台本概要
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タイトル | 【全3役性別不問】彼方から此方へ |
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作者名 | 机の上の地球儀 (@tsukuenoueno) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 3人用台本(不問3) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
妖/バディ/前世/詠唱/叫び・微戦闘有 商用・非商用利用に問わず連絡不要。 告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。 (その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください) ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。 台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。 兼ね役OK。大蛇役を追加して4人で演じてくださっても構いません。 1人全役演じ分けやアドリブ・語尾変・方言変換などもご自由に。 2033 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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尊 | 不問 | 126 | みこと。性別不問。大学生。弓矢の扱いが得意。実は、とある歴史上の人物の生まれ変わり。 |
叢雲 | 不問 | 129 | むらくも。性別不問。尊に幽霊扱いされるのが不服。足元が透けていて、普通の人間には見えない。 |
彼方 | 不問 | 92 | 1人2役兼ねてください。 ①彼方:かなた。性別不問。子供。森の中で泣いている時に尊と叢雲と出会う。何故か叢雲のことが見える。 ②大蛇:おろち。性別不問。二又の大蛇(だいじゃ)。本来は土地神だったが、今では無差別に人を食らう荒神となっている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
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:【台本開始】
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叢雲:(N)「霊媒体質」。それは、幽霊に憑かれやすい人間のこと、そしてその性質を指す。幽霊とは、成仏できずに現世を彷徨い続ける亡者(もうじゃ)であり、その存在は未だ科学では説明がつかない。
叢雲:そしてここにも、哀れ幽霊に取り憑かれた不運な人間が一人……、
尊:誰が不運だ誰が!というか取り憑いてる幽霊ってお前だろーが!
叢雲:ナレーションにツッコミ入れるなんて、貴方本当に異次元ですね。……というか、私は別に幽霊じゃ……、
尊:うるさい!早く成仏しやがれ!悪霊退散!
叢雲:失礼な。……まあでも幽霊みたいなもの……ではありますかね。とはいえ、それなら尊(みこと)にとって守護霊ですよ、私は。しゅーごーれーい!
尊:(ため息)へーへー。
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尊:(N)仲哀尊(なかあい・みこと)。人間。極々普通の、どこにでもいる一般市民。
叢雲:どこがです。
尊:お前こそナレーションにツッコんでくんなよ!
尊:普通だろ?普通の人間!
叢雲:そうですね。尊さんは、普通に霊とかが見えて、普通に霊とかと話せて、普通に霊とかに触れられて、更には普通ーーーーーに取り憑かれやすい、それはもうありふれた普通の人間……ですね?
尊:ぐぬぬぬぬ……。
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尊:(N)こいつは幽霊の叢雲(むらくも)。悪霊ではなく、守護霊だとのたまっているが、実際の所どうだか分かったもんじゃない。普段は丁寧な口調だが、イラつくと荒っぽい喋り方に変わるうさんくさい奴だ。絶対ロクなもんじゃない。一体いつまで取り憑くつもりなのか……、
叢雲:(被せて)私が普段尊にしてあげていることを考えたら、れっきとした守護霊ですよ、本当に。守護霊オブ守護霊。そこいらの守護霊よりかなり守護霊です。
尊:だからナレーションにツッコむなっての!
叢雲:「ひがん」に達するまでは、一緒にいますよ。
尊:悲願?なんだよ。お前にも未練みたいなものがあるのか。
叢雲:んー?ふふ。そうですね。
尊:……?
叢雲:そんなことより。良いんですか?夏祭りの準備。もう十六時ですけど。
尊:え?あーっ!やばい!くそ!ほら、急ぐぞ叢雲!
叢雲:(ため息)まったく。……って、そっちの道じゃないです!逆です逆!あぁもう……!
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彼方:だめ、がまん、我慢……。我慢しなきゃ。
彼方:もう少しだけ。がまん、がまん、我慢我慢我慢我慢……。
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彼方:(息を吐いて)……お腹、すいた。
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尊:あーーー!暗い暑い痒いほんっとさいっっっあく!何でこんなペラッペラの紙装備で来た自分!いやそもそも何で夏祭りの見回りっつーはずれクジ引いた自分!?マジ三次元ってクソゲー!
叢雲:はずれクジと言うか、集合に遅れたから押し付けられた、が正解だと思いますがねえ。
尊:ぐぬぬぬぬ……!
叢雲:私がいて「本当に」良かったですねえ。一人だったら最悪も最悪、転じてもはや災厄です。リア充がいちゃこらいちゃこらキャッキャうふふしている裏で、たった一人寂しく森の中を見回る、だなんて。
尊:いやほんとまじで何これ?ただでさえ夏祭りの運営委員会に選ばれたってだけで最悪なのに、遅刻したからって何でこんな会場から離れた森の中担当?そもそもいるか?こんなとこの見回り。
叢雲:んーまあ、誰かが迷い込んでくる可能性もゼロではな……、
尊:(被せて)ねぇよ!ない!ほぼ百の可能性でねぇよ!
叢雲:ほんっと尊さんは不幸体質ですよねえ。
尊:いやいやいや!チート主人公属性ですけど!今日だって普通にツイてましたけどー!?
叢雲:ほう?どこがです?
尊:ふふん。よく聴けよ。
尊:なんとぉ!コンビニのレシートくじで、おにぎり五十円引きクーポンが当たった!
:(間)
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叢雲:(ため息)みみっちい幸せですねえ。そこはせめておにぎり丸々当ててくださいよ。
尊:高級な方のおにぎりが、普通のおにぎりの値段で買えたんだぞ!?ラッキーだろうが!いやー、美味しかったわーいくらおにぎり!
叢雲:使ったんですね。
尊:それにしても……薄気味悪いなあ。マジで幽霊とか出てきそう……。
叢雲:出てくるっていうか既にいますけどね。
尊:いやお前じゃなくて(別の)……、
彼方:(前のセリフに被せて)ひっく、うっ、うぅう(啜り泣く)……!
尊:(前のセリフに被せて)ぎゃあぁあああああああーーーッ!お、おばけぇええええーーーッ!(叢雲にしがみつく)
叢雲:オイこら残機減るだろやめろ。
尊:残機なんて元からねーじゃん死んでんだから!幽霊なんだから!ってか口調変わってんぞお前!
彼方:うえ、うぅ、ひっく……。
尊:ほら!ほら何か聴こえる!
叢雲:私が見えていて、今更なんでおばけに怯えるのか理解できませんね。……というか……これ子供の泣き声では?ほら、あの木陰から。
尊:へ?
彼方:うっ、ひっく、うぅ……(啜り泣き続ける)
尊:あー、マジだ……こりゃ迷子か?どうすっか。困ったなあ……。
叢雲:「君、名前は?」とか、優しく声を掛ければ良いんですよ。ほら。
彼方:……カナタ。
尊:ん?
彼方:名前、カナタ。
尊:おお、カナタか!偉いなー!自分の名前言えて!…………って、えぇえええ!?
尊:こ、こいつの声聞こえんのか!?
彼方:え?
叢雲:聞こえてるんですか?
彼方:き、聞こえてるよ?どうして?
尊:なんでって……。珍しいこともあんなあ……。
叢雲:…………?
尊:幽霊、怖くないのか?
彼方:足がなくても、お喋りできるなら、怖くないよ。
尊:はー……生まれ持った霊力が高いんだろうな。なっ、叢雲!
叢雲:え?ええ……。
尊:……よし。じゃあカナタの親御さんを探しに行くか!
叢雲:は?見回りはどうす(るんですか)……、
尊:(被せて)迷い込む人がいないか見回るのが見回りの仕事だろー?なら、カナタを会場の案内所まで連れていくのも……仕事の内だよな?
叢雲:それはまあ、確かに……。
尊:でもまあ、ちゃんと仕事する訳だし?案内所行く前にちょっくら出店回ってもバチは当たらないよなあ!
