台本概要

 488 views 

タイトル 約束は記憶の淵に【東西戦争】
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 (やくそくはきおくのふちに)
戦闘・叫びなし/2人の王の過去

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。
兼ね役OK。1人全役演じ分けもご自由に。

皇帝や女王を兼ねず、別の方に頼んでも構いません。
※この2人が王になり、「最終戦争のその前に」に続きます。

 488 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ガリウス 68 1人3役兼ねてください。 ①ガリウス=ローウォルフ=レヴァンティン:12歳→16歳→25歳。細かいことを考えるのが苦手。25歳の時にレヴァンティンの王位を継ぐ。 ②レヴァンティン皇帝:ガリウスの父。 ③兵士:マクロン。男。エーベルヴァインの近衛兵の一兵。
シャルロット 76 1人2役兼ねてください。 ①シャルロット=ツーディア=エーベルヴァイン:12歳→16歳→25歳。年齢の割に大人びた皇女。のちに皇位継承権を持つ名だたる男たちを蹴落とし、エーベルヴァインの王となる。 ②エーベルヴァインの女王:シャルロットの母。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:◆それはまだ、この大陸で統一戦争が起こる数年前……。とある城で、ノルデンエイリーク中の王家が集まる舞踏会が開かれていた。 0:華やかな会場の中、ガリウスは父の横で、不貞腐れたようなムスッとした表情で立っている。 0:一方シャルロットは、母の横で、既にしっかり、凛とした態度で王家の微笑みを浮かべていた。 皇帝:おや。これはエーベルヴァイン女王陛下。そちらは例の姫君ですかな? 女王:あらまあ、どうもご機嫌よう、レヴァンティン皇帝閣下。 女王:えぇ、本日がデビュタントですの。シャルロット、ご挨拶を。 皇帝:なんと。主たる女神に感謝しなくては。エーベルヴァインの姫君が初めて咲く記念すべき日にご一緒できるとは。 シャルロット:お初にお目にかかります、レヴァンティン皇帝閣下。 シャルロット:エーベルヴァイン王国が皇女、シャルロット・ツーディア・エーベルヴァインでございます。   皇帝:うんうん。ご機嫌よう姫君。そのドレス、とてもよく似合っているよ。 女王:(ハッとして)そうですわ。確か、御子息とシャルロットは同じ年の生まれでしたわね。王子殿下も、もしや本日……? 皇帝:ええ。恥ずかしながら、愚息も本日が初めての社交の場でしてな。……とは言え、舞踏会においては、男などただの添木(そえぎ)。今宵の主役は間違いなくシャルロット皇女でありましょう。 0:(間) 皇帝:……どうです?これもきっと女神の気まぐれなお導き。我が愚息に、姫君の最初のお相手を務めさせていただけないでしょうか。 女王:それは良いですわね。わたくしも、レヴァンティン王子殿下が、娘の初めてのダンスパートナーになってくださるなら嬉しいですわ。ね?シャルロット。 ガリウス:……なっ!?(信じられない!という顔で父を見上げる) シャルロット:ええ、光栄ですわ。わたくしで宜しければ、是非。 0:◆シャルロットは、相変わらず貼り付けたように美しい微笑みを浮かべている。それを見て、ガリウスは隠れて小さく舌打ちをした。 ガリウス:(舌打ち)。 女王:ではシャルロット。人生で一度しかないデビュタントを、どうか楽しんで。 皇帝:……ほれ、はよせんかガリウス。 女王:あらあら。恥ずかしいのかしら?ふふふ。 ガリウス:(しぶしぶ)……えっと、シャルロット、嬢。お、俺……あーわたくしに?貴女と最初に踊る栄誉を、いただけないでしょう、か……。 