台本概要

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タイトル 演劇部 半兵衛
作者名 熊野むっち  (@mucchi_0908)
ジャンル コメディ
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【声劇配信時の規約】
・配信時に作者名および作品名を記載
※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。
(投げ銭の有無、有償無償に関わらず)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
半兵衛 96 竹中半兵衛(たけなか・はんべえ) 羽柴秀吉の軍師。死後、現代に転生する。
ヒデ子 136 羽柴ヒデ子(はねしば・ひでこ) 稲葉山高校一年。演劇同好会会長。 兼ね役(秀吉)があります。
ハッチ 114 蜂須賀六花(はちすか・りっか) 稲葉山高校一年。ヒデ子の親友? 兼ね役(小六)があります。
前野 93 前野ヤスシ(まえの・やすし) 稲葉山高校教諭。専科は家庭科だけど歴ヲタ。 兼ね役(将右衛門)があります。
タツヲ 77 龍興タツヲ(たつおき・たつお) 稲葉山高校生徒会会長。 兼ね役(語り)があります。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:  :  :タイトル  : 【演劇部 半兵衛】作・くまのムッチ  :  :登場人物  : 半兵衛: 半兵衛:(配役が決まったらここをタップしてください) 半兵衛:竹中半兵衛(たけなか・はんべえ) 半兵衛:羽柴秀吉の軍師。死後、現代に転生する。 : ヒデ子: ヒデ子:(配役が決まったらここをタップしてください) ヒデ子:羽柴ヒデ子 ヒデ子:稲葉山高校一年。演劇同好会会長。 ヒデ子:兼ね役(秀吉)があります。 : 秀吉: 秀吉:(ヒデ子役の方はここをタップしてください) 秀吉:羽柴秀吉(はしば・ひでよし) : ハッチ: ハッチ:(配役が決まったらここをタップしてください) ハッチ:蜂須賀六花(はちすか・りっか) ハッチ:稲葉山高校一年。ヒデ子の親友? ハッチ:兼ね役(小六)があります。 : 小六: 小六:(ハッチ役の方はここをタップしてください) 小六:蜂須賀小六(はちすか・ころく) : 前野: 前野:(配役が決まったらここをタップしてください) 前野:前野ヤスシ(まえの・やすし) 前野:稲葉山高校教諭。専科は家庭科だけど歴ヲタ。 前野:兼ね役(将右衛門)があります。 : 将右衛門: 将右衛門:(前野役の方はここをタップしてください) 将右衛門:前野将右衛門(まえの・しょうえもん) : タツヲ: タツヲ:(配役が決まったらここをタップしてください) タツヲ:龍興タツヲ(たつおき・たつお) タツヲ:稲葉山高校生徒会会長。 タツヲ:兼ね役(語り)があります。 : 語り: 語り:(タツヲ役の方はここをタップしてください) 語り:語り(ナレーション) : 0:以下、本編 :・ : :・ : :・ : :・ : :・ 0:プロローグ : 語り:天正7年6月 三木城攻め陣中 語り:蠟のような青白い顔をした武士が静かに横たわっている。 語り:彼が呼吸する度、喉からはヒューヒューという弱々しい音がする。男の名は竹中半兵衛重治(たけなか・はんべえ・しげはる)。間もなくその命は尽きようとしている。 : 0:半兵衛の幕舎に将右衛門が現れる。 : 将右衛門:軍師殿。 半兵衛:(弱々しく)おお、その声は将右衛門(しょうえもん)殿か、また珍しい御仁が来なさった。今日は陣中見舞いですかな? 将右衛門:ご冗談が過ぎますぞ、軍師殿。…ここ数日お加減が優れぬとの報せを受け、参った次第でござる。 半兵衛:では戻って秀吉様にお伝え願えますか。 半兵衛:この半兵衛、間もなく肉体は朽ち果てようとしておりますが、脳漿(のうしょう)から溢れ出る軍略は止まりませぬと。 将右衛門:……。 半兵衛:我が殿、羽柴筑前守秀吉(はしば・ちくぜんのかみ・ひでよし)殿が日ノ本を安寧に導くための軍略でござる。 将右衛門:またかような事を申されて、信長様の耳に入りでもしたら(どうするおつもりですか!?) 秀吉:カッカッカッ!全く、半兵衛は相変わらずじゃのう。 小六:邪魔するぞ、将右衛門。 : 0:半兵衛の幕舎に羽柴秀吉と蜂須賀小六が現れる。 : 将右衛門:と、殿っ!それに小六まで! 半兵衛:……そろそろおいでになるのではないかと、思っていたところでした。 秀吉:(笑いながら)無理をして早馬でまいったのじゃ。もそっと驚け、半兵衛。 半兵衛:筑前守殿の考えそうな事でございまする。 小六:ガッハッハ!それでこそ我らが軍師殿!息災(そくさい)そうでなによりじゃ! 将右衛門:小六!馬鹿を申すでない!先ほどから軍師殿は声を出すのがやっとのご様子だと言うのに! 小六:将右衛門、お主のシケた面構えのせいであろう! 将右衛門:小六!! 秀吉:まあ良いではないか、将右衛門。こうして4人で話すのも久方ぶりじゃあ。 小六:そうですなあ!あの日、我らが軍師殿の庵を訪ねた時も、かような天気でございましたなあ。 : 0:ボツボツと、雨粒が幕舎に跳ねる音がする。 : 秀吉:のう、半兵衛。 半兵衛:…はい。 秀吉:ワシにはまだまだお主の知略が必要じゃ。今一度京へ戻って養生せい。 半兵衛:それはできませぬ。 将右衛門:軍師殿! 半兵衛:殿、拙者は残り僅かな命の灯(ひ)を、泰平の世のために使いたいのでございます。 半兵衛:泰平の世のため拙者が出来得る事、それは殿を、秀吉様が天下人となるまでお支えする事でござる。 秀吉:またそのような戯言を。ワシは信長様に仕える身、主君に二心など抱いておらん。 半兵衛:(懐から書状を取り出し)三木城を落とした後の策をここに書き記しております。そこに拙者亡き後の後事(こうじ)についても。 秀吉:じゃから、半兵衛(かような事を申すな) 半兵衛:(遮って)殿、お耳を。 半兵衛:……最後に殿に、申し上げたき儀がございます。 語り:半兵衛が秀吉に小さく耳打ちをする。その声は消え入るように小さく、秀吉にしか聞き取る事が出来ない。 秀吉:ふむ……ふむ……あいわかった……。 半兵衛:将右衛門殿、小六殿。殿をお頼み申す。 将右衛門:…わかり申した。 半兵衛:筑前守殿、いや、秀吉様。 秀吉:……。 半兵衛:……一足先に黄泉路の露払いをしてまいります…(絶命する) 小六:半兵衛殿! 将右衛門:軍師殿! 秀吉:半兵衛!半兵衛!……半兵衛ー!! 語り:竹中半兵衛重治。播磨(はりま)三木城攻め最中(さなか)、平井山の陣中にて病没。享年34歳であった。 : 0:幕舎を深い悲しみが包む中、一層勢いを増す雷鳴の音。 : 語り:と、その時! 語り:まばゆい一条の光が平井山に差しこむ! : 語り:一条の光は折り重なり、大きな光の束となる。 語り:やがてその光は半兵衛の陣へと降り注ぐ! : 0:激しい雷鳴。 : 語り:轟音とともに、幾重にも重なった雷が平井山の陣に落ちたかと思うと、 語り:そこにはもう、半兵衛の亡骸は、なかった。 : 語り:くまのムッチ作 半兵衛:「演劇部 半兵衛」 : 0:(プロローグ終わり) : 0:【2場】 : 0:場面はガラっと変わって職員室。 0:ふたりの少女が男性教師に詰め寄っている。 : ヒデ子:前野先生お願い!演劇同好会の顧問になって! 前野:だから、羽柴(はねしば)さん。何度も言ったけど、それはできないんだって。 ヒデ子:ね!先生!お願いだから! ヒデ子:ほら、ハッチからも頼んで! ハッチ:えーやだー。ウチはただの付き添いだもん。 ヒデ子:えー!?なんでよー!! ヒデ子:顧問の先生がいなきゃ、同好会作れないじゃん! 前野:あのね、そもそも先生は演劇同好会の顧問にはなんないし、同好会作る条件はそれだけじゃないの。 ヒデ子:え!?どゆ事? 前野:…ほら、これ読んでみて。(紙を渡す) ヒデ子:え?なにこれ?…えっーと(読み上げる) ヒデ子: ヒデ子:稲葉山高校 クラブ活動指針 ヒデ子:第4条 同好会の設立について ヒデ子:新規の同好会の設立については、以下の二点の条件を満たす事とする。 ヒデ子: 1.顧問の教師がいる事 ヒデ子: 2.部員が3名以上である事 ヒデ子: ヒデ子:…え!3名以上!?じゃあ私とハッチのふたりだけじゃ… 前野:そう。君と蜂須賀さんが部員になっても、ひとり足らないの。 前野:だから例え先生が顧問になったとしても、あとひとり部員を見つけないと、演劇同好会は作れないんだよ。 ヒデ子:えー!!そんなのやだ~!! 前野:どうしてもって言うんなら、あとひとり部員集めて来なきゃだね。 ハッチ:もう諦めな、ヒデ子。あんた学校中の子たちに勧誘しまくったけど全敗だったじゃん。 ヒデ子:ハッチ!なんで後ろから撃つような事言うの!?援護してよ、援護射撃! ハッチ:そもそもウチも名前貸すだけで良いって言うからオッケーしてあげたんですけど。 ハッチ:メンバー集まんないなら、この話はチャラね。 ヒデ子:ぐぬぅ…。 前野:だいたい、なんで先生なの? 前野:ウチの学校、ブラック職場で部活動は時間外手当付かないの。勘弁してよ~。 ヒデ子:それは…前野先生は演劇が好きだって(話を聞いて) 前野:…ギク!…羽柴さん!それって一体誰から聞いたの? ハッチ:だから違うんだってヒデ子。先生が好きなのは2.5次元舞台の方。 前野:ギクギク!! ヒデ子:あ、そっか。また間違えちゃった。 ハッチ:なんでも自作の二次創作台本をネットにあげてるとかなんとか…… 前野:ギクギクギクゥ!!!! 前野:(小声で)ちょ、おまえら、でっかい声出さないの!他の先生に聞かれたらどうするの… ハッチ:(状況を察して)ははーん。なるほどね。……どーしよっかなー! 前野:わかった!わかったから!ね、羽柴さん、蜂須賀さん!ちょっと向こうで話しよっか… ハッチ:ねえ!前野せんせー!にーてん…… 前野:(遮って)わー!やめろー!! ハッチ:(わざとらしく)にーてんとうしずほう(二点透視図法)の書き方がぁ、分かんなくってぇ~ 前野:あー!二点!二点透視図法ね!!あーえー…それはだな……ウオッホン! 前野:……美術の先生に聞きなさい…。 : 0:前野と蜂須賀のやり取りを見てヒデ子も状況を察する。 : ヒデ子:ねえ先生!演劇同好会の顧問になってよ! 前野:それとこれとは話が別だよ! ヒデ子:先生!にーてん…… 前野:(遮って)わー!わー!わー! ヒデ子:(わざとらしく)にーてん(2点)を通る直線の方程式はどうやって求めますかあ~? 前野:んなもん知るかっ!!先生の専科は家庭科だぞ~!! ヒデ子:(ニヤニヤと笑っている) ハッチ:(ニヤニヤと笑っている) 前野:ゼエ…ゼエ… ヒデ子:前野せーんせ!にーてんご…… 前野:(遮って)わー!わかった!わかったから!やります!やらせてもらいます!演劇同好会の顧問!! ヒデ子:やったー!顧問ゲットー!! ヒデ子:じゃあ早速今後の方針について話し合わなきゃなんだけど… : 0:とそこに、ヒデ子の声を掻き消す、地鳴りのような音がする。 : ハッチ:ん?なにこの音? 前野:カミナリ…かな? : 0:激しい轟音とともに落雷が起こる。 : ハッチ:ヒエッ! ヒデ子:わあっ!え!?なになに!? 前野:すごい音…近いな…。たぶん、体育館の辺りに落ちたよね… ヒデ子:私、行ってみる! ハッチ:ちょっとヒデ子!(危ないかもしれないよ) ヒデ子:行ってくる!!…なんか…… 前野:えっ ヒデ子:なんか…呼ばれた気がする……! 前野:おい!…おい!待てって!羽柴さん!!羽柴さーん!! : : 0:【2場】 : 0:稲葉山高校の体育館。誰もいない体育館に横たわる侍。 : 半兵衛:うっ、うう…(気が付く) 半兵衛: 半兵衛:ここが…黄泉の国か……生前神仏を拝めど、時には仏敵となり寺社をも攻め立てた拙者が、極楽へ行ける筈もなかろう。 半兵衛:さて、ここで地獄の閻魔の沙汰でも、待つとするか…… : 0:体育館に飛び込んできたヒデ子、ゆっくりと立ち上がった半兵衛と視線が合う。 : ヒデ子:あ、(誰かいる) 半兵衛:おや、女子(おなご)か。またかような場所に似合わぬ者が。しかも、なんと面妖ないでたち…。 半兵衛:書物で知る獄卒とは随分違うが……はて?拙者はイスパニア人が逝く地獄にでも落ちたのか…? ヒデ子:あ、あの… 半兵衛:さあ、地獄の獄卒よ、案内(あない)致せ。この竹中半兵衛重治、逃げも隠れもせん。 ヒデ子:えと、ハンベーシゲハルさん? ヒデ子:私、その…ゴクソツじゃないです!私の名前は羽柴(はねしば)ヒデ子って言います。 半兵衛:なんと……!ここは地獄ではないと…? 半兵衛:しからばここは一体……? : 0:半兵衛がヒデ子に問いかけようとしたところに、前野とハッチが遅れてやって来る。 : 前野:…あれ?たしかにこの辺りで音がしたと思ったんだけどなあ。 ハッチ:おーい!ヒデ子ー!! ヒデ子:あ、前野先生、ハッチ。 ハッチ:え!?何なにこの人!?…チョンマゲに着物ってほぼほぼ武士じゃん! 前野:おわ!ほんとだ!(少し考えて)コスプレイヤーか何かかな? 前野:あの、ここ学校関係者以外立ち入り禁止なんですが、入構許可証ってお持ちですか? ハッチ:…学校関係って言うかモノノフ関係? ハッチ:それともウチの学校にこんなオモシロ生徒いた? 半兵衛:お初にお目にかかる。それがしは竹中半兵衛重治(しげはる)と申す。 ハッチ:え?