叢雲:尊さん!
尊:お前のことが見える奴初めて見たしさ!少しくらい遊んだっていいだろ!な?
叢雲:だからそれが……!
尊:カナタもりんご飴とか、ベビーカステラとか食べたいよなー?
彼方:りんご、あめ……?
尊:おう!チョコバナナとか、わたあめとか!
彼方:チョコ……わたあめ……た、食べたい!
尊:よっしゃ!じゃあ行っくぞー!
彼方:おー!
叢雲:あぁもう……!知りませんからね……!
尊:えーっと?お祭りの会場は確か……、
叢雲:だから!なんで貴方は真逆の方向に行こうとするんですか!この方向音痴!
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:(場面転換。祭り会場。以下、シーンが転々とします)
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彼方:うわあぁあああ!すっごーーーい!
尊:ふふーん!そりゃ年に一回の町あげての祭りだからなー!みんな気合いも入るってもんだ!さーて、どこから攻める?
彼方:えっと、えっと……りんご飴!
尊:良いねー!しょっぱいのも欲しいよな、焼きそばとかたこ焼きとか!
彼方:トルネードポテトも!ぐるぐるのやつ!
尊:とる、ね……?
叢雲:韓国発祥のフライドポテトですよ。じゃがいも一個を丸々使って、渦を巻くようにカットをして揚げたもので……、
尊:あーはいはい!そういう面倒なのはいいから!百聞は一見にしかず!食べりゃ何だか分かるだろ!
彼方:だろー!
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尊:うっま!何これうっっっっっま!
叢雲:お祭りの肉串ってなんで高いのに人気なのか不思議だったんですが、そんなに美味しいものなんですか?
尊:おう!もう何て言うのかな!控えめに言って肉汁が溢れてやばくてやばい!
彼方:みこと、食レポ下手だね?
叢雲:カナタに言われてはどうしようもないですね。
彼方:ねえ、あれはなに?オムフランク?チーズハットグ……?
尊:うぉおお!何か知らんが美味しそうじゃん!端から行こう、端から!
彼方:やったー!全部食べるー!
叢雲:こら!二人とも!あぁもう!食べ過ぎるとお腹壊しますよ!
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彼方:みことッ!あれ!あれが欲しい!
尊:あー?どれだ?……あれか。あんなでかいの取れるかな……。
叢雲:見てきましたが、後ろで固定されてはなかったですよ。ちゃんと上手い位置に弾を当てれば落ちます。
尊:上手い位置っつったってなあ……んー、いつもだったら……こんなもんか。
彼方:みこと!がんばっ!
尊:よっしゃ、ここだーッ!(的を撃が盛大に外れる)
:(間)
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叢雲:……その目は節穴ですか、尊。
彼方:方向音痴のみことが撃つと、弾も方向音痴になるんだね。
叢雲:上手いこと言いますね。
尊:弓なら……弓なら当たるのに……!
叢雲:弓が得意なら射的も得意そうなものですが。違うんですね。
彼方:ゆみ?……あ!それ見たことある!あーちぇりー、ってやつでしょ!みこと、あーちぇりーできるの!?
尊:くっそぉおおおお〜!親父!もう一回だ!もう一回やらせてくれ!的当てを外したままでは帰れない!
彼方:あ!あっちでヨーヨー釣りやってる!
叢雲:行きますよ、尊。
尊:あぁああああ〜!(引き摺られていく)
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彼方:みことッ!そこ!目が大きい黒い金魚がいるよ!ほら右!
尊:あ〜!?どれだ?
彼方:ああ逃げちゃう!
叢雲:先にポイの全体を湿らすんですよ!あぁもう!焦れったいですねえ!
彼方:みことっ!そこ!尻尾からぐぐーってすくって!
尊:いや、頼むからちょっとは集中させ……あぁあ!破れた……!
彼方:……みこと、金魚すくい下手だね。
叢雲:射的も外しましたしね。
尊:お前ら見ているだけのくせにうるせぇぞ!
彼方:(叢雲と同時に)ぷっ。あはははは……!
叢雲:(彼方と同時に)ふっ。くくくくく……!
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:(間)
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尊:んーじゃ、一通り遊んだし、ちょっと案内所でカナタのこと訊いてくるな!
叢雲:はいはい。行ってらっしゃい。
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彼方:…………。
叢雲:ん?どうしました、カナタ。
彼方:……ぁ。ううん。なんでもない。
彼方:ねぇ。むらくもとみことは、いつから一緒にいるの?
叢雲:……尊とは、尊が生まれる前から、です。
彼方:え?……お腹にいる時からってこと?
叢雲:尊という存在ができる前からです。……いえ、尊が尊だった頃……生まれ変わる前、とも言えますかね。
彼方:んん?よくわかんない……。
叢雲:ふふ。それで良いんですよ。
彼方:二人は、仲良し?
叢雲:……んー。私は尊を護る武器なんです。あの人は私がいないとてんでダメだから。だから一緒にいるだけですよ。
彼方:確かに。むらくも、強そうだもんね。
叢雲:ええ。そりゃあもう。
叢雲:……あ。そういえば。もうすぐ花火の時間ですね。
彼方:え!花火!見たい!
叢雲:今からだと中々場所を取るのが難しいかもしれませんね。……見たことないんですか?
彼方:お祭りの日は、いつもそれどころじゃないから……。
叢雲:それどころじゃない?
彼方:お祭りの日は、沢山食べなきゃいけないから……。
叢雲:食べる?あぁ。出店の食べ物ですか?ふふ。カナタは花より団子の食いしん坊さんなんですね。
叢雲:……花火か。私も好きなんですが、最近ゆっくり見れてないですね。
彼方:…………ッ!
叢雲:おや、どうしました?……あぁ。家族と長い時間離れていたら、そりゃあ不安にもなりますよね。
彼方:ううん!そうじゃなくて……!
叢雲:いやいや。分かりますよ。
叢雲:……本当の私はね、ここから遠く離れたところにいるんです。……寂しい気持ちも不安な気持ちも、よく分かります。
彼方:……え?
叢雲:だから、今はあんまり力が出ないんですよね。
彼方:……?むらくもは、ここにいるよ?
叢雲:はい。そうですね。
彼方:……よく、わかんないけど。むらくもとみことは、「とってもいい」二人だと思うな。
叢雲:とっても、いい……?
彼方:大事な人同士でもね、間違っちゃうと、おかしくなっちゃうから。そうなると、助けられないし、守れないから……。
叢雲:カナタ……?
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尊:おーい!訊いてきたぞ〜!って、うわあぁああ!(転ぶ)
尊:いったたた……。
叢雲:(ため息)ほらね?私がいなきゃダメなんですよ、あのポンコツは。
彼方:(笑って)やっぱり仲良しだね!みこととむらくもは!
叢雲:(笑って)そうですね。
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尊:それにしても……。案内所に迷子届けが出てないとは……予想外だったなあ。親御さんより早くに着いちゃったとか……?
叢雲:散々遊びましたがね、私たち。
彼方:…………。
尊:お?どうした彼方?……寂しくなっちゃったか?
彼方:違う!そうじゃなくて……。
彼方:…………(何か言いたそうにしている)。
尊:なんだ?まだ何か食べたいのか?
彼方:…………したい。
尊:え?
彼方:むらくもが楽しいことがしたい!
叢雲:……へ?私ですか?
彼方:むらくも、おいしいもの食べられなかったでしょ?射的も金魚すくいもできなかったし……!だから……!
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尊:…………(微笑んで)カナタは良い子だな。
尊:だってさ、叢雲。どうする?
