台本概要

 359 views 

タイトル 『へだたりと花冷え』
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 春の日。とある少女と女性が、桜を見に行くお話。
―2022年4月1日―

或いは、『嘘吐き幽霊とサラトガ・クーラー』【ボーナス・トラック2】

 359 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
少女 109 この春から中学3年生。希未(のぞみ)、という名前。
女性 114 この春から社会人(就職は未定)。Jana(ヤナ)、という名前。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
【モノローグ】(少女):地図を見るのが好きなのは、何もかもが隣り合っているからだ。 【モノローグ】(少女):県、州、国。 【モノローグ】(少女):大陸、半島、海洋、山脈、河川、湖や沼。 【モノローグ】(少女):遥か空高くから見下ろしたなら、きっとあらゆる全ては、何かと隣り合っていて。 【モノローグ】(少女):埋め方のわからない隙間や、 【モノローグ】(少女):近いのに、遠い、白昼夢のような心の距離や、 【モノローグ】(少女):永久に埋まる事の無い、生と死の間にあるものを。 【モノローグ】(少女):見ずに済むかもしれないから。 【モノローグ】(少女):春の虚ろな陽気の中で、 【モノローグ】(少女):「どうして地図なんか好きなの?」と尋ねられたら。 【モノローグ】(少女):きっと私は、そんな嘘を吐(つ)く。 0:タイトルコール。 女性:『へだたりと花冷え』 0:【間】 【モノローグ】(少女):路線を2本、乗換え1回の距離を電車に揺られて。 【モノローグ】(少女):誰も知らない駅で降り、私しか知らない、ともだちに、会いに行く。 【モノローグ】(少女):四月の風に、真珠色の髪が、なびいて。 【モノローグ】(少女):こちらに手を振る背の高いあの人を見るのが、私は好きだ。 0:アパートの一室。帰宅、及び、来客。 女性:やはァー、いらっさい、いらっさァーいっ。 少女:お邪魔、します……、 女性:あ、窓開けてイイー? 女性:風入れよ風っ。 少女:うん……、今日、気持ちいい、かも。 0:カラカラ、と開窓。 女性:ふいーーーっ。 女性:あっ、アイスクレープさァ、冷凍庫に、 少女:入れとく。……後で? 女性:夜でヨクない? デザートデザートぉっ。 少女:うん。 0:少女は冷蔵庫へと。 女性:(声を飛ばし) 女性:日曜まで泊まってくんだよねーーーっ? 少女:あの、えっと、勝手に、そのつもり……、 少女:迷惑、だったら、一泊で、 女性:ぜぇーーんぜん。 女性:ぜぇーーんぜんオッケー左衛門だからっ。 女性:あ、お茶飲んでイイよー。 少女:……頂き、ます。 0:【間】 0:2杯分のお茶を持って戻り。 少女:良い風……。あ、お茶、はい、 女性:おっ、サンクスサンクスっ、サンキストオレンジぃーっ。 女性:イイのに、お気遣いガールぅ。 少女:ついで……。 少女:あ、でもメロンソーダ、 女性:ダブル飲みするからダイジョーブっ。 女性:飲むぅ? ほれほれっ。 少女:あっ、う、ううん、お茶、でっ。 女性:あひゃ、何か赤くなってるゥ。 女性:今更ァ。 少女:…………、 少女:桜、 女性:んー? 少女:もうじき、散っちゃう、かな。 女性:あーっ、ねー。 女性:雨降っちゃったしねー、こないだ。 女性:観に行くっ? 後でっ。 少女:あ、え、桜っ? 女性:観に行こーねーって、言ってたもんね、前来た時。 女性:いっぱい咲いてるトコあるからー、って。 少女:うん……、もうちょっと早くに来れたら、時期も、丁度だったんだけど……、 女性:ごめーんねェーっ、私が卒業とか色々モロモロでェー、 少女:あ、ううん、全然、 女性:プランではもーちょいシュポってイケるハズだったんだケド教授っちがァ、直前でハシゴ外して来てェ。 女性:危うく袴の出番、来年まで延期になるトコだったァ。 少女:袴……、あの、似合ってた。卒業式。 女性:あっ、写真送ったよねーっ、そーいやっ。 女性:あれヤバいでしょ真っピンクでっ。 女性:ハイカラ過ぎさんが通るぞォーっつってアハハっ。 少女:綺麗……、着こなしてた、と思う、 女性:うひゃ、ありがとぉー。 女性:アレ、式の直前で着崩れてェっ、 女性:和装とか初めてだったからヤっバァってなったんだけど。 女性:一緒に卒業する中に日舞(にちぶ)の、家元の子が居てェ、チャチャーって直してもらってコトナキを得ましたぞっと。 少女:初めて……、だったんだ。 少女:成人式、とかは、 女性:あー。私ねェー、二十歳(はたち)の時は露出にハマってたからァ、 少女:ろっ、ろしゅ、 女性:あ、露出ってソッチじゃナイよ、「見せるオシャレ」の方だからっ。 女性:真っ青の、エッッッグいカタチのカクテルドレス着て、わざわざ地元の成人式行ってェ、 少女:すっ、すごいヤツ……? 女性:背中丸開きっ。外国の、レッドカーペットでセレブが来てるみたいなァ。 女性:今もだけど頭オカシかったからハレの日だしイっかァーって思って行ったんだけどォ、コンパニオンと間違われて止められてェ、 少女:ぅわ……、 少女:それ、は、 女性:「誰が呼んだんだァ非常識なーっ」つって! 女性:でも着替えるとか無理だったしそのままで推(お)して参ったっ! 女性:周りドン引きだよねー、 女性:ムキ出しの外人の、しかもデカい女がさっ、 【モノローグ】(少女):この人には……、遠い遠い、異国の血が流れていて。 【モノローグ】(少女):育ちや言葉は、こちらのもの、だけれど。 【モノローグ】(少女):髪や目の色、背の高さ。顔立ち、体つき……、 【モノローグ】(少女):見た目は本当に、海外のファッションモデルの人、みたいな。 【モノローグ】(少女):前に……、 女性(回想の声):「あ、性格は外国生まれとかカンケー無いよォーっ? 女性(回想の声):ルリタニア人ってどっちかって言ったらカタくて真面目な人多いしィ。 女性(回想の声):ダシと醤油で出来上がった純正破天荒ヤマトナデシコでぇーすっつって! 女性(回想の声):つってコレ! アハハハハハっ」 【モノローグ】(少女):……って、言ってたっけ。 【モノローグ】(少女):ろしゅつ。カクテルドレス。 【モノローグ】(少女):背中まるあき。エグい、やつ。 【モノローグ】(少女):……見たくない、って言ったら嘘になる、ので。 【モノローグ】(少女):私は何も言わない。 女性:同学年の伝説作っちゃったよねェっ。 女性:もー写真撮られまくりで、市長とかも何か勘違いして「ドコに電話したらキミ呼べるの」ォとかって、 女性:あっ、てかてかてかァっ、 少女:あ、え、 女性:そんなんはイイからっ。 