台本概要

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タイトル それは呪縛のような
作者名 橘りょう  (@tachibana390)
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 事故で車椅子生活をしている小説家の姉と、それを支える大学生の妹。
固い絆の姉妹と、妹を強く思う彼氏の存在が悲劇を生む

登場人物の性別変更は不可、読み手の性別は不問

作品名、作者名、台本へのリンクの表記をお願いいたします。
余裕があれば後でも構わないのでTwitterなどで教えて下さると嬉しいです、
アーカイブが残っていたら喜んで聴きに行かせていただきます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
カナデ 181 大学生。姉の身の回りの世話もしている
モミジ 112 事故で車椅子生活をしている。小説家
早瀬 106 カナデの彼氏。直情型で強くカナデのことを想っている
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
:幼少期のカナデとモミジ :夢の中 カナデ:お姉ちゃん、待ってよ! モミジ:もう!また?!付いて来ないでよ! カナデ:待って、置いていかないでよぉ! モミジ:なんで私についてくるの?ほかの友達と一緒に遊べば良いじゃない。私はあんたと遊ぶほど暇じゃないんだから カナデ:だってぇ… モミジ:とにかく。もう付いてこないでね! カナデ:あっ、待って。待ってよぉ! モミジ:もうホントにしつこ…危ないっ! カナデ:え… :車のブレーキ音。 :モミジに突き飛ばされるカナデ。 カナデ:お姉ちゃん…! : カナデ:(覚醒)お姉ちゃんっ!…はっ、はっ、はっ、はっ…はぁ…夢か… :ベッドの上で体を起こす。 カナデ:嫌な夢…。なんであの時の…。…あっ、しまった。もうこんな時間! :ベッドから降りて階段をおりる :姉の部屋のドアをノックする音 カナデ:おはよう、姉さん モミジ:…おはよ。今日はいつもより随分ゆっくりね カナデ:ごめん、寝坊しちゃって… モミジ:ふぅん、まぁいいわ。早く体を起こしてくれない?背中が痛いの カナデ:分かった、ごめんね :カナデはモミジの体を起こすと車椅子に移動させる。 モミジ:…寝汗をかいてるわね。何か嫌な夢でも見たの? カナデ:えっ?..いや、なんでもないよ。変な夢見たなって思ったけどもう忘れちゃった モミジ:そう?ならいいけど…着替えないと汗が冷えて風邪ひく カナデ:うん、朝ご飯用意したらそうする。車椅子、動かすよ モミジ:ええ、お願い :部屋を出る二人。 :リビングで簡単な朝食を取り始める。 カナデ:姉さん、コーヒーのおかわりは? モミジ:貰うわ。お砂糖を抜いて カナデ:分かった。ミルク多めにする? モミジ:そうね、そうして カナデ:今日、バイトで少し帰り、遅くなるから モミジ:そう、分かったわ…何時? カナデ:…多分、21時過ぎ モミジ:今日は結構遅いのね カナデ:午後からヘルパーさんが来てくれるから、夕食頼んでる モミジ:…いつもの人? カナデ:うん、いつも来てくれてる斉藤さんに頼んでる モミジ:…なら、いいわ。ご馳走様、コーヒーは部屋に持っていくわ。カナデも学校の準備したら? カナデ:今日、二限からだから大丈夫 モミジ:そう?なら書斎まで、コーヒーとお水を1本お願いしようかしら カナデ:分かった、ここ片付けたら持っていくよ モミジ:じゃあお願いね :モミジは車椅子でリビングから出ていく。 カナデ:はぁ…嫌な夢見たせいだ。頭、痛いや。…あれ?もう薬少なくなっちゃったな…病院、予約取れるかな :場面転換 :カナデのバイト先 カナデ:お先に失礼しまーす。お疲れ様でした 早瀬:カナデ カナデ:早瀬くん、どしたの? 早瀬:終わるの待ってた。お疲れ カナデ:お疲れ様 早瀬:送るわ。帰ろうぜ カナデ:うん :歩く2人 早瀬:あのー…さ、カナデ? カナデ:んー、何? 早瀬:あのさ…俺たち、付き合い初めて、そろそろ半年じゃん? カナデ:そう、だね。もうそんなになるかな 早瀬:良かったら、なんだけどさ… カナデ:? 早瀬:近くにさ、軽く旅っていうか…安宿とかでさ、一泊温泉とか…どう? カナデ:えっ… 早瀬:あの、その…カナデとの関係、先に進めたいって言うか… カナデ:ごめん 早瀬:えっ カナデ:泊まりは、無理… 早瀬:あっいやっ、急に言ったらびっくりしたよな。じゃあさ、どこか少し遠出しない? カナデ:夜が遅くなるのも… 早瀬:…なに?門限とかあるの? カナデ:門限じゃないけど…家族が… 早瀬:カナデんちって…そんなに厳しいんだ カナデ:えっと… 早瀬:…… カナデ:…… 早瀬:…あのさ、もしかして…俺の事、嫌?付き合ってるの、後悔してるとか… カナデ:そっ、そんなじゃない! 早瀬:…本当に? カナデ:(頷く)ごめん、早瀬くんが嫌とか、付き合ってるの後悔とか、そういうのは違う。ちゃんと…好きだから、付き合ってる 早瀬:なら良かった。…泊まりとか、遅くなるのがダメな理由って…話せない事? カナデ:話せないってわけじゃないけど… 早瀬:んーまぁ…話しにくいこともあるよな カナデ:……あのっ 早瀬:ん? カナデ:…姉が居るの、知ってるよね? 早瀬:お姉さん?うん、聞いたけど…なんでお姉さんと繋がるのか、ちょっとよく分からない カナデ:その、姉は…足が悪くて、車椅子なの。両親居ないから身の回りの事とかやらなきゃいけなくて 早瀬:あー…そう、だったんだ。なんか、無理に聞き出したみたいになって…ごめん カナデ:ううん、私もいつか話さなきゃって思ってたから。いい機会だった 早瀬:なら、良かったけど…。カナデが全部世話してんの? カナデ:完全介護って訳じゃないから。車椅子乗れば自分で移動出来るし 早瀬:ふーん…でもカナデ、小柄だから大人一人支えるのとか大変じゃない? カナデ:姉も手すりとか掴んで協力してくれるから何とか 早瀬:…色々大変だな カナデ:少しだけね。でも中学生頃からだし、今は大学行ったりできてるし。もう慣れっこだよ 早瀬:中学って… カナデ:家、もうこの先だから。送ってくれてありがと 早瀬:カナデ! カナデ:ん?…どうしたの?なんか、変な顔してる 早瀬:変な顔って…いや、いいや。なんでもない カナデ:そう?…じゃあ、おやすみ 早瀬:おう。また明日な :走り去っていくカナデ 早瀬:中学って…それは、ダメだろ… : : モミジ:おかえりなさい カナデ:姉さん!ただいま モミジ:お疲れ様。