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叢雲:(ため息)この人混みです。闇雲に探しては逆に見つからないというもの。もしかしたら、保護者の方はカナタとはぐれた場所で待っていらっしゃるかもしれませんね。
尊:……となると、見回りしてた森の方か。
叢雲:ええ。森の、その……彼方を見つけた所くらいまで行けば、空を見るのに遮る物もないですし……ちょうど、花火の上がる時間になるでしょうから……。
彼方:……!むらくもと花火、見れる!?
叢雲:……ええ。
尊:おお!花火か!それなら皆で楽しめるな!んじゃ、戻ってもっかい親御さんを探してみようぜ!
叢雲:あぁ尊。月が隠れて足元が見えづらくなってます。気をつけてくださいね。
尊:ええ〜。幽霊なら雲くらいパパッと散らしてくれよ叢雲ぉ〜。
叢雲:幽霊を何だと思ってるんですか……。
尊:ってかお前さー、足がないってだけで他普通すぎない?大丈夫?幽霊キャラで押し通すには個性弱くないか?
叢雲:あのですね……。
尊:ってかマジで暗いな。……あ!お前ヒトダマとか飛ばせたりしないのか?
叢雲:私を懐中電灯の代わりにしようとしないでください!というか、そもそも厳密には私は幽霊じゃな(いんですからね)……!
彼方:あ……!
尊:ん?
彼方:神社……。
尊:本当だ。こんな所に……。
叢雲:管理はされてないようですね。拝殿が朽ち始めている。
尊:へー……ん。だけど空気はいいな。
叢雲:廃れてると言っても、元は神域ですからね。境内はまだ清く、空気が澄んでいますね。
尊:だな!変なのも寄って来なさそうだし、ここで花火を見るか。
彼方:こ、ここはやだ!
尊:どうしたカナタ?大丈夫、怖くないよ。
彼方:でも……。
叢雲:大丈夫。尊はともかく、私がいますから。
尊:なんだとぉ!?って……おぉお!
彼方:(尊と同時に)わあ……!
:◆その時、空に大輪の花が上がり始めた。
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叢雲:これは……見事ですね。
彼方:むらくも!花火嬉しい?楽しい?
叢雲:ええ、とっても。見れて嬉しいです。カナタのおかげですね。
尊:た〜まや〜!
彼方:か〜ぎや〜!
尊:お!よく知ってるなあカナタ!
彼方:へへ〜!
叢雲:本当に……すごく綺麗だ。
尊:あぁ。二人と見れて良かったよ。
彼方:うん!みことと、むらくもと、見れて良かった!
叢雲:ふふ。ですね。
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叢雲:さて。流石にこの時間になっても親御さんと会えないのは問題ですね。そろそろ山を降りて警察に行きま……ん?カナタ?
彼方:ゼェ、ゼェ……(苦しそうな息遣い)。
叢雲:これは……、
彼方:うぅ……アァアアアア!
尊:な、なんだ……?カナタの様子が……!
彼方:嫌、やめて!まだ出てこないでお願い!二人を食べたくない……!
大蛇:っふ、ふふひはは……!やっと出てこれたァ……?あ?ヒト、ヒトだ!ヒトじゃないか……!嗚呼、これでようやく腹を満たせるゥ!頭からか、腕からか……さぁ、どこから食らうてやるか……?
叢雲:ッ、尊!下がれッ!
尊:うわあ!
:◆彼方の姿が人ならざる姿に変わり、その牙が尊を捉えようとする。瞬間、叢雲が尊の襟首を掴み引っ張りそれを避ける。
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叢雲:ほらな。おかしいと思ってたんだよ。俺が「見える」ってことは、「この世ならざる力」があるってことだからな……!
尊:か、カナタが鱗まみれの化け物に……!
叢雲:あぁ……こいつ、大蛇(おろち)だ……!
尊:お、大蛇!?大蛇ってまさか……!
叢雲:八岐大蛇(ヤマタノオロチ)なんかが有名だな。まあ、こいつは……どうやら彼方と本体の二又(ふたまた)だが。
尊:…………!
叢雲:対象を捕食する方法としては良くある手法だ。美人局とか、発光物で獲物を口の中に誘導するだとか……この場合、獲物の目を引いた発光物はか弱く小さなカナタって訳だ。
大蛇:お?なんだ神社かァ。通りで。信仰心の途絶えた神社でも、お前みたいな小物には辛かろう?のう、彼方ァ……?
尊:か、カナタをどこへやった……!
大蛇:我の中に。我らは二人で一つだからのォ。あやつが出ている内は我は出られないし、我が出ている間はあやつは出て来れぬ。どうやら、この神聖な空気に堪えられず、あやつは我を抑え込めなくなったようじゃのォ。
叢雲:尊!
尊:……ッ!
叢雲:お前の出番だ。とっとと立ってさっさと倒せ。
尊:む、無理だよ!だってあいつはカナタで……!
叢雲:やらなきゃ食われる!見れば分かるだろ。あれは、放っておけば人を食う!カナタも同じだ!
尊:でも……、
叢雲:身体のない俺には荒ぶる神を倒すほどの力はねぇぞ!分かってんだろ尊。つべこべ言わずに覚悟決めろ!
:(間)
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尊:くっ……弩張(どちょう)!
叢雲:剣抜(けんばつ)!
:◆二人が叫ぶと、その手にはそれぞれ弓と刀が握られていた。
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大蛇:ほう、武器かァ!弓に刀……っくくく。そんな粗末な打ち物で我を倒す気か!
叢雲:はっ。粗末に見えてんなら、擬態が成功している訳だ?なあ尊!
尊:ああ!
大蛇:何……?
:
尊:天神地祇(てんじんちぎ)を頭上に掲げ!天照の大神(あまてらのおおみかみ)の御稜威(みいつ)を背(そびら)に!天の鹿皃弓(あまのかごゆみ)、天の波々矢(あまのはばや)!受け継ぎし呪具の神通(じんつう)をもって、荒神(こうじん)となりし大蛇を退治せばや!いざ参らん!叢雲ぉおお!
叢雲:ああ!……解放ッ!
:◆尊の持つ弓矢が、叢雲の言葉に反応して光り出す。
大蛇:それは……天の弓矢……?貴様ら一体……!
尊:どうした?粗末な打ち物っつったろ?なあ?
叢雲:尊が神通力で泉門(せんもん)を開き、俺が「叢雲の力」で斬って黄泉に葬り去る。覚悟するんだな!
大蛇:これは……まずい!
尊:この一条が屠(ほふ)りの初め!汝が一命、我らが終焉せん!いっけぇえええええ!(矢を放つ)
叢雲:うぉおおおおおお!(刀を振おうとする)
彼方:(一瞬彼方の姿に戻って)やめて!みこと!
尊:ッ!止まれ叢雲!
叢雲:……ッ!(自分の意思とは反して一瞬金縛りにあう)
大蛇:っくく、バーーーカッ!
:妖怪の鋭い爪が尊をとらえる。
尊:……ぁぐ……ッ!
叢雲:尊!くそ……!
大蛇:フハハハハ!愚かなりィ!姿かたちなぞ、まやかしに過ぎないというのに!
尊:お前!卑怯だぞ……!
大蛇:そんなことを我が気にすると思うのか?
尊:カナタを返せ!
大蛇:返すゥ?何をバカな!端(はな)からあやつは我の一部だというのに!
尊:カナタ!聞こえてるんだろ!出てこいカナタッ!
叢雲:尊!尊、落ち着け!
尊:離せよ叢雲!カナタが!カナタがッ……!
叢雲:まずいな……。尊がこんな不安定じゃ、幾ら格下の大蛇と言えど、俺らには倒せねえ……!
大蛇:格下ァ?舐めてもらっちゃ困る。我は貴様らなどより……ウッ、何だ?……あぁああ!やめろ!彼方!
彼方:(荒い息を整えて)……ごめんなさい。みこと、むらくも……。うぅ……少しの時間しか、無理みたい……コナタを抑えている内に、早く、逃げて……!