バンブーもこみち?あ!わかった!地下芸人! 前野:違うよ!竹中半兵衛重治って言ったの! ヒデ子:え?先生、ハンベーさんの事知ってるの? 前野:そりゃそうさ。竹中半兵衛って言ったら、羽柴秀吉、のちの豊臣秀吉に仕えた名軍師だよ? 前野:その神算鬼謀(しんさんきぼう)の軍略と、秀吉が三顧の礼で迎えたエピソードから、中国の天才軍師諸葛亮孔明になぞらえて【今孔明】(いまこうめい)って呼ばれている、安土桃山時代を代表する知将なんです!歴ヲタ必修科目なんです!! 半兵衛:そなた、拙者の事を知っておるのか? 前野:いやいや、竹中半兵衛の事はよーく知ってますけど。貴方の事は知りません。 ハッチ:あー、つまり、設定バキバキに作りこんだコスプレイヤーって事ね。 前野:確かに戦国二兵衛(せんごくにへえ)の竹中半兵衛を選ぶ、チョイスの渋さは評価せざるを得ないな。 ハッチ:だってさ、わかってんじゃん、マンボーてつみち! 半兵衛:いやだから、拙者は竹中半兵衛と申す。 ヒデ子:なんだ、やっぱり先生の知り合い?。 半兵衛:いや、拙者はこちらの御仁を存じ上げぬが…。 前野:あー!わかった!演劇同好会の入部希望者だ! 半兵衛:……? ヒデ子:あ、いや(そうじゃなくて) ハッチ:なんだ、ヒデ子!ちゃんと勧誘活動してたんじゃん!? ハッチ:コスプレイヤーだったら衣装作ったりもできるし、即戦力だよね! 前野:ひょっとして君、殺陣とかもイケるクチ!? 前野:それなら剣や刀が舞い乱れる本格時代劇だって夢じゃない!これは滾る!滾ってきたよ~! ヒデ子:あの、先生? 前野:よくよく見たらこの衣装も凝ってる! 前野:九枚笹(くまいざさ)の家紋まで再現してあるじゃん!君すごいねー!! 半兵衛:(驚く)おお、お主、我が竹中家の家紋まで知っておるのか!? 前野:その腰に差してる刀も本格的だね!ちょっと見せてもらってもいい? 半兵衛:いや、この刀は我が主君から拝領したもので…… 前野:いいじゃん!いいじゃん!減るもんじゃなし! : 0:前野先生、半ば強引に半兵衛より刀を取り上げる。 : 前野:オホー!ずっしりと重くて、まるで本物みたいなんですけどー! 前野:ん?んん!?……あれ?……これ、あの、本物の刀…なんじゃ…… 半兵衛:勿論、これは贋作などではござらん。 半兵衛:紛れもなくそれがしが秀吉様より下賜(かし)された、名刀「虎御前」(とらごぜん)でござる。 前野:そそそ、そうじゃなくて、それ、本物の刀だよね!? ヒデ子:えっ!本物!? 半兵衛:だからさっきから何度も申しておるではないか!これは本物の「虎御前」じゃと。 前野:それって、その、じゅじゅじゅ、銃刀法違反的なアレになるんじゃないのー!? ハッチ:おいワレェ!モノホンのドスて、どこの組のもんじゃいー!! : 0:騒ぎを聞きつけて、次第に体育館に人が集まってくる。 : ヒデ子:ちょっと!ハッチ!人が集まってきちゃったじゃん!! ヒデ子:ハンベーさん!いこっ!(半兵衛の手を引く) 半兵衛:おわっ! ヒデ子:急いでハンベーさん!走るよ!! 半兵衛:(戸惑いながら)あい、わかった! ハッチ:ちょっと!ヒデ子、待ちなよ! 前野:羽柴さん!羽柴さーん!ああ、行っちゃった…。 前野:それにしてもあの刀、確かに…… ハッチ:先生どうしたの? 前野:蜂須賀さん、先生も行ってくる!ここは任せた!! ハッチ:えっ、先生!……あーあ。先生まで行っちゃった…。 : 0:【3場】 : : 0:ひとり残された蜂須賀。とそこに何者かが現れる。 : タツヲ:ちょっとキミ!!待ちたまえ!! ハッチ:…誰、コイツ? タツヲ:なんだねキミは?まさか我が稲葉山高等学校に在籍していながら、ボクの事を知らないとでも? ハッチ:うん、知らない。 タツヲ:まったく無知とは恐ろしいものだね。仕方がない、今回だけ特別に教えてあげよう。 タツヲ:…ボクの名前は龍興タツヲ(たつおき・たつお)。 タツヲ:父の事業を僅か14歳で引き継いだ若き経営者にして、この稲葉山高等学校の生徒会長。 タツヲ:父から受け継いだうなるような財力と、父を後ろ盾にした政治的圧力を惜しみなく使う事で、この稲葉山高校の改革を推し進めて来た。 ハッチ:親の七光りって自分で言っちゃうんだ…。 タツヲ:生徒会長当選後すぐに改正に踏み切った校則は数知れず。 タツヲ:「グリーンピースご飯禁止法」「レーズンサラダ禁止法」「酢の物全面禁止法」 ハッチ:校則の改正が食堂改革に偏ってるね。 タツヲ:そして今は女性の体操服のちょうちんブルマ復刻の署名運動を展開している。 ハッチ:キモッ… タツヲ:そんな絶対的学校権力の象徴であるボクにキミは……一体何の用だい? ハッチ:いや、あんたが呼んだんでしょ。 タツヲ:(平然と)ああ、そうだったね。失敬。 タツヲ:…さっきこの辺りで、激しい雷鳴がしたのをキミも聞いただろう? タツヲ:生徒会長の責務を果たすため、様子を見に来たのさ。 ハッチ:……。 タツヲ:何せ、来たる文化祭では、この体育館で生徒会主催の催事も控えているしね。 タツヲ:何かあっては、この僕の沽券(こけん)に関わる。 タツヲ:ま、校内の安全についても常にボクが目を光らせておく事で、キミたち下々の者も、安心した学校生活を送れる事だろう。 ハッチ:はあ…。 タツヲ:で、何か不審な出来事はなかったかね? ハッチ:(とぼけて)…別に。 タツヲ:おや、その顔は何かを知っている顔だね。 タツヲ:ひょっとしてキミは、この稲葉山高校 生徒会長の龍興タツヲに隠し事をするつもりかい? : 0:タツヲがハッチに詰め寄ろうとしたその時、タツヲの電話が鳴る。 : タツヲ:プルルルル…おや、電話だ。もしもし、ボクだ。どうした副会長、そんなに慌てて。 タツヲ:何?重大な校則違反者だと?違反者は…キティちゃんのワンポイント刺繍が入った靴下を履いていた…! タツヲ:……何ぃ!?稲葉山高校ではソックスは白の無地のみと定められているのにキティちゃんのワンポイントだとう!? タツヲ:よし!違反者には見せしめに、くるぶしに【でんぢゃらすじーさん】のタトゥーを入れてやろう!!すぐに行く!!そこで待っていろ副会長!!馬ひけーい!! : 0:タツヲ、退場。 : ハッチ:何だアイツ…ヒデ子たち…大丈夫かな? : 0:【4場】 : : 0:ヒデ子に手を引かれながら階段を駆け上がる半兵衛。 : 半兵衛:ハァハァ…羽柴(はねしば)殿、一体どこまで行くのでござるかっ…! ヒデ子:ハンベーさん、ここに隠れよっ! : 0:ふたりは目の前の教室に飛び込む。 : ヒデ子:ハァハァ…ちょっと休憩……。 半兵衛:(息を整えながら)…あい、わかった。 半兵衛:(独り言)しかし、このように駆けたのはいつぶりか…。拙者の身体を蝕んでおった労咳が、嘘のように消え失せておる。かような事があると言うのか…!? ヒデ子:……。 半兵衛:羽柴殿…と言ったか。 ヒデ子:ああ、ヒデ子でいいよ。 半兵衛:ヒデ子殿。拙者、最初はここを地獄かと思うておったが、どうやらそうではないようだ。 半兵衛:ここは一体どこなのであろうか?そして拙者は何故かような場所に?ヒデ子殿、そなたは一体何者じゃ? ヒデ子:ハンベーさん、いっぺんに質問し過ぎ! ヒデ子:ここは稲葉山高校。そして私はこの学校の演劇同好会 会長!……になる予定の羽柴ヒデ子。 ヒデ子:すごい音のカミナリがして、胸騒ぎがして行ったら、そこにハンベーさんがいたの。 半兵衛:カミナリでござるか……やはりここは天正の世ではないのだな…。 半兵衛:たしか拙者は三木攻めの最中…病に倒れた筈…… ヒデ子:なんかハンベーさんって不思議な人だね。 半兵衛:拙者が…不思議? ヒデ子:うん、だってコスプレっていうか、まるで時代劇の中から飛び出してきた(みたい)……うーん、それも違うかな。なんか、ほんとに戦国時代からタイムリープしてきたみたいなんだもん! 半兵衛:たいむ……りーぷ? ヒデ子:だってハンベーさん見てると、見た目とかじゃなく、その時代を生きてると言うか……? ヒデ子:あー!上手く言えないけど……とにかく!すごい演技力だと思う! 半兵衛:いや、拙者は別に演じている訳ではござらんのだが…… ヒデ子:私もハンベーさんみたいに内面から演じれるようになりたいな!それでいつか観た人の心が震えるような、そんなお芝居を作りたいの! ヒデ子:…とか偉そうな事言っといて、まだ同好会も作れてないんだけどね……。 半兵衛:聞き慣れぬ言葉が多く、拙者にはよくわかりませぬが、ヒデ子殿ならその夢、必ずや成就されるであろう。 ヒデ子:え?そうかな? 半兵衛:ああ。ヒデ子殿は拙者がよく知るお方に似ておられる。 半兵衛:そのお方も強い意志で天命を切り拓く、そんな御仁であった…。 ヒデ子:よくわかんないけど、誉められてる?ありがとハンベーさん!なんか元気出た! ヒデ子:ふふ。落ち着いたら、お腹空いてきちゃったね! 半兵衛:はは。全く、ヒデ子殿は面白いお方じゃ。 : 0:笑い合うふたりの所に、息を切らせて前野が入ってくる。 : 前野:フイ〜!羽柴さん!やっと見つけた! ヒデ子:あ、先生。 半兵衛:そちらの御仁は、たしか前野殿でしたな。 ヒデ子:そう!ついさっき演劇同好会の顧問になったばかりの前野先生。 前野:だから~、あとひとり部員を増やさないと同好会は作れないんだって。 ヒデ子:も~、わかってるって。 ヒデ子:ねえ、先生。ハッチは? 前野:ああ、蜂須賀さんなら多分まだ体育館じゃないかな。 ヒデ子:先生一緒じゃなかったんだ。 前野:うん。実は先生も、そちらの、半兵衛さんとお話したくてね。 半兵衛:拙者と、でござるか。 前野:ええ。 ヒデ子:ふーん、そうなんだ!じゃあ私ハッチ呼んでくるね! ヒデ子:先生とハンベーさんはここで待ってて! 前野:ああ。 半兵衛:あい、わかり申した。 : 0:ヒデ子、退場。 : 前野:あの、半兵衛さん。 半兵衛:なんでござろう、前野殿。 前野:不躾なお願いなんですが、先程の刀、もう一度見せて頂けませんか? 半兵衛:ああ、別に構いませぬが。 : 0:半兵衛、前野に刀を渡す : 前野:(受け取り)有難うございます。 前野:天正元年、小谷城(おだにじょう)の戦いで、織田が浅井を討ち破った時、戦功をあげた竹中半兵衛が主君、羽柴秀吉(はしばひでよし)から拝領したと言われる名刀。 前野:その刀は浅井長政が布陣した虎御前山から名を取り、虎御前と名付けられた。 半兵衛:……。 前野:僕は以前、京都の美術館で本物の虎御前を見たことがあります。その刃紋の美しさは今もこの目にしっかりと焼き付いている……。 前野:この世にふたつとない名刀をこの歴オタの僕が見間違える筈がありません!これはまさしく……本物の虎御前……! 前野:にわかには信じられませんが、半兵衛さん、貴方やっぱり、あの竹中半兵衛重治なんですね! 半兵衛:いかにも。 前野:い、い、い、い…… 半兵衛:どうされた、前野殿。 前野:異世界転生、キターーー!!!! 半兵衛:い、伊勢!?甲斐!? 前野:ああ、すみません。あまりの興奮で絶叫してしまいました。 半兵衛:気が触れたのかと思うたでござる。 前野:半兵衛さん、聡明な貴方ならもうお気付きかもしれませんが、この時代は令和といって、あなたが活躍した天正から、遥か四百年以上経った未来の日ノ本なんです。 半兵衛:なんと……! 前野:何がどうなって半兵衛さんがここにやって来たかは私にもわかりませんが、もしご迷惑でなければ、あなたのお力にならせてもらえませんか? 半兵衛:前野殿、それは拙者にとっても願ってもない事でござる。是非お力添えをお願いしたい! 前野:やった!(畏まって)ハハッー!恐悦至極に存じまする~! : 0:【5場】 : : 0:ハッチを見つけたヒデ子が駆け寄る。 : ヒデ子:ハッチ! ハッチ:もう~、ヒデ子も先生もどっか行っちゃうんだから~! ヒデ子:ごめん!ハッチ! ハッチ:あんたのせいで、ぼっちになるわ、ウザ絡みされるわで、大変だったんだからねー。 ヒデ子:マジでゴメン! ハッチ:それで?さっきの人……えと、なんだっけ…ダンボーともしげは? ヒデ子:半兵衛重治(はんべえ・しげはる)!ハッチ、わざと間違ってない? ヒデ子:ハンベーさんなら、いま先生と一緒にいるよ。 ハッチ:ねえ、ヒデ子、あの人を演劇同好会に入れちゃえばいいんじゃね? ヒデ子:えっ ハッチ:だって他に見つかんなそうだし。 ヒデ子:すごいハッチ! ハッチ:ん? ヒデ子:実は私もそう思ってたの!ハンベーさんがいてくれたら、なんか上手くいきそうな気がするんだ! ハッチ:いや、ウチはとりあえず頭数揃えとこっかぐらいのノリだった(んだけど) ヒデ子:そうと決まれば善は急げ!ハンベーさんたちのとこに戻ろ! ハッチ:え、ちょ、ヒデ子… タツヲ:ちょっと君たち!!待ちたまえ!! ヒデ子:…え、誰? ハッチ:…だよね。 タツヲ:やれやれ…まさかこの稲葉山高校で最もフェイマスでファビュラスなボクが一日に二度も自己紹介させられるとはな…。 タツヲ:僕の名前は龍興タツヲ。父が築いた富と権力を受け継ぐ、選ばれし者。 タツヲ:最近のマイブームは己の財力を見せつける為、高額商品をあえて転売屋から買う事だ。 タツヲ:この間はプレイステーション5を27万5千円で購入した。 ハッチ:え…コワ。 タツヲ:早くも2期目の当選を狙って活動中でね。 タツヲ:支援者には漏れなくボクの顔がプリントされた限定エコバックを配布している。 ヒデ子:エコバック… タツヲ:ちなみにプリント部分には金箔があしらってある。 ハッチ:エコじゃない! タツヲ:…それでキミたちは、このボクに何の用だい? ハッチ:いやだから、アンタが呼び止めたんでしょ? タツヲ:(平然と)おや?