台本概要
563 views
タイトル | 実相寺実彦の受難 |
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作者名 | 熊野むっち (@mucchi_0908) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 3人用台本(男3) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
【声劇配信時の規約】 ・配信時に作者名および作品名を記載 ※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。 (投げ銭の有無、有償無償に関わらず) 563 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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四ノ宮 | 男 | 114 | 四ノ宮(しのみや) 新人脚本家。 ※劇中劇内で兼ね役があります。(ヤクザA・バーのマスター・少女・店長) |
六本木 | 男 | 137 | 六本木(ろっぽんぎ) プロデューサー。 ※劇中劇内で兼ね役があります。(ヤクザB・ヤクザの幹部・バイト・鳩) |
実相寺 | 男 | 64 | 実相寺 実彦(じっそうじ さねひこ) 四ノ宮が書くドラマ「実相寺実彦の受難」の主人公。 ※劇中劇内で兼ね役があります。(AD) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
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:タイトル
: 【実相寺実彦の受難(じっそうじ さねひこの じゅなん】作・ムッチ
:
:登場人物
:
四ノ宮:
四ノ宮:(配役が決まったらここをタップしてください)
四ノ宮:四ノ宮(しのみや)
四ノ宮:新人脚本家。
四ノ宮:※劇中劇内で兼ね役があります。(ヤクザA・バーのマスター・少女・店長)
:
六本木:
六本木:(配役が決まったらここをタップしてください)
六本木:六本木(ろっぽんぎ)
六本木:プロデューサー。
六本木:※劇中劇内で兼ね役があります。(ヤクザB・ヤクザの幹部・バイト・鳩)
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実相寺:
実相寺:(配役が決まったらここをタップしてください)
実相寺:実相寺 実彦(じっそうじ さねひこ)
実相寺:四ノ宮が書くドラマ「実相寺実彦の受難」の主人公。
実相寺:※劇中劇内で兼ね役があります。(AD)
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0:深夜の埠頭。全身黒い衣服に身を包んだ一人の男が浮かび上がる。
0: ※劇中劇のシーンです
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実相寺:(モノローグ)映画や小説の一場面で、血の味を、鉄のようだと形容するのをよく見かけるが、そいつは本当に鉄を喰った事があるんだろうか?
実相寺:短い煙草を燻らせ(くゆらせ)ながら、俺はそんな事を考えていた…。
実相寺:
実相寺:残念ながら俺の鉛玉を喰らった奴らには、それを聞き出す術がない。それを俺が知るのは、俺自身が鉛玉を喰らって、地獄に落ちた時だけだ。
実相寺:どのみち生きてる間にそれを知る必要もない、か…。俺は考えるのを止めて、吸っていた煙草を投げ捨てた。
実相寺:
実相寺:俺の名は実相寺実彦(じっそうじ さねひこ)。このすえた匂いの漂う、ドブみたいな街の掃除屋…ヒットマンだ…。
実相寺:
実相寺:パン職人が早朝、オーブンから焼き立てのパンを取り出すように、配管工が深夜、慣れた手つきで緩んだボルトを締め付けるように、
実相寺:俺は、表のルールじゃ裁けない人間を、裏の流儀で始末する…。
実相寺:
実相寺:俺はいつもと変わらない調子で、銃を構えたままドアを蹴破った。
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0:SE「ドアを蹴破る音」
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四ノ宮:ヤクザA「ぬお…!なんやワレ!どこの組のもんじゃい!?
四ノ宮:ここを獄獣連合直系荒鷲会(ごくじゅうれんごう ちょっけい こうしゅうかい)の事務所やとわかっててカチコミかけとんのやろなあ!?」
:
SE:銃声
:
実相寺:扉近くに立っていた男の額に、俺は正確に弾丸を打ち込んだ。
:
四ノ宮:ヤクザA「ガハッ!(絶命する)」
:
実相寺:すぐさま、俺は絶命した男の身体を引き寄せながら周囲を確認する。ソファに2人、奥の部屋に3人、いや4人か…。
:
六本木:ヤクザB「かっ、カチコミじゃあ!」
:
:
0:SE「銃撃戦」
:
:
実相寺:(モノローグ)俺は絶命した男を弾よけにしながら、1人、また1人と順に鉛玉をぶち込んでいく。
:
六本木:ヤクザB「ヒッ、ヒィイイイ!やめろぉ!やめてくれぇ!!」
:
実相寺:この世の中は様々なプロの仕事で成り立ってる…。パンを焼くプロ、配管を直すプロ…
実相寺:なあ?お前もそうは思わないか?
:
六本木:ヤクザB「な、なに言ってやがる!?」
:
実相寺:俺もそんな、プロの1人でありたいと願ってるんだ…。…お前らゴミ共を、掃除するプロさ。
:
0:SE「銃声」
:
六本木:ヤクザB「グハッ!!」
:
実相寺:(モノローグ)掃除を終えた俺は、再び短い煙草に火を付け、車を走らせた…。
実相寺:ヘッドライトが虚構の街と乾いた俺の心を照らし出した。
:
:
0:場所は変わり喫茶店の店内。
0:新人脚本家の四ノ宮とプロデューサーの六本木が向かい合わせで座っている。
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四ノ宮:…どうですか?六本木さん。
:
六本木:もうめちゃくちゃ良かったよ~!四ノ宮ちゃんの書く裏社会モノ。行間から漂う血と硝煙(しょうえん)の香り!とめどなく溢れる危険な衝動!もうこれは四ノ宮ちゃんの最高傑作になる事間違い無し!
:
四ノ宮:(少し照れながら)あ、有難うございます。
:
六本木:これ絶対、主演のブルギル鮒夫(ふなお)さんも喜んでくれるよ~!
:
四ノ宮:ほんとですか!?(小さくガッツポーズ)…やった!
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六本木:いや、ほんとほんと。すっごい良いホンだと思うよ。
:
四ノ宮:有難うございます!
:
六本木:…すごい良いホンだと思うんだけど、ちょっとだけ手直しが必要かな。
:
四ノ宮:はい!もちろん!これが第一稿なので、そのまま採用されるなんて事は僕も思ってません!
四ノ宮:時間の許す限り加筆修正して、皆さんのご期待に沿える物にしたいと思ってます!
:
六本木:ほんとありがとねー、四ノ宮ちゃん。
:
四ノ宮:で、どこら辺が気になりましたか?やっぱり暴力シーンですか?
:
六本木:(考えている)うーん…
:
四ノ宮:いや、ご存知の通り、なにぶん僕もテレビドラマの脚本を担当するのは今回が初めてなもんですから。
四ノ宮:自分の書いた暴力描写とかがテレビの放送倫理上(ほうそうりんりじょう)どうなのか、とかは正直いまいちわかってなくてですね…。
:
六本木:あーいや、そこは全然良かったよ!
:
四ノ宮:え?そうなんですか?
:
六本木:額を打ち抜くとことか、絶対盛り上がるよ~!あそこはVFX(ブイエフエックス)なんかに頼らずに、血糊(ちのり)をふんだんに使いたいね~!
:
四ノ宮:えっと、じゃあどこが気になったんですか?
:
六本木:(少しだけ言いづらそうに)…んとね、タバコのシーンがね。
:
四ノ宮:あ、はい。
:
六本木:主人公の、薬師寺(やくしじ)がね、
:
四ノ宮:あっ、実相寺です。
:
六本木:あー、そっか。…実相寺がね、タバコをこう…(投げるしぐさをして)ポイ捨てするじゃん?
:
四ノ宮:あ、はい…。
:
六本木:あれがねー、ちょっとねー。
:
四ノ宮:あーすいません!それだったら全然書き直します!
:
六本木:いや、ごめんねー。今さ、こういう描写すごいうるさいのよー!コンプラ的に。
:
四ノ宮:はあ…。
:
六本木:ほら、健康増進法(けんこうぞうしんほう)の改正とか、都の環境美化条例(かんきょうびかじょうれい)とかの絡みがあってさ~。局内でも結構神経使っちゃうんだよー。
:
四ノ宮:ああ、それはすいません。勉強不足でした。
四ノ宮:…で、どんな感じに書き直せばいいですかね?
:
六本木:やっぱりご時世的には電子タバコとかになるのかな?
:
四ノ宮:え!?…電子タバコ、ですか。
:
六本木:あー、でもやっぱ、プロの殺し屋が電子タバコってのはちょっと…アレだな。
:
四ノ宮:ええ!ですよね!
:
六本木:じゃあさ、ポケット灰皿使う事にしようよ。
:
四ノ宮:え!?
:
六本木:タバコはオッケーだけど、ポイ捨てがダメな訳だからさ。ポケット灰皿使えば、万事解決だよね。
:
四ノ宮:(思うところがあるが反論は出来ない)あー、えー、あー、その、まあ(渋々承諾する)はあ…。
:
六本木:じゃあそれで。お願いしまーす。あー、あとさ、もう一箇所、気になるところがあるんだよね~。
:
四ノ宮:あっ、はい!
:
六本木:この、殺しの仕事を終えた天王寺(てんのうじ)が車に乗るところがあんじゃん?
:
四ノ宮:えっと、実相寺です…。
:
六本木:そう、実相寺がね、車に乗るとこ。ここさ、ト書きをよく読むとね、
:
四ノ宮:はい。
:
六本木:【シートベルトを着ける】ってどこにも書いてないのよ。
:
四ノ宮:え!?…シートベルト、ですか…。
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六本木:そう、シートベルト。これさ、 道路交通法違反でしょ?シートベルト装着義務違反だよね?
:
四ノ宮:え、でも、バンバン人撃っちゃってますから!もう既に殺人の罪とか負っちゃってますから!…たぶん主人公はシートベルトなんて気にしてないんじゃないですかね…。
:
六本木:いや、そこはさ、フィクションだから別にいいのよ。
:
四ノ宮:え!でも!
:
六本木:(遮って)だから、シートベルト着けずに撮影したらさ、撮影中に俳優が道路交通法違反してたって言われちゃうんだよー!
:
四ノ宮:ああ…なるほど…。
:
六本木:だから、ここはしっかり、シートベルトを着用したってわかる件(くだり)が欲しいんだよね~
:
四ノ宮:いや、でも、やっぱり、シートベルトは…殺し屋のイメージに…
:
六本木:(また遮って)ね!四ノ宮ちゃん、お願い!ここはひとつ、俺の顔を立てると思ってさ!
