台本概要
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タイトル | ナルサスの葛藤 |
---|---|
作者名 | コバルト犬 (@kobakobarutoken) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男2、女1、不問2) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ハリー | 男 | 95 | 劇団座長 感情の起伏が激しいので、大声を出せない方は難しいかと思います。 奥さんでノエルという名前が出てきます |
ナルサス | 男 | 44 | 酷い男をイメージして作っています。 叫ぶシーンがあるので、大声を出せない方は難しいかと思います。 |
ポール | 不問 | 61 | 不問にしています。 しっかり者です |
ノア | 不問 | 42 | 中学生から高校生くらいをイメージしています 泣き演技が入ります |
グレース | 女 | 57 | お姉さんです |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:<劇団エール舞台裏>
0:<団長室>
0:
ポール:「ハリー……お前、今日なんでここに呼ばれたか分かるか?」
ハリー:「……いやぁ、正直、なんで呼ばれたか分かっていなくてですね…」
ポール:「…これだよ!こ、れ!」
0:
ノア:「(N)ポールは机の上に置いてあった紙束を掴むと、再び机の上に置いた」
0:
ハリー:「あっそれ俺が書いた台本ですよね!1次審査通った、とか?」
ポール:「んなわけあるか!あのなぁハリー、お前何も台本まで書くことないだろ」
ハリー:「でもっ、その台本は俺にとって特に大事なもので……」
ポール:「(遮るように)書いてくれるやつなんかいくらでもいるんだ。お前はこの劇団の花形なんだから劇に集中しろ」
ポール:「こんな無駄なもの生み出すな」
ポール:「読む気にもならん。邪魔だから持って帰ってくれ」
ハリー:「そんな……」
ポール:「ほぉら!帰った帰った!」
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ノア:「(N)ポールは立ち上がりハリーのお腹に台本を押し付けると、部屋を出ていった」
0:
ハリー:「……(小声で)いくらでもいるのに、その1つになることも許されないのか」
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0:<間>
0:<少しして……>
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グレース:「うん、面白かったわ」
ハリー:「本当に!」
グレース:「えぇ、贔屓目(ひいきめ)無しに素敵なお話だと思う」
グレース:「みんな死んじゃう悲劇のバッドエンドかと思ったら、1人の勇気ある部外者のおかげでハッピーエンドになるのね」
ハリー:「そう!自分に自信が無い人や、非力だって思ってる人の力になれたらいいなって思って」
グレース:「いいじゃない。私このお話好きよ。ハリーっぽくて好き」
ハリー:「ねぇやっぱりさ」
グレース:「(遮るように)それで?このお話がどうかしたの」
ハリー:「え?あぁ、それがさ……」
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ポール:「(N)ハリーは先程あったことをグレースに伝えた」
0:
グレース:「はぁ?何それ意味わかんない。別にいいじゃない誰が書いたって」
ハリー:「それは、俺もそう思う」
グレース:「あったまきた!ポールのやつ、1発お見舞いしてやろうかしら…」
ハリー:「グレース、抑えて抑えて」
グレース:「ぬぬぬ、……あっ、いいこと思いついた!ねぇハリー…」
0:
ポール:「(N)グレースが話をしていると、休憩室のドアが開く。開けたのはナルサスという男だった」
0:
ナルサス:「朝から晩まで女を取っかえ引っ変え、忙しい野郎だなぁお前は」
ハリー:「……ナルサス」
ナルサス:「性病にでもなったらどうする?お前の綺麗なその顔に赤い斑点がいくつもついたら、なぁ?」
グレース:「……ごめんハリー、私もう帰るね」
ナルサス:「おいおい待てよグレース、俺の誘いを断っておいてハリーとイチャコラしてたのは許してやるからさ」
0:
ポール:「(N)喋りながらじりじりと近づいてきていたナルサスは、そう言ってグレースの腰を抱く」
0:
グレース:「!!」
ナルサス:「細いのに出るとこ出て…ホント、いい体してるよなァグレース。…さっきはどこまでヤったんだ?」
グレース:「そんなことするわけないじゃない!…離してっ!」
ナルサス:「釣れないなぁグレース…。まぁそういうところが可愛いんだが」
グレース:「…やめ、てっ」
ハリー:「……ナルサス、いい加減にしろ。グレースを離せ」
ナルサス:「あぁ?なんだよ、お前ら…付き合ってんのか?」
ハリー:「……別に、そういう関係ではないけど」
ナルサス:「じゃあ口出して来んなよ、何度か抱いたぐらいで調子に……」
ハリー:「手を出したことなど1度もない!ナルサス。その手を離さないんだったら…叫ぶぞ」
ナルサス:「あぁ?」
ハリー:「いいのか?劇団エール1の大声が出せる俺が…助けを呼んだら、どこまで聞こえると思う?」
ナルサス:「……(小声で)ちっ、数ある内の1人取られたくらいで…ちっせぇ奴だな」
0:
ポール:「(N)ナルサスはグレースの腰から手を離すと、ハリーを睨みながらドアを勢いよく閉めて出ていった」
0:
0:
0:<間>
ハリー:「……大丈夫?」
グレース:「……えぇ、ごめんハリー。変なことに巻き込んじゃって……」
ハリー:「うううん、大丈夫。……震えているね、顔も青白いし今日はもう帰った方がいいよ」
グレース:「うん……ありがとう、そうするわ」
グレース:「…あっ、そうだ忘れてた」
ハリー:「ん…?何を?」
グレース:「ほら、さっき話の途中であいつ入ってきたから言えなかったんだけど」
グレース:「…ハリー、題名と氏名って変えられる?」
ハリー:「えっ…もしかして」
グレース:「そう、そのもしかして。中身はハリーでも、外からはハリーだって分からないようにしちゃえばいいんじゃない?」
グレース:「…作者名は、そうねぇ。ノアとハリーが作ったお話だから、リィノ、はどうかしら?」
0:
0:<間>
0:
0:<数日後>
0:<劇団エール舞台上>
0:
ポール:「おはよう。みんな集まったかな」
ポール:「えぇ…ごほん。今日はこの間募集した次の台本を決める審査が終わったので、報告しようと思う」
ポール:「結果だが……」
ポール:「一般参加枠のリィノ!今回はこの方の台本でいこうと思う」
0:
ノア:「(N)衝撃の結果に、劇団員がどよめく」
0:
ハリー:「(M)ポールのやつ、本当に中身読んでなかったんだ……でも、採用されて良かった。…ふふ、今日はノアとパーティだな」
0:
ポール:「(手を叩きながら)静かに!しぃずぅかぁにぃ!」
ポール:「えぇ…一般参加枠の台本が使われるのは劇団エール始まって以来初のことだが、1番魅力を感じ…演じてみたいと思った」
ポール:「言いたいことはあるだろうが、君達も読んでみたら分かるはずだ」
ポール:「それじゃあ各自、発声練習等すること」
ポール:「1時間後合同で読み合わせするので、それまで自由時間」
ポール:「さぁ解散!解散!」
0:
0:
グレース:「(小声で)良かったわね、ハリー……ノエルもきっと喜んでるわ」
0:
0:<城下町酒場>
0:
ハリー:「かんぱーーい!!」
ノア:「ちょっとお父さん!エール飲みすぎ!」
ハリー:「えぇえん、いいじゃあん……(ごくごく)」
ノア:「もう飲んじゃだめ!」
ハリー:「ぷはぁっ、ノアはほんっとうに、かぁわいいなぁ……」
ノア:「ちょっ、話を逸らすな、抱きつくなぁ!」
ハリー:「いいだろぉ。パパ、最近ノアがちょっと冷たくって、寂しいんだよぉ」
ノア:「別に冷たくしてないよ」
ハリー:「してるだろぉ!朝のちゅーも夜のちゅーも無くなっちゃって、そんな冷たいんじゃ、パパ死んじゃうんだからなぁあ」
ノア:「……なら…」
