台本概要

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タイトル 外郎売(ういろううり)の親方
作者名 まりおん  (@marion2009)
ジャンル 時代劇
演者人数 1人用台本(男1)
時間 10 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 わたしに実害が無い範囲で、有料無料に関わらず全て自由にお使いください。
過度のアドリブ、内容や性別、役名の改編も好きにしてください。
わたしへの連絡や、作者名の表記なども特に必要ありません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
親方 20 外郎売の中ではすごく偉い人。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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親方:拙者は数々の外郎売の親方でございまして、お立合いの中(うち)にご存知のお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方(かみがた)、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)一色町(いっしきまち)をお過ぎなされて青物町(あおものちょう)を登りへおいでなさるれば、欄干橋(らんかんばし)虎屋藤右衛門(とらやとうえもん)、只今は剃髪(ていはつ)致して円斎(えんさい)と名乗りまする。  :  親方:元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)まで、お手に入れまするこの薬は、昔、珍の国の唐人(とうじん)、外郎という人、わが朝(ちょう)へ来たり、帝へ参内(さんだい)の折からこの薬を深く籠(こ)め置き、用ゆる時は一粒(いちりゅう)ずつ、冠の隙間より取り出す。依ってその名を帝より、透頂香(とうちんこう)と賜(たま)わる。即(すなわ)ち文字(もんじ)には「頂(いただき)・透(すく)・香(におい)」と書いて、とうちんこうと申す。  :  親方:とまあ、このようにお聞きになっているかと思いますが、実はこれ、全てわたくしの作り話でございまして。えぇえぇ、どういう事かと皆さま気になるところでございましょう。本日は、とうちんこうの名付けにまつわるお話をしようと思います。  :  親方:まず最初に話しておかなければならないのは、わたくしのキャリアでございまして、わたくし、この外郎を売りまして六十年の大ベテランでございます。三つの頃には外郎を飲まされ、六つの時にはすでにこの外郎を売り歩いてございました。一時(いっとき)は日本一(にっぽんいち)の外郎売と賞され、多くの弟子を抱えました。そう、外郎売として順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な人生を歩んで来たのです。  :  親方:ですが、そんな順風満帆な人生を歩んで来たわたくしでございますが、それ故(ゆえ)に外郎を売る事に飽きてしまいました。売ろうと思えばいくらでも売れる。売ろうとしなくても飛ぶように売れる。もはや、わたくしがやる事など何一つございませんでした。そんな時、わたくしの目に止まったのが、子供たちのヒーロー、仮面ライダーだったのです。  :  親方:齢(よわい)六十を過ぎた爺が、何を子供のヒーローに憧れているのかと、皆さまがそう思うのは無理もございません。ですが、わたくしは子供の頃より子供らしい事を一切せず、ただただ外郎を売って参りました。そんなわたくしが、子供の頃に触れる事の出来なかったヒーローに初めて触れ、それに憧れたとて何の不思議がございましょう?  :  親方:わたくしは童心に返って仮面ライダーを見続けました。そして、仮面ライダーの必殺技、ライダーキックの練習をいたしました。壁に跡が残るほどライダーキックの練習をしていたわたくしは、ふと、『このライダーキックのポーズはどうしてこのようなポーズなのだろうか』と考えるようになりました。  :  親方:威力だけを考えれば、両足で蹴った方が強いのでは無かろうか?では、このポーズにはどのような意味があるのか?わたくしは散々考えました。そして思い付いたのが、『もしキックを避けられても、左の足で相手の頭を絡め取り、そのまま首を絞める為ではないか』というものでございました。  :  親方:しかし、ここでも一つ問題が生じました。それは、『相手を殺すほどの勢いのキックでございます。