:
四ノ宮:…わかりました。そういう事でしたら致し方ありませんね…。
:
六本木:ありがとね!もう上がね、コンプラコンプラってうるさい訳よ~!
:
四ノ宮:はい…。
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六本木:じゃあ、今言った箇所の手直しと、次の回の原稿書けたら、また連絡して。
:
四ノ宮:(不服そうに)はい…。
:
六本木:あー、ここ、支払い、俺払っとくから。
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四ノ宮:あっ、いつもすみません。
:
六本木:いいのいいの!じゃ、期待してますよ~!四ノ宮ちゃん!
:
四ノ宮:お疲れ様でした…。
:
六本木:はい、お疲れちゃん~(店を出ていく)
:
四ノ宮:(深いため息)はあ…。
:
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0:再び場面は深夜の埠頭。全身黒い衣服に身を包んだ一人の男が浮かび上がる。
0: ※劇中劇のシーンです
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実相寺:(モノローグ)映画や小説の一場面で、血の味を、鉄のようだと形容するのをよく見かけるが、そいつは本当に鉄を喰った事があるんだろうか?
実相寺:短い煙草を燻らせ(くゆらせ)ながら、俺はそんな事を考えていた…。
実相寺:
実相寺:残念ながら俺の鉛玉を喰らった奴らには、それを聞き出す術がない。それを俺が知るのは、俺自身が鉛玉を喰らって、地獄に落ちた時だけだ。
実相寺:どのみち生きてる間にそれを知る必要もない、か…。俺は吸いかけた煙草を一息で吸いきり、(少しの間)カバンからポケット灰皿を取り出した…。
実相寺:
実相寺:現在は様々な種類のある携帯灰皿の中でも、最もスタンダードな形状である、ポケットタイプの携帯灰皿、それがポケット灰皿だ…。
実相寺:その名の通りポケットに入れられるサイズなのが特徴で、スリムで持ち運びが容易なため、携帯性に優れている。
実相寺:俺の愛用のポケット灰皿は、カードケースのようなおしゃれなデザインに、髑髏(どくろ)をあしらったボタンが付いている、俺のお気に入りの逸品だ…。
実相寺:
実相寺:俺の名は実相寺実彦(じっそうじ さねひこ)。このすえた匂いの漂う、ドブみたいな街の掃除屋…ヒットマンだ…。
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:
0:場面は変わり喫茶店の店内。
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:
四ノ宮:どう…ですかね?
:
六本木:おお、いいじゃんいいじゃん!なんか意外と、裏社会物でも、ポケット灰皿しっくりくるね~!
:
四ノ宮:有難うございます!せめてもの抵抗に、ポケット灰皿に髑髏(どくろ)をあしらったボタンを付けてみました…。
:
六本木:うん!いいね~!これグッズ展開とかもいけるんじゃない?延暦寺(えんりゃくじ)モデルのポケット灰皿!!
:
四ノ宮:えと、実相寺です…。
:
六本木:うん!実相寺モデルね!よし!じゃあ次のシーンいってみよう!
:
四ノ宮:はい…。
:
:
0:場面変わり、先ほどの物語の続きになる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
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実相寺:この世の中は様々なプロの仕事で成り立ってる…。パンを焼くプロ、配管を直すプロ…
実相寺:なあ?お前もそうは思わないか?
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六本木:ヤクザB「な、なに言ってやがる!?」
:
実相寺:俺もそんな、プロの1人でありたいと願ってるんだ…。…お前らゴミ共を、掃除するプロさ。
:
0:SE「銃声」
:
六本木:ヤクザB「グハッ!!」
:
実相寺:(モノローグ)掃除を終えた俺は、再び短い煙草に火を付け、車に乗り込んだ。
実相寺:
実相寺:(唐突に)…おっと、ここで忘れちゃいけないのがシートベルトだ!
実相寺:
実相寺:カチっと、小気味良い音をたてて、俺はシートベルトを装着した。いついかなる時も安全への意識を怠らない、これもまたプロの仕事だ…。
実相寺:安全で快適な運転に不可欠なシートベルト。俺はそんなシートベルトに思いを馳せながら、夜の街へ吸い込まれていくのだった。ポケット灰皿を携えて(たずさえて)…。
:
:
0:場面は変わり喫茶店の店内。
:
:
六本木:お~!いいねいいね~!頼んだとこ、ちゃんと直してくれてるじゃ~ん!
:
四ノ宮:あの、勢いで書ききっちゃったんですけど…これ大丈夫ですかね?
:
六本木:大丈夫大丈夫!これでコンプラもクリアになったし、完璧だね!
:
四ノ宮:でも、裏社会の殺し屋が、ポイ捨て気にしたり、運転する時に「安全への意識を怠らない」とか言っちゃったり…。
:
六本木:なんだよ~!自分で書いたんだろ~!?
:
四ノ宮:いや、まあ、そうなんですけど…。なんか不安になってきちゃって…。
:
六本木:最初のより全然良くなったよ~!もっと自信持って。ね?
:
四ノ宮:はあ…
:
六本木:そんな事より、第2話の原稿、早く読ませてよ。
:
四ノ宮:あ、はい!(鞄から原稿を取り出す)えっと、こちらです。
:
六本木:おっ、お疲れちゃ~ん!(手渡された原稿に目を通しながら)…んで、2話はどんな展開になるの?
:
四ノ宮:えっと、今回は空港から話がスタートします。空港にある滑走路が一望(いちぼう)できるバーのカウンターで、実相寺がお酒を飲んでるんです。
:
六本木:おお!ハードボイルドだね!
:
:
0:場面は変わりバーの店内。実相寺がカウンターテーブルで酒を飲んでいる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:…マスター、今のをもう一杯頼む。
:
四ノ宮:マスター「かしこまりました。(間)…ウォッカ・マティーニです。」
:
実相寺:(モノローグ)マティーニを、ステアではなくシェイクで、昔見た映画の名ゼリフを思い出しながら、俺は2杯目の酒で唇を濡らした。
実相寺:空の旅の時は、フライトまでの時間をこうやって過ごすのが、俺のルーティンだ…。
実相寺:窓に映る、美しくライトアップされた滑走路を眺めながら、ウォッカ・マティーニを口に運ぼうとした、その時。
:
0:SE「携帯のコール音」
:
実相寺:電話か。
実相寺:
実相寺:(モノローグ)俺は電話が嫌いだ。正確には、電話はかけた相手の時間を、悪戯(いたずら)に奪うという事実に無頓着(むとんちゃく)な人間が嫌いだ…。
実相寺:
実相寺:(電話に出る)実相寺だ。
:
六本木:ヤクザの幹部「…。」
:
実相寺:用がないなら切るぞ。
:
六本木:ヤクザの幹部「えらく派手に、暴れてくれたそうじゃないか。」
:
実相寺:…。
:
六本木:ヤクザの幹部「おかげでこちらのメンツは丸つぶれだ。」
:
実相寺:悪いがこちらも仕事なんでな。つまらん泣き言で電話してくるのは止めてくれないか?せっかくの…
:
六本木:ヤクザの幹部「(遮って)せっかくの酒が不味くなる、か?」
:
実相寺:(どこからか監視されている事を察し警戒する)……どこから見てる?
:
六本木:ヤクザの幹部「どこだっていいさ。どこにいたって俺にはお前が、ちゃんと見えてるからな。」
:
実相寺:覗きとは随分高尚な趣味をお持ちで。だが、どうせ覗くなら、美女のシャワールームをお薦めするぜ。
:
六本木:ヤクザの幹部「ハッ!この声を聞いても、まだそんな軽口を叩いてられるかな?」
六本木:ヤクザの幹部「(部下に声をかける)おい!連れてこい!」
:
四ノ宮:少女「(猿轡をかまされ喋れない)ンー!ンー!」
:
実相寺:(すぐに誰の声か気付き)真莉香(まりか)!真莉香なのか!?
:
六本木:ヤクザの幹部「(グニャリと頬を歪ませて笑う)おや?さっきまでの威勢はどうした?」
:
実相寺:クッ、真莉香は関係ない!
:
六本木:ヤクザの幹部「関係あるかどうかは、俺が決める事だ。」
:
実相寺:条件は何だ?
:
六本木:ヤクザの幹部「お前の雇い主のクビと交換だ。」
:
実相寺:…断ると言ったら?
:
六本木:ヤクザの幹部「実相寺、そこの窓から、滑走路が見えるか?」
:
実相寺:…?
:
六本木:ヤクザの幹部「一番手前の滑走路の飛行機、あれは確か、これからお前が乗るやつだったよなあ?」
:
実相寺:何を言ってる?
:
六本木:ヤクザの幹部「いいか?よーく見てろよ。ひとつ、ふたーつ、みっつ、」
:
0:SE「爆発音」
:
実相寺:(モノローグ)ボンッという爆発音と共に、俺の目の前で飛行機のエンジン部分から火柱があがった。
実相寺:
実相寺:…!?
:
六本木:ヤクザの幹部「わかったろ実相寺。お前に、選択肢など、ない。(電話を切る)」
:
実相寺:クソッ!真莉香…!
:
:
0:場面は変わり喫茶店の店内。
:
:
四ノ宮:どうですかね、六本木さん!?今回のは結構自信作なんです!
四ノ宮:無敵と思われた実相寺が、少女の声を聞いた途端うろたえる…そして敵対する組織の巨大さと、実相寺の不穏な未来を暗示するかのような爆発シーン!いやあ、自分でも書きながら手に汗握っちゃいましたよ~!
:
六本木:いやいやいや!まずいよ~!四ノ宮ちゃん~!
:
四ノ宮:…え?
:
六本木:こんな内容、放送できる訳ないじゃんか~!
:
四ノ宮:え?…どういう事ですか?
:
六本木:(資料を出して)ほら、これ見て。今回のドラマのスポンサーの一覧。
:
四ノ宮:(まだ理解していない)はあ、これが何か?
:
六本木:大手携帯電話会社がメインスポンサーになってるでしょ?
:
四ノ宮:はあ。
:
六本木:脅迫電話。(きょうはくでんわ)
:
四ノ宮:え?
:
六本木:携帯電話を使って脅迫するシーンなんて放送したら、商品のイメージが悪くなるでしょ?スポンサーからNGくらうに決まってんじゃん!
:
四ノ宮:あー、そっか。すみません。配慮が足りませんでした…。
:
六本木:ここは絶対、携帯電話を使わないシーンに変えてね!
