台本概要
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タイトル | 貉は同じ穴倉で【東西戦争】 |
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作者名 | 机の上の地球儀 (@tsukuenoueno) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
(むじなはおなじあなぐらで) 戦闘・叫び有/開戦 商用・非商用利用に問わず連絡不要。 告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。 (その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください) ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。 台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。 兼ね役OK。1人全役演じ分けもご自由に。 グェンかシドのどちらか、数セリフあるモブの兼ね役をお願いします。 ※「最終戦争のその前に」で、商人に変装し西国「エーベルヴァイン」に潜入したグェンとパトリシアが接触したことがあります。 526 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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グェン | 男 | 74 | グェン=リーファス。18歳。東の国「レヴァンティン」の諜報員。暗器使い。潜入において右に出る者はおらず、容姿も声も、自身の思いのままに変えることが出来る。 ※「最終戦争のその前に」で、西国「エーベルヴァイン」に潜入し、商人に変装した状態でパトリシアと接触している。 ※モブ役が数台詞ございます。グェンかシドのどちらが兼ね役願います。 |
シド | 男 | 79 | シド=ヤーカルム。32歳。西の国「エーベルヴァイン」の軍師。狡猾で冷静な戦略指揮を得意とする。女王シャルロットに心酔しており、彼女もまた、彼を大層信用して、外交を任せている。 ※モブ役が数台詞ございます。グェンかシドのどちらが兼ね役願います。 |
パトリシア | 女 | 82 | パトリシア=アンダンテ。22歳。西の国「エーベルヴァイン」の近衛隊長。見た目は可愛いが、戦いになると別人のようになり、身の丈ほどもある大剣を振り回す。 ※「最終戦争のその前に」で、商人の姿で西国「エーベルヴァイン」に潜入したグェンと接触している。 |
キリエル | 女 | 89 | 29歳。性はない。東の国「レヴァンティン」の女神と謳われる巫女様。天眼を持ち、未来を先読む能力を持つ。国の政を担っている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
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キリエル:(ナレーション)ノルデンエイリーク……五十四もの国がひしめき合うこの大陸で、中央に鎮座したその「二国」だけが、圧倒的に異彩を放っている。東にあるは我らガリウス皇帝が率いるレヴァンティン、西にあるは、唯一の女王、シャルロットが統べしエーベルヴァイン。周りの国々は、既に全て、対立するこの二強のどちらかに屈し……今まさに大陸統一……東西の因縁に、決着がつこうとしていた。
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:(場面転換)
:◆グェンは二国が川越しに睨み合う中、ガリウス率いる第一軍から離れ、敵国エーベルヴァイン側に潜ませていた視察軍と、合流を図ろうとしていた。
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グェン:うっひょ〜!大砲どっかんどっかん撃ち合っちゃってまあ……お互い予想通りの幕開けってか?
グェン:それにしても……あっれ、おっかしいな……そろそろ視察軍と合流しても良い頃合いなんだが……あいつらに限ってヘマはしてないと思うけど……もっと奥に隠れてんのか?
:◆グェンは気配を感じ、バッと後ろを振り返る。
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グェン:おっとぉ……?
シド:ん〜?(グェンのジャンパーに刺繍されたカメレオンを見て)おや、こんな所に煩(わずら)わしいトカゲが……。
:(間)
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グェン:(小声で)俺が、後ろを取られた……?
グェン:(シドに向かって)……カメレオンだよ!目ぇ腐ってんのか。
シド:いやはや済みません。見間違えてしまったようです。……言いたくはないのですが、仕立て屋の質がお悪いのではないですかね。
グェン:あぁ、お貴族様は派手好きでいらっしゃいますからねえ。宝石だの金糸(きんし)だの?下々の者から搾り取った税金で仕立てる服は、さぞかし着心地が良いでしょうねえ。
シド:流石レヴァンティンの民草(たみくさ)には、品や知性というものがまるでない。
シド:……ああ。王があのような獣なら当然でしょうか。
シド:(少しトーンを低くして)……なあ?レヴァンティンの犬よ。
グェン:……トカゲなのか犬なのかハッキリして欲しいなあ……。
シド:おやおや。ゆっくり話すのはお嫌いですか?
グェン:そうだな、回りくどいのは勘弁だ。
シド:ならばハッキリ言いましょう。
シド:私は貴方を探してここに来た……グェン・リーファス。
グェン:……ハッ、誰だそりゃ。人違いだぜ。
シド:ハハハッ。後ろを取られたからとは言って、そうイラつかないでくださいよ。
グェン:……………は?
シド:貴方の動きは全て、そう。面白いくらいに予想通りだ。
シド:……貴方は諜報員です。それも凄腕の。ならばそのちんけなプライドにかけて、誰よりも早く戦況を把握したがる筈……とあらば?
:◆シドは不敵に微笑んだ。
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シド:間違いなくこのルートを通るだろうと……分かっておりました。
:◆グェンは、その両手に装着した鋭い鉤爪(かぎづめ)を掲げて笑い返す。
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グェン:ハッ!裏を取って不意打ちしないなんて、随分紳士的なんだね?
シド:我らエーベルヴァインは、野蛮なレヴァンティンとは違い、卑劣な手法は使いません。
グェン:その甘さを今日後悔するだろうさ。
シド:よほど腕に自信があると見える。……まあ、そうでなければ開戦直後に単独行動などしませんか。
:(間)
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シド:(ゆっくりと)……別人に変装し戦場を奔走……潜入し潜伏し隙をつく……騎士道の風上にも置けぬ卑怯者……。
シド:貴方のような者は、冥府は常闇(とこやみ)に落ちるのでしょうね。
グェン:言ってろ。あんたも同じ穴の狢(むじな)だろ。その剣で、ここに来るまでに何人殺(や)って来た?
シド:さあ。数えてはおりませんよ。狼臭い連中は端(はし)から斬りました。……それともあれは、貴方が私達に付けておいた小バエだったのでしょうか?
グェン:(舌打ち)生き物に例えるのがお好きなようで。
グェン:……にしても奇遇だな。俺も道すがら、鹿を何匹も切り刻んできた所だ。
シド:……ほう?
グェン:今の素の俺を見て、グェンだと気付いたのは流石だよ。ほんっと恐れ入る。……でもな。
:(間)
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グェン:俺の素顔を見た奴は、もう生きては帰れない。
シド:……(できるなら拍手)ふ、ふははは……!いやはや格好いい、実に格好いい!
:◆シドは、自身が最も敬愛するシャルロット女王の紋様が刻まれた鞘から、サーベルを抜き出しグェンに構えた。
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シド:下民を懲らしめるには過ぎた剣ですが……これで貴方の「素顔」とやらを、ぐちゃぐちゃに歪ませてあげましょう。
グェン:為政者(いせいしゃ)が、下々の者を舐めんな、よっ!
:◆グェンがシドに飛び掛かる。シドは、その鉤爪をサーベルで弾き返す。(以下、暫く激しい鍔迫(つばぜ)り合いが続く)
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シド:っく……!そんな鉤爪(かぎづめ)では私に届きませんよ!
グェン:はっ!そもそも軍師様がッ、わざわざこんな所に出てきていいのかよ!
シド:指揮官たる軍師がッ、戦場に出るのはおかしいか!
グェン:あぁ、おかしいねぇ!貴族様なら貴族様らしく……椅子にふんぞり返ってチェスでもしてなッ!
シド:ふん……ッ!
:◆グェンが懐から取り出した数本の小型ナイフを素早く投擲(とうてき)する……と、シドはそれを難なくサーベルで弾き返した。
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グェン:ひゅ〜う。弾くか。やるねえ!
シド:……ハハッ。つまりレヴァンティンの指揮官はそのように無能ということだな!我が国では、前線で敵を討つ気概(きがい)のある者こそ、軍を統率する資格を持ち得る!
グェン:指示厨が出しゃばんなって言ってんのがわっかんねえかなあ!?てめぇの軍の兵士を信じないで、何が指揮官だ!
シド:信じているとも!だからこそ今、私はここにいるのだから!
グェン:あぁそうかよ……兵士ほっぽり出してまで、俺と遊びたかっただなんてありがたいねえッ!それにしては!さっきから後ろに下がるだけで、卑劣なカメレオン様に押されてるけどなあっ!
シド:押すしか能のない野卑(やひ)が、調子に乗らないでください……!
グェン:ほらほら!どこまで下がるんですかねえ!背中にゃもう国境の壁だぜ!もしかして万事休すってやつかい!?
グェン:おりゃあぁ!
シド:…………んぐッ!
:◆グェンの鉤爪が、シドの右肩の表面を抉る。
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グェン:お〜?どうした軍師様。肩で受けてくれるなんてサービス良いねえ。さては油断したかい?俺ごときの考えなんかぜーんぶ分かんだろ?
シド:(小声で)くっ、予想よりも動きが早い……!……しかし。
シド:(笑って)……データは十分取れた。
グェン:あ?
シド:……いやいやなるほど。品がないだけでなく手癖も悪い……。貴方はガリウス王の右腕……その下等かつ姑息な技の数々は、あの粗暴な獣に倣(なら)ったのでしょうか?
