台本概要

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タイトル 『歯触りと湿度』
作者名 sazanka  (@sazankasarasara)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 嗜好品と風景。
6月のとある日。殺風景な部屋の片隅。蛍光灯は消したまま。
薄暗い雰囲気の若い男と、金髪の華奢で若い女は、取り留めもなく会話をしている。
―2021年6月21日―

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
金髪の女 65 部屋の主。今年で21歳。勤め先はBAR。
パーマの男 65 客人。今年で22歳。女の同僚。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:嗜好品と風景。 【モノローグ】(金髪の女):関東は今日から梅雨入りです、って。 【モノローグ】(金髪の女):綺麗で、強そうで、可愛くないニュースキャスターのお姉さんは、ビニールみたいに嘘っぽい笑顔で言った。 【モノローグ】(金髪の女):梅雨でも、いつでも。 【モノローグ】(金髪の女):雨は、嫌い。 【モノローグ】(金髪の女):ジクジク、するから。 【モノローグ】(金髪の女):部屋の角のケージの中の、金色のちっちゃい蛇も、 【モノローグ】(金髪の女):鬱陶しいって言ってる。 【モノローグ】(金髪の女):……そういう眼、してた。 0:殺風景な一室。主の女は無機質なベッドに腰掛け、外は、雨。 0:シャワールームの戸が軋み、男が戻る。 パーマの男:シャワー、ごちそうさん……。 金髪の女:ん……。冷房、付ける? パーマの男:あ、や……、 0:バスタオルの緩慢な吸水。湿気。 パーマの男:汗冷えると思うから、乾いてから……。 パーマの男:あ、暑い? 金髪の女:んーん。エアコン、あんまりつけない。 パーマの男:苦手? 金髪の女:そ、だね……。得意じゃナイ。 0:男は卓上に置かれた紙パックから、ストローで一口。 0:烏龍茶。 パーマの男:Tシャツ、ありがと。洗って返す。 金髪の女:イイけど。 金髪の女:……サイズ、丁度じゃん パーマの男:そーね。……デカくね? だいぶ、 金髪の女:ダボっと着るから。ボク。 パーマの男:てかイイな……、このシャツ。プリントの剥げ具合とか、 金髪の女:適当に選んだヤツだけど……。多分、アメリカ製。 パーマの男:アツいわー。 パーマの男:あー、また古着見に行こ……。 金髪の女:「ボギーズ」? パーマの男:あ、うん、とかな……。 パーマの男:言ったっけ? 金髪の女:ヤナから聞いた。 パーマの男:あーー、そっか。 金髪の女:よく行くんだって、ヤナも。 パーマの男:てかアイツ、前働いてたからね。 金髪の女:え、『ボギーズ』で? パーマの男:そー。ソコで初めて会った、んだったと、思う。 金髪の女:へぇ……、 0:窓の外に目をやり。 金髪の女:あんまり……、会う前の話とか、しないかも。 パーマの男:ヤナと? 金髪の女:うん。 パーマの男:お互い? 金髪の女:……、そう、だね。訊かれたら言う、ぐらい。 0:女も、おもむろに同じ紙パックから一口。含む量は僅か。 金髪の女:……烏龍茶マズ。 パーマの男:何茶が好きなん。 金髪の女:ルイボス。 パーマの男:あー。ぽいっスわァ。 0:男も、もう一口。湿った紙のパックがペコ、と凹む。 パーマの男:酸っぱいのキライくないっけ、でも。 金髪の女:柑橘とかがムリなダケ。ルイボスとかは、 パーマの男:イケんだ。 金髪の女:うん。 0:窓の水滴。虚ろな雨音。 0:何とは無しに、二人、眺める。 パーマの男:明日めっちゃ降るらしーなー。 金髪の女:梅雨だからね。 パーマの男:あーー……、 パーマの男:洗濯よ……。 金髪の女:梅雨だからね。 パーマの男:俺ら子供のトキはさー。こんなんじゃなくなかったくナイか、 パーマの男:ん? パーマの男:「なく、無か、ったく」? パーマの男:アレ、 金髪の女:クフ。