ちょうど部屋に戻ろうかと思ってたところなの カナデ:そうだったんだ。ご飯は?ちゃんと食べた? モミジ:ええ、もう頂いたわ。あなたのは冷蔵庫に入れてるって斉藤さんが カナデ:ありがとう、ちょうどお腹すいてたんだ :インターホンの音 モミジ:…こんな時間に、誰 カナデ:(インターホン越しに対応している)…はい、どちら…早瀬くん! モミジ:…誰? カナデ:えっと、バイト先の…友達。ちょっと待ってね :カナデが玄関ドアを開けると、そこには早瀬が立っている。 早瀬:悪い、ちょっと… カナデ:どうし… モミジ:(遮る様に)こんな時間に非常識ね カナデ:姉さん 早瀬:す、すみません…。さっきそこで別れたからいいかなって… カナデ:ど、どうしたの。忘れ物? 早瀬:いや、そうじゃ無いんだけど… モミジ:…あなた、誰? カナデ:だから、バイト先の… 早瀬:初めまして、俺、早瀬と言います。カナデさんとは、半年くらい前からお付き合いさせてもらってます モミジ:お付き合い…? カナデ:早瀬くん! 早瀬:えっ、なんか…まずかったかな… モミジ:…用を済ませて早く帰ってもらって。絶対に、家には上げないで :モミジは奥に行ってしまう。 カナデ:早瀬くん、出よっか… 早瀬:あ、あぁ。なんか、悪かったかな… カナデ:…姉は他人が家に入るのを凄く嫌うの。ヘルパーさんと担当編集の香山(かやま)さん以外はほぼ…。嫌うって言うか、拒絶かな。 カナデ:ごめんね…気を、悪くしないで欲しい 早瀬:いや、俺もいきなりこんな時間に訪ねたのが悪かったよ、ごめん カナデ:それで、どうしたの? 早瀬:…急がなくても良かったんだろうけど…気になって カナデ:何が? 早瀬:なぁ、カナデ。…ヤングケアラーって聞いたことあるか? カナデ:なに、それ? 早瀬:障害や問題を抱えた家族のケアをしてる未成年の事なんだけど…学校に通えなかったり周りの人との交流に支障が出たりする事もあるみたいで…。30歳未満でも若者ケアラーって言って… カナデ:私がそうだって…言いたい? 早瀬:だってそうだろ。中学生の頃からずっとお姉さんの身の回りの事してたって カナデ:私は、周りの人との交流に問題なんて抱えてないし、普通に学校だって通ったよ?生活にも問題ないし困ってない 早瀬:そうだとしても。そういう家族がいるせいで制限がかかってるって言うか… カナデ:家族なんだから当たり前だし、何も困ってない。ヘルパーさんだって来てもらってるし… 早瀬:カナデ… カナデ:家族が怪我したら助けるでしょう?サポートするでしょう?それと同じだよ? 早瀬:…なんでそんなに頑(かたく)ななんだ… カナデ:私は困ってないって言ってるだけ。ヤングケアラーって言葉は初めて聞いたけど…私は違う。こじつけだよ 早瀬:そうかもしれないけど… カナデ:私を…!私と姉さんを可哀想だと思うわけ?哀れだって? 早瀬:そこまで言ってない、ただもっと自由に生きるべきなんじゃないかって… カナデ:お願いだから!…私たちのことに口を出さないで 早瀬:そういうわけには行かないよ!俺は…カナデとの将来の話をしたいんだ カナデ:…っ 早瀬:俺のことも、見てくれ…! カナデ:早瀬くん… 早瀬:君の世界はどうなんだ?お姉さんが大切な家族なのはわかってるけど、これから先ずっとお姉さんに縛られて生きて行くのか? カナデ:…違う 早瀬:何が違う? カナデ:私は…縛られてるんじゃない…! 早瀬:縛られてるだろ カナデ:違うっ! カナデ:…姉の足が悪くなったのは、私を庇って事故に遭ったからなんだから 早瀬:え… カナデ:死ぬかもしれないくらいの大きな事故だった。飛び出した私を、身を呈して庇ってくれた。…私は、姉さんに命を救われた。 カナデ:私のせいで下半身動かなくなっちゃって…今だって、姉さんが小説を書いて生計を立ててる。大学にだって通わせてもらってる。…それを縛られてるなんて、思って欲しくない 早瀬:…すまん、言葉が…悪かった カナデ:…私も、ごめんなさい カナデ:でも本当に…お願い。家族の事だから放っておいて欲しい。もし何か困ることがあったら、話すから 早瀬:…ごめん、なんか俺…焦ったというか :早瀬はカナデを抱き締める カナデ:ちょ、早瀬、くん… 早瀬:ごめん、俺…完全に暴走してた カナデ:いいよ、大丈夫。私も、ちゃんと話してなかったし… 早瀬:でも俺…カナデの事、好きだから… カナデ:…ありがと :2人離れる カナデ:もう、遅くなるから… 早瀬:あ、ああ…そうだな カナデ:じゃあ、おやすみなさい 早瀬:あっ カナデ:ん?どうかした? 早瀬:…いや、なんでもない。おやすみ、お姉さんに俺が謝ってたって伝えて カナデ:うん、わかった。じゃあね :カナデは家の中に入ってしまう 早瀬:…キスくらい、しとけばよかった… :とぼとぼ帰る早瀬 モミジ:…話は終わったの? カナデ:姉さん、部屋に戻ったんじゃ… モミジ:あなたが帰ってくるの、見届けてからにしようと思ったのよ カナデ:…ごめん モミジ:何を謝るの?友達って嘘ついたから? カナデ:それは…! モミジ:別に恋人がいたって構わないわ。下手に嘘なんかつかなきゃ良いのに カナデ:ごめんなさい… モミジ:結婚とか先々の事も考えればいい。その時は…施設にでも入れば良いんでしょうから カナデ:ダメだよ!…姉さんを置いて、私だけ新しい家庭とか…ダメだよ モミジ:…まぁなんでもいいわ。でも… カナデ:…なに? モミジ:やめとく カナデ:え、なに? モミジ:良いのよ、なんでもないから。…最近、この辺り放火が多いから気をつけてって、斉藤さんが言ってたわ。戸締りとか頼んだわよ カナデ:うん… モミジ:じゃあ、おやすみ カナデ:おやすみなさい… :  : カナデ:(M)私が物心付く前に両親は離婚して、私は父と暮らしていた。 カナデ:寂しくはなかったけど、家で一人留守番するのが寂しかった。誰かにそばにいて欲しかった。家の手伝いを頑張ったらお父さんが傍にいてくれると思って、手伝いを頑張ったけど変わらなかった。 カナデ:そんな時、新しいお母さんという人を紹介され…同時に姉が出来た : モミジ:(M)新しい父の隣には、伏し目がちの年の離れた女の子がいた。私に妹ができた。 モミジ:ずっときょうだいが欲しかったから嬉しかった。新しい妹は控えめだけど、いつも私の後ろを付いて来た。カモの子供みたいなんて思って可愛かったけど、照れ臭くて私は何度もあっちに行って、と言ってしまったけど…付いてきた。 モミジ:そんな時に、あの事故がおきた。振り返ったら妹に向かって、大きなトラックが突っ込んで来て…その時は怖いなんて思わなかった。私が守らなきゃって思った。 モミジ:私の、私だけの大切な妹は私が守らなきゃって思った : カナデ:(M)姉が死んだと思った。