台本概要
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タイトル | 僕のヒーロー |
---|---|
作者名 | まりおん (@marion2009) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 3人用台本(男2、女1) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
わたしに実害が無い範囲で、有料無料に関わらず全て自由にお使いください。 過度のアドリブ、内容や性別、役名の改編も好きにしてください。 わたしへの連絡や、作者名の表記なども特に必要ありません。 318 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
鮎川 | 女 | 121 | 鮎川(あゆかわ)さゆ。実は大病を患っており、二十歳まで生きられないと言われている。 |
只野 | 男 | 61 | 只野慎太郎(ただのしんたろう)。熱血で真っ直ぐなバカ。鮎川のことが好きで彼女のために生きると決めている。只野(爺)も兼ね役。 |
佐藤 | 男 | 152 | 佐藤弘樹(さとうひろき)。さゆの幼なじみ。さゆのことが好きだったことも。慎太郎とは仲の良い友達。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:放課後のチャイムの音
鮎川:「はあ~、今週もやっと終わった~。
鮎川: 金曜の午後の授業が一番しんどいわ~。」
佐藤:「お疲れ、さゆ。」
鮎川:「あ、ひろき、おつかれ~。」
佐藤:「なに?ホントにお疲れ?」
鮎川:「金曜だしね。やっと休みか~って感じだもん。」
佐藤:「まだ終わってないでしょ。」
鮎川:「え?」
佐藤:「ほら。恒例の、アレ。」
鮎川:「ちょっと、嫌なこと思い出させないでよ。」
佐藤:「え?なんで?嬉しくないの?」
鮎川:「嬉しくないよ!あんなの!」
佐藤:「ええ~?なんで?あんなに熱烈に・・・って、ほら、噂をすれば、来たみたいだよ。」
只野:「(遠くから)あ~ゆ~か~わ~!うおおおおおおおお!
只野: (教室に入ってきて)鮎川!好きだ!今日も素敵だ!大好きだ!
只野: 今週の俺はどうだった!?鮎川にふさわしい男になれただろうか!?
只野: 必ずお前を幸せにしてみせる!だから鮎川!俺と付き合ってくれ!」
鮎川:「やだ。」
只野:「くああああ!即答~!くうううう!しびれるぜ~!鮎川~!
只野: なあ!俺のどこがダメなんだ!?今すぐ直すから教えてくれ!」
鮎川:「だから!何度も言ってるけど!みんなが見てる前で大声でそういうこと言わないで!恥ずかしいから!」
只野:「なんでだ!何を恥ずかしがることがある!愛とは素晴らしいもの!恥ずかしがる必要なんてない!」
鮎川:「あんたの存在自体が恥ずかしいのよ!」
只野:「なん・・・だと・・・。俺の存在が恥ずかしい・・・。
只野: つまり、俺を前にすると恥ずかしくて素直になれない・・・。
只野: そうか。そういうことだったのか!
只野: 素直になれないそんな鮎川も好きだ~!」
鮎川:「死ね!」
只野:「ぐはぁ!・・・・・・ふっ、照れ屋さんだな・・・。(殴る蹴るされる)げぶぅ!ぐはっ!ひぐっ!ほげぇ!」
佐藤:「ちょっと、さゆ、さすがにそれくらいにしておきなよ。」
鮎川:「まったく。今度変な勘違いしたら本当にただじゃすまないから!
鮎川: ひろき、わたし先に帰るね。」
佐藤:「あ、うん。じゃあね。・・・慎太郎、大丈夫?」
只野:「ふっ、これくらいの愛のムチ、受けきれないでどうする。」
佐藤:「愛のムチとはちょっと違う気がするけど・・・。」
只野:「しかし、今週もダメだったか。しかたない。また一週間、男を磨いて出直してくるか。」
佐藤:「ふふ、懲りないね。」
只野:「懲りる?何をだ?」
佐藤:「さゆに毎週毎週振られ続けて、もう三年半だよ?普通だったらもうとっくにあきらめてるでしょ。」
只野:「あきらめる?何を言ってるんだ。
只野: そんな簡単にあきらめられるなら最初から好きだなんて言わないぞ。
只野: 俺は鮎川を幸せにする、そのために生きると決めたんだ。
只野: 俺があきらめる時は、俺が死ぬときだ。」
佐藤:「・・・ふっ、そっか。」
只野:「ん?何かおかしいか?」
佐藤:「ううん。やっぱ慎太郎はかっこいいなって。」
只野:「そうか?」
佐藤:「うん。これで勉強ができたら言うこと無いんだけどね。」
只野:「くっ、勉強はどうにも苦手で・・・。いや、言い訳はいかんな。
只野: そうだ!この前のテスト、ひろきのおかげで赤点は三教科で済んだぞ!ありがとな!」
佐藤:「そっか。それはよかった。」
只野:「それで、その、もしよかったらなんだが・・・。」
佐藤:「いいよ。僕でよかったら、勉強教えてあげるよ。」
只野:「本当か!?ありがとう!ひろき!」
佐藤:「どうせ部活も入って無いし、放課後の一~二時間でよければ。」
只野:「恩に着る!」
佐藤:「おおげさだな。」
只野:「ひろきは本当にいいやつだな。ひろきが鮎川の友達でほんとによかった。」
佐藤:「・・・そう。僕も慎太郎と友達になれてよかったって思ってるよ。」
0:佐藤家、弘樹の部屋
鮎川:「ひろき~、ゲームしよ~。」
佐藤:「さゆ。いつもノックしてって言ってるでしょ。
佐藤: いくら子供の頃から隣同士だからって、僕らもう高校生なんだから。」
鮎川:「あら、ごめんなさい。ひろきもお年頃だもんね。」
佐藤:「そういう詮索はしなくていいの。」
鮎川:「は~い。・・・何してるの?」
佐藤:「え?ああ。来週から放課後に慎太郎の勉強をみることになって。
佐藤: そのための準備っていうか、簡単な問題をね。」
鮎川:「あんなバカ、いくら勉強したって無駄でしょ。」
佐藤:「そんなことないよ。ちょっとずつだけど、ちゃんと学力は上がってる。
佐藤: 中学のとき学年で一番成績悪かったのに、さゆと同じ学校行きたいからって勉強して、うちの高校に合格したし。
佐藤: 慎太郎は本当にすごいよ。」
鮎川:「それでも、クラスで一二を争うバカだけどね。」
佐藤:「・・・ねえ、そんなに慎太郎のこと嫌い?」
鮎川:「え?・・・別に嫌いってほどじゃないけど。」
佐藤:「じゃあ、なんでそんなに慎太郎のこと拒絶するの?」
鮎川:「それは・・・。デ、デリカシーが無いからよ!」
佐藤:「・・・ああ~、たしかに。」
鮎川:「でしょ!?あんなの獣と一緒だもん。無理に決まってるじゃん!」
佐藤:「う~ん、それでも僕は慎太郎のこと、カッコいいって思ってるんだけどなぁ。ヒーロー漫画の主人公みたいで。」
鮎川:「ヒーローねぇ・・・。」
佐藤:「おかしい?」
鮎川:「そうだね。ひろきも相当変わってるわ。・・・(グラッ)あ、あれ?」
佐藤:「ん?どうした?」
鮎川:「うん、ちょっと・・・。」
佐藤:「なに?具合悪い?」
鮎川:「・・・ううん、大丈夫。」
佐藤:「ほんとに?」
鮎川:「大丈夫だって!・・・わたし、もう帰る。」
佐藤:「え?ちょ・・・。何しにきたんだよ。」
0:学校
佐藤:慎太郎は登校するとまずさゆのところに顔を出す。
佐藤:それがあいつのルーティーンだ。
佐藤:月曜日
只野:「おはよう!鮎川!くぅ~!今日も変わらず可愛いな!
