台本概要

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タイトル 孤高の剣
作者名 Oroるん  (@Oro90644720)
ジャンル 時代劇
演者人数 1人用台本(男1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 時代考証甘めです

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
61 剣豪
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
俺:俺は一人で生きてきた。今までも、そしてこれからも。 俺:俺以外は・・・弱すぎる。 俺:俺は武士の家系に生まれた。それほど大きな家ではなかったが、祖父は数多(あまた)の戦場(いくさば)を駆けた、それなりの武人だったらしい。物心ついた頃には亡くなっていたが。 俺:父は、結局祖父の武功のおかげで、主君に仕えていただけだ。それは父自身もよく分かっていたようで、いつもどこか卑屈だった。 俺:俺は、そんな父が嫌いだった。 俺:最初の師は、そんな父だった。厳しい修練(しゅうれん)を受けた。厳しすぎるほどに・・・ 俺:「どうした!?こんな簡単な事もできんのか!?」よく怒鳴られた。よくぶたれた。骨を折るくらいの怪我はしょっちゅうだった。死にかけた事だって何度もある。 俺:「俺がお前に授けて(さずけて)やれるのは、武芸だけだ。我らは武門の一族。武芸に長けて(たけて)いれば、きっと立身の機会に恵まれる」というのが、酒に酔った父の口癖だった。 俺:実際の所、乱世は終わりを迎えようとしていた。戦の数は時を追うごとに減ってきている。ましてや、鉄砲の登場以来、武芸が戦場(いくさば)で活躍することなど、出来無くなっていたのだ。 俺:武芸の腕前だけで出世ができる世ではないのに、父はそれを分かっていない、いや、それを認める事ができなかった。 俺:・・・そもそも、父はそんな大した武芸者ではなかったのだが。 俺:十三を過ぎた頃、初めて父を打ち負かした。本当はもっと前にできたのだが、そこは子供らしく、気を遣ってやったのだ。 俺:驚いた顔で俺を見上げる父の姿は、とてもちっぽけで、とても滑稽(こっけい)だった。 俺:・・・胸のすく思いがした。 俺:十四になって、武者修行の旅に出た。様々な武芸者と立ち会ったが、誰一人俺に勝てなかった。 俺:父は、何でこんなものにこだわっていたのか。こんな簡単なものに・・・ 俺:皆弱すぎる。つまらない・・・ 俺:江戸に出て、ようやく俺より強い武芸者に出逢えた。相手は有名な剣豪で、手も足も出なかった。 俺:不思議な事に・・・嬉しかった。敗けた事が、嬉しかった。 俺:俺はその剣豪に弟子入りした。父以外の人から教わる武芸は新鮮で、楽しかった。 俺:しかし、五年もすると・・・飽きた。 俺:俺は師に、暇乞い(いとまごい)をした。「もう、あなたから教わることは何もありません」と言ってやった。 俺:師は怒った。そして俺に木刀を向けた。俺は勝負に応じ、木刀を構える。師の渾身の一撃を、俺はあっさり受け止めた。 俺:俺は師を打ち倒した。師が言う。「いま一度!」俺はそれを承諾する。そしてまた、打ち倒す。 俺:師は驚いた顔で俺を見上げた。かつての、父のように・・・ 俺:五年前は手も足も出なかった相手を、俺はとっくに超えていた。師は、俺の暇乞いを認め、流派の極意を授けた。 俺:この人も同じか。やはり、つまらない。 俺:その後も、俺は武者修行を続けた。俺の剣名はいよいよ高まり、立ち会いの相手を探すのにも苦労するようになった。その代わり、姑息な手段を用いて俺の命を狙う輩(やから)が増えた。 俺:ある夜、俺が妾(めかけ)と床(とこ)についていると、突然剣を手にした男共が押し入ってきた。俺は迎え撃とうとした・・・が、俺の剣が見当たらない。共に寝ていたはずの妾が、持ち去っていた。 俺:妾は連中と密かに通じていた、ということだ。男女の情愛(じょうあい)など、所詮こんなものか。 俺:剣を手にした武芸者多数に対し、丸腰の俺一人。この時は流石に肝が冷えた。敵の斬撃を必死でかわし、捌く(さばく)。無我夢中だった。 俺:敵は俺に斬撃が一向に届かないことに焦り、疲れが出ていた。俺はその隙をつき、連中の一人から剣を奪う。一人、また一人と斬っていった。 俺:最終的には俺を裏切った妾を含め、皆殺しにしてやった。 俺:こんな方法で俺に勝っても、何の意味があるというのか。まして、それで敗けてしまっては世話はない。 