:
四ノ宮:えー、でも!電話を使わずに、人質を取られてる事に、主人公はどうやって気付いたらいいんですか!?
:
六本木:んー、それは虫の知らせとか、第6感とか、なんかあるでしょ。(困って)そこは四ノ宮ちゃんが考えてよー。
:
四ノ宮:そんなー。
:
六本木:とにかく、携帯電話の件(くだり)は変更ね!あと、
:
四ノ宮:え、まだ何か。
:
六本木:まだ、あります!…さっきのスポンサーの一覧。もう一回よーく見てよ。
:
四ノ宮:はい。(資料に目を通して気付く)…あ!
:
六本木:やっとわかった?他に大手航空会社がスポンサーになってるでしょ!?
:
四ノ宮:は、はい。
:
六本木:航空会社がスポンサーなのに、飛行機爆破しちゃってるでしょ!?爆破はマズいよ!爆破は~!!
:
四ノ宮:…すみません。
:
六本木:ここはもう、場所から全部変えないと、ダメだなあ…。
:
四ノ宮:え~!そんな~!
:
六本木:そんな~!じゃないよ!スポンサー怒らせちゃったら、お金はどうすんの!?ドラマ作れなくなっちゃうじゃん!!
:
四ノ宮:え、でも、それじゃあ、空港にあるバーで、ウォッカ・マティーニを飲んでるってところから、変えなきゃいけないって事ですよね?
:
六本木:マティーニぐらい好きなところで飲めばいいでしょ~!
六本木:いい?四ノ宮ちゃん。俺たちテレビマンは、視聴者の心に刺さる作品を作るために、まずスポンサーの心を刺していかなきゃいけないの!
:
四ノ宮:…。
:
六本木:じゃあ、今日の原稿の手直しと、次の回の原稿書けたら、また連絡ちょうだい。
:
四ノ宮:…わかりました。
:
六本木:四ノ宮ちゃん、お互い協力して、面白いもん作ってこうね。(店を出ていく)
:
四ノ宮:(深いため息)まいったな…。
:
:
0:場面は変わりバーの店内。実相寺がカウンターテーブルで酒を飲んでいる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:…マスター、今のをもう一杯頼む。
:
四ノ宮:マスター「かしこまりました。(間)…ウォッカ・マティーニです。」
:
実相寺:(モノローグ)マティーニを、ステアではなくシェイクで、昔見た映画の名ゼリフを思い出しながら、俺は2杯目の酒で唇を濡らした。
実相寺:仕事の無い日は、こうして酒を片手に古い思い出に浸るのが、俺のルーティンだ。
実相寺:窓に映る、美しくライトアップされた街並みを眺めながら、ウォッカ・マティーニを口に運ぼうとした、その時。
:
六本木:郵便配達員「カランカランコローン。あのーすいません。こちらに実相寺さんいらっしゃいますでしょうかー」
:
実相寺:実相寺は俺だが。
:
六本木:郵便配達員「電報でーす。こちらに、受取りのサインか印鑑をお願いしまーす」
:
実相寺:あ、はい。じゃあサインで。(サインを書きながら)えーと、じっそうじ、と。どうもご苦労様です。
:
六本木:郵便配達員「はーい。どうも有難うございましたー」
:
実相寺:電報だと?一体誰が…。えーと、なになに…
実相寺:
実相寺:(電報を読む)「娘を 預かった 返して欲しくば 娘と雇い主のクビを 交換だ」
実相寺:
実相寺:なんだって!?真莉香!!(まりか)ん?まだ続きがあるぞ…。えーと、
実相寺:
実相寺:(電報を読む)「外を 見ろ これは 見せしめ」
実相寺:
実相寺:ん?外…?
:
0:SE「爆発音」
:
実相寺:のわー!!
実相寺:
実相寺:…!向かいのオフィスビルから爆発が…!?クソッ!真莉香…!真莉香が危ない!
:
:
0:場面は変わり喫茶店。店内には四ノ宮が一人。六本木の姿はいない。
:
:
六本木:(電話で話している)もしもし。ごめんねー、四ノ宮ちゃん、急に会議が入っちゃって、今日はそっち、行けそうにもないんだわ。
:
四ノ宮:(こちらも電話で話している)いえ、それはもう、全然。
四ノ宮:…あのー、六本木さん、手直しした原稿って読んで頂けましたか?
:
六本木:あー、読んだ読んだ。携帯電話と飛行機の件(くだり)ね、ちゃんと読ませてもらいましたよー。
:
四ノ宮:あの!すいません!寝ないで考えたんですけど、あんなのしか思いつかなくって…
四ノ宮:いやー!自分でもさすがに電報で脅迫状を送るっていうのは、いかがなものかなと思ったんですけど…
:
六本木:いや、方向性はあれでいいと思うんだけどね…
:
四ノ宮:え!マジですか!?
:
六本木:ただ、その、電報はさ…やっぱりちょっと、マズいんだよね。
六本木:だって携帯会社がスポンサーって事は、親会社は電話会社な訳だからさ…。
:
四ノ宮:はあ、やっぱり電報もダメか…。
:
六本木:いや、ほんとに、方向性はあれで良いと思うのよ。あともう一捻り!(ひとひねり)なんか考えてみて!
:
四ノ宮:わかりました。じゃあ爆発のところはどうですかね?
:
六本木:いやー、これも実は…。
:
四ノ宮:(泣きそうになりながら)…ダメなんですね。
:
六本木:ごめんね。四ノ宮ちゃん、やっぱり爆発は色々問題があってさ~。せめてボヤぐらいにならない?
:
四ノ宮:ボヤ!?でもボヤじゃ主人公への脅しにならないじゃないですか!
:
六本木:そこをうまく考えるのが脚本家の腕の見せどころだろ。
:
四ノ宮:そんな。
:
六本木:とにかく、もう一回振り絞って、考えてみて!
:
四ノ宮:…。
:
六本木:あと、次の回の原稿についてなんだけど…。
:
四ノ宮:はい。第1部の締めくくりの回なんで、ほんとに!魂を込めて書きました…
:
六本木:(遮って)ごめん!まだちゃんと読めてないんだ!
:
四ノ宮:えっ。
:
六本木:それで、もうクランクインまで時間がないから、先にこっちの要望だけ、まとめて伝えとくから。
六本木:今から言う内容、メモしといてくれる!?
:
四ノ宮:もうムチャクチャだ…。
:
六本木:大丈夫大丈夫。実はね、昨日、ここまでの原稿を主演のブルギル鮒夫(ふなお)さんが読んだんだ。
:
四ノ宮:えっ!そうなんですか!
:
六本木:そしたら鮒夫(ふなお)さんも、なんかノッてきちゃって。ここはこうしたい、みたいなアイデアが色々出てきちゃってさ~。
:
四ノ宮:なんかもう、嫌な予感しかしませんね…。
:
六本木:まあまあそう言わずに、そもそもこのドラマは、ブルギル鮒夫が主演するから通った企画なんだよ。プロデューサーとしても邪険(じゃけん)にはできないでしょう。
:
四ノ宮:わかりました。で、ブルギル鮒夫さんからはどんな要望があったんですか?
:
六本木:まず、冒頭のポケット灰皿の件(くだり)ね。
:
四ノ宮:ああ、やっぱり、変でしたもんね、あのシーン。鮒夫さん、こんなセリフ言えないって仰ってましたか?
:
六本木:違う違う。逆だよ。今までにない新しい試みで、すごく良いって。
:
四ノ宮:え!?そうなんですか?それはすごく嬉しいですけど、なんか複雑だな。
:
六本木:んで、どうせなら、タバコの有害性について言及したセリフを、もっと追加したらどうかって?
:
四ノ宮:げ。
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六本木:そう言うなよ、四ノ宮ちゃん。あと、シートベルトの件(くだり)も、斬新だって喜んでたよ。
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四ノ宮:げげ。と言うことはまさか…。
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六本木:それで鮒夫さんが「これは、後部座席(こうぶざせき)のシートベルト着用を、社会に呼びかけるようなセリフも、追加するべきだ」って。
:
四ノ宮:やっぱり。
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六本木:頼むよ~!このドラマはブルギル鮒夫さんありきなんだからね!
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四ノ宮:…なんとか、やってみます。
:
六本木:それとね、
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四ノ宮:ええーー!!まだあるんですかー!?
:
六本木:どちらかと言うと、ここからが本題なんだよ。
:
四ノ宮:…。
:
六本木:ブルギル鮒夫さんが最近、石川県の「ふるさと親善大使」に就任したの知ってる?
:
四ノ宮:いえ。
:
六本木:それでさ、鮒夫さんが「石川県の素晴らしさが、もっと伝わるようなドラマにしたい」って言ってるんだよ。
:
四ノ宮:は?
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六本木:うん、気持ちはわかるんだけど、ここはひとつ…
:
四ノ宮:(遮って)いや!なんなの!「石川県の素晴らしさが伝わるドラマ」って!これハードボイルドな主人公が活躍する裏社会物でしょ!?意味わかんないよ!!
:
六本木:まあ、そこはほら、四ノ宮ちゃんのセンスで…
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四ノ宮:それに、次の回は、さらわれた真莉香(まりか)を助けるために、実相寺が単身、敵のアジトに乗り込む話ですよ!
四ノ宮:石川県の素晴らしさを差し込むところなんて、どこにもありません!!
:
六本木:(誤魔化して)あー!ごめん!四ノ宮ちゃん!次の会議の時間だから、電話、一旦切るね。
六本木:大丈夫大丈夫!四ノ宮ちゃんなら出来る!石川県の魅力と絡めつつ、最高にハードボイルドな唐招提寺(とうしょうだいじ)を書いてよね!!んじゃ!(電話を切る)
:
四ノ宮:(切れた電話を見つめながら)…。
四ノ宮:実相寺だよ…。
四ノ宮:いい加減、主人公の名前くらい覚えろ!!
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0:深夜の埠頭。全身黒い衣服に身を包んだ一人の男が浮かび上がる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:(モノローグ)映画や小説の一場面で、血の味を、鉄のようだと形容するのをよく見かけるが、そいつは本当に鉄を喰った事があるんだろうか?