只野: 今週も一緒に頑張ろう!大好きだぜ!鮎川!」
鮎川:「うるさい。さっさと教室行け。」
佐藤:火曜日
只野:「おはよう!鮎川!今日もなんて愛らしいんだ!
只野: 今日も一日、鮎川のことを想ってるぞ!大好きだ!」
鮎川:「余計なこと考えてないで勉強しろ。」
佐藤:水曜日
只野:「おはよう!鮎川!これ、来る途中でみつけたんだ!
只野: 鮎川に似合うと思って!この花を君に贈る!愛してる!」
鮎川:「花瓶あそこ。」
佐藤:木曜日
只野:「おはよう!鮎川!今日の体育、鮎川のためにホームランを打つ!
只野: 俺の勇姿、見ててくれ!愛してるぜ!鮎川!」
鮎川:「わたしの席、廊下側だから無理。」
佐藤:そして、再び金曜日
只野:「おはよう!鮎川!今日はついに金曜日だ!
只野: この一週間で、俺は先週の俺よりもさらにいい男になった!
只野: だから今日も放課後、ここで俺の気持ちを聞いてくれ!大好きだ!鮎川!」
鮎川:「・・・だから、もう今告白してんのよ。気づけよ・・・。」
佐藤:「今日も楽しみだね。」
鮎川:「なにが?」
佐藤:「告白。みんなも毎週楽しみにしてるんだよ?」
鮎川:「だから嫌なんでしょうが!あいつのせいで、わたしまで好奇の目にさらされるんだからね!」
佐藤:「でも、いつもちゃんと待ってるじゃん。」
鮎川:「それは・・・、一応、約束だから・・・。」
佐藤:「ふ~ん・・・。」
鮎川:「・・・なに。」
佐藤:「別に。」
0:時間経過
佐藤:そして放課後。
鮎川:「は~、今日もやっと終わった~。(背伸び)んん~、はあ~。・・・ふぅ~。」
佐藤:「さゆ。ねえ、さゆ。」
鮎川:「ん?なに?」
佐藤:「今日は、特別に二人きりにしてあげるから。」
鮎川:「え?」
佐藤:「だから、みんな先に教室を出て、慎太郎と二人きりにしてあげるって言ってるの。」
鮎川:「え?え?なに?なんで?どういうこと?」
佐藤:「ほら。いつもみんなに見られてて素直になりにくいのかと思って。
佐藤: だから、今日は二人きりにしてあげようってみんなで話したんだ。」
鮎川:「ちょ、ちょっと!変な気遣わないでよ。」
佐藤:「あ、慎太郎がそろそろ来るから僕たち行くね。がんばって!」
鮎川:「ちょっと!ひろき!待ってよ!ひろき!」
只野:「あ~ゆくぁわ~!すまない!待たせた!鮎川!今日も綺麗だ!大好きだ~!」
鮎川:「え、あ、ちょ・・・。」
只野:「ん?なんだ?今日はやけに静かだな。まあいい。鮎川!
只野: 今週もただ鮎川のためだけにいい男になろうと努力したつもりだ!
只野: 今週の俺はどうだった!?鮎川の隣に立つにふさわしい男になれたか!?
只野: 鮎川!これからもお前の幸せのために俺は努力し続ける!だから!
只野: 大好きだ!俺と付き合ってくれ!」
鮎川:「・・・・・・。」
只野:「・・・鮎川?」
鮎川:「・・・無理。」
只野:「・・・ダメか?」
鮎川:「・・・無理。」
只野:「・・・そうか。・・・じゃあ、また来週まで・・・」
鮎川:「だから無理だって!」
只野:「・・・鮎川?」
鮎川:「だから!どんなに頑張ったって一生無理なの!」
只野:「一生・・・?」
鮎川:「・・・・・・。」
只野:「・・・そうか。」
鮎川:「そうよ・・・。」
只野:「それでも!いつか鮎川の気が変わるかもしれない。
只野: その時に、鮎川にふさわしい男でいたいと思うから俺は努力をやめるつもりはない!」
鮎川:「・・・あんた、本当のバカだね。」
只野:「バカでもいいさ。」
鮎川:「・・・勝手にすれば。」
只野:「ああ、勝手にするさ。」
鮎川:「じゃ、わたし帰る。」
只野:「そっか。気をつけてな。」
鮎川:「・・・・・・。」
只野:「・・・はあ、今週もダメだったか。さすが鮎川だ。その頂(いただき)は未だ見えず、か。」
佐藤:「慎太郎、どうだった?・・・ダメか。
佐藤: なんでだろ。さゆも慎太郎のこと嫌いじゃないはずなんだけど。」
只野:「俺がまだ、鮎川にふさわしい男じゃないってことだ。」
佐藤:「そんなことないよ。慎太郎はいいやつだし、いい男だよ。」
只野:「ひろき・・・、お前、本当にいいやつだな。」
佐藤:「・・・なんかこれも、毎週言ってる気がするね。」
只野:「ホントだな。」
佐藤:「さ、今日も勉強始めようか。また今夜から山にこもるんでしょ?」
只野:「ああ。週末の山篭りは、もうルーティーンみたいなものだからな。」
佐藤:「ほんっと、漫画みたいなやつだよ、慎太郎は。」
0:佐藤家、弘樹の部屋
佐藤:「はあ~、思ったより遅くなっちゃったな。・・・あれ?部屋の電気が・・・。
佐藤: って、さゆ!?え?なんで僕の部屋に!?」
鮎川:「ちょっとひろき、遅いわよ。どこほっつき歩いてたの?」
佐藤:「え?いや、今日母さんいないから、マック寄りがてら、ちょっと本屋に。」
鮎川:「なら、連絡入れなさいよね。」
佐藤:「え?なんで連絡を・・・」
鮎川:「わかった!?」
佐藤:「は、はい・・・。」
鮎川:「ったく、もう。」
佐藤:「で?どうしたの?何か用?」
鮎川:「・・・ああいうことやめて。」
佐藤:「ああいうこと?」
鮎川:「あのバカと二人きりにするとか。」
佐藤:「ああ、今日も断ったんだって?せっかく二人きりにしてあげ・・・」
鮎川:「だから!やめてって言ってるでしょ!」
佐藤:「さ、さゆ・・・。どうしたの?」
鮎川:「どうもしてない。ただ嫌なだけ。」
佐藤:「何かあった?」
鮎川:「何も無い。」
佐藤:「嘘だ。」
鮎川:「何も無い!」
佐藤:「・・・・・・。」
鮎川:「(苦しみだす)うっ・・・、うぅ・・・。」
佐藤:「さゆ?どうしたの?さゆ!」
鮎川:「あっ、はぁ・・・はぁ・・・、はぁはぁはぁ・・・、大丈夫・・・。」
佐藤:「どこか悪いの?病院は?行く?」
鮎川:「大丈夫・・・。ごめん、お水一杯もらえる?」
佐藤:「うん。ちょっと待ってて。」
0:時間経過
佐藤:薬を飲んで少しして落ち着いてきたさゆは、自分の病気について静かに話し始めた。
佐藤:「・・・え?」
鮎川:「ほら、中学に上がってすぐの頃、わたしちょっとの間入院してたことあるじゃん?
鮎川: その時に色々検査してわかったの。」
佐藤:「そんな・・・。」
鮎川:「最初はさ、わたし自身信じられなくて。だから言わなかったんだけど。
鮎川: 時間が経って『ああ、そうなんだ。わたし死ぬんだ』って思ってからは、なんだか言い出せなくなって。
鮎川: だってさ、ずっと同情されながら生きるのってしんどいじゃん?」
佐藤:「本当なの・・・?」
鮎川:「本当。わたし、二十歳まで生きられないんだって。だから・・・」
佐藤:「なにか!なにか方法は無いの!?外国の、世界一の医者とかならどうにかならないの!?」
鮎川:「まだ治療法が無いんだって。だから誰にも治せないの。
鮎川: それに、そんな医者がいたって現実的に診てもらうのが無理だしね。」
佐藤:「そんな・・・、そんなのって・・・。」
鮎川:「だからさ、もうあのバカをわたしに近づけないで。」
佐藤:「え・・・?」
鮎川:「あのバカ、本当にバカだからさ。このままだと、わたしのこと一生好きでいるとか言い出しそうじゃん?