私のせいで、死んでしまったと思った。何日も目を覚まさなくて毎日怖かった。だから、目を覚ましてくれた時は言葉にならない位嬉しかった。 カナデ:そして私はずっと姉のために生きようと思った。不自由な体になってしまったのは、私のせいだから : モミジ:(M)妹が今まで以上にそばに居てくれる。両親が相次いで病気で他界してしまって、生活は激変したけど..私には妹がいる。残してくれた家で、二人だけで。 モミジ:この子は絶対に私が守らなくてはならない。私の世話を嫌な顔ひとつせずしてくれる妹には感謝しかない。私は、この子を守りたい : : カナデ:おはよう、姉さん モミジ:おはよう。今日は早いのね カナデ:うん、なんか..眠れなくて モミジ:お薬は?貰ってこなかったの? カナデ:(頷く) モミジ:…やっぱり、お薬がないとまだ眠れないのね カナデ:こればっかりは中々…ね。今日にでも貰ってくるつもり。車椅子、動かすよ モミジ:…昨日 カナデ:ん? モミジ:昨日の夜、また近所で火事があったみたいね。サイレン、聞こえた カナデ:うん、私も聞こえた。最近本当に多いよね。 カナデ:それで…その… モミジ:なに?どうしたの? カナデ:その…早瀬くんが、ごめんって謝ってた… モミジ:…そう カナデ:また改めて紹介しようと思ってたの、ほんとに! モミジ:私…あの人、苦手 カナデ:遅くに来たから?あれは… モミジ:そういうんじゃない。カナデには申し訳ないけど…あの人、なにか苦手なの カナデ:姉さん… モミジ:ごめんね、嫌な姉で カナデ:そんな事…!私は大好きだよ! モミジ:ありがと。カナデが居てくれるから…私は自分のことに集中できる。いつも、感謝してるんだからね? カナデ:…なんか、急にそんなこと言われたらくすぐったいな モミジ:そう?なら普段からもっと、たくさん感謝伝えなきゃダメかしら? カナデ:いっ、いいよ!ちゃんと…もう伝わった モミジ:カナデ カナデ:な、何…? モミジ:こんな体だけど…あなたのこと、私が守るからね カナデ:ど…どしたの、いきなり。なんかあった? モミジ:ううん、何も無い。何も無いからちゃんと言っておこうって思っただけ カナデ:姉さん…。私も、姉さんを守るよ モミジ:あら、あなたみたいな小柄な子に私が守れるかしら? カナデ:まっ、守れるよ! モミジ:(くすくす笑っている) カナデ:ほんと、もっと身長欲しかったな… モミジ:ふふっ、小柄な女の子は可愛いじゃない カナデ:背、高い方が良かった。…でも、ちゃんと守るよ。姉さんのこと モミジ:ありがと、カナデ : : :場面転換 数日後 :帰り道のカナデ 早瀬:カナデ! カナデ:あれ?早瀬くん、シフト… 早瀬:あー、うん、まだ終わってない カナデ:こら、サボらない 早瀬:サボってる訳じゃないって! カナデ:ふふっ、知ってるよ 早瀬:…すぐ帰る? カナデ:そのつもりだけど… 早瀬:少し、待ってて…って、ダメ? カナデ:あまり遅くはなれないけど、それで良かったら 早瀬:マジ?じゃあ…俺あと30分くらいだからさ、待っててもらっていい? カナデ:良いよ、そこの…公園で待ってるね 早瀬:おけ。じゃあ、後で : 早瀬:ごめん、おまたせ カナデ:お疲れ様 早瀬:カナデもお疲れ。これ、貰ってきた カナデ:コーヒー?ありがとう! 早瀬:待たせたからさ、これくらいは カナデ:ありがとね、嬉しい 早瀬:…あのさ、お姉さんの事、なんだけど… カナデ:また?なんか最近、すごく姉さんのことにこだわるね。…なんで? 早瀬:こだわってるって言うか カナデ:…姉さんの事、好きになった? 早瀬:違う、それは断じて違う カナデ:じゃあ、何?家族のことに口出しなら… 早瀬:(遮って)血が…繋がって、ないんだろ? カナデ:(あからさまに機嫌が悪くなる)誰から聞いたの? 早瀬:誰っていうか…ちょっと、小耳に挟んだというか カナデ:はぁ…噂好きや詮索好きな人が居るんだね 早瀬:期待の新鋭作家、月島紅葉。…噂にだってなるだろ カナデ:…それで?確かに私と姉さんは血の繋がりはないよ?再婚同士、連れ子同士。否定しない。でもそれが何か関係ある? 早瀬:血が繋がってないから家族じゃないとは言わない。それは、言わないけど… カナデ:けど? 早瀬:…言ってしまえば、赤の他人だろ? カナデ:早瀬くん 早瀬:そういう関係の人間に、色々制限されるっておかしくないかなって カナデ:早瀬くん! 早瀬:本当の事だろ?家族とはいえ血の繋がりはない、ご両親がいないなら尚更… :(バチンと頬を叩かれる早瀬) カナデ:いい加減にして! 早瀬:……え? カナデ:なんなの…何が言いたいの? 早瀬:カナデ、その… カナデ:夫婦だってそうでしょう?赤の他人同士が婚姻関係で家族になる、それを赤の他人って言わないでしょ?血が繋がってない?それがどうしたの?私と姉さんは姉妹だよ!家族だよ! 早瀬:ご、ごめ… カナデ:何に拘ってるのか知らないけど、もう一度言う。家族のことに口を出さないで。私は自分の意思で姉さんの身の回りの世話をしてる、負担なんかじゃない。苦痛だと思った事も無い 早瀬:だから、ごめんって。言葉が…悪かったよ カナデ:言葉?そう思ってるからそんなこと言うんでしょ?赤の他人の世話してるって 早瀬:そうじゃなくて…俺、カナデには自分の将来のこととか考えて欲しいだけだよ カナデ:…なんで考えてないって決め付けるの? 早瀬:えっ、あっ、いや… カナデ:…もういい 早瀬:ごめん、カナデ! カナデ:……(無言で立ち去る) : 早瀬:カナデ…!あー、やっちまった… : : カナデ:(語気強めに)ただいま モミジ:…おかえりなさい。どうしたの?そんなに怒って カナデ:怒ってない モミジ:どう見ても怒ってるでしょ。何かあったの? カナデ:…詮索好きな人、ほんと嫌。 カナデ:人のプライベートに平気で土足で踏み込んで好き勝手…! モミジ:…珍しいわね。カナデがそんなに怒るなんて。こっちいらっしゃい :モミジの傍に座り込み、膝に顔を乗せるカナデ :カナデの頭を撫でるモミジ モミジ:言いたい人には好きに言わせておけばいいの。どうせ外から、安全圏から無神経に囀(さえず)るだけだもの、放っておきなさい カナデ:でも……うん、そうする モミジ:あなたが悪く言われるようなら私は怒るけど、もし私のことを言われたのなら知らん顔しておけばいいの カナデ:それは…無理 モミジ:あらあら… カナデ:…お姉ちゃん モミジ:(呼び方に気づいて微笑む)ん?なに? カナデ:…ごめんなさい モミジ:何を謝ることがあるの?何かした?私のお気に入りのカップでも割ったの? カナデ:それは割ってない モミジ:じゃあ何?