ハリー:「んーー?」
ノア:「……たまになら、してあげる」
ハリー:「はぁああノアああ、愛してるぞぉぉ!ちゅちゅちゅ」
ノア:「やーめーてー!はーなーしーて!」
ハリー:「やだぁあ」
ノア:「もー!お父さんのバカァ!」
0:
0:<間>
0:
0:<城下町、同じく酒場>
0:
ナルサス:「ひっく」
ナルサス:「(M)いやぁ、飲みすぎたな。今日はハズレの日だ。指名した女はデブなババアだったし、……受付にあったあの絵、詐欺だろ」
ナルサス:「(M)てかよ……」
ナルサス:「(M)さっきから騒いでるあの席の男、ハリーか?随分酔っ払ってるみたいだが……」
0:
0:
ハリー:「いんやぁ!それにしてもよかったぁ!」
ノア:「ふふ、良かったね」
ハリー:「なんだよぉ、ノアも一緒に考えてくれただろ?嬉しくないのかぁ?」
ノア:「んー、どうかなぁ」
ハリー:「ふふ、嬉しいんだろぉ、俺達の物語の採用を祝ってぇ、かんぱーーい!!!」
ノア:「あーあ、絶対明日二日酔いになってもスープ作ってあげないから」
0:
0:
ナルサス:「(小声で)……俺達の物語の、採用?」
ナルサス:「(M)どういうことだ?物語の採用ってことは劇団の台本の話だよな」
ナルサス:「(M)今回は一般のやつの台本が選ばれたよな……それがなんで俺達の?」
ナルサス:「まさか……」
ナルサス:「…おい!そこの給仕。金はここに置いていくぞ」
0:
0:
ポール:「(N)ナルサスは席を立ち店を出ると、そのまま劇場の方へと向かう」
0:
ナルサス:「あはっ、あははっ、いーこと聞いちまったなぁあ」
ナルサス:「俺の台本が採用されるはずだったのによぉ、おかしいと思ったんだ」
ナルサス:「あいつの事だ、なんかしたに違いねぇ」
ナルサス:「俺の出世の道を邪魔しやがって……。調子に乗ってんじゃあねぇぞ!!」
0:
ポール:「(N)ナルサスが道端にあった樽を勢いよく蹴る」
0:
ナルサス:「ふぅー、地獄見せてやらねぇと、わかんねぇみたいだなぁ。」
ナルサス:「次あいつが劇場に来る日が楽しみだよ」
ナルサス:「あははっあははははは……」
街の人:「(遮るように)さっきからうるっさいんだよあんた!今何時だと思ってんだい!ガキは早く帰って、ねんねしな!!」
0:
ポール:「(N)街の人が投げた小石が、ナルサスの頭に当たった。」
0:
ナルサス:「……いってぇなっ!てめぇ何すんだゴラァ!当たり所悪かったら死んでたぞ!」
0:
0:
0:<数日後>
0:<劇団エール団長室>
0:
ハリー:「急に呼び出して…なんですか、団長」
ポール:「あぁ…実はだな。今度の劇の主役だが……ハリーからナルサスに変更になった」
ハリー:「……えっどうして!」
ポール:「なぁ、ハリー……お前、最近新人をいじめてるらしいじゃないか」
ポール:「団員数名から聞いている」
ハリー:「はぁ?そんなことしてないですよ!」
ポール:「……彼女達はみんな震えながら話をしてくれたぞ。…嘘をついているようには見えなかった」
ポール:「…ハリー、お前には村人A役をやってもらう」
ハリー:「!!」
ポール:「本来なら追放レベルだが……見せしめに村人Aにした」
ハリー:「そんな!ポール!!俺を信じてよ!」
ポール:「黙れ!」
ハリー:「っ……」
ポール:「見損なったよハリー……今日はもう帰れ。セリフも沢山から1つになった。しばらく劇場にも来なくていい」
ポール:「…ナルサス、そこにいるだろう。こいつを追い出しておけ」
0:
ノア:「(N)ハリーがギィと扉が開く方を見ると、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべたナルサスがいた」
0:
ハリー:「…お前!」
ナルサス:「ハリー、どうしたんだよ、お前なんて呼んでさ」
ナルサス:「ふっはははっ、ガキは早く、かえんなっ!」
0:
ノア:「(N)ナルサスは思い切りハリーを蹴って部屋の外に出し、扉を閉めた」
0:
0:
ポール:「ナ、ナルサス。これでいいんだろう?もう、うちの子達を家に帰らせてやってくれ」
ナルサス:「うちの子達だぁ?劇団員のこと、そんな風に思ってんのか」
ナルサス:「……お前がずっと抵抗しないのが謎だったが、そんなにうちの子達が大事なのかぁ!」
ナルサス:「…滑稽だなぁポール!…どんだけ悪いことしても大事なんだもんなぁ?うちの子が、さ」
ポール:「……」
ナルサス:「てかよぉ、ポール。俺はみんなを解放したかったら、ハリーを永久追放しろって言ったよな?」
ポール:「……っ」
ナルサス:「まぁいい、お前ら幼なじみなんだろう?情けをかけちまうのは分かる」
ポール:「……」
ナルサス:「…でもなぁ!命令無視したのに、解放するわけねぇだろうがぁ!……俺はあいつを視界から消さないと気がすまねぇんだよ!」
ナルサス:「……そうだぁポール、今夜あいつを呼び出せ…出来なきゃ劇団員ごとここは火の海だ」
ナルサス:「分かったか?今度こそしっかりやれよ……ポール」
ポール:「…好きにしろ」
ナルサス:「ははっ、強がってんのバレバレなんだよぉポール!…おいそこの女ァ!酒持ってこい酒!」
0:
ポール:「(小声で)……すまないハリー、私たちの劇団なのに、……こんなことになってしまって」
ナルサス:「おいポール、なんか言ったか」
ポール:「なんでもないよ、ナルサス。機材班と次の劇の打ち合わせしてくるから、少し席を外すよ」
ナルサス:「……ポール、分かってるよな?裏切るんじゃあねぇぞ」
ポール:「……っわかっている」
ナルサス:「くっははっ、あっははははははっ」
0:
ノア:「(N)……ナルサスの高笑いが、冷たくなった劇場中に響き渡った」
0:
0:<間>
0:
0:<その日の夜、ハリーの家>
0:
ハリー:「どぉおしようノアあああ、パパほぼ無職になっちゃったよぉおお」
ノア:「落ち着いてお父さん、まだ村人Aだっけ?役はあるんでしょう?」
ハリー:「僕は子供1人養えないプー太郎になってしまうんだあああ」
ノア:「あーあ、酔すぎ。吐くのも時間の問題かな」
0:
ポール:「(N)ドアを何度もノックする音がする」
0:
ノア:「あれ、誰か来てるのかな。もう!パパがうるさいから全然気づかなかった!」
ハリー:「いかないでくれぇノアあああ」
ノア:「足から手を離して!あぁもう、はーい!今行きまーす」
0:
ポール:「(N)ハリーを引きずりながらドアを開けると、そこには息を切らしたグレースがいた」
0:
グレース:「…やっ、ノアちゃんこんばんは……あと、この世の終わりみたいに叫んでノアちゃんに引っ付いてるこれは……ハリー?」
ノア:「はい……そうです……」
ハリー:「あああぁあんうわああん」
グレース:「うるっさ……外まで聞こえてたけど、普段とのギャップありすぎて家間違えたかと思ったわよ」
ハリー:「……んあ?グレース?グレースじゃないかぁああ」
0:
ポール:「(N)カエルのようにぴょこんとはねたハリーは、グレースの胸元にダイブしてグレースを強く抱きしめた」
0:
グレース:「なっ……ななっななななっ」
ハリー:「んふふ、グレース、んふふふふふ」
グレース:「なっなっ……なぁにすんのよこの変態!!!!!(ハリーを叩く)」
ハリー:「いぃっったぁあ!!」
0:
0:
0:<ハリーの家、食卓>
0:
グレース:「……水飲んで、少しは落ち着いた?」
ハリー:「……はい、ごめんなさい、すいませんでした。反省してます……」
グレース:「…別にそこまで怒っては無いけど、あういうこと女の子にしたら相手困っちゃうから、お酒は程々にね」
ハリー:「いやぁ、抱きつくのはノアにしかしたことないよ」
グレース:「……ノエルにはしなかったの?」
ハリー:「……ノエルは、いつも冷たいしなぁ。ノアを産んだ後も寄るな触るなだったし」
グレース:「……ハリー、ノエルが冷たくしてたのはね、嫌いだったとかじゃなくって……」
ハリー:「知ってるよ。それがノエルなりのお別れの仕方だったんだって」
グレース:「……ノエルの最後には、一緒にいられたの?」
ハリー:「……結果を先に言っちゃうと、一緒には居られなかった」
ハリー:「…あの日、ノエルに久しぶりにノアと2人で遊んでおいでって言われて、2人で隣町まで遊びに行ったんだ」
ハリー:「家に帰ったら近所の人達がうちの前に集まっててさ。商店街のリンゴ屋の前であんたの奥さん倒れてたって聞いて」
