台本概要
280 views
タイトル | 『歯触りと湿度』 |
---|---|
作者名 | sazanka (@sazankasarasara) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
嗜好品と風景。 6月のとある日。殺風景な部屋の片隅。蛍光灯は消したまま。 薄暗い雰囲気の若い男と、金髪の華奢で若い女は、取り留めもなく会話をしている。 ―2021年6月21日― 280 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
金髪の女 | 女 | 65 | 部屋の主。今年で21歳。勤め先はBAR。 |
パーマの男 | 男 | 65 | 客人。今年で22歳。女の同僚。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:嗜好品と風景。
【モノローグ】(金髪の女):関東は今日から梅雨入りです、って。
【モノローグ】(金髪の女):綺麗で、強そうで、可愛くないニュースキャスターのお姉さんは、ビニールみたいに嘘っぽい笑顔で言った。
【モノローグ】(金髪の女):梅雨でも、いつでも。
【モノローグ】(金髪の女):雨は、嫌い。
【モノローグ】(金髪の女):ジクジク、するから。
【モノローグ】(金髪の女):部屋の角のケージの中の、金色のちっちゃい蛇も、
【モノローグ】(金髪の女):鬱陶しいって言ってる。
【モノローグ】(金髪の女):……そういう眼、してた。
0:殺風景な一室。主の女は無機質なベッドに腰掛け、外は、雨。
0:シャワールームの戸が軋み、男が戻る。
パーマの男:シャワー、ごちそうさん……。
金髪の女:ん……。冷房、付ける?
パーマの男:あ、や……、
0:バスタオルの緩慢な吸水。湿気。
パーマの男:汗冷えると思うから、乾いてから……。
パーマの男:あ、暑い?
金髪の女:んーん。エアコン、あんまりつけない。
パーマの男:苦手?
金髪の女:そ、だね……。得意じゃナイ。
0:男は卓上に置かれた紙パックから、ストローで一口。
0:烏龍茶。
パーマの男:Tシャツ、ありがと。洗って返す。
金髪の女:イイけど。
金髪の女:……サイズ、丁度じゃん
パーマの男:そーね。……デカくね? だいぶ、
金髪の女:ダボっと着るから。ボク。
パーマの男:てかイイな……、このシャツ。プリントの剥げ具合とか、
金髪の女:適当に選んだヤツだけど……。多分、アメリカ製。
パーマの男:アツいわー。
パーマの男:あー、また古着見に行こ……。
金髪の女:「ボギーズ」?
パーマの男:あ、うん、とかな……。
パーマの男:言ったっけ?
金髪の女:ヤナから聞いた。
パーマの男:あーー、そっか。
金髪の女:よく行くんだって、ヤナも。
パーマの男:てかアイツ、前働いてたからね。
金髪の女:え、『ボギーズ』で?
パーマの男:そー。ソコで初めて会った、んだったと、思う。
金髪の女:へぇ……、
0:窓の外に目をやり。
金髪の女:あんまり……、会う前の話とか、しないかも。
パーマの男:ヤナと?
金髪の女:うん。
パーマの男:お互い?
金髪の女:……、そう、だね。訊かれたら言う、ぐらい。
0:女も、おもむろに同じ紙パックから一口。含む量は僅か。
金髪の女:……烏龍茶マズ。
パーマの男:何茶が好きなん。
金髪の女:ルイボス。
パーマの男:あー。ぽいっスわァ。
0:男も、もう一口。湿った紙のパックがペコ、と凹む。
パーマの男:酸っぱいのキライくないっけ、でも。
金髪の女:柑橘とかがムリなダケ。ルイボスとかは、
パーマの男:イケんだ。
金髪の女:うん。
0:窓の水滴。虚ろな雨音。
0:何とは無しに、二人、眺める。
パーマの男:明日めっちゃ降るらしーなー。
金髪の女:梅雨だからね。
パーマの男:あーー……、
パーマの男:洗濯よ……。
金髪の女:梅雨だからね。
パーマの男:俺ら子供のトキはさー。こんなんじゃなくなかったくナイか、
パーマの男:ん?
パーマの男:「なく、無か、ったく」?
パーマの男:アレ、
金髪の女:クフ。なかった、カモね。ドバって降るし。最近。
パーマの男:な。ゲリラよ
金髪の女:覚えてない、けどね。あんまり。
金髪の女:子供の時の事、とか。
パーマの男:……、ふーん。
【モノローグ】(金髪の女):嘘。
【モノローグ】(金髪の女):思い出したくない、だけ。
パーマの男:まあでも……、そう、よな。
【モノローグ】(金髪の女):全部がもう。
【モノローグ】(金髪の女):真っ黒に、なっちゃったから。
金髪の女:昨日ってさぁ、
パーマの男:んー?