実相寺:短い煙草を燻らせ(くゆらせ)ながら、俺はそんな事を考えていた…。
実相寺:
実相寺:残念ながら俺の鉛玉を喰らった奴らには、それを聞き出す術がない。それを俺が知るのは、俺自身が鉛玉を喰らって、地獄に落ちた時だけだ。
実相寺:どのみち生きてる間にそれを知る必要もない、か…。俺は吸いかけた煙草を一息で吸いきり、(少しの間)カバンからポケット灰皿を取り出した…。
実相寺:
実相寺:現在は様々な種類のある携帯灰皿の中でも、最もスタンダードな形状である、ポケットタイプの携帯灰皿、それがポケット灰皿だ…。
実相寺:その名の通りポケットに入れられるサイズなのが特徴で、スリムで持ち運びが容易なため、携帯性に優れている。
実相寺:俺の愛用のポケット灰皿は、カードケースのようなおしゃれなデザインに、髑髏(どくろ)をあしらったボタンが付いている、俺のお気に入りの逸品だ…。
実相寺:
実相寺:ポケット灰皿に吸い殻を入れた俺は、続けて2本目の煙草を取り出そうとして、ふと、煙草の箱に書かれた文字に目を止めた。
実相寺:
実相寺:(わざとらしく)えーと、なになに、【喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計(えきがくてきなすいけい)によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります】…なに!約2倍から4倍…そんなにか!?
実相寺:
実相寺:…2本目を吸うのはよそう。そう思って俺はくわえた煙草を箱の中に戻すのだった。
実相寺:
実相寺:俺の名は実相寺実彦(じっそうじ さねひこ)。このすえた匂いの漂う、ドブみたいな街の掃除屋…ヒットマンだ…。
:
0:SE「ドアを蹴破る音」
:
四ノ宮:ヤクザA「ぬお…!なんやワレ!どこの組のもんじゃい!?
四ノ宮:ここを獄獣連合直系荒鷲会(ごくじゅうれんごう ちょっけい こうしゅうかい)の事務所やとわかっててカチコミかけとんのやろなあ!?」
:
0:SE「銃声」
:
実相寺:扉近くに立っていた男の額に、俺は正確に弾丸を打ち込んだ。
:
四ノ宮:ヤクザA「ガハッ!(絶命する)」
:
実相寺:すぐさま、俺は絶命した男の身体を引き寄せながら周囲を確認する。ソファに2人、奥の部屋に3人、いや4人か…。
:
六本木:ヤクザB「かっ、カチコミじゃあ!」
:
0:SE「銃撃戦」
:
実相寺:この世の中は様々なプロの仕事で成り立ってる…。パンを焼くプロ、配管を直すプロ…
実相寺:なあ?お前もそうは思わないか?
:
六本木:ヤクザB「な、なに言ってやがる!?」
:
実相寺:俺もそんな、プロの1人でありたいと願ってるんだ…。…お前らゴミ共を、掃除するプロさ。
:
0:SE「銃声」
:
六本木:ヤクザB「グハッ!!」
:
実相寺:(モノローグ)掃除を終えた俺は、足早にタクシー乗り場に移動し、タクシーに乗り込んだ。
実相寺:
実相寺:(唐突に)…おっと、ここで忘れちゃいけないのがシートベルトだ!
実相寺:
実相寺:俺はタクシーに乗る時も決してシートベルトの着用は忘れない。何故なら2008年の法改正により、後部座席(こうぶざせき)のシートベルトにも着用義務が課せられるようになったからだ。
実相寺:
実相寺:シートベルト着用!ヨーシ!
実相寺:
実相寺:カチっと、小気味良い音をたてて、俺はシートベルトを装着した。いついかなる時も安全への意識を怠らない、これもまたプロの仕事だ…。
実相寺:安全で快適な運転に不可欠なシートベルト。俺はそんなシートベルトに思いを馳せながら、夜の街へ吸い込まれていくのだった。
:
:
0:場面が変わり屋形船の船内。
:
:
実相寺:…マスター、今のをもう一杯頼む。
:
四ノ宮:店長「はい!よろこんでー!ウォッカ・マティーニ 一丁(いっちょう)!」
:
六本木:バイト「はい!よろこんでー!ウォッカ・マティーニ 一丁(いっちょう)でーす!」
:
六本木:バイト「お待たせしました!ウォッカ・マティーニ 一丁でーす!」
:
四ノ宮:店長「お待たせしました!ウォッカ・マティーニ 一丁でーす!」
:
実相寺:(モノローグ)マティーニを、ステアではなくシェイクで、昔見た映画の名ゼリフを思い出しながら、俺は2杯目の酒で唇を濡らした。
実相寺:今日は久々のオフ。俺は屋形船で隅田川クルージングを楽しみながら、大好きなお刺身の船盛りを頬張った。
実相寺:船上から見える、美しい景色に目を細めながら、ウォッカ・マティーニを口に運ぼうとした、その時。
:
六本木:ハト「バサバサバサバサ…(鳥の羽ばたく音)クルックー!」
:
実相寺:なんだ伝書鳩か。なになに…
実相寺:
実相寺:(手紙を読む)「娘を預かった。返して欲しくば、雇い主のクビと交換だ」
実相寺:
実相寺:なんだって!真莉香がさらわれただと!?
実相寺:
実相寺:(再び手紙を読む)「待っていろ。地獄のショーの始まりだ。ひとつ、ふたーつ、みっつ、」
:
0:SE「ポスっという音の小さい爆発音」
:
六本木:バイト「店長!厨房で火事でーす!揚げ物の油から火が燃え移りましたー!」
:
四ノ宮:店長「なんだってー!?すぐ消火器持ってこーい!」
:
実相寺:真莉香ー!うおおおお!!待ってろー!今助けにいくぞー!!
:
:
0:再び場面が変わる。獄獣連合のアジト。
0:大勢のヤクザ共が待ち受けている。そして中央の柱に縛り付けられた少女。
:
:
実相寺:…待たせたな。
:
六本木:ヤクザの幹部「随分と遅い登場だったじゃねえか?危うくお嬢ちゃんを切り刻んじまうとこだったぜえ」
:
四ノ宮:少女「(猿轡をかまされ喋れない)ンー!ンー!」
:
実相寺:真莉香!無事か!?
:
六本木:ヤクザの幹部「おっとお、動くなよ」
:
実相寺:…!
:
六本木:ヤクザの幹部「さあ、実相寺、答えろ!服従か、それともここで死を選ぶか!」
:
実相寺:悪いな、生憎(あいにく)俺は、優柔不断なんだ。
:
六本木:ヤクザの幹部「んだと!?」
:
実相寺:(スーツのポケットから武器を取り出し)だから、好きにやらせてもらうさ。
:
六本木:(部下たちに指図する)お前ら!やっちまえ!
:
四ノ宮:ヤクザA「へい!」
:
六本木:ヤクザB「へい!」
:
実相寺:(モノローグ)ここに入る前に俺は、やつらに拳銃を奪われてしまった。だが俺はプロの殺し屋。この身体に武器を隠しておく事など造作もない。
実相寺:俺は襲いかかってきた男の口に、素早く毒薬の入ったカプセルをお見舞いした。
:
四ノ宮:ヤクザA「グ、グワ!ぐ…ぐるじい…」
:
実相寺:今お前が口にしたのは、テトロドトキシンさ。聞き覚えはないか?フグ毒さ。
:
四ノ宮:ヤクザA「フグ、毒」
:
実相寺:そうだ!フグの毒は一歩間違えば命を落とす危険もあるが、その身は弾力があって美味く、刺身、唐揚げ、様々な調理法で楽しむ事が出来る!
実相寺:そして何を隠そう、石川県はフグの漁獲量(ぎょかくりょう)日本一だっ!
:
四ノ宮:ヤクザA「や、山口県じゃ、ねえの、か(絶命する)」
:
実相寺:そうだ。俺も調べるまでは、フグと言えば山口県だと思っていた。だが漁獲量日本一は!石川県だ!
:
六本木:ヤクザB「てめえ!なにしやがる…グワッ!」
:
実相寺:俺は続いて、隠し持っていた、熱した金属を、哀れな男の顔に押し付けた。
:
六本木:ヤクザB「グギャー!熱いー!!これは…焼肉の網!」
:
実相寺:冥土の土産に教えてやろう。焼肉店の店舗数日本一も石川県だっ!
:
六本木:ヤクザB「さぞかし、美味い肉が、食えるんだろうな(絶命する)」
:
実相寺:くらえ!スイカの生産量 日本一ボンバー!!
:
四ノ宮:ヤクザA「ショギャー!」
:
実相寺:いまだ!チョコレートの消費量 日本一アターック!
:
六本木:ヤクザB「あまーい!」
:
実相寺:いくぞ!カレーハウスの店舗数 日本一スパイス!
:
四ノ宮:ヤクザA「いがーい!(意外)」
:
六本木:ヤクザの幹部「(怯えて)おい!やめろ!やめてくれ実相寺!なあ許してくれよ…」
:
実相寺:これで終わりだ!回転寿司のベルトコンベアのシェアは、ほぼ100%が石川県ローラー!!
:
六本木:ヤクザの幹部「グゴガガガガ!…ベルトコンベアに、挟まれるーー!!(絶命)」
:
実相寺:やったか。
:
四ノ宮:少女「実相寺のおじさん、私怖かった…」
:
実相寺:(急にカメラ目線で)おいでよ石川!加賀百万石(かがひゃくまんごく)!!
実相寺:
実相寺:(モノローグ)こうして俺はまたひとつ、石川県の魅力を知る事になったのだった…。
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0:場面は変わり、喫茶店の店内。
0:向かい合って座る、四ノ宮と六本木。
:
:
四ノ宮:あの、六本木さん。
:
六本木:ん?なに?
:
四ノ宮:自分で言うのも、どうかと思うんですけど、
:
六本木:うん。
:
四ノ宮:僕なんでこんなの書いちゃったんでしょう…。
:
六本木:まあ、でも、オーダーした内容は全て網羅(もうら)されてるよね…。
:
四ノ宮:こんなのが世に出てしまったら、僕の脚本家生命は終わりだ…。
:
六本木:いやいや何言ってんだよ!四ノ宮ちゃんはよくやってくれたよ~!
六本木:四ノ宮ちゃんのおかげでこうやって無事にクランクインに間に合った訳だし。
四ノ宮:はあ…。
:
六本木:あとは現場で何とかするから…。
:
実相寺:AD「あー!やっぱりここにいた!六本木さん!大変です!緊急事態です!!」
:
六本木:んー、どうしたの?