俺:そのうち、様々な大名から召し抱えたいとの申し出を受けるようになった。戦の世が終わろとしている時に、武芸しか能の無い俺を飼ってどうするのか。見せ物にでもするつもりか?まあ、全て断ったので関係ないが。 俺:父は、武芸は出世の手段だと言った。俺にとって、武芸は・・・剣とは何だ? 俺:分からなくなった。 俺:俺は柄(がら)にも無いことをしようと、神社に籠り(こもり)、瞑想(めいそう)を始めた。断食(だんじき)もやってみた。何日も何日も、それを繰り返す。「答え」を求めて。 俺:そして、長きに渡る瞑想を終え、俺に残ったものは・・・空腹と徒労感だけだった。 俺:俺は失意の中、篭って(こもって)いた社(やしろ)から這い出た。辺りは夜陰(やいん)に包まれている。月明かりすらない、ただの暗闇。 俺:俺は空腹と不眠によって意識を朦朧(もうろう)とさせながら、境内(けいだい)を歩く。 俺:結局、何の天啓(てんけい)も得られなかった。これ以上修行を続けても、これ以上強くなっても、何か意味はあるのか・・・ 俺:潮時(しおどき)か、と思った。こうなってはもう、剣を置くほかないのか。しかし、剣を捨てて、俺にどうやって生きていけと言うのだ? 俺:生まれて初めて、目に涙が溢れた。俺は本当は強いのかどうか、分からなくなった。 俺:ふと見ると、俺の前に影が立っていた。俺は目を凝らす。その影の容姿が段々はっきりとしてくる。その影は・・・俺と同じ顔をしていた。 俺:? 俺:ふと右手を見ると、剣を握っていた。いつの間に抜いたのか。そして、影が消えた。辺りは静寂に包まれた。 俺:・・・何だ今のは?意識が混濁(こんだく)しているせいで、幻でも見たのか・・・ 俺:俺は剣を鞘に納めると、また歩き出した。 俺:翌朝、俺は昨日の影が気になり、神社に戻っていた。 俺:影と出くわした場所に行ってみると・・・一人の男が胸から血を流し、倒れていた。男は既に事切れている。その手には剣が握られていた。 俺:恐らくは、暗闇に紛れて俺を討ち取ろうとした武芸者だろう。 俺:無意識の内に斬り殺したのか? 俺:(最初は漏れ出すような感じで、次第に大きくなっていく笑い声) 俺:面白い!面白いじゃないか! 俺:俺は剣を捨てなかった。俺に並ぶような強き者にはまだ出会えない。しかし、諦めはしない。出会えなければ、自分で創れば(つくれば)良いだけの話だ。 俺:この道には、まだ「先」がある。きっと辿り着いてみせる、道の果てまで。 0:そして・・・ 0:彼は出逢う・・・ 俺:何だコイツは? 俺:・・・もしかしたら、コイツが? 俺:・・・面白い。 俺:「ついてこい。俺が飼ってやる」 0:完

俺:俺は一人で生きてきた。今までも、そしてこれからも。 俺:俺以外は・・・弱すぎる。 俺:俺は武士の家系に生まれた。それほど大きな家ではなかったが、祖父は数多(あまた)の戦場(いくさば)を駆けた、それなりの武人だったらしい。物心ついた頃には亡くなっていたが。 俺:父は、結局祖父の武功のおかげで、主君に仕えていただけだ。それは父自身もよく分かっていたようで、いつもどこか卑屈だった。 俺:俺は、そんな父が嫌いだった。 俺:最初の師は、そんな父だった。厳しい修練(しゅうれん)を受けた。厳しすぎるほどに・・・ 俺:「どうした!?こんな簡単な事もできんのか!?」よく怒鳴られた。よくぶたれた。骨を折るくらいの怪我はしょっちゅうだった。死にかけた事だって何度もある。 俺:「俺がお前に授けて(さずけて)やれるのは、武芸だけだ。我らは武門の一族。武芸に長けて(たけて)いれば、きっと立身の機会に恵まれる」というのが、酒に酔った父の口癖だった。 俺:実際の所、乱世は終わりを迎えようとしていた。戦の数は時を追うごとに減ってきている。ましてや、鉄砲の登場以来、武芸が戦場(いくさば)で活躍することなど、出来無くなっていたのだ。 俺:武芸の腕前だけで出世ができる世ではないのに、父はそれを分かっていない、いや、それを認める事ができなかった。 俺:・・・そもそも、父はそんな大した武芸者ではなかったのだが。 俺:十三を過ぎた頃、初めて父を打ち負かした。本当はもっと前にできたのだが、そこは子供らしく、気を遣ってやったのだ。 俺:驚いた顔で俺を見上げる父の姿は、とてもちっぽけで、とても滑稽(こっけい)だった。 俺:・・・胸のすく思いがした。 俺:十四になって、武者修行の旅に出た。様々な武芸者と立ち会ったが、誰一人俺に勝てなかった。 俺:父は、何でこんなものにこだわっていたのか。こんな簡単なものに・・・ 俺:皆弱すぎる。つまらない・・・ 俺:江戸に出て、ようやく俺より強い武芸者に出逢えた。