叢雲:コナタ……それがもう一又(ひとまた)の大蛇の名前ですか。
彼方:そう……カナタとコナタは、二人で一つ。
叢雲:コナタが……貴方の大事な人、なのですか。
彼方:…………うん。そうだよ。生まれた時からずっと一緒なんだ。口は二つでも、お腹は一つ。だから何でも一緒。全部全部、みーんな一緒。
彼方:だから……だから!コナタが誰かを傷付けるのも嫌だし、コナタが誰かに傷付けられるのも嫌だ……!
彼方:食べなきゃ死んじゃう。当たり前のことだよ。でも、コナタはもうダメなんだ。「カナタがお腹空かないように」って、いっぱいいっぱい食べたから。一度食べたらもっと、二度食べたらもっともっと。そうしてどんどん止まらなくなる。コナタはもう、食べることをやめられない。人を殺すことを、やめられない……!
彼方:お願い……!本当のコナタは優しいの!今は空腹でおかしくなってるだけなの!だから……。
尊:カナタは……人間を食べる、のか……?
:(間)
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彼方:そうだよ。普通の食べ物も食べるけどね。コナタに妖力が偏ってしまったからか、元々力が弱くて。それを補おうと、コナタはその分人間を食べ始めた。自分が悪い、自分のせいだ、って……。今ではもうかなり回復しているけど……食べることが癖になったコナタはもう、誰にも止められない。それに……今夜はお祭りの日だから。
叢雲:祭りの日?それが何だと言うのです?
彼方:昔はこの祭りも、神楽って言って、大蛇を鎮める踊りを献上してくれるためのものだった。でも、いつの間にかそんな風習は廃れてしまった。……バカな話だよね。信仰がなくなった今、年に一度、この夜に人間を食べないと、もうこの身体を保つこともできないんだ。
叢雲:つまり……人間を食べなきゃ、カナタは消える……?
尊:何だよそれ……!
彼方:本当は、みんなを守る存在だったはずなのに。今ではもう、ただの化け物になっちゃった。だから。……逃げて。
:(間)
:
尊:……それなら……食べろ!
叢雲:尊!何言って……!
彼方:食べるって……みことを?
尊:これでも結構レアな人間だからな。食べたら、暫く何年かは人を食べなくても良いくらいの力は手に入るだろうさ。
叢雲:本当におバカですね貴方は!それでは空腹の方は解決できても、コナタの制御がきかなくなってる方はどうにもならないでしょう!
尊:……え?あ、そうか……!
:(間)
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彼方:ぷっ、あはは……!ほんとバカだな、みことは。そんなん言われたら、こっちも覚悟するしかないじゃん……。
尊:え?
:(以下、彼方と大蛇の心の中での対話となります。一人芝居が続きます)
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彼方:(大きく深呼吸して)コナタ、聴こえる?
大蛇:何じゃ。潔く引っ込んで我に主導権を明け渡す気になったか。
彼方:ううん、ならない。
大蛇:貴様如き小物に、いつまで我を抑え込めるかのぅ?
彼方:うん。もう、限界みたい。……だからもう、やめよう。コナタ。
大蛇:は……?
彼方:知ってるよ、コナタが心配してくれてること。小物だ何だって言って悪ぶっても、いつも守ってくれてること。
大蛇:一体、何を言って……。
彼方:もう、やめようコナタ。もう頑張らなくて良い。もう、無理に人間を食べなくても良いんだよ。
大蛇:我は無理などして(いない)……!
彼方:一緒に死のう。コナタ。
大蛇:…………ッ!
彼方:ごめんね、ごめん、コナタ。死ぬのが怖いって、消えたくないって、コナタにはバレちゃってたよね。だから、無理してくれてたんだよね。
彼方:でももう、大丈夫。
大蛇:……かな、た……。
彼方:一緒に行こう。大丈夫。どこに行っても、コナタと二人なら、怖くないよ。
大蛇:……あぁ。
: (彼方、現実に帰ってくる)
:
尊:カナタ!おいカナタ!大丈夫か、カナタ……!
彼方:みこ、と……?
尊:あぁ、良かった……!突然倒れるから……!
彼方:その間に逃げれば良いのに。バカだね、みことは。
叢雲:…………。
彼方:むらくもも。待っててくれたの……?
叢雲:危険だとも思いました。でも……心配、だったので。
彼方:そっか……。ふふ。最後に目に映るのが二人で、良かった。
叢雲:え?
:◆彼方、横に落ちていた尊の弓矢を手に取る。
彼方:武器までほっぽり出して。ほんと、お人好しなんだから、二人とも。
尊:カナタ、何を……、
彼方:花火、綺麗だったね。りんご飴も焼きそばも美味しかったし、射的も金魚すくいも楽しかった。
叢雲:(ハッと気付いて)カナタ!ダメですそれは……!
彼方:ありがとう、二人とも。……ッ!(矢を自分の心臓に刺す)
:(間)
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尊:カナタ……?え、なんで……カナタ……ッ!
彼方:カハッ……あぁ、これ……思ったより痛い、な……。
尊:待ってろ、今霊力で傷を塞いで……!
彼方:(被せて)ダメ。死なせて、みこと。コナタと二人で決めたんだ。もう、誰も傷つけたくない、から……。
叢雲:それで……それで本当にいいんですか……?
彼方:うん。もう大丈夫。カナタとコナタは、「とってもいい」に、きっと戻れる……。
叢雲:そう、ですか……。
彼方:(笑顔で)バイバイ。みこと。むらく、も……、
:◆彼方の身体がパリンッと割れたように光の胞子となって消える。
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尊:……カナタ?カナタッ……、カナタァアアアアア……ッ!
:◆暫く境内に、尊の泣き声が響き渡る。
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:(場面転換。尊と叢雲がトボトボと山の中を歩いている)
:
尊:……カナタ、天国に行けたかな。
叢雲:それはどうでしょう。……でもまあ、きっと大丈夫ですよ。笑っていましたから、カナタ。
尊:……そっか。
叢雲:それに、この世の全ては、なるようにしかなりませんからね。
尊:怖いこと言うなあ。
叢雲:貴方も大丈夫ですよ。「ついてます」から。
尊:何を根拠に?今回も結構危ない目に合ってんだけど!?
叢雲:でも、ついてますよ。
尊:えぇー?いや、まあ……あんなことがあっても、結果こうして無事帰れている訳だし、ツイてる、のか……?んん?
叢雲:えぇ。
:(間)
:
叢雲:「憑いてます」からね。私が。
尊:……ッ。バーカ。普通幽霊に憑かれてたらツイてねえの!
叢雲:だって貴方、私がいなきゃきっと今頃もっと大変ですよ。
尊:え?
叢雲:朝は起きられないし、
尊:うぐ。
叢雲:すぐ道を間違えるし、
尊:うぐぐ。
叢雲:極め付けは……試験。
尊:あは、あはははは!さ、流石ぁ〜!テスト中、先生にバレずにカンニングできる最強パーク!いよっ!
叢雲:全然褒められてる気がしませんね。そもそも何ですか最強パークって!人をモノみたいに!
尊:人じゃなくて霊だろ。
叢雲:ただの剣の思念ですよ、私は。
尊:どう見ても人の形してるけどな。
叢雲:思念が人型にみえるくらい、強い霊力を持つ武器ですからね。
尊:……天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。
叢雲:はい。なんです、尊。
尊:嬉しそうにすんな、気持ち悪い。
叢雲:名前を呼ばれたら、嬉しいものですよ。
尊:……そうかよ。
叢雲:とにかく、貴方は私が憑いてるんですから、ツイてるんです、絶対。もうそれだけで、人生ガチャ単発SSR!って感じなんですよ。
尊:例え方よ。
叢雲:違いますか?
