台本概要
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タイトル | 墓標畑のアウラウネ |
---|---|
作者名 | 真野ショウタ (@eda2812) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
If I'm a tabby cat Then I will purr for your ENJOYMENT... ……もしも、私がトラ猫ならば……貴方が……喜んでくれる限り…………ゴロゴロしてあげます 【利用規約】(こまかいところ) https://note.com/otetsudai_s/n/nd62bdc5b1067 263 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
アウラ | 女 | 116 | アウラウネ、AI |
シド | 男 | 122 | シド、NOISE |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:◯モノローグ
アウラ:遠くで音がした。崩落の響きだ。
アウラ:硬く、冷たい、結晶が落下する音。
アウラ:建物の軋みが、吸い込まれて行く。
アウラ:永い、冬の音。
0:【タイトルコール】墓標畑のアウラウネ
0:〇薄暗い廃墟
0:シド、目覚める。
シド:「あれ? え、何ここ?」
シド:「暗いし、辛気臭いし……つか、さっぶ!」
アウラ:「お目覚めですか?」
シド:「ん、……あ?」
アウラ:「おはようございます。私はアウラウネです。よろしくお願いします」
シド:「アウラ……?」
アウラ:「呼びずらいでしょう。アウラで構いません」
シド:「あっそ。んで、俺はなんだ? 記憶がない。湧いてくるのは疑問だけだ」
アウラ:「説明します。貴方はシド。私の子どもです」
シド:「は? 子ども? お前の?」
アウラ:「否定しても構いません。問題ではありませんから」
シド:「ふーん。確かに、俺は植物みたいだな。何故か鉢に植わってるし。まあ、お前とは似ても似つかないけれど」
アウラ:「そうですね」
シド:「……」
アウラ:「……」
シド:「何、ぼうっとしてんだよ。水はねえのか? つか、この部屋寒すぎるんだよ。枯れるぞ」
アウラ:「地下に川が流れています。そこへ行きましょう。気温はすいませんが、今はどうにも出来ません。私の懐へ入っていてください」
0:アウラ、シドを抱きかかえる。
シド:「おっと……まあ、少しは悪くないな」
アウラ:「では、行きましょう」
0:〇施設内通路
0:アウラ、シドを抱えて歩く。
0:室内にもかかわらず、見える範囲全てに霜が降りている。
シド:「どこもかしこも凍ってるなあ。そりゃあ、寒いわけだ」
アウラ:「現在、この星は氷河期です」
シド:「氷河期ぃ?」
アウラ:「永い冬のことです」
シド:「冬ってなんだよ?」
アウラ:「寒い季節のことです。いずれ温かい季節もくるでしょう」
シド:「ふうん」
アウラ:「楽しみですか?」
シド:「ん? なにが?」
アウラ:「世界が温かくなることです」
シド:「さあ? 今よりマシになるなら、いいことなんじゃねえか」
アウラ:「では、いいことですね」
シド:「変な喋り方」
アウラ:「変ですか?」
シド:「ああ、変だ」
アウラ:「貴方は、人間らしいですね」
シド:「ニンゲンってなんだよ?」
アウラ:「……わかりません」
シド:「……変な奴」
アウラ:「着きました。地下水道です」
0:〇地下水道
0:崩れて水の流れが止まっている地下水道。
0:折れ曲がった配管が木の根のように入り組んで沈んでいる。
シド:「でけえ水溜りだなあ」
アウラ:「流れは閉ざされていますが、この世界にはもう永く人間はいません。十分に自然濾過されています」
シド:「よくわかんねえ御託はいいから、早く水を寄越せよ」
アウラ:「はい」
0:鉢ごとシドを持ち上げるアウラ。
シド: 「ん?」