金髪の女:父の日、だったらしーよ。
パーマの男:……、へー……、
金髪の女:お客さんに、
パーマの男:聞いた? 誰。
金髪の女:摂田(せった)さん。
パーマの男:あーー。
金髪の女:渡した事ある? 何か。
パーマの男:ん、俺?
金髪の女:そ。
パーマの男:あー……。んー、と、
金髪の女:答えづらかったら、
パーマの男:とかでも、ナイけど……。
パーマの男:何つーかあんまし、そーいう環境じゃなかったってか、
金髪の女:「施設育ち」、とか?
パーマの男:っ、お……、
0:束の間、静寂。
0:雨音。水滴。
パーマの男:聞いた? オーナー、とかから、
金髪の女:んーん……。そーいうの言わないよね。ミツユさん。
パーマの男:そー、よな。
金髪の女:ごめん、勘。
金髪の女:昔、……、友達に、居た、から。
パーマの男:あー。施設育ち?
金髪の女:だからなんか、空気で。その子は孤児院、だったらしいけど。
パーマの男:へー……。
パーマの男:俺は……、まー、ちょい、ややこしーってか……、
金髪の女:イイよ。そんな、あんまり、
パーマの男:興味ねーべ。
金髪の女:ま……、そ、だね。
0:不規則な雨音。
0:シングルのベッドに腰掛け、女と男は会話を続ける。
パーマの男:あ、でも何か1回……、親代わり的なその、そこの人に、何人かでプレゼント……、
パーマの男:や、アレは父の日じゃ無かったか、
金髪の女:いいよ、別に。何となく訊いたダケ。
パーマの男:うん。
0:雨音に連れて、緩やかに湿度が増す。
金髪の女:あ。グミ……、
パーマの男:ん、買って来た。プリン味のヤツになったけど、
金髪の女:イイ。……ありがと。
0:ビニールの袋から、グミキャンディのパッケージを取り出し、手渡す。
パーマの男:なんかなー、あのバナナのヤツはもう、
金髪の女:無かったでしょ。入れ替わり激しいから、グミって地味に。
パーマの男:酸っぱい系避けるとな。選択肢少ないよな。
金髪の女:イイんだけどね。噛めたら、何でも。
パーマの男:ガムとかはダメなん?
金髪の女:でも、イイけど。すぐ柔らかくなるから。
パーマの男:あー。
0:ポップなパッケージを開け、グミを咀嚼。
0:ケミカルなイエローに八重歯が甘く喰い込む。
金髪の女:ん……。結構良い。歯触り。
パーマの男:硬い系のがイイんだ。
金髪の女:雨の日とか、気圧、変な日とか……、
金髪の女:ジクジク、するから。
パーマの男:じくじく?
金髪の女:歯、とか。
【モノローグ】(金髪の女):心臓、とか。
パーマの男:虫歯?
金髪の女:無いし。
パーマの男:あ、そ。
パーマの男:……あー、でもなんかワカるわ。歯グキ浮く感じってか……、
金髪の女:そういう時……、
金髪の女:噛んで、誤魔化すの。
金髪の女:硬目の、グミとか……、
【モノローグ】(金髪の女):人間の、肌、とか。
パーマの男:……、へえー……。
0:どことなく濁ったガラス窓の外は灰色であり、雨は、降り続いている。
0:どちらからともなく距離は詰まり。
0:投げやりな密着。熱の均一化。
パーマの男:クーラー……、無くて平気?