ハリー:「街の人が抱えてくれてたノエルは、もうすでに冷たくなってた」
ハリー:「…別れの言葉も、言えなかったよ」
グレース:「……そうだったんだ」
ハリー:「うん……」
グレース:「……ごめん、持病のこと黙ってて」
ハリー:「……グレース、知ってたの?」
グレース:「うん、偶然ね。当時、絶対に誰にも言わないでって泣き叫ばれたわ」
ハリー:「そんなに、隠したかったのか…」
0:
ポール:「(N)グレースが髪を耳にかける。これは彼女が大事な話をする時によく出る癖だ」
0:
0:<間>
0:
ハリー:「あ、ごめん。なんか用事があって来てくれたんだよね」
グレース:「おっ、よく分かったわね」
グレース:「別にさっきその話を聞いたのは偶然なんだけどさ」
グレース:「……これをね、届けに来たの」
0:
ポール:「(N)封筒の表には、愛しの君へと書かれており、裏にはノエルと書いてある」
0:
ハリー:「……愛しの君へ……これグレースからのラブレター…?」
グレース:「はぁ?違うし!…字でわかんないの?…宛名も見なさい」
ハリー:「宛名は……ノ、エル、ノエル!これ!どこにあったの!」
グレース:「……それはね、ハリーが落ち込んで夢を諦めそうになった時、渡してあげてってノエルから預かってたの」
ハリー:「……嬉しい…ありがとう。ありがとうグレース。ちゃんと約束守って、その時に届けに来てくれて」
グレース:「当たり前でしょ。他ならぬノエルの頼みなんだから」
ハリー:「…そういえばグレースはノエル大好きだったよね」
グレース:「今も昔も大好きよ!…さ、開けてみて」
0:
ポール:「(N)ハリーは再び手紙を視界に入れる。手紙を開けようとする手が震え、目からはポロポロと涙が落ちる」
0:
ハリー:「……ごめん俺、これ読めないや。君が、読んでよ」
グレース:「……えぇ、いやよ。んー、そうだなぁ…。ノアちゃん!そこにいるんでしょう、出ておいで」
ノア:「……バレてたんですね……。ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんですけど」
グレース:「いいのよ。ごめんね、わざわざ2人きりにしてくれたのに、呼び戻して」
グレース:「ノアちゃん、この手紙読んでくれる?」
ノア:「私、が?」
グレース:「えぇ…ハリーが読めないなら貴方が読まなきゃ。私が今まで開けずに預かってた意味が無いわ。はい、お願いね」
ノア:「……分かり、ました」
0:
ポール:「(N)ノアは受け取った手紙を両手で胸に当てると、深呼吸をし、封を開けた」
0:
0:<間>
0:
ノア:「私の愛しの人ハリー、愛しの子ノアへ」
ノア:「ハアイ!ハリー。この手紙を読んでいるということは、ハリーはとっても落ち込んでいますね?今頃は、ノアに慰められてるんじゃない?」
ノア:「どうしたー?大丈夫かー?なんかあったかー?私には、何があったか分からないけれど」
ノア:「きっと苦しんでるよね。私はそばにいてあげられないけれど大丈夫。君の側には、ノアも、グレースも、ポールもいるでしょう?」
ノア:「自分で諦めようとしているのなら、まだまだ頑張れるよ」
ノア:「誰かや何かに夢を邪魔されたなら、悲しいよね。悔しいよね。わんわん泣いて、沢山怒っていいよ!」
ノア:「でも、絶対に諦めないで」
ノア:「貴方の内面を信じてくれる人は、沢山、沢山。周りにいるはずだよ」
ノア:「貴方も、みんなを信じてあげて」
ノア:「そして、みんなで解決しよ!そしたら!オールオッケー!」
ノア:「毎日毎日寝る間も惜しんで練習してた貴方の演技は、どれくらい上手になってるのかな」
ノア:「あーあ、お空からも君の演技が見られたらいいなぁ。見られなくても毎日毎日見られるように努力する!」
ノア:「もう書くことないから終わり!じゃあまたね!」
0:
0:<間>
0:
ポール:「(N)くしゃくしゃの字、所々しわしわになった紙。ノエルらしくない明るく元気な言葉達」
ポール:「(N)しっかりと立っていたノアは膝から崩れ落ち、涙と手紙が床に落ちた」
0:
ハリー:「ノアっ、大丈夫か。ごめんよ、パパがこっそり読めばよかった。辛い思いさせたよね」
ノア:「うううん、私だけ仲間はずれは嫌」
ノア:「……お父さん私ね、ママに言いたいことがある。聞こえていなくても、言いたいことが」
ハリー:「…聞こえているはずだよ」
ノア:「うん、そうだよね、私もそう思う」
0:
ポール:「(N)ノアは遺影の前に手紙を置くと、手を合わせて目を瞑った(つぶった)」
0:
ノア:「……ねぇママ……読んだ私たちが悲しくならないようにしようって頑張ってくれたのは、ありがとう。嬉しいよ」
ノア:「……でもさ、それなら私、病気の事教えてくれた方が、嬉しかった……」
ノア:「……っ、……」
ノア:「……なんで!どうしてっ、全部1人で抱えちゃうの!……持たせてよ、私にもパパにも分けてよ」
ハリー:「……っ……」
ノア:「パパとママとノアで持ったら、さんぶんこなんだよっ、……一緒に苦しんで!一緒に泣いて!最後の日まで楽しく暮らせるようにノアもパパも頑張ったよ!」
ノア:「……最後が分かってたなら……お別れくらい言わせてよ……酷いよぉ…」
ノア:「ママの、……ばかぁ……」
0:
ポール:「(N)ハリーは、優しくノアを抱きしめると、寝かせるようにぽんぽんと背中を叩く。自分自身も静かに涙を流しながら」
0:
0:
0:<ハリーの家玄関>
0:
グレース:「ノアちゃん、泣き疲れて寝ちゃったわね」
ハリー:「うん、明日は目がパンパンだぁって大騒ぎするかも」
グレース:「ふふ、目に浮かぶわ」
ハリー:「…グレース、わざわざ届けに来てくれてありがとう。元気でたよ、何があっても頑張れる。そんな気がする」
グレース:「私もいいもの見たわ。……それじゃあ帰るわね」
ハリー:「うん、じゃあ。気をつけて」
0:
ノア:「(N)グレースが道を曲がるまで手を振っていると、廊下から電話の音がしてくる」
0:
0:<間>
0:
ハリー:「あれ、電話……?珍しいな、誰からだろ」
ハリー:「はいもしもし、ハリーです」
ポール:「……ポールだ。大事な話がある、よく聞けよ」
ハリー:「ポ、ポール!ま、まさか劇団を追放……とか……??」
ポール:「はぁ?違うわ。…とりあえず劇場こい」
ハリー:「はっはい……えっ?なんで、昼間はしばらく来なくていいって言ったじゃないか」
ポール:「状況が変わったんだ。ナルサスがお前が劇場に来ないと辺りに火を放つって」
ハリー:「……なんでそんなこと、……ポールもなんで劇場にいるんだ」
ポール:「劇団員みんな劇場からでたら殺すって脅されててな…今みんなで囚われの身よ」
ハリー:「えっ、みんな?いや、でもさっきグレースがうちに来て……」
ポール:「……何言ってんだ、グレースはシャワー室借りるってさっき……まさか!」
ハリー:「……?」
ポール:「ナルサスもさっき出ていった!あいつ!自分がナルサスに執着されてるって分かってるからって囮になりやがった!」
ポール:「おかしいと思ったんだ、人質とってるやつが外に出るなんて……」
ポール:「ハリー!いいから今すぐこい!ナルサスを懲らしめる計画は後で説明する!」
ハリー:「え?何その計画?知らないんだけど?……て、え?……もう切れてるし」
0:
0:
0:<一方その頃>
0:<城下町路地裏>
0:
ノア:「(N)ハリーの家を出た後、グレースは力いっぱい劇場とは反対方向に走る。その後ろを、ナルサスが焦らすように力を抜いて追いかけてくる」
0:
グレース:「はぁっ……はぁっ…」
ナルサス:「まてよぉ、グレース」
グレース:「……誰が、あんたなんか待つのよ!」
ナルサス:「おっせぇなぁグレース、手加減してやってんのに追いついちまうぞ?いいのか?」
グレース:「いいわけないでしょ!」
0:
0:<間>
0:
ノア:「(N)追いつかれるのに、あまり時間はかからなかった。ナルサスはグレースの両手と頭を壁に押さえつける」
0:
ナルサス:「…どうしたんだよ、ハリーの家から突然走り出してさぁ。俺に気がついてたなら、俺をハリーの家に連れて行ってくれたら良かったのに」
グレース:「んんんっ…んーっ」
ナルサス:「そしたら今頃、3人仲良く気持ちいぃこと出来てたってのによぉ……」
ナルサス:「……ふっ、いいや、4人か」