なかった、カモね。ドバって降るし。最近。 パーマの男:な。ゲリラよ 金髪の女:覚えてない、けどね。あんまり。 金髪の女:子供の時の事、とか。 パーマの男:……、ふーん。 【モノローグ】(金髪の女):嘘。 【モノローグ】(金髪の女):思い出したくない、だけ。 パーマの男:まあでも……、そう、よな。 【モノローグ】(金髪の女):全部がもう。 【モノローグ】(金髪の女):真っ黒に、なっちゃったから。 金髪の女:昨日ってさぁ、 パーマの男:んー? 金髪の女:父の日、だったらしーよ。 パーマの男:……、へー……、 金髪の女:お客さんに、 パーマの男:聞いた? 誰。 金髪の女:摂田(せった)さん。 パーマの男:あーー。 金髪の女:渡した事ある? 何か。 パーマの男:ん、俺? 金髪の女:そ。 パーマの男:あー……。んー、と、 金髪の女:答えづらかったら、 パーマの男:とかでも、ナイけど……。 パーマの男:何つーかあんまし、そーいう環境じゃなかったってか、 金髪の女:「施設育ち」、とか? パーマの男:っ、お……、 0:束の間、静寂。 0:雨音。水滴。 パーマの男:聞いた? オーナー、とかから、 金髪の女:んーん……。そーいうの言わないよね。ミツユさん。 パーマの男:そー、よな。 金髪の女:ごめん、勘。 金髪の女:昔、……、友達に、居た、から。 パーマの男:あー。施設育ち? 金髪の女:だからなんか、空気で。その子は孤児院、だったらしいけど。 パーマの男:へー……。 パーマの男:俺は……、まー、ちょい、ややこしーってか……、 金髪の女:イイよ。そんな、あんまり、 パーマの男:興味ねーべ。 金髪の女:ま……、そ、だね。 0:不規則な雨音。 0:シングルのベッドに腰掛け、女と男は会話を続ける。 パーマの男:あ、でも何か1回……、親代わり的なその、そこの人に、何人かでプレゼント……、 パーマの男:や、アレは父の日じゃ無かったか、 金髪の女:いいよ、別に。何となく訊いたダケ。 パーマの男:うん。 0:雨音に連れて、緩やかに湿度が増す。 金髪の女:あ。グミ……、 パーマの男:ん、買って来た。プリン味のヤツになったけど、 金髪の女:イイ。……ありがと。 0:ビニールの袋から、グミキャンディのパッケージを取り出し、手渡す。 パーマの男:なんかなー、あのバナナのヤツはもう、 金髪の女:無かったでしょ。入れ替わり激しいから、グミって地味に。 パーマの男:酸っぱい系避けるとな。選択肢少ないよな。 金髪の女:イイんだけどね。噛めたら、何でも。 パーマの男:ガムとかはダメなん? 金髪の女:でも、イイけど。すぐ柔らかくなるから。 パーマの男:あー。 0:ポップなパッケージを開け、グミを咀嚼。 0:ケミカルなイエローに八重歯が甘く喰い込む。 金髪の女:ん……。結構良い。歯触り。 パーマの男:硬い系のがイイんだ。 金髪の女:雨の日とか、気圧、変な日とか……、 金髪の女:ジクジク、するから。 パーマの男:じくじく? 金髪の女:歯、とか。 【モノローグ】(金髪の女):心臓、とか。 パーマの男:虫歯? 金髪の女:無いし。 パーマの男:あ、そ。 パーマの男:……あー、でもなんかワカるわ。歯グキ浮く感じってか……、 金髪の女:そういう時……、 金髪の女:噛んで、誤魔化すの。 金髪の女:硬目の、グミとか……、 【モノローグ】(金髪の女):人間の、肌、とか。 パーマの男:……、へえー……。 0:どことなく濁ったガラス窓の外は灰色であり、雨は、降り続いている。 0:どちらからともなく距離は詰まり。 0:投げやりな密着。熱の均一化。 パーマの男:クーラー……、無くて平気? 金髪の女:うん。このままがいい。 0:視線の交差。沈黙。 0:雨。 0:雨。 0:雨が、降っている。 : 0:【間】 : 金髪の女:……、 金髪の女:う、ぁ、……っ、 パーマの男:……、そーいや、 金髪の女:ん……、なに、 パーマの男:送ったコトあるん? 父の日。 金髪の女:…………、……、 【モノローグ】(金髪の女):ある、よ。 金髪の女:無い。 