鮎川: ・・・そんなの、ダメだよ・・・。だから・・・。」
佐藤:「さゆ・・・。」
鮎川:「だからさ、あいつがわたしのことあきらめるように手伝ってよ。
鮎川: そうじゃないと、わたし、残りの人生おもいきり楽しめないの。」
佐藤:「・・・・・・。」
鮎川:「ね、お願い・・・。」
佐藤:「・・・ちょっと考えさせて。」
鮎川:「・・・わかった。それと、この話は只野には言わないで。」
佐藤:「・・・うん。わかった。」
:
佐藤:突然のさゆの告白に、僕は頭の中が真っ白になってしまった。
佐藤:さゆの知られたくない気持ちはわかる。
佐藤:でも、何も知らされない慎太郎はどうなる?
佐藤:本当に言わなくていいんだろうか?
佐藤:どうすればいいのか答えは出ないまま月曜日になった。
:
0:月曜日、学校
鮎川:「おはよ~。」
佐藤:「・・・おはよう。」
鮎川:「なによ、月曜の朝から暗い顔して。しゃきっとしなさい、しゃきっと。」
佐藤:「うん・・・。」
鮎川:「・・・そうなると思ったから言いたくなかったの。」
佐藤:「あ、ごめん・・・。」
鮎川:「いいよ、別に。・・・お母さんも、ひろきにだけは言っておいたほうがいいって。
鮎川: もういつ何があってもおかしくないんだからって・・・。」
佐藤:「さゆ・・・。」
只野:「鮎川~!おはよう!ぐっども~にんぐ!今日もかわいい、笑顔が素敵!
只野: さあ、今週もがんばろう!俺もさらにいい男になれるよう頑張るぜ~!」
鮎川:「うるさい!」
只野:「・・・鮎川?」
鮎川:「先週言ったでしょ!もう忘れたの!?バカなの!?ああそうだ、バカだった!
鮎川: わたしはね、あんたみたいなデリカシーの無いバカは大嫌いなの!
鮎川: だからもう金輪際近づかないで!話しかけないで!視界に入らないで!」
只野:「・・・でも、気持ちは変わるかもしれないし・・・。」
鮎川:「だから!そんなこと、うっ・・・、うぅ・・・。」
只野:「鮎川?」
佐藤:「さゆ!さゆ、大丈夫?さゆ!慎太郎、救急車!」
只野:「え?ひろき?鮎川は・・・?」
佐藤:「いいから!はやく!」
只野:「わ、わかった。」
:
佐藤:さゆは救急車で病院に運ばれた。
佐藤:僕と慎太郎は付き添うことが許されず、そのまま授業を受けることとなった。
佐藤:そして放課後。
:
只野:「・・・ひろき、鮎川のこと、教えてくれ。あれはなんだ?鮎川は、何か病気なのか?」
佐藤:「・・・・・・。」
只野:「ひろき!」
佐藤:「・・・僕も詳しくは知らないんだ。先週の金曜日にさゆから聞かされて・・・。
佐藤: ・・・重い病気なんだって。」
只野:「・・・そうか。それで、入院とかするのか?手術とか?」
佐藤:「・・・・・・。」
只野:「治るんだよな?」
佐藤:「・・・・・・。」
只野:「なあ、ひろき。」
佐藤:「わかんないよ!・・・わかんない。・・・でも。」
只野:「・・・でも?」
佐藤:「・・・さゆは、治らないって。不治の病だって・・・。」
只野:「・・・・・・。」
佐藤:「さゆ・・・、死んじゃうって・・・。」
只野:「!?」
佐藤:「・・・二十歳まで・・・生きられないって・・・言ってた・・・。」
只野:「そ・・・、それ、・・・本当か?」
佐藤:「・・・うん。」
只野:「・・・・・・そうか。」
佐藤:「・・・うん。」
只野:「・・・・・・。
只野: ひろき・・・。放課後の勉強会はもうやめだ。ひろきは鮎川のそばにいてやってくれ。頼む・・・。」
佐藤:「・・・慎太郎?」
:
佐藤:それから一週間ほど休んださゆは、なんでもない顔をして学校に現れた。
鮎川:「ごめんね~、ひろき。世話かけたね。」
佐藤:「ううん。それより、もう大丈夫なの?」
鮎川:「うん。薬を前より強いのに代えてもらったから。
鮎川: その分、さらに疲れやすくなって、運動とかはもうできないけどね。」
佐藤:「あ・・・、だからいつも・・・。」
鮎川:「でもまあ、これで体育は見学でいいからある意味ラッキーだわ。」
佐藤:「さゆ・・・。」
鮎川:「・・・ねえ。・・・あのバカは?」
佐藤:「え?ああ・・・。」
鮎川:「・・・話した?」
佐藤:「・・・ごめん。」
鮎川:「・・・ま、しかたないよ。目の前で倒れちゃったんだし。なんでもないじゃ誤魔化しきれないでしょ。」
佐藤:「うん・・・。」
鮎川:「・・・で、どうだった?」
佐藤:「なにが?」
鮎川:「あいつ。あのバカの反応は。」
佐藤:「・・・思ったより冷静だったって言うか。
佐藤: 説明してる最中は驚いてたけど、それよりも何か思うところがあったみたいで・・・。」
鮎川:「・・・そう。」
佐藤:「そういえば、今日は来ないね。まださゆが学校に来て無いと思ってるのかな?」
鮎川:「さあ?別にどうでもいいよ、あんなやつ。」
佐藤:「さゆ・・・。」
鮎川:「あいつがいないだけで、こんなに穏やかなんだね。こんなに清清しい朝は何年ぶりだろ。」
佐藤:「・・・・・・。」
鮎川:「ほら、いつまでも辛気臭い顔してると本当に怒るよ。しゃきっとしな!」
佐藤:「う、うん・・・。」
:
佐藤:次の日も、その次の日も、慎太郎はうちのクラスに顔を見せなかった。
佐藤:さゆはなんとも無いように振舞っていたけど、時々慎太郎のクラスの方を見てはため息を吐(つ)いていた。
佐藤:そして金曜日・・・。僕は慎太郎に会いに行った。
:
佐藤:「慎太郎・・・。」
只野:「ひろき・・・。何やってるんだ、こんなところで。鮎川はどうした?」
佐藤:「何やってるんだはこっちの台詞だよ。慎太郎は何やってるんだよ。」
只野:「・・・勉強だよ。」
佐藤:「はあ?勉強?なんだよそれ。それって、さゆよりも大切なことか?」
只野:「鮎川のためにやっている。」
佐藤:「さゆのため?また、いい男になるとかってやつ?バカなの?
佐藤: そんなことより、今さゆのそばにいてやれよ!そんなのただの自己満足だろ!」
只野:「・・・今そばにいてやっても、俺が鮎川にしてやれることはない。
只野: だから、今はこれが一番なんだ。俺が、あいつの体を治してやるんだ。」
佐藤:「・・・はは。バカだとは思っていたけど、ここまでバカだったとは・・・。
佐藤: お前なんかがちょっと勉強したくらいで治せる病気ならな、とっくに医者が治してるんだよ!