シャルロット:ガリウス殿下。喜んで。 0:◆いざ、2人のダンスが始まった。ダンスの下手なガリウスは、シャルロットの顔も見ずにステップに集中して尚、示し合わせたかのように彼女の足を踏み続けていた。それは、到底ダンスとは言えないような、珍妙な動きであった。 ガリウス:おっと……。 シャルロット:……ん。 ガリウス:うお……! シャルロット:……っつ(痛いとは言わない)。 ガリウス:(小声でイライラと)あ?なんだこりゃしゃらくせえな……! シャルロット:ふふ。大丈夫ですわ殿下。ゆっくり踊りましょう。 ガリウス:……シャルロット、だったか。……てめぇ、いい加減その気持ちわりぃニコニコ顔をやめて、本性出しやがれ。 シャルロット:(目を見開いて)……! 0:(間)   シャルロット:(先程までとは違う子供らしい笑顔で、楽しそうに)っふ、ふふ、あはははは!お前、ダンスは下手なくせに鋭いんだな!見抜かれたのは初めてだ。 ガリウス:ダンスは関係ないだろ……。 シャルロット:(まだ笑いながら)いやはや、こんな酷いダンスは初めてだ。あぁ、おかしい……! ガリウス:うるせえ。こういうちまちました動きは苦手なんだよ。 シャルロット:王になるならば、こういう教養も必要だぞ。 ガリウス:踊りで天下が取れるかよ。 シャルロット:おや。さては殿下は、人に馬鹿にされるのがお好きなのかな? ガリウス:あ?んな訳ねえだろ。 シャルロット:王は完璧で無ければ足元を掬われる。ダンス一つ取ってもそうだ。隙は、無いにこしたことはない。 ガリウス:…………。 シャルロット:ゆっくりでいい。一歩下がる。そのまま横に一歩流れて、置いてきた足をピタリと揃える。とりあえずはこの繰り返しでいい。 ガリウス:…………(舌打ち)。こうかよ。 シャルロット:そうだ。先程よりマシになった。 ガリウス:フンッ。女はいいよな、こうして笑って音楽に乗れりゃ、それだけで評価が上がるんだから。なあ、シャルロット嬢? シャルロット:……シャーリーでいい。それと…… シャルロット:(不敵に笑って)口の利き方には気を付けろ。今の不躾(ぶしつけ)な発言、ここが闘技場なら剣を抜いている。喧嘩を売る相手は選ぶんだな? ガリウス:……!……へえ。お前、剣を? シャルロット:あぁ。お前の腕は相当だと聞く。いつかこんなドレス姿ではなく、ちゃんとした服を着て手合わせ願いたいものだ。 ガリウス:はっ。ならそん時ぁ、とっておきの軍服でダンスのお誘いに上がってやんよ、シャーリー。 シャルロット:……! シャルロット:ふっ。それはそれは……。楽しみにしているよ、ガリウス。 0:ー場面転換ー 0:◆4年後。少し成長した2人が、再び舞踏会で踊っている。ガリウスは以前と違い、足元を見なくても、ステップを踏めるようになっていた。 シャルロット:ふふ。 ガリウス:……んだよ。 シャルロット:以前よりダンスの腕前が上達してる。 ガリウス:まあ……恥はかきたくないだろ。 シャルロット:ほう、流石は未来の王だ。どこのご令嬢と練習したんだ?シュトレイヒ王国か?それともフィオニアの姫君か? ガリウス:馬鹿を言え。俺のパートナーはお前だろ。 シャルロット:……おや。ダンスだけでなく、女の扱い方まで学んだか? ガリウス:おまっ……!くそ可愛くねえなあ。お前が恥をかきたくないだろうと思って俺は……!……ぁ。 0:(間)   シャルロット:……もしかしてガリウスお前……パートナーの私が恥をかかぬように、ダンスを練習したっていうのか……? 0:(間)   シャルロット:……く、ふふ……ふふふ……! ガリウス:な、なんだよ! シャルロット:(笑いながら)お前は。本当にまっすぐで素直な奴だなまったく……! ガリウス:うるせえよ。……おい、いつまで笑ってやがる……! ガリウス:(ため息)全く呑気なもんだぜ。