尊:まあ……確かに。これからも宜しくな。足元スケスケの相棒さん。
:(間)
:
叢雲:そうですね。「ひがん」に達するまでは。
尊:おう!お前の悲願の達成、一番近くで見守ってやんよ!
叢雲:……ふふ。そうですね。
尊:んじゃ、帰るか!
叢雲:ええ。
:
叢雲:(尊の背を見ながら小声で)……「今世」の貴方が「彼岸」に達するまでは。傍にいますよ。タケル。
叢雲:私は、貴方の武器なんですから。
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:【台本終了】
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:【台本開始】
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叢雲:(N)「霊媒体質」。それは、幽霊に憑かれやすい人間のこと、そしてその性質を指す。幽霊とは、成仏できずに現世を彷徨い続ける亡者(もうじゃ)であり、その存在は未だ科学では説明がつかない。
叢雲:そしてここにも、哀れ幽霊に取り憑かれた不運な人間が一人……、
尊:誰が不運だ誰が!というか取り憑いてる幽霊ってお前だろーが!
叢雲:ナレーションにツッコミ入れるなんて、貴方本当に異次元ですね。……というか、私は別に幽霊じゃ……、
尊:うるさい!早く成仏しやがれ!悪霊退散!
叢雲:失礼な。……まあでも幽霊みたいなもの……ではありますかね。とはいえ、それなら尊(みこと)にとって守護霊ですよ、私は。しゅーごーれーい!
尊:(ため息)へーへー。
:
尊:(N)仲哀尊(なかあい・みこと)。人間。極々普通の、どこにでもいる一般市民。
叢雲:どこがです。
尊:お前こそナレーションにツッコんでくんなよ!
尊:普通だろ?普通の人間!
叢雲:そうですね。尊さんは、普通に霊とかが見えて、普通に霊とかと話せて、普通に霊とかに触れられて、更には普通ーーーーーに取り憑かれやすい、それはもうありふれた普通の人間……ですね?
尊:ぐぬぬぬぬ……。
:
尊:(N)こいつは幽霊の叢雲(むらくも)。悪霊ではなく、守護霊だとのたまっているが、実際の所どうだか分かったもんじゃない。普段は丁寧な口調だが、イラつくと荒っぽい喋り方に変わるうさんくさい奴だ。絶対ロクなもんじゃない。一体いつまで取り憑くつもりなのか……、
叢雲:(被せて)私が普段尊にしてあげていることを考えたら、れっきとした守護霊ですよ、本当に。守護霊オブ守護霊。そこいらの守護霊よりかなり守護霊です。
尊:だからナレーションにツッコむなっての!
叢雲:「ひがん」に達するまでは、一緒にいますよ。
尊:悲願?なんだよ。お前にも未練みたいなものがあるのか。
叢雲:んー?ふふ。そうですね。
尊:……?
叢雲:そんなことより。良いんですか?夏祭りの準備。もう十六時ですけど。
尊:え?あーっ!やばい!くそ!ほら、急ぐぞ叢雲!
叢雲:(ため息)まったく。……って、そっちの道じゃないです!逆です逆!あぁもう……!
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彼方:だめ、がまん、我慢……。我慢しなきゃ。
彼方:もう少しだけ。がまん、がまん、我慢我慢我慢我慢……。
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彼方:(息を吐いて)……お腹、すいた。
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尊:あーーー!暗い暑い痒いほんっとさいっっっあく!何でこんなペラッペラの紙装備で来た自分!いやそもそも何で夏祭りの見回りっつーはずれクジ引いた自分!?マジ三次元ってクソゲー!
叢雲:はずれクジと言うか、集合に遅れたから押し付けられた、が正解だと思いますがねえ。
尊:ぐぬぬぬぬ……!
叢雲:私がいて「本当に」良かったですねえ。一人だったら最悪も最悪、転じてもはや災厄です。リア充がいちゃこらいちゃこらキャッキャうふふしている裏で、たった一人寂しく森の中を見回る、だなんて。
尊:いやほんとまじで何これ?ただでさえ夏祭りの運営委員会に選ばれたってだけで最悪なのに、遅刻したからって何でこんな会場から離れた森の中担当?そもそもいるか?こんなとこの見回り。
叢雲:んーまあ、誰かが迷い込んでくる可能性もゼロではな……、
尊:(被せて)ねぇよ!ない!ほぼ百の可能性でねぇよ!
叢雲:ほんっと尊さんは不幸体質ですよねえ。
尊:いやいやいや!チート主人公属性ですけど!今日だって普通にツイてましたけどー!?
叢雲:ほう?どこがです?
尊:ふふん。よく聴けよ。
尊:なんとぉ!コンビニのレシートくじで、おにぎり五十円引きクーポンが当たった!
:(間)
:
叢雲:(ため息)みみっちい幸せですねえ。そこはせめておにぎり丸々当ててくださいよ。
尊:高級な方のおにぎりが、普通のおにぎりの値段で買えたんだぞ!?ラッキーだろうが!いやー、美味しかったわーいくらおにぎり!
叢雲:使ったんですね。
尊:それにしても……薄気味悪いなあ。マジで幽霊とか出てきそう……。
叢雲:出てくるっていうか既にいますけどね。
尊:いやお前じゃなくて(別の)……、
彼方:(前のセリフに被せて)ひっく、うっ、うぅう(啜り泣く)……!
尊:(前のセリフに被せて)ぎゃあぁあああああああーーーッ!お、おばけぇええええーーーッ!(叢雲にしがみつく)
叢雲:オイこら残機減るだろやめろ。
尊:残機なんて元からねーじゃん死んでんだから!幽霊なんだから!ってか口調変わってんぞお前!
彼方:うえ、うぅ、ひっく……。
尊:ほら!ほら何か聴こえる!
叢雲:私が見えていて、今更なんでおばけに怯えるのか理解できませんね。……というか……これ子供の泣き声では?ほら、あの木陰から。
尊:へ?
彼方:うっ、ひっく、うぅ……(啜り泣き続ける)
尊:あー、マジだ……こりゃ迷子か?どうすっか。困ったなあ……。
叢雲:「君、名前は?」とか、優しく声を掛ければ良いんですよ。ほら。
彼方:……カナタ。
尊:ん?
彼方:名前、カナタ。
尊:おお、カナタか!偉いなー!自分の名前言えて!…………って、えぇえええ!?
尊:こ、こいつの声聞こえんのか!?
彼方:え?
叢雲:聞こえてるんですか?
彼方:き、聞こえてるよ?どうして?
尊:なんでって……。珍しいこともあんなあ……。
叢雲:…………?
尊:幽霊、怖くないのか?
彼方:足がなくても、お喋りできるなら、怖くないよ。
尊:はー……生まれ持った霊力が高いんだろうな。なっ、叢雲!
叢雲:え?ええ……。
尊:……よし。じゃあカナタの親御さんを探しに行くか!
叢雲:は?見回りはどうす(るんですか)……、
尊:(被せて)迷い込む人がいないか見回るのが見回りの仕事だろー?なら、カナタを会場の案内所まで連れていくのも……仕事の内だよな?
叢雲:それはまあ、確かに……。
尊:でもまあ、ちゃんと仕事する訳だし?案内所行く前にちょっくら出店回ってもバチは当たらないよなあ!
叢雲:尊さん!
尊:お前のことが見える奴初めて見たしさ!少しくらい遊んだっていいだろ!な?
叢雲:だからそれが……!
尊:カナタもりんご飴とか、ベビーカステラとか食べたいよなー?
彼方:りんご、あめ……?
尊:おう!チョコバナナとか、わたあめとか!
彼方:チョコ……わたあめ……た、食べたい!
尊:よっしゃ!じゃあ行っくぞー!
彼方:おー!
叢雲:あぁもう……!知りませんからね……!
