台本概要

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タイトル ハッピーマリッジ相談所
作者名 熊野むっち  (@mucchi_0908)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【声劇配信時の規約】
・配信時に作者名および作品名を記載
※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。
(投げ銭の有無、有償無償に関わらず)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
155 四ノ宮 匡(しのみやたすく) 32歳。職業フリーライター。最近結婚相談所に入会したが、なかなか良縁に恵まれず悪戦苦闘中。
156 五百旗頭 千尋(いおきべちひろ) 28歳。職業結婚アドバイザー。結婚相談所に入会した匡を結婚まで導く事に並々ならぬ使命感を抱いている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0: : :タイトル : 【ハッピーマリッジ相談所】作・ムッチ : :登場人物 : 男: 男:(配役が決まったらここをタップしてください) 男:四ノ宮 匡(しのみやたすく) 男:32歳。職業フリーライター。最近結婚相談所に入会したが、なかなか良縁に恵まれず悪戦苦闘中。 : 女: 女:(配役が決まったらここをタップしてください) 女:五百旗頭 千尋(いおきべちひろ) 女:28歳。職業結婚アドバイザー。結婚相談所に入会した匡を結婚まで導く事に並々ならぬ使命感を抱いている。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:ファミレス。テーブルを挟んで2人の男女が座っている。 0:2人には会話はなく、なんとなくぎこちない雰囲気が漂っている。 0:沈黙を破り、男性がついに女性に話しかける。 : : 男:えっと、その、あのー : 女:はじめまして。 : 男:あ、は、はじめまして。 : 女:今日はどうぞ、宜しくお願いします。 : 男:あ、はい。宜しくお願い致します。 : : 0:気まずい沈黙 : : 男:あの、僕、こういった形でお会いするのに、あまり慣れていなくてですね、 男:…その、色々と、失礼な言動があるかもしれないんですが、どうかお許しください。 : 女:あの… : 男:(相手の言葉を遮って)はい!すみません!なんでしょう!? : 女:まずはお互い、名前を名乗りませんか? 女:その、なんてお呼びしたら良いかもわかりませんし… : 男:ああ!それは失礼しました!えっと、僕は四之宮 匡(しのみや たすく)と申します。 : 女:八重樫(やえがし)です。 : 男:八重樫さん!八重樫さんですね!八重樫さん、宜しくお願いします。 : 女:宜しくお願いします…。 : : 0:再び気まずい沈黙 : : 女:あの、ご職業は? : 男:あっ、はい!えー僕の【ご職業】はですね、フリーライターです。今は地方のミニコミ紙とかに記事を書いてます。 男:えっと、行政のイベント情報とか、近所の美味しいご飯屋さんとかの紹介が多いかな…。 : 女:(そんなにすごいと思っていない感じで)えっ、すごーい。すごいですねー。 : 男:あー、いえ、そんな!全然!まだ、ほんと駆け出しみたいなもんでして…。 : 女:ご年齢は? : 男:はい!今年で32になりました! : 女:(ボソッと)32で駆け出し… : 男:え? : 女:(取り繕って)いえ、何も。 女:美味しいご飯屋さんの記事とか、書かれてるんでしたら、良いお店とかお詳しいんじゃないですか? : 男: いやー!そうでもないですよ! 男: 取材の時以外は、ファミレスとかコンビニ弁当で済ませちゃう事の方が多いから。 : 女: それで今日もファミレスなんですね…。 : 男: ええ。このお店、すごく落ち着くんです。 男: あっ、もしかして…お気に召しませんでしたか? : 女: いえ、そう言う訳では…。 女: でも、正直言って初対面でこういうお店に連れてくる人なんだなぁとは思ってます。 : 男:え? : 女: 初めて会うんだから、私と真剣にお付き合いしたいって言う方だったら、 もう少し、その、ちゃんとしたお店に連れてきてくださると思うんですよね。 : 男:……。 : 女: そりゃ私だってファミレスくらい行きますよ。でも初デートでファミレスは絶対選びません。 : 男:…ごめんなさい。 : 女: 私、もうこの先がないってわかってて、ダラダラとお付き合いするの、嫌、なんですよね。なので今日はこれで失礼させてもらいます。今日はどうも有り難うございました。(席を立ちそのまま出て行ってしまう) : 男:あ、あの、ちょっと!ちょっと待ってください!あの…! : 女:(フゥーッと深い溜め息をついて)それで、その女性は、そのまま帰ってしまわれたと…。 : 男:…はい。 : : 0:場面は変わりそこは結婚相談所の一室。 : 0:※ここまでは、四ノ宮と八重樫という女性との間に起きた回想シーンです。 0:事の顛末を四ノ宮が結婚アドバイザーの五百旗頭に説明していました。 : : 女:四ノ宮さん。 : 男:はい。えっと、あ、お名前、まだ聞いてませんでしたね。 : 女:…五百旗頭(いおきべ)です。 : 男:五百旗頭(いおきべ)さん…めちゃくちゃ珍しいお名前ですねー!漢字はどんな漢字書くんですか? : 女:(遮って)四ノ宮さんは、ウチに、「ハッピーマリッジ相談所」にご入会なさってどれくらい経ちましたか? : 男:2ヶ月…くらいかな? : 女:実際に女性とお会いするのは、 : 男:今回が初めてです。 : 女:では、四ノ宮さんは今回、どういったところが良くなかったと考えてらっしゃいますか? : 男:ファミレス…ですか? : 女:そうです!お店選びです! : 男:えー、でも、ファミレス、美味しいものたくさんありますよ。 和洋中、どんな気分の時でも大丈夫だし… : 女:いや、そういう事じゃあないんですよ。 女:例えば、あなたが女性だったとして、初対面の人が洗濯し過ぎてテロンテロンになった、学校ジャージを着て来たらどう思いますか? : 男:ああ、ジャージ好きな人なんだなって思います。 : 女:他には? : 男:物持ちのいい人だなって、 : 女:ワザと、正解を外そうとして答えてませんか? : 男:(真顔で)えっ、この質問って正解あるんですか? : 女:(深い溜め息)初めてのデートの待ち合わせで、ファミレスは厳禁です。 女:お互いリラックスして話せるような、お洒落なカフェを選ぶのがセオリーです。 : 男:はあ…。(よく分かってない) : 女:四ノ宮さん、 ハッキリ申し上げて、今のままではあなたは、何度女性と会われたとしても、ご成婚まで辿り着く事は決してありません! : 男:そんな… : 女:しかしながら、私たちハッピーマリッジ相談所は、あなたを決して見放すことはありません。 女:これからしばらくの間あなたには、ここで講習を受けて頂きます。 : 男:え!…講習、ですか!? : 女:そうです!私、五百旗頭 千尋(いおきべ ちひろ)考案のイオキベ・メソッドで、あなたを一流の愛され男子に生まれ変わらせてみせます! : 男:ええー!!そんなー!! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 女:それでは今日は、講習第1回目ということで。 : 男:よろしくお願いします。 : 女:本講習はロールプレイの形式で進めさせて頂きます。 : 男:ロールプレイ?あの、ロールプレイングゲームとかのロールプレイですか? : 女:そうです。ロール、つまり役割を、プレイ、演じるからロールプレイ、営業や接客業の研修とかだと、割と普通にあるんですよ。 : 男:はあ… : 女:四ノ宮さんには、ロールプレイを通して、様々なタイプの女性に応える事が出来る、最高の男性へと成長してもらいますんで。 : 男:あ、あの、質問いいですか? : 女:どうぞ。 : 男:要するに、僕はここで色んなタイプの女性と擬似デートをして、そこから経験を積む訳ですよね? : 女:はい、そうです。 : 男:あの、色んなタイプの女性というのは、どこにいらっしゃるんでしょうか? : 女:私です。 : 男:え? : 女:私が様々なタイプの女性という、ロールを演じます。 : 男:え?五百旗頭(いおきべ)さんが、ですか? : 女:そうです。 : 男:はあ…(少し考えて)…え? : 女:え? : 男:あー、えっと、(また少し考えて)え? : 女:はい? : 男:(ようやく状況を理解して)ええーー!? : 女:四ノ宮さん!! : 男:は、はい! : 女:幸せな結婚を望まれて、わがハッピーマリッジ相談所にご入会された訳ですよね!? : 男:はい!もちろんです! : 女:だったらつべこべ言わずにやる! : 男:はっ、はい! : 女:(紙の束を渡して)はい、これ今日の設定です! : 男:えー!今日の設定って何ですか!? : 女:はいよーい!…アクション!! : 男:(書かれた設定を読み上げる)俺の名前は四ノ宮 匡(しのみや たすく)。 男:今日は待ちに待った、えっと、三千院 静香(さんぜんいん しずか)さんとのカフェデート。 男:静香さんは黒髪ロングが似合う、清楚なお嬢様なのだ…。 : 女:(口で言う)カランカランコローン。 女:お待たせしてしまってごめんなさい。 女:匡さん、でしたね。初めまして、三千院 静香と申します。 : 男:あ…。(呆気にとられている) : 女:(早く設定に入りなさい、という威圧的な素振りで)初めまして、三千院 静香と申します。 : 男:あーどうも!初めまして!静香さん! 男:四ノ宮 匡と申します! : 女:ごきげんよう。よろしくどうぞ。 : 男:えっと、 とりあえず何か注文しましょうか?メニューどうぞ。 : 女:有り難うございます。(メニューを見ながら)えっと、私はフレーバーティーを頂きます。 女:今日は…じゃあキャトルフリュイルージュにしようかな。 : 男:はっ、はい! 男:(店員を呼ぶ)あのー!すみません! 男:えっと、ブレンドと、えーとそのー、フレーバーティーの(メニューを指差して)この、キャトルミューテーションをください! : 女:キャトル フリュイ ルージュです。 : 男:はい!それを頂きます! : 0:(少しの間) : 男:あ、あの!今日はお忙しい中、会ってくださって有り難うございます! : 女:いえ、そんな、 : 男:女性とこうやって2人きりでお話しする事ってあんまりないんで、すごく緊張しちゃうんですけど、今日はなんとかいけそうな気がしてます。 : 女:フフ、なら良かったです。 : 0:(ほんの少しだけ良い雰囲気) : 女:四ノ宮さんのご趣味は何なんですか? : 男:あー、趣味ですか。わりと僕、無趣味な方かもしれないんですけど、強いて言えば…… 男:【声当て】ですかね。 : 女:…声当て? : 男:そうです。アニメとかテレビのCMとか、あと洋画の吹き替えとかの声を聞いて、声優さんが誰かを当てるんです。これ、意外と楽しいんですよ~! 男: 男:もう僕レベルになると2、3秒、いやセリフを一言聞いただけで誰かわかっちゃうんですから! 男: 男:母親からはあんたの耳は絶対音感ならぬ、ダメ絶対音感だね!って言われてるんですよ~!あははははは! 男: 男:(だんだんとテンションが上がり、饒舌になる)最近だと声優さんだけじゃなくて芸能人が声の仕事をするパターンもあるじゃないですか? 男:だからだんだん俳優とか芸人さんにも詳しくなってきちゃったんですよね~! 男: 男:ところで静香さんは、芸能人が声優の仕事をする事については、賛成派ですか?それとも反対派?これは永遠のテーマですよねー! 男: 男:そもそもこのテーマについて語るなら、宮崎作品は避けて通れないと思うんですけど、 男:一説によると監督はアニメーション技術の進歩に伴って、元来の声優のケレン味(けれんみ)のある演技と、現在のアニメーションのリアリティ溢れる表現とが乖離(かいり)していると感じ始めたのがきっかけだと言われて…… : 女:(四ノ宮の言葉を遮って)はい、カーット! : 男:え? : 女:(五百旗頭に戻って)四ノ宮さん、なんなんですかその話題は!? 女:いくらなんでも初対面の女性にいきなりその話題はハードルが高すぎます!! 女:もうちょっと、こう、女性が興味をそそられるような、キャッチーな話題はないんですか? : 男:そんな~!女性が興味をそそられる話題だなんて、僕にそんな引き出しありませんよ~! : 女:ないなら作るんです! : 男:そんな~! 男:いや、それを言ったら五百旗頭(いおきべ)さんこそ、なんなんですか!三千院静香(さんぜんいん)って!清楚なお嬢様で三千院って!いやネーミング!! : 女:ぐぬぬぬ… : 男:(ハッと気付いて)あっ、言い過ぎました。…ごめんなさい。 : 女:じゃあ、今日はここまでにしましょう。明日また同じ時間にロールプレイ講習を再開します。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:ロールプレイ講習2日目。 0:テーブルを挟んで対峙する2人。 : : 女:四ノ宮さん、あれから私、一晩考えました。 : 男:はあ。 : 女:四ノ宮さんに足らないものが何か。 : 男:えっ、僕に足らないものですか? : 女:四ノ宮さんに足らないもの、それはズバリ【陽キャ】です。 : 男:はい? : 女:陽キャ、つまり陽気なキャラクターの事で、陽気な性格の人を意味する俗語です。 : 男:いや、それはさすがにわかります。 : 女:今日は四ノ宮さんに陽キャについて学んで頂くために新しいカリキュラムをご用意しました。 : 男:新しいカリキュラム、なんか嫌な予感しかしないんですけど…。 : 女:(紙の束を渡す)はい、これが今日の設定です。 : 男:あ、はい。えーっと、(書かれた設定を読み上げる)俺の名前は四ノ宮 匡(しのみや たすく) 男:今日はひょんな事から仲良くなったギャルでパリピの一 星羅(にのまえ せいら)ちゃんとの初デート。 男:え、という事は…当然ギャルの星羅ちゃんっていうのは…。 : 女:もちろん、私です。 : 男:やっぱり…。 : 女:それじゃあいきますよ~!ヨーイ…アクション! : 男:どうも星羅さん、四ノ宮 匡と申します。今日はお時間作って頂いて有難うござ… : 女:(急にハイテンションで)ウェーイ!シノミーおつ~!ボーン! : 男:え、シノミー?シノミーって…。 : 女:ボーン! : 男:あー、はい。ボーン。 男:…ボーン?ボーンって何?骨的な何かですか? : 女:ボーンっつたらボーンっしょ。ボンジョルノのボーン。 : 男:えーと、こんにちは、みたいな事?だけどなんでイタリア語? : 女:ちょっと、シノミーマジ細かいンゴ。そんなのいちいち意味考えてたら、会話のテンポがガッタガタになって最&低じゃん。 