今日のパーティーは、どいつもこいつも殺気立ってピリピリしてるってのに。 シャルロット:だからこそだ。お前の前でくらい気を抜いたって良いだろう? ガリウス:……ったく。 ガリウス:……それにしても。やはり来てないな。 シャルロット:……ヘルヘイムの王族か? ガリウス:あぁ。最近不穏な動きが目立つ。武器の買い占めに、保存食の輸出停止。そこに来てこれだ。 シャルロット:大陸全土の王族が集まる社交場への不参加……。 ガリウス:もう殆ど宣戦布告と同義だ。父上と、お前のお母君を見ろ。 ガリウス:あぁして和やかに話しているように見えて、その実、互いの腹の探り合いだ。 ガリウス:今はまだ大陸全土で休戦中とは言え、一体いつ、どんなきっかけで開戦するか分からねえからな。 ガリウス:今で言えば、ヘルヘイムが今後一歩でも動いたら……こうした舞踏会が開かれることはなくなるだろうよ。 シャルロット:…………。 ガリウス:……ま。踊らなくて良くなるのはありがたいな。 シャルロット:しかしそうすると、私たちも会えなくなる。 ガリウス:……ッ、 シャルロット:何処の国でも、大陸を統一するのは自国だと信じてやまない。そして私たちが同盟を結ぶ可能性は……、 ガリウス:ほぼ0だな。両国には長年の因縁があるし、それに……、 シャルロット:玉座が2つ、なんて納得できる訳がない、か? ガリウス:あぁ、父上はそう言うだろう。 シャルロット:……母上もだ。 ガリウス:…………。 シャルロット:でももし……、 ガリウス:あ? シャルロット:でももし私が王になれば……お前と同盟を結べるだろうか? ガリウス:何言って……、 シャルロット:レヴァンティンでは第一皇子が跡を継ぐ。それがお前だ、ガリウス。対してエーベルヴァインでは、継承権を持つ者たちの間で内々に継承戦争が行われる。それに私が勝てば……! ガリウス:無理だ。 シャルロット:私には王になる器がないと……? ガリウス:違う! 0:(間)   ガリウス:違う……お前は王になるに相応しい女だ。だが無理だ。 ガリウス:ヘルヘイムを皮切りに戦争が起こるとしたら、現在書面上で同盟国であるレヴァンティンは、エーベルヴァインの敵に回る。 ガリウス:もちろん、統一の為には、いずれレヴァンティンとヘルヘイムが対峙する時もあるだろう。……しかし。 シャルロット:私たちは、戦うしかないと……? ガリウス:…………それ以上はやめろ、シャーリー。今は。 シャルロット:…………すまない。 シャルロット:(深く息を吸って)それにしても……勉強してるんだな、お前がこうも頭を回せるとは。 ガリウス:……おっしゃる通り、頭を使うのは苦手だけどよ。最低限はやってるぜ。……王になるんだからな。 シャルロット:あぁ。お前は……お前は良い王になる。 0:ー場面転換ー 0:◆数ヶ月後。エーベルヴァイン城に現れたガリウスは、新品の軍服に身を包んでいた。 シャルロット:……なんだ、その格好は。 ガリウス:ようやく士官学校を卒業したからな。入隊テストも、一般枠からちゃんと受けた。 ガリウス:誰にも文句は言わせねえ。これは正真正銘、俺の力で勝ち取ったレヴァンティンの軍服だ。 ガリウス:どうだ。……似合うか? シャルロット:……馬子にも衣装ってやつだな。まともな服のおかげで中身も少しはまともに見えるぞ。 ガリウス:お前ってやつは……素直に祝えないのか? シャルロット:……すまない。おめでとう、ガリウス。 ガリウス:ふっ。あぁ。 シャルロット:……で?今日はわざわざそれを見せに? ガリウス:あぁいや。ダンスの誘いに、な。 シャルロット:なんだ?こんな時期にまた舞踏会か?一体何処の阿呆な国が……、 ガリウス:(被せて)ちげーよ。ダンスはダンスでも今日はこっちだ。ほらよっ。 0:(ガリウスがシャルロットに練習用の木刀を放り投げる)   シャルロット:っと。……!これは、模擬刀……? 