グレース:「!!んんっーんんん」
ナルサス:「上手く逃げられたと思っただろぉ?残念だったなぁあ」
グレース:「んんんっ」
ナルサス:「…俺は優しいからな、想いあってる2人が嫁ぐ前に……みたいなのは邪魔しねぇんだよ」
ナルサス:「だってその方が、奪い取ってやったって高揚感に浸れるからなぁ!」
グレース:「んんんんーっ!」
ナルサス:「まぁでも、随分長かったなぁ?もしかして、本当に途中で入ってきて欲しかったのか?欲しがりだなぁグレースは」
0:
ノア:「(N)グレースはナルサスの手を噛もうと口を動かそうとするが、抑える力が強く、口が開かない」
0:
ナルサス:「あぁ?抵抗のつもりかグレース」
ナルサス:「……いいなぁその弱ぇ抵抗。ゾクゾクするよ。…もっと煽って見せたら、ご褒美にいーことしてやるよ」
グレース:「んんんんー!んん」
ナルサス:「劇団員に手を出すなって団長に言われてるけど」
ナルサス:「そんな約束!飲むわけねぇよなぁあ!」
ナルサス:「……なぁ、俺の子を産めよグレース。お前だけ特別だ。……帰ったら俺ので腹いっぱいにしてやるからさ。嬉しいだろ?だからもう泣くな」
グレース:「……んん、ん」
ナルサス:「……帰ろうか、グレース」
0:
0:
0:<夜中>
0:<劇団エール劇場>
0:
ポール:「…ハリー、作戦はわかってるな」
ハリー:「あぁ、多分大丈夫」
ポール:「心配だよ、私は。お前が上手くやれるのか」
ハリー:「任せろって、何年ここで主役やってると思ってんの」
ポール:「……期待してますよ。私達のヒーロー」
ハリー:「え、なにそのヒーローって」
ポール:「助けてくれる凄いやつの名前だ。ありがたく貰っておけ」
ハリー:「そうなのか?ありがとな」
0:
0:<間>
0:
0:
ノア:「(N)静まり返った劇場に、ナルサスの足音が響く」
0:
ナルサス:「…たく、帰ってる間に気絶しやがって…。つまんねぇな、眠った女とやる趣味はねぇんだよ」
ナルサス:「おーい!みんなァ?起きてるよなぁ!出てこいよぉ」
0:<間>
ナルサス:「あぁ?返事はどうした返事は!皆殺しにされてぇのか!」
ポール:「…されたいわけないだろう」
ナルサス:「おぉポール、約束のハリーはどこにいんだよ!まさか連れてこられなかったとか?」
ナルサス:「じゃあみんなまとめて丸焼きに……」
ハリー:「(遮るように)ナルサス!俺はここだ!」
ノア:「(N)壁にあった松明(たいまつ)に、火がついていく。最後についた松明の奥、舞台の上センターの場所に立っているのは剣を握りしめているハリーだった」
0:
ナルサス:「てめぇ……そこはもう俺の場所なんだよ!どきやがれぇえ!!」
ハリー:「お前のものだって?何言ってるんだ。ここは昔っから俺の立ち位置だよ」
ハリー:「ここに王族の椅子置いてあったけど、子供の頃に使ったものは片付けなさいって言われなかった?」
ハリー:「…あと、なんだっけ。調子に乗るな?お前頭おかしいの?調子に乗ってるのはお前だろ」
ハリー:「…いやまてよ。はーん、そっか。偽物の地位が欲しいだなんて、お前のやりたかった劇はおままごとだったりする?」
ナルサス:「てめぇ、てめぇえええ!!!」
0:
ノア:「(N)ナルサスはハリーに向かって一直線に走っていく。懐から出した短剣を握り、自らが欲しくて欲しくてたまらなかった本当のセンターを目指して」
0:
ナルサス:「いっつもいっつも、目障りなんだよぉおおおお!!!」
ナルサス:「うぁあああああああっ!!」
ハリー:「……挑発に乗ってしまう時点で、お前の負けなんだよナルサス」
0:
ノア:「(N)ハリーはナルサスに向かって、剣を突き立てる。驚いたナルサスはその場に尻もちをついた」
0:
ナルサス:「なっなんだよ!ふ、振り回すんじゃねぇぇ!」
ハリー:「…ちょうど良かったなナルサス、最後にセンターの上に立ててさ」
ナルサス:「は、はぁ?」
ポール:「……今だ!!」
0:
ノア:「(N)ポールが合図すると、舞台の仕掛けが動く音がする」
0:
ナルサス:「なっ、なんだよこの音は……」
0:
ノア:「(N)ナルサスが音の出処に気がついて上を向いた時には既に遅く、ナルサスの体に網や小道具が降ってきた」
0:
ナルサス:「ぐぁっ!ふべっ!うぐっ!ごはっ!」
ナルサス:「……き、きめぇ!なんだこれは!なんでこんな仕掛けが?今度の劇には無かっただろぉがああ!!」
ナルサス:「おい!てめぇら!俺をここから出せ!上手く網が掴めねぇ!」
ナルサス:「なぁ!誰でもいい、誰でもいいからさ!!おい!聞いてんのか!」
ハリー:「ナルサス!!」
ハリー:「お前は人の場所を奪って偉そうに命令し、人をこき使って悪い事ばかりしてきた悪者なんだよ。そんな奴に誰が手を貸す?」
ハリー:「……助けるわけが無いだろ」
ハリー:「もう朝になる、じきにお前の迎えも来るよ。今日からは牢屋の中で生活だろうな」
ナルサス:「うっうそ……だろ」
ナルサス:「い、嫌だ、こんなの耐えられねぇ……出せよ!こっから出せ!出せよぁあああ」
0:
0:
0:<次の日>
0:<城下町酒場>
0:
ハリー:「かんぱーーい!!!」
グレース:「ちょっと、ハイペースで飲みすぎよ。劇団に戻れて、主役も戻ってきたのそんなに嬉しい?」
ハリー:「そりゃあそうだろ!元に戻れるんだ!もう公演来週なんだし、練習しまくるぞぉ!」
グレース:「ふふ、いつものハリーに戻ってよかったわ」
ハリー:「だろぉ!今日は飲むぞー!」
ポール:「お、楽しんでるね。良かった良かった」
ハリー:「ポール!なんだよ!お前も飲むのか!」
ポール:「私はパス、お酒飲むと悪酔いしちゃうからな」
ハリー:「えぇ、なんだよケチだなぁ!飲め飲め!」
グレース:「こらハリー、強要はダメよ。楽しく飲みましょ」
ハリー:「えぇー。じゃあ、グレースが代わりに飲め!」
グレース:「んむっ!ん……(ごくごくごくごく)」
ポール:「わぁ、そんな一気に大丈夫か。グレース死なない?」
ハリー:「大丈夫大丈夫!飲んだってこいつは素直になるだけだよ!」
ポール:「……えっ」
グレース:「……ぐすっ、私、死んじゃうかとおもったぁあ、怖かったよぉぉハリーぃ、ポールぅ!」
ポール:「泣いてるぅう!?え、私グレースが泣いてるところ初めて見たんだけど!?」
ハリー:「あっはははっ、そんなに悲しかったのかぁ、よしよし……」
グレース:「うっうっ、ハリーのバカぁ、みんなにそういうことするんだからぁ……ハリーなんか嫌いぃっ」
ハリー:「ははっ!面白いなぁグレースは!」
ポール:「…お前天然で鈍感なんだから、特に女性に対する行動には気をつけた方がいいぞー……って、お前なんでそんな睨むんだよ」
ハリー:「あのなぁ、俺はノアとノエルのパ!パ!なんだぞ!そういうことは考えてぇない!」
ポール:「そう思ってんなら余計勘違いさせるような行動は慎めって言ってんだよ!?」
ハリー:「あははははっ、ポールのツッコミ、おもしれぇ!」
ポール:「……たく聞いてないか。これは酔いが覚めたら説教しなきゃな」
ハリー:「あははははっ」
グレース:「ねぇポールぅ……ど、どう?こんぐらい色っぽくしたら男の人って好きになってくれると思う?」
ポール:「……あ、あほか!谷間をしまえ!私は嫌だぞ!グレースが取っかえ引っ変えの色情魔になったら!!」
グレース:「……そっかぁ…普通の私を好きになってくれる人、どっかにいないかなぁ」
ポール:「……大丈夫大丈夫、何しててもグレースは可愛いから。まだ出会えてないだけだよ」
グレース:「ほんとぉ!ポールぅ!頑張る!私頑張るからぁあ」
ポール:「ちょっ!くっくるしい……し、しぬって」
ハリー:「……くっくははっ、お前らといるとほんっと飽きないよな!あっははははっ」
0:
0:
0:<間>
0:
ノア:「(N)くすっ、あっごめんなさい。ごほんっ。このお話はここまで」
ノア:「(N)え?ナルサスがその後どうなったかって?」
ノア:「(N)……んーそれはまた、別の機会に」
0:
ノア:「(N)じゃあ。今回はもう終わろっか」
ノア:「(N)ナルサスの葛藤、おしまい、おしまい」
0:
0:
0:<劇団エール舞台裏>
0:<団長室>
0:
ポール:「ハリー……お前、今日なんでここに呼ばれたか分かるか?」
ハリー:「……いやぁ、正直、なんで呼ばれたか分かっていなくてですね…」
ポール:「…これだよ!こ、れ!」