カナデに謝られる心当たりがないんだけど? カナデ:…そんな体にしてしまって、ごめんなさい モミジ:…!カナデ、顔を上げなさい :ペチン、とカナデの両頬を軽く叩く モミジ:何度言わせたら気が済むの? カナデ:…だって… モミジ:私は、一度だってこの体になったことを後悔してない。それはもう聞きあきるほど、伝えてきたはずよ? カナデ:うん… モミジ:あなたを守れた結果がこれなら、最善の結果だった。そうでしょう? カナデ:…うん… モミジ:…誰かに、何か言われたのね?この間の男の子? カナデ:…… モミジ:答えないってことはそうなのね。全く…余計なことを モミジ:何も気にしなくていいから。誰になんと言われようと、私はあなたを恨んだことなんて一度もなかった。それはこれから先も変わらない。何度だって同じことを言うわ カナデ:うん、ありがとう モミジ:お風呂はいって、今日は早く休みなさい カナデ:そうする… モミジ:カナデ、ちゃんと笑って カナデ:お姉ちゃん、ありがと… :カナデはモミジの部屋を出ていく モミジ:あの男余計なことを… : :翌日 :カナデと早瀬のバイト先 早瀬:はい、お電話変わりました。早瀬です モミジ:「……」 早瀬:もしもし? モミジ:「カナデの姉の、モミジです」 早瀬:あっ…えっと、この間の事でしたら… モミジ:「それはもういいの。カナデから、謝ってたことは聞いたから。その事じゃない」 早瀬:じゃあ、なんの用…ですか? モミジ:「…あなたは、カナデのことが好き?」 早瀬:す…、…はい モミジ:「ふふ…ごめんなさいね、いじわるな聞き方をしたわ」 早瀬:いえ… モミジ:「もし、あなたが本当にあの子のことを好きで大切に思うなら…いたずらに悩ませたりするような事はしないで頂戴」 早瀬:俺は… モミジ:「私はね…あの子のことを心から大切に思ってる。傷ついたり苦しんだり…そういう思いをして欲しくないし、誰よりも大事なの」 早瀬:わかってます。それは、俺も同じ気持ちです モミジ:「なら、余計な詮索やそこら辺に転がってるような噂話であの子に辛い思いをさせないで」 早瀬:…すみません モミジ:「私が言いたいことは、それだけよ」 早瀬:そう、ですか… モミジ:「アルバイト先に電話して、申し訳なかったわ」 早瀬:いや、それは…仕方ないというか… モミジ:「…私から電話があったこと、あの子には言わないで」 早瀬:…言いません モミジ:「そう?じゃあ」 :(電話が切れる) 早瀬:なんなんだ、あの女 : : :深夜。 :なにかの気配に気がついて目を覚ますモミジ モミジ:何…?変な匂い…。 :(窓の外が赤くなっていることに気づく) モミジ:なっ…火?!カナデ…カナデー!! モミジ:…あの子、薬飲んでるから聞こえないんだわ…私が、何とかしなくちゃ…!くっ…! :手すりを掴んで車椅子に移ろうとするが失敗してベッドから落ちる モミジ:あうっ…!カナデ、カナデ…! :モミジは、腕で床を這いながら必死に廊下を進む モミジ:ゲホッ!煙が、こんなに…!カナデ…カナデ…! : :モミジは何度も咳き込みながら、必死で階段をあがり、カナデの部屋にたどり着く : モミジ:カナデ!カナデ起きて! カナデ:ん…んん… モミジ:カナデ、起きてっ!火事なの!燃えてるのよ!起きて! カナデ:ねえ、さ…うっ、ゴホッゴホッ! モミジ:カナデ、急いで!火事な..ゴホゴホ! カナデ:姉さんっ!ゲホッ、どうやって、2階に…!まさか這って上がってきたの?! モミジ:いいから!逃げなきゃ…! カナデ:(何度か咳き込む)なにか、口に当てるもの…! モミジ:玄関は、もう火が回ってた…! カナデ:じゃあ、何とか二階から…! モミジ:(なにかに気付く)カナデ…私は逃げれない…! カナデ:なんで?! モミジ:窓…二階の窓、低い位置のが無いの…!ベランダも…私は、上がれない カナデ:私が背負う!絶対に姉さんと逃げる!! モミジ:カナデ!時間が無いの! カナデ:嫌だっ!そんな事言わないで、一緒に逃げよう! モミジ:(口調を優しく)カナデ、聞いて カナデ:(既に泣いている)おねえちゃん…! モミジ:私を背負って動いてたら、あなたの体格だと時間がかかる。でも1人なら直ぐに逃げられる。分かるでしょう? カナデ:やだ、やだよぉ… モミジ:いい?聞いて カナデ:聞かない! モミジ:聞きなさい! カナデ:(何度もしゃくりあげている) モミジ:私、あなたの姉になれて良かったよ。あなたの幸せを誰よりも願ってる。だから、逃げなさい カナデ:やだ、やだぁ… モミジ:私を、解放して カナデ:……え モミジ:もうこの体で、生きていきたくない カナデ:お姉ちゃん…!! モミジ:幸せになりなさい。いい?約束よ? カナデ:お姉ちゃんっ…! モミジ:愛してるわカナデ。もう私に縛られないで カナデ:やめて…そんな事言わないで… モミジ:行きなさいっ!早くっ! カナデ:お姉ちゃん! モミジ:お願いよカナデ。…私の最後の頼みなの カナデ:うっ…うう… モミジ:生きて。 モミジ:…幸せにならなきゃ、恨むわよ。さあ、行って! : :間 : モミジ:カナデ、愛してるわ… : : 早瀬:(M)その夜は、同時に数カ所の火災があった。その為、消火活動は遅れたが、通報から約一時間半後に鎮火。 早瀬:家の裏で軽い火傷と骨折で倒れていたカナデは救出され..モミジの遺体は二階のカナデの部屋で発見された。死因は一酸化炭素中毒、遺体の損傷は火事の規模を考えると誰もが驚く程に少なかった。 早瀬:新鋭作家の死は、ネットやテレビを騒がせたがそれも一時的なもので、カナデの周りも、マスコミの関係者などがいなくなり静かになった。 早瀬:火事から数日後、周辺の連続放火犯が捕まり、犯人とされた男は罪を認めた。ただ一夜の事件を除いて… : : :病院 :(ノック音) 早瀬:カナデ、入るよ?気分はどう?まだ痛む? カナデ:(力無く)…平気 早瀬:…窓、開けよっか。今日すごくいい天気なんだ!気持ちいいと思うよ カナデ:そっか… 早瀬:気分がいいようなら少し外に行かない? カナデ:うん… 早瀬:カナデ…? カナデ:…お姉ちゃん…(泣き出す) 早瀬:カナデ…!俺が居るから…!ずっとそばにいる…支えて、行くから! カナデ:…お姉ちゃん…! : 早瀬:(M)救出されたカナデは身体的な怪我より、メンタル面で酷い状態だった。自分が姉を見殺しにしたという罪悪感で、毎日のように泣いていた。 早瀬:モミジは…きっとこれから先ずっと、カナデが生きている間、心の中に住み続けるのだろう。自分の命を掛けて。 早瀬:少し手荒な方法でカナデのそばに居れるようになったのに…そんなモミジが少し妬ましくもあり、羨ましい。…狡くて、すごく悔しい。 早瀬:カナデは絶対にモミジを忘れないし、俺も彼女を忘れることは出来ないだろう。常に心の中に居座り続ける存在..そしてカナデの背後に見え隠れしているような気持ちだった。 早瀬:これからカナデがどんな方法で立ち直るのかは分からない、ただ言えるのはモミジが残した言葉が支えとなるのだろう。…いや、呪いと言った方が正しいかもしれない。 早瀬:姉の残した言葉を胸に、彼女は生きていくしかないのだ。自分を恨みながらも、姉との約束を果たすために。 :  モミジ:「幸せにならなきゃ、恨むわよ。カナデ、愛してるわ」 : : :END