佐藤: 無理なんだよ!治せないんだよ!だから!今!・・・そばにいてやってくれよ。
佐藤: 頼むよ・・・慎太郎・・・。」
只野:「あきらめない・・・。俺は、絶対にあきらめない・・・。俺が必ず、鮎川を救ってみせる・・・。」
佐藤:「・・・わかった。もういい。お前には頼まない。さゆのことは僕が守る。」
只野:「・・・頼んだ。」
佐藤:「お前に頼まれる筋合いはない!」
:
鮎川:「あ、おかえり。」
佐藤:「ごめん、待たせて。」
鮎川:「ううん、別に。・・・何かあった?」
佐藤:「ううん、何も無いよ。じゃあ、帰ろっか。」
鮎川:「うん。・・・いつもありがとね。」
佐藤:「ん?なにが?」
鮎川:「一緒に帰ってくれて。」
佐藤:「別に。どうせ暇だし。それに、帰り道も全く一緒だしね。」
鮎川:「ふふ、そうだね。じゃあさ、たまにはちょっと寄り道しない?」
佐藤:「え?いいけど、どこ行きたいの?」
鮎川:「駅前の本屋さん。あと、隣のファミレスでパフェ食べたい。」
佐藤:「夕飯前にパフェなんて食べて怒られない?」
鮎川:「もう、子供じゃないんだから。」
佐藤:「そっか。」
0:何かが爆発するような音
佐藤:「っ!・・・なに?今の音?何か爆発した?外が騒がしいけど、外で何か・・・。」
鮎川:「うっ、うぅ・・・。」
佐藤:「!?さゆ?大丈夫?」
鮎川:「あれ・・・?おかしいな・・・。薬、強いのに替えたのに・・・。」
佐藤:「さゆ!今、救急車呼ぶから!ちょっと待って!」
鮎川:「ねえ・・・ひろ、き・・・。苦しいよ・・・。」
佐藤:「さゆ・・・、さゆ!」
鮎川:「わたし、このまま死んじゃうのかな・・・。死にたくない・・・。死にたくないよぉ・・・。」
佐藤:「大丈夫!さゆ、大丈夫だから!」
鮎川:「ひろき・・・。」
佐藤:「さゆ!」
只野(爺):「あゆかわ~!鮎川!大丈夫か!?」
佐藤:「え・・・?誰?このおじいさん。」
鮎川:「・・・知らない。」
只野(爺):「鮎川!さあ、これを飲むんだ!」
佐藤:「え?これは?」
只野(爺):「これは鮎川の病気の特効薬だ!飲みやすいドリンクタイプにしておいた!」
佐藤:「は?」
只野(爺):「さあ!はやくこれを飲むんだ!」
佐藤:「ちょ、ちょっと!っていうか、あなた誰ですか?」
只野(爺):「そんなことはいいから!とりあえずこれを飲ますんだ!はやく!」
佐藤:「は、はい。・・・ほら、さゆ。」
鮎川:「うん・・・。(薬を飲む)」
只野(爺):「・・・どうだ?鮎川。」
鮎川:「・・・あ、胸の苦しいのが収まった。」
只野(爺):「そうか。よかった。」
鮎川:「あの、あなたはいったい・・・。」
只野(爺):「ああ、ずいぶん掛かっちまったからわからないか。俺だ。只野だ。只野慎太郎。」
鮎川:「え・・・?」
佐藤:(二人同時に)「ええ~!?」
鮎川:(二人同時に)「ええ~!?」
佐藤:「え?慎太郎って、あの慎太郎・・・?」
只野(爺):「そうだ。ひろきの友達で、鮎川の彼氏になる男、只野慎太郎だ。」
佐藤:「いやいや、え?どういうこと?僕さっき会ったよね?あれから数分でおじいさんになったってこと?」
只野(爺):「いや、そうじゃない。俺はタイムマシンで未来から来たんだ。」
佐藤:「未来から!?」
只野(爺):「鮎川の病気の治療薬を作るのに、ずいぶん時間が掛かっちまってな。
只野(爺): その時にはもう、鮎川は亡くなってた・・・。ひろきの言ったとおり間に合わなかったんだよ。
只野(爺): だからその後、今度はタイムマシンを作ることにしたんだ。
只野(爺): こうやって生きている頃の鮎川に届けるためにな。」
佐藤:「た、タイムマシン・・・?そんな、本当に・・・?」
只野(爺):「・・・遅くなってすまない、鮎川。でも、これでもう大丈夫だ。鮎川は死なない。」
鮎川:「わたし・・・、本当に治ったの?」
只野(爺):「ああ。未来の医療を舐めるなよ。この程度、簡単に治せるさ。」
鮎川:「只野・・・、ありがとう・・・。」
只野(爺):「鮎川の幸せのためなら何でもするって言ったろ?」
鮎川:「・・・うん。」
佐藤:「・・・じゃあ、本当にもう、さゆは大丈夫なんだね?」
只野(爺):「ああ、もう大丈夫だ。」
佐藤:「そっか、よかった・・・。あ、じゃあ、もう慎太郎も今までどおりでいいってこと?」
鮎川:「え?今までどおりって?」
佐藤:「あいつ、さゆの病気を治すためにずっと勉強してるんだよ。
佐藤: だからあれ以来全然うちのクラスに来なかったんだ。
佐藤: でも、さゆの病気が治ったなら、もうそんな勉強しなくても・・・」
只野(爺):「ダメだ。」
佐藤:「え?どうして・・・。」
只野(爺):「俺が勉強し続けたから、こうして治療薬もタイムマシンも作ることができたんだ。
只野(爺): もし今勉強をやめてしまえば、今のこの俺は消えてしまい、鮎川の病気も治せなくなる。」
佐藤:「え?じゃあ、慎太郎は、さゆとは・・・。」
只野(爺):「・・・しかたないさ。」
佐藤:「そんな・・・。人生かけて助けたのに、そんな結末なんて悲しすぎるよ・・・。」
只野(爺):「いいんだよ。鮎川のために生きてきた人生。めちゃくちゃ充実してた。
只野(爺): こうやって鮎川の病気も治せたし、もう思い残すことは無い。
只野(爺): 鮎川を幸せにすることだけが、俺の人生の目的だからな。
只野(爺): その手助けができただけで俺は十分だ。
只野(爺): あとは、邪魔な老いぼれはただ去るのみ。」
佐藤:「慎太郎・・・。」
鮎川:「待ちなさい。なに勝手にあきらめてんのよ。」
只野(爺):「・・・鮎川?」
鮎川:「わたしのこと勝手に助けて、もうやること終わったから、はいさよなら?
鮎川: あんた、勝手過ぎるでしょ!
鮎川: 自分はもうおじいさんだから、歳が離れたからさようなら?
鮎川: 不治の病を治して、タイムマシンまで作っておきながら何言ってるの!?
鮎川: あきらめるの早すぎでしょ!バカなの!?
鮎川: わたしのこと幸せにするって決めたなら、最後までやり抜きなさいよ!
鮎川: なんでその程度のことであきらめるのよ!
鮎川: 今度は若返りの薬でも発明すればいいじゃない!
鮎川: バカみたいにあきらめ悪いのがあんたでしょうが!
鮎川: わたしに何を言われても、何度でも告白するのがあんたでしょうが!