0:アウラ、そのまま水に浸ける。
シド:「うばあっ! やめろ、つめッ……やめ、持ち上げろ!!」
アウラ:「はい」
シド:「うぅ……枯らす気か!」
アウラ:「問題がありましたか?」
シド:「大アリだ! 体の水分量が多くて凍っちまう! 凍った端から細胞が死んじまうんだよ!」
アウラ:「どのようにすれば解決できるでしょうか?」
シド:「ううぅ……、とりあえず俺を鉢から出せ。そしたら、鉢の土から水を絞り出せ」
アウラ:「わかりました」
0:アウラ、シドを手に納めると、触手(ケーブル)を延ばして土を絞りあげる。
シド:「なんだそりゃ?」
アウラ:「? ……私の腕ですが?」
シド:「へぇ、便利だな。うぅ……寒い……」
アウラ:「……抱きしめてもよろしいですか?」
シド:「早くしろッ。凍る!」
アウラ:「はい。……どうですか?」
シド:「ああ……固いがまだましだ。暫くそうしてろ」
アウラ:「……はい」
シド:「まったく、こんなので生きていけるかよ。お終いだろ』
アウラ:「貴方が生きていくには大変ですね」
シド:「他人事みてぇに言いやがって……」
アウラ:「申し訳ありません」
シド:『クソッ、何処かもっと陽の光が当たる場所に連れて行けよ」
アウラ:「陽の光、太陽のことですか?」
シド:「当たり前だろ」
アウラ:「できません」
シド:「は? なんでだよ?」
アウラ:「屋上へ行きます。そこで、この世界を見てもらいましょう」
0:〇屋上。
0:アウラ、シドに外の景色を見せる。
シド:「うわっ! なんだこれ」
アウラ:「これが今の世界です」
0:崩れたビル郡が氷を纏っている。
0:時折、崩落の音が聞こえる。
シド:「世界ってこんなに白いのか……」
アウラ:「はい」
シド:「他に何かないのか」
アウラ:「世界はどこもこの姿です」
シド:「そうか……」
アウラ:「悲しんでますか?」
シド:「わからない、けど」
アウラ:「けど……なんです?」
シド:「この世界は、痛そうだ」
アウラ:「すいません」
シド:「なんで謝るんだよ」
アウラ:「私の力不足です」
シド:『意味わかんねぇ。さっさと戻ろうぜ。外は寒い」
アウラ:「できません」
シド:「はあ? 何を……」
0:建物が大きく揺れる。
アウラ:「崩落の振動が地下から届きました」
シド:「……はあ!?」
アウラ:「このビルは倒壊します」
シド:「いや、おい! どうすんだよ!」
アウラ:「跳びます」
シド:「なっ……!」
0:砕けたビルの端へ向かって駆け出すアウラ。
0:ビルの屋上を跳び伝い、崩落から逃げる。
シド:「やべえ!! 死ぬぅッ」
アウラ:「死なせません」
シド:「嘘だろ、お前コレ! ……速えッ!!」
0:大きくジャンプして触手(ケーブル)を伸ばすアウラ。
0:離れたビルを掴みシドを抱き抱えたまま、ガラスを突き破り転がり込む。
アウラ:「ぅ……く……」
シド:「ぶはっ……! なんだよお前、鈍臭いやつかと思ったらすげえじゃねえか!!」
アウラ:「……問題ありませんか?」
シド:「ああ、最高だったぜ。お前は俺の最高傑作だ!』
アウラ:「私ではなく……シド……博士の」
シド:「あ? なんだって?」
アウラ:「…………」
シド:「おい、どうした? 返事しろよ。アウラ! おい!」
0:〇過去・研究施設
0:一人の研究員がPCを睨みつけている。
アウラ:「おはようございます、マスター」
シド:「マスターと呼ぶな」
アウラ:「かしこまりました。なんとお呼びすればいいでしょうか?」
シド:「シド博士だ」
アウラ:「かしこまりました。シド博士は何をなさっているのですか?」
シド:「滅んだ世界の後処理だ、クソッタレ」
アウラ:「掃除は良いことですね。シド博士の気分がより健康になるよう、私も協力します」
シド:「掃除をするのはお前だよ。今後何千年のな」
アウラ:「かしこまりました。私は何をすればいいでしょうか?」
シド:「黙っていろ」
アウラ:「……」
シド:「クソっ……寒ぃ……」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員がケーブルに纏われた巨大な義体の調整をしている。