そうだったかな。失敬。 ヒデ子:あの! タツヲ:わあ!ビックリした! ヒデ子:生徒会長にお願いがあります! タツヲ:ふむ…さてはキミも限定エコ(バック狙いかね?) ヒデ子:(遮って)あの!私!演劇同好会 会長の羽柴ヒデ子って言います! タツヲ:演劇同好会?はて、そんな会、ウチの学校にあったかな? ヒデ子:登録はまだなんですけど、顧問の先生も、メンバーも揃ってるんです! タツヲ:ほう、それで? ヒデ子:来月の文化祭で、私たち演劇同好会に自主公演をさせて欲しいんです! タツヲ:……。 ハッチ:ちょ、ヒデ子!来月って、あと1カ月って事!? ヒデ子:ハッチ、私決めた!文化祭を私たちの旗揚げ公演にしよう! タツヲ:演劇…自主公演…ねえ。 ヒデ子:はい!お願いします! タツヲ:変に期待を持たせてもいけないから、ハッキリ言っておくけどね。 タツヲ:……答えはノーだ。 ヒデ子:…え? タツヲ:文化祭は学校の外部のお客様もいらっしゃるんだ。 タツヲ:我が稲葉山高校の名に恥じぬような内容でなければいけない。 ヒデ子:……。 タツヲ:だから、模擬店のメニューから、バンドの選曲に至るまで、文化祭で行われる全てのイベントは、我々生徒会の厳正な審査を通過しなければならないんだ。 ハッチ:だったら、その審査を受ければいいじゃん。 タツヲ:いや、残念ながらキミたち演劇同好会は、審査対象外だ。 ハッチ:なっ!? ヒデ子:えっ、どうして(ですか?) タツヲ:(遮って)演劇なんてオワコン、審査するまでもない。 ヒデ子:そんな! タツヲ:世界中のエンタメがスマホひとつで取り出せるこの時代に、演劇なんてカビの生えた古臭いもの、誰が興味あるんだ。 タツヲ:いっそ能や狂言、浄瑠璃みたいに由緒正しければ、芸術として国が守ってくれるのかもしれないけど。 タツヲ:誰も観ないものを、わざわざ審査する必要もないだろう。 ヒデ子:(消え入りそうな声で)…取り消してよ。 タツヲ:……ん? ヒデ子:取り消して!!演劇を、お芝居をオワコンとか古臭いとか言った事、すぐに取り消して!! タツヲ:取り消す?どうして?ボクはキミたちに客観的事実を教えてあげているだけさ。 ヒデ子:そんな事ない!そんな事ないよ… ハッチ:フザけんな!生徒会長だからってそんな横暴許されると思ってんの!? タツヲ:フッ…そこまで言うなら何故ボクが演劇を認めないかキミたちにも教えてやろう。 ヒデ子:……。 タツヲ:それは、龍興タツヲ6歳の春の出来事だった。 ハッチ:随分遡ったな。 タツヲ:当時、幼稚園だったボクはお遊戯会で劇を発表する事になった。 タツヲ:演目は【金太郎】。勿論、ボクは主役の金太郎役を射止めるため、日夜役作りに励んでいた…。 タツヲ:だが園内のオーディションの結果、ボクは金太郎役にはなれなかった! タツヲ:……何故だかわかるか!? ハッチ:……。 タツヲ:(叫ぶ)金太郎にちなんでオーディションが相撲対決だったんだよー!!!! ハッチ:え タツヲ:…それ以来だ。ボクが演劇を憎むようになったのは。 ハッチ:完全に私怨じゃん。 タツヲ:とにかくボクの任期中は、文化祭で演劇など絶対に認めん!! タツヲ:話は以上だ。失礼する。 : 0:タツヲ、退場。 : ヒデ子:…ハッチ、半兵衛さんと先生のところに戻ろう! ハッチ:え、ヒデ子。 ヒデ子:絶対に文化祭で旗揚げ公演する!学校中のみんなの前で演劇が面白いって事、証明してみせるんだから!! : 0:【6場】 : : 0:先程の教室。半兵衛と前野が話している。 : 前野:半兵衛さん、とりあえずこの部屋に現代の事がわかるような本を出来るだけご用意しました。 前野:あと、僕の使い古しで申し訳ないんですが、パソコンやタブレットなんかもあります。 前野:時間はかかると思うんですが、少しづつ使い方に慣れると、とても便利な物なので。 半兵衛:かたじけない。前野殿。 半兵衛:しかし知れば知るほど驚く事ばかりでござる…。日ノ本には戦(いくさ)もなく、拙者の命を奪った労咳(ろうがい)も、今では死に至る病ではないのか。 前野:ええ、労咳…つまり肺結核は現代の医学では半年ほどで治る病気です。 前野:それに日本では子供のうちに予防接種を受けるので、そもそも病気にかかる事すら稀なんですよ。 半兵衛:なんと…!まさに民のための政(まつりごと)でござる。 半兵衛:400年の時を経て、日ノ本はまことに泰平の世になったのだな…。 : 0:ヒデ子と蜂須賀が部屋に入って来る。 : 前野:おお、羽柴(はねしば)さん。おかえり。無事に蜂須賀さんと合流出来たんだ。 ヒデ子:……。 ハッチ:……。 前野:ん?どうしたの?ふたりともしかめっ面して。 ヒデ子:先生、私たち来月の文化祭で旗揚げする事にしたから!だからハンベーさん!演劇同好会に入って!それであのわからず屋の生徒会長を懲らしめてやるの! 前野:いや、羽柴さん、まとめていっぺんに宣言されても、何の事かさっぱりわかんないから! ハッチ:生徒会とドンパチやるけえのう!前野のオジキ!チャカ持ってこいやあ! 前野:…蜂須賀さん? 半兵衛:拙者が、演劇同好会に? 前野:そうだよ、ふたりとも落ち着いて。でなきゃ半兵衛さんも困って(しまうだろ?) 半兵衛:(遮って)ヒデ子殿、そのお誘い謹んでお受け致そう。 前野:ほらね。だから言ったじゃないか~!半兵衛さんにも、きちんと事情を説明しないとわかる訳な…… 前野:……え!? 半兵衛:この竹中半兵衛重治。ヒデ子殿を主君と仰ぎ、お支えしとうございまする。 前野:え!?え!?そうなの!? ヒデ子:ハンベーさん、よろしくね! ハッチ:軽っ!でもやったじゃん。 前野:いや、でも羽柴さん、半兵衛さんはウチの学校の生徒じゃないんだ。 ヒデ子:え!?そなの!? ハッチ:じゃあハンベーさん部員になれないんじゃん!どうすんの!? 前野:いや、待てよ……あ!羽柴さん、これもっかい読んでみて! ヒデ子:え、うん…(読み上げる) ヒデ子: ヒデ子:新規の同好会の設立については、以下の二点の条件を満たす事とする。 ヒデ子: 1.顧問の教師がいる事 ヒデ子: 2.部員が3名以上である事 ヒデ子: ヒデ子:…先生、だからこれ、(さっき読んだやつだよ) 前野:第4条2項の下に小さく注釈が書いてあるでしょ?それ読んで。 ヒデ子: 2.部員が3名以上である事 ヒデ子:上記人数には外部指導者も含むものとする。 ヒデ子: ヒデ子:…え、これって、 前野:うん、だからさ、半兵衛さんをお芝居を教えに来てくれてる、外部講師って事にしたらどうかな!? ハッチ:おおー! ヒデ子:先生!それすごい名案! 前野:でしょ? ヒデ子:だったらこれで条件揃った!演劇同好会の誕生だー!! ハッチ:イェア!! 半兵衛:ヒデ子殿、演劇同好会の結成、祝着至極(しゅうちゃくしごく)にございまする。それでは早速、軍議を開きましょう。ヒデ子殿の天下取りの始まりでござる。 : 0:【7場】 : 0:(時間経過) : 前野:なるほど。半兵衛さんに加わってもらって、ようやく演劇同好会設立の条件、顧問1名と部員3名が揃った訳だけど、1カ月後の文化祭で旗揚げ公演をするにはまだまだ問題が山積みって訳か。 ハッチ:まず文化祭まであと一カ月しかないのに、決まってるのはメンバーだけ。 半兵衛:さらに文化祭で上演するには、大の演劇嫌いの生徒会長の許可がなければならない、という訳でござるな。 ヒデ子:ウーン…。 ハッチ:いきなり詰んだ。 ヒデ子:そんな事言わないで!ハッチ! ヒデ子:みんなで意見を出し合えば、何か良いアイデア閃くかもだよ! ハッチ:ヒデ子、いっこ質問なんだけど。 ヒデ子:はい!ハッチ!どうぞどうぞ! ハッチ:仮に旗揚げ公演の許可が下りたとして、どんな劇するかは決めてんの? ヒデ子:う……。 ハッチ:…決めてないんだ!? ヒデ子:…ごめん! ハッチ:えー!?アンタあれだけカッコつけといてノープランだったの? ヒデ子:エヘヘ。 ハッチ:いや、エヘヘじゃねえわ!これじゃ同好会設立と同時に解散だよ!サ終だよ!作者休載のお知らせだよ! 前野:…あの、ちょっといいかな。 ヒデ子:どうしたの、先生? 前野:…先生に書かせてくれないかな? ハッチ:へ? 前野:先生、書いてみたい話があるんだ。 ヒデ子:ほんとに!? 前野:ああ、実は、半兵衛さんに会ってから沸き立つ創作意欲を止める事が出来ないんだ。 半兵衛:拙者と会ってから…でござるか? 前野:ええそうです!戦国時代の英傑とこうして直にお話出来て、興奮しない歴ヲタがいない筈がない!! 前野:半兵衛さん、僕の、いや、聚楽第ヤスシ(じゅらくだい・やすし)の次回作は…貴方が主人公だっ!! 半兵衛:聚楽第(じゅらくだい)… ヒデ子:……ヤスシー!? ハッチ:えっと、…誰それ? 前野:(叫ぶ)この僕だーっ!! 前野:しがない高校教師【前野ヤスシ】は世を忍ぶ仮の姿。毎日定時ダッシュで帰宅し、脚本制作に心血を注いできた。 前野:【聚楽第ヤスシ】…それが僕のペンネームだっ!! ハッチ:…ダサ。 前野:(鬼の形相で)…何か言った? ハッチ:いえ、なにも。 前野:半兵衛さん、僕に、貴方の物語を書かせてください! 半兵衛:拙者で良ければ是非に。 前野:半兵衛殿!かたじけのうございますー!! ヒデ子:よし、これで脚本も、主役も決まったね! ヒデ子:あとは、あの生徒会長をどうやって説得するかだけど…… 半兵衛:しからば、次は拙者の出番でござるな。 半兵衛:ヒデ子殿の旗揚げを必ずや成功させる策がございます。皆皆様、お耳を拝借。 : 0:【8場】 : : 0:場面変わり、生徒会室。 : ヒデ子:生徒会長。 タツヲ:ああ、キミたちは確か演劇同好会の。 ヒデ子:今日はお願いがあって来ました。 タツヲ:キミたちも懲りないねえ…。 タツヲ:何度も同じ事を言いたくないからこれっきりにしてくれ。 タツヲ:ボクは演劇同好会を文化祭に出演させるつもりは(これっぽっちもないんだ) ヒデ子:いえ、演劇同好会の事は諦めました。今日は別のお願いに。 タツヲ:ほう、一体どういう風の吹きまわしだい? ハッチ:ウチら生徒会主催の「稲葉山高校の歴史展」の有志スタッフとしてお手伝いさせてもらえないかなあと思って。 タツヲ:ほう。殊勝な心掛けだが、にわかには信じ難いな。 タツヲ:そう言って私に取り入って、演劇同好会の立場を良くしようとする浅知恵だろう? ヒデ子:そんな滅相もない! タツヲ:だったら、私に忠誠を誓うという証拠を見せたまえ。 ヒデ子:証拠って言っても、一体どうすれば…… タツヲ:そうだな…キミにはまず、先日の非礼を詫びてもらわなければいけないな。 ヒデ子:ご、ごめんなさい。 タツヲ:心が込もってないなあ。 タツヲ:あーそうだ。じゃあボクがキミのセリフを考えてあげよう。 タツヲ:ボクの言う通り復唱してみて。 ハッチ:え、 タツヲ:いくよ。 タツヲ:【演劇をオワコンと言われたぐらいで、ムキになってすみませんでした】 ヒデ子:グッ… タツヲ:どうした?言えないのかい? タツヲ:【演劇をオワコンと言われたぐらいで、ムキになってすみませんでした】だ。 タツヲ:演劇部なのにセリフひとつも覚えれないのか。才能ないんじゃないか。 ヒデ子:……。 ハッチ:私がヒデ子の代わりに言うよ! タツヲ:ふふ。友達をかばってあげたのかい? タツヲ:ならばキミにも特別にボクがセリフを考えてやろう。 ハッチ:(身構える)……。 タツヲ:いくよ。(以下、シチュエーションボイス風に) タツヲ:【べ、別に、あなたの事好きとか、そんなんじゃないんだからね!】 ハッチ:…え? タツヲ:どうした?言えないのかい?じゃあこのセリフならどうだ? タツヲ:【た、食べかけのエクレア、これってまさか…間接キス…!?】 ハッチ:…えーっと、その(これって) タツヲ:シチュボ…シチュエーションボイスだ! タツヲ:ボクへの忠誠の証として、はかどるシチュボを捧げるんだよ! ハッチ:キモ。 タツヲ:……何? ハッチ:キモい。キモいって言ったの。耳ついてる?それとも汚っねえ脂肪で耳の穴塞がってるせいで聞こえてない?このクソブタ!そもそも立場の違いを利用して人を支配しようなんて考え方がキモい。無理。アンタなんて親の権威を笠に着なきゃ、なーにんもできないフナムシ以下なんだからね!このフナムシの布団係!! ヒデ子:ちょ、ハッチ ハッチ:…ヤバ、言っちゃった。 : 0:タツヲ、怒りに打ち震えているように見える。 : ハッチ:……。 タツヲ:……合格だ! タツヲ:今の【万能なボクをあえて侮蔑(ぶべつ)し、なじるシチュエーションボイス】 タツヲ:…大変結構なお点前(おてまえ)でした。 ハッチ:今のは本音だったんだけど…。 タツヲ:ちょうど展示物の制作や運搬に人手がいるところだったんだ。キミたちがどうしてもと言うなら、有志スタッフとして受け入れてあげよう。 ヒデ子:あ、ありがとうございます…。 タツヲ:明日から毎日来てもらうから。そのつもりでね。それじゃあ。 : 0:タツヲ、退場。 : ヒデ子:はあ、一時はどうなる事かと思ったけど、 ハッチ:なんとかなった。 半兵衛:ヒデ子殿、よくぞ堪えられました。 半兵衛:しかしこれで、ひとつめの策は成りました。 : 0:半兵衛、入場。 : ヒデ子:うん!なんとかハンベーさんの言った通りになったけど。 半兵衛:ささ、明日からは忙しくなりますぞ。 半兵衛:生徒会の展示物の制作を手伝いながら、来たる本番に向けての、稽古もせねばなりませぬ。 ヒデ子:うん、ここからが正念場だね!!