:
実相寺:AD「ブルギル鮒夫さんが、不倫相手の女優宅で薬物所持の疑いで緊急逮捕されましたー!!」
:
六本木:えええーー!!
:
実相寺:AD「ドラマ【実相寺実彦の受難(じっそうじさねひこのじゅなん)】は残念ながら制作中止になる見通しです!」
:
六本木:(その場に座り込んで)そんなあ~!!そりゃないよお~!!
:
四ノ宮:いやったー!!!!!!
:
:
:
0:(終わり)
0:
:
:タイトル
: 【実相寺実彦の受難(じっそうじ さねひこの じゅなん】作・ムッチ
:
:登場人物
:
四ノ宮:
四ノ宮:(配役が決まったらここをタップしてください)
四ノ宮:四ノ宮(しのみや)
四ノ宮:新人脚本家。
四ノ宮:※劇中劇内で兼ね役があります。(ヤクザA・バーのマスター・少女・店長)
:
六本木:
六本木:(配役が決まったらここをタップしてください)
六本木:六本木(ろっぽんぎ)
六本木:プロデューサー。
六本木:※劇中劇内で兼ね役があります。(ヤクザB・ヤクザの幹部・バイト・鳩)
:
実相寺:
実相寺:(配役が決まったらここをタップしてください)
実相寺:実相寺 実彦(じっそうじ さねひこ)
実相寺:四ノ宮が書くドラマ「実相寺実彦の受難」の主人公。
実相寺:※劇中劇内で兼ね役があります。(AD)
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:・
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0:深夜の埠頭。全身黒い衣服に身を包んだ一人の男が浮かび上がる。
0: ※劇中劇のシーンです
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実相寺:(モノローグ)映画や小説の一場面で、血の味を、鉄のようだと形容するのをよく見かけるが、そいつは本当に鉄を喰った事があるんだろうか?
実相寺:短い煙草を燻らせ(くゆらせ)ながら、俺はそんな事を考えていた…。
実相寺:
実相寺:残念ながら俺の鉛玉を喰らった奴らには、それを聞き出す術がない。それを俺が知るのは、俺自身が鉛玉を喰らって、地獄に落ちた時だけだ。
実相寺:どのみち生きてる間にそれを知る必要もない、か…。俺は考えるのを止めて、吸っていた煙草を投げ捨てた。
実相寺:
実相寺:俺の名は実相寺実彦(じっそうじ さねひこ)。このすえた匂いの漂う、ドブみたいな街の掃除屋…ヒットマンだ…。
実相寺:
実相寺:パン職人が早朝、オーブンから焼き立てのパンを取り出すように、配管工が深夜、慣れた手つきで緩んだボルトを締め付けるように、
実相寺:俺は、表のルールじゃ裁けない人間を、裏の流儀で始末する…。
実相寺:
実相寺:俺はいつもと変わらない調子で、銃を構えたままドアを蹴破った。
:
:
0:SE「ドアを蹴破る音」
:
:
四ノ宮:ヤクザA「ぬお…!なんやワレ!どこの組のもんじゃい!?
四ノ宮:ここを獄獣連合直系荒鷲会(ごくじゅうれんごう ちょっけい こうしゅうかい)の事務所やとわかっててカチコミかけとんのやろなあ!?」
:
SE:銃声
:
実相寺:扉近くに立っていた男の額に、俺は正確に弾丸を打ち込んだ。
:
四ノ宮:ヤクザA「ガハッ!(絶命する)」
:
実相寺:すぐさま、俺は絶命した男の身体を引き寄せながら周囲を確認する。ソファに2人、奥の部屋に3人、いや4人か…。
:
六本木:ヤクザB「かっ、カチコミじゃあ!」
:
:
0:SE「銃撃戦」
:
:
実相寺:(モノローグ)俺は絶命した男を弾よけにしながら、1人、また1人と順に鉛玉をぶち込んでいく。
:
六本木:ヤクザB「ヒッ、ヒィイイイ!やめろぉ!やめてくれぇ!!」
:
実相寺:この世の中は様々なプロの仕事で成り立ってる…。パンを焼くプロ、配管を直すプロ…
実相寺:なあ?お前もそうは思わないか?
:
六本木:ヤクザB「な、なに言ってやがる!?」
:
実相寺:俺もそんな、プロの1人でありたいと願ってるんだ…。…お前らゴミ共を、掃除するプロさ。
:
0:SE「銃声」
:
六本木:ヤクザB「グハッ!!」
:
実相寺:(モノローグ)掃除を終えた俺は、再び短い煙草に火を付け、車を走らせた…。
実相寺:ヘッドライトが虚構の街と乾いた俺の心を照らし出した。
:
:
0:場所は変わり喫茶店の店内。
0:新人脚本家の四ノ宮とプロデューサーの六本木が向かい合わせで座っている。
:
:
四ノ宮:…どうですか?六本木さん。
:
六本木:もうめちゃくちゃ良かったよ~!四ノ宮ちゃんの書く裏社会モノ。行間から漂う血と硝煙(しょうえん)の香り!とめどなく溢れる危険な衝動!もうこれは四ノ宮ちゃんの最高傑作になる事間違い無し!
:
四ノ宮:(少し照れながら)あ、有難うございます。
:
六本木:これ絶対、主演のブルギル鮒夫(ふなお)さんも喜んでくれるよ~!
:
四ノ宮:ほんとですか!?(小さくガッツポーズ)…やった!
:
六本木:いや、ほんとほんと。すっごい良いホンだと思うよ。
:
四ノ宮:有難うございます!
:
六本木:…すごい良いホンだと思うんだけど、ちょっとだけ手直しが必要かな。
:
四ノ宮:はい!もちろん!これが第一稿なので、そのまま採用されるなんて事は僕も思ってません!
四ノ宮:時間の許す限り加筆修正して、皆さんのご期待に沿える物にしたいと思ってます!
:
六本木:ほんとありがとねー、四ノ宮ちゃん。
:
四ノ宮:で、どこら辺が気になりましたか?やっぱり暴力シーンですか?
:
六本木:(考えている)うーん…
:
四ノ宮:いや、ご存知の通り、なにぶん僕もテレビドラマの脚本を担当するのは今回が初めてなもんですから。
四ノ宮:自分の書いた暴力描写とかがテレビの放送倫理上(ほうそうりんりじょう)どうなのか、とかは正直いまいちわかってなくてですね…。
:
六本木:あーいや、そこは全然良かったよ!
:
四ノ宮:え?そうなんですか?
:
六本木:額を打ち抜くとことか、絶対盛り上がるよ~!あそこはVFX(ブイエフエックス)なんかに頼らずに、血糊(ちのり)をふんだんに使いたいね~!
:
四ノ宮:えっと、じゃあどこが気になったんですか?
:
六本木:(少しだけ言いづらそうに)…んとね、タバコのシーンがね。
:
四ノ宮:あ、はい。
:
六本木:主人公の、薬師寺(やくしじ)がね、
:
四ノ宮:あっ、実相寺です。
:
六本木:あー、そっか。…実相寺がね、タバコをこう…(投げるしぐさをして)ポイ捨てするじゃん?
:
四ノ宮:あ、はい…。
:
六本木:あれがねー、ちょっとねー。
:
四ノ宮:あーすいません!それだったら全然書き直します!
:
六本木:いや、ごめんねー。今さ、こういう描写すごいうるさいのよー!コンプラ的に。
:
四ノ宮:はあ…。
:
六本木:ほら、健康増進法(けんこうぞうしんほう)の改正とか、都の環境美化条例(かんきょうびかじょうれい)とかの絡みがあってさ~。局内でも結構神経使っちゃうんだよー。
:
四ノ宮:ああ、それはすいません。勉強不足でした。
四ノ宮:…で、どんな感じに書き直せばいいですかね?
:
六本木:やっぱりご時世的には電子タバコとかになるのかな?
:
四ノ宮:え!?…電子タバコ、ですか。
:
六本木:あー、でもやっぱ、プロの殺し屋が電子タバコってのはちょっと…アレだな。
:
四ノ宮:ええ!ですよね!
:
六本木:じゃあさ、ポケット灰皿使う事にしようよ。
:
四ノ宮:え!?
:
六本木:タバコはオッケーだけど、ポイ捨てがダメな訳だからさ。ポケット灰皿使えば、万事解決だよね。
:
四ノ宮:(思うところがあるが反論は出来ない)あー、えー、あー、その、まあ(渋々承諾する)はあ…。
:
六本木:じゃあそれで。お願いしまーす。あー、あとさ、もう一箇所、気になるところがあるんだよね~。
:
四ノ宮:あっ、はい!
:
六本木:この、殺しの仕事を終えた天王寺(てんのうじ)が車に乗るところがあんじゃん?
:
四ノ宮:えっと、実相寺です…。
:
六本木:そう、実相寺がね、車に乗るとこ。ここさ、ト書きをよく読むとね、
:
四ノ宮:はい。
:
六本木:【シートベルトを着ける】ってどこにも書いてないのよ。
:
四ノ宮:え!?…シートベルト、ですか…。
:
六本木:そう、シートベルト。これさ、 道路交通法違反でしょ?シートベルト装着義務違反だよね?
:
四ノ宮:え、でも、バンバン人撃っちゃってますから!もう既に殺人の罪とか負っちゃってますから!…たぶん主人公はシートベルトなんて気にしてないんじゃないですかね…。
:
六本木:いや、そこはさ、フィクションだから別にいいのよ。
:
四ノ宮:え!でも!
:
六本木:(遮って)だから、シートベルト着けずに撮影したらさ、撮影中に俳優が道路交通法違反してたって言われちゃうんだよー!
:
四ノ宮:ああ…なるほど…。
:
六本木:だから、ここはしっかり、シートベルトを着用したってわかる件(くだり)が欲しいんだよね~
:
四ノ宮:いや、でも、やっぱり、シートベルトは…殺し屋のイメージに…
:
六本木:(また遮って)ね!四ノ宮ちゃん、お願い!ここはひとつ、俺の顔を立てると思ってさ!
:
四ノ宮:…わかりました。そういう事でしたら致し方ありませんね…。
:
六本木:ありがとね!もう上がね、コンプラコンプラってうるさい訳よ~!
