台本概要
1098 views
タイトル | ドロワーズは今日も笑う |
---|---|
作者名 | うたう (@utaunandayo) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男1、女3) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
人形達は今日も笑う。 報われぬとしても。 1098 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
吸血鬼 | 男 | 34 | 真祖の吸血鬼。 人形遣い。 |
眼鏡メイド | 女 | 47 | メイド。丸眼鏡。 自称メイド長。クラシックメイド服 |
褐色メイド | 女 | 52 | メイド。家事全般得意。ツッコミ。フレンチメイド服 |
兎耳メイド | 女 | 44 | 新人メイド。 割りと確信を抉る。和風メイド。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:
0:ドロワーズは今日も笑う
:
:
吸血鬼:【型】を作った。
:
0:とある人里離れた場所にある館ー
眼鏡メイド:えー。では今日から新しく仕事に入る貴女に、この館での働き方を教えます。よろしいですね?
兎耳メイド:はぁーい。よろしくおねがいしますぅ。
褐色メイド:なんかまたのんびりした奴が来たな。
眼鏡メイド:よろしい。わたくしの事は「メイド長」とお呼びなさい。
褐色メイド:別に呼ばなくてもいいからな。こいつが勝手に言い始めた事だし、長という割には家事仕事はてんでダメだから。
兎耳メイド:そうなんですかぁ?
眼鏡メイド:わたくしは上の者として皆の仕事を監視し管理せねばならないのです。忙しいのです。
褐色メイド:上だというならもうちょっとしっかりして欲しいものなんだけどな、週に1度は館の調度品壊してるじゃないか。
兎耳メイド:メイド長はドジっ子さんなんですねぇ。
眼鏡メイド:シャラップ!!
褐色メイド:あたしの事はまぁ、先輩とでも呼んでくれ。よろしくな後輩。
兎耳メイド:はぁーい、せんぱい。
褐色メイド:…ところで、さっきから気になってたんだけどさ、その、それ、なんなんだ?頭の、ウサ耳?
兎耳メイド:あぁ、これですかぁ?これはぁこちらにくる前、メイドに関する資料を読んでたらぁ、メイドに動物の耳を付けると主人は喜ぶというのをみかけたのでぇ…
褐色メイド:どんな資料だよ…それでウサ耳つけたのか?
兎耳メイド:はいぃ!
眼鏡メイド:素晴らしい!!
眼鏡メイド:主人が喜ぶことを考え、率先して実践するとはなんという忠誠心!新人、貴女なかなかやりますね。
兎耳メイド:えへへぇ。
眼鏡メイド:しかし獣の耳ですか…わたくし達も付けます?
褐色メイド:付けねーよ。
兎耳メイド:猫と犬ならありますよぉ?
褐色メイド:なんであんだよ!?付けねーよ!
:
吸血鬼:「かしましい」とはまさにこの事だな。
:
0:(三人ともそれぞれ一斉に)
眼鏡メイド:ご主人様、おはようございます。
褐色メイド:やっと起きたか旦那様。
兎耳メイド:お寝坊さんなんですねぇ、あるじさまぁー。
吸血鬼:…いっぺんに喋るな。ただでさえ見分けがつかんのだ、余計にわからなくなるだろう。
褐色メイド:もう夕方ですよ、もう少し早寝早起きしてみては?
吸血鬼:【吸血鬼】にとっては夕方は早朝だ、充分に早起なんだぞ。
眼鏡メイド:アーリーとはいきませんが紅茶は飲まれますか?【橋渡し】経由で良い茶葉が手に入りましたので。
吸血鬼:ほう、では頼む。
眼鏡メイド:すぐに準備を。ほら早く準備なさい。
褐色メイド:…はいはい。お前が入れたらティーカップ割っちまうからな。
兎耳メイド:割っちゃうんですかぁ?
眼鏡メイド:違います!わたくしは新人教育が残っているで忙しいだけなのです!それに毎回割っている訳ではありません、大体3回に一回くらいです!
兎耳メイド:割っちゃうんですねぇ。
吸血鬼:あー、ところで先程から気になっていたのだが、その、それはなんだ?何故兎の耳を模したものを付けている?
褐色メイド:やっぱりそこ気になるよな…。
兎耳メイド:あるじさま、これどうですかぁ?
吸血鬼:ん?まぁ似合うとは思うが…
眼鏡メイド:ご主人様がお褒めになった!?やはり私達も付けましょう!!