パーマの男:……、そ。 金髪の女:『父親』、っていう名前の。 金髪の女:……『家族』、っていう名前の、 金髪の女:ばけものが、いただけだから。 パーマの男:……、…………、 【モノローグ】(金髪の女):父親の、顔と形をしてる癖に。 【モノローグ】(金髪の女):母親の、声と姿をしてる癖に。 【モノローグ】(金髪の女):こどもに、牙を剥く、汚くて、醜い、ばけものの家。 【モノローグ】(金髪の女):お兄ちゃんの、顔と、声と、眼を、 【モノローグ】(金髪の女):してる、癖に……、 パーマの男:人間て、たまに……、 パーマの男:バケモンに、なるよな。 金髪の女:……、……、 0:雨。 0:水滴。 0:肌の熱。 金髪の女:……さぁ。知らない、ケド。 金髪の女:ボクは……、それが、怖くて。 金髪の女:怖く、なって……、 0:女の腕に力がこもり。囁きは、耳元。 金髪の女:今も、逃げて回ってるの。 金髪の女:カッコ悪く、ね。 パーマの男:…………、 金髪の女:ウクク、ク。 金髪の女:クフフフ、フ……。 0:薄く、細い、出奔者の空虚な笑い。 パーマの男:そっか、 金髪の女:谷町(タニマチ)、 パーマの男:ん? 金髪の女:昨日、肩、噛んで、ごめん。 パーマの男:ん……、や、別に……。 パーマの男:あ、絆創膏貼るの忘れてた、 金髪の女:噛んでイイよ。 パーマの男:っ、え、 金髪の女:仕返しして、イイよ。 金髪の女:見えないトコだったら、ドコでも。 0:昏く、どこか縋るような、眼。 金髪の女:グミみたいに、柔らかいから……、 金髪の女:血が出るかも、しれないけど。 パーマの男:……、…………、 0:汗。 0:湿度。 0:眼の熱。水滴。 パーマの男:……や……、いいわ……。 金髪の女:……、 【モノローグ】(金髪の女):コイツの、顔って。 【モノローグ】(金髪の女):変な顔……。 【モノローグ】(金髪の女):蛇みたいな、読めない眼。 パーマの男:グミより、ハイチュウ派だから。 パーマの男:俺。 金髪の女:…………。 金髪の女:(吹き出し) 金髪の女:ぷっ、 金髪の女:クフ、フ、フフフっ……。 金髪の女:何、ソレぇ。 パーマの男:や、何だろ……。 パーマの男:あ……、クーラー入れる? 金髪の女:フ、フ……。いい、デショ。 金髪の女:どうせもっと汗かくし……。 0:ニヤ、と、三日月の如き笑み。 金髪の女:今日も、噛むから。 金髪の女:きっと。 パーマの男:……、オテヤワラカに。 0:雨は止まず。 0:緩やかに暗転。 0:【終】

0:嗜好品と風景。 【モノローグ】(金髪の女):関東は今日から梅雨入りです、って。 【モノローグ】(金髪の女):綺麗で、強そうで、可愛くないニュースキャスターのお姉さんは、ビニールみたいに嘘っぽい笑顔で言った。 【モノローグ】(金髪の女):梅雨でも、いつでも。 【モノローグ】(金髪の女):雨は、嫌い。 【モノローグ】(金髪の女):ジクジク、するから。 【モノローグ】(金髪の女):部屋の角のケージの中の、金色のちっちゃい蛇も、 【モノローグ】(金髪の女):鬱陶しいって言ってる。 【モノローグ】(金髪の女):……そういう眼、してた。 0:殺風景な一室。主の女は無機質なベッドに腰掛け、外は、雨。 0:シャワールームの戸が軋み、男が戻る。 パーマの男:シャワー、ごちそうさん……。 金髪の女:ん……。冷房、付ける? パーマの男:あ、や……、 0:バスタオルの緩慢な吸水。湿気。 パーマの男:汗冷えると思うから、乾いてから……。 パーマの男:あ、暑い? 金髪の女:んーん。エアコン、あんまりつけない。 パーマの男:苦手? 金髪の女:そ、だね……。得意じゃナイ。 0:男は卓上に置かれた紙パックから、ストローで一口。 0:烏龍茶。 パーマの男:Tシャツ、ありがと。洗って返す。 金髪の女:イイけど。 金髪の女:……サイズ、丁度じゃん パーマの男:そーね。……デカくね? だいぶ、 金髪の女:ダボっと着るから。ボク。 パーマの男:てかイイな……、このシャツ。プリントの剥げ具合とか、 金髪の女:適当に選んだヤツだけど……。