台本概要
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タイトル | 鹿は狼の骸と踊る【東西戦争】 |
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作者名 | 机の上の地球儀 (@tsukuenoueno) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
戦闘・叫び有/戦いの終結 商用・非商用利用に問わず連絡不要。 告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。 (その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください) ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。 台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。 兼ね役OK。1人全役演じ分けもご自由に。 ブラッツは一人称が「俺」の女性です。ただし、兼ね役がきつい場合、ブラッツをグェン役の方が男性で演じても構いません。 449 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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ガリウス | 男 | 166 | ガリウス・ローウォルフ・レヴァンティン。二十七歳。東国レヴァンティンの王。王家に代々受け継がれた紋章入りの剣を持ち、真っ向勝負で戦う猪突猛進な男。 |
シャルロット | 女 | 91 | 医者・ブラッツ役の兼ね役有。 シャルロット→シャルロット・ツーディア・エーベルヴァィン。二十七歳。西国エーベルヴァィンの女王。人身掌握に長けたカリスマ。特注の銃剣で戦う。今回敵対する形とはなっているが、ガリウスの幼馴染みでもあります。セリフ数が少ないです。 ブラッツ→ブラッツ・アインホルン。東国の元近衛隊長で、現在は養護施設「ディアコニー」の修道士。一人称は「俺」。 |
グェン | 男 | 100 | グェン・リーファス。十八歳。東国の諜報員。暗器を自在に扱い、薬や化粧で自由にその外見を変えられる。現在は実年齢相応の外見で過ごしていますが、回想シーンでガリウスと出会う頃は、薬で外見を変え年齢を上に偽っており、途中薬が切れて子供の見た目に戻ってしまうので注意してください。 |
キリエル | 女 | 122 | 二十九歳。姓はなく「キリエル」と名乗っている。両親に捨てられたため、養護施設「ディアコニー」の出身者である。未来を先読む天眼を持ち、大鎌を扱う東国の巫女。回想シーンで子供の頃が出てきます。兵士の兼ね役アリ。(年齢設定無視してのじゃロリっぽいキャラとかでも演じられると思います) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
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:【台本開始】
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ガリウス:……ようやく、約束を果たす時が来たぜ。シャーリー?
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:(場面転換)
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キリエル:(兵士)陛下!ご報告致します!予想よりも早く、兵の三分の一が負傷または死亡。戦闘不能状態です……!
シャルロット:そうか。
キリエル:(兵士)も、申し訳ありません……!
シャルロット:大丈夫だ。(微笑んで)……私に任せろ。
キリエル:(兵士)陛下……。
シャルロット:Norden Eirik endkampf(ノルデンエイリーク・エンカムス)を申し込む!鐘を鳴らせ!
:◆その時、エーベルヴァイン側が鐘を鳴らすのと同時に、レヴァンィン側の鐘が鳴った。
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シャルロット:…………ッ!?鐘が同時に……!
キリエル:(兵士)陛下、これは……!
シャルロット:レヴァンティンサイドからも、エンカムスの申し込みか……く、ふはは……!
:(間)
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シャルロット:(天を仰いで)ガリウス……。
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ガリウス:よぉ、シャーリー。
シャルロット:……ようやく来たか。
ガリウス:約束通り、ダンスのお誘いに来たぜ。
シャルロット:あぁ。待ちくたびれたぞ、ガリウス。
ガリウス:そう言うなって。これでも超特急で会いに来たんだぜ?
シャルロット:フッ。それで?
シャルロット:それが貴様の一張羅か?随分と汚れているが。
ガリウス:俺は直接斬り刻むのが好きだからよお。……良い色に染まってるだろ?
ガリウス:……しっかし、てめえのドレスは綺麗なままだな?お得意の飛び道具で、離れた相手を撃つ簡単なお仕事、ってか?
シャルロット:我が銃剣は、別に不意を撃つ為の武器ではない。腕前は……まあ、踊れば分かるだろうさ。
ガリウス:そーかよ。
ガリウス:……それにしても。
ガリウス:……あーあ、結局こうなる訳だ……。こうなる前にこの戦が終わるなら、それでも良いと思っていたんだがな。
シャルロット:おや。私と踊りたくなかったと?
ガリウス:……直接お前と踊らなくても……手を下さなくても。俺が統治するレヴァンティンがエーベルヴァインに勝てさえすれば、それは女王であるお前を倒すことになる。……違うか?
シャルロット:……確かにな。
シャルロット:本当に……こんなにも互角の戦いが続くとはな……犠牲も多かった。
ガリウス:……それもここまでだ。
シャルロット:あぁ。
ガリウス:ノルデンエイリーク・エンカムス……。
シャルロット:大陸式最終決闘……互いに軍の三分の一を失った時、双方同意の上でのみこの手法で戦争を終結できる。
ガリウス:そうだ。……ノルデンエイリークの伝統に則り、国王同士の最終決闘にて、両国の決着をつける。いいな?
シャルロット:鐘はこちらも鳴らした。当然、異論はない。
ガリウス:……約束通り、これでノルデンエイリークが俺ら以外に渡ることはない。
シャルロット:そうだな。どちらが倒れることになっても……生き残った者が、このノルデンエイリークを統(す)べることになる。私たちの、どちらかが。
シャルロット:……泰平への道、か。長かった……。
ガリウス:俺らが出会ったのは、まだ十二の時だった。
シャルロット:そして、十六の終わりに戦争が始まった。
ガリウス:十七になって、ようやく戦場へ出陣できた。
シャルロット:大陸戦争の最中、自国の継承戦争をようやく勝ち取り、王になれたのは二十五の時だ。
ガリウス:俺も二十五で、父上から王位を継いだ。
シャルロット:互いに領地を広げ……、
ガリウス:大陸はどんどんと統一されて行った……。
シャルロット:ヘルヘイムも……お前が一人で倒したと、そう聞いた。
:(間)
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ガリウス:(少し辛そうに息を吸って)……いや。積もる話をする仲でもねえな。俺らは今……敵同士だ。
ガリウス:御託はいい。……さっさとやり合おうぜ。
シャルロット:(同じく少し辛そうに)……そうだな。
:◆シャルロットが、その銃剣の銃口をガリウスに向けた。
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シャルロット:今日こそ私が終わらせる。
シャルロット:貴様を、その玉座から引きずり下ろしてくれよう……狼皇帝!
:◆発砲。しかし、ガリウスは身を捩ってそれを躱す。
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ガリウス:盤上に、キングは二人は要らねえ……!
シャルロット:あぁ、そうだ!だからお前は……ここで果てろ!
ガリウス:(同時に)うぉおおおおおお!
シャルロット:(同時に)はぁああああああ!
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:(場面転換。同時刻)
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キリエル:そろそろ……始まっただろうか。
グェン:見に行かなくて良いのか、巫女さん?
キリエル:……良い。
グェン:そっか。にしても……長かったなあ……ここに来るまで。
キリエル:お主は、私よりも前から陛下のことを知っておるしな。
グェン:そんなこたぁねえよ。巫女さんだって、ガリウスとは色々あったろ。
グェン:でもまあ……そうだな……。
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グェン:(M)……リーファス家の人間には、自由などない。
グェン:
グェン:「リーファス家の人間には自我など要らない」
グェン:「リーファス家の人間には意思など要らない」
グェン:「全ては国のため、そして王のため」
グェン:「ただただ尽くし、その命を捧げよ」
グェン:
グェン:物心ついた時には、「俺」はいなかった。グェンという名前は単なる記号であり、俺は常に、「俺」ではない姿を強要された。どこにでも溶け込めるように。誰にでも付け入れるように。金髪は茶髪に、瞳の色は緑から青へ……。素の自分を打ち消して、偽りの存在を作り上げる。時に……薬を飲んで、その体格や性別を変えてまで。
グェン:
グェン:俺は……父や母の素顔も知らない。王家直属の諜報一族、リーファス家とはそういう一家なのだ。
グェン:だから。だから「あの時」まで……「俺」はどこにもいなかった。存在してはいなかった。
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:(以下、回想シーン。六年前。レヴァンティン帝国軍第三部隊隊舎)
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グェン:お!あんたがガリウスか!俺はリーファス家のグェン。同じ部隊に配属されたんだ。これから宜しくな、若さん!
ガリウス:リーファス……?
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ガリウス:(M)代々親衛隊特殊部隊を担っている、あのリーファス家の子息か。
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ガリウス:……おい。
グェン:なんだ?
ガリウス:俺とお前……どこかで会ってるか?
グェン:……んーにゃ。今日が初めましてだぜ。
ガリウス:そうか……。
ガリウス:(小声で)……ん?そもそもあそこの家に、俺と近い年齢の男なんていたっけか……。
グェン:おう!……いやあ、それにしても……お前、将来の王様のくせに人望ねえのな!みんなお前のこと避けてるっつーかなんつーか……。
ガリウス:あのなあ……。逆にてめえみてぇに、将来自分が仕えるであろう相手に、ずけずけと空気も読まずに話しかけてくる方が珍しいんじゃねーのか。
グェン:そんなもんか?……ふーん。俺にゃあ、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんの考えることはちっとも分かんねえなあ。
ガリウス:……てめえも一応貴族だろうが。
グェン:まあな〜。でも、俺ら同期だろ。
ガリウス:(ため息)相手が俺じゃなかったら、不敬で訴えられても文句は言えねえぜ。
グェン:何言ってんだよ。
ガリウス:あ?
グェン:俺は「あんた」に話しかけてるだろ、若さんよ。
ガリウス:……なるほど。お前、そういう奴か。
グェン:え?なんだって?若さん。
ガリウス:ガリウスでいい。……グェン。
グェン:……ッ!おう、ガリウス!
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:(以下、暫く場面が転々とします)
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グェン:ガリウス!訓練のペア、俺と組もうぜ!
ガリウス:別に良いが……足引っ張んじゃねえぞ。
グェン:いやいや〜。型通りの騎士様の剣より、俺の剣のが実践向きだと思うけどな〜?
ガリウス: 俺の剣が、そんなお上品だと思うか?
グェン:ははっ、思わない。でーも!未来の王様が負けるなんてだせぇから気を付けろよな?
ガリウス:はっ。言ってろ。手加減はしねえぜ。
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グェン:ガリウス!未来の王様は、仕掛けられた勝負から逃げたりしないよな?
ガリウス:あ?そりゃそうだろ。売られた喧嘩は買うのが礼儀だ。
ガリウス:ってかお前、ちょこちょこいたりいなかったりするよな?一体どこでサボって……、
グェン:(被せて)ところでよお!今日の昼飯は、ななななんと!シュニッツェルだってよ!
ガリウス:へー。……で?
グェン:食堂まで競争して、勝った方が負けた方から一枚奪えるルールな。よーい、スタート!(走り出す)
ガリウス:は?クソ、待ちやがれグェン……!
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グェン:ガーリーウースッ!……ん?どうした?怖い顔して。
ガリウス:いや、別に……何でもねえ。
グェン:午後からはヘルヘイムとの合同訓練だぞ?気合入れて行こうぜ!な!
ガリウス:……あぁ。そうだな。
グェン:?ガリウス……?
ガリウス:いや。何でもねえ。
グェン:……何かあったら言えよ。俺はお前の、目となり盾となる男なんだから。
ガリウス:(小さく笑って)あぁ。……ちょっと感傷に浸っちまった。行こう。
グェン:……おう!
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グェン:ガリウス!ちょっとこれに着替えてくれよ!
ガリウス:あ?なんだこの粗末な服は……。
グェン:いいからいいから!