鮎川: わたしを必ず幸せにするって言ったのは嘘だったの!」
只野(爺):「鮎川・・・。」
鮎川:「わたしのこと、ちゃんと幸せにしなさいよ、バカ・・・。」
只野(爺):「・・・そうだな。俺がバカだった。」
鮎川:「知ってるよ、そんなこと・・・。」
佐藤:「慎太郎・・・、さゆ・・・。よかった。本当によかった・・・。」
只野(爺):「実はな、体を若返らせる技術はもうすでにあるんだ。」
佐藤:「え?そうなの?」
只野(爺):「うん。ただ・・・、その、アレがな。歳取ると減ってしまってな。」
佐藤:「ん?アレ?」
只野(爺):「うん。気持ちは全然萎えて無いんだが、種(たね)の減少を抑えるのはなかなか難しくてな。」
佐藤:「え?それって・・・。」
只野(爺):「まあ最悪、人工授精という手もあるが。やはりそこは、愛ある行為でと思ってな・・・。」
鮎川:「只野・・・。」
只野(爺):「ん?どうした?鮎川。何を怒ってるんだ?」
鮎川:「デリカシーについて勉強してから出直して来い~!」
只野(爺):「ぎゃ~!老人虐待~!助けてくれ、ひろき~!」
鮎川:「こら~!待て~!」
佐藤:「あはははは。」
佐藤:ちょっとカッコ悪いけど、慎太郎はやっぱり本当のヒーローだった。
0:おわり
0:放課後のチャイムの音
鮎川:「はあ~、今週もやっと終わった~。
鮎川: 金曜の午後の授業が一番しんどいわ~。」
佐藤:「お疲れ、さゆ。」
鮎川:「あ、ひろき、おつかれ~。」
佐藤:「なに?ホントにお疲れ?」
鮎川:「金曜だしね。やっと休みか~って感じだもん。」
佐藤:「まだ終わってないでしょ。」
鮎川:「え?」
佐藤:「ほら。恒例の、アレ。」
鮎川:「ちょっと、嫌なこと思い出させないでよ。」
佐藤:「え?なんで?嬉しくないの?」
鮎川:「嬉しくないよ!あんなの!」
佐藤:「ええ~?なんで?あんなに熱烈に・・・って、ほら、噂をすれば、来たみたいだよ。」
只野:「(遠くから)あ~ゆ~か~わ~!うおおおおおおおお!
只野: (教室に入ってきて)鮎川!好きだ!今日も素敵だ!大好きだ!
只野: 今週の俺はどうだった!?鮎川にふさわしい男になれただろうか!?
只野: 必ずお前を幸せにしてみせる!だから鮎川!俺と付き合ってくれ!」
鮎川:「やだ。」
只野:「くああああ!即答~!くうううう!しびれるぜ~!鮎川~!
只野: なあ!俺のどこがダメなんだ!?今すぐ直すから教えてくれ!」
鮎川:「だから!何度も言ってるけど!みんなが見てる前で大声でそういうこと言わないで!恥ずかしいから!」
只野:「なんでだ!何を恥ずかしがることがある!愛とは素晴らしいもの!恥ずかしがる必要なんてない!」
鮎川:「あんたの存在自体が恥ずかしいのよ!」
只野:「なん・・・だと・・・。俺の存在が恥ずかしい・・・。
只野: つまり、俺を前にすると恥ずかしくて素直になれない・・・。
只野: そうか。そういうことだったのか!
只野: 素直になれないそんな鮎川も好きだ~!」
鮎川:「死ね!」
只野:「ぐはぁ!・・・・・・ふっ、照れ屋さんだな・・・。(殴る蹴るされる)げぶぅ!ぐはっ!ひぐっ!ほげぇ!」
佐藤:「ちょっと、さゆ、さすがにそれくらいにしておきなよ。」
鮎川:「まったく。今度変な勘違いしたら本当にただじゃすまないから!
鮎川: ひろき、わたし先に帰るね。」
佐藤:「あ、うん。じゃあね。・・・慎太郎、大丈夫?」
只野:「ふっ、これくらいの愛のムチ、受けきれないでどうする。」
佐藤:「愛のムチとはちょっと違う気がするけど・・・。」
只野:「しかし、今週もダメだったか。しかたない。また一週間、男を磨いて出直してくるか。」
佐藤:「ふふ、懲りないね。」
只野:「懲りる?何をだ?」
佐藤:「さゆに毎週毎週振られ続けて、もう三年半だよ?普通だったらもうとっくにあきらめてるでしょ。」
只野:「あきらめる?何を言ってるんだ。
只野: そんな簡単にあきらめられるなら最初から好きだなんて言わないぞ。
只野: 俺は鮎川を幸せにする、そのために生きると決めたんだ。
只野: 俺があきらめる時は、俺が死ぬときだ。」
佐藤:「・・・ふっ、そっか。」
只野:「ん?何かおかしいか?」
佐藤:「ううん。やっぱ慎太郎はかっこいいなって。」
只野:「そうか?」
佐藤:「うん。これで勉強ができたら言うこと無いんだけどね。」
只野:「くっ、勉強はどうにも苦手で・・・。いや、言い訳はいかんな。
只野: そうだ!この前のテスト、ひろきのおかげで赤点は三教科で済んだぞ!ありがとな!」
佐藤:「そっか。それはよかった。」
只野:「それで、その、もしよかったらなんだが・・・。」
佐藤:「いいよ。僕でよかったら、勉強教えてあげるよ。」
只野:「本当か!?ありがとう!ひろき!」
佐藤:「どうせ部活も入って無いし、放課後の一~二時間でよければ。」
只野:「恩に着る!」
佐藤:「おおげさだな。」
只野:「ひろきは本当にいいやつだな。ひろきが鮎川の友達でほんとによかった。」
佐藤:「・・・そう。僕も慎太郎と友達になれてよかったって思ってるよ。」
0:佐藤家、弘樹の部屋
鮎川:「ひろき~、ゲームしよ~。」
佐藤:「さゆ。いつもノックしてって言ってるでしょ。
佐藤: いくら子供の頃から隣同士だからって、僕らもう高校生なんだから。」
鮎川:「あら、ごめんなさい。ひろきもお年頃だもんね。」
佐藤:「そういう詮索はしなくていいの。」
鮎川:「は~い。・・・何してるの?」
佐藤:「え?ああ。来週から放課後に慎太郎の勉強をみることになって。
佐藤: そのための準備っていうか、簡単な問題をね。」
鮎川:「あんなバカ、いくら勉強したって無駄でしょ。」
佐藤:「そんなことないよ。ちょっとずつだけど、ちゃんと学力は上がってる。
佐藤: 中学のとき学年で一番成績悪かったのに、さゆと同じ学校行きたいからって勉強して、うちの高校に合格したし。
佐藤: 慎太郎は本当にすごいよ。」
鮎川:「それでも、クラスで一二を争うバカだけどね。」
佐藤:「・・・ねえ、そんなに慎太郎のこと嫌い?」
鮎川:「え?・・・別に嫌いってほどじゃないけど。」
佐藤:「じゃあ、なんでそんなに慎太郎のこと拒絶するの?」
鮎川:「それは・・・。デ、デリカシーが無いからよ!」
佐藤:「・・・ああ~、たしかに。」
鮎川:「でしょ!?あんなの獣と一緒だもん。無理に決まってるじゃん!」
佐藤:「う~ん、それでも僕は慎太郎のこと、カッコいいって思ってるんだけどなぁ。ヒーロー漫画の主人公みたいで。」
鮎川:「ヒーローねぇ・・・。」
佐藤:「おかしい?」
鮎川:「そうだね。ひろきも相当変わってるわ。・・・(グラッ)あ、あれ?」
佐藤:「ん?どうした?」
鮎川:「うん、ちょっと・・・。」
佐藤:「なに?具合悪い?」
鮎川:「・・・ううん、大丈夫。」
佐藤:「ほんとに?」
鮎川:「大丈夫だって!・・・わたし、もう帰る。」
佐藤:「え?ちょ・・・。何しにきたんだよ。」
0:学校
佐藤:慎太郎は登校するとまずさゆのところに顔を出す。
佐藤:それがあいつのルーティーンだ。
佐藤:月曜日
只野:「おはよう!鮎川!くぅ~!今日も変わらず可愛いな!
只野: 今週も一緒に頑張ろう!大好きだぜ!鮎川!」
鮎川:「うるさい。さっさと教室行け。」
佐藤:火曜日
只野:「おはよう!鮎川!今日もなんて愛らしいんだ!
只野: 今日も一日、鮎川のことを想ってるぞ!大好きだ!」
鮎川:「余計なこと考えてないで勉強しろ。」
佐藤:水曜日
只野:「おはよう!鮎川!これ、来る途中でみつけたんだ!