尊:えーっと?お祭りの会場は確か……、
叢雲:だから!なんで貴方は真逆の方向に行こうとするんですか!この方向音痴!
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:
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:(場面転換。祭り会場。以下、シーンが転々とします)
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彼方:うわあぁあああ!すっごーーーい!
尊:ふふーん!そりゃ年に一回の町あげての祭りだからなー!みんな気合いも入るってもんだ!さーて、どこから攻める?
彼方:えっと、えっと……りんご飴!
尊:良いねー!しょっぱいのも欲しいよな、焼きそばとかたこ焼きとか!
彼方:トルネードポテトも!ぐるぐるのやつ!
尊:とる、ね……?
叢雲:韓国発祥のフライドポテトですよ。じゃがいも一個を丸々使って、渦を巻くようにカットをして揚げたもので……、
尊:あーはいはい!そういう面倒なのはいいから!百聞は一見にしかず!食べりゃ何だか分かるだろ!
彼方:だろー!
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尊:うっま!何これうっっっっっま!
叢雲:お祭りの肉串ってなんで高いのに人気なのか不思議だったんですが、そんなに美味しいものなんですか?
尊:おう!もう何て言うのかな!控えめに言って肉汁が溢れてやばくてやばい!
彼方:みこと、食レポ下手だね?
叢雲:カナタに言われてはどうしようもないですね。
彼方:ねえ、あれはなに?オムフランク?チーズハットグ……?
尊:うぉおお!何か知らんが美味しそうじゃん!端から行こう、端から!
彼方:やったー!全部食べるー!
叢雲:こら!二人とも!あぁもう!食べ過ぎるとお腹壊しますよ!
:
:
彼方:みことッ!あれ!あれが欲しい!
尊:あー?どれだ?……あれか。あんなでかいの取れるかな……。
叢雲:見てきましたが、後ろで固定されてはなかったですよ。ちゃんと上手い位置に弾を当てれば落ちます。
尊:上手い位置っつったってなあ……んー、いつもだったら……こんなもんか。
彼方:みこと!がんばっ!
尊:よっしゃ、ここだーッ!(的を撃が盛大に外れる)
:(間)
:
叢雲:……その目は節穴ですか、尊。
彼方:方向音痴のみことが撃つと、弾も方向音痴になるんだね。
叢雲:上手いこと言いますね。
尊:弓なら……弓なら当たるのに……!
叢雲:弓が得意なら射的も得意そうなものですが。違うんですね。
彼方:ゆみ?……あ!それ見たことある!あーちぇりー、ってやつでしょ!みこと、あーちぇりーできるの!?
尊:くっそぉおおおお〜!親父!もう一回だ!もう一回やらせてくれ!的当てを外したままでは帰れない!
彼方:あ!あっちでヨーヨー釣りやってる!
叢雲:行きますよ、尊。
尊:あぁああああ〜!(引き摺られていく)
:
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彼方:みことッ!そこ!目が大きい黒い金魚がいるよ!ほら右!
尊:あ〜!?どれだ?
彼方:ああ逃げちゃう!
叢雲:先にポイの全体を湿らすんですよ!あぁもう!焦れったいですねえ!
彼方:みことっ!そこ!尻尾からぐぐーってすくって!
尊:いや、頼むからちょっとは集中させ……あぁあ!破れた……!
彼方:……みこと、金魚すくい下手だね。
叢雲:射的も外しましたしね。
尊:お前ら見ているだけのくせにうるせぇぞ!
彼方:(叢雲と同時に)ぷっ。あはははは……!
叢雲:(彼方と同時に)ふっ。くくくくく……!
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:(間)
:
尊:んーじゃ、一通り遊んだし、ちょっと案内所でカナタのこと訊いてくるな!
叢雲:はいはい。行ってらっしゃい。
:(間)
:
彼方:…………。
叢雲:ん?どうしました、カナタ。
彼方:……ぁ。ううん。なんでもない。
彼方:ねぇ。むらくもとみことは、いつから一緒にいるの?
叢雲:……尊とは、尊が生まれる前から、です。
彼方:え?……お腹にいる時からってこと?
叢雲:尊という存在ができる前からです。……いえ、尊が尊だった頃……生まれ変わる前、とも言えますかね。
彼方:んん?よくわかんない……。
叢雲:ふふ。それで良いんですよ。
彼方:二人は、仲良し?
叢雲:……んー。私は尊を護る武器なんです。あの人は私がいないとてんでダメだから。だから一緒にいるだけですよ。
彼方:確かに。むらくも、強そうだもんね。
叢雲:ええ。そりゃあもう。
叢雲:……あ。そういえば。もうすぐ花火の時間ですね。
彼方:え!花火!見たい!
叢雲:今からだと中々場所を取るのが難しいかもしれませんね。……見たことないんですか?
彼方:お祭りの日は、いつもそれどころじゃないから……。
叢雲:それどころじゃない?
彼方:お祭りの日は、沢山食べなきゃいけないから……。
叢雲:食べる?あぁ。出店の食べ物ですか?ふふ。カナタは花より団子の食いしん坊さんなんですね。
叢雲:……花火か。私も好きなんですが、最近ゆっくり見れてないですね。
彼方:…………ッ!
叢雲:おや、どうしました?……あぁ。家族と長い時間離れていたら、そりゃあ不安にもなりますよね。
彼方:ううん!そうじゃなくて……!
叢雲:いやいや。分かりますよ。
叢雲:……本当の私はね、ここから遠く離れたところにいるんです。……寂しい気持ちも不安な気持ちも、よく分かります。
彼方:……え?
叢雲:だから、今はあんまり力が出ないんですよね。
彼方:……?むらくもは、ここにいるよ?
叢雲:はい。そうですね。
彼方:……よく、わかんないけど。むらくもとみことは、「とってもいい」二人だと思うな。
叢雲:とっても、いい……?
彼方:大事な人同士でもね、間違っちゃうと、おかしくなっちゃうから。そうなると、助けられないし、守れないから……。
叢雲:カナタ……?
:
:
尊:おーい!訊いてきたぞ〜!って、うわあぁああ!(転ぶ)
尊:いったたた……。
叢雲:(ため息)ほらね?私がいなきゃダメなんですよ、あのポンコツは。
彼方:(笑って)やっぱり仲良しだね!みこととむらくもは!
叢雲:(笑って)そうですね。
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尊:それにしても……。案内所に迷子届けが出てないとは……予想外だったなあ。親御さんより早くに着いちゃったとか……?
叢雲:散々遊びましたがね、私たち。
彼方:…………。
尊:お?どうした彼方?……寂しくなっちゃったか?
彼方:違う!そうじゃなくて……。
彼方:…………(何か言いたそうにしている)。
尊:なんだ?まだ何か食べたいのか?
彼方:…………したい。
尊:え?
彼方:むらくもが楽しいことがしたい!
叢雲:……へ?私ですか?
彼方:むらくも、おいしいもの食べられなかったでしょ?射的も金魚すくいもできなかったし……!だから……!
:(間)
:
尊:…………(微笑んで)カナタは良い子だな。
尊:だってさ、叢雲。どうする?
:(間)
:
叢雲:(ため息)この人混みです。闇雲に探しては逆に見つからないというもの。もしかしたら、保護者の方はカナタとはぐれた場所で待っていらっしゃるかもしれませんね。
尊:……となると、見回りしてた森の方か。
叢雲:ええ。森の、その……彼方を見つけた所くらいまで行けば、空を見るのに遮る物もないですし……ちょうど、花火の上がる時間になるでしょうから……。
彼方:……!むらくもと花火、見れる!?
叢雲:……ええ。
尊:おお!花火か!それなら皆で楽しめるな!んじゃ、戻ってもっかい親御さんを探してみようぜ!