:幼少期のカナデとモミジ :夢の中 カナデ:お姉ちゃん、待ってよ! モミジ:もう!また?!付いて来ないでよ! カナデ:待って、置いていかないでよぉ! モミジ:なんで私についてくるの?ほかの友達と一緒に遊べば良いじゃない。私はあんたと遊ぶほど暇じゃないんだから カナデ:だってぇ… モミジ:とにかく。もう付いてこないでね! カナデ:あっ、待って。待ってよぉ! モミジ:もうホントにしつこ…危ないっ! カナデ:え… :車のブレーキ音。 :モミジに突き飛ばされるカナデ。 カナデ:お姉ちゃん…! : カナデ:(覚醒)お姉ちゃんっ!…はっ、はっ、はっ、はっ…はぁ…夢か… :ベッドの上で体を起こす。 カナデ:嫌な夢…。なんであの時の…。…あっ、しまった。もうこんな時間! :ベッドから降りて階段をおりる :姉の部屋のドアをノックする音 カナデ:おはよう、姉さん モミジ:…おはよ。今日はいつもより随分ゆっくりね カナデ:ごめん、寝坊しちゃって… モミジ:ふぅん、まぁいいわ。早く体を起こしてくれない?背中が痛いの カナデ:分かった、ごめんね :カナデはモミジの体を起こすと車椅子に移動させる。 モミジ:…寝汗をかいてるわね。何か嫌な夢でも見たの? カナデ:えっ?..いや、なんでもないよ。変な夢見たなって思ったけどもう忘れちゃった モミジ:そう?ならいいけど…着替えないと汗が冷えて風邪ひく カナデ:うん、朝ご飯用意したらそうする。車椅子、動かすよ モミジ:ええ、お願い :部屋を出る二人。 :リビングで簡単な朝食を取り始める。 カナデ:姉さん、コーヒーのおかわりは? モミジ:貰うわ。お砂糖を抜いて カナデ:分かった。ミルク多めにする? モミジ:そうね、そうして カナデ:今日、バイトで少し帰り、遅くなるから モミジ:そう、分かったわ…何時? カナデ:…多分、21時過ぎ モミジ:今日は結構遅いのね カナデ:午後からヘルパーさんが来てくれるから、夕食頼んでる モミジ:…いつもの人? カナデ:うん、いつも来てくれてる斉藤さんに頼んでる モミジ:…なら、いいわ。ご馳走様、コーヒーは部屋に持っていくわ。カナデも学校の準備したら? カナデ:今日、二限からだから大丈夫 モミジ:そう?なら書斎まで、コーヒーとお水を1本お願いしようかしら カナデ:分かった、ここ片付けたら持っていくよ モミジ:じゃあお願いね :モミジは車椅子でリビングから出ていく。 カナデ:はぁ…嫌な夢見たせいだ。頭、痛いや。…あれ?もう薬少なくなっちゃったな…病院、予約取れるかな :場面転換 :カナデのバイト先 カナデ:お先に失礼しまーす。お疲れ様でした 早瀬:カナデ カナデ:早瀬くん、どしたの? 早瀬:終わるの待ってた。お疲れ カナデ:お疲れ様 早瀬:送るわ。帰ろうぜ カナデ:うん :歩く2人 早瀬:あのー…さ、カナデ? カナデ:んー、何? 早瀬:あのさ…俺たち、付き合い初めて、そろそろ半年じゃん? カナデ:そう、だね。もうそんなになるかな 早瀬:良かったら、なんだけどさ… カナデ:? 早瀬:近くにさ、軽く旅っていうか…安宿とかでさ、一泊温泉とか…どう? カナデ:えっ… 早瀬:あの、その…カナデとの関係、先に進めたいって言うか… カナデ:ごめん 早瀬:えっ カナデ:泊まりは、無理… 早瀬:あっいやっ、急に言ったらびっくりしたよな。じゃあさ、どこか少し遠出しない? カナデ:夜が遅くなるのも… 早瀬:…なに?門限とかあるの? カナデ:門限じゃないけど…家族が… 早瀬:カナデんちって…そんなに厳しいんだ カナデ:えっと… 早瀬:…… カナデ:…… 早瀬:…あのさ、もしかして…俺の事、嫌?付き合ってるの、後悔してるとか… カナデ:そっ、そんなじゃない! 早瀬:…本当に? カナデ:(頷く)ごめん、早瀬くんが嫌とか、付き合ってるの後悔とか、そういうのは違う。ちゃんと…好きだから、付き合ってる 早瀬:なら良かった。…泊まりとか、遅くなるのがダメな理由って…話せない事? カナデ:話せないってわけじゃないけど… 早瀬:んーまぁ…話しにくいこともあるよな カナデ:……あのっ 早瀬:ん? カナデ:…姉が居るの、知ってるよね? 早瀬:お姉さん?うん、聞いたけど…なんでお姉さんと繋がるのか、ちょっとよく分からない カナデ:その、姉は…足が悪くて、車椅子なの。両親居ないから身の回りの事とかやらなきゃいけなくて 早瀬:あー…そう、だったんだ。なんか、無理に聞き出したみたいになって…ごめん カナデ:ううん、私もいつか話さなきゃって思ってたから。いい機会だった 早瀬:なら、良かったけど…。カナデが全部世話してんの? カナデ:完全介護って訳じゃないから。車椅子乗れば自分で移動出来るし 早瀬:ふーん…でもカナデ、小柄だから大人一人支えるのとか大変じゃない? カナデ:姉も手すりとか掴んで協力してくれるから何とか 早瀬:…色々大変だな カナデ:少しだけね。でも中学生頃からだし、今は大学行ったりできてるし。もう慣れっこだよ 早瀬:中学って… カナデ:家、もうこの先だから。送ってくれてありがと 早瀬:カナデ! カナデ:ん?…どうしたの?なんか、変な顔してる 早瀬:変な顔って…いや、いいや。なんでもない カナデ:そう?…じゃあ、おやすみ 早瀬:おう。また明日な :走り去っていくカナデ 早瀬:中学って…それは、ダメだろ… : : モミジ:おかえりなさい カナデ:姉さん!ただいま モミジ:お疲れ様。ちょうど部屋に戻ろうかと思ってたところなの カナデ:そうだったんだ。ご飯は?ちゃんと食べた? モミジ:ええ、もう頂いたわ。あなたのは冷蔵庫に入れてるって斉藤さんが カナデ:ありがとう、ちょうどお腹すいてたんだ :インターホンの音 モミジ:…こんな時間に、誰 カナデ:(インターホン越しに対応している)…はい、どちら…早瀬くん! モミジ:…誰? カナデ:えっと、バイト先の…友達。ちょっと待ってね :カナデが玄関ドアを開けると、そこには早瀬が立っている。 早瀬:悪い、ちょっと… カナデ:どうし… モミジ:(遮る様に)こんな時間に非常識ね カナデ:姉さん 早瀬:す、すみません…。