女性:桜! 見に行こうっ。 女性:思い立ったが吉日っ! 少女:……っ、イイ、の……? 少女:いきなり来ちゃったし、何か予定、とか、 女性:今日はノースケジューリィな日だから無問題(もーまんたい)っ。 女性:明日はカスミンと買い物行こーって約束してるんだけどォ、 女性:あ、良かったらソレも来るっ? 少女:め……、迷惑じゃ、ない、かな……、 女性:聞くは聞くけど。 女性:カスミンはなんだかんだ普通に懐っこいからァ、 少女:そう、なの……? 女性:奥手、なんだよねー。 女性:ちょい2人、似てるよ。 女性:だからダイジョブだと思うよー。 少女:……、だと、良い、けど、 女性:(切り替えて) 女性:おォっしゃァ! 女性:明るいうちにイザ参らん桜の穴場っ! 女性:あ、ちょっと歩くケドいい? 少女:えと……、あの、そこの川沿いの、並木のトコじゃなくて? 女性:アッチは露店とか出て賑やかなんだけどォ。 女性:逆の方のちょっと行ったトコにですなー、いっぱい咲いてるんだけど静かなトコあるから、ソコ行こーって思って。 女性:ワイワイ系の方がイイ? 少女:う、ううんっ……、 少女:静かな方が、良い……。 女性:だよねェーっ、 女性:MeToo、ミートゥーっ。 少女:……、……、 女性:いまウソつけって思ったァ? 少女:……思ってない。 0:【間】 【モノローグ】(少女):のどかな、住宅街を二人、連れ立って。 【モノローグ】(少女):暖かな陽差しの中、徒歩で8分ほどの距離。 【モノローグ】(少女):ご近所とはいえ、色んな意味で誰もが振り返る、この人と。 【モノローグ】(少女):誰からも、見る事も、気にもされない自分が、歩いていると……、 【モノローグ】(少女):なんだか体が透き通って、透明人間になったような心地になる。 【モノローグ】(少女):でも、不思議と。 【モノローグ】(少女):気分は悪くなかった。 女性:ふぃーっ、ここココっ。 女性:階段登りまァーっす。 女性:セルフ・上へ参りまァーーっす。 少女:ここ……、神社? お寺……? 女性:両方ー。神社の境内に寺があるヤツ。 少女:え……、へえ……、 0:鳥居を潜り、階段を登りつつ、会話。 女性:「神宮寺(じんぐうじ)」とか、「別当寺(べっとうじ)」ってヤツだね。 女性:神仏習合(しんぶつしゅうごう)の時代には当たり前だったんだよ。 女性:ソレが後から、「やっぱ仏教オマエもうイイわァ、こっからは神道メインでやってくわァ。てか仏教キモくね?」 女性:って平田篤胤(ひらたあつたね)ちゃんとかがァ、 少女:廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)……、 女性:そーそォ、よく知ってるねェー。 女性:中学でやるっけ? 少女:一応……、範囲、には。 少女:社会の朱田(あけた)先生……、いっぱい色々、喋る人だから。 女性:ココはねェ、神社の方だけ現役でェ、寺の方はボロい本堂が残ってるぐらいなんだけど。 女性:誰が植えたんだか、桜、いっぱい咲くんだよねェ。 女性:こっち移って来て、散歩してたら見つけてェ、 少女:へえ……、 女性:階段ダルいから1人ではあんま来ないけど。 女性:一緒に、桜見せたげたい相手が居たらモチベキープ余裕ゥー。 少女:……、見せて、あげたい……、 【モノローグ】(少女):特別な意味は無い、はず。 【モノローグ】(少女):きっと、この人は、 女性:相手が誰でもねーっ、 女性:コレしてあげたら喜ぶカナー、とか。 女性:困ってて、いま自分、助けたげれるなー、とかって時は、結構勝手に、体が動くんだけどォ、 女性:あっ、押し付けてるんじゃナイよ? 少女:うん……、わかる。 女性:でも自分で、自分をどー活かしたい、ってゆーのがねー。 女性:イマイチよくわかんなくて。 少女:……、 女性:結構色々、出来る事はいっぱいあるんだけど。 【モノローグ】(少女):美人で、明るくて。 【モノローグ】(少女):過ぎるぐらいに社交的で。 【モノローグ】(少女):とても優秀な大学を出てて、たまに雑誌とかに載るぐらい、スタイルがもの凄く、良くて。 【モノローグ】(少女):一度見たら忘れられない、羽衣みたいな、プラチナ色の長い髪。 【モノローグ】(少女):果物みたいな、陶磁器みたいな、水気のある肌。 【モノローグ】(少女):熱い息。体温。手のひら。 【モノローグ】(少女):緑のアーチに覆われた、境内へと伸びるこの階段のように。 【モノローグ】(少女):一段一段、この人を飾る言葉を、積み上げる。 【モノローグ】(少女):けれど、 女性:なんかね。 女性:なァーんか、ココだァってフィット感が無いんだよねー。 女性:ちっちゃい頃から。 【モノローグ】(少女):だけれど言葉は、 【モノローグ】(少女):生まれたそばから、嘘になってしまうから。 女性:まねー、でも私もねー。 女性:ヒかれても、混ぜてくんなくても、気にしなーいって。 女性:子供の時から癖になっちゃってるしねー。 女性:見た目もこんなんだし。 少女:……、 女性:まーだから、必要な時に要る部分だけ、ちょいちょいって摘んでって貰ったらソレでオッケーかなー、とか。 女性:ヤな事じゃなかったら別に大概オッケーだしィ。 女性:「自分からそんなん言うなやっ」とかってアドくん、あ、バイトの子は何か怒るんだけどさ。 少女:んー……、 女性:あれあれ、オードブル的な。 女性:私自身がビュッフェ形式ってゆーかァ、 少女:……、ドリンクバー……? 少女:あっ、ごっ、ごめん、 女性:うひっ、ソレ良いねーっ。 女性:ちょーどイイやっ、お好きに混ぜてオリジナルドリンク作って頂いてェ。 女性:あ全ェン然、悪く取ってナイからねー。 少女:……、う、ん。 女性:よっ、しょっ……、っと。 女性:もーちょっとっ。 【モノローグ】(少女):何段分、だか、見た目よりも急だった階段を、登り切ると。 【モノローグ】(少女):視界が開けて、 【モノローグ】(少女):甘く、饐(す)えた、花びらの匂い。 【モノローグ】(少女):浮世を外れた薄紅(うすべに)の天幕。 【モノローグ】(少女):攫(さら)われてしまいそうに冴え返った空気が火照る肌を撫でて、 【モノローグ】(少女):私は息をつく。 少女:……きれい……。 女性:そうだね。 【モノローグ】(少女):神社の敷地の中に、うっそりと区切られ、間取られた、お寺の境内。 【モノローグ】(少女):半ば朽ちたお堂と、塔や鐘楼の名残。 【モノローグ】(少女):過ぎた時間を縫い留めるように、何本もの桜が、距離を空けて静かに、佇んでいて。 【モノローグ】(少女):ここは、この場所は、 女性:お墓みたい、だよね。 少女:……おはか、 女性:寺なんだからマサシクそもそも、なんだケドぉ。 女性:でもこの桜が植わったのは、そんな昔じゃないっぽいから。 