絶対に成功させてやるんだから! : 0:【9場】 : : 0:そして文化祭当日。体育館に集まった演劇同好会の面々。 : 半兵衛:さて、いよいよ文化祭当日です。前野殿、執筆大変お疲れさまでした。 前野:ええ、僕の書いた脚本がいよいよ舞台になるんだと思うと、感慨無量です。 半兵衛:ヒデ子殿、ハッチ殿、限られた時間の中ではありましたが、今拙者たちに出来る事は全てやり申した。 半兵衛:あとは皆でこの時間を楽しみましょう。 ヒデ子:(ジーンとして)ハンベーさん…。 ハッチ:あのさ… 半兵衛:どうされた、ハッチ殿。 ハッチ:なんかすごい良い事言った風の雰囲気出してるけど、今どういう状況かわかってる? 半兵衛:……。 ハッチ:(声を潜めて)私たちみんな、展示物のセットの中に隠れてるんだからね! : 0:半兵衛たちはそれぞれ、生徒会の展示物に隠れて身を潜めている。 : 半兵衛:(声を潜めて)拙者の策を信じてくだされ、ハッチ殿。 ハッチ:いや、こっちは初舞台がゲリラ公演なんだからね!もう緊張で手汗のダムが決壊してんだけどー! 前野:(声を潜めて)シッ!静かにしてふたりとも!聞こえちゃう! ヒデ子:……始まるよ。みんな……楽しもう! 前野:うん。 ハッチ:へへ。 半兵衛:いざ!出陣でござる! : 0:時間経過。 0:体育館の演台にタツヲが立っている。 : タツヲ:えー、テステス。あーお集まりの皆さん、ボクが稲葉山高等学校 生徒会長の龍興タツヲです。 タツヲ:本日は稲葉山高校文化祭のメインイベント【稲葉山高校の歴史展】にご来場頂きまして、誠に有難うございます。 タツヲ: タツヲ:見てください、私たち生徒会が丹念に作り上げた展示物の数々を。 タツヲ:旧制高等学校時代から綿々と受け継がれた学園の歴史が記された、特大年表。 タツヲ:SDGs(エス・ディ・ジーズ)を始めとした、社会貢献活動を撮影した活動写真のビッグパネル。 タツヲ:そして、稲葉山市長から頂いたお祝いのお言葉も、デカデカと印刷し、展示してあります。 タツヲ: タツヲ:それでは皆さま、本日はごゆっくり楽しんでいってください、稲葉山高校の文化祭の開会をここに宣言しま…… : 0:体育館の照明が落ちる。 : タツヲ:うわー!まっくらーー!!なになになに!?なんだー一体!? : 0:体育館内にヒデ子の声の影アナが響き渡る。 : ヒデ子:本日は稲葉山高校 演劇同好会の旗揚げゲリラ公演にお越し頂いて、誠に有難うございます。 タツヲ:ゲゲゲ、ゲリゲリ…ゲリラ公演!?ちょ、今すぐこんなバカげた事を止めさせるんだ! 前野:龍興くん、少しだけここで待っててくれる? タツヲ:ま、前野先生!? 前野:今この瞬間から先生の、いや聚楽第ヤスシの伝説が始まるんだから。 タツヲ:え!?じゅらく、なにそれ!? 前野:いいから黙って観劇してて! ヒデ子:時は永禄7年美濃(みの)の大名斎藤龍興は僅か14歳で父より家督を継いだのですが、酒色(しゅしょく)に溺れ、自身の領地である美濃の統治さえも投げ出し、領民を困らせていました。 ヒデ子:そんなある日、主君の愚かな振る舞いを諫めるべく、若きひとりの武士が立ち上がりました。 : 0:バリバリと展示物を突き破って、中から半兵衛が飛び出してくる。 : 半兵衛:バリバリバリー! タツヲ:おい!ありゃなんだ!?歴史展の展示物を突き破って何か出て来たぞ!? 半兵衛:龍興様が家督を継いでからというもの、家臣を集めての評定(ひょうじょう)さえも行われなくなった。 半兵衛:我が主君の愚行、今日こそ改めてもらわねばならぬ。 ヒデ子:彼の名は竹中半兵衛。今はまだ美濃の将来を憂う、ひとりの若き侍です。 : 0:また別の展示物を突き破って、中からハッチが飛び出してくる。 : ハッチ:バリバリバリー! ハッチ:おい!ちょっと待てい!貴様、竹中のところの子倅じゃねえか! タツヲ:おわー!また別の展示物からなんか出て来たー!! ヒデ子:この者の名前は斎藤飛騨守(ひだのかみ)。半兵衛と同じく龍興に仕える身でありながら、おべっかばかりを言って取り立てられた、典型的なイエスマンです。 ハッチ:(高須クリニックの感じで)イエス!飛騨守!! 半兵衛:やや、あなたは飛騨守殿ではありませぬか。 ハッチ:貴様、今日龍興様にアポイントメントを取ってるそうだが、龍興様は貴様なんぞにお会いにはならん!すぐに立ち去れい! 半兵衛:何ですと!? ハッチ:どうせ貴様の事だ、龍興様にいらぬ諫言(かんげん)を申すつもりであろう! ハッチ:そしてワシたちイエスマン家臣団の悪口もある事ない事……言うに決まっておる!! 半兵衛:いや、拙者はただ龍興様に民を思うお心を持って頂きたくて… ハッチ:ええい!うるさい!竹中の子倅! ハッチ:これでもくらえ!オシッコ爆弾じゃー!! ヒデ子:そう言うと、飛騨守はなんと、櫓の上から半兵衛めがけて小便を放ちました。 半兵衛:うわっ!きたなっ!ペッペッペ! 半兵衛:…お主何をする!? ハッチ:ハーッハッハッハ!尿に含まれるアンモニア成分には消毒効果があるんだよ!汚物は消毒だあ!! 半兵衛:おのれ飛騨守!ムカ着火インフェルノォォォォオオ!! ヒデ子:飛騨守の乱暴狼藉についにブチ切れてしまった半兵衛は、龍興を諫めるために一計を案じます。 ヒデ子:それは主君、斎藤龍興の稲葉山城を乗っ取ろうという、大胆不敵な計画でした。 ヒデ子:稲葉山城は、かの織田信長も攻めあぐねた難攻不落の名城。そう簡単に落とす事など叶いません。 ヒデ子:そこで半兵衛は城に住む弟、久作(きゅうさく)に手紙を送り、協力を求める事にしました。 : 0:またまた展示物を突き破って、中からヒデ子が飛び出してくる。 : ヒデ子:バリバリバリバリ!ドカーン!兄上ー!!久作でござるー! タツヲ:おわあ!また展示物から人が、もうメチャクチャだあ~ ヒデ子:(おもむろに)…おや兄上から手紙だ。(手紙を広げて)なになに…しばらく病気のフリをしろ。兄より。 ヒデ子:え!どういう事!?…まあでもいっか。昔から兄上の言う事が間違ってた事なんていっこもなかったもんな。 ヒデ子: ヒデ子:プルルル…あーもしもし、久作です。ちょっと朝から微熱があってえ、36度8分。 ヒデ子:10日ほど休みますんで、よろしくお願いします!…ピッ。これでよし、と。 ヒデ子: ヒデ子:重い病に倒れた…フリをした弟のお見舞いに、半兵衛は稲葉山城を訪れます。 ハッチ:貴様は竹中の子倅(こせがれ)。性懲りもなくまた現れたか。 半兵衛:これはこれは飛騨守殿、拙者は今日は病の弟を見舞いにまいっただけでござる。 ハッチ:ならばそのたくさんの長持ち(ながもち)は何じゃ!? 半兵衛:これは病の弟にたっぷり滋養を取ってもらおうと、食べ物と酒と……サプリでござる! ハッチ:サプリじゃと? 半兵衛:飛騨守殿もご覧になりますか!?ビタミン、セサミン、グルコサミン、コンドロイチン、青汁、ニンニク卵黄… ハッチ:ええい鬱陶しい!もうよい!!通れ!! 半兵衛:かたじけのうございます。 ヒデ子:しかし半兵衛が城に運び入れた長持ちには、実は槍や甲冑等の武具が入っていたのです。 ヒデ子:半兵衛と久作は持ち運んだ武具を素早く身に着けると、僅かな手勢と共に一気に龍興のもとに攻め入ります。 ハッチ:か、か、カチコミじゃあ!!ワレコラ!誰の許可取ってカチコミかけとんのじゃ……あ!貴様は竹中の子倅!! 半兵衛:子倅ではござらん。拙者は竹中半兵衛重治。 ヒデ子:そして半兵衛が弟、竹中久作!斎藤飛騨守!お覚悟っ!!(ハッチをブスリと刺す) ハッチ:ショギャーーー!!!!わ、ワシの酒池肉林が……ガク。 タツヲ:いい加減にしろー!!お前らー!!!! : 0:激高した龍興タツヲが客席から舞台によじのぼって現れる。 : タツヲ:このボクの晴れの舞台を台無しにしやがって!絶対に許さないぞー!! 半兵衛:(半兵衛は芝居を続けている) 半兵衛:この半兵衛、主君への忠節の証に、龍興様にお灸をすえにまいりました。 タツヲ:なにっ!? 半兵衛:父、義龍(よしたつ)様から家督を受け継いでからというもの、佞臣(ねいしん)にたぶらかされ、酒色に耽ってばかり。美濃の民は皆、嘆いておりまする。 タツヲ:うるさいうるさい!そのつまらない芝居をやめろー!! 半兵衛:どんなに堅牢堅固(けんろうけんご)な城を持とうとも、腑抜けた兵ばかりではこの様に容易く破られてしまいまする。 タツヲ:ぐぬぬぬ…。 ヒデ子:龍興様、兄・半兵衛に代わって私からも申し上げます。 ヒデ子: ヒデ子:この間、龍興様は私に申されました。 ヒデ子:【世界中のエンタメがスマホひとつで取り出せる時代に演劇なんて必要ない】と。 タツヲ:……。 ヒデ子:(だんだんと久作の演技から素のヒデ子へと変化していく) ヒデ子:あれからずっと、龍興様に言われた事について考えておりました。 ヒデ子:演劇はほんとに、オワコンなのかなって……。 前野:羽柴さん…。 ヒデ子:映画やドラマと較べてつまんないのかなとか、ユーチューブやネトフリより劣ってるのかなとか…そんな事ずっと考えてたんです。…けど、結局私にはよく分かんなくって…。 ハッチ:(ムクリと起き上がって)頑張れ…!ヒデ子。 ヒデ子:わかんないけど!!私には全然わかんないけど!! ヒデ子:……でも私は演劇が好き。初めて観て、カミナリに打たれたみたいに衝撃受けて、私もやってみたいって思って、そうやって背中を押されて、今この舞台に立ってる……。 ヒデ子:観た人の心を震わせるようなお芝居にはまだまだ程遠いけど、でもそんな私たちを観て、同じように背中を押される人だっているかもしれない……。 ヒデ子:私は…演劇が好きなの。…それだけじゃ、ダメなんですか!? 半兵衛:ヒデ子殿、よく言ったでござる。 タツヲ:グギギギギ……!覚えてろよ!!演劇同好会!!このボクに恥をかかせた事、絶対に後悔させてやるからなー!! : 0:タツヲ、悔しさを滲ませながら足早に退場する。 : ヒデ子:こうして半兵衛は僅か16名の手勢で稲葉山城を占拠し、主君の斎藤龍興は命からがら城を逃げ出し、これをきっかけに戦国の乱世から没落していくのでした。 ヒデ子:この出来事は「稲葉山城乗っ取り事件」と呼ばれ、半兵衛の知略を称える逸話として語り継がれていくのでした。 半兵衛:皆の者ー!!勝鬨(かちどき)をあげろー!!それ! 半兵衛:(同時に)エイエイオー!! ヒデ子:(同時に)エイエイオー!! 前野:(同時に)エイエイオー!! ハッチ:(同時に)エイエイオー!! : 0:【10場】 : : 0:時間経過。 0:教室で祝杯を上げる演劇同好会のメンバーたち。 : ヒデ子:旗揚げゲリラ公演、大成功!おめでとう!カンパーイ! 半兵衛:(同時に)カンパーイ! 前野:(同時に)カンパーイ! ハッチ:(同時に)カンパーイ! : 0:各々、興奮気味にグラスの飲み物を飲み干す。 : 前野:いやー、ほんともう最高だったよ!みんな! 前野:先生のイメージ通りだった!まるで頭の中を覗かれてるみたいな気分になったよ~ 半兵衛:いや、前野殿の脚本も見事と言う他ありませなんだ。 半兵衛:拙者の稲葉山城の話を今回のゲリラ公演になぞらえた、なんとも不可思議な話でございました。 前野:いやいやいや、そんな照れますよ~。 : 0:ここで突然のキャスト紹介 : 前野:前野ヤスシ役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ハッチ:ヒデ子のラストのセリフもすごい迫力だった! ハッチ:ウチ、もう死んでたから泣くの我慢すんの大変だったわー!! ヒデ子:(照れながら)デヘヘ。ハッチ有難う。 ヒデ子:でも無我夢中だったからあんま覚えてないや。 ハッチ:ギャハハ!それにしても…舞台からそそくさと逃げ出す生徒会長の顔、今思い出しただけでニヤケちゃう~ : 0:ここで突然のキャスト紹介 : ハッチ:蜂須賀リッカ役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ヒデ子:ちょっと、悪い事しちゃったかな…。 ハッチ:いーのいーの!あれぐらい懲らしめてやってちょうど(ぐらいだよ!) : 0:ドアがガラリと開く音がして、タツヲ入場。 : タツヲ:演劇同好会の諸君! ハッチ:うわー!でたー! 前野:た、龍興くん!? タツヲ:……。 ヒデ子:あ、あの、何の用ですか? タツヲ:さっきあんなタンカを切ったばかりなのだが、折り入ってキミたちにお願いがあってやって来た。 ハッチ:え!?こわいこわいこわい! ヒデ子:お願い…ですか? タツヲ:このボクを、龍興タツヲを演劇同好会に入れてくれはしまいか? ヒデ子:えー!? タツヲ:さっきの舞台で、ボクは演じる快感に目覚めてしまった…! ハッチ:何言ってんのコイツ? 半兵衛:歓迎します。龍興タツヲ殿。 前野:ちょっと半兵衛さん!本気ですか? 半兵衛:勿論です。次の拙者たちの目標は同好会から部への昇格、そのために龍興殿のお力は不可欠です。 ヒデ子:そう…だね!龍興会長!今日からよろしくお願いします! タツヲ:フグゥ!すまない!みんな!これからは仲良くしてくれたまえー!! : 0:ここで突然のキャスト紹介 : タツヲ:龍興タツヲ役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) 前野:ん……?なんだか教室の外が騒がしくないかい? ハッチ:…ちょっと、見て来る! ヒデ子:目指せ演劇部かあ、早く次の公演に向けて動き出さなきゃだね! : 0:ここで突然のキャスト紹介 : ヒデ子:羽柴ヒデ子役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ハッチ:……大変だよ、みんな!! ヒデ子:え? ハッチ:人がいっぱい詰めかけてる!!みんな入部希望者だって!! ヒデ子:えー!?どうしよ!半兵衛さん。 半兵衛:これも全て想定の内です。さあ、ヒデ子殿、まいりましょう!! : 0:ここで突然のキャスト紹介 : 半兵衛:竹中半兵衛役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ヒデ子:(タイトルコール)くまのムッチ作 演劇部半兵衛!! 半兵衛:目指すは天下一統(てんかいっとう)!!全国大会制覇でござる!!!! : 0:完 : 0:(最後まで読んでくださって本当に有難うございました)