0:
ノア:「(N)ポールは机の上に置いてあった紙束を掴むと、再び机の上に置いた」
0:
ハリー:「あっそれ俺が書いた台本ですよね!1次審査通った、とか?」
ポール:「んなわけあるか!あのなぁハリー、お前何も台本まで書くことないだろ」
ハリー:「でもっ、その台本は俺にとって特に大事なもので……」
ポール:「(遮るように)書いてくれるやつなんかいくらでもいるんだ。お前はこの劇団の花形なんだから劇に集中しろ」
ポール:「こんな無駄なもの生み出すな」
ポール:「読む気にもならん。邪魔だから持って帰ってくれ」
ハリー:「そんな……」
ポール:「ほぉら!帰った帰った!」
0:
ノア:「(N)ポールは立ち上がりハリーのお腹に台本を押し付けると、部屋を出ていった」
0:
ハリー:「……(小声で)いくらでもいるのに、その1つになることも許されないのか」
0:
0:<間>
0:<少しして……>
0:
グレース:「うん、面白かったわ」
ハリー:「本当に!」
グレース:「えぇ、贔屓目(ひいきめ)無しに素敵なお話だと思う」
グレース:「みんな死んじゃう悲劇のバッドエンドかと思ったら、1人の勇気ある部外者のおかげでハッピーエンドになるのね」
ハリー:「そう!自分に自信が無い人や、非力だって思ってる人の力になれたらいいなって思って」
グレース:「いいじゃない。私このお話好きよ。ハリーっぽくて好き」
ハリー:「ねぇやっぱりさ」
グレース:「(遮るように)それで?このお話がどうかしたの」
ハリー:「え?あぁ、それがさ……」
0:
ポール:「(N)ハリーは先程あったことをグレースに伝えた」
0:
グレース:「はぁ?何それ意味わかんない。別にいいじゃない誰が書いたって」
ハリー:「それは、俺もそう思う」
グレース:「あったまきた!ポールのやつ、1発お見舞いしてやろうかしら…」
ハリー:「グレース、抑えて抑えて」
グレース:「ぬぬぬ、……あっ、いいこと思いついた!ねぇハリー…」
0:
ポール:「(N)グレースが話をしていると、休憩室のドアが開く。開けたのはナルサスという男だった」
0:
ナルサス:「朝から晩まで女を取っかえ引っ変え、忙しい野郎だなぁお前は」
ハリー:「……ナルサス」
ナルサス:「性病にでもなったらどうする?お前の綺麗なその顔に赤い斑点がいくつもついたら、なぁ?」
グレース:「……ごめんハリー、私もう帰るね」
ナルサス:「おいおい待てよグレース、俺の誘いを断っておいてハリーとイチャコラしてたのは許してやるからさ」
0:
ポール:「(N)喋りながらじりじりと近づいてきていたナルサスは、そう言ってグレースの腰を抱く」
0:
グレース:「!!」
ナルサス:「細いのに出るとこ出て…ホント、いい体してるよなァグレース。…さっきはどこまでヤったんだ?」
グレース:「そんなことするわけないじゃない!…離してっ!」
ナルサス:「釣れないなぁグレース…。まぁそういうところが可愛いんだが」
グレース:「…やめ、てっ」
ハリー:「……ナルサス、いい加減にしろ。グレースを離せ」
ナルサス:「あぁ?なんだよ、お前ら…付き合ってんのか?」
ハリー:「……別に、そういう関係ではないけど」
ナルサス:「じゃあ口出して来んなよ、何度か抱いたぐらいで調子に……」
ハリー:「手を出したことなど1度もない!ナルサス。その手を離さないんだったら…叫ぶぞ」
ナルサス:「あぁ?」
ハリー:「いいのか?劇団エール1の大声が出せる俺が…助けを呼んだら、どこまで聞こえると思う?」
ナルサス:「……(小声で)ちっ、数ある内の1人取られたくらいで…ちっせぇ奴だな」
0:
ポール:「(N)ナルサスはグレースの腰から手を離すと、ハリーを睨みながらドアを勢いよく閉めて出ていった」
0:
0:
0:<間>
ハリー:「……大丈夫?」
グレース:「……えぇ、ごめんハリー。変なことに巻き込んじゃって……」
ハリー:「うううん、大丈夫。……震えているね、顔も青白いし今日はもう帰った方がいいよ」
グレース:「うん……ありがとう、そうするわ」
グレース:「…あっ、そうだ忘れてた」
ハリー:「ん…?何を?」
グレース:「ほら、さっき話の途中であいつ入ってきたから言えなかったんだけど」
グレース:「…ハリー、題名と氏名って変えられる?」
ハリー:「えっ…もしかして」
グレース:「そう、そのもしかして。中身はハリーでも、外からはハリーだって分からないようにしちゃえばいいんじゃない?」
グレース:「…作者名は、そうねぇ。ノアとハリーが作ったお話だから、リィノ、はどうかしら?」
0:
0:<間>
0:
0:<数日後>
0:<劇団エール舞台上>
0:
ポール:「おはよう。みんな集まったかな」
ポール:「えぇ…ごほん。今日はこの間募集した次の台本を決める審査が終わったので、報告しようと思う」
ポール:「結果だが……」
ポール:「一般参加枠のリィノ!今回はこの方の台本でいこうと思う」
0:
ノア:「(N)衝撃の結果に、劇団員がどよめく」
0:
ハリー:「(M)ポールのやつ、本当に中身読んでなかったんだ……でも、採用されて良かった。…ふふ、今日はノアとパーティだな」
0:
ポール:「(手を叩きながら)静かに!しぃずぅかぁにぃ!」
ポール:「えぇ…一般参加枠の台本が使われるのは劇団エール始まって以来初のことだが、1番魅力を感じ…演じてみたいと思った」
ポール:「言いたいことはあるだろうが、君達も読んでみたら分かるはずだ」
ポール:「それじゃあ各自、発声練習等すること」
ポール:「1時間後合同で読み合わせするので、それまで自由時間」
ポール:「さぁ解散!解散!」
0:
0:
グレース:「(小声で)良かったわね、ハリー……ノエルもきっと喜んでるわ」
0:
0:<城下町酒場>
0:
ハリー:「かんぱーーい!!」
ノア:「ちょっとお父さん!エール飲みすぎ!」
ハリー:「えぇえん、いいじゃあん……(ごくごく)」
ノア:「もう飲んじゃだめ!」
ハリー:「ぷはぁっ、ノアはほんっとうに、かぁわいいなぁ……」
ノア:「ちょっ、話を逸らすな、抱きつくなぁ!」
ハリー:「いいだろぉ。パパ、最近ノアがちょっと冷たくって、寂しいんだよぉ」
ノア:「別に冷たくしてないよ」
ハリー:「してるだろぉ!朝のちゅーも夜のちゅーも無くなっちゃって、そんな冷たいんじゃ、パパ死んじゃうんだからなぁあ」
ノア:「……なら…」
ハリー:「んーー?」
ノア:「……たまになら、してあげる」
ハリー:「はぁああノアああ、愛してるぞぉぉ!ちゅちゅちゅ」
ノア:「やーめーてー!はーなーしーて!」
ハリー:「やだぁあ」
ノア:「もー!お父さんのバカァ!」
0:
0:<間>
0:
0:<城下町、同じく酒場>
0:
ナルサス:「ひっく」
ナルサス:「(M)いやぁ、飲みすぎたな。今日はハズレの日だ。指名した女はデブなババアだったし、……受付にあったあの絵、詐欺だろ」
ナルサス:「(M)てかよ……」
ナルサス:「(M)さっきから騒いでるあの席の男、ハリーか?随分酔っ払ってるみたいだが……」
0:
0:
ハリー:「いんやぁ!それにしてもよかったぁ!」
ノア:「ふふ、良かったね」
ハリー:「なんだよぉ、ノアも一緒に考えてくれただろ?嬉しくないのかぁ?」
ノア:「んー、どうかなぁ」
ハリー:「ふふ、嬉しいんだろぉ、俺達の物語の採用を祝ってぇ、かんぱーーい!!!」
ノア:「あーあ、絶対明日二日酔いになってもスープ作ってあげないから」
0:
0:
ナルサス:「(小声で)……俺達の物語の、採用?」
ナルサス:「(M)どういうことだ?物語の採用ってことは劇団の台本の話だよな」
ナルサス:「(M)今回は一般のやつの台本が選ばれたよな……それがなんで俺達の?」
ナルサス:「まさか……」
ナルサス:「…おい!そこの給仕。金はここに置いていくぞ」
0:
0:
ポール:「(N)ナルサスは席を立ち店を出ると、そのまま劇場の方へと向かう」
0:
ナルサス:「あはっ、あははっ、いーこと聞いちまったなぁあ」
ナルサス:「俺の台本が採用されるはずだったのによぉ、おかしいと思ったんだ」
ナルサス:「あいつの事だ、なんかしたに違いねぇ」
ナルサス:「俺の出世の道を邪魔しやがって……。調子に乗ってんじゃあねぇぞ!!」
0:
ポール:「(N)ナルサスが道端にあった樽を勢いよく蹴る」
0:
ナルサス:「ふぅー、地獄見せてやらねぇと、わかんねぇみたいだなぁ。」