女性:後から誰かが植えたんだろーねェ。 女性:昔を偲んで。 少女:昔……、 女性:まだお寺が綺麗で、人の行き来があった頃、カナ。 女性:そんな風に何かを植えた場所はね、ある限られた時間の、お墓なんだよねー。 女性:樹って、元々そーいうモノだから。 少女:時間の、お墓……、 女性:だからァ……、チョイ、キモいんだよ。 女性:人間が植えた樹、って。 少女:…………、 少女:幽霊が、出そうで? 女性:あひゃっ、柳の下とか、それこそ事故ったトンネルとかならビビるけどォ。 女性:ココに幽霊は出ない、かなァー。 少女:どう、して……? 女性:だって寺で、神社で、お墓だもん。 女性:「ここに居ていいよ」、って、場所を与えられてる魂は。 女性:彷徨い出たり、しないと思うから。 少女:……、 少女:ここに、いて、いい……、 【モノローグ】(少女):この人は偶に、ちょっと、別人みたいな。 【モノローグ】(少女):違った空気を纏う事がある。 【モノローグ】(少女):1つの鉱石が、光や見る角度で色合いを変えるみたいに。 女性:結局つまり、生きてる人間の為の場所じゃないんだよね。 女性:だからどっか、居ちゃイケないよーな気分になるんだけど。 女性:でもなんか、平等に疎外されてる感じが逆に落ち着くっていうかァ、 少女:…………、 女性:反応に困るコト急に言い出してゴメンねーっ? 少女:あっ、ううんっ、 女性:放置でオッケーだから。 少女:…………、 【モノローグ】(少女):万華鏡を覗いたような、奇妙で果ての無い奥行きに、くらくらする。 【モノローグ】(少女):手の先が霞み、永遠に縮まらない距離の向こうに居る、ような。 【モノローグ】(少女):彼岸(ひがん)の人。 0:【間】 【モノローグ】(少女):桜の枝に指を透かして、崩折れかけたお堂の裏まで回ると、 【モノローグ】(少女):不意に人が居て、びっくりした。 【モノローグ】(少女):軒の下に2人腰掛けて、手を繋いで。 【モノローグ】(少女):滑らかな黒髪をアップに纏めて、気まずそうに目を伏せる、綺麗な、女の人と。 【モノローグ】(少女):色素の薄い茶色い髪を緩く波打たせ、同じように茶色い目を丸く見開いた、男の人。 【モノローグ】(少女):向こうもびっくりしたみたい。 【モノローグ】(少女):多分、カップル。 【モノローグ】(少女):昔……、この近くに住んでいた人を訪ねて、隣の県からやって来た時に、雨宿りをした、思い出の場所、らしい。 【モノローグ】(少女):あんまり話もせず、そそくさと、男の人が手を引いて、2人は帰って行った。 【モノローグ】(少女):距離は、かなり近い。 少女:お邪魔、しちゃった……。 女性:まっさか人来るんかいーって顔だったねーっ。 女性:なァーにを廃寺(はいでら)でチチクリ合っとるのかねチミたちィーっつって。 女性:アハハハハハっ。 少女:ちちくり……、 少女:そう、なのかな、 女性:手ェ握ってたしィ。 女性:ま、カンケー無いけど。 女性:あ、寒くない? 少女:ん……、ちょっと。 少女:結構、冷える、かも、 女性:標高ちょい高いからねー。 女性:おかげで桜は残ってるけど。 女性:あっ、ギュってしたげよっか? 少女:えっ、あ……、う、え、 女性:あの子たち座ってたトコでェ。 女性:温めたげるよ。 少女:…………、あ、の、 女性:遠慮しなくてイイ、イイー。 女性:ぶっちゃけ私も寒いしWin-Winだからっ。 女性:そーれウインウイィーーン。 少女:あっ、ちょっ、あ、 【モノローグ】(少女):私を引っ張って、軒に座らせ。 【モノローグ】(少女):後ろから……、包み込み、抱き締める。 【モノローグ】(少女):距離はゼロ。むしろ、密着してマイナス。 【モノローグ】(少女):熱い体温が、伝わる。 女性:ほォれギュゥーっ。 少女:ふ、あ、あ……っ、 女性:くっつくと温かいねェ。 女性:んー? 少女:えと……、あ、の、……、 女性:しっくり来る大きさだし。 女性:およ、ほっぺたピンクだァ。どしたー、可愛過ぎかァー、おいっ。 少女:……、あう……、 女性:ん、嫌かなァ、やめるー? 少女:ううんっ、……、あ、ったかい……、 女性:へっへっへー、ほーじゃろほーじゃろっ。 少女:……、 女性:ふいいーっ。 女性:なんだかんだ歩きっぱ立ちっぱだったからよーやく一息っ。 女性:あ、帰ったらアイスクレープ食べよーねー。 少女:あ……、そう、だね、 女性:の前にご飯か。 女性:今日はねェっ……、 女性:ピザ、取るからっ。 少女:えっ……、えっ? 女性:昨日から決めてたんだー。 女性:クワトロのヤツにして2種類ずつ選ぼうっ。 少女:…………、 少女:そ、れ……、 女性:前聞いてさー、いつかやろーと思ってたんだよねー。 【モノローグ】(少女):前に。 【モノローグ】(少女):初めて会った、秋の日の、夜と朝の間の時間に……、 【モノローグ】(少女):一度だけ、話した、 【モノローグ】(少女):家族の思い出。 【モノローグ】(少女):お母さんに取って、私が透明になってしまう、前。 【モノローグ】(少女):離婚して、お父さんと、離れてしまう、前。 【モノローグ】(少女):弟と、永遠に……、 【モノローグ】(少女):一緒にテレビを見たり、好きな芸能人の話をしたり、出来なくなってしまう、前。 【モノローグ】(少女):遠ざかってしまった時間の、記憶。 女性:てか簡単だけどねェーっ、オトナの経済力があればっ。 女性:問題はカロリーだけどもォー、 少女:…………っ、 少女:そんな……、申し訳、ないから、 女性:おっ気になさラズベリーっ。 女性:こーゆー時でもなかったらピザとか取らないしィ。 女性:カスミンはコッテリ系ダメだしさァ、 少女:で、でも……、 女性:(遮り)あのねー、 少女:っ、 女性:大丈夫。 女性:コレは、私がやりたいヤツだから。 女性:ね? 少女:……、……、 女性:宅配ピザの生地ってどっちが好きィ? 女性:分厚いのと、サクサクと。 少女:あの……、え、と、 女性:私はどっちも好きだから。 女性:心の赴くままにっ! 女性:さァ殿っ! 少女:殿……。 少女:……じゃ、じゃあ……、 女性:んーっ、 少女:……サクサク、で。 女性:アハハっ、予想通りーっ! 【モノローグ】(少女):提案の真意はわからない。 【モノローグ】(少女):へだたりから目を背けている、私には。 【モノローグ】(少女):多分……、哀れに、思ってくれてる、だけ。 【モノローグ】(少女):ただ、密着した肌と肌の熱だけは、 【モノローグ】(少女):本当のように、感じた。 0:【間】 女性:(電話口での注文) 女性:あっ、じゃー言いますねェーっ? 女性:XLサイズのー、クワトロ、うん4種類のヤツ、そーそォ。 女性:で生地はサクサクの、ん、ん? 女性:あっうんー、ハードクリスプっ。 女性:で味はァ、あ順番に言うねー。 