声劇台本置き場

うさぎ：（N）とあるサーカス団に、いつも難しい顔をしている団長がいた うさぎ：（N）団長は、客の笑顔を見るのが大好きだった うさぎ：（N）そのために、団員の失敗を厳しく叱（しか）り うさぎ：（N）団長に叱られるのが嫌で、怖くて、次々と団員はサーカス団を去ってゆき うさぎ：（N）ついには、団長は、ひとりぼっちになってしまった 団長：みんなを楽しませたくて、笑顔が見たくて、一生懸命になりすぎたのかな… うさぎ：（N）団長は、団員たちを傷つけたことを、とても後悔し、涙を流した うさぎ：（N）すると、そこに、泣いているうさぎが通りかかる 団長：どうして泣いているの？ うさぎ：どうして泣いているの？ 団長：…。ふふっ。もう、泣いてないよ うさぎ：泣いてないの？ 団長：泣いてない。だから、君の泣いている理由を聴かせてくれないか？ うさぎ：僕の泣いている理由を聴いて、どうするのさ？ 団長：それは…。どうもしないけど… うさぎ：どうもしない？だったら、君に泣いている理由を話す意味はないだろ？ 団長：意味はない？そんなことはないさ。辛いことや悲しいことを誰かに話すと、少し心は楽になる。そういうモノだと思う うさぎ：ふん。どこかで聞いたようなセリフだね。話を聴いてもらったくらいじゃ、僕の涙は止まらないよ 団長：それでも、話したら、何か変わるかも知れないよ？ うさぎ：変わらない。何も変わらない。今までが、そうであったようにね 団長：今までが？ うさぎ：うん。君と同じように、話を聴かせてほしいって人がいた。でも、僕の苦しみや悲しみ、痛みは、誰にも分かりはしないし うさぎ：この涙は、止まらないんだよ！ 団長：それなら、もう、何も聴かないよ。その代わりに、私は、君の笑顔が見たいんだ。どうしたら、笑えそうかな？ うさぎ：笑えないよ 団長：好きなことをすれば、笑えるかも知れない。何か、好きなことはないの？ うさぎ：何も好きじゃない。嫌いなことしかない 団長：じゃあ、私のことも嫌い？ うさぎ：嫌いだ。僕に優しくするから、嫌いだ 団長：優しくされるのは、苦手なの？ うさぎ：苦手。怖い。きっと、また裏切られるから 団長：裏切らないよ うさぎ：そんな言葉、信じられるわけがないだろ！ 団長：今は、信じられなくてもいい。信じてもらえるまで、私は、君のそばにいるから うさぎ：そばに？ 団長：そう、そばにいる。君に何も聴かないし、何もしない。ただ、そばにいる うさぎ：邪魔になっちゃうかも知れないよ？ 団長：邪魔になった時には、すぐに君の前から、いなくなるよ うさぎ：いなくならないでよ！ 団長：だって、邪魔になるんだろ？ うさぎ：邪魔にならない。きっと、ずっと邪魔にならない 団長：そうなの？ うさぎ：うん。多分ね… 団長：多分か… うさぎ：そう、多分…。遠い未来のことは約束できないけど、少なくとも、明日も、君にそばにいてほしいな 団長：わかった。明日も、そばにいるよ うさぎ：ほんとうかい？ 団長：ほんとうだとも！ うさぎ：わーい。やったーっ！ 団長：おや？ようやく、笑顔になれたね！ うさぎ：うわっ！ほんとだ！僕の涙、やっと止まった！ 0： 団長：（N）空中ブランコや火縄（ひなわ）くぐりをカッコ良く成功させなくても 団長：（N）誰かを笑顔にすることができる うさぎ：（N）ただ、あなたがそばにいてくれる 団長：（N）それで、いいんです。それだけで、いいんです うさぎ：（N）それだけで、笑顔になれるんです 団長：（N）私のそばにいてくれるあなたへ… うさぎ：（N）私を選んでくれたあなたへ… 団長：（同時に）ありがとう うさぎ：（同時に）ありがとう 0： 0：―了―