女:(ここだけ発音良く)ドンシンクフィール!イェア! : 男:あー!はい!ドントシンクフィールですね。…え?どゆこと? : 女:だからシノミー、意味考えんなンゴ!定期! : 男:あ、そうだった。あは!あはあは! : 女:ちゃけばバイヴスあげてこーよ!まじ卍! : 男:は!はいっ!マジ卍! 男:(無理やりハイテンションで)チョベリバ!チョモロハ!チョベリガンブロン!! 男:(短時間ですごく疲れて)ハァ……。 : 女:んでさ、今日はシノミーはどこ連れってってくれんの?ちゃんとキュンキュンするプラン組んできたンゴ? : 男:あっはい!勿論です!今日は星羅さんとドライブデートなんて、いかがかなと思いまして。 : 女:そマ?シノミーそマ?シノミーわかってんじゃん!わかりみ深いじゃん!わかりみマリアナ海溝じゃん! : 男:ほんとですか?わかりみマリアナ海溝でした?やった! : 女:(テンションあがって)シノミーよき!よきのよき!よきよきのよき!ワカッティング!!生類(しょうるい)わかりみの令すぎて尊み秀吉(とうとみひでよし)~!! : 男:……。 : 女:…なに? : 男:なんか無理やり詰め込んでないかなと思って、ギャル語。あとちょいちょい古いのが混ざってるような…。 : 女:ちょおま、いきなりメタ発言ぶっこんでくんなし!さっさといくぞ!ドライブんご! : 男:は、はい!ではまいりましょう!(口で言う)ブーン… : 女:シノミーなんか超渋滞してきたんだけど! : 男:えっ? : 女:ねえ、渋滞つらたんなんだけど!シノミーなんか盛り上げてよ! : 男:ええ~!無茶ぶりだなあ~。ああでも昨日は趣味を聞かれて失敗しちゃったからな。ここは慎重に考えて話題をふらないと…。 男:えーっと、星羅さんは、好きな食べ物はなんですか? : 女:え?ウチ?バーグ。 : 男:バーグ? : 女:そ。バーグ。バーグほんとすこ。 : 男:そ、それはもしかして、ハンバーグ的な事ですか? : 女:正解ンゴ。 : 男:うし!だんだん分かるようになってきたかも! : 女:あとね、どちゃくそすこなのはTKG。 : 男:あ!それはわかります!卵かけご飯だ! : 女:違うよシノミー!正解は炊き込みご飯でしたー。 : 男:クー!惜しい!そっちか!そっちのTKGか! : 女:それとMMGも好きかな。 : 男:駄目だ全然わかんないや…。 : 女:残念、MMG、豆ご飯でした~!じゃあKRGはわかる? : 男:え?それもう海外のスパイ組織じゃん! : 女:KRGは栗ご飯でした~! 女:ちょっとシノミー超ウケんだけど、超レシーブなんだけど!! : 男:ちょっと待って!こんなギャル語ほんとにあんの?ってかこんなのただの まぜご飯大喜利だよ!! 男:もう限界!カット!カット!カットー!五百旗頭(いおきべ)さん、もう無理!ギブ!ギブです!! : 女:(五百旗頭にもどる)ちょっと、シノミー…じゃなかった四ノ宮さん!ロールプレイを途中で止めるなんてルール違反ですよ! : 男:あの、五百旗頭さん、前回の講習からうっすらと気になってたんですけど、 : 女:はい。 : 男:これでほんとに、僕は理想の男性に近付けてるんですか? 男:様々なタイプの女性に応える事が出来るようになってるんですか!? : 女:当然です。四ノ宮さんはまだロールプレイ講習を始められたばかりなので、効果を実感できていないだけです! : 男:あと、ちょっと、これはその、少し言いにくいんですけど、設定というかシナリオが荒くないですか!? : 女:なんですって! : 男:あの、ライターの端くれとして申し述べさせて頂きますと、ちょっと設定に無理があるというか、かなり荒唐無稽(こうとうむけい)というか…。 : 女:四ノ宮さんの感情を引き出すために、わざと現実から少し離れた設定にしてしてるんじゃないですか!? : 男:いや、それにしても、もうちょっとあるんじゃないですか? 男:相手の女性に好意を持ってもらう前に、まず僕が感情移入できないですよ、これじゃあ…。 : 女:わ、わたしだって頑張って書いてるんです!昨日だってこの設定考えるのにギャル語辞典片手に睡眠時間削って頑張ったのに!! 女:(次第に感情的になって)そんなに言うなら、あなたが書いてみたらいいじゃないですか! : 男:わかりました!じゃあ明日までにお互い、感情移入出来て、ちゃんと恋愛のレッスンになるようなシナリオを作ってきましょう!五百旗頭さん!僕と勝負です! : 女:望むところよ! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:ロールプレイ講習3日目。 0:机を挟んで対峙する2人。 0:2人は既にロールプレイの最中である。 : : 男:(モノローグ)俺の名はシノミック・フォン・ノイエンタール。元・王宮騎士団の騎士団長だ。 男:3万年の眠りから目覚めた悪逆非道(あくぎゃくひどう)の魔王を倒し、さらわれた王女を救うため、冒険の旅を続けている。 男: 男:ババーン!出たな!魔王率いる暗黒四天王の一人、暗黒宰相(あんこくさいしょう)デスゴルゴン!今日こそはこの神剣スーパーファルシオンソードでお前を倒す! : 女:(ノリノリで)ほざけ!かよわき人間よ!うぬに妾(わらは)は斬れぬ。 女:妾を斬らばこの身体の宿主(やどぬし)であるチヒロ王女の命も尽きる事、うぬも知っておろう…。 : 男:フッ…。 : 女:何がおかしい? : 男:フッフッフ。ハーッハッハ!語るに落ちたりデスゴルゴン! 男:俺が王女の身体に巣食う貴様の穢れた(けがれた)魂だけを斬り払う方法を知らないとでも思ったのか!? 男:いくぞ!(必殺技っぽく叫ぶ)スターライト!エクスプロージョンッ!! : 女:グ、グワァアアアアァァ!!!ま、魔王様、バン……ザ…イ。(魔瘴とともに崩れ去る) : 男:やったか!? : 女:(目を覚まして)う…うう……。ここは、一体…。 : 男:ハッ…王女が長い眠りから目覚められたのか…!? 男:王女!ご無事ですか王女!? : 女:あなたは… : 男:シノミック・フォン・ノイエンタール。元・王宮騎士団長です…。 : 女:そして今は、私だけのナイトという訳ですね。 : 男:(少し戸惑いながら)王女…。 : 女:シノミック・フォン・ノイエンタールに命じます。 : 男:ハッ。 : 女:(微笑んで)まず、王女はやめてください。そして次に私とディナーをご一緒してくださるかしら? : 男:かしこまりました、王女。(ハッと気付く) : 女:(とても愛らしく)こら。たった今約束したばかりでしょう? : 男:失礼しました。では、何とお呼びすれば良いので? : 女:(少し考えて)…チヒロと呼んでくだるかしら? : 男:承知した。チヒロ。 : 女:(モノローグ)そして二人は馬車に乗り、美しい湖のほとりのレストランで、ジャズの生演奏を聴きながら、イタリアンのコースを楽しみました。 女: 女:シノミック、美しい景色に、素敵な音楽、そしてとっても美味しい食事。すごく素敵な夜よ。 : 男:チヒロ、実は今日、君に渡したい物があるんだ。 : 女:…素敵。でも今日は何の記念日でもないのに一体どういう風の吹き回し? : 男:(ボーイを呼ぶ)おーい!例の物を持ってきてくれ! 男:(とても重そうなプレゼントを持って)ヨイショっと…チヒロ、僕からのプレゼント…受け取ってくれるかい? : 女:わあ!ありがとう!(受け取って)お、重っ! 女:…開けてもいいかな? : 男:勿論。 : 女:(箱を開けて)えっ、何これ?