それを避けられ、その勢いのまま股間に相手の顔が当たったら、それはもう耐えられない程の痛みでは無かろうか』と。これにはわたくしも悩みました。起きては考え、飯を食うては考え、夜は夢の中までもその事を考えました。  :  親方:そしてたどり着いた答えが『仮面ライダーは改造人間。生殖の為のちんこうなど付いていないのではないか。むしろそれは、敵を倒すための武器として改造されたものなのではないか』というものだったのでございます。つまり、ライダーキックとは三段構えの攻撃だったのです。  :  親方:まず第一弾としてのキック。これを躱(かわ)された場合、股間に忍ばせた小刀(こがたな)ちんこうで相手の頭を串刺しに。それでもなお生き残るようなら、足で首を絞めて意識を奪う。まさに必ず殺す『必殺技』、それがライダーキックだったのでございます。  :  親方:それからのわたくしは、今まで以上にライダーキックの練習に励みました。『とう!ライダーキック!』『とう!ちんこう!』『とう!かにバサミ!』何度も何度も繰り返し、身体にライダーキックを覚えさせたのでございます。  :  親方:そんなある日のことでございます。わたくしの弟子の一人が急にわたくしの部屋を尋ねてきたのでございます。こう見えてわたくし、多くの弟子を抱え、弟子たちからは尊敬される立場でございました。ですから、もちろんこの歳で仮面ライダーごっこで遊んでいるなど、見られるわけにはまいりません。こっそり隠れて練習していました。  :  親方:ですがその日は、突然弟子がやって来たものですから、わたくしも気が付きませんでした。弟子はわたくしの部屋の前で、わたくしにこう質問いたしました。  :  親方:(弟子)『お師匠様、この外郎、なぜ外郎という名が付いたのでございますか?』  :  親方:『とう!ちんこう!』  :  親方:(弟子)『はい?とうちんこう?お師匠様、とうちんこうとはなんでございますか?』  :  親方:わたくしは焦りました。まさか弟子にライダーごっこを聞かれてしまうとは。しかし、今ならまだ隠し通せると考えたわたくしは、外郎とは珍の国の唐人の名であり、とうちんこうとは帝より賜(たまわ)った尊(とうと)き名であるという作り話をでっち上げたのでございます。  :  親方:あれから三年……。まさかあの時の作り話がこれほど広まってしまうとは思わず、今こうして恥を忍んで誤解を解いて回っている次第でございます。……え?弟子たちにやらせればいい?それが、弟子たちにいくら説明しても、そんなわけがない、冗談が過ぎると一向に信じてもらえないのでございます。  :  親方:長々とこのようなつまらない話をお聴きくださり、誠にありがとうございました。どうかこの外郎のご評判、心に留め置いてくださいませ。……え?ライダーキックの練習はもうやめたのか、ですって?いえいえ、今も続けていますよ。とう!ライダーキック!とう!ちんこう!ほら、ご覧の通りでございます。 0:おわり

親方:拙者は数々の外郎売の親方でございまして、お立合いの中(うち)にご存知のお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方(かみがた)、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)一色町(いっしきまち)をお過ぎなされて青物町(あおものちょう)を登りへおいでなさるれば、欄干橋(らんかんばし)虎屋藤右衛門(とらやとうえもん)、只今は剃髪(ていはつ)致して円斎(えんさい)と名乗りまする。  :  親方:元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)まで、お手に入れまするこの薬は、昔、珍の国の唐人(とうじん)、外郎という人、わが朝(ちょう)へ来たり、帝へ参内(さんだい)の折からこの薬を深く籠(こ)め置き、用ゆる時は一粒(いちりゅう)ずつ、冠の隙間より取り出す。依ってその名を帝より、透頂香(とうちんこう)と賜(たま)わる。即(すなわ)ち文字(もんじ)には「頂(いただき)・透(すく)・香(におい)」と書いて、とうちんこうと申す。  :  親方:とまあ、このようにお聞きになっているかと思いますが、実はこれ、全てわたくしの作り話でございまして。えぇえぇ、どういう事かと皆さま気になるところでございましょう。本日は、とうちんこうの名付けにまつわるお話をしようと思います。  :  親方:まず最初に話しておかなければならないのは、わたくしのキャリアでございまして、わたくし、この外郎を売りまして六十年の大ベテランでございます。三つの頃には外郎を飲まされ、六つの時にはすでにこの外郎を売り歩いてございました。一時(いっとき)は日本一(にっぽんいち)の外郎売と賞され、多くの弟子を抱えました。