褐色メイド:だから付けねーよ!でも旦那様そういう趣味が…?
吸血鬼:んん?
眼鏡メイド:犬耳と猫耳ならどちらが好みですか?
褐色メイド:いや、旦那様の事だからもっとマニアックな…
兎耳メイド:興奮しますかぁ?ドキムネですかぁ?
吸血鬼:物凄くあらぬ誤解を受けている気がする!頼むから説明をしてくれ!
:
:
:
0:館内の一室。吸血鬼と褐色のメイドの二人。
0:メイドの入れた紅茶を飲み、一息ついていた。
吸血鬼:…成る程、書斎にあった資料を読んで参考にしたと。
褐色メイド:いやぁ、てっきり旦那様の趣味かと…
吸血鬼:あの辺りの俗世の書物は以前【花束】(ブーケ)がいた時に任せて揃えさせたものだからな。
褐色メイド:あのお方が。それなら納得ですね。
吸血鬼:【我々】の中では珍しく、現代の人間の文化にも馴染んでいるからな。全く変な物まで集めてきて、俺の品位が疑われてしまったではないか。
褐色メイド:え?
吸血鬼:ん?
褐色メイド:あー…はいそう、ですね。
吸血鬼:…なんだその反応は。
褐色メイド:いえ。別に。…お?
0:扉が開き、別行動をしていた二人が戻ってきた。
眼鏡メイド:…以上がこの館の大体の構造になります。しっかりと頭に叩き込んでおきなさい。忘れそうならメモを取る!
兎耳メイド:わかりましたぁ。メモメモっとぉ。
褐色メイド:この館、無駄に広いからな。
吸血鬼:無駄とはなんだ。
褐色メイド:というかその耳まだ付けてるのか?
兎耳メイド:えへへぇ、可愛くて気に入っちゃいましたぁ。あるじさまぁ、付けたままでもいいですかぁ?
吸血鬼:好きにしろ。
吸血鬼:……でもそうか。お前もそうなのか。…やはり違うんだな。
兎耳メイド:?
眼鏡メイド:………。
褐色メイド:………。
吸血鬼:いや、なんでもない。
眼鏡メイド:…おっほん!ところで新人、わたくし達の仕事内容は理解してますか?
兎耳メイド:えーとぉ、あるじさまのお世話ですかぁ?
眼鏡メイド:そうです。真祖にして麗しくも貴き(たっとき)我らが創造主。身を粉にして主(あるじ)に仕えるのがわたくし達の使命なのです!
褐色メイド:といっても普段やることは普通のメイドと変わらないけどな。
兎耳メイド:ふんふん、メモメモぉ。
眼鏡メイド:ですがわたくし達にはもうひとつ大事な「御勤め」があります。
兎耳メイド:おつとめぇ?
眼鏡メイド:ええ、大事な大事なご奉仕です。深き夜の狭間、ご主人様と共に過ごす甘美な一時。刺激的で荒々しくも身を焦がす悦びを与えられる、とても素敵な時間ですよ。ふふ。
吸血鬼:その言い方は語弊があるぞ。まるで俺がお前達を使って夜な夜な良からぬ事をしているみたいじゃないか。
褐色メイド:まぁ、あながち間違いでもないんだよなぁ(小声)
吸血鬼:聞こえてるぞ。
褐色メイド:おっと失礼。でもあれですよ、旦那様。真祖でありなが稀代の【人形師】(ドールマスター)でもあるけど、作る「作品」は全て決まった女性型のみ。それに自我とメイド服まで着せて侍らせてる。さらに夜にはあんなことを…傍から見たらその、変態的な?
眼鏡メイド:一部の人間達はある物事を極める事を変態と称して讃えると聞きました。さすがご主人様!変態ですね!
兎耳メイド:なるほど、あるじさまは変態さんっと…メモメモぉ。
吸血鬼:断じて違う。メモを取るな。
0:ジリリリリリー
0:突如室内に電話のベルの音が鳴り響く。
0:机には先程まで無かったはずのアンティーク調の電話機が置かれていた。
吸血鬼:噂をすればなんとやらか。(電話をとる)…俺だ。
兎耳メイド:あのぉ、あれは一体なんですかぁ?
