるし、足が速くて、顔が整った人の方が女子から人気があります」
黒猫:「そのような世界を、面白いと思うか?」
司:「面白くはないです。僕は、勉強が苦手だし、運動音痴だし、顔も良くない。すべてにおいて平均以下。生きていても、面白いことは、何もありません」
黒猫:「本当にそうか?」
司:「はい」
黒猫:「では、ポケットの中を見てみると良い。鍵は、きっとそこにある」
司:ポケットの中に手を入れると、名札が入っていた。
司:「星宮澪(ほしみやみお)」
司:昨日の放課後、これを拾った。
黒猫:「鍵は、見つかったかな?」
司:声のした方を見ると、そこには、もう、黒猫の姿はなかった。
0:【間】
司:星宮澪とは、クラスが違う。
司:入学以来、一度も話したことがない。
司:そもそも、授業や委員会以外で女子と話したことがない。
司:いや、それは男子も同様だ。
司:僕には、学校に友達がいない。
司:学校に通う理由が見つからない。
司:だけど、親がうるさいから、先生がめんどくさいから、仕方なく学校に通っている。
司:だけど、明日は、学校に行く理由がある。
司:この名札を、持ち主に返す。
司:返したあとは、それっきりで終わりかも知れない。
司:だけど、そこから何かが始まるかも知れない。
司:楽しい何かが始まるイメージだけで、世界は生まれ変わる。
司:きっかけは、何だっていい。
司:探していた鍵は、最初からポケットの中に入っていた。
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澪:「見つけてくれて、ありがとう」
司:白黒の世界に、色が広がった。
司:音のない世界に、音が広がった。
司:そして、世界は、息を吹き返した。
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