0:  :  :タイトル  : 【演劇部 半兵衛】作・くまのムッチ  :  :登場人物  : 半兵衛: 半兵衛:(配役が決まったらここをタップしてください) 半兵衛:竹中半兵衛(たけなか・はんべえ) 半兵衛:羽柴秀吉の軍師。死後、現代に転生する。 : ヒデ子: ヒデ子:(配役が決まったらここをタップしてください) ヒデ子:羽柴ヒデ子 ヒデ子:稲葉山高校一年。演劇同好会会長。 ヒデ子:兼ね役(秀吉)があります。 : 秀吉: 秀吉:(ヒデ子役の方はここをタップしてください) 秀吉:羽柴秀吉(はしば・ひでよし) : ハッチ: ハッチ:(配役が決まったらここをタップしてください) ハッチ:蜂須賀六花(はちすか・りっか) ハッチ:稲葉山高校一年。ヒデ子の親友? ハッチ:兼ね役(小六)があります。 : 小六: 小六:(ハッチ役の方はここをタップしてください) 小六:蜂須賀小六(はちすか・ころく) : 前野: 前野:(配役が決まったらここをタップしてください) 前野:前野ヤスシ(まえの・やすし) 前野:稲葉山高校教諭。専科は家庭科だけど歴ヲタ。 前野:兼ね役(将右衛門)があります。 : 将右衛門: 将右衛門:(前野役の方はここをタップしてください) 将右衛門:前野将右衛門(まえの・しょうえもん) : タツヲ: タツヲ:(配役が決まったらここをタップしてください) タツヲ:龍興タツヲ(たつおき・たつお) タツヲ:稲葉山高校生徒会会長。 タツヲ:兼ね役(語り)があります。 : 語り: 語り:(タツヲ役の方はここをタップしてください) 語り:語り(ナレーション) : 0:以下、本編 :・ : :・ : :・ : :・ : :・ 0:プロローグ : 語り:天正7年6月 三木城攻め陣中 語り:蠟のような青白い顔をした武士が静かに横たわっている。 語り:彼が呼吸する度、喉からはヒューヒューという弱々しい音がする。男の名は竹中半兵衛重治(たけなか・はんべえ・しげはる)。間もなくその命は尽きようとしている。 : 0:半兵衛の幕舎に将右衛門が現れる。 : 将右衛門:軍師殿。 半兵衛:(弱々しく)おお、その声は将右衛門(しょうえもん)殿か、また珍しい御仁が来なさった。今日は陣中見舞いですかな? 将右衛門:ご冗談が過ぎますぞ、軍師殿。…ここ数日お加減が優れぬとの報せを受け、参った次第でござる。 半兵衛:では戻って秀吉様にお伝え願えますか。 半兵衛:この半兵衛、間もなく肉体は朽ち果てようとしておりますが、脳漿(のうしょう)から溢れ出る軍略は止まりませぬと。 将右衛門:……。 半兵衛:我が殿、羽柴筑前守秀吉(はしば・ちくぜんのかみ・ひでよし)殿が日ノ本を安寧に導くための軍略でござる。 将右衛門:またかような事を申されて、信長様の耳に入りでもしたら(どうするおつもりですか!?) 秀吉:カッカッカッ!全く、半兵衛は相変わらずじゃのう。 小六:邪魔するぞ、将右衛門。 : 0:半兵衛の幕舎に羽柴秀吉と蜂須賀小六が現れる。 : 将右衛門:と、殿っ!それに小六まで! 半兵衛:……そろそろおいでになるのではないかと、思っていたところでした。 秀吉:(笑いながら)無理をして早馬でまいったのじゃ。もそっと驚け、半兵衛。 半兵衛:筑前守殿の考えそうな事でございまする。 小六:ガッハッハ!それでこそ我らが軍師殿!息災(そくさい)そうでなによりじゃ! 将右衛門:小六!馬鹿を申すでない!先ほどから軍師殿は声を出すのがやっとのご様子だと言うのに! 小六:将右衛門、お主のシケた面構えのせいであろう! 将右衛門:小六!! 秀吉:まあ良いではないか、将右衛門。こうして4人で話すのも久方ぶりじゃあ。 小六:そうですなあ!あの日、我らが軍師殿の庵を訪ねた時も、かような天気でございましたなあ。 : 0:ボツボツと、雨粒が幕舎に跳ねる音がする。 : 秀吉:のう、半兵衛。 半兵衛:…はい。 秀吉:ワシにはまだまだお主の知略が必要じゃ。今一度京へ戻って養生せい。 半兵衛:それはできませぬ。 将右衛門:軍師殿! 半兵衛:殿、拙者は残り僅かな命の灯(ひ)を、泰平の世のために使いたいのでございます。 半兵衛:泰平の世のため拙者が出来得る事、それは殿を、秀吉様が天下人となるまでお支えする事でござる。 秀吉:またそのような戯言を。ワシは信長様に仕える身、主君に二心など抱いておらん。 半兵衛:(懐から書状を取り出し)三木城を落とした後の策をここに書き記しております。そこに拙者亡き後の後事(こうじ)についても。 秀吉:じゃから、半兵衛(かような事を申すな) 半兵衛:(遮って)殿、お耳を。 半兵衛:……最後に殿に、申し上げたき儀がございます。 語り:半兵衛が秀吉に小さく耳打ちをする。その声は消え入るように小さく、秀吉にしか聞き取る事が出来ない。 秀吉:ふむ……ふむ……あいわかった……。 半兵衛:将右衛門殿、小六殿。殿をお頼み申す。 将右衛門:…わかり申した。 半兵衛:筑前守殿、いや、秀吉様。 秀吉:……。 半兵衛:……一足先に黄泉路の露払いをしてまいります…(絶命する) 小六:半兵衛殿! 将右衛門:軍師殿! 秀吉:半兵衛!半兵衛!……半兵衛ー!! 語り:竹中半兵衛重治。播磨(はりま)三木城攻め最中(さなか)、平井山の陣中にて病没。享年34歳であった。 : 0:幕舎を深い悲しみが包む中、一層勢いを増す雷鳴の音。 : 語り:と、その時! 語り:まばゆい一条の光が平井山に差しこむ! : 語り:一条の光は折り重なり、大きな光の束となる。 語り:やがてその光は半兵衛の陣へと降り注ぐ! : 0:激しい雷鳴。 : 語り:轟音とともに、幾重にも重なった雷が平井山の陣に落ちたかと思うと、 語り:そこにはもう、半兵衛の亡骸は、なかった。 : 語り:くまのムッチ作 半兵衛:「演劇部 半兵衛」 : 0:(プロローグ終わり) : 0:【2場】 : 0:場面はガラっと変わって職員室。 0:ふたりの少女が男性教師に詰め寄っている。 : ヒデ子:前野先生お願い!演劇同好会の顧問になって! 前野:だから、羽柴(はねしば)さん。何度も言ったけど、それはできないんだって。 ヒデ子:ね!先生!お願いだから! ヒデ子:ほら、ハッチからも頼んで! ハッチ:えーやだー。ウチはただの付き添いだもん。 ヒデ子:えー!?なんでよー!! ヒデ子:顧問の先生がいなきゃ、同好会作れないじゃん! 前野:あのね、そもそも先生は演劇同好会の顧問にはなんないし、同好会作る条件はそれだけじゃないの。 ヒデ子:え!?どゆ事? 前野:…ほら、これ読んでみて。(紙を渡す) ヒデ子:え?なにこれ?…えっーと(読み上げる) ヒデ子: ヒデ子:稲葉山高校 クラブ活動指針 ヒデ子:第4条 同好会の設立について ヒデ子:新規の同好会の設立については、以下の二点の条件を満たす事とする。 ヒデ子: 1.顧問の教師がいる事 ヒデ子: 2.部員が3名以上である事 ヒデ子: ヒデ子:…え!3名以上!?じゃあ私とハッチのふたりだけじゃ… 前野:そう。君と蜂須賀さんが部員になっても、ひとり足らないの。 前野:だから例え先生が顧問になったとしても、あとひとり部員を見つけないと、演劇同好会は作れないんだよ。 ヒデ子:えー!!そんなのやだ~!! 前野:どうしてもって言うんなら、あとひとり部員集めて来なきゃだね。 ハッチ:もう諦めな、ヒデ子。あんた学校中の子たちに勧誘しまくったけど全敗だったじゃん。 ヒデ子:ハッチ!なんで後ろから撃つような事言うの!?援護してよ、援護射撃! ハッチ:そもそもウチも名前貸すだけで良いって言うからオッケーしてあげたんですけど。 ハッチ:メンバー集まんないなら、この話はチャラね。 ヒデ子:ぐぬぅ…。 前野:だいたい、なんで先生なの? 前野:ウチの学校、ブラック職場で部活動は時間外手当付かないの。勘弁してよ~。 ヒデ子:それは…前野先生は演劇が好きだって(話を聞いて) 前野:…ギク!…羽柴さん!それって一体誰から聞いたの? ハッチ:だから違うんだってヒデ子。先生が好きなのは2.5次元舞台の方。 前野:ギクギク!! ヒデ子:あ、そっか。また間違えちゃった。 ハッチ:なんでも自作の二次創作台本をネットにあげてるとかなんとか…… 前野:ギクギクギクゥ!!!! 前野:(小声で)ちょ、おまえら、でっかい声出さないの!他の先生に聞かれたらどうするの… ハッチ:(状況を察して)ははーん。なるほどね。……どーしよっかなー! 前野:わかった!わかったから!ね、羽柴さん、蜂須賀さん!ちょっと向こうで話しよっか… ハッチ:ねえ!前野せんせー!にーてん…… 前野:(遮って)わー!やめろー!! ハッチ:(わざとらしく)にーてんとうしずほう(二点透視図法)の書き方がぁ、分かんなくってぇ~ 前野:あー!二点!二点透視図法ね!!あーえー…それはだな……ウオッホン! 前野:……美術の先生に聞きなさい…。 : 0:前野と蜂須賀のやり取りを見てヒデ子も状況を察する。 : ヒデ子:ねえ先生!演劇同好会の顧問になってよ! 前野:それとこれとは話が別だよ! ヒデ子:先生!にーてん…… 前野:(遮って)わー!わー!わー! ヒデ子:(わざとらしく)にーてん(2点)を通る直線の方程式はどうやって求めますかあ~? 前野:んなもん知るかっ!!先生の専科は家庭科だぞ~!! ヒデ子:(ニヤニヤと笑っている) ハッチ:(ニヤニヤと笑っている) 前野:ゼエ…ゼエ… ヒデ子:前野せーんせ!にーてんご…… 前野:(遮って)わー!わかった!わかったから!やります!やらせてもらいます!演劇同好会の顧問!! ヒデ子:やったー!顧問ゲットー!! ヒデ子:じゃあ早速今後の方針について話し合わなきゃなんだけど… : 0:とそこに、ヒデ子の声を掻き消す、地鳴りのような音がする。 : ハッチ:ん?なにこの音? 前野:カミナリ…かな? : 0:激しい轟音とともに落雷が起こる。 : ハッチ:ヒエッ! ヒデ子:わあっ!え!?なになに!? 前野:すごい音…近いな…。たぶん、体育館の辺りに落ちたよね… ヒデ子:私、行ってみる! ハッチ:ちょっとヒデ子!(危ないかもしれないよ) ヒデ子:行ってくる!!…なんか…… 前野:えっ ヒデ子:なんか…呼ばれた気がする……! 前野:おい!…おい!待てって!羽柴さん!!羽柴さーん!! : : 0:【2場】 : 0:稲葉山高校の体育館。誰もいない体育館に横たわる侍。 : 半兵衛:うっ、うう…(気が付く) 半兵衛: 半兵衛:ここが…黄泉の国か……生前神仏を拝めど、時には仏敵となり寺社をも攻め立てた拙者が、極楽へ行ける筈もなかろう。 半兵衛:さて、ここで地獄の閻魔の沙汰でも、待つとするか…… : 0:体育館に飛び込んできたヒデ子、ゆっくりと立ち上がった半兵衛と視線が合う。 : ヒデ子:あ、(誰かいる) 半兵衛:おや、女子(おなご)か。またかような場所に似合わぬ者が。しかも、なんと面妖ないでたち…。 半兵衛:書物で知る獄卒とは随分違うが……はて?拙者はイスパニア人が逝く地獄にでも落ちたのか…? ヒデ子:あ、あの… 半兵衛:さあ、地獄の獄卒よ、案内(あない)致せ。この竹中半兵衛重治、逃げも隠れもせん。 ヒデ子:えと、ハンベーシゲハルさん? ヒデ子:私、その…ゴクソツじゃないです!私の名前は羽柴(はねしば)ヒデ子って言います。 半兵衛:なんと……!ここは地獄ではないと…? 半兵衛:しからばここは一体……? : 0:半兵衛がヒデ子に問いかけようとしたところに、前野とハッチが遅れてやって来る。 : 前野:…あれ?たしかにこの辺りで音がしたと思ったんだけどなあ。 ハッチ:おーい!ヒデ子ー!! ヒデ子:あ、前野先生、ハッチ。 ハッチ:え!?何なにこの人!?…チョンマゲに着物ってほぼほぼ武士じゃん! 前野:おわ!ほんとだ!(少し考えて)コスプレイヤーか何かかな? 前野:あの、ここ学校関係者以外立ち入り禁止なんですが、入構許可証ってお持ちですか? ハッチ:…学校関係って言うかモノノフ関係? ハッチ:それともウチの学校にこんなオモシロ生徒いた? 半兵衛:お初にお目にかかる。それがしは竹中半兵衛重治(しげはる)と申す。 ハッチ:え?バンブーもこみち?あ!わかった!地下芸人! 前野:違うよ!竹中半兵衛重治って言ったの! ヒデ子:え?先生、ハンベーさんの事知ってるの? 前野:そりゃそうさ。竹中半兵衛って言ったら、羽柴秀吉、のちの豊臣秀吉に仕えた名軍師だよ? 前野:その神算鬼謀(しんさんきぼう)の軍略と、秀吉が三顧の礼で迎えたエピソードから、中国の天才軍師諸葛亮孔明になぞらえて【今孔明】(いまこうめい)って呼ばれている、安土桃山時代を代表する知将なんです!歴ヲタ必修科目なんです!! 半兵衛:そなた、拙者の事を知っておるのか? 前野:いやいや、竹中半兵衛の事はよーく知ってますけど。貴方の事は知りません。 