0:(シャルロットがその意味を理解する前に、ガリウスが恭しくシャルロットにかしづく) ガリウス:シャルロット皇女殿下。どうかわたくしめと、一曲踊っていただけないでしょうか? シャルロット:ガリウス……。 ガリウス:(ニヤリと笑って)約束、してたろ?一戦手合わせ願うぜ、皇女殿下様。 シャルロット:(嬉しそうに)お前という奴は……。ん?誰か来るな。 ガリウス:げ。女王様なら面倒だ。俺は隠れてるぜ。 シャルロット:(今度は呆れて)お前という奴は……。 0:(ガリウスが木陰に隠れ終えた瞬間に、慌てた様子の兵士がシャルロットに駆け寄ってくる) 兵士:(息切れして)皇女殿下……! シャルロット:どうしたマクロン。 兵士:……陛下が!陛下が撃たれました……! シャルロット:何……!?その痴(し)れ者は今どこにいる! 兵士:心配ございません。既に身柄を捕らえております! シャルロット:何処の者だ! 兵士:それが……、 シャルロット:はっきり言え! 兵士:……ヘルヘイムの者だ、と……! シャルロット:何……? 兵士:すぐに軍会議が開かれます……! シャルロット:ぐん、かいぎ……。 兵士:とうとうヘルヘイムが動き出したのです!戦争です!戦争が始まるのです……! シャルロット:…………! 兵士:皇女殿下も、すぐにご準備を! 0:(兵士が走り去ると、ガリウスが隠れていた木陰から顔を出す) ガリウス:……シャーリー。 シャルロット:……逃げろ。 ガリウス:は? シャルロット:早く逃げろ。お前がここにいては話が拗(こじ)れる。きっとただでは済まない……! ガリウス:だが……、 シャルロット:戦争が始まる!……そうしたら。そうしたら私たちは敵同士だ。 ガリウス:…………(何か言いたそうにするが言葉にならない)。 シャルロット:早く! ガリウス:く……ッ! 0:(ガリウスがその場を去ろうとする……が、それに堪えきれずに、シャルロットがガリウスを呼び止める) シャルロット:ガリウス……! 0:(シャルロットの声に、ガリウスが足を止める) シャルロット:……してくれ! 0:(間) シャルロット:約束してくれ!エーベルヴァインを倒すなら、お前が倒すと! ガリウス:……! 0:(ガリウスがシャルロットをバッと振り返る) ガリウス:なら!ならもしレヴァンティンが堕ちることになるならば、お前が! シャルロット:…………! ガリウス:お前が殺せ!俺を、その手で! 0:(間) シャルロット:……分かった。 シャルロット:私は、王の座を勝ち取る。お前以外には決してやられはしない。 シャルロット:いや……お前にさえも、負けはしない……! ガリウス:……あぁそうだ。そうでなければ張り合いがねえ。お前は全力で、俺に向かって来い。 シャルロット:……お前は、わた……。(言葉を飲み込んで)お前は、ノルデンエイリークを愛しているか? ガリウス:あぁ、愛してる。 シャルロット:……修羅の道だな。 ガリウス:そうだな。 シャルロット:大陸を全統治する為に、自国の民が何人も犠牲になる。 ガリウス:あぁ。だが……例えば王となったお前が、同じく王となった俺をただ討つだけでは、民は納得しない。……悲しいことにな。 シャルロット:民を納得させる為に、民を犠牲にして戦うと……? ガリウス:あぁ、すげえ矛盾だよな。だが、世界はそれだけややこしい。 シャルロット:……戦争が、泰平への近道か。 ガリウス:……あぁ。最強が決まれば、後は皆そいつに従うだけだ。 シャルロット:……ふっ。……王としての業は深いな。 ガリウス:それでもてめえは勝ち取るだろ?ノルデンエイリークの為に。他の候補者を蹴落とし、女王の座を。 シャルロット:……あぁ。 ガリウス:……軍服でのダンスは仕切り直しだ。次会う時は……戦場になるだろう。 シャルロット:……互いを討つために。 ガリウス:互いを殺すために。 