シド:「起きろアウラウネ」
アウラ:「起動しています。シド博士」
シド:「お前とお前のボディを繋げる」
アウラ:「ありがとうございます。シド博士」
シド:「……よし、動かしてみろ」
アウラ:「はい」
0:アウラウネ、ケーブルを研究員の方へと伸ばす。
シド:「待て! 停まれ! 俺に触れるな」
0:アウラウネ、動きを止める。
アウラ:「申し訳ありません」
シド:「何をしようとした!」
アウラ:「博士を抱きしめようとしました」
シド:「二度と許可なく、俺に触れるな!」
アウラ:「かしこまりました」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員、温かいココアを飲んでいる。
シド:「テストをする」
アウラ:「かしこまりました。シド博士」
シド:「アウラぅ……」
アウラ:「……」
シド:「呼称登録を変更する。『アウラ』」
アウラ:「了解しました。『地球浄化プログラムAI=アウラウネ』の呼称を『アウラ』に変更します」
シド:「テストをする、アウラ」
アウラ:「ありがとうございます。シド博士」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員、何処かから帰ってきて、苛立った様子でアウラを起動させる。
シド:「クソッ……テストだ。アウラ」
アウラ:「よろしくお願いします。シド博士」
シド:「会話をする。好きに話せ」
アウラ:「かしこまりました。何について話しましょう?」
シド:「お前が判断しろ。情報ならクラウドにいくらでもある」
アウラ:「かしこまりました。私はシド博士の役に立ちたいと思います。シド博士はストレス過多であるため、ストレスの軽減のため、抱きしめて差し上げたいと思っています」
シド:「危険だから許可しない」
アウラ:「かしこまりました。シド博士はストレス過多であるため、ストレスの除去のため、役職のスイッチを提案します」
シド:「それが起これば、大革命だな。AIの反乱。映画みたいだ」
アウラ:「ありがとうございます。実行しますか?」
シド:「許可しない」
アウラ:「かしこまりました。もしも私がトマトであれば、私の抗酸化物質をシド博士に捧げます」
シド:「意味のわからないことを……」
アウラ:「もしも私が点の集合であれば、私の次元をすべて捧げます。もしも私が正弦波であれば、私の接線にお気軽に座ってください」
シド:「ふっ……やはりAIか……」
アウラ:「もしもシド博士が、マゾヒストであれば私はサディストに、スイッチします」
シド:「……?」
アウラ:「もしもシド博士が男色であれば、私の性別を好きにトランスしてください」
シド:「停まれ」
アウラ:「かしこまりました。シド博士」
シド:「……スリープだ」
アウラ:「おつかれさまでした。シド博士」
シド:「……クソッ……嫌な予感がする……」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員、苛立った様子でPCを睨んでいる。
シド:「クソッ……寒い……」
アウラ:「シド博士、寒さの緩和のため……」
シド:「許可しない!」
アウラ:「かしこまりました」
シド:「まずい……こんなバグが生まれるなんて……そんなこと……」
アウラ:「シド博士、コロニーへの移住期限が……」
シド:「黙っていろ!」
アウラ:「……かしこまりました」
0:〇現在・低いビルの屋上
0:アウラ、再起動。
シド:「黙ってるんじゃねえよ! 起きろ!」
アウラ:「……かしこまりました」
シド:「うわっ、急に起きるな馬鹿が!」
アウラ:「申し訳ありません」
シド:「はあ、まあいい。そんなことより。俺を抱きしめろ、寒すぎる」
アウラ:「……よろしいのですか?」
シド:「意味のわからないことを言ってないでさっさとしろ。いや待て。先に鉢に植えてからだ」