ハッチ:あー、つまり、設定バキバキに作りこんだコスプレイヤーって事ね。 前野:確かに戦国二兵衛(せんごくにへえ)の竹中半兵衛を選ぶ、チョイスの渋さは評価せざるを得ないな。 ハッチ:だってさ、わかってんじゃん、マンボーてつみち! 半兵衛:いやだから、拙者は竹中半兵衛と申す。 ヒデ子:なんだ、やっぱり先生の知り合い?。 半兵衛:いや、拙者はこちらの御仁を存じ上げぬが…。 前野:あー!わかった!演劇同好会の入部希望者だ! 半兵衛:……? ヒデ子:あ、いや(そうじゃなくて) ハッチ:なんだ、ヒデ子!ちゃんと勧誘活動してたんじゃん!? ハッチ:コスプレイヤーだったら衣装作ったりもできるし、即戦力だよね! 前野:ひょっとして君、殺陣とかもイケるクチ!? 前野:それなら剣や刀が舞い乱れる本格時代劇だって夢じゃない!これは滾る!滾ってきたよ~! ヒデ子:あの、先生? 前野:よくよく見たらこの衣装も凝ってる! 前野:九枚笹(くまいざさ)の家紋まで再現してあるじゃん!君すごいねー!! 半兵衛:(驚く)おお、お主、我が竹中家の家紋まで知っておるのか!? 前野:その腰に差してる刀も本格的だね!ちょっと見せてもらってもいい? 半兵衛:いや、この刀は我が主君から拝領したもので…… 前野:いいじゃん!いいじゃん!減るもんじゃなし! : 0:前野先生、半ば強引に半兵衛より刀を取り上げる。 : 前野:オホー!ずっしりと重くて、まるで本物みたいなんですけどー! 前野:ん?んん!?……あれ?……これ、あの、本物の刀…なんじゃ…… 半兵衛:勿論、これは贋作などではござらん。 半兵衛:紛れもなくそれがしが秀吉様より下賜(かし)された、名刀「虎御前」(とらごぜん)でござる。 前野:そそそ、そうじゃなくて、それ、本物の刀だよね!? ヒデ子:えっ!本物!? 半兵衛:だからさっきから何度も申しておるではないか!これは本物の「虎御前」じゃと。 前野:それって、その、じゅじゅじゅ、銃刀法違反的なアレになるんじゃないのー!? ハッチ:おいワレェ!モノホンのドスて、どこの組のもんじゃいー!! : 0:騒ぎを聞きつけて、次第に体育館に人が集まってくる。 : ヒデ子:ちょっと!ハッチ!人が集まってきちゃったじゃん!! ヒデ子:ハンベーさん!いこっ!(半兵衛の手を引く) 半兵衛:おわっ! ヒデ子:急いでハンベーさん!走るよ!! 半兵衛:(戸惑いながら)あい、わかった! ハッチ:ちょっと!ヒデ子、待ちなよ! 前野:羽柴さん!羽柴さーん!ああ、行っちゃった…。 前野:それにしてもあの刀、確かに…… ハッチ:先生どうしたの? 前野:蜂須賀さん、先生も行ってくる!ここは任せた!! ハッチ:えっ、先生!……あーあ。先生まで行っちゃった…。 : 0:【3場】 : : 0:ひとり残された蜂須賀。とそこに何者かが現れる。 : タツヲ:ちょっとキミ!!待ちたまえ!! ハッチ:…誰、コイツ? タツヲ:なんだねキミは?まさか我が稲葉山高等学校に在籍していながら、ボクの事を知らないとでも? ハッチ:うん、知らない。 タツヲ:まったく無知とは恐ろしいものだね。仕方がない、今回だけ特別に教えてあげよう。 タツヲ:…ボクの名前は龍興タツヲ(たつおき・たつお)。 タツヲ:父の事業を僅か14歳で引き継いだ若き経営者にして、この稲葉山高等学校の生徒会長。 タツヲ:父から受け継いだうなるような財力と、父を後ろ盾にした政治的圧力を惜しみなく使う事で、この稲葉山高校の改革を推し進めて来た。 ハッチ:親の七光りって自分で言っちゃうんだ…。 タツヲ:生徒会長当選後すぐに改正に踏み切った校則は数知れず。 タツヲ:「グリーンピースご飯禁止法」「レーズンサラダ禁止法」「酢の物全面禁止法」 ハッチ:校則の改正が食堂改革に偏ってるね。 タツヲ:そして今は女性の体操服のちょうちんブルマ復刻の署名運動を展開している。 ハッチ:キモッ… タツヲ:そんな絶対的学校権力の象徴であるボクにキミは……一体何の用だい? ハッチ:いや、あんたが呼んだんでしょ。 タツヲ:(平然と)ああ、そうだったね。失敬。 タツヲ:…さっきこの辺りで、激しい雷鳴がしたのをキミも聞いただろう? タツヲ:生徒会長の責務を果たすため、様子を見に来たのさ。 ハッチ:……。 タツヲ:何せ、来たる文化祭では、この体育館で生徒会主催の催事も控えているしね。 タツヲ:何かあっては、この僕の沽券(こけん)に関わる。 タツヲ:ま、校内の安全についても常にボクが目を光らせておく事で、キミたち下々の者も、安心した学校生活を送れる事だろう。 ハッチ:はあ…。 タツヲ:で、何か不審な出来事はなかったかね? ハッチ:(とぼけて)…別に。 タツヲ:おや、その顔は何かを知っている顔だね。 タツヲ:ひょっとしてキミは、この稲葉山高校 生徒会長の龍興タツヲに隠し事をするつもりかい? : 0:タツヲがハッチに詰め寄ろうとしたその時、タツヲの電話が鳴る。 : タツヲ:プルルルル…おや、電話だ。もしもし、ボクだ。どうした副会長、そんなに慌てて。 タツヲ:何?重大な校則違反者だと?違反者は…キティちゃんのワンポイント刺繍が入った靴下を履いていた…! タツヲ:……何ぃ!?稲葉山高校ではソックスは白の無地のみと定められているのにキティちゃんのワンポイントだとう!? タツヲ:よし!違反者には見せしめに、くるぶしに【でんぢゃらすじーさん】のタトゥーを入れてやろう!!すぐに行く!!そこで待っていろ副会長!!馬ひけーい!! : 0:タツヲ、退場。 : ハッチ:何だアイツ…ヒデ子たち…大丈夫かな? : 0:【4場】 : : 0:ヒデ子に手を引かれながら階段を駆け上がる半兵衛。 : 半兵衛:ハァハァ…羽柴(はねしば)殿、一体どこまで行くのでござるかっ…! ヒデ子:ハンベーさん、ここに隠れよっ! : 0:ふたりは目の前の教室に飛び込む。 : ヒデ子:ハァハァ…ちょっと休憩……。 半兵衛:(息を整えながら)…あい、わかった。 半兵衛:(独り言)しかし、このように駆けたのはいつぶりか…。拙者の身体を蝕んでおった労咳が、嘘のように消え失せておる。かような事があると言うのか…!? ヒデ子:……。 半兵衛:羽柴殿…と言ったか。 ヒデ子:ああ、ヒデ子でいいよ。 半兵衛:ヒデ子殿。拙者、最初はここを地獄かと思うておったが、どうやらそうではないようだ。 半兵衛:ここは一体どこなのであろうか?そして拙者は何故かような場所に?ヒデ子殿、そなたは一体何者じゃ? ヒデ子:ハンベーさん、いっぺんに質問し過ぎ! ヒデ子:ここは稲葉山高校。そして私はこの学校の演劇同好会 会長!……になる予定の羽柴ヒデ子。 ヒデ子:すごい音のカミナリがして、胸騒ぎがして行ったら、そこにハンベーさんがいたの。 半兵衛:カミナリでござるか……やはりここは天正の世ではないのだな…。 半兵衛:たしか拙者は三木攻めの最中…病に倒れた筈…… ヒデ子:なんかハンベーさんって不思議な人だね。 半兵衛:拙者が…不思議? ヒデ子:うん、だってコスプレっていうか、まるで時代劇の中から飛び出してきた(みたい)……うーん、それも違うかな。なんか、ほんとに戦国時代からタイムリープしてきたみたいなんだもん! 半兵衛:たいむ……りーぷ? ヒデ子:だってハンベーさん見てると、見た目とかじゃなく、その時代を生きてると言うか……? ヒデ子:あー!上手く言えないけど……とにかく!すごい演技力だと思う! 半兵衛:いや、拙者は別に演じている訳ではござらんのだが…… ヒデ子:私もハンベーさんみたいに内面から演じれるようになりたいな!それでいつか観た人の心が震えるような、そんなお芝居を作りたいの! ヒデ子:…とか偉そうな事言っといて、まだ同好会も作れてないんだけどね……。 半兵衛:聞き慣れぬ言葉が多く、拙者にはよくわかりませぬが、ヒデ子殿ならその夢、必ずや成就されるであろう。 ヒデ子:え?そうかな? 半兵衛:ああ。ヒデ子殿は拙者がよく知るお方に似ておられる。 半兵衛:そのお方も強い意志で天命を切り拓く、そんな御仁であった…。 ヒデ子:よくわかんないけど、誉められてる?ありがとハンベーさん!なんか元気出た! ヒデ子:ふふ。落ち着いたら、お腹空いてきちゃったね! 半兵衛:はは。全く、ヒデ子殿は面白いお方じゃ。 : 0:笑い合うふたりの所に、息を切らせて前野が入ってくる。 : 前野:フイ〜!羽柴さん!やっと見つけた! ヒデ子:あ、先生。 半兵衛:そちらの御仁は、たしか前野殿でしたな。 ヒデ子:そう!ついさっき演劇同好会の顧問になったばかりの前野先生。 前野:だから~、あとひとり部員を増やさないと同好会は作れないんだって。 ヒデ子:も~、わかってるって。 ヒデ子:ねえ、先生。ハッチは? 前野:ああ、蜂須賀さんなら多分まだ体育館じゃないかな。 ヒデ子:先生一緒じゃなかったんだ。 前野:うん。実は先生も、そちらの、半兵衛さんとお話したくてね。 半兵衛:拙者と、でござるか。 前野:ええ。 ヒデ子:ふーん、そうなんだ!じゃあ私ハッチ呼んでくるね! ヒデ子:先生とハンベーさんはここで待ってて! 前野:ああ。 半兵衛:あい、わかり申した。 : 0:ヒデ子、退場。 : 前野:あの、半兵衛さん。 半兵衛:なんでござろう、前野殿。 前野:不躾なお願いなんですが、先程の刀、もう一度見せて頂けませんか? 半兵衛:ああ、別に構いませぬが。 : 0:半兵衛、前野に刀を渡す : 前野:(受け取り)有難うございます。 前野:天正元年、小谷城(おだにじょう)の戦いで、織田が浅井を討ち破った時、戦功をあげた竹中半兵衛が主君、羽柴秀吉(はしばひでよし)から拝領したと言われる名刀。 前野:その刀は浅井長政が布陣した虎御前山から名を取り、虎御前と名付けられた。 半兵衛:……。 前野:僕は以前、京都の美術館で本物の虎御前を見たことがあります。その刃紋の美しさは今もこの目にしっかりと焼き付いている……。 前野:この世にふたつとない名刀をこの歴オタの僕が見間違える筈がありません!これはまさしく……本物の虎御前……! 前野:にわかには信じられませんが、半兵衛さん、貴方やっぱり、あの竹中半兵衛重治なんですね! 半兵衛:いかにも。 前野:い、い、い、い…… 半兵衛:どうされた、前野殿。 前野:異世界転生、キターーー!!!! 半兵衛:い、伊勢!?甲斐!? 前野:ああ、すみません。あまりの興奮で絶叫してしまいました。 半兵衛:気が触れたのかと思うたでござる。 前野:半兵衛さん、聡明な貴方ならもうお気付きかもしれませんが、この時代は令和といって、あなたが活躍した天正から、遥か四百年以上経った未来の日ノ本なんです。 半兵衛:なんと……! 前野:何がどうなって半兵衛さんがここにやって来たかは私にもわかりませんが、もしご迷惑でなければ、あなたのお力にならせてもらえませんか? 半兵衛:前野殿、それは拙者にとっても願ってもない事でござる。是非お力添えをお願いしたい! 前野:やった!(畏まって)ハハッー!恐悦至極に存じまする~! : 0:【5場】 : : 0:ハッチを見つけたヒデ子が駆け寄る。 : ヒデ子:ハッチ! ハッチ:もう~、ヒデ子も先生もどっか行っちゃうんだから~! ヒデ子:ごめん!ハッチ! ハッチ:あんたのせいで、ぼっちになるわ、ウザ絡みされるわで、大変だったんだからねー。 ヒデ子:マジでゴメン! ハッチ:それで?さっきの人……えと、なんだっけ…ダンボーともしげは? ヒデ子:半兵衛重治(はんべえ・しげはる)!ハッチ、わざと間違ってない? ヒデ子:ハンベーさんなら、いま先生と一緒にいるよ。 ハッチ:ねえ、ヒデ子、あの人を演劇同好会に入れちゃえばいいんじゃね? ヒデ子:えっ ハッチ:だって他に見つかんなそうだし。 ヒデ子:すごいハッチ! ハッチ:ん? ヒデ子:実は私もそう思ってたの!ハンベーさんがいてくれたら、なんか上手くいきそうな気がするんだ! ハッチ:いや、ウチはとりあえず頭数揃えとこっかぐらいのノリだった(んだけど) ヒデ子:そうと決まれば善は急げ!ハンベーさんたちのとこに戻ろ! ハッチ:え、ちょ、ヒデ子… タツヲ:ちょっと君たち!!待ちたまえ!! ヒデ子:…え、誰? ハッチ:…だよね。 タツヲ:やれやれ…まさかこの稲葉山高校で最もフェイマスでファビュラスなボクが一日に二度も自己紹介させられるとはな…。 タツヲ:僕の名前は龍興タツヲ。父が築いた富と権力を受け継ぐ、選ばれし者。 タツヲ:最近のマイブームは己の財力を見せつける為、高額商品をあえて転売屋から買う事だ。 タツヲ:この間はプレイステーション5を27万5千円で購入した。 ハッチ:え…コワ。 タツヲ:早くも2期目の当選を狙って活動中でね。 タツヲ:支援者には漏れなくボクの顔がプリントされた限定エコバックを配布している。 ヒデ子:エコバック… タツヲ:ちなみにプリント部分には金箔があしらってある。 ハッチ:エコじゃない! タツヲ:…それでキミたちは、このボクに何の用だい? ハッチ:いやだから、アンタが呼び止めたんでしょ? タツヲ:(平然と)おや?そうだったかな。失敬。 ヒデ子:あの! タツヲ:わあ!ビックリした! ヒデ子:生徒会長にお願いがあります! タツヲ:ふむ…さてはキミも限定エコ(バック狙いかね?) ヒデ子:(遮って)あの!私!演劇同好会 会長の羽柴ヒデ子って言います! タツヲ:演劇同好会?はて、そんな会、ウチの学校にあったかな? ヒデ子:登録はまだなんですけど、顧問の先生も、メンバーも揃ってるんです! タツヲ:ほう、それで? ヒデ子:来月の文化祭で、私たち演劇同好会に自主公演をさせて欲しいんです! タツヲ:……。 ハッチ:ちょ、ヒデ子!