:(間)
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グェン:ってことでじゃじゃーん!城下町でぇす!
ガリウス:こらグェンてめぇ……これちゃんと許可取ってんだろうな……。
グェン:いや?取ってる訳ないだろ〜。俺だぞ?
ガリウス:…………。
グェン:んーじゃ、お忍び⭐︎市場で食い倒れるまで帰れませんツアーと行こうぜえ。
ガリウス:は?おい待て!流石にこれは(ちゃんと許可を)……、
グェン:(被せて)はいはいどうどう。ほれ、ブルスト。
ガリウス:んが!……んん、んぐんぐんぐ……。
グェン:どうだ?
ガリウス:んだこれ……めちゃくちゃ美味え……!
グェン:ハハッ、そりゃ良かった!
グェン:……たまには息抜きも必要だぜ、未来の王様。
ガリウス:……グェン、てめぇもしかして……。
グェン:俺ら、友達だろ?
ガリウス:(笑って)……そうだな。
グェン:はははっ!……ん、ゲホッ、カハッ……!(血を吐く)
ガリウス:……ッ、グェン!?
グェン:ああ、大丈夫。大丈夫だから……。
ガリウス:大丈夫じゃねえだろそれ!すぐ医者を……!
グェン:(大声でキツく)それはダメだ!
ガリウス:…………ッ、
グェン:……ぁ。す、済まねえガリウス。先に帰っててくれ……!(走ってその場を去る)
ガリウス:あっ、おいグェン……!
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:◆路地裏に身を隠すグェン。その身体は、みるみると小さく、本来の十二歳(見た目は十歳くらい)の姿になっていく。
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グェン:クソ……最近薬を飲み過ぎてたか……。身体が……どんどん元に戻って……ウッ。
ガリウス:グェン!やっと見つけ、た……。
グェン:…………!
ガリウス:お前……それ……その姿……。
グェン:…………。
ガリウス:グェン、なのか?……だよな?
グェン:………ごめん、俺……。
ガリウス:それが、本当のお前か?……時々いなくなってたのは、まさか……。
グェン:…………。
ガリウス:あー……十歳くらい、か?
グェン:なっ。十二だよ失礼な……!
グェン:……ガッカリ、したろ……。こんなガキで……。
:(間)
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ガリウス:(吹き出して)ぷっ、くくく……!
グェン:な、何がおかしい……!
ガリウス:あぁいや。(グェンの頭にポンと手を置く)
グェン:…………!
ガリウス:一人で抱え込むなよ。お前は、俺の目となり盾となる男なんだろ?それに……。
ガリウス:俺ら、友達じゃねえか。隠し事はなしだぜ。
グェン:とも、だち……。
ガリウス:あ?お前が言ったんだろうが。それとも何か?年の差があったら友達にはなれねえのか?
グェン:そ、そんなことは……。
ガリウス:あと。ガキならガキらしく、大人に甘えろ。バーカ。
グェン:…………!……ガリウスは、「大人」って感じはしないけどな。
ガリウス:(笑って)減らねえ口だな。
:(間)
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グェン:リーファス家は、王家に使える特殊部隊……表向きは貴族だが、いわゆる諜報員として、代々レヴァンティンの皇帝に仕えている。
グェン:……俺が生まれたのは、あんたが九つの時だ。俺が戦闘員として一人前になる頃には、きっとあんたが王になっている。
グェン:
グェン:だから俺は……あんたが将来利用できるように……「使える道具」になるために育てられてきた。
グェン:第三部隊に配属になる前から、いつもあんたの事を見てたよ。初めてあんたの警備を許されたのは、気配を消すテストに合格した九つの時だった。それからは、いつだって姿を隠して傍にいた。
グェン:だから、あんたが朝起きて最初に何をするかも、好きな食べ物も……なんと!寝相まで知ってるって訳だ。
ガリウス:……そーかよ。
グェン:そーかよって……それだけかよ?俺が気持ち悪くないのか?
ガリウス:何がだよ?それがお前の仕事だろ。
グェン:でも……、
ガリウス:入隊の日、お前とどこかで会ってるような気がしたのはそのせいだな。
グェン:……え。
ガリウス:ずっと付いてくれていたからだろうな。てめえの波長は心地いい。
:(間)
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ガリウス:……何も変わんねーよ。
グェン:…………。
ガリウス:にしても、四六時中俺に付いてるなんてご苦労なこった。
グェン:「グェン」に、自由なんてない。俺はガリウスの……、
ガリウス:道具だから?
グェン:…………そうだ。
ガリウス:ふーん。
ガリウス:(立ち上がって)お前、生涯通して俺に従い、俺の命(めい)を遵守(じゅんしゅ)すると誓うか?
グェン:…………もちろん。
ガリウス:そうか。なら命令だ。
:(間)
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ガリウス:自由に生きろ。
グェン:へ……?
ガリウス:俺の物だから自由がない?馬鹿を言え。てめぇはてめぇだ。俺は自分の意思で考えない人形になんざ興味ねぇ。俺の為に生き、俺の為に存在したいのなら……精々飽きられねぇように自由に生きるんだな。
グェン:……ッ!お、俺なんかが……自由に生きて、いい訳……、
ガリウス:これは未来の王様命令だぜ?……俺を楽しませくれよ。
グェン:ガリ、ウス……。
ガリウス:自由に生きちゃ駄目な人間なんて存在しねえ。俺もお前も……(小声で)あいつだって……。
ガリウス:……さ。落ち着いたなら、なんか食ってから帰ろうぜ。走ったら腹減ったわ。いい店教えてくれよ、グェン?
グェン:(暫し呆気に取られて)フッ。……あぁ!
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グェン:(M)そうして俺は、その時本当の自由を手に入れた。俺はその時、初めて本当の意味で、「グェン」になれた。
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:(回想終了。再び現在)
:◆ガリウスとシャルロットが剣を交えている。
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シャルロット:はあぁっ!ふ、ふふふ……っ!
ガリウス:笑ってんじゃねぇクソ野郎!
シャルロット:貴様に余裕がないだけだろう。悔しいなら笑ってみればいい!
ガリウス:誰が……!グッ……!
シャルロット:お前はいつもそうだ。自分のことしか考えていないような脳筋のくせに、結局はいつも人の為……。
ガリウス:突然褒めんなよ気持ち悪ぃ。
シャルロット:褒めているものか阿呆(あほう)め。
ガリウス:あぁん!?
シャルロット:お前は甘いのだ。お前が鍛錬するのはいつだってお前の為ではない。ダンスパートナーの恥とならない為、部下を助ける為、民の命を守る為……!お前の心はどこにある!
ガリウス:ハッ!何言ってやがる。てめぇに俺の……何が分かる……!
シャルロット:何だ何だ!心が乱れたか!剣がブレているぞ、ガリウス!
ガリウス:クッ、俺はァ……!
シャルロット:もう一度訊くぞガリウス!貴様の覚悟はその程度か!お前の心は!お前の自由はどこにある……!
ガリウス:…………ッ!
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キリエル:(M)この世に自由などない。
キリエル:生まれ落ちたその瞬間、自分の意思とは関係なく、ピラミッドの一角にその身を位置づけられる。身分が高いか低いか。金があるかないか。そして……力を持っているかどうか。私達に無限の選択の余地などない。位置付けられたヒエラルキーの、その既に狭められた選択の中で、どうにか抗い続けるしかない。
キリエル:……そして私は、「力」を持つが故、自由でなくなった者の一人だった。
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:(以下、回想シーン。五年前。レヴァンティン帝国軍)
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ガリウス:おい、あいつは……?
グェン:ん?あぁ。……あれが噂の先読みの巫女さんだ。どうやらちょっと前まで養護施設にいたそうで…………ま、何やら訳ありなんだと!
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キリエル:どいつもこいつも……。
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キリエル:(M)人間は勝手だ。
キリエル:私は、幼き頃に親に捨てられた。天眼(てんがん)の予見(よけん)を受けあれこれ言い当てる私は、両親の目には奇異として映ったのだろう。私だって、そんな幼子(おさなご)を育てるのはご免こうむる。
キリエル:だから私には、血を分けた「肉親」と呼べる存在はいない。……しかし、幸運なことに、「親」と呼べる存在はいる。養護施設「ディアコニー」の修道者、ブラッツ・アインホルン……その人こそが、私の心の家族であった。
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:(以下、更に過去の回想シーン)
:◆幼き頃のキリエルが、ブラッツに剣術の指南を受けている。
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シャルロット:(ブラッツ)どうしたどうした!もう終わりかぁ?
キリエル:クッ……もう疲れた!こんなことに意味なんてない!
シャルロット:(ブラッツ)おいおい、逃げるのか。ちゃんと俺の動きを読め!天眼で予見(よけん)し、俺の先に回りこむんだ。
キリエル:ふざけるな!そんなにテンポ良く次々読めるものじゃない!
シャルロット:(ブラッツ)だから精度を上げろっつってんだよ。
キリエル:そもそも女に剣術なんて必要ないだろう!
シャルロット:(ブラッツ)バァカ。護身術だろうが。お前さんにゃ必要なものだ。
キリエル:護身術の域を超えてる!これは殺人術だ!他の子は遊んでるのに、なんで私ばっかり……!
シャルロット:(ブラッツ)お前さんのような異能持ちは、自分で自分の身を守らなきゃ、ボロ雑巾のように使われて終わりだぞ。それで良いなら、授業はこれで終わりだ。
キリエル:…………ッ。
シャルロット:(ブラッツ)生憎俺ァ、戦争を生き抜く方法しか知らないんでね。だが、殺人術を学べば十二分に身は守れる。そんでもって、それで人を殺すかどうかは……お前さんの選択に委ねられるだろうよ。
キリエル:私は……人殺しなんてしない。
シャルロット:(ブラッツ)そーかよ。
キリエル:一角獣ブラッツ……レヴァンティン帝国・元近衛隊長様……この国じゃあ、サルでも知ってる有名人だ。
シャルロット:(ブラッツ)おう、そうか。まあ「俺」だからな。
キリエル:自分で言うのかそれを……。
シャルロット:(ブラッツ)それだけ研鑽(けんさん)したんだよ。俺は、俺の鍛錬の歴史をしっかりと認めているだけだ。
キリエル:ふん。人殺しの研鑽か。
シャルロット:(ブラッツ)己の正義を全うする時、そしてそれが、相手の正義と反する時……ぶつかり合うのは、仕方のないことだ。……それが「たった一人」の為なら尚更。
キリエル:たった一人?
シャルロット:(ブラッツ)騎士が生涯を捧げる主君のことだ。意思が弱い奴は、ボロ雑巾のように利用されて捨てられる。だが、たった一人と出会えたら……自分の力を全て捧げても良いと思える存在に仕えることができたら。それは騎士の誉れと、自信につながる。
シャルロット:……自らの意思で選んだ、たった一人だ。
キリエル:それは……、
シャルロット:(ブラッツ)とにかくだ、エル。お前さんの目はお前さんのものだ。勝手に相手に主導権を渡すな。勝手に誰かに利用されるな。
シャルロット:お前さんは、お前さんの意志で。自らが使いたい時、そして生涯を捧げても良いと思う相手の為にだけ、その目を使え。
キリエル:…………。
シャルロット:(ブラッツ)俺が教えんのは、圧倒的な力に負けない物理的な方法だけだ。……だが、精神はそうもいかん。精神は簡単に侵されてしまうからな。
シャルロット:意志を強く保つのは、己との対話だ。他人がどうこうできるもんでもない。
シャルロット:(キリエルの頭に手を乗せて)ま、頑張れよ、エル。
キリエル:〜〜〜ッ、頭に手を置くな、クソ!…………ぁ。
シャルロット:(ブラッツ)ん?何だ?