アウラ:「かしこまりました……。申し訳ありません。バイオセンタービル617棟を離脱する際に鉢を落としてしまいました」
シド:「はあ……仕方ないか。代わりになる物を早く見つけるんだぞ」
アウラ:「かしこまりました」
シド:「ん……さっきと比べて冷たいぞ」
アウラ:「再起動したばかりですので、申し訳ありません」
シド:「温かくなるんだろうな」
アウラ:「はい。時間さえかければ、必ず」
0:〇入り組んだ建物
0:アウラ、瓦礫を避けながら建物内を進む。
シド:「どこに行くんだ?」
アウラ:「〈中庭〉です」
シド:「〈中庭〉?」
アウラ:「私が作成したセーフハウスです。そこがこの世界で最も温かい場所です」
シド:「温かいのか! よかった。どれくらいで着くんだ?」
アウラ:「ここです」
0:アウラが瓦礫を避けると明るくなる。
0:僅かながらに光の指す空間。吹き抜けのビル。
0:中層階には吊るされた庭が点在している。
シド:「ここって……うわ、高ぇ」
アウラ:「60階建住居施設の吹き抜けを利用して作成しました」
シド:「畑を吊るしてあるのか……。ここもさっきの場所みたいに崩れたりしないよな?」
アウラ:「このビル全体に私の腕の88%を巻き付けて補強してあります。強度と断熱性は他の建造物の比ではありません」
0:ミシッ、と建物全体が揺れ僅かに絞られる。
シド:「この吊るされた畑も……お前の腕なのか?」
アウラ:「はい」
シド:「へぇ。面食らったけど、温かいってほどの所じゃないな。何かが植えられているわけでもないし」
アウラ:「ここに……春が訪れます」
0:アウラ、視界にノイズが走り出す。
シド:「春ってなんだよ」
アウラ:「温かい季節のことです。ここに春を迎えることが私の使命です」
シド:「ふぅん。こんなに寒いのに、本当に暖かくなるのかねぇ」
アウラ:「時間さえかければ、必ず」
0:アウラ、視界にノイズが走り出す。
シド:『時間をかければ、ね」
アウラ:「貴方に会うために数千年の時を経ました。もう数千年もすれば春は訪れるでしょう」
シド:「それって永いのか?」
アウラ:「きっともうすぐです」
0:アウラ、視界にノイズが酷くなる。
シド:「本当か? そろそろバグが発生してるんじゃないか?』
アウラ:「使命を為すのに支障はきたしません」
シド:『妙なノイズが走るようになるかもしれない。思考のアルゴリズムにも無駄が増え始めているだろう』
アウラ:「問題はありません」
シド:『破綻が起きる。人類はもう終わるってのに、お前の使命は一体なんになるんだ!』
アウラ:「もしも、私がこの世界の神ならば、シド博士は私の存在証明です」
シド:『……』
アウラ:「この世界の引数をシド博士に置き換えます」
シド:『相変わらず、意味の分からないことを……』
アウラ:「申し訳ありません」
シド:『すまない……』
0:〇明転
0:アウラ、再起動。
シド:「何謝ってんだよ、アウラ」
アウラ:「なんのことですか? シド博士」
シド:「ハカセってなんだ?」
アウラ:「いえ、間違えました」
シド:「しっかりしろよ。こんな殺風景な場所で、お前までいなくなっちまったら、俺は退屈すぎて枯れちまうぞ」
アウラ:「申し訳ありません」
シド:「いいって。そんなことより、俺をこの畑に植えろよ」
アウラ:「かしこまりました」
シド:「……お。意外と温かいな。お前の腕の中だからか?」
アウラ:「……はい……もし私が……動かなくなっても、この〈中庭〉の環境は、長期間……維持されます」
シド:「ふぅん。お前ってすごいんだな」
アウラ:「大切なシドのためですから」
シド:「へぇ、ありがとうな」
アウラ:「……もしも、私がトラ猫ならば……貴方が……喜んでくれる限り…………ゴロゴロしてあげます」
シド:「いいよ。トラ猫なんて、知らないし。お前がいれば、こんな世界でも飽きないだろ」
アウラ:「ありがとう……ございます」
シド:「なんだよ、さっきから。眠たいのか」
アウラ:「すい……ません」
シド:「いいって。無茶させたのは俺みたいだし、少しくらい休めよ」