金髪の女:うん。このままがいい。
0:視線の交差。沈黙。
0:雨。
0:雨。
0:雨が、降っている。
:
0:【間】
:
金髪の女:……、
金髪の女:う、ぁ、……っ、
パーマの男:……、そーいや、
金髪の女:ん……、なに、
パーマの男:送ったコトあるん? 父の日。
金髪の女:…………、……、
【モノローグ】(金髪の女):ある、よ。
金髪の女:無い。
パーマの男:……、そ。
金髪の女:『父親』、っていう名前の。
金髪の女:……『家族』、っていう名前の、
金髪の女:ばけものが、いただけだから。
パーマの男:……、…………、
【モノローグ】(金髪の女):父親の、顔と形をしてる癖に。
【モノローグ】(金髪の女):母親の、声と姿をしてる癖に。
【モノローグ】(金髪の女):こどもに、牙を剥く、汚くて、醜い、ばけものの家。
【モノローグ】(金髪の女):お兄ちゃんの、顔と、声と、眼を、
【モノローグ】(金髪の女):してる、癖に……、
パーマの男:人間て、たまに……、
パーマの男:バケモンに、なるよな。
金髪の女:……、……、
0:雨。
0:水滴。
0:肌の熱。
金髪の女:……さぁ。知らない、ケド。
金髪の女:ボクは……、それが、怖くて。
金髪の女:怖く、なって……、
0:女の腕に力がこもり。囁きは、耳元。
金髪の女:今も、逃げて回ってるの。
金髪の女:カッコ悪く、ね。
パーマの男:…………、
金髪の女:ウクク、ク。
金髪の女:クフフフ、フ……。
0:薄く、細い、出奔者の空虚な笑い。
パーマの男:そっか、
金髪の女:谷町(タニマチ)、
パーマの男:ん?
金髪の女:昨日、肩、噛んで、ごめん。
パーマの男:ん……、や、別に……。
パーマの男:あ、絆創膏貼るの忘れてた、
金髪の女:噛んでイイよ。
パーマの男:っ、え、
金髪の女:仕返しして、イイよ。
金髪の女:見えないトコだったら、ドコでも。
0:昏く、どこか縋るような、眼。
金髪の女:グミみたいに、柔らかいから……、
金髪の女:血が出るかも、しれないけど。
パーマの男:……、…………、
0:汗。
0:湿度。
0:眼の熱。水滴。
パーマの男:……や……、いいわ……。
金髪の女:……、
【モノローグ】(金髪の女):コイツの、顔って。
【モノローグ】(金髪の女):変な顔……。
【モノローグ】(金髪の女):蛇みたいな、読めない眼。
パーマの男:グミより、ハイチュウ派だから。
パーマの男:俺。
金髪の女:…………。
金髪の女:(吹き出し)
金髪の女:ぷっ、
金髪の女:クフ、フ、フフフっ……。
金髪の女:何、ソレぇ。
パーマの男:や、何だろ……。
パーマの男:あ……、クーラー入れる?
金髪の女:フ、フ……。いい、デショ。
金髪の女:どうせもっと汗かくし……。
0:ニヤ、と、三日月の如き笑み。
金髪の女:今日も、噛むから。
金髪の女:きっと。
パーマの男:……、オテヤワラカに。
0:雨は止まず。
0:緩やかに暗転。
0:【終】
0:嗜好品と風景。
【モノローグ】(金髪の女):関東は今日から梅雨入りです、って。
【モノローグ】(金髪の女):綺麗で、強そうで、可愛くないニュースキャスターのお姉さんは、ビニールみたいに嘘っぽい笑顔で言った。
【モノローグ】(金髪の女):梅雨でも、いつでも。
【モノローグ】(金髪の女):雨は、嫌い。
【モノローグ】(金髪の女):ジクジク、するから。
【モノローグ】(金髪の女):部屋の角のケージの中の、金色のちっちゃい蛇も、
【モノローグ】(金髪の女):鬱陶しいって言ってる。
【モノローグ】(金髪の女):……そういう眼、してた。
0:殺風景な一室。主の女は無機質なベッドに腰掛け、外は、雨。
0:シャワールームの戸が軋み、男が戻る。
パーマの男:シャワー、ごちそうさん……。
金髪の女:ん……。冷房、付ける?
パーマの男:あ、や……、
0:バスタオルの緩慢な吸水。湿気。
パーマの男:汗冷えると思うから、乾いてから……。
パーマの男:あ、暑い?
金髪の女:んーん。エアコン、あんまりつけない。
パーマの男:苦手?
金髪の女:そ、だね……。得意じゃナイ。
0:男は卓上に置かれた紙パックから、ストローで一口。
0:烏龍茶。
パーマの男:Tシャツ、ありがと。洗って返す。
金髪の女:イイけど。
金髪の女:……サイズ、丁度じゃん
パーマの男:そーね。……デカくね? だいぶ、
金髪の女:ダボっと着るから。ボク。
パーマの男:てかイイな……、このシャツ。プリントの剥げ具合とか、
金髪の女:適当に選んだヤツだけど……。多分、アメリカ製。
パーマの男:アツいわー。
パーマの男:あー、また古着見に行こ……。
金髪の女:「ボギーズ」?
パーマの男:あ、うん、とかな……。
パーマの男:言ったっけ?