さっきそこで別れたからいいかなって… カナデ:ど、どうしたの。忘れ物? 早瀬:いや、そうじゃ無いんだけど… モミジ:…あなた、誰? カナデ:だから、バイト先の… 早瀬:初めまして、俺、早瀬と言います。カナデさんとは、半年くらい前からお付き合いさせてもらってます モミジ:お付き合い…? カナデ:早瀬くん! 早瀬:えっ、なんか…まずかったかな… モミジ:…用を済ませて早く帰ってもらって。絶対に、家には上げないで :モミジは奥に行ってしまう。 カナデ:早瀬くん、出よっか… 早瀬:あ、あぁ。なんか、悪かったかな… カナデ:…姉は他人が家に入るのを凄く嫌うの。ヘルパーさんと担当編集の香山(かやま)さん以外はほぼ…。嫌うって言うか、拒絶かな。 カナデ:ごめんね…気を、悪くしないで欲しい 早瀬:いや、俺もいきなりこんな時間に訪ねたのが悪かったよ、ごめん カナデ:それで、どうしたの? 早瀬:…急がなくても良かったんだろうけど…気になって カナデ:何が? 早瀬:なぁ、カナデ。…ヤングケアラーって聞いたことあるか? カナデ:なに、それ? 早瀬:障害や問題を抱えた家族のケアをしてる未成年の事なんだけど…学校に通えなかったり周りの人との交流に支障が出たりする事もあるみたいで…。30歳未満でも若者ケアラーって言って… カナデ:私がそうだって…言いたい? 早瀬:だってそうだろ。中学生の頃からずっとお姉さんの身の回りの事してたって カナデ:私は、周りの人との交流に問題なんて抱えてないし、普通に学校だって通ったよ?生活にも問題ないし困ってない 早瀬:そうだとしても。そういう家族がいるせいで制限がかかってるって言うか… カナデ:家族なんだから当たり前だし、何も困ってない。ヘルパーさんだって来てもらってるし… 早瀬:カナデ… カナデ:家族が怪我したら助けるでしょう?サポートするでしょう?それと同じだよ? 早瀬:…なんでそんなに頑(かたく)ななんだ… カナデ:私は困ってないって言ってるだけ。ヤングケアラーって言葉は初めて聞いたけど…私は違う。こじつけだよ 早瀬:そうかもしれないけど… カナデ:私を…!私と姉さんを可哀想だと思うわけ?哀れだって? 早瀬:そこまで言ってない、ただもっと自由に生きるべきなんじゃないかって… カナデ:お願いだから!…私たちのことに口を出さないで 早瀬:そういうわけには行かないよ!俺は…カナデとの将来の話をしたいんだ カナデ:…っ 早瀬:俺のことも、見てくれ…! カナデ:早瀬くん… 早瀬:君の世界はどうなんだ?お姉さんが大切な家族なのはわかってるけど、これから先ずっとお姉さんに縛られて生きて行くのか? カナデ:…違う 早瀬:何が違う? カナデ:私は…縛られてるんじゃない…! 早瀬:縛られてるだろ カナデ:違うっ! カナデ:…姉の足が悪くなったのは、私を庇って事故に遭ったからなんだから 早瀬:え… カナデ:死ぬかもしれないくらいの大きな事故だった。飛び出した私を、身を呈して庇ってくれた。…私は、姉さんに命を救われた。 カナデ:私のせいで下半身動かなくなっちゃって…今だって、姉さんが小説を書いて生計を立ててる。大学にだって通わせてもらってる。…それを縛られてるなんて、思って欲しくない 早瀬:…すまん、言葉が…悪かった カナデ:…私も、ごめんなさい カナデ:でも本当に…お願い。家族の事だから放っておいて欲しい。もし何か困ることがあったら、話すから 早瀬:…ごめん、なんか俺…焦ったというか :早瀬はカナデを抱き締める カナデ:ちょ、早瀬、くん… 早瀬:ごめん、俺…完全に暴走してた カナデ:いいよ、大丈夫。私も、ちゃんと話してなかったし… 早瀬:でも俺…カナデの事、好きだから… カナデ:…ありがと :2人離れる カナデ:もう、遅くなるから… 早瀬:あ、ああ…そうだな カナデ:じゃあ、おやすみなさい 早瀬:あっ カナデ:ん?どうかした? 早瀬:…いや、なんでもない。おやすみ、お姉さんに俺が謝ってたって伝えて カナデ:うん、わかった。じゃあね :カナデは家の中に入ってしまう 早瀬:…キスくらい、しとけばよかった… :とぼとぼ帰る早瀬 モミジ:…話は終わったの? カナデ:姉さん、部屋に戻ったんじゃ… モミジ:あなたが帰ってくるの、見届けてからにしようと思ったのよ カナデ:…ごめん モミジ:何を謝るの?友達って嘘ついたから? カナデ:それは…! モミジ:別に恋人がいたって構わないわ。下手に嘘なんかつかなきゃ良いのに カナデ:ごめんなさい… モミジ:結婚とか先々の事も考えればいい。その時は…施設にでも入れば良いんでしょうから カナデ:ダメだよ!…姉さんを置いて、私だけ新しい家庭とか…ダメだよ モミジ:…まぁなんでもいいわ。でも… カナデ:…なに? モミジ:やめとく カナデ:え、なに? モミジ:良いのよ、なんでもないから。…最近、この辺り放火が多いから気をつけてって、斉藤さんが言ってたわ。戸締りとか頼んだわよ カナデ:うん… モミジ:じゃあ、おやすみ カナデ:おやすみなさい… :  : カナデ:(M)私が物心付く前に両親は離婚して、私は父と暮らしていた。 カナデ:寂しくはなかったけど、家で一人留守番するのが寂しかった。誰かにそばにいて欲しかった。家の手伝いを頑張ったらお父さんが傍にいてくれると思って、手伝いを頑張ったけど変わらなかった。 カナデ:そんな時、新しいお母さんという人を紹介され…同時に姉が出来た : モミジ:(M)新しい父の隣には、伏し目がちの年の離れた女の子がいた。私に妹ができた。 モミジ:ずっときょうだいが欲しかったから嬉しかった。新しい妹は控えめだけど、いつも私の後ろを付いて来た。カモの子供みたいなんて思って可愛かったけど、照れ臭くて私は何度もあっちに行って、と言ってしまったけど…付いてきた。 モミジ:そんな時に、あの事故がおきた。振り返ったら妹に向かって、大きなトラックが突っ込んで来て…その時は怖いなんて思わなかった。私が守らなきゃって思った。 モミジ:私の、私だけの大切な妹は私が守らなきゃって思った : カナデ:(M)姉が死んだと思った。私のせいで、死んでしまったと思った。何日も目を覚まさなくて毎日怖かった。だから、目を覚ましてくれた時は言葉にならない位嬉しかった。 カナデ:そして私はずっと姉のために生きようと思った。不自由な体になってしまったのは、私のせいだから : モミジ:(M)妹が今まで以上にそばに居てくれる。両親が相次いで病気で他界してしまって、生活は激変したけど..私には妹がいる。残してくれた家で、二人だけで。 モミジ:この子は絶対に私が守らなくてはならない。私の世話を嫌な顔ひとつせずしてくれる妹には感謝しかない。