0:(間) シャルロット:さようなら、友よ。 ガリウス:ああ。 ガリウス:俺がその息の根を止めるまでは……生きろよ、シャーリー。 0:◆ガリウスが急いでその場を立ち去る。去りゆくガリウスの後ろ姿を、シャルロットは断腸の思いで見つめていた。 シャルロット:(M)引き分けも協定も同盟もない。ならば……ならば私が。 ガリウス:(M)そうだ……ならば俺が。 シャルロット:(M)玉座を勝ち取って、そして……。 ガリウス:(M)王の位を継いで、そして……。 シャルロット:(M)全てを終わらせてやろう、「ガリウス皇帝」。 ガリウス:(M)全てから……解放してやる。 0:(間) ガリウス:てめぇを殺すのは、俺だ。 ガリウス:「シャルロット女王陛下」。

0:◆それはまだ、この大陸で統一戦争が起こる数年前……。とある城で、ノルデンエイリーク中の王家が集まる舞踏会が開かれていた。 0:華やかな会場の中、ガリウスは父の横で、不貞腐れたようなムスッとした表情で立っている。 0:一方シャルロットは、母の横で、既にしっかり、凛とした態度で王家の微笑みを浮かべていた。 皇帝:おや。これはエーベルヴァイン女王陛下。そちらは例の姫君ですかな? 女王:あらまあ、どうもご機嫌よう、レヴァンティン皇帝閣下。 女王:えぇ、本日がデビュタントですの。シャルロット、ご挨拶を。 皇帝:なんと。主たる女神に感謝しなくては。エーベルヴァインの姫君が初めて咲く記念すべき日にご一緒できるとは。 シャルロット:お初にお目にかかります、レヴァンティン皇帝閣下。 シャルロット:エーベルヴァイン王国が皇女、シャルロット・ツーディア・エーベルヴァインでございます。   皇帝:うんうん。ご機嫌よう姫君。そのドレス、とてもよく似合っているよ。 女王:(ハッとして)そうですわ。確か、御子息とシャルロットは同じ年の生まれでしたわね。王子殿下も、もしや本日……? 皇帝:ええ。恥ずかしながら、愚息も本日が初めての社交の場でしてな。……とは言え、舞踏会においては、男などただの添木(そえぎ)。今宵の主役は間違いなくシャルロット皇女でありましょう。 0:(間) 皇帝:……どうです?これもきっと女神の気まぐれなお導き。我が愚息に、姫君の最初のお相手を務めさせていただけないでしょうか。 女王:それは良いですわね。わたくしも、レヴァンティン王子殿下が、娘の初めてのダンスパートナーになってくださるなら嬉しいですわ。ね?シャルロット。 ガリウス:……なっ!?(信じられない!という顔で父を見上げる) シャルロット:ええ、光栄ですわ。わたくしで宜しければ、是非。 0:◆シャルロットは、相変わらず貼り付けたように美しい微笑みを浮かべている。それを見て、ガリウスは隠れて小さく舌打ちをした。 ガリウス:(舌打ち)。 女王:ではシャルロット。人生で一度しかないデビュタントを、どうか楽しんで。 皇帝:……ほれ、はよせんかガリウス。 女王:あらあら。恥ずかしいのかしら?ふふふ。 ガリウス:(しぶしぶ)……えっと、シャルロット、嬢。お、俺……あーわたくしに?貴女と最初に踊る栄誉を、いただけないでしょう、か……。 シャルロット:ガリウス殿下。喜んで。 0:◆いざ、2人のダンスが始まった。ダンスの下手なガリウスは、シャルロットの顔も見ずにステップに集中して尚、示し合わせたかのように彼女の足を踏み続けていた。それは、到底ダンスとは言えないような、珍妙な動きであった。 ガリウス:おっと……。 シャルロット:……ん。 ガリウス:うお……! シャルロット:……っつ(痛いとは言わない)。 ガリウス:(小声でイライラと)あ?なんだこりゃしゃらくせえな……! シャルロット:ふふ。大丈夫ですわ殿下。ゆっくり踊りましょう。 ガリウス:……シャルロット、だったか。……てめぇ、いい加減その気持ちわりぃニコニコ顔をやめて、本性出しやがれ。 