来月って、あと1カ月って事!? ヒデ子:ハッチ、私決めた!文化祭を私たちの旗揚げ公演にしよう! タツヲ:演劇…自主公演…ねえ。 ヒデ子:はい!お願いします! タツヲ:変に期待を持たせてもいけないから、ハッキリ言っておくけどね。 タツヲ:……答えはノーだ。 ヒデ子:…え? タツヲ:文化祭は学校の外部のお客様もいらっしゃるんだ。 タツヲ:我が稲葉山高校の名に恥じぬような内容でなければいけない。 ヒデ子:……。 タツヲ:だから、模擬店のメニューから、バンドの選曲に至るまで、文化祭で行われる全てのイベントは、我々生徒会の厳正な審査を通過しなければならないんだ。 ハッチ:だったら、その審査を受ければいいじゃん。 タツヲ:いや、残念ながらキミたち演劇同好会は、審査対象外だ。 ハッチ:なっ!? ヒデ子:えっ、どうして(ですか?) タツヲ:(遮って)演劇なんてオワコン、審査するまでもない。 ヒデ子:そんな! タツヲ:世界中のエンタメがスマホひとつで取り出せるこの時代に、演劇なんてカビの生えた古臭いもの、誰が興味あるんだ。 タツヲ:いっそ能や狂言、浄瑠璃みたいに由緒正しければ、芸術として国が守ってくれるのかもしれないけど。 タツヲ:誰も観ないものを、わざわざ審査する必要もないだろう。 ヒデ子:(消え入りそうな声で)…取り消してよ。 タツヲ:……ん? ヒデ子:取り消して!!演劇を、お芝居をオワコンとか古臭いとか言った事、すぐに取り消して!! タツヲ:取り消す?どうして?ボクはキミたちに客観的事実を教えてあげているだけさ。 ヒデ子:そんな事ない!そんな事ないよ… ハッチ:フザけんな!生徒会長だからってそんな横暴許されると思ってんの!? タツヲ:フッ…そこまで言うなら何故ボクが演劇を認めないかキミたちにも教えてやろう。 ヒデ子:……。 タツヲ:それは、龍興タツヲ6歳の春の出来事だった。 ハッチ:随分遡ったな。 タツヲ:当時、幼稚園だったボクはお遊戯会で劇を発表する事になった。 タツヲ:演目は【金太郎】。勿論、ボクは主役の金太郎役を射止めるため、日夜役作りに励んでいた…。 タツヲ:だが園内のオーディションの結果、ボクは金太郎役にはなれなかった! タツヲ:……何故だかわかるか!? ハッチ:……。 タツヲ:(叫ぶ)金太郎にちなんでオーディションが相撲対決だったんだよー!!!! ハッチ:え タツヲ:…それ以来だ。ボクが演劇を憎むようになったのは。 ハッチ:完全に私怨じゃん。 タツヲ:とにかくボクの任期中は、文化祭で演劇など絶対に認めん!! タツヲ:話は以上だ。失礼する。 : 0:タツヲ、退場。 : ヒデ子:…ハッチ、半兵衛さんと先生のところに戻ろう! ハッチ:え、ヒデ子。 ヒデ子:絶対に文化祭で旗揚げ公演する!学校中のみんなの前で演劇が面白いって事、証明してみせるんだから!! : 0:【6場】 : : 0:先程の教室。半兵衛と前野が話している。 : 前野:半兵衛さん、とりあえずこの部屋に現代の事がわかるような本を出来るだけご用意しました。 前野:あと、僕の使い古しで申し訳ないんですが、パソコンやタブレットなんかもあります。 前野:時間はかかると思うんですが、少しづつ使い方に慣れると、とても便利な物なので。 半兵衛:かたじけない。前野殿。 半兵衛:しかし知れば知るほど驚く事ばかりでござる…。日ノ本には戦(いくさ)もなく、拙者の命を奪った労咳(ろうがい)も、今では死に至る病ではないのか。 前野:ええ、労咳…つまり肺結核は現代の医学では半年ほどで治る病気です。 前野:それに日本では子供のうちに予防接種を受けるので、そもそも病気にかかる事すら稀なんですよ。 半兵衛:なんと…!まさに民のための政(まつりごと)でござる。 半兵衛:400年の時を経て、日ノ本はまことに泰平の世になったのだな…。 : 0:ヒデ子と蜂須賀が部屋に入って来る。 : 前野:おお、羽柴(はねしば)さん。おかえり。無事に蜂須賀さんと合流出来たんだ。 ヒデ子:……。 ハッチ:……。 前野:ん?どうしたの?ふたりともしかめっ面して。 ヒデ子:先生、私たち来月の文化祭で旗揚げする事にしたから!だからハンベーさん!演劇同好会に入って!それであのわからず屋の生徒会長を懲らしめてやるの! 前野:いや、羽柴さん、まとめていっぺんに宣言されても、何の事かさっぱりわかんないから! ハッチ:生徒会とドンパチやるけえのう!前野のオジキ!チャカ持ってこいやあ! 前野:…蜂須賀さん? 半兵衛:拙者が、演劇同好会に? 前野:そうだよ、ふたりとも落ち着いて。でなきゃ半兵衛さんも困って(しまうだろ?) 半兵衛:(遮って)ヒデ子殿、そのお誘い謹んでお受け致そう。 前野:ほらね。だから言ったじゃないか~!半兵衛さんにも、きちんと事情を説明しないとわかる訳な…… 前野:……え!? 半兵衛:この竹中半兵衛重治。ヒデ子殿を主君と仰ぎ、お支えしとうございまする。 前野:え!?え!?そうなの!? ヒデ子:ハンベーさん、よろしくね! ハッチ:軽っ!でもやったじゃん。 前野:いや、でも羽柴さん、半兵衛さんはウチの学校の生徒じゃないんだ。 ヒデ子:え!?そなの!? ハッチ:じゃあハンベーさん部員になれないんじゃん!どうすんの!? 前野:いや、待てよ……あ!羽柴さん、これもっかい読んでみて! ヒデ子:え、うん…(読み上げる) ヒデ子: ヒデ子:新規の同好会の設立については、以下の二点の条件を満たす事とする。 ヒデ子: 1.顧問の教師がいる事 ヒデ子: 2.部員が3名以上である事 ヒデ子: ヒデ子:…先生、だからこれ、(さっき読んだやつだよ) 前野:第4条2項の下に小さく注釈が書いてあるでしょ?それ読んで。 ヒデ子: 2.部員が3名以上である事 ヒデ子:上記人数には外部指導者も含むものとする。 ヒデ子: ヒデ子:…え、これって、 前野:うん、だからさ、半兵衛さんをお芝居を教えに来てくれてる、外部講師って事にしたらどうかな!? ハッチ:おおー! ヒデ子:先生!それすごい名案! 前野:でしょ? ヒデ子:だったらこれで条件揃った!演劇同好会の誕生だー!! ハッチ:イェア!! 半兵衛:ヒデ子殿、演劇同好会の結成、祝着至極(しゅうちゃくしごく)にございまする。それでは早速、軍議を開きましょう。ヒデ子殿の天下取りの始まりでござる。 : 0:【7場】 : 0:(時間経過) : 前野:なるほど。半兵衛さんに加わってもらって、ようやく演劇同好会設立の条件、顧問1名と部員3名が揃った訳だけど、1カ月後の文化祭で旗揚げ公演をするにはまだまだ問題が山積みって訳か。 ハッチ:まず文化祭まであと一カ月しかないのに、決まってるのはメンバーだけ。 半兵衛:さらに文化祭で上演するには、大の演劇嫌いの生徒会長の許可がなければならない、という訳でござるな。 ヒデ子:ウーン…。 ハッチ:いきなり詰んだ。 ヒデ子:そんな事言わないで!ハッチ! ヒデ子:みんなで意見を出し合えば、何か良いアイデア閃くかもだよ! ハッチ:ヒデ子、いっこ質問なんだけど。 ヒデ子:はい!ハッチ!どうぞどうぞ! ハッチ:仮に旗揚げ公演の許可が下りたとして、どんな劇するかは決めてんの? ヒデ子:う……。 ハッチ:…決めてないんだ!? ヒデ子:…ごめん! ハッチ:えー!?アンタあれだけカッコつけといてノープランだったの? ヒデ子:エヘヘ。 ハッチ:いや、エヘヘじゃねえわ!これじゃ同好会設立と同時に解散だよ!サ終だよ!作者休載のお知らせだよ! 前野:…あの、ちょっといいかな。 ヒデ子:どうしたの、先生? 前野:…先生に書かせてくれないかな? ハッチ:へ? 前野:先生、書いてみたい話があるんだ。 ヒデ子:ほんとに!? 前野:ああ、実は、半兵衛さんに会ってから沸き立つ創作意欲を止める事が出来ないんだ。 半兵衛:拙者と会ってから…でござるか? 前野:ええそうです!戦国時代の英傑とこうして直にお話出来て、興奮しない歴ヲタがいない筈がない!! 前野:半兵衛さん、僕の、いや、聚楽第ヤスシ(じゅらくだい・やすし)の次回作は…貴方が主人公だっ!! 半兵衛:聚楽第(じゅらくだい)… ヒデ子:……ヤスシー!? ハッチ:えっと、…誰それ? 前野:(叫ぶ)この僕だーっ!! 前野:しがない高校教師【前野ヤスシ】は世を忍ぶ仮の姿。毎日定時ダッシュで帰宅し、脚本制作に心血を注いできた。 前野:【聚楽第ヤスシ】…それが僕のペンネームだっ!! ハッチ:…ダサ。 前野:(鬼の形相で)…何か言った? ハッチ:いえ、なにも。 前野:半兵衛さん、僕に、貴方の物語を書かせてください! 半兵衛:拙者で良ければ是非に。 前野:半兵衛殿!かたじけのうございますー!! ヒデ子:よし、これで脚本も、主役も決まったね! ヒデ子:あとは、あの生徒会長をどうやって説得するかだけど…… 半兵衛:しからば、次は拙者の出番でござるな。 半兵衛:ヒデ子殿の旗揚げを必ずや成功させる策がございます。皆皆様、お耳を拝借。 : 0:【8場】 : : 0:場面変わり、生徒会室。 : ヒデ子:生徒会長。 タツヲ:ああ、キミたちは確か演劇同好会の。 ヒデ子:今日はお願いがあって来ました。 タツヲ:キミたちも懲りないねえ…。 タツヲ:何度も同じ事を言いたくないからこれっきりにしてくれ。 タツヲ:ボクは演劇同好会を文化祭に出演させるつもりは(これっぽっちもないんだ) ヒデ子:いえ、演劇同好会の事は諦めました。今日は別のお願いに。 タツヲ:ほう、一体どういう風の吹きまわしだい? ハッチ:ウチら生徒会主催の「稲葉山高校の歴史展」の有志スタッフとしてお手伝いさせてもらえないかなあと思って。 タツヲ:ほう。殊勝な心掛けだが、にわかには信じ難いな。 タツヲ:そう言って私に取り入って、演劇同好会の立場を良くしようとする浅知恵だろう? ヒデ子:そんな滅相もない! タツヲ:だったら、私に忠誠を誓うという証拠を見せたまえ。 ヒデ子:証拠って言っても、一体どうすれば…… タツヲ:そうだな…キミにはまず、先日の非礼を詫びてもらわなければいけないな。 ヒデ子:ご、ごめんなさい。 タツヲ:心が込もってないなあ。 タツヲ:あーそうだ。じゃあボクがキミのセリフを考えてあげよう。 タツヲ:ボクの言う通り復唱してみて。 ハッチ:え、 タツヲ:いくよ。 タツヲ:【演劇をオワコンと言われたぐらいで、ムキになってすみませんでした】 ヒデ子:グッ… タツヲ:どうした?言えないのかい? タツヲ:【演劇をオワコンと言われたぐらいで、ムキになってすみませんでした】だ。 タツヲ:演劇部なのにセリフひとつも覚えれないのか。才能ないんじゃないか。 ヒデ子:……。 ハッチ:私がヒデ子の代わりに言うよ! タツヲ:ふふ。友達をかばってあげたのかい? タツヲ:ならばキミにも特別にボクがセリフを考えてやろう。 ハッチ:(身構える)……。 タツヲ:いくよ。(以下、シチュエーションボイス風に) タツヲ:【べ、別に、あなたの事好きとか、そんなんじゃないんだからね!】 ハッチ:…え? タツヲ:どうした?言えないのかい?じゃあこのセリフならどうだ? タツヲ:【た、食べかけのエクレア、これってまさか…間接キス…!?】 ハッチ:…えーっと、その(これって) タツヲ:シチュボ…シチュエーションボイスだ! タツヲ:ボクへの忠誠の証として、はかどるシチュボを捧げるんだよ! ハッチ:キモ。 タツヲ:……何? ハッチ:キモい。キモいって言ったの。耳ついてる?それとも汚っねえ脂肪で耳の穴塞がってるせいで聞こえてない?このクソブタ!そもそも立場の違いを利用して人を支配しようなんて考え方がキモい。無理。アンタなんて親の権威を笠に着なきゃ、なーにんもできないフナムシ以下なんだからね!このフナムシの布団係!! ヒデ子:ちょ、ハッチ ハッチ:…ヤバ、言っちゃった。 : 0:タツヲ、怒りに打ち震えているように見える。 : ハッチ:……。 タツヲ:……合格だ! タツヲ:今の【万能なボクをあえて侮蔑(ぶべつ)し、なじるシチュエーションボイス】 タツヲ:…大変結構なお点前(おてまえ)でした。 ハッチ:今のは本音だったんだけど…。 タツヲ:ちょうど展示物の制作や運搬に人手がいるところだったんだ。キミたちがどうしてもと言うなら、有志スタッフとして受け入れてあげよう。 ヒデ子:あ、ありがとうございます…。 タツヲ:明日から毎日来てもらうから。そのつもりでね。それじゃあ。 : 0:タツヲ、退場。 : ヒデ子:はあ、一時はどうなる事かと思ったけど、 ハッチ:なんとかなった。 半兵衛:ヒデ子殿、よくぞ堪えられました。 半兵衛:しかしこれで、ひとつめの策は成りました。 : 0:半兵衛、入場。 : ヒデ子:うん!なんとかハンベーさんの言った通りになったけど。 半兵衛:ささ、明日からは忙しくなりますぞ。 半兵衛:生徒会の展示物の制作を手伝いながら、来たる本番に向けての、稽古もせねばなりませぬ。 ヒデ子:うん、ここからが正念場だね!!絶対に成功させてやるんだから! : 0:【9場】 : : 0:そして文化祭当日。体育館に集まった演劇同好会の面々。 : 半兵衛:さて、いよいよ文化祭当日です。前野殿、執筆大変お疲れさまでした。 前野:ええ、僕の書いた脚本がいよいよ舞台になるんだと思うと、感慨無量です。 半兵衛:ヒデ子殿、ハッチ殿、限られた時間の中ではありましたが、今拙者たちに出来る事は全てやり申した。 半兵衛:あとは皆でこの時間を楽しみましょう。 ヒデ子:(ジーンとして)ハンベーさん…。 ハッチ:あのさ… 半兵衛:どうされた、ハッチ殿。 ハッチ:なんかすごい良い事言った風の雰囲気出してるけど、今どういう状況かわかってる? 半兵衛:……。 