私は、この子を守りたい : : カナデ:おはよう、姉さん モミジ:おはよう。今日は早いのね カナデ:うん、なんか..眠れなくて モミジ:お薬は?貰ってこなかったの? カナデ:(頷く) モミジ:…やっぱり、お薬がないとまだ眠れないのね カナデ:こればっかりは中々…ね。今日にでも貰ってくるつもり。車椅子、動かすよ モミジ:…昨日 カナデ:ん? モミジ:昨日の夜、また近所で火事があったみたいね。サイレン、聞こえた カナデ:うん、私も聞こえた。最近本当に多いよね。 カナデ:それで…その… モミジ:なに?どうしたの? カナデ:その…早瀬くんが、ごめんって謝ってた… モミジ:…そう カナデ:また改めて紹介しようと思ってたの、ほんとに! モミジ:私…あの人、苦手 カナデ:遅くに来たから?あれは… モミジ:そういうんじゃない。カナデには申し訳ないけど…あの人、なにか苦手なの カナデ:姉さん… モミジ:ごめんね、嫌な姉で カナデ:そんな事…!私は大好きだよ! モミジ:ありがと。カナデが居てくれるから…私は自分のことに集中できる。いつも、感謝してるんだからね? カナデ:…なんか、急にそんなこと言われたらくすぐったいな モミジ:そう?なら普段からもっと、たくさん感謝伝えなきゃダメかしら? カナデ:いっ、いいよ!ちゃんと…もう伝わった モミジ:カナデ カナデ:な、何…? モミジ:こんな体だけど…あなたのこと、私が守るからね カナデ:ど…どしたの、いきなり。なんかあった? モミジ:ううん、何も無い。何も無いからちゃんと言っておこうって思っただけ カナデ:姉さん…。私も、姉さんを守るよ モミジ:あら、あなたみたいな小柄な子に私が守れるかしら? カナデ:まっ、守れるよ! モミジ:(くすくす笑っている) カナデ:ほんと、もっと身長欲しかったな… モミジ:ふふっ、小柄な女の子は可愛いじゃない カナデ:背、高い方が良かった。…でも、ちゃんと守るよ。姉さんのこと モミジ:ありがと、カナデ : : :場面転換 数日後 :帰り道のカナデ 早瀬:カナデ! カナデ:あれ?早瀬くん、シフト… 早瀬:あー、うん、まだ終わってない カナデ:こら、サボらない 早瀬:サボってる訳じゃないって! カナデ:ふふっ、知ってるよ 早瀬:…すぐ帰る? カナデ:そのつもりだけど… 早瀬:少し、待ってて…って、ダメ? カナデ:あまり遅くはなれないけど、それで良かったら 早瀬:マジ?じゃあ…俺あと30分くらいだからさ、待っててもらっていい? カナデ:良いよ、そこの…公園で待ってるね 早瀬:おけ。じゃあ、後で : 早瀬:ごめん、おまたせ カナデ:お疲れ様 早瀬:カナデもお疲れ。これ、貰ってきた カナデ:コーヒー?ありがとう! 早瀬:待たせたからさ、これくらいは カナデ:ありがとね、嬉しい 早瀬:…あのさ、お姉さんの事、なんだけど… カナデ:また?なんか最近、すごく姉さんのことにこだわるね。…なんで? 早瀬:こだわってるって言うか カナデ:…姉さんの事、好きになった? 早瀬:違う、それは断じて違う カナデ:じゃあ、何?家族のことに口出しなら… 早瀬:(遮って)血が…繋がって、ないんだろ? カナデ:(あからさまに機嫌が悪くなる)誰から聞いたの? 早瀬:誰っていうか…ちょっと、小耳に挟んだというか カナデ:はぁ…噂好きや詮索好きな人が居るんだね 早瀬:期待の新鋭作家、月島紅葉。…噂にだってなるだろ カナデ:…それで?確かに私と姉さんは血の繋がりはないよ?再婚同士、連れ子同士。否定しない。でもそれが何か関係ある? 早瀬:血が繋がってないから家族じゃないとは言わない。それは、言わないけど… カナデ:けど? 早瀬:…言ってしまえば、赤の他人だろ? カナデ:早瀬くん 早瀬:そういう関係の人間に、色々制限されるっておかしくないかなって カナデ:早瀬くん! 早瀬:本当の事だろ?家族とはいえ血の繋がりはない、ご両親がいないなら尚更… :(バチンと頬を叩かれる早瀬) カナデ:いい加減にして! 早瀬:……え? カナデ:なんなの…何が言いたいの? 早瀬:カナデ、その… カナデ:夫婦だってそうでしょう?赤の他人同士が婚姻関係で家族になる、それを赤の他人って言わないでしょ?血が繋がってない?それがどうしたの?私と姉さんは姉妹だよ!家族だよ! 早瀬:ご、ごめ… カナデ:何に拘ってるのか知らないけど、もう一度言う。家族のことに口を出さないで。私は自分の意思で姉さんの身の回りの世話をしてる、負担なんかじゃない。苦痛だと思った事も無い 早瀬:だから、ごめんって。言葉が…悪かったよ カナデ:言葉?そう思ってるからそんなこと言うんでしょ?赤の他人の世話してるって 早瀬:そうじゃなくて…俺、カナデには自分の将来のこととか考えて欲しいだけだよ カナデ:…なんで考えてないって決め付けるの? 早瀬:えっ、あっ、いや… カナデ:…もういい 早瀬:ごめん、カナデ! カナデ:……(無言で立ち去る) : 早瀬:カナデ…!あー、やっちまった… : : カナデ:(語気強めに)ただいま モミジ:…おかえりなさい。どうしたの?そんなに怒って カナデ:怒ってない モミジ:どう見ても怒ってるでしょ。何かあったの? カナデ:…詮索好きな人、ほんと嫌。 カナデ:人のプライベートに平気で土足で踏み込んで好き勝手…! モミジ:…珍しいわね。カナデがそんなに怒るなんて。こっちいらっしゃい :モミジの傍に座り込み、膝に顔を乗せるカナデ :カナデの頭を撫でるモミジ モミジ:言いたい人には好きに言わせておけばいいの。どうせ外から、安全圏から無神経に囀(さえず)るだけだもの、放っておきなさい カナデ:でも……うん、そうする モミジ:あなたが悪く言われるようなら私は怒るけど、もし私のことを言われたのなら知らん顔しておけばいいの カナデ:それは…無理 モミジ:あらあら… カナデ:…お姉ちゃん モミジ:(呼び方に気づいて微笑む)ん?なに? カナデ:…ごめんなさい モミジ:何を謝ることがあるの?何かした?私のお気に入りのカップでも割ったの? カナデ:それは割ってない モミジ:じゃあ何?カナデに謝られる心当たりがないんだけど? カナデ:…そんな体にしてしまって、ごめんなさい モミジ:…!カナデ、顔を上げなさい :ペチン、とカナデの両頬を軽く叩く モミジ:何度言わせたら気が済むの? カナデ:…だって… モミジ:私は、一度だってこの体になったことを後悔してない。それはもう聞きあきるほど、伝えてきたはずよ? カナデ:うん… モミジ:あなたを守れた結果がこれなら、最善の結果だった。そうでしょう? カナデ:…うん… モミジ:…誰かに、何か言われたのね?この間の男の子? カナデ:…… モミジ:答えないってことはそうなのね。