そう、外郎売として順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な人生を歩んで来たのです。  :  親方:ですが、そんな順風満帆な人生を歩んで来たわたくしでございますが、それ故(ゆえ)に外郎を売る事に飽きてしまいました。売ろうと思えばいくらでも売れる。売ろうとしなくても飛ぶように売れる。もはや、わたくしがやる事など何一つございませんでした。そんな時、わたくしの目に止まったのが、子供たちのヒーロー、仮面ライダーだったのです。  :  親方:齢(よわい)六十を過ぎた爺が、何を子供のヒーローに憧れているのかと、皆さまがそう思うのは無理もございません。ですが、わたくしは子供の頃より子供らしい事を一切せず、ただただ外郎を売って参りました。そんなわたくしが、子供の頃に触れる事の出来なかったヒーローに初めて触れ、それに憧れたとて何の不思議がございましょう?  :  親方:わたくしは童心に返って仮面ライダーを見続けました。そして、仮面ライダーの必殺技、ライダーキックの練習をいたしました。壁に跡が残るほどライダーキックの練習をしていたわたくしは、ふと、『このライダーキックのポーズはどうしてこのようなポーズなのだろうか』と考えるようになりました。  :  親方:威力だけを考えれば、両足で蹴った方が強いのでは無かろうか?では、このポーズにはどのような意味があるのか?わたくしは散々考えました。そして思い付いたのが、『もしキックを避けられても、左の足で相手の頭を絡め取り、そのまま首を絞める為ではないか』というものでございました。  :  親方:しかし、ここでも一つ問題が生じました。それは、『相手を殺すほどの勢いのキックでございます。それを避けられ、その勢いのまま股間に相手の顔が当たったら、それはもう耐えられない程の痛みでは無かろうか』と。これにはわたくしも悩みました。起きては考え、飯を食うては考え、夜は夢の中までもその事を考えました。  :  親方:そしてたどり着いた答えが『仮面ライダーは改造人間。生殖の為のちんこうなど付いていないのではないか。むしろそれは、敵を倒すための武器として改造されたものなのではないか』というものだったのでございます。つまり、ライダーキックとは三段構えの攻撃だったのです。  :  親方:まず第一弾としてのキック。これを躱(かわ)された場合、股間に忍ばせた小刀(こがたな)ちんこうで相手の頭を串刺しに。それでもなお生き残るようなら、足で首を絞めて意識を奪う。まさに必ず殺す『必殺技』、それがライダーキックだったのでございます。  :  親方:それからのわたくしは、今まで以上にライダーキックの練習に励みました。『とう!ライダーキック!』『とう!ちんこう!』『とう!かにバサミ!』何度も何度も繰り返し、身体にライダーキックを覚えさせたのでございます。  :  親方:そんなある日のことでございます。わたくしの弟子の一人が急にわたくしの部屋を尋ねてきたのでございます。こう見えてわたくし、多くの弟子を抱え、弟子たちからは尊敬される立場でございました。ですから、もちろんこの歳で仮面ライダーごっこで遊んでいるなど、見られるわけにはまいりません。こっそり隠れて練習していました。  :  親方:ですがその日は、突然弟子がやって来たものですから、わたくしも気が付きませんでした。弟子はわたくしの部屋の前で、わたくしにこう質問いたしました。  :  親方:(弟子)『お師匠様、この外郎、なぜ外郎という名が付いたのでございますか?』  :  親方:『とう!ちんこう!』  :  親方:(弟子)『はい?とうちんこう?お師匠様、とうちんこうとはなんでございますか?』  :  親方:わたくしは焦りました。まさか弟子にライダーごっこを聞かれてしまうとは。しかし、今ならまだ隠し通せると考えたわたくしは、外郎とは珍の国の唐人の名であり、とうちんこうとは帝より賜(たまわ)った尊(とうと)き名であるという作り話をでっち上げたのでございます。  :  親方:あれから三年……。まさかあの時の作り話がこれほど広まってしまうとは思わず、今こうして恥を忍んで誤解を解いて回っている次第でございます。……え?弟子たちにやらせればいい?それが、弟子たちにいくら説明しても、そんなわけがない、冗談が過ぎると一向に信じてもらえないのでございます。  :  親方:長々とこのようなつまらない話をお聴きくださり、誠にありがとうございました。どうかこの外郎のご評判、心に留め置いてくださいませ。……え?ライダーキックの練習はもうやめたのか、ですって?いえいえ、今も続けていますよ。とう!ライダーキック!とう!ちんこう!ほら、ご覧の通りでございます。 0:おわり