金髪の女:ヤナから聞いた。
パーマの男:あーー、そっか。
金髪の女:よく行くんだって、ヤナも。
パーマの男:てかアイツ、前働いてたからね。
金髪の女:え、『ボギーズ』で?
パーマの男:そー。ソコで初めて会った、んだったと、思う。
金髪の女:へぇ……、
0:窓の外に目をやり。
金髪の女:あんまり……、会う前の話とか、しないかも。
パーマの男:ヤナと?
金髪の女:うん。
パーマの男:お互い?
金髪の女:……、そう、だね。訊かれたら言う、ぐらい。
0:女も、おもむろに同じ紙パックから一口。含む量は僅か。
金髪の女:……烏龍茶マズ。
パーマの男:何茶が好きなん。
金髪の女:ルイボス。
パーマの男:あー。ぽいっスわァ。
0:男も、もう一口。湿った紙のパックがペコ、と凹む。
パーマの男:酸っぱいのキライくないっけ、でも。
金髪の女:柑橘とかがムリなダケ。ルイボスとかは、
パーマの男:イケんだ。
金髪の女:うん。
0:窓の水滴。虚ろな雨音。
0:何とは無しに、二人、眺める。
パーマの男:明日めっちゃ降るらしーなー。
金髪の女:梅雨だからね。
パーマの男:あーー……、
パーマの男:洗濯よ……。
金髪の女:梅雨だからね。
パーマの男:俺ら子供のトキはさー。こんなんじゃなくなかったくナイか、
パーマの男:ん?
パーマの男:「なく、無か、ったく」?
パーマの男:アレ、
金髪の女:クフ。なかった、カモね。ドバって降るし。最近。
パーマの男:な。ゲリラよ
金髪の女:覚えてない、けどね。あんまり。
金髪の女:子供の時の事、とか。
パーマの男:……、ふーん。
【モノローグ】(金髪の女):嘘。
【モノローグ】(金髪の女):思い出したくない、だけ。
パーマの男:まあでも……、そう、よな。
【モノローグ】(金髪の女):全部がもう。
【モノローグ】(金髪の女):真っ黒に、なっちゃったから。
金髪の女:昨日ってさぁ、
パーマの男:んー?
金髪の女:父の日、だったらしーよ。
パーマの男:……、へー……、
金髪の女:お客さんに、
パーマの男:聞いた? 誰。
金髪の女:摂田(せった)さん。
パーマの男:あーー。
金髪の女:渡した事ある? 何か。
パーマの男:ん、俺?
金髪の女:そ。
パーマの男:あー……。んー、と、
金髪の女:答えづらかったら、
パーマの男:とかでも、ナイけど……。
パーマの男:何つーかあんまし、そーいう環境じゃなかったってか、
金髪の女:「施設育ち」、とか?
パーマの男:っ、お……、
0:束の間、静寂。
0:雨音。水滴。
パーマの男:聞いた? オーナー、とかから、
金髪の女:んーん……。そーいうの言わないよね。ミツユさん。
パーマの男:そー、よな。
金髪の女:ごめん、勘。
金髪の女:昔、……、友達に、居た、から。
パーマの男:あー。施設育ち?
金髪の女:だからなんか、空気で。その子は孤児院、だったらしいけど。
パーマの男:へー……。
パーマの男:俺は……、まー、ちょい、ややこしーってか……、
金髪の女:イイよ。そんな、あんまり、
パーマの男:興味ねーべ。
金髪の女:ま……、そ、だね。
0:不規則な雨音。
0:シングルのベッドに腰掛け、女と男は会話を続ける。
パーマの男:あ、でも何か1回……、親代わり的なその、そこの人に、何人かでプレゼント……、
パーマの男:や、アレは父の日じゃ無かったか、
金髪の女:いいよ、別に。何となく訊いたダケ。
パーマの男:うん。
0:雨音に連れて、緩やかに湿度が増す。
金髪の女:あ。グミ……、
パーマの男:ん、買って来た。プリン味のヤツになったけど、
金髪の女:イイ。……ありがと。
0:ビニールの袋から、グミキャンディのパッケージを取り出し、手渡す。
パーマの男:なんかなー、あのバナナのヤツはもう、
金髪の女:無かったでしょ。入れ替わり激しいから、グミって地味に。
パーマの男:酸っぱい系避けるとな。選択肢少ないよな。
金髪の女:イイんだけどね。噛めたら、何でも。
パーマの男:ガムとかはダメなん?