グェン:お褒めにあずかりどーも。ほら。まだまだ行くぜえぇ!
シド:褒めてませんよ蛮族がぁ!ハァッ!
:◆勢いよく振り下ろされた剣に鉤爪を引っ掛け、グェンは軽々とシドを飛び越えて後ろを取った。
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グェン:っと……!
グェン:ふ、はは、あははははは!ほんっと……イキって負けるなんて、可哀想だね軍師様ぁ!
グェン:あんたの攻略はもう出来てる。あんたが次の一手を読むよりも早く、俺の鉤爪(かぎづめ)をお前に届かせりゃそれで良い!
シド:体術では私の上を行くから勝てる、と?
シド:……ふ、ふふ、ふはははは!
グェン:……?なんだ……?
:◆グェンに背を負けたまま、シドが高笑いをする。
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シド:……なんと単純で浅はか、明快に愚か!戦争は、個人戦ではないのですよ!
シド:……さて、そろそろだトカゲくん。3、2、1……、
グェン:何を言って……うわっ!?
:◆突如グェンの後ろで爆発したかのような大きな音が響き、国境の壁が倒壊した。粉砕した壁の破片が二人に降り注ぐ。……やがて土煙が落ち着き、視界が開けるとそこには……、
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グェン:……なんだ今のは……って……、
キリエル:リーファス!?
パトリシア:シドシド!?
シド:やあ、アンダンテ嬢。
グェン:巫女さんと……パトリシアちゃん!?
パトリシア:パトリシア「ちゃん」……?
グェン:(誤魔化すように)あーーーいや!そ、そんなことより!巫女さん達は一体全体なんだってここに……、
キリエル:それがだな、この小娘が……!
パトリシア:このおばさんがねえ……!
グェン:うぇ?は?どういうことだ……!?
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シド:フッ。全ては私の計算通り。ここで二人が合流することは……「決まって」いたのです。
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:◆時刻は少し巻き戻り、グェンとシドが戦いを始めた頃……。
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パトリシア:おおー!盛り上がってる盛り上がってる〜!
パトリシア:しっかしあれだねー?優先順位上仕方ないとは言え、末端兵の寄せ集めじゃ、こっちの領土まで押し切られて大ピンチ!ってとこかにゃ?
モブ:……戦場に、少女……!?君、駄目だよこんなところにきちゃ……、
:◆瞬間、パトリシアを取り巻いていた空気が一変する。
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パトリシア:あぁん?少女?少女がなんだって?……殴られてーのかてめーら。
モブ:…………ヒッ!
パトリシア:あーあ。それにしても……。
パトリシア:第一軍が軌道に乗らなきゃ、私は持ち場を離れられないんだからさあ。君達には、もうすこーし頑張ってもらいたかったなあ……まあでも。
パトリシア:良かったね。私が来たからには、君達はもう絶対に死なないんだもん。
モブ:…………へ?
パトリシア:……全ては、あの日のシャルロット様に報いる為に。私が私である為に!……烈爛刃衝閃(れつらんがしょうせん)!
:◆パトリシアが横薙ぎにその大剣を振るうと、その衝撃波が敵国レヴァンティンの一小隊を吹き飛ばした。
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モブ:あ、あれだけの数を一振りで……!?ありえない……君は一体……!
パトリシア:私はパトリシア・アンダンテ。末端の兵士とは言え、自国の近衛(このえ)隊長様の顔くらい覚えときなさい。
モブ:……こ、近衛隊長様……!?
パトリシア:あんまり舐めてるとぉ、噛み付いちゃうよ?ほら。ガオーってさ?
モブ:(恐怖で言葉が出ない)ぁ、あぁあ……!
パトリシア:……なぁんてね。
パトリシア:……見た目で判断しちゃダメだよーモブ兵士さん。君達の小隊が三倍になってかかってきたところで、私に傷一つ付けられないんだか……ん?
パトリシア:……(匂いを嗅いで何か気付く)あーらら。どうやらお客さんみたい。
パトリシア:死にたくなかったら、あっち行っててくんないかな?巻き込んでミンチにしちゃいそうだから。
モブ:は、はひ……!
:◆兵士たちが慌てて走り去っていく。それを見送るや否や、パトリシアの背後に、美しい装飾の大鎌を持った、一人の女が立っていた。
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パトリシア:(鼻をつまんで)……素敵な香水ね。鼻が曲がりそう。んで?おばさん、誰?
キリエル:おやおやまあまあ。なんと粗雑な。……それになんと汗くさい。
キリエル:……お主が西国の近衛(このえ)隊長、パトリシア・アンダンテか。
パトリシア:そうだけど?なに?
キリエル:(鼻で笑って)女らしさの欠片もないただのちんちくりんではないか。
キリエル:……リーファス。彼奴(あやつ)、謀(はか)ったな。
パトリシア:よく分かんないけど……まあでも敵、だよね。その大鎌……噂の天眼(てんがん)の巫女さんだったら嬉しいんだけどなあ。
キリエル:他にこの美しい得物(えもの)を扱える者はおらんだろうよ。
パトリシア:……ふぅん。私がパトリシアだって分かってて殺気を隠さないってことは……その天眼では見えてるのかな?貴女が勝つ未来が。
キリエル:見るまでもないさ。お主に、この私が遅れを取るものか。
キリエル:……さ、幼子(おさなご)をいたぶる趣味はないが……敵なら仕方ない。ここで、儚くも死に行くお主に名誉をやろう。我が主(しゅ)たる女神への、供物となる名誉を……!
パトリシア:ほんっとどいつもこいつも……見た目で判断しないでよ、ね……ッ!
キリエル:……ッ!
:◆パトリシアの大剣の一撃を、キリエルがその大鎌で抑える。
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パトリシア:へ〜!おばさんの癖になかなかやるじゃんっ!
キリエル:小娘がッ!格の違いを教えてやろう……!
:(以下、大剣と大鎌による激しい戦闘)
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キリエル:こんな子供に戦わせるとは!エーベルヴァインはよほど人手に困っていると見える……!
パトリシア:あららら〜?嫉妬ですかあ?見た目が若くってごめんねおばさん!
キリエル:ハハッ、確かになッ!神の供物にするにはお粗末過ぎる体躯(たいく)だ!その少ない胸の膨らみには、色気の色の字もない!
パトリシア:かっちーん!大きければ良いってもんじゃないでしょ〜!?そもそもなーに?その下品なお肉!戦いの邪魔になるし、だるーんと垂れてかっこわるぅーい!
キリエル:なっ……!
パトリシア:何よ、文句ある?お・ば・さ・ん!
キリエル:キリエル:(わなわなと震えながら)〜〜〜ッ!若さ故の過ち……そう、誰にしもあるものだ、誰にしも……!だが!礼儀を知らぬ女子(おみなご)は、目上の者が躾けてやらねばなあ……!?
パトリシア:やれるものなら!
キリエル:くっ、我が大鎌で、塵となるが良い……!
パトリシア:老体に鞭打たない方がいいんじゃないかなぁ?だってほら、さっきからちょっと攻撃遅くな〜い?
キリエル:(小声で)くっ……天眼の先読みが遅れる……!何だこの人間離れした速さは……!仕方ない……範囲を小娘に集中さ(せて)……、
パトリシア:あぁーーーっ!ガリウス皇帝だ!
キリエル:……陛下!?
パトリシア:な〜んてね、っと……!
キリエル:…………ぁ。
:◆瞬間、パトリシアの大剣が、不意を取られたキリエルの大鎌を弾き飛ばした。キリエルの手元には、鎌に繋がった鎖だけが虚しく残る。
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パトリシア:……ぷっ、あは、あはははは……!こんな嘘に騙されて武器吹っ飛ばされることってある?巫女様マジやばくない!?っていうか、天眼持ちで未来が読めるって嘘だったのかなあ?詐欺はやめなよおばさ〜ん。
キリエル:……おのれ、なんと卑怯な……!
パトリシア:戦場で、卑怯もヴルストの皮もないもんね〜!べろべろばぁー!
:(間)
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キリエル:あぁ……小さい小さい小さい小さい……!身体だけではない!そのプライド、生き様すらちっぽけだ……!
:◆苛立ちに震えていたキリエルがバッと視線を上げる。その金色の瞳は、パァッと光を放つ。
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キリエル:(長く息を吐く)……仕方ない。お主の下品なやり方に合わせてやろう……!
パトリシア:……ん?さっきと空気が変わった……?
:◆キリエルは、大鎌に付いた鎖を右手に巻きつけ、ヒールの爪先を軸をしてぐるんと回転した。
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キリエル:その血で死花(しにばな)を咲かせてやろう。Sterben BlutBlume(シュトルベン・ブルトブルム)……!
パトリシア:…………ッ、やっっっば……!
:◆キリエルはその動きのまま鎖を振るう。すると、鎖の先のキラリと光る強靭な刃が、パトリシアの顔面を襲いかかる。
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キリエル:(小声で)……あぁ大丈夫。読めているとも。
パトリシア:んん……っ!
:◆ガキィン。キリエルの予見通り、パトリシアは大剣を盾にして見事防いで見せた。
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キリエル:(小声で)そう。この技でも、小娘は剣で真正面から防ぐ。ならば……!