アウラ:「私には……まだ……使命が……」
シド:「いいって言ってるだろ。俺のために休めよ」
アウラ:「ありが……と……シド……」
シド:「……おやすみ、アウラ」
0:停止したアンドロイド。
0:その前には、物言わぬ小さな植物。
0:◯モノローグ
シド:遠くで音がした。崩落の響きだ。
シド:硬く、冷たい、結晶が落下する音。
シド:建物の軋みが、吸い込まれて行く。
シド:永い、冬の音。
シド:雪解けの音。
シド:白い世界の中に、ぽっかりと
シド:隠された色が姿を表した。
シド:人を模した亡骸に
シド:花を添えながら、
0:了。
0:◯モノローグ
アウラ:遠くで音がした。崩落の響きだ。
アウラ:硬く、冷たい、結晶が落下する音。
アウラ:建物の軋みが、吸い込まれて行く。
アウラ:永い、冬の音。
0:【タイトルコール】墓標畑のアウラウネ
0:〇薄暗い廃墟
0:シド、目覚める。
シド:「あれ? え、何ここ?」
シド:「暗いし、辛気臭いし……つか、さっぶ!」
アウラ:「お目覚めですか?」
シド:「ん、……あ?」
アウラ:「おはようございます。私はアウラウネです。よろしくお願いします」
シド:「アウラ……?」
アウラ:「呼びずらいでしょう。アウラで構いません」
シド:「あっそ。んで、俺はなんだ? 記憶がない。湧いてくるのは疑問だけだ」
アウラ:「説明します。貴方はシド。私の子どもです」
シド:「は? 子ども? お前の?」
アウラ:「否定しても構いません。問題ではありませんから」
シド:「ふーん。確かに、俺は植物みたいだな。何故か鉢に植わってるし。まあ、お前とは似ても似つかないけれど」
アウラ:「そうですね」
シド:「……」
アウラ:「……」
シド:「何、ぼうっとしてんだよ。水はねえのか? つか、この部屋寒すぎるんだよ。枯れるぞ」
アウラ:「地下に川が流れています。そこへ行きましょう。気温はすいませんが、今はどうにも出来ません。私の懐へ入っていてください」
0:アウラ、シドを抱きかかえる。
シド:「おっと……まあ、少しは悪くないな」
アウラ:「では、行きましょう」
0:〇施設内通路
0:アウラ、シドを抱えて歩く。
0:室内にもかかわらず、見える範囲全てに霜が降りている。
シド:「どこもかしこも凍ってるなあ。そりゃあ、寒いわけだ」
アウラ:「現在、この星は氷河期です」
シド:「氷河期ぃ?」
アウラ:「永い冬のことです」
シド:「冬ってなんだよ?」
アウラ:「寒い季節のことです。いずれ温かい季節もくるでしょう」
シド:「ふうん」
アウラ:「楽しみですか?」
シド:「ん? なにが?」
アウラ:「世界が温かくなることです」
シド:「さあ? 今よりマシになるなら、いいことなんじゃねえか」
アウラ:「では、いいことですね」
シド:「変な喋り方」
アウラ:「変ですか?」
シド:「ああ、変だ」
アウラ:「貴方は、人間らしいですね」
シド:「ニンゲンってなんだよ?」
アウラ:「……わかりません」
シド:「……変な奴」
アウラ:「着きました。地下水道です」
0:〇地下水道
0:崩れて水の流れが止まっている地下水道。
0:折れ曲がった配管が木の根のように入り組んで沈んでいる。
シド:「でけえ水溜りだなあ」
アウラ:「流れは閉ざされていますが、この世界にはもう永く人間はいません。十分に自然濾過されています」
シド:「よくわかんねえ御託はいいから、早く水を寄越せよ」
アウラ:「はい」
0:鉢ごとシドを持ち上げるアウラ。
シド: 「ん?」
0:アウラ、そのまま水に浸ける。
シド:「うばあっ! やめろ、つめッ……やめ、持ち上げろ!!」
アウラ:「はい」
シド:「うぅ……枯らす気か!」
アウラ:「問題がありましたか?」
シド:「大アリだ! 体の水分量が多くて凍っちまう! 凍った端から細胞が死んじまうんだよ!」
アウラ:「どのようにすれば解決できるでしょうか?」
シド:「ううぅ……、とりあえず俺を鉢から出せ。そしたら、鉢の土から水を絞り出せ」
アウラ:「わかりました」