ナルサス:「次あいつが劇場に来る日が楽しみだよ」
ナルサス:「あははっあははははは……」
街の人:「(遮るように)さっきからうるっさいんだよあんた!今何時だと思ってんだい!ガキは早く帰って、ねんねしな!!」
0:
ポール:「(N)街の人が投げた小石が、ナルサスの頭に当たった。」
0:
ナルサス:「……いってぇなっ!てめぇ何すんだゴラァ!当たり所悪かったら死んでたぞ!」
0:
0:
0:<数日後>
0:<劇団エール団長室>
0:
ハリー:「急に呼び出して…なんですか、団長」
ポール:「あぁ…実はだな。今度の劇の主役だが……ハリーからナルサスに変更になった」
ハリー:「……えっどうして!」
ポール:「なぁ、ハリー……お前、最近新人をいじめてるらしいじゃないか」
ポール:「団員数名から聞いている」
ハリー:「はぁ?そんなことしてないですよ!」
ポール:「……彼女達はみんな震えながら話をしてくれたぞ。…嘘をついているようには見えなかった」
ポール:「…ハリー、お前には村人A役をやってもらう」
ハリー:「!!」
ポール:「本来なら追放レベルだが……見せしめに村人Aにした」
ハリー:「そんな!ポール!!俺を信じてよ!」
ポール:「黙れ!」
ハリー:「っ……」
ポール:「見損なったよハリー……今日はもう帰れ。セリフも沢山から1つになった。しばらく劇場にも来なくていい」
ポール:「…ナルサス、そこにいるだろう。こいつを追い出しておけ」
0:
ノア:「(N)ハリーがギィと扉が開く方を見ると、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべたナルサスがいた」
0:
ハリー:「…お前!」
ナルサス:「ハリー、どうしたんだよ、お前なんて呼んでさ」
ナルサス:「ふっはははっ、ガキは早く、かえんなっ!」
0:
ノア:「(N)ナルサスは思い切りハリーを蹴って部屋の外に出し、扉を閉めた」
0:
0:
ポール:「ナ、ナルサス。これでいいんだろう?もう、うちの子達を家に帰らせてやってくれ」
ナルサス:「うちの子達だぁ?劇団員のこと、そんな風に思ってんのか」
ナルサス:「……お前がずっと抵抗しないのが謎だったが、そんなにうちの子達が大事なのかぁ!」
ナルサス:「…滑稽だなぁポール!…どんだけ悪いことしても大事なんだもんなぁ?うちの子が、さ」
ポール:「……」
ナルサス:「てかよぉ、ポール。俺はみんなを解放したかったら、ハリーを永久追放しろって言ったよな?」
ポール:「……っ」
ナルサス:「まぁいい、お前ら幼なじみなんだろう?情けをかけちまうのは分かる」
ポール:「……」
ナルサス:「…でもなぁ!命令無視したのに、解放するわけねぇだろうがぁ!……俺はあいつを視界から消さないと気がすまねぇんだよ!」
ナルサス:「……そうだぁポール、今夜あいつを呼び出せ…出来なきゃ劇団員ごとここは火の海だ」
ナルサス:「分かったか?今度こそしっかりやれよ……ポール」
ポール:「…好きにしろ」
ナルサス:「ははっ、強がってんのバレバレなんだよぉポール!…おいそこの女ァ!酒持ってこい酒!」
0:
ポール:「(小声で)……すまないハリー、私たちの劇団なのに、……こんなことになってしまって」
ナルサス:「おいポール、なんか言ったか」
ポール:「なんでもないよ、ナルサス。機材班と次の劇の打ち合わせしてくるから、少し席を外すよ」
ナルサス:「……ポール、分かってるよな?裏切るんじゃあねぇぞ」
ポール:「……っわかっている」
ナルサス:「くっははっ、あっははははははっ」
0:
ノア:「(N)……ナルサスの高笑いが、冷たくなった劇場中に響き渡った」
0:
0:<間>
0:
0:<その日の夜、ハリーの家>
0:
ハリー:「どぉおしようノアあああ、パパほぼ無職になっちゃったよぉおお」
ノア:「落ち着いてお父さん、まだ村人Aだっけ?役はあるんでしょう?」
ハリー:「僕は子供1人養えないプー太郎になってしまうんだあああ」
ノア:「あーあ、酔すぎ。吐くのも時間の問題かな」
0:
ポール:「(N)ドアを何度もノックする音がする」
0:
ノア:「あれ、誰か来てるのかな。もう!パパがうるさいから全然気づかなかった!」
ハリー:「いかないでくれぇノアあああ」
ノア:「足から手を離して!あぁもう、はーい!今行きまーす」
0:
ポール:「(N)ハリーを引きずりながらドアを開けると、そこには息を切らしたグレースがいた」
0:
グレース:「…やっ、ノアちゃんこんばんは……あと、この世の終わりみたいに叫んでノアちゃんに引っ付いてるこれは……ハリー?」
ノア:「はい……そうです……」
ハリー:「あああぁあんうわああん」
グレース:「うるっさ……外まで聞こえてたけど、普段とのギャップありすぎて家間違えたかと思ったわよ」
ハリー:「……んあ?グレース?グレースじゃないかぁああ」
0:
ポール:「(N)カエルのようにぴょこんとはねたハリーは、グレースの胸元にダイブしてグレースを強く抱きしめた」
0:
グレース:「なっ……ななっななななっ」
ハリー:「んふふ、グレース、んふふふふふ」
グレース:「なっなっ……なぁにすんのよこの変態!!!!!(ハリーを叩く)」
ハリー:「いぃっったぁあ!!」
0:
0:
0:<ハリーの家、食卓>
0:
グレース:「……水飲んで、少しは落ち着いた?」
ハリー:「……はい、ごめんなさい、すいませんでした。反省してます……」
グレース:「…別にそこまで怒っては無いけど、あういうこと女の子にしたら相手困っちゃうから、お酒は程々にね」
ハリー:「いやぁ、抱きつくのはノアにしかしたことないよ」
グレース:「……ノエルにはしなかったの?」
ハリー:「……ノエルは、いつも冷たいしなぁ。ノアを産んだ後も寄るな触るなだったし」
グレース:「……ハリー、ノエルが冷たくしてたのはね、嫌いだったとかじゃなくって……」
ハリー:「知ってるよ。それがノエルなりのお別れの仕方だったんだって」
グレース:「……ノエルの最後には、一緒にいられたの?」
ハリー:「……結果を先に言っちゃうと、一緒には居られなかった」
ハリー:「…あの日、ノエルに久しぶりにノアと2人で遊んでおいでって言われて、2人で隣町まで遊びに行ったんだ」
ハリー:「家に帰ったら近所の人達がうちの前に集まっててさ。商店街のリンゴ屋の前であんたの奥さん倒れてたって聞いて」
ハリー:「街の人が抱えてくれてたノエルは、もうすでに冷たくなってた」
ハリー:「…別れの言葉も、言えなかったよ」
グレース:「……そうだったんだ」
ハリー:「うん……」
グレース:「……ごめん、持病のこと黙ってて」
ハリー:「……グレース、知ってたの?」
グレース:「うん、偶然ね。当時、絶対に誰にも言わないでって泣き叫ばれたわ」
ハリー:「そんなに、隠したかったのか…」
0:
ポール:「(N)グレースが髪を耳にかける。これは彼女が大事な話をする時によく出る癖だ」
0:
0:<間>
0:
ハリー:「あ、ごめん。なんか用事があって来てくれたんだよね」
グレース:「おっ、よく分かったわね」
グレース:「別にさっきその話を聞いたのは偶然なんだけどさ」
グレース:「……これをね、届けに来たの」
0:
ポール:「(N)封筒の表には、愛しの君へと書かれており、裏にはノエルと書いてある」
0:
ハリー:「……愛しの君へ……これグレースからのラブレター…?」
グレース:「はぁ?違うし!…字でわかんないの?…宛名も見なさい」
ハリー:「宛名は……ノ、エル、ノエル!これ!どこにあったの!」
グレース:「……それはね、ハリーが落ち込んで夢を諦めそうになった時、渡してあげてってノエルから預かってたの」
ハリー:「……嬉しい…ありがとう。ありがとうグレース。ちゃんと約束守って、その時に届けに来てくれて」
グレース:「当たり前でしょ。他ならぬノエルの頼みなんだから」
ハリー:「…そういえばグレースはノエル大好きだったよね」
グレース:「今も昔も大好きよ!…さ、開けてみて」
0:
ポール:「(N)ハリーは再び手紙を視界に入れる。手紙を開けようとする手が震え、目からはポロポロと涙が落ちる」
0:
ハリー:「……ごめん俺、これ読めないや。君が、読んでよ」
グレース:「……えぇ、いやよ。んー、そうだなぁ…。ノアちゃん!そこにいるんでしょう、出ておいで」