パトリシア:っは〜〜〜、あっぶな〜!
キリエル:これはどうか、な……ッ!
パトリシア:……あぐ……ッ!
:◆キリエルは鎖を思い切り引く。すると、大剣に弾かれた鎌が再びパトリシアを襲う。
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キリエル:んっふふ。これぞBlüht zurück(ブルート・ゾルック)……返り咲き。
パトリシア:……趣味悪いなあ、ほんと……!
キリエル:お望み通り、お主の動きを読んでやろう。お主は一度の攻撃は抑えられても……連続ではそうはいかぬ……!そら、そらそらそら……!
パトリシア:……ッ!……んん!……ハァッ!
:◆キリエルは鎖を自在に操り、連続でパトリシアに鎌の雨を降らせる。全方位どこから来るか分からない攻撃を、パトリシアはギリギリの所で打ち返していく。
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キリエル:なんだなんだ!受けるだけが精一杯か!ククク。愚鈍な貴様に教えてやろう!右右左の順だ!ほら、ほらほら……!
パトリシア:うっ……ぐっ、……んん!
キリエル:教えてやったのに反撃できぬか?ふふっ、哀れよのう!
キリエル:……あぁ、いや失敬。それも私の……予見通りだっ!
パトリシア:…………あっ!
キリエル:……ングッ……!?……また予見か……?……ん?これは……次の一手か……?
:◆鎌の切っ先に触れてしまったパトリシアの髪飾りが千切れ、彼女の右のお団子がハラリ、と崩れた。と同時に、キリエルの頭にズキン、と痛みが走る。
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パトリシア:……シャルロット様に貰った……お気に入りの髪飾りが……。
キリエル:(ハッとして)まずい……!
パトリシア:〜〜〜ッ、何して……くれてんのよおッ!
キリエル:おいおい、正気か……?
:◆その小柄な細腕から放たれたとは到底思えない重い一撃が、キリエルへと振りかかる。
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パトリシア:はぁあああああああ……ッ!
キリエル:……ッ!
:◆轟音。キリエルは転がる形でそれを避けた。間髪の差で自身に当たるかもしれなかったその一撃は、恐ろしいことに国境の壁を倒壊させていた。
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キリエル:(息切れ)……こ、国境の壁を一撃で……?
グェン:……なんだ今のは……って……、
キリエル:リーファス!?
パトリシア:シドシド!?
シド:やあ、アンダンテ嬢。
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キリエル:(ため息)……それで土煙が引いたら、お主たちがおったという訳だ。
グェン:……あー、んでなんだ……?
グェン:つまりあんたは、ここで巫女さん達が合流するのを「計算してた」ってのか……?
シド:そうだな。「計算していた」というよりも、「そうなるように仕向けた」と言うのが正しいか……。
シド:私には貴様を倒す「必要がなかった」。討ち合いながら、ここまで貴様を誘導すれば……私たちの勝ちだ。
パトリシア:あれれ〜?でもシドシド、ちょーほーいんさんと戦いたいってあんなに言ってたじゃん?なんでわざわざ合流?
シド:私はデータが欲しかっただけだ。ま、予想以上のものはほとんど手に入らなかったがな。
シド:……それに。彼のように筋力でゴリ押すような方とやり合うのは疲れるんですよ。脳が筋肉で出来ている者同士、貴女と相性が良いのではと思いましてね。
パトリシア:んんん〜?それどういう意味かなあ?
シド:そのままの意味ですよ、お馬鹿さん。
:(間)
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キリエル:……随分舐められたものだな……リーファスはともかく、天眼を持つ私がいてお主たちが勝てると……?
シド:ええ。勝てますとも。
シド:……貴女の天眼には弱点がありますからね。
:(間)
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キリエル:何……?
シド:貴女は確かに神の祝福を受けており、未来を先読む、素晴らしい力を持つのでしょう。
シド:ですが……グェン・リーファスやアンダンテ嬢のように、直感的に技を繰り出す相手と戦う時、貴女は天眼の範囲を絞らなければ、先読みが追いつかない……違いますか?
キリエル:…………ッ!
グェン:そうか、だからさっきも、俺たちがすぐそこまで来ていることに気付かなかったのか……!
シド:そうです。そしてそれは、貴女がアンダンテ嬢の、次の手を読むことだけに集中していたからに他ならない。
パトリシア:なぁるほど……!シドシドあったま良い〜!
シド:今まで、私の計算が大きく狂ったことはただの一度しかありません。……しかし。
シド:……それが、異能の力相手ではどうでしょう?神に愛されたその瞳と渡り合えるのか?生身の私がそれと対峙した時、一体どこまで追いつき、どうやって凌ぎ、そしてどのように超越するのか……私は知りたい。
シド:私は貴女の……全力と戦いたい!
:(間)
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キリエル:……端(はな)から私を超えるつもりなのが片腹痛い……が、良いだろう。
シド:恐れ入ります。
キリエル:……そうだ。戦う前に一つ予言をしてやろうか。天眼ではなく、一人の巫女としての、私からの貴重な予言だ。
シド:何です?
キリエル:……私こそが、お主が計算する最後の敵となるであろう。
シド:フッ。それこそ……片腹痛いですねえ……ッ!
キリエル:ハッ!
:◆二人は同時に地面から足を離した。空中で、二人の武器が交差する(以下、サーベルと大鎌の熾烈な打ち合いとなる)。
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シド:そうだ!一つお聞きしたかったのです!貴女の天眼では、既にガリウス皇帝の勝利が見えているのでしょうか!
キリエル:「聡明な」お主なら分かっておるだろう!……盤面はっ……最後の最後まで「確定しない」ということを!
シド:ふふ。ええ、だからこそ!この戦争には足掻くだけの価値がある!
キリエル:その通り……!
キリエル:私の予見は確実だ!
シド:私の計算もまた然り!
キリエル:だが!それはその予見を受けた、その「時点での」確実な未来であったというだけ!
シド:蝶の小さな羽ばたきが、世界の果てで竜巻となる可能性があるように!
キリエル:先の予見であればあるほど、現実に差異が出る確率が上がる!
シド:だから……私の計算に確実などない!
キリエル:私の予見もまた然り!
シド:望む未来を手にする為に、最善の一手を打ち続ける!
キリエル:読みを「事実」にする為に、それを脅かす不穏分子は切り捨てる!
シド:ふはは!正にカオス理論ですねえ!
シド:終わりなどない!安息などない!
キリエル:そう!つまりは、有界(ゆうかい)な非周期軌道に過ぎない!
シド:誤差は修正!
キリエル:針路(しんろ)は補正!
シド:それも全て……、
キリエル:頭(こうべ)を垂れた、あの人の為……ふんッ!
シド:っく…………!
:◆言うが早いか、キリエルは大鎌の鎖を投げ、シドのサーベルに巻き付きつける。
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キリエル:おやおや、計算の限界か?私にはこの先も読めるぞ。お主の(次の行動は)……、
パトリシア:(被せて)ほいっ!がっしゃん!
キリエル:んな……!
:◆横からパトリシアが現れ、大剣でキリエルの鎖を一刀両断した。
:
パトリシア:ふぅ〜。
キリエル:わ、私の鎖が……!
パトリシア:はいシドシド、貸し一ね〜!
シド:……ぐ。余計なことを。しかし……(不本意そうに)ありがとう、ござい、ます……。
パトリシア:どーいたしましてっ。
パトリシア:それにしても。ふーむ?どうやら今度は、シドシドに範囲調整してた感じかな〜。私が横から来るの、そのおめめで見えなかった〜?
キリエル:(舌打ち)本当に腹の立つ小娘め……!
パトリシア:ふふーん。ありーがと!……ってうわあ!
:◆横入りしたパトリシアの更に横から、今度はグェンの小刀が割り入ってくる。
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グェン:おいおい、折角の戦いを邪魔すんなよパトリシアちゃん。
パトリシア:あっぶないなあもう……ってか、色々と突っ込みたいことがあるんだけど……。
パトリシア:グェン・リーファスってあんたのこと?
グェン:んん〜。まあ、そうなるかなあ。
パトリシア:ってことは……あんたが東国のちょーほーいん?
グェン:あー、んー……(息を吸って、誤魔化そうかどうしようか暫く考える)。
パトリシア:……沈黙はイエス、だよね。……なるほど、だからか。
グェン:あ?
パトリシア:その鍛えられた筋肉のつき方……どこかで見たことあると思ったんだ。あんた、あの時の商人ね?
グェン:……あれー?意外と察しが良いんだね。
パトリシア:この前は奢ってもらっちゃったから……今ここで、借りをしっかり返してあげる。
グェン:いや〜、別に返さなくても良いんだけど……。
パトリシア:私、そういうのきちんとしないと気持ち悪いの。
グェン:あ、はは……そう。……まあ、言っても俺も、君とは戦ってみたかったんだよねえ……。
キリエル:待てリーファス!その小娘は私の獲物だ!
グェン:欲張んなよ巫女さん。あんたの今のお相手は、そっちのお堅い軍師さんだろ?
キリエル:しかしその女子(おみなご)は、私の鎖を……!
グェン:あーはいはい、ちゃんと仇は取ってやるって。安心してくれよ、な?