女性:えっと、フレッシュマルゲリータとォ、シーフード、パーティー? ガーリックじゃナイ方ねっ、 女性:それからトリュフ&マッシュルーム、と後……、何だっけっ? 少女:照り焼きチキン……、 女性:そだそだ、照り焼きチキンっ。 女性:の、4種でー。……うん、うんハイっ。 女性:あ、良いよ良いよ30分くらい、待つ待つー。 女性:バイク気をつけてねーーっ。 女性:んン? あっ、うんうんーー、 女性:アハハハハハっ。 女性:ういー、ヨロシクぅーーっ。 【モノローグ】(少女):届いたピザを見た時は、無理だと思った、けど……、結局2人で、ぺろっと食べた。 【モノローグ】(少女):生地はやっぱり、サクサクの方が美味しい。 0:【間】 女性:歯磨き完了ォーっ。 女性:ヤバーー眠気と遊びたい欲の板挟みィーっ、 女性:アンビバレンツ・スプリング・ナーーイツっ。 少女:結構歩いたし……、階段も、 女性:ま、もー寝るかァーーっ。 女性:どーせ明日もあるし。 女性:古着の店って行った事あるゥ? 少女:な、ない……。 少女:服の事、わかってる子が、行くとこ……、ていうか、 女性:あダイジョブダイジョブ。 女性:ソコの店長ヒゲ面のオモロいオッサンだからっ。 女性:明日行くかはわかんないけどねー。 少女:邪魔、しない、から……、 女性:アハハっ、チミは持ち運びし易いから邪魔にはなんないよー。 少女:…………、 女性:でも自分が嫌だったら言うんだよ? 少女:う、うん……、それ、は、 女性:次、中3だっけェ。 少女:あ……、そう、うん。 女性:今年からアレだよねー、 女性:成人、18歳になるんだよね。 女性:てことはァ、 少女:あと、3年……、 女性:3年後には成人式かァ。 女性:うひぇーーっ、 女性:ドレス着るゥ? 女性:どっかにあるよ、確か売ってないからァ、 少女:む、無理……っ、 少女:色々、ガバガバ……っ、 女性:アハハっ、胸とかァーっ。 女性:ま、好きなの着るのがイイよねー。 少女:わかん、ない……。 少女:まだ……、 女性:遠い? 少女:うん……、正直。 女性:もしも……、その時まだ友達だったら。 女性:お祝い、しよーね。 少女:……っ、……、 女性:ドコに居るかはわかんないけど。 女性:この星のどっかには、多分居るよね。 少女:……星……、 女性:あっ、でも宇宙飛行士とか目指してたりするっ?? 女性:だったら怪しい外人女と遊んでナイで、今から勉強始めとかなきゃヤバいかもっ! 少女:い、今の所……、予定無い、かも……。 0:【間】 【モノローグ】(少女):その夜、夢を見た。 【モノローグ】(少女):隣で眠る人の、温かい肌に包まれて。 【モノローグ】(少女):不思議な心地の、夢。 0:春の夢のうた。或いは、『ラブレター』。 0:(詩の朗読) 女性:半径 1mの円があれば 女性:人は 座り 祈り 歌うよ 少女:半径 10mの小屋があれば 少女:雨のどか 夢まどか 女性:半径 100mの平地があれば 女性:人は 稲を植え 山羊を飼うよ 少女:半径 1kmの谷があれば 少女:薪と 水と 山菜と 紅天狗茸(べにてんぐだけ) 女性:半径 10kmの森があれば 女性:狸 鷹 蝮(まむし) ルリタテハが来て遊ぶ : 少女:半径 100km 少女:みすず刈る 信濃(しなの)の国に 人住むとかや 女性:半径 1000km 女性:夏には歩く サンゴの海 女性:冬は 流氷のオホーツク 少女:半径 1万km 少女:地球のどこかを 歩いているよ 女性:半径 10万km 女性:流星の海を 歩いているよ 少女:半径 100万km 少女:菜の花や 月は東に 日は西に 女性:半径 100億km 女性:太陽系マンダラを 昨日のように通りすぎ 少女:半径 1万光年 少女:銀河系宇宙は 春の花 いまさかりなり 女性:半径 100万光年 女性:アンドロメダ星雲は 桜吹雪に溶けてゆく 少女:半径 100億光年 少女:時間と 空間と すべての思い 燃えつきるところ : 女性:そこで また 人は 座り 祈り 歌うよ 少女:人は 座り 祈り 歌うよ 0:【間】 【モノローグ】(少女):永遠と瞬間の間の、途方も無い距離を。 【モノローグ】(少女):ふたりでどこまでも、旅する夢だった。 【モノローグ】(少女):どこまでも、どこまでも。 【モノローグ】(少女):隣り合って、手を繋いで。 0:【間】 女性:おっはおっはヨーソローっ。 女性:朝ご飯さァーっ、 女性:……ん、汗かいてる? 女性:しんどいー? 少女:あ、ううん……、大丈夫……。 少女:……夢、見た、かも……、 女性:おっ、どんなー? 少女:……変な、感じの……、 少女:宇宙と、桜の、夢……、 女性:ふうーーーん? 女性:ヤな夢だったァ? 少女:…………、わかん、ない……。 女性:あのねーっ、さっきLINE来たんだけどォ、カスミン急に用事出来て、今日無理くなっちゃったんだってェー。 少女:あ……、そう、なんだ。 少女:何かあったのかな……、 女性:ぬひひっ、このパティーンはねェー、 女性:昨日彼ピとフィーバーしてお疲れモードかァ、1日ダルぅくお家デートしたくなったかドッチかだねェー。 少女:彼、氏……、いるんだ、香澄(カスミ)さん……、 女性:本人的には違うらしーけどォ、そーとしか思えないガムみたいのが居るねっ。 少女:ガム……、何だっけ、それ、 女性:まっ、そっちは良くてー。 女性:もし嘘でも許そーっ、何せ今日はァ。 女性:エイプリルフールだしィー。 少女:…………、そ、っか、 女性:嘘つくなら今のウチじゃぞォ? 少女:……、思い、付かない……、 女性:アハハっ。寝起きだしねェーっ。 女性:あ、んでんでんでェっ、 少女:う、ん……、 女性:今日は靴を買いに行こうっ。 女性:新しい靴っ! 少女:えっ……、え? 女性:昨日さっ! なァーーんとなく、思ったの。 女性:気分変えたい時。 女性:ココじゃないドコかまで、歩き出したい時にはっ。 女性:まずピザとかドカ食いしてェ。 女性:からっ、新しい靴を買ったらイイんだァってっ! 少女:…………、ココじゃない、ドコか……、 女性:ドコまでだって行けるよ。 女性:どんなに遠くても。間に何があったって。 女性:世界はぜェーーんぶ、繋がってるんだから。 少女:…………っ、 女性:何色が好き? 少女:…………、…………、 0:数秒、黙考。 少女:…………、み、水色……。 【モノローグ】(少女):あなたの瞳と、同じ、色。 女性:よォっしゃオラっ! 女性:そんじゃ今日の、絶好の買い物日和っ! 女性:1日かけて探そーっ! 女性:羽の生えたような、水色のスニーカーーーーっ!!! 少女:あ、あ、う……、 0:【間】 【モノローグ】(少女):日は高く、風は気まぐれ。 【モノローグ】(少女):近くて遠い、人と人とのへだたりを、引き離すように、或いは満たすように。 【モノローグ】(少女):吹いては通り、融けて行く。 【モノローグ】(少女):こんな日に、声に出した言葉は、きっと嘘になってしまうから。 【モノローグ】(少女):私は心の中で繰り返す。 【モノローグ】(少女):【間】 【モノローグ】(少女):お姉さん。 【モノローグ】(少女):お姉さん、 【モノローグ】(少女):【間】 【モノローグ】(少女):好きです。 0:【終】