叢雲:あぁ尊。月が隠れて足元が見えづらくなってます。気をつけてくださいね。
尊:ええ〜。幽霊なら雲くらいパパッと散らしてくれよ叢雲ぉ〜。
叢雲:幽霊を何だと思ってるんですか……。
尊:ってかお前さー、足がないってだけで他普通すぎない?大丈夫?幽霊キャラで押し通すには個性弱くないか?
叢雲:あのですね……。
尊:ってかマジで暗いな。……あ!お前ヒトダマとか飛ばせたりしないのか?
叢雲:私を懐中電灯の代わりにしようとしないでください!というか、そもそも厳密には私は幽霊じゃな(いんですからね)……!
彼方:あ……!
尊:ん?
彼方:神社……。
尊:本当だ。こんな所に……。
叢雲:管理はされてないようですね。拝殿が朽ち始めている。
尊:へー……ん。だけど空気はいいな。
叢雲:廃れてると言っても、元は神域ですからね。境内はまだ清く、空気が澄んでいますね。
尊:だな!変なのも寄って来なさそうだし、ここで花火を見るか。
彼方:こ、ここはやだ!
尊:どうしたカナタ?大丈夫、怖くないよ。
彼方:でも……。
叢雲:大丈夫。尊はともかく、私がいますから。
尊:なんだとぉ!?って……おぉお!
彼方:(尊と同時に)わあ……!
:◆その時、空に大輪の花が上がり始めた。
:
叢雲:これは……見事ですね。
彼方:むらくも!花火嬉しい?楽しい?
叢雲:ええ、とっても。見れて嬉しいです。カナタのおかげですね。
尊:た〜まや〜!
彼方:か〜ぎや〜!
尊:お!よく知ってるなあカナタ!
彼方:へへ〜!
叢雲:本当に……すごく綺麗だ。
尊:あぁ。二人と見れて良かったよ。
彼方:うん!みことと、むらくもと、見れて良かった!
叢雲:ふふ。ですね。
:
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:
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叢雲:さて。流石にこの時間になっても親御さんと会えないのは問題ですね。そろそろ山を降りて警察に行きま……ん?カナタ?
彼方:ゼェ、ゼェ……(苦しそうな息遣い)。
叢雲:これは……、
彼方:うぅ……アァアアアア!
尊:な、なんだ……?カナタの様子が……!
彼方:嫌、やめて!まだ出てこないでお願い!二人を食べたくない……!
大蛇:っふ、ふふひはは……!やっと出てこれたァ……?あ?ヒト、ヒトだ!ヒトじゃないか……!嗚呼、これでようやく腹を満たせるゥ!頭からか、腕からか……さぁ、どこから食らうてやるか……?
叢雲:ッ、尊!下がれッ!
尊:うわあ!
:◆彼方の姿が人ならざる姿に変わり、その牙が尊を捉えようとする。瞬間、叢雲が尊の襟首を掴み引っ張りそれを避ける。
:
叢雲:ほらな。おかしいと思ってたんだよ。俺が「見える」ってことは、「この世ならざる力」があるってことだからな……!
尊:か、カナタが鱗まみれの化け物に……!
叢雲:あぁ……こいつ、大蛇(おろち)だ……!
尊:お、大蛇!?大蛇ってまさか……!
叢雲:八岐大蛇(ヤマタノオロチ)なんかが有名だな。まあ、こいつは……どうやら彼方と本体の二又(ふたまた)だが。
尊:…………!
叢雲:対象を捕食する方法としては良くある手法だ。美人局とか、発光物で獲物を口の中に誘導するだとか……この場合、獲物の目を引いた発光物はか弱く小さなカナタって訳だ。
大蛇:お?なんだ神社かァ。通りで。信仰心の途絶えた神社でも、お前みたいな小物には辛かろう?のう、彼方ァ……?
尊:か、カナタをどこへやった……!
大蛇:我の中に。我らは二人で一つだからのォ。あやつが出ている内は我は出られないし、我が出ている間はあやつは出て来れぬ。どうやら、この神聖な空気に堪えられず、あやつは我を抑え込めなくなったようじゃのォ。
叢雲:尊!
尊:……ッ!
叢雲:お前の出番だ。とっとと立ってさっさと倒せ。
尊:む、無理だよ!だってあいつはカナタで……!
叢雲:やらなきゃ食われる!見れば分かるだろ。あれは、放っておけば人を食う!カナタも同じだ!
尊:でも……、
叢雲:身体のない俺には荒ぶる神を倒すほどの力はねぇぞ!分かってんだろ尊。つべこべ言わずに覚悟決めろ!
:(間)
:
尊:くっ……弩張(どちょう)!
叢雲:剣抜(けんばつ)!
:◆二人が叫ぶと、その手にはそれぞれ弓と刀が握られていた。
:
大蛇:ほう、武器かァ!弓に刀……っくくく。そんな粗末な打ち物で我を倒す気か!
叢雲:はっ。粗末に見えてんなら、擬態が成功している訳だ?なあ尊!
尊:ああ!
大蛇:何……?
:
尊:天神地祇(てんじんちぎ)を頭上に掲げ!天照の大神(あまてらのおおみかみ)の御稜威(みいつ)を背(そびら)に!天の鹿皃弓(あまのかごゆみ)、天の波々矢(あまのはばや)!受け継ぎし呪具の神通(じんつう)をもって、荒神(こうじん)となりし大蛇を退治せばや!いざ参らん!叢雲ぉおお!
叢雲:ああ!……解放ッ!
:◆尊の持つ弓矢が、叢雲の言葉に反応して光り出す。
大蛇:それは……天の弓矢……?貴様ら一体……!
尊:どうした?粗末な打ち物っつったろ?なあ?
叢雲:尊が神通力で泉門(せんもん)を開き、俺が「叢雲の力」で斬って黄泉に葬り去る。覚悟するんだな!
大蛇:これは……まずい!
尊:この一条が屠(ほふ)りの初め!汝が一命、我らが終焉せん!いっけぇえええええ!(矢を放つ)
叢雲:うぉおおおおおお!(刀を振おうとする)
彼方:(一瞬彼方の姿に戻って)やめて!みこと!
尊:ッ!止まれ叢雲!
叢雲:……ッ!(自分の意思とは反して一瞬金縛りにあう)
大蛇:っくく、バーーーカッ!
:妖怪の鋭い爪が尊をとらえる。
尊:……ぁぐ……ッ!
叢雲:尊!くそ……!
大蛇:フハハハハ!愚かなりィ!姿かたちなぞ、まやかしに過ぎないというのに!
尊:お前!卑怯だぞ……!
大蛇:そんなことを我が気にすると思うのか?
尊:カナタを返せ!
大蛇:返すゥ?何をバカな!端(はな)からあやつは我の一部だというのに!
尊:カナタ!聞こえてるんだろ!出てこいカナタッ!
叢雲:尊!尊、落ち着け!
尊:離せよ叢雲!カナタが!カナタがッ……!
叢雲:まずいな……。尊がこんな不安定じゃ、幾ら格下の大蛇と言えど、俺らには倒せねえ……!
大蛇:格下ァ?舐めてもらっちゃ困る。我は貴様らなどより……ウッ、何だ?……あぁああ!やめろ!彼方!
彼方:(荒い息を整えて)……ごめんなさい。みこと、むらくも……。うぅ……少しの時間しか、無理みたい……コナタを抑えている内に、早く、逃げて……!
叢雲:コナタ……それがもう一又(ひとまた)の大蛇の名前ですか。
彼方:そう……カナタとコナタは、二人で一つ。
叢雲:コナタが……貴方の大事な人、なのですか。
彼方:…………うん。そうだよ。生まれた時からずっと一緒なんだ。口は二つでも、お腹は一つ。だから何でも一緒。全部全部、みーんな一緒。
彼方:だから……だから!コナタが誰かを傷付けるのも嫌だし、コナタが誰かに傷付けられるのも嫌だ……!