褐色メイド:あー、そうだな、仕事仲間?いや違うな、利害の一致故の協力関係?まぁ、そんな所からの連絡だよ。
眼鏡メイド:丁度良い機会です。新人にもしっかりと働いて貰いましょう。
吸血鬼:…ああ、分かった。では。(電話を切る)…ふん、全く人…いや吸血鬼使いの荒いやつだ、まったく。すぐに出る。準備をしておけ。
褐色メイド:かしこまりました。
眼鏡メイド:さぁ新人、すぐに支度を。言ったでしょう?とても大事な御勤めがあると。
兎耳メイド:一体なにをするんですかぁ?
眼鏡メイド:それはついてからのお楽しみ。心配せずとも大丈夫ですよ。きっとすぐに慣れますから。ふふふ。
吸血鬼:さあ、いくぞ。【人形達】(ドロワーズ)よ。
:
:
吸血鬼:【型】を作った。
吸血鬼:君と同じ【型】を作った。
吸血鬼:髪も目も腕も足も何もかも同じ【型】だ。
吸血鬼:それに君と同じ【材料】をはめて君の【形】に創った。
:
:
0:人々が寝静まった真夜中。とある町外れの廃墟でいくつもの断末魔が響くー
0:まだ肉塊になっていない最後の人影がいま終わりを迎えようとしていた。
褐色メイド:おっと、逃げんなよっと!
0:褐色のメイドは複数のナイフを投げ、逃げようとしていた人影に投擲する。そしてそれは全て命中し、人影は呻き声を上げながら地に伏した。
褐色メイド:ふぅ、全く活きがいいのも考えものだな。しかしこれで全部かねぇ?よくもまぁこれだけの【成り損ない】を作ったもんだ。
眼鏡メイド:そちらは終わりましたか?
褐色メイド:ああ、そっちは…って、いうまでもないか。
眼鏡メイド:ふふ。
0:手には血に濡れた戦鎚が握られていた。
褐色メイド:後輩はどうした?
眼鏡メイド:向こうで少人数相手させましたけどまぁ、恐らくは大丈夫でしょう。仮にもご主人様に創られた存在である我々があんな出来損ないに劣るわけがありません。
褐色メイド:まぁ一応様子は見に行ってやるか。先輩だしな。
眼鏡メイド:そうですね。でもその前に…
褐色メイド:ん?
0:眼鏡をかけたメイドは褐色に向かって戦鎚を振り上げ、そしてー骨が砕け、血肉が飛び散る音がした。
眼鏡メイド:止めはしっかりと。いつも言っているでしょう?
0:先程倒したはずの【成り損ない】が褐色のすぐ後ろで頭を潰されていた。
褐色メイド:…サンキュ、しかし相変わらず「壊す」事に関しては手慣れてるな。
眼鏡メイド:嫌味にしか聞こえませんよ。
褐色メイド:褒めてるって。
兎耳メイド:せーんぱぁぁぁいぃ!終わりましたぁ!
褐色メイド:お、無事だったか。
眼鏡メイド:ちゃんと掃除は出来ましたか?
兎耳メイド:はい!風通しよくしてあげました。バァン!
褐色メイド:武器は銃にしたのか。しかもマスケット。
兎耳メイド:戦うメイドといえば銃らしいと資料に書いてあったのでぇ。館にはこれしかなくてぇ。武器をスカートの中に隠すと浪漫?らしいですぅ。
眼鏡メイド:そうなのですか?わたくしのは柄が長くて無理ですね。
褐色メイド:だからどんな資料だよそれ…。
兎耳メイド:そういえばぁ、あるじさまはぁどこにぃ?
眼鏡メイド:大元…こいつらの主人の所でしょう。
褐色メイド:今回は「当たり」だといいがな。
兎耳メイド:当たりぃ?
眼鏡メイド:さぁ、参りましょう。我等が主の元へ。
:
0:廃墟の最奥。開けた部屋には血飛沫で彩られ、崩れた天井から射す月の光で照らされた吸血鬼がいた。
兎耳メイド:あ、あるじさ…うぷ(口を塞がれる)
褐色メイド:ちょい待った。
眼鏡メイド:ふふ、ご主人様をよーく見てご覧なさい?
兎耳メイド:ふぁふ??
0:吸血鬼は自ら仕留めた肉塊を丹念に調べ細部を見つめている。やがて一部の塊に目を留めた。
吸血鬼:…ははっ!これはいい!期待はしていなかったが、これはなかなかにいい【素材】ではないか!これでまた一つ、また一歩彼女に…ふふ、あはははっ!