【モノローグ】(少女):地図を見るのが好きなのは、何もかもが隣り合っているからだ。 【モノローグ】(少女):県、州、国。 【モノローグ】(少女):大陸、半島、海洋、山脈、河川、湖や沼。 【モノローグ】(少女):遥か空高くから見下ろしたなら、きっとあらゆる全ては、何かと隣り合っていて。 【モノローグ】(少女):埋め方のわからない隙間や、 【モノローグ】(少女):近いのに、遠い、白昼夢のような心の距離や、 【モノローグ】(少女):永久に埋まる事の無い、生と死の間にあるものを。 【モノローグ】(少女):見ずに済むかもしれないから。 【モノローグ】(少女):春の虚ろな陽気の中で、 【モノローグ】(少女):「どうして地図なんか好きなの?」と尋ねられたら。 【モノローグ】(少女):きっと私は、そんな嘘を吐(つ)く。 0:タイトルコール。 女性:『へだたりと花冷え』 0:【間】 【モノローグ】(少女):路線を2本、乗換え1回の距離を電車に揺られて。 【モノローグ】(少女):誰も知らない駅で降り、私しか知らない、ともだちに、会いに行く。 【モノローグ】(少女):四月の風に、真珠色の髪が、なびいて。 【モノローグ】(少女):こちらに手を振る背の高いあの人を見るのが、私は好きだ。 0:アパートの一室。帰宅、及び、来客。 女性:やはァー、いらっさい、いらっさァーいっ。 少女:お邪魔、します……、 女性:あ、窓開けてイイー? 女性:風入れよ風っ。 少女:うん……、今日、気持ちいい、かも。 0:カラカラ、と開窓。 女性:ふいーーーっ。 女性:あっ、アイスクレープさァ、冷凍庫に、 少女:入れとく。……後で? 女性:夜でヨクない? デザートデザートぉっ。 少女:うん。 0:少女は冷蔵庫へと。 女性:(声を飛ばし) 女性:日曜まで泊まってくんだよねーーーっ? 少女:あの、えっと、勝手に、そのつもり……、 少女:迷惑、だったら、一泊で、 女性:ぜぇーーんぜん。 女性:ぜぇーーんぜんオッケー左衛門だからっ。 女性:あ、お茶飲んでイイよー。 少女:……頂き、ます。 0:【間】 0:2杯分のお茶を持って戻り。 少女:良い風……。あ、お茶、はい、 女性:おっ、サンクスサンクスっ、サンキストオレンジぃーっ。 女性:イイのに、お気遣いガールぅ。 少女:ついで……。 少女:あ、でもメロンソーダ、 女性:ダブル飲みするからダイジョーブっ。 女性:飲むぅ? ほれほれっ。 少女:あっ、う、ううん、お茶、でっ。 女性:あひゃ、何か赤くなってるゥ。 女性:今更ァ。 少女:…………、 少女:桜、 女性:んー? 少女:もうじき、散っちゃう、かな。 女性:あーっ、ねー。 女性:雨降っちゃったしねー、こないだ。 女性:観に行くっ? 後でっ。 少女:あ、え、桜っ? 女性:観に行こーねーって、言ってたもんね、前来た時。 女性:いっぱい咲いてるトコあるからー、って。 少女:うん……、もうちょっと早くに来れたら、時期も、丁度だったんだけど……、 女性:ごめーんねェーっ、私が卒業とか色々モロモロでェー、 少女:あ、ううん、全然、 女性:プランではもーちょいシュポってイケるハズだったんだケド教授っちがァ、直前でハシゴ外して来てェ。 女性:危うく袴の出番、来年まで延期になるトコだったァ。 少女:袴……、あの、似合ってた。卒業式。 女性:あっ、写真送ったよねーっ、そーいやっ。 女性:あれヤバいでしょ真っピンクでっ。 女性:ハイカラ過ぎさんが通るぞォーっつってアハハっ。 少女:綺麗……、着こなしてた、と思う、 女性:うひゃ、ありがとぉー。 女性:アレ、式の直前で着崩れてェっ、 女性:和装とか初めてだったからヤっバァってなったんだけど。 女性:一緒に卒業する中に日舞(にちぶ)の、家元の子が居てェ、チャチャーって直してもらってコトナキを得ましたぞっと。 少女:初めて……、だったんだ。 少女:成人式、とかは、 女性:あー。私ねェー、二十歳(はたち)の時は露出にハマってたからァ、 少女:ろっ、ろしゅ、 女性:あ、露出ってソッチじゃナイよ、「見せるオシャレ」の方だからっ。 女性:真っ青の、エッッッグいカタチのカクテルドレス着て、わざわざ地元の成人式行ってェ、 少女:すっ、すごいヤツ……? 女性:背中丸開きっ。外国の、レッドカーペットでセレブが来てるみたいなァ。 女性:今もだけど頭オカシかったからハレの日だしイっかァーって思って行ったんだけどォ、コンパニオンと間違われて止められてェ、 少女:ぅわ……、 少女:それ、は、 女性:「誰が呼んだんだァ非常識なーっ」つって! 女性:でも着替えるとか無理だったしそのままで推(お)して参ったっ! 女性:周りドン引きだよねー、 女性:ムキ出しの外人の、しかもデカい女がさっ、 【モノローグ】(少女):この人には……、遠い遠い、異国の血が流れていて。 【モノローグ】(少女):育ちや言葉は、こちらのもの、だけれど。 【モノローグ】(少女):髪や目の色、背の高さ。顔立ち、体つき……、 【モノローグ】(少女):見た目は本当に、海外のファッションモデルの人、みたいな。 【モノローグ】(少女):前に……、 女性(回想の声):「あ、性格は外国生まれとかカンケー無いよォーっ? 女性(回想の声):ルリタニア人ってどっちかって言ったらカタくて真面目な人多いしィ。 女性(回想の声):ダシと醤油で出来上がった純正破天荒ヤマトナデシコでぇーすっつって! 女性(回想の声):つってコレ! アハハハハハっ」 【モノローグ】(少女):……って、言ってたっけ。 【モノローグ】(少女):ろしゅつ。カクテルドレス。 【モノローグ】(少女):背中まるあき。エグい、やつ。 【モノローグ】(少女):……見たくない、って言ったら嘘になる、ので。 【モノローグ】(少女):私は何も言わない。 女性:同学年の伝説作っちゃったよねェっ。 女性:もー写真撮られまくりで、市長とかも何か勘違いして「ドコに電話したらキミ呼べるの」ォとかって、 女性:あっ、てかてかてかァっ、 少女:あ、え、 女性:そんなんはイイからっ。 女性:桜! 見に行こうっ。 女性:思い立ったが吉日っ! 少女:……っ、イイ、の……? 少女:いきなり来ちゃったし、何か予定、とか、 女性:今日はノースケジューリィな日だから無問題(もーまんたい)っ。 女性:明日はカスミンと買い物行こーって約束してるんだけどォ、 女性:あ、良かったらソレも来るっ? 少女:め……、迷惑じゃ、ない、かな……、 女性:聞くは聞くけど。 