キリエル:〜〜〜っ。……分かった。
グェン:お。今日はやけに素直。
キリエル:うるさい!……何も私は、お前の腕を買っていない訳ではない。
グェン:おっとっと?珍しいデレ。
キリエル:うるさいうるさいうるさい!
キリエル:兎に角だ!陛下に顔向けできない戦いはするな!鎖のお礼もたんとしてやれ!分かったな!
グェン:……ふっ。あいよ。
:(間)
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グェン:っつー訳で。我が国の「女神」と謳われる巫女さんにここまで言われちゃ、俺も全力を出すしかない訳で……。
グェン:良いかな?
パトリシア:ふふ。もぉっちろん……!
シド:いやはや……水を差されてしまいましたね。
キリエル:問題ない。すぐに熱くなるさ。
シド:そう……ですねッ!
:◆四人がそれぞれ同時に武器を相手に振り下ろす。
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シド:(同時に)はぁ……ッ!
キリエル:(同時に)ふん……ッ!
グェン:(同時に)どりゃあ……ッ!
パトリシア:(同時に)えい……ッ!
:
:
パトリシア:よっと……!うっわ〜分っかりやす〜!そんな捻りのないラインで、よく今まで勝ってこれたね……!
グェン:「攻めの一手に対抗するなら、更に激しい攻めの一手一択だ」って教えでね……!
パトリシア:はは!あんた達レヴァンティンの戦法はいっっっつもおんなじ!行け押せ進めのゴリ押し一択!退屈なのよ!飽き飽きしちゃう!
グェン:つれないなあ!芯の通った男より、ブレブレの方がお好みかい?
パトリシア:少なくとも……あんたじゃ物足りないわね……!
グェン:あっは!それはそれは!じゃあ俺の名誉にかけて、満足させてみせるよパトリシア「ちゃん」!
パトリシア:ちゃんって呼ばないで!
グェン:っへへ、悪い悪い!
パトリシア:……口だけじゃなく、ちゃんと本気で楽しませてよ……ねぇッ!
グェン:おっと……?
:◆グェンの頬に、ピッと赤い線が走る。
:
パトリシア:あっれどうしたのかなあ?
パトリシア:……あー!いつも隠れてばかりばっかだから、身体が鈍っちゃったとか!?
:(間)
:
グェン:(頬の血を指で拭って)あ〜……ごめんな。君の可愛らしい見た目についつい油断してたみたいだ。……甘く見れる相手じゃないってのにね。
パトリシア:……そうそう、見たかったのはその顔だよ。「ソレ」なら、まともに殺り合えそう……!
グェン:失礼したお詫びに、誠意を見せるよ、パトリシア「ちゃん」。
パトリシア:……!ぶっ殺す……!
グェン:ははっ!そうそう!見たかったのはその顔だよ!
パトリシア:クソがぁ!
:
:
キリエル:……お主は何十何百……あらゆるパターンを計算し尽くし、確率の高い幾つかのルートを全て把握することができる。
シド:ええそうです。たった一つの未来しか予見できない貴方とは根本的に違う!
キリエル:……いや違うな!違う違う違う。間違っているぞ!お主のそれは……弱点だ。
:(間)
:
シド:……なんですって?
キリエル:お主は確率の高い数パターンまでは絞れても、その時点で「どれが一番可能性の高い未来」かを、断定することはできない。
シド:……目星をつけることはできます。
キリエル:それは予想の範疇を出ない。
シド:それは……、
キリエル:しかし私は違う。一番現実になる確率の高い……そして一番容易く起こりうる未来を「断定」できる!
シド:……断定……一つに決めつけたところでどうとなる訳でもないでしょう。
キリエル:どうかな。一つに絞るということはそれだけ無駄を省けるということ!そして今一番近い「未来」は、そう……!
:◆キリエルの瞳が再び輝き出し、頭に鈍痛が走る。
:
キリエル:……んんッ……!……この未来は……まさかそんな……!
シド:ん?キリエル嬢の反応が……?
シド:(考え込んで)計算上、今の戦況はどの辺りだ?……兵は……、
キリエル:そうか、その手があったか……!
シド:どちらに軍配が上がるか、ギリギリまで分からぬ泥沼の戦況……。「陛下」ならどうする……?
シド:(何かに気付いて)…………まさか!
:◆キリエルとシドは、二人同時に、やれやれと言った様子で武器を下ろす。長い間。
:
キリエル:……あ〜〜〜ッ!やっておれぬ!やめだ、やめ!
シド:(息を吸って深いため息)……ええ、そうですね。
キリエル:なんだ、お主も分かったか。
シド:一気に闘う気力が失せました。
キリエル:私もだ。戦略上仕方ないとは言え、珍しく陛下の掌で踊らされたようだ。
シド:貴女も私もただの駒であることに違いはない、ということですかね。……相談してくれなかったことには、後で文句を言ってしまいそうです。
キリエル:(笑って)おやなんだ。もしや、「寂しい」のか?
シド:そう、ですね……。フッ。ええ、そうです。あの方はいつも、こうして一人で背負ってしまわれますから……。
キリエル:お前……。
:
:
パトリシア:んん〜?あっれ。シドシド達どうしたんだ、ろ!
:◆パトリシアとグェンは、シド達を横目に見ながら戦闘を続けている。互いに素早い動きで、技の数々を繰り出し応酬して行く。
:
グェン:どうせクソめんどくせえ心理戦でもしてるんだろうさ……!それよりも……!
パトリシア:わわわわ!
グェン:こっちに集中しないと怪我するぜ?
パトリシア:っと……!あーら親切ね!
グェン:張り合いないとつまんねえからな!
パトリシア:あんたなんかよそ見しててもちょちょいのちょいよ!
グェン:ははーん?俺は目を瞑っててもいけるがなぁ!
パトリシア:ふぅん、じゃあ……これはどう……!?
グェン:そう来るか、なら……!
パトリシア:あはは!それは思いつかなかった!でもこっちは……?
グェン:それはこう、返す……!そんでぇ……!
パトリシア:おっとと!なぁるほど!それなら……!
グェン:ガッキーン!防げちゃうんだなあ。
パトリシア:あはっ、やるぅ!
グェン:んでもって……そこだ!
パトリシア:はいドーーーン!へへっ、その手は食わないもんね!
グェン:くそ!やるねえ!
:(間)
:
パトリシア:……あ〜あ。
グェン:あぁ、なんだこりゃ。こんなの……!
グェン:(同時に)おもしれえに決まってる!
パトリシア:(同時に)面白いに決まってる!
:
:
シド:(ため息)全く、アンダンテ嬢ときたら……あれはもう遊んでいますね。
キリエル:リーファスもだ。彼奴(あやつ)ら、どうやら気質が似ているようだな。
シド:ええ……私たちと同じですねえ。
キリエル:……お主と一緒にされたくはないな。
シド:おや手厳しい。
キリエル:……しかしお主……戦況の全てを読めているのか?……互いの王の性格も。
シド:……ええ。「だから」、戦うのをやめたでしょう。
キリエル:(ため息)リースァスたちはどうする?止めるか?
シド:いえ。止めたら止めたでうるさそうです。放っておきましょう。
:(間)
:
キリエル:……まさか、アレを使うとは……。
シド:そうですね……(ため息)お優しい陛下らしい。……むしろ、今までその線を計算しなかった自分に驚いております。
キリエル:Norden Eirik endkampf(ノルデンエイリーク・エンカムス)……もはや埃を被って錆び付いているような伝統だ。私も先程予見を授かるまでは、考えもしなかった。
シド:しかし、となると我が君もそちらの王も、かなり前から準備していたのでしょうし……。
キリエル:ふ。神の祝福と、絶対的計算能力が敗北した訳だな。
シド:お恥ずかしい限りです。
キリエル:それにしては晴れやかな顔をしておる。
シド:ええ。流石は我が君。いつだって私の上を行く。敗北は二度目です。惚れ直しました。
キリエル:……なるほど。
キリエル:……我が陛下もそうだ。思考を巡らす必要もない。計算など論外。……直感的に、自身の求める一手への活路を、一人で見出してしまわれる。
シド:(笑って)おや。寂しいのですか?
キリエル:(笑って)……そう、なのかもな。
:
:
グェン:さあ!そろそろ決めようぜ……!
パトリシア:いいね!じゃあ私も、とおっておきのを出してあげる!
グェン:そりゃあ楽しみだ……!
パトリシア:……!わあ、すっごい殺気……。
パトリシア:まだまだ色々隠してそうねえ、あんた……!
グェン:はは。変幻自在のカメレオンなもんでね……!
パトリシア:あぁそう……!
グェン:暗殺術極意……疾風螺旋脚(しっぷう・らせんきゃく)……!
パトリシア:うっひゃ〜こっわい名前、ひびっちゃう!……んじゃあ、行くわよ……!
:
グェン:(同時に)うぉおおおおおおおお……お、っと……?
パトリシア:(同時に)はぁあああああああ……あ、あれ?
:◆しかし振り下ろす前に、辺り一帯に高らかな鐘の音が響き渡った。
:
シド:(同時に)これは……!
グェン:(同時に)何だ…………!?