ノア:「……バレてたんですね……。ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんですけど」
グレース:「いいのよ。ごめんね、わざわざ2人きりにしてくれたのに、呼び戻して」
グレース:「ノアちゃん、この手紙読んでくれる?」
ノア:「私、が?」
グレース:「えぇ…ハリーが読めないなら貴方が読まなきゃ。私が今まで開けずに預かってた意味が無いわ。はい、お願いね」
ノア:「……分かり、ました」
0:
ポール:「(N)ノアは受け取った手紙を両手で胸に当てると、深呼吸をし、封を開けた」
0:
0:<間>
0:
ノア:「私の愛しの人ハリー、愛しの子ノアへ」
ノア:「ハアイ!ハリー。この手紙を読んでいるということは、ハリーはとっても落ち込んでいますね?今頃は、ノアに慰められてるんじゃない?」
ノア:「どうしたー?大丈夫かー?なんかあったかー?私には、何があったか分からないけれど」
ノア:「きっと苦しんでるよね。私はそばにいてあげられないけれど大丈夫。君の側には、ノアも、グレースも、ポールもいるでしょう?」
ノア:「自分で諦めようとしているのなら、まだまだ頑張れるよ」
ノア:「誰かや何かに夢を邪魔されたなら、悲しいよね。悔しいよね。わんわん泣いて、沢山怒っていいよ!」
ノア:「でも、絶対に諦めないで」
ノア:「貴方の内面を信じてくれる人は、沢山、沢山。周りにいるはずだよ」
ノア:「貴方も、みんなを信じてあげて」
ノア:「そして、みんなで解決しよ!そしたら!オールオッケー!」
ノア:「毎日毎日寝る間も惜しんで練習してた貴方の演技は、どれくらい上手になってるのかな」
ノア:「あーあ、お空からも君の演技が見られたらいいなぁ。見られなくても毎日毎日見られるように努力する!」
ノア:「もう書くことないから終わり!じゃあまたね!」
0:
0:<間>
0:
ポール:「(N)くしゃくしゃの字、所々しわしわになった紙。ノエルらしくない明るく元気な言葉達」
ポール:「(N)しっかりと立っていたノアは膝から崩れ落ち、涙と手紙が床に落ちた」
0:
ハリー:「ノアっ、大丈夫か。ごめんよ、パパがこっそり読めばよかった。辛い思いさせたよね」
ノア:「うううん、私だけ仲間はずれは嫌」
ノア:「……お父さん私ね、ママに言いたいことがある。聞こえていなくても、言いたいことが」
ハリー:「…聞こえているはずだよ」
ノア:「うん、そうだよね、私もそう思う」
0:
ポール:「(N)ノアは遺影の前に手紙を置くと、手を合わせて目を瞑った(つぶった)」
0:
ノア:「……ねぇママ……読んだ私たちが悲しくならないようにしようって頑張ってくれたのは、ありがとう。嬉しいよ」
ノア:「……でもさ、それなら私、病気の事教えてくれた方が、嬉しかった……」
ノア:「……っ、……」
ノア:「……なんで!どうしてっ、全部1人で抱えちゃうの!……持たせてよ、私にもパパにも分けてよ」
ハリー:「……っ……」
ノア:「パパとママとノアで持ったら、さんぶんこなんだよっ、……一緒に苦しんで!一緒に泣いて!最後の日まで楽しく暮らせるようにノアもパパも頑張ったよ!」
ノア:「……最後が分かってたなら……お別れくらい言わせてよ……酷いよぉ…」
ノア:「ママの、……ばかぁ……」
0:
ポール:「(N)ハリーは、優しくノアを抱きしめると、寝かせるようにぽんぽんと背中を叩く。自分自身も静かに涙を流しながら」
0:
0:
0:<ハリーの家玄関>
0:
グレース:「ノアちゃん、泣き疲れて寝ちゃったわね」
ハリー:「うん、明日は目がパンパンだぁって大騒ぎするかも」
グレース:「ふふ、目に浮かぶわ」
ハリー:「…グレース、わざわざ届けに来てくれてありがとう。元気でたよ、何があっても頑張れる。そんな気がする」
グレース:「私もいいもの見たわ。……それじゃあ帰るわね」
ハリー:「うん、じゃあ。気をつけて」
0:
ノア:「(N)グレースが道を曲がるまで手を振っていると、廊下から電話の音がしてくる」
0:
0:<間>
0:
ハリー:「あれ、電話……?珍しいな、誰からだろ」
ハリー:「はいもしもし、ハリーです」
ポール:「……ポールだ。大事な話がある、よく聞けよ」
ハリー:「ポ、ポール!ま、まさか劇団を追放……とか……??」
ポール:「はぁ?違うわ。…とりあえず劇場こい」
ハリー:「はっはい……えっ?なんで、昼間はしばらく来なくていいって言ったじゃないか」
ポール:「状況が変わったんだ。ナルサスがお前が劇場に来ないと辺りに火を放つって」
ハリー:「……なんでそんなこと、……ポールもなんで劇場にいるんだ」
ポール:「劇団員みんな劇場からでたら殺すって脅されててな…今みんなで囚われの身よ」
ハリー:「えっ、みんな?いや、でもさっきグレースがうちに来て……」
ポール:「……何言ってんだ、グレースはシャワー室借りるってさっき……まさか!」
ハリー:「……?」
ポール:「ナルサスもさっき出ていった!あいつ!自分がナルサスに執着されてるって分かってるからって囮になりやがった!」
ポール:「おかしいと思ったんだ、人質とってるやつが外に出るなんて……」
ポール:「ハリー!いいから今すぐこい!ナルサスを懲らしめる計画は後で説明する!」
ハリー:「え?何その計画?知らないんだけど?……て、え?……もう切れてるし」
0:
0:
0:<一方その頃>
0:<城下町路地裏>
0:
ノア:「(N)ハリーの家を出た後、グレースは力いっぱい劇場とは反対方向に走る。その後ろを、ナルサスが焦らすように力を抜いて追いかけてくる」
0:
グレース:「はぁっ……はぁっ…」
ナルサス:「まてよぉ、グレース」
グレース:「……誰が、あんたなんか待つのよ!」
ナルサス:「おっせぇなぁグレース、手加減してやってんのに追いついちまうぞ?いいのか?」
グレース:「いいわけないでしょ!」
0:
0:<間>
0:
ノア:「(N)追いつかれるのに、あまり時間はかからなかった。ナルサスはグレースの両手と頭を壁に押さえつける」
0:
ナルサス:「…どうしたんだよ、ハリーの家から突然走り出してさぁ。俺に気がついてたなら、俺をハリーの家に連れて行ってくれたら良かったのに」
グレース:「んんんっ…んーっ」
ナルサス:「そしたら今頃、3人仲良く気持ちいぃこと出来てたってのによぉ……」
ナルサス:「……ふっ、いいや、4人か」
グレース:「!!んんっーんんん」
ナルサス:「上手く逃げられたと思っただろぉ?残念だったなぁあ」
グレース:「んんんっ」
ナルサス:「…俺は優しいからな、想いあってる2人が嫁ぐ前に……みたいなのは邪魔しねぇんだよ」
ナルサス:「だってその方が、奪い取ってやったって高揚感に浸れるからなぁ!」
グレース:「んんんんーっ!」
ナルサス:「まぁでも、随分長かったなぁ?もしかして、本当に途中で入ってきて欲しかったのか?欲しがりだなぁグレースは」
0:
ノア:「(N)グレースはナルサスの手を噛もうと口を動かそうとするが、抑える力が強く、口が開かない」
0:
ナルサス:「あぁ?抵抗のつもりかグレース」
ナルサス:「……いいなぁその弱ぇ抵抗。ゾクゾクするよ。…もっと煽って見せたら、ご褒美にいーことしてやるよ」
グレース:「んんんんー!んん」
ナルサス:「劇団員に手を出すなって団長に言われてるけど」
ナルサス:「そんな約束!飲むわけねぇよなぁあ!」
ナルサス:「……なぁ、俺の子を産めよグレース。お前だけ特別だ。……帰ったら俺ので腹いっぱいにしてやるからさ。嬉しいだろ?だからもう泣くな」
グレース:「……んん、ん」
ナルサス:「……帰ろうか、グレース」
0:
0:
0:<夜中>
0:<劇団エール劇場>
0:
ポール:「…ハリー、作戦はわかってるな」
ハリー:「あぁ、多分大丈夫」
ポール:「心配だよ、私は。お前が上手くやれるのか」
ハリー:「任せろって、何年ここで主役やってると思ってんの」
ポール:「……期待してますよ。私達のヒーロー」
ハリー:「え、なにそのヒーローって」
ポール:「助けてくれる凄いやつの名前だ。ありがたく貰っておけ」
ハリー:「そうなのか?ありがとな」
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0:<間>