これってもしかして… : 男:ハッハッハ…それはね、ボウリングのマイボウルだよ。ホラ、箱から出して持ってごらん? : 女:お、重い。すごく重いね…。 : 男:そりゃそうさ。16ポンドだからね。16ポンドは7.26キログラム、ちょうど砲丸投げの一般男子の公式球と同じ重さなんだ。 : 女:そ、そうなんだ…。 : 男:ねえ、早速チヒロのフォームをチェックしたいからさ、ちょっとそのボウル持って、構えてみてよ? : 女:う、うん。 女:…あ、あれ?このボウリングの球、指を入れる穴のところに何か入ってるよ。指に何か引っ掛かってるもん。 : 男:(微笑んで)ふふ…。ゆっくり、ボウルから指を抜いてごらん? : 女:えっ?うん…。(驚いて)あっ!薬指に!指輪が! : 男:チヒロ、愛してる。(キメ台詞)君と同じ人生のレーンを歩めるなら、もうガターなんて怖くない。 : 女:素敵…。私の心の1番ピンは、もう既にあなたの物よ。 : : 0:(長い沈黙) : : 女:はい!カーット! : 男:(同時に大笑いする) 女:(同時に大笑いする) : : 0:リラックスして笑いあう二人。 : : 男:いや~!盛り上がりましたね~! : 女:ほんと!面白かった~! 女:それにしても四ノ宮(しのみや)さん、騎士と王女って設定、いくらなんでもトンデモ過ぎません? : 男:そういう千尋(ちひろ)さんこそ、なんなんですか!マイボウルの穴に指輪って!もう途中から笑い堪えるので必死でしたよ~! : 女:しかもこれ、2人の設定をつなぎ合わせたら、さらにめちゃくちゃになりましたね! : 男:ブハハ!もうやめて!お腹痛い! : 女:ファンタジーの世界に、ジャズが聴けるイタリアンのお店なんてないから! : 男:(吹き出して)ブフー!千尋さん、もうマジで無理だから笑わせんのやめて! : 女:はあ~!楽しかった! : 男:僕も!こんなに笑ったの久しぶりかも! : 女:私も! : : 0:またクスクスと笑い合った後、やがて静まる二人。ゆっくりと五百旗頭が話し始める。 : : 女:…四ノ宮さん、実は四ノ宮さんの次のお見合いの日取りが決まりまして。 : 男:え? : 女:なので、ロールプレイ講習はこれで一旦終了という事になりました。 : 男:え…そんな。 : 女:3日間、大変お疲れ様でした。よく頑張りましたね。 女:まあ、一流の愛され男子とまではいきませんが、かなり女性との会話にも慣れてこられたと思いますんで、次はご成婚の可能性がぐぐっとあがったんじゃないですか? : 男:……。 : 女:良かったですね。次のお見合いも頑張ってください。 : 男:(消え入るような声で)そんなのいやだ…。 : 女:(聞こえない)え? : 男:あの、千尋さん。 : 女:なんですか? : 男:あと1日だけ、講習を続けさせてください。 : 女:え?でも。 : 男:あと1日だけで良いんです!お願いします!! : 女:(戸惑う)……。 : 男:お願いします!! : 女:まあ、次回のお見合いに向けて、もう1日だけ、という事でしたら。 : 男:有難うございます!あと、 : 女:まだ何か? : 男:明日のロールプレイ講習は、僕が、そのシナリオというか設定を考えてきても良いですか? : 女:え?どうして? : 男:どうしてもなんです!1回で良いんで!お願いします! : 女:ええ、まあ、いいけど。 : 男:ほんとですか!?やった!やった!…ではまた明日!よろしくお願いしますね! : 女:はい。ちょっと四ノ宮さん!…あー、行っちゃった。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:ロールプレイ講習最終日。 0:椅子に座って四ノ宮の到着を待つ五百旗頭。 0:少し遅れて四ノ宮が部屋に入ってくる。 : : 男:すいません、お待たせしました。 : 女:遅いですよ四ノ宮さん、例えロールプレイでも男性が女性を待たすのは良くありませんよ。 : 男:ごめんなさい。ギリギリまで設定考えてたら遅くなっちゃいました。ほんと、ごめんなさい。 : 女:はい。今回だけですよ。 : 男:ありがとうございます!じゃあこれ、今日の設定です。(紙の束を渡す) : 女:あっ、はい。 : 男:じゃあ、読み始めは千尋さんからでお願いします。 : 女:え?私? : 男:そうです。じゃあ行きますよ。ヨーイ…アクション! : 女:私の名前は五百旗頭 千尋(いおきべちひろ)え?これって、私って事? : 男:そうです。続けて。 : 女:私の名前は五百旗頭 千尋、今日はフリーライターの四ノ宮 匡(しのみやたすく)さんと待ち合わせ。 女:待ち合わせ場所は、いつものファミリーレストラン。 : 男:千尋さん、お待たせしました。 : 女:(戸惑い)う、うん…。 : 男:結構待った? : 女:ううん。 : 男:そか…。 : : 0:少しの沈黙の後、男が話し始める。 : : 男:昨日からずっと、ずーっと考えてたんです。どんな場所で、なんて伝えたらいいか。 男:たくさん考えて。ここになりました。 : 女:…ファミレスに。 : 男:はい。ファミレスです。 男: 男:最初は相手に好きになってもらうには、特別な自分を見せなきゃいけないって思ってました。 男:カチッとしたデートプランに、相手を退屈させないトーク、スペシャルな立ち居振る舞いをして、最後に心を掴む最高のプレゼント。 男:ずっとそうありたいと思ってたし、そうでなきゃって思ってました。 : 女:…。 : 男:でも、ふと、気が付いたんです。あ、これ、僕じゃないなって。僕が、僕じゃない誰かを演じてるんだなって思ったんです。 男:これは大変おこがましい、仮定の話なんですけど、もし、もしですよ!こんな僕を好きになってくれる人がいたとしても、それは僕じゃない誰かを好きになってくれたって事じゃないですか。 男:それは僕にとって、本当に幸せな事なのかなって思ったんです。 : 女:それは…。 : 男:それで僕はその人を幸せにするために、いつまでも自分じゃない誰かを演じる訳じゃないですか。それって本当にその相手の人を愛する事になるのかなって、その人を幸せにできるのかなって、そう思ったんです。 : 女:…そうですか。 : 男:でね。ファミレスでいいじゃんって思ったんです。 男:僕ね、ファミレスってなんか落ち着くんです。原稿に行き詰まったりすると、フラッと立ち寄って、幸せそうな家族とか、ケンカしてるカップルとか、疲れた顔のサラリーマンとかを見ながら、ボンヤリするんです。そうすると、なんだかフワーッとリラックスして、アイデアが閃いたりするんです。 男:ここは、いつもの自分でいれて、それでなんか特別なんです。まるで千尋さんといるみたいに。 : 女:…え? : 男:昨日、千尋さんとたくさん喋って、たくさん笑ったじゃないですか。 男:僕途中から、こんなに気負わず、こんなに楽しく女性と話せたのって、いつぶりだろうって考えてたんです。っていうか初めての経験なんじゃないかなって。 : 女:…。 : 男:千尋さんと一緒にいると、僕は僕のままでいれて、なのに、とっても特別で、幸せなんです。 : 女:四ノ宮さん…。 : 男:僕なんかじゃ、千尋さんと一緒にいても、幸せにできないかもしれない。 男:でも僕は、あなたと一緒なら、必ず幸せになれる自信があります。僕が保証します。 : 女:(微笑み、少し呆れながら)ちょっと、あなただけが幸せになるの? : 男:もちろん、僕も最大限努力します!!幸せにするために!努力します!! 男:千尋さん、僕と、結婚を前提に、お付き合いして頂けませんか? : : 0:(しばらくの間) : : 女:…困った。 : 男:…困っちゃいましたか。 : 女:うん。困っちゃった。上司になんて話せばいいか…。 : 男:……。 : 女:(照れくさそうに)お客様の事、好きになってしまいましたって…。 : 男:(しばらく言葉の意味を考えて)え!?ええ!?それって!? : 女:こちらこそ、不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いします。 : 男:いやったー!!!!!! : : 0:終わり