シャルロット:(目を見開いて)……! 0:(間)   シャルロット:(先程までとは違う子供らしい笑顔で、楽しそうに)っふ、ふふ、あはははは!お前、ダンスは下手なくせに鋭いんだな!見抜かれたのは初めてだ。 ガリウス:ダンスは関係ないだろ……。 シャルロット:(まだ笑いながら)いやはや、こんな酷いダンスは初めてだ。あぁ、おかしい……! ガリウス:うるせえ。こういうちまちました動きは苦手なんだよ。 シャルロット:王になるならば、こういう教養も必要だぞ。 ガリウス:踊りで天下が取れるかよ。 シャルロット:おや。さては殿下は、人に馬鹿にされるのがお好きなのかな? ガリウス:あ?んな訳ねえだろ。 シャルロット:王は完璧で無ければ足元を掬われる。ダンス一つ取ってもそうだ。隙は、無いにこしたことはない。 ガリウス:…………。 シャルロット:ゆっくりでいい。一歩下がる。そのまま横に一歩流れて、置いてきた足をピタリと揃える。とりあえずはこの繰り返しでいい。 ガリウス:…………(舌打ち)。こうかよ。 シャルロット:そうだ。先程よりマシになった。 ガリウス:フンッ。女はいいよな、こうして笑って音楽に乗れりゃ、それだけで評価が上がるんだから。なあ、シャルロット嬢? シャルロット:……シャーリーでいい。それと…… シャルロット:(不敵に笑って)口の利き方には気を付けろ。今の不躾(ぶしつけ)な発言、ここが闘技場なら剣を抜いている。喧嘩を売る相手は選ぶんだな? ガリウス:……!……へえ。お前、剣を? シャルロット:あぁ。お前の腕は相当だと聞く。いつかこんなドレス姿ではなく、ちゃんとした服を着て手合わせ願いたいものだ。 ガリウス:はっ。ならそん時ぁ、とっておきの軍服でダンスのお誘いに上がってやんよ、シャーリー。 シャルロット:……! シャルロット:ふっ。それはそれは……。楽しみにしているよ、ガリウス。 0:ー場面転換ー 0:◆4年後。少し成長した2人が、再び舞踏会で踊っている。ガリウスは以前と違い、足元を見なくても、ステップを踏めるようになっていた。 シャルロット:ふふ。 ガリウス:……んだよ。 シャルロット:以前よりダンスの腕前が上達してる。 ガリウス:まあ……恥はかきたくないだろ。 シャルロット:ほう、流石は未来の王だ。どこのご令嬢と練習したんだ?シュトレイヒ王国か?それともフィオニアの姫君か? ガリウス:馬鹿を言え。俺のパートナーはお前だろ。 シャルロット:……おや。ダンスだけでなく、女の扱い方まで学んだか? ガリウス:おまっ……!くそ可愛くねえなあ。お前が恥をかきたくないだろうと思って俺は……!……ぁ。 0:(間)   シャルロット:……もしかしてガリウスお前……パートナーの私が恥をかかぬように、ダンスを練習したっていうのか……? 0:(間)   シャルロット:……く、ふふ……ふふふ……! ガリウス:な、なんだよ! シャルロット:(笑いながら)お前は。本当にまっすぐで素直な奴だなまったく……! ガリウス:うるせえよ。……おい、いつまで笑ってやがる……! ガリウス:(ため息)全く呑気なもんだぜ。今日のパーティーは、どいつもこいつも殺気立ってピリピリしてるってのに。 シャルロット:だからこそだ。お前の前でくらい気を抜いたって良いだろう? ガリウス:……ったく。 ガリウス:……それにしても。やはり来てないな。 シャルロット:……ヘルヘイムの王族か? ガリウス:あぁ。最近不穏な動きが目立つ。武器の買い占めに、保存食の輸出停止。そこに来てこれだ。 シャルロット:大陸全土の王族が集まる社交場への不参加……。 ガリウス:もう殆ど宣戦布告と同義だ。父上と、お前のお母君を見ろ。 ガリウス:あぁして和やかに話しているように見えて、その実、互いの腹の探り合いだ。 ガリウス:今はまだ大陸全土で休戦中とは言え、一体いつ、どんなきっかけで開戦するか分からねえからな。 