キリエル:雨が来る。
シャルロット:(ブラッツ)お。予見か。よし。んじゃ今日はここで終わるか。
キリエル:……こんなに晴れてるのに、とは言わないのか。
シャルロット:(ブラッツ)お前さんのことを信じてるからな、俺は。
キリエル:気持ち悪くないのか。
シャルロット:(ブラッツ)あー?(笑いながらキリエルの頭を乱暴に撫でる)
キリエル:わ、おい、撫でるな!
シャルロット:(ブラッツ)バァカ。気持ち悪い訳ねえだろ。「家族」なんだから。
キリエル:…………ッ。
シャルロット:(ブラッツ)おし。走って帰るぞ。明日からまたビジバシしごいてやるからな。
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キリエル:(M)ブラッツの修行は、本当に容赦がなかった……が、おかげで私は強さを手にし、自分を守る術を得た。
キリエル:……二十歳を超えた頃だった。その頃には、私は天眼の力をある程度自由に使えるようになっており、その日私は初めて、一角獣の角を折った。
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:(回想シーン)
:◆成長したキリエルが、初めてブラッツの剣を弾く。二人は、そのまま暫し放心する。
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キリエル:……った……やった……!やっと、やっと一本取ったぞ!ブラッツ!はははっ!
シャルロット:(ブラッツ)あ、あぁ……。はは。してやられたな。強くなったなあ、エル。
キリエル:はは、あはははは!今回は読みが上手くいった!ブラッツの動きを予見して、逆側から回り込んで……やっと、やっとだ!とうとう勝った……!
シャルロット:(ブラッツ)おいおい。たかが一度のまぐれでそんなに喜ぶな、よ……ゴホッ、(激しく咳き込む)。
キリエル:……あ?……ブラッツ……?
シャルロット:(ブラッツ)ゥ……ッ!(倒れる)
キリエル:ブラッツ……おい、ブラッツ……!
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:(場面転換。病院)
:◆ブラッツが寝ている部屋の前で、キリエルと医者が話している。
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シャルロット:(医者)アインホルン様は、もう長くはないでしょう。
キリエル:は……?もう一度調べてくれ。そんな訳が(ない)……、
シャルロット:(医者)残念ですが。……隠してらっしゃったようですが、アインホルン様は長く肺を患っておりました。
:(間)
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シャルロット:(医者)どうか、ご覚悟くださいませ。……それから。
キリエル:……それから?
シャルロット:(医者)延命治療をする場合は、かなりの額を要します……。
キリエル:…………。
シャルロット:(医者)養護施設の維持費も必要となるでしょう。そこで、ご提案なのですが。
キリエル:てい、あん……?
シャルロット:(医者)軍に入られては?
キリエル:は?私がか?
シャルロット:(医者)実は上に知り合いがおりまして。キリエル様のことをずっと前から「欲しい」と打診していたものの、アインホルン様ににべもなく断られ続けていると愚痴っておりました。
キリエル:は……?そんな話一度も聞いたことがないが。
シャルロット:(医者)なるほど。本当に大事にされていたのですね。流石天下の一角獣の秘蔵っ子。
キリエル:…………別に、箱に入れられていた訳では……。
シャルロット:(医者)貴女様の力は神の力です。ならば、万人のために使ってこそ意味がある。その力で、お国に貢献なさい。
キリエル:…………私は……。
シャルロット:(医者)施設の子供たちも、貴方様だけが頼りでしょう?
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キリエル:(M)お金。確かにお金は必要だ。
キリエル:ならば強くならねば。
キリエル:私が子供たちを守らねば。
キリエル:……ブラッツの代わりに、私が。
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キリエル:分かりました。……軍に、入ります。
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:(場面転換。キリエルが軍に入り、暫く経った頃)
:
ガリウス:おい。
キリエル:……なんだ。
グェン:あー。こんにちは。俺はグェン・リーファス。実はこの男があんたに用があるって……、
ガリウス:(被せて)てめぇだろ?先読みの巫女ってのは。ちょっと手合わせしてくれよ。
グェン:お、おい……。
キリエル:無礼な奴だな。用があるなら先に名乗らんか。
ガリウス:失礼な奴だな。未来の王の名前も知らねえとは。
:(間)
:
キリエル:(ため息)ガリウス・ローウォルフ・レヴァンティン。この国の未来の統治者。
グェン:あ、なんだ。流石に知ってたか。
キリエル:貴様のような者が次代の王とは。私は将来国を移ることを考えねばならないかもな。
ガリウス:……は?
キリエル:おや、怒ったか。そうしてすぐに顔に出るのもいただけないな。短気な王は国を滅ぼす。
ガリウス:……口の減らねえ女だな。まあいい。俺が知りたいのはお前が強ぇか、そうでないか。それだけだ。一戦やろうぜ。
キリエル:……ガキか、貴様は。
ガリウス:あ?なんだと……。
グェン:おっと……。
キリエル:戦う必要もない。どうせ貴様も、私の「たった一人」には程遠い、小さな器だろうからな。
ガリウス:……?何言ってやがる。
キリエル:生憎私は忙しいんだ。
ガリウス:待て。
キリエル:…………ッ!
:◆キリエルの足元一歩先に、ナイフが刺さっている。
:
グェン:あっ!俺のナイフ!いつの間に!
キリエル:……皇族の癖に手癖が悪いな。だが。
ガリウス:だが、腕は確か。……だろ?
キリエル:……面白い。一戦だけだぞ。付き合ってやる。
ガリウス:ヘッ。そうこなくっちゃ。
:
:
:
:
:(場面転換。訓練場)
:◆ガリウスとキリエルが剣と鎌を構え立っている。
:
グェン:んじゃ、未来の王ガリウス、先読みの巫女キリエルの手合わせ一本勝負!……あー、だけどよ?本当に真剣でやるのか?後で怒られるぜ?
キリエル:バレなきゃ良かろう。
ガリウス:お?気が合うな。バレなきゃ良いだろ?なあ、グェン。
グェン:言っとくけど、お忍びで市場に行くよりもこっちのが罪は重いからな、ガリウス。
グェン:(咳払い)……では、構え、始め!
:
キリエル:はぁああ……ッ!
ガリウス:おっと……!噂にゃ聞いてたが、その大鎌すっげぇな。油断したらリーチの差で即刻首無しだ!
キリエル:王の他に「デュラハン」の異名も付くな!やってやろうか!
ガリウス:お前が本気出しても、俺がよそ見しねえ限りは一生無理だぜ!
キリエル:ハッ、王宮でぬくぬく育てられた仔犬がよくほざく……!
ガリウス:……おっまえ、それ不敬だからな。……ったく。でもまあ、そうして隙作ってくれるのはありがたい、がな!
キリエル:……なっ!は、早い……!何だこの動きは……!
ガリウス:おっと、どうしたどうした、先読みの巫女様!目ぇ開けながら寝てやがんのか!
キリエル:……クソッ!
ガリウス:はは!途端に剣筋がブレやがる!……あ、いや。この場合鎌筋、か……?
キリエル:ええい小癪な!……あっ!
ガリウス:バカお前、そっちは……!
キリエル:あぁああ……っ!
:◆キリエルがバランスを崩し、武器立てに突っ込みそうになったのを、ガリウスが覆い被さる形で守る。
:
ガリウス:いって〜……!あぁもう、何やってんだてめぇは。
キリエル:な、何故庇った……!こんなの痛くも痒くも……!女扱いするな!馬鹿者!
ガリウス:女ぁ?……全く何言ってやがんだてめぇは。
:(間)
:
ガリウス:王が民を守るのに、理由なんてあるかよ。
キリエル:…………ッ、
ガリウス:女だろうが男だろうが関係ねぇよ、バーカ。
キリエル:…………。
:
:
:
グェン:ガリウス!巫女さん!大丈夫か!?
グェン:(ガリウスに手貸して)まったく、ほら。
ガリウス:おう。……よっと、(立ち上がる)
グェン:ほら、巫女さんも。
キリエル:(グェンの手を弾いて)いらん。(一人で立ち上がる)
グェン:冷た……!
ガリウス:なんっか戦う気も失せたな。腹も減ったし、何か食いに行くか。
キリエル:な!逃げる気か、貴様!
ガリウス:勝ってもねえのに逃げるかよ。またやろうぜ。てめぇと剣交えんのは悪くなかったわ。
キリエル:…………。
グェン:ほら!巫女さんも行こうぜ!最近また良いブルストの店見つけてさあ!
キリエル:は?おい、何で私まで……!
グェン:いいからいいから!
:
:
:
:
:
キリエル:(M)それから、なんとなく、本当になんとなく。私はガリウスとグェンの二人と、行動を共にするようになっていった。彼奴(あやつ)らは相変わらず猪突猛進のバカであったが……でも、救いようのないバカ、という訳でもなかった。
キリエル:……そして、私が軍の生活にようやく慣れ、暫く経った頃だった。
:
:
:
:
:
キリエル:……何だ?え?電報?……まさか。
:(キリエル、荒々しく電報を開く)
:
キリエル:……ッ!ブラッツが……死んだ……?
:
キリエル:(M)もっと、もっとだ。
キリエル:私が強くならねば。私が。
:
キリエル:……ブラッツ、ブラッツ……ッ!ぁあぁあああ……!(泣き崩れる)
:
キリエル:(M)もっと、もっともっともっと……!
キリエル:強くならねば。
キリエル:私が子供たちを守らねば。
キリエル:……ブラッツは、もういないのだから。
:
:
キリエル:私が、やらねば……。
:
:
:
:
:
:(場面転換。帝国軍施設廊下)
:
グェン:ガリウス、ちょっと良いか?
ガリウス:あ?なんだ?
グェン:最近の巫女さんについて聴いてるか?
ガリウス:そういや最近見ねえな。任務でも食堂でもかち合わねえし……。
グェン:あぁ、実は……。
:
:
:
ガリウス:……リエル!おい、キリエル!
キリエル:……何だ。
ガリウス:最近どうしたんだ、てめぇ。
キリエル:何がだ。
ガリウス:危険地帯の任務ばかり志願しているようだな。
キリエル:そんなもの私の勝手だろう。
ガリウス:俺は……俺は今まで、てめぇの事情に首を挟んだことはねえ。てめぇの尻はてめぇで拭くもんだし、それに……どんな奴にも、譲れねえ「大事な何か」ってもんがある。
ガリウス:……だが、前に言ったな。
キリエル:は?
ガリウス:王が民を守るのに、理由などないと。
キリエル:…………。
ガリウス:それが友なら尚更だ。
キリエル:友……?
ガリウス:あぁ。だから。
ガリウス:それが、友の意思とは違っても。俺は俺の意思で友の為に動く。
キリエル:何を言って……。
ガリウス:言っても無駄だろうが一応言うぜ。目が赤い。最近寝れてねえだろ。
キリエル:…………ッ。
ガリウス:せめて今夜くらいは、何も考えずに休めよ。じゃあな。
キリエル:あ、おい……!
キリエル:……何なんだあいつは……。
:(間)
:
キリエル:友、だと…………?
:
:
:
:
:(場面転換。養護施設「ディアコニー」)
:
キリエル:こんにちはシスター!今月の分の経営費を持って参りました!これで暫くは食卓も潤っ…………え?寄付……?匿名の支援者の方が?それはありがたいですね。して、支援金は如何ほど……えっ!