:
四ノ宮:はい…。
:
六本木:じゃあ、今言った箇所の手直しと、次の回の原稿書けたら、また連絡して。
:
四ノ宮:(不服そうに)はい…。
:
六本木:あー、ここ、支払い、俺払っとくから。
:
四ノ宮:あっ、いつもすみません。
:
六本木:いいのいいの!じゃ、期待してますよ~!四ノ宮ちゃん!
:
四ノ宮:お疲れ様でした…。
:
六本木:はい、お疲れちゃん~(店を出ていく)
:
四ノ宮:(深いため息)はあ…。
:
:
0:再び場面は深夜の埠頭。全身黒い衣服に身を包んだ一人の男が浮かび上がる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:(モノローグ)映画や小説の一場面で、血の味を、鉄のようだと形容するのをよく見かけるが、そいつは本当に鉄を喰った事があるんだろうか?
実相寺:短い煙草を燻らせ(くゆらせ)ながら、俺はそんな事を考えていた…。
実相寺:
実相寺:残念ながら俺の鉛玉を喰らった奴らには、それを聞き出す術がない。それを俺が知るのは、俺自身が鉛玉を喰らって、地獄に落ちた時だけだ。
実相寺:どのみち生きてる間にそれを知る必要もない、か…。俺は吸いかけた煙草を一息で吸いきり、(少しの間)カバンからポケット灰皿を取り出した…。
実相寺:
実相寺:現在は様々な種類のある携帯灰皿の中でも、最もスタンダードな形状である、ポケットタイプの携帯灰皿、それがポケット灰皿だ…。
実相寺:その名の通りポケットに入れられるサイズなのが特徴で、スリムで持ち運びが容易なため、携帯性に優れている。
実相寺:俺の愛用のポケット灰皿は、カードケースのようなおしゃれなデザインに、髑髏(どくろ)をあしらったボタンが付いている、俺のお気に入りの逸品だ…。
実相寺:
実相寺:俺の名は実相寺実彦(じっそうじ さねひこ)。このすえた匂いの漂う、ドブみたいな街の掃除屋…ヒットマンだ…。
:
:
0:場面は変わり喫茶店の店内。
:
:
四ノ宮:どう…ですかね?
:
六本木:おお、いいじゃんいいじゃん!なんか意外と、裏社会物でも、ポケット灰皿しっくりくるね~!
:
四ノ宮:有難うございます!せめてもの抵抗に、ポケット灰皿に髑髏(どくろ)をあしらったボタンを付けてみました…。
:
六本木:うん!いいね~!これグッズ展開とかもいけるんじゃない?延暦寺(えんりゃくじ)モデルのポケット灰皿!!
:
四ノ宮:えと、実相寺です…。
:
六本木:うん!実相寺モデルね!よし!じゃあ次のシーンいってみよう!
:
四ノ宮:はい…。
:
:
0:場面変わり、先ほどの物語の続きになる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:この世の中は様々なプロの仕事で成り立ってる…。パンを焼くプロ、配管を直すプロ…
実相寺:なあ?お前もそうは思わないか?
:
六本木:ヤクザB「な、なに言ってやがる!?」
:
実相寺:俺もそんな、プロの1人でありたいと願ってるんだ…。…お前らゴミ共を、掃除するプロさ。
:
0:SE「銃声」
:
六本木:ヤクザB「グハッ!!」
:
実相寺:(モノローグ)掃除を終えた俺は、再び短い煙草に火を付け、車に乗り込んだ。
実相寺:
実相寺:(唐突に)…おっと、ここで忘れちゃいけないのがシートベルトだ!
実相寺:
実相寺:カチっと、小気味良い音をたてて、俺はシートベルトを装着した。いついかなる時も安全への意識を怠らない、これもまたプロの仕事だ…。
実相寺:安全で快適な運転に不可欠なシートベルト。俺はそんなシートベルトに思いを馳せながら、夜の街へ吸い込まれていくのだった。ポケット灰皿を携えて(たずさえて)…。
:
:
0:場面は変わり喫茶店の店内。
:
:
六本木:お~!いいねいいね~!頼んだとこ、ちゃんと直してくれてるじゃ~ん!
:
四ノ宮:あの、勢いで書ききっちゃったんですけど…これ大丈夫ですかね?
:
六本木:大丈夫大丈夫!これでコンプラもクリアになったし、完璧だね!
:
四ノ宮:でも、裏社会の殺し屋が、ポイ捨て気にしたり、運転する時に「安全への意識を怠らない」とか言っちゃったり…。
:
六本木:なんだよ~!自分で書いたんだろ~!?
:
四ノ宮:いや、まあ、そうなんですけど…。なんか不安になってきちゃって…。
:
六本木:最初のより全然良くなったよ~!もっと自信持って。ね?
:
四ノ宮:はあ…
:
六本木:そんな事より、第2話の原稿、早く読ませてよ。
:
四ノ宮:あ、はい!(鞄から原稿を取り出す)えっと、こちらです。
:
六本木:おっ、お疲れちゃ~ん!(手渡された原稿に目を通しながら)…んで、2話はどんな展開になるの?
:
四ノ宮:えっと、今回は空港から話がスタートします。空港にある滑走路が一望(いちぼう)できるバーのカウンターで、実相寺がお酒を飲んでるんです。
:
六本木:おお!ハードボイルドだね!
:
:
0:場面は変わりバーの店内。実相寺がカウンターテーブルで酒を飲んでいる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:…マスター、今のをもう一杯頼む。
:
四ノ宮:マスター「かしこまりました。(間)…ウォッカ・マティーニです。」
:
実相寺:(モノローグ)マティーニを、ステアではなくシェイクで、昔見た映画の名ゼリフを思い出しながら、俺は2杯目の酒で唇を濡らした。
実相寺:空の旅の時は、フライトまでの時間をこうやって過ごすのが、俺のルーティンだ…。
実相寺:窓に映る、美しくライトアップされた滑走路を眺めながら、ウォッカ・マティーニを口に運ぼうとした、その時。
:
0:SE「携帯のコール音」
:
実相寺:電話か。
実相寺:
実相寺:(モノローグ)俺は電話が嫌いだ。正確には、電話はかけた相手の時間を、悪戯(いたずら)に奪うという事実に無頓着(むとんちゃく)な人間が嫌いだ…。
実相寺:
実相寺:(電話に出る)実相寺だ。
:
六本木:ヤクザの幹部「…。」
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実相寺:用がないなら切るぞ。
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六本木:ヤクザの幹部「えらく派手に、暴れてくれたそうじゃないか。」
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実相寺:…。
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六本木:ヤクザの幹部「おかげでこちらのメンツは丸つぶれだ。」
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実相寺:悪いがこちらも仕事なんでな。つまらん泣き言で電話してくるのは止めてくれないか?せっかくの…
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六本木:ヤクザの幹部「(遮って)せっかくの酒が不味くなる、か?」
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実相寺:(どこからか監視されている事を察し警戒する)……どこから見てる?
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六本木:ヤクザの幹部「どこだっていいさ。どこにいたって俺にはお前が、ちゃんと見えてるからな。」
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実相寺:覗きとは随分高尚な趣味をお持ちで。だが、どうせ覗くなら、美女のシャワールームをお薦めするぜ。
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六本木:ヤクザの幹部「ハッ!この声を聞いても、まだそんな軽口を叩いてられるかな?」
六本木:ヤクザの幹部「(部下に声をかける)おい!連れてこい!」
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四ノ宮:少女「(猿轡をかまされ喋れない)ンー!ンー!」
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実相寺:(すぐに誰の声か気付き)真莉香(まりか)!真莉香なのか!?
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六本木:ヤクザの幹部「(グニャリと頬を歪ませて笑う)おや?さっきまでの威勢はどうした?」
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実相寺:クッ、真莉香は関係ない!
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六本木:ヤクザの幹部「関係あるかどうかは、俺が決める事だ。」
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実相寺:条件は何だ?
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六本木:ヤクザの幹部「お前の雇い主のクビと交換だ。」
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実相寺:…断ると言ったら?
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六本木:ヤクザの幹部「実相寺、そこの窓から、滑走路が見えるか?」
:
実相寺:…?
:
六本木:ヤクザの幹部「一番手前の滑走路の飛行機、あれは確か、これからお前が乗るやつだったよなあ?」
:
実相寺:何を言ってる?
:
六本木:ヤクザの幹部「いいか?よーく見てろよ。ひとつ、ふたーつ、みっつ、」
:
0:SE「爆発音」
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実相寺:(モノローグ)ボンッという爆発音と共に、俺の目の前で飛行機のエンジン部分から火柱があがった。
実相寺:
実相寺:…!?
:
六本木:ヤクザの幹部「わかったろ実相寺。お前に、選択肢など、ない。(電話を切る)」
:
実相寺:クソッ!真莉香…!
:
:
0:場面は変わり喫茶店の店内。
:
:
四ノ宮:どうですかね、六本木さん!?今回のは結構自信作なんです!
四ノ宮:無敵と思われた実相寺が、少女の声を聞いた途端うろたえる…そして敵対する組織の巨大さと、実相寺の不穏な未来を暗示するかのような爆発シーン!いやあ、自分でも書きながら手に汗握っちゃいましたよ~!
:
六本木:いやいやいや!まずいよ~!四ノ宮ちゃん~!
:
四ノ宮:…え?
:
六本木:こんな内容、放送できる訳ないじゃんか~!
:
四ノ宮:え?…どういう事ですか?
:
六本木:(資料を出して)ほら、これ見て。今回のドラマのスポンサーの一覧。
:
四ノ宮:(まだ理解していない)はあ、これが何か?
:
六本木:大手携帯電話会社がメインスポンサーになってるでしょ?
:
四ノ宮:はあ。
:
六本木:脅迫電話。(きょうはくでんわ)
:
四ノ宮:え?
:
六本木:携帯電話を使って脅迫するシーンなんて放送したら、商品のイメージが悪くなるでしょ?スポンサーからNGくらうに決まってんじゃん!
:
四ノ宮:あー、そっか。すみません。配慮が足りませんでした…。
:
六本木:ここは絶対、携帯電話を使わないシーンに変えてね!
:
四ノ宮:えー、でも!電話を使わずに、人質を取られてる事に、主人公はどうやって気付いたらいいんですか!?
:
六本木:んー、それは虫の知らせとか、第6感とか、なんかあるでしょ。(困って)そこは四ノ宮ちゃんが考えてよー。
:
四ノ宮:そんなー。
:
六本木:とにかく、携帯電話の件(くだり)は変更ね!あと、
:
四ノ宮:え、まだ何か。
:
六本木:まだ、あります!…さっきのスポンサーの一覧。もう一回よーく見てよ。
:
四ノ宮:はい。(資料に目を通して気付く)…あ!