パトリシア:(同時に)へ……?
キリエル:(同時に)来た……!
:
パトリシア:……鐘の、音……?
グェン:は、はは……。しかも、両サイドから同時に、ときた……。
:(間)
:
シド:ふ……ふふ……予想通りとは言え、まさか同時に鐘がなるとは……。本当に……、
キリエル:あぁ。本当に、「気が合う」な。我らが王たちは。
シド:おやおや、それは聞き捨てなりませんね。
キリエル:皮肉に決まってるだろう。本当に気が合ってたまるものか。
パトリシア:これって……もしかしなくてももしかして……?
グェン:あぁ、こりゃ一旦俺らは停戦だ。もう少し遊びたかったってのに……。
キリエル:…………さあ、始まるぞ……!
シド:ええ。大陸式最終決闘……Norden Eirik endkampf(ノルデンエイリーク・エンカムス)……!
:
:
:
:
:【台本終了】
:
:
:
:
キリエル:(ナレーション)ノルデンエイリーク……五十四もの国がひしめき合うこの大陸で、中央に鎮座したその「二国」だけが、圧倒的に異彩を放っている。東にあるは我らガリウス皇帝が率いるレヴァンティン、西にあるは、唯一の女王、シャルロットが統べしエーベルヴァイン。周りの国々は、既に全て、対立するこの二強のどちらかに屈し……今まさに大陸統一……東西の因縁に、決着がつこうとしていた。
:
:
:
:
:(場面転換)
:◆グェンは二国が川越しに睨み合う中、ガリウス率いる第一軍から離れ、敵国エーベルヴァイン側に潜ませていた視察軍と、合流を図ろうとしていた。
:
グェン:うっひょ〜!大砲どっかんどっかん撃ち合っちゃってまあ……お互い予想通りの幕開けってか?
グェン:それにしても……あっれ、おっかしいな……そろそろ視察軍と合流しても良い頃合いなんだが……あいつらに限ってヘマはしてないと思うけど……もっと奥に隠れてんのか?
:◆グェンは気配を感じ、バッと後ろを振り返る。
:
グェン:おっとぉ……?
シド:ん〜?(グェンのジャンパーに刺繍されたカメレオンを見て)おや、こんな所に煩(わずら)わしいトカゲが……。
:(間)
:
グェン:(小声で)俺が、後ろを取られた……?
グェン:(シドに向かって)……カメレオンだよ!目ぇ腐ってんのか。
シド:いやはや済みません。見間違えてしまったようです。……言いたくはないのですが、仕立て屋の質がお悪いのではないですかね。
グェン:あぁ、お貴族様は派手好きでいらっしゃいますからねえ。宝石だの金糸(きんし)だの?下々の者から搾り取った税金で仕立てる服は、さぞかし着心地が良いでしょうねえ。
シド:流石レヴァンティンの民草(たみくさ)には、品や知性というものがまるでない。
シド:……ああ。王があのような獣なら当然でしょうか。
シド:(少しトーンを低くして)……なあ?レヴァンティンの犬よ。
グェン:……トカゲなのか犬なのかハッキリして欲しいなあ……。
シド:おやおや。ゆっくり話すのはお嫌いですか?
グェン:そうだな、回りくどいのは勘弁だ。
シド:ならばハッキリ言いましょう。
シド:私は貴方を探してここに来た……グェン・リーファス。
グェン:……ハッ、誰だそりゃ。人違いだぜ。
シド:ハハハッ。後ろを取られたからとは言って、そうイラつかないでくださいよ。
グェン:……………は?
シド:貴方の動きは全て、そう。面白いくらいに予想通りだ。
シド:……貴方は諜報員です。それも凄腕の。ならばそのちんけなプライドにかけて、誰よりも早く戦況を把握したがる筈……とあらば?
:◆シドは不敵に微笑んだ。
:
シド:間違いなくこのルートを通るだろうと……分かっておりました。
:◆グェンは、その両手に装着した鋭い鉤爪(かぎづめ)を掲げて笑い返す。
:
グェン:ハッ!裏を取って不意打ちしないなんて、随分紳士的なんだね?
シド:我らエーベルヴァインは、野蛮なレヴァンティンとは違い、卑劣な手法は使いません。
グェン:その甘さを今日後悔するだろうさ。
シド:よほど腕に自信があると見える。……まあ、そうでなければ開戦直後に単独行動などしませんか。
:(間)
:
シド:(ゆっくりと)……別人に変装し戦場を奔走……潜入し潜伏し隙をつく……騎士道の風上にも置けぬ卑怯者……。
シド:貴方のような者は、冥府は常闇(とこやみ)に落ちるのでしょうね。
グェン:言ってろ。あんたも同じ穴の狢(むじな)だろ。その剣で、ここに来るまでに何人殺(や)って来た?
シド:さあ。数えてはおりませんよ。狼臭い連中は端(はし)から斬りました。……それともあれは、貴方が私達に付けておいた小バエだったのでしょうか?
グェン:(舌打ち)生き物に例えるのがお好きなようで。
グェン:……にしても奇遇だな。俺も道すがら、鹿を何匹も切り刻んできた所だ。
シド:……ほう?
グェン:今の素の俺を見て、グェンだと気付いたのは流石だよ。ほんっと恐れ入る。……でもな。
:(間)
:
グェン:俺の素顔を見た奴は、もう生きては帰れない。
シド:……(できるなら拍手)ふ、ふははは……!いやはや格好いい、実に格好いい!
:◆シドは、自身が最も敬愛するシャルロット女王の紋様が刻まれた鞘から、サーベルを抜き出しグェンに構えた。
:
シド:下民を懲らしめるには過ぎた剣ですが……これで貴方の「素顔」とやらを、ぐちゃぐちゃに歪ませてあげましょう。
グェン:為政者(いせいしゃ)が、下々の者を舐めんな、よっ!
:◆グェンがシドに飛び掛かる。シドは、その鉤爪をサーベルで弾き返す。(以下、暫く激しい鍔迫(つばぜ)り合いが続く)
:
シド:っく……!そんな鉤爪(かぎづめ)では私に届きませんよ!
グェン:はっ!そもそも軍師様がッ、わざわざこんな所に出てきていいのかよ!
シド:指揮官たる軍師がッ、戦場に出るのはおかしいか!
グェン:あぁ、おかしいねぇ!貴族様なら貴族様らしく……椅子にふんぞり返ってチェスでもしてなッ!
シド:ふん……ッ!
:◆グェンが懐から取り出した数本の小型ナイフを素早く投擲(とうてき)する……と、シドはそれを難なくサーベルで弾き返した。
:
グェン:ひゅ〜う。弾くか。やるねえ!
シド:……ハハッ。つまりレヴァンティンの指揮官はそのように無能ということだな!我が国では、前線で敵を討つ気概(きがい)のある者こそ、軍を統率する資格を持ち得る!
グェン:指示厨が出しゃばんなって言ってんのがわっかんねえかなあ!?てめぇの軍の兵士を信じないで、何が指揮官だ!
シド:信じているとも!だからこそ今、私はここにいるのだから!
グェン:あぁそうかよ……兵士ほっぽり出してまで、俺と遊びたかっただなんてありがたいねえッ!それにしては!さっきから後ろに下がるだけで、卑劣なカメレオン様に押されてるけどなあっ!
シド:押すしか能のない野卑(やひ)が、調子に乗らないでください……!
グェン:ほらほら!どこまで下がるんですかねえ!背中にゃもう国境の壁だぜ!もしかして万事休すってやつかい!?
グェン:おりゃあぁ!
シド:…………んぐッ!
:◆グェンの鉤爪が、シドの右肩の表面を抉る。
:
グェン:お〜?どうした軍師様。肩で受けてくれるなんてサービス良いねえ。さては油断したかい?俺ごときの考えなんかぜーんぶ分かんだろ?
シド:(小声で)くっ、予想よりも動きが早い……!……しかし。
シド:(笑って)……データは十分取れた。
グェン:あ?
シド:……いやいやなるほど。品がないだけでなく手癖も悪い……。貴方はガリウス王の右腕……その下等かつ姑息な技の数々は、あの粗暴な獣に倣(なら)ったのでしょうか?
グェン:お褒めにあずかりどーも。ほら。まだまだ行くぜえぇ!
シド:褒めてませんよ蛮族がぁ!ハァッ!
:◆勢いよく振り下ろされた剣に鉤爪を引っ掛け、グェンは軽々とシドを飛び越えて後ろを取った。
:
グェン:っと……!
グェン:ふ、はは、あははははは!ほんっと……イキって負けるなんて、可哀想だね軍師様ぁ!
グェン:あんたの攻略はもう出来てる。あんたが次の一手を読むよりも早く、俺の鉤爪(かぎづめ)をお前に届かせりゃそれで良い!
シド:体術では私の上を行くから勝てる、と?
シド:……ふ、ふふ、ふはははは!
グェン:……?なんだ……?
:◆グェンに背を負けたまま、シドが高笑いをする。
:
シド:……なんと単純で浅はか、明快に愚か!戦争は、個人戦ではないのですよ!
シド:……さて、そろそろだトカゲくん。3、2、1……、
グェン:何を言って……うわっ!?