0: : :タイトル : 【ハッピーマリッジ相談所】作・ムッチ : :登場人物 : 男: 男:(配役が決まったらここをタップしてください) 男:四ノ宮 匡(しのみやたすく) 男:32歳。職業フリーライター。最近結婚相談所に入会したが、なかなか良縁に恵まれず悪戦苦闘中。 : 女: 女:(配役が決まったらここをタップしてください) 女:五百旗頭 千尋(いおきべちひろ) 女:28歳。職業結婚アドバイザー。結婚相談所に入会した匡を結婚まで導く事に並々ならぬ使命感を抱いている。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:ファミレス。テーブルを挟んで2人の男女が座っている。 0:2人には会話はなく、なんとなくぎこちない雰囲気が漂っている。 0:沈黙を破り、男性がついに女性に話しかける。 : : 男:えっと、その、あのー : 女:はじめまして。 : 男:あ、は、はじめまして。 : 女:今日はどうぞ、宜しくお願いします。 : 男:あ、はい。宜しくお願い致します。 : : 0:気まずい沈黙 : : 男:あの、僕、こういった形でお会いするのに、あまり慣れていなくてですね、 男:…その、色々と、失礼な言動があるかもしれないんですが、どうかお許しください。 : 女:あの… : 男:(相手の言葉を遮って)はい!すみません!なんでしょう!? : 女:まずはお互い、名前を名乗りませんか? 女:その、なんてお呼びしたら良いかもわかりませんし… : 男:ああ!それは失礼しました!えっと、僕は四之宮 匡(しのみや たすく)と申します。 : 女:八重樫(やえがし)です。 : 男:八重樫さん!八重樫さんですね!八重樫さん、宜しくお願いします。 : 女:宜しくお願いします…。 : : 0:再び気まずい沈黙 : : 女:あの、ご職業は? : 男:あっ、はい!えー僕の【ご職業】はですね、フリーライターです。今は地方のミニコミ紙とかに記事を書いてます。 男:えっと、行政のイベント情報とか、近所の美味しいご飯屋さんとかの紹介が多いかな…。 : 女:(そんなにすごいと思っていない感じで)えっ、すごーい。すごいですねー。 : 男:あー、いえ、そんな!全然!まだ、ほんと駆け出しみたいなもんでして…。 : 女:ご年齢は? : 男:はい!今年で32になりました! : 女:(ボソッと)32で駆け出し… : 男:え? : 女:(取り繕って)いえ、何も。 女:美味しいご飯屋さんの記事とか、書かれてるんでしたら、良いお店とかお詳しいんじゃないですか? : 男: いやー!そうでもないですよ! 男: 取材の時以外は、ファミレスとかコンビニ弁当で済ませちゃう事の方が多いから。 : 女: それで今日もファミレスなんですね…。 : 男: ええ。このお店、すごく落ち着くんです。 男: あっ、もしかして…お気に召しませんでしたか? : 女: いえ、そう言う訳では…。 女: でも、正直言って初対面でこういうお店に連れてくる人なんだなぁとは思ってます。 : 男:え? : 女: 初めて会うんだから、私と真剣にお付き合いしたいって言う方だったら、 もう少し、その、ちゃんとしたお店に連れてきてくださると思うんですよね。 : 男:……。 : 女: そりゃ私だってファミレスくらい行きますよ。でも初デートでファミレスは絶対選びません。 : 男:…ごめんなさい。 : 女: 私、もうこの先がないってわかってて、ダラダラとお付き合いするの、嫌、なんですよね。なので今日はこれで失礼させてもらいます。今日はどうも有り難うございました。(席を立ちそのまま出て行ってしまう) : 男:あ、あの、ちょっと!ちょっと待ってください!あの…! : 女:(フゥーッと深い溜め息をついて)それで、その女性は、そのまま帰ってしまわれたと…。 : 男:…はい。 : : 0:場面は変わりそこは結婚相談所の一室。 : 0:※ここまでは、四ノ宮と八重樫という女性との間に起きた回想シーンです。 0:事の顛末を四ノ宮が結婚アドバイザーの五百旗頭に説明していました。 : : 女:四ノ宮さん。 : 男:はい。えっと、あ、お名前、まだ聞いてませんでしたね。 : 女:…五百旗頭(いおきべ)です。 : 男:五百旗頭(いおきべ)さん…めちゃくちゃ珍しいお名前ですねー!漢字はどんな漢字書くんですか? : 女:(遮って)四ノ宮さんは、ウチに、「ハッピーマリッジ相談所」にご入会なさってどれくらい経ちましたか? : 男:2ヶ月…くらいかな? : 女:実際に女性とお会いするのは、 : 男:今回が初めてです。 : 女:では、四ノ宮さんは今回、どういったところが良くなかったと考えてらっしゃいますか? : 男:ファミレス…ですか? : 女:そうです!お店選びです! : 男:えー、でも、ファミレス、美味しいものたくさんありますよ。 和洋中、どんな気分の時でも大丈夫だし… : 女:いや、そういう事じゃあないんですよ。 女:例えば、あなたが女性だったとして、初対面の人が洗濯し過ぎてテロンテロンになった、学校ジャージを着て来たらどう思いますか? : 男:ああ、ジャージ好きな人なんだなって思います。 : 女:他には? : 男:物持ちのいい人だなって、 : 女:ワザと、正解を外そうとして答えてませんか? : 男:(真顔で)えっ、この質問って正解あるんですか? : 女:(深い溜め息)初めてのデートの待ち合わせで、ファミレスは厳禁です。 女:お互いリラックスして話せるような、お洒落なカフェを選ぶのがセオリーです。 : 男:はあ…。(よく分かってない) : 女:四ノ宮さん、 ハッキリ申し上げて、今のままではあなたは、何度女性と会われたとしても、ご成婚まで辿り着く事は決してありません! : 男:そんな… : 女:しかしながら、私たちハッピーマリッジ相談所は、あなたを決して見放すことはありません。 女:これからしばらくの間あなたには、ここで講習を受けて頂きます。 : 男:え!…講習、ですか!? : 女:そうです!私、五百旗頭 千尋(いおきべ ちひろ)考案のイオキベ・メソッドで、あなたを一流の愛され男子に生まれ変わらせてみせます! : 男:ええー!!そんなー!! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 女:それでは今日は、講習第1回目ということで。 : 男:よろしくお願いします。 : 女:本講習はロールプレイの形式で進めさせて頂きます。 : 男:ロールプレイ?あの、ロールプレイングゲームとかのロールプレイですか? : 女:そうです。ロール、つまり役割を、プレイ、演じるからロールプレイ、営業や接客業の研修とかだと、割と普通にあるんですよ。 : 男:はあ… : 女:四ノ宮さんには、ロールプレイを通して、様々なタイプの女性に応える事が出来る、最高の男性へと成長してもらいますんで。 : 男:あ、あの、質問いいですか? : 女:どうぞ。 : 男:要するに、僕はここで色んなタイプの女性と擬似デートをして、そこから経験を積む訳ですよね? : 女:はい、そうです。 : 男:あの、色んなタイプの女性というのは、どこにいらっしゃるんでしょうか? : 女:私です。 : 男:え? : 女:私が様々なタイプの女性という、ロールを演じます。 : 男:え?五百旗頭(いおきべ)さんが、ですか? : 女:そうです。 : 男:はあ…(少し考えて)…え? : 女:え? : 男:あー、えっと、(また少し考えて)え? : 女:はい? : 男:(ようやく状況を理解して)ええーー!? : 女:四ノ宮さん!! : 男:は、はい! : 女:幸せな結婚を望まれて、わがハッピーマリッジ相談所にご入会された訳ですよね!? : 男:はい!もちろんです! : 女:だったらつべこべ言わずにやる! : 男:はっ、はい! : 女:(紙の束を渡して)はい、これ今日の設定です! : 男:えー!今日の設定って何ですか!? : 女:はいよーい!…アクション!! : 男:(書かれた設定を読み上げる)俺の名前は四ノ宮 匡(しのみや たすく)。 男:今日は待ちに待った、えっと、三千院 静香(さんぜんいん しずか)さんとのカフェデート。 男:静香さんは黒髪ロングが似合う、清楚なお嬢様なのだ…。 : 女:(口で言う)カランカランコローン。 女:お待たせしてしまってごめんなさい。 女:匡さん、でしたね。初めまして、三千院 静香と申します。 : 男:あ…。(呆気にとられている) : 女:(早く設定に入りなさい、という威圧的な素振りで)初めまして、三千院 静香と申します。 : 男:あーどうも!初めまして!静香さん! 男:四ノ宮 匡と申します! : 女:ごきげんよう。よろしくどうぞ。 : 男:えっと、 とりあえず何か注文しましょうか?メニューどうぞ。 : 女:有り難うございます。(メニューを見ながら)えっと、私はフレーバーティーを頂きます。 女:今日は…じゃあキャトルフリュイルージュにしようかな。 : 男:はっ、はい! 男:(店員を呼ぶ)あのー!すみません! 男:えっと、ブレンドと、えーとそのー、フレーバーティーの(メニューを指差して)この、キャトルミューテーションをください! : 女:キャトル フリュイ ルージュです。 : 男:はい!それを頂きます! : 0:(少しの間) : 男:あ、あの!今日はお忙しい中、会ってくださって有り難うございます! : 女:いえ、そんな、 : 男:女性とこうやって2人きりでお話しする事ってあんまりないんで、すごく緊張しちゃうんですけど、今日はなんとかいけそうな気がしてます。 : 女:フフ、なら良かったです。 : 0:(ほんの少しだけ良い雰囲気) : 女:四ノ宮さんのご趣味は何なんですか? : 男:あー、趣味ですか。わりと僕、無趣味な方かもしれないんですけど、強いて言えば…… 男:【声当て】ですかね。 : 女:…声当て? : 男:そうです。アニメとかテレビのCMとか、あと洋画の吹き替えとかの声を聞いて、声優さんが誰かを当てるんです。これ、意外と楽しいんですよ~! 男: 男:もう僕レベルになると2、3秒、いやセリフを一言聞いただけで誰かわかっちゃうんですから! 男: 男:母親からはあんたの耳は絶対音感ならぬ、ダメ絶対音感だね!って言われてるんですよ~!あははははは! 男: 男:(だんだんとテンションが上がり、饒舌になる)最近だと声優さんだけじゃなくて芸能人が声の仕事をするパターンもあるじゃないですか? 男:だからだんだん俳優とか芸人さんにも詳しくなってきちゃったんですよね~! 男: 男:ところで静香さんは、芸能人が声優の仕事をする事については、賛成派ですか?それとも反対派?これは永遠のテーマですよねー! 男: 男:そもそもこのテーマについて語るなら、宮崎作品は避けて通れないと思うんですけど、 男:一説によると監督はアニメーション技術の進歩に伴って、元来の声優のケレン味(けれんみ)のある演技と、現在のアニメーションのリアリティ溢れる表現とが乖離(かいり)していると感じ始めたのがきっかけだと言われて…… : 女:(四ノ宮の言葉を遮って)はい、カーット! : 男:え? : 女:(五百旗頭に戻って)四ノ宮さん、なんなんですかその話題は!? 女:いくらなんでも初対面の女性にいきなりその話題はハードルが高すぎます!! 女:もうちょっと、こう、女性が興味をそそられるような、キャッチーな話題はないんですか? : 男:そんな~!女性が興味をそそられる話題だなんて、僕にそんな引き出しありませんよ~! : 女:ないなら作るんです! : 男:そんな~! 男:いや、それを言ったら五百旗頭(いおきべ)さんこそ、なんなんですか!三千院静香(さんぜんいん)って!清楚なお嬢様で三千院って!いやネーミング!! : 女:ぐぬぬぬ… : 男:(ハッと気付いて)あっ、言い過ぎました。…ごめんなさい。 : 女:じゃあ、今日はここまでにしましょう。明日また同じ時間にロールプレイ講習を再開します。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:ロールプレイ講習2日目。 0:テーブルを挟んで対峙する2人。 : : 女:四ノ宮さん、あれから私、一晩考えました。 : 男:はあ。 : 女:四ノ宮さんに足らないものが何か。 : 男:えっ、僕に足らないものですか? : 女:四ノ宮さんに足らないもの、それはズバリ【陽キャ】です。 : 男:はい? : 女:陽キャ、つまり陽気なキャラクターの事で、陽気な性格の人を意味する俗語です。 : 男:いや、それはさすがにわかります。 : 女:今日は四ノ宮さんに陽キャについて学んで頂くために新しいカリキュラムをご用意しました。 : 男:新しいカリキュラム、なんか嫌な予感しかしないんですけど…。 : 女:(紙の束を渡す)はい、これが今日の設定です。 : 男:あ、はい。えーっと、(書かれた設定を読み上げる)俺の名前は四ノ宮 匡(しのみや たすく) 男:今日はひょんな事から仲良くなったギャルでパリピの一 星羅(にのまえ せいら)ちゃんとの初デート。 男:え、という事は…当然ギャルの星羅ちゃんっていうのは…。 : 女:もちろん、私です。 : 男:やっぱり…。 : 女:それじゃあいきますよ~!ヨーイ…アクション! : 男:どうも星羅さん、四ノ宮 匡と申します。今日はお時間作って頂いて有難うござ… : 女:(急にハイテンションで)ウェーイ!シノミーおつ~!ボーン! : 男:え、シノミー?シノミーって…。 : 女:ボーン! : 男:あー、はい。ボーン。 男:…ボーン?ボーンって何?骨的な何かですか? : 女:ボーンっつたらボーンっしょ。ボンジョルノのボーン。 : 男:えーと、こんにちは、みたいな事?だけどなんでイタリア語? : 女:ちょっと、シノミーマジ細かいンゴ。そんなのいちいち意味考えてたら、会話のテンポがガッタガタになって最&低じゃん。 女:(ここだけ発音良く)ドンシンクフィール!イェア! : 男:あー!はい!ドントシンクフィールですね。…え?どゆこと? : 女:だからシノミー、意味考えんなンゴ!定期! : 男:あ、そうだった。あは!あはあは! : 女:ちゃけばバイヴスあげてこーよ!まじ卍! : 男:は!はいっ!マジ卍! 男:(無理やりハイテンションで)チョベリバ!チョモロハ!チョベリガンブロン!! 男:(短時間ですごく疲れて)ハァ……。 : 女:んでさ、今日はシノミーはどこ連れってってくれんの?