:
六本木:やっとわかった?他に大手航空会社がスポンサーになってるでしょ!?
:
四ノ宮:は、はい。
:
六本木:航空会社がスポンサーなのに、飛行機爆破しちゃってるでしょ!?爆破はマズいよ!爆破は~!!
:
四ノ宮:…すみません。
:
六本木:ここはもう、場所から全部変えないと、ダメだなあ…。
:
四ノ宮:え~!そんな~!
:
六本木:そんな~!じゃないよ!スポンサー怒らせちゃったら、お金はどうすんの!?ドラマ作れなくなっちゃうじゃん!!
:
四ノ宮:え、でも、それじゃあ、空港にあるバーで、ウォッカ・マティーニを飲んでるってところから、変えなきゃいけないって事ですよね?
:
六本木:マティーニぐらい好きなところで飲めばいいでしょ~!
六本木:いい?四ノ宮ちゃん。俺たちテレビマンは、視聴者の心に刺さる作品を作るために、まずスポンサーの心を刺していかなきゃいけないの!
:
四ノ宮:…。
:
六本木:じゃあ、今日の原稿の手直しと、次の回の原稿書けたら、また連絡ちょうだい。
:
四ノ宮:…わかりました。
:
六本木:四ノ宮ちゃん、お互い協力して、面白いもん作ってこうね。(店を出ていく)
:
四ノ宮:(深いため息)まいったな…。
:
:
0:場面は変わりバーの店内。実相寺がカウンターテーブルで酒を飲んでいる。
0: ※劇中劇のシーンです
:
:
実相寺:…マスター、今のをもう一杯頼む。
:
四ノ宮:マスター「かしこまりました。(間)…ウォッカ・マティーニです。」
:
実相寺:(モノローグ)マティーニを、ステアではなくシェイクで、昔見た映画の名ゼリフを思い出しながら、俺は2杯目の酒で唇を濡らした。
実相寺:仕事の無い日は、こうして酒を片手に古い思い出に浸るのが、俺のルーティンだ。
実相寺:窓に映る、美しくライトアップされた街並みを眺めながら、ウォッカ・マティーニを口に運ぼうとした、その時。
:
六本木:郵便配達員「カランカランコローン。あのーすいません。こちらに実相寺さんいらっしゃいますでしょうかー」
:
実相寺:実相寺は俺だが。
:
六本木:郵便配達員「電報でーす。こちらに、受取りのサインか印鑑をお願いしまーす」
:
実相寺:あ、はい。じゃあサインで。(サインを書きながら)えーと、じっそうじ、と。どうもご苦労様です。
:
六本木:郵便配達員「はーい。どうも有難うございましたー」
:
実相寺:電報だと?一体誰が…。えーと、なになに…
実相寺:
実相寺:(電報を読む)「娘を 預かった 返して欲しくば 娘と雇い主のクビを 交換だ」
実相寺:
実相寺:なんだって!?真莉香!!(まりか)ん?まだ続きがあるぞ…。えーと、
実相寺:
実相寺:(電報を読む)「外を 見ろ これは 見せしめ」
実相寺:
実相寺:ん?外…?
:
0:SE「爆発音」
:
実相寺:のわー!!
実相寺:
実相寺:…!向かいのオフィスビルから爆発が…!?クソッ!真莉香…!真莉香が危ない!
:
:
0:場面は変わり喫茶店。店内には四ノ宮が一人。六本木の姿はいない。
:
:
六本木:(電話で話している)もしもし。ごめんねー、四ノ宮ちゃん、急に会議が入っちゃって、今日はそっち、行けそうにもないんだわ。
:
四ノ宮:(こちらも電話で話している)いえ、それはもう、全然。
四ノ宮:…あのー、六本木さん、手直しした原稿って読んで頂けましたか?
:
六本木:あー、読んだ読んだ。携帯電話と飛行機の件(くだり)ね、ちゃんと読ませてもらいましたよー。
:
四ノ宮:あの!すいません!寝ないで考えたんですけど、あんなのしか思いつかなくって…
四ノ宮:いやー!自分でもさすがに電報で脅迫状を送るっていうのは、いかがなものかなと思ったんですけど…
:
六本木:いや、方向性はあれでいいと思うんだけどね…
:
四ノ宮:え!マジですか!?
:
六本木:ただ、その、電報はさ…やっぱりちょっと、マズいんだよね。
六本木:だって携帯会社がスポンサーって事は、親会社は電話会社な訳だからさ…。
:
四ノ宮:はあ、やっぱり電報もダメか…。
:
六本木:いや、ほんとに、方向性はあれで良いと思うのよ。あともう一捻り!(ひとひねり)なんか考えてみて!
:
四ノ宮:わかりました。じゃあ爆発のところはどうですかね?
:
六本木:いやー、これも実は…。
:
四ノ宮:(泣きそうになりながら)…ダメなんですね。
:
六本木:ごめんね。四ノ宮ちゃん、やっぱり爆発は色々問題があってさ~。せめてボヤぐらいにならない?
:
四ノ宮:ボヤ!?でもボヤじゃ主人公への脅しにならないじゃないですか!
:
六本木:そこをうまく考えるのが脚本家の腕の見せどころだろ。
:
四ノ宮:そんな。
:
六本木:とにかく、もう一回振り絞って、考えてみて!
:
四ノ宮:…。
:
六本木:あと、次の回の原稿についてなんだけど…。
:
四ノ宮:はい。第1部の締めくくりの回なんで、ほんとに!魂を込めて書きました…
:
六本木:(遮って)ごめん!まだちゃんと読めてないんだ!
:
四ノ宮:えっ。
:
六本木:それで、もうクランクインまで時間がないから、先にこっちの要望だけ、まとめて伝えとくから。
六本木:今から言う内容、メモしといてくれる!?
:
四ノ宮:もうムチャクチャだ…。
:
六本木:大丈夫大丈夫。実はね、昨日、ここまでの原稿を主演のブルギル鮒夫(ふなお)さんが読んだんだ。
:
四ノ宮:えっ!そうなんですか!
:
六本木:そしたら鮒夫(ふなお)さんも、なんかノッてきちゃって。ここはこうしたい、みたいなアイデアが色々出てきちゃってさ~。
:
四ノ宮:なんかもう、嫌な予感しかしませんね…。
:
六本木:まあまあそう言わずに、そもそもこのドラマは、ブルギル鮒夫が主演するから通った企画なんだよ。プロデューサーとしても邪険(じゃけん)にはできないでしょう。
:
四ノ宮:わかりました。で、ブルギル鮒夫さんからはどんな要望があったんですか?
:
六本木:まず、冒頭のポケット灰皿の件(くだり)ね。
:
四ノ宮:ああ、やっぱり、変でしたもんね、あのシーン。鮒夫さん、こんなセリフ言えないって仰ってましたか?
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六本木:違う違う。逆だよ。今までにない新しい試みで、すごく良いって。
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四ノ宮:え!?そうなんですか?それはすごく嬉しいですけど、なんか複雑だな。
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六本木:んで、どうせなら、タバコの有害性について言及したセリフを、もっと追加したらどうかって?
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四ノ宮:げ。
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六本木:そう言うなよ、四ノ宮ちゃん。あと、シートベルトの件(くだり)も、斬新だって喜んでたよ。
:
四ノ宮:げげ。と言うことはまさか…。
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六本木:それで鮒夫さんが「これは、後部座席(こうぶざせき)のシートベルト着用を、社会に呼びかけるようなセリフも、追加するべきだ」って。
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四ノ宮:やっぱり。
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六本木:頼むよ~!このドラマはブルギル鮒夫さんありきなんだからね!
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四ノ宮:…なんとか、やってみます。
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六本木:それとね、
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四ノ宮:ええーー!!まだあるんですかー!?
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六本木:どちらかと言うと、ここからが本題なんだよ。
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四ノ宮:…。
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六本木:ブルギル鮒夫さんが最近、石川県の「ふるさと親善大使」に就任したの知ってる?
:
四ノ宮:いえ。
:
六本木:それでさ、鮒夫さんが「石川県の素晴らしさが、もっと伝わるようなドラマにしたい」って言ってるんだよ。
:
四ノ宮:は?
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六本木:うん、気持ちはわかるんだけど、ここはひとつ…
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四ノ宮:(遮って)いや!なんなの!「石川県の素晴らしさが伝わるドラマ」って!これハードボイルドな主人公が活躍する裏社会物でしょ!?意味わかんないよ!!
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六本木:まあ、そこはほら、四ノ宮ちゃんのセンスで…
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四ノ宮:それに、次の回は、さらわれた真莉香(まりか)を助けるために、実相寺が単身、敵のアジトに乗り込む話ですよ!
四ノ宮:石川県の素晴らしさを差し込むところなんて、どこにもありません!!
:
六本木:(誤魔化して)あー!ごめん!四ノ宮ちゃん!次の会議の時間だから、電話、一旦切るね。
六本木:大丈夫大丈夫!四ノ宮ちゃんなら出来る!石川県の魅力と絡めつつ、最高にハードボイルドな唐招提寺(とうしょうだいじ)を書いてよね!!んじゃ!(電話を切る)
:
四ノ宮:(切れた電話を見つめながら)…。
四ノ宮:実相寺だよ…。
四ノ宮:いい加減、主人公の名前くらい覚えろ!!
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0:深夜の埠頭。全身黒い衣服に身を包んだ一人の男が浮かび上がる。
0: ※劇中劇のシーンです
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実相寺:(モノローグ)映画や小説の一場面で、血の味を、鉄のようだと形容するのをよく見かけるが、そいつは本当に鉄を喰った事があるんだろうか?