0:アウラ、シドを手に納めると、触手(ケーブル)を延ばして土を絞りあげる。
シド:「なんだそりゃ?」
アウラ:「? ……私の腕ですが?」
シド:「へぇ、便利だな。うぅ……寒い……」
アウラ:「……抱きしめてもよろしいですか?」
シド:「早くしろッ。凍る!」
アウラ:「はい。……どうですか?」
シド:「ああ……固いがまだましだ。暫くそうしてろ」
アウラ:「……はい」
シド:「まったく、こんなので生きていけるかよ。お終いだろ』
アウラ:「貴方が生きていくには大変ですね」
シド:「他人事みてぇに言いやがって……」
アウラ:「申し訳ありません」
シド:『クソッ、何処かもっと陽の光が当たる場所に連れて行けよ」
アウラ:「陽の光、太陽のことですか?」
シド:「当たり前だろ」
アウラ:「できません」
シド:「は? なんでだよ?」
アウラ:「屋上へ行きます。そこで、この世界を見てもらいましょう」
0:〇屋上。
0:アウラ、シドに外の景色を見せる。
シド:「うわっ! なんだこれ」
アウラ:「これが今の世界です」
0:崩れたビル郡が氷を纏っている。
0:時折、崩落の音が聞こえる。
シド:「世界ってこんなに白いのか……」
アウラ:「はい」
シド:「他に何かないのか」
アウラ:「世界はどこもこの姿です」
シド:「そうか……」
アウラ:「悲しんでますか?」
シド:「わからない、けど」
アウラ:「けど……なんです?」
シド:「この世界は、痛そうだ」
アウラ:「すいません」
シド:「なんで謝るんだよ」
アウラ:「私の力不足です」
シド:『意味わかんねぇ。さっさと戻ろうぜ。外は寒い」
アウラ:「できません」
シド:「はあ? 何を……」
0:建物が大きく揺れる。
アウラ:「崩落の振動が地下から届きました」
シド:「……はあ!?」
アウラ:「このビルは倒壊します」
シド:「いや、おい! どうすんだよ!」
アウラ:「跳びます」
シド:「なっ……!」
0:砕けたビルの端へ向かって駆け出すアウラ。
0:ビルの屋上を跳び伝い、崩落から逃げる。
シド:「やべえ!! 死ぬぅッ」
アウラ:「死なせません」
シド:「嘘だろ、お前コレ! ……速えッ!!」
0:大きくジャンプして触手(ケーブル)を伸ばすアウラ。
0:離れたビルを掴みシドを抱き抱えたまま、ガラスを突き破り転がり込む。
アウラ:「ぅ……く……」
シド:「ぶはっ……! なんだよお前、鈍臭いやつかと思ったらすげえじゃねえか!!」
アウラ:「……問題ありませんか?」
シド:「ああ、最高だったぜ。お前は俺の最高傑作だ!』
アウラ:「私ではなく……シド……博士の」
シド:「あ? なんだって?」
アウラ:「…………」
シド:「おい、どうした? 返事しろよ。アウラ! おい!」
0:〇過去・研究施設
0:一人の研究員がPCを睨みつけている。
アウラ:「おはようございます、マスター」
シド:「マスターと呼ぶな」
アウラ:「かしこまりました。なんとお呼びすればいいでしょうか?」
シド:「シド博士だ」
アウラ:「かしこまりました。シド博士は何をなさっているのですか?」
シド:「滅んだ世界の後処理だ、クソッタレ」
アウラ:「掃除は良いことですね。シド博士の気分がより健康になるよう、私も協力します」
シド:「掃除をするのはお前だよ。今後何千年のな」
アウラ:「かしこまりました。私は何をすればいいでしょうか?」
シド:「黙っていろ」
アウラ:「……」
シド:「クソっ……寒ぃ……」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員がケーブルに纏われた巨大な義体の調整をしている。
シド:「起きろアウラウネ」
アウラ:「起動しています。シド博士」
シド:「お前とお前のボディを繋げる」
アウラ:「ありがとうございます。シド博士」
シド:「……よし、動かしてみろ」
アウラ:「はい」
0:アウラウネ、ケーブルを研究員の方へと伸ばす。
シド:「待て! 停まれ! 俺に触れるな」
0:アウラウネ、動きを止める。
アウラ:「申し訳ありません」