相手は有名な剣豪で、手も足も出なかった。 俺:不思議な事に・・・嬉しかった。敗けた事が、嬉しかった。 俺:俺はその剣豪に弟子入りした。父以外の人から教わる武芸は新鮮で、楽しかった。 俺:しかし、五年もすると・・・飽きた。 俺:俺は師に、暇乞い(いとまごい)をした。「もう、あなたから教わることは何もありません」と言ってやった。 俺:師は怒った。そして俺に木刀を向けた。俺は勝負に応じ、木刀を構える。師の渾身の一撃を、俺はあっさり受け止めた。 俺:俺は師を打ち倒した。師が言う。「いま一度!」俺はそれを承諾する。そしてまた、打ち倒す。 俺:師は驚いた顔で俺を見上げた。かつての、父のように・・・ 俺:五年前は手も足も出なかった相手を、俺はとっくに超えていた。師は、俺の暇乞いを認め、流派の極意を授けた。 俺:この人も同じか。やはり、つまらない。 俺:その後も、俺は武者修行を続けた。俺の剣名はいよいよ高まり、立ち会いの相手を探すのにも苦労するようになった。その代わり、姑息な手段を用いて俺の命を狙う輩(やから)が増えた。 俺:ある夜、俺が妾(めかけ)と床(とこ)についていると、突然剣を手にした男共が押し入ってきた。俺は迎え撃とうとした・・・が、俺の剣が見当たらない。共に寝ていたはずの妾が、持ち去っていた。 俺:妾は連中と密かに通じていた、ということだ。男女の情愛(じょうあい)など、所詮こんなものか。 俺:剣を手にした武芸者多数に対し、丸腰の俺一人。この時は流石に肝が冷えた。敵の斬撃を必死でかわし、捌く(さばく)。無我夢中だった。 俺:敵は俺に斬撃が一向に届かないことに焦り、疲れが出ていた。俺はその隙をつき、連中の一人から剣を奪う。一人、また一人と斬っていった。 俺:最終的には俺を裏切った妾を含め、皆殺しにしてやった。 俺:こんな方法で俺に勝っても、何の意味があるというのか。まして、それで敗けてしまっては世話はない。 俺:そのうち、様々な大名から召し抱えたいとの申し出を受けるようになった。戦の世が終わろとしている時に、武芸しか能の無い俺を飼ってどうするのか。見せ物にでもするつもりか?まあ、全て断ったので関係ないが。 俺:父は、武芸は出世の手段だと言った。俺にとって、武芸は・・・剣とは何だ? 俺:分からなくなった。 俺:俺は柄(がら)にも無いことをしようと、神社に籠り(こもり)、瞑想(めいそう)を始めた。断食(だんじき)もやってみた。何日も何日も、それを繰り返す。「答え」を求めて。 俺:そして、長きに渡る瞑想を終え、俺に残ったものは・・・空腹と徒労感だけだった。 俺:俺は失意の中、篭って(こもって)いた社(やしろ)から這い出た。辺りは夜陰(やいん)に包まれている。月明かりすらない、ただの暗闇。 俺:俺は空腹と不眠によって意識を朦朧(もうろう)とさせながら、境内(けいだい)を歩く。 俺:結局、何の天啓(てんけい)も得られなかった。これ以上修行を続けても、これ以上強くなっても、何か意味はあるのか・・・ 俺:潮時(しおどき)か、と思った。こうなってはもう、剣を置くほかないのか。しかし、剣を捨てて、俺にどうやって生きていけと言うのだ? 俺:生まれて初めて、目に涙が溢れた。俺は本当は強いのかどうか、分からなくなった。 俺:ふと見ると、俺の前に影が立っていた。俺は目を凝らす。その影の容姿が段々はっきりとしてくる。その影は・・・俺と同じ顔をしていた。 俺:? 俺:ふと右手を見ると、剣を握っていた。いつの間に抜いたのか。そして、影が消えた。辺りは静寂に包まれた。 俺:・・・何だ今のは?意識が混濁(こんだく)しているせいで、幻でも見たのか・・・ 俺:俺は剣を鞘に納めると、また歩き出した。 俺:翌朝、俺は昨日の影が気になり、神社に戻っていた。 俺:影と出くわした場所に行ってみると・・・一人の男が胸から血を流し、倒れていた。男は既に事切れている。その手には剣が握られていた。 俺:恐らくは、暗闇に紛れて俺を討ち取ろうとした武芸者だろう。 俺:無意識の内に斬り殺したのか? 俺:(最初は漏れ出すような感じで、次第に大きくなっていく笑い声) 俺:面白い!面白いじゃないか! 俺:俺は剣を捨てなかった。俺に並ぶような強き者にはまだ出会えない。しかし、諦めはしない。出会えなければ、自分で創れば(つくれば)良いだけの話だ。 俺:この道には、まだ「先」がある。きっと辿り着いてみせる、道の果てまで。 0:そして・・・ 0:彼は出逢う・・・ 俺:何だコイツは? 俺:・・・もしかしたら、コイツが? 俺:・・・面白い。 俺:「ついてこい。俺が飼ってやる」 0:完