実相寺:短い煙草を燻らせ(くゆらせ)ながら、俺はそんな事を考えていた…。
実相寺:
実相寺:残念ながら俺の鉛玉を喰らった奴らには、それを聞き出す術がない。それを俺が知るのは、俺自身が鉛玉を喰らって、地獄に落ちた時だけだ。
実相寺:どのみち生きてる間にそれを知る必要もない、か…。俺は吸いかけた煙草を一息で吸いきり、(少しの間)カバンからポケット灰皿を取り出した…。
実相寺:
実相寺:現在は様々な種類のある携帯灰皿の中でも、最もスタンダードな形状である、ポケットタイプの携帯灰皿、それがポケット灰皿だ…。
実相寺:その名の通りポケットに入れられるサイズなのが特徴で、スリムで持ち運びが容易なため、携帯性に優れている。
実相寺:俺の愛用のポケット灰皿は、カードケースのようなおしゃれなデザインに、髑髏(どくろ)をあしらったボタンが付いている、俺のお気に入りの逸品だ…。
実相寺:
実相寺:ポケット灰皿に吸い殻を入れた俺は、続けて2本目の煙草を取り出そうとして、ふと、煙草の箱に書かれた文字に目を止めた。
実相寺:
実相寺:(わざとらしく)えーと、なになに、【喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計(えきがくてきなすいけい)によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります】…なに!約2倍から4倍…そんなにか!?
実相寺:
実相寺:…2本目を吸うのはよそう。そう思って俺はくわえた煙草を箱の中に戻すのだった。
実相寺:
実相寺:俺の名は実相寺実彦(じっそうじ さねひこ)。このすえた匂いの漂う、ドブみたいな街の掃除屋…ヒットマンだ…。
:
0:SE「ドアを蹴破る音」
:
四ノ宮:ヤクザA「ぬお…!なんやワレ!どこの組のもんじゃい!?
四ノ宮:ここを獄獣連合直系荒鷲会(ごくじゅうれんごう ちょっけい こうしゅうかい)の事務所やとわかっててカチコミかけとんのやろなあ!?」
:
0:SE「銃声」
:
実相寺:扉近くに立っていた男の額に、俺は正確に弾丸を打ち込んだ。
:
四ノ宮:ヤクザA「ガハッ!(絶命する)」
:
実相寺:すぐさま、俺は絶命した男の身体を引き寄せながら周囲を確認する。ソファに2人、奥の部屋に3人、いや4人か…。
:
六本木:ヤクザB「かっ、カチコミじゃあ!」
:
0:SE「銃撃戦」
:
実相寺:この世の中は様々なプロの仕事で成り立ってる…。パンを焼くプロ、配管を直すプロ…
実相寺:なあ?お前もそうは思わないか?
:
六本木:ヤクザB「な、なに言ってやがる!?」
:
実相寺:俺もそんな、プロの1人でありたいと願ってるんだ…。…お前らゴミ共を、掃除するプロさ。
:
0:SE「銃声」
:
六本木:ヤクザB「グハッ!!」
:
実相寺:(モノローグ)掃除を終えた俺は、足早にタクシー乗り場に移動し、タクシーに乗り込んだ。
実相寺:
実相寺:(唐突に)…おっと、ここで忘れちゃいけないのがシートベルトだ!
実相寺:
実相寺:俺はタクシーに乗る時も決してシートベルトの着用は忘れない。何故なら2008年の法改正により、後部座席(こうぶざせき)のシートベルトにも着用義務が課せられるようになったからだ。
実相寺:
実相寺:シートベルト着用!ヨーシ!
実相寺:
実相寺:カチっと、小気味良い音をたてて、俺はシートベルトを装着した。いついかなる時も安全への意識を怠らない、これもまたプロの仕事だ…。
実相寺:安全で快適な運転に不可欠なシートベルト。俺はそんなシートベルトに思いを馳せながら、夜の街へ吸い込まれていくのだった。
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:
0:場面が変わり屋形船の船内。
:
:
実相寺:…マスター、今のをもう一杯頼む。
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四ノ宮:店長「はい!よろこんでー!ウォッカ・マティーニ 一丁(いっちょう)!」
:
六本木:バイト「はい!よろこんでー!ウォッカ・マティーニ 一丁(いっちょう)でーす!」
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六本木:バイト「お待たせしました!ウォッカ・マティーニ 一丁でーす!」
:
四ノ宮:店長「お待たせしました!ウォッカ・マティーニ 一丁でーす!」
:
実相寺:(モノローグ)マティーニを、ステアではなくシェイクで、昔見た映画の名ゼリフを思い出しながら、俺は2杯目の酒で唇を濡らした。
実相寺:今日は久々のオフ。俺は屋形船で隅田川クルージングを楽しみながら、大好きなお刺身の船盛りを頬張った。
実相寺:船上から見える、美しい景色に目を細めながら、ウォッカ・マティーニを口に運ぼうとした、その時。
:
六本木:ハト「バサバサバサバサ…(鳥の羽ばたく音)クルックー!」
:
実相寺:なんだ伝書鳩か。なになに…
実相寺:
実相寺:(手紙を読む)「娘を預かった。返して欲しくば、雇い主のクビと交換だ」
実相寺:
実相寺:なんだって!真莉香がさらわれただと!?
実相寺:
実相寺:(再び手紙を読む)「待っていろ。地獄のショーの始まりだ。ひとつ、ふたーつ、みっつ、」
:
0:SE「ポスっという音の小さい爆発音」
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六本木:バイト「店長!厨房で火事でーす!揚げ物の油から火が燃え移りましたー!」
:
四ノ宮:店長「なんだってー!?すぐ消火器持ってこーい!」
:
実相寺:真莉香ー!うおおおお!!待ってろー!今助けにいくぞー!!
:
:
0:再び場面が変わる。獄獣連合のアジト。
0:大勢のヤクザ共が待ち受けている。そして中央の柱に縛り付けられた少女。
:
:
実相寺:…待たせたな。
:
六本木:ヤクザの幹部「随分と遅い登場だったじゃねえか?危うくお嬢ちゃんを切り刻んじまうとこだったぜえ」
:
四ノ宮:少女「(猿轡をかまされ喋れない)ンー!ンー!」
:
実相寺:真莉香!無事か!?
:
六本木:ヤクザの幹部「おっとお、動くなよ」
:
実相寺:…!
:
六本木:ヤクザの幹部「さあ、実相寺、答えろ!服従か、それともここで死を選ぶか!」
:
実相寺:悪いな、生憎(あいにく)俺は、優柔不断なんだ。
:
六本木:ヤクザの幹部「んだと!?」
:
実相寺:(スーツのポケットから武器を取り出し)だから、好きにやらせてもらうさ。
:
六本木:(部下たちに指図する)お前ら!やっちまえ!
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四ノ宮:ヤクザA「へい!」
:
六本木:ヤクザB「へい!」
:
実相寺:(モノローグ)ここに入る前に俺は、やつらに拳銃を奪われてしまった。だが俺はプロの殺し屋。この身体に武器を隠しておく事など造作もない。
実相寺:俺は襲いかかってきた男の口に、素早く毒薬の入ったカプセルをお見舞いした。
:
四ノ宮:ヤクザA「グ、グワ!ぐ…ぐるじい…」
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実相寺:今お前が口にしたのは、テトロドトキシンさ。聞き覚えはないか?フグ毒さ。
:
四ノ宮:ヤクザA「フグ、毒」
:
実相寺:そうだ!フグの毒は一歩間違えば命を落とす危険もあるが、その身は弾力があって美味く、刺身、唐揚げ、様々な調理法で楽しむ事が出来る!
実相寺:そして何を隠そう、石川県はフグの漁獲量(ぎょかくりょう)日本一だっ!
:
四ノ宮:ヤクザA「や、山口県じゃ、ねえの、か(絶命する)」
:
実相寺:そうだ。俺も調べるまでは、フグと言えば山口県だと思っていた。だが漁獲量日本一は!石川県だ!
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六本木:ヤクザB「てめえ!なにしやがる…グワッ!」
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実相寺:俺は続いて、隠し持っていた、熱した金属を、哀れな男の顔に押し付けた。
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六本木:ヤクザB「グギャー!熱いー!!これは…焼肉の網!」
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実相寺:冥土の土産に教えてやろう。焼肉店の店舗数日本一も石川県だっ!
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六本木:ヤクザB「さぞかし、美味い肉が、食えるんだろうな(絶命する)」
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実相寺:くらえ!スイカの生産量 日本一ボンバー!!
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四ノ宮:ヤクザA「ショギャー!」
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実相寺:いまだ!チョコレートの消費量 日本一アターック!
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六本木:ヤクザB「あまーい!」
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実相寺:いくぞ!カレーハウスの店舗数 日本一スパイス!
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四ノ宮:ヤクザA「いがーい!(意外)」
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六本木:ヤクザの幹部「(怯えて)おい!やめろ!やめてくれ実相寺!なあ許してくれよ…」
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実相寺:これで終わりだ!回転寿司のベルトコンベアのシェアは、ほぼ100%が石川県ローラー!!
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六本木:ヤクザの幹部「グゴガガガガ!…ベルトコンベアに、挟まれるーー!!(絶命)」
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実相寺:やったか。
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四ノ宮:少女「実相寺のおじさん、私怖かった…」
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実相寺:(急にカメラ目線で)おいでよ石川!加賀百万石(かがひゃくまんごく)!!
実相寺:
実相寺:(モノローグ)こうして俺はまたひとつ、石川県の魅力を知る事になったのだった…。
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0:場面は変わり、喫茶店の店内。
0:向かい合って座る、四ノ宮と六本木。
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四ノ宮:あの、六本木さん。
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六本木:ん?なに?
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四ノ宮:自分で言うのも、どうかと思うんですけど、
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六本木:うん。
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四ノ宮:僕なんでこんなの書いちゃったんでしょう…。
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六本木:まあ、でも、オーダーした内容は全て網羅(もうら)されてるよね…。
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四ノ宮:こんなのが世に出てしまったら、僕の脚本家生命は終わりだ…。
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六本木:いやいや何言ってんだよ!四ノ宮ちゃんはよくやってくれたよ~!
六本木:四ノ宮ちゃんのおかげでこうやって無事にクランクインに間に合った訳だし。
四ノ宮:はあ…。
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六本木:あとは現場で何とかするから…。
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実相寺:AD「あー!やっぱりここにいた!六本木さん!大変です!緊急事態です!!」
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六本木:んー、どうしたの?
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実相寺:AD「ブルギル鮒夫さんが、不倫相手の女優宅で薬物所持の疑いで緊急逮捕されましたー!!」
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六本木:えええーー!!
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実相寺:AD「ドラマ【実相寺実彦の受難(じっそうじさねひこのじゅなん)】は残念ながら制作中止になる見通しです!」
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六本木:(その場に座り込んで)そんなあ~!!そりゃないよお~!!
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四ノ宮:いやったー!!!!!!
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0:(終わり)