ハッチ:(声を潜めて)私たちみんな、展示物のセットの中に隠れてるんだからね! : 0:半兵衛たちはそれぞれ、生徒会の展示物に隠れて身を潜めている。 : 半兵衛:(声を潜めて)拙者の策を信じてくだされ、ハッチ殿。 ハッチ:いや、こっちは初舞台がゲリラ公演なんだからね!もう緊張で手汗のダムが決壊してんだけどー! 前野:(声を潜めて)シッ!静かにしてふたりとも!聞こえちゃう! ヒデ子:……始まるよ。みんな……楽しもう! 前野:うん。 ハッチ:へへ。 半兵衛:いざ!出陣でござる! : 0:時間経過。 0:体育館の演台にタツヲが立っている。 : タツヲ:えー、テステス。あーお集まりの皆さん、ボクが稲葉山高等学校 生徒会長の龍興タツヲです。 タツヲ:本日は稲葉山高校文化祭のメインイベント【稲葉山高校の歴史展】にご来場頂きまして、誠に有難うございます。 タツヲ: タツヲ:見てください、私たち生徒会が丹念に作り上げた展示物の数々を。 タツヲ:旧制高等学校時代から綿々と受け継がれた学園の歴史が記された、特大年表。 タツヲ:SDGs(エス・ディ・ジーズ)を始めとした、社会貢献活動を撮影した活動写真のビッグパネル。 タツヲ:そして、稲葉山市長から頂いたお祝いのお言葉も、デカデカと印刷し、展示してあります。 タツヲ: タツヲ:それでは皆さま、本日はごゆっくり楽しんでいってください、稲葉山高校の文化祭の開会をここに宣言しま…… : 0:体育館の照明が落ちる。 : タツヲ:うわー!まっくらーー!!なになになに!?なんだー一体!? : 0:体育館内にヒデ子の声の影アナが響き渡る。 : ヒデ子:本日は稲葉山高校 演劇同好会の旗揚げゲリラ公演にお越し頂いて、誠に有難うございます。 タツヲ:ゲゲゲ、ゲリゲリ…ゲリラ公演!?ちょ、今すぐこんなバカげた事を止めさせるんだ! 前野:龍興くん、少しだけここで待っててくれる? タツヲ:ま、前野先生!? 前野:今この瞬間から先生の、いや聚楽第ヤスシの伝説が始まるんだから。 タツヲ:え!?じゅらく、なにそれ!? 前野:いいから黙って観劇してて! ヒデ子:時は永禄7年美濃(みの)の大名斎藤龍興は僅か14歳で父より家督を継いだのですが、酒色(しゅしょく)に溺れ、自身の領地である美濃の統治さえも投げ出し、領民を困らせていました。 ヒデ子:そんなある日、主君の愚かな振る舞いを諫めるべく、若きひとりの武士が立ち上がりました。 : 0:バリバリと展示物を突き破って、中から半兵衛が飛び出してくる。 : 半兵衛:バリバリバリー! タツヲ:おい!ありゃなんだ!?歴史展の展示物を突き破って何か出て来たぞ!? 半兵衛:龍興様が家督を継いでからというもの、家臣を集めての評定(ひょうじょう)さえも行われなくなった。 半兵衛:我が主君の愚行、今日こそ改めてもらわねばならぬ。 ヒデ子:彼の名は竹中半兵衛。今はまだ美濃の将来を憂う、ひとりの若き侍です。 : 0:また別の展示物を突き破って、中からハッチが飛び出してくる。 : ハッチ:バリバリバリー! ハッチ:おい!ちょっと待てい!貴様、竹中のところの子倅じゃねえか! タツヲ:おわー!また別の展示物からなんか出て来たー!! ヒデ子:この者の名前は斎藤飛騨守(ひだのかみ)。半兵衛と同じく龍興に仕える身でありながら、おべっかばかりを言って取り立てられた、典型的なイエスマンです。 ハッチ:(高須クリニックの感じで)イエス!飛騨守!! 半兵衛:やや、あなたは飛騨守殿ではありませぬか。 ハッチ:貴様、今日龍興様にアポイントメントを取ってるそうだが、龍興様は貴様なんぞにお会いにはならん!すぐに立ち去れい! 半兵衛:何ですと!? ハッチ:どうせ貴様の事だ、龍興様にいらぬ諫言(かんげん)を申すつもりであろう! ハッチ:そしてワシたちイエスマン家臣団の悪口もある事ない事……言うに決まっておる!! 半兵衛:いや、拙者はただ龍興様に民を思うお心を持って頂きたくて… ハッチ:ええい!うるさい!竹中の子倅! ハッチ:これでもくらえ!オシッコ爆弾じゃー!! ヒデ子:そう言うと、飛騨守はなんと、櫓の上から半兵衛めがけて小便を放ちました。 半兵衛:うわっ!きたなっ!ペッペッペ! 半兵衛:…お主何をする!? ハッチ:ハーッハッハッハ!尿に含まれるアンモニア成分には消毒効果があるんだよ!汚物は消毒だあ!! 半兵衛:おのれ飛騨守!ムカ着火インフェルノォォォォオオ!! ヒデ子:飛騨守の乱暴狼藉についにブチ切れてしまった半兵衛は、龍興を諫めるために一計を案じます。 ヒデ子:それは主君、斎藤龍興の稲葉山城を乗っ取ろうという、大胆不敵な計画でした。 ヒデ子:稲葉山城は、かの織田信長も攻めあぐねた難攻不落の名城。そう簡単に落とす事など叶いません。 ヒデ子:そこで半兵衛は城に住む弟、久作(きゅうさく)に手紙を送り、協力を求める事にしました。 : 0:またまた展示物を突き破って、中からヒデ子が飛び出してくる。 : ヒデ子:バリバリバリバリ!ドカーン!兄上ー!!久作でござるー! タツヲ:おわあ!また展示物から人が、もうメチャクチャだあ~ ヒデ子:(おもむろに)…おや兄上から手紙だ。(手紙を広げて)なになに…しばらく病気のフリをしろ。兄より。 ヒデ子:え!どういう事!?…まあでもいっか。昔から兄上の言う事が間違ってた事なんていっこもなかったもんな。 ヒデ子: ヒデ子:プルルル…あーもしもし、久作です。ちょっと朝から微熱があってえ、36度8分。 ヒデ子:10日ほど休みますんで、よろしくお願いします!…ピッ。これでよし、と。 ヒデ子: ヒデ子:重い病に倒れた…フリをした弟のお見舞いに、半兵衛は稲葉山城を訪れます。 ハッチ:貴様は竹中の子倅(こせがれ)。性懲りもなくまた現れたか。 半兵衛:これはこれは飛騨守殿、拙者は今日は病の弟を見舞いにまいっただけでござる。 ハッチ:ならばそのたくさんの長持ち(ながもち)は何じゃ!? 半兵衛:これは病の弟にたっぷり滋養を取ってもらおうと、食べ物と酒と……サプリでござる! ハッチ:サプリじゃと? 半兵衛:飛騨守殿もご覧になりますか!?ビタミン、セサミン、グルコサミン、コンドロイチン、青汁、ニンニク卵黄… ハッチ:ええい鬱陶しい!もうよい!!通れ!! 半兵衛:かたじけのうございます。 ヒデ子:しかし半兵衛が城に運び入れた長持ちには、実は槍や甲冑等の武具が入っていたのです。 ヒデ子:半兵衛と久作は持ち運んだ武具を素早く身に着けると、僅かな手勢と共に一気に龍興のもとに攻め入ります。 ハッチ:か、か、カチコミじゃあ!!ワレコラ!誰の許可取ってカチコミかけとんのじゃ……あ!貴様は竹中の子倅!! 半兵衛:子倅ではござらん。拙者は竹中半兵衛重治。 ヒデ子:そして半兵衛が弟、竹中久作!斎藤飛騨守!お覚悟っ!!(ハッチをブスリと刺す) ハッチ:ショギャーーー!!!!わ、ワシの酒池肉林が……ガク。 タツヲ:いい加減にしろー!!お前らー!!!! : 0:激高した龍興タツヲが客席から舞台によじのぼって現れる。 : タツヲ:このボクの晴れの舞台を台無しにしやがって!絶対に許さないぞー!! 半兵衛:(半兵衛は芝居を続けている) 半兵衛:この半兵衛、主君への忠節の証に、龍興様にお灸をすえにまいりました。 タツヲ:なにっ!? 半兵衛:父、義龍(よしたつ)様から家督を受け継いでからというもの、佞臣(ねいしん)にたぶらかされ、酒色に耽ってばかり。美濃の民は皆、嘆いておりまする。 タツヲ:うるさいうるさい!そのつまらない芝居をやめろー!! 半兵衛:どんなに堅牢堅固(けんろうけんご)な城を持とうとも、腑抜けた兵ばかりではこの様に容易く破られてしまいまする。 タツヲ:ぐぬぬぬ…。 ヒデ子:龍興様、兄・半兵衛に代わって私からも申し上げます。 ヒデ子: ヒデ子:この間、龍興様は私に申されました。 ヒデ子:【世界中のエンタメがスマホひとつで取り出せる時代に演劇なんて必要ない】と。 タツヲ:……。 ヒデ子:(だんだんと久作の演技から素のヒデ子へと変化していく) ヒデ子:あれからずっと、龍興様に言われた事について考えておりました。 ヒデ子:演劇はほんとに、オワコンなのかなって……。 前野:羽柴さん…。 ヒデ子:映画やドラマと較べてつまんないのかなとか、ユーチューブやネトフリより劣ってるのかなとか…そんな事ずっと考えてたんです。…けど、結局私にはよく分かんなくって…。 ハッチ:(ムクリと起き上がって)頑張れ…!ヒデ子。 ヒデ子:わかんないけど!!私には全然わかんないけど!! ヒデ子:……でも私は演劇が好き。初めて観て、カミナリに打たれたみたいに衝撃受けて、私もやってみたいって思って、そうやって背中を押されて、今この舞台に立ってる……。 ヒデ子:観た人の心を震わせるようなお芝居にはまだまだ程遠いけど、でもそんな私たちを観て、同じように背中を押される人だっているかもしれない……。 ヒデ子:私は…演劇が好きなの。…それだけじゃ、ダメなんですか!? 半兵衛:ヒデ子殿、よく言ったでござる。 タツヲ:グギギギギ……!覚えてろよ!!演劇同好会!!このボクに恥をかかせた事、絶対に後悔させてやるからなー!! : 0:タツヲ、悔しさを滲ませながら足早に退場する。 : ヒデ子:こうして半兵衛は僅か16名の手勢で稲葉山城を占拠し、主君の斎藤龍興は命からがら城を逃げ出し、これをきっかけに戦国の乱世から没落していくのでした。 ヒデ子:この出来事は「稲葉山城乗っ取り事件」と呼ばれ、半兵衛の知略を称える逸話として語り継がれていくのでした。 半兵衛:皆の者ー!!勝鬨(かちどき)をあげろー!!それ! 半兵衛:(同時に)エイエイオー!! ヒデ子:(同時に)エイエイオー!! 前野:(同時に)エイエイオー!! ハッチ:(同時に)エイエイオー!! : 0:【10場】 : : 0:時間経過。 0:教室で祝杯を上げる演劇同好会のメンバーたち。 : ヒデ子:旗揚げゲリラ公演、大成功!おめでとう!カンパーイ! 半兵衛:(同時に)カンパーイ! 前野:(同時に)カンパーイ! ハッチ:(同時に)カンパーイ! : 0:各々、興奮気味にグラスの飲み物を飲み干す。 : 前野:いやー、ほんともう最高だったよ!みんな! 前野:先生のイメージ通りだった!まるで頭の中を覗かれてるみたいな気分になったよ~ 半兵衛:いや、前野殿の脚本も見事と言う他ありませなんだ。 半兵衛:拙者の稲葉山城の話を今回のゲリラ公演になぞらえた、なんとも不可思議な話でございました。 前野:いやいやいや、そんな照れますよ~。 : 0:ここで突然のキャスト紹介 : 前野:前野ヤスシ役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ハッチ:ヒデ子のラストのセリフもすごい迫力だった! ハッチ:ウチ、もう死んでたから泣くの我慢すんの大変だったわー!! ヒデ子:(照れながら)デヘヘ。ハッチ有難う。 ヒデ子:でも無我夢中だったからあんま覚えてないや。 ハッチ:ギャハハ!それにしても…舞台からそそくさと逃げ出す生徒会長の顔、今思い出しただけでニヤケちゃう~ : 0:ここで突然のキャスト紹介 : ハッチ:蜂須賀リッカ役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ヒデ子:ちょっと、悪い事しちゃったかな…。 ハッチ:いーのいーの!あれぐらい懲らしめてやってちょうど(ぐらいだよ!) : 0:ドアがガラリと開く音がして、タツヲ入場。 : タツヲ:演劇同好会の諸君! ハッチ:うわー!でたー! 前野:た、龍興くん!? タツヲ:……。 ヒデ子:あ、あの、何の用ですか? タツヲ:さっきあんなタンカを切ったばかりなのだが、折り入ってキミたちにお願いがあってやって来た。 ハッチ:え!?こわいこわいこわい! ヒデ子:お願い…ですか? タツヲ:このボクを、龍興タツヲを演劇同好会に入れてくれはしまいか? ヒデ子:えー!? タツヲ:さっきの舞台で、ボクは演じる快感に目覚めてしまった…! ハッチ:何言ってんのコイツ? 半兵衛:歓迎します。龍興タツヲ殿。 前野:ちょっと半兵衛さん!本気ですか? 半兵衛:勿論です。次の拙者たちの目標は同好会から部への昇格、そのために龍興殿のお力は不可欠です。 ヒデ子:そう…だね!龍興会長!今日からよろしくお願いします! タツヲ:フグゥ!すまない!みんな!これからは仲良くしてくれたまえー!! : 0:ここで突然のキャスト紹介 : タツヲ:龍興タツヲ役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) 前野:ん……?なんだか教室の外が騒がしくないかい? ハッチ:…ちょっと、見て来る! ヒデ子:目指せ演劇部かあ、早く次の公演に向けて動き出さなきゃだね! : 0:ここで突然のキャスト紹介 : ヒデ子:羽柴ヒデ子役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ハッチ:……大変だよ、みんな!! ヒデ子:え? ハッチ:人がいっぱい詰めかけてる!!みんな入部希望者だって!! ヒデ子:えー!?どうしよ!半兵衛さん。 半兵衛:これも全て想定の内です。さあ、ヒデ子殿、まいりましょう!! : 0:ここで突然のキャスト紹介 : 半兵衛:竹中半兵衛役!〇〇!!(あなたのお名前を言ってください) ヒデ子:(タイトルコール)くまのムッチ作 演劇部半兵衛!! 半兵衛:目指すは天下一統(てんかいっとう)!!全国大会制覇でござる!!!! : 0:完 : 0:(最後まで読んでくださって本当に有難うございました)