ガリウス:今で言えば、ヘルヘイムが今後一歩でも動いたら……こうした舞踏会が開かれることはなくなるだろうよ。 シャルロット:…………。 ガリウス:……ま。踊らなくて良くなるのはありがたいな。 シャルロット:しかしそうすると、私たちも会えなくなる。 ガリウス:……ッ、 シャルロット:何処の国でも、大陸を統一するのは自国だと信じてやまない。そして私たちが同盟を結ぶ可能性は……、 ガリウス:ほぼ0だな。両国には長年の因縁があるし、それに……、 シャルロット:玉座が2つ、なんて納得できる訳がない、か? ガリウス:あぁ、父上はそう言うだろう。 シャルロット:……母上もだ。 ガリウス:…………。 シャルロット:でももし……、 ガリウス:あ? シャルロット:でももし私が王になれば……お前と同盟を結べるだろうか? ガリウス:何言って……、 シャルロット:レヴァンティンでは第一皇子が跡を継ぐ。それがお前だ、ガリウス。対してエーベルヴァインでは、継承権を持つ者たちの間で内々に継承戦争が行われる。それに私が勝てば……! ガリウス:無理だ。 シャルロット:私には王になる器がないと……? ガリウス:違う! 0:(間)   ガリウス:違う……お前は王になるに相応しい女だ。だが無理だ。 ガリウス:ヘルヘイムを皮切りに戦争が起こるとしたら、現在書面上で同盟国であるレヴァンティンは、エーベルヴァインの敵に回る。 ガリウス:もちろん、統一の為には、いずれレヴァンティンとヘルヘイムが対峙する時もあるだろう。……しかし。 シャルロット:私たちは、戦うしかないと……? ガリウス:…………それ以上はやめろ、シャーリー。今は。 シャルロット:…………すまない。 シャルロット:(深く息を吸って)それにしても……勉強してるんだな、お前がこうも頭を回せるとは。 ガリウス:……おっしゃる通り、頭を使うのは苦手だけどよ。最低限はやってるぜ。……王になるんだからな。 シャルロット:あぁ。お前は……お前は良い王になる。 0:ー場面転換ー 0:◆数ヶ月後。エーベルヴァイン城に現れたガリウスは、新品の軍服に身を包んでいた。 シャルロット:……なんだ、その格好は。 ガリウス:ようやく士官学校を卒業したからな。入隊テストも、一般枠からちゃんと受けた。 ガリウス:誰にも文句は言わせねえ。これは正真正銘、俺の力で勝ち取ったレヴァンティンの軍服だ。 ガリウス:どうだ。……似合うか? シャルロット:……馬子にも衣装ってやつだな。まともな服のおかげで中身も少しはまともに見えるぞ。 ガリウス:お前ってやつは……素直に祝えないのか? シャルロット:……すまない。おめでとう、ガリウス。 ガリウス:ふっ。あぁ。 シャルロット:……で?今日はわざわざそれを見せに? ガリウス:あぁいや。ダンスの誘いに、な。 シャルロット:なんだ?こんな時期にまた舞踏会か?一体何処の阿呆な国が……、 ガリウス:(被せて)ちげーよ。ダンスはダンスでも今日はこっちだ。ほらよっ。 0:(ガリウスがシャルロットに練習用の木刀を放り投げる)   シャルロット:っと。……!これは、模擬刀……? 0:(シャルロットがその意味を理解する前に、ガリウスが恭しくシャルロットにかしづく) ガリウス:シャルロット皇女殿下。どうかわたくしめと、一曲踊っていただけないでしょうか? シャルロット:ガリウス……。 ガリウス:(ニヤリと笑って)約束、してたろ?一戦手合わせ願うぜ、皇女殿下様。 シャルロット:(嬉しそうに)お前という奴は……。ん?誰か来るな。 ガリウス:げ。女王様なら面倒だ。俺は隠れてるぜ。 シャルロット:(今度は呆れて)お前という奴は……。 0:(ガリウスが木陰に隠れ終えた瞬間に、慌てた様子の兵士がシャルロットに駆け寄ってくる) 兵士:(息切れして)皇女殿下……! シャルロット:どうしたマクロン。 兵士:……陛下が!