金髪の女:でも、イイけど。すぐ柔らかくなるから。
パーマの男:あー。
0:ポップなパッケージを開け、グミを咀嚼。
0:ケミカルなイエローに八重歯が甘く喰い込む。
金髪の女:ん……。結構良い。歯触り。
パーマの男:硬い系のがイイんだ。
金髪の女:雨の日とか、気圧、変な日とか……、
金髪の女:ジクジク、するから。
パーマの男:じくじく?
金髪の女:歯、とか。
【モノローグ】(金髪の女):心臓、とか。
パーマの男:虫歯?
金髪の女:無いし。
パーマの男:あ、そ。
パーマの男:……あー、でもなんかワカるわ。歯グキ浮く感じってか……、
金髪の女:そういう時……、
金髪の女:噛んで、誤魔化すの。
金髪の女:硬目の、グミとか……、
【モノローグ】(金髪の女):人間の、肌、とか。
パーマの男:……、へえー……。
0:どことなく濁ったガラス窓の外は灰色であり、雨は、降り続いている。
0:どちらからともなく距離は詰まり。
0:投げやりな密着。熱の均一化。
パーマの男:クーラー……、無くて平気?
金髪の女:うん。このままがいい。
0:視線の交差。沈黙。
0:雨。
0:雨。
0:雨が、降っている。
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0:【間】
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金髪の女:……、
金髪の女:う、ぁ、……っ、
パーマの男:……、そーいや、
金髪の女:ん……、なに、
パーマの男:送ったコトあるん? 父の日。
金髪の女:…………、……、
【モノローグ】(金髪の女):ある、よ。
金髪の女:無い。
パーマの男:……、そ。
金髪の女:『父親』、っていう名前の。
金髪の女:……『家族』、っていう名前の、
金髪の女:ばけものが、いただけだから。
パーマの男:……、…………、
【モノローグ】(金髪の女):父親の、顔と形をしてる癖に。
【モノローグ】(金髪の女):母親の、声と姿をしてる癖に。
【モノローグ】(金髪の女):こどもに、牙を剥く、汚くて、醜い、ばけものの家。
【モノローグ】(金髪の女):お兄ちゃんの、顔と、声と、眼を、
【モノローグ】(金髪の女):してる、癖に……、
パーマの男:人間て、たまに……、
パーマの男:バケモンに、なるよな。
金髪の女:……、……、
0:雨。
0:水滴。
0:肌の熱。
金髪の女:……さぁ。知らない、ケド。
金髪の女:ボクは……、それが、怖くて。
金髪の女:怖く、なって……、
0:女の腕に力がこもり。囁きは、耳元。
金髪の女:今も、逃げて回ってるの。
金髪の女:カッコ悪く、ね。
パーマの男:…………、
金髪の女:ウクク、ク。
金髪の女:クフフフ、フ……。
0:薄く、細い、出奔者の空虚な笑い。
パーマの男:そっか、
金髪の女:谷町(タニマチ)、
パーマの男:ん?
金髪の女:昨日、肩、噛んで、ごめん。
パーマの男:ん……、や、別に……。
パーマの男:あ、絆創膏貼るの忘れてた、
金髪の女:噛んでイイよ。
パーマの男:っ、え、
金髪の女:仕返しして、イイよ。
金髪の女:見えないトコだったら、ドコでも。
0:昏く、どこか縋るような、眼。
金髪の女:グミみたいに、柔らかいから……、
金髪の女:血が出るかも、しれないけど。
パーマの男:……、…………、
0:汗。
0:湿度。
0:眼の熱。水滴。
パーマの男:……や……、いいわ……。
金髪の女:……、
【モノローグ】(金髪の女):コイツの、顔って。
【モノローグ】(金髪の女):変な顔……。
【モノローグ】(金髪の女):蛇みたいな、読めない眼。
パーマの男:グミより、ハイチュウ派だから。
パーマの男:俺。
金髪の女:…………。
金髪の女:(吹き出し)
金髪の女:ぷっ、
金髪の女:クフ、フ、フフフっ……。
金髪の女:何、ソレぇ。
パーマの男:や、何だろ……。
パーマの男:あ……、クーラー入れる?
金髪の女:フ、フ……。いい、デショ。
金髪の女:どうせもっと汗かくし……。
0:ニヤ、と、三日月の如き笑み。
金髪の女:今日も、噛むから。
金髪の女:きっと。
パーマの男:……、オテヤワラカに。
0:雨は止まず。
0:緩やかに暗転。
0:【終】