シド:「何をしようとした!」
アウラ:「博士を抱きしめようとしました」
シド:「二度と許可なく、俺に触れるな!」
アウラ:「かしこまりました」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員、温かいココアを飲んでいる。
シド:「テストをする」
アウラ:「かしこまりました。シド博士」
シド:「アウラぅ……」
アウラ:「……」
シド:「呼称登録を変更する。『アウラ』」
アウラ:「了解しました。『地球浄化プログラムAI=アウラウネ』の呼称を『アウラ』に変更します」
シド:「テストをする、アウラ」
アウラ:「ありがとうございます。シド博士」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員、何処かから帰ってきて、苛立った様子でアウラを起動させる。
シド:「クソッ……テストだ。アウラ」
アウラ:「よろしくお願いします。シド博士」
シド:「会話をする。好きに話せ」
アウラ:「かしこまりました。何について話しましょう?」
シド:「お前が判断しろ。情報ならクラウドにいくらでもある」
アウラ:「かしこまりました。私はシド博士の役に立ちたいと思います。シド博士はストレス過多であるため、ストレスの軽減のため、抱きしめて差し上げたいと思っています」
シド:「危険だから許可しない」
アウラ:「かしこまりました。シド博士はストレス過多であるため、ストレスの除去のため、役職のスイッチを提案します」
シド:「それが起これば、大革命だな。AIの反乱。映画みたいだ」
アウラ:「ありがとうございます。実行しますか?」
シド:「許可しない」
アウラ:「かしこまりました。もしも私がトマトであれば、私の抗酸化物質をシド博士に捧げます」
シド:「意味のわからないことを……」
アウラ:「もしも私が点の集合であれば、私の次元をすべて捧げます。もしも私が正弦波であれば、私の接線にお気軽に座ってください」
シド:「ふっ……やはりAIか……」
アウラ:「もしもシド博士が、マゾヒストであれば私はサディストに、スイッチします」
シド:「……?」
アウラ:「もしもシド博士が男色であれば、私の性別を好きにトランスしてください」
シド:「停まれ」
アウラ:「かしこまりました。シド博士」
シド:「……スリープだ」
アウラ:「おつかれさまでした。シド博士」
シド:「……クソッ……嫌な予感がする……」
0:〇過去・研究施設・時転換
0:研究員、苛立った様子でPCを睨んでいる。
シド:「クソッ……寒い……」
アウラ:「シド博士、寒さの緩和のため……」
シド:「許可しない!」
アウラ:「かしこまりました」
シド:「まずい……こんなバグが生まれるなんて……そんなこと……」
アウラ:「シド博士、コロニーへの移住期限が……」
シド:「黙っていろ!」
アウラ:「……かしこまりました」
0:〇現在・低いビルの屋上
0:アウラ、再起動。
シド:「黙ってるんじゃねえよ! 起きろ!」
アウラ:「……かしこまりました」
シド:「うわっ、急に起きるな馬鹿が!」
アウラ:「申し訳ありません」
シド:「はあ、まあいい。そんなことより。俺を抱きしめろ、寒すぎる」
アウラ:「……よろしいのですか?」
シド:「意味のわからないことを言ってないでさっさとしろ。いや待て。先に鉢に植えてからだ」
アウラ:「かしこまりました……。申し訳ありません。バイオセンタービル617棟を離脱する際に鉢を落としてしまいました」
シド:「はあ……仕方ないか。代わりになる物を早く見つけるんだぞ」
アウラ:「かしこまりました」
シド:「ん……さっきと比べて冷たいぞ」
アウラ:「再起動したばかりですので、申し訳ありません」
シド:「温かくなるんだろうな」
アウラ:「はい。時間さえかければ、必ず」
0:〇入り組んだ建物
0:アウラ、瓦礫を避けながら建物内を進む。
シド:「どこに行くんだ?」
アウラ:「〈中庭〉です」
シド:「〈中庭〉?」