陛下が撃たれました……! シャルロット:何……!?その痴(し)れ者は今どこにいる! 兵士:心配ございません。既に身柄を捕らえております! シャルロット:何処の者だ! 兵士:それが……、 シャルロット:はっきり言え! 兵士:……ヘルヘイムの者だ、と……! シャルロット:何……? 兵士:すぐに軍会議が開かれます……! シャルロット:ぐん、かいぎ……。 兵士:とうとうヘルヘイムが動き出したのです!戦争です!戦争が始まるのです……! シャルロット:…………! 兵士:皇女殿下も、すぐにご準備を! 0:(兵士が走り去ると、ガリウスが隠れていた木陰から顔を出す) ガリウス:……シャーリー。 シャルロット:……逃げろ。 ガリウス:は? シャルロット:早く逃げろ。お前がここにいては話が拗(こじ)れる。きっとただでは済まない……! ガリウス:だが……、 シャルロット:戦争が始まる!……そうしたら。そうしたら私たちは敵同士だ。 ガリウス:…………(何か言いたそうにするが言葉にならない)。 シャルロット:早く! ガリウス:く……ッ! 0:(ガリウスがその場を去ろうとする……が、それに堪えきれずに、シャルロットがガリウスを呼び止める) シャルロット:ガリウス……! 0:(シャルロットの声に、ガリウスが足を止める) シャルロット:……してくれ! 0:(間) シャルロット:約束してくれ!エーベルヴァインを倒すなら、お前が倒すと! ガリウス:……! 0:(ガリウスがシャルロットをバッと振り返る) ガリウス:なら!ならもしレヴァンティンが堕ちることになるならば、お前が! シャルロット:…………! ガリウス:お前が殺せ!俺を、その手で! 0:(間) シャルロット:……分かった。 シャルロット:私は、王の座を勝ち取る。お前以外には決してやられはしない。 シャルロット:いや……お前にさえも、負けはしない……! ガリウス:……あぁそうだ。そうでなければ張り合いがねえ。お前は全力で、俺に向かって来い。 シャルロット:……お前は、わた……。(言葉を飲み込んで)お前は、ノルデンエイリークを愛しているか? ガリウス:あぁ、愛してる。 シャルロット:……修羅の道だな。 ガリウス:そうだな。 シャルロット:大陸を全統治する為に、自国の民が何人も犠牲になる。 ガリウス:あぁ。だが……例えば王となったお前が、同じく王となった俺をただ討つだけでは、民は納得しない。……悲しいことにな。 シャルロット:民を納得させる為に、民を犠牲にして戦うと……? ガリウス:あぁ、すげえ矛盾だよな。だが、世界はそれだけややこしい。 シャルロット:……戦争が、泰平への近道か。 ガリウス:……あぁ。最強が決まれば、後は皆そいつに従うだけだ。 シャルロット:……ふっ。……王としての業は深いな。 ガリウス:それでもてめえは勝ち取るだろ?ノルデンエイリークの為に。他の候補者を蹴落とし、女王の座を。 シャルロット:……あぁ。 ガリウス:……軍服でのダンスは仕切り直しだ。次会う時は……戦場になるだろう。 シャルロット:……互いを討つために。 ガリウス:互いを殺すために。 0:(間) シャルロット:さようなら、友よ。 ガリウス:ああ。 ガリウス:俺がその息の根を止めるまでは……生きろよ、シャーリー。 0:◆ガリウスが急いでその場を立ち去る。去りゆくガリウスの後ろ姿を、シャルロットは断腸の思いで見つめていた。 シャルロット:(M)引き分けも協定も同盟もない。ならば……ならば私が。 ガリウス:(M)そうだ……ならば俺が。 シャルロット:(M)玉座を勝ち取って、そして……。 ガリウス:(M)王の位を継いで、そして……。 シャルロット:(M)全てを終わらせてやろう、「ガリウス皇帝」。 ガリウス:(M)全てから……解放してやる。 0:(間) ガリウス:てめぇを殺すのは、俺だ。 ガリウス:「シャルロット女王陛下」。