只野: 鮎川に似合うと思って!この花を君に贈る!愛してる!」
鮎川:「花瓶あそこ。」
佐藤:木曜日
只野:「おはよう!鮎川!今日の体育、鮎川のためにホームランを打つ!
只野: 俺の勇姿、見ててくれ!愛してるぜ!鮎川!」
鮎川:「わたしの席、廊下側だから無理。」
佐藤:そして、再び金曜日
只野:「おはよう!鮎川!今日はついに金曜日だ!
只野: この一週間で、俺は先週の俺よりもさらにいい男になった!
只野: だから今日も放課後、ここで俺の気持ちを聞いてくれ!大好きだ!鮎川!」
鮎川:「・・・だから、もう今告白してんのよ。気づけよ・・・。」
佐藤:「今日も楽しみだね。」
鮎川:「なにが?」
佐藤:「告白。みんなも毎週楽しみにしてるんだよ?」
鮎川:「だから嫌なんでしょうが!あいつのせいで、わたしまで好奇の目にさらされるんだからね!」
佐藤:「でも、いつもちゃんと待ってるじゃん。」
鮎川:「それは・・・、一応、約束だから・・・。」
佐藤:「ふ~ん・・・。」
鮎川:「・・・なに。」
佐藤:「別に。」
0:時間経過
佐藤:そして放課後。
鮎川:「は~、今日もやっと終わった~。(背伸び)んん~、はあ~。・・・ふぅ~。」
佐藤:「さゆ。ねえ、さゆ。」
鮎川:「ん?なに?」
佐藤:「今日は、特別に二人きりにしてあげるから。」
鮎川:「え?」
佐藤:「だから、みんな先に教室を出て、慎太郎と二人きりにしてあげるって言ってるの。」
鮎川:「え?え?なに?なんで?どういうこと?」
佐藤:「ほら。いつもみんなに見られてて素直になりにくいのかと思って。
佐藤: だから、今日は二人きりにしてあげようってみんなで話したんだ。」
鮎川:「ちょ、ちょっと!変な気遣わないでよ。」
佐藤:「あ、慎太郎がそろそろ来るから僕たち行くね。がんばって!」
鮎川:「ちょっと!ひろき!待ってよ!ひろき!」
只野:「あ~ゆくぁわ~!すまない!待たせた!鮎川!今日も綺麗だ!大好きだ~!」
鮎川:「え、あ、ちょ・・・。」
只野:「ん?なんだ?今日はやけに静かだな。まあいい。鮎川!
只野: 今週もただ鮎川のためだけにいい男になろうと努力したつもりだ!
只野: 今週の俺はどうだった!?鮎川の隣に立つにふさわしい男になれたか!?
只野: 鮎川!これからもお前の幸せのために俺は努力し続ける!だから!
只野: 大好きだ!俺と付き合ってくれ!」
鮎川:「・・・・・・。」
只野:「・・・鮎川?」
鮎川:「・・・無理。」
只野:「・・・ダメか?」
鮎川:「・・・無理。」
只野:「・・・そうか。・・・じゃあ、また来週まで・・・」
鮎川:「だから無理だって!」
只野:「・・・鮎川?」
鮎川:「だから!どんなに頑張ったって一生無理なの!」
只野:「一生・・・?」
鮎川:「・・・・・・。」
只野:「・・・そうか。」
鮎川:「そうよ・・・。」
只野:「それでも!いつか鮎川の気が変わるかもしれない。
只野: その時に、鮎川にふさわしい男でいたいと思うから俺は努力をやめるつもりはない!」
鮎川:「・・・あんた、本当のバカだね。」
只野:「バカでもいいさ。」
鮎川:「・・・勝手にすれば。」
只野:「ああ、勝手にするさ。」
鮎川:「じゃ、わたし帰る。」
只野:「そっか。気をつけてな。」
鮎川:「・・・・・・。」
只野:「・・・はあ、今週もダメだったか。さすが鮎川だ。その頂(いただき)は未だ見えず、か。」
佐藤:「慎太郎、どうだった?・・・ダメか。
佐藤: なんでだろ。さゆも慎太郎のこと嫌いじゃないはずなんだけど。」
只野:「俺がまだ、鮎川にふさわしい男じゃないってことだ。」
佐藤:「そんなことないよ。慎太郎はいいやつだし、いい男だよ。」
只野:「ひろき・・・、お前、本当にいいやつだな。」
佐藤:「・・・なんかこれも、毎週言ってる気がするね。」
只野:「ホントだな。」
佐藤:「さ、今日も勉強始めようか。また今夜から山にこもるんでしょ?」
只野:「ああ。週末の山篭りは、もうルーティーンみたいなものだからな。」
佐藤:「ほんっと、漫画みたいなやつだよ、慎太郎は。」
0:佐藤家、弘樹の部屋
佐藤:「はあ~、思ったより遅くなっちゃったな。・・・あれ?部屋の電気が・・・。
佐藤: って、さゆ!?え?なんで僕の部屋に!?」
鮎川:「ちょっとひろき、遅いわよ。どこほっつき歩いてたの?」
佐藤:「え?いや、今日母さんいないから、マック寄りがてら、ちょっと本屋に。」
鮎川:「なら、連絡入れなさいよね。」
佐藤:「え?なんで連絡を・・・」
鮎川:「わかった!?」
佐藤:「は、はい・・・。」
鮎川:「ったく、もう。」
佐藤:「で?どうしたの?何か用?」
鮎川:「・・・ああいうことやめて。」
佐藤:「ああいうこと?」
鮎川:「あのバカと二人きりにするとか。」
佐藤:「ああ、今日も断ったんだって?せっかく二人きりにしてあげ・・・」
鮎川:「だから!やめてって言ってるでしょ!」
佐藤:「さ、さゆ・・・。どうしたの?」
鮎川:「どうもしてない。ただ嫌なだけ。」
佐藤:「何かあった?」
鮎川:「何も無い。」
佐藤:「嘘だ。」
鮎川:「何も無い!」
佐藤:「・・・・・・。」
鮎川:「(苦しみだす)うっ・・・、うぅ・・・。」
佐藤:「さゆ?どうしたの?さゆ!」
鮎川:「あっ、はぁ・・・はぁ・・・、はぁはぁはぁ・・・、大丈夫・・・。」
佐藤:「どこか悪いの?病院は?行く?」
鮎川:「大丈夫・・・。ごめん、お水一杯もらえる?」
佐藤:「うん。ちょっと待ってて。」
0:時間経過
佐藤:薬を飲んで少しして落ち着いてきたさゆは、自分の病気について静かに話し始めた。
佐藤:「・・・え?」
鮎川:「ほら、中学に上がってすぐの頃、わたしちょっとの間入院してたことあるじゃん?
鮎川: その時に色々検査してわかったの。」
佐藤:「そんな・・・。」
鮎川:「最初はさ、わたし自身信じられなくて。だから言わなかったんだけど。
鮎川: 時間が経って『ああ、そうなんだ。わたし死ぬんだ』って思ってからは、なんだか言い出せなくなって。
鮎川: だってさ、ずっと同情されながら生きるのってしんどいじゃん?」
佐藤:「本当なの・・・?」
鮎川:「本当。わたし、二十歳まで生きられないんだって。だから・・・」
佐藤:「なにか!なにか方法は無いの!?外国の、世界一の医者とかならどうにかならないの!?」
鮎川:「まだ治療法が無いんだって。だから誰にも治せないの。
鮎川: それに、そんな医者がいたって現実的に診てもらうのが無理だしね。」
佐藤:「そんな・・・、そんなのって・・・。」
鮎川:「だからさ、もうあのバカをわたしに近づけないで。」
佐藤:「え・・・?」
鮎川:「あのバカ、本当にバカだからさ。このままだと、わたしのこと一生好きでいるとか言い出しそうじゃん?