全く…余計なことを モミジ:何も気にしなくていいから。誰になんと言われようと、私はあなたを恨んだことなんて一度もなかった。それはこれから先も変わらない。何度だって同じことを言うわ カナデ:うん、ありがとう モミジ:お風呂はいって、今日は早く休みなさい カナデ:そうする… モミジ:カナデ、ちゃんと笑って カナデ:お姉ちゃん、ありがと… :カナデはモミジの部屋を出ていく モミジ:あの男余計なことを… : :翌日 :カナデと早瀬のバイト先 早瀬:はい、お電話変わりました。早瀬です モミジ:「……」 早瀬:もしもし? モミジ:「カナデの姉の、モミジです」 早瀬:あっ…えっと、この間の事でしたら… モミジ:「それはもういいの。カナデから、謝ってたことは聞いたから。その事じゃない」 早瀬:じゃあ、なんの用…ですか? モミジ:「…あなたは、カナデのことが好き?」 早瀬:す…、…はい モミジ:「ふふ…ごめんなさいね、いじわるな聞き方をしたわ」 早瀬:いえ… モミジ:「もし、あなたが本当にあの子のことを好きで大切に思うなら…いたずらに悩ませたりするような事はしないで頂戴」 早瀬:俺は… モミジ:「私はね…あの子のことを心から大切に思ってる。傷ついたり苦しんだり…そういう思いをして欲しくないし、誰よりも大事なの」 早瀬:わかってます。それは、俺も同じ気持ちです モミジ:「なら、余計な詮索やそこら辺に転がってるような噂話であの子に辛い思いをさせないで」 早瀬:…すみません モミジ:「私が言いたいことは、それだけよ」 早瀬:そう、ですか… モミジ:「アルバイト先に電話して、申し訳なかったわ」 早瀬:いや、それは…仕方ないというか… モミジ:「…私から電話があったこと、あの子には言わないで」 早瀬:…言いません モミジ:「そう?じゃあ」 :(電話が切れる) 早瀬:なんなんだ、あの女 : : :深夜。 :なにかの気配に気がついて目を覚ますモミジ モミジ:何…?変な匂い…。 :(窓の外が赤くなっていることに気づく) モミジ:なっ…火?!カナデ…カナデー!! モミジ:…あの子、薬飲んでるから聞こえないんだわ…私が、何とかしなくちゃ…!くっ…! :手すりを掴んで車椅子に移ろうとするが失敗してベッドから落ちる モミジ:あうっ…!カナデ、カナデ…! :モミジは、腕で床を這いながら必死に廊下を進む モミジ:ゲホッ!煙が、こんなに…!カナデ…カナデ…! : :モミジは何度も咳き込みながら、必死で階段をあがり、カナデの部屋にたどり着く : モミジ:カナデ!カナデ起きて! カナデ:ん…んん… モミジ:カナデ、起きてっ!火事なの!燃えてるのよ!起きて! カナデ:ねえ、さ…うっ、ゴホッゴホッ! モミジ:カナデ、急いで!火事な..ゴホゴホ! カナデ:姉さんっ!ゲホッ、どうやって、2階に…!まさか這って上がってきたの?! モミジ:いいから!逃げなきゃ…! カナデ:(何度か咳き込む)なにか、口に当てるもの…! モミジ:玄関は、もう火が回ってた…! カナデ:じゃあ、何とか二階から…! モミジ:(なにかに気付く)カナデ…私は逃げれない…! カナデ:なんで?! モミジ:窓…二階の窓、低い位置のが無いの…!ベランダも…私は、上がれない カナデ:私が背負う!絶対に姉さんと逃げる!! モミジ:カナデ!時間が無いの! カナデ:嫌だっ!そんな事言わないで、一緒に逃げよう! モミジ:(口調を優しく)カナデ、聞いて カナデ:(既に泣いている)おねえちゃん…! モミジ:私を背負って動いてたら、あなたの体格だと時間がかかる。でも1人なら直ぐに逃げられる。分かるでしょう? カナデ:やだ、やだよぉ… モミジ:いい?聞いて カナデ:聞かない! モミジ:聞きなさい! カナデ:(何度もしゃくりあげている) モミジ:私、あなたの姉になれて良かったよ。あなたの幸せを誰よりも願ってる。だから、逃げなさい カナデ:やだ、やだぁ… モミジ:私を、解放して カナデ:……え モミジ:もうこの体で、生きていきたくない カナデ:お姉ちゃん…!! モミジ:幸せになりなさい。いい?約束よ? カナデ:お姉ちゃんっ…! モミジ:愛してるわカナデ。もう私に縛られないで カナデ:やめて…そんな事言わないで… モミジ:行きなさいっ!早くっ! カナデ:お姉ちゃん! モミジ:お願いよカナデ。…私の最後の頼みなの カナデ:うっ…うう… モミジ:生きて。 モミジ:…幸せにならなきゃ、恨むわよ。さあ、行って! : :間 : モミジ:カナデ、愛してるわ… : : 早瀬:(M)その夜は、同時に数カ所の火災があった。その為、消火活動は遅れたが、通報から約一時間半後に鎮火。 早瀬:家の裏で軽い火傷と骨折で倒れていたカナデは救出され..モミジの遺体は二階のカナデの部屋で発見された。死因は一酸化炭素中毒、遺体の損傷は火事の規模を考えると誰もが驚く程に少なかった。 早瀬:新鋭作家の死は、ネットやテレビを騒がせたがそれも一時的なもので、カナデの周りも、マスコミの関係者などがいなくなり静かになった。 早瀬:火事から数日後、周辺の連続放火犯が捕まり、犯人とされた男は罪を認めた。ただ一夜の事件を除いて… : : :病院 :(ノック音) 早瀬:カナデ、入るよ?気分はどう?まだ痛む? カナデ:(力無く)…平気 早瀬:…窓、開けよっか。今日すごくいい天気なんだ!気持ちいいと思うよ カナデ:そっか… 早瀬:気分がいいようなら少し外に行かない? カナデ:うん… 早瀬:カナデ…? カナデ:…お姉ちゃん…(泣き出す) 早瀬:カナデ…!俺が居るから…!ずっとそばにいる…支えて、行くから! カナデ:…お姉ちゃん…! : 早瀬:(M)救出されたカナデは身体的な怪我より、メンタル面で酷い状態だった。自分が姉を見殺しにしたという罪悪感で、毎日のように泣いていた。 早瀬:モミジは…きっとこれから先ずっと、カナデが生きている間、心の中に住み続けるのだろう。自分の命を掛けて。 早瀬:少し手荒な方法でカナデのそばに居れるようになったのに…そんなモミジが少し妬ましくもあり、羨ましい。…狡くて、すごく悔しい。 早瀬:カナデは絶対にモミジを忘れないし、俺も彼女を忘れることは出来ないだろう。常に心の中に居座り続ける存在..そしてカナデの背後に見え隠れしているような気持ちだった。 早瀬:これからカナデがどんな方法で立ち直るのかは分からない、ただ言えるのはモミジが残した言葉が支えとなるのだろう。…いや、呪いと言った方が正しいかもしれない。 早瀬:姉の残した言葉を胸に、彼女は生きていくしかないのだ。自分を恨みながらも、姉との約束を果たすために。 :  モミジ:「幸せにならなきゃ、恨むわよ。カナデ、愛してるわ」 : : :END