多分、アメリカ製。 パーマの男:アツいわー。 パーマの男:あー、また古着見に行こ……。 金髪の女:「ボギーズ」? パーマの男:あ、うん、とかな……。 パーマの男:言ったっけ? 金髪の女:ヤナから聞いた。 パーマの男:あーー、そっか。 金髪の女:よく行くんだって、ヤナも。 パーマの男:てかアイツ、前働いてたからね。 金髪の女:え、『ボギーズ』で? パーマの男:そー。ソコで初めて会った、んだったと、思う。 金髪の女:へぇ……、 0:窓の外に目をやり。 金髪の女:あんまり……、会う前の話とか、しないかも。 パーマの男:ヤナと? 金髪の女:うん。 パーマの男:お互い? 金髪の女:……、そう、だね。訊かれたら言う、ぐらい。 0:女も、おもむろに同じ紙パックから一口。含む量は僅か。 金髪の女:……烏龍茶マズ。 パーマの男:何茶が好きなん。 金髪の女:ルイボス。 パーマの男:あー。ぽいっスわァ。 0:男も、もう一口。湿った紙のパックがペコ、と凹む。 パーマの男:酸っぱいのキライくないっけ、でも。 金髪の女:柑橘とかがムリなダケ。ルイボスとかは、 パーマの男:イケんだ。 金髪の女:うん。 0:窓の水滴。虚ろな雨音。 0:何とは無しに、二人、眺める。 パーマの男:明日めっちゃ降るらしーなー。 金髪の女:梅雨だからね。 パーマの男:あーー……、 パーマの男:洗濯よ……。 金髪の女:梅雨だからね。 パーマの男:俺ら子供のトキはさー。こんなんじゃなくなかったくナイか、 パーマの男:ん? パーマの男:「なく、無か、ったく」? パーマの男:アレ、 金髪の女:クフ。なかった、カモね。ドバって降るし。最近。 パーマの男:な。ゲリラよ 金髪の女:覚えてない、けどね。あんまり。 金髪の女:子供の時の事、とか。 パーマの男:……、ふーん。 【モノローグ】(金髪の女):嘘。 【モノローグ】(金髪の女):思い出したくない、だけ。 パーマの男:まあでも……、そう、よな。 【モノローグ】(金髪の女):全部がもう。 【モノローグ】(金髪の女):真っ黒に、なっちゃったから。 金髪の女:昨日ってさぁ、 パーマの男:んー? 金髪の女:父の日、だったらしーよ。 パーマの男:……、へー……、 金髪の女:お客さんに、 パーマの男:聞いた? 誰。 金髪の女:摂田(せった)さん。 パーマの男:あーー。 金髪の女:渡した事ある? 何か。 パーマの男:ん、俺? 金髪の女:そ。 パーマの男:あー……。んー、と、 金髪の女:答えづらかったら、 パーマの男:とかでも、ナイけど……。 パーマの男:何つーかあんまし、そーいう環境じゃなかったってか、 金髪の女:「施設育ち」、とか? パーマの男:っ、お……、 0:束の間、静寂。 0:雨音。水滴。 パーマの男:聞いた? オーナー、とかから、 金髪の女:んーん……。そーいうの言わないよね。ミツユさん。 パーマの男:そー、よな。 金髪の女:ごめん、勘。 金髪の女:昔、……、友達に、居た、から。 パーマの男:あー。施設育ち? 金髪の女:だからなんか、空気で。その子は孤児院、だったらしいけど。 パーマの男:へー……。 パーマの男:俺は……、まー、ちょい、ややこしーってか……、 金髪の女:イイよ。そんな、あんまり、 パーマの男:興味ねーべ。 金髪の女:ま……、そ、だね。 0:不規則な雨音。 0:シングルのベッドに腰掛け、女と男は会話を続ける。 パーマの男:あ、でも何か1回……、親代わり的なその、そこの人に、何人かでプレゼント……、 パーマの男:や、アレは父の日じゃ無かったか、 金髪の女:いいよ、別に。何となく訊いたダケ。 パーマの男:うん。 0:雨音に連れて、緩やかに湿度が増す。 金髪の女:あ。グミ……、 パーマの男:ん、買って来た。プリン味のヤツになったけど、 金髪の女:イイ。……ありがと。 0:ビニールの袋から、グミキャンディのパッケージを取り出し、手渡す。 パーマの男:なんかなー、あのバナナのヤツはもう、 金髪の女:無かったでしょ。入れ替わり激しいから、グミって地味に。 パーマの男:酸っぱい系避けるとな。選択肢少ないよな。 