キリエル:そんな大金……一体誰が……。
:(間)
:
キリエル:まさか……。ガリ、ウス……?
:
:
:
:
:(場面転換。帝国軍施設廊下)
:
キリエル:(走ってきて)ガリウス……!
グェン:お、巫女さんだ。ちーっす!
キリエル:(グェンを無視して)ガリウス……ありがとう。養護施設の(支援金、お前が)……、
ガリウス:(被せて)あ?何のお礼だそりゃ。
キリエル:……いや。……何でもない。
:(間)
:
ガリウス:……なあ。
キリエル:……何だ。
ガリウス:安心しろ、てめえは強ぇよ。目の力なんて無くてもな。……ま。目の力は、そりゃあレア度の高い才能だがよ。
ガリウス:(ニヤリと笑って)王になったら、俺の下で働いて欲しいくらいだぜ?
グェン:ハハッ、そりゃあいい。俺と巫女さんが脇を固めりゃ、向かう所敵なしだ。
キリエル:……分かった。
グェン:…………へ?今なんて……。
キリエル:分かった、と言ったのだ。ガリウス。お前が王になったその暁には、貴様の下(もと)で働いてやろう。
:(間)
:
グェン:マジかよ……。
ガリウス:(ため息)……キリエル。
キリエル:何だ。
ガリウス:それは簡単に口にして良い言葉じゃねえだろ。
キリエル:簡単になど言っていない。
ガリウス:いいか。てめぇの目を、誰かに勝手に利用されるなよ。てめぇはてめぇの意思でその目を使え。
キリエル:…………ッ。それ……。
:
シャルロット:(ブラッツ)お前さんの目はお前さんのものだ。勝手に相手に主導権を渡すな。勝手に誰かに利用されるな。
シャルロット:お前さんは、お前さんの意志で。自らが使いたい時、そして生涯を捧げても良いと思う相手の為にだけ、その目を使え。
:
キリエル:ブラ、ッツ……。
ガリウス:あ?
キリエル:……あ、いや。……未来の王が、利用価値のあるツールを囲わなくて良いのか。
グェン:(吹き出して)ははっ、ツールって……!巫女さんみてぇな頭の良い奴でも、そんなバカなこと言うんだな。っくくく。あー、おっかし……!
ガリウス:人間は、どこまで行っても縛れやしない。みんな自由だ。俺もてめぇも。……どんな家柄に生まれても、どんな力を生まれ持っても……変わらず平等だ。
キリエル:…………。
ガリウス:何だ?天眼持ちだから、特別扱いされるとでも思ったか?
キリエル:いや……よく分かった。
キリエル:……ありがとう。
ガリウス:だから何のお礼だって。
キリエル:(笑って)いや。
:(間)
:
キリエル:これからは、「エル」と呼んでくれないか、ガリウス。
グェン:お?んじゃ俺も……、
キリエル:(被せて)貴様には言っていない。
グェン:冷た……。
ガリウス:……何だ、イキナリ。
キリエル:そう呼んで欲しいんだ。将来仕える王からは。
ガリウス:だから、別に俺に従う必要は……、
キリエル:(被せて)お前が良い。
ガリウス:…………ッ。
キリエル:従うなら。仕えるなら。私はお前を選ぶ。自分の意志で。
:(間)
:
グェン:(口笛、もしくは口で)ヒューウ。
ガリウス:……は、ははっ。あぁ、そうかよ。
ガリウス:分かった。エル。
キリエル:ん。ありがとう。
グェン:……なーんかよく分かんねえけど……めでたしめでたし、ってか……?
グェン:(二人の肩にガバッと手を回して)よっし!俺らの友情と、レヴァンティンの未来に、ブルストとアップルサイダーで乾杯と行こうぜ!
キリエル:お、おいリーファス、貴様気安いぞ!くっつくでない!…………ぁ。
グェン:おお!?聴いたかガリウス!今巫女さんが初めて俺の名前を!
ガリウス:良かったな。
キリエル:う、うるさい!貴様の名など呼んでない!
グェン:あっはは!
:
キリエル:(M)そうして私は、「たった一人」と出会った。私の、たった一人の、「素晴らしき王」と……そして、同じ王を持つ「仲間」と。
:
:
:
:
:
:(場面転換。現在)
:
シャルロット:(M)ガリウスは……素晴らしい王だ。ガリウスは強い。ガリウスは揺るがない。だから、全てを背負って尚、一人で立とうする。本当に……本当にいい王だ。私が死んだとて、ノルデンエイリークはガリウスによって、問題なく統治されるであろう。……だけど。だから。……だから私は……!
:
ガリウス:クッ。
シャルロット:大陸の王の席は荷が重かろう!なぁに問題ない!その席には私が座ってやろう!
ガリウス:ぬかせ!はぁあっ!
シャルロット:遠慮は要らぬ!貴様は王の器ではないからな!
ガリウス:てめえよりはよっぽど才があるさ!
シャルロット:ほざけ……!貴様のどこに、私より王としての風格が(あると言うのだ)……、
ガリウス:(被せて)ハッ、てめえは俺と違って、規律に雁字搦(がんじがら)めになっちゃあ、へらへら笑うことしか出来なくなるようなアホだからな!シャーリー!
シャルロット:…………ッ!お前は、また……!何故、何故そうお前は人の気持ちばかり……!ヘルヘイムに一人で挑んだのも、もしや……!
ガリウス:おっと、それは自惚れだぜシャーリー!俺は強い。俺は負けない。ムカつく奴は、俺がこの手でぶっ倒す。誰にも譲ってなんかやらねえ!勿論てめえにもな!
シャルロット:……ッ!
シャルロット:……なるほど……。
:(間)
:
シャルロット:ならもう、私も揺るがない。私も絶対に、お前には譲れない矜持(きょうじ)というものがある……!
ガリウス:あ……?
シャルロット:最後に会ったあの時に言ったな!私はお前以外にやられはしない!いや!お前にさえも、負けはしないと……!
ガリウス:……ああ。俺らは、互いを討つ為にここまで来た!
シャルロット:お前が全て一人で背負うというのなら!その業は私がみな断ち切ってくれる!お前を取り巻く積年の恨み、長年の因縁、王としての宿命!……その全てを、私がこの手で終わらせてくれる!
ガリウス:驕り高ぶるのもいい加減にしろよ女王様!頭(ず)が高すぎて笑えてくるぜ!
シャルロット:バカな男だガリウス、お前は……!
ガリウス:は……?
シャルロット:お前は!優しすぎる!
ガリウス:…………ッ!
:
:
:
:(以下、回想シーン。二年前。レヴァンティン帝国玉座前)
:
ガリウス:王室警護官グェン=リーファス、そして先読みの巫女キリエル……これより其方(そなた)らを、私、レヴァンティン皇帝、ガリウス・ローウォルフ・レヴァンティン直属の親衛隊に任命する。
グェン:(同時に)はっ。
キリエル:(同時に)はっ。
キリエル:今後はガリウス陛下に、この身をお捧げします。
グェン:右に同じく。生涯お尽くし致します。
ガリウス:よろしい。その魂の灯火が消える最期の一瞬まで、私に従い、仕えて果てろ。
キリエル:……。
グェン:……。
:(間)
:
ガリウス:(吹き出して)……なーんてな。
グェン:(同時に)へ?
キリエル:(同時に)は?
ガリウス:そういう堅っ苦しいのはなしだ。グェン、エル。精々「好き勝手自由に」、汗水垂らして働いてくれ。
キリエル:(暫し呆気に取られて)…………ふふっ、でしたら。
:(間)
:
キリエル:私は……いえ、私たちは……「好き勝手自由に」、貴方の手となり、足となりましょう、陛下。
グェン:……くく。そうだな!
:
:
:
:
:
:(再び現在へ)
:
シャルロット:お前は!優しすぎる!……はぁあああああッ!
ガリウス:…………ぐあッ!
:◆ガキィン、と、ガリウスの剣が吹き飛ばされる音がする。
:
ガリウス:(囁くように)くっ。………エル……!グェン……!
:
:
キリエル:…………ッ!?
グェン:ん?どうした?
キリエル:今……今。陛下のお声が聴こえた気がして……。
グェン:……ッ、ガリウス……!(立ち上がる)
キリエル:待て、リーファス!
グェン:……ッ!
キリエル:王を信じて待つのが、臣下の務めだ。
グェン:でも……!(キリエルの震えに気付いて)巫女さん、あんた震えて……。
キリエル:…………。
グェン:……くっ。(もう一度キリエルの横に座って)最初に待つって決めたんなら、最後まで信じなくっちゃ……だよな。
グェン:俺も生涯をガリウスに捧げた身だ。最後まで王に従うよ。……それがどんな結末であれ。
キリエル:あぁ。(思いついて、少しイタズラに)……この魂の灯火が消える、最期の一瞬まで?
グェン:ふっ。……あぁ。そうだな、巫女さん。
:
:
:
:
:
:(場面転換。再び、対峙しているガリウスとシャルロットへ場面が戻る)
:◆辺りは静まり返っており、ただ、二人の激しい息遣いだけが聞こえている。
:
ガリウス:クソが。……俺様が、負けた、だと……?
シャルロット:……ダンスのお誘い、嬉しかったぞガリウス。……勝ったのは……エーベル、ヴァインだ……。
ガリウス:てめぇは……相変わらず、その気持ち悪い笑顔を浮かべる癖が抜けねえな、シャーリー。
シャルロット:それを言われるのは二度目だな。後にも先にも、お前だけ。
ガリウス:さあ、俺を殺せ。情けはいらねえ。
シャルロット:そう、だな。貴様の骸と踊るために、私はここまで来た。
ガリウス:……あぁ。
シャルロット:ガリウス 、貴様が守ってきたレヴァンティン……帝国のその名はいただくぞ。貴様は今、この瞬間より……皇帝ではなくなった。
ガリウス:(心底悔しそうに)…………あぁ。
シャルロット:つまり……貴様が守ってきた「レヴァンティン 」は……そして「皇帝ガリウス」は…………死に絶えた。
:(間)
:
ガリウス:は……?
シャルロット:優秀な者をただ殺すのは我が国の損失だ。我がエーベルヴァインのために、ひいてはノルデンエイリークのために……お前を飼い殺してくれよう。ガリウス。
ガリウス:……何言って……。
シャルロット:……ノルデンエイリークは私に任せろ。貴様には優秀な仲間がいる。きっと、他の地でも上手くやっていける。
ガリウス:………おいシャーリー。てめぇ一体何の話を……、
シャルロット:海を越えろ、ガリウス。
ガリウス:……は?
シャルロット:海を越えた先に、シュッドガルド大陸がある。貴様の耳にも入っているだろう?最近中々に力をつけてきた大陸だ。このノルデンエイリークの利になるかは分からぬが、王であった貴様の目で、大陸の是非を確かめてきてもらいたい。
ガリウス:てめぇはアホか。んなの、俺があっちで味方をつけて、またお前に……!
ガリウス:……お前に、牙を剥くとは考えねえのか……?
シャルロット:バカを言え。皇帝でもない、「ただの」愛らしい狼に……一体何ができるというのだ?
ガリウス:……言ってくれる。
ガリウス:恩情を与えたこと、いつか後悔するぜ、シャーリー。
シャルロット:面白い。させてみろガリウス。
ガリウス:ハッ、上等だぜ女王様。
:(間)
:
シャルロット:………貴様は義を通す男だ。それに……ノルデンエイリークを私と同じくらい愛しているのは……お前しかいない。
シャルロット:お前は私に……私には牙を向けても、ノルデンエイリークに牙は向けない。
ガリウス:(舌打ち)そうかよ。
シャルロット:私は中から、そしてお前は外から。……ともに、ノルデンエイリークを守ってくれないか?