兎耳メイド:……。
眼鏡メイド:どうですか?あのご主人様を見てどう思いましたか?
兎耳メイド:ーっ、なん、でしょうぉ?こう、うまく言えないんですがぁ、すごく、すごぉくぅ…
褐色メイド:……凄く?
兎耳メイド:どきどきしますぅ!あんなに喜んでるあるじさまを見てるとなんだかほわほわしてぇ、幸せなきぶんですぅ!
眼鏡メイド:そうでしょう。そうでしょう!ご主人様の幸せはわたくし達の幸せ。創られたその瞬間からわたくし達はあの方を【愛する】ように出来ているのですから。
褐色メイド:あたし達は旦那様の【愛しき君】の複製体。いつか至る為の通過点。試作品にすぎない。
兎耳メイド:…あぁ、だから私達みーんな「同じ顔」だったんですねぇ。不思議だったんですぅ。
褐色メイド:そう、試作品であり失敗作のあたし達は愛されることはない。道具と同じ、それでもー
眼鏡メイド:あの方が愛おしくて堪らないのです。
兎耳メイド:愛、この気持ちが、愛…。
褐色メイド:あの方の喪ったものは大きい、決してあたし達では埋めきれない。それでも支え使え、愛慕うんだ。廃棄されるその時まで。どうだ?最高だろ?
兎耳メイド:はいっ!とってもぉ!
眼鏡メイド:ふふ…。
吸血鬼:おい、【人形達】これを運ぶ。解体しておけ。
眼鏡メイド:かしこまりました。
兎耳メイド:はぁい!えへへへぇ。
吸血鬼:なんだへらへらと笑って。
褐色メイド:旦那様のお役にたてるのが嬉しいんですよ。
吸血鬼:そういうものか?
吸血鬼:…しかしどれもこれも「違う」お前達だがその笑顔だけは彼女そのものなのだな…。(一瞬微笑む)
兎耳メイド:ーっ!
吸血鬼:今度は真っ赤になったぞ?
眼鏡メイド:ふふ、ご主人様のお役にたてて嬉しいのですよ。
吸血鬼:そういうものか?まぁいい。しかし使えそうなの部位が些か少ないか。
眼鏡メイド:最近フランス校外で同胞と思われる事件があったそうですが、なんならそちらにも足を向けますか?
吸血鬼:いや、止めておく。その近辺はアレのテリトリーだ。下手に手を出してみろ、戦いになりかねない。それに【教界】の連中に目を付けられるのも厄介だ。
褐色メイド:旦那様戦闘はからっきしですしね。
眼鏡メイド:インテリ派ですものね。
兎耳メイド:ボコボコになっちゃいますぅ?
吸血鬼:お前ら…っ。ともかく帰宅後すぐに作業に取り掛かる。手伝え【人形達】よ。
0:三人それぞれにー
褐色メイド:はい。
眼鏡メイド:はい!
兎耳メイド:はぁい!
:
:
:
吸血鬼:型を作った。
吸血鬼:君と同じ【型】を作った。
吸血鬼:髪も目も腕も足も何もかも同じ【型】だ。
吸血鬼:それに君と同じ【材料】をはめて君の【形】に創った。
吸血鬼:それは君そのものの筈、なのに。
吸血鬼:「何か」が違う。
吸血鬼:「何か」が足りない。
吸血鬼:出来上がった形は一緒なのに同じではないのだ。
吸血鬼:髪も目も腕も足も何もかもが同じで違うんだ。
吸血鬼:「何か」が欠けている。
吸血鬼:わからない。
吸血鬼:わからない。
吸血鬼:その「何か」は俺にはわからない。
吸血鬼:諦めるべきなのかもしれない。
吸血鬼:だが
吸血鬼:例えそうだとしても
0:館の地下深くの工房には硝子の棺に入った【型】が置いてある。吸血鬼はそっと【型】を優しく撫でー
:
吸血鬼:ただ、もう一度君に笑って欲しいんだ。
:
:
:
眼鏡メイド:真祖にして私達の創造主。
褐色メイド:尊く、慈悲深く。
兎耳メイド:そして哀しみを背負うお方。
眼鏡メイド:仕えましょう、支えましょう!