金髪の女:イイんだけどね。噛めたら、何でも。 パーマの男:ガムとかはダメなん? 金髪の女:でも、イイけど。すぐ柔らかくなるから。 パーマの男:あー。 0:ポップなパッケージを開け、グミを咀嚼。 0:ケミカルなイエローに八重歯が甘く喰い込む。 金髪の女:ん……。結構良い。歯触り。 パーマの男:硬い系のがイイんだ。 金髪の女:雨の日とか、気圧、変な日とか……、 金髪の女:ジクジク、するから。 パーマの男:じくじく? 金髪の女:歯、とか。 【モノローグ】(金髪の女):心臓、とか。 パーマの男:虫歯? 金髪の女:無いし。 パーマの男:あ、そ。 パーマの男:……あー、でもなんかワカるわ。歯グキ浮く感じってか……、 金髪の女:そういう時……、 金髪の女:噛んで、誤魔化すの。 金髪の女:硬目の、グミとか……、 【モノローグ】(金髪の女):人間の、肌、とか。 パーマの男:……、へえー……。 0:どことなく濁ったガラス窓の外は灰色であり、雨は、降り続いている。 0:どちらからともなく距離は詰まり。 0:投げやりな密着。熱の均一化。 パーマの男:クーラー……、無くて平気? 金髪の女:うん。このままがいい。 0:視線の交差。沈黙。 0:雨。 0:雨。 0:雨が、降っている。 : 0:【間】 : 金髪の女:……、 金髪の女:う、ぁ、……っ、 パーマの男:……、そーいや、 金髪の女:ん……、なに、 パーマの男:送ったコトあるん? 父の日。 金髪の女:…………、……、 【モノローグ】(金髪の女):ある、よ。 金髪の女:無い。 パーマの男:……、そ。 金髪の女:『父親』、っていう名前の。 金髪の女:……『家族』、っていう名前の、 金髪の女:ばけものが、いただけだから。 パーマの男:……、…………、 【モノローグ】(金髪の女):父親の、顔と形をしてる癖に。 【モノローグ】(金髪の女):母親の、声と姿をしてる癖に。 【モノローグ】(金髪の女):こどもに、牙を剥く、汚くて、醜い、ばけものの家。 【モノローグ】(金髪の女):お兄ちゃんの、顔と、声と、眼を、 【モノローグ】(金髪の女):してる、癖に……、 パーマの男:人間て、たまに……、 パーマの男:バケモンに、なるよな。 金髪の女:……、……、 0:雨。 0:水滴。 0:肌の熱。 金髪の女:……さぁ。知らない、ケド。 金髪の女:ボクは……、それが、怖くて。 金髪の女:怖く、なって……、 0:女の腕に力がこもり。囁きは、耳元。 金髪の女:今も、逃げて回ってるの。 金髪の女:カッコ悪く、ね。 パーマの男:…………、 金髪の女:ウクク、ク。 金髪の女:クフフフ、フ……。 0:薄く、細い、出奔者の空虚な笑い。 パーマの男:そっか、 金髪の女:谷町(タニマチ)、 パーマの男:ん? 金髪の女:昨日、肩、噛んで、ごめん。 パーマの男:ん……、や、別に……。 パーマの男:あ、絆創膏貼るの忘れてた、 金髪の女:噛んでイイよ。 パーマの男:っ、え、 金髪の女:仕返しして、イイよ。 金髪の女:見えないトコだったら、ドコでも。 0:昏く、どこか縋るような、眼。 金髪の女:グミみたいに、柔らかいから……、 金髪の女:血が出るかも、しれないけど。 パーマの男:……、…………、 0:汗。 0:湿度。 0:眼の熱。水滴。 パーマの男:……や……、いいわ……。 金髪の女:……、 【モノローグ】(金髪の女):コイツの、顔って。 【モノローグ】(金髪の女):変な顔……。 【モノローグ】(金髪の女):蛇みたいな、読めない眼。 パーマの男:グミより、ハイチュウ派だから。 パーマの男:俺。 金髪の女:…………。 金髪の女:(吹き出し) 金髪の女:ぷっ、 金髪の女:クフ、フ、フフフっ……。 金髪の女:何、ソレぇ。 パーマの男:や、何だろ……。 パーマの男:あ……、クーラー入れる? 金髪の女:フ、フ……。いい、デショ。 金髪の女:どうせもっと汗かくし……。 0:ニヤ、と、三日月の如き笑み。 金髪の女:今日も、噛むから。 金髪の女:きっと。 パーマの男:……、オテヤワラカに。 0:雨は止まず。 0:緩やかに暗転。 0:【終】