ガリウス:(ため息)……俺は……てめぇのそういうところが気に食わねえ。
シャルロット:ふふ、ありがとう。嬉しいよガリウス。
ガリウス:……(笑いながら)褒めてねえよクソが。
ガリウス:(小声で)なんでこうも似てるかねえ……。
シャルロット:ん?なんだ?
ガリウス:いや?
:◆ガリウスが、シャルロットにかしづき頭を垂れる。
:
ガリウス:……拝命仕(つかまつ)ります、女王陛下。貴女の意のままに……。
ガリウス:(笑ってシャルロットを見上げて)従ってやんよ、シャーリー。
:
:
:
:
:
:【台本終了】
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:【台本開始】
:
:
:
:
:
ガリウス:……ようやく、約束を果たす時が来たぜ。シャーリー?
:
:
:
:
:
:(場面転換)
:
キリエル:(兵士)陛下!ご報告致します!予想よりも早く、兵の三分の一が負傷または死亡。戦闘不能状態です……!
シャルロット:そうか。
キリエル:(兵士)も、申し訳ありません……!
シャルロット:大丈夫だ。(微笑んで)……私に任せろ。
キリエル:(兵士)陛下……。
シャルロット:Norden Eirik endkampf(ノルデンエイリーク・エンカムス)を申し込む!鐘を鳴らせ!
:◆その時、エーベルヴァイン側が鐘を鳴らすのと同時に、レヴァンィン側の鐘が鳴った。
:
シャルロット:…………ッ!?鐘が同時に……!
キリエル:(兵士)陛下、これは……!
シャルロット:レヴァンティンサイドからも、エンカムスの申し込みか……く、ふはは……!
:(間)
:
シャルロット:(天を仰いで)ガリウス……。
:
:
:
:
:
ガリウス:よぉ、シャーリー。
シャルロット:……ようやく来たか。
ガリウス:約束通り、ダンスのお誘いに来たぜ。
シャルロット:あぁ。待ちくたびれたぞ、ガリウス。
ガリウス:そう言うなって。これでも超特急で会いに来たんだぜ?
シャルロット:フッ。それで?
シャルロット:それが貴様の一張羅か?随分と汚れているが。
ガリウス:俺は直接斬り刻むのが好きだからよお。……良い色に染まってるだろ?
ガリウス:……しっかし、てめえのドレスは綺麗なままだな?お得意の飛び道具で、離れた相手を撃つ簡単なお仕事、ってか?
シャルロット:我が銃剣は、別に不意を撃つ為の武器ではない。腕前は……まあ、踊れば分かるだろうさ。
ガリウス:そーかよ。
ガリウス:……それにしても。
ガリウス:……あーあ、結局こうなる訳だ……。こうなる前にこの戦が終わるなら、それでも良いと思っていたんだがな。
シャルロット:おや。私と踊りたくなかったと?
ガリウス:……直接お前と踊らなくても……手を下さなくても。俺が統治するレヴァンティンがエーベルヴァインに勝てさえすれば、それは女王であるお前を倒すことになる。……違うか?
シャルロット:……確かにな。
シャルロット:本当に……こんなにも互角の戦いが続くとはな……犠牲も多かった。
ガリウス:……それもここまでだ。
シャルロット:あぁ。
ガリウス:ノルデンエイリーク・エンカムス……。
シャルロット:大陸式最終決闘……互いに軍の三分の一を失った時、双方同意の上でのみこの手法で戦争を終結できる。
ガリウス:そうだ。……ノルデンエイリークの伝統に則り、国王同士の最終決闘にて、両国の決着をつける。いいな?
シャルロット:鐘はこちらも鳴らした。当然、異論はない。
ガリウス:……約束通り、これでノルデンエイリークが俺ら以外に渡ることはない。
シャルロット:そうだな。どちらが倒れることになっても……生き残った者が、このノルデンエイリークを統(す)べることになる。私たちの、どちらかが。
シャルロット:……泰平への道、か。長かった……。
ガリウス:俺らが出会ったのは、まだ十二の時だった。
シャルロット:そして、十六の終わりに戦争が始まった。
ガリウス:十七になって、ようやく戦場へ出陣できた。
シャルロット:大陸戦争の最中、自国の継承戦争をようやく勝ち取り、王になれたのは二十五の時だ。
ガリウス:俺も二十五で、父上から王位を継いだ。
シャルロット:互いに領地を広げ……、
ガリウス:大陸はどんどんと統一されて行った……。
シャルロット:ヘルヘイムも……お前が一人で倒したと、そう聞いた。
:(間)
:
ガリウス:(少し辛そうに息を吸って)……いや。積もる話をする仲でもねえな。俺らは今……敵同士だ。
ガリウス:御託はいい。……さっさとやり合おうぜ。
シャルロット:(同じく少し辛そうに)……そうだな。
:◆シャルロットが、その銃剣の銃口をガリウスに向けた。
:
シャルロット:今日こそ私が終わらせる。
シャルロット:貴様を、その玉座から引きずり下ろしてくれよう……狼皇帝!
:◆発砲。しかし、ガリウスは身を捩ってそれを躱す。
:
ガリウス:盤上に、キングは二人は要らねえ……!
シャルロット:あぁ、そうだ!だからお前は……ここで果てろ!
ガリウス:(同時に)うぉおおおおおお!
シャルロット:(同時に)はぁああああああ!
:
:
:
:
:
:(場面転換。同時刻)
:
キリエル:そろそろ……始まっただろうか。
グェン:見に行かなくて良いのか、巫女さん?
キリエル:……良い。
グェン:そっか。にしても……長かったなあ……ここに来るまで。
キリエル:お主は、私よりも前から陛下のことを知っておるしな。
グェン:そんなこたぁねえよ。巫女さんだって、ガリウスとは色々あったろ。
グェン:でもまあ……そうだな……。
:
:
:
:
グェン:(M)……リーファス家の人間には、自由などない。
グェン:
グェン:「リーファス家の人間には自我など要らない」
グェン:「リーファス家の人間には意思など要らない」
グェン:「全ては国のため、そして王のため」
グェン:「ただただ尽くし、その命を捧げよ」
グェン:
グェン:物心ついた時には、「俺」はいなかった。グェンという名前は単なる記号であり、俺は常に、「俺」ではない姿を強要された。どこにでも溶け込めるように。誰にでも付け入れるように。金髪は茶髪に、瞳の色は緑から青へ……。素の自分を打ち消して、偽りの存在を作り上げる。時に……薬を飲んで、その体格や性別を変えてまで。
グェン:
グェン:俺は……父や母の素顔も知らない。王家直属の諜報一族、リーファス家とはそういう一家なのだ。
グェン:だから。だから「あの時」まで……「俺」はどこにもいなかった。存在してはいなかった。
:
:
:
:
:
:(以下、回想シーン。六年前。レヴァンティン帝国軍第三部隊隊舎)
:
グェン:お!あんたがガリウスか!俺はリーファス家のグェン。同じ部隊に配属されたんだ。これから宜しくな、若さん!
ガリウス:リーファス……?
:
ガリウス:(M)代々親衛隊特殊部隊を担っている、あのリーファス家の子息か。
:
ガリウス:……おい。
グェン:なんだ?
ガリウス:俺とお前……どこかで会ってるか?
グェン:……んーにゃ。今日が初めましてだぜ。
ガリウス:そうか……。
ガリウス:(小声で)……ん?そもそもあそこの家に、俺と近い年齢の男なんていたっけか……。
グェン:おう!……いやあ、それにしても……お前、将来の王様のくせに人望ねえのな!みんなお前のこと避けてるっつーかなんつーか……。
ガリウス:あのなあ……。逆にてめえみてぇに、将来自分が仕えるであろう相手に、ずけずけと空気も読まずに話しかけてくる方が珍しいんじゃねーのか。
グェン:そんなもんか?……ふーん。俺にゃあ、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんの考えることはちっとも分かんねえなあ。
ガリウス:……てめえも一応貴族だろうが。
グェン:まあな〜。でも、俺ら同期だろ。
ガリウス:(ため息)相手が俺じゃなかったら、不敬で訴えられても文句は言えねえぜ。
グェン:何言ってんだよ。
ガリウス:あ?
グェン:俺は「あんた」に話しかけてるだろ、若さんよ。
ガリウス:……なるほど。お前、そういう奴か。
グェン:え?なんだって?若さん。
ガリウス:ガリウスでいい。……グェン。
グェン:……ッ!おう、ガリウス!
:
:
:
:
:(以下、暫く場面が転々とします)
:
グェン:ガリウス!訓練のペア、俺と組もうぜ!
ガリウス:別に良いが……足引っ張んじゃねえぞ。
グェン:いやいや〜。型通りの騎士様の剣より、俺の剣のが実践向きだと思うけどな〜?
ガリウス: 俺の剣が、そんなお上品だと思うか?
グェン:ははっ、思わない。でーも!未来の王様が負けるなんてだせぇから気を付けろよな?
ガリウス:はっ。言ってろ。手加減はしねえぜ。
:
:
:
グェン:ガリウス!未来の王様は、仕掛けられた勝負から逃げたりしないよな?
ガリウス:あ?そりゃそうだろ。売られた喧嘩は買うのが礼儀だ。
ガリウス:ってかお前、ちょこちょこいたりいなかったりするよな?一体どこでサボって……、
グェン:(被せて)ところでよお!今日の昼飯は、ななななんと!シュニッツェルだってよ!
ガリウス:へー。……で?
グェン:食堂まで競争して、勝った方が負けた方から一枚奪えるルールな。よーい、スタート!(走り出す)
ガリウス:は?クソ、待ちやがれグェン……!
:
:
:
グェン:ガーリーウースッ!……ん?どうした?怖い顔して。
ガリウス:いや、別に……何でもねえ。
グェン:午後からはヘルヘイムとの合同訓練だぞ?気合入れて行こうぜ!な!
ガリウス:……あぁ。そうだな。
グェン:?ガリウス……?
ガリウス:いや。何でもねえ。
グェン:……何かあったら言えよ。俺はお前の、目となり盾となる男なんだから。
ガリウス:(小さく笑って)あぁ。……ちょっと感傷に浸っちまった。行こう。
グェン:……おう!
:
:
:
グェン:ガリウス!ちょっとこれに着替えてくれよ!
ガリウス:あ?なんだこの粗末な服は……。
グェン:いいからいいから!
:(間)
:
グェン:ってことでじゃじゃーん!城下町でぇす!
ガリウス:こらグェンてめぇ……これちゃんと許可取ってんだろうな……。
グェン:いや?取ってる訳ないだろ〜。俺だぞ?
ガリウス:…………。
グェン:んーじゃ、お忍び⭐︎市場で食い倒れるまで帰れませんツアーと行こうぜえ。
ガリウス:は?おい待て!流石にこれは(ちゃんと許可を)……、
グェン:(被せて)はいはいどうどう。ほれ、ブルスト。
ガリウス:んが!……んん、んぐんぐんぐ……。
グェン:どうだ?
ガリウス:んだこれ……めちゃくちゃ美味え……!
グェン:ハハッ、そりゃ良かった!
グェン:……たまには息抜きも必要だぜ、未来の王様。
ガリウス:……グェン、てめぇもしかして……。
グェン:俺ら、友達だろ?
ガリウス:(笑って)……そうだな。
グェン:はははっ!……ん、ゲホッ、カハッ……!(血を吐く)
ガリウス:……ッ、グェン!?