女性:カスミンはなんだかんだ普通に懐っこいからァ、 少女:そう、なの……? 女性:奥手、なんだよねー。 女性:ちょい2人、似てるよ。 女性:だからダイジョブだと思うよー。 少女:……、だと、良い、けど、 女性:(切り替えて) 女性:おォっしゃァ! 女性:明るいうちにイザ参らん桜の穴場っ! 女性:あ、ちょっと歩くケドいい? 少女:えと……、あの、そこの川沿いの、並木のトコじゃなくて? 女性:アッチは露店とか出て賑やかなんだけどォ。 女性:逆の方のちょっと行ったトコにですなー、いっぱい咲いてるんだけど静かなトコあるから、ソコ行こーって思って。 女性:ワイワイ系の方がイイ? 少女:う、ううんっ……、 少女:静かな方が、良い……。 女性:だよねェーっ、 女性:MeToo、ミートゥーっ。 少女:……、……、 女性:いまウソつけって思ったァ? 少女:……思ってない。 0:【間】 【モノローグ】(少女):のどかな、住宅街を二人、連れ立って。 【モノローグ】(少女):暖かな陽差しの中、徒歩で8分ほどの距離。 【モノローグ】(少女):ご近所とはいえ、色んな意味で誰もが振り返る、この人と。 【モノローグ】(少女):誰からも、見る事も、気にもされない自分が、歩いていると……、 【モノローグ】(少女):なんだか体が透き通って、透明人間になったような心地になる。 【モノローグ】(少女):でも、不思議と。 【モノローグ】(少女):気分は悪くなかった。 女性:ふぃーっ、ここココっ。 女性:階段登りまァーっす。 女性:セルフ・上へ参りまァーーっす。 少女:ここ……、神社? お寺……? 女性:両方ー。神社の境内に寺があるヤツ。 少女:え……、へえ……、 0:鳥居を潜り、階段を登りつつ、会話。 女性:「神宮寺(じんぐうじ)」とか、「別当寺(べっとうじ)」ってヤツだね。 女性:神仏習合(しんぶつしゅうごう)の時代には当たり前だったんだよ。 女性:ソレが後から、「やっぱ仏教オマエもうイイわァ、こっからは神道メインでやってくわァ。てか仏教キモくね?」 女性:って平田篤胤(ひらたあつたね)ちゃんとかがァ、 少女:廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)……、 女性:そーそォ、よく知ってるねェー。 女性:中学でやるっけ? 少女:一応……、範囲、には。 少女:社会の朱田(あけた)先生……、いっぱい色々、喋る人だから。 女性:ココはねェ、神社の方だけ現役でェ、寺の方はボロい本堂が残ってるぐらいなんだけど。 女性:誰が植えたんだか、桜、いっぱい咲くんだよねェ。 女性:こっち移って来て、散歩してたら見つけてェ、 少女:へえ……、 女性:階段ダルいから1人ではあんま来ないけど。 女性:一緒に、桜見せたげたい相手が居たらモチベキープ余裕ゥー。 少女:……、見せて、あげたい……、 【モノローグ】(少女):特別な意味は無い、はず。 【モノローグ】(少女):きっと、この人は、 女性:相手が誰でもねーっ、 女性:コレしてあげたら喜ぶカナー、とか。 女性:困ってて、いま自分、助けたげれるなー、とかって時は、結構勝手に、体が動くんだけどォ、 女性:あっ、押し付けてるんじゃナイよ? 少女:うん……、わかる。 女性:でも自分で、自分をどー活かしたい、ってゆーのがねー。 女性:イマイチよくわかんなくて。 少女:……、 女性:結構色々、出来る事はいっぱいあるんだけど。 【モノローグ】(少女):美人で、明るくて。 【モノローグ】(少女):過ぎるぐらいに社交的で。 【モノローグ】(少女):とても優秀な大学を出てて、たまに雑誌とかに載るぐらい、スタイルがもの凄く、良くて。 【モノローグ】(少女):一度見たら忘れられない、羽衣みたいな、プラチナ色の長い髪。 【モノローグ】(少女):果物みたいな、陶磁器みたいな、水気のある肌。 【モノローグ】(少女):熱い息。体温。手のひら。 【モノローグ】(少女):緑のアーチに覆われた、境内へと伸びるこの階段のように。 【モノローグ】(少女):一段一段、この人を飾る言葉を、積み上げる。 【モノローグ】(少女):けれど、 女性:なんかね。 女性:なァーんか、ココだァってフィット感が無いんだよねー。 女性:ちっちゃい頃から。 【モノローグ】(少女):だけれど言葉は、 【モノローグ】(少女):生まれたそばから、嘘になってしまうから。 女性:まねー、でも私もねー。 女性:ヒかれても、混ぜてくんなくても、気にしなーいって。 女性:子供の時から癖になっちゃってるしねー。 女性:見た目もこんなんだし。 少女:……、 女性:まーだから、必要な時に要る部分だけ、ちょいちょいって摘んでって貰ったらソレでオッケーかなー、とか。 女性:ヤな事じゃなかったら別に大概オッケーだしィ。 女性:「自分からそんなん言うなやっ」とかってアドくん、あ、バイトの子は何か怒るんだけどさ。 少女:んー……、 女性:あれあれ、オードブル的な。 女性:私自身がビュッフェ形式ってゆーかァ、 少女:……、ドリンクバー……? 少女:あっ、ごっ、ごめん、 女性:うひっ、ソレ良いねーっ。 女性:ちょーどイイやっ、お好きに混ぜてオリジナルドリンク作って頂いてェ。 女性:あ全ェン然、悪く取ってナイからねー。 少女:……、う、ん。 女性:よっ、しょっ……、っと。 女性:もーちょっとっ。 【モノローグ】(少女):何段分、だか、見た目よりも急だった階段を、登り切ると。 【モノローグ】(少女):視界が開けて、 【モノローグ】(少女):甘く、饐(す)えた、花びらの匂い。 【モノローグ】(少女):浮世を外れた薄紅(うすべに)の天幕。 【モノローグ】(少女):攫(さら)われてしまいそうに冴え返った空気が火照る肌を撫でて、 【モノローグ】(少女):私は息をつく。 少女:……きれい……。 女性:そうだね。 【モノローグ】(少女):神社の敷地の中に、うっそりと区切られ、間取られた、お寺の境内。 【モノローグ】(少女):半ば朽ちたお堂と、塔や鐘楼の名残。 【モノローグ】(少女):過ぎた時間を縫い留めるように、何本もの桜が、距離を空けて静かに、佇んでいて。 【モノローグ】(少女):ここは、この場所は、 女性:お墓みたい、だよね。 少女:……おはか、 女性:寺なんだからマサシクそもそも、なんだケドぉ。 女性:でもこの桜が植わったのは、そんな昔じゃないっぽいから。 女性:後から誰かが植えたんだろーねェ。 女性:昔を偲んで。 少女:昔……、 女性:まだお寺が綺麗で、人の行き来があった頃、カナ。 女性:そんな風に何かを植えた場所はね、ある限られた時間の、お墓なんだよねー。 女性:樹って、元々そーいうモノだから。 少女:時間の、お墓……、 女性:だからァ……、チョイ、キモいんだよ。 女性:人間が植えた樹、って。 