褐色メイド:私達人形。貴方の意のままに。
兎耳メイド:例え果てが破滅だとしても。
眼鏡メイド:この気持ちが、作られたものでも。
褐色メイド:この気持ちが、偽物だとしても。
兎耳メイド:この気持ちが、本物なのです。
眼鏡メイド:愛しています。
褐色メイド:愛しています。
兎耳メイド:愛しています。
眼鏡メイド:私達は今日も貴方のために姿勢を正し。
褐色メイド:私達は今日も貴方のために身嗜みを整え。
:
兎耳メイド:私達は今日も貴方のために笑うのです。
:
:
:
0:了
:
0:ドロワーズは今日も笑う
:
:
吸血鬼:【型】を作った。
:
0:とある人里離れた場所にある館ー
眼鏡メイド:えー。では今日から新しく仕事に入る貴女に、この館での働き方を教えます。よろしいですね?
兎耳メイド:はぁーい。よろしくおねがいしますぅ。
褐色メイド:なんかまたのんびりした奴が来たな。
眼鏡メイド:よろしい。わたくしの事は「メイド長」とお呼びなさい。
褐色メイド:別に呼ばなくてもいいからな。こいつが勝手に言い始めた事だし、長という割には家事仕事はてんでダメだから。
兎耳メイド:そうなんですかぁ?
眼鏡メイド:わたくしは上の者として皆の仕事を監視し管理せねばならないのです。忙しいのです。
褐色メイド:上だというならもうちょっとしっかりして欲しいものなんだけどな、週に1度は館の調度品壊してるじゃないか。
兎耳メイド:メイド長はドジっ子さんなんですねぇ。
眼鏡メイド:シャラップ!!
褐色メイド:あたしの事はまぁ、先輩とでも呼んでくれ。よろしくな後輩。
兎耳メイド:はぁーい、せんぱい。
褐色メイド:…ところで、さっきから気になってたんだけどさ、その、それ、なんなんだ?頭の、ウサ耳?
兎耳メイド:あぁ、これですかぁ?これはぁこちらにくる前、メイドに関する資料を読んでたらぁ、メイドに動物の耳を付けると主人は喜ぶというのをみかけたのでぇ…
褐色メイド:どんな資料だよ…それでウサ耳つけたのか?
兎耳メイド:はいぃ!
眼鏡メイド:素晴らしい!!
眼鏡メイド:主人が喜ぶことを考え、率先して実践するとはなんという忠誠心!新人、貴女なかなかやりますね。
兎耳メイド:えへへぇ。
眼鏡メイド:しかし獣の耳ですか…わたくし達も付けます?
褐色メイド:付けねーよ。
兎耳メイド:猫と犬ならありますよぉ?
褐色メイド:なんであんだよ!?付けねーよ!
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吸血鬼:「かしましい」とはまさにこの事だな。
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0:(三人ともそれぞれ一斉に)
眼鏡メイド:ご主人様、おはようございます。
褐色メイド:やっと起きたか旦那様。
兎耳メイド:お寝坊さんなんですねぇ、あるじさまぁー。
吸血鬼:…いっぺんに喋るな。ただでさえ見分けがつかんのだ、余計にわからなくなるだろう。
褐色メイド:もう夕方ですよ、もう少し早寝早起きしてみては?
吸血鬼:【吸血鬼】にとっては夕方は早朝だ、充分に早起なんだぞ。
眼鏡メイド:アーリーとはいきませんが紅茶は飲まれますか?【橋渡し】経由で良い茶葉が手に入りましたので。
吸血鬼:ほう、では頼む。
眼鏡メイド:すぐに準備を。ほら早く準備なさい。
褐色メイド:…はいはい。お前が入れたらティーカップ割っちまうからな。
兎耳メイド:割っちゃうんですかぁ?
眼鏡メイド:違います!わたくしは新人教育が残っているで忙しいだけなのです!それに毎回割っている訳ではありません、大体3回に一回くらいです!
兎耳メイド:割っちゃうんですねぇ。
吸血鬼:あー、ところで先程から気になっていたのだが、その、それはなんだ?何故兎の耳を模したものを付けている?
褐色メイド:やっぱりそこ気になるよな…。
兎耳メイド:あるじさま、これどうですかぁ?
吸血鬼:ん?まぁ似合うとは思うが…
眼鏡メイド:ご主人様がお褒めになった!?やはり私達も付けましょう!!
褐色メイド:だから付けねーよ!でも旦那様そういう趣味が…?
吸血鬼:んん?
眼鏡メイド:犬耳と猫耳ならどちらが好みですか?
褐色メイド:いや、旦那様の事だからもっとマニアックな…
兎耳メイド:興奮しますかぁ?ドキムネですかぁ?