グェン:ああ、大丈夫。大丈夫だから……。
ガリウス:大丈夫じゃねえだろそれ!すぐ医者を……!
グェン:(大声でキツく)それはダメだ!
ガリウス:…………ッ、
グェン:……ぁ。す、済まねえガリウス。先に帰っててくれ……!(走ってその場を去る)
ガリウス:あっ、おいグェン……!
:
:
:
:
:
:◆路地裏に身を隠すグェン。その身体は、みるみると小さく、本来の十二歳(見た目は十歳くらい)の姿になっていく。
:
グェン:クソ……最近薬を飲み過ぎてたか……。身体が……どんどん元に戻って……ウッ。
ガリウス:グェン!やっと見つけ、た……。
グェン:…………!
ガリウス:お前……それ……その姿……。
グェン:…………。
ガリウス:グェン、なのか?……だよな?
グェン:………ごめん、俺……。
ガリウス:それが、本当のお前か?……時々いなくなってたのは、まさか……。
グェン:…………。
ガリウス:あー……十歳くらい、か?
グェン:なっ。十二だよ失礼な……!
グェン:……ガッカリ、したろ……。こんなガキで……。
:(間)
:
ガリウス:(吹き出して)ぷっ、くくく……!
グェン:な、何がおかしい……!
ガリウス:あぁいや。(グェンの頭にポンと手を置く)
グェン:…………!
ガリウス:一人で抱え込むなよ。お前は、俺の目となり盾となる男なんだろ?それに……。
ガリウス:俺ら、友達じゃねえか。隠し事はなしだぜ。
グェン:とも、だち……。
ガリウス:あ?お前が言ったんだろうが。それとも何か?年の差があったら友達にはなれねえのか?
グェン:そ、そんなことは……。
ガリウス:あと。ガキならガキらしく、大人に甘えろ。バーカ。
グェン:…………!……ガリウスは、「大人」って感じはしないけどな。
ガリウス:(笑って)減らねえ口だな。
:(間)
:
グェン:リーファス家は、王家に使える特殊部隊……表向きは貴族だが、いわゆる諜報員として、代々レヴァンティンの皇帝に仕えている。
グェン:……俺が生まれたのは、あんたが九つの時だ。俺が戦闘員として一人前になる頃には、きっとあんたが王になっている。
グェン:
グェン:だから俺は……あんたが将来利用できるように……「使える道具」になるために育てられてきた。
グェン:第三部隊に配属になる前から、いつもあんたの事を見てたよ。初めてあんたの警備を許されたのは、気配を消すテストに合格した九つの時だった。それからは、いつだって姿を隠して傍にいた。
グェン:だから、あんたが朝起きて最初に何をするかも、好きな食べ物も……なんと!寝相まで知ってるって訳だ。
ガリウス:……そーかよ。
グェン:そーかよって……それだけかよ?俺が気持ち悪くないのか?
ガリウス:何がだよ?それがお前の仕事だろ。
グェン:でも……、
ガリウス:入隊の日、お前とどこかで会ってるような気がしたのはそのせいだな。
グェン:……え。
ガリウス:ずっと付いてくれていたからだろうな。てめえの波長は心地いい。
:(間)
:
ガリウス:……何も変わんねーよ。
グェン:…………。
ガリウス:にしても、四六時中俺に付いてるなんてご苦労なこった。
グェン:「グェン」に、自由なんてない。俺はガリウスの……、
ガリウス:道具だから?
グェン:…………そうだ。
ガリウス:ふーん。
ガリウス:(立ち上がって)お前、生涯通して俺に従い、俺の命(めい)を遵守(じゅんしゅ)すると誓うか?
グェン:…………もちろん。
ガリウス:そうか。なら命令だ。
:(間)
:
ガリウス:自由に生きろ。
グェン:へ……?
ガリウス:俺の物だから自由がない?馬鹿を言え。てめぇはてめぇだ。俺は自分の意思で考えない人形になんざ興味ねぇ。俺の為に生き、俺の為に存在したいのなら……精々飽きられねぇように自由に生きるんだな。
グェン:……ッ!お、俺なんかが……自由に生きて、いい訳……、
ガリウス:これは未来の王様命令だぜ?……俺を楽しませくれよ。
グェン:ガリ、ウス……。
ガリウス:自由に生きちゃ駄目な人間なんて存在しねえ。俺もお前も……(小声で)あいつだって……。
ガリウス:……さ。落ち着いたなら、なんか食ってから帰ろうぜ。走ったら腹減ったわ。いい店教えてくれよ、グェン?
グェン:(暫し呆気に取られて)フッ。……あぁ!
:
グェン:(M)そうして俺は、その時本当の自由を手に入れた。俺はその時、初めて本当の意味で、「グェン」になれた。
:
:(回想終了。再び現在)
:◆ガリウスとシャルロットが剣を交えている。
:
:
:
シャルロット:はあぁっ!ふ、ふふふ……っ!
ガリウス:笑ってんじゃねぇクソ野郎!
シャルロット:貴様に余裕がないだけだろう。悔しいなら笑ってみればいい!
ガリウス:誰が……!グッ……!
シャルロット:お前はいつもそうだ。自分のことしか考えていないような脳筋のくせに、結局はいつも人の為……。
ガリウス:突然褒めんなよ気持ち悪ぃ。
シャルロット:褒めているものか阿呆(あほう)め。
ガリウス:あぁん!?
シャルロット:お前は甘いのだ。お前が鍛錬するのはいつだってお前の為ではない。ダンスパートナーの恥とならない為、部下を助ける為、民の命を守る為……!お前の心はどこにある!
ガリウス:ハッ!何言ってやがる。てめぇに俺の……何が分かる……!
シャルロット:何だ何だ!心が乱れたか!剣がブレているぞ、ガリウス!
ガリウス:クッ、俺はァ……!
シャルロット:もう一度訊くぞガリウス!貴様の覚悟はその程度か!お前の心は!お前の自由はどこにある……!
ガリウス:…………ッ!
:
:
:
:
:
キリエル:(M)この世に自由などない。
キリエル:生まれ落ちたその瞬間、自分の意思とは関係なく、ピラミッドの一角にその身を位置づけられる。身分が高いか低いか。金があるかないか。そして……力を持っているかどうか。私達に無限の選択の余地などない。位置付けられたヒエラルキーの、その既に狭められた選択の中で、どうにか抗い続けるしかない。
キリエル:……そして私は、「力」を持つが故、自由でなくなった者の一人だった。
:
:
:
:
:
:(以下、回想シーン。五年前。レヴァンティン帝国軍)
:
ガリウス:おい、あいつは……?
グェン:ん?あぁ。……あれが噂の先読みの巫女さんだ。どうやらちょっと前まで養護施設にいたそうで…………ま、何やら訳ありなんだと!
:
キリエル:どいつもこいつも……。
:
キリエル:(M)人間は勝手だ。
キリエル:私は、幼き頃に親に捨てられた。天眼(てんがん)の予見(よけん)を受けあれこれ言い当てる私は、両親の目には奇異として映ったのだろう。私だって、そんな幼子(おさなご)を育てるのはご免こうむる。
キリエル:だから私には、血を分けた「肉親」と呼べる存在はいない。……しかし、幸運なことに、「親」と呼べる存在はいる。養護施設「ディアコニー」の修道者、ブラッツ・アインホルン……その人こそが、私の心の家族であった。
:
:
:
:
:
:(以下、更に過去の回想シーン)
:◆幼き頃のキリエルが、ブラッツに剣術の指南を受けている。
:
シャルロット:(ブラッツ)どうしたどうした!もう終わりかぁ?
キリエル:クッ……もう疲れた!こんなことに意味なんてない!
シャルロット:(ブラッツ)おいおい、逃げるのか。ちゃんと俺の動きを読め!天眼で予見(よけん)し、俺の先に回りこむんだ。
キリエル:ふざけるな!そんなにテンポ良く次々読めるものじゃない!
シャルロット:(ブラッツ)だから精度を上げろっつってんだよ。
キリエル:そもそも女に剣術なんて必要ないだろう!
シャルロット:(ブラッツ)バァカ。護身術だろうが。お前さんにゃ必要なものだ。
キリエル:護身術の域を超えてる!これは殺人術だ!他の子は遊んでるのに、なんで私ばっかり……!
シャルロット:(ブラッツ)お前さんのような異能持ちは、自分で自分の身を守らなきゃ、ボロ雑巾のように使われて終わりだぞ。それで良いなら、授業はこれで終わりだ。
キリエル:…………ッ。
シャルロット:(ブラッツ)生憎俺ァ、戦争を生き抜く方法しか知らないんでね。だが、殺人術を学べば十二分に身は守れる。そんでもって、それで人を殺すかどうかは……お前さんの選択に委ねられるだろうよ。
キリエル:私は……人殺しなんてしない。
シャルロット:(ブラッツ)そーかよ。
キリエル:一角獣ブラッツ……レヴァンティン帝国・元近衛隊長様……この国じゃあ、サルでも知ってる有名人だ。
シャルロット:(ブラッツ)おう、そうか。まあ「俺」だからな。
キリエル:自分で言うのかそれを……。
シャルロット:(ブラッツ)それだけ研鑽(けんさん)したんだよ。俺は、俺の鍛錬の歴史をしっかりと認めているだけだ。
キリエル:ふん。人殺しの研鑽か。
シャルロット:(ブラッツ)己の正義を全うする時、そしてそれが、相手の正義と反する時……ぶつかり合うのは、仕方のないことだ。……それが「たった一人」の為なら尚更。
キリエル:たった一人?
シャルロット:(ブラッツ)騎士が生涯を捧げる主君のことだ。意思が弱い奴は、ボロ雑巾のように利用されて捨てられる。だが、たった一人と出会えたら……自分の力を全て捧げても良いと思える存在に仕えることができたら。それは騎士の誉れと、自信につながる。
シャルロット:……自らの意思で選んだ、たった一人だ。
キリエル:それは……、
シャルロット:(ブラッツ)とにかくだ、エル。お前さんの目はお前さんのものだ。勝手に相手に主導権を渡すな。勝手に誰かに利用されるな。
シャルロット:お前さんは、お前さんの意志で。自らが使いたい時、そして生涯を捧げても良いと思う相手の為にだけ、その目を使え。
キリエル:…………。
シャルロット:(ブラッツ)俺が教えんのは、圧倒的な力に負けない物理的な方法だけだ。……だが、精神はそうもいかん。精神は簡単に侵されてしまうからな。
シャルロット:意志を強く保つのは、己との対話だ。他人がどうこうできるもんでもない。
シャルロット:(キリエルの頭に手を乗せて)ま、頑張れよ、エル。
キリエル:〜〜〜ッ、頭に手を置くな、クソ!…………ぁ。
シャルロット:(ブラッツ)ん?何だ?
キリエル:雨が来る。
シャルロット:(ブラッツ)お。予見か。よし。んじゃ今日はここで終わるか。
キリエル:……こんなに晴れてるのに、とは言わないのか。
シャルロット:(ブラッツ)お前さんのことを信じてるからな、俺は。
キリエル:気持ち悪くないのか。
シャルロット:(ブラッツ)あー?(笑いながらキリエルの頭を乱暴に撫でる)
キリエル:わ、おい、撫でるな!