少女:…………、 少女:幽霊が、出そうで? 女性:あひゃっ、柳の下とか、それこそ事故ったトンネルとかならビビるけどォ。 女性:ココに幽霊は出ない、かなァー。 少女:どう、して……? 女性:だって寺で、神社で、お墓だもん。 女性:「ここに居ていいよ」、って、場所を与えられてる魂は。 女性:彷徨い出たり、しないと思うから。 少女:……、 少女:ここに、いて、いい……、 【モノローグ】(少女):この人は偶に、ちょっと、別人みたいな。 【モノローグ】(少女):違った空気を纏う事がある。 【モノローグ】(少女):1つの鉱石が、光や見る角度で色合いを変えるみたいに。 女性:結局つまり、生きてる人間の為の場所じゃないんだよね。 女性:だからどっか、居ちゃイケないよーな気分になるんだけど。 女性:でもなんか、平等に疎外されてる感じが逆に落ち着くっていうかァ、 少女:…………、 女性:反応に困るコト急に言い出してゴメンねーっ? 少女:あっ、ううんっ、 女性:放置でオッケーだから。 少女:…………、 【モノローグ】(少女):万華鏡を覗いたような、奇妙で果ての無い奥行きに、くらくらする。 【モノローグ】(少女):手の先が霞み、永遠に縮まらない距離の向こうに居る、ような。 【モノローグ】(少女):彼岸(ひがん)の人。 0:【間】 【モノローグ】(少女):桜の枝に指を透かして、崩折れかけたお堂の裏まで回ると、 【モノローグ】(少女):不意に人が居て、びっくりした。 【モノローグ】(少女):軒の下に2人腰掛けて、手を繋いで。 【モノローグ】(少女):滑らかな黒髪をアップに纏めて、気まずそうに目を伏せる、綺麗な、女の人と。 【モノローグ】(少女):色素の薄い茶色い髪を緩く波打たせ、同じように茶色い目を丸く見開いた、男の人。 【モノローグ】(少女):向こうもびっくりしたみたい。 【モノローグ】(少女):多分、カップル。 【モノローグ】(少女):昔……、この近くに住んでいた人を訪ねて、隣の県からやって来た時に、雨宿りをした、思い出の場所、らしい。 【モノローグ】(少女):あんまり話もせず、そそくさと、男の人が手を引いて、2人は帰って行った。 【モノローグ】(少女):距離は、かなり近い。 少女:お邪魔、しちゃった……。 女性:まっさか人来るんかいーって顔だったねーっ。 女性:なァーにを廃寺(はいでら)でチチクリ合っとるのかねチミたちィーっつって。 女性:アハハハハハっ。 少女:ちちくり……、 少女:そう、なのかな、 女性:手ェ握ってたしィ。 女性:ま、カンケー無いけど。 女性:あ、寒くない? 少女:ん……、ちょっと。 少女:結構、冷える、かも、 女性:標高ちょい高いからねー。 女性:おかげで桜は残ってるけど。 女性:あっ、ギュってしたげよっか? 少女:えっ、あ……、う、え、 女性:あの子たち座ってたトコでェ。 女性:温めたげるよ。 少女:…………、あ、の、 女性:遠慮しなくてイイ、イイー。 女性:ぶっちゃけ私も寒いしWin-Winだからっ。 女性:そーれウインウイィーーン。 少女:あっ、ちょっ、あ、 【モノローグ】(少女):私を引っ張って、軒に座らせ。 【モノローグ】(少女):後ろから……、包み込み、抱き締める。 【モノローグ】(少女):距離はゼロ。むしろ、密着してマイナス。 【モノローグ】(少女):熱い体温が、伝わる。 女性:ほォれギュゥーっ。 少女:ふ、あ、あ……っ、 女性:くっつくと温かいねェ。 女性:んー? 少女:えと……、あ、の、……、 女性:しっくり来る大きさだし。 女性:およ、ほっぺたピンクだァ。どしたー、可愛過ぎかァー、おいっ。 少女:……、あう……、 女性:ん、嫌かなァ、やめるー? 少女:ううんっ、……、あ、ったかい……、 女性:へっへっへー、ほーじゃろほーじゃろっ。 少女:……、 女性:ふいいーっ。 女性:なんだかんだ歩きっぱ立ちっぱだったからよーやく一息っ。 女性:あ、帰ったらアイスクレープ食べよーねー。 少女:あ……、そう、だね、 女性:の前にご飯か。 女性:今日はねェっ……、 女性:ピザ、取るからっ。 少女:えっ……、えっ? 女性:昨日から決めてたんだー。 女性:クワトロのヤツにして2種類ずつ選ぼうっ。 少女:…………、 少女:そ、れ……、 女性:前聞いてさー、いつかやろーと思ってたんだよねー。 【モノローグ】(少女):前に。 【モノローグ】(少女):初めて会った、秋の日の、夜と朝の間の時間に……、 【モノローグ】(少女):一度だけ、話した、 【モノローグ】(少女):家族の思い出。 【モノローグ】(少女):お母さんに取って、私が透明になってしまう、前。 【モノローグ】(少女):離婚して、お父さんと、離れてしまう、前。 【モノローグ】(少女):弟と、永遠に……、 【モノローグ】(少女):一緒にテレビを見たり、好きな芸能人の話をしたり、出来なくなってしまう、前。 【モノローグ】(少女):遠ざかってしまった時間の、記憶。 女性:てか簡単だけどねェーっ、オトナの経済力があればっ。 女性:問題はカロリーだけどもォー、 少女:…………っ、 少女:そんな……、申し訳、ないから、 女性:おっ気になさラズベリーっ。 女性:こーゆー時でもなかったらピザとか取らないしィ。 女性:カスミンはコッテリ系ダメだしさァ、 少女:で、でも……、 女性:(遮り)あのねー、 少女:っ、 女性:大丈夫。 女性:コレは、私がやりたいヤツだから。 女性:ね? 少女:……、……、 女性:宅配ピザの生地ってどっちが好きィ? 女性:分厚いのと、サクサクと。 少女:あの……、え、と、 女性:私はどっちも好きだから。 女性:心の赴くままにっ! 女性:さァ殿っ! 少女:殿……。 少女:……じゃ、じゃあ……、 女性:んーっ、 少女:……サクサク、で。 女性:アハハっ、予想通りーっ! 【モノローグ】(少女):提案の真意はわからない。 【モノローグ】(少女):へだたりから目を背けている、私には。 【モノローグ】(少女):多分……、哀れに、思ってくれてる、だけ。 【モノローグ】(少女):ただ、密着した肌と肌の熱だけは、 【モノローグ】(少女):本当のように、感じた。 0:【間】 女性:(電話口での注文) 女性:あっ、じゃー言いますねェーっ? 女性:XLサイズのー、クワトロ、うん4種類のヤツ、そーそォ。 女性:で生地はサクサクの、ん、ん? 女性:あっうんー、ハードクリスプっ。 女性:で味はァ、あ順番に言うねー。 女性:えっと、フレッシュマルゲリータとォ、シーフード、パーティー? ガーリックじゃナイ方ねっ、 女性:それからトリュフ&マッシュルーム、と後……、何だっけっ? 少女:照り焼きチキン……、 女性:そだそだ、照り焼きチキンっ。 女性:の、4種でー。……うん、うんハイっ。 女性:あ、良いよ良いよ30分くらい、待つ待つー。 女性:バイク気をつけてねーーっ。 