吸血鬼:物凄くあらぬ誤解を受けている気がする!頼むから説明をしてくれ!
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0:館内の一室。吸血鬼と褐色のメイドの二人。
0:メイドの入れた紅茶を飲み、一息ついていた。
吸血鬼:…成る程、書斎にあった資料を読んで参考にしたと。
褐色メイド:いやぁ、てっきり旦那様の趣味かと…
吸血鬼:あの辺りの俗世の書物は以前【花束】(ブーケ)がいた時に任せて揃えさせたものだからな。
褐色メイド:あのお方が。それなら納得ですね。
吸血鬼:【我々】の中では珍しく、現代の人間の文化にも馴染んでいるからな。全く変な物まで集めてきて、俺の品位が疑われてしまったではないか。
褐色メイド:え?
吸血鬼:ん?
褐色メイド:あー…はいそう、ですね。
吸血鬼:…なんだその反応は。
褐色メイド:いえ。別に。…お?
0:扉が開き、別行動をしていた二人が戻ってきた。
眼鏡メイド:…以上がこの館の大体の構造になります。しっかりと頭に叩き込んでおきなさい。忘れそうならメモを取る!
兎耳メイド:わかりましたぁ。メモメモっとぉ。
褐色メイド:この館、無駄に広いからな。
吸血鬼:無駄とはなんだ。
褐色メイド:というかその耳まだ付けてるのか?
兎耳メイド:えへへぇ、可愛くて気に入っちゃいましたぁ。あるじさまぁ、付けたままでもいいですかぁ?
吸血鬼:好きにしろ。
吸血鬼:……でもそうか。お前もそうなのか。…やはり違うんだな。
兎耳メイド:?
眼鏡メイド:………。
褐色メイド:………。
吸血鬼:いや、なんでもない。
眼鏡メイド:…おっほん!ところで新人、わたくし達の仕事内容は理解してますか?
兎耳メイド:えーとぉ、あるじさまのお世話ですかぁ?
眼鏡メイド:そうです。真祖にして麗しくも貴き(たっとき)我らが創造主。身を粉にして主(あるじ)に仕えるのがわたくし達の使命なのです!
褐色メイド:といっても普段やることは普通のメイドと変わらないけどな。
兎耳メイド:ふんふん、メモメモぉ。
眼鏡メイド:ですがわたくし達にはもうひとつ大事な「御勤め」があります。
兎耳メイド:おつとめぇ?
眼鏡メイド:ええ、大事な大事なご奉仕です。深き夜の狭間、ご主人様と共に過ごす甘美な一時。刺激的で荒々しくも身を焦がす悦びを与えられる、とても素敵な時間ですよ。ふふ。
吸血鬼:その言い方は語弊があるぞ。まるで俺がお前達を使って夜な夜な良からぬ事をしているみたいじゃないか。
褐色メイド:まぁ、あながち間違いでもないんだよなぁ(小声)
吸血鬼:聞こえてるぞ。
褐色メイド:おっと失礼。でもあれですよ、旦那様。真祖でありなが稀代の【人形師】(ドールマスター)でもあるけど、作る「作品」は全て決まった女性型のみ。それに自我とメイド服まで着せて侍らせてる。さらに夜にはあんなことを…傍から見たらその、変態的な?
眼鏡メイド:一部の人間達はある物事を極める事を変態と称して讃えると聞きました。さすがご主人様!変態ですね!
兎耳メイド:なるほど、あるじさまは変態さんっと…メモメモぉ。
吸血鬼:断じて違う。メモを取るな。
0:ジリリリリリー
0:突如室内に電話のベルの音が鳴り響く。
0:机には先程まで無かったはずのアンティーク調の電話機が置かれていた。
吸血鬼:噂をすればなんとやらか。(電話をとる)…俺だ。
兎耳メイド:あのぉ、あれは一体なんですかぁ?
褐色メイド:あー、そうだな、仕事仲間?いや違うな、利害の一致故の協力関係?まぁ、そんな所からの連絡だよ。
眼鏡メイド:丁度良い機会です。新人にもしっかりと働いて貰いましょう。
吸血鬼:…ああ、分かった。では。(電話を切る)…ふん、全く人…いや吸血鬼使いの荒いやつだ、まったく。すぐに出る。準備をしておけ。
褐色メイド:かしこまりました。
眼鏡メイド:さぁ新人、すぐに支度を。言ったでしょう?とても大事な御勤めがあると。
兎耳メイド:一体なにをするんですかぁ?