シャルロット:(ブラッツ)バァカ。気持ち悪い訳ねえだろ。「家族」なんだから。
キリエル:…………ッ。
シャルロット:(ブラッツ)おし。走って帰るぞ。明日からまたビジバシしごいてやるからな。
:
キリエル:(M)ブラッツの修行は、本当に容赦がなかった……が、おかげで私は強さを手にし、自分を守る術を得た。
キリエル:……二十歳を超えた頃だった。その頃には、私は天眼の力をある程度自由に使えるようになっており、その日私は初めて、一角獣の角を折った。
:
:
:
:
:
:(回想シーン)
:◆成長したキリエルが、初めてブラッツの剣を弾く。二人は、そのまま暫し放心する。
:
キリエル:……った……やった……!やっと、やっと一本取ったぞ!ブラッツ!はははっ!
シャルロット:(ブラッツ)あ、あぁ……。はは。してやられたな。強くなったなあ、エル。
キリエル:はは、あはははは!今回は読みが上手くいった!ブラッツの動きを予見して、逆側から回り込んで……やっと、やっとだ!とうとう勝った……!
シャルロット:(ブラッツ)おいおい。たかが一度のまぐれでそんなに喜ぶな、よ……ゴホッ、(激しく咳き込む)。
キリエル:……あ?……ブラッツ……?
シャルロット:(ブラッツ)ゥ……ッ!(倒れる)
キリエル:ブラッツ……おい、ブラッツ……!
:
:
:
:
:
:(場面転換。病院)
:◆ブラッツが寝ている部屋の前で、キリエルと医者が話している。
:
シャルロット:(医者)アインホルン様は、もう長くはないでしょう。
キリエル:は……?もう一度調べてくれ。そんな訳が(ない)……、
シャルロット:(医者)残念ですが。……隠してらっしゃったようですが、アインホルン様は長く肺を患っておりました。
:(間)
:
シャルロット:(医者)どうか、ご覚悟くださいませ。……それから。
キリエル:……それから?
シャルロット:(医者)延命治療をする場合は、かなりの額を要します……。
キリエル:…………。
シャルロット:(医者)養護施設の維持費も必要となるでしょう。そこで、ご提案なのですが。
キリエル:てい、あん……?
シャルロット:(医者)軍に入られては?
キリエル:は?私がか?
シャルロット:(医者)実は上に知り合いがおりまして。キリエル様のことをずっと前から「欲しい」と打診していたものの、アインホルン様ににべもなく断られ続けていると愚痴っておりました。
キリエル:は……?そんな話一度も聞いたことがないが。
シャルロット:(医者)なるほど。本当に大事にされていたのですね。流石天下の一角獣の秘蔵っ子。
キリエル:…………別に、箱に入れられていた訳では……。
シャルロット:(医者)貴女様の力は神の力です。ならば、万人のために使ってこそ意味がある。その力で、お国に貢献なさい。
キリエル:…………私は……。
シャルロット:(医者)施設の子供たちも、貴方様だけが頼りでしょう?
:
:
キリエル:(M)お金。確かにお金は必要だ。
キリエル:ならば強くならねば。
キリエル:私が子供たちを守らねば。
キリエル:……ブラッツの代わりに、私が。
:
:
キリエル:分かりました。……軍に、入ります。
:
:
:
:
:
:(場面転換。キリエルが軍に入り、暫く経った頃)
:
ガリウス:おい。
キリエル:……なんだ。
グェン:あー。こんにちは。俺はグェン・リーファス。実はこの男があんたに用があるって……、
ガリウス:(被せて)てめぇだろ?先読みの巫女ってのは。ちょっと手合わせしてくれよ。
グェン:お、おい……。
キリエル:無礼な奴だな。用があるなら先に名乗らんか。
ガリウス:失礼な奴だな。未来の王の名前も知らねえとは。
:(間)
:
キリエル:(ため息)ガリウス・ローウォルフ・レヴァンティン。この国の未来の統治者。
グェン:あ、なんだ。流石に知ってたか。
キリエル:貴様のような者が次代の王とは。私は将来国を移ることを考えねばならないかもな。
ガリウス:……は?
キリエル:おや、怒ったか。そうしてすぐに顔に出るのもいただけないな。短気な王は国を滅ぼす。
ガリウス:……口の減らねえ女だな。まあいい。俺が知りたいのはお前が強ぇか、そうでないか。それだけだ。一戦やろうぜ。
キリエル:……ガキか、貴様は。
ガリウス:あ?なんだと……。
グェン:おっと……。
キリエル:戦う必要もない。どうせ貴様も、私の「たった一人」には程遠い、小さな器だろうからな。
ガリウス:……?何言ってやがる。
キリエル:生憎私は忙しいんだ。
ガリウス:待て。
キリエル:…………ッ!
:◆キリエルの足元一歩先に、ナイフが刺さっている。
:
グェン:あっ!俺のナイフ!いつの間に!
キリエル:……皇族の癖に手癖が悪いな。だが。
ガリウス:だが、腕は確か。……だろ?
キリエル:……面白い。一戦だけだぞ。付き合ってやる。
ガリウス:ヘッ。そうこなくっちゃ。
:
:
:
:
:(場面転換。訓練場)
:◆ガリウスとキリエルが剣と鎌を構え立っている。
:
グェン:んじゃ、未来の王ガリウス、先読みの巫女キリエルの手合わせ一本勝負!……あー、だけどよ?本当に真剣でやるのか?後で怒られるぜ?
キリエル:バレなきゃ良かろう。
ガリウス:お?気が合うな。バレなきゃ良いだろ?なあ、グェン。
グェン:言っとくけど、お忍びで市場に行くよりもこっちのが罪は重いからな、ガリウス。
グェン:(咳払い)……では、構え、始め!
:
キリエル:はぁああ……ッ!
ガリウス:おっと……!噂にゃ聞いてたが、その大鎌すっげぇな。油断したらリーチの差で即刻首無しだ!
キリエル:王の他に「デュラハン」の異名も付くな!やってやろうか!
ガリウス:お前が本気出しても、俺がよそ見しねえ限りは一生無理だぜ!
キリエル:ハッ、王宮でぬくぬく育てられた仔犬がよくほざく……!
ガリウス:……おっまえ、それ不敬だからな。……ったく。でもまあ、そうして隙作ってくれるのはありがたい、がな!
キリエル:……なっ!は、早い……!何だこの動きは……!
ガリウス:おっと、どうしたどうした、先読みの巫女様!目ぇ開けながら寝てやがんのか!
キリエル:……クソッ!
ガリウス:はは!途端に剣筋がブレやがる!……あ、いや。この場合鎌筋、か……?
キリエル:ええい小癪な!……あっ!
ガリウス:バカお前、そっちは……!
キリエル:あぁああ……っ!
:◆キリエルがバランスを崩し、武器立てに突っ込みそうになったのを、ガリウスが覆い被さる形で守る。
:
ガリウス:いって〜……!あぁもう、何やってんだてめぇは。
キリエル:な、何故庇った……!こんなの痛くも痒くも……!女扱いするな!馬鹿者!
ガリウス:女ぁ?……全く何言ってやがんだてめぇは。
:(間)
:
ガリウス:王が民を守るのに、理由なんてあるかよ。
キリエル:…………ッ、
ガリウス:女だろうが男だろうが関係ねぇよ、バーカ。
キリエル:…………。
:
:
:
グェン:ガリウス!巫女さん!大丈夫か!?
グェン:(ガリウスに手貸して)まったく、ほら。
ガリウス:おう。……よっと、(立ち上がる)
グェン:ほら、巫女さんも。
キリエル:(グェンの手を弾いて)いらん。(一人で立ち上がる)
グェン:冷た……!
ガリウス:なんっか戦う気も失せたな。腹も減ったし、何か食いに行くか。
キリエル:な!逃げる気か、貴様!
ガリウス:勝ってもねえのに逃げるかよ。またやろうぜ。てめぇと剣交えんのは悪くなかったわ。
キリエル:…………。
グェン:ほら!巫女さんも行こうぜ!最近また良いブルストの店見つけてさあ!
キリエル:は?おい、何で私まで……!
グェン:いいからいいから!
:
:
:
:
:
キリエル:(M)それから、なんとなく、本当になんとなく。私はガリウスとグェンの二人と、行動を共にするようになっていった。彼奴(あやつ)らは相変わらず猪突猛進のバカであったが……でも、救いようのないバカ、という訳でもなかった。
キリエル:……そして、私が軍の生活にようやく慣れ、暫く経った頃だった。
:
:
:
:
:
キリエル:……何だ?え?電報?……まさか。
:(キリエル、荒々しく電報を開く)
:
キリエル:……ッ!ブラッツが……死んだ……?
:
キリエル:(M)もっと、もっとだ。
キリエル:私が強くならねば。私が。
:
キリエル:……ブラッツ、ブラッツ……ッ!ぁあぁあああ……!(泣き崩れる)
:
キリエル:(M)もっと、もっともっともっと……!
キリエル:強くならねば。
キリエル:私が子供たちを守らねば。
キリエル:……ブラッツは、もういないのだから。
:
:
キリエル:私が、やらねば……。
:
:
:
:
:
:(場面転換。帝国軍施設廊下)
:
グェン:ガリウス、ちょっと良いか?
ガリウス:あ?なんだ?
グェン:最近の巫女さんについて聴いてるか?
ガリウス:そういや最近見ねえな。任務でも食堂でもかち合わねえし……。
グェン:あぁ、実は……。
:
:
:
ガリウス:……リエル!おい、キリエル!
キリエル:……何だ。
ガリウス:最近どうしたんだ、てめぇ。
キリエル:何がだ。
ガリウス:危険地帯の任務ばかり志願しているようだな。
キリエル:そんなもの私の勝手だろう。
ガリウス:俺は……俺は今まで、てめぇの事情に首を挟んだことはねえ。てめぇの尻はてめぇで拭くもんだし、それに……どんな奴にも、譲れねえ「大事な何か」ってもんがある。
ガリウス:……だが、前に言ったな。
キリエル:は?
ガリウス:王が民を守るのに、理由などないと。
キリエル:…………。
ガリウス:それが友なら尚更だ。
キリエル:友……?
ガリウス:あぁ。だから。
ガリウス:それが、友の意思とは違っても。俺は俺の意思で友の為に動く。
キリエル:何を言って……。
ガリウス:言っても無駄だろうが一応言うぜ。目が赤い。最近寝れてねえだろ。
キリエル:…………ッ。
ガリウス:せめて今夜くらいは、何も考えずに休めよ。じゃあな。
キリエル:あ、おい……!
キリエル:……何なんだあいつは……。
:(間)
:
キリエル:友、だと…………?
:
:
:
:
:(場面転換。養護施設「ディアコニー」)
:
キリエル:こんにちはシスター!今月の分の経営費を持って参りました!これで暫くは食卓も潤っ…………え?寄付……?匿名の支援者の方が?それはありがたいですね。して、支援金は如何ほど……えっ!
キリエル:そんな大金……一体誰が……。
:(間)
:
キリエル:まさか……。ガリ、ウス……?
:
:
:
:
:(場面転換。帝国軍施設廊下)
:
キリエル:(走ってきて)ガリウス……!
グェン:お、巫女さんだ。ちーっす!
キリエル:(グェンを無視して)ガリウス……ありがとう。養護施設の(支援金、お前が)……、
ガリウス:(被せて)あ?何のお礼だそりゃ。
キリエル:……いや。……何でもない。
:(間)
:
ガリウス:……なあ。
キリエル:……何だ。
ガリウス:安心しろ、てめえは強ぇよ。目の力なんて無くてもな。……ま。目の力は、そりゃあレア度の高い才能だがよ。
ガリウス:(ニヤリと笑って)王になったら、俺の下で働いて欲しいくらいだぜ?