女性:んン? あっ、うんうんーー、 女性:アハハハハハっ。 女性:ういー、ヨロシクぅーーっ。 【モノローグ】(少女):届いたピザを見た時は、無理だと思った、けど……、結局2人で、ぺろっと食べた。 【モノローグ】(少女):生地はやっぱり、サクサクの方が美味しい。 0:【間】 女性:歯磨き完了ォーっ。 女性:ヤバーー眠気と遊びたい欲の板挟みィーっ、 女性:アンビバレンツ・スプリング・ナーーイツっ。 少女:結構歩いたし……、階段も、 女性:ま、もー寝るかァーーっ。 女性:どーせ明日もあるし。 女性:古着の店って行った事あるゥ? 少女:な、ない……。 少女:服の事、わかってる子が、行くとこ……、ていうか、 女性:あダイジョブダイジョブ。 女性:ソコの店長ヒゲ面のオモロいオッサンだからっ。 女性:明日行くかはわかんないけどねー。 少女:邪魔、しない、から……、 女性:アハハっ、チミは持ち運びし易いから邪魔にはなんないよー。 少女:…………、 女性:でも自分が嫌だったら言うんだよ? 少女:う、うん……、それ、は、 女性:次、中3だっけェ。 少女:あ……、そう、うん。 女性:今年からアレだよねー、 女性:成人、18歳になるんだよね。 女性:てことはァ、 少女:あと、3年……、 女性:3年後には成人式かァ。 女性:うひぇーーっ、 女性:ドレス着るゥ? 女性:どっかにあるよ、確か売ってないからァ、 少女:む、無理……っ、 少女:色々、ガバガバ……っ、 女性:アハハっ、胸とかァーっ。 女性:ま、好きなの着るのがイイよねー。 少女:わかん、ない……。 少女:まだ……、 女性:遠い? 少女:うん……、正直。 女性:もしも……、その時まだ友達だったら。 女性:お祝い、しよーね。 少女:……っ、……、 女性:ドコに居るかはわかんないけど。 女性:この星のどっかには、多分居るよね。 少女:……星……、 女性:あっ、でも宇宙飛行士とか目指してたりするっ?? 女性:だったら怪しい外人女と遊んでナイで、今から勉強始めとかなきゃヤバいかもっ! 少女:い、今の所……、予定無い、かも……。 0:【間】 【モノローグ】(少女):その夜、夢を見た。 【モノローグ】(少女):隣で眠る人の、温かい肌に包まれて。 【モノローグ】(少女):不思議な心地の、夢。 0:春の夢のうた。或いは、『ラブレター』。 0:(詩の朗読) 女性:半径 1mの円があれば 女性:人は 座り 祈り 歌うよ 少女:半径 10mの小屋があれば 少女:雨のどか 夢まどか 女性:半径 100mの平地があれば 女性:人は 稲を植え 山羊を飼うよ 少女:半径 1kmの谷があれば 少女:薪と 水と 山菜と 紅天狗茸(べにてんぐだけ) 女性:半径 10kmの森があれば 女性:狸 鷹 蝮(まむし) ルリタテハが来て遊ぶ : 少女:半径 100km 少女:みすず刈る 信濃(しなの)の国に 人住むとかや 女性:半径 1000km 女性:夏には歩く サンゴの海 女性:冬は 流氷のオホーツク 少女:半径 1万km 少女:地球のどこかを 歩いているよ 女性:半径 10万km 女性:流星の海を 歩いているよ 少女:半径 100万km 少女:菜の花や 月は東に 日は西に 女性:半径 100億km 女性:太陽系マンダラを 昨日のように通りすぎ 少女:半径 1万光年 少女:銀河系宇宙は 春の花 いまさかりなり 女性:半径 100万光年 女性:アンドロメダ星雲は 桜吹雪に溶けてゆく 少女:半径 100億光年 少女:時間と 空間と すべての思い 燃えつきるところ : 女性:そこで また 人は 座り 祈り 歌うよ 少女:人は 座り 祈り 歌うよ 0:【間】 【モノローグ】(少女):永遠と瞬間の間の、途方も無い距離を。 【モノローグ】(少女):ふたりでどこまでも、旅する夢だった。 【モノローグ】(少女):どこまでも、どこまでも。 【モノローグ】(少女):隣り合って、手を繋いで。 0:【間】 女性:おっはおっはヨーソローっ。 女性:朝ご飯さァーっ、 女性:……ん、汗かいてる? 女性:しんどいー? 少女:あ、ううん……、大丈夫……。 少女:……夢、見た、かも……、 女性:おっ、どんなー? 少女:……変な、感じの……、 少女:宇宙と、桜の、夢……、 女性:ふうーーーん? 女性:ヤな夢だったァ? 少女:…………、わかん、ない……。 女性:あのねーっ、さっきLINE来たんだけどォ、カスミン急に用事出来て、今日無理くなっちゃったんだってェー。 少女:あ……、そう、なんだ。 少女:何かあったのかな……、 女性:ぬひひっ、このパティーンはねェー、 女性:昨日彼ピとフィーバーしてお疲れモードかァ、1日ダルぅくお家デートしたくなったかドッチかだねェー。 少女:彼、氏……、いるんだ、香澄(カスミ)さん……、 女性:本人的には違うらしーけどォ、そーとしか思えないガムみたいのが居るねっ。 少女:ガム……、何だっけ、それ、 女性:まっ、そっちは良くてー。 女性:もし嘘でも許そーっ、何せ今日はァ。 女性:エイプリルフールだしィー。 少女:…………、そ、っか、 女性:嘘つくなら今のウチじゃぞォ? 少女:……、思い、付かない……、 女性:アハハっ。寝起きだしねェーっ。 女性:あ、んでんでんでェっ、 少女:う、ん……、 女性:今日は靴を買いに行こうっ。 女性:新しい靴っ! 少女:えっ……、え? 女性:昨日さっ! なァーーんとなく、思ったの。 女性:気分変えたい時。 女性:ココじゃないドコかまで、歩き出したい時にはっ。 女性:まずピザとかドカ食いしてェ。 女性:からっ、新しい靴を買ったらイイんだァってっ! 少女:…………、ココじゃない、ドコか……、 女性:ドコまでだって行けるよ。 女性:どんなに遠くても。間に何があったって。 女性:世界はぜェーーんぶ、繋がってるんだから。 少女:…………っ、 女性:何色が好き? 少女:…………、…………、 0:数秒、黙考。 少女:…………、み、水色……。 【モノローグ】(少女):あなたの瞳と、同じ、色。 女性:よォっしゃオラっ! 女性:そんじゃ今日の、絶好の買い物日和っ! 女性:1日かけて探そーっ! 女性:羽の生えたような、水色のスニーカーーーーっ!!! 少女:あ、あ、う……、 0:【間】 【モノローグ】(少女):日は高く、風は気まぐれ。 【モノローグ】(少女):近くて遠い、人と人とのへだたりを、引き離すように、或いは満たすように。 【モノローグ】(少女):吹いては通り、融けて行く。 【モノローグ】(少女):こんな日に、声に出した言葉は、きっと嘘になってしまうから。 【モノローグ】(少女):私は心の中で繰り返す。 【モノローグ】(少女):【間】 【モノローグ】(少女):お姉さん。 【モノローグ】(少女):お姉さん、 【モノローグ】(少女):【間】 【モノローグ】(少女):好きです。 0:【終】