:◆突如グェンの後ろで爆発したかのような大きな音が響き、国境の壁が倒壊した。粉砕した壁の破片が二人に降り注ぐ。……やがて土煙が落ち着き、視界が開けるとそこには……、
:
グェン:……なんだ今のは……って……、
キリエル:リーファス!?
パトリシア:シドシド!?
シド:やあ、アンダンテ嬢。
グェン:巫女さんと……パトリシアちゃん!?
パトリシア:パトリシア「ちゃん」……?
グェン:(誤魔化すように)あーーーいや!そ、そんなことより!巫女さん達は一体全体なんだってここに……、
キリエル:それがだな、この小娘が……!
パトリシア:このおばさんがねえ……!
グェン:うぇ?は?どういうことだ……!?
:
シド:フッ。全ては私の計算通り。ここで二人が合流することは……「決まって」いたのです。
:
:
:
:◆時刻は少し巻き戻り、グェンとシドが戦いを始めた頃……。
:
パトリシア:おおー!盛り上がってる盛り上がってる〜!
パトリシア:しっかしあれだねー?優先順位上仕方ないとは言え、末端兵の寄せ集めじゃ、こっちの領土まで押し切られて大ピンチ!ってとこかにゃ?
モブ:……戦場に、少女……!?君、駄目だよこんなところにきちゃ……、
:◆瞬間、パトリシアを取り巻いていた空気が一変する。
:
パトリシア:あぁん?少女?少女がなんだって?……殴られてーのかてめーら。
モブ:…………ヒッ!
パトリシア:あーあ。それにしても……。
パトリシア:第一軍が軌道に乗らなきゃ、私は持ち場を離れられないんだからさあ。君達には、もうすこーし頑張ってもらいたかったなあ……まあでも。
パトリシア:良かったね。私が来たからには、君達はもう絶対に死なないんだもん。
モブ:…………へ?
パトリシア:……全ては、あの日のシャルロット様に報いる為に。私が私である為に!……烈爛刃衝閃(れつらんがしょうせん)!
:◆パトリシアが横薙ぎにその大剣を振るうと、その衝撃波が敵国レヴァンティンの一小隊を吹き飛ばした。
:
モブ:あ、あれだけの数を一振りで……!?ありえない……君は一体……!
パトリシア:私はパトリシア・アンダンテ。末端の兵士とは言え、自国の近衛(このえ)隊長様の顔くらい覚えときなさい。
モブ:……こ、近衛隊長様……!?
パトリシア:あんまり舐めてるとぉ、噛み付いちゃうよ?ほら。ガオーってさ?
モブ:(恐怖で言葉が出ない)ぁ、あぁあ……!
パトリシア:……なぁんてね。
パトリシア:……見た目で判断しちゃダメだよーモブ兵士さん。君達の小隊が三倍になってかかってきたところで、私に傷一つ付けられないんだか……ん?
パトリシア:……(匂いを嗅いで何か気付く)あーらら。どうやらお客さんみたい。
パトリシア:死にたくなかったら、あっち行っててくんないかな?巻き込んでミンチにしちゃいそうだから。
モブ:は、はひ……!
:◆兵士たちが慌てて走り去っていく。それを見送るや否や、パトリシアの背後に、美しい装飾の大鎌を持った、一人の女が立っていた。
:
パトリシア:(鼻をつまんで)……素敵な香水ね。鼻が曲がりそう。んで?おばさん、誰?
キリエル:おやおやまあまあ。なんと粗雑な。……それになんと汗くさい。
キリエル:……お主が西国の近衛(このえ)隊長、パトリシア・アンダンテか。
パトリシア:そうだけど?なに?
キリエル:(鼻で笑って)女らしさの欠片もないただのちんちくりんではないか。
キリエル:……リーファス。彼奴(あやつ)、謀(はか)ったな。
パトリシア:よく分かんないけど……まあでも敵、だよね。その大鎌……噂の天眼(てんがん)の巫女さんだったら嬉しいんだけどなあ。
キリエル:他にこの美しい得物(えもの)を扱える者はおらんだろうよ。
パトリシア:……ふぅん。私がパトリシアだって分かってて殺気を隠さないってことは……その天眼では見えてるのかな?貴女が勝つ未来が。
キリエル:見るまでもないさ。お主に、この私が遅れを取るものか。
キリエル:……さ、幼子(おさなご)をいたぶる趣味はないが……敵なら仕方ない。ここで、儚くも死に行くお主に名誉をやろう。我が主(しゅ)たる女神への、供物となる名誉を……!
パトリシア:ほんっとどいつもこいつも……見た目で判断しないでよ、ね……ッ!
キリエル:……ッ!
:◆パトリシアの大剣の一撃を、キリエルがその大鎌で抑える。
:
パトリシア:へ〜!おばさんの癖になかなかやるじゃんっ!
キリエル:小娘がッ!格の違いを教えてやろう……!
:(以下、大剣と大鎌による激しい戦闘)
:
キリエル:こんな子供に戦わせるとは!エーベルヴァインはよほど人手に困っていると見える……!
パトリシア:あららら〜?嫉妬ですかあ?見た目が若くってごめんねおばさん!
キリエル:ハハッ、確かになッ!神の供物にするにはお粗末過ぎる体躯(たいく)だ!その少ない胸の膨らみには、色気の色の字もない!
パトリシア:かっちーん!大きければ良いってもんじゃないでしょ〜!?そもそもなーに?その下品なお肉!戦いの邪魔になるし、だるーんと垂れてかっこわるぅーい!
キリエル:なっ……!
パトリシア:何よ、文句ある?お・ば・さ・ん!
キリエル:キリエル:(わなわなと震えながら)〜〜〜ッ!若さ故の過ち……そう、誰にしもあるものだ、誰にしも……!だが!礼儀を知らぬ女子(おみなご)は、目上の者が躾けてやらねばなあ……!?
パトリシア:やれるものなら!
キリエル:くっ、我が大鎌で、塵となるが良い……!
パトリシア:老体に鞭打たない方がいいんじゃないかなぁ?だってほら、さっきからちょっと攻撃遅くな〜い?
キリエル:(小声で)くっ……天眼の先読みが遅れる……!何だこの人間離れした速さは……!仕方ない……範囲を小娘に集中さ(せて)……、
パトリシア:あぁーーーっ!ガリウス皇帝だ!
キリエル:……陛下!?
パトリシア:な〜んてね、っと……!
キリエル:…………ぁ。
:◆瞬間、パトリシアの大剣が、不意を取られたキリエルの大鎌を弾き飛ばした。キリエルの手元には、鎌に繋がった鎖だけが虚しく残る。
:
パトリシア:……ぷっ、あは、あはははは……!こんな嘘に騙されて武器吹っ飛ばされることってある?巫女様マジやばくない!?っていうか、天眼持ちで未来が読めるって嘘だったのかなあ?詐欺はやめなよおばさ〜ん。
キリエル:……おのれ、なんと卑怯な……!
パトリシア:戦場で、卑怯もヴルストの皮もないもんね〜!べろべろばぁー!
:(間)
:
キリエル:あぁ……小さい小さい小さい小さい……!身体だけではない!そのプライド、生き様すらちっぽけだ……!
:◆苛立ちに震えていたキリエルがバッと視線を上げる。その金色の瞳は、パァッと光を放つ。
:
キリエル:(長く息を吐く)……仕方ない。お主の下品なやり方に合わせてやろう……!
パトリシア:……ん?さっきと空気が変わった……?
:◆キリエルは、大鎌に付いた鎖を右手に巻きつけ、ヒールの爪先を軸をしてぐるんと回転した。
:
キリエル:その血で死花(しにばな)を咲かせてやろう。Sterben BlutBlume(シュトルベン・ブルトブルム)……!
パトリシア:…………ッ、やっっっば……!
:◆キリエルはその動きのまま鎖を振るう。すると、鎖の先のキラリと光る強靭な刃が、パトリシアの顔面を襲いかかる。
:
キリエル:(小声で)……あぁ大丈夫。読めているとも。
パトリシア:んん……っ!
:◆ガキィン。キリエルの予見通り、パトリシアは大剣を盾にして見事防いで見せた。
:
キリエル:(小声で)そう。この技でも、小娘は剣で真正面から防ぐ。ならば……!
パトリシア:っは〜〜〜、あっぶな〜!
キリエル:これはどうか、な……ッ!
パトリシア:……あぐ……ッ!
:◆キリエルは鎖を思い切り引く。すると、大剣に弾かれた鎌が再びパトリシアを襲う。
:
キリエル:んっふふ。これぞBlüht zurück(ブルート・ゾルック)……返り咲き。
パトリシア:……趣味悪いなあ、ほんと……!
キリエル:お望み通り、お主の動きを読んでやろう。お主は一度の攻撃は抑えられても……連続ではそうはいかぬ……!そら、そらそらそら……!
パトリシア:……ッ!……んん!……ハァッ!
:◆キリエルは鎖を自在に操り、連続でパトリシアに鎌の雨を降らせる。全方位どこから来るか分からない攻撃を、パトリシアはギリギリの所で打ち返していく。
:
キリエル:なんだなんだ!受けるだけが精一杯か!ククク。愚鈍な貴様に教えてやろう!右右左の順だ!ほら、ほらほら……!