ちゃんとキュンキュンするプラン組んできたンゴ? : 男:あっはい!勿論です!今日は星羅さんとドライブデートなんて、いかがかなと思いまして。 : 女:そマ?シノミーそマ?シノミーわかってんじゃん!わかりみ深いじゃん!わかりみマリアナ海溝じゃん! : 男:ほんとですか?わかりみマリアナ海溝でした?やった! : 女:(テンションあがって)シノミーよき!よきのよき!よきよきのよき!ワカッティング!!生類(しょうるい)わかりみの令すぎて尊み秀吉(とうとみひでよし)~!! : 男:……。 : 女:…なに? : 男:なんか無理やり詰め込んでないかなと思って、ギャル語。あとちょいちょい古いのが混ざってるような…。 : 女:ちょおま、いきなりメタ発言ぶっこんでくんなし!さっさといくぞ!ドライブんご! : 男:は、はい!ではまいりましょう!(口で言う)ブーン… : 女:シノミーなんか超渋滞してきたんだけど! : 男:えっ? : 女:ねえ、渋滞つらたんなんだけど!シノミーなんか盛り上げてよ! : 男:ええ~!無茶ぶりだなあ~。ああでも昨日は趣味を聞かれて失敗しちゃったからな。ここは慎重に考えて話題をふらないと…。 男:えーっと、星羅さんは、好きな食べ物はなんですか? : 女:え?ウチ?バーグ。 : 男:バーグ? : 女:そ。バーグ。バーグほんとすこ。 : 男:そ、それはもしかして、ハンバーグ的な事ですか? : 女:正解ンゴ。 : 男:うし!だんだん分かるようになってきたかも! : 女:あとね、どちゃくそすこなのはTKG。 : 男:あ!それはわかります!卵かけご飯だ! : 女:違うよシノミー!正解は炊き込みご飯でしたー。 : 男:クー!惜しい!そっちか!そっちのTKGか! : 女:それとMMGも好きかな。 : 男:駄目だ全然わかんないや…。 : 女:残念、MMG、豆ご飯でした~!じゃあKRGはわかる? : 男:え?それもう海外のスパイ組織じゃん! : 女:KRGは栗ご飯でした~! 女:ちょっとシノミー超ウケんだけど、超レシーブなんだけど!! : 男:ちょっと待って!こんなギャル語ほんとにあんの?ってかこんなのただの まぜご飯大喜利だよ!! 男:もう限界!カット!カット!カットー!五百旗頭(いおきべ)さん、もう無理!ギブ!ギブです!! : 女:(五百旗頭にもどる)ちょっと、シノミー…じゃなかった四ノ宮さん!ロールプレイを途中で止めるなんてルール違反ですよ! : 男:あの、五百旗頭さん、前回の講習からうっすらと気になってたんですけど、 : 女:はい。 : 男:これでほんとに、僕は理想の男性に近付けてるんですか? 男:様々なタイプの女性に応える事が出来るようになってるんですか!? : 女:当然です。四ノ宮さんはまだロールプレイ講習を始められたばかりなので、効果を実感できていないだけです! : 男:あと、ちょっと、これはその、少し言いにくいんですけど、設定というかシナリオが荒くないですか!? : 女:なんですって! : 男:あの、ライターの端くれとして申し述べさせて頂きますと、ちょっと設定に無理があるというか、かなり荒唐無稽(こうとうむけい)というか…。 : 女:四ノ宮さんの感情を引き出すために、わざと現実から少し離れた設定にしてしてるんじゃないですか!? : 男:いや、それにしても、もうちょっとあるんじゃないですか? 男:相手の女性に好意を持ってもらう前に、まず僕が感情移入できないですよ、これじゃあ…。 : 女:わ、わたしだって頑張って書いてるんです!昨日だってこの設定考えるのにギャル語辞典片手に睡眠時間削って頑張ったのに!! 女:(次第に感情的になって)そんなに言うなら、あなたが書いてみたらいいじゃないですか! : 男:わかりました!じゃあ明日までにお互い、感情移入出来て、ちゃんと恋愛のレッスンになるようなシナリオを作ってきましょう!五百旗頭さん!僕と勝負です! : 女:望むところよ! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:ロールプレイ講習3日目。 0:机を挟んで対峙する2人。 0:2人は既にロールプレイの最中である。 : : 男:(モノローグ)俺の名はシノミック・フォン・ノイエンタール。元・王宮騎士団の騎士団長だ。 男:3万年の眠りから目覚めた悪逆非道(あくぎゃくひどう)の魔王を倒し、さらわれた王女を救うため、冒険の旅を続けている。 男: 男:ババーン!出たな!魔王率いる暗黒四天王の一人、暗黒宰相(あんこくさいしょう)デスゴルゴン!今日こそはこの神剣スーパーファルシオンソードでお前を倒す! : 女:(ノリノリで)ほざけ!かよわき人間よ!うぬに妾(わらは)は斬れぬ。 女:妾を斬らばこの身体の宿主(やどぬし)であるチヒロ王女の命も尽きる事、うぬも知っておろう…。 : 男:フッ…。 : 女:何がおかしい? : 男:フッフッフ。ハーッハッハ!語るに落ちたりデスゴルゴン! 男:俺が王女の身体に巣食う貴様の穢れた(けがれた)魂だけを斬り払う方法を知らないとでも思ったのか!? 男:いくぞ!(必殺技っぽく叫ぶ)スターライト!エクスプロージョンッ!! : 女:グ、グワァアアアアァァ!!!ま、魔王様、バン……ザ…イ。(魔瘴とともに崩れ去る) : 男:やったか!? : 女:(目を覚まして)う…うう……。ここは、一体…。 : 男:ハッ…王女が長い眠りから目覚められたのか…!? 男:王女!ご無事ですか王女!? : 女:あなたは… : 男:シノミック・フォン・ノイエンタール。元・王宮騎士団長です…。 : 女:そして今は、私だけのナイトという訳ですね。 : 男:(少し戸惑いながら)王女…。 : 女:シノミック・フォン・ノイエンタールに命じます。 : 男:ハッ。 : 女:(微笑んで)まず、王女はやめてください。そして次に私とディナーをご一緒してくださるかしら? : 男:かしこまりました、王女。(ハッと気付く) : 女:(とても愛らしく)こら。たった今約束したばかりでしょう? : 男:失礼しました。では、何とお呼びすれば良いので? : 女:(少し考えて)…チヒロと呼んでくだるかしら? : 男:承知した。チヒロ。 : 女:(モノローグ)そして二人は馬車に乗り、美しい湖のほとりのレストランで、ジャズの生演奏を聴きながら、イタリアンのコースを楽しみました。 女: 女:シノミック、美しい景色に、素敵な音楽、そしてとっても美味しい食事。すごく素敵な夜よ。 : 男:チヒロ、実は今日、君に渡したい物があるんだ。 : 女:…素敵。でも今日は何の記念日でもないのに一体どういう風の吹き回し? : 男:(ボーイを呼ぶ)おーい!例の物を持ってきてくれ! 男:(とても重そうなプレゼントを持って)ヨイショっと…チヒロ、僕からのプレゼント…受け取ってくれるかい? : 女:わあ!ありがとう!(受け取って)お、重っ! 女:…開けてもいいかな? : 男:勿論。 : 女:(箱を開けて)えっ、何これ?これってもしかして… : 男:ハッハッハ…それはね、ボウリングのマイボウルだよ。ホラ、箱から出して持ってごらん? : 女:お、重い。すごく重いね…。 : 男:そりゃそうさ。16ポンドだからね。16ポンドは7.26キログラム、ちょうど砲丸投げの一般男子の公式球と同じ重さなんだ。 : 女:そ、そうなんだ…。 : 男:ねえ、早速チヒロのフォームをチェックしたいからさ、ちょっとそのボウル持って、構えてみてよ? : 女:う、うん。 女:…あ、あれ?このボウリングの球、指を入れる穴のところに何か入ってるよ。