グェン:ハハッ、そりゃあいい。俺と巫女さんが脇を固めりゃ、向かう所敵なしだ。
キリエル:……分かった。
グェン:…………へ?今なんて……。
キリエル:分かった、と言ったのだ。ガリウス。お前が王になったその暁には、貴様の下(もと)で働いてやろう。
:(間)
:
グェン:マジかよ……。
ガリウス:(ため息)……キリエル。
キリエル:何だ。
ガリウス:それは簡単に口にして良い言葉じゃねえだろ。
キリエル:簡単になど言っていない。
ガリウス:いいか。てめぇの目を、誰かに勝手に利用されるなよ。てめぇはてめぇの意思でその目を使え。
キリエル:…………ッ。それ……。
:
シャルロット:(ブラッツ)お前さんの目はお前さんのものだ。勝手に相手に主導権を渡すな。勝手に誰かに利用されるな。
シャルロット:お前さんは、お前さんの意志で。自らが使いたい時、そして生涯を捧げても良いと思う相手の為にだけ、その目を使え。
:
キリエル:ブラ、ッツ……。
ガリウス:あ?
キリエル:……あ、いや。……未来の王が、利用価値のあるツールを囲わなくて良いのか。
グェン:(吹き出して)ははっ、ツールって……!巫女さんみてぇな頭の良い奴でも、そんなバカなこと言うんだな。っくくく。あー、おっかし……!
ガリウス:人間は、どこまで行っても縛れやしない。みんな自由だ。俺もてめぇも。……どんな家柄に生まれても、どんな力を生まれ持っても……変わらず平等だ。
キリエル:…………。
ガリウス:何だ?天眼持ちだから、特別扱いされるとでも思ったか?
キリエル:いや……よく分かった。
キリエル:……ありがとう。
ガリウス:だから何のお礼だって。
キリエル:(笑って)いや。
:(間)
:
キリエル:これからは、「エル」と呼んでくれないか、ガリウス。
グェン:お?んじゃ俺も……、
キリエル:(被せて)貴様には言っていない。
グェン:冷た……。
ガリウス:……何だ、イキナリ。
キリエル:そう呼んで欲しいんだ。将来仕える王からは。
ガリウス:だから、別に俺に従う必要は……、
キリエル:(被せて)お前が良い。
ガリウス:…………ッ。
キリエル:従うなら。仕えるなら。私はお前を選ぶ。自分の意志で。
:(間)
:
グェン:(口笛、もしくは口で)ヒューウ。
ガリウス:……は、ははっ。あぁ、そうかよ。
ガリウス:分かった。エル。
キリエル:ん。ありがとう。
グェン:……なーんかよく分かんねえけど……めでたしめでたし、ってか……?
グェン:(二人の肩にガバッと手を回して)よっし!俺らの友情と、レヴァンティンの未来に、ブルストとアップルサイダーで乾杯と行こうぜ!
キリエル:お、おいリーファス、貴様気安いぞ!くっつくでない!…………ぁ。
グェン:おお!?聴いたかガリウス!今巫女さんが初めて俺の名前を!
ガリウス:良かったな。
キリエル:う、うるさい!貴様の名など呼んでない!
グェン:あっはは!
:
キリエル:(M)そうして私は、「たった一人」と出会った。私の、たった一人の、「素晴らしき王」と……そして、同じ王を持つ「仲間」と。
:
:
:
:
:
:(場面転換。現在)
:
シャルロット:(M)ガリウスは……素晴らしい王だ。ガリウスは強い。ガリウスは揺るがない。だから、全てを背負って尚、一人で立とうする。本当に……本当にいい王だ。私が死んだとて、ノルデンエイリークはガリウスによって、問題なく統治されるであろう。……だけど。だから。……だから私は……!
:
ガリウス:クッ。
シャルロット:大陸の王の席は荷が重かろう!なぁに問題ない!その席には私が座ってやろう!
ガリウス:ぬかせ!はぁあっ!
シャルロット:遠慮は要らぬ!貴様は王の器ではないからな!
ガリウス:てめえよりはよっぽど才があるさ!
シャルロット:ほざけ……!貴様のどこに、私より王としての風格が(あると言うのだ)……、
ガリウス:(被せて)ハッ、てめえは俺と違って、規律に雁字搦(がんじがら)めになっちゃあ、へらへら笑うことしか出来なくなるようなアホだからな!シャーリー!
シャルロット:…………ッ!お前は、また……!何故、何故そうお前は人の気持ちばかり……!ヘルヘイムに一人で挑んだのも、もしや……!
ガリウス:おっと、それは自惚れだぜシャーリー!俺は強い。俺は負けない。ムカつく奴は、俺がこの手でぶっ倒す。誰にも譲ってなんかやらねえ!勿論てめえにもな!
シャルロット:……ッ!
シャルロット:……なるほど……。
:(間)
:
シャルロット:ならもう、私も揺るがない。私も絶対に、お前には譲れない矜持(きょうじ)というものがある……!
ガリウス:あ……?
シャルロット:最後に会ったあの時に言ったな!私はお前以外にやられはしない!いや!お前にさえも、負けはしないと……!
ガリウス:……ああ。俺らは、互いを討つ為にここまで来た!
シャルロット:お前が全て一人で背負うというのなら!その業は私がみな断ち切ってくれる!お前を取り巻く積年の恨み、長年の因縁、王としての宿命!……その全てを、私がこの手で終わらせてくれる!
ガリウス:驕り高ぶるのもいい加減にしろよ女王様!頭(ず)が高すぎて笑えてくるぜ!
シャルロット:バカな男だガリウス、お前は……!
ガリウス:は……?
シャルロット:お前は!優しすぎる!
ガリウス:…………ッ!
:
:
:
:(以下、回想シーン。二年前。レヴァンティン帝国玉座前)
:
ガリウス:王室警護官グェン=リーファス、そして先読みの巫女キリエル……これより其方(そなた)らを、私、レヴァンティン皇帝、ガリウス・ローウォルフ・レヴァンティン直属の親衛隊に任命する。
グェン:(同時に)はっ。
キリエル:(同時に)はっ。
キリエル:今後はガリウス陛下に、この身をお捧げします。
グェン:右に同じく。生涯お尽くし致します。
ガリウス:よろしい。その魂の灯火が消える最期の一瞬まで、私に従い、仕えて果てろ。
キリエル:……。
グェン:……。
:(間)
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ガリウス:(吹き出して)……なーんてな。
グェン:(同時に)へ?
キリエル:(同時に)は?
ガリウス:そういう堅っ苦しいのはなしだ。グェン、エル。精々「好き勝手自由に」、汗水垂らして働いてくれ。
キリエル:(暫し呆気に取られて)…………ふふっ、でしたら。
:(間)
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キリエル:私は……いえ、私たちは……「好き勝手自由に」、貴方の手となり、足となりましょう、陛下。
グェン:……くく。そうだな!
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:
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:(再び現在へ)
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シャルロット:お前は!優しすぎる!……はぁあああああッ!
ガリウス:…………ぐあッ!
:◆ガキィン、と、ガリウスの剣が吹き飛ばされる音がする。
:
ガリウス:(囁くように)くっ。………エル……!グェン……!
:
:
キリエル:…………ッ!?
グェン:ん?どうした?
キリエル:今……今。陛下のお声が聴こえた気がして……。
グェン:……ッ、ガリウス……!(立ち上がる)
キリエル:待て、リーファス!
グェン:……ッ!
キリエル:王を信じて待つのが、臣下の務めだ。
グェン:でも……!(キリエルの震えに気付いて)巫女さん、あんた震えて……。
キリエル:…………。
グェン:……くっ。(もう一度キリエルの横に座って)最初に待つって決めたんなら、最後まで信じなくっちゃ……だよな。
グェン:俺も生涯をガリウスに捧げた身だ。最後まで王に従うよ。……それがどんな結末であれ。
キリエル:あぁ。(思いついて、少しイタズラに)……この魂の灯火が消える、最期の一瞬まで?
グェン:ふっ。……あぁ。そうだな、巫女さん。
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:(場面転換。再び、対峙しているガリウスとシャルロットへ場面が戻る)
:◆辺りは静まり返っており、ただ、二人の激しい息遣いだけが聞こえている。
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ガリウス:クソが。……俺様が、負けた、だと……?
シャルロット:……ダンスのお誘い、嬉しかったぞガリウス。……勝ったのは……エーベル、ヴァインだ……。
ガリウス:てめぇは……相変わらず、その気持ち悪い笑顔を浮かべる癖が抜けねえな、シャーリー。
シャルロット:それを言われるのは二度目だな。後にも先にも、お前だけ。
ガリウス:さあ、俺を殺せ。情けはいらねえ。
シャルロット:そう、だな。貴様の骸と踊るために、私はここまで来た。
ガリウス:……あぁ。
シャルロット:ガリウス 、貴様が守ってきたレヴァンティン……帝国のその名はいただくぞ。貴様は今、この瞬間より……皇帝ではなくなった。
ガリウス:(心底悔しそうに)…………あぁ。
シャルロット:つまり……貴様が守ってきた「レヴァンティン 」は……そして「皇帝ガリウス」は…………死に絶えた。
:(間)
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ガリウス:は……?
シャルロット:優秀な者をただ殺すのは我が国の損失だ。我がエーベルヴァインのために、ひいてはノルデンエイリークのために……お前を飼い殺してくれよう。ガリウス。
ガリウス:……何言って……。
シャルロット:……ノルデンエイリークは私に任せろ。貴様には優秀な仲間がいる。きっと、他の地でも上手くやっていける。
ガリウス:………おいシャーリー。てめぇ一体何の話を……、
シャルロット:海を越えろ、ガリウス。
ガリウス:……は?
シャルロット:海を越えた先に、シュッドガルド大陸がある。貴様の耳にも入っているだろう?最近中々に力をつけてきた大陸だ。このノルデンエイリークの利になるかは分からぬが、王であった貴様の目で、大陸の是非を確かめてきてもらいたい。
ガリウス:てめぇはアホか。んなの、俺があっちで味方をつけて、またお前に……!
ガリウス:……お前に、牙を剥くとは考えねえのか……?
シャルロット:バカを言え。皇帝でもない、「ただの」愛らしい狼に……一体何ができるというのだ?
ガリウス:……言ってくれる。
ガリウス:恩情を与えたこと、いつか後悔するぜ、シャーリー。
シャルロット:面白い。させてみろガリウス。
ガリウス:ハッ、上等だぜ女王様。
:(間)
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シャルロット:………貴様は義を通す男だ。それに……ノルデンエイリークを私と同じくらい愛しているのは……お前しかいない。
シャルロット:お前は私に……私には牙を向けても、ノルデンエイリークに牙は向けない。
ガリウス:(舌打ち)そうかよ。
シャルロット:私は中から、そしてお前は外から。……ともに、ノルデンエイリークを守ってくれないか?
ガリウス:(ため息)……俺は……てめぇのそういうところが気に食わねえ。
シャルロット:ふふ、ありがとう。嬉しいよガリウス。
ガリウス:……(笑いながら)褒めてねえよクソが。
ガリウス:(小声で)なんでこうも似てるかねえ……。
シャルロット:ん?なんだ?
ガリウス:いや?
:◆ガリウスが、シャルロットにかしづき頭を垂れる。
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ガリウス:……拝命仕(つかまつ)ります、女王陛下。貴女の意のままに……。
ガリウス:(笑ってシャルロットを見上げて)従ってやんよ、シャーリー。
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:【台本終了】
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