眼鏡メイド:それはついてからのお楽しみ。心配せずとも大丈夫ですよ。きっとすぐに慣れますから。ふふふ。
吸血鬼:さあ、いくぞ。【人形達】(ドロワーズ)よ。
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吸血鬼:【型】を作った。
吸血鬼:君と同じ【型】を作った。
吸血鬼:髪も目も腕も足も何もかも同じ【型】だ。
吸血鬼:それに君と同じ【材料】をはめて君の【形】に創った。
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0:人々が寝静まった真夜中。とある町外れの廃墟でいくつもの断末魔が響くー
0:まだ肉塊になっていない最後の人影がいま終わりを迎えようとしていた。
褐色メイド:おっと、逃げんなよっと!
0:褐色のメイドは複数のナイフを投げ、逃げようとしていた人影に投擲する。そしてそれは全て命中し、人影は呻き声を上げながら地に伏した。
褐色メイド:ふぅ、全く活きがいいのも考えものだな。しかしこれで全部かねぇ?よくもまぁこれだけの【成り損ない】を作ったもんだ。
眼鏡メイド:そちらは終わりましたか?
褐色メイド:ああ、そっちは…って、いうまでもないか。
眼鏡メイド:ふふ。
0:手には血に濡れた戦鎚が握られていた。
褐色メイド:後輩はどうした?
眼鏡メイド:向こうで少人数相手させましたけどまぁ、恐らくは大丈夫でしょう。仮にもご主人様に創られた存在である我々があんな出来損ないに劣るわけがありません。
褐色メイド:まぁ一応様子は見に行ってやるか。先輩だしな。
眼鏡メイド:そうですね。でもその前に…
褐色メイド:ん?
0:眼鏡をかけたメイドは褐色に向かって戦鎚を振り上げ、そしてー骨が砕け、血肉が飛び散る音がした。
眼鏡メイド:止めはしっかりと。いつも言っているでしょう?
0:先程倒したはずの【成り損ない】が褐色のすぐ後ろで頭を潰されていた。
褐色メイド:…サンキュ、しかし相変わらず「壊す」事に関しては手慣れてるな。
眼鏡メイド:嫌味にしか聞こえませんよ。
褐色メイド:褒めてるって。
兎耳メイド:せーんぱぁぁぁいぃ!終わりましたぁ!
褐色メイド:お、無事だったか。
眼鏡メイド:ちゃんと掃除は出来ましたか?
兎耳メイド:はい!風通しよくしてあげました。バァン!
褐色メイド:武器は銃にしたのか。しかもマスケット。
兎耳メイド:戦うメイドといえば銃らしいと資料に書いてあったのでぇ。館にはこれしかなくてぇ。武器をスカートの中に隠すと浪漫?らしいですぅ。
眼鏡メイド:そうなのですか?わたくしのは柄が長くて無理ですね。
褐色メイド:だからどんな資料だよそれ…。
兎耳メイド:そういえばぁ、あるじさまはぁどこにぃ?
眼鏡メイド:大元…こいつらの主人の所でしょう。
褐色メイド:今回は「当たり」だといいがな。
兎耳メイド:当たりぃ?
眼鏡メイド:さぁ、参りましょう。我等が主の元へ。
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0:廃墟の最奥。開けた部屋には血飛沫で彩られ、崩れた天井から射す月の光で照らされた吸血鬼がいた。
兎耳メイド:あ、あるじさ…うぷ(口を塞がれる)
褐色メイド:ちょい待った。
眼鏡メイド:ふふ、ご主人様をよーく見てご覧なさい?
兎耳メイド:ふぁふ??
0:吸血鬼は自ら仕留めた肉塊を丹念に調べ細部を見つめている。やがて一部の塊に目を留めた。
吸血鬼:…ははっ!これはいい!期待はしていなかったが、これはなかなかにいい【素材】ではないか!これでまた一つ、また一歩彼女に…ふふ、あはははっ!
兎耳メイド:……。
眼鏡メイド:どうですか?あのご主人様を見てどう思いましたか?
兎耳メイド:ーっ、なん、でしょうぉ?こう、うまく言えないんですがぁ、すごく、すごぉくぅ…
褐色メイド:……凄く?
兎耳メイド:どきどきしますぅ!あんなに喜んでるあるじさまを見てるとなんだかほわほわしてぇ、幸せなきぶんですぅ!