パトリシア:うっ……ぐっ、……んん!
キリエル:教えてやったのに反撃できぬか?ふふっ、哀れよのう!
キリエル:……あぁ、いや失敬。それも私の……予見通りだっ!
パトリシア:…………あっ!
キリエル:……ングッ……!?……また予見か……?……ん?これは……次の一手か……?
:◆鎌の切っ先に触れてしまったパトリシアの髪飾りが千切れ、彼女の右のお団子がハラリ、と崩れた。と同時に、キリエルの頭にズキン、と痛みが走る。
:
パトリシア:……シャルロット様に貰った……お気に入りの髪飾りが……。
キリエル:(ハッとして)まずい……!
パトリシア:〜〜〜ッ、何して……くれてんのよおッ!
キリエル:おいおい、正気か……?
:◆その小柄な細腕から放たれたとは到底思えない重い一撃が、キリエルへと振りかかる。
:
パトリシア:はぁあああああああ……ッ!
キリエル:……ッ!
:◆轟音。キリエルは転がる形でそれを避けた。間髪の差で自身に当たるかもしれなかったその一撃は、恐ろしいことに国境の壁を倒壊させていた。
:
キリエル:(息切れ)……こ、国境の壁を一撃で……?
グェン:……なんだ今のは……って……、
キリエル:リーファス!?
パトリシア:シドシド!?
シド:やあ、アンダンテ嬢。
:
:
:
:
キリエル:(ため息)……それで土煙が引いたら、お主たちがおったという訳だ。
グェン:……あー、んでなんだ……?
グェン:つまりあんたは、ここで巫女さん達が合流するのを「計算してた」ってのか……?
シド:そうだな。「計算していた」というよりも、「そうなるように仕向けた」と言うのが正しいか……。
シド:私には貴様を倒す「必要がなかった」。討ち合いながら、ここまで貴様を誘導すれば……私たちの勝ちだ。
パトリシア:あれれ〜?でもシドシド、ちょーほーいんさんと戦いたいってあんなに言ってたじゃん?なんでわざわざ合流?
シド:私はデータが欲しかっただけだ。ま、予想以上のものはほとんど手に入らなかったがな。
シド:……それに。彼のように筋力でゴリ押すような方とやり合うのは疲れるんですよ。脳が筋肉で出来ている者同士、貴女と相性が良いのではと思いましてね。
パトリシア:んんん〜?それどういう意味かなあ?
シド:そのままの意味ですよ、お馬鹿さん。
:(間)
:
キリエル:……随分舐められたものだな……リーファスはともかく、天眼を持つ私がいてお主たちが勝てると……?
シド:ええ。勝てますとも。
シド:……貴女の天眼には弱点がありますからね。
:(間)
:
キリエル:何……?
シド:貴女は確かに神の祝福を受けており、未来を先読む、素晴らしい力を持つのでしょう。
シド:ですが……グェン・リーファスやアンダンテ嬢のように、直感的に技を繰り出す相手と戦う時、貴女は天眼の範囲を絞らなければ、先読みが追いつかない……違いますか?
キリエル:…………ッ!
グェン:そうか、だからさっきも、俺たちがすぐそこまで来ていることに気付かなかったのか……!
シド:そうです。そしてそれは、貴女がアンダンテ嬢の、次の手を読むことだけに集中していたからに他ならない。
パトリシア:なぁるほど……!シドシドあったま良い〜!
シド:今まで、私の計算が大きく狂ったことはただの一度しかありません。……しかし。
シド:……それが、異能の力相手ではどうでしょう?神に愛されたその瞳と渡り合えるのか?生身の私がそれと対峙した時、一体どこまで追いつき、どうやって凌ぎ、そしてどのように超越するのか……私は知りたい。
シド:私は貴女の……全力と戦いたい!
:(間)
:
キリエル:……端(はな)から私を超えるつもりなのが片腹痛い……が、良いだろう。
シド:恐れ入ります。
キリエル:……そうだ。戦う前に一つ予言をしてやろうか。天眼ではなく、一人の巫女としての、私からの貴重な予言だ。
シド:何です?
キリエル:……私こそが、お主が計算する最後の敵となるであろう。
シド:フッ。それこそ……片腹痛いですねえ……ッ!
キリエル:ハッ!
:◆二人は同時に地面から足を離した。空中で、二人の武器が交差する(以下、サーベルと大鎌の熾烈な打ち合いとなる)。
:
シド:そうだ!一つお聞きしたかったのです!貴女の天眼では、既にガリウス皇帝の勝利が見えているのでしょうか!
キリエル:「聡明な」お主なら分かっておるだろう!……盤面はっ……最後の最後まで「確定しない」ということを!
シド:ふふ。ええ、だからこそ!この戦争には足掻くだけの価値がある!
キリエル:その通り……!
キリエル:私の予見は確実だ!
シド:私の計算もまた然り!
キリエル:だが!それはその予見を受けた、その「時点での」確実な未来であったというだけ!
シド:蝶の小さな羽ばたきが、世界の果てで竜巻となる可能性があるように!
キリエル:先の予見であればあるほど、現実に差異が出る確率が上がる!
シド:だから……私の計算に確実などない!
キリエル:私の予見もまた然り!
シド:望む未来を手にする為に、最善の一手を打ち続ける!
キリエル:読みを「事実」にする為に、それを脅かす不穏分子は切り捨てる!
シド:ふはは!正にカオス理論ですねえ!
シド:終わりなどない!安息などない!
キリエル:そう!つまりは、有界(ゆうかい)な非周期軌道に過ぎない!
シド:誤差は修正!
キリエル:針路(しんろ)は補正!
シド:それも全て……、
キリエル:頭(こうべ)を垂れた、あの人の為……ふんッ!
シド:っく…………!
:◆言うが早いか、キリエルは大鎌の鎖を投げ、シドのサーベルに巻き付きつける。
:
キリエル:おやおや、計算の限界か?私にはこの先も読めるぞ。お主の(次の行動は)……、
パトリシア:(被せて)ほいっ!がっしゃん!
キリエル:んな……!
:◆横からパトリシアが現れ、大剣でキリエルの鎖を一刀両断した。
:
パトリシア:ふぅ〜。
キリエル:わ、私の鎖が……!
パトリシア:はいシドシド、貸し一ね〜!
シド:……ぐ。余計なことを。しかし……(不本意そうに)ありがとう、ござい、ます……。
パトリシア:どーいたしましてっ。
パトリシア:それにしても。ふーむ?どうやら今度は、シドシドに範囲調整してた感じかな〜。私が横から来るの、そのおめめで見えなかった〜?
キリエル:(舌打ち)本当に腹の立つ小娘め……!
パトリシア:ふふーん。ありーがと!……ってうわあ!
:◆横入りしたパトリシアの更に横から、今度はグェンの小刀が割り入ってくる。
:
グェン:おいおい、折角の戦いを邪魔すんなよパトリシアちゃん。
パトリシア:あっぶないなあもう……ってか、色々と突っ込みたいことがあるんだけど……。
パトリシア:グェン・リーファスってあんたのこと?
グェン:んん〜。まあ、そうなるかなあ。
パトリシア:ってことは……あんたが東国のちょーほーいん?
グェン:あー、んー……(息を吸って、誤魔化そうかどうしようか暫く考える)。
パトリシア:……沈黙はイエス、だよね。……なるほど、だからか。
グェン:あ?
パトリシア:その鍛えられた筋肉のつき方……どこかで見たことあると思ったんだ。あんた、あの時の商人ね?
グェン:……あれー?意外と察しが良いんだね。
パトリシア:この前は奢ってもらっちゃったから……今ここで、借りをしっかり返してあげる。
グェン:いや〜、別に返さなくても良いんだけど……。
パトリシア:私、そういうのきちんとしないと気持ち悪いの。
グェン:あ、はは……そう。……まあ、言っても俺も、君とは戦ってみたかったんだよねえ……。
キリエル:待てリーファス!その小娘は私の獲物だ!
グェン:欲張んなよ巫女さん。あんたの今のお相手は、そっちのお堅い軍師さんだろ?
キリエル:しかしその女子(おみなご)は、私の鎖を……!
グェン:あーはいはい、ちゃんと仇は取ってやるって。安心してくれよ、な?
キリエル:〜〜〜っ。……分かった。
グェン:お。今日はやけに素直。
キリエル:うるさい!……何も私は、お前の腕を買っていない訳ではない。
グェン:おっとっと?珍しいデレ。
キリエル:うるさいうるさいうるさい!
キリエル:兎に角だ!陛下に顔向けできない戦いはするな!鎖のお礼もたんとしてやれ!分かったな!
グェン:……ふっ。あいよ。
:(間)
:
グェン:っつー訳で。我が国の「女神」と謳われる巫女さんにここまで言われちゃ、俺も全力を出すしかない訳で……。
グェン:良いかな?
パトリシア:ふふ。もぉっちろん……!
シド:いやはや……水を差されてしまいましたね。
キリエル:問題ない。すぐに熱くなるさ。
シド:そう……ですねッ!