鮎川: ・・・そんなの、ダメだよ・・・。だから・・・。」
佐藤:「さゆ・・・。」
鮎川:「だからさ、あいつがわたしのことあきらめるように手伝ってよ。
鮎川: そうじゃないと、わたし、残りの人生おもいきり楽しめないの。」
佐藤:「・・・・・・。」
鮎川:「ね、お願い・・・。」
佐藤:「・・・ちょっと考えさせて。」
鮎川:「・・・わかった。それと、この話は只野には言わないで。」
佐藤:「・・・うん。わかった。」
:
佐藤:突然のさゆの告白に、僕は頭の中が真っ白になってしまった。
佐藤:さゆの知られたくない気持ちはわかる。
佐藤:でも、何も知らされない慎太郎はどうなる?
佐藤:本当に言わなくていいんだろうか?
佐藤:どうすればいいのか答えは出ないまま月曜日になった。
:
0:月曜日、学校
鮎川:「おはよ~。」
佐藤:「・・・おはよう。」
鮎川:「なによ、月曜の朝から暗い顔して。しゃきっとしなさい、しゃきっと。」
佐藤:「うん・・・。」
鮎川:「・・・そうなると思ったから言いたくなかったの。」
佐藤:「あ、ごめん・・・。」
鮎川:「いいよ、別に。・・・お母さんも、ひろきにだけは言っておいたほうがいいって。
鮎川: もういつ何があってもおかしくないんだからって・・・。」
佐藤:「さゆ・・・。」
只野:「鮎川~!おはよう!ぐっども~にんぐ!今日もかわいい、笑顔が素敵!
只野: さあ、今週もがんばろう!俺もさらにいい男になれるよう頑張るぜ~!」
鮎川:「うるさい!」
只野:「・・・鮎川?」
鮎川:「先週言ったでしょ!もう忘れたの!?バカなの!?ああそうだ、バカだった!
鮎川: わたしはね、あんたみたいなデリカシーの無いバカは大嫌いなの!
鮎川: だからもう金輪際近づかないで!話しかけないで!視界に入らないで!」
只野:「・・・でも、気持ちは変わるかもしれないし・・・。」
鮎川:「だから!そんなこと、うっ・・・、うぅ・・・。」
只野:「鮎川?」
佐藤:「さゆ!さゆ、大丈夫?さゆ!慎太郎、救急車!」
只野:「え?ひろき?鮎川は・・・?」
佐藤:「いいから!はやく!」
只野:「わ、わかった。」
:
佐藤:さゆは救急車で病院に運ばれた。
佐藤:僕と慎太郎は付き添うことが許されず、そのまま授業を受けることとなった。
佐藤:そして放課後。
:
只野:「・・・ひろき、鮎川のこと、教えてくれ。あれはなんだ?鮎川は、何か病気なのか?」
佐藤:「・・・・・・。」
只野:「ひろき!」
佐藤:「・・・僕も詳しくは知らないんだ。先週の金曜日にさゆから聞かされて・・・。
佐藤: ・・・重い病気なんだって。」
只野:「・・・そうか。それで、入院とかするのか?手術とか?」
佐藤:「・・・・・・。」
只野:「治るんだよな?」
佐藤:「・・・・・・。」
只野:「なあ、ひろき。」
佐藤:「わかんないよ!・・・わかんない。・・・でも。」
只野:「・・・でも?」
佐藤:「・・・さゆは、治らないって。不治の病だって・・・。」
只野:「・・・・・・。」
佐藤:「さゆ・・・、死んじゃうって・・・。」
只野:「!?」
佐藤:「・・・二十歳まで・・・生きられないって・・・言ってた・・・。」
只野:「そ・・・、それ、・・・本当か?」
佐藤:「・・・うん。」
只野:「・・・・・・そうか。」
佐藤:「・・・うん。」
只野:「・・・・・・。
只野: ひろき・・・。放課後の勉強会はもうやめだ。ひろきは鮎川のそばにいてやってくれ。頼む・・・。」
佐藤:「・・・慎太郎?」
:
佐藤:それから一週間ほど休んださゆは、なんでもない顔をして学校に現れた。
鮎川:「ごめんね~、ひろき。世話かけたね。」
佐藤:「ううん。それより、もう大丈夫なの?」
鮎川:「うん。薬を前より強いのに代えてもらったから。
鮎川: その分、さらに疲れやすくなって、運動とかはもうできないけどね。」
佐藤:「あ・・・、だからいつも・・・。」
鮎川:「でもまあ、これで体育は見学でいいからある意味ラッキーだわ。」
佐藤:「さゆ・・・。」
鮎川:「・・・ねえ。・・・あのバカは?」
佐藤:「え?ああ・・・。」
鮎川:「・・・話した?」
佐藤:「・・・ごめん。」
鮎川:「・・・ま、しかたないよ。目の前で倒れちゃったんだし。なんでもないじゃ誤魔化しきれないでしょ。」
佐藤:「うん・・・。」
鮎川:「・・・で、どうだった?」
佐藤:「なにが?」
鮎川:「あいつ。あのバカの反応は。」
佐藤:「・・・思ったより冷静だったって言うか。
佐藤: 説明してる最中は驚いてたけど、それよりも何か思うところがあったみたいで・・・。」
鮎川:「・・・そう。」
佐藤:「そういえば、今日は来ないね。まださゆが学校に来て無いと思ってるのかな?」
鮎川:「さあ?別にどうでもいいよ、あんなやつ。」
佐藤:「さゆ・・・。」
鮎川:「あいつがいないだけで、こんなに穏やかなんだね。こんなに清清しい朝は何年ぶりだろ。」
佐藤:「・・・・・・。」
鮎川:「ほら、いつまでも辛気臭い顔してると本当に怒るよ。しゃきっとしな!」
佐藤:「う、うん・・・。」
:
佐藤:次の日も、その次の日も、慎太郎はうちのクラスに顔を見せなかった。
佐藤:さゆはなんとも無いように振舞っていたけど、時々慎太郎のクラスの方を見てはため息を吐(つ)いていた。
佐藤:そして金曜日・・・。僕は慎太郎に会いに行った。
:
佐藤:「慎太郎・・・。」
只野:「ひろき・・・。何やってるんだ、こんなところで。鮎川はどうした?」
佐藤:「何やってるんだはこっちの台詞だよ。慎太郎は何やってるんだよ。」
只野:「・・・勉強だよ。」
佐藤:「はあ?勉強?なんだよそれ。それって、さゆよりも大切なことか?」
只野:「鮎川のためにやっている。」
佐藤:「さゆのため?また、いい男になるとかってやつ?バカなの?
佐藤: そんなことより、今さゆのそばにいてやれよ!そんなのただの自己満足だろ!」
只野:「・・・今そばにいてやっても、俺が鮎川にしてやれることはない。
只野: だから、今はこれが一番なんだ。俺が、あいつの体を治してやるんだ。」
佐藤:「・・・はは。バカだとは思っていたけど、ここまでバカだったとは・・・。
佐藤: お前なんかがちょっと勉強したくらいで治せる病気ならな、とっくに医者が治してるんだよ!