眼鏡メイド:そうでしょう。そうでしょう!ご主人様の幸せはわたくし達の幸せ。創られたその瞬間からわたくし達はあの方を【愛する】ように出来ているのですから。
褐色メイド:あたし達は旦那様の【愛しき君】の複製体。いつか至る為の通過点。試作品にすぎない。
兎耳メイド:…あぁ、だから私達みーんな「同じ顔」だったんですねぇ。不思議だったんですぅ。
褐色メイド:そう、試作品であり失敗作のあたし達は愛されることはない。道具と同じ、それでもー
眼鏡メイド:あの方が愛おしくて堪らないのです。
兎耳メイド:愛、この気持ちが、愛…。
褐色メイド:あの方の喪ったものは大きい、決してあたし達では埋めきれない。それでも支え使え、愛慕うんだ。廃棄されるその時まで。どうだ?最高だろ?
兎耳メイド:はいっ!とってもぉ!
眼鏡メイド:ふふ…。
吸血鬼:おい、【人形達】これを運ぶ。解体しておけ。
眼鏡メイド:かしこまりました。
兎耳メイド:はぁい!えへへへぇ。
吸血鬼:なんだへらへらと笑って。
褐色メイド:旦那様のお役にたてるのが嬉しいんですよ。
吸血鬼:そういうものか?
吸血鬼:…しかしどれもこれも「違う」お前達だがその笑顔だけは彼女そのものなのだな…。(一瞬微笑む)
兎耳メイド:ーっ!
吸血鬼:今度は真っ赤になったぞ?
眼鏡メイド:ふふ、ご主人様のお役にたてて嬉しいのですよ。
吸血鬼:そういうものか?まぁいい。しかし使えそうなの部位が些か少ないか。
眼鏡メイド:最近フランス校外で同胞と思われる事件があったそうですが、なんならそちらにも足を向けますか?
吸血鬼:いや、止めておく。その近辺はアレのテリトリーだ。下手に手を出してみろ、戦いになりかねない。それに【教界】の連中に目を付けられるのも厄介だ。
褐色メイド:旦那様戦闘はからっきしですしね。
眼鏡メイド:インテリ派ですものね。
兎耳メイド:ボコボコになっちゃいますぅ?
吸血鬼:お前ら…っ。ともかく帰宅後すぐに作業に取り掛かる。手伝え【人形達】よ。
0:三人それぞれにー
褐色メイド:はい。
眼鏡メイド:はい!
兎耳メイド:はぁい!
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吸血鬼:型を作った。
吸血鬼:君と同じ【型】を作った。
吸血鬼:髪も目も腕も足も何もかも同じ【型】だ。
吸血鬼:それに君と同じ【材料】をはめて君の【形】に創った。
吸血鬼:それは君そのものの筈、なのに。
吸血鬼:「何か」が違う。
吸血鬼:「何か」が足りない。
吸血鬼:出来上がった形は一緒なのに同じではないのだ。
吸血鬼:髪も目も腕も足も何もかもが同じで違うんだ。
吸血鬼:「何か」が欠けている。
吸血鬼:わからない。
吸血鬼:わからない。
吸血鬼:その「何か」は俺にはわからない。
吸血鬼:諦めるべきなのかもしれない。
吸血鬼:だが
吸血鬼:例えそうだとしても
0:館の地下深くの工房には硝子の棺に入った【型】が置いてある。吸血鬼はそっと【型】を優しく撫でー
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吸血鬼:ただ、もう一度君に笑って欲しいんだ。
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眼鏡メイド:真祖にして私達の創造主。
褐色メイド:尊く、慈悲深く。
兎耳メイド:そして哀しみを背負うお方。
眼鏡メイド:仕えましょう、支えましょう!
褐色メイド:私達人形。貴方の意のままに。
兎耳メイド:例え果てが破滅だとしても。
眼鏡メイド:この気持ちが、作られたものでも。
褐色メイド:この気持ちが、偽物だとしても。
兎耳メイド:この気持ちが、本物なのです。
眼鏡メイド:愛しています。
褐色メイド:愛しています。
兎耳メイド:愛しています。
眼鏡メイド:私達は今日も貴方のために姿勢を正し。
褐色メイド:私達は今日も貴方のために身嗜みを整え。
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兎耳メイド:私達は今日も貴方のために笑うのです。
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0:了