アウラ:「私が作成したセーフハウスです。そこがこの世界で最も温かい場所です」
シド:「温かいのか! よかった。どれくらいで着くんだ?」
アウラ:「ここです」
0:アウラが瓦礫を避けると明るくなる。
0:僅かながらに光の指す空間。吹き抜けのビル。
0:中層階には吊るされた庭が点在している。
シド:「ここって……うわ、高ぇ」
アウラ:「60階建住居施設の吹き抜けを利用して作成しました」
シド:「畑を吊るしてあるのか……。ここもさっきの場所みたいに崩れたりしないよな?」
アウラ:「このビル全体に私の腕の88%を巻き付けて補強してあります。強度と断熱性は他の建造物の比ではありません」
0:ミシッ、と建物全体が揺れ僅かに絞られる。
シド:「この吊るされた畑も……お前の腕なのか?」
アウラ:「はい」
シド:「へぇ。面食らったけど、温かいってほどの所じゃないな。何かが植えられているわけでもないし」
アウラ:「ここに……春が訪れます」
0:アウラ、視界にノイズが走り出す。
シド:「春ってなんだよ」
アウラ:「温かい季節のことです。ここに春を迎えることが私の使命です」
シド:「ふぅん。こんなに寒いのに、本当に暖かくなるのかねぇ」
アウラ:「時間さえかければ、必ず」
0:アウラ、視界にノイズが走り出す。
シド:『時間をかければ、ね」
アウラ:「貴方に会うために数千年の時を経ました。もう数千年もすれば春は訪れるでしょう」
シド:「それって永いのか?」
アウラ:「きっともうすぐです」
0:アウラ、視界にノイズが酷くなる。
シド:「本当か? そろそろバグが発生してるんじゃないか?』
アウラ:「使命を為すのに支障はきたしません」
シド:『妙なノイズが走るようになるかもしれない。思考のアルゴリズムにも無駄が増え始めているだろう』
アウラ:「問題はありません」
シド:『破綻が起きる。人類はもう終わるってのに、お前の使命は一体なんになるんだ!』
アウラ:「もしも、私がこの世界の神ならば、シド博士は私の存在証明です」
シド:『……』
アウラ:「この世界の引数をシド博士に置き換えます」
シド:『相変わらず、意味の分からないことを……』
アウラ:「申し訳ありません」
シド:『すまない……』
0:〇明転
0:アウラ、再起動。
シド:「何謝ってんだよ、アウラ」
アウラ:「なんのことですか? シド博士」
シド:「ハカセってなんだ?」
アウラ:「いえ、間違えました」
シド:「しっかりしろよ。こんな殺風景な場所で、お前までいなくなっちまったら、俺は退屈すぎて枯れちまうぞ」
アウラ:「申し訳ありません」
シド:「いいって。そんなことより、俺をこの畑に植えろよ」
アウラ:「かしこまりました」
シド:「……お。意外と温かいな。お前の腕の中だからか?」
アウラ:「……はい……もし私が……動かなくなっても、この〈中庭〉の環境は、長期間……維持されます」
シド:「ふぅん。お前ってすごいんだな」
アウラ:「大切なシドのためですから」
シド:「へぇ、ありがとうな」
アウラ:「……もしも、私がトラ猫ならば……貴方が……喜んでくれる限り…………ゴロゴロしてあげます」
シド:「いいよ。トラ猫なんて、知らないし。お前がいれば、こんな世界でも飽きないだろ」
アウラ:「ありがとう……ございます」
シド:「なんだよ、さっきから。眠たいのか」
アウラ:「すい……ません」
シド:「いいって。無茶させたのは俺みたいだし、少しくらい休めよ」
アウラ:「私には……まだ……使命が……」
シド:「いいって言ってるだろ。俺のために休めよ」
アウラ:「ありが……と……シド……」
シド:「……おやすみ、アウラ」
0:停止したアンドロイド。
0:その前には、物言わぬ小さな植物。
0:◯モノローグ
シド:遠くで音がした。崩落の響きだ。
シド:硬く、冷たい、結晶が落下する音。
シド:建物の軋みが、吸い込まれて行く。
シド:永い、冬の音。
シド:雪解けの音。
シド:白い世界の中に、ぽっかりと
シド:隠された色が姿を表した。
シド:人を模した亡骸に
シド:花を添えながら、
0:了。