指に何か引っ掛かってるもん。 : 男:(微笑んで)ふふ…。ゆっくり、ボウルから指を抜いてごらん? : 女:えっ?うん…。(驚いて)あっ!薬指に!指輪が! : 男:チヒロ、愛してる。(キメ台詞)君と同じ人生のレーンを歩めるなら、もうガターなんて怖くない。 : 女:素敵…。私の心の1番ピンは、もう既にあなたの物よ。 : : 0:(長い沈黙) : : 女:はい!カーット! : 男:(同時に大笑いする) 女:(同時に大笑いする) : : 0:リラックスして笑いあう二人。 : : 男:いや~!盛り上がりましたね~! : 女:ほんと!面白かった~! 女:それにしても四ノ宮(しのみや)さん、騎士と王女って設定、いくらなんでもトンデモ過ぎません? : 男:そういう千尋(ちひろ)さんこそ、なんなんですか!マイボウルの穴に指輪って!もう途中から笑い堪えるので必死でしたよ~! : 女:しかもこれ、2人の設定をつなぎ合わせたら、さらにめちゃくちゃになりましたね! : 男:ブハハ!もうやめて!お腹痛い! : 女:ファンタジーの世界に、ジャズが聴けるイタリアンのお店なんてないから! : 男:(吹き出して)ブフー!千尋さん、もうマジで無理だから笑わせんのやめて! : 女:はあ~!楽しかった! : 男:僕も!こんなに笑ったの久しぶりかも! : 女:私も! : : 0:またクスクスと笑い合った後、やがて静まる二人。ゆっくりと五百旗頭が話し始める。 : : 女:…四ノ宮さん、実は四ノ宮さんの次のお見合いの日取りが決まりまして。 : 男:え? : 女:なので、ロールプレイ講習はこれで一旦終了という事になりました。 : 男:え…そんな。 : 女:3日間、大変お疲れ様でした。よく頑張りましたね。 女:まあ、一流の愛され男子とまではいきませんが、かなり女性との会話にも慣れてこられたと思いますんで、次はご成婚の可能性がぐぐっとあがったんじゃないですか? : 男:……。 : 女:良かったですね。次のお見合いも頑張ってください。 : 男:(消え入るような声で)そんなのいやだ…。 : 女:(聞こえない)え? : 男:あの、千尋さん。 : 女:なんですか? : 男:あと1日だけ、講習を続けさせてください。 : 女:え?でも。 : 男:あと1日だけで良いんです!お願いします!! : 女:(戸惑う)……。 : 男:お願いします!! : 女:まあ、次回のお見合いに向けて、もう1日だけ、という事でしたら。 : 男:有難うございます!あと、 : 女:まだ何か? : 男:明日のロールプレイ講習は、僕が、そのシナリオというか設定を考えてきても良いですか? : 女:え?どうして? : 男:どうしてもなんです!1回で良いんで!お願いします! : 女:ええ、まあ、いいけど。 : 男:ほんとですか!?やった!やった!…ではまた明日!よろしくお願いしますね! : 女:はい。ちょっと四ノ宮さん!…あー、行っちゃった。 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:ロールプレイ講習最終日。 0:椅子に座って四ノ宮の到着を待つ五百旗頭。 0:少し遅れて四ノ宮が部屋に入ってくる。 : : 男:すいません、お待たせしました。 : 女:遅いですよ四ノ宮さん、例えロールプレイでも男性が女性を待たすのは良くありませんよ。 : 男:ごめんなさい。ギリギリまで設定考えてたら遅くなっちゃいました。ほんと、ごめんなさい。 : 女:はい。今回だけですよ。 : 男:ありがとうございます!じゃあこれ、今日の設定です。(紙の束を渡す) : 女:あっ、はい。 : 男:じゃあ、読み始めは千尋さんからでお願いします。 : 女:え?私? : 男:そうです。じゃあ行きますよ。ヨーイ…アクション! : 女:私の名前は五百旗頭 千尋(いおきべちひろ)え?これって、私って事? : 男:そうです。続けて。 : 女:私の名前は五百旗頭 千尋、今日はフリーライターの四ノ宮 匡(しのみやたすく)さんと待ち合わせ。 女:待ち合わせ場所は、いつものファミリーレストラン。 : 男:千尋さん、お待たせしました。 : 女:(戸惑い)う、うん…。 : 男:結構待った? : 女:ううん。 : 男:そか…。 : : 0:少しの沈黙の後、男が話し始める。 : : 男:昨日からずっと、ずーっと考えてたんです。どんな場所で、なんて伝えたらいいか。 男:たくさん考えて。ここになりました。 : 女:…ファミレスに。 : 男:はい。ファミレスです。 男: 男:最初は相手に好きになってもらうには、特別な自分を見せなきゃいけないって思ってました。 男:カチッとしたデートプランに、相手を退屈させないトーク、スペシャルな立ち居振る舞いをして、最後に心を掴む最高のプレゼント。 男:ずっとそうありたいと思ってたし、そうでなきゃって思ってました。 : 女:…。 : 男:でも、ふと、気が付いたんです。あ、これ、僕じゃないなって。僕が、僕じゃない誰かを演じてるんだなって思ったんです。 男:これは大変おこがましい、仮定の話なんですけど、もし、もしですよ!こんな僕を好きになってくれる人がいたとしても、それは僕じゃない誰かを好きになってくれたって事じゃないですか。 男:それは僕にとって、本当に幸せな事なのかなって思ったんです。 : 女:それは…。 : 男:それで僕はその人を幸せにするために、いつまでも自分じゃない誰かを演じる訳じゃないですか。それって本当にその相手の人を愛する事になるのかなって、その人を幸せにできるのかなって、そう思ったんです。 : 女:…そうですか。 : 男:でね。ファミレスでいいじゃんって思ったんです。 男:僕ね、ファミレスってなんか落ち着くんです。原稿に行き詰まったりすると、フラッと立ち寄って、幸せそうな家族とか、ケンカしてるカップルとか、疲れた顔のサラリーマンとかを見ながら、ボンヤリするんです。そうすると、なんだかフワーッとリラックスして、アイデアが閃いたりするんです。 男:ここは、いつもの自分でいれて、それでなんか特別なんです。まるで千尋さんといるみたいに。 : 女:…え? : 男:昨日、千尋さんとたくさん喋って、たくさん笑ったじゃないですか。 男:僕途中から、こんなに気負わず、こんなに楽しく女性と話せたのって、いつぶりだろうって考えてたんです。っていうか初めての経験なんじゃないかなって。 : 女:…。 : 男:千尋さんと一緒にいると、僕は僕のままでいれて、なのに、とっても特別で、幸せなんです。 : 女:四ノ宮さん…。 : 男:僕なんかじゃ、千尋さんと一緒にいても、幸せにできないかもしれない。 男:でも僕は、あなたと一緒なら、必ず幸せになれる自信があります。僕が保証します。 : 女:(微笑み、少し呆れながら)ちょっと、あなただけが幸せになるの? : 男:もちろん、僕も最大限努力します!!幸せにするために!努力します!! 男:千尋さん、僕と、結婚を前提に、お付き合いして頂けませんか? : : 0:(しばらくの間) : : 女:…困った。 : 男:…困っちゃいましたか。 : 女:うん。困っちゃった。上司になんて話せばいいか…。 : 男:……。 : 女:(照れくさそうに)お客様の事、好きになってしまいましたって…。 : 男:(しばらく言葉の意味を考えて)え!?ええ!?それって!? : 女:こちらこそ、不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いします。 : 男:いやったー!!!!!! : : 0:終わり