佐藤: 無理なんだよ!治せないんだよ!だから!今!・・・そばにいてやってくれよ。
佐藤: 頼むよ・・・慎太郎・・・。」
只野:「あきらめない・・・。俺は、絶対にあきらめない・・・。俺が必ず、鮎川を救ってみせる・・・。」
佐藤:「・・・わかった。もういい。お前には頼まない。さゆのことは僕が守る。」
只野:「・・・頼んだ。」
佐藤:「お前に頼まれる筋合いはない!」
:
鮎川:「あ、おかえり。」
佐藤:「ごめん、待たせて。」
鮎川:「ううん、別に。・・・何かあった?」
佐藤:「ううん、何も無いよ。じゃあ、帰ろっか。」
鮎川:「うん。・・・いつもありがとね。」
佐藤:「ん?なにが?」
鮎川:「一緒に帰ってくれて。」
佐藤:「別に。どうせ暇だし。それに、帰り道も全く一緒だしね。」
鮎川:「ふふ、そうだね。じゃあさ、たまにはちょっと寄り道しない?」
佐藤:「え?いいけど、どこ行きたいの?」
鮎川:「駅前の本屋さん。あと、隣のファミレスでパフェ食べたい。」
佐藤:「夕飯前にパフェなんて食べて怒られない?」
鮎川:「もう、子供じゃないんだから。」
佐藤:「そっか。」
0:何かが爆発するような音
佐藤:「っ!・・・なに?今の音?何か爆発した?外が騒がしいけど、外で何か・・・。」
鮎川:「うっ、うぅ・・・。」
佐藤:「!?さゆ?大丈夫?」
鮎川:「あれ・・・?おかしいな・・・。薬、強いのに替えたのに・・・。」
佐藤:「さゆ!今、救急車呼ぶから!ちょっと待って!」
鮎川:「ねえ・・・ひろ、き・・・。苦しいよ・・・。」
佐藤:「さゆ・・・、さゆ!」
鮎川:「わたし、このまま死んじゃうのかな・・・。死にたくない・・・。死にたくないよぉ・・・。」
佐藤:「大丈夫!さゆ、大丈夫だから!」
鮎川:「ひろき・・・。」
佐藤:「さゆ!」
只野(爺):「あゆかわ~!鮎川!大丈夫か!?」
佐藤:「え・・・?誰?このおじいさん。」
鮎川:「・・・知らない。」
只野(爺):「鮎川!さあ、これを飲むんだ!」
佐藤:「え?これは?」
只野(爺):「これは鮎川の病気の特効薬だ!飲みやすいドリンクタイプにしておいた!」
佐藤:「は?」
只野(爺):「さあ!はやくこれを飲むんだ!」
佐藤:「ちょ、ちょっと!っていうか、あなた誰ですか?」
只野(爺):「そんなことはいいから!とりあえずこれを飲ますんだ!はやく!」
佐藤:「は、はい。・・・ほら、さゆ。」
鮎川:「うん・・・。(薬を飲む)」
只野(爺):「・・・どうだ?鮎川。」
鮎川:「・・・あ、胸の苦しいのが収まった。」
只野(爺):「そうか。よかった。」
鮎川:「あの、あなたはいったい・・・。」
只野(爺):「ああ、ずいぶん掛かっちまったからわからないか。俺だ。只野だ。只野慎太郎。」
鮎川:「え・・・?」
佐藤:(二人同時に)「ええ~!?」
鮎川:(二人同時に)「ええ~!?」
佐藤:「え?慎太郎って、あの慎太郎・・・?」
只野(爺):「そうだ。ひろきの友達で、鮎川の彼氏になる男、只野慎太郎だ。」
佐藤:「いやいや、え?どういうこと?僕さっき会ったよね?あれから数分でおじいさんになったってこと?」
只野(爺):「いや、そうじゃない。俺はタイムマシンで未来から来たんだ。」
佐藤:「未来から!?」
只野(爺):「鮎川の病気の治療薬を作るのに、ずいぶん時間が掛かっちまってな。
只野(爺): その時にはもう、鮎川は亡くなってた・・・。ひろきの言ったとおり間に合わなかったんだよ。
只野(爺): だからその後、今度はタイムマシンを作ることにしたんだ。
只野(爺): こうやって生きている頃の鮎川に届けるためにな。」
佐藤:「た、タイムマシン・・・?そんな、本当に・・・?」
只野(爺):「・・・遅くなってすまない、鮎川。でも、これでもう大丈夫だ。鮎川は死なない。」
鮎川:「わたし・・・、本当に治ったの?」
只野(爺):「ああ。未来の医療を舐めるなよ。この程度、簡単に治せるさ。」
鮎川:「只野・・・、ありがとう・・・。」
只野(爺):「鮎川の幸せのためなら何でもするって言ったろ?」
鮎川:「・・・うん。」
佐藤:「・・・じゃあ、本当にもう、さゆは大丈夫なんだね?」
只野(爺):「ああ、もう大丈夫だ。」
佐藤:「そっか、よかった・・・。あ、じゃあ、もう慎太郎も今までどおりでいいってこと?」
鮎川:「え?今までどおりって?」
佐藤:「あいつ、さゆの病気を治すためにずっと勉強してるんだよ。
佐藤: だからあれ以来全然うちのクラスに来なかったんだ。
佐藤: でも、さゆの病気が治ったなら、もうそんな勉強しなくても・・・」
只野(爺):「ダメだ。」
佐藤:「え?どうして・・・。」
只野(爺):「俺が勉強し続けたから、こうして治療薬もタイムマシンも作ることができたんだ。
只野(爺): もし今勉強をやめてしまえば、今のこの俺は消えてしまい、鮎川の病気も治せなくなる。」
佐藤:「え?じゃあ、慎太郎は、さゆとは・・・。」
只野(爺):「・・・しかたないさ。」
佐藤:「そんな・・・。人生かけて助けたのに、そんな結末なんて悲しすぎるよ・・・。」
只野(爺):「いいんだよ。鮎川のために生きてきた人生。めちゃくちゃ充実してた。
只野(爺): こうやって鮎川の病気も治せたし、もう思い残すことは無い。
只野(爺): 鮎川を幸せにすることだけが、俺の人生の目的だからな。
只野(爺): その手助けができただけで俺は十分だ。
只野(爺): あとは、邪魔な老いぼれはただ去るのみ。」
佐藤:「慎太郎・・・。」
鮎川:「待ちなさい。なに勝手にあきらめてんのよ。」
只野(爺):「・・・鮎川?」
鮎川:「わたしのこと勝手に助けて、もうやること終わったから、はいさよなら?
鮎川: あんた、勝手過ぎるでしょ!
鮎川: 自分はもうおじいさんだから、歳が離れたからさようなら?
鮎川: 不治の病を治して、タイムマシンまで作っておきながら何言ってるの!?
鮎川: あきらめるの早すぎでしょ!バカなの!?
鮎川: わたしのこと幸せにするって決めたなら、最後までやり抜きなさいよ!
鮎川: なんでその程度のことであきらめるのよ!
鮎川: 今度は若返りの薬でも発明すればいいじゃない!
鮎川: バカみたいにあきらめ悪いのがあんたでしょうが!
鮎川: わたしに何を言われても、何度でも告白するのがあんたでしょうが!
鮎川: わたしを必ず幸せにするって言ったのは嘘だったの!」
只野(爺):「鮎川・・・。」
鮎川:「わたしのこと、ちゃんと幸せにしなさいよ、バカ・・・。」
只野(爺):「・・・そうだな。俺がバカだった。」
鮎川:「知ってるよ、そんなこと・・・。」
佐藤:「慎太郎・・・、さゆ・・・。よかった。本当によかった・・・。」
只野(爺):「実はな、体を若返らせる技術はもうすでにあるんだ。」
佐藤:「え?そうなの?」
只野(爺):「うん。ただ・・・、その、アレがな。歳取ると減ってしまってな。」
佐藤:「ん?アレ?」
只野(爺):「うん。気持ちは全然萎えて無いんだが、種(たね)の減少を抑えるのはなかなか難しくてな。」
佐藤:「え?それって・・・。」
只野(爺):「まあ最悪、人工授精という手もあるが。やはりそこは、愛ある行為でと思ってな・・・。」
鮎川:「只野・・・。」
只野(爺):「ん?どうした?鮎川。何を怒ってるんだ?」
鮎川:「デリカシーについて勉強してから出直して来い~!」
只野(爺):「ぎゃ~!老人虐待~!助けてくれ、ひろき~!」
鮎川:「こら~!待て~!」
佐藤:「あはははは。」
佐藤:ちょっとカッコ悪いけど、慎太郎はやっぱり本当のヒーローだった。
0:おわり