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ノア:「(N)静まり返った劇場に、ナルサスの足音が響く」
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ナルサス:「…たく、帰ってる間に気絶しやがって…。つまんねぇな、眠った女とやる趣味はねぇんだよ」
ナルサス:「おーい!みんなァ?起きてるよなぁ!出てこいよぉ」
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ナルサス:「あぁ?返事はどうした返事は!皆殺しにされてぇのか!」
ポール:「…されたいわけないだろう」
ナルサス:「おぉポール、約束のハリーはどこにいんだよ!まさか連れてこられなかったとか?」
ナルサス:「じゃあみんなまとめて丸焼きに……」
ハリー:「(遮るように)ナルサス!俺はここだ!」
ノア:「(N)壁にあった松明(たいまつ)に、火がついていく。最後についた松明の奥、舞台の上センターの場所に立っているのは剣を握りしめているハリーだった」
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ナルサス:「てめぇ……そこはもう俺の場所なんだよ!どきやがれぇえ!!」
ハリー:「お前のものだって?何言ってるんだ。ここは昔っから俺の立ち位置だよ」
ハリー:「ここに王族の椅子置いてあったけど、子供の頃に使ったものは片付けなさいって言われなかった?」
ハリー:「…あと、なんだっけ。調子に乗るな?お前頭おかしいの?調子に乗ってるのはお前だろ」
ハリー:「…いやまてよ。はーん、そっか。偽物の地位が欲しいだなんて、お前のやりたかった劇はおままごとだったりする?」
ナルサス:「てめぇ、てめぇえええ!!!」
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ノア:「(N)ナルサスはハリーに向かって一直線に走っていく。懐から出した短剣を握り、自らが欲しくて欲しくてたまらなかった本当のセンターを目指して」
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ナルサス:「いっつもいっつも、目障りなんだよぉおおおお!!!」
ナルサス:「うぁあああああああっ!!」
ハリー:「……挑発に乗ってしまう時点で、お前の負けなんだよナルサス」
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ノア:「(N)ハリーはナルサスに向かって、剣を突き立てる。驚いたナルサスはその場に尻もちをついた」
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ナルサス:「なっなんだよ!ふ、振り回すんじゃねぇぇ!」
ハリー:「…ちょうど良かったなナルサス、最後にセンターの上に立ててさ」
ナルサス:「は、はぁ?」
ポール:「……今だ!!」
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ノア:「(N)ポールが合図すると、舞台の仕掛けが動く音がする」
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ナルサス:「なっ、なんだよこの音は……」
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ノア:「(N)ナルサスが音の出処に気がついて上を向いた時には既に遅く、ナルサスの体に網や小道具が降ってきた」
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ナルサス:「ぐぁっ!ふべっ!うぐっ!ごはっ!」
ナルサス:「……き、きめぇ!なんだこれは!なんでこんな仕掛けが?今度の劇には無かっただろぉがああ!!」
ナルサス:「おい!てめぇら!俺をここから出せ!上手く網が掴めねぇ!」
ナルサス:「なぁ!誰でもいい、誰でもいいからさ!!おい!聞いてんのか!」
ハリー:「ナルサス!!」
ハリー:「お前は人の場所を奪って偉そうに命令し、人をこき使って悪い事ばかりしてきた悪者なんだよ。そんな奴に誰が手を貸す?」
ハリー:「……助けるわけが無いだろ」
ハリー:「もう朝になる、じきにお前の迎えも来るよ。今日からは牢屋の中で生活だろうな」
ナルサス:「うっうそ……だろ」
ナルサス:「い、嫌だ、こんなの耐えられねぇ……出せよ!こっから出せ!出せよぁあああ」
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0:<次の日>
0:<城下町酒場>
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ハリー:「かんぱーーい!!!」
グレース:「ちょっと、ハイペースで飲みすぎよ。劇団に戻れて、主役も戻ってきたのそんなに嬉しい?」
ハリー:「そりゃあそうだろ!元に戻れるんだ!もう公演来週なんだし、練習しまくるぞぉ!」
グレース:「ふふ、いつものハリーに戻ってよかったわ」
ハリー:「だろぉ!今日は飲むぞー!」
ポール:「お、楽しんでるね。良かった良かった」
ハリー:「ポール!なんだよ!お前も飲むのか!」
ポール:「私はパス、お酒飲むと悪酔いしちゃうからな」
ハリー:「えぇ、なんだよケチだなぁ!飲め飲め!」
グレース:「こらハリー、強要はダメよ。楽しく飲みましょ」
ハリー:「えぇー。じゃあ、グレースが代わりに飲め!」
グレース:「んむっ!ん……(ごくごくごくごく)」
ポール:「わぁ、そんな一気に大丈夫か。グレース死なない?」
ハリー:「大丈夫大丈夫!飲んだってこいつは素直になるだけだよ!」
ポール:「……えっ」
グレース:「……ぐすっ、私、死んじゃうかとおもったぁあ、怖かったよぉぉハリーぃ、ポールぅ!」
ポール:「泣いてるぅう!?え、私グレースが泣いてるところ初めて見たんだけど!?」
ハリー:「あっはははっ、そんなに悲しかったのかぁ、よしよし……」
グレース:「うっうっ、ハリーのバカぁ、みんなにそういうことするんだからぁ……ハリーなんか嫌いぃっ」
ハリー:「ははっ!面白いなぁグレースは!」
ポール:「…お前天然で鈍感なんだから、特に女性に対する行動には気をつけた方がいいぞー……って、お前なんでそんな睨むんだよ」
ハリー:「あのなぁ、俺はノアとノエルのパ!パ!なんだぞ!そういうことは考えてぇない!」
ポール:「そう思ってんなら余計勘違いさせるような行動は慎めって言ってんだよ!?」
ハリー:「あははははっ、ポールのツッコミ、おもしれぇ!」
ポール:「……たく聞いてないか。これは酔いが覚めたら説教しなきゃな」
ハリー:「あははははっ」
グレース:「ねぇポールぅ……ど、どう?こんぐらい色っぽくしたら男の人って好きになってくれると思う?」
ポール:「……あ、あほか!谷間をしまえ!私は嫌だぞ!グレースが取っかえ引っ変えの色情魔になったら!!」
グレース:「……そっかぁ…普通の私を好きになってくれる人、どっかにいないかなぁ」
ポール:「……大丈夫大丈夫、何しててもグレースは可愛いから。まだ出会えてないだけだよ」
グレース:「ほんとぉ!ポールぅ!頑張る!私頑張るからぁあ」
ポール:「ちょっ!くっくるしい……し、しぬって」
ハリー:「……くっくははっ、お前らといるとほんっと飽きないよな!あっははははっ」
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0:<間>
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ノア:「(N)くすっ、あっごめんなさい。ごほんっ。このお話はここまで」
ノア:「(N)え?ナルサスがその後どうなったかって?」
ノア:「(N)……んーそれはまた、別の機会に」
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ノア:「(N)じゃあ。今回はもう終わろっか」
ノア:「(N)ナルサスの葛藤、おしまい、おしまい」
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