彼方:食べなきゃ死んじゃう。当たり前のことだよ。でも、コナタはもうダメなんだ。「カナタがお腹空かないように」って、いっぱいいっぱい食べたから。一度食べたらもっと、二度食べたらもっともっと。そうしてどんどん止まらなくなる。コナタはもう、食べることをやめられない。人を殺すことを、やめられない……!
彼方:お願い……!本当のコナタは優しいの!今は空腹でおかしくなってるだけなの!だから……。
尊:カナタは……人間を食べる、のか……?
:(間)
:
彼方:そうだよ。普通の食べ物も食べるけどね。コナタに妖力が偏ってしまったからか、元々力が弱くて。それを補おうと、コナタはその分人間を食べ始めた。自分が悪い、自分のせいだ、って……。今ではもうかなり回復しているけど……食べることが癖になったコナタはもう、誰にも止められない。それに……今夜はお祭りの日だから。
叢雲:祭りの日?それが何だと言うのです?
彼方:昔はこの祭りも、神楽って言って、大蛇を鎮める踊りを献上してくれるためのものだった。でも、いつの間にかそんな風習は廃れてしまった。……バカな話だよね。信仰がなくなった今、年に一度、この夜に人間を食べないと、もうこの身体を保つこともできないんだ。
叢雲:つまり……人間を食べなきゃ、カナタは消える……?
尊:何だよそれ……!
彼方:本当は、みんなを守る存在だったはずなのに。今ではもう、ただの化け物になっちゃった。だから。……逃げて。
:(間)
:
尊:……それなら……食べろ!
叢雲:尊!何言って……!
彼方:食べるって……みことを?
尊:これでも結構レアな人間だからな。食べたら、暫く何年かは人を食べなくても良いくらいの力は手に入るだろうさ。
叢雲:本当におバカですね貴方は!それでは空腹の方は解決できても、コナタの制御がきかなくなってる方はどうにもならないでしょう!
尊:……え?あ、そうか……!
:(間)
:
彼方:ぷっ、あはは……!ほんとバカだな、みことは。そんなん言われたら、こっちも覚悟するしかないじゃん……。
尊:え?
:(以下、彼方と大蛇の心の中での対話となります。一人芝居が続きます)
:
彼方:(大きく深呼吸して)コナタ、聴こえる?
大蛇:何じゃ。潔く引っ込んで我に主導権を明け渡す気になったか。
彼方:ううん、ならない。
大蛇:貴様如き小物に、いつまで我を抑え込めるかのぅ?
彼方:うん。もう、限界みたい。……だからもう、やめよう。コナタ。
大蛇:は……?
彼方:知ってるよ、コナタが心配してくれてること。小物だ何だって言って悪ぶっても、いつも守ってくれてること。
大蛇:一体、何を言って……。
彼方:もう、やめようコナタ。もう頑張らなくて良い。もう、無理に人間を食べなくても良いんだよ。
大蛇:我は無理などして(いない)……!
彼方:一緒に死のう。コナタ。
大蛇:…………ッ!
彼方:ごめんね、ごめん、コナタ。死ぬのが怖いって、消えたくないって、コナタにはバレちゃってたよね。だから、無理してくれてたんだよね。
彼方:でももう、大丈夫。
大蛇:……かな、た……。
彼方:一緒に行こう。大丈夫。どこに行っても、コナタと二人なら、怖くないよ。
大蛇:……あぁ。
: (彼方、現実に帰ってくる)
:
尊:カナタ!おいカナタ!大丈夫か、カナタ……!
彼方:みこ、と……?
尊:あぁ、良かった……!突然倒れるから……!
彼方:その間に逃げれば良いのに。バカだね、みことは。
叢雲:…………。
彼方:むらくもも。待っててくれたの……?
叢雲:危険だとも思いました。でも……心配、だったので。
彼方:そっか……。ふふ。最後に目に映るのが二人で、良かった。
叢雲:え?
:◆彼方、横に落ちていた尊の弓矢を手に取る。
彼方:武器までほっぽり出して。ほんと、お人好しなんだから、二人とも。
尊:カナタ、何を……、
彼方:花火、綺麗だったね。りんご飴も焼きそばも美味しかったし、射的も金魚すくいも楽しかった。
叢雲:(ハッと気付いて)カナタ!ダメですそれは……!
彼方:ありがとう、二人とも。……ッ!(矢を自分の心臓に刺す)
:(間)
:
尊:カナタ……?え、なんで……カナタ……ッ!
彼方:カハッ……あぁ、これ……思ったより痛い、な……。
尊:待ってろ、今霊力で傷を塞いで……!
彼方:(被せて)ダメ。死なせて、みこと。コナタと二人で決めたんだ。もう、誰も傷つけたくない、から……。
叢雲:それで……それで本当にいいんですか……?
彼方:うん。もう大丈夫。カナタとコナタは、「とってもいい」に、きっと戻れる……。
叢雲:そう、ですか……。
彼方:(笑顔で)バイバイ。みこと。むらく、も……、
:◆彼方の身体がパリンッと割れたように光の胞子となって消える。
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尊:……カナタ?カナタッ……、カナタァアアアアア……ッ!
:◆暫く境内に、尊の泣き声が響き渡る。
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:(場面転換。尊と叢雲がトボトボと山の中を歩いている)
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尊:……カナタ、天国に行けたかな。
叢雲:それはどうでしょう。……でもまあ、きっと大丈夫ですよ。笑っていましたから、カナタ。
尊:……そっか。
叢雲:それに、この世の全ては、なるようにしかなりませんからね。
尊:怖いこと言うなあ。
叢雲:貴方も大丈夫ですよ。「ついてます」から。
尊:何を根拠に?今回も結構危ない目に合ってんだけど!?
叢雲:でも、ついてますよ。
尊:えぇー?いや、まあ……あんなことがあっても、結果こうして無事帰れている訳だし、ツイてる、のか……?んん?
叢雲:えぇ。
:(間)
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叢雲:「憑いてます」からね。私が。
尊:……ッ。バーカ。普通幽霊に憑かれてたらツイてねえの!
叢雲:だって貴方、私がいなきゃきっと今頃もっと大変ですよ。
尊:え?
叢雲:朝は起きられないし、
尊:うぐ。
叢雲:すぐ道を間違えるし、
尊:うぐぐ。
叢雲:極め付けは……試験。
尊:あは、あはははは!さ、流石ぁ〜!テスト中、先生にバレずにカンニングできる最強パーク!いよっ!
叢雲:全然褒められてる気がしませんね。そもそも何ですか最強パークって!人をモノみたいに!
尊:人じゃなくて霊だろ。
叢雲:ただの剣の思念ですよ、私は。
尊:どう見ても人の形してるけどな。
叢雲:思念が人型にみえるくらい、強い霊力を持つ武器ですからね。
尊:……天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。
叢雲:はい。なんです、尊。
尊:嬉しそうにすんな、気持ち悪い。
叢雲:名前を呼ばれたら、嬉しいものですよ。
尊:……そうかよ。
叢雲:とにかく、貴方は私が憑いてるんですから、ツイてるんです、絶対。もうそれだけで、人生ガチャ単発SSR!って感じなんですよ。
尊:例え方よ。
叢雲:違いますか?
尊:まあ……確かに。これからも宜しくな。足元スケスケの相棒さん。
:(間)
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叢雲:そうですね。「ひがん」に達するまでは。
尊:おう!お前の悲願の達成、一番近くで見守ってやんよ!
叢雲:……ふふ。そうですね。
尊:んじゃ、帰るか!
叢雲:ええ。
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叢雲:(尊の背を見ながら小声で)……「今世」の貴方が「彼岸」に達するまでは。傍にいますよ。タケル。
叢雲:私は、貴方の武器なんですから。
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:【台本終了】
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