:◆四人がそれぞれ同時に武器を相手に振り下ろす。
:
シド:(同時に)はぁ……ッ!
キリエル:(同時に)ふん……ッ!
グェン:(同時に)どりゃあ……ッ!
パトリシア:(同時に)えい……ッ!
:
:
パトリシア:よっと……!うっわ〜分っかりやす〜!そんな捻りのないラインで、よく今まで勝ってこれたね……!
グェン:「攻めの一手に対抗するなら、更に激しい攻めの一手一択だ」って教えでね……!
パトリシア:はは!あんた達レヴァンティンの戦法はいっっっつもおんなじ!行け押せ進めのゴリ押し一択!退屈なのよ!飽き飽きしちゃう!
グェン:つれないなあ!芯の通った男より、ブレブレの方がお好みかい?
パトリシア:少なくとも……あんたじゃ物足りないわね……!
グェン:あっは!それはそれは!じゃあ俺の名誉にかけて、満足させてみせるよパトリシア「ちゃん」!
パトリシア:ちゃんって呼ばないで!
グェン:っへへ、悪い悪い!
パトリシア:……口だけじゃなく、ちゃんと本気で楽しませてよ……ねぇッ!
グェン:おっと……?
:◆グェンの頬に、ピッと赤い線が走る。
:
パトリシア:あっれどうしたのかなあ?
パトリシア:……あー!いつも隠れてばかりばっかだから、身体が鈍っちゃったとか!?
:(間)
:
グェン:(頬の血を指で拭って)あ〜……ごめんな。君の可愛らしい見た目についつい油断してたみたいだ。……甘く見れる相手じゃないってのにね。
パトリシア:……そうそう、見たかったのはその顔だよ。「ソレ」なら、まともに殺り合えそう……!
グェン:失礼したお詫びに、誠意を見せるよ、パトリシア「ちゃん」。
パトリシア:……!ぶっ殺す……!
グェン:ははっ!そうそう!見たかったのはその顔だよ!
パトリシア:クソがぁ!
:
:
キリエル:……お主は何十何百……あらゆるパターンを計算し尽くし、確率の高い幾つかのルートを全て把握することができる。
シド:ええそうです。たった一つの未来しか予見できない貴方とは根本的に違う!
キリエル:……いや違うな!違う違う違う。間違っているぞ!お主のそれは……弱点だ。
:(間)
:
シド:……なんですって?
キリエル:お主は確率の高い数パターンまでは絞れても、その時点で「どれが一番可能性の高い未来」かを、断定することはできない。
シド:……目星をつけることはできます。
キリエル:それは予想の範疇を出ない。
シド:それは……、
キリエル:しかし私は違う。一番現実になる確率の高い……そして一番容易く起こりうる未来を「断定」できる!
シド:……断定……一つに決めつけたところでどうとなる訳でもないでしょう。
キリエル:どうかな。一つに絞るということはそれだけ無駄を省けるということ!そして今一番近い「未来」は、そう……!
:◆キリエルの瞳が再び輝き出し、頭に鈍痛が走る。
:
キリエル:……んんッ……!……この未来は……まさかそんな……!
シド:ん?キリエル嬢の反応が……?
シド:(考え込んで)計算上、今の戦況はどの辺りだ?……兵は……、
キリエル:そうか、その手があったか……!
シド:どちらに軍配が上がるか、ギリギリまで分からぬ泥沼の戦況……。「陛下」ならどうする……?
シド:(何かに気付いて)…………まさか!
:◆キリエルとシドは、二人同時に、やれやれと言った様子で武器を下ろす。長い間。
:
キリエル:……あ〜〜〜ッ!やっておれぬ!やめだ、やめ!
シド:(息を吸って深いため息)……ええ、そうですね。
キリエル:なんだ、お主も分かったか。
シド:一気に闘う気力が失せました。
キリエル:私もだ。戦略上仕方ないとは言え、珍しく陛下の掌で踊らされたようだ。
シド:貴女も私もただの駒であることに違いはない、ということですかね。……相談してくれなかったことには、後で文句を言ってしまいそうです。
キリエル:(笑って)おやなんだ。もしや、「寂しい」のか?
シド:そう、ですね……。フッ。ええ、そうです。あの方はいつも、こうして一人で背負ってしまわれますから……。
キリエル:お前……。
:
:
パトリシア:んん〜?あっれ。シドシド達どうしたんだ、ろ!
:◆パトリシアとグェンは、シド達を横目に見ながら戦闘を続けている。互いに素早い動きで、技の数々を繰り出し応酬して行く。
:
グェン:どうせクソめんどくせえ心理戦でもしてるんだろうさ……!それよりも……!
パトリシア:わわわわ!
グェン:こっちに集中しないと怪我するぜ?
パトリシア:っと……!あーら親切ね!
グェン:張り合いないとつまんねえからな!
パトリシア:あんたなんかよそ見しててもちょちょいのちょいよ!
グェン:ははーん?俺は目を瞑っててもいけるがなぁ!
パトリシア:ふぅん、じゃあ……これはどう……!?
グェン:そう来るか、なら……!
パトリシア:あはは!それは思いつかなかった!でもこっちは……?
グェン:それはこう、返す……!そんでぇ……!
パトリシア:おっとと!なぁるほど!それなら……!
グェン:ガッキーン!防げちゃうんだなあ。
パトリシア:あはっ、やるぅ!
グェン:んでもって……そこだ!
パトリシア:はいドーーーン!へへっ、その手は食わないもんね!
グェン:くそ!やるねえ!
:(間)
:
パトリシア:……あ〜あ。
グェン:あぁ、なんだこりゃ。こんなの……!
グェン:(同時に)おもしれえに決まってる!
パトリシア:(同時に)面白いに決まってる!
:
:
シド:(ため息)全く、アンダンテ嬢ときたら……あれはもう遊んでいますね。
キリエル:リーファスもだ。彼奴(あやつ)ら、どうやら気質が似ているようだな。
シド:ええ……私たちと同じですねえ。
キリエル:……お主と一緒にされたくはないな。
シド:おや手厳しい。
キリエル:……しかしお主……戦況の全てを読めているのか?……互いの王の性格も。
シド:……ええ。「だから」、戦うのをやめたでしょう。
キリエル:(ため息)リースァスたちはどうする?止めるか?
シド:いえ。止めたら止めたでうるさそうです。放っておきましょう。
:(間)
:
キリエル:……まさか、アレを使うとは……。
シド:そうですね……(ため息)お優しい陛下らしい。……むしろ、今までその線を計算しなかった自分に驚いております。
キリエル:Norden Eirik endkampf(ノルデンエイリーク・エンカムス)……もはや埃を被って錆び付いているような伝統だ。私も先程予見を授かるまでは、考えもしなかった。
シド:しかし、となると我が君もそちらの王も、かなり前から準備していたのでしょうし……。
キリエル:ふ。神の祝福と、絶対的計算能力が敗北した訳だな。
シド:お恥ずかしい限りです。
キリエル:それにしては晴れやかな顔をしておる。
シド:ええ。流石は我が君。いつだって私の上を行く。敗北は二度目です。惚れ直しました。
キリエル:……なるほど。
キリエル:……我が陛下もそうだ。思考を巡らす必要もない。計算など論外。……直感的に、自身の求める一手への活路を、一人で見出してしまわれる。
シド:(笑って)おや。寂しいのですか?
キリエル:(笑って)……そう、なのかもな。
:
:
グェン:さあ!そろそろ決めようぜ……!
パトリシア:いいね!じゃあ私も、とおっておきのを出してあげる!
グェン:そりゃあ楽しみだ……!
パトリシア:……!わあ、すっごい殺気……。
パトリシア:まだまだ色々隠してそうねえ、あんた……!
グェン:はは。変幻自在のカメレオンなもんでね……!
パトリシア:あぁそう……!
グェン:暗殺術極意……疾風螺旋脚(しっぷう・らせんきゃく)……!
パトリシア:うっひゃ〜こっわい名前、ひびっちゃう!……んじゃあ、行くわよ……!
:
グェン:(同時に)うぉおおおおおおおお……お、っと……?
パトリシア:(同時に)はぁあああああああ……あ、あれ?
:◆しかし振り下ろす前に、辺り一帯に高らかな鐘の音が響き渡った。
:
シド:(同時に)これは……!
グェン:(同時に)何だ…………!?
パトリシア:(同時に)へ……?
キリエル:(同時に)来た……!
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パトリシア:……鐘の、音……?
グェン:は、はは……。しかも、両サイドから同時に、ときた……。
:(間)
:
シド:ふ……ふふ……予想通りとは言え、まさか同時に鐘がなるとは……。本当に……、
キリエル:あぁ。本当に、「気が合う」な。我らが王たちは。
シド:おやおや、それは聞き捨てなりませんね。
キリエル:皮肉に決まってるだろう。本当に気が合ってたまるものか。
パトリシア:これって……もしかしなくてももしかして……?
グェン:あぁ、こりゃ一旦俺らは停戦だ。もう少し遊びたかったってのに……。
キリエル:…………さあ、始まるぞ……!
シド:ええ。大陸式最終決闘……Norden Eirik endkampf(ノルデンエイリーク・エンカムス)……!
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:【台本終了】